ワールドトレードセンターのツインタワー(WTC1:ノースタワー・北タワー・北

ワールドトレードセンターのツインタワー(WTC1:ノースタワー・北タワー・北棟、WTC2:サ
ウスタワー・南タワー・南棟)の倒壊については、米国標準技術局(National Institute of Standards
and Technology、NIST)による合計1万ページにおよぶ詳細な報告書「Final Report of the National
Construction Safety Team on the Collapses of the World Trade Center Tower」がある。(文献2) 陰謀
論者はこの報告書は「政府側の発表」であるとして一切信用していない。しかし、その実態はそ
んな単純なものではない。
WTC倒壊の調査には、NIST の技術専門家85人と民間・学術界の125人の主要な専門家がか
かわり、1000人以上の事件の目撃者、WTC の設計、建造、管理を担当した人々とのインタ
ビュー、現場にあった236個の鋼鉄の破片の分析、研究室における材質の検査、建物に旅客機
が突入してから倒壊が始まるまでのコンピューターシミュレーションなど、が行われた。さらに
合計150時間におよぶ7000区分のビデオ画像、その日現場にいた185人の写真家が撮影
した7000枚近くの写真も集められた。2005年に発表された報告書には3年の月日と2
400万ドルの費用がかけられた。(文献1)
NIST の FAQ としては次のものがある。
・「NIST’s Investigation of the Sept. 11 World Trade Center Disaster--FAQ」
・「NIST Investigation of the World Trade Center Disaster FAQs」: (Aug. 30, 2006)
・「NIST Investigation of the World Trade Center Disaster FAQs - Supplement」: (December 14,
2007)
このうち陰謀論に関するものは2番目のものであり、日本共産党『さざ波通信』の記事「国立標
準・技術研究所(NIST)の FAQ(2006 年 8 月 30 日)」(2006/09/29 澄空)で、その邦訳を読むこ
とができる。
2002年5月に発表されたアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)による予備調査報告
「World Trade Center Building Performance Study」
(文献3)もある。ただし、ウィキペディアによる
と、FEMA は災害救助組織ではなく、民間人の虐殺を目的としているという陰謀論もあるので、陰
謀論者は FEMA の報告など信じないのであろう。
また、Purdue 大学による WTC1 への旅客機突入のコンピューターシミュレーションのCG動画を
YouTube などで見ることができる。
・「Scientists simulate jet colliding with World Trade Center」:YouTube
・「Purdue University WTC Simulation - Run 18」:YouTube
・「September 11, 2001 9/11 Attack Simulations Using LS-Dyna」:Purdue 大学のオリジナルサイ
トはこちら
・「High-Fidelity Visualization of Large-Scale Simulations」:Purdue 大学のオリジナルサイト。
動画のダウンロードができる。
こうした詳細な報告や分析があるにもかかわらず、陰謀論者は、WTC の倒壊は旅客機の突入が原
因ではなく、あらかじめ建物にしかけられた爆発物による爆破解体(制御解体)である、などと
主張している。上記の FAQ によると、以下のような決定的な証拠があるので、NISTは「爆破
解体説」を支持しないとしている。
1
・倒壊は旅客機が突入し、火災が発生した階で始まり、それ以外のところでは起こっていな
い。
・倒壊が始まるまでの時間(WTC2では56分、WTC1では1時間42分)は、旅客機
の突入により生じたダメージと、火災が決定的な箇所まで広がり、構造を弱め、衝突され
た階より上の質量を 支えきれなくなるまでに要する時間に依存する。
ビデオ画像も倒壊は上から下へと起こっていることを示し、NIST やニューヨーク市警や消防署が
集めた証拠の中にも、衝突と火災が起こった階よりも下の階で、爆発などが起こったことを支持
するものはない。
■進行性崩壊
ツインタワーの「進行性崩壊」のメカニズムについては、以下の論文を参照。
・「Why Did the World Trade Center Collapse? -Simple Analysis」 Zdenek P. Bazant, F.ASCE and
Yong Zhou, J. Engrg. Mech. Volume 128, Issue 1, pp. 2-6 (January 2002)
この論文の結論は、崩壊開始によって生じた運動エネルギーは 54.2 GN m で、その直下の構造体
で吸収できるエネルギーの 8.4 倍に上り、崩壊を阻止することはできなかったというもの。 この
論文については日本語の解説記事もある。
・「進行性崩壊のメカニズム」 大井健一 「建築防災」 2004 年 5 月号 , p.13-17
以下の論文も参照。
・「Mechanics of Progressive Collapse: Learning from World Trade Center and Building
Demolitions」 Zdenek P. Bazant and Mathieu Verdure, Journal of Engineering Mechanics, Vol.
