No. 3 2008. 3 CONTENTS ■第3回 雇用政策研究センター・フォーラム 「青森県の労働市場と雇用創出」 第1報告 「青森県の経済動向 ―拡がる地域経済格差―」 高山 貢(青森地域社会研究所常務理事・弘前大学人文学部客員教授) ………2 第2報告 「雇用創出の条件」 佐々木純一郎(弘前大学大学院地域社会研究科教授・雇用政策研究センター) ………4 第3報告 「青森県に生きる若者たち」 李 永俊(弘前大学人文学部准教授・雇用政策研究センター) ………6 パネル・ディスカッション………………………8 ■第4回 雇用政策研究センター・ビジネス講座 「企業誘致と雇用創出」 渡辺一弥氏(並木精密宝石㈱青森黒石工場 工場長) 山本繁明氏(並木精密宝石㈱青森黒石工場 QMSマネージャー) ………9 ■センターの活動状況………………………………10 第3回 雇用政策研究センター フォーラム開催 日時 平成19年10月28日(日) 14:00~16:00 場所 弘前大学50周年記念会館みちのくホール 「青森県の労働市場と雇用創出」 雇用政策研究センターは、平成17年6月に人文学部 附属のセンターとして設置されて以降、計量分析グ ループ・企業調査グループ・社会調査グループの3つ のグループに分かれ、これまで青森県における労働問 題、雇用の創出について調査研究を進めてきた。今回 は、その第3回目となる「雇用政策研究センター フォーラム」を弘前大学総合文化祭期間中の10月28日、 弘前大学創立50周年記念会館みちのくホールにて開催 した。 2 開 会 に あ た り、四 宮 俊 之 セ ン タ ー 長 が「従 来 の フォーラムは外部の方からの話を拝聴して議論を展開 するという形をとってきたが、今回はセンター設立3 年の節目として、センター員それぞれの研究成果を皆 様に説明し、それに対して色々なご意見やご批判等を いただいて、今後更にこのセンターでの研究が発展し ていくきっかけにしたいと思う」などとあいさつした。 第1報告 「青森県の経済動向 榎榎榎榎 ─拡がる地域経済格差─」 青森地域社会研究所常務理事 弘前大学人文学部客員教授 榎榎榎榎榎榎榎高山 貢 マスコミ報道で「地域間経 済格差拡がる」或いは「厳し い雇用情勢」という見出しが 目につく。経済、雇用に関す る県内の話題が非常に多いが、 一般の県民とすれば地域経済の話題というのは新聞、 或いはTVなどの報道で知ることが多い。また、全国 の大きな動きは政治経済のトップ記事で分かる。しか し、他の都道府県すなわち四国や九州地方などで何が 起こっているのかなど、さまざまな地域の実情という のはよく分からない部分でもある。今日はその辺から 話を進めていきたい。 まず、日本の中央銀行である日本銀行は、現在国内 に32支店9事務所ある。日本銀行の役割の一つに地域 における景気調査、経済調査という大変重要な業務が あり、青森、秋田、仙台の日本銀行各支店でも定例的 に調査結果が公表されている。 企業が様々な仕事を通して感じる景気判断、雇用状 況を数値化、データーベース化したものを、業況判断 DI と い う。簡 単 に 説 明 す る と、1 00社 あ っ て、そ の 100社のうち、景気がいいと判断した割合から、悪い と判断した割合を引いた数値が%で示されている。こ の数値が大きければ、景気が良いと判断する企業が多 いということになる。これが日本銀行短期経済観測調 査、短観というものである。 最近の調査結果によると、各地の業況判断DI は名 古屋15、静岡1 1、北関東12~15、また悪い地域は北海 道マイナス9~1 5、高知マイナス33という具合に、日 本全体で見ると景気の現状は、やはりばらつきがある。 この数値を製造業・非製造業に分けてみると、前橋、 横浜は製造業の数値が高く、非製造業も比較的高い数 値になっている。名古屋や静岡も製造業・非製造業共 に数値は高くなっている。これらの地域は、自動車・ バイク等の生産工場が集中しており、生産水準が非常 に高いことがこの数値の高さに繋がっている。 さて、日本銀行青森支店の業況判断DI の推移を見 ると、製造業の数値が高く、非製造業のマイナスが続 いているということが分かる。昨年の3月から6期連 続のプラス。3ヶ月に1回実施しているので、県内の 非製造業もプラスが続いている。 業種別にみると、直近の平成19年6月にプラスに なっているのは、八戸地区を中心とした鉄鋼業で、電 気機械もプラスになっている。これらの産業が製造業 を引っ張ってきたと思われる。それから県内では非製 造業と小売業でマイナスとなっており、製造業は比較 的堅調で好調だが、非製造業が少し低調な推移を続け ている。 以上が、全国の動き、或いは製造業・非製造業と県 内の推移であるが、一言で言うと県内景気は持ち直し 傾向にある。