開発の狙い 特長と仕様 3 2 Embedded Computer ML Series 1 まえがき

Embedded Computer ML Series
土田 潤 *
今井隆介 *
飯田行俊 **
池上浩介 ***
Jun Tsuchida
Ryusuke Imai
Yukitoshi iida
Kousuke Ikegami
*
**
***
プロダクト本部 ProDeS 事業部 第一技術部
プロダクト本部 実装技術部
プロダクト本部 アプライアンス事業部 第三開発部
エンベデッドコンピュータ ML シリーズは,タッチパネル操作に対応した LCD 画面を搭載する組込み用
パネルコンピュータである.省電力モデル: ML1200 と,高性能モデル: ML1500 の 2 モデルは,その
耐環境性,高信頼性,安定供給により,製造業種向けコントローラや流通業種向け入力端末への採用に適し
ている.
Embedded Computer ML Series is a built-in panel computer equipped with an LCD
monitor, which is compatible with touch panel functions. The 2 models, low energy
consumption model - ML1200 - and high specification model - ML1500 - are both ideal for
use as a controller unit in the manufacturing industry or as an input terminal in the retail
industry due to their environmental resistance, high reliability, and stable supply.
1
まえがき
PFU は ProDeS
様の速やかなビジネス立ち上げに役立てるためにパネコ
サービスを通じて,特定のお客
注1)
ンビジネス素材として,ML シリーズ1)を開発した.
様向けのパネルコンピュータ(以下パネコン)を開発し
てきた.これらで得たノウハウを元に,今回,自社ブラ
ンドとしてのパネコンを製品化し,今後の ProDeS サ
3
ービスの素材として適用拡大を図っていく.また,お客
3.1 主な特長
様毎に特化した個別仕様に対応する為に,カスタマイズ
a 省電力モデルと高性能モデルをラインナップ
メニューを準備し,フルカスタムに比べて短期での個別
製品実現を行っていく.
特長と仕様
ML シリーズでは 12.1 インチ LCD を搭載した小
型省電力モデルと 15 インチ LCD を採用した高性能
モデルの 2 モデルをラインナップした.
2
開発の狙い
搭載マザーボードは PFU が自社開発している高性
能・高信頼の組込み用途向けボードコンピュータをベー
これまでの ProDeS サービス案件の分析の結果,パ
スとし,さらにこれまでのパネコン開発で培った耐環境
ネコン開発関連のお客様要求が全体件数の約 2 割を占
性,信頼性のノウハウを注入したパネコン用マザーボー
めており,パネコンニーズが非常に多い.また,各要求
ドを新規開発した.
において大多数の部分で共通的な要素があり,共通素材
の実現の必要性が高まっている.
同分野装置での CPU 性能 No.1 を目指し,省電力
モデルでは,CPU に超低電圧版 CELERON 注2) M
このような背景のもと,パネコン関連の新規サービ
600 MHz を採用し,省電力と高性能を実現した.ま
ス案件に対し,お客様への早期製品提供を実現し,お客
た高性能モデルでは,Pentium 注2) M 1.6 GHz を採
注1)EMS(Electronics Manufacture Services)を幅広く発展
させた PFU 独自の開発製造サービス.
注2)CELERON,Pentium は,Intel Corporation の登録商標で
ある.
PFU Tech. Rev.,16, 2,pp.1-8(11,2005)
1
エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
用することでさらなる高性能を実現し,3D グラフィッ
Windows XP の必要機能だけを絞り込んで構築する
クス表示等の高負荷なアプリケーションも容易に動作さ
OS であり,お客様のアプリケーションに最適な OS
せることができる仕様とした.
を必要最低限の記録媒体で構築することができる.また,
s 装置前面部は IP65 準拠の防滴・防塵設計
組込み用に特化した機能を使い,通常の Windows と
組込み用途を前提とし,操作面である装置前面部を
は違ったコンパクトフラッシュ(以降,CF)カード等
IP65 準拠の防滴・防塵設計とすることで,ほこりや水
の小型記録媒体での運用形態を実現することが可能であ
しぶきが発生する作業現場でも安心して使用できる耐環
る.
