管理規約入門

2005.10.22. 東京・文京区
管理規約入門
∼住みよいマンションを実現するためのルール∼
村井忠夫
マンションは取り壊されない限り、同じ場所に何十年も建ち続けます。ですから、マンションが建ち続け
ている間は何十年にもわたってその住みやすさが確保されていなければなりません。マンションが建っ
ている限り、そのマンションの管理組合もしっかりした組織として運営されていることが必要です。
そうしたことが実現するための条件の中で一番大事なものは、基本的なルールとなる約束事がつくられ
ていてそれをみんながきちんと守るという、ある意味では当然のことです。
今ここで 基本的なルールとなる約束事 という呼び方をしたものが、管理規約です。管理規約こそは管
理組合がきちんとした組織として成り立つための一番中心となる最大のルールであり、マンションの住み
やすさを確かなものとして確保するための最も大事なよりどころです。ですから、そのよりどころがマンシ
ョンの実情を反映しているかどうかをつねに見直すことは、想像以上に重要な意味を持っています。また、
そうした見直しを重ねていってこそ、始めて管理組合は望ましい運営ができることになります。
そういう重要な意味を持つ管理規約の原形となり ひな形 となるものが、標準管理規約です。この標準
管理規約を手がかりにしながら、管理規約の持つ意味の大きさを管理組合運営という側面から考えてみ
たいと思います。
■1.管理規約とは何か:法律をよりどころとしてマンションの住みや
すさを確保するための基本的なル−ルである
そもそも、管理規約とは、いったいどういうものでしょうか。
1−1.管理規約は分譲マンションの住宅所有者同士の関わり方を取り決めたルールである
マンションは多くの住宅の固まりです。基本的にこの点が一戸建て住宅と大きく異なるために、マンショ
ンは集合住宅と呼ばれます。一棟の建物の中の住宅の数がどうなっているか、特にその住宅を「誰が持
っているのか」ということは、住みやすさを確保するための「管理を誰が引き受けるのか」という点で大きな
関係があります。それは、「管理」がその住宅の所有者の課題だからです。
マンションの場合、この点はどうなるでしょうか。外から見れば同じような集合住宅であっても全部の住
戸が貸家なら賃貸マンションですから建物全体を持つ所有者はきわめて僅かですが、分譲マンションと
なると個々の住宅ごとに所有者がたくさんいますから、管理の進め方が基本的に大きく違います。この点
で、分譲マンションは大勢の住宅の所有者が集団となり組織を作って管理を進めるところだと言えます。
さて、「住宅を所有する」ことは、とりもなおさず「不動産を持つ」ことを意味します。その不動産の所有者
が大勢いれば、所有者同士の関わり方を整理するル−ルが必要になります。一戸建て住宅と違って、マ
ンションには屋根や壁など個々の住宅の所有者が同士お互いに切り離せない形で関わりあっている部
1
分が建物のいたるところに存在するからです。
こうした事情があるために、マンションでは住戸の所有者同士の関わり方をきちんと整理するためのル
−ルがどうしても必要になります。このル−ルこそが、管理規約です。
1−2.管理規約のよりどころとなる考え方は区分所有法によって定められる
しかし、不動産である住宅を所有する場合のル−ルは根拠がしっかりしていなければなりませんから、
確実なよりどころが必要になります。そのよりどころとなるものが、法律です。法律という裏付けを用意しな
いと不動産の所有者同士の関係がそれぞれのマンションごとにバラバラになってしまい、社会全体から
見て無秩序なル−ルの存在そのものがかえって新たな問題になるからです。
そうした事情がありますので、管理規約の内容は少なくともその重要な考え方の根拠を誰にでも通用
するような形で法律に基づいて定めておくことが必要です。
今ここに述べた法律が、俗に マンション法 とも呼ばれる「区分所有法」です。この区分所有法は 1962
年(昭和 37 年)に生まれました。その後 20 年を経て 1983 年(昭和 58 年)に最初の改正が行われました
が、それから 20 年を過ぎた 2002 年(平成 14 年)に二度目の改正が行われて、一昨年(2003 年:平成 15
年)から施行されました。
この法律の改正は、管理規約というル−ルが成り立つ根拠となる考え方の変更を意味する結果をもた
らしました。考え方を裏付けている法律が変わったのに管理規約がそのよりどころを変更しないままであ
れば、管理規約はルールとしての正しさの根拠があいまいになってしまいますから、この法律の改正は
非常に大きな意味を持つものだと考えなければなりません。
1−3.個々のマンションの実情に沿った具体的なル−ルは管理規約に盛り込まれる
しかし、もともと法律は、現実の問題のすべてをことごとく細かい部分にまでわたって網羅するものでは
ありません。マンションの場合も、この点は同じです。管理組合の役員の決め方とかペットの取り扱い方な
どを具体的にどうしたらいいかといった問題も、その考え方は区分所有法の示す大枠の範囲内で抽象的
で観念的な言葉を使って決められてはいますが、具体的な細部のことについては何もわかりません。
そこで、基本的な方向は区分所有法に沿いながら建物の構造や規模などそれぞれのマンションごとに
異なる個別の実情を反映した現実的なル−ルが必要になります。これが、管理規約です。
■2.標準管理規約とは何か:個々のマンションごとの管理規約のモデ
ルとなる公式文書である
区分所有法は、それぞれのマンションで住宅の持ち主(区分所有者)の団体である管理組合が自分た
ちの考えで管理規約をつくれることを決めています。しかし、いろいろな職業の人が住んでいる管理組
合の実情を考えると、法律が定めていることを忠実に実行するのはそれほど簡単ではありません。何と言
ってもマンションに住む人のほとんどは法律の専門家ではありませんから、法律特有の考え方や言葉の
難しさ、あるいは表現の回りくどさに不慣れなことが多いものです。わかりにくいこの法律の考え方を自分
の住むマンションに当てはめて、自分たち自身が使えるルールとして独自の管理規約を作るということは、
少なくとも 法律の素人 には、それほど容易なことではないという問題が生まれました。
こうした実情を考えて、管理規約を定める場合のモデルないしは ひな形 となる文書が作られることと
2
なりました。そこで、国(旧建設省。現・国土交通省)の手によってまとめられたものが標準管理規約です。
こうしたいきさつがありますから、標準管理規約は管理組合のためのモデルないしはお手本としてつくら
れた公式の標準文書だと言えます。
❈ついでながら、同じような性格の公式の標準文書がもう一つあります。「マンション標準管理委託契約書」が、それです。
管理組合が管理会社との間で結ぶ「管理委託契約書」のお手本となることを目的につくられています。
■3.標準管理規約を理解して活用するためのポイント
そこで、こうしたことを考えると、自分の住むマンションの管理規約を理解して使いこなそうとする場合に
は、まずモデルとなる標準管理規約と照らし合わせながら内容を確かめることが必要になります。その点
を考えて、ここからは、標準管理規約の理解の仕方と活用の仕方を考えていきたいと思います。
まず、第一に知っておきたい点は「標準管理規約は法律ではない」という点です。標準管理規約は、あ
