転倒経験者と非転倒経験者の歩様の違いについての研究 05jn0050

転倒経験者と非転倒経験者の歩様の違いについての研究
〈初めに〉
05jn0050 新井貴之 06jn0349 北原 拓真 06jn0489 笹岡雄揮
(担当教員:白石成明)
表1 転倒・非転倒者の比較
加齢による筋力低下や関節可動域制限の拡大、バラン
ス能力の低下は歩行能力の低下や歩様の個人差拡大を
惹起する1)。歩様の変化はストライドの減少やそれに伴
う自由歩行時の速度低下、歩隔の拡大、両脚支持期の延
長などがあげられる 2)。歩様の変化は転倒を起こしやす
くしており、高齢者では要介護となる原因の第 3 位に転
倒による骨折があげられる。高齢者の転倒予防は健康寿
命の延長や QOL 向上に非常に重要な課題である 3.4)。
そこで本研究では転倒経験者と非転倒経験者の歩様
を比較し、転倒者の歩様の特徴を明らかにする目的で本
研究を実施した。
〈対象と方法〉
対象は実験の趣旨を文書にて説明し、同意の得られた、
60 歳以上の転倒経験者 5 名(平均年齢 70±5 歳)と転倒
経験のない非転倒経験者 5 名(平均年齢 69±5 歳)の計
10 名とした。
実験は 10mを自由歩行し、ビデオカメラで撮影した。
ビデオカメラは 5m 地点から 5m25cm離れた所に設置し、
台座の高さを 53cmに設定した。歩行中の股・膝・足関
節の関節運動を評価するため肩峰、大腿骨大転子、腓骨
頭、腓骨外果、第五中足骨底、第五中足骨頭にマーカー
を貼り指標とした。関節角度を測定するポイントは、
heel contact(踵接地)
・foot flat(足底接地)
・mid stance
(立脚中期)
・heel off(踵接地)
・toe off(足尖離地)
・
mid swing(遊脚中期)
・heel contact(反対側の踵接地
時)の7箇所の角度を測定した。今回の測定では、ビデ
オカメラを 5m 地点で固定して撮影を行っている為、角
度が正確に計測出来る、5m 地点を中心とした歩行周期を
測定した。歩行時の関節角度の分析は、二次元動作解析
ソフト「FORM FINDER」で行った。さらに歩行評価とし
て、10m 歩行時間・1分間歩数・5m 地点での重複歩距離、
一歩行周期時間を測定した。統計は SPSS15.0 を用い、
t 検定にて危険率 5%未満を有意、5%から 10%を傾向あ
りとした。
転倒経験者 年齢
1
75
2
72
3
64
4
68
5
67
平均
69.2
非転倒経験者年齢
1
61
2
67
3
72
4
68
5
74
平均
68.4
身長 1歩行周期の秒数 10m秒数 補正重複歩 1分間歩数
1.52
0.95
9.1
0.85
118.68
1.68
0.95
11.4
0.63
105.26
1.67
0.98
9.4
0.63
108.51
1.64
1.02
9.1
0.69
92.31
1.6
1.09
10.3
0.85
116.50
1.622
0.998
9.86
0.73
108.32
身長 1歩行周期の秒数 10m秒数 補正重複歩 1分間歩数
1.65
1.083
11.5
0.69
99.13
1.44
0.9
8.5
0.89
112.94
1.56
1.033
9.7
1.06
105.15
1.59
1.083
10.2
0.93
111.76
1.64
0.87
6.1
0.87
137.70
1.576
0.9938
9.2
0.89
110.87
*1.補正重複歩は、重複歩長/身長で算出した。
*2.身長・年齢・補正重複歩・歩数に有意差はみられな
かった。
*3.補正重複歩に有意差はみられないが、0.05<p<0.1
で転倒者で長い傾向がみれた。
〈結果〉
表1に転倒経験者と非転倒経験者の 10m 歩行時間・
1分間歩数・5m 地点での重複歩距離、一歩行周期時間を
