大学新入生の携帯メール利用が入学後 の孤独感に

[表題]
大学新入生の携帯メール利用が入学後
の孤独感に与える影響
名古屋大学 五十嵐 祐1)2)・吉田 俊和
The effects of the use of mobile phone text
messages on freshmen’s loneliness during
transition to college
Tasuku Igarashi and Toshikazu Yoshida(Graduate School
of Education and Human Development, Nagoya
University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601)
Abstract
This longitudinal study investigated the extent to
which the use of mobile phone text messages (including
cell phone email and short messages service) affected
freshmen’s loneliness during transition to college.
A
total of 83 freshmen completed measures of loneliness
and social networks at the beginning and end of their
1st semester. Perceived availability of mobile phone text
messages was assessed at the beginning of the semester.
Results showed that functional usefulness and expectation
of affiliation fulfillment affected the social network of the
text messages, and an increase in the importance of the
precollege and college friendship and in the frequency of
the sending text messages to college friends contributed
to a decrease in loneliness. In contrast, greater importance
of the text messages to precollege friends was associated
with an increase in loneliness.
Key words: mobile phone text messages, freshmen, social
networks, loneliness
要 約
本研究では,大学新入生を対象として,携帯メールの
利用が入学後の孤独感にどのような影響を与えているの
かを縦断的に検討した.大学新入生 83 名について,孤
独感と社会的ネットワークを新学期の始め(4月)と終
わり(7月)に測定し,携帯メールの効用に対する認知
を4月に測定した.構造方程式モデルを用いて,携帯
メールの効用認知が社会的ネットワークを介して孤独感
に影響を与える過程を検討した結果,以下の点が明らか
となった:(a) 携帯メールの機能的利便性を高く認知し
ているほど,入学後に知り合った友人への携帯メールの
送信数が増えていた.(b) 携帯メールの親和充足機能を
高く認知しているほど,入学前からの友人との携帯メー
ルによる関係の重要度が減少していた.(c) 4月から7
月にかけて,入学前からの友人,および入学後に知り
合った友人との携帯メール以外による関係の重要度が増
加しているほど,また入学後に知り合った友人への携帯
メールの送信数が増加しているほど,孤独感が低下して
いた.(d) 入学前からの友人との携帯メールによる関係
の重要度が増加しているほど,孤独感が高まっていた.
問 題
大学生活への適応は,大学新入生にとって最も重要
な課題の一つである.従来の研究では,大学入学後の
新たな対人関係の形成・維持が,大学生活への適応や
孤独感に関連していることが報告されてきた.例えば,
Pierce, Sarason, & Sarason (1991) は,大学入学後の友人
のサポートが孤独感に影響を与えることを明らかにし
ている.また,Hays & Oxley (1986) は,大学入学後に
知り合った友人の対人関係に占める割合が,大学生活へ
の適応を最も規定していたことを報告している.一方,
Paul & Brier (2001) は,入学前からの友人との関係を恋
しく思う”friendsick”が,入学後の孤独感を高めてしまう
ことを指摘している.これらの知見は,大学入学後の新
たな対人関係が大学新入生の孤独感の低減に有効である
のに対し,入学前からの対人関係への郷愁が大学生活へ
の適応を妨げ,孤独感を高めてしまうことを示すものと
いえよう.
一方,ここ数年,若者の間で携帯電話・PHS(以下,
合わせて携帯電話と呼ぶ)の利用者が急激に増加してい
る.2002 年3月現在,携帯電話を個人で利用している
人の割合(個人利用率)は,10 代・20 代で8割を超える
(NRI 野村総合研究所, 2002) .特に,ショートメッセー
ジやインターネットメールなどの,携帯電話による文字
コミュニケーションサービス(以下,合わせて携帯メー
ルと呼ぶ)は,携帯電話所持者のおよそ8割が利用して
いると報告されている (富士通総合研究所, 2001).
