(通知)(PDF:379.6KB)

伊 監 第 43 号
平成 25 年4月 23 日
請求人
様
上記請求人ら代理人
様
伊丹市監査委員
中
井
公
明
伊丹市監査委員
坪
井
謙
治
伊丹市職員措置請求に係る監査結果について(通知)
平成 25 年3月5日付をもって受理した、地方自治法第 242 条第1項の規定に
よる標記の監査請求について監査を行ったので、その結果を同条第4項の規定
により、別紙のとおり通知します。
伊丹市職員措置請求に係る監査結果
第1
請求の受理
1 請求人
A
様
B
様
C
様
D
様
E
様
F
様
G
様
上記請求人ら代理人
弁護士
H
様
弁護士
I
様
2 請求の要旨
提出された伊丹市職員措置請求書、事実証明書及び陳述の内容によれば、請求の
要旨は次のとおりである。
(1) 請求理由
伊丹市は、市民特別賃貸住宅に入居する若年世帯等に対し、市民特別賃貸住宅若
年世帯等家賃支援補助金(以下、「補助金」という。)の交付を行っている。
同補助金の交付については、平成 13 年 10 月1日施行の伊丹市市民特別賃貸住宅
に係る若年世帯家賃支援要綱(以下、「平成 13 年要綱」という。)及び平成 19 年4
月1日施行の伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯等家賃支援要綱(以下、
「平成
19 年要綱」という。)に基づいて行われ、財団法人伊丹市都市整備公社(以下、
「公
社」という。)の申請により、伊丹市長の交付決定に基づいて公社に対してなされ
ている。
上記、平成 13 年要綱によれば、支援要件として、世帯の政令月収額が「153,000
円以上 238,000 円以下であること」を要する。また、同要綱付則第2条(支援の特
例)において、その適用につき、その入居の日の属する月から5年間は、
「若年世帯」
とあるのは「世帯」とし、「238,000 円」とあるのは「322,000 円」とされている。
そして、改正された平成 19 年要綱によれば、支援要件については、世帯の政令月
収額が「153,000 円以上 268,000 円以下であること」を要する。また、同要綱付則
第2条(支援の特例)において、その適用につき、その入居の日の属する月から5年
間(子育て世帯にあっては3年間)は、「若年世帯又は子育て世帯」とあるのは「世
1
帯」とし、
「268,000 円」とあるのは「322,000 円」とされている。
しかし、伊丹市は平成 13 年度から現在に至るまで、上記収入要件を充足しない
世帯分についても補助金を交付した。かかる補助金の交付は、上記各要綱に違反し
てなされた公金支出であり、明らかに違法、不当である。なお、上記期間に要綱に
違反して支出された違法、不当な公金支出額は、約 373 百万円に上るものと思料さ
れる。
(2) 措置要求
措置請求は次のとおりと解した。
上記請求理由によって、要綱に違反して支出された補助金の交付は、違法、不当
な公金の支出であり、伊丹市に損害を与えるものである。よって監査委員は、伊丹
市長、伊丹市住宅課及び交付金支出負担行為・支出命令に関与した職員、並びに公
社に対し、伊丹市が被った損害を補填するために必要な措置を講ずるよう勧告する
ことを求める。
(3) 請求書に添付された事実を証する書面
①伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯家賃支援要綱
(平成 13 年 10 月1日施行)
②伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯等家賃支援要綱
(平成 19 年4月1日施行)
③伊丹市市民特別賃貸住宅制度の概要
④特優賃の家賃支援の現状
⑤伊丹市市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援に係る対応について(案)
⑥公文書部分公開決定通知書(平成 25 年2月 12 日付)
⑦上記、公開文書(平成 22 年度市民特別賃貸住宅若年世帯等関係書)
3 請求の受理
本件住民監査請求は、提出された「伊丹市職員措置請求書」において、本件補助
金が、平成 13 年度から現在に至るまで、各要綱に定める収入要件を充足していな
い世帯に対し補助金を交付するなど、要綱に反する違法、不当な公金の支出である。
また、伊丹市職員措置請求書「1 請求の要旨 (3)」において、
「平成 13 年から平
成 24 年2月までになされた支出については本監査請求のときから1年を経過して
いるが、情報公開請求を行い、平成 25 年2月 12 日付で一部公文書の写しを入手し
