様々な実験装置の設計・製作:私が携わった製作例の紹介

様々な実験装置の設計・製作:私が携わった製作例の紹介
末永 保
東北大学電気通信研究所 研究基盤技術センター
工作部
はじめに
私は現在、東北大学電気通信研究所 研究基盤技術センター 工作部に所属しており、所内の研究室
からの製作依頼に基づき、様々な実験装置・機器の設計・製作の業務に従事している。当工作部では、
ほとんどの場合、1件の製作依頼につき1人のスタッフが完成まで全て担当することになっている。従
って、工作部スタッフ1人1人が CAD のような設計ツールや、旋盤・フライス盤・溶接といったあら
ゆる工作作業について精通していなければならない。また、効率の良い製作工程をその都度、構築しな
ければならないため、製作しようとしている実験機器の用途や目的についても十分把握する必要がある。
今回の発表では、私が今までに携わってきた製作例を挙げながら、業務内容を紹介する。
1.業務内容の紹介
当工作部では、旋盤・(竪)フライス盤・溶接機の他にも、ラジアルボール盤、コンターマシン、プ
レス機、シヤー等々、様々な工作機械を所有しており、その全てにおいて、スタッフ全員が対応できる
体制である、ということは前述したとおりである。しかし、日常的な作業比率という観点では、旋盤・
(竪)フライス盤・溶接の3つの工作作業でほぼ9割以上占めるのではないかと思う。
そこで、業務内容を紹介するに当たり、旋盤・(竪)フライス盤・溶接の3つの区分にわけて、代表
的な製作例を、ほんの数例ずつではあるが紹介していく。
1.1 旋盤作業
はじめに、旋盤作業による製作例をいくつか紹介する。図1にコニカルホーン外観図(a)と部品写真(b)
(b)
図1
コニカルホーン外観図(a)と部品写真(b)
(a)
を示す。これは、音響実験に使用するもので、端面にスピーカーをつけて音響的な測定をするものだそ
うである。材質はアルミである。写真(b)に示したような部品を繋ぐことで、内面のテーパーが所望の寸
法を満たすように設計した。実際には、写真に示した以外にも数種類のホーンを製作した。
次に、図2にバイアスポストの外観写真を示す。実際には写真のほかにも何十種類もの形状を製作し
全長:5mm
直径:2.3mm
全長:5mm
直径:2.3mm
図2
全長:5mm
直径:2.8mm
バイアスポスト外観写真
た。いずれも材質は真鍮である。この機器はミリ波帯の電磁波の実験に使うもので、その要求精度が±
1/100mm と非常に厳しかった。製作したもの全てについて、投影機で寸法精度を確認した後、実験で使
用した。製作に関してはコレット旋盤(EGURO GL-120)に CCD カメラを取り付けて切削状況を確認
しながら作業した(図3参照)。使用したバイトも既存のもの(幅:1mm)を加工して、サイズを小さ
くして(幅:0.2m 程度)
、微細加工に対応した。
バイトの加工
幅:1mm
↓
幅:0.2mm
(a)
(b)
図3 製作に使用した旋盤(a)と切削状況(b)
1.2 フライス作業
この節では、フライス作業による製作例を紹介する。図4に Si 電極ホルダーの製作例を示す。これは
(a)
(b)
図4 Si 電極ホルダー(a)とその部品写真(b)
サルの脳神経の電気的な信号を捉えるための電極を操作する装置であり、一種の医療機器である。部品
図を(b)に示すが、小さな部品が多く米粒ほどの非常に小さな部品も製作した。材質は耐腐食性を求めら
れたため、SUS やチタン等の難削材が多い。使用したフライス盤は MAKINO AE74 である。
図5に 32 面体スピーカーボックスの外観写真(a)とその部品写真(b)を示す。このように立体的な構造
のものでも、部品を見ると、フライス作業においては基本的な形状のものばかりである。このような部
品を組み合わせて 32 面体筐体を構成した[1]。
(a)
図5
(b)
32 面体スピーカーボックスの外観写真(a)と部品写真(b)
次に、図6に製作した導波管アレイの写真を示す。材質は真鍮である。これは、中央部にある決まっ
た曲面(R=167)と、さらに、その曲面部を垂直方向に正確に3等分するために組み込まれる薄い仕切
り板用の溝(幅:0.1mm、深さ:0.1mm)を精度よく形成しなければならない。写真には、仕切り板を
組み込んだ状態の完成写真も示した。また、図7にこの作業で使用したフライス盤(MAKINO AE74)
のセットアップの様子を示す。被削物を、バイスを用いて図のように、前後(Y 軸)方向に固定した。
曲面部や溝部の形成にはスリワリやサイドカッター等の刃物を用い、フライス盤の円弧制御による加工
を行った。厚さが 0.1mm 程度の薄いスリワリ刃物を使用する必要があったので刃物固定用の治具も工夫
した。上下(Z 軸)軸方向を観測する CCD カメラを設置した。
曲面
被削物
Z 軸観察用カメラ
←組込完成図
図6
導波管アレイ写真
刃物(スリワリ)
図7
フライス盤の切削状況
次に、この導波管アレイと一連の実験機器であり、これよりも多少複雑な構造を持つホーンと呼ばれ
る部位の製作例を図8に示す。概要は、中央部に曲面を形成しているのは同様であるが、曲面領域を3
等分するような壁が一体もので形成されている。さらに、その壁面には角度が振ってあり、これを形成
するために、図9に示すように、割出盤を用いて被削物を固定し角度を制御できるようにした。製作手
法は導波管アレイの場合とほぼ同様で、異なる点は、予め割出盤によって正確に傾けられた被削物に対
してスリワリやサイドカッターのような刃物を用いて溝を形成した。
1.3 溶接作業
溶接作業によって、製作した製作例を図10、11に示す。いずれも真空容器である。一般的にいっ
て溶接は最終工程である。前述したように、ここに至るまでに必要な旋盤作業やフライス作業など、必
割出盤
図8
ホーン外観写真
図9
刃物(サイドカッター)
ホーン製作時のフライス盤
のセットアップ
要な機械作業をも全て一人で行っている。さらに、真空容器製作の場合、溶接が完了した後もリークテ
ストを行い、リークが無いことを確認した上で、研究室の方に納入する。
図10に示した、有機薄膜蒸着装置についてはチャンバー本体の製作だけでなく、写真に示したよう
なチャンバー内部の内装部品(電極、サンプルホルダー、膜厚計ホルダー、シャッター、マスク、マス
クホルダー等)や架台等、全てを設計・製作した。さらに、テスト蒸着などを行い、全ての機能を確認
して、立ち上げ完了後、研究室の実験に使用した。その後も使用する側の意見も取り入れ、真空一貫に
てマスクを交換する機構を付加するなど装置の改良にも取り組んだ。
図11に示した真空断熱窓についてもバルブ操作によって、真空ポンプを外しても、内部を真空状態
で保持できるようなバルブ機構を設計した。
▲チャンバー内部
図11
真空断熱窓
参考文献
[1]
情報通信の研究で用いられる実験機器の開
発:シリンダー用磁気ヘッド接着治具及び 32 面体ス
ピーカーの製作(平成18年度
術研究会
p50-53)
図10
ガラスベルジャー型有機薄膜蒸着装置
名古屋大学総合技
機械・ガラス工作技術研究会
報告集