1 第1章 子供服・ベビーカー 1-1.アパレル分野のニーズ 子供用衣服は大人用衣服に比べてゆとりが多いため、計測精度はそれほど 要求されない。また、じっと同じ姿勢を保つことが難しいため、細かい部位の 寸法は計測せず、算出寸法や参考値を用いることが多い。 具体的にどのような寸法項目が使われているかを調べるために、生後 6 ヶ 月から 2、3 歳の乳幼児を対象とした乳幼児服 9 点(ロンパース、ベビーブルマ ース、ショートケープ、ベビースーツ(女児用)、カバーオール、オーバーオー ル、ベビーキャップ、ベビーシューズ)、3∼6 歳の子供を対象とした子供服を 13 点(スカート(女児用)、ワンピース・ジャンパースカート(女児用)、キュ ロットスカート(女児用)、少女用スパッツ(女児用)、幼児用パンツ、少年用 半ズボン、ジャンパー、ベスト、ポンチョ、ショートジャケット(女児用) 、コ ート、ショート丈防寒コート、パジャマ)選び、それらの型紙から採寸項目を 特定した。表1-1、乳幼児を対象とした衣服の型紙設計に使われる人体寸法項 目の計測方法を示す。項目の定義は以下の書籍を参考にした: ドレメファッション造形講座8 文化ファッション講座 ベビィ・子供服 子供服。 表1-2に、3∼6 歳の子供用衣服の型紙設計に使われる人体寸法項目と計 測方法を示す。 大人用衣服と子供用衣服の両方を製造しているメーカがほとんどないこと から、それぞれ独自のノウハウを必要とし、蓄積していると考えられる。ある 大学の教官からの情報によると、子供服メーカは独自にデータを蓄積している が、データを公開してはいない。子供服メーカは、必要とする人体寸法を自力 で計測する能力を持っており、データを持っていること自体が企業の競争力と なっている可能性がある。 2 表1-1.アパレルのための乳幼児(0-2 歳)計測項目とその定義 項目名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 身長 体重(kg) 頭囲 頚付根囲 バスト(胸囲) 腹囲 ヒップ(腰囲) 胴縦囲 腕回り 手くび囲 掌周り(a) 掌周り(b) 大腿最大囲 下腿最大囲 背肩幅 総丈 背丈 袖丈 計測方法* 眉間点と後頭点を通る周径 バストポイントを通る周径 へそを通る周径 乳幼児の場合、オムツの上から計る 腕をまっすぐに下げ、上腕の最大囲 親指を内側に入れて計る 親指を除いた掌回り ふとももの最も太い周径 ふくらはぎの最も太い周径 後ろ中央頚椎点からウエスト(乳児は腹囲)まで体に沿って計る ショルダーポイントから腕に沿って肘のポイントまで計り、そこか ら手首の点の下まで計る ウエストから股高まで、オムツの上から計る 股から垂直に外果(外くるぶし)の中央まで 股上 股下 臥位股の高さ 臥位右上前腸骨棘 高 23 膝高 膝から床まで 24 外果高 外果(外くるぶしの中央)から床まで 25 足長 かかと中心と最長指の先端を直線で結ぶ長さ *:ドレメファッション造形講座8 ベビィ・子供服、文化ファッション講座 子供服参照 3 表1-2.アパレルのための幼児(3-6 歳)計測項目とその定義 項目名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 身長 体重(kg) 頭囲 頚付根囲 バスト(胸囲) ウエスト(胴囲) 下胴囲 臍位腹囲 ヒップ(腰囲) 胴縦囲 腕回り 手くび囲 掌周り(a) 掌周り(b) 大腿最大囲 下腿最大囲 背肩幅 肩幅 総丈 20 背丈 21 臍位背丈 22 袖丈 計測方法* バストポイントを通る周径 胴の一番細いところを通る周径 少年のウエスト ヒップが後ろに突き出た点を通る周径 腕をまっすぐに下げ、上腕の最大囲 手くび点を通る周径 親指を内側に入れて計る 親指を除いた掌回り ふとももの最も太い周径 ふくらはぎの最も太い周径 ネックポイントからショルダーポイントまで 背丈から続けて測る。