143 日本写真学会誌 2006 年 69 巻 3 号:143–177 特 集 2005 年の写真の進歩 技術委員会 進歩レビュー分科会 2005 年の写真の進歩は,昨年に引き続き技術委員会の進歩レビュー分科会が担当します.本学会の技術委員会は各研究会の独 自の研究活動とともに,年次大会の実行委員および本レビューを担当し,日本写真学会の中核として活動しております.本レ ビューは現在の写真技術の実態に即した分野のレビューを目指したものですが,技術委員会でカバーできない分野につきまして は外部の方にお願いしました.本レビューの分類と担当研究会,執筆者は次の通りです. レビュー全体は最小限の統一性をもたせましたが,内容については各分野,各執筆者を尊重しました.なお,今回,準備不足 で「印刷」の分野のレビューが実現できませんでしたことをお詫び申し上げます. 7.映画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 杉山宏明 163 2.銀塩感光材料 8.医用画像・・・・・・・・・・・・・・・・ 医用画像研(松本政雄) 164 2.1 理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・光機能性材料研(久下謙一) 151 9.科学写真 2.2 感光材料用結合素材 ・・・・・ゼラチン研(大川祐輔) 1.写真産業界の展望 ・・・・・・・・市川泰憲 143 9.1 3D 表示 ・・・・・・・・・・・・・・・ 科学写真研(久保田敏弘) 165 2.3 感光材料用素材 ・・・・・・・・・光機能性材料研(池洲 悟) 154 9.2 文化財 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 科学写真研(城野誠治) 166 2.4 感光材料 ・・・・・・・・・・・・・・・光機能性材料研(上澤邦明) 155 9.3 天体写真 ・・・・・・・・・・・・・・ 科学写真研(山野泰照) 167 3.光機能性材料 ・・・・・・・・・・・・光機能性材料研 157 10.画像入力(撮影機器)・・・・ カメラ技術研(池野智久) 168 4.画像評価・解析 ・・・・・・・・・・画像評価研(藤野 真) 158 11.画像出力・・・・・・・・・・・・・・・ 画像評価研(藤野 真) 170 5.分光画像 ・・・・・・・・・・・・・・・・分光画像研(津村徳道) 159 12.写真芸術・・・・・・・・・・・・・・・ 西垣仁美 171 153 13.写真家から見た画像技術の進歩 6.画像保存 6.1 画像保存関連技術 ・・・・・・・画像保存研(金沢幸彦) 161 6.2 展示・修復・保存関係 ・・・画像保存研(山口孝子) 162 本レビューは主に写真,画像に関する表 1 に示す学術雑 誌,表 2 に示す学会等の催しの発表から各分野での進歩をま ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 表現と技術研(矢部國俊) 14.工業規格・・・・・・・・・・・・・・・ 甘利孝三 174 177 もに電子情報として日本写真学会のホームページに掲載しま す.有用にご利用ください. 本田 凡(コニカミノルタエムジー) とめたものです.本文中では表中に示したような略称が用い られています.表にないものについては,本文中に略称を用 いずに記してあります. 1. 写真産業界の展望 組織名,所属については,一般的に広く使われている略称 市川泰憲(写真工業出版社) が用いられています. 2005 年中に発表されたものについては年号が記されてい ません. 1.1 概況 2005 年は,前年の 04 年がライカ M3 登場から 50 年,トラ 今年度もここで引用された文献リストを作成し,本文とと イ X 誕生から 50 年,一眼レフクイックミラー誕生から 50 年 など,写真システムにとってきわめてメモリアル的な年で 表1 「2005年の写真の進歩」 で引用した主な学術雑誌およびその略号 日写誌 JSPSTJ JIST JPST ISJ 日画誌 日印誌 色材 情報メ誌 SMPTE 医画情誌 : : : : : : : : : : : 日本写真学会誌 日本写真学会誌(英文論文) Journal of Imaging Science and Technology Journal of Photopolymer Science and Technology Imaging Science Journal あったのに対し,写真がデジタル化の流れのなかで変革を余 儀なくされる過程で,前年に引き続き,企業そのものが大き く変質を強いられるという兆しがさらに顕著に表れた年で あったといえるだろう.それは,4 月に発表された京セラの カメラ・光学事業からの全面的な撤退などに象徴されるよう 日本画像学会誌 日本印刷学会誌 色材協会誌 映像情報メディア学会誌 SMPTE Journal に,フィルムカメラからデジタルカメラに生産を移行すると 医用画像情報学会誌 に突入したことを意味する.これはカメラという一事業分野 いうことだけでは追いつくものではなく,時代のニーズに合 わせた技術開発とコスト競争にいかに立ち向かえるかとい う,企業そのものの総合力,さらには体力をも問われる時代 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 144 表 2 「2005 年の写真の進歩」で引用した主な学会等の催しおよびその略号 日本写真学会主催のもの 写真技術 : 写真技術セミナー(3/1) ,東京 日写春 : 日本写真学会年次大会(5/19–20) ,東京 サマーセミナー : サマーセミナー(8/25–26) ,富士吉田 画像保存 : 画像保存セミナー(11/1),東京 カメラ技術 : カメラ技術セミナー(11/18) ,東京 日写秋 他学会主催のもの : 日本写真学会秋季大会(12/1–2) ,京都 ゼラチンシンポジウム : 第 11 回ゼラチンシンポジウム(12/7) ,東京 画像 4 学会 : 画像 4 学会合同研究会(12/7) ,東京 : The 10th Congress of the International Color Association (5/18–13), Granada, Spain AIC : 2005 Beijing International Conference on Imaging: Technology & Applications for the Beijin 21st Century (5/23–26), Beijing, China : IS&T/SID’s Thirteenth Color Imaging Conference (11/7–11), Scottdale, Arizona CIC IAGS NIP21 SPIE : International Advanced Gelatin Science Society (9/6–9), Heiderburg, Germany : International Conference on Digital Technolgies 21 (9/18–23), Baltimore, Maryland : IS&T/SOIE 8th International Symposium on Multispectral Color Science (1/15–19, 2006), San Jose, California に限らず,今後,広義な意味で写真画像分野にかかわる企業 にとっては遅かれ早かれ直面する問題であると考える.ここ ではそのような視点から,銀塩からデジタルイメージングま で,なるべく広範に身近な写真分野の変化を拾い集めてみた. 表 3 総出荷の状況(経済産業省化学工業統計) 品 目 X 線用フィルム 平成17年数量 (千 m2) 前年比 (%) 平成17年金額 (百万円) 123,001 110 104,098 86,735 92 37,509 1.2 工業生産 印刷・業務用フィルム 1.2.1 統計 白黒フィルム計 209,736 102 141,607 ①銀塩感光材料 映画用フィルム 27,175 121 ロールフィルム 内 35 mm など 39,697 94 17,506 55,589 39,075 95 51,996 622 58 3,593 1,940 78 18,527 1,773 81 15,417 167 58 3,110 4,466 92 13,375 表 3 ~ 5 に 2005(平成 17)年 1 月から 12 月までの写真感 光材料に関する総出荷,輸出,輸入の状況を示す.総出荷は 経済産業省化学工業統計,輸出と輸入は財務省貿易統計を基 にいずれも写真感光材料工業会が算出したものである. このうち目に付くのが,X 線用フィルムならびに映画用 フィルムが総出荷,輸出とも前年比を上回っていることだ. 内 24 mm レンズ付フィルム 内 35 mm など 内 24 mm その他フィルム カラーフィルム計 73,278 102 104,997 的には X 線による医療診断の増加と,電子画像技術が取り入 フィルム計 283,014 102 246,604 れられても最終的には透過フィルム上で目視による判断が行 白黒印画紙計 4,225 79 5,563 われていることが増加の要因ではないかと考える.一方,映 カラー印画紙計 279,028 95 57,401 X 線フィルムは前年も 102%の伸びを示していたから,基本 画用フィルムの増加に関しては,2005 年 9 月に富士フイルム 印画紙計 283,253 95 62,964 が新製品を市場投入したことが主要因ではないかと考えられ 写真感光材料計 566,267 98 309,568 る.結果として総出荷は,大別された白黒フィルム,カラー フィルムとも前年比で 102%と微増であるが,これは 2004 年 が白黒 98%,カラー 90%であったので,わずかながら持ち 直したと見るのが妥当であろう. (注)レンズ付フィルムの m2 表示について 経済産業省化学工業統計及び財務省貿易統計では, 「レンズ付フィル ム」は本数で表示されている.ここ(表 3 から 5)では他の製品と統 一的に見るため,代表サイズで m2 換算してある. (写真感光材料工業会提供) いずれにしても出荷と輸出の関係はどのように判断するか は難しく,昨今のようにデジタル化への流れの中にあっては, 今後は,従来海外で分散して生産されていた感光材料も,効 ルカメラ増加のなかにあっては致し方ない部分であろう. このなかで,中・大判カメラの落ち込みが数量で 81.6%と 率化のために国内へ生産を収束させるようなことも動きとし 他の方式のカメラに比べて少ないような印象を受けるが, てあり,結果としてその補填のために総出荷と輸出が増加す 2004 年は 2003 年の 36%・7,158 台であったので,2005 年は るようなことも考えられる. その 81.6%・5,842 台であり,全社合わせても月平均 480 台 ②カメラ出荷実績 強といったところが,中・大判カメラメーカーの苦しさを如 表 6 には「スチルカメラ等生産出荷実績」を,表 7 には 実に表している. 「デジタルスチルカメラ生産出荷実績」を示す.このうち表 6 また, 「スチルカメラ等生産出荷実績」表のなか,唯一,大 の「スチルカメラ」はいわゆる“フィルムカメラ”であるが, 幅な伸びを示しているのがカメラ用交換レンズであるが,そ この分野は前年に比べさらなる減少を見せているが,デジタ の分類からすると,一眼レフ(SLR)カメラ用の伸びはデジ 2005 年の写真の進歩 表 4 輸出の状況(財務省貿易統計に基づく) 品 目 X 線用フィルム 平成17年数量 (千 m2) 前年比 (%) 145 表 5 輸入の状況(財務省貿易統計に基づく) 平成17年金額 (百万円) 平成17年数量 (千 m2) 品 目 前年比 (%) 平成17年金額 (百万円) 63,330 107 27,640 X 線用フィルム 11,664 89 3,899 印刷・業務用フィルム 200,606 92 109,613 印刷・業務用フィルム 18,862 116 8,647 白黒フィルム計 263,936 95 137,253 白黒フィルム計 30,526 104 12,546 映画用フィルム 25,153 27,047 121 15,128 映画用カラーフィルム 3,686 34,940 ロールカラーフィルム 713 93 79 815 74 800 713 70 85 1,833 レンズ付フィルム その他フィルム 8 64 5,856 5,432 107 690 ロールフィルム レンズ付フィルム その他フィルム カラーフィルム計 カラーフィルム計 955 2,461 53,713 90 57,333 5,196 71 10,087 フィルム計 317,649 94 194,586 フィルム計 