ただ名古屋、静岡或いは群馬は力強い回 復と、「回復」という文字が入る。しかし、県内は「持 ち直し傾向」という、 「回復」より幾分トーンダウンし たというのが今の県内の動きになる。 これを少し違う形で見てみたい。有効求人倍率の推 移は地域の景況感を示す大きな判断材料になり、求人 倍率が高ければ経済活動が活発で求人が活発になる。 日銀短観 全産業業況DI 1 9年6月調査 (△印はマイナスを示す) No. 3 2008. 3 3 伴って所得が増えて消費にも向かうと小売・卸業の動 きも活発になる。そうなると製造業・非製造業がそれ ぞれ順調に推移する。平成1 9年7月の有効求人倍率 10 . 7倍を基準に考えると、全国で一番高いのが愛知県 で20 . 3倍、次が群馬県で17 . 7倍、栃木県15 . 3倍となる。 逆に低いのが高知・沖縄・青森が05 .倍を下回り、地域 格差が生じている。 前述の愛知県以外では、群馬も自動車産業が盛んな 地域である。もともとは中島飛行機というゼロ戦を 作った工場があり、スバル、日野自動車など日本の組 み立てメーカーが集中している。栃木も電気機械の工 場が大変多い。三重県はシャープの液晶の中心工場が ある。亀山工場はシャープの製品名にもなっているが、 ここは元々亀山ローソクという蝋燭の産地だったが、 あっという間に液晶の大きな工場ができ、地域が元気 な状況にある。有効倍率が低い秋田県は、電気機械は 非常にウエイトが高いがそれ以外は産業としての元気 がないと言われている。 青森県の景気の現状については、景気が持ち直しの 状況にあり、停滞とか後退という状況ではない。しか し全国或いは他のブロックに比べると、景気回復の足 取りが少し鈍いという実感がある。その原因として挙 げられるのは、自動車関連の産業集積が少ない或いは 遅れているということである。今の景気回復は輸出産 業を中心としたものである。その輸出産業の中心が自 動車なので、自動車の生産・組み立て・一貫工場があ る地域が比較的雇用水準が高く、景気がいいことに なっている。一方、青森県では建設業のウエイトが非 常に高くなっている。建設業は公共事業の大幅減少、 住宅建設の不振などで建設工事が激減し、企業の経営 状況も非常に苦しい状況にある。リフォームや他産業 へのチャレジも色々やっているがなかなかうまくいっ ていない。大元の建設業の不振が、青森県が持ち直し の状態で止まっている大きな要因となっている。 県内の有効求人倍率と求職者数の推移を見てみたい。 県内は平成15年後半から少しずつ求人倍率が増えてい る。その原因は企業からの求人が少しずつ増えている ことにある。最近の新聞報道等によると、9月末の県 内高卒者の職業紹介状況は県内06 . 7倍、県外20 . 8倍で、 県内が1 0年ぶりに06 .倍を超えたということになって いる。県内企業からの求人も少しずつ増えている。或 いは、県外求人が異様に高くなっているということで 県内の高卒者来春の卒業者の就職状況というのは工業 系高校・専門高校・大学でも一流企業に就職する方が 多いと色んな報道で見聞きするところである。 弘前ではキャノンプレシジョンという大型工場が建設 され雇用規模が10 , 00人単位で増え、今現在で従業員 数が約40 , 00人、また弘前航空電子も30 , 00人を超えて いる。雇用の規模拡大に関しては、八戸だけではなく 弘前も増えてきているというのが現状ではないだろう か。コールセンターが県内にも何社か進出し、少しずつ 求人も増えてきている。ただ増え方が非常に緩慢なの で、若い人は自分の希望にあった職種に就業するため には、県外・中央に出てしまう傾向にあるのではないか。 次に県内の家計部門ということでデータを少し集め てみた。デパートと大型スーパーの販売額合計した大 型小売店販売高と新設住宅着工戸数、乗用車販売、求 人倍率である。 大型小売販売店の販売高は平成14年から毎年マイナ スが続いている。新設住宅着工戸数は、昨年は8千戸、 平成14年が110 , 00戸で、ピークが平成8年の1 60 , 00戸 なのでそれに比べると半減している状況。車の販売も 需要が増えていないのでどんどん下がっている。 一方、企業部門のデータは、どちらかというと右上 がりのグラフが多い。鉱工業生産指数は平成1 2年が 100でしたが、平成1 8年は9 3で、まだ回復はしていな いが水準としては少し高くなってきている。一方公共 工事は、どんどん減っている。また、工場立地件数と 貿易額は共に増えてきている状況である。 以上から企業部門と家計部門でみると、企業部門は それぞれの数字が上がって、伸び率もプラスになって きている。しかし、我々が買う洋服や車などを含めた 家計の消費関連データは伸びていないことがわかる。 