天井給気型置換換気・空調方式を導入した業務用ガス

C-12
天井給気型置換換気・空調方式を導入した業務用ガス厨房に関する研究
(第 1 報)CFD 解析に基づく換気・空調方式の検討
Displacement Ventilation System with Ceiling Mounted Diffusers in a Gas Commercial Kitchen
Part 1 CFD Simulation on Displacement Ventilation and Conventional Ventilation
正会員
○
川添 智之
(東洋熱工業)
技術フェロー
吉野 一
(東洋熱工業/東京都市大学) 正会員
正会員
奥田 篤
(東京ガス)
Tomoyuki KAWAZOE*
1
技術フェロー
Yasushi KONDO*2 Hajime YOSHINO*1*2
近藤
靖史
(東京都市大学)
山下
真示
(東京ガス)
Shinji YAMASHITA*3
Atsushi OKUDA*3
*1 TONETS Corporation *2 Tokyo City University *3 Tokyo Gas Co., Ltd
Low radiative/concentrated-exhaust cooking equipment has been developed to improve working environment in
commercial gas kitchens. It is also recognized that the displacement ventilation system (hereafter DV system) is suitable
for commercial kitchen because DV system does not disturb thermal plume above cooking equipment and keeps hood
capture efficiency high. In this research, computational fluid dynamics is applied and the efficiency of them are discussed.
2. CFD 解析概要
2.1 解析モデル (図 1、図 2、図 3、表 1、表 2)
解析モデルを図 1 に、解析条件を表 1 に示す。解析対
象の厨房は研究当時、竣工前のオフィスビル内にある社
員食堂に併設された業務用ガス厨房(約 85m2)である。天
井給気型の置換換気用吹出口は図 2 に示す 2 種類を想定
し、解析を行う。本研究では低放射型調理機器を想定し
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集
{2016.9.14 〜 16(鹿児島)}
第4巻
48.8 97.6
図 1 解析モデル(平面)
(a-1) 外観
(a-2) 吹出口の CFD モデル
(a)布製吹出口 3)
41 94
1. はじめに
業務用厨房では調理機器から発生する燃焼排ガスや調
理生成物質などにより温熱・空気環境が悪化する場合が
あり、
これらが調理者の健康に影響を及ぼすことがある。
近年、厨房内の換気量低減と作業環境改善のため、排気
筒による燃焼排ガスの効率的排出と機器表面温度の低下
を実現する低放射・集中排気型調理機器(以降、低放射型
調理機器)が開発され、その導入が見られる 1)。また、フ
ードの捕集性状を良好な状態に維持する観点から業務用
厨房では置換換気・空調方式が適していると考えられて
いるが、一般に日本の厨房は狭く、壁に大面積の置換換
気用吹出口を設けることは難しいため、天井に置換換気
用吹出口を設置する換気・空調方式が提案されている 2) 。
本研究では低放射型調理機器と天井給気型置換換気・
空調方式を導入した業務用ガス厨房を対象として、CFD
解析と実測により検討する。本報(第 1 報)では、CFD 解
析に基づき、
天井給気型置換換気・空調方式と従来の混合
換気・空調方式を比較検討する。また、下調理時、提供時
を想定し、調理機器の稼働状況を変化させた場合も検討
する。
66.5
(b-1) 外観
157
(b-2) 吹出口の CFD モデル
(b) 多孔板吹出口