35,722 97 22,633 白黒印画紙計 1,839 124 614 白黒印画紙計 366 27 172 148,621 98 23,543 21,206 80 2,366 カラー印画紙計 印画紙計 150,460 98 24,157 写真感光材料計 468,109 96 218,743 カラー印画紙計 印画紙計 21,572 77 2,538 写真感光材料計 57,294 89 25,171 (写真感光材料工業会提供) (写真感光材料工業会提供) 表 6 2005 年スチルカメラ等生産出荷実績表 上段:数量(個) ,下段:金額(千円) 生 産 区 分 FP カメラ LS 多焦点 LS 単焦点 LS カメラ計 中・大判カメラ スチルカメラ計 累計 1~12月 総出荷 前年同期比 (%) 累計 1~12月 国内出荷 前年同期比 (%) 累計 1~12月 輸 出 前年同期比 (%) 累計 1~12月 前年同期比 (%) 518,193 46.3 543,019 46.2 56,075 48.5 486,944 46.0 7,178,035 39.6 9,601,987 48.3 2,700,078 71.6 6,901,909 42.8 1,804,540 48.0 1,909,339 47.1 165,353 43.7 1,743,986 47.5 6,853,992 30.0 9,117,193 39.8 1,088,031 35.7 8,029,162 40.4 2,780,184 57.9 2,920,045 60.6 77,641 77.1 2,842,404 60.2 4,952,560 54.0 5,038,390 51.1 535,987 68.4 4,502,403 49.6 4,584,724 53.5 4,829,384 54.4 242,994 50.7 4,586,390 54.7 11,806,552 36.9 14,155,583 43.2 1,624,018 42.4 12,531,564 43.3 5,842 81.6 7,950 75.7 3,382 81.8 4,568 71.7 519,447 70.2 944,703 72.9 347,611 70.7 597,092 74.3 5,108,759 52.7 5,380,353 53.5 302,451 50.5 5,077,902 53.7 19,504,033 38.3 24,702,272 45.8 4,671,707 57.7 20,030,565 43.7 SLR 用交換レンズ 7,276,667 132.6 7,043,426 132.2 998,014 125.2 6,045,412 133.5 109,447,715 118.9 137,556,040 131.7 24,413,585 123.9 113,142,454 133.5 その他交換レンズ 10,995 40.0 19,127 72.5 9,835 79.6 9,292 66.3 598,670 39.8 1,224,216 68.8 606,175 64.4 618,040 73.8 カメラ用交換レンズ計 7,287,662 132.2 7,062,553 131.9 1,007,849 124.5 6,054,704 133.3 110,046,385 117.6 138,780,255 130.7 25,019,761 121.2 113,760,495 132.9 (注)カメラ用交換レンズには交換式の標準レンズを含む.(24 ミリ専用交換レンズを除く) (カメラ映像機器工業会統計より) タル一眼レフカメラ用の新規・買い替え需要に応じたもので 分かれた画素数による分類が,600 万画素未満,600 万画素 あると考えられる.カメラ用交換レンズのなかで, “その他交 以上と大きく 2 項目に分類されたことで,それぞれの分類の 換レンズ”は 2003 年→ 2004 年は数量で 49.9%,2004 年→ 前年比は空欄となっている.ただデジタルスチルカメラ全体 2005 年は 40.0%と減少推移しているが,この分類に含まれる では,数量は 63,575,997 台で前年比 107.0%と伸ばしてはい のがいわゆるライカタイプのレンズ交換式レンジファイン るが,金額で 92.4%と前年を割ったところが注目される.こ ダー機用の交換レンズであるならば,この種のカメラもデジ のうち,レンズ交換式一眼レフカメラが大幅な伸びを示して タル化への転換が急務なのかもしれない. いるのは理解でき,金額の前年割れは普及に伴い競争の激化 表 7 はデジタルスチルカメラであるが,従来からの細かく でカメラ価格の下落が影響していると考えられるが,数量の 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 146 表 7 2005 年デジタルスチルカメラ生産出荷実績表 上段:数量(台) ,下段:金額(千円) 生 産 区 分 前年同期比 (%) 累計 1~12月 国内出荷 前年同期比 (%) 累計 1~12月 輸出 前年同期比 (%) 累計 1~12月 600 万画素未満 44,550,433 46,067,578 5,730,457 40,337,121 750,110,236 906,441,518 134,996,219 771,445,299 600 万画素以上 19,025,564 18,699,345 2,712,997 15,986,348 526,117,847 652,184,396 97,476,094 554,708,302 画素数区分 デジタルスチルカメラ計 光学ズーム 機構区分 累計 1~12月 出 荷 光学ズーム有 / 無 レンズ交換式 一眼レフタイプ 前年同期比 (%) 63,575,997 107.0 64,766,923 108.4 8,443,454 98.8 56,323,469 110.0 1,276,228,083 92.4 1,558,625,914 100.8 232,472,313 95.6 1,326,153,601 101.8 108.1 59,718,116 105.0 60,975,613 106.4 7,892,127 96.5 53,083,486 1,065,685,824 87.2 1,297,416,473 95.4 194,057,700 90.7 1,103,358,773 96.3 3,857,881 151.4 3,791,310 153.1 