境性を実現した.I P とは,日本工業標準規格
g ハードウェア監視機能の実現
JISC0920 または国際標準規格 IEC60529 に基づい
ML シリーズは,当社のソフトウェア製品である
て規定された固形異物,水に対する電気機器,キャビネ
EmbedWare/SysMon 2)の標準サポート製品であり,
ットの保護等級表示である.IP65 とは,外来固形物に
内部電源電圧,CPU 温度,FAN 回転数などのハード
対する保護等級が 6(耐塵形)で,防水の保護等級が 5
ウェア状態を監視し,機器単体での監視状態表示や,集
(噴流)であることを表している.
中管理による遠隔監視を行うことが可能である.これに
d 工業・産業用途でも使用可能な耐ノイズ性を実現
パネコンは大きな工作機械や制御装置のコントロー
より異常状態を速やかに把握することが可能になり万一
の装置停止に対しても迅速に対処することが可能にな
ラとして使用される為,制御システムを構成する他装置
る.
や I/O 機器と長距離ケーブルで接続されるケースが多
h お客様ニーズに合わせたカスタマイズ対応
い.その為,パネコン自身はもとより,ケーブルに対す
ML シリーズでは,フルカスタム製品と比較して,
る外来的な電気的ノイズを受けやすい環境にさらされ,
お客様の様々なご要求に対し,短期間に安価で応えるこ
誤動作や部品損傷が起こる可能性が高くなる.ML シ
とができるように,カスタマイズメニューを準備した.
リーズでは,このようなパネコン製品の課題に対応する
また,カスタマイズメニューにリストアップされて
為,外来ノイズに強い部品の選定,ノイズ侵入経路の遮
いる項目以外についても従来の ProDeS ビジネスと同
断を行い,耐ノイズ性を向上させた.
様に柔軟に対応していく.
f Windows
注3)
各モデルの外観は図−1に,仕様は表−1に示す.
XP Embedded 対応
組込み用途であること,及び,お客様のアプリケー
ションプログラム等のソフトウェア移植性を配慮し,対
3.2 装置としての工夫点
応 OS として,Windows XP Embedded を標準サ
a 高性能と高信頼性への取り組み
ポ ー ト し た . Windows XP Embedded は ,
ML1200 においては装置の信頼性,小型化を重視し,
ML1500
ML1200
●図―1 ML シリーズ外観●
(Fig.1-External view of ML Series)
注3)Windows は,米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標である.
2
PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)
エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
●表−1 ML シリーズ ML1200/ML1500
項 目
仕様●
仕 様
品 名
ML1200(小型ファンレスモデル)
ML1500(高性能モデル)
R
対応 OS
Windows XP Embedded
CPU
超低電圧版 CELERON M 600 MHz
Pentium M 1.6 GHz
チップセット
855GME + ICH4
メモリ
256 MB(1 GB Max:カスタム対応)
HDD
―
40 GB(3.5 インチ HDD)
コンパクトフラッシュ(IDE)
OS 用に標準装備(512 MB)
タッチパネル
アナログ抵抗膜方式
コントローラ
855GME 内蔵
表示デバイス
12.1 インチ TFT カラー LCD
15 インチ TFT カラー LCD
表示色
26 万色
1 677 万色
表示機能
分解能
シリアル
1 024 dot × 768 dot
RS232C × 6(タッチパネル用× 1,Header × 3 含) RS232C × 6(タッチパネル用× 1,Header × 2 含)
(1 ポート:RS422 / RS485 対応[カスタム対応]
) (1 ポート:RS422 / RS485 対応[カスタム対応]
)
PCMCIA
インター
USB
フェース
イーサネット
2
4(USB 2.0 規格)
10Base/100Base-TX × 1
マウス
PS/2 × 1
キーボード
PS/2 × 1
拡張スロット
冷却ファン
外観
10Base/100Base-TX × 2
―
PCI(32 bit/33 MHz)× 1
無し(ファンレス)
有り(冗長化)
外観寸法(mm)
325(W)×245(H)×80(D)
390(W)×276(H)×110(D)
重量
4.8 kg
8.3 Kg
保護構造
フロントパネル部 IP65 準拠
定格電圧
DC 24 V
電源
消費電力
36.7 W
104.7 W
動作保障温度
0 ℃∼ 45 ℃
5 ℃∼ 45 ℃
動作保障湿度
耐環境性
耐振動性
20 ∼ 85 % RH
1 G(10∼500 Hz:動作時)
0.5 G(10∼300 Hz:動作時)
耐衝撃性
10 G(動作時:ただし HDD は除く)
耐ノイズ性
電源ライン:2 kV,信号ライン:1 kV
適合規格
CSA60950,UL60950,CE マーキング,VCCI Class A
ディスクレスとした.また C P U に超低電圧版
ML1500 においては CPU に Pentium M 1.6
CELERON M を採用し,さらに熱設計による部品,
GHz を採用することで 3D イメージの表示等の高負荷
ユニットの最適配置化を行うことによって,ファンレス
なアプリケーションも容易に動作させることができるよ
を実現した.ファン,HDD 等可動部品(一般的に寿命,
うにした.また HDD(40 GB)を搭載し大容量のデ
故障要素となる部分)をなくすことで信頼性を追求する
ータ領域を確保した.Pentium M の採用,HDD 搭載
ことができた.