133, No. 3, March 2007, pp. 308-319
■日本における研究
WTC 崩壊のメカニズムは日本においても研究されている。たとえば、筑波大学 大学院システム
情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻 磯部大吾郎研究室の「世界貿易センタービルの飛行機
衝突解析」を参照。磯部氏は「スプリングバック説」を提唱している。
また、鹿島建設の月刊レポートの2003年11月の Forefront「ニューヨーク WTC ビル崩壊の解
析に驚嘆の声」において鹿島建設が行ったツインタワーの崩壊シミュレーションが紹介されてい
る。鹿島建設の研究については以下の論文も参照。
・「航空機衝突時の挙動解析」 小鹿紀英、「建築防災」 2004 年 5 月号 , p.18-24
ここに書かれている結論は以下のようなもの。
WTC1 では柱の破壊がほぼ対称的に発生し、応力の再配分結果による塑性化状況もほぼ対称
形分布を呈した。これに対して WTC2 では、衝突による破壊と塑性化がやや C 面寄りに偏っ
た分布を呈した。また、燃料飛散による火災領域も WTC1 では A 面側の短スパン部のスラブ
およびコア部分が中心であるのに対し、WTC2 では C 面側の長スパン部の床トラスと柱付近
が中心であった。これらの衝突後の構造部材の応力状態と火災の領域が相まって、WTC2 の
全体崩壊までの時間が WTC1 に比べて短かったものと推察される。 「リダンダンシーに優れた鋼構造建築物のための崩壊制御設計ガイドライン」という業績で「日本
鋼構造協会特別賞」
(2006 年)を受賞した東京工業大学建築物理研究センターの和田章教授は、藤
田幸久著の「9.11 テロ疑惑国会追及」において、
「爆薬をしかけて制御解体をしたのではないかと
2
いう考え方こそ、科学的根拠に欠ける考え方だと言えます」と述べている。
■その他
・「Why Did the World Trade Center Collapse? Science, Engineering, and Speculation」 Thomas W.