551,327 148.0 3,239,983 154.1 210,542,259 132.4 261,209,441 140.3 38,414,613 131.2 222,794,828 142.0 (カメラ映像機器工業会統計より) 微増は,昨年予測したように早くもデジタルカメラの普及が 富士フイルムイメージングは,主原料の一部が調達しにく ピークに近い所にきたのか,それとも統計に表れない部分で くなったため「フジクローム Vervia(50) 」を 2005 年末で製造 の生産に移行しているのかはわからない. を中止すると 3 月に発表した. ちなみに,カメラ映像機器工業会の画素数によるデジタル 富士フイルムは,インスタントフィルムのピールアパート カメラの分類は,2000 年:200 万画素以下,200 万画素以上, タイプ黒白フィルム,モノシートタイプワイドフィルムを今 2001–02 年:200 万画素未満,200 万画素以上・300 万画素未 後とも高品質で安定した供給を行うため,4 月 1 日出荷分か 満,300 万画素以上,2003–04 年:200 万画素未満,300 万画 らから 9 ~ 14%の幅で値上げした. 素以上・400 万画素未満,400 万以上・500 万画素未満,500 万画素以上,2005 年:600 万画素以下,600 万画素以上,と 高画素化に伴い分類が変化してきている. コダックは,ISO400 のカラーネガフィルム「New Kodak MAX beauty 400」を 4 月下旬に発売した. コダックは,1.4 倍のズームレンズ機能を搭載した 35 mm 最近ではレンズ交換式一眼レフカメラで 600 万画素,コン レンズ付きフィルム「コダックスナップキッズズーム」を 4 パクトタイプで 800 万画素という逆転現象も起きているのも 月初旬に発売した.レンズは非球面で,33 mm と 44 mm の 2 現実であり,今後,高画素競争はこれで一段落するのか,そ 焦点切り替えとなる.装填フィルムは ISO800 カラーネガ. れともさらに高画素化が進み,その分類変更の時代がいつく るのかというのも興味あるところだ. カメラ生産,出荷の詳しくは,有限責任中間法人カメラ映 像機器工業会の HP(http://www.cipa.jp/data/index.html)を参 照していただきたい. 1.2.2 新製品 ①銀塩写真関連 銀塩写真関連の商品は,フィルム・カメラを問わず,この 時期は可能な限りすべてを紹介した. とくにカメラに関しては,トイカメラに分類されるものま で入れてあるが,この部分は近年特に育ってきた新分野であ り,その動向を知っていただく一助としてあえて紹介したこ とをご理解いただきたい. 〈銀塩フィルム〉 富士フイルムは,デーライト用のカラーネガフィルムであ るフジカラー 160NC の粒状性,忠実な色再現性などの性能を 向上させた「フジカラーPRO 160NC」を 5 月下旬に発売した. コダックは,日本市場限定でエクタクローム E100 をクリ アベースに変えた「プロフェッショナルエクタクローム E100GP」を 7 月 28 日に発売した. 富士フイルムは,フジカラー映画用カラーネガフィルムの 新ラインナップとして,E.I.250 のタングステン用「ETERNA 250」,デーライト用「ETERNA 250D」を 9 月に発売した.世 界最高水準の粒状性と落ち着いた色調を再現することを特徴 と す る.ま た,フ ジ カ ラ ー 映 画 用 ポ ジ フ ィ ル ム と し て 「ETERNA-CP XD」も同時期に発売した. 富士フイルムは,従来からの“フジクローム 64T タイプ II” タングステンタイプカラーリバーサルフィルムの改良版とし 富士フイルムは,春の桜の撮影需要に向けて,マゼンタ・ て「フジクローム T64」を 12 月上旬に発売した.サイズは ピンク系の色付きのよいカラーリバーサルフィルムとして 135・36,120,4×5 シート,4×5 クイックロード,5×7 シー 「フジクローム fortia SP」を,2 月 25 日から数量限定で発売 ト,8×10 シート. した.感度 ISO50.135・36 枚撮りと 120 の 5 本パックで,135 富士フイルムは,撮影レンズを F5.6 と明るくした「フジカ は 4 万パック 120 は 3 万パックの限定販売.2004 年に同じく ラー写ルンです Night & Day スーパーフラッシュ 27 枚撮り / 数量限定で発売された「fortia」シリーズの第 2 弾. 39 枚撮り」と室内微発光モードを搭載した「フジカラー写ル 2005 年の写真の進歩 147 ンです Room & Day スーパーフラッシュ 27 枚撮り」を 11 月 搭載した「instaxMini25 チェキ」を 12 月 1 日から発売した. 中旬に発売した.価格はオープン. 価格はオープンだが推定 8,000 円. コニカミノルタ PI は,レンズ付フィルムでフラッシュ光到 ②デジタルイメージング関連 達世界最長の「撮りっきり MiNi Goody BEST ロングフラッ デジタルイメージングの分野は,近年最も成長の著しい分 シュ」27 枚撮りと 40 枚撮りを 12 月 1 日から発売した.装填 野であるが,カメラに関してはあまりにも台数が多い(筆者 フィルムは ISO1600,レンズは 30 mm F6.7,ストロボ光量調 が把握しているだけで 120 台以上)ために,ここでの紹介は 節のセンサーなどを備えている.価格は税別,27 枚撮り 1,600 レンズ交換式のデジタルカメラに限定した. 円,40 枚撮り 1,800 円. 〈銀塩フィルムカメラ〉 ニコンカメラ販売は,1957 年に発売したレンズ交換式レン 〈レンズ交換式デジタルカメラ〉 キヤノンは天体写真用に波長 656 nm の Hα 線の輝線感度を 2.5 倍に高めた「EOSD20a」を 2 月 15 日から受注販売を開始 ジファインダーカメラ「ニコン SP」を W-Nikkor 3.5 cm F1.8 した.撮影画像をミラーアップによりライブビューしたり, 付き 2,500 台の限定製造で,1 月 14 日~ 2 月 28 日までの期 画面中央部をアップできる機能を備えている.価格はオープ 間限定受注を行った.価格は 69 万円(税別).ユーザーの要 ンだが,店頭の受注価格は推定 25 万円. 