国試の達人2017理学療法編 サンプル

109
第
3章
物理療法
1. 物理療法の基礎 1. 電気
1)電気の記号と単位
種類
単位
電圧
V
電流
A
電気抵抗
Ω
電気容量
F
電気誘導
H
記号
E or V
I
R
C キャパシタンス、コンデンサー
L インダクタンス
国試の達人2017理学療法編
サンプル
2)波形の種類(表 3-1)
矩形波
台形波
三角波
鋸状波
棘状波
指数波
正弦波
サージ正弦波
サージ矩形波
うねり断続波
3)波形の構成
振幅、波長(λ)、周期(T:秒)
1
周波数(f)=
T
角周波数(w)= 2 π f
図 3-1 波形と周期
110
3 章 物理療法
4)オームの法則
電圧(E)=電流(I)× 抵抗(R)
5)プリューゲルの法則
(1) プリューゲルの第 1 法則(Erb の公式)
いわゆる極興奮の法則と呼ばれるもので、露出した神経に平流電流(直流)
を流すとき、刺激回路を閉鎖すると陰極で興奮が起こる。電流が充分強い
ときは、回路を開放したときに陽極で興奮が起こること。
(2) プリューゲルの第 2 法則(Erb の公式)
電流刺激をする前にしばらくの間刺激にならない程度の弱い電流を流して
おくと(閾値下、無刺激通電)、陰極を置いた部分は、最初刺激用の電流
に感じやすくなっている(閾値が低く)が数分後にはかえって感受性が鈍
くなり(閾値が高く)、陽極を置いた部分は、最初鈍くなっているが後で
は電流を感じやすくなること。
(3) プリューゲルの第 3 法則(Erb の公式)
平流(直流)刺激を加えるとき、陽極・陰極のいずれかを置いたところでも、
電流を流し始めたときと、電 流を切ったときともに興奮が起こるが、それ
に必要な最小の電流閾値には一定の順序があり、閾値の低い順に並べると
以下のようになること。
CCC < ACC < AOC < COC
CCC(cathode closing contraction):陰極閉鎖収縮
ACC(anode closing contraction):陽極閉鎖収縮
AOC(anode openin contraction):陽極開放収縮
COC(cathode openin contraction):陰極開放収縮
国試の達人2017理学療法編
サンプル
3 章 物理療法
111
表 3-1 電流波形の種類
波形(もしくは電流)
の名称
直
流
血行改善,イオン導入法に用いられる。
電流は一方向に流れ,+,-の極性を
持っている。
正弦波
電流の傾きの角度が緩やかで痛みを起
こしにくい。変形筋に用いられる。
短形波
立ち上がりが急なため,正弦波に比べ
て痛みがある。通電期間を調整するこ
とで正常筋から変形筋まで収縮させる
ことが出来る。平流を断続しても得ら
れる。
三角波
正常筋は立ち上がりが緩やかなため,
収縮しない。変形筋ではゆっくりと確
実な収縮が起こる。
棘状波
立ち上がりが急で,変形筋は収縮しな
い。サージ変調したものを用いると正
常に近い筋収縮を行わせることが出来
る。正常筋,変性のない軽い麻痺筋の
廃用性萎縮防止,浮腫除去の筋肉パン
ピングに用いられる。
波
電
流
波形の形式
平流
(galvanic)
低
周
波形の特徴
国試の達人2017理学療法編
サンプル
立ち上がりが急で,変性筋は収縮しな
感伝波(faradic) い。中枢性麻痺時の拮抗筋通電に用い
(感応波,ファラデー る。正常筋だと強縮を起こすが,サー
電流とも呼ばれる) ジ変調すれば,正常に近い筋収縮を起
こすことが出来る。
6)電磁波 周波数と波長の関係:波長は周波数に反比例
C = f・λ C:光速度(3 × 108 m/sec) f:周波数(Hz) λ:波長 (m)
エネルギー量は周波数に比例し、波長に反比例する。
。
1 nm (=10 A)
1 nm
300 PHz
10-9 m
X線
1 μm
300 THz
10-6 m
赤外線
0.01 μm
1 nm
300 GHz
10-3 m
波長
300 MHz (周波数)
1m
極超短波
超短波
0.76 μm
400 μm
30 GHz
300 MHz 30 MHz
6
μm
図 0.38
3-2 各種電磁波と波長(M:10
,G:109,T:1012,P:1015)
図 3-2 各種電磁波と波長(M:106,G:109,T:1012,P:1015)
:可視光線
:紫外線
112
3 章 物理療法
表 3-2 電磁波の各周波数による分類
周波数
3 × 103(3 kHz)
波長
100 km
3 × 104(30 kHz)
10 km
3 × 105(300 kHz)
1 km
応用
VLF
3 × 106(3 MHz)
100 m
3 × 107(30 MHz)
10 m
3 × 108(300 MHz)
1m
3 × 109(3 GHz)
名称
LF(長波)
キロメートル波
MF(中波)
ヘクトメートル波
国内ラジオ AM
HF(短波)
デカメートル波
国際通信(短波アマチュア無線)
VHF(超短波)
メートル波
VHF テレビ、超短波療法、FM
UHF(極超短波)
デシメートル波
UHF テレビ、電子レンジ、
極超短波療法
SHF
センチメートル波
レーダー
EHF
ミリメートル波
100 mm
3 × 1010(30 GHz) 10 mm
3 × 1011(300 GHz) 1 mm
3 × 1012(3 THz)
デシミリメートル波
100 µm
国試の達人2017理学療法編
サンプル
3 × 1013(30 THz)
10 µm
3 × 1014(300 THz)
1 µm
3 × 1015(3 PHz)
100 nm
3 × 1016(30 PHz)
10 nm
3 × 1017(300 PHz)
1 nm
3 × 1018(3 EHz)
100 pm
3 × 1019(30 EHz)
10 pm
3 × 1020(300 EHz)
1 pm
3 × 1021
100 fm
赤外線(IR)
0.76 µm
光
可視光線
0.4 µm(0.38 µm)
紫外線(UV)
10 nm
X線
γ線
放
射
線
赤外線療法
紫外線療法
放射線療法
3 章 物理療法
113
2. 温度
1)温度