によりファンの搭載が必要となったが,ファンを冗長
PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)
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エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
化 注4)することで高性能と高信頼性の両立を図った.
さらに両モデル共通のハードウェア監視機能として,
直接噴流によっても有害な影響を受けないことを意味し
ている.
装置の内部電圧,CPU 温度,FAN 回転数などの状態
IP65 対策の最も簡便で安価な実現手段は,薄いフィ
を監視し,異常があった場合にアラーム通知を行うこと
ルムを筐体の表示部枠に接着し,タッチパネルと外部を
ができるハードウェアモニタを標準搭載することで装置
遮蔽する方式である.ただしこの方式ではタッチパネル
の異常に対し即座に対応できる環境を準備した.
の応答性を低下させるばかりでなく,フィルムに傷がつ
s 長期供給と長期保守
きやすく画面の視認性を損なうことになる.ML シリ
工業分野装置への組込み用途で求められる長期供給
ーズでは作業者が手袋をした状態でもオペレーションで
に対応する為に,Intel 社の組込み向けコンポーネント
きるように感応性のよいタッチパネルを採用しており,
の採用,最適な部品選定を行うことでお客様装置提供後
タッチパネルを露出させその周囲と筐体の表示枠間に防
5 年間の長期供給を実現した.さらに 5 年以上の供給
水,耐塵機構を設ける方式を選択した.図−2に
保証を求められるお客様の為に,関連会社の PFU クオ
ML1200 の内部構造を示す.
リティサービス 1
s 方式検討
と連携し長期ストックサービス
注5)
を準備している.
1)防水,防塵機構の立案
また,PFU の保守サービスにおいても,製品寿命期
本装置は板金筐体であり,タッチパネルへの密着度
間内はもちろんのこと,寿命期間を超えるような長期保
を向上させると表示部枠に荷重による変形が生じ,パ
守体制についても確立しており,長期間の装置使用に対
ネル中央付近部上下にて隙間が発生すると予測でき
しても十分なサポート体制を準備している.
る.そこで,防水,防塵シール材料には,EPDM ゴ
d 各種認定規格に対応
ムだけではなくシリコン系の素材までの硬度の低い材
組込み用途として安心して使用できるように,国内,
海外の EMC
規格や安全規格に適合している.
注6)
また,EN61000-6-4,-6-2 といった工業環境規格,
料を 6 種類選定し,最適な素材の見極めを行った.
2)シール材料形状
シール材料により構造部品の隙間を埋める対策を行
及び,EN55022 及び EN55024 といった情報技術
う場合,シール材料を変形させるようにして,部品間
機器規格に適合しており,採用業種を問わず,幅広く使
の密着性を高める.一般的にシール材料の接地面が広
うことができる.
ければ広いほど,密閉性を実現できる.ML シリーズ
の場合,タッチパネルの不感応領域に対し,シール材
3.3 構造設計の工夫: IP65 実現への取り組み
料を接地させることとしたがタッチパネルの不感応領
a 設計指針
域が狭く(6 mm 程度)
,シール材料の変形により,
パネルコンピュータは組み込み機器としてフロント
不感応領域をはみ出すと,タッチパネルの感応領域を
部(表示面)の防塵,防水が要求される.ML シリー
ズでは要求レベルを IP65 として耐環境性の優れた製
品開発を進めることにした.この規格は,防塵と防水の
パッキン
保護等級を定めたもので,
「6」は防塵型を表し,人体
及び固形異物に対する保護であり,具体的には粉塵が内
部に混入しないことを意味する.