求に応えると同時に,精密機械カメラ製造技術伝承などの意 キヤノンは,キヤノン EOS Kiss Digital の後継機種として 味を持つ.ちなみに製造番号 No. 1 は日本カメラ博物館へ寄 「EOS Kiss Digital N」を 3 月 18 日から発売した.従来 6 Mp 贈された. CMOS 撮像板を,8 Mp CMOS にアップ,新 DIGICII エンジン 駒村商会は,ドイツ・ローライ社の 6×6 cm 判一眼レフ を搭載,世界最小・最軽量ボディを達成している.価格はオー 「ローライフレックス 6008 インテグラル 2」を 1 月 21 に発売 プンだが,標準ズーム EF-S 18 ~ 55 mm F3.5-5.6IIUSM 付き した.価格は 80 mm レンズセットで 732,900 円. で推定 12 万円以下. キヤノンは,38 ~ 130 mm F5.6-12.5 の 3.4 倍ズーム搭載の ニコンは,無線 LAN で画像転送できる報道・スポーツ向 35 mm フィルムカメラ「オートボーイ N130II」を 3 月 17 日 けプロ仕様デジタル一眼として「ニコン D2Hs」を 3 月 25 日 に発売した.価格はオープンで推定 1.5 ~ 2 万円. シャランは,ピンホール写真ブームを受けて 120 ブロー ニーフィルムを使う組み立て式紙製ピンホールカメラ「P- に発売した.撮像板は自社開発の 4.1 Mp APS-C サイズの LBCAST である.価格は税別で 49 万円. ニコンは,エントリー用デジタル一眼レフとして 6.1 Mp SHARAN IYS-645ワイド」 (645判,税込4,725円)と「P-SHARAN CCD 搭載の「ニコン D50」を 4 月 27 日に発売した.価格は IYS-69 ワイド」(69 判,税込 5,250 円)を 5 月に発売した. オープンで,標準ズームセットで推定 10 万円.同時期に既 富士フイルムは,26 mm F5.6 単焦点レンズ,ストロボ,AF 搭載の普及タイプのコンパクトカメラとして「フジクリア ショット SAF」を 6 月中旬に発売した.価格はオープンで, 推定 4,000 円. ライカカメラジャパンは,ライカ M 型入門セットとしてラ イカ MP かライカ M7(0.72)にエルマー50 mm F2.8 にセット にして 6 月末に 441,000 円(税込)で発売した. マミヤ・オーピーは,6×4.5 cm 判フィルムバック交換式一 眼レフカメラのマミヤ 645AFD の後継機として,カスタム 発売のニコン D70 は液晶モニター,AF 性能が向上し「ニコ ン D70s」となった. ペンタックスは,既存機* istDS の初級デジタル一眼レフモ デルとして「ペンタックス * istDL」を 7 月 7 日から発売し た.価格は標準ズームレンズキットで推定価格 10 万円. コニカミノルタ PI は,APS-C サイズ 6.1 Mp CCD の手ぶれ 補正機構内蔵デジタル一眼レフカメラ「α スウィートデジタ ル」を 8 月 19 日に発売した.価格はオープンだが,18 ~ 70 mm F3.5-5.6 付き推定 12 万円. ファンクション機能を大幅に追加した「マミヤ 645 AFDII」を キヤノンは,12.8 Mp CMOS 撮像板の 35 mm 判フルサイズ 7 月 29 日に発売した.価格はボディのみで税別 315,000 円. デジタル一眼レフカメラ「EOS5D」をアドアマに向けて 9 月 エー・パワーは,米国 PinholeBlender 社のブローニーフィ 28 日に発売した.価格はオープンだが推定 40 万円. ルムを使い 3 針孔の画像を 6×12 cm 画面 1 枚に収めるピン ライカカメラジャパンは,フィルム一眼レフであるライカ ホールカメラを 7 月に輸入販売した.価格は税込 14,700 円. R8 /ライカ R9 のフィルムバックを交換することにより,デジ ドイツのカール・ツァイスとコシナの協業によるライカ M タル一眼レフとなる「デジタル・モジュール R」を 9 月に発 バヨネットマウント互換の 35 mm レンジファインダー機 売した.撮像板は APS-C サイズより大きい 1.37 倍相当の 「ツァイス・イコン」が 10 月 29 日に発売された.価格は税 込みで 160,650 円,発表は 2004 年 9 月のフォトキナであった わけだから,1 年後の発売開始となった. 10 Mp CCD.価格は 70 万円. シュリロトレーディングは,645 判一眼レフである“ハッ セルブラッド H1”の後継機として,フィルム・デジタル兼 富士フイルムは,35 mm フィルムを使う 35 ~ 70 mm 2 倍 用の「ハッセルブラッド H2」とデジタルバック一体型の ズームレンズ搭載のコンパクトカメラ「Zoom Date 70V」を 「ハッセルブラッド H2D」を 8 月に発表した.デジタルバッ 11 月中旬に発売した.価格はオープンだが推定 7,000 円. クは,37×49 mm の 22 Mp CCD が使われている. 富士フイルムは,カードサイズインスタントカメラ“チェ ペンタックスは,APS-C,6.1 Mp CCD 撮像板のデジタル一 キ”シリーズの新モデルとしてレンズ脇にセルフ用ミラーを 眼レフ「* istDS2」を 9 月 25 日に発売した.背面液晶モニター 148 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) を 2 型から 2.5 型に改良した他は既存の* istDS と変わりはな 光沢」を 4 月 15 日に発売した.サイズは L 判と A4 判が用意 い.価格はオープンだが,推定 11 万円. され,A4 サイズ 20 枚で店頭推定価格 1,500 円. キヤノンは,APS-H サイズ,8.2 Mp CMOS 撮像板のプロ向 セイコーエプソンは,業務向け大判インクジェットプリン けデジタル一眼レフカメラ EOS-1DMarkII の背面液晶モニ ターとして「MAXART」シリーズ 7 機種を 5 月から順次市場 ターを 2 型から 2.5 型に改良し,各種基本性能の向上と熟成 導入すると発表した.特徴となるのは,マックスアート K3 を図った改良機「EOS-1DMarkIIN」を 9 月 28 日に発売した. でシリーズの PX-5500(価格はオープン,推定 8 万円後半), 価格はオープンだが,推定 50 万円. PX-6500(税込 260,400 円),PX-7500(税込 312,900 円),PX- オリンパスイメージングは,4/3 規格の 8 Mp CCD デジタル 一眼レフとして「E-500」を発売した.