熱と温度:絶対零度(0 K、−273℃)
絶対温度 T[K]= 273 + t[℃]
2)熱量
単位:cal:水 1 g の温度を 14.5℃から 15.5℃まで上昇させるのに必要な熱量
K:温度差 1℃を 1 K
比熱(cal/gk): 物質 1 g の温度を 1℃上げるのに要する熱量
水 1 パラフィン 0.5
熱容量(cal/k)=質量×比熱
熱量=熱容量×温度差=質量×比熱×温度差
3)熱の移動
(1) 伝導:物体と物体の直接の接触により熱を移動
例:ホットパック、パラフィン
(2) 対流:液体または気体の移動による熱移動
例:蒸気浴
(3) 輻射(放射):電磁波の形で媒体を介さず熱の移動
例:赤外線、マイクロ波
放射エネルギーに対する吸収エネルギーの比を吸収率(吸収率= 1 黒体)
熱放射量は物体の絶対温度の 4 乗に比例
国試の達人2017理学療法編
サンプル
付)エネルギー変換熱:電磁波や音波のエネルギーが生体内で熱エネルギーに
変換。超短波、極超短波 、超音波療法など。
3. 光線
1)光線の種類
(1) 赤外線
赤外線:波長 0.76 ~ 400 µm(~ 1 mm)
温熱効果をもつ赤外線 0.76 ~ 15 µm
近赤外線:0.76 ~ 1.5 µm(0.78 ~ 1.5 µm も有り)
遠赤外線:1.5 ~ 15 µm 可視光線:0.38 ~ 0.76 µm(紫~赤) または 0.4 ~ 0.78 µm
1 µm = 10 -6 m=1000 nm
(2) 紫外線
紫外線:波長 0.01 ~ 0.4 µm(10 ~ 400 nm)
長波長紫外線(UVA)
0.32 ~ 0.40 µm(320 ~ 400 nm)
中波長紫外線(UVB) 0.28 ~ 0.32 µm(280 ~ 320 nm)
短波長紫外線(UVC) 0.20 ~ 0.28 µm(200 ~ 280 nm)
Dorno 線
0.30 ~ 0.32 µm(300 ~ 320 nm)
遠紫外線
近紫外線
100 ~ 300 nm
Dorno 線
300 ~ 320 nm
長波紫外線 320 ~ 400 nm
114
3 章 物理療法
2)法則
(1) 逆自乗の法則
物体が受ける照射強度は、放射源(熱源)と物体との距離の二乗に反比例
する:距離が 2 倍になれば、照射強度は 1/4 になる
x
光源
2x
3x
強度1
(面積s)
強度1/4
(面積4s)
強度1/9
(面積9s)
図 3-3 逆自乗(逆 2 乗)の法則
(2) ランバートの法則
吸収度は照射源と照射される面のなす角の余弦に比例して変化する:
効率よく照射するには、患部に垂直に照射する
0°:100%
45°:70%
60°:50%
90°:0%
国試の達人2017理学療法編
サンプル
4. 水
1)水の特性
比重
粘性
2)生理的特徴
(1) 温熱及び寒冷作用
(2) 浮力作用
人の比重
水位による体重免荷(図 3-3)
(3) 静水圧作用
呼吸への影響:肺活量減少
循環への影響:血液静脈圧、静脈環流
(4) 動水圧作用
抵抗
渦流
浮力
(%)
荷重
(%)
90
10
70
30
40∼50
50∼60
20
80
10
90
8
92
図 3-4 水位による体重免荷量
3 章 物理療法
5. 音波
1)特性
音波:縦波
可聴範囲 20 ~ 20,000 Hz
超音波 20,000 Hz(20 kHz)以上
伝播速度
反射
エネルギー吸収
ドップラー効果
2)超音波の生理的作用
(1) 温熱効果
(2) 機械的振動 マイクロマッサージ、発泡現象
国試の達人2017理学療法編
サンプル
115
116
3 章 物理療法
2. 物理療法総論 ■ 物理療法の体系 ■
1. 電気療法
平流電気療法(持続、断続)、感伝電気療法
超短波療法、極超短波療法 ......... 温熱療法にも含まれる
超音波療法 .................................... 機械的振動刺激
2. 光線療法
紫外線療法
赤外線療法 .................................... 温熱療法にも含まれる
日光療法
3. 温熱療法
1)分類
熱移動形式による分類
(1) 伝導:ホットパック、パラフィン
(2) 伝導と対流:熱気浴、蒸気浴、ハバードタンク、渦流浴
(3) 輻射:赤外線、電気浴、超短波、極超短波
(4) 機械的振動:超音波
国試の達人2017理学療法編
サンプル
熱源形式による分類
(1) 固体:鉱泥浴、電熱パッド
(2) 液体:温浴、交代浴、パラフィン
(3) 気体:蒸気浴、熱風
熱の種類による分類
(1) 乾熱:赤外線、電気浴、パラフィン
(2) 湿熱:ホットパック、温浴、交代浴
(3) 変換熱(転換熱):超短波、極超短波、超音波
熱 の透過性による分類
(1) 表在熱:赤外線、電気浴、ホットパック、パラフィン
(2) 深部熱:超短波、極超短波、超音波
エネルギー伝達形式と熱伝達様式
物理療法の種類
ホットパック
パラフィン
極超短波
超音波
超短波
レーザー
赤外線
水治療法(渦流浴、気泡浴)
エネルギー伝達形式
伝導
伝導
輻射(放射)
輻射(放射)
輻射(放射)
輻射(放射)
輻射(放射)
対流
熱伝達様式
伝導熱
伝導熱
エネルギー変換熱
エネルギー変換熱
エネルギー変換熱
輻射(放射)熱
輻射(放射)熱
対流熱
3 章 物理療法
117
2)作用(温熱効果)
(1) 血管拡張作用(血圧降下)、循環血量増加
(2) 新陳代謝促進
(3) 心拍出量と心拍数の増加
(4) 筋緊張(筋のスパズム軽減)、γ 線維活動の減少
(5) 軟部組織の伸張性増大
(6) 鎮痛作用、鎮静作用
(7) 神経伝導速度の増大
局所作用
① 疼痛の軽減
② 末梢血流増加
③ 創傷治療促進
④ 痙縮抑制
3)適応
(1) 疼痛の緩解
(2) 痙縮の軽減、スパズムの緩解
(3) 軟部組織の伸展性増大(拘縮の改善) <粘弾性低下>
(4) 創傷の治療促進(血流増進)
4)禁忌
(1) 急性期及び重篤な疾患(結核、悪性腫瘍、重症な心疾患など)
(2) 感覚障害
(3) 出血傾向
(4) 循環障害/動脈硬化
国試の達人2017理学療法編
サンプル
4. 寒冷療法