携帯メールは,コンピュータを介したコミュニケー
ション(Computer-Mediated Communication; 以下,CMC
と略す)の一種に分類される.CMC は,対面状況(Face-
to-Face; 以下,FTF と略す)のコミュニケーションと比
較して,非対面性,個別性,非言語的手がかりが伝達
されない,距離的・時間的な制約を解放する,などの特
徴を持つ (宮田, 1993) .さらに携帯メールは,高い普及
率,低コスト,可搬性に優れるといった特徴を有するコ
ミュニケーションメディアである.
従来の調査では,携帯メールの利用によって,コミュ
ニケーションの回数が増え,他者との交流が活発になる
と感じている人が多いことが報告されてきた (e.g., 岡
田・松田・羽渕, 2000).ただし,これらの知見はいずれ
も回答者の自己報告に基づくものであり,携帯メールの
利用が実際の対人関係の様態や孤独感(心理的健康)に
どのような影響を与えているのかということを,社会心
理学的な観点から検討した研究は少ない.
都築・木村 (2000) は,コミュニケーションメディアに
対する大学生の評価を分析し,携帯メールは他のメディ
アに比べて対人緊張が低く,その利用頻度が親和感情に
よって強く規定されていることを明らかにしている.こ
のことは,携帯メールの効用に対する認知が携帯メール
の利用と関連し,対人関係に影響を与える可能性を示唆
する.しかし,日常場面における携帯メールの利用と孤
独感との関連を検討する際には,携帯メールの効用認知
の影響だけでなく,どのような相手と携帯メールでコ
ミュニケーションを行っているかという,社会的ネット
ワークの種類についても考慮する必要があると考えら
れる.例えば,新たな対人関係を形成する機会の多い大
学新入生の場合,携帯メールの対人緊張の低さが,知り
合って間もない入学後の友人とのコミュニケーションを
促進し,孤独感の低減につながる可能性が推測される.
一方で,距離的な制約を解放し,手軽にやり取りのでき
る携帯メールが,入学前からの友人とのコミュニケー
ションを活発にする結果,friendsick を引き起こして孤
独感を高めてしまうことも考えられる.
以上の議論から,現代社会における大学新入生の大学
生活への適応を検討する際には,FTF や電話といった
従来型のコミュニケーションだけでなく,携帯メールに
よるコミュニケーションが対人関係に与える影響につ
いても考慮することが重要であるといえよう.そこで本
研究では,大学生活への適応の指標として,入学直後か
ら7月にかけての孤独感の変化を取り上げ,大学新入生
の携帯メールの利用が大学生活への適応に与える影響
を,
“携帯メールの効用認知→社会的ネットワークの変
化→孤独感の変化”というモデルに基づいて検討するこ
とを目的とする.具体的には,まず孤独感の変化に影響
を与える社会的ネットワークの質的,量的な指標を探索
的に検討する.次に,孤独感の変化に影響を与える携帯
メールの社会的ネットワークの指標が,入学直後の時点
における携帯メールの効用に対する認知とどのように関
連しているかを検討する.最終的に,携帯メールの効用
認知が社会的ネットワークの変化を介して孤独感の変化
に影響を与える過程を,構造方程式モデルによって検討
する.
方 法
調査対象および実施時期
調査の対象は,国立N大学法学部の大学新入生 125 名
(男性 72 名,女性 53 名,平均 18.3 歳)であった.1
回目の調査は 2001 年4月 26 日(入学式の約3週間後)
に,2回目の調査は 2001 年7月 19 日(入学式の約3ヶ
月半後)に実施した.
