<学習語彙 5000 語>公開にあたって 1.はじめに 横浜国立大学外国籍生徒のための日本語教育研究会 代表 教育人間科学部 黒田矢須子 私たち研究グループは,神奈川県下の外国籍生徒が,教科学習を含めた学校生活に必要な日 本語能力をさらに確実なものとするため,様々な調査・研究を行なってまいりました. 現在,日本語初期指導後の教科学習を理解するための日本語能力を高める指導内容や指導方 法の必要性が,現場の教師や多くの研究者から指摘されています.が,その実態はまだよくわ かっておりません.そこで,私たちは,日本語を母語としない中学・高校生に三度の語彙調査を 行い,また,先生方や日本語指導員の方々20 数名に,生徒の教科学習に必要だと思われる語を 選定していただき,その集計結果を研究会で検討し,5012 語,学習語彙を選びました. (その 経過については 2004 年日本語教育国際研究大会で発表→) 学習言語能力の形成には文法的知識なども重要であり,内容重視のアプローチの必要性も十 分認識していますが,まず,語彙に焦点を当て, どのような語彙を定着させるべきかを考えま した.その際,演繹的に言葉のリストを構築するのではなく,帰納的な事例を重視して,学習 語彙を選定することを方針のひとつとしました. ここでは,学習者が,教科学習において,情報を収集し,内容を比較・分析し,推測や統合 するなど,その思考活動に必要な語を<学習語彙>と呼んでいます. 生徒は,初期指導を終えたばかりの不十分な日本語力であっても,中学・高校の教科学習は, 日々,進んでいきます.そこで,語彙だけでは十分ではないと承知しつつも,理解のきっかけ として学習語彙のリストを作りました.このままでは,現場ですぐに役立つものではありませ んので,このリストをホームページで公開し,皆さんの批判をあおぎつつ,学習語彙の精選を 目指し,将来的には,ポルトガル語,スペイン語,中国語,英語などの対訳のをつけ,現場で 利用できるようにしていきたいと考えています. 会員:後藤邦昭 齋藤京子 清水幹夫 樋口万喜子 2.学習語彙選定の基本方針 Ⅰ.文化庁国語課(1983)「第一水準約 3000 語」 ・ 「第二水準 5000 語」 ,国立国語研究所(1984)『日 本語教育のための基本語彙調査』「基本語二千」 ・ 「基本語六千」や,玉村文郎(2003) 「中 級用語彙 -基本 4000 語」(『日本語教育』116 号),さらに,国立国語研究所(1986・7)『中学 校教科書の語彙調査』(頻度 2 以上)に該当しているかどうか確認し,より広く研究の成 果や資料を参考にする. Ⅱ.ことばは多義であり, <生活語彙>と<学習語彙>に明確に区別することはできないので, 教師が学習者に具体的な事物として指し示しづらい語,教科担当の教師が,生徒は既に知 っている語として授業の説明に使ってしまうが,初期指導を終えたばかりの生徒には,ま だ,理解はできていないであろう語,さらに,自然習得を期待するには,かなり時間を要 するであろうと思われる語を選ぶ. Ⅲ. <教科特有の語>と初期指導で習得できる日常語である<生活語彙>は,<学習語彙> から省く. (<教科特有の語>は,母語話者の生徒たちと同様,非母語話者の生徒も,授 業で教科担当教師の説明を受けながら理解されるものと考えたからである. ) 3.凡例 1列目 通し番号 1∼5012 2列目 読み ① 五十音順に配列しました.同音語の場合には,日本語能力試験のやさしい順(4.3.2.1) に配列しました. ② 省略形のある場合は,省略部分を( 例: アルミ(ニウム) )に入れました. デフレ(ーション) ③ 同一表記・同一品詞の語彙であっても,意味が異なりかつその日本語能力試験レベルも 異なる場合(級外の場合には無記入)は,別に見出し語をたて,意味や解説を漢字欄に 【 】でつけました. 例: 起こす【起床させる】 起こす【発生させる】 ④ 複数の品詞に類別される語彙で,かつ品詞によってレベルが異なる場合には別に見出し をたてました. 例: ずいぶん(副詞)3級 ずいぶん(ナ形容詞)2級 3列目 漢字表記 ① 2つ以上の漢字表記があって,一般的にそれほど厳密な書き分けがされていない語は, 「・」でそれらを併記しました. 例: 雨季・雨期 ② 常用漢字に含まれていない場合は,漢字表記はしていません.ただし,慣用的に漢字表 記されることが多いと判断した場合,[ ]で示しました. ③ 送り仮名は内閣告示「送り仮名の付け方」を参考としましたが,送り仮名法は時代によ っても異なり,どちらでもよい場合には,その部分を( )でくくりました. 4列目 日能試 ①「1」は『日本語能力試験出題基準』 (国際交流基金,国際教育協会)で,1級に選定分類 された語彙を示します.同様に「2」は2級, 「3」は3級, 「4」は4級を示します.空 欄は,級外の語彙です. 5列目 文化庁 「3」は, 『外国人に対する日本語教育の振興に関する報告書』 (文化庁文化部国語課)所 収の「語彙標準表」で選定分類された「第一水準約 3000 語」を示し, 「5」は同「第二水 準約 5000 語」を示します. 6列目 国研 「2」は, 『日本語教育のための基本語彙調査』 (国立国語研究所)で選定分類された「基 本語二千」を示し, 「6」は,同「基本語六千」を示します. 7列目 品詞 ① 名詞および代名詞,指示代名詞は, 「名」と記しました. ② 語尾に「する」を伴って動詞となるものは, 「ス」と記しました.いわゆる動作名詞,副 詞,外来語,擬態語などです. 例:合図(する) ,転々(する) ,アドヴァイス(する) ,いらいら(する) ③ 学校文法でいう形容詞は「イ」 ,形容動詞は「ナ」と記しました. ④ 複合動詞の場合は,意味が類推できると思われる語は取り上げませんでした.しかし, 一語として独立性の高いと考えられた語は,取り上げました. ⑤ 擬声語・擬態語は,学校文法では副詞に分類されますが,日本語教育の立場から, 「擬」 と記しました. ⑥ 「他」とあるのは,品詞8分類に入らない連語,感動詞などです. 以上. (文責 樋口)
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