1)種類
(1) コールドパック
(2) アイスパック
(3) アイスマッサージ
(4) 冷浴
(5) スプレー冷却法
(6) 極低温療法
2)作用(寒冷効果)
(1) 一次的な末梢血管の収縮(表在性、局所の血流減少)初期効果
(2) 二次的な(反射性)血管拡張(血流増加) 後期効果
(3) 新陳代謝低下(炎症抑制)
(4) 筋紡錘の活動低下、γ線維の機能的遮断による痙性の抑制(筋緊張低下)
(5) 疼痛の軽減(初期は増悪もある):感覚の閾値の上昇、寒冷麻酔
(6) 神経伝導速度低下
(7) 毛細血管透過性低下 浮腫軽減
(8) 血液・組織の粘性増加
118
3 章 物理療法
局所の寒冷
① 疼痛閾値の上昇
② 神経伝導速度の低下
③ 結合組織弾性の低下
④ 血管収縮及び反応性の血管拡張
⑤ 浮腫軽減
⑥ 痙性抑制
3)疼痛の軽減メカニズム:
(1) 感覚受容器の閾値上昇
(2) 刺激伝導の遅延による中枢の感覚性インパルスの減少
(3) 新陳代謝低下による発痛物質産生の減少
(4) 筋緊張低下による血液循環改善
(5) 痙性低下による鎮痛効果
(6) 反応性充血による鎮痛効果
4)適応
(1) 疼痛の緩解(有痛性筋スパズム)
(2) 痙縮の軽減(筋緊張軽減)
(3) 腫脹の軽減
(4) 創傷の進展防止
(5) 急性期の炎症
(6) 褥瘡治癒促進
(7) 筋再教育
国試の達人2017理学療法編
サンプル
5)禁忌
(1) 感覚障害(表在感覚鈍麻・脱失)
(2) 高度の高血圧、心疾患、腎疾患、呼吸疾患
(3) 末梢循環障害(レイノー現象含む)
(4) 寒冷過敏症
(5) 解放性外傷
(6) 発作性頻脈症
(7) 寒冷グロブリン血症
(8) 心臓の上
( 9) 高齢者で神経質な人
3 章 物理療法
119
5. 水治療法
1)種類(リハビリテーションの立場からの水治療法の分類)
(1) 水治温熱療法:湿布、パック浴、漸温部分浴、気泡沸騰浴、交代浴
(2) 水治機械療法:渦流浴、気泡沸騰浴、水中マッサージ、水中圧注
(3) 水治運動療法:運動タンク浴(ハバードタンク)、運動用プール浴
(4) その他の水治療法
① 浴形式:気泡浴、人工炭酸浴、砂浴、薬浴など
② 圧注・灌注
③ 蒸気:蒸気浴
④ Kneipp 療法
2)生理学的作用
(1) 非特異的作用
温熱・寒冷作用
浮力・粘性による作用:体重免荷、負荷増大
静水圧による作用:静脈・リンパ液還流促進、右心負担増加
動水圧による作用:機械的刺激によるマッサージ効果、血流量増大
精神作用:リラクセーション
(2) 特異的作用(温泉などを用いた場合に生じる)
含有成分、ガスなどによる局所的作用
含有成分が皮膚、胃腸管、呼吸器を通して体内に取り入れられるための作用
放射能による生理学的作 用
(3) 浴温の区分
冷水浴 24℃以下
低温浴 24 ~ 34℃
不感温浴 34 ~ 37℃:日本人は 36℃、欧米人は 34℃
微温浴 37 ~ 39℃
温浴
39 ~ 42℃
高温浴 42℃以上
国試の達人2017理学療法編
サンプル
6. 機械的刺激による治療(メカノセラピー)
1)マッサージ
2)マニュプレーション
3)牽引
7. その他
バイオフィードバック
120
3 章 物理療法
3. 物理療法各論 1. 電気療法
1)低周波療法
(1) 定義:低電圧の電流を 300 Hz 以下の割合で振動、断続させたもの
(現在では 1,000 Hz まで治療に用いられる)
(2) 身体に対する作用:
廃用性筋萎縮の防止
鎮痛作用:血管の運動神経の刺激と筋の律動的刺激による循環改善
平滑筋刺激による効果:腸管運動亢進
骨成長の癒合促進(骨芽細胞形成の促進)
下腿深部静脈血栓症の予防
鎮静作用:痙性筋の拮抗筋を刺激し、相反的に痙性筋の鎮静を得る
循環の改善(動脈血流、リンパ液流増加)
(3) 電流波形の種類
前述(p.109)
(4) 刺激の与え方
① 導子の種類:刺激導子(関導子)、不関導子(関導子より大きい)
② 導子のあて方
・導子の面積と電流密度は反比例
・導子と皮膚の接触が重要(皮膚抵抗が大→痛み、発熱)
国試の達人2017理学療法編
サンプル
選択的刺激法
単極通電法
方
法
双極通電法
グループ刺激法
① 関導子は不関導子より小さい 関電極,不関電極の区別なく特 運動神経幹上,または支配筋群
② 関導子はモーターポイント上 定の筋上に置く。収縮の弱い筋 上に置き,全体を収縮させる。
に置く
に適応。
鎮痛の目的。
③ 普通関導子は陰極
特 不必要な筋の収縮を起こすこと より収縮を限定した収縮が可
色 がある。
多くの神経筋単位が参加
(筋収縮が大)
3 章 物理療法
(5) 麻痺筋に対する電流の基準(表 3-3)
表 3-3 麻痺筋に対する使用電流の一般基準(変調波は 1 ~ 30 /分)
変性度
非変性
不完全変性
完全変性
何でも可
蓄電器放電型矩形波
およびその変調波
同左
気持ちよく耐えうる最大
量
同左
同左
②通電期間
1 ms 以下
5 ~ 10 ms
50 ms 以上
③電流方向
刺激関導子は陰極
同左
同左
5 ~ 20 ms
5 ~ 100 ms
100 ~ 200 ms
50 ~ 200 Hz
5 ~ 10 Hz
10 ~ 20 Hz
通電条件
波形
①電流強度
④刺激休止期
⑤周波数
(原 武郎・編:理学療法・作業療法マニュアル.医歯薬出版,1972 改変)
(6) 刺激に関する電気生理
① 刺激の 5 要素
電流の強さ
刺激の時間(通電時間)
休止時間
刺激の立ち上がり変化(急な立ち上がり、閾値低下)
周波数 高いほど疲労は生じやすい、強縮
② 強さ時間曲線
基電流:興奮を起こす最小電流強度
クロナキシー:基電流の 2 倍の刺激で収縮を起こす刺激時間
パルス幅が広いほど閾値は低下
国試の達人2017理学療法編
サンプル
(mA)
(mA)
a:基電流
b:時値
2a
a'
b
a-a':筋肉要素
b-b':神経要素
b'
基電流
a
a
b 0.1
1
図 3-5
10
(msec)
0.1
1
図 3-6
10
100 (msec)
121
122
3 章 物理療法
電流の強さ (mA)
20
部分的な脱神経
完全な脱神経
b
10
a
正常
0.1
