スマートテレビの可能性 -CGM 化するマスメディアの現状-

2011年度(平成23年度)卒業論文 FW
スマートテレビの可能性
-CGM 化するマスメディアの現状-
宮城大学 事業構想学部 事業計画学科
20821096
山田 未帆
論文の構成
はじめに
研究の背景、意義、目的
第 1 章 マスメディアの発展とスマートテレビの誕生
日本における「放送」を中心としたマスメディアの発展の歴史を整理し、次世代テレビ
の象徴で本論文のテーマでもあるスマートテレビについて定義する。さらに、従来型テレ
ビとスマートテレビとの違いについて言及する。
第2章
諸外国から見るスマートテレビの現状
映像メディアにおいて先進的なアメリカや韓国を事例に、映像メディア産業やスマート
テレビの現状を取り上げる。そして、各国のテレビ事情の特徴や共通点、日本とのテレビ
環境の違いを見つけ、スマートテレビの可能性を明らかにしていく。
第3章
動画配信サービス普及と放送局の対応
テレビにとって脅威的存在である動画配信サービスや動画共有サービスの動向をまと
め、それに伴うテレビ局側の対応(規制や法律)について明らかにし、視聴者が求める真
のコンテンツは何か考察する。
第4章
未来へ向けた新テレビの姿
第 2 章と第 3 章から、日本におけるテレビとインターネットの融合の可能性と課題を明
らかにし、テレビの将来像について考察する。
おわりに
本研究の総括として、成果や課題を示す。
1
2
目
次
はじめに…………………………………………………………………………………………5
・研究背景…………………………………………………………………………………….5
・研究の目的と新規性、方法………………………………………………………………6
・研究の構成…………………………………………………………………………………6
第1章
マスメディアの発展とスマートテレビの誕生……………………………………7
1-1 進化する放送の歴史…………………………………………………………………..8
1-2 スマートテレビの誕生………………………………………………………………..9
1-2-1 スマートテレビの定義…………………………………………………………..9
1-2-2 スマートテレビの歴史…………………………………………………………..9
1-3 スマートテレビと従来型テレビの違い……………………………………………10
1-4 まとめ…………………………………………………………………………………11
第2章
諸外国から見るスマートテレビの現状………………………………………….13
2-1 アメリカのテレビ事情………………………………………………………………13
2-1-1 アメリカの地デジ化……………………………………………………………13
2-1-2 生き残りの道を探すテレビ局…………………………………………………13
2-2 アメリカにおける主要スマートテレビの動向……………………………………14
2-2-1 Google TV の誕生……………………………………………………………….15
2-2-2 Apple TV………………………………………………………………………...16
2-2-3 ソニー・インターネット TV……………………………………………………16
2-3 韓国におけるスマートテレビの現状………………………………………………17
2-3-1 韓国のインターネットと放送事情……………………………………………17
2-3-2 韓国における主要スマートテレビの動向……………………………………18
2-3-3 サムスン電子……………………………………………………………………18
2-3-4 LG 電子…………………………………………………………………………..18
2-4 日本家電メーカーの動き……………………………………………………………19
2-5 まとめ…………………………………………………………………………………19
第3章
動画配信サービス普及によるメディアのソーシャル化………………………..21
3-1 動画配信サービスの歴史と動向……………………………………………………21
3-1-1 動画配信サービスの動き………………………………………………………21
3-1-2 動画共有サービスの動き………………………………………………………23
3-2 動画配信サービス普及による影響…………………………………………………24
3-2-1 映画の価値が低下する…………………………………………………………24
3-2-2 DVD 市場の縮小………………………………………………………………..25
3-3 インターネットに対する国内テレビ放送局の動向………………………………26
3
3-3-1 国内テレビ放送局の動き………………………………………………………26
3-3-2 テレビと動画配信サービスにも影響を与えた 3.11…………………………26
3-4 まとめ…………………………………………………………………………………27
第4章
未来へ向けた新テレビの姿……………………………………………………….29
4-1 テレビとインターネットの融合の先に……………………………………………29
4-1-1 スマートテレビ時代の視聴スタイルの変化…………………………………29
4-1-2 放送形態の変化…………………………………………………………………30
4-2 スマートテレビ普及後に生じる現象………………………………………………31
4-2-1 テレビとしての価値が相対的に低下…………………………………………31
4-2-2 放送局が生き残りの道を模索する必要性……………………………………31
4-3 残された課題…………………………………………………………………………32
4-4 まとめ…………………………………………………………………………………32
おわりに……………………………………………………………………………………….35
参考文献・参考 URL…………………………………………………………………………36
4
はじめに
・研究背景
2010 年 10 月、アメリカで、ソニーはグーグルテレビを発表した。グーグルテレビに代
表される「パソコンのように使えるテレビ」すなわち「スマートテレビ」が、世界のメデ
ィア業界を牽引しているアメリカにおいて、次世代テレビとして注目されている。スマー
トテレビがあれば、これまでパソコンで視聴するしかなかった映画やドラマなどの見逃し
放送を、大きく美しいテレビの画面で視聴できる。韓国家電メーカーのサムスン電子や LG
電子もスマートテレビ市場に積極的参入をしている。両メーカーは、テレビ画面で映画や
YouTube(ユーチューブ)がインターネット回線を介して、好きな時に見られるサービスを打
ち出しており、主にアメリカ国内で好調に売り出している。日本においては、テレビ市場
が縮小していく中、2010 年以降に、新たな機能を付加した次世代テレビとして 3D テレビ
を売り出し、テレビ市場の再建を狙うも今のところ売れ行きは芳しくない。日本は、スマ
ートテレビにおける国民からの認知度も低く、まだ普及していない。しかし、ほとんどの
国内家電メーカーは、既に欧米市場ではスマートテレビの販売を開始している。これまで
も、アメリカで何かのブーム巻き起こると少し遅れて日本に上陸するという風潮がある。
今回もそれが該当するならば、スマートテレビ導入の動きが日本に持ち込まれるのは時間
の問題だと推測できる。
また、テレビ離れという現象が加速している。NHK 放送文化研究所1が実施したテレビ
の視聴動向分析「日本人とテレビ」によれば、16 歳から 29 歳の若年層で「毎日テレビを見
ている」と答えた層は 82%しかなく 2000 年から約 10%も下がっている。一方で、国内動
画共有サービスの代表格「ニコニコ動画2」には、20 代の半数以上が参加している。この背
景には、人々の生活スタイルの変化と視聴者のニーズの多様化があるだろう。受身で単調
な、視聴時間の決まった従来のテレビの視聴方法では、特に若い視聴者を引き付けること
はできない。昨今、インターネット上で急激に浸透しているユーチューブのような無料で
動画コンテンツを視聴し誰でも動画を投稿できる動画共有サービスの台頭が、テレビ離れ
をより一層進行させている要因だ。テレビ局が制作した番組や一般の視聴者が製作した動
画を自由に選択して、テレビ以外のパソコンやスマートフォン、タブレット端末など自分
の好きな端末で好きな時間に視聴できるという点が多くの支持を集めている。
本研究では、日本でもスマートテレビ時代が到来した際、どのような新しい価値生み出し、
テレビがどのように変容していくか研究する。スマートテレビの普及により、テレビとイ
ンターネットとの融合が実現され、私たちの生活に密接なマスメディアが今後どのように
変容していくのか、テレビと利用者との関係性にどのような変化が生まれるのか研究して
いく。
1
NHK が 1946 年に設立した放送研究機関。
ニワンゴ提供の動画共有サービスのこと。
「ニコ動」、
「ニコニコ」などの愛称を持つ。国内 20 代の 6 割
が参加していると言われており、2011 年 1 月現在、有料プレミアム会員は 110 万人。
2
5
・研究の目的と新規性、方法
本研究は、テレビを取り巻く環境変化の下で、マスメディアとしてのテレビの存在価値を
見直す。さらに、今後スマートテレビが私たちにどのような価値を与えるか、スマートテ
レビの可能性を探ることを目的とする。また、スマートテレビ自体が最近登場したばかり
であることから、先行研究はそれほど多くはない。
研究方法は、文献調査とインターネットによるスマートテレビの現状把握、海外の先行事
例研究、家電メーカーの動向調査などを行う。そこから新しいメディアとしてのスマート
テレビの発展可能性を解明する。
・研究の構成
本研究では、日本におけるスマートテレビ普及の可能性を検証していく。そのために、
第1章では、「日本におけるマスメディアの発展」として、これまでの日本における放送を
中心としたマスメディアの発展の歴史を整理する。そして、次世代テレビの象徴であるス
マートテレビの特徴と、スマートテレビと従来のテレビとの違いについて論じる。第 2 章
は、
「諸外国から見るスマートテレビの現状」についてまとめる。スマートテレビの先行事
例調査として、映像メディアにおいて先進的なアメリカを重点的に、映像メディア産業や
スマートテレビの現状を言及する。さらに、爆発的にインターネットが普及している韓国
における現状も取り上げていく。そこから、スマートテレビが普及している両国の特徴や
