2013年No.01 (PDFファイル)

http://www.meja.jp
冗句茶論(ジョーク・サロン)
松井寿一
かせる。
コタツ(炬燵)
。
体の中で一番がんじょうな所は肘。ヒジ鉄とい
十二支の中で一番体重が重いのは?。巳(身)
う。
では一番丈夫な所はというと肩甲(健康)
骨。
が重い。
それでヘビー級という。
十二支に因んだ小咄をいくつか。
北海道には、昆布や若芽を専門に運搬する電
大震災が起きて、真っ先に逃げた動物は猪。さ
馬は絶対鹿と並んで歩かない。馬鹿になるか
いごになった動物は鶏。
いの一番、
トリ残された。
ら。
ねずみはなぜねずみというようになったか。
猫が
蒙古の人々にとって絶対に欠かすことのできな
並べて北海道は網走の草原で競争させた。
優勝し
いつ襲ってくるかわからない。
交替で見張りに立っ
い動物。
ヒツジ品。
たのはどの車か。バンである。網走バンが一(いち)
車がある。
海藻(回送)
電車。
セダン、
バン、
クーペなどいろんな車種を一列に
た。
寝ずに見ているので、
ねずみとなった。
(番外地)
。
NPO日本医学ジャーナリスト協会会報
他人(ひと)の真似をすることはなぜか猿真似と
JANUARY 2013 Vol.25 No.1 (通巻69号)
牛はいつもいじめられてばかり。
ギューギューの
いう。
しかしそれではお金を損することになる。
野菜の「オクラ」
はどこで栽培するか。
山の上で
めにあっているので、
もうもうといい続けている。
去るマネー。
ある。
山の上オクラ。
トラが主人公のテレビドラマがある。寅さんで
夫婦喧嘩をして、
奥さんがおぶった赤ちゃんをお
黒い鳥と白い鳥の二羽で一匹の動物になる。
鳥
はない。
虎である。
タイガードラマ。
ろして出ていってしまった。
去る者は負わず。
は鵜と鷺。
ウサギ。
十二支の中の食べられる動物の中で、
ウサギが
人間の家に飼われているのに、飼主よりも古く
ホラ吹き男しゃくと風呂吹き大根を入れかえて
一番おいしい。
「故郷」
という歌で兎おいし……。
から住んでいるような気持ちになっているのが
みた。
風呂吹き男しゃくに、
ホラ吹き大根。
万円、
ちゃんと返してくれよな」
「
。大丈夫、
ちゃんと
9月1日(防災の日)
、文房具屋で原稿用紙を10
耳を揃えてかえすよ」
束買った。
ご主人が「文才のある人はいいですね」
発行:NPO日本医学ジャーナリスト協会
発行代表人:水巻中正
<9月公開シンポジウム>
「医療事故報道を検証する」—————————— 1
<10月>
日本医学ジャーナリスト協会賞—————————— 5
発表・記念シンポジウム
命あっての俳句考———————————— 10
<11月例会>
「ボストンにおけるヘルスケア・トピックと
日本への示唆」————————————
分子標的薬と患者アクセスを考える— ——
新刊紹介— —————————————
冗句茶論— —————————————
11
14
14
16
●9月公開シンポジウム
犬。
居ぬき(犬気)
。
トラ年とウ年の小咄。
「去年貸した虎の子の10
Medical Journalists
Association
of Japan
「医療事故報道を検証する」
報告・会田薫子
「読めない」といったら独身ですかと聞かれた。
「嫁ない」
。
といったので「あなたには愛妻がいるでしょう」
と
「書けません」といったら科学研究所の略だね
タツ(龍)
は春、
夏、
秋に雨を降らせたり、
風を呼
返したら「一年前に亡くなりました」
という。
亡妻の
といわれた。
科研(書けん)
。
んだり、
雷を起こしたりする。
しかし冬は子供にま
日であった。
シンポジスト :
みである」と述べ、医学・医療という専門領域で発
永井裕之氏(医療の良心を守る市民の会代表)
生した事柄について専門外のジャーナリストが取
出河雅彦氏(朝日新聞編集委員)
材することに伴う諸問題を考慮するとき、
検証活動
佐藤一樹氏(いつき会ハートクリニック院長)
は必須であると強調した。
コーディネーター :
新刊紹介
秋元秀俊氏(日本医学ジャーナリスト協会幹事)
報道が開いた医療の密室の扉
田辺功氏(日本医学ジャーナリスト協会副会長)
最初の報告者は、1999年に東京都立広尾病院
の医療過誤によって妻を亡くした永井裕之氏。永
たち日本人は科学知識を、いわば完成された
門家は言う。アートとは、サイエンティフィック
知識・技術に振り回されないで、あるいは、思
建築物ようなものとして、欧米から受け取り、
な方法以外の手段で、心の動きなどを捉えよ
い込まないで、自分中心に考える習慣をつけ
2012年9月15日、日本医学ジャーナリスト協会主
井氏の妻は同年2月、左手中指の関節リウマチによ
吸収しようと努めてきた。もちろんそれ自体
うとするもので、どんなに論理を重ねても、理
ることが大事のようだ。医学技術は今後も進
催による公開シンポジウム「医療事故報道を検
る滑膜除去手術を受けた。主治医は「簡単です。
何
は、日本の科学技術に大きな進歩をもたらし
論通りに現象は起こってこないことがしばし
んで行くだろう。いま課題になっているものは
たであろうが、その反面、科学の知識や理論
ばある。
解決の対象となり、いずれ解決されるだろう。
証する」が東京都内で開催され、全国から112名の
も心配いりません」と説明していた。しかし術後、
消
が生み出されてくる背景や具体的な試行錯誤
養老孟司氏が著した『バカの壁』にこんな
しかし、相当の時間がかかる。ただどんなに
ジャーナリストや医療事故被害者、医学・医療関係
毒薬ヒビテンを入れたシリンジをヘパリンのシリン
のプロセスが抜けおちたかたちで科学やそ
ことが書いてあった。ある男子中学生が、
「私
進歩しても、人体そのものは昔と変わらない
者らが参加した。異なる立場で医療事故に関わっ
ジと取り違えられ、急死した。主治医は永井氏に、
の歴史を理解することにつながっているので
は何でも判っている」というので、
「それじゃ、
ことは確かだ、これが、この本の読後感であ
た3名のシンポジストの報告を通して、医療事故
死因は心筋梗塞あるいは大動脈解離、クモ膜下出
はないだろうか」。科学はもともと物理的現象
婦人が子供を産む苦しみはわかるか?」と尋
る。最後に、約600年前に生存した一休 和尚
報道の問題点やその背景について議論するととも
血が考えられるなどと説明した。しかし永井氏によ
の説明から発達した。それを医学に適応させ
ねたら、絶句していた。女性が出産という大仕
の歌を紹介しておこう。 たのは、ウイリアム・ハーベイが血液の循環理
事を果たすことは、男性には判らない。ことほ
に、対話を試みた。
ると、この時すでに、薬剤を準備した看護師は取り
論を発表した17世紀以後である。科学の基本
ど左様に、判らないことが山ほどある。むし
世の中は 食うて稼いで寝て起きて 公開シンポジウムの開催に際して、日本 医学
違えに気づいて医師に報告していたとみられる。
は、何度行っても同じ結果が出ることにある。
ろ、社会には判らない事だらけであると自覚
さてその後は死ぬるばかりぞ
ジャーナリスト協会の水巻中正会長は、福島県立
永井氏は、妻に心疾患等の既往がなかったため
それによって、科学的に証明されたという。そ
することから始めるべきである、と言ってい
大野病院事件以降、医療事故報道は年々減少し、
主治医の説明に納得せず、解剖によって死因を特
れでも、不確定性理論と称する数字の微妙に
る。
ジャーナリストの発信が不十分な状態にあるとし
定 することを求 め
決まらない部分がある。まして、人間は百人百
現代医学にホスピス・マインドを持ち込んだ
様で、大雑把な原因は追究できても、一人一人
シシリー・ソンダースは、オックスフォード大学
て、
「閉塞状況の実態を分析し、あるべき方向を探
た。解剖は実施され
の個人の原因に均一した結論は出せない。一
が出した『緩和医学』の教科書の序文に、
「現
るべく議論したい」
と挨拶した。
ることとなったが、
時、客観的に病気を観察するために、患者を
在は、病気の原因ばかりを追って、死に臨んで
シンポジウムのコーディネーターである同協会
予定 時刻になって
入院させる方法をとった。今も基本は同じ体
体験する『痛み』や『倦怠感』の研究が忘れ
幹事の秋元秀俊氏は、シンポの趣旨説明にあた
も開始されず、院長
り、
「ジャーナリストはあらゆることに対して批判的
は永井氏に、改めて
な視点を持つが、1つ例外があり、それは、自分自
