バックナンバー 2013年6月号

スイス外国企業誘致局ニュースレター
2013 年 6 月
「スイス事業投資セミナー」
5月15日東京で開催
スイス外国企業誘致局では、5 月 15 日、プライスウオーターハウスクーパーズ社と共催、
UBS 証券の協賛で 「スイス事業投資セミナー」を開催した。
近年、日本企業によるスイス企業を対象とした M&A、新規投資、及び欧州統括会社の設立など
が続いている。欧州、及びグローバル展開を見据えた戦略的な立地としてスイスが選ばれている。
本セミナーは、今後スイスへの投資を検討されている日本企業、スイス・欧州での展開をさらな
る拡大を視野に入れている皆様に、スイスにおける M&A の留意点、スイス投資に係る税制、及
び欧州統括会社としてのスイスの優位性について紹介した。同セミナーの要点は、以下の通り。
•
日本企業による海外 M&A の増加(2009 年/299 件→2012 年/515 件)欧米が中心、
及び買収の大型化が特徴。工業製品、食料品、消費財関連企業を対象に。
•
スイスへの M&A 投資は、北米からが最も多く、200 億ドルに上る。
(アジアからは、
26 億ドル)
•
2012 年の日本企業によるスイス企業 M&A の代表例:IHI による Ionbond 社買収、富
士シールによる PAGO、UCC による United Coffee、シチズンによる Joux-Perret、東
京エレクトロンによる Oerlikon など
•
5 月 15 日開催
「スイス事業投資セミナー」の様子
欧米企業の買収によって、女性役員の登用を真剣に考慮すべき(日本の女性役員の割
合:1.1%、フランス:15%)
•
日銀による国債買い取りは、国債金利の下落に導く可能性があり、投資資金は海外に
向けられる
•
日立製作所による列車運行用シュミレーター開発の英 TRE 社買収を事例に挙げ、買収
によるシナジー効果の重要性、デューディリジェンスの効率的な実行、値下げ交渉の
必要性を説明
スイスの税制の概要
•
法人税は、連邦レベル、地方(州)レベルで徴収され、州により税率が違う(12~
24%)新設会社、ビジネスの拡大にあたり、タックスホリデー(税金猶予)が適用さ
れる可能性も
Newsletter March 2013 | 1
•
個人の所得税も連邦、地方の二階層。夫婦間、親子間の相続と贈与は、非課税。
•
柔軟性があり、企業ニーズに即した税制度(特定のビジネス形態、または企業と州・
連邦政府との協議によりさらに優遇される:例/持株会社、ミックスカンパニー、プ
リンシパルカンパニーなどの制度)
•
税務当局との良好な関係がある(設立プロジェクトにより、税務当局と自由にディス
カッションし、税率の取り決めやおおよその納税額を予想することが可能)
•
日本・スイス租税条約の改正により、日本の親会社への配当や利子、使用料を 0%に
することが可能
Sunstar Engineering 上級執行役員
安田 真吾氏
•
外国子会社配当益金不算入制度により、外国子会社から受け取る配当の 95%が日本で
非課税となる(従前は、外国子会社で内部留保していた利益の日本への還流を促す)
•
タックスヘイブン対策税制には、留意する(法人税率 20%以下の場合に注意が必要)
スイスに事業・研究拠点を置くメリット
•
イノベーションの能力が高く、研究開発施設に有利な国のランキング世界1位(日本
は 25 位)/グローバル・イノベーション・インデックス 2012 年版発表
•
世界で最も競争力があり、ビジネスがしやすい国のランキング、4年連続世界1位
(日本は 10 位)/世界経済フォーラム発表(ビジネスインフラ・制度、人材のレベル、
労働市場の効率性、ビジネスの洗練度、イノベーションのレベルなどで評価)
•
生活水準が高く、生活がしやすいスイスの大都市(世界ランキング:2位・チューリ
ヒ、8位・ジュネーブ、9位・ベルン)/マーサー・ヒューマンリソース・コンサル
ティング発表
最後に、スイスにグローバル経営拠点を置くサンスターグループを代表し、Sunstar Engineering
上級執行役員の安田真吾氏より、同社のスイスでのオペレーションと経営戦略をお話いただいた。
次回のスイス事業投資セミナーは、本年 10 月 23 日、大阪にて開催する予定。
日本企業のスイス進出
ミドクラ、本社をスイス・ローザンヌに移転
クラウドコンピューティングのネットワーク仮想化ソリューションを開発するグローバルスター
トアップのミドクラは、知的財産の管理、安定した金融環境を鑑み本社をスイス・レマン湖畔の
ローザンヌ市に本社を移転した。同時に、グローバル経営体制を強化するため、CEO 兼共同創
業者であった加藤隆哉氏は取締役会長(Chairman of the Board)に、CTO 兼共同創業者であったダ
ン・ミハイ・ドミトリウ氏が最高経営責任者(CEO)に就任した。ドミトリウ氏は、スイス連邦工
科大学ローザンヌ校の出身。
また、政府系投資ファンド・産業革新機構などから、合計 1,730 万ドルの増資を完了したと発表
した。