共通点、日本とのテレビ環境の違いを見つけ、今後日本でスマートテレビが普及する可能
性があるのか明らかにしていく。第 3 章の「インターネットの普及と放送法のジレンマ」
では、テレビ放送局にとって脅威とされるインターネットを介して視聴する動画配信の動
向をまとめ、規制や法律で守ろうと努力するテレビ局側の対応について論じていき、視聴
者が求めるコンテンツとは何かのヒントとなるポイントを探る。第 4 章では、
「未来のテレ
ビのあるべき姿」として、第 2 章と第 3 章から得た知見により日本におけるテレビとイン
ターネットの融合の可能性すなわちスマートテレビの可能性と課題を明らかにしていく。
そこから、テレビの将来像について考察する。
6
第1章
マスメディアの発展とスマートテレビの誕生
日本における放送が開始したのは、無線によるラジオ放送が 1925 年(大正 14)年に、テ
レビ放送はその 10 年後 1953 年である。ラジオの歴史は 80 年、テレビは 50 年以上に及ん
でいる。この間、ラジオ、テレビともに様々な情報の伝達や娯楽、教育、教養などあらゆ
る面で、非常に身近なマスメディアの代表格として私たち日本人の日常生活の中に深く浸
透している。
日本では、これまで広く普及してきた地上放送(衛星を使った放送の衛星放送ではなく、
地上に設置された送信設備を使う放送)は、アナログ技術を使ってきた。総務省の平成 23
年版情報通信白書によれば、
「地上デジタル放送は、2003 年 12 月に東京、大阪、名古屋の
三大都市圏において放送が開始された。その後、順次に放送エリアが拡大され、平成 18 年
12 月には、全県庁所在地等で放送が開始された。2011 年 7 月 24 日には、東日本大震災に
よる影響が大きかった岩手、宮城及び福島の 3 県を除き、地上テレビ放送の完全デジタル
化を行った。また、放送エリア拡大と併せて、受信機についても普及が進み、平成 22 年に
は地上デジタル放送に対応した機器の普及が 1 億台に達した。
」としている。そもそも、な
ぜテレビ放送のデジタル化をしたのかという理由は、次の三点が挙げられる。
①多様なサービスが実現できる
②電波の有効利用
③デジタル化が世界の潮流
デジタル化の最大のメリットは電波帯域の削減で、情報圧縮が可能なために従来のテレ
ビ放送で使用していた電波帯域の約 40%を節約できる。その分の空いた電波帯域を使った
産業規模の拡大効果が期待されている。また、世界的な流れであることも事実であり、地
上デジタルテレビ放送は 1998 年にイギリスで最初に開始された。現在は、欧米ではアメリ
カ、ドイツ、イタリア、フランスなど、アジアでは韓国、中国、ベトナムなど、世界の 40
以上の国と地域で放送されており、デジタル放送は世界の潮流となっている。
図 1‐1
地上デジタル放送対応受信機の累計出荷台数の推移
出所 総務省「平成 23 年版情報通信白書」
7
1-1
進化する放送の歴史
メディアそしてマスメディアという言葉を既に多用しているが、藤竹(2005)は、両者を次
のように定義している。
メディアは、日本語訳にすると「媒体」であり、人間がコミュニケーションを行うために
使う道具(手段)を意味している。一方、マスメディアは、新聞、ラジオ、テレビ、雑誌、書
籍、映画、CD、ビデオ、DVD など最高度の機械技術手段を駆使して、不特定多数の人々
に対して、情報を大量生産し、大量伝達する機構およびその伝達システム。
日本では、テレビ放送がデジタル化に移行した今日まで、テレビやラジオをはじめとす
るマスメディアは時代の流れとともに日々進化をし続けてきた。1925 年に開始した日本の
放送の歴史の最初約 30 年は、ラジオのみの時代であった。太平洋戦争終結の事実がラジオ
によって国民に知らされた 1945 年には、テレビの時代にも繋がるいくつかの重要なシステ
ムが登場している。客観報道の原則によるニュースの自主取材や放送開始から終了時まで
休止時間なく放送を行う全日放送、一週間単位の放送時刻表の登場である。1953 年に始ま
ったテレビでは、当初、プロ野球や大相撲などのスポーツ中継、舞台中継が中心であった
が、映像というメディア特性をアピールし、視聴者の関心を呼びテレビの家庭への普及が
大きく前進した。70 年代半ば、テレビ視聴が人々の日常的なものになると、定時番組を中
心とした番組編成だけでは、視聴率を確保することが困難になる。テレビ放送各局は、長
時間編成、予算の大型化により様々なジャンルの特別番組の開発に力を注いだ。80 年代以
降は、衛星放送や都市型 CATV の普及に伴い、番組のジャンルの広域化が進んだ。BS 放送
や CS 放送の開始とデジタル化の進展により、本格的な多チャンネル時代を迎えている。
また、情報技術の革命的な発達により、放送と通信の融合が進行している。インターネ
ットが普及する前は、情報を得る手段としてテレビやラジオ、新聞のようなマスメディア
から不特定多数の利用者への一方通行の関係性だった。しかし、日常的にインターネット
や携帯電話をなくてはならないメディアとして使っている現代では、利用者が一方的に情
報を受け取るという関係ではなく、情報は利用者自身で探して選ぶのが一般的になってい
る。そのような人間とメディアの関係が大きく進化してきた中で、先行して地上波放送の
デジタル化が進んだアメリカでは、テレビとインターネットが融合した「スマートテレビ」
という新しいメディアが普及し始めている。この新しいメディアの登場によって、アメリ
カでは、従来のテレビのメディアとしての価値の低落、インターネット上の動画配信サー
ビスの普及によりテレビ局が放送する番組の視聴率低下、広告収入の減少によるテレビ局
の優位性の喪失という大きな問題に直面している。
8
1-2
スマートテレビの誕生
1-2-1
スマートテレビの定義
米 国 の テ レ ビ 端 末 市 場 で シ ェ ア 1 位 の 韓 国 の サ ム ス ン 電 子 3が「 サ ム ス ン Smart
TV」 と い う 名 称 で テ レ ビ 端 末 を 発 売 し 、 ス マ ー ト テ レ ビ と い う 名 称 が 広 く 認 知
さ れ た 。スマートテレビとは、簡単に言えばインターネットを利用できるテレビのことで
ある。野村総合研究所の石田樹生氏によれば、スマートテレビを以下の 2 つの機能を保有
するテレビ端末、またはセットトップボックスなどのテレビ周辺機器と定義されている。
(1) インターネット経由の映像をテレビ画面で視聴することが可能
(2) 高い処理能力を持つ CPU(Central Processing Unit;中央処理能力)が搭載され、ス
マートフォンのようにゲームなどのアプリをテレビで利用することが可能
さらに、スマートテレビの特徴を山崎(2011)は、大きく分けて 3 つあると語っている。
『1
つ目は、
「従来のテレビ番組に加え、動画などインターネット上の各種コンテンツ情報をテ
レビ画面で楽しめる」ということである。2 つ目は、
「パソコンやスマートフォンのような、
情報処理能力を持っている」ということ。そして 3 つ目は、
「インターネットを通じた心理
的な共同視聴(ソーシャル視聴)が可能」ということである。これらの特徴から、スマー
トテレビは、
「インターネットテレビ(ネットテレビ)」あるいは「ソーシャルテレビ」な
どと呼ばれることもある。
』尚、本研究ではスマートテレビと呼称を統一させて論じていく。
インターネットに接続できるテレビはこれまでも存在したが、従来のモデルはテレビ画
面のプラウザ上でキーワード入力し、インターネットで動画などを検索するサービスが中
心だった。単に、テレビをパソコンのように使うアプローチである。しかし一般的に、テ
レビの視聴者は、中高年層が主流である。従来のように、シンプルにボタン 1 つで操作で
きない従来型のネットテレビは、あまり受け入れられなかった。中高年層のテレビ視聴者
にとって、あくまでもテレビは「家電製品」であり「情報端末」ではないからである。様々
な機能を持つスマートテレビを、よりシンプルな操作で多くの人々に利用してもらうため
にはどうすればよいのか。そこで注目されたのが、
「アップス」である。アップスとは、iphone
などのスマートフォン上で、アプリに指でタッチするだけで地図やカレンダー、ゲームな
どを利用できるイメージで、これをテレビに応用して開発されたアプリケーションソフト
ウェアのことである。
1-2-2
スマートテレビの歴史
世界のスマートテレビをリードしているアメリカでは、2009 年 2 月から 6 月にかけてテ
レビ放送の完全デジタル化が実施された。2007 年から 2008 年にかけては、テレビのデジ
3
韓国最大の総合家電・電子部品・電子製品メーカーで、約 19 万人の社員を抱え、世界各地に 65 生産法
人、130 販売法人を展開している多国籍企業。
9
タル移行を意識して、パソコンによる見逃し放送4の配信が開始する。2007 年、Hulu(フー
ル―)が見逃し放送配信サービスを開始した。パソコンで様々な動画を楽しめるようになる
と、
「大きなテレビ画面で映像を楽しみたい」というニーズが生まれる。それを裏付けるよ
うに、2007 年にはアップルから初代アップルテレビ、2008 年には、パソコンの映像をテレ
ビで閲覧できるセットトップボックスロク(ROKU)が販売され、人気を集めた。
2008 年夏には、インテルとヤフーが「コネクトテレビ構想」を発表し、2009 年 3 月か
ら、実際にヤフーコネクトテレビ5のサービスが開始された。このヤフーコネクトテレビの
立ち上げは、アメリカで地デジへの移行が始まった時期と重なっていたため、スマートテ
レビ採用の動きを強く刺激した。
2009 年後半からは、ファイオス TV、ディレク TV、ユーバース TV などの有料テレビが、
次々とセットトップボックス型のネットテレビを発表した。ファイオス TV は 7 月、ディレ
ク TV は 8 月サービスを開始、10 月にはユーバース TV などによるマイクロソフト主催の
アップス開発会議が開催された。
ただし、2009 年までの有料テレビによる「ネットテレビ」は、セットトップボックスに
アップスを搭載しただけのものが主流であり、機器としての「スマートテレビ」の市場を
開拓したわけではない。しかし、2010 年、グーグルテレビが発表されるに至り、アメリカ
ではスマートテレビのブームが本格的に到来し、現在に至っている。アメリカの地デジ化
は、単なるアナログからデジタルという転換に終わらず、スマートテレビ移行のきっかけ
となったのである。
1-3 スマートテレビと従来型テレビの違い
従来のテレビとの大きな違いは、伝送媒体が電波ではなくネットワーク(通信)であること