病理解剖の承諾お
身を批判の対象から外しているということである。
よび 警察に届け出
今日の企画は、業界団体である医学ジャーナリス
ないことを求 めた
協会が報道を俎上にのせ検証しようという稀な試
という。永井氏によ
制である。しかし、社会生活から産み出され
られているが、やっと『緩和医療』の指導書
た病気は、純粋培養の細胞を観察するように
が出版されたことは喜ばしいことである」と
は行かない。したがって、医学は基本的には、
絶賛している。
物理現象を理解する手段としての科学とは
西欧から輸入した医学技術を翻訳して、吸
異なった側面がある。だから、医学には、サイ
収しようとした成果は高く評価しなければな
エンスの面とアートの両面を持っていると、専
らないが、現実を重視せずに、西欧で育った
Medical Journalist 16
(大野善三)
Medical Journalist
Vol.25 No.1(通巻69号)
発 行:NPO日本医学ジャーナリスト協会
発 行 者:水巻中正
編 集 責 任:松井宏夫
E-mail:[email protected]
事 務 局:東京都港区麻布台1-8-10 麻布偕成ビル7階
(株)
コスモ・ピーアール内
担当 近藤 龍治
TEL 03-5561-2911 FAX 03-5561-2912
ウェブサイト:http://www.meja.jp
▲コーディネーターの秋元秀俊さんと田辺功さん
Medical Journalist 1
ると、院長からの要
は語られることが多いが、医療安全については政
で繰り返されてきた事実と、報道が事故の発生時
医 師 法21条 の 意 味
請は、東京都の担当
治も行政も国民も認識不足であり、メディアの取り
に偏りがちな傾向にあることを指摘した。
と報道の問題
者 が 都 の「 医 療 事
組みも不十分と指摘。交通事故死よりも医療事故
次に出河氏は、捜査段階から刑事裁判の全過程
3人目の報告者は、
故・医事紛争予防マ
死の方がはるかに多いとみられるにもかかわらず、
を通じて取材した福島県立大野病院事件と薬害
いつき会ハートクリ
ニュアル」に沿って院
医療事故や医療ミスについての報道件数が2000
エイズ事件に関して、自らの体験を踏まえつつ述
ニック院長の佐藤一
長と協議した結果で
年代後半に減少し続けているのは、
「メディアの委
べた。
樹 氏。佐 藤 氏 は、東
あった。
縮ではないか」
と述べた。
県立大野病院事件では、2004年12月の事故後、
京女子医大事件で業
病理解剖の結果、
産婦死亡は県に報告され、翌年3月に県が事故調
務上過失致死罪に問
所見に 心 疾 患等 は
医療事故報道の役割と課題
査報告書をまとめた。警察はその報告書によって
われたが無罪となっ
認められず、病理医は誤薬注入の確率は90%以上
朝日新聞編集委員であり、
『 ルポ医療事故 』の
同事故について知ることとなった。その後、2006
た経験をもつ。今回のシンポジウムでは、報道被害
と院長に報告したが、院長は遺族に説明しなかっ
著作もある出河雅彦氏は、まず、医療事故報道の
年2月に、業務上過失致死と医師法違反の容疑で
を受けた同事件ではなく、都立広尾病院事件につ
たという。
役割に関して、医療システムは国民生活に欠かせ
産婦人科医が逮捕され、起訴された。この事件は、
いて、医師法21条に関する報道の問題に関して報
永井氏は通夜に先立つ湯灌の儀で、妻の腕の静
ない社会基盤の1つであり、医療の質の向上に資
広く全国の医師に衝撃を与え、検察批判が起こり、
告した。
脈に明らかな異状を確認し、写真を撮った。葬儀
する情報提供や問題提起を行うことが報道機関
日本産科婦人科学会が学会を上げて支援するな
都立広尾病院事件には、
看護師2名が業務上過失
後に病院を訪れた際にその写真を病院幹部に見せ
の役割であると述べた。医療事故については事故
ど、逮捕された医師への支援の輪が広がった。地
致死罪に問われ一審で有罪が確定した件と、
院長ら
ると、
副院長は「点滴で炎症を起こすこともある」
と
の発生だけを報じるのではなく、なぜ事故が起き
裁は無罪判決を下し、検察は控訴せず、医師の無
が医師法21条等の違反に問われた件とがあり、
佐藤
「平然と」述べたという。この期に及んでも病院側
るのか、事故を減らすためにはどうすればよいか
罪が確定した。
氏は後者の院長のケースについて分析した。
は誤薬投与を認めなかったため、事件がうやむや
を伝える努力が必要であるとして、公的調査制度
朝日新聞は、県が報告書をまとめた際に報じた
佐藤氏は、
まず、
医師法21条について大半の医師
にされることを恐れた永井氏は、警察への届出を
の創設、治療成績データベースの整備、教育研修、
が扱いは大きくなく、その3か月後、県が医師を減
は理解していないと述べ、用語の定義を明確にす
強く迫った。しかし、永井氏は、病院側には真相究
ヒューマン・エラーが重大な結末に至らないための
給処分にした際には地域版で扱った。あくまで地
ることから説明し、
「医師法21条は死体または死産
明の意思も警察への届出の意思もないと判断し、
安全策や事故防止策の開発などについて、掘り下
方のニュースであった。それが突然、全国ニュース
児を検案して異状があると認めたときの届出義務
3月に渋谷署に被害届を提出した。
げて報道すべきと述べた。
になったのは医師逮捕時であり、出河氏が取材を
であり、異状死の届出義務ではない。異状死とはど
警察関係者から情報を入手したと思われるフジ
医療事故報道に関して記者研修用に出河氏が
開始したのも医師逮捕後だったという。
こにも書かれていない」
と強調した。
また、
「検案」
と
TV記者が永井氏を訪ねてきたが、永井氏は自らメ
整理した留意点として、正確かつ客観的で偏りの
出河氏は、仮に医師が逮捕されていなかったら
は、医師が死者の「外表検査」によって死因や死因
ディアにはアプローチしないと以前に病院側に伝
ない情報提供を心がけること、医療事故の形態が
と仮定すると、全国ニュースにはならず、書類送検
の種類を判定する業務であると法医学において定
えていたことから、記者には病院で質問するよう告
多様であり過誤が明らかなものばかりではないこ
され、判例に沿えば有罪もあり得ただろうと述べ
義されており、
判決文でもこのように記されていると
げた。
とに注意すること、事故の直接原因だけでなく背
た。
指摘。
あくまで「死体の外表面を検案して異状を認
フジTVの報道はスクープとなり、永井氏にとっ
景要因にも目を配ること、原因調査の過程と結果
県立大野病院事件の公判をすべて傍聴したと
識した場合に届出義務が生じる」
と述べた。
ては、
「医療の密室の扉が、報道によって突然開い
に注目し、客観性・中立性を監視し、再発防止策の
いう出河氏は、県の事故調査は再発防止対策に生
地裁判決と高裁判決は、懲 役1年、執行 猶予3
た」
。記者会見した病院側は隠蔽の意図を否定し、
策定とその実施までを継続的に取材すること、事
かされず、メディアも県の事故調査報告後の取り組
年、罰金2万円という量刑は同じであるが、地裁判
警察への届出の遅れは「遺族の意向。遺族が了
故の背景にある医療慣行の問題点や制度の不備
みに関してフォローせず、警察が動いてから大騒ぎ
決が「異状を認めた」と認定した日時に誤りがある
解している」と、事実と異なる発言をしたという。ま
を指摘すること、
などを挙げた。
し、その点では行政にもメディアにも問題があった
として高裁判決はこれを破棄した。
た、東京都側は、2月に永井氏が病理解剖の実施
また、医療事故に関する記事を紹介しながら、
と述べた。
佐藤氏は、高裁判決のポイントは大きく2点あ
に承諾した事実を指し、
「 これは警察へは届け出
患者の取り違えや投薬ミス等の類似の事故が各地
また、薬害エイズ事件について出河氏は、検察
り、1点目は地裁判決が破棄されたことで、2点目
ないことを意味する」と、前述の都のマニュアルの
が事件当時は明らかとはいえなかった科学的知見
は、届出義務が生じるのは、死体の「外表面を検査
論理を繰り返し、永井氏の認識の誤りであるかの
を引用し、後知恵で被告の刑事責任を追及したこ
(検案)して異状」を認識したときであり、診療行為
ように指摘し続けたという。
とについて、東京地裁が検察を厳しく批判したと
の「経過の異状」を認識したときではないことを明
永井氏は都立広尾病院と都衛生局の対応は不
述べ、被告医師の代理人を務めた弘中惇一郎弁護