た時点まで客観的には知り得なかったものであるから、本監査請求が当該支出から
1年を経過した後になされたことに正当な理由がある。」と主張されている。
住民監査請求に係る期間制限については、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)
2
第 242 条第2項において、住民監査請求は、「当該行為のあつた日又は終わった日
から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があ
るときは、この限りでない。」と規定されている。
そして、正当な理由については、「Q&A 住民訴訟の法律実務(住民訴訟実務
研究会編 新日本法規出版)
」によれば、
「財務会計上の行為が秘密裡にされた場合
に限られず、住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求
をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合、あ
るいは天災地変等による交通途絶により請求期間を徒過した場合のように、当該行
為のあった日又は終わった日から1年を経過したものについて、特に請求を認める
だけの相当な理由があることをどうかによって判断すべきもの」とされている。
そこで、本件補助金の交付に係る住民監査請求のうち、平成 24 年2月までの補
助金の支出については、既に1年の監査請求期間を経過しおり、住民監査請求期間
の期間超過について「正当な理由」があるか否かについて検討する。
本件市民特別賃貸住宅に係る若年世帯等家賃支援補助金については、平成 23 年
に実施された「公的賃貸住宅家賃低廉化事業」に対する地域住宅交付金に係る会計
検査において、国庫補助の収入基準外の入居世帯に対する家賃補助が含まれている
として国庫補助金の返還が求められた。そして、その内容については、新聞報道に
より市民にも周知されることとなった。また、支出手続きも公然となされ、本件請
求に資料として添付されているように、公文書公開請求等によれば、支出の時点で
住民監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができた
と解されることから、地方自治法第 242 条第2項ただし書きに規定する期間徒過に
ついての正当な理由があるとは認められない。
したがって、本件住民監査請求においては、請求人の主張する期間のうち、平成
13 年から平成 24 年2月までの期間に係る補助金の支出に関する請求ついては、住
民監査請求期間を徒過していることから却下とし、監査請求期間内である「平成
24 年3月から平成 25 年2月まで」の1年間に係る財務行為、補助金の交付を監査
対象とした。そして、その他の項目については所要の法定要件を具備しているもの
と認め、平成 25 年2月 28 日付で提出された地方自治法第 242 条第1項の規定によ
る住民監査請求は、平成 25 年3月5日付でこれを受理した。
第2 監査の実施
1 請求人の証拠の提出及び陳述
平成 25 年3月 13 日に請求人に対し、地方自治法第 242 条第6項の規定による証
拠の提出及び陳述の機会を設けた。
当日、請求人らの代理人2人が出席し、提出のあった証拠及び陳述は次のとおり
である。
3
(1) 新たに提出のあった証拠
①公文書部分公開決定通知書(平成 25 年3月 11 日付)
②上記、公開文書(平成 23 年度市民特別賃貸住宅若年世帯等関係書)
③上記、公開文書(平成 24 年度市民特別賃貸住宅若年世帯等関係書)
(2) 請求人の陳述
『請求の内容については、既に監査委員に対し提出している「伊丹市職員措置
請求書」並びに関係資料他のとおりである。』との陳述があり、新たな補正はな
かった。なお、監査委員の措置対象者についての質問に対し、「基準以下の入居
世帯に対し返還を望むものでなく、基準超過の世帯については、市の判断に任せ
る。
」旨の回答があった。
2 監査対象事項
伊丹市職員措置請求書に記載された請求の要旨及び請求人の陳述他から判断し
て、
「市長が、平成 19 年要綱に基づいて、平成 24 年3月から平成 25 年2月までに
公社に対して行った補助金の支出が違法、不当な公金の支出にあたるか否か」を監
査対象事項とした。
3 監査対象部局
伊丹市健康福祉部住宅課、総合政策部政策室、財団法人伊丹市都市整備公社
4 監査対象部局からの事情聴取等
監査の実施にあたっては、監査対象部局からの関係書類の提出を求め、平成 25
年3月 21 日及び 29 日には監査委員室において関係職員から意見及び事情聴取を行