が挙げられる。電波を介したテレビ放送とネットワークを介すスマートテレビの放送は、
どちらも即時かつ広域に情報を伝達できる即時性と広範性であることは同じである。しか
し、前者は放送時間にしか視聴できない一回性、放送局から視聴者への一方向性といった
特徴がある。一方、後者は視聴者の好きな番組を選択して好きな時間に見られるつまりオ
ンデマンド放送が提供され、放送局と視聴者の双方向のコミュニケーションをとることも
可能である。放送は、「一対多」の情報伝達のメディアとして発達してきたが、インターネ
ットテレビでは、通信の分野と考えられていた「一対一」の情報伝達と連携したサービス
が提供できるのである。次の章では、メディア産業において特に先進的なアメリカそして
韓国、欧州を事例に、テレビを取り巻く放送業界とスマートテレビの現状を整理していく。
4
テレビの定時放送が終わった後、一定期間ビデオオンデマンドで番組が視聴可能なサービスのこと。
ヤフーがテレビでもポータルサイトの情報を活用してもらうために立ち上げたサービス。ストリーミン
グ用のプラットフォームソフトとアップスをライセンス販売し、スマートテレビ流行のきっかけを作った。
5
10
表 1‐1 スマートテレビと従来型テレビの比較
スマートテレビ
従来型テレビ
メディアの種類
パーソナル/ソーシャル
マスメディア
伝送媒体
通信(ネットワーク)
電波
視聴者との関係性
双方向性
一方向性
番組の選択権
能動的
受動的
視聴の特徴
オンデマンド
一回性
(繰り返し視聴できる)
(録画を除く)
出所 著者作成
スマートテレビが浸透すれば、テレビの視聴スタイルや視聴デバイスは大きく変化する。
まず放送は、番組が連続して放送される従来の形態から、生放送の番組は除いて番組が出
来上がるごとにインターネットのサーバーに登録され、視聴者が自由に見たい番組引き出
すようなクラウド放送へと大きく変化する。現在のニコニコ生放送やユーストリームのよ
うな形態のコンテンツも、そのまま電波で放送される可能性がある。日本において、クラ
ウド放送中心となる時代の到来は、時間がかかりそうだが「見逃し放送」というスタイル
が先に浸透しそうである。
スマートテレビによる従来からの視聴スタイルの変革を考える際、
「時間」と「場所」の
2 つの点から考えるとわかりやすい。前者の「時間」は、視聴者が好きな時にいつでもテレ
ビを見られるということである。ユーチューブや無料動画サービス Gyao の視聴スタイルの
ようなイメージである。見たい番組をいつでも見られるという意味では、見逃し放送がそ
の典型的な例といえる。日本国内放送局では、2008 年末に NHK が見逃し放送の放送サー
ビス「NHK オンデマンド」を開始した。
一方で後者の「場所」は、モバイル機器で移動しながらテレビ動画を楽しめるため、見
たい場所でいつでもテレビを見られるということになる。日本のワンセグは、地上波の放
送を携帯電話で視聴する形態だが、場所という点から考えれば、極めて便利で先進的なサ
ービスといえる。この時間と場所における視聴者側の選択権が広い視聴スタイルは、パソ
コン、テレビ、スマートフォン、タブレットなどのデバイスによって成立している。
1-4
まとめ
スマートテレビとは、従来のテレビ機能つまりテレビ番組を視聴することに加えて、検
索機能、アプリ追加機能、SNS 接続機能が付加されたものである。検索機能とは、インタ
ーネット上の動画配信サイトに接続されることで、パソコンで見ていた動画コンテンツが
テレビ画面上で視聴できるものである。次に、アプリ追加機能とは、スマートフォンのよ
うなイメージで購入後にゲームや音楽などのアプリをユーザーが自由に追加し、テレビの
機能拡張が可能になる。また、ツイッターやフェースブックなどの SNS に関連づけて視聴
11
でき、テレビ番組と視聴者間の双方向のコミュニケーションと視聴者同士のコミュニケー
ションが図れるソーシャル視聴という視聴形態が可能になる。
従来のテレビ端末とスマートテレビとの違いは、伝送媒体が前者は電波であるのに対し
て後者はネットワーク回線であることが挙げられる。さらに前者は、決まった放送時間に
しか視聴出来ず、テレビ放送局から視聴者への一方通行という特徴がある。一方、後者は
視聴者の好きな番組を好きな時間に視聴できるオンデマンド放送が主流になり、テレビ放
送局と視聴者との関係は双方向であるという違いがある。
12
第2章
2-1
諸外国からから見るスマートテレビの現状
アメリカのテレビ事情
2-1-1
アメリカの地デジ化
アメリカの地上デジタル放送は、2009 年 6 月に完全移行された。デジタル化により、大
型画面で映像が鮮明に見られたり、チャンネル数が増えたりなど視聴者にとってメリット
は多い。しかし、地デジからの完全移行から約 2 年が経過したアメリカのテレビ局では、
「視
聴者のテレビ離れ」や「企業のテレビ広告離れ」という課題が未だに改善されず疲弊して
いる。IT ジャーナリストの小池良次氏は日本経済新聞の中で、以下のようにアメリカのテ
レビ事情について述べている。
2008 年のリーマンショック以降に極端に減ったテレビ広告は、最近やや回復している。と
はいえ長期低落傾向は変わらず、特に独立系の地方テレビ局では厳しい経営が続いている。
各種視聴者調査によると、ここ数年のアメリカ市民のビデオ視聴時間は増えている。実際
には CATV6や IPTV7などによるオンデマンド放送や Netflix8(ネットフリックス)に代表
されるオンラインビデオが伸びているだけで、地デジの視聴時間は伸び悩んでいる。視聴
率の不振から多くの企業はテレビ広告を減らし、インターネットを使うオンライン広告の
予算を増やしている。
小池氏が主張したように、広告収入が伸び悩むアメリカのテレビ放送局は、地デジで増
えたチャンネルを天気予報や交通情報で埋めた。なかには交通管制センターから流れてく
る映像をキャスターの解説もなく、そのまま再送信するだけという手抜き局もある。視聴
者が待ち望んできた番組案内サービスも地デジで始まった。しかし番組情報をまじめに更
新しないテレビ局が多く、サービスを十分に利用できない状況が今も続いている。チャン
ネルを変えても交通情報と天気予報ばかりでは地デジに移行した意味がない。結局、アメ
リカの地デジ移行はテレビ放送業界の疲弊ぶりとサービス意識の低下を視聴者に露呈する
結果となった。
2-1-2
生き残りの道を探すテレビ局
地上デジタル放送に移行したアメリカの放送局の中には、メディアとしての影響力を保
つため、インターネットメディアや屋外看板ビジネスにも手を広げている局が現れている。
また、メディアビジネスをあきらめ、制作したコンテンツをモバイルや海外で販売し、収
益をあげる努力をしているところもある。すでに「テレビ」メディアだけで会社を維持し
6
テレビの有線放送サービス。山間部や人口密度の低い地域など、地上波テレビ放送の電波が届きにくい
地域でもテレビの視聴を可能にするという目的で開発された。
7 通信事業者のネットワークなど閉鎖型のIP網で提供する放送と通信の融合サービス。
8 米国のDVD宅配レンタル大手。
もともとは映画を中心としたオンライン DVD レンタルが中心だったが、
オンラインでのコンテンツ配信事業を原動力に急成長を遂げた。
13
ている時代は終わり、テレビ局はいろいろなメディアを扱う、あるいは、国内市場だけで
なく海外市場にまで販路を広げなければ生き残れない時代になってきている。
世界各国におけるテレビは、それほどチャンネル数は多くない。たとえば、イギリスは
1980 年代までイギリスの公共放送である BBC が 2 チャンネルに、ITV という広告放送 1
チャンネルしかなかった。人口が多くこれから経済発展を目指す途上国は、ちょうど 30 年
前の先進国と同じ状態である。こうしたこれから爆発的に伸びると期待される市場に向け
て、アメリカのコンテンツ企業は衛星放送によって自社のコンテンツを配信し、効率よく
て、アメリカのコンテンツ企業は衛星放送によって自社のコンテンツを配信し、効率よく
儲かるビジネスをしている。
図 2‐1
世界の一般的な放送事情
出所 志村一隆(2010)「ネットテレビの衝撃」
「ネットテレビの衝撃」
アメリカ国内を見ると、ユーチューブやテレビ局自身が運営する無料のインターネット
配信サイトの影響で、放送ビジネスの縮小がすでに始まっている。志村(2010)によれば、ア
配信サイトの影響で、放送ビジネスの縮小がすでに始まっている。志村(2010)
メリカのメディア関係者やベンチャー企業家たちは、
「
「2000
年以降の 10 年で、ユーザーが
インターネットで自分が見たい番組を検索して見る習慣が定着してしまったために、いま
さらテレビの前に座って番組が始まるのを待つことはないだろう。あるとしたら、スポー
に座って番組が始まるのを待つことはないだろう。あるとしたら、スポー
ツ生中継だけである。」と明言したとしている。
放送は、生中継以外の他の映像コンテンツはオンデマンド(ユーザーが見たい時に見た
い番組を提供する方式)にシフトしていくというのがアメリカの専門家たちの共通見解と
されている。
2-2
アメリカにおける主要
アメリカにおける主要スマートテレビの動向
アメリカ国内のテレビを取り巻く環境は、この
テレビを取り巻く環境は、この 2 年間で大きく変化した。なかでも、
「オ
ーバーザトップビデオ9」とよばれるブロードバンド回線を使った放送サービスの台頭が大
9
ブロードバンド回線を使って映像を提供するサービス。ブロードバンド放送の総称として米国で広く使
ブロードバンド回線を使って映像を提供するサービス。ブロードバンド放送の総称として米国で広く使
われるようになった。インターネット経由で視聴できるサービスのほか専用のセットトップボックスを使
う場合がある。
14
きな影響を与えている。
2-2-1
Google TV の誕生
実際にスマートテレビが商品化したのは、
テレビが商品化したのは、2010 年 5 月にグーグルがアンドロイド OS10を
使った Google TV(グーグルテレビ
グーグルテレビ)構想を発表したことに始まる。アンドロイド
アンドロイド OS は、グ
ーグルがスマートフォン市場を制するために開発したもので、特にアップルの iPhone の対
抗機種を開発するメーカーに人気があり、それがテレビにまで及んだのである。
抗機種を開発するメーカーに人気があり、それがテレビにまで及んだのである。グーグル
テレビ(米グーグルが開発を進めているネット接続テレビ用プラットフォーム。セットトップボック
ス型のほか同機能を内蔵したテレビがある
を内蔵したテレビがある)は、パソコンのような機能をもったテレビをつくる