確にしたところであると述べた。院長は最高裁に
誠実極まりないと憤り、真相究明と謝罪を求めて
士の「検察・被害者・メディア一体化」という表現を
上告したが、最高裁はこれを棄却したため、高裁
石原都知事に直訴。知事は報告書作成を指示し、
引用しつつ、
「検察の露払い的な記事」の書き方に
判決の内容が確定した。
事故を認めた。しかし、謝罪したのは都知事と新
なったこともあったことに反省を迫られたと述べ
この判決を報じた各紙の記事について、佐藤氏
任の衛生局長らであり、
事件当事者ではなかった。
た。
は、地裁と高裁の判決内容が「同じ」か「ほほ同じ」
▲永井裕之さん
永井氏は、日本社会では交通安全や食の安全
Medical Journalist 2
▲出河雅彦さん
▲佐藤一樹さん
とした朝日新聞と読売新聞と毎日新聞と日経新
Medical Journalist 3
で安全対策をいくら検討しても安全を担保するに
足る対策とはならないだろうと述べ、
「医療界の人
間に見えている安全対策は外界からみると非常に
脆弱。医療界以外の安全対策の専門家および再
●10月
第1回 日本医学ジャーナリスト協会賞発表および
記念シンポジウム開催
発防止の専門家と協力しなければ、また何度でも
報告・大熊由紀子 協力・神保康子
同様の事件は起こるだろう」と訴えた。
今回のシンポの中で、医療事故死は交通事故死
▲パネルディスカッション風景
の4倍以上発生しているとみられ、実数では国内
日本医学ジャーナリスト協会は、昨年、設立25周
総合司会の杉元順子副会長のもと、まず、水巻中
で年間2万人超が医療事故のために命を失ってい
年を記念して、質の高い医学・医療・福祉ジャーナリ
正会長から、賞状とトロフィーが大賞の2作品、特
るとみられるという、医療事故に関する研究報告
ズムを根付かせるために「日本医学ジャーナリスト
別賞2作品の代表に手渡されました。
表彰状とトロ
の数字が永井氏から示された。また、シンポの参加
協会賞」を創設しました。
フィーは、事務局の古阪秀代さんが準備してくださ
聞の記事は、
「点数をつけるならば0点または落第
者からも、医療事故報道の減少が現在の問題の1
第1回には、全国から35点の応募があり、会長、
いました。
点」と断じた。一方、一審判決破棄の事実を報じた
つとの発言があった。
副会長を中心に、新聞・雑誌・TVの報道にたずさ
表彰式に続いて記念シンポジウムが、協会賞担
産経新聞の記事については、その他の点で間違い
田辺氏からの、報道件数が多くなれば医療事故
わった経験のある協会幹事が審査に当たりまし
当の大熊由紀子幹事のコーディネートで行われま
があると指摘しながらも「かろうじて合格点」とし、
は減るだろうかという問いかけに、佐藤氏は、
「報
た。書籍については、応募数が多いことから、永井
した。その模様を会員の神保康子さんがテキスト
東京新聞の記事は、一審判決破棄の事実および
道されただけでは事故は減らない」として、売れる
裕之幹事が夏休みをつぶして丁寧に読んで、
「社会
に起こしてくださり、協会のホームページhttp://
法的な意味合いが不明確だった医師法21条の「検
記事を掲載するという商業主義のメディアの特徴
へのインパクト」
「オリジナリティ」
「科学性・論理性」
www.meja.jp/に、全文がupされました。トロフィー
案」について裁判長が「診療中であるか否かを問
や、記者の経験と資質も問題を生んでいると指摘
の3つの指標で5段階評価をし、審査委員は上位
のマークをクリックするとごらんになれます。また、
わず、
死者の外表(裸体)
を検査すること」
と初めて
した。
のもの中心に本に目を通すという方法で進められ
そのエッセンスを、神保さんが、協会報のために、
以
明確化した点を報じた点などで「100点満点」と評
後者に関して田辺氏は、事件記者には若手が多
ました。
下のようにまとめてくださいました。神保さん、あり
価した。
く、医療事故も事件扱いであれば警察担当の若手
当初は、3作品を協会賞にという心積りで、上位
がとうございました。
が取材するのがいずれの社でも通常の対応であ
2作品については委員全員の意見が短時間で一
受賞された方は、それぞれの媒体で受賞につい
事故の背景の医療システムの問題を解明すべき
ると述べ、社会部記者と医療記者では報道の目的
致しました。ところが、3つめの作品については、評
て報じるとともに、主催するシンポジウムのたびに、
シンポジストの報告を受け、今回のコーディネー
が異なることもあると付け加えた。
価が伯仲し、しかも、どちらの作品も、きわめて個
トロフィーの映像などをスクリーンに映し出し、結
ターの一人であり、日本医学ジャーナリスト協会副
事 件記 者 が 取 材 する場 合には、医療 事故は
性的なものであったため、水巻会長の提案で、今
果として、日本医学ジャーナリスト協会の存在が社
会長の田辺功氏は、医師法21条の解釈という観点
ヒューマン・エラー事件として個人責任を追及しが
回は「特別賞」
として2つの団体に協会賞を差し上
会的にアピールされることになりました。
から見た都立広尾病院事件の判決の捉え方につ
ちであるが、都立広尾病院事件では、2名の看護
げることとしました。結果は、以下の通りです。
以下は、記念シンポジウムの模様のサマリーで
いて、
永井氏に見解を求めた。
師のエラーの事件としてではなく、病院側の医療
永井氏は、佐藤氏が強調した「死体の外表に異
事故隠し事件として報道されてきた。
大賞
状が認められなければ届出義務がない」という点
永井氏は、真相究明と再発防止策の実現に必要
山陰放送テレビ総局テレビ制作部
について、医療事故被害者の死体の外表に必ずし
なのは、
個人責任の追及ではなく、
事故の背景にあ
も異状が認められるわけではなく、異状の認定を
り、事故の発生につながっているシステム上の問題
外表に特定することは、真相究明を阻害し医療の
の解明であると繰り返した。
「個人責任の追及をし
密室性を助長する恐れがあると指摘した。
ている限り、本当の問題は闇に葬られる。医療安
出河氏は、医師法21条はそもそも事件性を前提
全の向上のために、メディアは医療事故の深層、つ
特別賞
れた約50分の番組。ディレクターの佐藤泰正さん
とした条項であると考えられ、外表面の検案が医
まり、個人責任を追及して終わるのではなく、医療
タバコ問題情報センター
が、
番組制作の経緯と番組の紹介をなさいました。
療事故の事実の特定につながらない可能性があ
システムを検証し、事故要因を解明して報道すべ
ることを考慮すると、
裁判官は判決文の影響すると
き」
と指摘した。
特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構・
谷田人司さんは、佐藤さんの先輩にあたります。
ころをどのように認識していたのか、不明確である
佐藤氏も、事故につながる医療システムの問題
コンボ
2008年、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、
次
と述べた。
の解明の重要さを指摘し、そのために財源が確保
メンタルヘルスマガジン『こころの元気+(plus)
』
第に呼吸筋までおかされ、2010年には気管切開
また、
医療安全に関して佐藤氏は、
医療界が考え
され、
対策が取られるべきであると述べた。
る「安全」
と、
医療界以外が考える「安全」
はレベル
と質が大きく異なるものであり、医療界の内部だけ
Medical Journalist 4
(あいた・かおるこ=東京大学特任准教授)
▲大熊由紀子さん
す。
『生きることを選んで』
下野新聞2025年問題取材班
『終章を生きる 2025年超高齢社会』
【大賞】
山陰放送『生きることを選んで』
■ALS になった先輩、
谷田人司さんと一緒に、
想いを生かす番組づくり
山陰放送テレビ総局テレビ制作部の『生きるこ
とを選んで』は、全国の民放テレビ局33局で放映さ
『禁煙ジャーナル』
(月刊紙)
(月刊誌)
番 組の主人公で山陰 放 送の元報報 道 記 者、
して、人工呼吸器をつける決断をします。声を失っ
発表・授賞式は、2012年10月23日に、日本プレス
てからも自宅で山陰放送の番組企画を担当。その
センターで行われました。
かたわら、神経難病サロンを開設しALSやその他
Medical Journalist 5
を訪れるシーンも映し出されました。かつてバイク
