橘功・前立腺がん闘病記 私の前立腺ガンの闘病も、2004年の11月の

橘功・前立腺がん闘病記
私の前立腺ガンの闘病も、2004年の11月の初診以来7年が経過しようとしている。
なんだかアッという間だったような気がする。この疾病に対しては自分なりに勉強もし、
それなりのアンテナを張って結構気を使ってきた。勿論この間定期点検は欠かさず、
終始免疫療法を続けながら充分な対応はしてきたつもりだ。少なくとも今は前立腺ガ
ン細胞をうまくコントロール出来ている。ガンの宣告を受けたときの悲壮感を思うと、
実に神秘的な運命さえ感じる。このまま自分の寿命の間は静かにしておいてもらいた
い、と乞い願う。
初診ではいきなりのガン宣告。既にステージ C に達していると言われた。
生存率は5年。全摘手術を勧められた。しかし手術は、ガンが前立腺の被膜から外へ
浸潤しかけているため、まずホルモン療法でガンをたたき縮小させてからとなった。
04年12月24日にホルモン療法を開始した。丁度3ヵ月経過した時点でPSA値は8.
3から0.35にまで低下した。0.2まで下がると、いよいよ手術となる。しかし、PSA
値がこれ程まで低レベルまで下がると、心変わりしてきた。術後のトラブルの多い手
術を断念、ホルモン療法(ゾラデックスの注射)も中断することにした。しかしやや不安
もぬぐえなかったので飲み薬カソディックス(補助薬)だけは続けることにし、当初から
並行して行っていた免疫療法と食事療法だけに絞った。もともと放射線関連の治療法
は私の選択肢にはなかった。ゾラデックスの薬効は確かに大きかったが、それ以上に
かなりの副作用に悩まされたことが、中止を決意させた理由の一つでもあった。通常
投薬を中断するとまた元の状態、つまりPSA値の高い状態に戻ってしまうのだが、私
の場合はそれよりも副作用(*1)の辛さの方が大変だった。もし投与を続けていても、
癌がホルモン剤に対する抵抗力を持つようになり、いずれは薬の効果がなくなる時が
来る、ということも分かっていた。何よりも大きな理由は、このまま免疫療法だけで、だ
ましだましガンと共存していけるのではないかと言う実感から来る期待だった。それに
中断するという処置は薬効の延命に実際に役だつのだから、問題は以後のスパンを
どれだけ伸ばせるか、を考えればよいのだと判断した。ホルモン療法を中止してから
PSA値はやはり微妙に上昇しつつあったが、でも日常生活には何の支障もなかった。
しかし油断は禁物。相手はゲリラ戦が得意なガンである。
(*1)ホルモン療法の副作用と思われるもの
筋力が退化する
からだが急に火照りだす
顔に汗がよく出てくる
乳房が大きくなる
乳頭が痛くなる
お腹がカエルのようにふくれてくる。(腰まわり、下腹部が太る)
腹・太ももに赤い斑点が出る
脇毛・足毛・陰毛が抜けてくる
睾丸・陰茎が小さくなる。
インポテンツになる。
身体の一部分がやけどしたように熱くなる。
夜中、胸からお腹に神経がビリビリきて眠れない。
夜中、幻覚症状や妄想、金縛りにあう。
良いこともある。
髪の毛が生えてくる。
肌がすべすべしだす。
など
ホルモン療法による PSA 値の減少はガンが縮小して活動しなくなっているだけで,消
滅したわけではない。やがて薬が効かなくなるとガンは再燃し,現状ではその時点で
の治療法はない、と言われる。だから,ガンが縮小したら早いうちに次の手を考える
必要がある。ガンの度合いによっては完治することも可能だという。
●初診の診断結果
骨シンチグラフィ・・・骨に転移を認めず
MRI・・・リンパ節などに転移を認めず
ステージ・・・C
●治療計画
04.12.09 SSM療法開始(免疫療法)隔日注射
04.12.10 エバレット・フォーミュラー療法開始(免疫療法)毎日3回飲用
04.12.24 ゾラデックス(LH-RH アナログ)開始・(月1回皮下注射)
カソデックス(抗男性ホルモン作用薬)開始(毎日1回錠剤)
05.03.24 手術中止を決断、LH-RH アナログも中断する。
* ゾラデックス注射は脳の下垂体に作用し男性ホルモンの分泌を低下させ,
睾丸摘出(去勢術)と同程度の効果がある。
ゾラデックス LH-RH アナログについて
LH とは Luteinizing Hormone(黄体ホルモン)のこと,RH とは Releasing Hormone(解き放
すホルモン)のこと,アナログとは類似品のことなので,黄体ホルモンを放出させるホル
モンと同じような働きをする類似薬品のこと。下垂体に働いて精巣で男性ホルモンが
つくられるのを阻止する。このホルモンが発明されるまでは去勢手術をしていた。
カソディックス
ビカルタミドの製品名(アストラゼネカ製)。アンドロゲン(男性ホルモン)の前立腺作用
部位(受容体)にはたらいて,その結合を阻害して,アンドロゲンの前立腺ガンの増殖作
用を抑制します。LH-RH アナログの補助的なもので根本治療薬にはなりません。