青森県の得意分野、不得意分野ということで全国4 7 都道府県のデータをみると、まず青森県の得意分野で ある建設業の従業員数の順位を見てみよう。従業員者 数は全国3位になっている。製造業は青森県の不得意 分野であるが、景気を引っ張っている輸送機械、自動 車、造船は42位、また液晶や電子部品デバイスの順位 は40位になっている。つまり、青森県の得意分野が全 国で現在なかなか厳しい状況、逆に不得意分野が全国 では非常に好調というジレンマが生じている。 先ほど申し上げた家計部門の不振の要因の一つであ る賃上げの状況をみると、全体としては右下がりで平 成17年~19年は少し横ばいであるが、それでも1%を 少し上回る程度と厳しい状況が続いている。それから 一人当たりの県民所得を見ると、平成13年の辺りから 変動係数が急激に上昇している。47都道府県の一人当 たりの県民所得のばらつき度合いがこの数字が拡大す ると格差拡大していて、この数字が小さければ格差は 縮小していることになる。全国的に見ると変動係数が 右上がりなので格差は拡大の方向にあるといえる。青 4 榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎榎 青森県、全国の地価変動率(地価公示価格) 資料:青森県の土地利用 1. 1 1. 1 1. 0 青森・住宅地 青森・商業地 全国住宅地 全国商業地 1. 0 0. 4 0. 0 0. 3 2.3 0.1 0. 5 0. 9 2. 5 2. 2 4. 0 3. 5 4. 2 6. 8 7. 2 7. 7 8. 7 7. 8 8. 9 10. 2 8年 9年 10年 11年 12年 森県はその中で取り残されている側に位置している。 最後になるが、地価動向を見てみると、青森県がマ イナスの時に、全国は既に公示地価で平成1 9年1月1 日現在プラスになってきているという状況なので、経 済状況が地価動向にも現れるということになる。 ここでは、景気状況を示すさまざまなデータを通し て、県内の多くの数字が全国と比べて開いている、な かなか全国に追いつけない状況というのがお分かりい ただけたのではないか。 ( ニュースレターでは紙面の都合上、一部のグラフ、 ) データを省略しました 3. 9 4. 4 7. 1 7年 4. 4 13年 14年 15年 16年 17年 10. 0 18年 19年 第2報告 「雇用創出の条件」 弘前大学大学院地域社会研究科教授 雇用政策研究センター 榎榎榎榎榎榎榎佐々木純一郎 地域経済の構造変化が企業 と行政に方針転換を強いてい るのではないかという観点か ら雇用創出の条件を話したい。 雇用を取り巻く地域経済の 現状は「3+1」と単純化が出来るのではないかと思う。 1つめは財政資金、いわゆる国の中央政府のお金で ある。これは具体的には地方では公共事業を中心にす る建設業に関わってくる分野である。民間の住宅着工 はピーク時の半分だが、公共事業特に公共土木は新幹 線の新青森開業に向かって随分工事が進んでいる。そ れが一つの柱になってくる。 2つめが、工場進出いわゆる誘致企業等である。基 本的に地元の自治体でなんらかの誘致策が適用されて いる場合は誘致企業と言い、特にそういった優遇策を 受けていない場合は単なる進出企業と言われる。こう いった工場進出が2番目の柱になってくる。 3つめが移出型地域産業である。国境を超えて出て 行くのが輸出だが、移出は都道府県の境を越えて行く ということになる。三村青森県知事を先頭にがんばっ ている農業、或いは伝統工芸品等が移出型地域産業に No. 3 2008. 3 5 なる。 4つめはサービス・小売産業である。この場合特に 着目するのは「域内」という点である。前述した1か ら3の柱で稼いだお金を地域内で消費することである。 安東誠一氏の著書『地方の経済学』に地域経済の成 長の仕組みの図式が載っている。域外から主に中央の 財政資金が公共事業として入ってきて、工場等が誘致 企業や進出企業としてやってくる。これは地域の中に おいては所得や雇用機会の増加になってくる。それに 加えて移出型地域産業があり、これらで稼いだお金が 域内の個人消費に繋がってサービス・小売産業の市場 になってくる。これがまた新しい所得や雇用機会に繋 がってくるという循環がある。これがおそらく青森県 に限らず多くの地域で見られた図式だった。 地域経済の現状は変化している。そもそも一番目に 挙げた建設業が青森県の場合には、民間の住宅建築等 ではなく公共事業に依存している割合が高い。財政赤 字の下では公共事業の縮小、建設業の倒産、建設業者 の自殺など、かなり厳しい状況にある。 グローバリーゼーションも展開している。これまで 青森県には安い労働コストを求めて企業がやってきた。 近年になると中国、ベトナムといった東アジアに移転 して、青森からみると工場が撤退していくことになる。 