った。
関係職員
健康福祉部長及び部職員
総合政策部長及び部職員
財団法人伊丹市都市整備公社 理事長及び事務局職員
第3 監査の結果
請求人の主張及び監査対象部局の事情聴取等をもとに、事実関係の調査を行った
結果は、次のとおりである。
1 事実関係の確認
監査対象に係る事実について、請求人等からの伊丹市職員措置請求書等の提出書
面及び陳述並びに関係職員からの提出書面及び陳述に基づき、次のとおり確認した。
4
(1)
市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援補助金に係る事務処理について
まず、上記補助金に係る交付要綱の制定決裁、政策決定については、次のとおり
確認した。
①伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯家賃支援要綱の制定について
・・・平成 13 年9月 28 日起案、決裁日不明
②市民特別賃貸住宅に係る若年世帯家賃支援制度の拡充(案)について(方針)
・・・ 平成 19 年2月5日起案、平成 19 年2月 14 日決裁
③伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯家賃支援要綱の一部を改正する要綱
の制定について
・・・
平成 19 年3月 26 日起案 決裁日不明
④平成 24 年度当初予算要求における「投資・政策的経費予算要求調書」
・・・平成 24 年1月 24 日 市長ヒアリング資料
⑤伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯等家賃支援要綱の一部を改正する要
綱の制定について ・・・平成 25 年3月 15 日起案、平成 25 年3月 29 日決裁
⑥若年世帯等家賃支援に係る特別支援要綱の制定について
・・・平成 25 年3月 26 日起案、平成 25 年3月 29 日決裁
次に、平成 23 年度及び平成 24 年度の上記補助金の交付状況については、次のと
おり確認した。
①平成 23 年度前期分(平成 23 年4月分~9月分)に係る補助金の交付
・伊丹市市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援金交付申請書
⇒平成 24 年3月 1日付
・市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援金交付決定通知書
⇒平成 24 年3月 1日付
・起案書兼支出負担行為決議書
⇒平成 24 年3月 1日付
・支出命令
⇒平成 24 年3月 14 日付
⇒ 支払先
財団法人伊丹市都市整備公社
理事長 井上 博
支払日 平成 24 年3月 30 日
補助金額 60,954,840 円
②平成 23 年度後期分(平成 23 年 10 月分~平成 24 年3月分)に係る補助金の交付
・伊丹市市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援金交付申請書
⇒平成 24 年3月 31 日付
・市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援金交付決定通知書
⇒平成 24 年3月 31 日付
・起案書兼支出負担行為決議書
⇒平成 24 年3月 31 日付
・支出命令
⇒平成 24 年4月 25 日付
⇒ 支払先
財団法人伊丹市都市整備公社
5
理事長 井上 博
支払日 平成 24 年5月 25 日
補助金額
60,729,460 円
③平成 24 年度前期分(平成 24 年4月分~9月分)に係る補助金の交付
・伊丹市市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援金交付申請書
⇒平成 24 年 10 月 31 日付
・市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援金交付決定通知書
⇒平成 24 年 11 月 1日付
・起案書兼支出負担行為決議書
⇒平成 24 年 11 月 1日付
・支出命令
⇒平成 24 年 11 月 7日付
⇒ 支払先
財団法人伊丹市都市整備公社
理事長 井上 博
支払日 平成 24 年 11 月 30 日
補助金額 60,121,700 円
(2)
請求人が主張する平成 19 年要綱第3条第4号他に規定する所得要件に充足し
ていない世帯分に係る補助金について
監査対象部局からの提出資料等から次のとおり確認した。
6
2 監査対象部局の説明の要旨
本件補助金の交付については、