質問紙の構成
1回目の調査
(1) 孤独感尺度:工藤・西川 (1983) の
改訂版 UCLA 孤独感尺度邦訳版(20 項目; 4件法)を
用いた.(2) 携帯メールの効用認知尺度:諸井 (2000) の
携帯電話の効用認知尺度を参考に,携帯メールの効用に
対する認知を多面的に測定する尺度(30 項目; 5件法)
を作成した.(3) 社会的ネットワークの測定:(a) 携帯
メール以外の社会的ネットワーク:大学入学前からの友
人,および大学入学後に知り合った友人について,それ
ぞれの (i) 人数,(ii) 直接会う・電話など,携帯メール以
外の手段による接触の頻度(
“毎日”
,もしくは“週に何
回”
)
,(iii) 携帯メール以外の手段を通じた関係の重要度
(4件法)について記入を求めた.(b) 携帯メールの社会
的ネットワーク:日ごろから携帯メールで交流している
相手を,大学入学前からの友人,および大学入学後に知
り合った友人の別に想起させ,それぞれの (i) 人数,(ii)
一日の携帯メールの受信数,(iii) 一日の携帯メールの送
信数,(iv) 携帯メールを通じた関係の重要度(4件法)
を尋ねた.(4) 電話・携帯メールの利用比率:携帯端末
において,電話と携帯メールをどのくらいの割合で利用
しているかを,全体を 10 として配分してもらった.
2回目の調査 (5) 孤独感尺度:(1) と同様の項目につ
いて回答を求めた.(6) 社会的ネットワークの測定:(3)
と同様の項目について回答を求めた.
結 果
回答者の属性
125 名の回答者の中で,携帯メールを利用していたの
は 117 名(93.6 %)であった.このうち,回答に欠損
値がなく,4月と7月の両時期において,入学前からの
友人および入学後に知り合った友人と携帯メールで交流
があると回答した 83 名(男性 41 名,女性 42 名; 平均
18.2 歳)を分析の対象とした.居住形態は,自宅が 51
人,下宿が 32 人であった.また,携帯電話を1年以上
利用している者が全体の 47.0 %を占めており,携帯端
末における電話と携帯メールの利用比率(Max=10)の
平均値は,電話:携帯メール= 3.5:6.5 であった.この
ことから,本調査の回答者は携帯メールを日常的に利用
していると考えられる.
尺度の検討
孤 独 感 尺 度 4 月 と 7 月 の 孤 独 感 尺 度 20 項 目 に
ついて,それぞれ確 認的因子分 析を行っ た結果,い
ずれも1 因子性が認 められた .次に,4月 の孤独感
( M = 38.61, S D = 7.86, α = .89)と7月 の孤 独感
( M = 37.89, S D = 9.05, α = .92)の平均値に差があ
るかどうかを対応のある t 検定で検討したが,有意な差
.
はみられなかった(t(82) = −.97, n.s. )
携帯メールの効用認知尺度 携帯メールの効用認知
尺度 30 項目について,まず因子数を1に指定して因子
分析(主因子法)を行った.固有値の推移(7.26, 2.66,
1.34, 1.12, 0.78...)および解釈可能性から4因子を抽出
し,次に因子数を4に指定して再度因子分析(プロマッ
クス回転)を行った.しかし,第4因子が残余項目と考
えられたため,第4因子に負荷の高い項目を除外したの
ち,因子数を3に指定して,全ての項目の因子負荷の絶
対値が.40 以上となるまで因子分析を繰り返した.その
結果,最終的に残った 16 項目を尺度の構成に用いるこ
Table 1
.
ととした(Table 1)
因子を構成する項目の内容から,第1因子(9項目)
を“携帯メールによる親和充足”
(以下“親和充足”と略
す),第2因子(4項目)を“携帯メールの機能的利便
性”
(
“利便性”
)
,第3因子(3項目)を“携帯メールに
対する束縛感・不快感”
(
“束縛感・不快感”
)とそれぞれ
命名した.