くまでもそれぞれの管理組合が自分たちの考え方やマンションの実情を反映させながら、独自に うちの
マンション向け の管理規約を作る場合の参考として位置付けられる性格の文書です。法律のような強制
力があるわけではありませんから、管理組合が管理規約をまとめる場合の判断材料となる素材としての役
割を持っているとも言えます。
そうしたことを考えながら、標準管理規約を理解して活用するためのポイントをまとめてみると、以下のよ
うになります。
3−1.もともとは新しいマンションの管理規約のモデルとしてつくられていたが、現在は、すでに
出来上がっている管理規約の内容を確かめるための手がかりとなる役割も持つようになっている
一番初めの標準管理規約は、1982 年(昭和 57 年)1 月に生まれました。登場した最初のときの標
準管理規約は、単に新規分譲されるマンションの管理規約のモデルであって、それより前に作られ
た古い管理規約にはそれほど直接的な関係はないと考えられていました。そのことは、当初の標準
管理規約の全般関係のコメントの中に次のような記述があることをみると、わかります。
❈標準管理規約には「コメント」という付属文書がついています。標準管理規約そのものと同じ公式文書としての性格を持っ
ています。「コメント」については、後ほど説明します。
――《コメント(全般関係)》
・・・②この規約は、新規分譲が行われる場合に使用するために作成したものであり、既存のマンションで既
にある管理規約を修正することまで要求するものではない。この規約を使うこととする場合においても、居住時
期、地域、分譲時期等によって固有の事情があるので、慎重を期する必要がある。・・・
ところが、標準管理規約のこの考え方は、1997 年(平成 9 年)2 月に行われた最初の改正のときに
かなり大きく変わることとなりました。その点は、最初の改正のときに、前記の全般関係のコメントが
以下のように書き換えられたことをみると、よくわかります。
――《コメント(全般関係)》
・・・③この規約は、新規分譲が行われる場合に使用するために作成したものであるが、既存のマンションで
既にある管理規約については、特に長期修繕計画の作成等必要な部分について、この規約の規定を参考に
して、なるべく早い時期に修正されることが望ましい。この場合においては、地域、居住時期、分譲時期等によ
3
ってそのマンション固有の事情があるので、慎重を期する必要がある。
下線をつけた部分を比較するとよくわかりますが、当初の考え方が 15 年を経過して大きく変わったこと
がわかります。これは、当初の標準管理規約が生まれてからの 15 年間に新しく分譲された多数のマンシ
ョンの管理規約の内容が あるべき姿 とかなり違っていたために、『既にある管理規約を修正することま
で要求するものではない』などとのんびりしたことを言えなくなってきたからだと思われます。
この点は、最近の二度目の改正ではどうなったでしょうか。最近の改正で国土交通省が発表した公式文
書には、次のようなことが書かれています。
➩国土交通省のホームページ「平成 16 年(2004 年)1 月 23 日付け「中高層共同住宅標準管理規約の改
正について」
――
Ⅲ.標準管理規約改正のポイント
1.マンションに関する法制度の充実を踏まえた改正
(1)標準管理規約の名称及び位置付けの改正
①[省略]
②管理組合はマンションを適正に管理するよう努め、国は情報提供等に努めなければならない旨の適正化
法の規定を踏まえ、標準管理規約を、管理組合が各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際
の参考という位置付けとし、その旨をコメントに記載(コメント全般関係)しました。
・・・・・・・・
Ⅳ.標準管理規約の活用
………
標準管理規約は、管理組合が、各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際の参考であり、
マンションの管理の適正化の推進に関する法律により、マンションの適正管理に努めることが求められている
管理組合に活用され、マンションにおける良好な居住環境が確保されることが期待されます。
要約しますと、現在の標準管理規約の性質は、それぞれのマンションが作っている管理規約の内容が
正しいかどうかをチェックして改正する時の手がかりとなる参考情報として行政機関が提供しているもの
だということになります。
3−2.標準管理規約の「標準」の意味をどう理解したらいいか
そこで、私たちにとって、自分のマンションの管理規約の内容が適切かどうかを確かめる場合のモデル
として標準管理規約をどう理解るかがたいへん大事な意味を持つことになります。その点は、まず 標準
管理規約 という文書の名前にある「標準」という言葉の意味をどう理解するかという問題に集中します。
この問題は、結論から言いますと、あくまで文字通りに理解すればいいのです。この問いかけの答は、
次のような考え方で確かめることになると思われます。
まず、いったい『標準』というのは、何なのかを確かめてみましょう。ちなみに、「広辞苑」をひもといてみ
ますと、次のように説明されています。
標準
①判断のよりどころ。比較の基準。めあて。めじるし。②あるべきかたち。手本。規格。「―に合わない」③いち
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ばん普通のありかた。「―的な家庭。―型」
標準管理規約という名前に 標準 という言葉が使われているのは、分譲マンションの基本的なルール
として管理規約を考える場合のお手本として位置付けられる性格があるからだということがきわめて自然
に浮かび上がります。標準という言葉に一種の物差しとしての意味がこめられていることもわかります。
3−3.全体像を比較すると『標準』の意味が明らかになる:標準管理規約が想定するマンションと
自分のマンションとの比較が鍵
しかし、ここで一つの問題があることに気づきます。それは標準管理規約が想定しているマンションと実
際のマンションとの違いをどう考えればいいかという問題です。これは、前記の通り、標準管理規約を物
差しとして理解するならば、その物差しを使って何を計ろうとするのかという問題でもあります。
3−3−1.マンションは住居専用の 1 棟型ばかりではない
ある意味で、この点は、当初から標準管理規約が直面していた問題でした。そもそも 22 年前に生まれ
た当初の標準管理規約がその前提としていたのは、「一般分譲用の住居専用マンションで、50 ないしは
100 戸程度の中規模で各戸均質のもの」でした。そのため、「住居専用でないマンション」や「中規模でな
い大規模のマンション」などには、この標準管理規約が当てはまらないという問題が生まれました。
そこで、1997 年(平成 9 年)の改正で、この点に配慮が加えられました。当初の標準管理規約が考えて
いた 1 棟で 100 戸程度までの物件のほかに、二通りのマンションが前提となったからです。それが、「団
地型」と「複合用途型」の二通りの標準管理規約の追加でした。この改正によって、1 棟しかないマンショ
ンは「単棟型標準管理規約」を、2 棟以上のマンションは「団地型標準管理規約」を、店舗や事務所のつ
いたマンションは「複合用途型標準管理規約」を、それぞれ 標準 として利用することが可能になりました。
3−3−2.棟数の区別だけでとらえきれない場合はどうする?