「要綱の範囲内」の取扱いであり、
「違法」、
「不当」
なものではない。その理由については、次のとおりであると解した。
【1】 本件支援金の支出は、そもそも「要綱に違反」しておらず、違法でも不当で
もないことについて
(1)
要綱の性質
「伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯等家賃支援要綱」(以下、
「本件要
綱」という。
)は、伊丹市市民特別賃貸住宅(以下、
「本件特優賃住宅」という。)
の空き家ストックを活用した、活力ある若年世代人口の流入・定着による「活
力あるまちづくり」を目的とする支援金の交付に関し、その基準や、額、手続
き等を定めるため、平成 13 年に制定されたものであるが、要綱は、法的拘束力
を持たない内部的な定め(以下、「内規」という。)である。具体的な行政事務
処理における裁量権の行使の基準や事務執行の指針を示すものであり、よって、
要綱と異なる取扱いをしたとしても、合理的な理由があれば、それ自体、直ち
に違法・不当となるものではなく、その裁量権の行使に逸脱・濫用がある場合
に限り問題となるものである。
(2)
本件が要綱違反でないこと
要綱に「違反」するとは、要綱の規定に「背く」ことである。
本件要綱第3条第4号に規定する政令月収額に係る要件(以下、
「本件所得要
件」という。
)を充足しない世帯に対する支援金(以下、
「本件支援金」という。)
の支出は、本件要綱の規定に背くようなものではなく、本件要綱の目的の範囲
内において、その達成のために行ったものである。
請求人は、本件支出の何が要綱に違反しているか明らかにしていないが、本
件支援金の支出は、本件要綱第1条に定める、
「伊丹市市民特別賃貸住宅に新た
に入居する若年世帯及び子育て世帯に対して家賃支援を行うことにより、伊丹
市内外を問わず、広く若い世代の入居を促進し、活力ある人口の流入・定着及
び次世代の育成支援を図り、活力あるまちづくりを推進する」という目的の達
成のためのものである。
空き家状況の推移や、公社及び本市の財政的負担等に鑑み、本件所得要件を
満たさない若年世帯及び子育て世帯に対し、引き続き支援を行って、その定住
を図り、また、子育てを支援することは、空き家を増加させず、本件要綱の目
的を達成するため必要な措置であった。そのために、本件要綱第3条の支援要
件のうち、所得に関する第4号につき特例的な基準を持つこととなるが、この
ような運用は、特に不合理でない限り、本来的に、長の裁量権の範囲内である。
7
本件支援金の支出は、「若年世代の特優賃への入居による活力あるまちづく
り」という本件要綱の趣旨目的に合致するものであって、違反するものではな
い。
(3) 本件支出が違法・不当でないこと
本件のような補助金交付の違法・不当は、地方自治法第 232 条の2の規定に
照らして判断されるべきものである。公益上必要のある補助金の交付が、違法
であったり、不当であったりすることはないのであり、本件支援金の支出につ
いても、その観点から判断されるべきである。
【2】 本件支援金の支出が長の裁量の範囲内であることについて
(1)
地方自治法第 232 条の2の公益上の必要性に対する長の裁量権
地方自治法第 232 条の2は、地方公共団体は、
「その公益上必要がある場合に
おいて、寄附又は補助をすることができる。
」旨を規定している。
一般に、この公益上の必要性については、補助の目的や、その他様々な事情
を斟酌した政策的な考慮が求められることから、支出の権限を有する長等の機
関の判断によるべきものであり、その判断は、特に不合理又は不公正な点のな
い限りはこれを尊重することが必要であると解されている。その権限の行使に
逸脱・濫用がある場合には、当該寄附又は補助は上記の要件を満たさないもの
として違法とされるということになる。
多くの裁判においても、公益上の必要性の有無は、地方公共団体の長等が判断
するものとされているが、その認定は、全くの自由裁量行為ではなく、客観的に
公益上必要であることが認められなければならないとされている。なお、「公益
上の必要性を一義的に決定することは困難であり、結局は、その時代的、社会的、
経済的、地域的諸事情等の下において、個々具体的に決定していかざるを得ない」
(成田頼明ほか編・注釈地方自治法<全訂>4473 頁など)とされている。
例えば、熊本地裁昭和 51・3・29 判決(行集 27 巻3号 416 頁)は、公益上の
必要性につき、自治体が地方自治法第 232 条の2の趣旨に従って、補助金の交付
が住民にもたらすであろう利益、程度等、諸般の事情を勘案して判断すべきこと
...