これはグローバル競争の結果であり東アジアの中での 競争で、それが雇用にも良くない影響を与えていたの ではないかと思う。 昨年のフォーラムでも話したが、財政赤字が厳しく て、公共事業、建設業にも頼れない。工場も一応持ち 直しているが厳しい中で、元々青森県に根ざした産業 として移出型地域産業に対する期待が高まっている。 国の内閣府が地域資源の活用と言っている。その中身 は具体的には、農業・観光業に対する期待が高まって おり、農林水産物のブランド化、台湾を始めとする東 アジア各国へ輸出をしていくという内容だ。 この1から3が旨く回っていれば、当然家計の方に お金がまわってくるはずだが、うまくいっていなので 域内でのサービス・小売産業にも厳しい影響が及んで いるのではないだろうか。 男性就業者の10人に1人位は建設業に従事している という青森県だが、今の公共事業は変わってきている。 かなり厳しい状況だ。これからは国や各自治体が上か ら事業をおろすだけではなくPFI など民間の側から提 案をしていきながら必要な事業を絞り込んでそこに集 中して行なっていくという方法もある。そして、もう 1つが住宅のリフォームも含む民間事業への進出であ る。さらにもう1つが新分野への進出である。土木を 中心とした建設業種の場合は、だいぶ建設機械を使い 慣れているので農業、林業への業種転換をした方がい いのではないかと言われている。 ただ何れにしても、これまでの発想を変えていく必 要がある。これまで建設業と言えば官との関わりが深 かったわけだが、これからは、政府の動向だけ見なが ら仕事を貰うという、今までのやり方では成り立って いかない。建設業を守るにしても新しい意味で地域に 密着したかたち、これは地域連携の必要性というかた ちでまとめる事ができる。 建設業に関して補足すると、昨年、観光と農業に関 するフォーラムを開催した時に質問があったが、建設 業は経済効果が高いという話がある。しかしその場合 の経済効果というのは、基本的に生産額の波及効果が 強調されてきた。実際は雇用に関しては観光業が就業 者数、雇用者所得の波及効果が大きくなる。建設の方 が様々な重機械や資材を使う訳だが、観光業は人が サービスを行なうので雇用には直結し易いのでこちら の方の雇用効果が大きいのではないかと実証されてい る。 企業誘致の現状と課題ということで、様々なマスコ ミ報道等でご存知かと思うが、一部には海外生産から 日本国内へ回帰しているのでないかといった論調も あった。しかし、あくまでも企業としては「最適生産、 最適立地」である。もちろん一般的な理念として、地 域貢献、雇用の確保は掲げている。だが、企業にとっ てみればグローバリーゼーションの中では、どこに展 開をするかというのは企業自身の判断である。一面に おいては地元には雇用を残していくが、あくまでもそ れは企業の論理で、もし業績が危うくなった場合は当 然縮小していくし、誘致企業に過度に依存するのは非 常に危険ではないかと思う。 新しい形の誘致企業というと、2006年7月、私ども のセンターが開催した第2回ビジネス講座で講演して いただいた「エーアイエス株式会社」が挙げられる。 同社は六ヶ所村にあり、元々は青森県庁出身の行政マ ン花田さんが社長になっている。有名な出資企業とし てはアルプス電気㈱、カシオ計算機㈱、セイコーイン スツル㈱、日立化成工業㈱、そして地元のアンデス電 気があり、カラーフィルター等々を製造し従業員数は 290名の企業である。 もう一つ、青森県出身企業のUターンという側面で は、2007年1月に行なわれた私どもの第3回ビジネス 講座で講演していただいた「株式会社日本マイクロニ クス」が挙げられる。社長の長谷川さんが平川市生ま れなので同地に工場を設置した。グループ従業員数 6 10 , 00名を超える非常に大きな企業で、半導体の計測 器具という独特な分野で活躍している。 青森県の企業誘致の要因と課題について述べると、 進出要因は、土地が広くて安いので事業を拡張する可 能性があるという点、人が確保しやすいという点であ る。いわゆる安価な労働力だけではベトナム・中国と は競争できない。付加価値をつけていくためには、キ チンとした人材がなければならないが、青森県はまだ まだ人材の育成の面では課題が多い。個別の企業の要 因であるが、ランニングコストを下げる政策等も必要 である。 最近の地元紙に「クリスタルバレイ構想見直しへ」 という記事が載っていた。当初の構想は、六ヶ所村の むつ小川原開発地域に2001年からの1 0年間で、14~15 事業所の立地、5千~6千人規模の雇用創出を揚げた が、これまでの立地は2社、雇用創出は約4 00人と目 標の1 0分の1以下で構想の見直しが進められているの で、企業誘致もあまり期待できない。 