1
10
100
刺激時間 (msec)
図 3-7 脱神経,神経再生,正常神経支配の筋肉に対する最小有効刺激の時間と強さの関係
国試の達人2017理学療法編
サンプル
3 章 物理療法
123
③ 運動点
三角筋前部 A,C5,6
三角筋 A,C5,6
三角筋中部 A,C5,6
棘下筋 Sup,C5,6
小円筋A,C5
大円筋Sub,C5,6
広背筋Thd,C6,7,8
三頭筋後部 A,C5,6
鳥口腕筋 Mc,C7
上腕三頭筋長頭 R,C7,8
上腕三頭筋外側頭 R,C7,8
橈骨神経 C5,6,7,8,T1
上腕三頭筋内側頭Mc,C5,6
尺骨神経C7,8,Th1
肘筋 R,C7,8
短橈側手根伸筋 R,C6,7
尺側手根伸筋 R,C7
小指伸筋 R,C6
小指外転筋 U,C8
上腕二頭筋 Mc,C5,6
正中神経 C6,7,8,Th1
上腕筋
上腕筋 Mc,C5,6
腕橈骨筋 R,C5,6
腕橈骨筋 R,C5,6
長橈側手根伸筋 A,C6,7
指伸筋 R,C7
長母指屈筋 M,C8,Th1
長母指外転筋 R,C7
短母指伸筋 R,C7
方形回内筋 M,C6
長母指伸筋 R,C7
短母指外転筋 M,C6,7
長母指内転筋 U,C8
短母指屈筋 浅部 M,C6,7
深部 U,C8
短母指内転筋 U,C8
背側骨間筋 U,C8
図 3-8 上肢(伸側)のおもな筋の運動点
上腕三頭筋 R,C7,8
上腕三頭筋長頭 R,C7,8
上腕三頭筋内側頭 R,C
尺骨神経 C7,8,Th1
円回内筋 M,C8
橈側手根屈筋 M,C8
長掌筋 M,C7,8,Th1
尺側手根屈筋 U,C8
浅指屈筋III U,C8,Th1
正中神経 C6,7,8,Th1
尺骨神経 C7,8,Th1
小指外転筋 U,C8
掌側骨間筋III U,C8
掌側骨間筋I∼III U,C8,Th1
虫様筋I∼II M,C6,7
III∼IV U,C8
図 3-9 上肢(屈側)のおもな筋の運動点
国試の達人2017理学療法編
サンプル
大腿神経L2,3,4
大腿筋膜張筋Gs,L4,5,S1
中殿筋Gg,L4,5,S1
恥骨筋F,L2,3,4
閉鎖神経L2,3,4
縫工筋F,L2,3,4
長内転筋Obt,L3,4
大腿直筋F,L2,3,4
外側広筋F,L2,3,4
大殿筋Gi,L5,S1,2
薄筋Obt,L3,4
大内転筋Obt,L2,4
大内転筋Obt,L3,4
内側広筋F,L2,3,4
半腱様筋Tib,L4,5,S1,2,3
薄筋Obt,L3,4
半膜様筋Tib,L4,5,S1,2,3
脛骨神経L4,5,S1,2
長腓骨筋Pes,L4,5,S1
脛骨神経L4,5,S1,2,3
腓腹筋Tib,S1,2
長指伸筋Perp,L4,5,S1
前脛骨筋Perp,L4,5,S1
短腓骨筋Pers,L4,5,S1
長母指伸筋Perp,L4,5,S1
短指伸筋Perp,L4,5,S1
骨間筋Tib,S1,2
ヒラメ筋Tib,S1,2
短母指伸筋Perp,L4,5,S1
図 3-10 下肢(伸側)のおもな筋の運動点
大腿二頭筋
長頭Tib,L4,5,S1,2,3
短頭Perc,L4,5,S1,2
腓骨神経L4,5,S1,2
腓腹筋Tib,S1,2
ヒラメ筋Tib,S1,2
長母指屈筋Tib,L5,S1
母指外転筋Tib,L5,S1
坐骨神経L4,5,S1,2,3
長母指屈筋Tib,L5,S1,2
脛骨神経L4,5,S1,2,3
図 3-11 下肢(屈側)のおもな筋の運動点
124
3 章 物理療法
大腿神経 L2,3,4
大内転筋 Obt,L3,4
恥骨筋 F,L3,4,5
大腿直筋 F,L1,2,,3
長内転筋 Obt,L3,4
縫工筋 F,L1,2,3
薄筋 Obt,L3,4
内側広筋 F,L2,3,4
腓腹筋 Tib,S1,2
ヒラメ筋 Tib,S1,2
長指屈筋 Tib,L5,S1
後脛骨筋 Tib,L5,S1
脛骨神経 L4,5S1,2,3
図 3-12 下肢(内側)のおもな筋の運動点
国試の達人2017理学療法編
サンプル
僧帽筋 Acc3,4,Cer,C2,3,4
大胸筋 Tha,C5,6,7,8,Th1
広背筋 Thd,C6,7,8
三角筋 A,C5,6
棘下筋 Sup,C5,6
広背筋 Thd,C6,7,8
長胸神経
外腹斜筋 Intercoat,Th5-12
腹直筋 Intercoat,Th5-12
内腹斜筋 Intercoat
その他,Th5-12,L1
脊柱起立筋
中殿筋 Ga,L4,5,S1
大殿筋 Gi,L5,S1,2
図 3-13 躯幹のおもな筋の運動点
支配神経略号(図 3-8 から図 3-13 まで共通)
A
Acc
Cer
Ds
F
Gi
Gs
:腋窩神経
:副神経
:頸髄神経
:肩甲背神経
:大殿神経
:下殿神経
:上殿神経
Intercost:下部肋間神経
M :正中神経
Mc :筋皮神経
Obt :閉鎖神経
Perp :深腓骨神経
Pers :浅腓骨神経
R
:橈骨神経
Sub:肩甲下神経
Sup:肩甲上神経
Tib :脛骨神経
Tha:前胸神経
Thd:胸背神経
Thl :長胸神経
U :尺骨神経
3 章 物理療法
125
2)経皮的末梢神経電気刺激法(TENS)
(1) 特性
効果:電気刺激による疼痛抑制
① 過分極性及び脱分極性ブロック:
陰極:興奮性の上昇
陽極:興奮性の低下
② 門制御理論(Gate Control Theory)
・ 脊髄後角内で膠様質細胞(SG cell)から痛みのインパルスを伝導する
T cell に対てシナプス前抑制をかけているという説
・ 神経線維の直径が太いほど閾値が低い
SG :膠様質中の細胞
T :後角柱のcentral transmission cell(T細胞)
+ :増強効果
− :抑制効果
central
control
痛みの刺激
太い神経線維
gate control system
+
+
–
T
SG
–
–
脊髄,
脳
+
細い神経線維
国試の達人2017理学療法編
サンプル
図 3-14 ゲートコントロール理論
(Melzack R, Wall PD: Pain mechanisms: A new theory. Science 150: 917-919, 1965.)