Eagar and Christopher Musso JOM, 53 (12) (2001), pp. 8-11
WTC テロの詳細
9月11日当日、午前9時以前に WTC1 には約 8,900 人、WTC2 には約 8,600 人がいたとされる。
アメリカン航空11便(American Airlines Flight 11、乗員11人、乗客76人、ハイジャック犯5
人)が時速約700キロで北タワー(WTC1)に突入したのは、午前8時46分30秒のことであっ
た。11 便は機体が 25 度程度傾いていたため、その被害は93∼99階におよんだ。
ユナイテッド航空175便(United Airlines Flight 175、乗員 9 人、乗客 51 人、ハイジャック犯5
人)が WTC2 に突入したのは、9時2分59秒のことであった。その速度は約860キロであり、
175便は38度傾いていたため、その被害は77∼85階におよんだ。
突入の際に両機は外部と中心の支柱の一部を切断した。WTC1 では、35 本の外部支柱と 6 本の内
部支柱、WTC2 では 33 本の外部支柱と 10 本の内部支柱が切断されたと推定されている。さらに
その他の支柱の耐火性絶縁材をはぎ取った。11便と175便は、それぞれ1万ガロンと 9,100
ガロン程度のジェット燃料を積んでいたが、それを何階にもおよぶ広範囲にばらまいた。一部は
エレベータ・シャフトをつたわり、地下にも達している。激突直後に建物の外にそのまま飛び出
し、火球となって燃え上がった燃料は、そのうち約15%(WTC1)と10∼25%(WTC2)と
推定されている。
WTC1 の92階以上には 1,355 人がいたが、生存者はいないとされる。少なくとも 111 人が火災の
熱に耐えきれず、建物の外に飛び降りて死亡した。最初の飛び降りが目撃されたのは 8 時 52 分ご
ろである。91階以下にいた 7,545 人は助かったが、107 人が犠牲になった。
旅客機突入時、WTC2 の 77 回以上には 637 人おり、旅客機突入の破壊をまぬがれた A 階段をつたっ
て脱出できたのはそのうちわずか 18 人であった。76 階以下にいた 4800 人のうち 11 人が犠牲に
なった。
燃料は1100∼1200℃で燃焼するが、この温度は鋼鉄が融解する温度の1510℃よりも
低い。しかし、鋼鉄はその強度の約50%を600℃で失い、980℃で90%以上を失う。
ジェット燃料はすぐに燃え尽きたと考えられているが、それ以外の可燃物に引火し、燃焼温度は
最高で1000℃に達したと推定されている。
YouTube の動画「9/11 Debunked: World Trade Center Fires Were Sufficient」では、火災により弱まっ
た床を支えるトラスがたるみ、外壁を内側に引っ張り込んでいる様子を見ることができる。
文献9によると、タワー内に閉じ込められた人々からも電話がかかってきており、南タワー倒壊
の直前には、105,106階から「床が崩れ落ちている」といった連絡があた。93階のグレッ
グ・ミラノウィッツ(Greg Milanowycz)は「天井が落ちてくる」と連絡している。
3
このようにしてツインタワーは旅客機が突入して火災が発生した階よりも上の自重を支え切れ
なくなり、WTC2 は午前 9 時 59 分、WTC1 は午前 10 時 28 分に倒壊した。
■ドキュメンタリー
ツインタワーの倒壊を扱ったドキュメンタリーとしては、
「9 ・ 11 生死を分けた 102 分」
(ジム・ド
ワイヤー , ケヴィン・フリン 著、三川 基好 訳、文藝春秋、2005/9/13)がある。この本の要約を「2001
年 9 月 11 日、ワールドトレードセンタービルの 102 分間」
(A Successful Failure, 2008-10-19)で読
むことができる。
DVD としては以下のようなものもある。
・「9.11 ~N.Y. 同時多発テロの衝撃の真実 ~」 監督: ジュール・ノーデ ; ゲデオン・ノーデ ;
ジェイムズ・ハンロン、パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン、2006/08
/25
・「アメリカ 911」 J.V.D. 2002/09/11
・「102 Minutes That Changed America」 A&E Home Video、2008/10/14
爆破解体説
WTC の「爆破解体説」をとなえている文献としては、Eric Hufschmid 著の「Painful Questions」や、