価格はオープンだが, 14 ~ 45 mm F3.5-4.5 標準ズーム付きで推定 10 万円以下. 9500(税込 627,900 円)など 8 色独立の新顔料インク PX-P/ K3 インクを採用したなどである. 富士フイルムは,迅速処理フルデジタルミニラボ第 2 世代 ニコン は,プロ・ハ イ ア マ チュ ア 向 け に APS-C サイ ズ フロンティアの新ラインナップとして「フロンティア 550E」 10.2 Mp CCD を搭載したデジタル一眼レフ「D200」を 12 月 を PIE2005 会場で参考展示し,6 月 1 日から発売を開始した. 26 日から発売した.クイックなレスポンスと画質向上を特長 処理は最高 Dry to Dry で 1 分 22 秒,L 判 1,350 枚 / 時,最大 とし,価格はオープンだが推定で約 20 万円. A3 相当まで.価格はユーザー渡し価格,税別で 1,750 万円. 〈デジタルプリントシステム〉 ノーリツ鋼機は 2 月に開催された PMA2005 にて,L 判 2,470 セイコーエプソンは,光学解像度 4,800 dpi のハイエンド向 けブローニー,35 mm フィルム 6 コマ 2 列 12 コマのスキャン 枚 / 時と高能力タイプのフルデジタルミニラボ「QSS-3102- 可能な A4 イプフラットベッドスキャナー「GT-X750」(価格 2Digital」を出展した.Digital ICE を標準装備し,最大プリン はオープンで,推定価格 2 万円台半ば),オートフィルムロー トサイズは 305×457 mm,発売は 5 月開始で海外のみ.また, ド機能を搭載した解像度 3,200 dpi の「GT-F520」 (価格はオー 同会場にて超高速昇華型プリンター「IP-64」を出展.設置面 プンで,推定価格 1 万円後半),35 mm フィルム 4 コマスキャ 積 0.38 m2 の省スペース型で,L・PC 判とも 1 枚 8 秒,1 回 ン可能な「GT-X750」 (価格はオープンで,推定価格 1 万円台 のペーパー交換で約 550 枚プリント可能.発売は 5 月,本体 半ば)を 6 月 24 日に発売した. 価格 377,000 円を予定. キヤノンは,A4 フラットベッドスキャナーのキヤノスキャ キヤノンは,A4 写真画質出力が可能なモバイルプリンター ンシリーズに 35 mm フィルムスキャニング機能に対応した 「PIXUS iP90」(価格はオープン,推定 30,000 円)と A3 ノビ 「キヤノスキャン 5400F」 (価格はオープン,推定 1.7 万円)と 出力対応フォトプリンター「PIXUS iP9910」(価格はオープ ン,推定 63,000 円)を 2 月下旬に発売した. 富士フイルムは,インクジェット用の最高級光沢感と紙厚 (320 µm)を実現した画彩シリーズ「写真仕上げ Pro」を 3 月 1 日から発売した.用紙サイズは,L 判,2L 判,はがき,A4, A3,A3 ノビの 6 種.価格はすべてオープン. コニカミノルタ PI は,最高解像度 5400 dpi の 35 mm フィ ルムスキャナー「DiMAGE Scan Elite5400 II」を 3 月 4 日に発 薄型タイプの「キヤノスキャン LiDE60」(価格はオープン, 推定 1.2 万円)の 2 機種を 7 月 21 日に発売した.5400F は, 光学解像度 2400×5400 dpi,フィルムの 6 コマ連続読みとり, ゴミ・キズ除去の Fare Level 3 技術を搭載している. キヤノンは,大判インクジェットプリンターに染料インク モデル「imagePROGRAF W8400」を 8 月 3 日に発売した.最 大 B0 ノビサイズ,A0 サイズ出力を約 2.2 分,ポスター作成 ソフト PosterArtist を標準装備.価格は税別 598,000 円. 売した.DiMAGE Scan Elite5400 の後継機種で同社のミニラ 富士フイルムイメージングは,店頭でのデジタル化を低コ ボ機の技術であるフィルムエキスパートアルゴリズムを採用 ストで実現できる「オーダーキャッチャーサーマルフォトプ し,ネガカラーフィルムの色再現性を高めたという.価格は リントシステム」8 月 18 日から発売した.すでにあるデジカ オープンで推定 7 万円. メ受付ソフトと昇華型熱転写方式の富士フイルムサーマル キヤノンは,大型インクジェットプリンター「キヤノン フォトプリンター ASK-1500 を組み合わせシステム構成した image PROGRAF」シリーズとして W8400(B0 ノビサイズ対 もの.プリント時間は L 判 1 枚が 11 秒,プリンターを 3 台 応,税別 59.8 万円),W6400(A1 ノビサイズ対応,税別 29.8 増設すれば 1 枚あたり 4 秒までスピードアップできる.シス 万円),W220S(A3 ノビ対応,税別 24.8 万円)を 3 月中旬に テム価格 57 万 8900 円から. 発売した.いずれも独自顔料インク Pg インクを採用,専用 日本アグフアフォトは,コンパクトタイプのデジタルミニ ソフト“PosterArtist”を使用することにより,小売り,流通, ラボ「d-lab.1 Starter」を 8 月から発売した.処理能力はフィ 飲食,一般オフィスなど業種別に用意された約 200 種類のテ ルム,デジタルデータとも L 判で毎時 600 枚,ローエンド機 ンプレートを利用して簡単にポスターの作成ができる. ではあるが,種々拡張性をもつ.需用者価格で 880 万円. 三菱電機は,L 判 1 枚 7 秒の高速プリントを実現した昇華 キヤノンは,デジタルカメラ用のコンパクトプリンター 型熱転写方式の店頭プリント端末「めるってプリ II」を 4 月 “SELPHY”シリーズとして,ポストカードサイズまでに対応 1 日に発売.価格は 100 ~ 150 万円. セイコーエプソンは,高い光沢感を持つインクジェットプ リンター写真用紙の最上級グレードとして, 「クリスピア・高 した「CP710」(昇華型,液晶モニター・カードスロット内 蔵,推定 1.8 万円), 「CP510」 (昇華型,推定 1.2 万円), 「DS810」 (インクジェット,液晶モニター・カードスロット内蔵,2.2 2005 年の写真の進歩 万円)を 9 月 16 日に発売した. 