ためのソフトウェア開発プラットフォームで、これを利用すると、テレビでグーグル検索
できたり、レコメンド機能がついていたり、放送波で送られてきた番組なのか、インター
ネット配信なのかという区別を気にせず楽しめる。グーグル
ネット配信なのかという区別を気にせず楽しめる。グーグルテレビの最大の特徴は、チャ
の最大の特徴は、チャ
ンネルで番組を探すのではなく、パソコンと同じ感覚で、番組を検索できる点にある。放
送番組とともに、インターネット上にある映像全てが検索対象になり、その中から好きな
番組を見ることができる。グーグル
番組を見ることができる。グーグルテレビの新規性は、テレビとパソコンをつなぐ技術で
規性は、テレビとパソコンをつなぐ技術で
はなく、ハードウェアを OS などのソフトウェアを用いて、パソコンのようなテレビをつく
る技術という点である。
図 2‐2 グーグル TV の仕組み
出所 志村一隆(2010)「ネットテレビの衝撃」
「ネットテレビの衝撃」
10
グーグルがアップルの iPhone に対抗するために開発したオープンソースのスマートフォン用 OS。
15
しかし、大きな注目を浴びたグーグルテレビが、テレビ局から番組の提供を拒否された
ことで不振に陥った。テレビ受信機でブロードバンドサービスを楽しむ製品は、大きな成
功をつかめていない。また、アメリカはアップルの多機能端末「iPad」やパソコンなどで
番組を楽しむ「脱テレビ端末」へシフトしており、全国ネット大手テレビ局の番組はすべ
て、放送翌日に無料でインターネット上に公開される。アメリカの大手 4 局のうち NBC、
ABC、FOX の 3 局の番組は、動画配信サービスで有名な Hulu(フールー)に行けばすべて見
られる仕組みになっている。この 3 局が出資するフールーは、アメリカテレビ局のインタ
ーネットビジネスの象徴のようなサイトで、YouTube の対抗馬として、インターネットで
もテレビと同じプロフェッショナルがつくる番組で広告モデルを成立させようとしている。
このフールーやユーチューブのようなテレビと同様の番組をオンデマンドでしかもテレビ
以外の端末で視聴できる特徴を持つ動画配信サービスの爆発的普及が、脅威となる存在と
してテレビ局とテレビ端末の存在意義を問われている要因だとされる。
2-2-2
Apple TV
また、インターネットとテレビをつなぐ仕組みは、すでにベンチャー企業がいろいろな
取り組みを試みている。アップルは 2007 年 3 月に、Apple TV の販売を開始した。アップ
ルテレビとは、アップルが開発したセットトップボックスで、同社の「iTunes Store」で提
供する映画配信サービスをテレビで利用できるようにしている。そして、2010 年 9 月には
サイズを 1/4 に、価格を 1/3 に抑えた第二世代のセットトップボックス型のアップルテレビ
を公開した。アップルテレビはハードディスクを搭載していないため価格も日本では 8800
円と安価で、使用方法も単純になり、利用者はアップルテレビの電源を入れテレビに映像
ケーブルを繋げるだけという非常にシンプルなシステムとなっている。ハードディスクに
テレビドラマや映画をダウンロードする代わりに、これをストリーミングシステムで鑑賞
するようにすれば不法コピーも防ぐことが出来、コンテンツ企業との協力も容易となる。
しかし、今のところ iPhone や iPad ほど大きな反響は呼んでいないのが現状である。
2-2-3
ソニー・インターネット TV
ソニーのアメリカ法人では、2010 年 10 月、グーグルとの共同開発で、アンドロイド OS
を搭載した薄型テレビ「ソニー・インターネットテレビ」を発売した。競合他社に先駆け
グーグルと提携することによりスマートテレビ市場をリードしていく狙いである。テレビ
につなぐことでインターネットの利用が可能になるセットトップボックス型の製品も発売
される。ソニーの運営するネット配信サービスを通じて、見たい時に映画やテレビ番組、
音楽ビデオ、投稿ビデオなどをいつでも楽しめるようにする。価格は 599.99~1399.99 ド
ルで、グーグルテレビ搭載の Blu-ray プレーヤーも 399.99 ドルで提供している。これまで
も、日本の電機メーカー各社は薄型テレビの多くの機種にネット接続機能をつけてきた。
ただあくまでも「おまけの機能」という位置づけだったため、わざわざネット回線をつな
16
ぐ人はほとんどおらず、ネット対応テレビを持つ人のうち、接続率は 1 割にも満たないと
言われる。これに対して、ソニー・インターネット TV はグーグルのアンドロイド OS や、
高機能の CPU11を搭載し、ネット接続を前提とした本格的な商品であることを前面に打ち
出す。高機能である分、通常の薄型テレビよりも割高になるが、ソニーの石田佳久ホーム
エンタテインメント事業本部長は「購入者のほとんどはネットを利用するだろう」と見込
む。 これまで多くの電機メーカーが挑戦しては失敗した「ネット対応テレビ」で、新市場
を切り拓くのが狙いであるという。
薄型テレビの分野では現在、ソニーをはじめとする日本勢は、韓国のサムスン電子に大
きく後れを取っている。アメリカ調査会社のディスプレイサーチによると、 2009 年の薄型
テレビの世界シェアは、金額ベースでソニーは 2 位ながら 12.4%と、首位のサムスンの
23.3%の約半分にとどまる。サムスンは、巧みなマーケティングによって新興国を中心に一
気に勢力を拡大した。これに対してパナソニックはインドや中国などの新興国向けに、薄
型テレビなどの分野で、価格を抑えた「ボリュームゾーン(普及価格帯)製品」を投入す
ると発表し、サムスンに勝負を挑んでいる。 ソニーもまた、生産委託などにより製造コス
トを下げて、価格競争力を高める方針だ。ただ、石田本部長は、「サムスンの事業規模は
圧倒的に大きく、同じことをやっていても(追いつくのは)なかなか難しい。土俵を変え
て戦うことも考えねばならない」と話している。ネット対応テレビという新たな商品カテ
ゴリーを打ち出す背景には、そんな事情もある。ネットのインフラが整う先進国などでは、
スマート TV 向けにコンテンツを配信し、テレビの販売とネット配信サービスの両方から収
入を得られるようにしている。
2-3
韓国におけるスマートテレビの現状
2-3-1
韓国のインターネットと放送事情
韓国のインターネット利用者数は約 3000 万人と人口普及率は 6 割を超え、またブロード
バンド加入者数は約 1200 万人と世帯普及率は約 7 割にのぼる。その背景には、韓国は、世
界に先駆けて ADSL を普及させた。ADSL は、無線 LAN など他の高速インターネット接
続サービスを総称して、「ブロードバンド」と呼ばれている。韓国では、有線系ブロード
バンドや第三世代携帯電話(3G)を通じて、地上波のテレビ番組をほぼリアルタイムで視
聴できる他、過去に放送されたテレビ番組をオンデマンドでも見ることができる。また、
衛星デジタル放送波を携帯電話で受信してテレビ番組を見るサービスも開始している。こ
うした事例は、通信と放送の融合の典型例として位置付けることができる。
韓国の全国ネットの地上波テレビ局は、KBS(韓国放送公社:公共放送)、MBC(文化
放送:準公共放送)、SBS(ソウル放送:民間放送)、EBS(教育放送)の 4 局と数が少
ない。そして、100%民間資本の民間放送事業者は SBS の 1 局に留まる。また、地上波テ
Central Processing Unit。コンピュータなどにおいて中心的な処理装置として働く電子回路。
中央演算処理装置。
11
17
レビは、平日の昼間は放送が休止されている。こうした地上波テレビに対する制限の背景
には、ケーブルテレビや衛星放送の需要喚起が意図されている。韓国で無料のインターネ
ット放送が本格的に開始されたのは 1999 年 8 月で、民法最大手の SBS 傘下の SBSi(SBS
Internet)によるものであった。その後、2000 年 3 月に MBC が小会社の iMBC(Intenet
MBC)を通じて、2000 年 4 月には KBS もそれぞれインターネット上での本放送が無料で開
始された。その後、2 年間にわたり無料インターネット放送の時代が続いた。そして、イン
ターネットで放送番組を見る習慣が次第に視聴者に浸透していった頃を見計らって、約 2
年間の無料放送期間に終止符が打たれ、放送番組を含むメディアコンテンツの有料化時代
に突入した。
2-3-2 韓国における主要スマートテレビの動向
韓国の家電メーカーである LG 電子とサムスン電子は、2010 年から積極的にスマートテ
レビの開発に取り組んでいる。北 米 の テ レ ビ 市 場 は 、 日 本 人 が 考 え る 以 上 に 韓 国 メ
ー カ ー 主 導 で 、 2010 年 冬 時 点 で 薄 型 テ レ ビ の シ ェ ア 1 位 の サ ム ス ン 電 子 、 2 位
の LG 電 子 で 合 わ せ て 40% 以 上 の シ ェ ア を 占 め て お り 、 北 米 市 場 の 売 り 上 げ で
日 本 メ ー カ ー を 圧 倒 し て い る 。 携 帯 電 話 分 野 で は 北 米 で も 相 変 わ ら ず の iPhone
人 気 だ が 、 ア ン ド ロ イ ド OS を 採 用 し た サ ム ス ン 電 子 、 LG 電 子 製 の ス マ ー ト フ
ォンの注目度も高い。こうした魅力的なモバイル端末のブランドイメージと薄
型テレビを併せて「スマート」としてアピールしていく戦略は、機器の壁を超
えてネット対応の時代が到来することを強く印象付けている。
2-3-3
サムスン電子
サムスン電子は 2010 年 7 月には世界初のテレビ専用アプリストアをオープンするなど、
スマート TV 事業に力を注いでいる。 2012 年頃には「スマートテレビ」競争が本格化する
と予想し、スマートテレビの割合を全体の 50%以上に大幅拡大する計画も発表した。スマ
ート TV 用 OS としては独自に開発しスマートフォン Wave モデルに搭載している Bada12を
中心として考えている。しかし、今後 Google のアンドロイドが TV 業界でもトレンドにな
ると、サムスンでも採用する可能性が高いと予想される。国家ごとに好みのコンテンツが
異なるという点を考慮し、ローカルコンテンツ確保のための戦略も樹立している。韓国国
内では TV 上のネット検索機能も強化するため、韓国大手ポータルサイトの Naver13と提携
し、2011 年 1 四半期より Naver の検索機能の搭載を組み込んでいる。
2-3-4
