結節性黄色腫症の2兄弟例

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目皮会誌:90
(6),
511-518,
1980 (昭55)
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結節性黄色腫症の2兄弟例
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一正脂血症を呈したー
中村 絹代
松尾 求朗* 木村 俊次**
要 旨
ても,脂質代謝異常の存在がみられないものがあり,こ
黄色腫は脂質代謝異常に伴って生ずる代表的な皮膚病
れらを正脂血症を伴った黄色腫として総括している.し
変の1つである.しかし必ずしも血清脂質値の異常を示
たがって,後者の黄色腫では,種々の発症要因が推測さ
さない黄色腫が近年注目される様になり,正脂血症性黄
れている.
色腫としてこれらは総括されている.従来,結節性黄色
一方,臨床的に結節性黄色腫とよばれる病変は,高脂
腫ではその殆んどの患者に高脂血症のnないしⅢ型を示
血症に伴って生じる時には,高コレステロール血症,お
すものか多く,非常に稀に正脂血症を示す場合があり,
よび高β−リポ蛋白血症を伴うことが多い1)2)また結節
この時,β-sitosterolが血清中,および黄色腫組織内に
性黄色腫で高脂血症を伴わないものの中には,通常我々
増量しているとの報告もある.
の腸から吸収されないといわれる植物性のステロール,
今回,著者らの経験した結節性黄色腫の44歳,および
β-sitosteroP'が血中および黄色腫組織内に存在すること
41歳男子の兄弟例では,兄に腱性黄色腫をも合併し,再
が近年知られてきた.
三の検査にも拘らず高脂血症を見出すことが出来なかっ
今回,我々は臨床的には典型的な結節性黄色腫がみら
たと同時に,兄ではβ-sitostero 1も陰性であった.これ
れたが,高脂血症が,血清脂質の再三にわたる検査にも
ら症例が,果して真に正脂血症の状態において黄色腫を
かかわらず存在せず,またβ-sitosterol も認められなか
発症したものか,または過去に,一過性の高脂血症の時
った兄弟例を経験したので,正脂血症を伴った結節性黄
期があり,遅れて黄色腫が発生し,その後血清脂質が正
色腫として,若干の考按を加えてここに報告する.
常範囲に戻ったものか疑問である.著者らは,家族歴よ
症 例 I
り,高脂血症の素因が遺伝している可能性を重視して,
患者 44歳,男子,会社員
後者の様に遅発性の結節性黄色腫と考えたト.今後の症
初診 昭和53年6月7日
例の追加と,詳細な検討が必要と思われた.
主訴 両肘頭,左膝,右足関節部の結節
はじめに
黄色腫は脂質代謝異常,通常は高脂血症に伴って血清
由来の脂質が組織球性細胞内に蓄積して生ずる代表的な
皮膚病変の1つである.他方,種々の血清脂質を測定し
匹匹
胃冑 直 脳 脳 脳 高 高
癌癌 鳩 卒 卒 卒 血 血
6062 癌 中 中 中 圧 圧
才才 58 77 62 60
才 才 才 才
品
ニ
才
北里研究所附属病院皮膚科,慶応義塾大学医学部皮
膚科学教室(主任 旗野 倫教授)
*東海大学医学部皮膚科学教室(主任 大城戸宗
男教授)
**慶応義塾大学医学部皮膚科学教室
Kinuyo Nakamura, Itsuro Matsuo, Shunji Kimura:
The siblings of normolipemic tuberous xantho matosis
昭和54年10月H日受理
別刷請求先:(〒HI)東京都台東区浅草橋1―34
−1 中村皮膚科診療所 中村 絹代
図1 家系
5口
ト吋 絹代ほか
ス腱上の皮内にも結節を認める様になり来院した.
一般現症 体格中等,栄善良,休暇56.5
kg,身長161
cm,脈│専60整,血圧lI0/70mmHg,胸腹部打聴診L異常
になト.毎朝食後2∼3㈲のド痢または軟便ある他,W
腸障古々し.
