パリスターキリアン症候群(PKS)患児に推奨される医学検査 今までの

パリスターキリアン症候群(PKS)患児に推奨される医学検査
今までの PKS 患児を診察させていただいた経験から、PKS 患者に推奨する検査
の一覧を作らせていただきました。様々な問題を早くに発見し、医学的問題を
早い段階で治療することで、お子様の健康を守ることが出来ると考えます。PKS
はまれな病気であるため、医療関係者もまだ知らない問題がある可能性があり
ます。そのため、自分のこどもには、下記のリストに載っていないこの様な合
併症があったなどの情報がありましたら、ご教授いただければ幸いに存じます。
このリストは PKS 患児に起こりうる医学的問題と、その早期発見のために推奨
する検査の一覧です。
1)PKS 患児の 25%は先天性心疾患(生まれつきの心臓の異常)を持っています。
心臓の聴診をすることで雑音が見つかり、発見される場合があります。(雑音が
あれば病気、ということではありません。多くの雑音は正常でも聞こえます。)
しかしいくつかの心疾患(PKS 患児に起こりやすい心房中隔欠損[ASD]など)は
雑音で見つけることは難しいですが、患児に深刻な問題を引き起こすことがあ
ります。そのため、PKS 患児はできるだけ早く循環器医に診てもらい、心臓超
音波検査を受けることをお勧めします。先天性心疾患は生まれつきの病気であ
り成長とともに起こるものではありません。
先天性心疾患がない場合でも、PKS 患児は 1~2 年に 1 回(または循環器医の進
める通り)、循環器医の診察を受けてください。まれではありますが肥大型心筋
症という心筋の異常をきたす可能性があるためです。
2)PKS 患児は消化管に構造・機能的な病気を起こす場合があります。よくあ
る機能異常は胃食道逆流症です。胃液や胃の内容物が逆流して少量の嘔吐を起
こすことが多いですが、時々食道に不快感を感じて背中を丸めたり不機嫌にな
ったりするという症状を引き起こします。逆流を起こしても何も症状がないこ
ともあります。しかし逆流症をそのままにすると胃酸が食道に流れ込むことで
食道を傷つけ、さらに長い年月をかけてがんを引き起こすことがあります。そ
のため、PKS を持つすべての乳児と幼児は、ミルクスキャンや pH プローブと
呼ばれる検査を受けるべきです。逆流を抑える薬で治療できる場合もあります
が、程度が強いと胃と食道のつなぎ目を治す手術が必要になります。
PKS 患児は生まれてすぐに消化管の構造異常を調べる必要があります。最も大
きな問題は腸回転異常症と呼ばれる、小腸がお腹の中で通常と逆に回転してし
まう病気です。この状態では腸がねじれて腸捻転を起こしやすくなり、治療し
ないと破裂して命を脅かすことがあります。PKS 患児は自分の痛みや不快感が
どこにあるのか訴えることができないため、不慣れな医師が救急の場で診断す
ることが難しいので、早期発見が重要です。上部消化管・小腸のレントゲン検
査で、腸回転異常症を発見できます。腸回転異常症は生まれたときにすでにあ
る病気なので、一度だけの検査ですみます。
生まれてすぐに考慮すべき他の消化管の病気には、横隔膜ヘルニア・臍ヘルニ
ア・鼠径ヘルニアや、肛門の異常である肛門狭窄や鎖肛があります。
3)整形外科(骨・関節)
手や足の指が多いといった外見で分かる合併症もあります。それに加えて PKS
患児は筋肉と関節がやわらかいため、股関節脱臼の検査を考慮する必要があり
ます。これは診察と股関節の超音波検査で簡単に分かります。早期発見と治療
によって歩行の障害を防ぐことができます。他にも、背骨が曲がる脊柱後側弯
症が成長とともに起こることが多いので、定期的に診察や画像検査を受けるこ
とをお勧めします。
4)PKS 患児は一般の子どもと同じ視力低下などの問題を起こすことがありま