しかし、同時に、また新しい問題も生まれました。それは、新規に供給されるマンションの大規模化と多
様化です。現在までの標準管理規約は「1 棟だけか 2 棟以上か」という棟数の大小だけで区別されてきま
したから、1 棟を構成する住戸の戸数は反映できない仕組みになっています。そのため、まず超高層マ
ンションでは、この単棟型標準管理規約がそのまま使いにくいという事情が生まれました。1 棟でさえあれ
ば 30 戸でも 300 戸でも同じ内容のルールになってしまうからです。
似たようなことが、団地型マンションでも生まれるようになりました。団地型標準管理規約が 2 棟以上の
マンションにはすべて適用されるために、2 棟でも 20 棟でも同じ適用の仕方になってしまうからです。一
方、職業形態の変化や小規模小売商店の衰退、IT化の進展によるSOHOの普及などが住居専用型マ
ンションの利用形態を複雑化してきたために、住居専用型であったマンションが利用実態の上では必ず
しも住居専用とは言えない物件に変化するという問題も生まれ始めました。
いずれも、新規供給マンションの形態が複雑になって多様化してきたために、 標準 という言葉で想
定されるマンションのイメージが分かりにくくなってきた現象だと言えます。昨今、増え始めている超高層
超大規模マンションでも、この問題を感じないわけにいきません。二度目の改正を経た標準管理規約は、
現在もこの点については、これまでどおりの 3 タイプのままとなっています。
ただし、だからと言って、こうした実情が必ずしも検討段階でまったく考えられていなかったとは言えな
いと思われます。率直に言えば、検討の際に意識されたものの具体的な対応が非常に難しかったという
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ことではなかったかと想像されます。たぶん、この難しさは、これからも変わらないだけでなく、ますます
顕著になっていくでしょう。それは、新規供給マンション市場の競争が激しくなるほど商品特性が個別の
特色を様々に打ち出すこととなるため、分譲マンションのタイプが、これからは今まで以上に多種多様化
せざるを得なくなることが明らかだからです。
3−3−3.ここからが管理組合の智恵の見せ所。マンションの実情に応じた独自の工夫を!
そこで、標準管理規約を活用しようとする管理組合はどう考えればいいかが大きな課題となります。例え
ば、1棟で800戸のマンションは単棟型標準管理規約をどういう考え方でお手本にすすればいいかという
問題が、生まれます。
この場合は、単棟型標準管理規約をベースにして、団地型標準管理規約や複合用途型標準管理規約
を導入したミックスタイプの内容が考えればいいのではないかと思います。具体的には、1 棟のマンショ
ンとして単棟型標準管理規約をベースにしながら、管理組合運営の組織条件には、複合用途型標準管
理規約が採用している「住宅部会」「店舗部会」に形を借りた「高層部会」「中層部会」「低層部会」のような
組織運営方法を考える発想です。さらに、費用負担の点では、団地型標準管理規約の「団地修繕費」「各
棟修繕費」を区別する仕組みを援用して、階層別修繕費の仕組みを取り入れるような工夫が要る場合も
考えられます。いずれも、単棟型標準管理規約をベースにして、「団地型」や「複合用途型」などほかのタ
イプの標準管理規約の思想を導入して建物の実態に近づく発想になります。
では、こうした独自の工夫は誰が考えればいいのでしょうか。結論を言えば、当のマンションの管理組
合自身しかありません。それは、そうした独自の工夫を必要とするマンションの実情を知っているのは、そ
のマンションの管理組合しかないからです。この点は、今後標準管理規約の活用しようとする場合にしば
しば現実化することが多い課題ではないかと思います。言葉を換えれば、標準管理規約を本当の意味で
使いこなせるかどうかは、それぞれの管理組合の力量次第で決まることになります。
要は、自分たちのマンションの全体像をできるだけ正確に把握して、標準管理規約の想定するマンシ
ョンのイメージを比較するという発想上の問題です。
3−4.アレンジの工夫・標準管理規約の何を削り何を付け加えるか。自分のマンションの実情確
認を済ませてから標準管理規約を当てはめながら読むこと
すでに述べたとおり、標準管理規約は法律ではありません。あくまでも参考情報です。従って、標準管
理規約では、自分のマンションの実情に照らし合わせながら必要な条文を付け加え、必要のない条文を
カットするというアレンジをしながら活用するのが望ましい方法です。
この点について、標準管理規約の内容を条文ごとに解説した参考書に、次のような記述があります。
➩「中高層共同住宅標準管理規約の解説」監修:建設省住宅局民間住宅課/編著:民間住宅研究会/
大成出版社発行/1987 年(昭和 62 年)
《コメント(全般関係)》の【解説】の冒頭の部分
――標準管理規約の標準性
一⑴この標準管理規約を利用する上で、第一に注意すべき点は、標準規約は、管理規約を定める場合の
標準的な モデル=指針であるという点である。この点は、・・・・法律の強行規定に反しない限り、広く規約で
定めることができるし、区分所有法に定めのある事項についても、法文上でそれが許容されている場合には、
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規約により同法の規定を修正し、または補充することが可能であるから、各マンションの事情に応じて、標準規
約の内容を適宜修正、削除あるいは追加を行うことができるのであって、標準規約を金科玉条のように考える
必要はない。・・・
この文章に出てくる「強行規定」という言葉の意味を確かめておくことは、無駄ではありません。「強行規
定」というのは法律用語ですが、世の中の仕組みや利益に関係する問題があるとき、その問題に直接関
わりがある人がどういう考え方や意見を持っていても、すべての人に例外なく同じように当てはめられる
考え方を言います。簡単に言えば、誰であっても同じように取り扱われる強制的な仕組みで、法律の中
には、この考え方が当てはめられるものが非常にたくさんあります。
ですから、上の説明で 法律の強行規定に反しない限り、広く規約で定めることができる というのは、ど
このマンションであっても例外なく同じ決め方をしなければならないことが区分所有法で決まっていなけ
れば、それぞれのマンションが実情に応じて独自の決め方をしてもかまわないという意味になります。
標準管理規約自体が、この考え方を取り入れています。区分所有法は第 35 条で「集会の招集通知」の
仕方を『集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所
有者に発しなければならない。』と決めていますが、この条文のすぐ後に『ただし、この期間は、規約で伸