そして、移出型地域産業。昨年のフォーラムでも話 をしたいわゆる地域ブランドと雇用の関係である。ブ ランドと言うと特殊な分野、超高級ブランド品がある が、ここでいうブランドとは、他の地域との差別化と いうことである。製品やサービスの品質を責任もって 保障すること、それゆえ高い付加価値を実現できるの が、ブランドの最も基本的な機能である。そういった 意味では、最近の食品関係で起きている不祥事は一番 嫌うべき面である。ここで、競争相手との差別化に成 功し、顧客に選んでいただく姿勢が必要であり、顧客 に共感してもらう手段が情報発信とコミュニケーショ ンである。青森県はこのコミュニケーションが苦手だ といわれている。行政関係者に話を聞くと青森県は PRが不足しているので、マスメディアにどんどん広 告宣伝費をだすべきだと言うが、私はそれだけでは無 いと思う。そろそろ、発想の転換が必要な時期がきて いるのではないだろうか。 そして情報発信を含む企業経営戦略だが、ここには 当然、経営理念があるので、思いが源泉として出てく る。これは地域づくりという形で理解できるのではな いだろうか。しかしながら他方では、昨年から地域団 体商標の動きが出てきているが、行政からの補助金目 当てやブームに乗る安易な発想では、ヒット商品にな れてもロングセラーとしては定着するのは難しいと思う。 雇用創出の条件という事で、第1回ビジネス講座で 話していただいた、当時のはちしん地域経済研究所所 長の高橋さんの講演から引用すると「多様で魅力のあ る仕事の創出」、「地域固有の資源をいかした産業振興 と雇用の安定」、「最先端技術型中核企業の誘致による 創業と雇用開発」、「マネジメント能力と企業の経営革 新」、そして一番大事な「従来の行政や常識の壁を打 破」が挙げられる。青森県は他県と比べると直ぐに役 に立つ政策を求めたがる人が多くいるが、それは違う と思う。企業は従来の行政依存を転換し自立経営を目 指すべきであり、そうでなければ長続きしない。一方、 行政の側も本当に必要な企業支援を見極める必要があ るのではないかと思う。 第3報告 「青森県に生きる若者たち」 弘前大学人文学部准教授 雇用政策研究センター 李 永俊 雇用政策研究センターの研 究活動には大きく二つの柱が あり、一つは労働市場に労働 力を供給する労働供給側の分 析で、もう一つは労働力を買 う労働需要側の分析であります。労働を需要する側に 関しては、企業調査グループの佐々木氏の報告内容に なります。労働を提供している労働者にどのような問 題があるのかという労働供給側の分析は社会調査グ ループが研究を進めてきました。 2006年度から社会調査を始め、第1回目は津軽地方 の若者に調査対象を限定し、そして昨年度は1回目の 調査を元に全県に調査対象を広げ調査を行いました。 県内の3つの経済圏といえる、青森、八戸、弘前とそ の周辺の若者5千4百名を調査対象としました。調査 結果は3月に報告書としてまとめ発表しました。本日 は報告書ではご紹介できなかった、新たな分析結果を ご紹介させていただきたいと思います。 先ほど高山先生からも報告があったように、青森県 は雇用の状況だけではなく、最低賃金で見ても非常に 厳しい状況が続いている。特に注目したいのは、若人 をめぐる現象であります。全国の20~24歳の完全失業 率が1 08 .%というのに対し、青森県は167 .%である。 若い年代層で続いているこういう厳しい状況を受けて、 若者を対象とした調査を行った。 独自の調査を実施した理由は、地方を中心とした データが不足しているからである。もちろん県が独自 で調査を行ったりするのだが、それは行政からであっ て、大学としての客観的な尺度をもって調査すること No. 3 2008. 3 7 が無かった。そこで、同センターが独自の調査を行っ たというわけだ。 ここでは、青森県の状況がどれくらい深刻であるか を、日本労働研究研修機構が2006年、東京に在住して いる18才から29才の若者2千名を対象に行った調査結 果と比較検討してみたいと思う。 まず、無業者の割合に注目していただきたい。男女 の無職の割合が、東京では48 .%なのに対し、青森で は107 .%、つまり10人に1人が仕事を持っていない状 況になる。また、アルバイトやパートとして働いてい る若者が、東京は305 .%近くに達しているのに、青森 県は156 .%しかない。一方で、正社員の割合には東京 と青森で大きな差が見られない。 次に、労働時間と年収を比較してみた。こちらは東 京の若者の男女別職種別の平均年収を示している。平 均年収を取るときは様々な基準があるが、ここでは上 位5%と下位5%を除いて平均を取った。男性正社員 だと東京都3314 .万円、青森2415 .万円で、アルバイト・ パ ー ト で は 東 京 都1738 .