(同社発表のプレスリリースからの抜粋)
Newsletter June 2013 | 2
IHI、スイス・イオンボンド社を買収
総合重機メーカー大手、株式会社 IHI が、スイス・オルテン市に本拠を置くイオンボンド
(Ionbond)社を買収した。イオンボンド社は、金属や非金属などの材料の耐摩耗性コーティン
グ業を世界 17 カ国で展開する最先端企業。表面処理機能は、今後も自動車、産業機器などの部
品を中心に広く利用が進むことが見込まれる。スイスの最先端技術を取り込むことにより、今後
は顧客に更なるイノベーションとアドバンテージを提供できるとのこと。イオンボンド社の本社
Ionbond 社の外観
は、現状のままスイスに置く。
株式会社 IHI 取締役・常務執行役員 瓦谷氏のコメント
「表面処理技術は、自動車、産業機械、航空機、医療器具、装飾等の分野に幅広く使われており、
DLC 膜を初めとして今後もさらに適用が拡大していくと期待されている先端技術です。IHI グル
ープはこれまで PVD を初めとする表面処理装置の製造・販売を通じてお客さまにこの技術をご
提供してまいりましたが、今般、 Ionbond グループを加えたことにより、併せて表面処理受託
加工サービスをご提供することができるようになりました。世界 18 ヶ国 40 を超える拠点網を
通じて、これまで以上に質の高い、お客さまにご満足いただける製品・サービスを提供してまい
ります。
」
IHI および Ionbond 社の方々
事業展開拠点としてのスイス
米国・グーグル社、チューリッヒに新拠点を開設
グーグル社(本社:米国・カリフォルニア)はチューリヒの Huerlimann Areal 地区に新拠点を
開設し、スイスでの業務を拡充した。
この拡充により、スイスは同社にとって米国に次いで最も大きな開発拠点となり、約 1,100 人の
従業員が勤務している。新拠点ではグーグルの検索機能はじめ、グーグルマップ、ユーチューブ、
G メールなどのサービスを開発し世界中に提供していく。
IMD 国際競争力ランキング: スイスが世界第 2 位にランクアップ
IMD/国際経営開発研究所が、毎年公表している国際競争力ランキングで、2013 年、スイスが
世界第 2 位にランクアップとなった。
1997 年に IMD がランキング作成を開始した当時、スイスは 12 位という結果だったが、今では
米国に次いで競争力を有する国として評価されている。昨年度に世界第 1 位と評価された香港は
順位を落とし、3 位という結果となった。
Newsletter June 2013 | 3
スイス在住を経て ‐
スイス滞在経験を持つ日本人
にインタビュー
聞き手:元日本経済新聞社チューリヒ支局長
磯山友幸
スイスは四つの公用語を持つ言語環境の多様な国である。そこに言語の専門家が住んだらど
んな感想を持つのだろうか。ベテラン同時通訳として国際会議などで活躍する吉國ゆりさん
はご主人の転勤で1年間バーゼルに住んだ経験を持つ。しかも、滞在中も同時通訳の仕事を
続け、あのダボス会議でも公式通訳の大役を果たした。今も現役の通訳として活躍している。
そんな吉國さんに登場いただいた。
吉國さんがスイスにお住まいになったのはいつ頃ですか。
磯山友幸(いそやま・ともゆき)
1962 年生まれ。早稲田大学政経学部卒。1987 年日
吉國 2005 年の夏から 2006 年の夏までの1年間です。日本銀行に勤めていた夫がバーゼルの
国際決済銀行(BIS)勤務となったため、1年間だけ一緒に行きました。
本経済新聞社入社。証券部記者、日経ビジネス記者
などを経て 2002 年〜2004 年までチューリヒ支局
お住まいになったのはバーゼルですか。
長。その後、フランクフルト支局長、証券部次長、
吉國 はい。バーゼルです。市立美術館のすぐそばの家を借りて住んでいました。バーゼルの町
日経ビジネス副編集長・編集委員などを務めて
はとてもきれいで、とても気に入りました。もともと欧州は大好きなのですが、欧州の他の国だ
2011 年 3 月に退社、経済ジャーナリストとして独
と、やや気性が激しい国民性だったりしますが、スイス人はとてもやさしく、穏やかだと思いま
立。熊本学園大学招聘教授なども務める。
した。非常に日本人と共通する国民性だなと感じたものです。物価はものすごく高いのですが、
町なかにホームレスがいるわけではなく、非常に豊かな国ですね。バーゼルなどすごいお金持ち
がいるわけですが、それでもごく質素に暮らしている。
「それは必要ないわね」というのがスイ
スのお金持ちの口癖だと聞いたことがありますが、質素倹約をよしとする国民性が表れています。
その一方で、多額のおカネを寄付したりする。市立美術館も多くの寄贈品がありました。
吉國さんはベテランの同時通訳として国際会議などで活躍されています。バーゼル時代も仕
事を続けられたのですか。
吉國
ええ。BISなどから通訳の仕事をいただきました。バーゼルを拠点に欧州各地に仕事に
出かけていたと言って方が正しいかもしれません。幸運だったのは、ダボス会議の名前で有名な
世界経済フォーラム(WEF)の総会で通訳させていただく機会を得たことです。2006 年1月