縮することができる。』とあるのを生かして、標準管理規約(単棟型標準管理規約の第 43 条)では『総会を
招集するには、少なくとも会議を開く日の二週間前までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員
に通知を発しなければならない。』という決め方をしているのが、その典型的な例です。区分所有法が
少なくとも一週間前に と原則を示した後で『ただし、この期間は規約で伸縮できる』と言っているのを受
けて、管理規約では別の考え方を打ち出しているからです。
つまり、 管理規約で伸縮できる という言い方で、 少なくとも一週間前に は原則であって強行規定で
はないこと、 規約で・・・できる ということは原則と違う独自の決め方の可能性を示していることが読み取
り方の上でのポイントになります。付け加えれば、法律が 少なくとも一週間に と言っている『少なくとも』
という言葉は最低限度の基準を示しているのですから、二週間前ならこの最低限度が当然生かせること、
マンションの実情から見て 1 週間では情報の伝わり方に不安があっても 2 週間なら大丈夫だという現実的
な判断が大きな意味を持っています。
❈この部分は、2 回目の改正でも変わっていません。ただし、「二週間前」のあとに(会議の目的が建替え決議であるときは2
か月前)という括弧書きが入りました。しかし、この部分は建替えを決議しない場合は、まったく関係がありませんから、この
条文の意味は実質的にこれまでと同じだと言えます。
ついでながら、法律が『会日』という日常用語感覚とはほど遠いむずかしい言葉を使っているのを標準
管理規約が『会議を開く日』と言うたいへんわかりやすい言葉を使っている点にも、注目したいと思いま
す。法律特有のむずかしくて回りくどい言葉を、普通の言葉に置き換える 和文邦訳 のセンスは、標準管
理規約を活用する上で有力なコツになります。
いま引用した例でもわかるとおり、標準管理規約自体が区分所有法を根拠にしながら、法律が認めて
いる許容範囲の中でマンション独自の決め方をできる限り盛り込もうとしている点は、標準管理規約活用
の上で基本的なポイントになります。簡単に言えば、標準管理規約の決め方を自分のマンションの実情と
照らし合わせながら、必要のないものは削り、新しく付け加える必要があるものを追加するという考え方で
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す。この場合、まったく無原則に削ったり追加したりできるわけではなく、あくまでも、それは区分所有法
が認めている範囲内でということが前提になるのは、言うまでもありません。
ところで、この場合に考えておくべきことは、「自分のマンション全体の現在の実情」の確認です。自分
が住んでいるマンションだからすべてわかっているとは、誰にも言えません。建物の実情、住んでいる人
の状況、管理組合の運営状況などが今どうなっているかといったことをまず再点検してみてください。そ
の再点検の結果を考えながら、標準管理規約全文の内容を自分のマンションに当てはめて読んでくださ
い。当然ながら、時間がかかります。ある程度面倒でもあります。しかし、この順序で考えていかないと、
標準管理規約は活用できません。実情を確かめないまま、机の上に広げた本でそれぞれの条文の解釈
から始めるという取り掛かり方をすると、標準管理規規約の活用は不可能になると考えてください。
3−5.コメントを読み込め。時によっては有力な情報源となる
標準管理規約には、コメントという解説文がついています。コメントとは解説を意味する言葉ですが、標
準管理規約にも、大事な条文ごとにその条文の意味を説明する文章がついています。このコメントも標準
管理規約改正の検討過程でいろいろな議論を経てまとまったもので、公式のものです。
コメントは標準管理規約の全部の条文について用意されているものではありませんし、かなり固くてむ
ずかしい言葉が使われていますが、公式な立場で、それぞれの条文の意味を説明している点で重要な
情報源になります。こうした点は、『マンション標準管理委託契約書』でも同じです。マンション標準管理委
託契約書の場合について言えば、以前のものはコメントが非常に少なかったのですが、最近の改正から
は格段にコメントが多くなって使いやすくなりました。
標準管理規約のコメントは、現実的な手がかりとなるメリットを持っています。管理組合の役員の人数を
選ぶ場合の考え方を示したコメントが、その一例になります。確かに区分所有法はマンション管理の基本
となる大事な法律ではありますが、管理組合という組織のあり方については何一つ定めていません。まし
て、管理組合の役員については、法律では一つも手がかりがありません。そこに管理規約が大事な意味
を持つ理由があるのですが、そのモデルとなる標準管理規約では区分所有法が定めていない管理組合
組織の運営に関する基本的な点がかなり取り上げられています。役員の条件も、その一つです。
ところが、どこの管理組合でも役員選びは難題中の難題で、必要な人数の役員がなかなか揃わないと
いう苦しい実情が珍しくありません。そうした実情に直面した管理組合が思い浮かべる疑問の一つは、管
理組合の役員の適切な人数の手がかりはいったい何によって決まっているのだろうかという疑問です。こ
の疑問の答になるほとんど唯一と言っていいものが、標準管理規約のコメントです。標準管理規約(単棟
型標準管理規約では第 35条関係)のコメントには、次のように書かれています。
『理事の員数については次のとおりとする。
1 おおむね10∼15戸につき1名選出するものとする。
2 員数の範囲は、最低3名程度、最高20名程度とし、〇∼〇名という枠により定めることもできる。』
おおむね とか 程度 といったはっきりしない言葉がありますし、そもそも なぜ 10∼15 戸について 1
名なのか という根拠もはっきりしません。また、このコメントが書かれたころには現在のような超高層超大
規模マンションはほとんどありませんでしたから、今の感覚で読むとわかりにくさがないとは言えません。
とりわけ、1982 年(昭和57 年)当時に書かれたこの部分のコメントの内容が 20 年以上を過ぎた今もそのま
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ま残っている点からは、いろいろな考え方が生まれる可能性もあるでしょう。
しかし、そういうことを考えても、なお、いまだに管理組合役員の人数についての判断の手がかりとなる
考え方はどこにもまったくありませんから、このコメントは今でもそれなりの存在価値を持っていると見るこ
とができます。標準管理規約を活用することによって得られるメリットの一つは、コメントにあると言っても
いいかもしれません。最終的には、こうしたコメントを判断の手がかりとして、それぞれの管理組合が独自
の考え方をどこまで打ち出せるかという点が最大のポイントになります。