③ 内因性疼痛抑制機構
・ 内因性オピオイド物質が、中枢神経系および脊髄における疼痛伝達経
路に抑制をかける
(2) 実施方法
刺激条件:
治療時間:10 ~ 15 分
表 3-4 TENS の刺激条件
タイプ
高頻度刺激
低頻度刺激
バースト刺激
強度
強直
閾値
強直
閾値
閾値
持続時間
60 ~ 80 µsec
頻度
80 ~ 100 Hz
200 ~ 250 µsec
1 ~ 20 Hz
200 ~ 250 µsec
1 ~ 4 バースト /sec
(80 ~ 100 Hz)
126
3 章 物理療法
(3) 適応
① 関節の痛み
肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、スポーツによる関節症、変形性関節症
② 神経の痛み
頸椎骨変化、靱帯硬化、椎間板ヘルニアなどによる神経根刺激症状、
三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、末梢神経損傷
(4) 禁忌
心臓ペースメーカー装着患者
頸動脈瘤
妊婦
中枢性疼痛
は効果がみられない
心因性疼痛 3)治療的電気刺激(TES)
(1) 特性
患者自身の随意的運動能力の回復を目指す治療法
目的: 痙性による筋緊張改善
ROM 拡大
随意性(筋力)の向上
廃用性筋萎縮の予防
(2) 痙性の抑制
痙性筋の電気刺激
拮抗筋の電気刺激
痙性筋と拮抗筋の交互刺激
(3) 実施方法
刺激波形:パルス(矩形波)電流
パルス幅:0.2 ~ 0.8 ms
周波数:20 ~ 30 Hz
刺激時間と休止時間:刺激(5 ~ 6 sec):休止= 1:2 以上
治療時間:15 ~ 30 分
(4) 適応
末梢運動神経の障害がないことが絶対条件
脳血管障害、脳 性麻痺、脊髄損傷
主に中枢性運動神経麻痺疾患の不全麻痺患者
国試の達人2017理学療法編
サンプル
3 章 物理療法
127
4)干渉電流療法(IFC)
(1) 特性
2 種類の周波数の異なる電流を組み合わせた電流
臨床効果:神経筋に対する刺激効果:選択的神経刺激、深部筋の刺激効果
電気的化骨現象
(2) 実施方法
刺激強度:最大 50 mA(出力電力 85 mV)
搬送周波数:4 kHz 付近
干渉波の周波数:1 ~ 99 Hz
電極の配置:4 極法、2 極法
(3) 臨床応用
疼痛症状: 4 極法、強度は筋が軽度に収縮
筋萎縮: 4 極法、刺激頻度 20 Hz 以下、強度は筋が中等度に収縮
筋力強化: 4 極法、刺激頻度 50 ~ 60 Hz、強度は耐えられる程度
偽関節: 4 極法、刺激頻度 100 Hz、強度 10 ~ 20 mA
5)機能的電気刺激法(FES)
(1) 特性
・失われた生体機能の再建を目的とした電気刺激
・残存機能を随意的運動命令として、合目的的にプログラムされた電気刺
激を末梢神経・筋に電極を介して与え、必要な動作を制御することでそ
の機能を再 建する
(2) 実施方法
電極:表面電極法、埋め込み電極法
パルス幅:0.2 ~ 0.6 msec
周波数:20 ~ 30 Hz
変調:振幅変調方式が一般的
(3) 目的
① 萎縮筋の筋力増強
脳
制御信号
② 正常筋の筋力増強
音 声
③ 痙縮の抑制
呼 吸
運 動
④ 末梢循環の改善
脳卒中
国試の達人2017理学療法編
サンプル
関 節
他
生体電位
筋 電 図
脳 波
そ の 他
脊椎損傷
脊髄
機能的電気刺激
システム
末梢神経
(運動性)
筋肉
図 3-15 機能的電気刺激(FES)の原理図
128
3 章 物理療法
表 3-5 表面電極と埋め込み電極の比較
装着
電極の固定
刺激点の決定
刺激の選択性
刺激出力強度
合併症
表面電極
簡単
困難
習熟が必要
困難
大(>数 10 mA)
痛み、不快感、熱傷
埋め込み電極
手術が必要
確実
不要(埋め込み後)
確実
小(< 10 mA)
感染、神経麻痺、異物反応
(4) 適応
末梢運動神経の障害がない変性筋
必要条件:制御方法を理解できる知的能力
重篤な心疾患、高血圧など内科的な問題がないこと
重度の関節拘縮、変形及び異所性化骨がないこと
電気刺激に対する過度な恐怖心をもっていないこと
(5) 臨床応用
① 刺激
② 上肢
片麻痺: リーチ機能問題なし
手指屈筋群の強い痙性→手の open が出来ない患者
制御信号:健側肩の挙上動作
四肢麻痺: C5 ~ C6 レベル
母指を含めた手指の制御
制御信号:肩の動き
呼吸制御方式もある
③ 下肢
片麻痺: 歩行遊脚相の内反尖足の改善
腓骨神経の刺激
制御信号:足底のスイッチ
対麻痺: 起立・歩行の制御
制御スイッチによるコンピュータ式 FES 装置
国試の達人2017理学療法編
サンプル
3 章 物理療法
129
2. 光線療法
1)紫外線療法
(1) 特性
皮膚疾患の治療
波長:1800 ~ 3900 Å(180 ~ 390 nm)
近紫外線:長波長 320 ~ 400 nm(UV-A)皮膚癌・老化の促進 真皮まで
中紫外線:中波長 280 ~ 320 nm(UV-B)日焼け・紅斑
遠紫外線:短波長 200 ~ 280 nm(UV-C)殺菌効果 表皮まで
法則:
逆自乗の法則
ランバートの法則
グロッタス・ドレイバーの法則:組織で吸収された光線エネルギーのみが
2 次的に化学的・生物学的反応を引き起こす
発生装置:熱石英水銀蒸気灯、冷石英水銀蒸気灯
(2) 実施方法:最小紅斑テスト(MED)
表 3-6 紫外線紅斑の程度による分類と MED から第 2,3,4 度紅斑量を求める式
(a)紫外線紅斑の程度による分類
反応
潜伏時間
視覚反応
持続時間
皮膚剥離
色素沈着
用途
国試の達人2017理学療法編
サンプル
1度
最小紅斑
6 ~ 8 時間 桃~赤色
24 ~ 36
時間
2度
軽度日焼
4~6
赤
時間内
2~3日
3度
著明日焼
反射刺激
3~4
赤く熱感
1 週間
時間内 浮腫後水疱
1 枚の紙の
ように剥げる
深部まで
4度
破 壊
1 ~ 2 時間 水疱水腫
深部まで
深部まで
2 週間
なし
粉のように
白くなる
なし
軽度
