第1章 フィードバック制御システムの構造

第1章
フィードバック制御システムの構造
自動車を「20世紀の恋人」と呼んでいる人がいる。これはこの世紀を通
して自動車ほど多くの人々に求められ、愛され、育てられる工業製品はほかに
ないという意味を言っています。
この恋人を私達はハンドル、ブレーキ、アクセル操作を通して制御していま
す。その制御誤ると恋人は一瞬にして凶器に化ける。
機械を制御することは、まるで 「機械を道具のように操る」といってもい
い。人間は鋏を道具のように使える。大きな設備も道具のように扱うためには、
制御の力が必要である。
これから我々はフィードバック制御について勉強し、様々な制御問題を解決
しなければならない。実は様々な制御システムはある共通な構造を持っている
ことを今日説明します。
まず、車の話を取り上げて話を進めましょう。例えば車を 60km/h で走ら
せることが要求される。
車――>速度――>メータ――>目――>脳――>足――>
->アクセル/ブレーキ――>車の速度が変わる
このとき、運転手は車の速度を見ながら目的の速度になっているかどうかをチ
ェックする。そして、車の速度と目的速度の差によって、アクセルを踏んだり、
ブレーキを踏んだりします。この一連の動作を連続的に行うことによって、目
的速度 60km/h を保つながら走ることができる。この作業を図面で表す。
この図はフィードバック制御の基本構造を表しています。
1-1 制御量と操作量(目的と手段)
先週の講義で
「制御の定義」 目的に合うように対象に必要操作を加えること
を書きました。この定義からわかるように、制御には必ず「目的」がある。フ
ィードバック制御の目的は、ある物理量を望ましい値にすることである。
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たとえば、車の速度を60km/hにする。
車の方向を変える。
船の方位を変える
部屋の温度を25℃にする
蒸気機関の回転数を一定にする。
望ましい値にさせたい量、すなわち制御したい量を「制御量」と言う。
次に、制御量に影響を与える手段を考えなければならない。
アクセル(ブレーキ)――>車の速度を60km/hにする。
ハンドル ―――> 車の方向を変える
舵角――>船の方位を変える
エアコン(熱交換)――>部屋の温度を25℃にする
ガバナ――>蒸気機関の回転数を一定にする。
手段として選ばれたものを「操作量」という。
1-2 フィードバック制御システムの基本構造
フィードバック制御系は、その役割から、4つの部分から構成されている。
1.
制御対象(操作量と制御量の因果関係)
2.
センサー (制御量を計測する、人の五感に対応)
3.
アクチュエータ(操作を行う、人の手脚に対応)
4.
制御器(制御ルールによって制御信号を出す、人の脳に対応)
本によっては、以下のような表示の仕方もあります。
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例1-2: ロボットアームの角度制御
制御対象: ロボット (制御量:角度、
センサー: 角度センサ
アクチュエータ: モータ
制御器 : コンピュータ
例
操作量、力)
1-3
この蒸気機関の特徴は
1. シリンダには熱い蒸気のみを扱い
2. 蒸気によって得られた運動は上下運動だけではなく、回転運動へも
実現。
3.回転速度をガバナで制御する
ガバナの速度調節原理は以下の図で説明できる。このガバナは、センサー、ア
クチュエータ、制御機の3役を担っている。
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馬力とワット:
エンジンの出力単位には、「馬力」があります。近年は単位の国際化に伴い、「W(ワ
ット)」または「KW(キロワット)」に移しています。このワットの単位は言うまでもなく、
蒸気機関を発明されたジェームス・ワットの功績を称えて後世の人が命名したもので
す。「馬力」はジェームス・ワットが定義した仕事率(単位時間当たりの仕事)の単位で
す。ワットが自分で発明した蒸気機関の販売価格を決めるために、仕事率の単位が必
要でした。
ワット: 1W=1N・m/s
馬力 : 1HP=0.746KW
(興味があれば、ワットがいかに馬力を測ったかを調べてみよう)
1-3 正のフィードバック と 負のフィードバック
負のフィードバック: 結果を打ち消す
正のフィードバック: 結果を助長する。
フィードバックは自然現象にも現れるメカニズムです。自然の中には、正の
フィードバック現象がより多いです。
例: 船に積んだ荷物が傾きに移動したら、船はますます傾く。
例:人口の増加
例:投資と利潤
負のフィードバックの例として、市場原理があります。需要と供給が一方的
に拡大することはなく、あるところでバランスをとります。
制御システムでは、負のフィードバックを使います。
1-4
フィードバック制御系が有効であるわけ
フィードフォワード系
フィードバック系
y = P1u
50m 先の目標まで70歩で歩く。
y=
P2
u
1+ P2 C
目で目標を確認しながら歩く、
目標に着いたら止まる。
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(A) 外乱の影響抑制効果
途中で障害物があり、それを回避する必要がある場合、フィードバック系は
その影響を受けにくい。
(B) 制御対象の特性が変わるとき(人が変わった)
、フィードバック系はその影
響を受けにくい。
1-5
フィードバック制御系で注意すべきこと:
例2-4:
安定性
シーソー上転がすボールの位置制御について考えよ。
力を上下に切り替えることによって、ボールは左と右の間に往復する。しかし、こ
の往復運動をしながら一点に留まるようにすることは、そう簡単ではないことがわかる。
下手にすると、その往復の幅がだんだん広がってしまうこともありうる。その場合の現
象を以下のグラフで表す。
これはハンチング現象で、不安定性の一つである。このハンチング現象は、遠
心式ガバナにも出ていました。
安定性の概念をこれからの授業で改めて説明します。フィードバック制御とし
て、安定性を保つことは、制御設計の最大の目的といっても過言ではないです。
第一章の総括: フィードバック制御のポイント
a) 制御量(出力)が希望値と違っていれば、それが何の原因によるものに関わ
らず、操作量(入力)による修正を行う。
b)制御対象のパラメータ変動、外乱の影響を抑える
c)不安定な制御対象に安定化することができる。また、正しく制御しなけれ
ば、不安定になる場合があります。
問題: フィードバック制御の例を一つあげて、それぞれ4つの構成要素
を説明せよ。
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