■4.標準管理規約の読み方・その急所
前の項で述べたのは、標準管理規約全体の理解の仕方でした。ここからは、標準管理規約を読む場
合に焦点を合わせながら、読みこなし方のポイントを確かめていきたいと思います。なお、以下に述べる
ことの中には、標準管理規約に限らず、管理組合の運営現場で法律や法律的な考え方を使う場合の考
え方に通じる点が多いことを付け加えておきます。
4−1.法律用語特有の意味を普通の言葉に翻訳する:和文邦訳がコツ
標準管理規約でも、大部分の条文では、法律用語ないしは法律的な言葉づかいの表現をしている箇
所が少なくありません。その点では、標準管理規約にも日常的な言葉の感覚からほど遠いむずかしさや
回りくどさがあるのは、否定できないと言えます。さきほど述べた 和文邦訳 のセンスがないと読みこな
せないわかりにくさが、標準管理規約にもあります。
ほとんどの管理組合で説明抜きで使われている「大規模修繕工事」という言葉が、その典型例です。こ
の言葉は区分所有法には今でも出ていなくて、「共用部分の変更」という言葉が使われています。これま
での区分所有法はこの言葉の後の(
)内に 著しく多額の費用 という言葉を使っていましたので修繕
工事費用がどのくらい大きいかという費用が判断の目安となっていましたが、二度目の区分所有法改正
で「共用部分の変更」という言葉を同じように使いながら(
)の中の 著しく多額の費用 という言葉が
姿を消しましたので、工事費用がどれほど大きくても一概に大規模修繕工事に当るかどうかの判断が微
妙に変わることとなりました。この大規模修繕工事について標準管理規約はこれまで法律と同様に「共用
部分の変更」という言葉を使ってきましたし、この点は最近の改正でも変わっていません。
❈《参考》 「共用部分の変更」の(
)の中はどう変わったか
改正前も改正後も、カッコの中は法律分特有の二重否定の書き方になっている。「・・・でないものを除く」というのは否定の
否定であって肯定だから、簡単にいえば「・・・である」という意味になる。
改正前
区分所有法 第 17 条
標準管理規約(単棟型)第 45 条
『改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。』
➞「かつ」の前後に「工事目的」と「工事費用」を示す二つの条件が示されている。「かつ」の前にあるのは「改良を目的とし」
だが、法律用語の「改良」は住宅の世界ではリフォームをさす。したがって、「かつ」の前の意味は「リフォームを目的とする
工事」という意味になる。「かつ」の後の「著しく多額の費用」の費用は「かつ」の前の言葉から「リフォーム工費費」の意味にな
るから、「著しく多額の費用」というのは「金額の大きいリフォーム工事費」ということになる。工事費の大きなリフォーム工事は
工事規模が大きい。だから、この言い方は簡単にまとめれば「大規模修繕工事」という意味になる。
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区分所有法の改正までは、こうした考え方で「共用部分の変更」が「大規模修繕工事」として理解されていた。
改正後
区分所有法 第 17 条
標準管理規約(単棟型)第 47 条
『その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。』
➞改正前の条件を示す言葉が、二つとも消えてしまった。したがって、工事の「目的」がリフォームであるかないかは、関係
がないこととなった。また「費用」も関係がないことになったので、10 万円の工事も 10 億円の工事も法律の手続きでは同じ考
え方になる。
代わって取り入れられたキーワードは「形状」と「効用」である。「形状」は「かたち」のこと。「効用」は「使いみち」の意味。し
たがって、「形か使い道が非常に大きく変わる工事」が「共用部分の変更」の意味になる。外壁改装工事などは壁の形が変わ
ることはないし、壁の使い道が床になったり屋根になったりすることはないから「形状」も「効用」も変わらない。したがって、
外壁改装工事は、少なくとも法律の考え方から言えば「共用部分の変更」には当らないことになる。
「共用部分の変更」はあくまでも一例に過ぎませんが、標準管理規約にも法律用語や法律的な表現が
かなり出てきますから、わからない言葉があったらできるだけ早くその意味を確かめておく必要がありま
す。そういう意味では、標準管理規約の解説書が発行された段階で、適当なものを管理組合で常備して
おくことが必要かもしれません。
4−2.数字が示している条件は最低の意味。実際は、少しでも多い状態が理想的。
区分所有法やマンション管理適正化法には、いろいろな数字が出てきます。標準管理規約にもいろん
な数字があります。そうした数字はどれも大事な意味を持っていますが、その中には望まれる条件の中
での最低限度の意味を持つものとして使われている数字があります。総会決決議事項に決められている
数字は、その典型的なものです。
あらためて言うまでもありませんが、管理組合の総会で提案したことが可決されるために必要な条件とし
て、普通決議事項なら過半数、特別決議事項なら4分の3以上という数字が出てきます。これは、普通決
議事項ならどんなときであっても最低限度「全体の半分を超える数」の、特別決議事項なら「4分の3以上
の」賛成者がいなければならないことを意味していますが、物事の決め方としては賛成する人が多けれ
ば多いほど望ましいわけですから、実際には、普通決議事項なら半分を超えて限りなく 100%に近い賛
成者が、そして特別決議事項でも 4 分の 3 が最低で実際には限りなく 100%に近い賛成者がいることが
望まれることになります。こういう意味では、普通決議事項とか特別決議事項という区分は提案される事項
の内容に対応した最低の賛成者の割合を定めたものであって、限りなく 100%の賛成が理想となる点で
はどちらも同じになります。
こうした数字の意味の読み方は、標準管理規約でも区分所有法でも変わりません。
4−3.手続き解釈論にこだわらないように。手続きと結果はあくまでも別もの。
標準管理規約には、管理組合での物事の取り扱い方の手続きを決めた条文がたくさんあります。これ
は、そのよりどころとなっている区分所有法に、そうした点があるからです。
さて、その手続きの中で、前記の数字の意味の場合と同じく、最低限度必要な手続き条件を示したもの
があります。総会の成立要件が、その典型です。標準管理規約は、総会の成立には「議決権総数の半数
以上を有する組合員の出席」が条件になると決めています。この決め方が区分所有法に基づいているこ
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とはいうまでもありませんが、ここに言う「半数以上の組合意の出席」と言う言葉の中には、委任状の提出