「5」は,水の侵入に
対する保護であり,具体的にはいかなる方向からの水の
注4)適正な熱設計により,通常可動している三つのファンのうち
一つのファンが故障した場合でも残りの二つのファン風量で装
置内部温度の上限を超えないようにする信頼性設計手法.
注5)当社の関連会社で,PT 板の修理,BGA 部品のリボール業務
の他,製品や保守部品のストックサービス業務などの倉庫ビジ
ネスも行っている.
注6)Electromagnetic Compatibility の略.電磁環境両立性.
電子機器が不要な電磁波ノイズを発生させず,または外来ノイ
ズによって誤動作などを起こさずノイズの環境下に適合してい
ること.
4
リヤカバー
フロントカバー
内部ユニット
●図―2 ML1200 内部構造●
(Fig.2-Internal structure of ML Series)
PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)
エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
シール材料が押すことになり,誤入力が発生し,機能
閉度を向上させる.
不良を起こすことになる.しかしながら,シール材料
d)防塵評価で必要な吊り下げ用フックを上部 2
の幅を狭くすると密着性が低下すること,及び,製造
箇所に設ける.吸引用継ぎ手(ノズル)を 1 箇
時にシール材料を貼り付ける作業を行うが,その作業
所設ける.
性を著しく悪化させてしまうことになる為,密着性と
製造性を両立させるために以下の点を考慮した.
a)構造部品の精度向上
構造部品点数の削減,複合部品の位置決め機構に
よる組立公差の最小化.
b)組立精度の確保
シール材料取り付けに専用位置決め治具化.
またシール材料は継ぎ目から塵埃や水が漏れる可能
性もあり継ぎ目のないシームレス形状が望ましい.し
かし,シームレス構造の実現には組立工程における接
e)側面に搬送用取っ手を設け,評価時の移動を
容易にする.
f)透明な材質からなる評価用筐体の損傷を防ぐ
為,底面にゴム足を設ける.
g)取り外し可能箇所は接合部を防水テープにて
シール強化を図り,密閉度を向上させる.
図−4は設備内に吊り下げての防塵試験の様子を,
図−5は防水試験の様子を示す.
2)評価の効率アップ
IP65 評価は防水評価 3 分,防塵評価 8 時間が必
着作業性が非常に悪く,品質も安定しない理由から,
要となる.準備したシール材料を全て評価するには相
金型化により一体成型が必須となる.よって,測定評
当の評価時間,及び,準備時間が必要となり,評価で
価の実施により 6 種の性能及び各々のシール効果を
以って,総合判断することにした.
d 測定評価と検証
1)評価用筐体の設計
本装置はフロント部のみ防塵防水であり評価に際し
て装置を組み込む評価用筐体が必要になる.当然この
筐体にも装置以上の防塵防水性が要求され,次の点を
配慮して専用に設計した.評価用筐体を図−3に示す.
a)塵埃や水の進入を容易に確認できるよう筐体
は透明な材質を使ったものを選定する.
b)搬送時等対応や繰り返し測定が可能なように,
金属フレームによる強度アップを図る.
c)筐体の接合部は接着.更にコーキング材で密
●図―4 防塵実験(設備内吊り下げ)●
(Fig.4-Dustproof test (hang within facility))
●図―3 評価用筐体●
(Fig.3-Evaluation cabinet)
PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)
●図―5 防水実験●
(Fig.5-Waterproof test)
5
エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
得られる結果を見極めるには膨大な時間を要する.そ
る.
のため実際の評価を実施する前に,シール材料の特性
s ソフトウェア互換と移植性
を見極めて評価効率をアップさせる事前判定を以下の
方法で実施した.
a)防塵評価を優先
Windows XP Embedded は Windows XP
Professional と同じバイナリを使用しているため,
Windows 用のデバイスドライバやパッケージソフト
IP65 評価は防水評価 3 分間に対し,防塵評価
ウェアを使用できる.また,普段使い慣れた Windows
は 8 時間が必要となる.事前評価で得た防水を満
用の開発ツールを使用してアプリケーションを開発で
足できたとしても防塵が満足できなったという経験
き,既存の Windows アプリケーションの移植も容易
をもとに,防塵評価を優先して実施する方針とした.