入学後の社会的ネットワークの変化
4月から7月にかけての社会的ネットワークの変化を
検討するために,携帯メール以外の社会的ネットワーク
と携帯メールの社会的ネットワークの各指標について,
入学前からの友人,入学後に知り合った友人の別に,そ
れぞれ対応のある t 検定を行った.なお,記述の簡略化
のため,これ以降は社会的ネットワークの各変数につい
て,例えば“入学前からの友人で,携帯メール以外の手
段で交流のある人数”を“入学前(からの)友人数”と
略記する.また,略記の中で,メール以外の手段で交流
のある友人は“友人”,メールで交流のある友人は“相
手”と表記する.
各時期の社会的ネットワークの平均,標準偏差,およ
Table 2
び t 検定の結果は,Table 2 に示す通りである. 携帯
メール以外の社会的ネットワークについては,4月から
7月にかけて“入学前友人数”が減少していたが,
“入学
後友人の重要度”は逆に増加していた.また,携帯メー
ルの社会的ネットワークについては,
“入学後メール相
手人数”,
“入学後メール相手からの受信数”,
“入学後
メール相手への送信数”,
“入学後メール相手の重要度”
が,いずれも4月から7月にかけて増加していた.これ
に対して,入学前の友人との携帯メールによる関係につ
いては,時期による有意な変化は見られなかった.
孤独感の変化に影響を与える社会的ネットワークの要因
携帯メールの効用認知を統制した状態で,4月から7
月にかけての孤独感の変化が,社会的ネットワークのど
の要因によって規定されているのかを明らかにするため
に,携帯メールの効用認知3因子をあらかじめ投入した
上で,7月の孤独感得点から4月の孤独感得点を引いた
値を従属変数とし,4月から7月にかけての社会的ネッ
トワークの各指標の変化量を説明変数とする,ステッ
プワイズ法による重回帰分析を行った(Table 3; 投入基
.
準: p < .10; 除去基準: p > .10)
重回帰分析の結果,4月から7月にかけて,
“入学後
友人の重要度”
,
“入学前友人の重要度”
,
“入学後メール
相手への送信数”がそれぞれ増加しているほど,孤独感
が低減することが明らかにされた.これに対して,有意
傾向ではあるものの,
“入学前メール相手の重要度”が
増加しているほど,孤独感が高まることも示された.携
Table 3
帯メールの効用認知は,いずれも孤独感の変化に対する
有意な規定因とならなかった.
構造方程式モデルによる孤独感の生起過程の検討
上述の重回帰分析の結果を踏まえ,携帯メールの効用
認知が,社会的ネットワークの変化を介して孤独感の変
化に影響を与える過程を検討した.まず各変数間の相関
係数を算出し(Table 4),次に“携帯メールの効用認知
→社会的ネットワークの変化→孤独感の変化”という
モデルに沿って,構造方程式モデルによるパス解析を
Table 4
行った.
Wald 法によるパスの修正を行った結果,最終的に
Figure 1 に示すモデルが適合した. ここでは,親和充
足と利便性,親和充足と束縛感・不快感,
“入学前友人
の重要度”の変化量と“入学後友人の重要度”の変化
量の各変数間にそれぞれ相関を仮定している.モデル
の適合度指標は,χ2 (19) = 24.16(p = .19) ,GF I = .94,
AGF I = .88 であり,データに対するモデルのあてはま
りは良好といえる.
親和充足,利便性,束縛感・不快感は,いずれも4月
から7月にかけての孤独感の変化に直接的な影響を与え
ていなかった.一方,利便性を高く認知しているほど,
4月から7月にかけて“入学後メール相手への送信数”
は増加し,さらに“入学後メール相手への送信数”の増
加は孤独感を低減させていた.これに対して,親和充足
を高く認知しているほど,4月から7月にかけて“入学
前メール相手の重要度”は減少していた.また,
“入学前
メール相手の重要度”が増加するほど,孤独感が高まっ
てしまうことも明らかにされた.束縛感・不快感は,い
ずれの変数にも有意なパスを示さなかった.
考 察
本研究では,大学新入生を対象として,携帯メールの
利用が入学後の孤独感の変化に与える影響を検討した.