万 円、青 森 県1348 .万 円、契 約・派遣では東京都2561 .万円青森県2058 .万円となっ ている。東京都の年収を1 00とすると青森県の正社員 の年収は7 29 .、アルバイト・パートは7 76 .、契約派遣 は804 .となっている。正社員の格差が一番大きく、契 約・派遣社員の地域間格差が一番小さいことがわかる。 所得水準を比較するもう一つの基準は、時間あたり の収入である。平均年収を週間労働時間×52週で割っ た時間当たりの収入を比較してみよう。東京では正社 員の時給平均が11 , 90円、青森では930円となっている のに対し、アルバイトとパートでみると、男性の時給 は東京が840円、青森では700円である。東京都の時間 当たり収入を100とすると正社員では782 .、アルバイ ト・パートでは8 33 .となり、年収の比較とは逆に正社 員の地域間格差が大きく、アルバイト・パートの時間 当たり収入の地域間格差は小さい。 一般的に賃金格差を比較する際には、労働者の個人 属性、例えば学歴や性別、年齢、あるいは職種、企業 規模、産業などさまざまな属性をコントロールして、 資質や属性による差と純粋な格差に分けて比較を行わ なければならない。したがって、ここで述べた地域間 の差は一つの目安にしかならない。ただ、属性をコン トロールする前の比較においても、近年大きく論じら れている地域間の格差の論点と比較するとさほど大き な格差が見られないのが興味深い。 今回の調査で明らかになった傾向の一つに、青森県 の若者の多くは正社員になることを希望しているとい う事実がある。多くの若者が正社員を希望している理 由は何処にあるのか、正社員と非正社員の所得面での 比較を通して検討してみよう。 本当に正社員と非正社員との間に大きな差があるの か。正社員の収入を1 00として雇用形態別の所得を比 べてみたい。青森県では正社員の年収を100とすれば、 アルバイト・パートの年収は5 6、そして派遣・契約社 員は85となっている。アルバイト・パートにおいては 正社員の年収の6割に満たない大きな格差があること が分かる。 年収は労働時間×時間当たりの収入になる。した がって、年収の違いは労働時間と時間当たりの収入に 依存している。そのどちらに影響が大きいのかを見る ために、時間当たりの収入を比較してみよう。正社員 の時間当たりの収入を1 00とすると、アルバイト・ パートは75、契約・派遣社員は95となり、年収より雇 用形態間の格差は大きく縮小し、東京都と比較すると 青森県の雇用形態間の格差は小さく見える。 年収の雇用形態間の格差の要因として時間当たりの 収入より労働時間からの影響が大きい可能性が高い。 青森県の男性正社員の労働時間を10分位に分けてみる と、上位10分位の労働時間は週70時間を越えている。 週休2日であれば1日14時間働いている。それに対し 非正社員の上位10分位の週間労働時間は60時間に満た ない。このような労働時間の違いが就業形態間の年収 の差を生んでいることが分かる。 このような雇用実態を今から就業を目指す若者たち が十分に認識していることを願いたい。 次に、学校を卒業してからどのような就業生活を若 者たちが送っているのか彼らのキャリアパスを通して 見てみよう。男性を中心に話すと、現在の就業状況は、 高卒者では東京都より青森県の若者の雇用状況がよく、 大学・大学院卒者においては逆に東京都の方がよい。 県内だけの比較では、学歴が高いほど正社員の割合が 高くなっている。 もうひとつ注目されるのは、学歴が高いほど無業者 の割合が多くなっている点である。学歴の高い人は正 社員と無業者の両極端に分散している。高卒者は正社 員、契約社員、派遣、アルバイト、パートのいずれに も存在し、自営業者にも若干いることが分かる。彼ら の離学後、最初に就いた職を見ると、全ての学歴にお いて正社員になる確率が高く、無業者の割合が非常に 少ない。つまり学校からの就職が非常にうまくいって いて、結果、学校卒業時にはほとんどの人は仕事が決 まっていたということである。無業者が増えるのは、 その後の移行過程によって発生したと思われる。 キャリアパスの過程に関しては、東京と比べると、 8 青森県では正規⇒正規の定着層の割合が高い。非正規 から非正規の割合は東京で3割を占めているのに対し、 青森では1割弱と非常に少なくなっている。正規から 非正規への下方転職では、青森県は高卒者や専門学校 卒者に集中していて、大卒者には見られない。まとめ ると、学校から就業への移行はうまくいっているが、 就業後の転職過程でパートやアルバイト、または契 約・派遣などの下方転職になる場合が多い。このよう な傾向からやはり転職を食い止めることが重要である と考えられる。 