示した。両群間で有意な差はみられなかったが、補正重
複歩では非転倒者で長い傾向がみられた。
*:p<0.05 **:p<0.01
図 1.2.3 では股・膝・足関節の各歩行周期中の角度の
変化を示したものである。図 1 は股関節角度の推移を示
す。転倒経験者と非転倒経験者の比較では mid stance
と heel off に有意差がみられ、転倒経験者の角度が小
さくなっていた。また、グラフ上での視覚的印象では歩
行周期中の角度変化が転倒経験者で小さくなっていた。
図 2 には膝関節角度の推移を示す。転倒経験者と非転倒
経験者の比較では、foot flat と mid swing に有意差が
みられ、転倒経験者の角度は小さくなっていた。また、
グラフ上での視覚的印象では股関節角度の推移と同様
に歩行周期中の角度変化が転倒経験者で小さくなって
いた。図 3 には足関節角度の推移を示す。転倒群と非転
倒群の比較では、foot flat に有意差がみられ、転倒経
験者で大きくなっていた。グラフ上での視覚的印象では、
股関節、膝関節とは反対に転倒経験者の方が歩行周期中
の角度変化が大きくなっていた。
〈考察〉
今回の実験により得た結果より、高齢者の転倒経験者
と非転倒経験者に歩行の差異がある事が分かった。補正
重複歩距離は転倒経験者で短縮する傾向にある。身長に
差がない場合は下肢筋力と相関が高く6)非転倒経験者よ
り転倒経験者の方が下肢筋力低下の可能性がある。
股関節角度の変化では二つの測定ポイント(mid
stance、heel off)膝関節の変化では三つの測定ポイン
ト(foot flat、mid stance 、mid swing)にて転倒経験
者の方が、角度は小さく、またグラフ上での視覚的印象
でも角度変化は小さくなっていた。高齢者歩行の特徴と
して股関節および膝関節運動角の減少、蹴り出し時の股
関節および膝関節角度の減少、着地時の股関節および膝
関節角度の減少7)などがあげられており、これらの歩様
は躓きやすく転倒しやすい。今回の我々の測定でも転倒
経験者で関節の動きが小さくなり転倒しやすい状況と
なっていた。
足関節の変化では二つの測定ポイント(foot flat、
heel off)で転倒経験者の方が、背屈角度が大きくなっ
ていた。躓きは足関節角度の減少や着地前爪先高の低下
などと、いわゆる足を高くあげられていない歩行と関連
があると思われるが、今回の我々の測定では足関節の背
屈角度はむしろ転倒経験者で大きくなっていた。これは、
股関節、膝関節の動きの狭小化による代償作用が働いて
いたと考えられた。
転倒はQOLの低下、身体機能の低下と関連しており11)、
高齢者一人一人の歩様を分析し、その人にあった転倒予
防をしていくことが重要である。
〈引用文献〉
1) 甲田宗嗣:歩行の年齢的要因
理学療法 26 巻 1 号 2009 年 1 月
2)西島吉典、他:中高齢者にみられる平地歩行中の
歩容ならびに筋活動特性 Walking Research,No.9,2005
3)渡辺裕美子:転倒・転落 月間ナーシング
Vol24 No.1 2004.1
4)鳥羽研二、他:転倒のリスクとその評価
ねむりと医療 Vol.2 no.1 2009
5) 柳川和優: 高齢者の歩行動作特性
6) 泉キヨ子:重心動揺ならびに歩行分析による
高齢者における転倒予測因子に関する研究
金沢大学十全医学会雑誌
第 105 巻第 5 号 603-616(1996)
7)服部友一:臨床における歩行分析について
8)椿原彰夫:リハビリテーション総論 92-94
9)河合恒:高齢者の歩行能力の評価システムの開発
人間科学研究 Vol.19,supplement 119-120
10)柴 善崇、他:高齢者の転倒には歩行速度と歩行変動
のどちらがより寄与するのか
11) 武内さやか:在宅要支援・要介護支援高齢者のもつ
転倒恐怖感と外出・社会参加の関連