Figure 1
携帯メール以外の社会的ネットワークについては,孤独
感が接触頻度といった社会的ネットワークの量的特徴よ
りも,むしろ重要度などの質的特徴と関連することが指
摘されている (Jones, 1981) .しかし,携帯メールの社会
的ネットワークについては,入学後の友人へのメール送
信数の増加が孤独感の低減に結びついていた.このこと
は,可搬性の高いメディアである携帯メールの場合,い
つでもコミュニケーションを開始できるという即時性
が,特に知り合って間もない友人との関係で重要な役割
を果たしている可能性を示唆する.
これに対して,4月から7月にかけて“入学前メール
相手の重要度”が増加しているほど,入学後の孤独感が
高まってしまう可能性も明らかにされた.従来の研究
では,入学前からの友人との関係への郷愁が friendsick
を引き起こし,孤独感を高めることが報告されている
.しかし本研究では,入学前からの
(Paul & Brier, 2001)
友人との携帯メール以外の手段による関係の重要度が増
加することが,逆に孤独感の低減をもたらしていた.し
たがって,大学新入生の friendsick に基づく孤独感は,
単に入学前からの友人への郷愁によって引き起こされる
わけではない.むしろ,日常的な接触の少ない入学前か
らの友人との間で,直接会うことや電話することの重要
度が増加することは,大学生活への適応にポジティブな
影響を与えている可能性も考えられる.
一方,入学前からの友人との携帯メールによる関係
の重要度が増加することは,入学後の孤独感を高めて
いた.非対面の文字コミュニケーションが中心である
CMC の利用は,身体的な近接性(physical proximity)が
満たされないため,孤独感を高める可能性が指摘されて
いる (Kraut et al., 1998).さらに,内向的な人や FTF の
社会的ネットワークを持っていない人は,CMC で社会
的ネットワークを新たに形成し,孤独感を低減すること
が困難であることも報告されている (Kraut et al., 2002).
前述のように,入学後に知り合った相手へ携帯メールを
送信することが孤独感の低減につながることを考える
と,携帯メールの利用が大学新入生の孤独感に与える影
響は,携帯メールの相手と日常的に会う機会が多いかど
うかによって異なるといえるだろう.これは,FTF の社
会的ネットワークと比較した場合,CMC の社会的ネッ
トワークが孤独感の低減に有効でないという,五十嵐
(2002) の知見とも一致する.
また,4月の時点で携帯メールの利便性を高く認知し
ているほど,4月から7月にかけて,入学後の友人への
携帯メールの送信数が増加していた.このことは,大学
新入生が携帯メールを対人緊張の低いメディアと認知す
ることで,入学後に新たに知り合った友人へ携帯メール
を送信しやすくなる結果,間接的に孤独感が低減される
可能性を示しているといえよう.
一方,4月の時点で携帯メールの親和充足機能を高く
認知しているほど,4月から7月にかけて,入学前から
の友人との携帯メールによる関係の重要度が低下してい
た.既知の相手との CMC を通じた交流は,直接会うこ
とや電話など,他の手段によるコミュニケーションも含
めた対人関係の一環と捉えることができる (Kraut et al.,
2002).大学新入生の場合,4月の時点では,入学前か
らの友人との携帯メール以外の手段を通じた関係が希薄
であっても,相手と多くの話題を共有できる可能性が高
く,携帯メールを通じた関係が親和充足をもたらすもの
と考えられる.しかし,7月になると,生活環境の異な
る入学前からの友人とはお互いに共有している話題が
少なくなるため,携帯メールを通じた関係のみでは親和
充足が困難になることが推測される.したがって,携帯
メールに対する親和充足の期待が高い人ほど,日常的に
会えない相手との携帯メールによる関係の重要度を高め
ることはせず,7月における関係の重要度を低下させて
しまうのだろう.