が含められていることは今や常識中の常識です。そして、日本中の管理組合の総会が、この常識に支え
られながら、辛うじて成り立っているのも事実です。だからこそ、管理組合の総会を 委任状総会 と自嘲
気味に言う人も出てくることになります。
この問題の本質は、どこにあるのでしょうか。そもそも、総会というのは 物事を話し合って決めるための
集まり です。従って、総会は一人でも多くのメンバーが出てくることが前提となっています。しかし、実際
には、フルメンバーが揃うことは滅多にありませんから、少しでも一人でも多くの人の出席をハラハラしな
がら期待するということにならざるを得ません。ですから、本当は総会に出てくる人の数は 半分程度あれ
ばいい のではなくて、一人でも多ければ多いほど望ましいということになります。
ところが、法律的な表現では 一人でもたくさん出てくる方がいい という考え方ではなくて、 総会が総
会として成り立つためには最低限度これだけの条件がなければならない という意味に重点がおかれま
す。これは、簡単に言えば、総会成立のための最低限度の条件を言っているだけに過ぎません。しかし、
その最低限度の条件には委任状もカウントしていいという考え方が法的に認められていますから、実際
には「いない」人が「委任する」という言葉をさしはさむことによって「いないけれどいるものとして扱う」とい
う実態とはかけ離れた考え方で扱われることになります。言わば、手続きが法的に認められることによっ
て総会が成り立っているだけのことにすぎません。
役員の選び方についても、似たようなことが言えます。管理組合の役員選びはどこの管理組合でも苦
労するものですが、標準管理規約では、この役員の決め方を「総会で選任する」とだけ述べています。し
かし、実際には、まったく何の用意もしないままいきなり総会で役員が決まることはほとんどあり得ないで
しょう。現実には、総会を開催する前に、一種の根回しで役員候補が決まっているのが普通だと思われま
す。そう考えると、こうしたルールで決まっているのは役員選びの手続きだけであって、実際にはその手
続きを成り立たせるための別の工夫が要ることがはっきりしてきます。
法律が認めており標準管理規約も認めているのはあくまでもこうした「手続き」だけであって、実際には
その手続きを成り立たせるための工夫や配慮が必要になると言えます。この点を見落として法律や標準
管理規約の読み方を手続きだけに集中して読むと得られるものは、あまり多くないと考えるべきでしょう。
4−4.法律や標準管理規約は万能ではない。想定していないケースもある。
マンションでは実に様々な問題が起こりますが、そうした問題の中には、区分所有法や標準管理規約
では考え方が何も示されていないようなことも実際にはかなり多いものです。賃貸化された住戸の不在区
分所有者問題などは、その典型です。こうした点については、それぞれの管理組合が独自の工夫を凝ら
して答を見つけるしか方法がありません。
また、マンション管理の仕組みが以前に比べてかなり整い始めたとはいっても、まだまだ答が出ていな
い問題が多いことも考えておかなければなりません。財務会計の分野、広報などの情報提供の分野、文
書保存のような完全に実務的な分野については、これまでにまったく標準的な仕組みがありませんでし
たし、これからも当分は生まれる見込みもありません。ペイオフが全面解禁になりましたが、巨額のお金
を預けている金融機関が万全の安心感を持たせてくれる状態かは、これからも注意を必要とする点には
変わりがありません。区分所有法がIT化を打ち出したとは言っても、具体的な標準システムがあるわけで
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もありません。
そうした答が出ていない課題が多い中での標準管理規約であることを考えれば、このルールが万能で
はなく、答を出せない課題が多いことも考えておかなければなりません。答が見つからない問題につい
てはもともと該当する条文がありませんから、読み方以前の問題があるともいえます。もともと該当がない
ことを無理に読み取ろうとしないことも、また読み方の上で考えておかなければならない点でしょう。
4−5.本当に実行できるかどうかを考えながら読む。実行できないような決め方が管理規約にあ
ると、かえって問題になりやすい
理想的ではあっても、実際にはとても実行できないことが管理組合にはたくさんあります。専有部分のリ
フォ−ムについての取り決め方なども、その一例です。もっと例が多いのは、ペットの問題でしょう。単純
にペットを「認める」か「認めない」かだけで取り扱い方が決められるのなら、これほどペット問題で多くの
マンションが苦労するはずもありません。多くのマンションでのペット問題が、管理規約にペット禁止がは
っきり決まっているのに平気でペットを飼う人が出てくるという一種のルール無視状態で表面化すること
が何を意味しているかを、よく考えてみるべきでしょう。
ルールが守られない場合は、そのルールを守らない人に問題があるか、逆に、守られないほどむず
かしいルールになっている点に問題があるかのどちらかです。管理規約の本質は「自分たちの考え方で
作ったルール」なのですから、ルールが守られない場合は、守らない人に問題があるのが普通であって、
守ってくれるような手を打つことが必要です。しかし、そういう考え方で対応しようとしてもうまく行かないよ
うなら、ルール自体に守られないようなむずかしさがあるからかもしれません。
こうした問題がある場合どこに原因があるかは様々ですから一概には言えないにしても、管理規約に守
られないようなむずかしさがあると、やはり問題が生まれます。標準管理規約を読む場合は、前記の強行
規定の部分は別として、自分のマンションではどこまで実行できるかどうかをつねに考えながら読んでい
くことが必要です。
■5、標準管理規約を有効に活用できる管理組合の条件
管理規約そのものは、単なる紙に過ぎません。管理規約がマンションの中で起こる様々な問題の答を
見つけるための手がかりとして本当に役立つようにするためには、あらかじめ考えておかなければならな
い条件がいくつもあります。こうした意味での条件は、標準管理規約の場合も普通の管理規約の場合も、
まったく同じです。
5−1.理事会の中の規約担当メンバ−を決める
法律やルールの言葉や考え方に慣れていない人が多い管理組合では、こうした規約などの理解が苦
手な人をよく見かけます。しかし、管理規約が管理組合にとって最も基本的な約束事であるからには、少
なくとも理事会のメンバ−の誰かが法律やル−ルの考え方や言葉に十分通じているような体制を用意し
ておく方が安心です。いざという場合に、管理規約の内容がどんな意味を持ち、どう役に立つのかを確
かめることが欠かせません。
➪理事会の中に規約担当理事を決めておくこと。
5−2.管理規約と区分所有法との関係を確かめておく