149 国平均で 3 割と分析し,銀塩からデジタルへの移行によって, ノーリツ鋼機は,フィルム,デジタルデータとも L 判で毎 2006 年にはお店プリントがホームプリントを追い越し,2009 時 2,100 枚,ポストカード判で 2,000 枚の能力を持つ高能力 年には枚数で現在の 2 倍となり,お店デジタルが 2.8 倍,ホー フルデジタルミニラボ機「QSS-3411Digital」を 9 月中旬に全 ムプリントが 1.5 倍に現在より伸びると予測している. 世界で発売開始した.キズ・ホコリ自動修正の Digital Ice 機 1.3 企業・団体・人の動き 能を標準装備.また,QSS-3411Digital のプリンタープロセッ ストロボメーカーのミニカムは,2005 年 1 月 1 日をもって サー部で構成するネットワークプリンター「QSS-34PRO ストロボ関連機器の製造販売などの営業権を(株)ミニテク Digital」を 9 月 に 発 売 し た.プ リ ント 処 理 能 力 は QSS- ノに譲渡した. 3411Digital に同じ. レモン社は,銀座教会のビルに旧店舗の売り場面積 2.5 倍 ノーリツ鋼機は,135/APS 専用の低価格フィルムスキャ の「レモン社銀座教会店」をオープンさせた.店内には,新 ナー“S1-II”を搭載した普及型のフルデジタルミニラボ機 品とクラシックライカなど高級輸入カメラ,高級時計,万年 「QSS-3300Digital LE」を 10 月上旬に発売した.価格は税別 筆,鉄道模型,アンティークオルゴールなど男性に人気のあ 876 万円. セイコーエプソンは,逆光や色かぶりなどを自動補正し, る商品を取りそろえている. オリンパスと松下電器産業の両社は,デジタル一眼レフカ 好ましい色再現となる“オートファイン EX”を搭載した複 メラ「フォサーズシステム」で共同開発に合意したことを 合機「PM-A950」,「PM-A890」,「PM-A750」,「PX-A650」の 1 月 13 日に発表.松下の製品発表は 2006 年 PMA ショーと 4 機種,インクジェットプリンター「PM-D800」, 「PM-D600」, 「PM-G730」 , 「PM-V630」 , 「E-150」の 5 機種を 10 月 6 日に発 売した.価格はいずれもオープン. キヤノンは,インクジェットプリンターシリーズ“PIXUS” をラインナップを一新し 10 月上旬から発売した.最高機種 された.フォサーズシステムは,4/3 型 CCD とマウントが規 格化されたレンズ交換式一眼レフの規格で,他社の参加はシ グマが交換レンズを発売するだけにとどまっている. 富士フイルムは,スクリーン印刷用インクや産業用インク ジェット用の大手インクメーカーである英国のセリコールグ は 1pl 対応のインクヘッドを搭載して高解像度を実現,ブラッ ループ社を 245 億円で買収し,100%子会社としたと 1 月に クインクには顔料タイプを採用など改良された.「MP950」 発表した.同社はスクリーン印刷用インクや産業用インク フィルムスキャナー機能,LCD モニター付きの複合機,イン ジェット用 UV インクでは,世界のトップシェアを誇ってい クは 7 色,価格はオープンだが,推定 5 万円. 「MP800」LCD るとされる. モニター付き,インクは 5 色,価格は推定 4 万円. 「MP500」 ケンコーは中国国内での輸出入権を有する国内卸売業務と LCD モニターを備えた複合機のスタンダードモデル.インク 関連サービス業務ができる独資卸売り子会社を設立する認可 は 5 色.推定価格は 3 万円. 「MP170」4 色一体インクカート を 2 月 5 日に取得し,「上海ケンコー商貿易有限公司」を設 リッジを使う複合機のエントリーモデル.価格は推定 2 万円. 立した.資本金 5,000 万円で代表は山中徹氏.この種の批准 「iP6600D」LCD モニター,カードスロットを備えた A4 機. 取得はケンコーが初. インクは 6 色.推定価格は 3.2 万円.「iP7500」7 色インクを 富士フイルムは,液晶用フラットパネルディスプレーの需 採用する A4 単体プリンターの高級機.推定価格は 3.2 万円. 要に対応するため,熊本県菊陽町に「富士フイルム九州(株)」 「iP4200」5 色インクを採用する A4 単体プリンターの普及機. 推定価格は 2 万円. を設立すると 2 月に発表.総投資額は約 1,000 億円,操業は 2006 年 12 月が予定されている. オリンパスは,家庭用昇華型プリンターとしては L 判 30 米国オーランドで 2 月 20 日から 23 日まで開かれた Photo 秒,ポストカード判 33 秒という最速を誇るキューブ型プリ Marketing Show の入場者数は前年の 28,117 人を下回り 25,000 ンター「キャメディア P-11」を 10 月下旬に発売した.価格 人にとどまった. はオープンだが,推定 2 万円. ライカカメラ AG は,従来からの販売代理店であった日本 日本シイベルヘグナーは,光源に固体半導体レーザーを採 シイベルヘグナー社との契約終了に伴い.ライカカメラ AG 用してプリント速度,画像データ転送速度を向上させた印画 とエルメスジャパンによる日本法人として「ライカカメラ 紙用大型 デジ タ ルプ リ ン タ ー「ダー ス ト ラ ムダ Pi50HS, ジャパン」を 3 月 1 日に設立した.社長はエルメスジャパン 131HS」を 11 月に発売開始した. 出身の鈴木修氏. ノーリツ鋼機は,7 色顔料インクジェット方式のドライプ 写 真 業 界 の 最 大 の イ ベン トであ る「Photo Imaging Expo リンティングシステムとして「DP-100」を 12 月中旬から発 2006」がアジア最大級のイベントとして 3 月 17 日から 20 日 売した.プリントサイズは L 判から最大 305×914 mm の長尺 まで東京有明のビックサイトにて開催された.主催は,カメ プリントに対応.価格はラミネーターユニット付きで税別 ラ映像機器工業会,写真感光材料工業会,日本カラーラボ協 245 万円. 会,日本写真用品工業会写真 4 団体が合同で,1960 年日本カ 2005 年 12 月 9 日に行われた,日本カラーラボ協会セミナー メラショー開始以来初のことである.