した。病の進行の辛さから、家族愛を忘れてしまう
で走り、牧場のアルバイトに汗を流した地に降り立
こともありました。そんな時に励ましてくれたのが、
ち、これまで何度も聞いてきた時計台の鐘を聴く
妻や訪問看護師さんなど、周りの方です。話を聴い
谷田さんと妻の佳和子(みわこ)さん。谷田さんの
てくださり、ずいぶん救われました。私はこうして、
目から涙が溢れ出ました。
心がぶれながら、生き抜く決意が固まっていくのだ
「本当は、生き抜く自信を持てていなかった自
と思います」。
分」に気づきながらも、文字盤を指し示す谷田さ
「一方、生きる前提として、社会的介護が必要で
ん。佳和子さんが文字盤を読む声で、ダイジェスト
す。ヘルパー、訪問看護、長期入院を受け入れる病
版は終わります。
「つよく、
いき、
ぬく」
。
院といった、社会的介護がないと、患者は、家族が
会場は拍手に包まれました。
疲弊することを気を遣い、死を選ぶケースがあり
この番組が放映されると、たちまち大きな反響
得ます。家族の絆があっても、療養環境が整わな
の難病の人たちを支援する活動も続けています。
がおこり、民間放送教育協会のホームページには、
いと、生きることを断念することもあり得ます。現状
作品は、5部構成からなります。
番組のきっかけについて、佐藤さんは次のように話
150件もの書き込みがあったそうです。また、医療
は、介護医療体制の地域格差があり、大きな問題
第一部『足音』は、既にさまざまな超高齢社会の
しました。
機関や教育機関から、
「DVDを貸してほしい」とい
となっています。こうした問題が解決に向かい、生
きざしが生まれていることを描き、第二部『わが家
「個人的に、谷田さんのことがずっと気になって
う問い合わせも相次いでいるという説明もありま
きようと願う患者が増えることを願っています」。
で』は、在宅医療、在宅介護、あわせて在宅ケアの
いて、なんとか谷田さんの想いを番組にできない
した。番組DVDの貸し出しは、民間放送教育協会
この番組の構成を担当した放送作家の金杉文
可能性を現状から見ていこうとの狙い、第三部『老
かとずっと考えていました」
「きっと、
命というものを
のホームページhttp://www.minkyo.or.jpから申し
夫さんも、番組の制作中にご自身が動脈瘤が破裂
いのものがたり』は、医療技術が進歩し大きな恩恵
見つめているだろうと」
。
込みができます。
して生死をさまよった経験をまじえてコメントをし
を受けている半面、
穏やかに老いていくことを忘れ
ました。
ていないかという問題提起、第四部『「食べる」へ
の挑戦』
はクローズアップされている胃ろうの問題、
▲受賞者の皆さん
佐藤さんがその想いをぶつけたところから、二
人三脚の番組づくりが始まりました。
■谷田さんが1日以上かけて打ったメッセージ
「構成打ち合わせをしていて仕上げの段階まで
特別に編集した5分ほどの番組の「さわり」が
谷田人司さんと佳和子(みわこ)さんが会場に
いって、谷田さんの言っていた『生きる意味』をどれ
「外すことへの挑戦」を取り上げ、第五部『支え合う
放映されました。谷田さんが、ALS体験の先輩に
到着するまでの間に、谷田さんからのメッセージも
ほど真剣に考えていたかなと自問自答していまし
まちへ』
のテーマは、
厚生労働省も進める地域包括
あたる鴨下雅之さん一家の取材に東京まで出向く
披露されました。
た。それが、ストレッチャーに乗ることになり、50
ケアシステムを取り上げています。
シーンなどを切り取ったものです。
「このたびは『生きることを選んで』を、第一回日
日間入院している間に、生かされているんだなと感
山崎さんは、第二部と第三部について、重点的に
鴨下雅之さんは、ALSの症状が進み、5年前
本医学ジャーナリスト協会賞、
大賞に選んでいただ
じました」
「最後まで関われたことを私自身、とても
解説しました。
からTLS(閉じ込められ症候群)になっています。
き、大変光栄に思います。同僚の佐藤ディレクター
誇りに思っています」。
たとえば、
胃ろうをつけて退院した76歳の男性と
これは、感覚は正常なままでも身体を一切動かす
のおかげで、番組内で記者として取材させていた
ことができず発信ができない状態です。
だいたことは、記者冥利に尽きます。生きる意味と
谷田さんは、雅之さんの妻の章子さん、息子の俊
は何か、深く考える、得難い経験をさせていただ
下野新聞『終章を生きる 2025年超高齢社会』
くなるまでの1 ヵ月間で口からものが食べられるよ
也さんにインタビューします。谷田さんの、
「TLSに
き、
感謝しています」
。
■病院では食べられなかった食事を
うになったこと、家で喜寿を迎えることができたこ
なっても、生きる意味とは?」という問いに、章子さ
「しかし、私は今まで、しばしば生き抜く決意が
楽しめるように、亡くなる日もお風呂に
と。亡くなる日もお風呂に入ることができ、自宅で
んは、
こう答えます。
揺らいでいました。緩和ケアを医師にお願いした
栃木県を拠点とする下野新聞で2011年12月から
の最期へという展開となったことが紹介されまし
「一緒に歳とりますよね」
「白髪も増えるし、おで
こともあります。痰の吸引を拒み、窒息しようとした
6月末まで、原則、実名のルポルタージュで50回の
た。記事を読んだ女性からの手紙、
「記事を読むた
こも広くなってくるし、色つやもかわってくる。私も
り、自分で呼吸器のチューブを外したこともありま
連載を展開し、こちらも大きな反響を呼びました。
び、自宅で最期を迎えられる幸せを感じ介護でき
家族、
在宅医、
訪問看護師などを取材し発信したこ
【大賞】
子どもも一緒に。生きていればこそです。写真の中
シリーズを手がけた3名の取材班を代表して、社会
だったら、
歳は絶対とらないから。
まったくそこは違
部の山崎一洋キャップが、パワーポイントを使っ
います」
。
て、作品を解説しました。
息子の俊也さんも言います。
「 お父さんがこう
「私たちの問題意識は『終章を生きる 2025年
やって、家にいてくれて、それを中心に家族がま
超高齢社会』というタイトルに現れています。高齢
わっている。なんか、このぼくとかお兄ちゃんのた
化が進むということはもうみなさんご存知の通り
めに、生きてくれているというか、そう思うと、尊敬
です。
「2025年」というタイミングを捉え、極めて深
できる」
。
刻な問題が浮かび上がることに気付き、危機感を
谷田さんが学生時代から何度も旅した北海道
Medical Journalist 6
▲「生きることを選んで」
の谷田人司さん
▲山陰放送の佐藤泰正さん
持ったところがスタートでした」
(山崎さん)。
とを、スライドの写真とともに説明。退院してから亡
▲下野新聞の山崎一洋さんら
Medical Journalist 7
るかもしれない、という想いが湧いてきます」を紹
「それはそれは熱心でして、
在宅関係のフォーラム
最後は、特定非営利活動法人 地域精神保健福
介し、
「読者が気づいて行動をしてくださり、発信す
などがあると、
それが長野県であろうが東京であろ
祉機構・コンボが発行しているメンタルヘルスマガ
る側として、
こんなにうれしいことはありません」
。
うが、どこに行っても『下野新聞です』っていう人
ジン『こころの元気+(plus)』について、編集長の
「私はたたかわない」という意思を貫いた83歳の
がいて、ぎょっとなるぐらい熱心にやってくるんです
丹羽大輔さんと、
「コンボライター」の小松達也さん
男性については、記事の中で、肺癌のような症状が
ね。
記事にされるまで本当に現場の様子をよく勉強
からの発表です。
ありながら、それが自分の老いだと受け止め、検査
された。
ですから、
そこがすばらしいと思います」
。
この雑誌は、プロの写真家が撮影をした当事者
も治療もせずに、
緩和ケアを受けながら自分らしく
「いくら私が『在宅医療はいいよ』
『
、亡くなる前
のポートレートが表紙を飾っており、それは世界で
最期まで自宅で過ごされた様子を伝えました。
は点滴しない方がいいですよ』といっても、誰も信
「この方の胸を打つ言葉は、
『 私はね、闘わない』
じないんです。ところが、新聞に書いてあると『あ、
というものです。取材する記者も、こういう気持ち
太田先生の言うとおりだ』と信じるんですね。誰が
は、盛り上がらなかったでしょう」。
です。
に立てることの崇高さを感じ、震えるような思いで