皮膚現症 初診時,左肘頭部の手術後廠痕のややド部
に,2コの結節が融介し,ひようたん型(6.4×3,0×
に5cm)の結節を認める(図2).この他,右肘頭部に
は2×2×O・8cm,/Tこ膝読やや外側に1.5×1
.5×0.3cm半
球状隆起性結節を認め,トずれも結節性黄色腫と診断し
た.長而皮唐ぱやや萎縮性,淡紅色やや黄色調を帯び,
蝉性硬で,皮膚とは癒石するも底部との癒着はなかっ
図2 斤例I
, Aミ肘頭部の結節性旅色腫
た.両アキレス腰は口×3cm と円柱状に肥厚し,左フ
キレ刈
腫と結節性黄色種が岡1卜・こみられた(図3).眼瞼黄色
腫Arcus
corneaeなどは認められなかった.
症 例 II
患者 41歳町子,会社員(症例iの弟)
初診 昭和昭年7刈加川
主訴 両肘頭添 両足関節部後面の結節
既往歴 14歳時肺結核に罹患,6ヵ月入院加療,30戚
時済部膿瘍,37歳時剛則次炎に罹患.
現病歴 23歳頃に両肘頭部の結節に気付く,30歳時に
某大学病院にて切除術を受けた八 1年後には再発し
た.最近両足関節後面にも結節を認める様にたり来院.
一般現症,体格中等,栄養良,血圧132/80mmHg.
閥:I JI・│{例|、│・1卜≒ビーズ腱低色腫とノIミ足の結節性
低色柿
皮膚現症 初診時,左肘頭部に3×2.5cm,右肘頭部に
1 .5cm
ji'f径,右アキレス腱部1
.5cm[白C径,片に2.0cm
直径のそれぞれ犀球状隆起性,やや黄色調を呈する皮膚
既往歴 28歳時,急性肝炎にて入院加療.
家族歴 父58歳直暢痢,け77歳脳卒中にて死亡,両親
に黄色唖をみなかった.同胞4兄弟の内,41歳弟(症例
Inに結節性黄色仕あり.長兇54歳は血清総コレステロ
ール308mg/dl,燐脂質279mg/rll,総脂質740mg/dI,中性
脂肪107ms/dl,βり十蚤内分画の増加がみられFredri(:hson lla化 および境界型の血糖曲線を認めた八 黄
色仕口こなかっと.その他調介し得た家族歴は図1に示す
様に,母方に高卸Iモに罹患,または脳卒中七死としたも
のが多ト.
現病歴 川炭頃よりアキレ刈建部の腫脹,圧痛を,ス
キーマ滑る時に感じてトた.石炭頃より両肘頭部に結節
を認め,外科で卜術を受けた八 2年後には癩痕に接し
てIlf発し徐々に増大した.最近左膝谷下仏右アキレ
図,1 症例n,
-/,-:肘頭部の結節什黄色腫
.5
結節性黄色腫症の2兄弟例
513
表 1
血 清
赤血球
白血球
症例I
症例l
−一一
清澄
一
清澄
469×104
462×104
6800
5400
45.5%
血小板
尿 酸
15000
198000
血清電解質
MKGG
Ht
43.0%
肝機能
64.8"
61.5"
(30.0∼56.0)
27.5"
30.6"
(
7.7/'
T3
134mg/dl
T4
9.3 //
7.9"
正常値
7.0∼29.0)
(21.0∼43.0)
6.1mg/dl
(−)
(−)
147 raEq/1
147 mEq/1
血 圧
110/70
132/80
4.1 が
5.0 //
110.0 //
U2、O //
4.3 //
4.5 /z
色の結節を多発しており,結節性黄色腫と診断した.ア
1.2
キレス腱の肥大,眼険黄色腫Arcus
corneae などはな
クソケル
GOT
GPT
5.9unit
5.9unit
かった(図4).
14
34
検査成績 症例IおよびIIともに表いこ示す如くであ
AlP
6.5K.A.