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区分所有法の内容を理解していなければ、管理規約を本当の意味で理解できたことにはなりません。
規約担当理事が、区分所有法の内容を正確に理解している体制が望まれます。
➪管理組合に区分所有法の解説書を常備しておくこと。できたら、コンパクトな法律用語辞典も。
5−3.標準管理規約の内容理解のための情報を手に入れられるようにしておく
標準管理規約がどういう考え方で、何を決めているか、決めていないことは何か、どういう場合にどの条
文がどういう考え方で当てはめられるかといったことは、管理組合だけではなかなかわかりにくいもので
す。そうした場合に備えて、セミナーや参考文献を情報源として使うことを考えておくことが必要です。標
準管理規約の参考書などを一冊常備しておくとか、雑誌などで関係の記事がないかどうかかを調べると
いったことも必要です。
こうした場合、その解説や説明が管理組合の実情に通じた人によるものであるほど、役に立つと思われ
ます。実際には個別のケースについての相談が多いかもしれませんが、個別のケースについて具体的
な情報が得られるという点で一般論にとどまらざるを得ない本やセミナーよりも役に立つかもしれません。
なお、相談にはコツがあります。次に、そのいくつかを簡単にあげておきます。
①質問したいことをはっきりさせる
=一度にいくつものことを質問しないこと。すぐ確かめたいことは何と何かをはっきりさせて相談すること。
②できるだけ電話相談でなく面接相談が望ましい
=管理規約に関係する相談は時間がかかるし内容が複雑になることが多いから、できる限り面接が望ま
しい。電話だけで分かることには限りがあると考えておく方がいい。
③自分の立場をはっきり告げて相談すること
=管理組合の理事長なのか、理事なのか、一組合員なのかをはっきりさせて相談すること。
④自分のマンションの問題を説明できる資料を用意しておくこと。
=管理規約に関係する相談をする場合は、今ある管理規約の実物を用意しておくこと。マンションの内容
が分かるような資料もある方が望ましい。
⑤質問事項によっては何回かに分けた方がいい場合がある
=一度の相談だけですべての答が得られるとは限らない。時間の経過を考えながら、何回かに分けて質
問する方がいい回答を得られる場合がある。
5−4.自分のマンションの実情に照らし合わせて管理規約の内容を具体的に確かめておく
管理規約に書かれていることを、抽象的でなく具体的に確かめて理解しておくことが欠かせません。と
りわけ共用部分の範囲や理事会の構成、総会の手続き、議決権の定め方などを普段からきちんと確かめ
ておくことが重要です。
➪管理規約の具体的な内容を、理事会などで全員が正確に理解しておくこと。
5−5.管理規約の有効性をチェックするためのポイント
現在の管理規約に問題がないかどうかは、折に触れて確かめておく必要があります。以下の一つでも
思い当たる点があれば、その管理組合には、管理規約について何らかの取り組みが必要です。
①問題への取り組みが場当たりになり一貫しないため無原則になることはなかったか
答を見つけるための原則がいい加減にならざるを得ませんので、対応がその都度行き当たりばったり
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の成り行き次第になり、かえって新しい問題を引き起こす原因となります。
②理事会や理事長が個人的な判断で問題を処理することがなかったか
無原則な問題処理が多くなるため、理事会や理事長が自分一人の個人的な判断で答を見つけることに
なり対応の信頼性が低くなります。専門的な知識が必要な問題では、特に問題が起こりやすくなります。
③積立金の取り扱いが無原則になって管理費や修繕財政上の問題が起こったことはないか
お金の集め方や支出の仕方が無原則になるので、お金をめぐる問題が多くなり組合員の不満や疑問
が多くなります。悪くすると、理事会の信頼が低下します。
④管理会社と管理組合との間の信頼関係が薄くなり、問題の処理に一貫性がなくなる傾向はないか
仕事を委託している管理組合側の方針に一貫性がなくなるので、管理会社が管理組合に対して信頼を
持てなくなり、問題への取り組みの主役があいまいにならざるを得なくなります。
⑤解決できないまま先送りされる問題が増える傾向はないか
理事会の問題処理が信頼されなくなるケ−スが続出して管理組合への信頼が低下し、日ごとに無関心
化が増大して、最終的には管理組合自体が弱体化します。管理組合の組織的な弱体化のツケは、結局、
区分所有者自身のマイナスになるだけの結果となります。
■6.管理規約改正への取り組み方をどう進めるか
管理規約を活用する上での課題の一つは必要に応じての管理規約の改正ですが、これは、率直に言
って管理組合は大事業であることも否定できません。では、そのための検討点は、どんなものになるでし
ょうか。その主なものを以下にあげますが、難しいものは一つもありません。
必要なことは、問題の取り組みのための熱意と根気と、努力だけです。
6−1.自分のマンションの現在の管理規約を徹底して見直すこと
率直に言って、管理規約に関心を持つ人はそれほど多くありません。このことは、一般の区分所有者だ
けでなく、理事などの役員も例外ではありません。そうした実情を考えると、まず一番先にやらなければ
ならないことはマンションの管理規約を役員が完全に読み直すことから始まります。肝心の管理規約がな
くなってしまっていてどこにあるか分からないとか、見たことも読んだこともないなどというのは、論外です。
6−2.現行の管理規約が定められた当初の事情を確かめること
この点についてのポイントは、二つあります。
[1] 分譲当初に販売会社が用意した管理規約が現在もそのままになっていて改正されていないケ−ス
[2] 改正前の旧区分所有法時代に作られた管理規約がまったく改正されないままであるケ−ス
6−3.マンションの実情から見て不都合な点がないかどうかをチェックすること
マンションの実情は、分譲された当初から年数が経過するにつれて大きく変化するのが普通です。当
初は少なかった賃貸化住戸や社宅化住戸がいつの間にか多くなり、不在の区分所有者数が増加すると
いったケ−スはその典型です。こうしたケ−スで、毎年度の役員選出を在住区分所有者だけに限る内容
の管理規約の決め方が問題になる管理組合は、全国いたるところでかなり多くなっています。
6−4.現在の管理規約の改正必要点を徹底して洗い出すこと
問題があれば、時機を見て直さなければなりません。直さなければならぬ点が、どこに・いくつあるか
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を正確に確かめることが必要です。この点がはっきりしていないと、管理規約は問題を抱えたまま改正さ
れないため、いつまでたっても問題が片付かない結果になります。