になるが、
「その判断につき著しい不公正もしくは法令違背が伴わない限り、こ
れを尊重することが地方自治の精神に合致する所以というべきである」と述べて
いる。
本件支援金の支出についても、これらの判断基準に基づき、市長の判断に裁量
権の逸脱・濫用がないかを判断されるべきである。
8
(2)
本件支出に裁量権の逸脱・濫用がないこと
上記(1)を踏まえても、本件支援金の支出については、「公益上の必要性」が
あると認めた市長の判断に、裁量権の逸脱・濫用はない。
裁量権の逸脱・濫用については、「裁量権行使に逸脱・濫用がある場合とは、
補助金の支出を決定した判断に即していえば、特に不合理な又は不公正な点がそ
こにある場合にほかならない」
(要説自治体財政・財務法ほか)とされているが、
本件支出は、次に述べる政策目的のため行われた公益性のある行為であり、そこ
に不合理や不公正な点はない。
本件支援金の支出は、伊丹市第4次総合計画及び住宅マスタープランなどの分
野計画において位置付けられた、若年世代の流入・定着と、次世代の育成支援を
図り、活力あるまちづくりを推進するための施策として、市民特別賃貸住宅にお
ける若年世帯及び子育て世帯への家賃支援を定めた本件要綱の実施につき、その
目的を達成するため、社会経済状況や社会福祉の観点など、諸事情を総合的に勘
案し、公益上の必要性があると判断し、行ったものである。
そもそも、本件要綱を制定した経緯としては、中堅所得者等に対する良好な賃
貸住宅の供給促進を目的として平成5年に施行された、「特定優良賃貸住宅の供
給の促進に関する法律」を受け、平成6年3月から平成9年 11 月までの間に所
有者に市が整備等補助を行うことにより整備された特定優良賃貸住宅について、
公社が一括借上げを行った 21 団地 384 戸の住宅に、社会経済の低迷の中、当初
の特優賃制度の想定外に、空き家が増加したことが発端である。
この特殊な借上げ制度において、公社は、空き家についても所有者にその家賃
相当額を支払わなければならないこととなっていた。
そこで、本市は、平成 13 年 10 月に、伊丹市第4次総合計画及び住宅マスター
プランに基づき、本件特優賃住宅を活用し、若年者への住宅政策上の支援により、
若年世代の流入・定着を図り、活力あるまちづくりを推進すべく、入居者に、家
賃のうちの一部を支援するという本件要綱を制定施行したのである。
(平成 19 年
4月には、子育て支援策として活用するため、子育て世帯も対象として制度拡充
をした。
)
ところが、本件要綱施行の翌年度(平成 14 年度)には、本件所得要件の下限
を割る世帯が 20 件生じたところ、これらの世帯に支援を打ち切ると、家賃負担
の増により、退去が見込まれるなど、一方、公社・市とも、空き家募集について
は、広報紙、HP、不動産業者への委託などにより、考えられる限りの入居者募
集をしているが空き家が埋まらないという状況であり、これ以上の空き家を生じ
させないため、本件所得要件を満たさない世帯にも、引き続き支援をする必要が
あると判断した。
翌年度には本件所得要件の上限を超過する世帯も生じたが、本市は、空き家を
9
生じさせないために、これら本件所得要件を充足しない世帯に対しても、本件支
援金の支出を続けたものである。
この支出には、次の公益上の必要性があった。
①
そもそも本件特優賃住宅は、良好な地域形成に資するため、その整備に補
助をしたものだが、空き家が拡大すると、賃貸住宅としての活気や、良好な
居住環境・コミュニティ形成などが維持できず、ひいては、その地域形成に
も影響する。よって、その行政目的達成のため、空き家拡大を防ぎ、本件特
優賃住宅の空き家を最大限活用する必要があった。
②
本件要綱は、若年世帯の流入・定着による、まちの活性化、さらには、子
育て世帯の定住促進と次世代育成支援を目的とするもので、本件特優賃住宅
の空き家状況や社会経済情勢など、諸事情を総合的に考慮すれば、若年・子
育て世帯である限り、本件所得要件を充足しなくなった世帯についても、引
き続きの定着を図ることは、本件要綱の目的達成に資するものであった。
③
特に、本件所得要件を下回った世帯については、支援を打ち切ると、バブ
ル崩壊後の経済情勢の中で、収入減少に追い打ちをかけ、退去に繋げること
となり、また、本市の市営住宅への受入れも困難で、他に特優賃と同様の居