言ったんだろうというから、俺が言ったんだ(笑い)
『 禁 煙 ジ ャ ー ナル 』の 萌 芽 は、1985年11月
コンボライターのひとりで、表紙にも登場してい
話を聞かせていただきました」
。
と言うんですけれども、いくら直接私が話しても説
に『TOPIC(Tobacco Problems Information
る小松さんからは、次のような挨拶がありました。
下野新聞2025年問題取材班は、これらの報道
得力がないのに、新聞が文字にすると、同じ人が
Center)
』という情 報 誌 でした。そ の 後、
『禁煙
「この雑誌のことを、読者である統合失調症や
を通じて5つの提言をしました。5つの提言を一つ
言っても説得力が出るというような状況で、啓発し
ジャーナル』の前身である『タバコと健康』が1989
鬱病をはじめとする精神疾患をお持ちの方たち
ひとつ読み上げる時間がとれなかったため、ここ
ていただいたんです」
(太田さん)
。
年4月に創刊され、1991年に『禁煙ジャーナル』に
は、
『私たちの雑誌、私の雑誌である』と感じていま
に記しご報告します。
太田さんのコメントの間、谷田さんの準備が整
改題されました。
す」。
提言
い、さっそく谷田さんへの「特別個人賞」の表彰が
発信と運動と両輪の歴史の中で、国会議員への
「高校2年生のときに統合失調症を発症してから
1 超高齢社会を意識し、
「命の質」最重視を
行われ、水巻中正会長から、表彰状とトロフィーが
アプローチをしながら、国際会議にも自腹で参加
9年間の療養生活の中で、
『こころの元気+』と出会
2 在宅ケア いつでも、
どこでも可能な体制に
渡されました。
したり、タバコ関連訴訟の報道と原告の応援など
い、自分の核となる物の見方、考え方を身につける
3 自然な老いを見つめ直そう
枚挙に暇がない内容を、パワーポイントを使ってコ
ことができたと思います」
「
、これは私の雑誌であ
ンパクトに紹介されました。
り、私たちの雑誌なので、この受賞をとてもうれし
4 終章の生き方、熟考し共有を
Medical Journalist 8
【特別賞】
▲タバコ問題情報センターの渡辺文学さん
も唯一といわれます。また、精神疾患を抱えている
当事者がライターとして活躍している点がユニーク
5 最後まで安心して支え合うまちに
月刊紙『禁煙ジャーナル』
今では当たり前のタクシーの禁煙についても、
実
く思います」。
山崎さんの発表の途中で、飛行機の遅れで冒頭
■超ヘビースモーカーだった文学さん、
は大変な苦労があったそうです。
「タクシーも現在
続いて編集長の丹羽さんが、発行元であるNPO
の表彰式に間に合わなかった谷田人司さん佳和
断煙して35 年
は全国で90%以上が禁煙になっていますが、自然
法人コンボの「精神障害を持つ人たちが、主体的
子さんご夫妻が到着しました。人工呼吸器の電源
次に、特別賞を受賞した『禁煙ジャーナル』の編
になったのではなくて、私たちは安井幸一さんとい
に生きていくことができる社会の仕組みを創りた
を、ポータブルバッテリーから会場の電源に繋ぎ替
集長であり、タバコ問題情報センター代表理事の
う方を中心に、タクシーの全面禁煙を求めて訴訟
い」というミッションの一環として、
『 こころの元気
える等の準備をしている間に、
下野新聞の『終章を
渡辺文学さんが発表されました。正式には「ふみさ
を起こしたり、国土交通省や全国乗用自動車連合
+』が発行されていることを説明。現在、発行部数
生きる 2025年超高齢社会』の推薦者、栃木県小
と」
さんですが、
ブンガクさんでとおっています。
会に申し入れを行なったり、
新聞投書などいろいろ
は1万部にのぼるそうです。
山市で医療法人アスムスを立ち上げ、在宅医療に
渡辺さんは、23年にもおよぶ『禁煙ジャーナル』
とアクションを起こしました」。
「創刊号から最新号までの68冊の執筆者の延べ
取り組んでいる太田秀樹医師から、推薦理由のコ
の歴史と、タバコ問題情報センターの活動の歴史
そのほか、一般のメディアではなされない、JT
人数は、小さな投稿も含めると3,090人になります。
メントをいただきました。
を振り返りました。冒頭で、実は自身もかつてはヘ
のCSR活動に関する批判も続けてきたこと、
「吸い
そのうち、精神疾患をもつ当事者の方が2,229人で
ビースモーカーだったと告白。
「ハイライトを1日3箱
づらい、買いづらい世のなかをめざして」という活
72%を占めています。そして、医師とか専門職の方
■取材の深さに敬服、
影響力に驚き
という超ヘビースモーカーでしたが、さっそく電卓
動も紹介されました。
がおよそ20%です」と、当事者自身が発信する雑誌
「20年前に、在宅医療に力を入れ 始めました。
で計算すると10年以上も寿命が短くなることを知
訴訟のような厳しい活動のかたわら、渡辺さん
であるということも強調されました。
20年前といいますと1992年でして、まだバブル経
り、文字通り『断煙』に踏み切りました。今年はちょ
たちの活動は、ユーモラスな一面をもっていて、
済が少し名残を残していたような時代でして、その
うど35年目となります」
。
時代に往診する医者っていうのはもう本当に、
後ろ
「今回図らずも医学ジャーナリスト協会設立25
ちゃった節」を作詩して、ウクレレ片手に歌うなど。
指さされるような存在でした」と、太田さんが在宅
周年で「特別賞」
を頂きましたが、
亡くなった方も含
渡辺さんのウクレレと歌は、
懇親会で披露されるこ
医療を始めたころのお話から、下野新聞との出会
めて、
北海道から沖縄、
韓国、
香港、
ハワイなど海外
とになりました。
いが語られました。メディアの中には、ストーリーが
にも会員がおりますけれども、1500人ぐらいの方々
出来上がっていて、それに合うようないいところだ
に支えられながら、
発行を継続してきました」。
けを切り取って帰り、それっきりという人も多い中
「嫌煙権という言葉が誕生したのは1977年の暮
メンタルヘルスマガジン『こころの元気+(plus)』
で、
下野新聞は違ったそうです。
れ。もし、メディアの報道がなければ、嫌煙権運動
■読者にとって「私たちの雑誌、
私の雑誌」
「禁煙いろはがるた」を作ったり、
「 タバコやんなっ
【特別賞】
▲こころの元気+の丹波大輔さんら
Medical Journalist 9
『こころの元気+』
は、
「リカバリー」
と
「2つのEBP
神に富んだユニークな報道で社会にインパクトを
(Evidence Based Practice)
(Experience Based
与えられました。しかもユーモアも忘れておられな
い。私たち医学ジャーナリストの鏡、お手本と尊敬
直訳の「回復」よりも広い意味で「健康な部分を
させていただいています」
と締めくくりました。
広げていく、そして自分自身の可能性をどんどん広
総合司会の杉元順子副会長からの「これからも
げていく―そのことを意識して生きていくプロセ
医学ジャーナリズム、医療のジャーナリズムおよび
ス」と捉え、
「根拠に基づく実践」
「みなさんの体験
福祉ジャーナリズムの発展のために、ぜひご協力
に基づいた実践」を重ねながら「自分の可能性を
いただけたらありがたいと思います」という言葉の
どんどん伸ばしていけるような環境をわれわれは
あと、その熱気はそのまま懇親会へと続いたので
2012年は、米国の大統領選があり、中国の新し
とはどういうものかを現地で調査研究されていた。
創っていきたい」と丹羽編集長は今後の夢を語り、
した。
い指導部が誕生し、韓国でも大統領選があった。
その細田さんが日本に帰国されていると聞いて、米
そして日本でも年末に衆議院選挙があり、世界的
国大統領選の争点の一つだった「医療保険改革」
にも政治的に大きな動きがあった1年だったが、日
を含め、日本にいては結果しかわからない制度の
本では、民主党政権への反動からか自民党が大勝
成り立ちや市民の考えについて、
現地での肌で感じ
し、政権与党に復帰した。その後のアベノミクスと
たお話をお願いした。お話は「第1部 ボストンにお
いわれる景気浮揚対策はご存知の通りであるが、
ける3つの投票」
「
、第2部 アメリカ医療概論」
「
、第
選挙前に民主党と握った「社会保障と税の一体改
3部 日本への示唆」と3部構成で、いずれも興味深
革」はどうなるのか、よく見えない。憲法改正や国
いものだったが、ここでは紙幅に限りもあり、
「 第1
防軍をはじめとした右傾化といった日本の将来に