副作用 ときに,重い肝障害があるので 2-,3 ケ月ごとに肝機能検査が必要。血圧
降下剤との併用は可。2-3 ケ月後に効果を再確認して次の方針を決める。
ステージの参考
臨床病期の分類法にはたくさんの分類法がありますが,日本泌尿器科学会が用いて
いる規約によると次のように分けられています。
病期 A(ステージ A)
ガンではなく、良性病変の診断のもとに手術を受けて、切除された組織内に偶然発見
されたガン(偶発ガン)をいいます。
(A1)前立腺内に限局した 1.0cm 以下の病変で高分化のガン(性質のおとなしいガン)
をいいます。
(A2)前立腺内にびまん性(1ヶ所にとどまらず、拡がった状態)に拡がったガン、もしく
は中または低分化のガン(高分化に比べ悪性度の高いガン)をいいます。
以下は臨床的に前立腺ガンを疑って、吸引細胞診または針生検により組織学的にが
んと診断された病期です。
病期 B(ステージ B)
前立腺内に限局するガンをいいます。
(B1)前立腺を左右に分けると、その片側に病変が限局している 1.5cm 以下のガンを
いいます。
(B2)前立腺内の 1.5cm を超えるガン、またはびまん性や結節性(かたまりとして発育
する状態)に拡がるガンをいいます。
病期 C(ステージ C)
前立腺被膜を越えかかっているが、リンパ節への転移がみられないガンをいいます。
前立腺に隣接する精嚢(せいのう)、膀胱頸部への拡がるガンも含みます。
病期 D(ステージ D)
前立腺被膜を越えて拡がり、臨床的に明かな転移巣がみられるガンです。前立腺内
でのガンの大きさは規定されていません。
(D1)規約に定められている骨盤内のリンパ節転移がみられるガンをいいます。
(D2)D1 より広い範囲のリンパ節や骨、肺、肝臓などの離れた部位の転移がみられる
ガンをいいます。
大きく分けると、ガンが
1. 前立腺内に限局している場合(ステージ A)
2. 前立腺周囲に拡がっているが転移がない場合(ステージ B、C)
3. リンパ節転移がある場合(ステージ D1)
4. 遠隔転移がある場合(ステージ D2)
の4つに分けられます。
2005年3月にホルモン療法を中断してから約半年後のマーカー値は当初の8.36
に戻ってしまった。しかしホルモン療法の再開はしなかった。やればすぐ下がるのは
予想出来た。担当医とも相談したがPSA値がどの程度になったら「内分泌療法を再
開して治療に入る」という数値的ガイドラインも今のところない。どうもあまり切迫感が
感じられないまま「様子をみましょう」ということのなり、とにかく先に延ばした。
しかし、その3ヶ月後数値は徐々に上昇し15まできたので、再びゾラデックスを始め
る。以後、下がれば中断、上がれば再び続行する間欠療法(注2)をとる。あいかわら
ず続行中の副作用には苦しめられている。
がん宣告当時、私のステージ C では5年生存確率は種々の専門書からみておよそ7
0パーセントだった。幸いなことに2011年11月で丸7年をになる。つまりホルモン剤
という薬の力を借りながら、あまりスッキリ喜べない形ではあるが最初の高いバリアを
越えた。次に目指すのは10年ということになる。これも同専門書によると10年生存
確率はおよそ40%になる。5年から10年の間で数字が70%から40%に大きくドロ
ップするのをどう考えるかだが、これも統計上の話。こういった数字にはあまり振り回
されたくないものだ。
何時またがん細胞が暴れだすかもしれないが、いま日常生活では自分がガン患者で
あったことを全く忘れている。しかし体内でのがん細胞の完全撲滅、完全エポトーシス
には至らず、やむなく共存を許しているわけで軒先をガンに貸した状態だから、母屋
を乗っ取られないようしばらくはアンテナを十分広げて、ガンからの怪しげなサインを
見落とさないようにしなければならない。最近の朝日新聞の記事『早期前立腺がん摘
出後2割再発』で、厚生労働省研究班が全国調査で判明したこととして「早期前立腺
摘出手術を受けた人の約2割で、PSA 値が再上昇することがわかった」と報告してい
る。
日常生活のモットーとして禁酒・禁煙はもちろんだが、のんびりゆっくり、嫌なことはし
ない、ストレスを避ける、食生活に注意、適当な運動を心がけている。がんは生活習
慣病だからライフワークの改善でリンパ球NK細胞活性を促し、がん再発の予防につ
なげたいものだ。
好きなゴルフも充分にプレー出来る。太陽の下、四季を感じながら緑の芝生の上を歩
く。私にとっては夢のようだ。一時は、諦めと暗たんたる気持だったことがいまだに信
じられない。(2011年10月)
(注2)間欠療法
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110829/dms1108290947005-n1.
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