ヒップまでは身体にそわせ、そこから床まで垂 直に測る 後ろ中央頚椎点からウエストまで体に沿って計る ショルダーポイントから腕に沿って肘のポイントまで計り、そこから 手首の点の下まで計る ウエスト(少年の場合は下胴囲)から股高まで 股から垂直に外果(外くるぶし)の中央まで 23 股上 24 股下 25 股の高さ 26 臍高 27 上前腸骨棘高 28 胴高 ウエスト(少年の場合は下胴囲)から床まで 29 膝高 膝から床まで 30 下腿最大囲の高さ 31 外果高 外果(外くるぶしの中央)から床まで 32 足長 *:ドレメファッション造形講座8 ベビィ・子供服、文化ファッション講座 子供服参照 4 1-2.ベビーカー・チャイルドシート 安全性の観点から、ベビーカーとチャイルドシートを対象製品として選ん だ。 ベビーカーについては、製品安全協会の認定基準(Safety Goods 基準)に より、首がすわる生後 2 ヶ月ころから使える A 型と、おすわりができるように なる 7 ヶ月ころから使える B 型の二種類を定めている(表1-3) 。これらは、 人体寸法よりも、乳児揺さぶり症候群(揺さぶられっ子症候群)(Shaken Baby Syndrome)に対する危惧から、振動の吸収性を重視している。乳児揺さぶり症 候群とは、乳幼児の頭部が強く揺さぶられることにより、脳の表面と頭の骨の 裏にある静脈を結ぶ血管が引きちぎれて出血することにより、脳に障害が起こ ったり、視力障害を起こったりすることをさす。 大きな加速度のかからないベビーカーについては、人体寸法よりも衝撃吸 収性が安全性の面からの重要項目である。 表1-3.ベビーカー(Stroller, Pushchair)の分類 比較項目 A型 B型 姿勢 使用月齢 望ましい連続使 用時間 背もたれの角度 寝かせた状態で使用できる 生後2か月∼満2才 2時間以内 背もたれに寄りかけ座らせて使用する 生後7か月∼満2才 1時間以内 リクライニング機構があって、最も倒し たときの角度が 130°以上 180mm 以上 70%以上 110°以上(リクライニング機構がなくて もよい) 115mm 以上 50%以上 タイヤの径 振動吸収率 チャイルドシートは対象者によって乳児用(体重10kg未満の乳児を対象。 身長70cm以下、新生児から1歳くらいまで)、幼児用(体重9∼18kg以下の幼児を 対象。身長65∼100cm以下、1∼4歳くらいまで)、学童用(体重15∼36kg以下の 子供を対象。身長135cm以下、4∼10歳くらいまで)に分けられる。チャイルド シートの車体への固定方式には2点固定式と3点固定式がある。 国土交通省と自動車事故対策センターは、平成 13 年度から市販のチャイル ドシートの安全性能について試験をし、その結果を公表している (http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/crs/default.htm)。試験は前面衝突 試験(前面衝突時におけるチャイルドシートによる子供の保護性能を評価する) と使用性評価試験(取り付け方を誤るなど、不適切な使用を防止する観点から 5 チャイルドシートの構造や表示などについて評価する)を行う。安全性能試験 では、ダミー(乳児用チャイルドシートでは9ヶ月児ダミー(P3/4)また は6ヶ月児ダミー(CRABI6か月児ダミー)、児用チャイルドシートでは 3歳児ダミー(HybridⅢ-3Y0))を乗せたチャイルドシートを骨組みのみ の試験用車両の 2 列目右側座席に取り付け、時速 55km での前面衝突時と 同様の衝撃を発生させる。その時のダミーの頭部、胸部にかかった衝撃や ダミー頭部の挙動などを用いて安全性能を評価する。評価項目は、乳児用 チャイルドシートではチャイルドシート取付部等の破損、衝突時のチャイルド シート底面の傾き、衝突時の頭部の前方への移動量、衝突によって胸部にかか る力(胸部合成加速度)、衝突時に生じたその他の事象である。幼児用チャイル ドシートでは、チャイルドシート取付部等の破損、衝突時の頭部の前方への移 動量、衝突によって頭部にかかる力(頭部合成加速度)、衝突によって胸部にか かる力(胸部合成加速度)、衝突時に生じたその他の事象である。 大きな加速度のかかるチャイルドシートについては、人体寸法よりも衝突 時の人体の挙動を左右する質量配分や慣性モーメントのような、体節別の身体 特性パラメタが重要だと考えられる。
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