すが、それを早く見つけて治療することはお子様の学習を最大限伸ばすことに
つながります。そのため定期的な検査を受けてください。また、それ以外にも
PKS 患児は眼瞼下垂(まぶたが落ちてくる病気)が起こりやすいので、患児の視
野を妨げることのないように手術をすることがあります。
5)耳鼻咽喉科(耳・鼻・のど)
PKS 患児は唇や口の中の口蓋という場所の異常が起こりやすいため、耳鼻科
医による診察が必要です。口蓋裂(口の天井が閉じていない状態)が一般よりも
起こりやすく、治療しないと食事摂取に問題を起こし、さらに感染・言語発達
の遅れにつながります。PKS 患児は扁桃腺が腫れていることや舌が大きいこと
が多く、気道を塞ぐ可能性があります。また耳の構造異常や難聴の可能性があ
るため、これも耳鼻科医の診察が必要でしょう。(下の「聴覚」参照)
PKS 患児での難聴の起こりやすさは正確には分かっていません。しかし見逃さ
れると大きな問題で、PKS 患児は生まれてから詳しい聴覚の検査を受けるべき
です。難聴の有無と程度によって定期的に聴覚の専門科による検査を受けまし
ょう。難聴の早期発見と適切な治療で最大限の発達を助けることができます。
6)泌尿器科(腎臓・膀胱・外陰部)
PKS 患児は腎臓・膀胱に様々な異常を伴うことがあります。生まれてすぐに、
腎臓と膀胱の超音波検査を受けることをお勧めします。PKS 患児が膀胱や腎臓
の感染症にかかった場合、膀胱尿管造影という検査で、膀胱と尿管(腎臓と膀胱
の間の管)の間に逆流がないか検査してください。
PKS を患った男の子は、停留精巣(精巣が本来よりも高い位置にある病気)や尿
道下裂(尿道がペニスの先端より手前で終わっている病気)などの生殖器の合併
症が多い事が知られています。これらは手術による治療が必要となるため、生
まれてすぐに泌尿器科医による診察が必要です。
7)PKS 患児では乳歯が生えるのが遅れることがありますが、その他の問題は
一般の子どもと同じです。発達の遅れにより診察・治療が難しい場合などは、
検査や治療を全身麻酔で行うことがあります。そのため、特別なケアを必要と
する子どもの経験が豊富な小児歯科医に、1 歳までに診察を受けましょう。
8)ご両親が取り組まなければならない最も大きな問題が、発達の遅れです。
この問題についての特定の治療法はありませんが、小児科医に少なくとも 1 年
に 1 回は通院し、発達の度合いの評価をしてもらうことは非常に重要です。な
ぜなら診察を受けることでどの分野の治療が必要か分かる上、それぞれのお子
様にあった治療を行うことができるからです。
9)PKS 患児は生まれて早い段階に、筋肉のやわらかさ(筋緊張低下)で神経
科医を受診することが多いです。この症状はほぼすべての PKS 患児に現れ、成
長とともに筋肉がかたくなっていきます。これにより関節が動かなくなる拘縮
を起こし、進行すると手術が必要になります。神経科医は経過を観察し、理学
療法によって関節を柔らかく保つようにアドバイスができます。
10)けいれんは PKS 患児の家族にとってもう一つの大きな問題です。多くの
患児がけいれんを発症します。非常に重度のことがあり、お子様の成長と発達
のためには診断と治療が必要です。早期発見と治療が重要ですが、治療が難し
いけいれんもあります。小児神経科医と早くから良い関係を築くことが重要で
す。
11)多くの遺伝科医は PKS に詳しいので、PKS 患児の身体と発達のケアを調
整してくれるでしょう。多くの場合、小児科医は一般的な小児ケア(予防接種・
耳の感染症・下痢といったよくある問題への対処)を行い、遺伝科医が PKS 患児
に特有なケアが適切な時期に行われるように手配してくれます。
文責
泉幸佑
山本一希 (聖路加国際病院)