(b)第 1 度紅斑より第 2,3,4 度紅斑量を求める公式
求めるドーゼ
2度
3度
4度
2.5
5
10
× MED
× MED
× MED
(3) 生体への作用
紅斑生成:皮膚発赤
色素沈着:メラニン細胞が角質細胞へ移行
殺菌作用:核酸分子の破壊
抗くる病効果:ビタミン D
肉芽組織の形成賦活(デブリートメント効果)
発癌作用
評価に用いる
全身照射用
局所照射
局所に短距離
あるいは接触法
130
3 章 物理療法
(4) 適応
皮膚疾患:皮膚炎、乾癬、挫創、脂漏
くる病、テタニー、骨粗鬆症など
(5) 禁忌
全身状態の不良(悪液質等)
全身性消耗疾患(活動性肺結核など)
系統疾患(ポルフィリン症、ペラグラ、サルコイドーシスなど)
急性期の皮膚疾患
紫外線過敏症
2)赤外線療法
(1) 特性
近赤外線:0.76 ~ 1.5 µm、透過力は強い(5 mm ~ 1 cm)
遠赤外線:1.5 ~ 15 µm、透過力は弱い(1 mm 程度)
(中赤外線:1.5 ~ 4 µm)
法則:逆自乗の法則
ランバートの法則
ウィーンの法則:すべての物体は絶えず赤外線を放射している
波長γ(µm)= 2.879 /(発熱体の表面温度+ 273℃)
国試の達人2017理学療法編
サンプル
照射強度
単位:pyron cal/(cm 2 × min)
(2) 生理学的作用
血管拡張作用:皮膚の血行増大
紅斑、色素沈着
鎮痛作用、組織温上昇、温熱作用
(3) 適応
外傷:亜急性期、慢性期の捻挫、挫傷の治療
浅層の関節炎、腱鞘炎の痛み
創傷と感染:細菌の壊死
RA(慢性期)など
(4) 禁忌
アテローム性動脈硬化症、バージャー病、皮膚炎、湿疹、感覚麻痺
3 章 物理療法
131
3)レーザー療法
(1) 特性
人工光線
レーザー光:単色性、指向性(集光性)、干渉性、高輝度性
種類:気体レーザー、固体レーザー、液体レーザー、半導体レーザー
(2) 低反応レベルレーザー治療(LLLT)
低出力エネルギーレーザー(100 mW 以下)をもってする療法のこと
物理療法で用いられる
① 生体への作用
コラーゲン新生の促進
酵素活性の促進
血管の再生促進
血流改善
細胞分裂の活性化
生体活性物質の産生
② LLLT の利点
治療時間が比較的短い
痛みを加えない
操作が簡単
副作用が少ない
広範な適応
小型器が多く、移動しやすい
③ 適応
疼痛: RA、帯状疱疹後神経痛、顔面神経麻痺、筋性腰痛、カウザルギー、
筋緊張性頭痛、三叉神経痛、頸椎症、肩関節周囲炎、頸腕症候群、
多発性神経炎、幻肢痛、変形性関節症
国試の達人2017理学療法編
サンプル
創傷: 外傷性創傷、手術創、ケミカルバーン、糖尿病性潰瘍、
アトピー性皮膚炎
④ 禁忌
眼、甲状腺部、性腺部、心臓 疾患(ペースメーカー使用者)、出血性疾患
新生児、乳児、衰弱の著しい高齢者
⑤ 注意:治療室を明るくする(暗いと瞳孔が開く)
132
3 章 物理療法
3. 温熱療法
1)ホットパック
(1) 実施方法
① ホットパック(シリカゲルやベントナイトを木綿の袋でパック状にした
もの)をタオルで 8 ~ 12 枚重ねにする
ハイドロコレータ中の熱水:80 ~ 90℃
ホットパック:75 ~ 80℃
② 20 分患部に置く
(2) 注意:火傷、皮膚疾患
(3) 生理学的作用
温熱作用:熱が脂肪に集中、筋組織に伝導しにくい
血流増加:ヒスタミン様物質分泌による毛細血管拡張
痙性の減弱:γ線維の活動低下
鎮痛
(4) 適応
疼痛:打撲、捻挫、関節拘縮、RA、変形性関節症、腱鞘炎、腰痛、筋スパ
ズム、痙縮
(5) 禁忌
あらゆる疾患の急性期、悪性腫瘍、出血傾向の強いもの、感覚麻痺
国試の達人2017理学療法編
サンプル
2)パラフィン浴
(1) 特性
パラフィン浴:50 ~ 55℃
熱伝導率:小さい(水の 0.42 倍)、不感温度が高い
比 熱:大きい(温熱効果)
固形パラフィン:流動パラフィン = 100:3
(2) 実施方法
パラフィン浴浸法:間欠法、持 続法 20 分
塗布法
パラファンゴ法
(3) 注意
火傷:2 回目以降のパラフィン被膜は被膜縁より遠位部にする
被膜に亀裂が生じた場合やり直す
引火性
(4) 生理学的作用
温熱作用:筋部 2 ~ 3℃の上昇
充血作用:皮膚充血のみで筋内での血管拡張はほとんどない
鎮静効果
(5) 適応
疼痛: 打 撲、 捻 挫、 関 節 拘 縮、RA、 変 形 性 関 節 症、 腱 鞘 炎、 腰 痛、
肩手症候群
(6) 禁忌
あらゆる疾患の急性期、悪性腫瘍、出血傾向の強いもの、感覚麻痺
アレルギーなどの皮膚疾患
3 章 物理療法
(a)間欠パラフィン浴
1 ~ 2 秒つけてはあげ,約 10 回繰り返
してパラフィンの皮膜を表面につけ,
そのままパラフィンの中へつける。
133
(b)持続パラフィン浴
手指,手関節によく利用されるが,
足 に も 利 用 で き な い こ と は な い。
多少温度を低くして行う。つけた
手はそのままにしておく。
国試の達人2017理学療法編
サンプル
浴湿布
上の間欠パラフィン浴のように 10 回繰り返した後,防油性のビニールその他
のもので包み,さらにタオル,毛布で保温してしばらくそのままに保つ。
(c)塗布法
溶けたパラフィンをブラシで何度も塗って厚い層をつくり,それを防油布,
タオルで包む。
図 3-16 パラフィン療法の種類
図 3-17 パラファンゴパック
チョコレートのように硬く固まっているものを鍋で 60℃くらいに溶か
し,布に塗り,膏薬のように患部を包む。上からタオルか毛布で覆う。
134
3 章 物理療法
3)赤外線療法
光線療法の 2)赤外線療法を参照(p.130)
4)超短波療法
(1) 特性
周波数:30 ~ 300 MHz、治療用 27.12 MHz(波長 11 m)
誘電率:超短波による生体への加熱はその物質の誘電率の大きさに比例する
同調:患者の組織が共振回路の一部になること
(2) 超短波発生原理
界
電気振動(図 3-17)
電気共振(図 3-18)
L
L'
C
C'
患部
C
L
S
発振回路
共振回路
LC=L' C'のときに電気共振を生じる