東京都と青森県の比較をまとめると、正社員の割合 においては大きな差がないが、パートやアルバイトの 割合が少なく、無業者の割合が高い。若者の年収は東 京の7割弱といえる。東京より労働時間が短いため、 年収を時間に換算した場合8割弱になってしまう。 パートやアルバイトと正社員を比べると5割弱になる。 女性の高学歴者の雇用が非常に厳しくなっているのも 県内の特徴ともいえる。 再来年は、昨年度と全く同じ調査を東京で行う予定 である。特に、青森から出て行った若者の就業状況を 見てみたい。出て行った人と残った人の就業データが どのように違っているのかを比較検討して、若者の流 出の背後に何があるのかを明らかにしたい。このこと は、地方の過疎化を食い止める意味において非常に重 要な意味をもつ。 パネルディスカッション 建設業の新分野への進出した際の資金面での問題点 についての質問があり、それに対し佐々木センター員 は、建設業から農業への転換の成功例もあるが、実際 に採算が取れるには4、5年かかる。大方の建設業の 農業参入の場合は、建設業で余剰になった資金分を農 業に廻すというパターンが多く、全面的に転換すると いう事ではない。企業が4、5年持つためには企業体 力に相当蓄積がなければならないので、すでに新分野 へ進出している業者はいいが、これから進出しようと 考えている業者の場合は非常に難しいと述べた。 また、若者の雇用のミスマッチによる離職者増加の 解決策についての質問には李センター員が、正社員は 企業の人間関係・体調不良、非正社員は一時的な就 業・収入への不満というように離職理由の違いははっ きりしている。離職を減らすためには、高卒者には学 校の緻密な就業支援、大卒者においても高学歴フリー タが増加しているので、高校並みの就職斡旋を行うと いった、属性に合った就職支援が必要であると述べた。 No. 3 2008. 3 9 第4回 雇用政策研究センター ビジネス講座 日時:2007年11月26日(月)18~20時 場所:弘前大学創立50周年記念会館 会議室 講師:並木精密宝石㈱青森黒石工場 工場長 渡辺 一弥氏 並木精密宝石㈱青森黒石工場 QMSマネージャー 山本 繁明氏 第2リサーチグループ(企業調査グループ)では企 業誘致と地域雇用の実状を把握するために、並木精密 ㈱青森黒石工場工場長、渡辺一弥氏と、QMSマネー ジャー、山本繁明氏を講師としてお招きし、2007年11 月26日、第4回雇用政策研究センター・ビジネス講座 を弘前大学創立50周年記念会館 会議室で開催した。 「企業誘致と雇用創出」 並木精密宝石㈱は、1939年創業、資本金1億円、本 社東京、国内工場2ヶ所、海外工場2ヶ所、海外営業 所3ヶ所、グループ会社3社を持つ企業である。並木 精密グループは、戦前の創業時、家庭に普及し始めた ばかりの水道用メータの軸受宝石に始まり、航空機が 戦艦にとって代わった戦時中は航空機用計器の軸受宝 石、戦後はレコード針、時計用部品を経て、現在のモ バイル用振動デバイス、医療用機器、LED用基板、光 通信部品に至るまで、一貫してライフスタイルを変革 し、「オンリーワンの製品を作る」をモットーに世界 のトップメーカーと共同開発を進めながら、生活を豊 かにする商品を提供してきた。 黒石工場の誘致は、 1979年春、東京・秋田工場だけで は足りず分散工場が他に必要になり、黒石市への工場 立地を社内的に決定した。翌年1980年に黒石市と企業 進出のための協議をし、1982年工場の創業を開始した。 黒石工場は、用地1 20 , 00坪、建屋30 , 00坪、従業員数 約400名、内正社員は約230名、従業員構成は男子45%、 女子55%でその2割は技術者であり、経理部門、販売 部門等を持ち、東京本社内に出先として営業部門を置 いている会社組織が確立している工場である。 工場設立にあたっては「電力・水・労働力・交通・ 気候と風土」を工場の立地条件に立地場所を探したと ころ、山形・秋田・青森の3県が候補地としてあがっ た。しかし山形県は、既に進出している企業が多く、 将来的に労働力不足が考えられ、秋田県は、高速道 路・新幹線等の交通体制が遅れていたので物流面で不 安があり、結局青森県に決まったのである。 黒石市は、通勤に便利で良質な労働力が豊かであり、 電力・水の確保が容易で経費も安いという理由で工場 地に選ばれた。実際工場を設立してみると、青森空港 が近いので東京との行き来がとても便利で、輸送面で は東北自動車道を利用し宅配便での輸送がスムーズに 行なわれている。気候面では、冬の雪は秋田の湯沢工 場で経験しているので支障にならず、湿度が低く空気 が綺麗なので精密加工には適している。また風土面に おいては、城下町で人情豊か、先輩・老人を敬う土地 柄で「和」を維持する職場に適している。