11
218
蛋 白
糖
(−)
血清総蛋白
A/G比
6.6K.A.
uni・
る.一般検査には殆んど異常を認めないが,症例Iで
50gブドウ糖添加GTTで境界型血糖曲線を呈した,数
300
うI
一 一
LDH
20
uni
ぐぐ
尿
症例Ⅱ
血清梅毒反応
7.1mg/dl
-‥一一
0.6
TTT
Beta
Pre-Beta
Alpha
症例I
回にわたる総コレステロール,コレステロール・エステ
(−)
ル,中性脂肪,燐脂質,遊離脂酸,総脂質ともに異常を
7.4g/dl
7.7g/dl
認めなかった.リポ蛋自分画では症例I,
1.47
1.48
nといこβ−
リポ蛋白Pre-βリポ蛋白が高値を示し,αリポ蛋白が
65.8%
66.3%
低値でFredrichsonのnb型に近い形を呈するが,現
α1・glob.
3.6"
3.6"
時点では総コレステロール,中性脂肪ともに正常範囲を
α2-glob.
8.3"
示している以上この分類にはあてはまらない.この他,
β-glog-
8.5"
9.8"
8.6"
α-glob.
13.4"
蛋白分劃
Alb.
11.4"
IgG
IgA
IgM
膜下腫瘍の疑ある所見が得られた.
200 μ
経過および治療 症例Iの両肘頭部,左膝蓋部の結節
105 //
(−)
(−)
を切除し,病理組織学的検索,生化学的分析および電子
(−)
(−)
顕微鏡的検索を施行した.一方クロフ4プレート内服を
(−で)
(−)
91mg/dl
88mg/dl
空腹時血糖
7月5日より4週間行わしめたが,血清脂質値の変動を
見ないままに中止した.以後は特に治療を行うことな
境界型曲線
血卵
潜虫
− −屎
GTT(50g)
症例Iでは眼底EKG,心エコー図,頭,胸部,骨X線
上に異常なく,消化器の内視鏡検査にて回腸末端部に粘
一
1210mg/dl
く,経過観察中であるが,1年後の現在再発の兆候はな
一一-一一一一一一一一
(−)
い.
(−)
病理組織学的所見 表皮突起はやや扁平化している
総コレステロ
ーノレ
コンステp−
ルこステル
中性脂肪
症例1
一一
184mg/dl
78%
症例U
227mg/dl
75%
他,表皮には異常ない.表皮直下はほぼ正常の膠原線維
130∼230)
帯がみられ,そこに軽度の毛細血管の増生,周囲に軽度
70∼80)
のリンパ球浸潤をみる(図5),真皮ほぼ全層にわたり
黄色腫細胞ないし泡沫細胞の集箇性,胞巣状増殖がみら
91mg/dl
161mg/dl
76∼172)
216 //
150∼250)
燐脂質
201 //
遊離脂酸
総脂質
ぶご/言ご
リポ蛋白分劃
chylomicron
正常値
0.17∼0.59)
357∼583)
れ,残存した膠原線維がそれらを取り周む様に認められ
る.小血管の周囲に黄色腫細胞は増殖する傾向がみら
れ,中等大静脈の内皮細胞に脂肪滴を貪食したと思われ
る像もみられる.
0.0X1
0.0X
0。0∼5.0)
Touton型巨細胞は僅かに,線維芽細胞
も軽度浸潤している(図6).泡沫細胞の脂肪染色所見
中村 絹代ほか
514
図5 真皮乳頭洲はほぼ正常.中・下別に泡沫細胞
の巣状増殖 症例I
, H-E染色
図7(a一左、b一右)a.
b.
図6 小.血管周囲に集願する泡沫細胞とTouton聖
巨細胞 症例払H-E染色
血管周囲の黄色腫細胞(X),L:血管内腔,E:内皮細胞,P:外皮細胞×2,250
空胞(V)形成の万杵しくない黄色腫細胞 G:ゴルジ装置,d
: dense body. ×25,000
515
結節性黄色腫症の2兄弟例
C
C
%I
図8(a一左,b一右) a. 多核黄色腫細胞.V:空胞.C:裂隙.d: dense
body. 矢印:heterogenous
dense
body,χ15,000
b. ミトコンドリアの嚢白状拡張(C)を示す黄色腫細胞 X
ではOil
red O,Sudan Ⅲ. Sudan Black B 染色陽性,
Nile Blue 染色で僅かに中性脂肪陽性に認められる.ま
長2 Lipids composition of serum and
xanthoma (Case
1)
た泡沫細胞の原形質内にはジアスターゼ抵抗性PAS陽
Lipids
性,傘丸性ヒアルgニダーゼ抵抗性コロイド鉄陽性,且
㎜㎜㎜■㎜■■■ふ ・ ・
Cholesterol
(ester)
つ嗜銀性の細穎粒状物質がみられた.