物理学者のスティーヴン・ジョーンズ(Steven E. Jones)がネット上で公開している「Why Indeed
Did the WTC Buildings Completely Collapse?」などが有名である。ただし、通常の爆破解体は建物の
自重を利用して押しつぶすので、爆破は建物の下から上へと行われる。これに反し、ツインタ
ワーは上から下に向かって崩壊している。多くの爆破解体の専門家は、WTC の爆破解体説には否
定的であり、たとえば、ImplosionWorld.com の「WTC Q&A」でも爆破解体説を否定している。(同
じサイトで公開されている文献5も参照)
ジョーンズ博士はサーマイト(thermite、テルミット法)、HMX(シクロテトラメチレンテトラニ
トラミン)や RDX(Research Department Explosive、トリメチレントリニトロアミン)といった高
温切断爆薬が使われたことの根拠として、ジェット燃料の燃焼では生じるはずのない融解した鋼
鉄が現場で発見されたと主張している。
しかし、この主張に対して、(1) 爆破解体では熔融した鋼鉄は発生しない、(2) WTC の現場に熔融
した鋼鉄の痕跡は見つかっていない、と2重に矛盾していることが指摘されている。爆破解体が
行なわれたという根拠はどこにもない。
さらに付け加えれば、9 月 11 日以前に、誰が、いつ、どうやって、爆破解体用の爆薬を仕掛けた
のか?という疑問には誰も答えられない。
ナノサーマイトの項目も参照。
(注)
スティーヴン・ジョーンズ博士は WTC の制御解体説だけでなく、「常温核融合」の発見(?)者
としても有名である。また、
「キリストが古代アメリカを訪れた証拠」と称する記事「Behold My
Hands: Evidence for Christ's Visit in Ancient America」
(ブリガムヤング大学のウェブサイトに200
5年11月24日に掲載されたもの)も書いていたりなんかする。
■制御爆破解体を否定する論文
4
・「What Did and Did Not Cause Collapse of World Trade Center Twin Towers in New York?」
Zdenek P. Bazant, Jia-Liang Le, Frank R. Greening, and David B. Benson, J. Engrg. Mech. Volume
134, Issue 10, pp. 892-906 (October 2008)
Mark Roberts のサイトから、この論文の原稿の pdf ファイルをダウンロードできる。
■爆破解体用の爆発物では鋼鉄は融解しない。
Popular Mechanics 誌のインタビューに答えて、「Controlled Demolition Inc.」社の Mark Loizeaux 氏
は、Jones 博士は爆発物の特性を理解していないと証言している。こうした爆発物は高温をもたら
すが、爆轟の速度は秒速8キロ以上になり、物理的な力によって鋼鉄を爆切する。熱により融か
して切断するのではない。(文献1) ウィキペディアの「成形炸薬弾」の項目を見てみると、成
形炸薬弾では液体金属の超高速噴流(メタルジェット)が起こるらしい。ただし、以下のように
述べられている。
成形炸薬の装甲侵徹原理で「高温のガス・メタルジェットによって装甲を融かして穴を開け
る」というような誤解をされる事があるが、前述した通り、装甲が液体として振舞うのは主と
して温度ではなく圧力によるためである。メタルジェットは液体として挙動するが固相の金
属その物であり、断熱系のため、ジェットの発生しているような短時間に爆発の熱が装甲に伝
導し溶融するほどの高温になることは無い。
サーマイトなら、鋼鉄を融かすのかもしれないが、ふつう爆破解体には使われない。爆破解体の
場合も、成形爆薬による爆切が一般的なようだ。サーマイトは軍事的には焼夷弾に使用され、第
2 次世界大戦では、米軍の日本爆撃に使われた。なお、サーマイトを改良した「thermate」という
ものも存在する。
■鋼鉄よりもアルミ合金のほうが融点は低い。
融解した鋼鉄が存在する証拠として、火事の発生した階の亀裂からオレンジ色の融けた金属のよ
うなものが流れ出ている映像をよく陰謀論者は参照する。しかし、鉄の融点は 1535 ℃ (1808 K) で
あり、これよりも融点の低い物質は鉄よりも簡単に融けるということを陰謀論者は無視してい
る。たとえば、アルミニウムの融点は 660 ℃ (933 K) であり、航空機の機体にはアルミ合金が使わ