「りんご作 り」という手間暇のかかる作業ができるという風土で 育っている人達なので、物づくりに適している場所だ とわかった。 次に、「産学官連携」について説明すると、我々は 大学や研究所と共同で様々な研究を進めてきている。 例えば、名古屋工業試験場(時計窓ガラスの生産)、 電気技術総合研究所(モーター、光アイソレーター)、 NEDO(青色LED用サファイヤ基板)等他にも色々ある が、そ の う ち Φ15 .ギ ヤ ー ド モ ー タ ー で は 東 北 大 学 (NEDO) との共同研究による「金属ガラスプロジェク ト」にて内閣総理大臣賞を受賞した。 メインテーマである「雇用政策に関しての企業の方 向性」について我々が今考えている誘致企業としての あり方を、既に青森県に誘致されている既存の企業、 新規に誘致される企業と2つの観点で説明したいと思 う。最初に、県内の既存企業の活動による雇用の創出 に関して説明すると、誘致企業の大部分は物を作るだ けの場所として青森県を選んでいるが、それでは雇用 創出にならない。雇用創出のためには、我々の会社の 様に技術を持ち込み、それに伴う要素技術も持ってき ている会社がお互い協力してそれらを持ち寄り、そこ から新しい物を作り出さなければならないと考えてい る。つまり、新製品を作るには、要素技術を持ってい る県内企業と誘致企業が協力し合い「企業連合」を作 る事が不可欠である。この「企業連合」でできた新し い技術を青森県に定着出来ないと県内に人は残らない。 この技術の定着には、県内大学・県内企業による製品 開発・製品設計等の基礎研究、基礎技術協力、官から の資金プロジェクトが必要である。新技術を地元の協力 会社に残し、そこからまた他の協力会社へと浸透させ て技術を県内に定着させる事により雇用が創出される。 次に、新規企業による雇用の創出についてだが、今 までは、青森県には県内で働きたいという若い安い労 働力があるということで企業誘致していたが、これか らは、大学や研究所が基礎研究、基礎技術、計測分析 等、技術協力をして企業誘致しなければならない。津 軽地方には誘致企業に充分な支援ができる大学・研究 所がある一方で、企業の絶対数が少ない。誘致企業に とっては、関東・関西地方で同じ様な企業支援を実現 するには、多大な費用と労力がかかり難しいが、青森 県にくると企業が少ないので技術力のバックアップが簡 単に得られるという協力体制が魅力だ。その企業に、 県内の大学を卒業した技術者が供給され、地元に技術 力が定着し、企業の地元定着が起こる。この循環が地 元を発展させて雇用を連続的に生み出すことになる。 私は、青森県は就職率・雇用が悪いので雇用形態を レベルアップしなければならないと懸念している。派 遣社員が多いと、技術の継承が出来ないし、若者は、 自分の将来設計を立てられず家庭を築くことを考えら れない。技術の継承と派遣社員の生活レベルの安定の 為には、派遣社員を自社社員化し、サービス残業・ サービス出勤の廃止、等労働条件を遵守していかなけ ればならない。そうしなければ、先ほどの雇用の循環 は生まれず、青森県の雇用形態はレベルアップしない だろう。 最後に、青森県の雇用に関して必要な点をまとめると 1、要素技術を持った企業連合による新製品の創出 2、大学関係からの技術サポート 3、企業連合から取引企業への技術定着 4、県外企業へ、青森県の技術ポテンシャルの高さ をアピールする 5、雇用形態の改善 以上、5点になる。 センターの活動状況 ◎「青森県の将来を憂える会」で報告 (20 07年3月1 7日) 当センターのリサーチグループリーダーの李永俊が、 青森市で開催された、雇用人口減少、医療など本県が 抱える課題をテーマにしたシンポジウムに参加した。 李は、若年者の雇用情勢についての調査内容を報告し、 自治体財政などそれぞれの専門分野の方々と意見交換 が行なわれた。 ◎仕事・生活とこころの健康に関するアンケート調査 (20 07年1 0月~) 北東北三県は全国的に見ても自殺率が高い。このよ うな現状を改善するための基礎資料とすべく、青森、 岩手、秋田の2 0~75歳の男女30 , 00人(職業問わず)を 対象に、日常生活や仕事から生じるストレスやこころ の健康についてアンケート調査を実施した。 ◎NHK番組制作局の取材 (2008年1月15日) NHK青森放送局の高橋司氏が、2008年2月末放送 予定の「クローズアップ東北」の取材の一環として、 当センターを訪問し、リサーチグループリーダーの李 永俊と対談を行った。その対談では、第2回EPRC社 会調査報告書の内容と最近の青森県の雇用状況などが 取り上げられた。当番組は2月22日に放映された。 3 No. + + 発行日 2008年 3月 25日
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