LG エレクトロニクス
LG エレクトロニクスは 2010 年初め、200 名規模のスマートテレビ対応チームを作り、
12
13
サムスンが 2009 年に発表した自前の OS。低価格帯のスマートフォンに搭載されている。
1999 年に設立された韓国最大手のインターネット検索ポータルサイト。
18
専門家を迎え入れる一方、アップルとグーグルのテレビ用プラットフォームに対抗する独
自のプラットフォーム・NetCast 開発を進めている。並びに、Google TV に参与する方案
も内部で検討中である。サムスン電子と同様にコンテンツ確保に力を注いでおり、2011 年
より本格的なサービスを展開する計画である。韓国国内で LG 電子は 2011 年 1 月 24 日、
初めてのスマートテレビ製品モデルを二つ発表し、25 日にアプリストアの「LG Apps」も
オープンした。加えて、今年国内市場向けに販売する LED テレビの 70%以上にスマート
テレビ機能を追加する方針も発表した。 初期モデルには動作認識型マジックモーションリ
モコン、スマートボード、スマートシェア、SNS 機能などが搭載されており、今後使いや
すい UI14の開発に集中するとみられる。
2‐4
国内家電メーカーの動向
2010 年までは、日本家電メーカーの各社は、日本国内ではほとんどスマートテレビへの
動きを見せていない。KDDI が、国内ケーブルテレビ最大手のジェイコムと共同で、アンド
ロイド搭載のセットトップボックス提供の予定を発表したり、パナソニックが自社のテレ
ビブランド・ビエラにユーチューブやスカイプのアップスを搭載したりといった程度であ
る。欧米では、多くの日本メーカーがスマートテレビ市場に進出している。例えば、東芝
は欧州で HbbTV に対応したテレビを発表し、アメリカではヤフーコネクトテレビと、ウォ
ルマートが買収した Vudu の仕組みを活用したスマートテレビを販売している。また、シャ
ープでは、アクオスに Vudu のアップスを搭載したテレビを発売し、三菱電機も 3D テレビ
とともにアップスを 100 個以上搭載したテレビをアメリカで展開している。
日本メーカーがなぜ国内に先行して欧米でスマートテレビを展開しているのか。日本で
は、インターネットとテレビとの融合がまだ実現されていない。日本の地上波テレビ番組
や映画などのコンテンツの二次利用が、著作権によって厳しく禁止されている。国内でス
マートテレビが台頭する条件が整ったときに備えて、まずは欧米市場で販売してノウハウ
を蓄積し、国内市場への投入を準備している戦略だと推測される。
2-5
まとめ
スマートテレビの普及が先行しているアメリカでは、2009 年にアナログ放送が終了し地
上デジタル放送へ完全移行された。地デジ化を意識して、2007 年から 2008 年にかけて、
パソコンによる各放送局がオンデマンド配信を開始している。2009 年までの有料テレビに
よるインターネットテレビは、セットトップボックスと呼ばれるケーブルテレビ放送や衛
星放送を受信して、一般のテレビで視聴可能な信号に変換する装置にアプリケーションを
搭載しただけのものが主流であり、インターネット接続という「機能」が出回った。2010
年に、グーグルがスマートフォン市場を制するために開発したアンドロイド OS を搭載した
User Interface。ユーザーに対する情報の表示様式や、ユーザーのデータ入力方式を規定する
コンピューターシステム。
14
19
グーグルテレビが発売されたことでスマートテレビという新たな端末機器として注目され、
スマートテレビブームが本格的に到来した。
また、アメリカ国内では、ユーチューブやテレビ放送局が運営する無料のインターネッ
ト配信サイトの影響で、放送ビジネスの縮小がすでに始まっている。テレビメディアだけ
で会社を維持できる時代は終わり、テレビ放送局、国内市場だけでなく海外市場にまで販
路を広げたり、新たな役割を見出したりしなければ生き残れない。
さらに、韓国では国家的な方針としてスマートテレビの推進に取り組み、政府が「スマ
ートテレビ発展戦略」を発表した。韓国内市場向けに販売するテレビの 70 パーセントにス
マートテレビ機能を追加する方針である。
日本の家電メーカーのほとんどは、日本国内ではまだスマートテレビ移行の動きを見せ
ていない。しかし、欧米では、日本のメーカーがスマートテレビの開発・販売を開始し、
スマートテレビ市場に進出している。日本では、動画コンテンツの著作権の保護が厳しく、
自由にテレビ番組や映画のコンテンツを二次利用できないことが、国内のスマートテレビ
推進の障壁となっている。日本のテレビメーカーは、国内でスマートテレビが台頭できる
条件が整ったときに備えて、先行する欧米市場でノウハウを蓄積し、国内市場への投入を
準備しているのである。
20
第3章
動画配信サービス普及によるメディアのソーシャル化
スマートテレビを語る上で、見逃せないのがフール―やユーチューブのような動画配信
サービスや動画共有サービスの存在である。山崎(2011)は、既述してあるサービスをまとめ
て「アグリゲーター」と呼んでいる。そして、アグリゲーターの定義として山崎は次のよ
うに述べている。「アグリゲーターとは、コンテンツホルダーからの委託を受け、インター
ネットサイトや視聴者に販売する仲介業者のことである。
」としている。日本国内では、ニ
コニコ動画や Gyao、海外ではネットフリックスやフール―、アップルなどがこれに該当す
る。これらサービスは、驚異的なスピードで世界的に普及しており、現在のテレビ放送局
の地位を奪いかねない。しかし、放送局もこのようなインターネットサービスに抵抗する
べく、著作権等の法律を駆使してテレビ番組や映画の制作会社が作成した映像コンテンツ
を保護したりオンデマンド放送を推進させたりとテレビ放送局としての地位を守っている。
そこで第 3 章では、動画配信サービス並びに動画共有サービスの動向、インターネット上
に動画が流出する問題に対するテレビ放送局の防衛策について明らかにしていく。
3-1
動画配信サイトの歴史と動向
3-1-1
動画配信サービスの動き
すでにアメリカでは、コンテンツのインターネット配信をめぐり、コンテンツホルダー
と有料テレビ、地上波放送を巻き込む問題が生じている。例えば、2010 年にはスカイ・エ
ンジェル事件と呼ばれる問題が発生した。
2010 年 1 月、世界最大のドキュメンタリー制作会社として知られるディスカバリーは、
番組を購入、配信していたアメリカのブロードバンド放送局「スカイ・エンジェル」に対
して、契約期間中にも関わらず、番組提供を打ち切った。番組提供打ち切りの理由として
ディスカバリーは、スカイ・エンジェルが値段の高いケーブルテレビのチャネル活用を中
断し、インターネットからのクラウド放送15に切り替えたためだと言われている。アメリカ
の通信法には、
「番組提供義務」が定められており、適切な価格で番組を提供することが義
務づけられている。そこで、スカイ・エンジェルがディスカバリーに対して、通信法を定
める FCC16 (Federal Communications Commission)に番組提供義務違反であると訴えた
が、インターネット配信は実質対象外とし、訴えを退けられてしまったのである。スマー
トテレビが本格的に普及すれば、この「番組提供義務」を中心とした問題が多発する可能
性がある。
映像コンテンツとして、
最初に注目されたのはアップルである。
アップルは 2009 年より、
すでに 1 億人の顧客情報を持っていた iTunes を通し、月額 30 ドル程度で映像コンテンツ
を販売する戦略を立てていた。しかし、多くの地上波や有料テレビは、ビジネスモデルの
転換や広告収入の減少を恐れて、アップルの申し出を拒絶したと言われている。
15
16
別名オーバーザトップ。インターネット上での動画配信サービスのこと。
米国連邦通信委員会。通信機器に関する規制の策定、許認可を行う米政府の組織の一つ。
21
一方で、アップルとは異なるアプローチを取っているのが、
「セズミ」である。セズミは、
アメリカソニーの元音楽ビジネス責任者、フィリップ・ワイザー氏が開始した動画配信サ
ービスである。セズミは、アメリカにおけるデジタルテレビへの完全移行により、地方局
が電波を持て余している点に着目し、インターネットではなく放送電波を活用したサービ
スを開始した。セズミは地方局から借り受けた電波を使い、15 局程度のケーブルテレビ放
送を提供している。さらに 2010 年末までに、36 のエリアで地方局から電波のリースを受
けることに成功している。尚、月額利用料は 19.99 ドルでその内訳としては基本料 4.99 ド
ル、ケーブルチャネルのパッケージ追加料金が 15 ドルとなっている。
さらに、ネットフリックスとフール―と呼ばれるサービスがある。ネットフリックスは
映画中心で、フール―はテレビ番組中心の特色を持っているが、両社は激しく競合してい
る。ネットフリックスは、1997 年にオンライン DVD レンタル会社として創設された。そ
れから、
映画やドラマのクラウド放送をして急成長を遂げており、
2011 年 1 月末では約 2000
万人の契約者を獲得している。また、2010 年 11 月、郵便 DVD レンタルを含まないクラウ
ド放送見放題サービスを月額 7.99 ドルで開始した。すでに 250 機種以上のスマートテレビ
にアップス17を提供している。さらに、テレビ本体だけでなく、録画機やブルーレイレコー
ダー、ソニーのプレイステーションや任天堂などの Wii などのゲーム機、iPad や iPhone
にもネットフリックスのアップスを提供し、さらにグーグルテレビにまで対応している。
また、コンテンツも充実しており、映画、テレビドラマで約 2 万タイトルを提供する体制
を整えている。
一方フール―は、2007 年 3 月にユーチューブやナップスターによる地上波テレビ番組の
違法投稿を抑止する目的として、CBS を除く FOX、NBC、ABC のアメリカ地上波が合併
事業として設立され、2008 年 3 月に本格的に見逃し放送配信サービスを開始した。映像コ
ンテンツは、CBS を除く地上波放送および多くの映画会社から提供されている。見逃し放
送だけでなく過去の番組動画提供で収益を上げ、番組提供料として地上波放送局に売上の
一部を支払っていることでこのビジネスが成立している。またフール―は、映像配信だけ
ではなく参加している地上波放送のウェブサイトを組織する販売代理店の役割も担ってい
る。さらにフール―には、無料サービスと有料サービスの「Hulu プラス」がある。フール