部 ボストンにおける3つの投票」について詳しく報
とって好ましくない方向に行くことだけは願い下げ
告したい。
質疑応答の後、コーディネーターの大熊由紀子
幹事から、
「 受賞なさった方たちは、チャレンジ精
(おおくま・ゆきこ=
国際医療福祉大学大学院教授、医療ジャーナリスト)
● 命あっての俳句考〈自句自解〉
谺ひろひこ
【身を引き締めて冬】
逝きし人主役にかつぎ年忘れ
同 期 会 や 同 窓 会 は、忘 年 会 が 好 き で あ る。
「 ま だ 生 き て る よ。ち ゃ ん と 現 役 を 続 け て る
ぞ 」と 威 張 り た い の か、年 金 生 活 者 た ち が 無
理を押して集まってくる。還暦を過ぎるころ
からは、毎日飲んでいる薬のことで持ちきり
で あ っ た。古 希 が 迫 る と 入 院・手 術 の 体 験 を
自慢げに語る者も増えてきて、認知症になっ
た先輩たちも話題にされる。しかし一番の主
役 は、な ん と 言 っ て も 亡 く な っ た 同 期 生 だ。
そして「来年もみんなで集まろう」と威勢よ
く 別 れ る。自 分 が 欠 け る こ と な ど、誰 も 思 っ
ていない風である。 =季語は、年忘れ(冬)
オリオンの盾に空風ややひるみ
昼間から吹きつづけていた木枯らしがよ
うやく収まりそうな気配だ。いま東の空に昇
り終えたばかりのオリオン座が、ことのほか
美しい。ギリシャ神話の巨人オリオンの腰バ
ンドに当たる三つ星。それを大きく取り囲む
箱が盾のような形をしていて、これが木枯ら
しを押さえ込んだのかも知れない。
箱の左上隅の最も大きくて赤いベテルギ
ウスは、後から昇ってくる薄黄色のプロキオ
ン(こいぬ座)、青白い巨星シリウス(おおい
ぬ座)とともに「冬の大三角」を構成する。三
角 形 の 姿、そ し て 異 な る 3 色 の 取 り 合 わ せ。
風さえやめば、子どもたちにとっても一番の
星座鑑賞時季なのである。 =季語は、空風(冬)
朝市のしつらひも見き飛騨の冴え
雪に埋もれた合掌造りを目当てに、飛騨高
山を訪れた。近くの山々から冬山登山遭難の
ニュースが伝わってくるが、大型バスで平地
を 走 る の は ま っ た く 不 安 は な い。そ れ じ ゃ、
いっそのこと早起きして朝市サイトに繰り
出そうということになった。ちょうどテント
が並び始めており、地元のお年寄りたちが開
店の準備に余念がない。野菜やお餅、お菓子、
ミソ、漬物、郷土玩具などの包みを開き、粗末
な 板 張 り に 手 際 よ く 配 置 し て い く。も う 何
年、何 十 年 と 繰 り 返 し て き た の だ ろ う。設 営
の様子まで味わうことができ、満ち足りた気
分になった。 =季語は、冴ゆ(冬)
雑炊の落ちつくところ里の味
学生時代に自炊していたから雑炊作りに
は自信がある。野菜クズでも残り物でも頓着
せずに鍋に放り込み、ミソで味付けしてから
冷や飯をつっこめばよい出来上がり。ただミ
ソだけは吟味したものを使う。添える漬物も
おろそかにはできない。 =季語は、雑炊(冬)
*
こだま
谺ひろひこは、当会会員・児玉浩憲の俳号。
ブログもよろしく。グーグル検索は「いのち
宿る化学
」あ る い は「 俳 句 入 門、児
玉」
とお願いします。
Medical Journalist 10
「ボストンにおけるヘルスケア・トピックと
日本への示唆」
Practice)
」を大きな柱としています。リカバリーを、
会場から大きな拍手が贈られました。
P
O
E
M
●11月例会
細田 満和子さん(星槎大学共生科学部教授)
報告・雨野 重一
▲細田 満和子さん
だ。参議院選挙まで猫をかぶってもっぱら経済対
策だけで押し通し、
両院で過半数をとったらそうし
アメリカ大統領選とオバマケア
た動きが堰を切ったように出てくることを怖れる。
冒頭でも触れたように昨年11月6日米国大統領
もしそうなりそうな兆しが見えたら、紫陽花革命
選があり、民主党のバラク・オバマが共和党のミッ
ではないがTwitterで呼びかけて、いつでも安倍さ
ト・ロムニーを破り再選を果たした。結果的には
んには政権を降りてもらうよう活動を始めようと思
583人の選挙人のうち、オバマ332人、ロムニー 206
う。しかし、ここはそのような政治の話をする場で
人と獲得した選挙人の数はオバマの圧勝のように
はないが、国の社会保障制度は選挙による国民が
見えるが、獲得州ではオバマ26(+DC)、ロムニー
選んだ政権と切っても切れない関係にある、とい
24で僅差、票の数の割合ではオバマ50.8%、ロム
う話が11月例会のお話だった。
ニー 47.5%とこちらも僅差だったから、オバマ陣営
11月の例会の講師は、星槎大学共生科学部教
にとっては「薄氷を踏む」という表現が適切な選
授の細田満和子さん。細田さんの名前は、医療ガバ
挙だったといえる。それによって、オバマが2010年
ナンス学会が発行しているメールマガジンMRICで
3月に成立させた「ヘルスケア改革法(Affordable
「ボストン便り」と題して、ボストンに住み、米国のパ
Health Care for America Act)
」
が現実のものと
ブリックヘルスの事情を伝えてくれていたので、こ
なることになったわけだが、もしロムニーが当選し
のメルマガを読んでおられる方にはなじみのある
ていたら「オバマケア」を廃案にすると公約してい
名前だと思う。
(その「ボストン便り」は44回続いて
たのだから、米国の医療にとっては大きな転換点
昨年末に最終回を迎えたが、
そのエッセイをまとめ
だったといえる。その伏線としては、2012年6月28
た『パブリックヘルス 市民が変える医療社会―
日に米国連邦最高裁が出した判決もあった。9つ
アメリカ医療改革の現場から』
(明石書店)が昨年
の共和党州知事から「保険に加入しないでいる自
1月に刊行されているので、興味ある読者はそちら
由を侵している」という理由で違憲として訴えられ
を参照されたい。
)
細田さんは2005年から米国に住
ていた「ヘルスケア改革法」が9人の連邦最高裁判
み、コロンビア公衆衛生大学院とハーバード公衆
事による判決で、5対4で「合憲」となったのだ。こ
衛生大学院で、米国における「パブリックヘルス」
れらの判事は5人は共和党の大統領、4人は民主
Medical Journalist 11
MAの ヘ ルスケ ア 改 革 法 に
署名をする当時、州知事だっ
たミット・ロ ム ニー 氏。まわ
りは 男 性 ば かり (2006年4月12日)
党の大 統領が 任命
の州と連邦は国家主権を共有しているという)
の強
エリザベスさんの3人いる男兄弟は全員軍隊に入っ
認により、本人の希
したというから、本
さはなかなか理解が届かないかもしれない。その
たが、低所得者が勉強する方法として給与や奨学
望があれば 医師が
来であれば「違憲」
昔、朝日新聞で本多勝一記者が連載した米国のル
金が出る軍隊に入るのは当然の成り行きと言って
致死量の薬 物を処
判 決 が 出たかもし
ポのタイトルは『アメリカ合州 国』だったことを覚
いいのかもしれない。そうした家庭環境の中で、彼
方できる、というも
れ なかったのであ
えている。その頃より州の力が低下しているとは言
女は大学を卒業して学校の教師となって働き、結
の。結果的に否決さ
る。
え、いまだに連邦の言うことは聴かないという自律
婚し、子どもをもうけた後に法律を学び、法律家と
れたが、それは反対
で は、
「 オバ マケ
性が、この「MAヘルスケア改革法」成立の背景に
して働いた後、ハーバード大学の法律教授になっ
51%、賛 成( 最 後ま
ア」とはどういうもの
あるのだろうか。それはともかく、この「MAヘルス
たという。
で自分をコントロー
なのか。まずは「保
ケア改革法」では、皆保険への加入は義務であり、
法律学の専門としてウォーレン氏が選んだのは
ルして生きる権利を
険加入の義務化」であるが、これが先の「違憲」裁
加入しないと罰金が課せられ、その罰金は保険料
銀行破産法だったということで、そこに細田さんは
主張している)49%という際どいものだった。その
判を引き起こした今回の改革の大きな眼目で、
「義
より高いのだから、入らない法はないというのが州
ウォーレン氏のある意志を感じ取っている。細田さ
理由として、不十分な説明で死を選ぶことになって
務化」を課し、加入しなければ罰金を払わなけれ