電子顕微鏡所見 標本は2%グルタールアルデヒド,
1%オスミウム酸重固定,エタノール脱水,エポン包埋
し,超薄切片作製後,酢酸ウラニウム・クェソ酸鉛重染
色を行って観察・撮影した.脂肪滴と思われる大小の空
17,500
Cholesterol (free)
- Triglycerides
- Free fatty acids
22.6
一一
96
9
J・
一−
7.0
一一
22.7
1 9.6 1
i G.5 1
22.0
β-Sitosterol: neeative
in serum and xanthoma
胞は黄色腫細胞におトで最も多数認められたが,この他
血管外皮細胞,線維芽細胞(図7a),さらにシュワン糾
見され,た.脂肪滴と思われる空胞は限界膜が明らかでな
胞にも種々の程度に見出された.血管内皮細胞におトて
く,全く内容物を含まないもの(図7b),辺縁にのみ帯
は倹素の限りでは明らかな空胞形成は認められなかった
状または三日月状に無定形物質を示すもの([ヌ17b,図
が,胞飲小胞の増加,より大きト小胞の存犯および微
8a],および‥一部または全体に多房状に無定型物質を容
絨毛の増加(図7a)が見出され,またミェリン像も散
れるもの(図8a)の3種類が見出された.黄色腫細胞
516
中村 絹代ほか
は一般に大型で類円形∼長円形∼不整形をなし,種々の
率を比較した所,黄色腫組織内においては中性脂肪が減
数の空胞と細胞質突起を有し(図7
少し,エステル型コンステロールが増量していた(表
a),空胞の少ないも
のでは発達したゴルジ装置が見出された(図7b).また
これらの細胞は種々の個数のdense
びheterogenous
dense body (図8a)を有するが,空胞
の少ない細胞ではdense
ではheterogenous
body (図7b)およ
body が,また空胞の多いもの
dense body が,より著明に認められ
2).この関係は一般の高脂血症に伴って存在する黄色
腫にみられる成績4)と同様の結果を示している. 一方近
年,正脂血症にも拘らず結節性黄色腫がみられる時,植
物性ステロールであるβ-sitosterolが血中,および黄色
腫内に認められることが報告されている3).症例1にお
た.核は一般に1個であったが,2∼4個を含む巨細胞
いて検索した所,血清および黄色腫組織内ともに認めら
(図8a)も散見された.また少数の黄色腫細胞にはコ
れなかった.
レステリソと思われる裂隙状構造(図8a)も見出され
考 按 ”‘I
た.この他,一部の黄色腫細胞のミトコソドリアが嚢胞
黄色腫の分類としては臨床的に結節性(tuberous),発
状に拡大を示すのが認められた(図8b),なお黄色腫細
疹性(eruptive).扁平(plane)黄色腫等と形態によっ
胞にはラソゲルハソス穎粒は全く見出しえなかった.ま
て分けたり,また発生部位別に腱黄色腫,眼瞼黄色腫,
た胞飲小胞も殆んど見出せなかった.