図 2 置換換気用吹出口(単位:mm)
-49-
66.5
CFD 解析を実施している。炊飯器を除いた他の機器では
燃焼排ガスを集中的に排気する排気筒が設けられており、
上部から燃焼排ガスと冷却用空気を排出する。
すなわち、
消費顕熱量 Q に対し図 3 に示すように熱量を分配してい
る 4)。Q1 は Q に熱効率を乗じて求める。Q2 は実験より得
られた機器の表面温度を規定した CFD 解析を事前に行
い対流・放射伝熱量を求める。
Q3 と Q4 は Q から上記 Q1、
Q2 を差し引き、実験値を参考にそれぞれを分配する。表
2 に各機器の熱量分配を示す。
2.2 解析ケース (表 3)
解析ケースを表 3 に示す。Case 1 と Case 2 では天井給
気型置換換気・空調方式を、Case 3 では従来の混合換気・
空調方式を検討する。各ケースに対して下調理時と提供
時の 2 つの状態を想定し解析を行う。すなわち、下調理
時では、ゆで麺器は保温状態でそれ以外の調理機器は稼
働している状況を想定している。一方、提供時では、ゆ
で麺器以外の調理機器は停止している状況を想定してい
る。Case 1 では給気温度を 20.0℃とし、全てのフード面
風速を 0.3m/s とした。Case 2 と Case 3 では給気温度を
Q3
Q2
冷却用空気
Q=Q1+Q2+Q3+Q4
ここで、
Q1
Q:消費顕熱量
(定格出力×負荷率×0.9)
Q1:有効熱量
(調理に用いる熱量:Q×熱効率)
Q2:調理機器表面からの放熱量
Q3:排気筒から流出する
燃焼排ガスに含まれる熱量
Q
Q4:排気筒から流出する
冷却用空気に含まれる熱量
図 3 熱量分配の概要
冷却用空気
Q4
表 1 解析条件
15,620mm(X)
× 5,450mm (Y)× 2,823mm (Z)
解析領域
乱流モデル 標準 k-ε モデル
ローレンジ:7.83 kW、フライヤ:11.5 kW、
kW、ゆで麺器 6 穴:12.6 kW、
顕熱 回転釜:31.4
4 穴:12.6 kW、
(表 2 参照) ゆで麺器
洗米器一体型炊飯器:6.0 kW、
スチコン:13.0 kW、ガスコンロ:21.1 kW
ローレンジ:1.618 kW(2.6kg/h)、
発熱条件
回転釜:14.4 kW(22.9kg/h)、
潜熱 ゆで麺器 6 穴:8.9 kW(14.2kg/h)、
(水蒸気 ゆで麺器 4 穴:8.9 kW(14.2kg/h)、
発生量) 洗米器一体型炊飯器:0.1 kW(0.2kg/h)、
スチコン:6.8 kW(10.8kg/h)、
ガスコンロ:8.9 kW(14.2kg/h)
2
・K)、
対流熱伝達率 調理機器:20W/(m
他:8W/(m2・K)
温度 放射率
鍋:0.3、その他の面:0.9
壁面条件
参照温度など 屋根:52℃、
外壁:47℃、25 W/(m2・K)
速度 一般化対数則
流入・流出
表-3 参照
条件
機器
表 2 消費顕熱量の分配結果
定格 負荷 熱効 Q
Q1
Q2
Q3
Q4
出力 率
率 [kW] [kW]
[kW]
[kW]
[kW]
[kW] [-]
[-]
ローレンジ
14.5
0.6
0.24
7.83
1.88
0.57
フライヤ
12.8
1.0
0.64
11.5
7.4
0.26
回転釜
ゆで麺器
6穴
ゆで麺器
4穴
炊飯器
34.9
1.0
0.46
31.4
14.4
14
1.0 0.703
12.6
8.9
0.79 2.762 0.148
14
1.0 0.703
12.6
8.9
0.66 2.886 0.154
8.37
0.8
0.44
6.0
2.65
24
0.6
0.63
13.0
8.2
32.6
0.72
0.43
21.1
9.1
スチコン
ガスコンロ
5.38
3.65
0.19
0.65 14.88
1.47
0.17
1.1
3.18
3.69
-
0.89 11.11
-
表 3 解析ケースおよび給・排気条件
給・排気条件
風量 [CMH]
風速 [m/s]
天井給気型
温度 [℃]
置換換気・
[CMH]
風量
空調方式
多孔板吹出口
風速 [m/s]
(2 箇所)
温度 [℃]
風量 [CMH]
VHS 型吹出口
給気口
風速 [m/s]
(3 箇所)
温度 [℃]
混合換気・
空調方式
風量 [CMH]
パンカルーバ吹出口 風速 [m/s]