住水準を保てる低廉な民間住宅もないことから、退去後の受け皿がない状況
にあり、これらの若年・子育て世帯の生活の安定・居住の安定を維持する必
要があった。所得超過世帯にしても、不安定な経済情勢下では、超過して直
ちに打ち切るより、若年・子育てという世帯状況に鑑み、居住の安定等も考
慮し、本件特優賃住宅からの流出を防ぐことが妥当であった。
④
特優賃という特殊な制度枠組みの中で、一括借上げの主体である公社は、
契約上、空き家であっても家賃の全額を所有者に支払わなければならず、空
き家状況の推移から、本件要綱による支援制度開始時にも、既に公社には相
当の累積赤字があり、公社に補助金を支出する市の財政負担増を防ぐために
も、本件支援金の支出により既入居世帯の引き続きの居住を図る必要があっ
た。
以上のとおり、本市としては、特優賃を取り巻く状況に鑑み、何としても現状
を悪化させてはならないという状況にあったもので、空き家対策は手を尽くして
行われており、他に代替策もなく、政策的には、そのまま空き家を生じさせ、又
は生じさせる恐れがあるまま手をこまねいている訳にはいかず、本件要綱の原則
としての支援に加え、特例的支援を行ったことは、妥当であり、特段の不合理も
不公正もなく、裁量権の逸脱・濫用はないと考えるものである。
【3】
伊丹市が財務的な損害を被ったという主張について
上記理由により、違法でないため、損害を生じさせたものではないと考える。
10
3 監査委員の判断
伊丹市市民特別賃貸住宅に係る若年世帯等家賃支援要綱に規定している収入基
準に反した世帯分について、市民特別賃貸住宅若年世帯等家賃支援補助金の交付を
決定し、財団法人伊丹市都市整備公社に対し同補助金を違法、不当に支給していた
という本件請求について、事実関係の確認及び監査対象部局の説明に基づき、次の
ように判断する。
(1)
補助金支給の適法性、妥当性について
本件伊丹市職員措置請求に係る監査結果(以下、「本件監査結果」という。)「第
3
監査の結果 2 監査対象部局の説明の要旨」にもあるように、寄附又は補助
については、地方自治法第 232 条の2において「普通地方公共団体は、その公益上
必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」と規定されてい
る。その主旨は、地方公共団体は公益の追求のため種々の事務を行っているが、地
方公共団体以外の者が行っている事務・事業の中にも公益に資するものがあり、こ
のような事務・事業に対して積極的に支援することは地方公共団体の行政目的を達
成するうえにおいて有益であると考えられる。
同条の公益性判断基準については、「公益上必要がある」か否かは、その範囲が
広いことから、一見してこれを判断する程具体的な要件とは言い難く、したがって、
具体の寄附又は補助をする場合においては、当該寄附又は補助をすることが「公益
上必要がある」と認定する必要があり、この認定を行う者は、第一次的には、予算
を編成する地方公共団体の長である。しかしながら、この認定は全くの自由裁量で
はないから、客観的にも公益上必要であると認められなければならない。
そして、地方監査実務提要では、『地方公共団体の事務処理のための必要経費の
支出が違法であるというためには、その支出について裁量権の逸脱及び濫用が認め
られなければならない。また、寄附又は補助金の支出が違法であるというためには、
地方自治法第 232 条の2の「公益上必要がある場合」に該当しないことをいう必要
がある。』と指摘している。
次に、本件住民監査請求において、「請求人は、要綱に定める収入基準に反した
補助金交付の違法性を問うている」ものと考える。要綱については、ラリー大会補
助金支出損害賠償請求住民訴訟事件(札幌地方裁判所平成 16 年3月 18 日判決)にお
いて、『本件各要綱において、補助の目的、対象となる事業及び補助金交付の要件
等につき具体的に定めて、公益上の必要性についての判断基準を明らかにしている
ものであるが、本件各要綱は、行政当局が行政の指針として制定する内部規則であ
って、法律や条例等の委任規定に基づき定められたものではなく、それ自体法規と
しての性質を持つものではないから、本件各補助金の交付が本件各要綱に違反する
からといって、直ちに違法となるものとまではいえないと解すべきである。しかし
11