れている。
ところが、アルミの放射率は 0.12 と鉄の 0.4 よりも低いため、融点付近のアルミは銀色に見える
可能性がある。ただし、融点よりも高温になればオレンジ色になる。さらに、燃焼の際にアルミ
が酸化し、一部が酸化アルミニウムに変化していれば、酸化アルミの放射率は 0.44 と鉄と同程度
である。よって、酸化アルミが融けたアルミに混じっていれば、オレンジ色に見える可能性があ
る。
しかし、アルミの比重は 2.7 であるのに対し、酸化アルミの比重はα -Al2O3 が約 4.0、γ -Al2O3
が約 3.6 と、アルミよりだいぶ重い。つまり、普通ならば酸化アルミは比重の軽い融けたアルミの
中に沈み込んでしまう。ただし、流れ落ちる融液に関しては、比重の違いによる重力の差は生じ
ないので、オレンジ色に発光する酸化アルミが見えてもおかしくない。
板ガラスも 730 ℃程度で融けて流れ出すが、その放射率は 0.94 程度である。よって、WTCで目
撃された融けた金属のようなものが、高温の熔融アルミ、もしくは、アルミと酸化アルミ、融け
たガラス、その他いろいろな不純物の混合物であれば、オレンジ色に見えてもおかしくない。(文
献4)
5
サウスタワーから流れ出るオレンジ色の溶融金属らしきものの動画と、それがアルミであろうと
いう解説を YouTube の「9/11 Debunked: "Molten Metal" Explained」で見ることができる。
NIST の報告書(NCSTAR 1-5A)によると、午前9時52分、サウスタワー(WTC2)の80階の
窓の上から、白熱した液体が約4秒間流れ出た。その後、タワーが崩壊するまでの7分間に同様
の箇所から融けた金属のような液体が流れ出るのが観測されたが、WTC2 のほかの箇所や WTC1
からは観測されていない。(文献2) それが観測されたのは、衝突によって生じた建物と旅客機
の破片が積み重なった場所であり、そこでは火災が発生し、建物が倒壊するまで燃え続けた。
融けた金属の正体は、475 ∼ 640 ℃で融ける旅客機のアルミ合金と考えるのが合理的なようだ。
NIST によると、部分的に燃焼する有機物と混ざっており、そのためオレンジ色に発光していたと
考えられる。また、表面に形成されたスラグもその色に影響を与える。
この件については、
「PULL IT ( ボーイングの行方 )」の「( 参考 ) 流れ落ちる物質についての NIST
の説明」も参照。
■斜めに切断された鉄骨
サーマイトが使われた証拠として、陰謀論者がよく参照する写真のひとつに、WTC の瓦礫の中に
立つ、斜めに切断された鉄骨の写真がある。ところが、
「Debunking 9/11 Conspiracy theories」のこ
ちらのページ「Rethinking Thermite」によると、WTC の跡地で建物の残骸の解体作業中に、溶接器
により鉄骨を斜めに切断している作業員の写真が存在する。サーマイトには指向性がないため、
切断面がこれほどきれいになることはない。
鉄骨が 9 月 11 日のテロ当日に、爆破解体で切断されたものだという証拠はどこにもない。以下の
YouTube の動画では、解体作業中の作業員が、鉄骨を切断したと証言している様子が紹介されて
いる。
・「9/11 Debunked: Columns Cut not by Thermite」
・「WTC: Thermite or Thermic Lance?」 (Thermic Lance:鋼鉄切断機)
■倒壊は自由落下ではない
陰謀論者は、爆破解体だったことの根拠として、ツインタワーの倒壊速度が異常に速いことをあ
げている。ウィキペディアの「アメリカ同時多発テロ事件陰謀説」の項目では、
「崩壊速度は真空
での自由落下速度に匹敵する」という記述がある。ツインタワーの屋上の高さから何かを落とし
た場合、地球の重力加速度のもとで真空を仮定すると、地上に落ちるまでにかかる時間は 9.22 秒
である。
旅客機の衝突より上の部分(WTC1 で12階、WTC2 で28階)が下部の構造の上に落下したが、
その構造は上階の静的な重量を支えるようにしか設計されておらず、動的な力には無力であっ
た。落下の進行にともない、落下物の質量も増加するので、下部の構造にはさらに大きな負荷が
かかるようになり、高速の崩壊が起こった。(文献19)
しかし、建物の倒壊自体は自由落下でないのは明白である。なぜなら、建物自体よりも、剥がれ
た外壁やその他の破片のほうが先に落ちているのが、崩壊時に撮られたどのビデオや写真からも
6
明らかだからだ。たとえば、