手掌黄色腫等との分類も行われている.一方血清中の脂
生化学的所見 患者血清と,左肘頭部結節(恐らく9
質値との関連から高脂血症性,または正脂血症性黄色腫
年前に.発生したと思われる)について,その脂質構成比
とも区別される.家族性,二次性を問わず,高脂血症に
伴った黄色腫は近年WHO高脂血症分類s)に従って分類
表3 黄色腫分類
表4 二次性高脂血症
高脂血症
黄色腫
家族性
臨床型 (ごつ
二次性
正 脂 血 症
Fredrickson
型
I
結節型
Ⅱ,Ⅲ
疾 患
糖尿病
屏疾患
若年性黄色肉芽腫
congenital
self-healing
reticulohistiocytosis
ステロイド内服
^f
Ⅱ
播種性質色腫
原発性胆汁性肝硬変
閉塞性黄疸
糖尿病
xanthosiderohistiocytoma
細細組織球症
ネフローゼ
骨髄腫(autoimmune
発疹性組織球腫
組織球症X
β-sitosterolemia
表4
hereditary tendinous and
tuderous xanthomatosis
without hyperlipidemia
参照
progressive nodular
histiocytoma
アルコール性高脂血症
Zieve症候群
脂肪肝
娃 娠
結節・
発疹型
Ⅲ
骨髄腫(autoimmune
1,1,
発疹型 Ⅳ,V
W
肥 満
糖尿病
扁平型
眼瞼
線条
U
手掌
n,Ⅲ
腱
n、Ⅲ
瀾慢性扁平黄色鍾
hyperipidemia)
アルコール性高脂血症
脂肺肝
屏疾患
n,
cerebrotendinous
matosis
hyperlipidemia)
甲状腺機能低下
肥 満
ネフローゼ
痛 風
骨髄腫(autoimmune
xantho-
β-sitosterolemia
hereditary tendinous and
tuberous xanthomatosis
without hyperlipidemia
V
hyperlipidemia)
糖尿病
アルコール性高脂血症
評疾患
結節性黄色腫症の2兄弟例
517
するのが便利である.これらの関係をFleischmajer^'ら
は,本例の如くリポ蛋白分画の異常,すなわちαリポ
は整理し,図説を行っている.すなわち眼険黄色腫では
蛋白の著明な減少と,β−リポ蛋白の相対的な増加が,黄
その約65%が正脂血症であるが,その他はlf型に分類さ
色腫発症に何らかの影響を与えている可能性を示唆して
れ,発疹性黄色腫ではその殆んどの症例に高トリグリセ
いる報告もある13) U)また小玉ら15)の実験にみられる様
ライド血症を伴い,
に,デキストラソ硫酸の局注による泡沫細胞の出現な
I,
M,
W,
V型に分類しうる.ま
た結節性黄色腫では通常n,Ⅲ型の高脂血症を伴うが,
ど,脂肪の質的,量的異常がなくても,蛋白ないしムコ
稀に正常脂質値の場合もあること等を記載している.
蛋白の異常があれば泡沫細胞が形成されうることが示さ
正脂血症にみられる黄色腫病変とその臨床型との関係
れている.
を表3,46)に示す.正脂血症にみられた結節性黄色腫
電顕所見考按 今回見出された所見は,従来高脂血症
について検討してみると,
に伴う黄色腫16)
1968年Harlanら7)は遺伝
21)で見出されているものとほぼ同様
性正脂血症性の腱・結節性黄色腫症の2姉弟例を見出
であった.症例数は少ないか,正脂血症の場合の黄色
し,新しいReticuloendotheliosisの一型として報告,他
腫7}22)についての従来の電顕所見ともほぼ合致してい
の正脂血症を示す脂質貯溜性Reticuloedotheliosisとの
た.すなわち正脂血症の結節性黄色腫に特有の所見は見
鑑別を表示している.更にBhattacharyyaら="(1974)は
出せなかった.従来から論議されている問題点,すなわ
血清コレステロール値が正常である結節性・腱性黄色腫
ち脂質は細胞内で合成されているのか,あるいは血清由
を有する患者の血清中に,植物性のステl=・−ルの1つで
来であるのかという点には答えられない.しかし光顕的
あるβ-sitosterolが高値を示し,且つ黄色腫組織内に
も認められた2姉弟例を報告,その後更にShulraan
に血管内皮細胞に脂肪滴と思われる空胞が見出され,電
&
顕的に血管外皮細胞,線維芽細胞,シュワソ細胞が見出
Bhattacharyyaら8)は軽度の高脂血症と,β-sitosterolemia
されると共に,血管内皮細胞の機能完進を思わせる所見
に伴う黄色腫の1例を追加報告し,遺伝性の新しい型の
が得られたことから,黄色腫細胞内における脂質の合
脂質貯溜性疾患と考えている.最近,著者の1人松尾ら
成,貯溜よりも,血清中の脂質が順次とり込まれて出来
も家族性高脂血症を伴った黄色腫の患者で,血清およ
上ったと考える方かより説明し易いと思われる.