(6 箇所)
温度 [℃]
風量 [CMH]
カウンタ開口(移送流)
風速 [m/s]
温度 [℃]
風量 [CMH]
フード A
面風速 [m/s]
風量 [CMH]
フード B
面風速 [m/s]
排気口
風量 [CMH]
フード C
面風速 [m/s]
天井排気口(3 箇所)
風量 [CMH]
ウォーマーテーブル上部の
風量 [CMH]
天井排気口(3 箇所)
布製吹出口
(2 箇所)
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{2016.9.14 〜 16(鹿児島)}
解析ケース
Case 1(置換換気)
Case 2(置換換気)
Case 3(混合換気)
Case 1-P Case 1-O Case 2-P Case 2-O Case 3-P Case 3-O
(下調理時) (提供時) (下調理時) (提供時) (下調理時) (提供時)
4,429
3,765
0.24
0.20
20.0
22.0
5,000
4,250
0.39
0.33
20.0
22.0
5,706
1.6
22.0
2,309
4.75
22.0
1,578
1,328
1,328
0.038
0.032
0.032
26.0
26.0
26.0
4,536
3,024
3,024
0.3
0.2
0.2
3,564
3,564
3,564
0.3
0.3
0.3
1,166
1,166
1,166
0.3
0.3
0.3
927
776
776
900
-50-
900
900
24
23
25
フード A
24
22
21
23
21
23
(a) A 断面( X=4.73m、回転釜の断面)
24
フード A
24
(a) A 断面( X=4.73m、回転釜の断面)
22
フード B
フード B
24
24
22
23
(b) C 断面( X=6.15m、スチコン・フライヤ・ガスコンロの断面)
(b) C 断面( X=6.15m、スチコン・フライヤ・ガスコンロの断面)
図 4 Case 1-P 鉛直断面温度分布 (下調理時)
図 5 Case 2-P 鉛直断面温度分布 (下調理時)
(天井給気型置換換気・空調方式:全フード 0.3m/s) (単位:℃)
(天井給気型置換換気・空調方式:一部フード 0.2m/s)
(単位:℃)
22.0℃とし、
フード A のみ面風速を 0.2m/s と小さくした。
29
3. 解析結果および考察
3.1 下調理時における天井給気型置換換気・空調方式 (図4、図5)
下調理時の天井給気型置換換気・空調方式の温度分布
を図 4 と図 5 に示す。給気温度を 20.0℃とし、全てのフ
ード面風速を 0.3m/s とした天井給気型置換換気・空調方
式の Case 1-P(図 4)では、各調理機器からの熱上昇流がフ
ードにより効率良く捕集されており、居住域の温度が
23℃以下とやや低い結果となった。
フード A のみ面風速を 0.2m/s と小さくし、Case 1-P よ
り給気温度を 2℃高くした Case 2-P (図 5)では、フード面
風速を小さくしたフードAから熱上昇流が若干溢流して
いるが、居住域温度は 24℃以下となり、概ね良好な温熱
環境となった。
3.2 下調理時における混合換気・空調方式 (図 6)
下調理時の混合換気・空調方式の温度分布を図 6 に示
す。Case 2-P(図 5)と給気温度やフード面風速が同条件で、
混合換気・空調方式とした Case 3-P (図 6)では、パンカル
ーバ吹出口からの吹出噴流がフードAおよびフードBの
下にある調理機器にまで到達しており、大きな空調擾乱
となっている。これによってフードの捕集性状が悪くな
り、空間上部に高温部が見られ、居住域温度も 27℃と高
く、Case 2-P に比べ、温熱環境がかなり悪化している。
3.3 提供時における天井給気型置換換気・空調方式 (図7、図8)
提供時の天井給気型置換換気・空調方式の温度分布を
図 7 と図 8 に示す。Case 1-O(図 7)では、ゆで麺器からの
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集
{2016.9.14 〜 16(鹿児島)}
-51-
27
29
26
26
フード A
27