民感情だろう。2007年7月に施行され、施行前の
んの文章から引用させていただけばこういうこと
しまうことを予防する予防策がないことや余命6ヶ
ばならない、という制度である。これにより5,000万
2005年の無保険者が約55万人だったのが、施行
だ。ウォーレン氏が銀行破産法を専門としているの
月以内といっても予測できない、
不確実性があるこ
人といわれる無保険者を減らそうという政策であ
後の2008年には11万人に減少したという。さらに
は「クレジット破産や不動産破産など、アメリカの
と(何年も生きる人もいる)などで、州の医師会が
る。そういえば数年前にクリントン国務長官が来日
罰金の額を上げて行くことで、無保険者をゼロに
中間層が搾取される形で破産せざるを得ない状況
反対したことも大きかったようだ。そもそも医師の
し、日本の皆保険制度を賞賛していたというよう
するのだという。
この改革法への州民の支持も61%
を何とかしようという志で行われています。2008年
役割は患者を治すことにあるもので、自殺を幇助
なことがあったと思うが、米国の医療制度は50年
(2006年)から69%(2008年)と数字が上がってい
のリーマン・ショックの時、ウォーレン氏は資産問題
するということはそぐわない、というものだ。すでに
経ってやっと日本に追いついたのである。しかしそ
る。このオバマとロムニーの話をされたとき細田さ
救援プログラムの成立を監督し、アメリカ消費者金
尊厳死法があるオレゴン州では114人が、ワシント
の皆保険を維持していくための財源の悩みは日
んが示した2枚の写真の対比が面白いので引用し
融保護局の設立にもアドボケーターとして尽力しま
ン州では70人が合法的に自殺しているという。そ
米変わらないだろう。そうした財政負担についても
て掲げさせていただく。
した。
ウォーレン氏は、
アメリカの中間層家族のため
のほとんどが白人の高学歴で、末期がん患者だっ
に闘ってきた活動家でもある」
とのこと。
そういう苦
たという。多分、高学歴のこの尊厳死を望んだ人た
・
大統領選では反対があった筈である。この改革法
Medical Journalist 12
にはそのほか「民間保険会社の規制」
「
、既往歴が
民主党エリザベス・ウォーレン氏を
労して人生を歩んできた、豊かな人間性をもった女
ちやその家族は高所得であったであろうことが容
あっても入れる保険」
「
、医療の効率化(予防重視、
選んだマサチューセッツ州
性が、今回の議会選挙で民主党から当選したこと
易に推測される。つまり低学歴の低所得の人々に
包括払い)
」
、そして「赤字削減(保険会社への課
大 統領選の話に続いて、細田さんが 話した第
に意味があるようだ。
このウォーレン氏のことをネッ
とっては、満足な医療も受けられない環境の中で、
税、特定の医療関連産業に課す手数料など)」が盛
2の選挙は、今回の議会選挙でマサチューセッツ
トで検索すると、
「米金融ロビーが恐れる債務者の
尊厳死のことなど想像もつかないということでは
り込まれている。
州から民主党の上院議員に当選したエリザベス
・
ための女性闘士 The Debt Crusader」や「OWS
ないだろうか。そうした医療格差をなくす上で、今
ウォーレン氏というハーバード大学法科大学院の
(ウォール街を占拠せよ)
運動の思想的指導者」
とい
回のオバマの再選と「ヘルスケア改革法」は大きな
ミット・ロムニーのマサチューセッツ州
法律学の教授のことだった。この選挙そのものと
うタイトルが見られる。またYouTubeで今回の選挙
意味をもつことになるに違いない。
ヘルスケア改革法
いうより、ウォーレン氏の生まれ、育ち、そしてキャ
のために放映したコマーシャルなどで、ご本人が生
今年が巳年だからではないが以下、本稿の蛇足
細田さんのお話で大変に面白かったのは、この
リアについての話は印象的だった。
マサチューセッ
い立ちから現在まで語っている映像も見ることがで
として。細田さんがこの講演の中の別の話題のスラ
オバマによる「ヘルスケア改革法」に先立つこと4
ツ州は、2009年にケネディ・ファミリーのエドワー
きるので興味のある方はご覧いただきたい(そこで
イドで示した「健康格差」でも、米国の25歳の白人
年前、マサチューセッツ州で成立した「州民皆保
ド・ケネディが亡くなり、47年間守っていた民主党
は細田さんは触れられなかったが、
最初のご主人と
と黒人の平均余命を比較したとき、白人の高収入
険」と「低所得者への扶助」を柱とした「MAヘル
の席を補欠選挙でスコット・ブラウンという共和党
は離婚し、現在の夫との間に3人目の子どもがいる
の人の方が黒人の低収入の人に比べ約11歳平均
スケア改革法」を成立させたのはその時の州知事
の新人に取って代わられた。ちょうど「オバマケア」
ということも正直に語っている。選挙のための透明
余命が長かったという。こうした「健康格差」はイ
ミット・ロムニーだったということだった。何という
の成立直前の時期だった。このエリザベス・ウォー
性ということだろう)
。
ギリスでも、また韓国でも同じ傾向だそうだが、日
皮肉、何という巡り合わせ。でもなぜ、同じ人が州
レンという女性議員はもともとアカデミズムから
知事の時には賛成し、大統領になったら「撤廃」を
出たエリートの人ではなく、苦学?の末に今のポジ
尊厳死法の住民投票は不成立
で不思議な現象と思われているらしいが、あえて
主張するのだろうか。
この辺が米国の成り立ちから
ションを獲た人だという。
エリザベスさんが9歳のと
そして第3の選挙として、細田さんが 話したの
理由を探すとすれば、日本の社会がSocial Capital
くる不思議なところだ。米国民にとっては不思議で
きに父親が心筋梗塞を患い、そのため職を変わら
は、マサチューセッツ州でのPhysician Assisted
の面で平等性があり、精神的ストレスが少ないせ
も何でもないと思うが、日本のような小さな国土の
ざるを得ず、給料が減り、車を手放し、医療費が嵩
Suicide Act( 意志による自殺幇助法)の住民投
いではないか、とのことだ。日本人の長寿について
中央集権的に政府が強いところで慣らされた感覚
む家計を助けるために母親も働きに出た。エリザベ
票のことだった。すでに紙数が尽きているので簡
の興味深い考察もあったが、残念ながら割愛させ
からは、米国のような広大な国土で連邦の政府に
スさん自身も9歳からベビーシッターをし、13歳か
単に記すと、この法律が成立すれば、余命6 ヶ月以
ていただくこととする。
従わない州政府の自律性(建国の精神から、個々
らはウェイトレスとしてレストランで働いたという。
内の末期がんで、主治医とカウンセリング医師の承
ヘルスケア改 革法に 署名す
るオバマ大統領。まわりは老
若男女さまざまのダイバーシ
ティ(2010年3月23日)
本だけはこれが当てはまらないという。
研究者の間
(あまの・しげかず=医療ジャーナリスト)
Medical Journalist 13
新刊紹介
分子標的薬と患者アクセスを考える
日本人の二人に一人ががんにかかるという時代。
その中で昨今の抗がん剤における
大西正夫著
『ワクチン鎖国 ニッポン-
世界標準に向けて』
明治書院刊
(本体1,200円+税)
○○○マブや○○○ニブといった名称の分子標的薬の開発がめざましい。
その分子標的薬についての興味深いシンポジウムがあるということで、
昨年10月下
旬に横浜で開催された第50回日本癌治療学会に出かけてきた。
シンポジウム名は「分
子標的治療薬のイノベーションと患者アクセス(
」座長・門田守人氏)
で、
臨床、
治験、
医療
世界標準の作成を呼びかける。含蓄深いワク
者がコミュニケーションの問題として力点を置
かわることを少なくするように警告するため
チンの入門書である。 くのは、NASAとしての信頼を回復し組織を
に、あるいは現状を救いたいことを願って書
存続させるために、
「NASAが高い責任感のも
いた本である。一般の人が思い込んでいる態
と誠実な対応をとる組織であり、今後も存続
度が、次のような項目にうかがわれる。
が必要であることを、
人々に理解してもらう」
こ
①ちょっと具合が悪くなると、
すぐ医者にかか
とを目標に、
「1.良いことも悪いことも含めた
る。
正確な情報を発信する、2.
なかでも人々の不
② 薬を飲まないことには病気はよくならな
安を取り除くために必要な情報を随時発信す
い。
る、3.