―はネットフリックスに対抗するべく、有料サービスフール―プラスの値段を下げ、ネッ
トフリックスと同額の 7.99 ドルで提供した。しかし、コムスコア18調査によれば、2010 年
11 月時点で約 3000 万人弱の無料フール―の視聴者のうち、わずか 4 パーセントしかフー
ル―プラスを視聴していない。
17
アプリケーションソフトウェアのこと。スマートフォンやスマートテレビ上で使用される微小アプリケ
ーション。
18 マーケティング情報やサービスを提供する米国発のインターネット調査会社。
22
3-1-2
動画共有サービスの動き
動画共有サービスの代表格として、素人が手軽に動画を投稿でき、誰でも無料で視聴で
きる点が多くのユーザーから支持を集めるユーチューブがある。2005 年に、アメリカで登
場したユーチューブは、一時期は素人投稿動画が大量に登録され、素人が製作した動画コ
マーシャルがコンシューマー作成 CM として人気を集めた。サービスは多言語で構成され
ており、全て無料で利用できる。2006 年にはグーグルに買収され、グーグルが得意とする
広告中心のビジネスモデルを模索し始めている。視聴者がテレビ番組を録画し、ユーチュ
ーブ上にアップロードして自由に見られる点は、視聴者にとっては利便性が高い。しかし、
地上波のテレビ番組が無断で録画され、ユーチューブに投稿されるようになり、テレビ業
界にとっては著作権違反という大きな問題が発生するきっかけとなった。
ユーチューブが知られ始めた 2006 年初頭、日本では Gyao(ギャオ)が話題になってい
た。ギャオは、有線放送が運営をしていた USEN グループが始めたインターネット上の映
像サービスである。2005 年 4 月にサービスを開始し、1 年後には会員数が 900 万人を超え
た。同時期の日本におけるユーチューブのアクセス数はまだ月間 200 万人しかなかった。
ギャオは、違法コンテンツが多いインターネットのイメージを払拭するため、好きな時
に好きな番組を見られるオンデマンド性は取り入れていたが、決められたチャンネルを見
せるサービスだった。ギャオとユーチューブの決定的な違いは、ギャオでは、利用者が自
分で作成した映像をアップロードできなかった点である。視聴者はあくまでもアニメやド
ラマ、映画などプロが作ったコンテンツを見るだけであり、従来のテレビ視聴のスタイル
とあまり変わりはないものとされる。
日本で動画配信が流通し始めた 2005 年には、通信と放送の融合を訴えて、ライブドアや
楽天がラジオ、テレビ局の買収・提携に取りかかったが、上手くは行かなかった。
また、2011 年 9 月にはフール―が日本版のサービスを開始させた。フール―の CEO ジ
ェイソン・カイラー氏は日本に進出した理由として、コンテンツの需要が高く市場規模が
大きい点と日本のネットインフラが整っている点を挙げている。アメリカのテレビドラマ
やハリウッド映画をパソコンだけでなくスマートフォンやインターネット対応テレビ、家
庭用ゲーム機などの各デバイスを通して、月額 1480 円で提供している。アメリカでは、無
料版と有料版のサービスを展開しているが、日本では CM を挟まずにコンテンツを視聴で
きる有料版のみとなっている。日本の映画やテレビ番組のコンテンツの追加に関しては未
定だが、利用者の視聴履歴を分析しておすすめのコンテンツ紹介や、途中で中断した番組
の続きを見られるなど、サービスとしては充実している。
他にも、ユーストリームやニコニコ動画が存在する。前者のユーストリームは、2006 年
6 月に設立され、ライブ中継を個人でもできるサービスを無料で提供している。利用者はパ
ソコンにウェブカメラを接続し、ユーストリームにアクセスすれば撮影を開始するとその
映像がインターネット上に流れ、誰でも映像が視聴できるシステムである。ユーストリー
ムは、ユーチューブとは異なり撮影した映像をアップロードするのではなく、ライブ中継
23
できる特色を持つ。
後者のニコニコ動画は、2006 年 12 月に、携帯電話向けコンテンツ配信を事業としてい
るドワンゴ株式会社によって設立された。ニコニコ動画の特徴は、動画配信サイトで配信
されている動画の特定の再生時間上に利用者がコメントを投稿し表示できるコメント機能
があり、利用者やアップロードする者同士が交流できる機能を備えている。基本的に利用
料は無料であるが、ニコニコプレミアムという有料サービスも提供しており、ニコニコポ
イントという 500 ニコニコポイント(525 円)から 10000 ニコニコポイント(10500 円)
までの仮想通貨を購入して、有料動画の購入やニコニコ生放送における予約や延長などの
サービスが受けられる。
表 3-1 主要動画配信サービスの一覧
サービス名
利用料
サービス開始年
配信エリア
サービス形態
YouTube
無料
2005 年
米、日含む
動画共有
14 カ国
Hulu(Hulu プラス)
無料/$7.99
2008 年
米、日
動画配信
ネットフリックス
$7.99
2007 年
米
動画配信
Gyao
無料
2005 年
日本
動画配信
2006 年
日本
動画共有
2006 年
米、日含む
動画共有
(一部有料)
ニコニコ動画
無料
(一部有料)
Ustream
無料
出所 著者作成
3-2
動画配信サービス普及による影響
3-2-1
映画の価値が低下する
従来、新作の映画は、まず映画館で公開され、次に DVD 化され、最後に地上波放送やケ
ーブルテレビで放送されるといった順番だった。この順番は、
「WINDOWS(ウィンドウ)
」
とも呼ばれる。ネットフリックスのようなクラウド放送は、映画の提供順序という映画業
界の秩序も揺るがしている。クラウド放送にとって、新作映画を一日でも早く利用者に配
信することは、サービスの魅力を高める大きな手段になる。ネットフリックスは、本来は
ケーブルテレビに提供するはずだった新規の映画の価値を奪ってしまっている。
2009 年 10 月、パラマウント、ライオンズゲート、MGM(メトロゴールドメイヤー)とい
う映画会社 3 社は、共同で「エピックス」というケーブルテレビ局を立ち上げた。アメリ
カの映画チャンネル「ショータイム(契約者数は約 6500 万人)」の値上げ要求に激怒した
ことで立ち上げられたが、新興ゆえに経営が悪化し、結果ネットフリックスへの映画販売
を余議なくされた。これにより、ネットフリックスは、ケーブルテレビへの公開を待たず、
24
映画をインターネットで販売できるようになってしまったのである。映画会社 3 社は、ウ
ィンドウという映画秩序を放棄して、クラウド放送に転換してしまったといえる。
日本でも、NTT ぷららが運営する「ひかりテレビ」が劇場公開前の映画配信、または劇
場公開との同時配信を開始した。例えば、2010 年 9 月に劇場公開された映画「バツゲーム」
は、ひかりテレビが劇場公開前にビデオオンデマンドで提供している。また、アップルの
iTunes も DVD 化と同時に、FOX
化と同時に、
やパラマウント・ピクチャーズ、ユニバーサル、フジテ
レビ、松竹、東映などの映画や見逃し放送を、国内 iTunes ストアで発売し始めている。
ソニーも、アメリカやヨーロッパ(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)
にて展開する「キュリオシティ」と呼ばれるクラウド放送サービスで、新作映画の提供を
開始している。キュリオシティでは、
開始している。キュリオシティでは、FOX、ユニバーサル、ピクチャーズ、パラマウウン
、ユニバーサル、ピクチャーズ、パラマウウン
ト・ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ、エンタテイメント、ワーナー・ブラザーズな
どのハリウッド映画や話題の邦画などを、ストリーミング形式で視聴することが可能であ
る。このように、劇場公開前後にかかわらずインターネット上による映画配信が日常化す
れば、映画館の来場者数や DVD 売上数の減少など、映画の価値が低下するとともに映画を
の減少など、映画の価値が低下するとともに映画を
取り巻くあらゆる業界にも影響を及ぼすということが分かる。
図 3-1
WINDOWS の概要
出所 志村一隆(2010)ネットテレビの衝撃
ネットテレビの衝撃
3-2-2
DVD 市場の縮小
動画配信サービスがさらに普及すれば、
動画配信サービスがさらに普及すれば、DVD
が売れなくなるのはもちろん DVD レンタ
ルをビジネスとする企業にも影響が及ぶと推測される
ルをビジネスとする企業にも影響が及ぶと推測される。
実際、アメリカや世界 17 カ国でレンタル DVD サービスを展開するアメリカレンタルチ
ェーン最大手のブロックバスター19は、2010 年 9 月に 11 億ドルの負債を抱えて倒産した。
2009 年には、約 1000 店舗を閉鎖したが、爆発的に成長するネットフリックスやフール―
に敵わなかったといえる。また、ブロックバスターに次ぐ業界第二位だったムービーギャ
19
アメリカ合衆国に本拠地を置く
に本拠地を置くビデオ・DVD のレンタルチェーン店。
25
ラリーも 2010 年 2 月に倒産している。クラウド放送が本格化しつつある欧米では、郵便レ
ンタルも含め DVD レンタル事業は、既に時代遅れのビジネスになっている。
日本の DVD レンタル事業においては、2009 年に TSUTAYA が「ネットで借りて自宅に
届き、ポストに返却…」といった CM を大々的に放送したが、アメリカでは既に色褪せた
サービスだったということになる。さらに、シャープのタブレットパソコン「GALAPAGOS」
用のコンテンツとして、TSUTAYA を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブは共同
で 、 電 子 書 籍 や 電 子 雑 誌 、 電 子 新 聞 の 約 2 万 点 の ク ラ ウ ド 放 送 企 業 「 TSUTAYA
GALAPAGOS」を立ち上げた。しかし、TSUTAYA GALAPAGOS が設立されたのは、ブロ
ックバスターが倒産した 2 ヶ月後である。2010 年 12 月のサービス開始時では、電子書籍
のみのコンテンツだったが、後に映像コンテンツの配信も開始した。
3-3
インターネットに対する国内テレビ放送局の動向
3-3-1
国内テレビ放送局の動き
インターネット上で爆発的に普及する動画配信サービスは、利用者にとってはコンテン
ツの選択権が格段に自由になるというメリットをもたらす。しかし、動画配信サービスの
中でも、ユーザーが動画をアップロードできるようなユーチューブなどの動画共有サービ
