日常清掃とレストレーションの違いと 教育の重要性

のです。基準に基づいて中立な立場で検査しますので、トラ
なり濡らして作業をするのは、取りにくい汚れをわざわざ自
ブルの原因を公正に判定することができます。
分でつくりだしてしまうことになります。最初にドライな汚
そうした中立的な団体だけでなく、米国では国の機関も関
与しています。EPA(米国環境保護局)は室内の空気環境
の指針を出していますが、その1つの重要な要素として、
カーペットの状態というものがあります。カーペットはパイ
ル内に汚れを溜め込む構造ですが、これが適切に取り除かれ
ないと歩行のたびに空気中にほこりを舞い上げてしまいま
す。そのためどのレベルでメンテナンスしたほうがよいのか
(清掃頻度)の指針をEPAは出しているのです。
れをきちんと除去するのは理にかなっているのです。
科学的にアプローチするメリット
最後に科学的にアプローチするメリットをまとめます。
(1)各メーカーからの多くの情報に混乱しない
きちんと知識をもっていれば、何が良いもので何がいけな
いものか自分で判断することができます。
(2)資源の有効活用
人・モノ・金のムダがなくなります。例えば、メンテナン
IICRCで学ぶこと
スのプログラムができていれば、不要なクリーニングをする
IICRCでどのようなことを学ぶのか、少しだけ紹介し
ます。例えば、「このカーペットは汚い」などと言いますが、
そもそも汚れとは何でしょう。それはカーペットという構造
(パイルやバッキングなど)に外部から入ってくる“望まれな
いもの”と定義します。
必要がなくなります。
(3)営業力のアップ
さきほどのEPAの指針などを示せれば、客観的な根拠に
基づいた作業内容を自信を持って提案することができます。
(4)現場技術力の向上
ではクリーニングとは何か。カーペットが本来もっている
機能、形状、風合いなどを損なわずにそれらを除去すること
とです。簡単そうですが、じつは奥が深いものです。
一口にカーペットと言っても、いろいろ分類があります。
繊維にもいろいろ種類があり、それを理解しなければ、やっ
てよいこととやってはいけないことがわかりません。
カーペットは7~8割がドライな汚れと言われています。
そして、本当にカーペットがきれいになります。同時に、
事故が減り、安定した結果が生まれます。人によって対応が
異なるということも起こりません。
(5)高いモラルの共有
従業員のモチベーションも上がります。自分のやる作業の
意味がわかるわけですから元気も出ます。
そうすると、安定して品質の良いクリーニングができます
それを掃除機できちんと除去できれば、仕事の7~8割が完
ので、お客様の満足度も高くなります。そうなると、もう価
了したようなものです。それ以外のウエットな汚れを除去す
格ではなく、信頼によって選ばれることになります。
るために、じつは労力の8割が必要なのです。ですからいき
講演2要旨
日常清掃とレストレーションの違いと
教育の重要性
講師:尾上 武樹
株式会社S.M.S.Japan代表取締役
われわれは毎年620k㎡の仕事を失っている
ベルでカーペットを維持管理できます。
私は2000年まで米国にいて、日本に資機材を輸出する仕
残念ながら、日常管理だけをしていても、美観や状態は落ち
事をしていました。米国の事情は詳しいのですが、日本がど
ていくだけです。昨今のようにクリーニングの間隔が延びると
ういう状況なのか帰国当初はわかりませんでした。その後、
どうしようもありません。単価は下がる。プロの手も入れられ
いろいろと情報をいただき、集大成として本日のテキストの
ず、悪い方へ回っていく。この悪循環をなんとかしなければな
『カーペットクリーニングマニュアル』を作成しました。
日常清掃とレストレーションの差ですが、米国では別もの
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とレストレーションをしっかり組み合わせていけば、高いレ
りません。その点、米国のカーペットは本当にきれいです。色
あざやかなカーペットがきれいに管理されています。
として捉えられています。日常管理とは、汚れないように日
こうした日米の違いは文化の違いでもあります。日本は障
常的に手を入れる作業です。一方、レストレーション・ク
子、畳、襖の張り替えの文化です。張り替えに抵抗がありま
リーニングとは、汚れたものを復元する作業です。日常管理
せん。張り替えになるとみなさんの仕事に直結します。それ
2013.06
でいながら、タイルカーペットはリサイクルできるからエコ
だと言われます。しかし、実際には毎年620k㎡分が廃棄さ
れています。これは東京23区とほぼ同じ広さです。裏返せ
ば、われわれはその面積分の仕事を毎年失っているのです。
日常管理とレストレーションによる管理計画