第三者による事故調査委員会を通じて
③病名がつかないと不安。
原因究明を行い、再発防止策を提示する」と
④医者にかかった以上、薬をもらわないこと
いった取り組みを行ったから、
その後もスペー
には気がすまない。
スシャトル計画が存続したと分析していること
⑤医者は病気のことなら何でもわかる。
である。これはそのまま、危機時の対応として
⑥病気は注射を打った方が早くよくなる。
(水巻中正)
佐藤玖美著
『コミュニケーションリーダーシップ
考える技術 伝える技術』
日本経済新聞出版社刊
(本体2,200円+税)
経済、
医療管理の4人の専門家が講演をしたわけだが、
そのうちもっとも興味深かった
のは濃沼信夫氏(東北大学大学院医学系研究科教授)
の「実態調査と国際比較にみ
る分子標的治療の患者アクセス」
という演題だった。
まず、
患者アクセスによってがんの罹患率や死亡率、
治療成績に差が出る
「健康格差」
ワクチンという言葉で思い出すのはまず、イ
医療機関の医療事故発生時の対応の参考に
⑦よく検査するのは熱心ないい医者。
が生じることを米国のデータで示し、
日本はOECDから「医療制度の効率化改善」
「医
ギリスの医師ジェンナ―とフランスのパスツー
なるだろう。
⑧医者にあれこれ質問するのは失礼だ。
療の質およびアクセスの改善」
が必要との指摘を受けているという。
日本の医療はかな
ル。天然痘や感染症の「人為的免疫」の研究
⑨医者はプロだから、自分に一番いい治療法
り質が高く、
患者アクセスも高いと思っていた筆者にとっては驚きの指摘だったが、
そ
開発者として知られるが、
日本ではそのワクチ
を教えてくれるはず。
れはこういうことらしい。
たとえば受診アクセスでは、
日本では高齢者が過剰であり、
勤
ンを使った予防接種は「副作用があって危険」
中村仁一著
『大往生したけりゃ医療とかかわる
な~「自然死」
のすすめ~』
幻冬舎刊
(本体760円+税)
⑩大病院ほど信頼できる医者がたくさんい
「効果に乏しい」
などと長く軽んじられてきた。
書名が示す通り、PRあるいはマーケティン
背景には過去の社会問題化したワクチン禍が
グを考える上でのコミュニケーション戦略につ
あり、国の集団接種・義務接種から個別接種・
いての本である。
副題に「考える技術 伝える
勧奨接種への政策転換がある。
技術」とあって、最終的に人を動かすにはどう
本書はワクチンについて「“異物”をあらか
したらいいかということを、さまざまな事例を
⑬マスコミに登場する医者は名医だ。
じめ入れて免疫をつけ、その本物が来襲した
用いて解説している。
取り上げられている事例
⑭医学博士は腕がいい。
担を比較すると、
英国、
カナダ、
オーストラリアは入院・外来無料、
ドイツは入院10EURO/
ときに感染させない、
病気を起こさないように
には、デバイスラグや子宮頸がんワクチンなど
⑮リハビリはすればするほど効果が出る。
日、
外来10EURO/四半期、
フランスは入院2割、
外来3割だが、
がん医療は無料となって
防御するのが役割」
とし、
豊富なデータを基に
があるが、
医療関連の本ではない。
しかし興味
筆者は、各項目にいちいち反論や解説を加
いるなど、
さまざまだ。
とくに抗がん剤は分子標的薬の開発などイノベーションによって
副作用にまつわる偏見、
誤った常識を排す。
そ
深いのは、
医療事故やNASAのスペースシャト
えている。著書の副題は、
『「自然死」のすす
のうえで「プラスと分かっていても動かない」
ルの事故を取り上げ、その対応について述べ
め』である。しかも、第1章のタイトルは「医療
行政の怠慢に怒りをぶつける。
ていることである。昨年9月に日本医学ジャー
が“穏やかな死”を邪魔している」としている。
鎖国状況が続く日本とは逆に、先進国では
ナリスト協会が開催した「医療事故報道を検
確かに医学 技 術は、その方法として、
「 自然
予防接種は感染症だけではなく、がんの予防
証する」
シンポジウムでも医療事故被害者家族
日進月歩の医学知識をメディアを通じて一
死」
に逆らうことを推奨し、
医学技術の活用を
にも効果を発揮している。
ヒトパピローマウイ
の永井裕之氏が発言していたように、病院側
般の人に伝えることを業としている医学ジャ
勧めることがしばしばある。これに対する警
ルス(HPV)が原因となる子宮頸がんには、
HP
の誠意のない対応が問題を大きくしてしまうと
―ナリストには、脅威の題名である。マスコミ
告が、本書を貫いている意見である。この本
にこう書いてある。
「 生きものとしての賞味期
労者は限定的なため、
受診の機会を損失し、
症状が進行してしまう。
また治療アクセス
の面では、
最新・標準的な技術を使えるようにするための拠点病院の整備や均てん化、
ドラッグラグ(海外依存、
高額化など)
や経済問題(治療断念、
服薬アドヒアランスの低
下)
の解決が求められるということだ。
とくに経済問題は患者アクセスに大きな影響を投げかける。
諸外国の制度で患者負
高額化している現状がある。
粒子線治療患者とがん患者全体の世帯収入と貯蓄額で
の比較で見た場合、
所得の高い人や貯蓄のある人が治療を受けているという日本の
データがあるが、
がん治療を経済的理由で変更・中止した患者さんの割合は固形がん
(ベバシズマズ46.3%、
ソラフェニブ13%、
バニツムマブ8.9%)
より造血系腫瘍(リツキシマ
ブ27.6%、
イマチニブ23%、
ボルテゾミブ14.9%)
の方が高いという。
こうしたことから、
高額療養費制度による患者負担の軽減は、
抗がん剤とくに分子標
る。
⑪入院するなら大病院、大学病院の方が安心
できる。
⑫外科の教授は手術がうまい。
Vワクチンによる予防効果があり、日本でも
いうことがある。
著者は、
『沈黙の壁』
(ローズマ
にいるものは、一般の人たちに「大往生」を遂
的薬の場合、
患者アクセスに大きな役割を担っている、
と濃沼氏。
そして経済的負担の
2009年以降使われ、
公費助成の対象になって
リー・ギブソン他著、
瀬尾隆訳、
日本評論社刊)
げて欲しいと願って、医学知識・技術の専門
限の切れた後の重要な役割は、
『 老いる姿』
最小化として以下の方策を提唱している。
まず医療現場の問題として、
医療の重複化を
いる。さらに、アルツハイマー病や高血圧など
という本から「医療ミスに遭遇したとき、状況
家が描いている新しい流れを、一般の人々を
『死にゆく姿』
をあるがまま後継者に『見せる』
防ぐこと、
外来治療の普及、
在院日数の短縮、
ジェネリックの使用など。
運用面では、
高
加齢とともに忍び寄る病気を予防できるワク
や対処方法をしっかりと説明して患者をケア
相手に橋渡しをしている。それに水をかける
『残す』
『 伝える』ことにあります」。高齢者が
チンの研究開発が、
世界中の製薬企業や大学
するとともに、
患者やその家族に納得してもら
ような題名である。なぜこのような題名の書
患ったとき、できるだけ医学技術を施さない
研究室で積極的に進められているとも。つま
うことができれば、
提訴される確立は大きく減
を著わしたのだろうか?著者は京都大学医学
で自然治癒に任せることを勧めている。そう
り、がん病巣の消滅を目指すワクチン治療が
る」を引用し、そうした医療ミスの場合に「何
部出身で、高尾病院の病院長・理事長も務め
言えば、患者から病気を訴えられた医師が薬
ターゲットとなっている。
があったのか、
これから、
いつ、
どのような手を
た後、老人ホーム「同和園」附属診療所所長
を処方したところ、それを服用しても一向に
こうした中で、日本でもワクチン開国ともい
打つのかといったことを論理的に説明し、相
になり現在に至っている。ここに世話になる
良くならないので、その薬を止めたら、直ちに
えるうねりが起こっているとも指摘する。欧米
手に納得してもらうことが、
問題解決に向けた
高齢者が苦痛を治して欲しいとしばしば相
良くなったという話をよく聞く。人間の病理を
の製薬企業による外圧が火付けとなって、国
行動を促す力となる」と述べている。また、
談に訪れると思われる。彼らが西洋医学に期
基本としている医科学の適用は、医師の思い
ら見た場合、
経済的理由で治療の変更や中止があってはならないし、
そうした患者を
内企業を揺さぶっているというのだ。イギリス
NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトルの
待するのは、病気の原因を取り除いて元通り
通りにはならない面が多い。
公的保険や医療制度によって救っていくべきだと、
声高ではないが濃沼氏は主張して
の大手メーカーと日本の第一三共が折半出資
爆発事故の例は、
いわゆる企業クライシスと考
にしてくれることだが、西洋医学では、
「加齢」
かつて、
「 科学と神」と題する本が出た。科
いた。
賛同できる一方で年々増加する国民医療費の財源をどうするかという課題も残
の合弁会社、
ジャパンワクチンを設立したのは
えられるが、2003年のスペースシャトル、コロ
も病気の原因の一つに入れている。高齢とい
学を神 様と同じように絶 対視して、科 学が
その一例だ。
未来を見据えた予防重視が確実
ンビア号が大気圏への再突入時に空中分解
うだけで、障害は完全には元に戻らない。患
辿った背景や筋道を理解しようとしないで、
に進みつつある。
し、乗組員全員が死亡するという事故が起き
者はこれを無視して来るのではないかと問い
それが解明した結果だけを信ずる態度を警
筆者は一般紙の元科学部記者。
わかりやす
たとき、NASAは1時間おきに、今どのような
たいからこの本を書いたようだ。高齢になっ
告する啓蒙書だった。東大工学部教授であっ
い文章で商業化するワクチンの問題点を危惧
状況にあるかをメディアに発表し、
米国社会ひ
て、近代医学の技術を適用すると、かえって苦
た石井威望氏の著書、
『 科学技術は人間をど
する一方、総合的・分野横断的な機構の創設、
いては世界に発信し続けたという。ここで著
痛をもたらすことが多いので、西洋医学にか
う変えるか』の中に、こういう文章がある。
「私
額療養費の限度引き下げ、
保険適用・拡大の迅速化。
制度面では自己負担減あるいは
無料化や優先度に応じた資源投入
(これを濃沼氏は一般医療のトリアージ、
と呼んだ)
。
中でもがん治療を無料化するには4,610億円の出動ででき、
最も費用対効果の高い政
策だと提案している。
ハンドアウトも無かったため、
メモをもとに引用したデータ等に間違いがあるかもし
れないが、
要点は高額薬剤といわれるがんの分子標的薬の使用を患者アクセスの面か
る。
今後の日本の医療制度を考える上で、
何を優先していくのか国民的議論が必要だ
ろうが、
一つ言えることは命に格差があってはならないということだろう。 (横浜黄昏記)
Medical Journalist 14
Medical Journalist 15