である.
b)吸引による選別
d 起動ディスクに CF カード採用
6 種類のシール材料の優劣を見極める為,評価用
ML シリーズは起動ディスクとして CF カードを採
筐体に設けた継ぎ手から吸引し,単位時間当たりの
用しており,CF カードに Windows XP Embedded
漏れ流量を比較し,漏れ流量が少ないシール材料に
をインストールして使用する.一般的なパソコンは
絞り込み最終的に 2 種類のシール材料を選定した.
HDD に対し OS をインストールして使用するが,
尚,漏れは評価用筐体や継ぎ手と吸引ホース接続間
HDD は大容量,安価である反面,振動や衝撃に弱いと
でも起こり得る為,流量は完全に 0 にはならなか
いう弱点がある.ML シリーズにおいては,その使用
ったが,各材料で相対的に少ないものを選定条件と
環境を配慮し,OS インストール媒体として,振動,衝
した.
撃に強い CF カードを採用している.
f 結果と今後の課題
上記の方法で選別した 2 種のシール材料に対し,
ML シリーズで採用している CF カードは産業機器
向け CF カードであり,HDD と同じように固定ディ
IP65 の評価を実施した.結果,1 種のみが実際の評価
スクと認識される(通常量販店などで販売されている
に対し合格となり製品に適用した.合格したシール材料
CF カードはリムーバブルディスクと認識される)
.CF
については,より柔軟性が高く,しかも,密着性が期待
カードは同一セクタの書込保証回数に制限がある(約
できるものであり,当初より想定していた材料の特性が
100 000 回)
.このため,OS が自動で行うディスク
そのまま評価結果につながったと分析している.本品は
書込み処理からの CF カードに対する書込み寿命への
枠の上下左右に各々を突き当てて表示枠に取り付けたも
配慮と,不慮の電源切断による誤書込みや書込み不良か
のである.設計当初の予測どおりシームレス形状にしな
ら OS 用 CF カードのデータを保護するために,ML
くても繋ぎ目がシール材料の柔軟性により変形して密着
シリーズの OS 用 CF カードに対しては,OS の構築
し機能することが確認できた.
時に Enhanced Write Filter(以降,EWF)機能を
シール方式,シール材料含め更なる低コスト化及び
事前見極めによる評価期間の最短化を今後の取り組み課
題としたい.
活用して信頼性向上を図る.
f 書込み保護機能による信頼性向上
EWF は書込み操作の出力先をオーバーレイと呼ばれ
る別のストレージに変更することで,ディスクボリュー
3.4 ソフトウェアの工夫点
ムを保護する機能である.これにより,ディスクボリュ
a サイズの小さい OS が構築可能
ームやシステムファイルに影響を与えずに書込み操作を
ML シリーズで採用の Windows XP Embedded
実現できる.
は Windows XP Professional と同じバイナリをベ
Windows XP Embedded の EWF には RAM ベ
ースとしており,必要なコンポーネントを個々に選び組
ース・オーバーレイと File ベース・オーバーレイの 2
合せることで,サイズの小さい OS を構築することが
種類がある.
可能である.Windows XP Professional の場合,通
例えば RAM ベース・オーバーレイの場合,保護さ
常 2 . 1 G B 程度のディスク容量を必要とするが,
れたボリュームへの書込みはメモリ上でエミュレーショ
Windows XP Embedded では ML シリーズのデバ
ンされる.操作上は通常通りデータの書込み操作を行っ
イスを制御するための必要最低限のコンポーネントを選
ているように見えるが,書込む内容は全てメモリ上に記
択することで,OS サイズを 410 MB 程度に抑えてい
録され,ディスクボリュームへの書込みは行われない.
6
PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)
エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
RAM ベース・オーバーレイでは保護されたボリュ
3.5 カスタマイズ対応
ームへの書込み操作はすべてメモリ上に記録されるた
ProDeS サービスにおける商談の中でお客様からパ
め,OS の再起動や電源切断により,書込み操作した内
ネコンの要求を頂くが,お客様毎に必要な機能などが
容は消えてしまう.ただし,この仕組みを理解した上で
各々異なっていた.我々が把握している全ての要求を盛
システムを構築することで信頼性の向上が図れる.