「The towers did not fall at or below free fall speeds」や「Freefall」を参照。
NIST のビデオ検証による推定では、外壁が地上に落下するまでかかった時間は約11秒(WTC1)
と9秒(WTC2)である。(文献19) 建物自体が崩れるには、もっと時間がかかっている。ビデ
オ画像などの証拠から、倒壊開始後、ツインタワーの核の部分(WTC1の約60階分とWTC
2の約40階分)は15秒から25秒、倒壊せずに立っていたことがわかっている。
当時のビデオ画像を見てみると、実際の倒壊には10秒以上かかっているようだ。こちら
「Freefall? Video evidence」
(写真をクリックすると動画が見れる)では、WTC2 の倒壊に 12.5 秒以
上かかっているとしている。YouTube のこちらの動画「9/11 Debunked: World Trade Center - No
Free-Fall Speed」では、外壁が崩れ落ちた後も、建物の核の部分がしばらく煙の中に立っているの
が示されている。こちらによると、サウスタワーとノースタワーが倒壊するのにかかった時間
は、それぞれ約15秒と約22秒だそうだ。
ツインタワーが崩壊したように見えた後も、内部の鉄骨コア構造がしばらくの間、そのまま建っ
ている様子を見ることのできる映像は他にもいくつかある。
・「Dramatic video evidence proves NIST, FEMA correct.」 WTC2
・「Dramatic video evidence proves NIST, FEMA correct.」 WTC1
・「North Tower Collapse」 WTC1
■ Scott Forbes 氏の証言について
WTC に、いつどうやって制御解体用の爆薬が仕掛けられたかは、911陰謀論支持派の誰も、き
ちんと説明することができない。ところが、総合投資銀行フィデュシャリー・トラスト(Fiduciary
Trust)社のデータ・ベース管理部長スコット・フォーブス(Scott Forbes)なる人物が、9/11 直前
に怪しげな工事が WTC2 内部で行われていたと証言している。(文献10∼13) フォーブス
氏は WTC2 の 97 階で働いていたそうだ。しかし、彼の証言も信憑性の低いものだということはす
ぐわかる。(文献14∼16) フォーブス氏の証言をまとめると次のようになる。
・4∼6週間にわたって98階からドリルやハンマー等の重機を使うようなすごい騒音が聞
こえ、振動も感じた。
・その階のテナントの Aon の人々はいなくなり、事務所は完全に空になっており、そこら
じゅう埃だらけだった。
・港湾当局による“パワーダウン”(停電)の通達があったので、9/11 直前の週末もその対
応のために働いていた。
・パワーダウンがあったのは、50 階あたりから上の階。開始が 9/8 の土曜(朝もしくは昼)
で、終了したのが 9/9 の日曜(午後)。(時間帯の記憶ははっきりしていない)
・土日にはバッジも付けていない見慣れぬ作業員がビル内を行き来していた。あの日、出勤
していた全員が彼らを見た。
しかしフォーブス氏の証言に反して、こうした証言をしているのは彼だけである。実際に工事が
行われていた98階のテナントだった企業の社員からの証言も、彼の同僚からの証言もない。ま
た、こうした工事が行われたということを示す文書も残っていない。WTC2 の50階より上で停
電があれば、当然大勢の人が憶えていてもいいはずなのだが、フォーブス氏以外の証言はないの
だ。もし仮に停電が本当だったとすると、土曜の晩には WTC2 の上半分の灯りは消えていたはず
で、外から見ても停電だったということがわかるはずだが、そのような目撃証言もない。
7
停電のあった期間も文献12の36時間から文献13の26時間まで証言を変えている。また、
文献13「Interview with Scott Forbes」のインタビューでは次のように述べており、本当に大規模
な停電があったのか、彼自身の証言もはっきりしない。
下の階で停電があったか、はっきりと私には確認はできない…私に言えることは、我々は停電
があることを知らされていたということだ。そのため、我々はすべてのシステムを停止し、つ
ぎの日にすべて立ち上げ直さねばならなかった…
また、上層階へのエレベーターも稼働していなかったとのことだが、この話も信憑性はない。
Color International Productions の「September 11, 2001...」
(文献18)では、
『今日興味深いメールが