び黄色腫組織内にβ-sitosterolの高値を見出している
自験例の考按 自験例は家族性に発生した結節性黄色
が9),正脂血症のみならず,高脂血症性黄色腫において
腫であり,その家族歴は前述の如く,母方の親戚に高血
も従来の分類基準としての脂質ばかりでなく,他のステ
圧症と,脳卒中死亡例が多く,又同胞の内長兄には黄色
ロール類の異常に関しても注意を喚起する必要があると
腫を認めないか高血圧症na型の存在か確認された.こ
思われる.また,
れらの事実から,母方の家系より潜在的に.高脂血症の素
cholestanolの代謝異常に伴って起る
とされているCerebrotendinous
xanthomatosis""に関し
因を受け継いでいることは想像され,黄色腫発生時に高
ても正脂血症を示す黄色腫症として記憶せねばならぬ疾
脂血症の存在したことも推測される.両側とも黄色腫の
患と思われる.
発生は20歳前後からで,手術後の再発も30歳台であり,
黄色腫細胞の形成にあたっては,高脂血症に伴って生
40歳以降に検索した血清脂質値が正常範囲を示してい
ずるものでは,血清由来の脂質が黄色腫細胞内に蓄積す
た.これらは,非常に稀な正脂血症性の黄色腫とも,ま
ることが実験的黄色腫11)において証明されており,また
た黄色腫の発生,または再発していた頃の血清脂質値が
高トリグリセライド血症では黄色腫内にもトリグリセラ
一過性に高かったが,加齢につれて低くなり,正常範囲
イドが多く含まれる4)事実からも明らかであろう.
を示す様になったとも想像される.ちなみに中山のラノ
また黄色腫細胞内コレステロール蓄積機構に関して
リン飼育による実験的家兎黄色腫においては,2∼3ヵ
は,家族性高コレステロール血症患者の培養線維芽細胞
月で発生する通常みられる黄色腫と,ラノリン飼育中止
を用いて,組織内のコレステp−ル合成と,低密度リポ
後2∼6ヵ月を経て発生する,いわゆる遅発性黄色腫の
蛋白(LDL)との関係が解明されている12)この結果,
2種類あることが証明されており23≒黄色腫の成因に現
患者由来の細胞では,正常細胞でみられるLDLによる
在の血清脂質値ばかりでなく,ある場合には時間的遅れ
コンステp−ル合成律速酵素の抑制が欠如していること
を考慮して,過去に一過性の高脂血症の存在した事実
が明らかになった.
を求めなけれぼならないとされている24)したがって
一方,正脂血症にみられる黄色腫病変の形成について
本症例は,
HarlanらのいうHereditary
tendinous and
518
中村 絹代ほか
tuberous xanthomatosis
without
hyperlipidemia''とする
本症例は第561回日本皮膚科学会東京地方会,および
よりも,遺伝的背景を考慮すると,中山のいう遅発性黄
第78回日本皮膚科学会総会においてその要旨を報告し
色腫23)という分類に入れることが当を得ている様に思わ
た.
れる.
文
1)
Polano,
M.K.:Iχanthomatosis
proteinemia.
2)
Dermal∂1θがca,149:
Fleischmajer,
R.,
J.R.T.:Familial
106:
3)
43-50,
1-9,
Y.
A.K.
&
& Reeves,
Connor,
and xanthomatosis,
1033-1043,
Gent,
composition
W.E.: βJ. Clin。Invest,
1974.
Baes, H., Van
of
Beaumont,
Fejfar,
CM.
&
various
Pries, C.: Lipid
types
J.L., Carlson,
Z., Fredrickson,
Classification
of χanthoma,
B
D.S.
&
「Z wm
G.R・,
Strasser, J.:
and
hyperlipo-
,43: 891-915,
1970.
6)大城戸宗男,松尾幸朗こ各種疾患と高脂質血
1979,
投稿中.
Harlan,
Jr. W.R.
and
&
Still,W.J.S.:
tuberous
J. Med・,
without
278:
416-
1968.
Shulman,
W.E.
and
Hereditary
xanthomatosis
hyperlipidenua,NaりEng.
8)
plane
990-999,
14) Stewart,
1970.
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