り込んだ装置を開発すれば,市場の要求に応えることは
g 柔軟なボリューム構成
できるが,お客様によっては不要な機能を提供されるこ
ディスクボリュームへの書込み操作はアプリケーシ
とになり,最適なパネコンを供給することができなくな
ョンだけではなく,OS 自身も行っている.例えば
る.これに対応すべく,ML シリーズでは基本機能の
Windows 実行中はイベントログの出力,IE のキャッ
絞り込みを行い,個別に要求が多い機能については,標
シュによる出力などの書込み操作が行われる.イベント
準的なカスタムメニュー項目として事前に準備すること
ログはシステムの異常情報が記録されるため,OS の再
とした.具体的には,メモリ容量 up,メモリ ECC 対
起動や電源切断後も残しておきたい情報である.このよ
応,シリアルポート追加,シリアル機能変更(RS-422,
うな場合は,イベントログの出力先を EWF で保護さ
R S - 4 8 5 ポート追加),サウンド機能追加(L i n e
れたディスクボリュームとは別の書込み可能なボリュー
In/Out)等を準備した.
ムに変更する.ML シリーズで採用している CF カー
現在,ML シリーズの商談事例としては,
ドは複数のボリュームを作成することができ,書込み保
a ピッキングカートに搭載される入力端末
護されたシステムボリュームと書込み可能なボリューム
s マウンタ装置制御端末
を作成することが可能である
d セルフガソリンスタンドの操作端末
.イベントログの出力
注7)
先を書込み可能なボリュームに設定することで,必要な
f 工場ライン内操作や管理端末
情報を残しておくことができる.
g カード発行機のエンジン
h 簡易 POS
等がある(表−2参照)
.
●表−2 ML シリーズ商談事例●
用 途
要求事項
ピッキングカートに搭載 ・HDD レス(振動懸念)
される入力端末
・省スペース
マウンタ装置制御端末
・高信頼性
対象装置
ML1200
・HDD レス
・12.1 インチ LCD 使用で省スペース
ML1500
・FAN 冗長設計等による高信頼性実現
・CPU 性能向上
・高性能 CPU 搭載
・Windows XP Professional 搭載
・HDD 搭載(OS Boot 可能)
セルフガソリンスタンド ・操作性改善(10.4 インチ LCD) ML1200
の操作端末
メリット
・コンテンツ表示(CM など)
・操作性改善(12.1 インチ LCD)
・性能改善(CELERON,グラフィックスエンジン)
・現行機性能不満(組込 CPU)
工場ライン内操作や管理 ・耐環境性(埃等)
端末
ML1500
・汎用アプリが動作可能
・IP65 対応
・Windows サポート
・軽量化の可能性
カード発行機のエンジン ・小型
簡易 POS
ML1200
・12.1 インチ LCD 使用で省スペース
・耐環境性
・IP65 適合,VCCI 適合
・高信頼性(組込み)
・安定稼動可能
・タッチパネル操作
ML1200
・タッチパネル搭載
・様々な IO 機器接続
・充実した汎用インターフェース
・電源 OFF / ON 運用
・CF カードによる OS 搭載
注7)リムーバブルディスクと認識される CF カードはシステムボリューム以外のボリュームは認識されない.EWF を構築する場合,EWF の
管理ボリュームをシステムボリューム以外に作成する必要があるが,リムーバブルディスクでは EWF 管理ボリュームが認識されないために
EWF の適用や解除が行えない等の制限がでてくる.
PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)
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エンベデッドコンピュータ ML シリーズ
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むすび
本装置の開発により工業分野,流通分野で使用可能
なパネルコンピュータの当社標準機を準備することがで
きた.今後は,本装置を用いて,または,本装置をベー
スとするカスタマイズ対応を行って,お客様装置の早期
製品提供を実現し,お客様の速やかなビジネス立上げを
参考文献
1)エンベデッドコンピュータ ML シリーズ紹介ホームページ
http://www.pfu.fujitsu.com/prodes/product/ml/index.html
2)番井,吉本:組込みコントローラ監視ソフトウェア
EmbedWareR/SysMonTM シリーズ,PFU Tech., Rev.,16,
2, pp. 51-55(2005)
.
3)増田ほか: RoHS 指令対応への取り組み, PFU Tech.,
Rev., 16, 1, pp. 61-67(2005).
支援していく.
また,様々な分野での採用推進を加速する為に,
RoHS 3)対応や魅力あるエンハンス対応を進めていく.
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PFU Tech. Rev.,16, 2,(11,2005)