スでは、地上波のテレビ番組やアーティストのプロ―モーションビデオ、さらにはアーテ
ィストのライブを隠し撮りした動画など著作権により保護されているコンテンツが、違法
にアップロードされている。各動画共有サイトは、利用規約で著作権を侵害した動画コン
テンツのアップロードは禁止しているが、違法コンテンツの流出は後を絶たない。
テレビ放送局の対応としては、各テレビ局にインターネット上における動画の監視、発
見した場合の削除要請などを行う専任監視部隊 20 が設けられている。キー局と呼ばれる
NHK やフジテレビ、TBS、日本テレビ、テレビ朝日に対しては、専用の申し入れフォーム
が作成送付されている。中でも、TBS では視聴者サービス部宛メッセージフォームと呼ば
れる TBS のホームページ上にある書き込み欄に、ユーチューブなどで番組が無断アップロ
ードされていると通報すると、
動画が TBS によって強制的に削除されるようになっている。
日本テレビでは、2005 年に「第二日本テレビ」というサイトを立ち上げ、番組のフル視
聴ができたり、放送しなかった未公開映像を配信したりといった動画サービスを開始した。
第二日本テレビは、動画ポータルサイトという定義で各番組を紹介する WEB サイトとは別
に存在している。2008 年末には、NHK が見逃し放送の放送サービス「NHK オンデマンド」
を開始した。テレビ局の有料動画配信サービスの利用も多少は伸びている傾向にある。
3-3-2
テレビと動画配信サービスにも影響を与えた 3.11
東日本大震災に関する情報の伝播は、テレビはソーシャルメディアの要素を取り込んで
20
主として編成や著作権・権利関係の業務を行う専任部署、あるいはスカイアンドロード社ほか番組製作
会社の関連会社など。
26
いくことの重要性を物語った。テレビ局が追い切れなかった震災や原発に関する多くの情
報を、多様なブログやツイッター、フェースブックなどのソーシャルメディアによって入
手した。ライフラインが止まってしまった環境下では、被災地ではテレビ視聴が出来ず、
携帯電話やスマートフォンを介したソーシャルメディアの利用による情報収集が大いに活
躍された。
また、NHK や TBS はじめテレビ朝日など民放各局の災害報道番組がユーストリームや
ニコニコ動画などで同時配信されたきっかけとなった。発端は、広島の中学二年生が地震
発生時から大津波に至る NHK の災害報道番組を、自宅テレビをずっと iPhone で撮影し、
そのままユーストリームにアップロードしていたことである。動画配信サービス上で、テ
レビ放送の映像を映しそのまま流すのは違法であるが、これを知った NHK の担当者も通信
による同時配信を即座に認めた。 結果として、ユーストリームでの地上波番組の同時配信
が一挙に進んだ。最終的には NHK,TBS、フジテレビ、テレビ朝日、FM アップルウェー
ブなど 13 局がユーストリーム上での同時配信を行った。放送局 13 局がユーストリームで
配信を行った結果、かつてないほどのユーザーが訪問し、地震発生時から 2 週間で、公式
13 チャンネルの視聴回数はのべ 6,800 万回である。地震発生直後から視聴者数が急増し、3
月 11 日 13 時から 12 日 13 時の国内だけで 133 万 4,948 人ものユニークユーザーが視聴し
た。これは前日の約 5.2 倍の数値になるという。いかに多くの人がユーストリーム経由でテ
レビの情報を得たり、情報を共有したりしていたかが推測できる。つまり、ソーシャルメ
ディアを介して、コンテンツを視聴したいという潜在ニーズが多いということが予想され
る。
3-4
まとめ
動画配信サービスには 2 つのタイプがある。一つ目は、ユーチューブやニコニコ動画な
ど素人が作成したメディアを共有していく動画共有サービスである。二つ目は、フール―
やネットフリックス、ギャオのようなテレビ放送局や映画供給会社がインターネット上で
動画をオンデマンド配信する動画配信サービスである。動画共有サービスの特徴とは、主
に無料コンテンツであること、コンテンツ制作者がアマチュアである。一方で、動画配信
サービスとは、有料のサービスであること、コンテンツ制作者はテレビ番組、映画制作会
社などプロが作成したコンテンツであることが特徴として挙げられる。インターネット上
で動画コンテンツを視聴することが常態化していることが、テレビ放送局の地位を脅かす
要因とされる。
27
28
第4章
未来へ向けた新テレビの姿
第 3 章から、ユーチューブをはじめとした動画共有サービスは、ユーザー自身がコンテ
ンツを制作し共有していくメディアという特徴があると述べた。すなわち、動画共有サー
ビスは CGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)と呼ぶことができる。
CGM とは、消費者(ユーザー)自身がコンテンツを制作していくメディアのことを指し、動
画共有サービスの他にもツイッターやフェースブック、mixi などの SNS も含まれる。
ユーチューブのコンテンツの多くは、テレビ局などのプロが作った映像ではなく、コン
テンツ制作のアマチュアであるユーザーによってアップロードされているものがほとんど
である。スマートテレビが普及すれば、地上波放送とプロが作ったコンテンツによる動画
配信サービス、さらには動画共有サービスすなわち CGM が融合していき、視聴者が好きな
動画コンテンツを好きな時に視聴できることになる。視聴者にとって、面白い動画であれ
ばコンテンツ制作者はプロかアマチュアかという違いは関係ない。利用者もメディアの作
り手側になり、動画コンテンツが多様化しインターネット上に大量に流出することが予想
される。つまり、動画コンテンツの情報量が爆発的に増加するということである。CGM の
普及で、プロが作ったコンテンツを放送しているテレビ局の優位性が失われ、新たな生き
残りの道を探さなければならないとされる。
4-1
テレビとインターネットの融合の先に
4-1-1
スマートテレビ時代の視聴スタイルの変化
テレビの機能にソーシャルメディアの要素を取り入れることで、視聴者との交流が深め
られる。番組のフェースブックページの運営やツイッターを運用させることで、放送時間
や WEB サイトの更新時にアナウンスしたり番組への意見を交わしたりとテレビと視聴者
間のコミュニケーションを密にとることが可能になる。さらに、ソーシャルメディアは放
送とインターネット、視聴者との接点を結ぶものとして積極的に活用していきたい。今後
は、視聴スタイルにもそれを反映させていくのだ。
スマートテレビが浸透すれば、テレビの視聴スタイルや視聴機器(デバイス)は大きく変
化する。まず放送は、番組が連続して放送される従来の形態から、生放送の番組は除いて
番組が出来上がるごとにインターネットのサーバーに登録され、視聴者が自由に見たい番
組引き出すような放送へと大きく変化する。
従来のマスメディアと利用者との関係性は一方通行だった。しかし、スマートテレビは、
今までのテレビの機能に加えてインターネットが持つ検索機能などを持ち、さらにテレビ
を通して番組と視聴者の双方向型のコミュニケーションや視聴者間の会話が可能な「ソー
シャル視聴」という新たな視聴スタイルが追加される。
将来的には、現在のニコニコ生放送やユーストリームのような形態のコンテンツも、そ
のまま電波で放送される可能性がある。日本において、クラウド放送中心となる時代の到
来は、時間がかかりそうだが「見逃し放送」というスタイルが先に浸透しそうである。
29
スマートテレビによる従来からの視聴スタイルの変革を考える際、
「時間」と「場所」の
2 つの点から考えるとわかりやすい。前者の「時間」は、視聴者が好きな時にいつでもテレ
ビを見られるということである。ユーチューブの視聴スタイルのようなイメージである。
見たい番組をいつでも見られるという意味では、見逃し放送がその典型的な例といえる。
日本国内放送局では、2008
2008 年末に NHK が見逃し放送の放送サービス「NHK
NHK オンデマン
ド」を開始した。
一方で後者の「場所」は、モバイル機器で移動しながらテレビ動画を楽しめるため、見
」は、モバイル機器で移動しながらテレビ動画を楽しめるため、見
たい場所でいつでもテレビを見られるということになる。日本のワンセグは、地上波の放
送を携帯電話で視聴する形態だが、場所という点から考えれば、極めて便利で先進的なサ
ービスといえる。この時間と場所における視聴者側の選択権が広がる視聴スタイルは、パ
ソコン、テレビ、スマートフォン、タブレットなどのデバイスによって成立している。
このように考えると、映像や音楽、新聞や書物などコンテンツ全てがサーバー上で管理
このように考えると、映像や音楽、新聞や書物などコンテンツ全てがサーバー上で管理
される放送が、スマートテレビ時代の視聴スタイルに適合し
放送が、スマートテレビ時代の視聴スタイルに適合していることが理解できる。
ていることが理解できる。
図 4‐1 ソーシャル視聴の概要
出所 境治(2011)「テレビは生き残れるのか」
「テレビは生き残れるのか」
4-1-2
放送形態の変化
未来のテレビのイメージとして、スマートテレビのイギリス標準の
スマートテレビ
YouView21を構想した
BBC 出身のアンソニー・ローズ氏は次のようになると述べている。
①
ドラマなどの番組はでき次第、インターネット上に登録される
②
配信は視聴者からのオンデマンドが中心となる
21
イギリス BBC や ITV、通信大手
、通信大手 BT など、企業連合 7 社が 2011 年上半期から導入したスマートテレ
ビのイギリス標準規格。
30
③
電波の放送は「スポーツ」や「音楽」などの生放送中心となる
④
将来はクラウドから生放送が行われ、有線無線のインターネットも電波放送も同じ内
容、同じ通信規約の IP(インターネットプロトコル)放送に向かう
以上の 4 点を挙げている。つまり、放送形態としてはユーチューブやニコニコ動画に極
めて近くなるとされている。そうなれば、放送電波による番組が必要なくなることにもな
りかねない。必然的に電波の放送を見る視聴者数が減少し、テレビ放送局の存在価値が危
ぶまれるだろう。そこで、テレビ放送局の新たなビジネスモデルとして、氾濫する CGM と
あらゆるコンテンツの情報を整理し管理していくコーディネーターの役割を果たしていく
事を提案したい。
4-2
スマートテレビ普及後に生じる現象
4-2-1
テレビとしての価値が相対的に低下
スマートテレビの登場により、テレビの価値とテレビ放送局の役割は大きく変化する。
テレビは、オンデマンド視聴が一般化し、ソーシャル視聴のような新しい機能が付加され