届いた。2001年9月8日の日付が着いた世界貿易センター最上階へのチケットの半券のス
キャンが添付されていた。ほんの3日前、友達の友達があそこの上まで行っていたんだ』として、
その半券の写真を公開している。これは WTC2 の107階にあった展望階(Top of the World
Trade Center Observatories)へのエレベータのチケットである。つまり2001年9月8日もエレ
ベータは稼働しており、観光客が107階まで登っていたのである。
パ ワ ー ダ ウ ン が あ っ た と い う フ ォ ー ブ ス 氏 の 証 言 は、陰 謀 論 に 肯 定 的 な 9-11 Review の
「UNLIKELY: 'The South Tower Was Powered Down Before the Attack'」でも、信憑性が低いとされて
いる。その理由として以下の4つが挙げられている。
1. 攻撃の直前にタワーの半分を停電させる、といったあからさまなことを犯罪者がやるとは
思えない。そんなことをすれば、たくさんの会社のビジネスを大いに妨害することにな
り、何千人もの人に気付かれるだろう。 停電の準備のために、多数のメールが送信され、
多くの社員がたくさんの仕事をこなさねばならなくなる。
2. さらにおかしいのは、タワーの半分のためだけにそんな過激な行動をとるということだ。
なぜ、南タワーの上階のためだけにそんな停電が必要だったのか。 なぜその他の箇所の似
たような停電は誰にも気づかれずにすんだのか?
3. 制御解体の準備作業のための偽装工作として、ケーブル拡張のための停電とは笑える話
だ。データ帯域のためのケーブルの拡張は、交流電源の遮断をまったく必要としない。 交
流配線の拡張が行われたとしても、古い配線と並行して、新しい配線を取り付け電源を投
入することが可能だ。どんな停電であっても、数分間に抑えることが可能だろう。タワー
の大部分を36時間にわたって停電させようとしたら、テナントから猛抗議を受けるはず
だ。
4.(フォーブス氏の)e- メールの主張に反して、警備カメラは停電しない独立した電源を使
用するよう設計されている。警備システムへの電源が停止したとしても、多くの扉は閉鎖
されたままで、鍵なしでは開けられなかっただろう。
■アスベスト
ウィキペディアの「アメリカ同時多発テロ事件陰謀説」の項目には、なぜ WTC が爆破されたかと
いう理由の一つとして、以下のようなことが書かれてある。
・ビルには有害なアスベストが多く使われており、それを除去するだけでも 10 億ドル以上
かかると言われ、頭の痛いお荷物となっていた。
しかし、10 億ドル払うのが嫌で、再建費が推定60億ドル以上かかる建築物を壊し、さらに 2602
人もの人間を巻き添えにして殺したという主張は、もはや正気の沙汰ではない。
その他
■ウィリアム・ロドリゲス氏について
ウィリアム・ロドリゲス (911 陰謀論)を参照してください。
8
■「純粋水爆説」という珍説
純粋水爆説 (911 陰謀論)を参照してください。
■スーパーナノサーマイト(?)の発見
ナノサーマイト (911 陰謀論)を参照してください。
■爆発音について
・「Space, Earth and the Sounds of Explosions」 Debunking 9/11 Conspiracy Theories
・「What they actually described hearing in & around the towers」 JREF Forum
・「The Sept. 11 Records」 The New York Times, 消防士らの証言記録
■エンパイア・ステート・ビルディングへの B25 爆撃機の衝突
・「Empire State B-25」 911Myths... Reading between the lies
・「B-25 Empire State Building Collision 」 Aerospaceweb.org
・「1945 B-25 bomber crash」 Debunk 9/11 Myths
■ 175 便の「ポッド」
・「Analysis of Flight 175 "Pod" and related claims」 by Eric Salter with contributions by Brian
Salter, questionsquestions.net, 9 September 2004
・「Where's The Pod?」 Popular Mechanics, Published in the March 2005 issue.