6−5.区分所有者と居住者に管理規約に対する関心を持たせるための啓蒙活動を始めること
こうした作業が、限られた数の理事会などだけで進められる状態では取り組みが進みません。区分所
有者に対して、管理規約上の問題点を確かめるためのキャンペ−ンを周到に始める必要があります。理
事会の検討作業とその進み方を知らせるために、広報を工夫して展開することが欠かせません。
6−6.理事会で管理規約改正プロジェクトの計画を立てること
管理規約の改正は、理事会だけでは絶対に進められません。最終的には総会決議を必要としますから、
それなりの用意と方法とがなければなりません。また相応の日数も必要になりますから、もしかすると理事
会の現在の任期中にはゴ−ルインできないかもしれません。その点を考えて、次のような内容の進行計
画を立てることが必要になります。
[1]管理規約改正の理事会の体制をどうするか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 担当理事の決定
[2]どこを改正するか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 改正条項の確認
[3]どのような改正文案を用意するか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 改正文案の用意
[4]誰が改正文案をまとめるか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 改正文案起草者の確保
[5]いつごろまでに改正案をまとめるか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 目標時期を何年度からにするか
[6]改正案を提案する総会をいつごろに予定するか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 総会開催の時期の設定
[7]改正作業のための費用をどうするか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 改正案の印刷費用などの予算の確保
6−7.管理規約改正のためのプロジェクトチ−ムを編成すること
管理規約の改正は、 管理組合の実力テストでもあります。理想的には、この仕事を理事会自身が直営
的に進められれば一番望ましいかもしれませんが、管理規約の改正が必要となる状態の管理組合では、
ほかにも理事会が取り組まなければならない課題が多いために理事会にその余力がないということが多
いものです。また、管理規約の改正には特有の知識が必要とされることが多いため、誰にでも簡単に手
をつけられるものとは言えません。その意味で、管理規約の改正という仕事には、大規模修繕工事に似
た面があると言ってよいでしょう。そこで、このための対策として、管理規約改正のためのプロジェクトチ
−ムの編成が望ましいと言えます。以下に、プロジェクトチ−ムを作る場合のポイントをあげておきます。
[1]区分所有者全員に管理規約改正のための協力を呼びかけること
=各戸配布の文書や掲示板への貼り出しなど適切な方法で広報を行うこと
[2] 実際の規約改正には全員の協力が欠かせない点を広報などで強調すること
=理事会だけの仕事ではなくてマンションの全員に関係する重要なル−ルづくりであることと、そのため
には理事会だけでなく全員の関心と協力が必要である点を、しっかり説明すること
[3]規約改正のために必要なプロジェクトチ−ムへの参加を呼びかけること
=マンションの一人一人がこの規約改正の仕事に参加してほしいことを強調すること
[4] 呼びかけるプロジェクトチ−ムの組織内容は、次の点を目安として考えておくこと
➀人数:5 人から 10 人程度。なお、これは目安であって、実情に応じてマンションの規模や条件により人
数の増減があってもかまわない。
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➁任期:規約改正案がまとまるまで
➂参加の条件:法律や各種のル−ルについて詳しい人が最も理想的だが、そうした知識がない人であ
ってもかまわない。要は、継続して取り組める熱意を持つ人であること。なお、家庭の主婦など女性であ
っても自分のマンションの実情と照らし合わせたモニタ−的な役割を期待できる。
[5] 広報と予算措置について用意をしておくこと
ある程度の期間にわたって続く仕事になるので、プロジェクトチ−ムに参加しない人を含めてできるだけ
多くの人に関心を持ってもらえるような継続した広報体制と検討作業 のための費用を、予算上確保して
おきたい。
➀広報体制:広報担当役員をはっきり決めること
➁費用の用意:毎回の検討資料作成のための消耗品費、印刷費やコピ−代、検討会のための茶菓代、
参考書の購入費、弁護士など専門家への問合せ費用など
6−8.総会に先立ってできるだけ説明会を開催すること
管理規約の改正には総会の特別多数決議が必要であることが区分所有法で定められていますが、だ
からと言って、改正案がまとまった段階でいきなり総会を開催するのがいいとは言えません。規約の改正
にはいろいろな意見や質問が出されることが多いので、そうした意見や質問のすべてを一回の総会で受
け付けようとすると、総会がやたらに長時間化してまとまりにくくなるからです。これを防ぐために、総会の
開催と分離して、総会開催の一週間程度前に規約改正案の内容説明のための説明会を開くことが望ま
れます。なお、この説明会に区分所有者全員が出席しないこともありますから、そうした人にもきちんと内
容を理解してもらえるような説明資料を作っておくことが必要です。説明会出席者にはこの説明資料を使
って説明できますから、決して無駄にはなりません。
6−9.総会の開催は慎重かつ正確に行うこと
自分のマンションの憲法を取り扱うための総会なのですから、総会の開催自体への疑問が出
されたり後日その有効性に異議が出されたりしないように、開催と運営には慎重細心な配慮が
要ります。議決結果を含めた正確な議事録の作成も、欠かせません。
6−10.総会終了後のフォロ−を間違いなくすませること
総会後のフォロ−というのは、次のような点です。
[1]総会決定による改正管理規約の全戸配布
=せっかく決まった新しい管理規約の内容を、マンションの区分所有者と居住者の全員が認識し理解し
ておくことが不可欠の条件になります。そのためには、改正された新しい管理規約を全戸に配布すること
を忘れてはなりません。
[2]改正管理規約を決定した総会議事録の全戸配布
=管理規約の改正という重大事項が全員の総意により総会で決まったことを区分所有者全員に知らせる
ことが大事です。とりわけ不在区分所有者には、この手順が重要な意味を持つことになります。
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