また,携帯メールの親和充足機能への期待は,携帯
メールの利便性に対する認知を介して,入学後に知り
合った友人との関係を良好にする役割を果たしていると
も考えられる.そのため,親和充足機能を高く認知して
いるほど,入学前からの友人との携帯メールによる関係
の重要度が相対的に低下してしまうのであろう.
さらに,携帯メールに対する束縛感・不快感は,いず
れの社会的ネットワークの様態とも関連をもたなかっ
た.本研究では大学新入生が調査対象であることから,
新たな対人関係を形成する状況においては,携帯メール
のポジティブな側面が携帯メールのネガティブな側面よ
りも重要視される可能性が考えられよう.
最後に,本研究の問題点について述べる.まず,調査
の間隔が3ヶ月と短かったが,対人関係の縦断的な変化
については,さらに長期的な視点から捉えることが望ま
しいといえる.次に,サンプル数の関係から,男女別,
自宅・下宿別の分析は行わなかった.しかし,大学新入
生の大学生活への適応過程は,性別や居住環境によって
異なることが指摘されている (諸井, 1986).今後はより
多くのサンプルを集め,これらの要因と携帯メールの利
用との関連についても検討する必要があると考えられ
る.また,本研究では個人の社会的ネットワーク全体を
測定しているため,携帯メール以外の社会的ネットワー
クと携帯メールの社会的ネットワークが重複している可
能性を考慮しておらず,さらに特定の相手との関係が携
帯メールを通じてどのように変化しているのかは明らか
でない.したがって,今後は社会的ネットワークの重複
度を考慮した測定を行い,特定の相手との関係の変化が
孤独感に与える影響についても,縦断的に検討する必要
がある.これらの点に加えて,大学生活への適応の指標
として,大学生活への満足感など,孤独感以外の変数と
携帯メールの利用との関連も取り上げていく必要がある
だろう.
1)
本論文は,2002 年度名古屋大学大学院に提出した修士論文の一部
を加筆修正したものである.また,本論文の内容は日本社会心理
学会第 43 回大会で発表されている.
2) 執筆に際して有益なご助言を頂きました,名古屋大学大学院教育
発達科学研究科 村上隆教授,高井次郎助教授に心より感謝いた
します.
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Table 1
携帯メールの効用認知尺度の因子分析結果
項 目
< I:親和充足( M = 28.95, S D = 6.92, α = .89)>
9
携帯電話のメールを使っていると,何となく友だちができそうな気がす
る.
28
お互いに携帯電話のメールアドレスを教えあえば,友だちになれるよう
な気がする.
25
携帯電話のメールを使っていると,友だちの存在がより身近になる.
携帯電話のメールだと,友だちといつでも連絡を取ることができるので,
23
親密感が増す.
4
携帯電話のメールによって,対人関係が広がるような気がする.
携帯電話のメールを通じて,友だちの気持ちを確かめることができる.
30
携帯電話のメールを使うことで,友だちとのつながりを持てる.
7
友だちと携帯電話のメールでやりとりをして,さびしさをすぐに紛らわ
22
すことができる.
3
お互いに携帯電話のメールを使っていると,友だちになりやすい.
< II:利便性( M = 15.20, S D = 2.74, α = .73)>
15
携帯電話のメールを使うと,周りの人に知られずにやりとりができるの
で,便利である.
13
携帯電話のメールだと,自分の表情や声が相手に伝わらないので,気楽
にやりとりできる.
1
携帯電話のメールだと,面と向かって話しにくい相手とも,やりとりし
やすい.
11
大したことのない用事でも,携帯電話のメールだと気軽にやりとりがで
きる.
< III :束縛感・不快感( M = 6.17, S D = 2.43, α = .84)>
6
携帯電話のメールによって,自分の行動が常に他人に見張られている気
がする.
17
携帯電話のメールを使っていると,常に他人に縛られている感じがする.