米国では、プロフェッショナルとジャニトリアル(日常管
理)、コンシューマー(一般消費者)が明確に分かれており、
提供される資機材も異なります。日本のメーカーの多くは
ジャニトリアル用の製品を主に取り扱われ、ビルメンさんも
定期清掃から窓拭きまで何でもされます。高野さんのような
バルチャーオートZEROのデモを見学
「レストレーション」の理解を深めるため、セミナー
の合間にタイルカーペットを剥がして別の場所で自動洗
浄できる「バルチャーZ
E R O 」( ㈱ 蔵 王 産 業 )
のデモンストレーション
を行った。このシステム
の開発に一部協力した尾
上氏もシステムの概要に
ついて、長短所を明示し
ながら解説した。
カーペット専門のプロはほとんどいないようです。
日常管理で重要なのは、汚れがつく前に手を入れる「予防
すぎを行うための機械です。レストレーションで使うものは
メンテナンス」です。そのための絶対条件が、毎日アップラ
ポータブル・エクストラクターといって、汚れを回収するた
イトバキュームをかけること。それをしながら3か月ごとに
めの機械です。両者にはスペックの違いがあり、私はわかり
表面洗浄をして、きれいさがキープできる。汚れがガチガチ
やすく前者を「弱リンサー」、後者を「強リンサー」と呼ん
に入ったカーペットをジャニトリアル用のケミカルで作業し
でいます。弱リンサーは水量が出せないのでレストレーショ
ても、きれいになるはずがないのです。
ンには向きません。 一例として、米国の某ビルでは次のような管理計画です。
ここで大事なのは、タイルカーペット1㎡につき60秒か
●ジャニトリアル:除塵作業(アップライト)=1日2回
けてウォンドを引くことです。現状では、20秒程度の方が
(ゾーニングで部分的に頻度の調整を行う)。しみ取り作業
多いようです。ある機種(強リンサー)の吐水量は毎分3.3
(スポッター)=毎日。中間清掃(表面の汚れ除去)=隔月。
Lですので、20秒では1㎡あたり1.1Lしか水を使わないこ
●プロフェッショナル:レストレーション・クリーニング
とになります。これでは根こそぎ洗浄はできません。汚れを
(トラックマウント)+染色されたしみ取り=年3回。
このメンテナンス計画は、相当お金がかかります。しかし
回収できず、残留洗剤を残してしまう原因がこれです。
最後にトラブル事例についてです。日本にはインスペク
これを何年も維持できれば、張り替え分の費用でまかなえる
ターがいないので、カーペットに何かトラブルが起きると、
のです。これが私たちの仕事です。これが行き届いているの
われわれの責任にされがちです。しかし、製造や施工による
で、米国のカーペットはきれいに管理されているのです。
ものなど、トラブルには外的要因もあります。例えばフィル
クリーニングの正確な知識を身に付ける
『マニュアル』に「クリーニングの知識」を整理しました。
各工法ごとに日米の比較と改善例を示しています。
使用する資機材は日米でそれほど変わりません。ここで強
トレーションソイルは、部屋の隅やドアの下が浮遊粉塵で黒
く汚れる現象です。ところが、これを錆と勘違いして錆取り
剤で固着させてしまうとクリーニングの責任となります。
現場でよく見られる浮きじみは、パイルの奥に残った汚れ
が毛細管現象で浮き出てくる現象です。乾燥に時間がかかる
調したいのは、ケミカルはどんどん進化しているということ
と起こる現象です。乾燥が早ければ起こらないと知れば、
です。ですからケミカルを変えるだけで、現在のやり方でも
ウォンドのドライパスを複数かける重要性も理解できます。
かなり改善されることがあります。
日本の場合、知っておくべきことはアスファルトが多いこ
クリーニングの正確な知識を身に付けることが大切です。
一方で、バキュームをかけると、テナントの従業員の方から
とです。そのためカーペットの歩行ラインには油汚れが多い
うるさいと言われて作業ができないという現実もあります。
です。逆に歩行ラインがなければ油汚れは比較的少ない。そ
こうした意識を変えていく取り組みが必要ではないかと思い
れを頭に入れながら日常と中間作業を組み立てます。大事な
ます。
のは、汚れを堆積させない管理です。
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クリーニングの代表的な理論にCHAT理論があります。
C(ケミカル)、H(時間)、A(摩擦力:アジテーション)
、
T(時間)の4つの要素の組み合わせです。時間がなければ
CとAを増やす。お湯が使えなければ時間をかけるなど、現
場の状況に応じて調整します。
次にリンサーですが、そもそもこれは2ステップ工法のす
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