るが、テレビとしての価値は相対的に低下し、単なるひとつのデバイスでしかなくなる。
なぜなら、今後スマートテレビが日本で普及するには、テレビとインターネットの融合が
実現されるのが条件であり、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などで動画を視
聴する機会が増えると予想される。インターネットに簡単に接続できるスマートテレビの
使い用途は広がり、様々な映像コンテンツを視聴できるひとつの端末にすぎなくなるのだ。
従って、テレビ本体の価値の低下は必ず生じるだろうが、テレビという機器は今後も情報
取得ツールや娯楽ツールなどの重要なデバイスとして、スマートテレビという新たな市場
を開拓して存続するだろう。テレビ端末は消滅しないが、数あるデバイスのひとつとして
一定の規模を残しながら今後も存続していくだろう。
4-2-2
放送局が生き残りの道を模索する必要性
今後は、視聴者の間でオンデマンドによる視聴が浸透し、フールーやネットフリックス、
ユーチューブ、ユーストリームのような動画配信サイトがテレビ放送局の地位を奪いかね
ない。放送局は、従来のビジネスモデルでは収益を上げることが難しくなり、放送局は既
存のビジネスモデルを再構築し、新たな役割を考えていく必要がある。
動画配信サービスの中には、消費者が自ら映像をアップロードできるものが含まれてお
り、メディア全体があらゆる人々によってメディアを構成していく CGM の比重が高くなっ
ていくと考えられる。その結果、プロとアマチュアの作り手によって生み出された映像メ
ディアがインターネット上あるいはテレビ上に混在していくだろう。インターネット利用
者やテレビ視聴者そしてテレビ放送局、他のメディアで、氾濫するコンテンツを共有して
いくような構成となる。
31
スマートテレビが普及すれば、テレビ(マスメディア)と CGM の融合が実現する。コン
テンツ制作者もプロとアマが混在していく。コンテンツ量は爆発的に増加し、それに伴い
違法コンテンツの大量流出が予想される。視聴者は、コンテンツ量の拡大で番組の選択権
が広がるが、動画コンテンツの無法地帯化に、何を視聴したらいいのか混乱してしまうだ
ろう。そのため、テレビ放送局が全体の情報を整理し一元管理する「コーディネート機能」
を担っていく必要があるのだ。テレビがインターネットにつながることで、プロとアマの
コンテンツの制作者が多数出現し、テレビのソーシャル化により視聴者間のコミュニケー
ションが実現され視聴者の存在が鮮明化され、フールーやユーチューブのような多数の映
像コンテンツが複雑に存在していくことになる。
つまり、ここで提案したテレビ局のコーディネート機能とは、コンテンツ制作者、視聴
者、映像コンテンツのそれぞれの持つ情報やコミュニティを調整し、全体をまとめていく
ようなイメージである。ただし、このコーディネート機能とは、テレビ局の新しい役割の
ひとつとしての一提案である。
4-3
残された課題
スマートテレビが日本で普及した際、次のような課題が挙げられる。
① 著作権違法コンテンツ流出の横行
② ユーザーの個人情報漏えいの危険性
③ 日本人視聴者の有料コンテンツ利用の抵抗感
④ コンテンツ制作者の収益性
スマートテレビが導入されることで、多数のテレビ関連業界にも影響を与え、各業界に
おいても大きな変革が余儀なくされるだろう。①は、インターネット上で違法コンテンツ
の配信が横行し、さらに取り締まりを強化していく必要がある。②では、スマートテレビ
を介してあらゆるサイトにアクセスする機会があるかもしれない。さらに、視聴スタイル
のソーシャル化に伴い視聴者間の交流を行う際に、ユーザーの個人情報がインターネット
上に漏えいしてしまう危険性が生じる。個人情報の保護を徹底していく必要がある。③で
は、日本において各テレビ局が配信する有料のオンデマンド放送が視聴者の間で定着して
おらず、あらゆるコンテンツが無料で視聴出来る動画共有サイトや動画配信サービスの高
い支持により、今後も著作権違反とされるコンテンツがインターネット上に出回ってしま
う。④においては、日本では放送局のオンデマンド放送のように有料コンテンツを見ると
いうよりは、無料コンテンツが支持されている傾向があると見受けられる。その中で、プ
ロの製作者がどのように収益を伸ばしていくか課題として挙げられる。
4-4
まとめ
スマートテレビが普及することで、CGM と呼ばれる動画共有サービスとテレビ番組
(動画配信サービスを含む)の融合が挙げられる。2 つの特徴として、伝送媒体とコンテン
32
ツ制作者のそれぞれ違いがある。しかし、視聴者にとっては、2 つのコンテンツの差異が消
失し混在していくことになる。テレビ(マスメディア)とインターネットが融合に向かえ
ば、放送や視聴スタイルが変化する。放送形態は、テレビ番組は出来次第、インターネッ
ト上に登録され、電波の放送はスポーツや音楽コンサートなどの生中継が中心となってい
く。視聴形態は、オンデマンド視聴やソーシャル視聴が定着し、見たい時にいつでも視聴
可能、SNS 上で多くの人とコミュニケーションをとりながら多くの面白いコンテンツが楽
しめるようになる。さらに、スマートテレビが市場に定着すれば、テレビ本体の価値が相
対的に低下し、テレビ放送局の地位が衰退する可能性があると推測される。テレビ放送局
の地位を守るためには、新しい役割を構築していく必要があり、テレビと CGM が融合する
ことで生じるコンテンツ量の爆発的増加を見込み、膨大なコンテンツを精査し、視聴者に
提供していくコーディネーターとしての役割を担っていくことを提案する。
33
34
おわりに
本論文では、映像メディアの先進国であるアメリカで新しいメディアとして出現した「ス
マートテレビ」の可能性を探る目的として考察してきた。将来的には、日本にもスマート
テレビが上陸すると予想される。それは、スマートテレビが欧米や韓国で盛んであり世界
的な風潮であることや日本の主要家電メーカーが既にスマートテレビの開発に着手してい
ることから推測できる。さらに、ソーシャル機能を兼ね備えるスマートテレビは、人々が
ソーシャルメディアに対しての支持が高い傾向にあることから、ユーザーのニーズにもマ
ッチしているのではないだろうか。
スマートテレビは、視聴者に映像コンテンツの選択権の自由を提供するほか、オンデマ
ンド放送という現代のライフスタイルに適した視聴方法でより多くの映像コンテンツを楽
しめる。さらには、ソーシャルメディアの要素を持ち、テレビ番組とのコミュニケーショ
ンや視聴者同士のコミュニケーションを可能にし、新しいテレビとの付き合い方が生まれ
る。
スマートテレビの登場で、テレビ本体の価値の低落とテレビ放送局の地位は大きく変化
することが判明した。スマートテレビは、利用者に映像コンテンツの選択の幅を広げるこ
とや、ソーシャル視聴という新しいテレビ視聴の提案などのプラス要因だけではない。テ
レビ本体は、ソーシャル視聴のような新しい機能が付加されるが、テレビとしての価値は
低下し、パソコンやスマートフォン、タブレット端末と並び、テレビは単なるひとつの端
末でしか価値がなくなる。さらに、テレビ放送局は、従来の広告収入からのテレビ番組の
制作や放送という既存のビジネスモデルでは優位性を保てないだろう。拡大する CGM とあ
らゆるコンテンツの情報を整理し一元管理していくようなコーディネート機能としての役
割を果たしていく必要があると主張した。
今後の課題としては、テレビ関連業界の再編や著作権違反に該当するコンテンツの存在、
ソーシャル化に伴う個人情報漏えいの不安などが挙げられるが、何よりもユーザーから高
い支持を持たせるような新しいメディアとして存在していく必要がある。世界的な風潮で
もあることから、いずれは日本も国内テレビ業界の後進性に気が付き、政府や関連業界を
含め急速にスマートテレビ推進に力を入れ、スマートテレビ時代が到来するはずである。
テレビ全体も CGM 化し、ソーシャルな側面を持つ新しいマスメディアとしてテレビの価値
が生まれ変わっていくだろう。スマートテレビは、従来のテレビと比較して多種多様なサ
ービスを享受できるようになる。テレビは単なる放送受信端末からインターネットを活用
する情報端末へ「見る」から「使う」へと役割を広げていくのである。
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-参考文献-
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スカヴァー・トゥエンティワン
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山崎秀夫(2011)『Ustream と超テレビの時代~ユーザーライフ中継の威力~』ディスカヴ
ァー・トゥエンティワン
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石田樹生『ユーザー調査で判明、「スマートテレビ」は間違いなく普及する』
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折原一也『3D テレビ、スマートテレビ構想』
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110113/1034184/?rt=nocnt (2011/12/10 アク
セス)
サムスン電子
http://japan.samsung.com/news/newsRead.do?news_group=samsungelectronicsnews&n
ews_type=&news_ctgry=&news_seq=27621 (2011/12/10 アクセス)
章恩『韓国アナログ放送終了まで 22 カ月、地デジ化が進まない』
http://pc.nikkei.co.jp/article/column/20110224/1030437/?p=1&ST(2011/12/28 アクセス)
立石泰則『
「次世代テレビ戦争」の勝者-世界を制するのは韓国か日本か』
http://gendai.ismedia.jp/articles/print/(2011/12/27 アクセス)
IT メディアニュース『ソニー、「Google TV」搭載のネットテレビを発表 600 ドルから』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1010/13/news020.html(2011/12/10 アクセス)
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