公共の場所で,他人が携帯電話のメールをしているのを見ると,不愉快
14
である.
因子間相関
II
III
I
II
III
h2
M
.77
.05
.09
0.62
2.88
.73
-.02
.15
0.50
3.07
.69
.68
.09
-.15
.00
-.19
0.56
0.46
3.35
3.45
.64
.60
.58
.56
.28
-.27
.16
.14
.04
-.04
-.13
-.11
0.68
0.26
0.51
0.46
3.35
2.56
3.61
2.90
.55
.31
-.01
0.59
3.56
-.21
.73
-.15
0.44
3.57
.05
.69
.08
0.51
3.35
.04
.64
.16
0.45
4.01
.08
.55
-.13
0.39
4.16
.05
.01
.85
0.71
1.85
-.11
-.01
.01
-.06
.82
.72
0.72
0.53
2.15
2.24
I
.56
-.23
II
III
−
-.09
−
Table 2
社会的ネットワークの平均,標準偏差,および t 検定の
結果
4月
a)
7月
M
SD
M
SD
t(82)
8.90
(7.88)
7.39
(5.42)
-2.04*
0.22
(0.27)
0.22
(0.27)
-0.15
3.86
(0.45)
3.81
(0.43)
-0.94
7.49
(8.16)
8.49
(8.38)
1.15
0.85
(0.25)
0.90
(0.19)
1.54
3.64
(0.55)
3.86
(0.42)
3.26**
5.35
(4.08)
5.02
(3.06)
-0.75
1.47
(1.75)
1.34
(1.77)
-0.68
1.19
(1.64)
1.23
(1.71)
0.24
入学前メール相手の重要度
3.47
(0.79)
3.61
(0.62)
1.62
入学後メール相手人数
4.07
(3.25)
6.11
(4.61)
4.77**
2.65
(3.26)
3.59
(4.02)
2.47*
2.35
(3.14)
3.67
(4.46)
3.26**
3.13
(0.81)
3.46
(0.72)
3.46**
社会的ネットワーク
入学前友人数
入学前友人との接触頻度
b)
入学前友人の重要度
入学後友人数
入学後友人との接触頻度
b)
入学後友人の重要度
入学前メール相手人数
入学前メール相手からの受信数
入学前メール相手への送信数
b)
b)
入学後メール相手からの受信数 b)
入学後メール相手への送信数
入学後メール相手の重要度
b)
**p < .01, *p < .05
a)
入学前:入学前からの友人,入学後:入学後に知り合った友人
b)
1日あたりの回数
Table 3
重回帰分析の結果
従属変数:∆ 孤独感 a)
説明変数
β
親和充足
-.05
利便性
-.16
-.16
束縛感・不快感
∆ 入学後友人の重要度
a)
-.36**
∆ 入学前友人の重要度
a)
-.22*
∆ 入学後メール相手への送信数 a)
∆ 入学前メール相手の重要度
a)
R2
Ad j.R
.20 †
.36**
2
∗ ∗ p < .01, ∗p < .05, † p < .10
a)
-.29**
∆ 4月から7月にかけての変化量
.30**
Table 4
各変数間の相関係数
1
1
2
3
4
5
6
7
8
∗∗
∆ 孤独感
−
親和充足
利便性
束縛感・不快感
∆ 入学前友人の重要度
∆ 入学後友人の重要度
∆ 入学前メール相手の重要度
∆ 入学後メール相手への送信数
-.15
-.17
-.07
-.33**
-.38**
.02
-.30**
p < .01, ∗p < .05
2
3
4
5
6
7
−
.51**
-.26*
-.01
-.12
-.23*
.16
−
-.06
.01
-.11
-.18
.21
−
-.04
.02
.22*
-.08
−
.51**
.28**
-.03
−
.36*
-.01
−
.02
図目次
1
構造方程式モデルによる分析の結果 . . .
23
Figure 1 構造方程式モデルによる分析の結果