(a) B 断面( X=5.14m、回転釜の断面)
フード B
27
26
29
26
29
(b) C 断面( X=6.15m、スチコン・フライヤ・ガスコンロの断面)
図 6 Case 3-P 鉛直断面温度分布 (下調理時)
(混合換気・空調方式:一部フード 0.2m/s)
(単位:℃)
熱上昇流がフード C により効率良く捕集されているが、
多孔板吹出口からの空調空気が居住域に分配されずにフ
ード C からショートサーキットされている。
下調理時と同様にフードAのみ面風速を0.2m/sに小さ
くした Case 2-O (図 8)では、ゆで麺器からの熱上昇流が
フード C により概ね捕集されているが、一部の熱が居住
域に溢流している。また、Case 1-O と同様、多孔板吹出
25
23
フード A
22
23
21
(a) A 断面( X=4.73m、回転釜の断面)
(a) A 断面( X=4.73m、回転釜の断面)
25
24 フード A
24
21
26
フード C
25
(b) D 断面( X=10.1m、ゆで麺器の断面)
(b) D 断面( X=10.1m、ゆで麺器の断面)
図 8 Case 2-O 鉛直断面温度分布 (提供時)
図 7 Case 1-O 鉛直断面温度分布 (提供時)
(天井給気型置換換気・空調方式:一部フード 0.2m/s)
(天井給気型置換換気・空調方式:全フード 0.3m/s) (単位:℃)
口からの空調空気が居住域に分配されずにフードC から
ショートサーキットされている。なお、Case1-O より給
気温度を 2℃上げているため、
居住域の温度も 2℃程度高
くなっている。
3.4 提供時における混合換気・空調方式 (図 9)
提供時の混合換気・空調方式の温度分布を図 9 に示す。
Case 3-O (図 9)では、パンカルーバ吹出口からの空調空気
がゆで麺器の直上まで到達することで、大きな空調擾乱
となっている。これによってフードの捕集性状が悪くな
り、室上部に高温の熱だまりが生じている。また、Case
2-O(図 8)と比べ、パンカルーバからの高風速の吹出し気
流に誘引され、ウォーマーテーブル上部の排気口付近の
熱だまりが居住域に拡散している。
4. まとめ
本研究では業務用ガス厨房を対象として低放射型調理
機器と天井給気型置換換気・空調方式の導入を想定した
場合の CFD 解析を行い以下の知見を得た。
(1) フード面風速 0.3m/s の条件で、天井給気型置換換
気・空調方式を導入した厨房内は良好な温熱環境と
なる。
(2) 下調理時や提供時など厨房の使用状況に応じた空
調制御をすることで、室内環境を良好に保つことが
可能である。
(3) 天井給気型置換換気・空調方式は従来方式と比較す
ると換気量低減と給気温度の高温化が可能であり、
省エネルギーを図ることができる。
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集
{2016.9.14 〜 16(鹿児島)}
フード C
23
24
23
-52-
26
25
25
(単位:℃)
フード C
D 断面( X=10.1m、ゆで麺器の断面)
図 9 Case 3-O 鉛直断面温度分布 (提供時)
(混合換気・空調方式:一部フード 0.2m/s)
(単位:℃)
参考文献
1) 甲谷・山中ら:低放射・集中排気型厨房機器使用時のフー
ドの捕集性能及び機器から発生する放射熱量、空気調
和・衛生工学会論文集、No.181、pp.1-9、2012 年 4 月
2) 近藤・鈴木・吉野ら:天井給気型置換換気方式を適用し
た中規模業務用電化厨房の温熱環境実測と CFD 解析、
日本建築学会環境系論文集、第 78 巻、第 692 号、
pp.749-756、2013 年 10 月
3) 中川ら:不燃性と通気性を有するソックダクトの性能評
価及び業務用厨房における実測評価、空気調和・衛生工
学会大会学術講演論文集、pp.41-44、2015 年 9 月
4) 山口:低放射・集中排気型調理機器と置換換気・空調方
式を導入した業務用ガス厨房の CFD 解析、2014 年度東
京都市大学大学院修士論文、2015 年 3 月
謝 辞
本研究は太田恭兵氏(研究当時、東京都市大学研究員)および
山口美里氏(研究当時、同大学院生)に多大なご協力を得た。こ
こに記して謝意を表す。