末でしたでしょうか。それほど広くない会場を、世界の著名人が歩いている光景を見るだけで楽
しい経験でした。WEFの事務局が準備していた2人の通訳では足らず、急きょ3人目として採
用していただきました。
吉國さんはいつ頃から通訳をされているのですか。
吉國 大学在学中から通訳の仕事をしています。父が外交官だった関係でドイツで生まれ、その
後も米国やドイツで生活する機会がありました。ニューヨークに住んでいたころ、学校の行事だ
ったと思うのですが、国連本部に見学に行き、そこで通訳の仕事を目にしたのです。その時から
絶対に通訳になると心に決めていました。帰国して国際基督教大学に編入した際に、同時通訳の
コースに入ったんです。その後、ジョージタウン大学の大学院で言語学修士を取りました。
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言語学の専門家から見て、スイスの言語環境はどうでしょう。
吉國
すごく恵まれているなと思いますね。いやおうなしに色々な言語に接することができるわ
けです。スイス人の言語能力が高いのはこうした環境によるところが大きいと思います。鉄道の
駅員さんなども何か国語も流暢に話すのには驚きます。日本はもとより他の国でもあまり見られ
ない光景ですね。ただ、4つも公用語があるせいか、英語が後回しになっている感じがします。
私たちが家を借りる時の契約書もドイツ語で、ちょっと閉口しました。薬の説明書などもドイツ
語、フランス語、イタリア語が書いてあるのに、英語の説明がありません。ちょっと困りました
ね。
日本人はなかなか英語が上手になりません。なぜでしょうか。
吉國 本当ですね。なぜでしょう。実は言いたい事がないのかもしれません。言いたい事があれ
ばどうやって伝えようかと考えるわけで、語学は身に付くように思うのですが。
吉國ゆり(よしくに・ゆり)氏
ドイツ生まれ。幼少期を日本、米国、ドイツで育つ。
国際基督教大学コミュニケーション科卒。ジョージタ
スイスでの通訳のお仕事というのは日本とは違う点もあるのでしょうか。
吉國 基本的には一緒ですが、スイスのような国だと「リレー通訳」をする機会が増えます。日
本語を英語にした訳語を聞いて、別の通訳がフランス語に通訳するといった手法です。日本では
ウン大学大学院言語学修士。大学生時代から通訳の仕
あまり機会がありません。通訳という仕事は自分で訳しているばかりで、他の人の訳を聞く立場
事を始める。夫は日本銀行でロンドン駐在参事などを
にはなかなかなりません。ところがリレー通訳となると他の人の通訳を聞いて通訳するわけです。
務めた吉國眞一氏の転勤に伴い、1987 年~90 年米
通訳が聞きやすいように通訳する必要があります。日本ではお客さんが神様ですので、お客さん
国、97 年から 2000 年英国などで暮らし、05 年~06
が分かるような日本語の訳にしなければいけません。ところがリレー通訳だと、同僚の通訳を意
年スイス・バーゼル在住。ベテラン同時通訳として活
識します。チームの結束力が求められるわけです。
躍中。サイマル・インターナショナル所属。
BISなど国際機関には「チーフ・インタープリター(首席通訳官)」という役職が存在して、
その人に認めてもらえないと次から仕事が来なくなります。日本ではまだまだそういう専門ポス
トは少ないですね。
良い通訳って何なのでしょう。
吉國 どこの国の人でもなまりというかアクセントというのはあります。そんなアクセントは問
題ではないと思います。英語らしく聞こえることが大事なのではなく、瞬間的に要点をつかんで
分かりやすく訳する。話している人が必ずしも論理的に話しているとは限りません。その人が言
わんとしている意味を瞬時につかむことが大事ですね。そのためには、予習が不可欠なんです。
経歴はもちろん、その人が過去にどんな発言をしているかなど事前に調べます。インターネット
ができてだいぶ楽になりましたが、毎日受験勉強をしているような感じです。
これまで通訳をして印象に残った人はどなたでしょう。また、今後通訳をしてみたい人はい
ますか。
吉國 ダボスでラーニヤ王妃のディベートを伺い関心しました。王族のなかでもあれだけしっか
りと議論なされるかたは少ないのではないかと思いました。通訳してみたい人はオバマ米大統領
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とかキャメロン英首相でしょうか。首脳どうしの会見の場合、外務省の職員が通訳するので、私
たち民間に回ってくることは稀です。
帰国後もスイスとのご縁はありますか。
吉國 ジュネーブ人権裁判所の仕事で日本から出張したのが最後でしょうか。バブル経済期には
日本のビジネスマンが通訳を連れて出張することが多くありましたが、最近は減っています。な
かなか欧州に行くチャンスはありませんね。スイスは愛着のある国なので、何か仕事が来れば、
喜んで引き受けたいと思います。
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