■重力で破片は水平方向に飛ばない?
・「Explosive force」 911Myths
・「力はベクトル量」 PULL IT ( ボーイングの行方 )
■ノーデ兄弟
・「ノーデ兄弟のディラン = エイブリー氏への書簡について」 PULL IT ( ボーイングの行方
), 2008/02/27
■消防隊員の交信テープ
・「オリオ・パーマー大隊長の最後の声」 PULL IT( ボーイングの行方 )、2010/03/22
・「オリオ・パーマー隊長の最後の声 その 2」 PULL IT( ボーイングの行方 )、2010/03/23
■事前情報
・「Stories of prior knowledge of 9/11 more than urban legend」 Insight on the News, Oct 1, 2002 by
Jeffrey Scott Shapiro
参考文献
1.「Debunking 9/11 Myths: Why Conspiracy Theories Can't Stand Up to the Facts」 Brad Reagan (
編集 ), David Dunbar ( 編集 )、Hearst Books (2006/8/28)
2.「NIST and the World Trade Center: Publications」 米国標準技術局(NIST)のサイト
3.「World Trade Center Building Performance Study: Data Collection, Preliminary Observations, and
Recommendations」(FEMA 403) アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)のサイト
9
4.「Molten Metal」:「Debunking 9/11 Conspiracy theories and Controlled Demolition Myths」のサ
イト
5.「A CRITICAL ANALYSIS OF THE COLLAPSE OF WTC TOWERS 1, 2 & 7 FROM AN
EXPLOSIVES AND CONVENTIONAL DEMOLITION INDUSTRY VIEWPOINT」 By Brent
Blanchard. August 8, 2006. c-2006 www.implosionworld.comna
6.「9/11 Commission Report: Final Report of the National Commission on Terrorist Attacks Upon
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7.「Mechanics of Progressive Collapse: Learning from World Trade Center and Building
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8.「PENTTBOM.com」 by Scott Bingha、FOIA 請求により FBI が公開したツインタワーのビ
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9.「102 Minutes」 by Jim Dwyer、Kevin Flynn、Times Books; 1st edition (December 23, 2004) 邦訳として「9 ・ 11 生死を分けた 102 分」(三川 基好 訳、文藝春秋)がある。
10.「WTC 9/11 の当日前に上の階で大工事が行なわれていた」 YouTube
11.「9/11 直前の WTC パワーダウン ヴィクター・ソーン」 jealous_gay
12.「'Power Down' Condition at the WTC on the Weekend Preceding 9/11」 a message sent by
Scott Forbes to John Kaminski on 2004-04-19.
13.「Interview with Scott Forbes」 George Washington's Blog, Thursday, November 24, 2005
14.「Power Down Debunked」 Screw Loose Change, Thursday, October 25, 2007
15.「9/11 Debunked: No Drop in WTC security pre-9/11」 YouTube by RKOwens4
16.「Weekend power down」 Controlled demolition, Debunk 911 Myths
17.「WTC Power Down」 911 Myths.com
18.「September 11, 2001...」 Color International Productions, Calgary, Alberta, Canada
19.「Answers to Frequently Asked Questions (August 30, 2006)」 NIST の 2 番目の FAQ
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