ながら、本件各要綱に違反して補助金が交付された場合には、それが補助金が「公
益上」の「必要」がないにもかかわらず交付されたことを推認させる事情となる余
地があることになる。』と判示されている。
以上のことから、本件補助金の交付にあたり、要綱に定めた規準に反しているか
否か、そして、それが地方自治法第 232 条の2の規定に反し、「公益上の必要」を
欠き違法と判断されるかについて、次に検討する。
(2) 要綱の収入要件に満たない世帯に対して補助金を交付しているか否かについて
本件補助金の申請及び決定並びに補助金の支給に至る一連の事務手続きについ
て提出資料等を基に確認したところ、平成19年要綱第3条他に定めている収入要件
に満たない世帯も含め補助金交付決定を行い、公社に対し年2回に分けて支給して
いることが確認された。その内訳については、本件監査結果、「第3
1
事実関係の確認
監査の結果
(2)請求人が主張する平成19年要綱第3条第4号他に規定す
る所得要件に充足していない世帯分に係る補助金について」のとおりである。
したがって、監査対象部局は本件監査結果「第3 監査の結果
2 監査対象部
局の説明の要旨」において、本件補助金の交付については、
「要綱の範囲内」の取
扱いであると主張するが、上記事実確認により、平成19年要綱第3条他に定めてい
る収入要件に違反した補助金の交付を行っているものと認められる。
次に、この要綱に定めた収入要件に反した補助金支給の違法性、不当性について
検討する。
(3) 要綱の基準に反した補助金支給の違法性、不当性について
平成19年要綱に規定している政令月収額の範囲を充足していない世帯への補助
金の支出が違法であるというためには、前記(1)に示すように、補助金の支出につ
いて市長の裁量権に逸脱・濫用があり、「公益上の必要を欠いていること」が認め
られなければならない。よって、要綱の基準に反した補助金支給について、その違
法性、不当性の有無を市長の裁量権に逸脱・濫用があったか否かで判断する。
監査対象部局が主張しているように、
「裁量権行使に逸脱・濫用がある場合とは、
補助金の支出を決定した判断に即していえば、特に不合理な又は不公正な点がそこ
にある場合にほかならない」(要説自治体財政・財務法ほか)とされている。そし
て、本件補助金については、伊丹市総合計画に基づき若年世代の流入・定着と、次
世代の育成支援を図り、活力あるまちづくりを目的とするものである。また、市民
特別賃貸住宅事業では、空き家の存在が公社の財政的負担となり、ひいては、伊丹
市の負担となるものである。すなわち、市税を投入し、空き家に伴う財政負担を解
消しなければならなくなるため、本事業運営において、上記政策目的の実現並びに
伊丹市の財政負担の軽減を図るため、市長の高度な政策的判断において決定された
12
ものである。
このことは、市民特別賃貸住宅事業の空き家対策等について、過去の伊丹市議会
定例会及び委員会において質疑がなされ、また、要綱の政令月収額の範囲を充足し
ていない世帯への今後の対応については、平成 23 年度の会計検査院の指摘による
国庫補助金の返還後なされた平成 24 年度当初予算編成における市長ヒアリング
(本件監査結果
第3
監査の結果
1
事実関係の確認において資料確認済み)
において政策決定され、その後、当該政策決定に基づき、本件住民監査請求の対象
とした平成 23 年度前期分及び後期分の補助金交付決定がなされ、同補助金の支給
手続きを行っていることによって認められる。
これらのことから、本件住民監査請求の対象とした補助金の交付については、平
成 19 年要綱第3条4号に規定している「政令月収額が、153,000 円以上 268,000
円以下」他、「収入要件」を形式的に欠いており、また、要綱の見直しを怠ってい
る等不適切な事務処理が認められるが、上記政策目的を実現するにおいて、施策の
「公益性」が認められ、市長の裁量権に逸脱・濫用があるとは認められない。した
がって、地方自治法第 232 条の2に規定する補助金交付の「公益上の必要性」を欠
くと実質的に判断されるまでの違法性、不当性は認められない。
4 結
論
以上のことから、
「要綱に違反した違法、不当な公金の支出である。」とする請求
人の主張については事実と認められない。したがって、伊丹市長等に関する請求人
の主張は理由がないものと判断し、本件請求は棄却する。
13