L:コイルの自己のインダクタンス
C:コンデンサーの電気容量
国試の達人2017理学療法編
サンプル
固有周波数 f =1/2π LC
図 3-18 電気振動
図 3-19 電気共振
(3) 実施方法
① コンデンサー電界法
② ケーブル法(螺旋電界法)
③ 螺旋電界放射法
いずれも導子は直接身体に接触させない 通電時間:10 ~ 20(30)分
スペーサー(タオル,フェルト)
で 2 ~ 3 cm 離す
(a)コンデンサー電界法
(b)ケーブル法(螺旋電界法)
(c)螺旋電界放射法
3 章 物理療法
135
(4) 生理学的作用
温熱作用:筋などの深部加熱可能
血液供給量の増大
鎮静作用
深部交感神経節への作用
(5) 適応
外傷:亜急性期以降の筋挫傷、捻挫、腱鞘炎
RA:疼痛、筋スパズムの減少
(6) 禁忌
火傷、悪性腫瘍、出血傾向、血栓症、感覚脱失
5)極超短波療法(マイクロ波)
(1) 特性:
電磁波(横波)
300 ~ 3,000 MHz の周波数をもつ電磁波(治療用 2,450 MHz、波長 12.2 cm)
反射、屈折、透過、吸収作用
深部温熱:エネルギーの深達度(エネルギーが半減する深度)は 3 ~ 4 cm
脂肪より誘電率の高い筋の加温に有効
水分を多く含む組織(筋)はエネルギーを吸収しやすい
エネルギーの 50% は皮膚表面で反射
金属への熱の収束大:火傷
(2) 熱発生原理:分子の振動、回転による摩擦熱
(3) 実施方法
患部とアプリケータ(照射導子)の距離:約 10 cm
照射時間:5 ~ 30 分(一般的には 20 分)
( 4) 生理学的作用
温熱作用、血流増大、鎮痛作用
(5) 適応
疼痛、筋緊張亢進、筋挫傷、捻挫、腱鞘炎、変形性関節症、関節周囲炎、
RA、腰痛、断端痛、変形性脊椎炎、骨粗鬆症など
(6) 禁忌
炎症の急性期、火傷、結核、悪性腫瘍、感染症、出血性傾向、血栓症、
血友病、感覚脱失、うっ血のある組織、浮腫、虚血性組織、挿入金属体、
ペースメーカー、補聴器、成長期の骨端線、生殖器官、内分泌器官、
妊婦の腹部・腰部、眼球など
国試の達人2017理学療法編
サンプル
136
3 章 物理療法
6)超音波療法
(1) 特性
音波(縦波): 気体、液体、固体を伝播するが真空では伝わらない
ヒトの耳に聞こえない周波数帯(超音波:20 kHz 以上)
周波数: 0.8 ~ 3 MHz、治療用 1 ~ 3 MHz
伝播の深さ:1 MHz > 3 MHz
収束の程度:3 MHz > 1 MHz
伝播速度:固有音響インピーダンス:媒体の比重 × 音速
・2 つの媒体でインピーダンスが異なると境界面の反射が生じる
有効照射面積:導子の面積に近いもの
吸収係数:水の吸収係数はきわめて小さい
骨 > 空気 > 筋 > 脂肪 > 血液 > 水
最も加温される部位:筋と骨との境界
・骨の方が吸収係数は大きいが、骨と筋との固有音響インピーダンスが大
きく異なるため定常波が生じ、大きなエネルギーが生じる
反射、屈折、吸収、干渉作用:骨での反射 30%
・金属の熱伝導がよいため熱が貯留されない
表 3-7 固有音響インピーダンスと呼吸係数
国試の達人2017理学療法編
サンプル
物質
空気
水
血液
脳
脂肪
骨
腎臓
肝臓
筋
伝播速度
(m/sec)
331
1,480
1,570
1,540
1,440
4,080
1,560
1,549
1,585
固有音響インピーダンス
(× 10-6 kg/m2・sec)
0.0004
1.48
1.60
1.58
1.38
7.80
1.62
1.65
1.70
呼吸係数
12
0.0022
0.18
0.85
0.63
13
1.0
0.94
1.3(線維の方向)
3.3(線維と交差)
(2) 熱発生原理
逆圧電効果(逆ピエゾ効果): 電流を石英やロッシェル塩のような結晶に通電す
ると収縮し、断電するともとにもどる性質
(3) 装置・機器の特性
① 強度:0 ~ 5 w/cm2 温熱効果:1.0 ~ 2.5 w/cm2
非温熱効果:0.5 ~ 1.0 w/cm2
キャビテーション: 体内の血液や組織液に存在する小さな気泡が超音波の
振動により、圧縮・拡張を繰り返す現象
安定したキャビテーション:0.5 ~ 2 w/cm2 の均等化した超音波
細胞膜の活性度の増大
不安定なキャビテーション:強度が大きい不均等な超音波
気泡・組織の破壊
8 w/cm 2 で空洞化現象
半価層:エネルギーの大きさが半減する組織の深さ
3 章 物理療法
② ビーム不均等率(BNR):超音波の平均強度に対する最大強度の比
良好な BNR:5 以下
不良な BNR:6 以上
(4) 作用
① 温熱作用
5 cm 以上 深い所に作用
② 非温熱作用
機械的振動
細胞透過性大
キャビテーション
③ 生理学的作用
1) 結合織の伸張性増大
2) 代謝亢進
3) 神経伝導速度の増大
4) 関節内温度の上昇
(5) 目的
① 疼痛の軽減
② 有痛性スパズムの軽減
③ 痙縮の低下
④ 循環の改善
国試の達人2017理学療法編
サンプル
(6) 適応
① 疼痛、筋スパズム、瘢痕組織、RA、五十肩、腱鞘炎、断端神経腫
② 創傷、靱帯損傷、血流改善など
③ 骨癒合の促進
(7) 禁忌
① 眼、脳、脊髄
② 小児の骨端軟骨部
③ 悪性腫瘍
④ 妊娠中
⑤ 血液疾患、急性敗血症
⑥ 温熱療法の禁忌 *金属が入っていても可
(8) 方法
① 直接法
皮膚の上に媒介物質(ジェル)を塗る。皮膚と導子を密着
ヘッドは垂直にする
ヘッドは常に移動(1 c m/ 秒) ストローク法、回転法
時間は 5 ~ 10 分
出力は 0.5 ~ 2.5 w/cm2
② 水中法
沸騰した水(18 ~ 24℃)
凹凸のある部位に適用
患部と導子は 0.5 ~ 1 cm 離す
術者の手は水中に入れない
時間は 5 ~ 10 分
137
138
3 章 物理療法
4. 寒冷療法
1)コールドパック
シリカゲルを防水加工性のビニール袋に詰めた物
温度:−5 ~ 0℃ 治療時間:20 ~ 30 分
2)アイスパック
温度:水分量が多い物:−12 ~ −15℃、水分量が少ない物:−4 ~ −5℃
治療時間:5 ~ 20 分
3)アイスマッサージ
(1) アイスキューブ
(2) クリッカー:断熱材で作られた円筒と、ジュラルミン製のヘッド
氷:食塩= 3:1
トリガーポイントに対しては小さめのヘッドを用いる
温度:内部:−15 ~ −18℃、ヘッド:−10℃
治療時間:4 ~ 5 分
4)冷水浴(寒冷浴)
水温は 2 ~ 15℃
国試の達人2017理学療法編
サンプル
5)コールドスプレー
気化熱を利用
3 章 物理療法
139
5. 水治療法
1)ハバードタンク
水温は 37 ~ 40℃、全身寒冷浴の場合は 30 ~ 33℃、20 分程度
2)泡沫浴
水温は 37 ~ 40℃、20 分程度
3)部分浴
37 ~ 41℃、15 ~ 20 分
4)圧注法
38 ~ 45℃、1.5 ~ 2.0 m 離し、1.3 ~ 2.3 kg/cm 2 の圧力で 15 分程度行う
5)交代浴
交代浴としては温水 1 ~ 3 分、水温は 38 ~ 47℃、冷水は温水の 1/4 ~ 1/6 の
時間で配分し、13 ~ 22℃の水温で行う
6)渦流浴(部分 37 ~ 38℃、全身 35 ~ 37℃)
37.8℃以下でも相対的に熱く感じる、実施時間は 30 分
国試の達人2017理学療法編
サンプル
7)寒冷浴
水温は 3 ~ 8℃(2 ~ 15℃)、30 秒~ 1 分
8)プール:水温 32 ~ 38℃(季節によって若干異なる)、室温 21 ~ 24℃
・O 2 に影響を与えるもの
水中歩行 V
水温
水深
歩行速度
粘性抵抗
《留意点》
① 感染:皮膚感染症、設備(シャワーチェア、浴槽)による感染予防
② 脱水症状:食前、食後を避ける
③ 小児の温浴:体表面面積の割合が高いため体温が急激に上昇
④ 妊婦の温浴:奇形の発生
140
3 章 物理療法
6. 機械的刺激による治療(メカノセラピー)
1)脊椎牽引療法(頸椎牽引・腰椎牽引)
□ 総論
(1) 一般的治療効果
椎間関節周囲軟部組織の伸張
椎間板、椎間関節の軽度の変形、変位の矯正
椎間関節の離開
椎間孔の拡大
椎間板内圧の陰圧化と椎体前後靱帯の伸張による膨隆髄核の復位化
攣縮筋の弛緩
マッサージ効果による循環改善・促進
患部の安静・固定
(2) 禁忌
悪性腫瘍、脊椎カリエス、化膿性脊椎炎、強直性脊椎炎、骨軟化症
脊椎分離症、すべり症
外傷に由来する症状のうちの急性期
全身感染症・重篤な心臓疾患、肺疾患
骨粗鬆症、重篤な RA、妊婦
国試の達人2017理学療法編
サンプル
□ 各論
(1) 頸椎牽引
① 適応
椎間板ヘルニア、椎間板変性、頸部脊椎症、頸肩腕症候群
頸部・背部・傍脊柱部の筋痛
② 牽引力:7 ~ 10 kg
③ 牽引角度: 上位頸椎:垂直
中位頸椎:15 ~ 30°
下位頸椎:30 ~ 45°
上位胸椎:45 ~ 60°
④ 牽引肢位: 椅子座位、背臥位
C1 ~ C4 では座位より背臥位が有効とされる
⑤ 牽引時間: 持続牽引 10 ~ 30 分(3 ~ 4 kg)
間欠牽引 15 分以上(1 ~ 3 分牽引、1 分休止を繰り返す)
3 章 物理療法
141
(2) 腰椎牽引
牽引によって骨盤を後傾させ腰椎前弯を改善し、椎間を離開させる
① 適応:腰仙部の椎間板ヘルニア、椎間板変性、変形性脊椎症などによる腰
痛および坐骨神経痛
② 牽引力:体重の 1/3 ~ 1/2
③ 牽引角度:牽引ベルト:20 ~ 30°
骨盤ベルトは出来るだけ後方に装着(腰椎前弯増強の防止)
④ 牽引肢位:背臥位(膝立て臥位、下腿を台の上に乗せた背臥位)
⑤ 牽引時間: 持続牽引 1 時間以上
間歇牽引 15 分以上
(a)
(c)
国試の達人2017理学療法編
サンプル
(b)
(d)
(a) 腸腰筋・大腿直筋により,背臥位では腰椎前弯が増強する。
(b) 腸腰筋・大腿直筋がリラックスした肢位。
(c) 骨盤ベルトを骨盤の前方に装着した場合は腰椎の前弯が増強する。
(d) 骨盤ベルトを骨盤の後方に装着した場合は良好な牽引が行える。
図 3-20
142
3 章 物理療法
7. その他
1)バイオフィードバック療法
患者が制御すべき生体反応を光や音などのとらえやすい情報に変換し、それら
の情報を意識、認知することにより目的とされる反応を引き出す治療法
表 3-8 バイオフィードバックで使用される手段と目的
手段(入力)
筋電図(視覚、聴覚)
体性神経系
(運動器系) 足底圧(聴覚)
杖底圧(聴覚)
関節角度計(視覚、聴覚)
各種スイッチ:
フットスイッチ、水銀スイッチ(聴覚)
心拍数(視覚)
自立神経系 血圧(視覚)
脳波(視覚)
目的
筋再教育(片麻痺など)、筋力増強(末
梢神経麻痺など)、リラクセーション(筋
緊張性偏頭痛、痙性のコントロールな
ど)
協調性
体重免荷(立位、歩行)
体重免荷(立位、歩行)
関節可動域の増大
歩行時の左右対称性、姿勢矯正
リラクセーション
高血圧、起立性低血圧(脊髄損傷)
リラクセーション、てんかん
筋電図バイオフィードバック療法
・目的
a. 中枢神経麻痺、末梢神経麻痺に対する麻痺筋への促通
b. 片麻痺、脳性麻痺、痙性斜頸などの過緊張筋に対する抑制
c. 整形外科疾患や廃用性筋萎縮の予防に対する筋力増強
d. 小脳性、脊髄性失調症、脳性麻痺に対する協調性の改善
国試の達人2017理学療法編
サンプル
2)各疾患の筋電図バイオフィードバック
(1) 片麻痺の筋再教育
合併した感覚障害による入力不足を補い望まれる反応を引き出す
・内反尖足に対して:足背屈の促通→前脛骨筋
外反促通→腓骨筋
痙性抑制→下腿三頭筋
・歩行時遊脚相での膝屈曲の促通→ ハムストリングス収縮増大
大腿四頭筋の抑制
・肩関節の亜脱臼に対して:僧 帽筋(上部線維)で肩外転させる
(2) 呼吸機能改善
・頸髄損傷患者:胸鎖乳突筋、僧帽筋(上部線維)→筋放電を指標に換気
量の増大
・肺気腫患者の呼吸補助筋の弛緩運動
(3) 疼痛の緩解
・腰痛患者:運動時痛を感じるときの筋放電を低下させる
(4) 痙性斜頸
胸鎖乳突筋の筋腹→セットした閾値よりも高い筋電位になるとブザーやラ
ンプが点灯