出展 160 社 950 小間規 において(株)ブレーンチャイルド社の幡宮和良氏は,現状 模の展示他,写真学会セミナー他,ビジネス,コンシューマー で首都圏のデジタルサービスが 5 割を越える店が出現し,全 向けなど多数開かれ会期中で 105,755 人を集めた. 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 150 富士フイルム,コダック,コニカミノルタフォトイメージ 富士フイルムイメージングは,フィルムカメラの販売拡充 ングは,コンシューマーイメージングとエレクトロニクス産 のためコシナのベッサならびにツァイス・イコンのカメラ・ 業に向けた規格として CD・DVD などさまざまなコンシュー レンズ・アクセサリーの取り扱いを 10 月 3 日から開始した. マー向けメディアにおけるデジタル静止画・動画との互換性 ペンタックスは,レンズ交換式デジタル一眼レフの分野で, を保障するための指針となる「PASS 仕様 Ver1.0」を 3 月 16 韓国サムスンテックウィン社と共同開発することに合意し 日に発表した. た と 10 月 12 日に発表した.サムスン テックウィン社は ペンタックスは,開発・製造・販売の効率化のために,100 %子会社ペンタックス販売を 4 月 1 日付で吸収合併した. ピンホール写真の愛好家,写真家等が集い日本針穴写真協 会を 4 月 1 日に設立し.年末には 500 人を越える会員を擁す るほどになった. SAMUSUNG グループで,コンパクトデジカメを製造販売し ているほか,航空機エンジン,ターボ機械,光電子装置など の開発製造を手がけている. タムロンは,ブロニカ RF645 および交換レンズ,アクセサ リーの生産を 10 月で終了し,1959 年から続いたブロニカカ 京セラは,カール・ツァイス社と共同で行ってきたコンタッ クス事業を 9 月で終了すると 4 月 10 日に発表した.事実上 ヤシカから引き継いだカメラ事業の終了となった. メラ事業から撤退することを 10 月 20 日に発表した. コニカミノルタホールディングスは,急速なデジタル化に 伴う銀塩写真市場の縮小,デジタルカメラの価格下落に伴い 日本カメラ博物館では,4 月 19 日から 9 月 4 日まで特別展 子会社コニカミノルタ PI の写真事業を縮小すると 11 月 4 日 「コニカミノルタ展~革新を求めて~チェリー手提げ暗箱か に発表した.その後は高付加価値デジタルカメラ(一眼を含 ら α-7 デジタルまで」を開催し,旧コニカとミノルタ創業以 来のカメラが展示された. む)に重きをおくという. 写真感光材料工業会は,写真の概念が多様化するなかに アグフアフォト Gbmh(ドイツ・レバクーゼン)は,5 月 あって,商品特性と高品質・長期保存性を表現するマーケティ 26 日ケルン郊外のレバクーゼン地方裁判所へ破産法に基づ ング用語として「銀写真プリント」を普及させようと 12 月 く法律の適用申請を行った. 16 日に発表した.参加企業は,富士フイルム,コニカミノル 日本写真協会は 6 月 1 日の「写真の日」を記念して写真文 タ,三菱製紙とコダック. 化の交流や写真界への貢献・功労があった人を表彰した.国 アグフアフォト Gbmh は,11 月 10 日に行われた再建に向 際賞:アン W タッカー,功労賞:東松照明,奈良原一高,文 けた交渉が破産管財人と投資家候補と合意成立せず,2005 年 化振興賞:ドキュメンタリーフォトフェスティバル宮崎,年 12 月末をもって精算された.138 年の歴史に幕を閉じたこと 度賞:今森光彦,小松健一,作家賞:木之下晃,坂田栄一郎, になり,これに伴い日本アグフアフォトも,12 月 26 日をもっ 新人賞:梶井照陰,勝又邦彦,森澤ケン,特別賞:谷忠彦. て営業活動を終了した. 日本写真協会と東京都写真美術館は共催し,6 月 1 日写真 1.4 終わりに の日を前後に常設写真展示場を含め都内のギャラリーが多数 昨年に引き続き筆者が本項を担当して以来,過去に比べて 写真展示に参加する「東京写真月間」を約 1ヵ月にわたり行っ 大幅に紙数を必要とするようになってしまった.個人的には た. 可能な限りのピックアップではあるが,それでもすべての写 写真雑誌記者の集うカメラ記者クラブは,カメラグランプ リ 2005 に「コニカミノルタ α-7 デジタル」を,またニコン 真分野をカバーできているとは考えていない. そして,写真市場は拡大しているか,縮小しているかは, F6とエプソンRD-1をカメラ記者クラブ特別賞として選出し, 個人的な最近の関心事であるが,少なくとも近年は過去に例 6 月 1 日写真の日に贈呈式を行った. がないほど写真を楽しむという文化という面での動きは活発 コニカミノルタ PI とソニーは,レンズ交換式一眼レフカメ ラを共同開発することで合意したと,7 月 19 日に発表した. 化してきていると認識している.一例をあげれば, 展示スペー スとしての写真ギャラリーの増加などである. 今後は両社の持つ関連技術やキーパーツを生かして「α マウ 成熟した写真産業としては,写真という産業を限られた技 ントシステム」カメラを 2006 年には市場投入するというも 術分野で見ることなく,広範な見方をすることによって大き の. く異なってくるのではないだろうか.前項の「新製品群」, 「企 コダックは,黒白印画紙全製品の製造を中止し,12 月末で 業・団体・人の動き」をご覧いただくとお分かりのように, 販売完了すると 7 月に発表した.なお,黒白フィルムならび 縮小ではなく,ある意味分野が拡散し,確実にそのバトンタッ に黒白処理薬品は製造販売を今後も継続する. チが進行していることがわかる. 日本カメラ博物館では,9 月 13 日から 1 月 29 日まで「オ また,本報告が刊行される時期までには,2006 年に入っ リンパス展~オプトテクノロジーの軌跡~」を行った.オリ て,ニコンがフィルムカメラの大幅整理,コニカミノルタの ンパスの前身である高千穂製作所時代の顕微鏡から,内視鏡, 写真・カメラ事業からの撤退,α マウントカメラシステムを フィルムカメラ,デジタルカメラまでと幅広く展示された. ソニーへ譲渡,富士フイルムの写真事業縮小,三菱製紙白黒 2 地上 9 階,地下 6 階,総面積 23,000 m の国内最大級の大 印画紙製造を終了,マミヤ・オーピーがカメラ事業をコスモ・ 型店舗の「ヨドバシカメラマルチメディア akiba」が秋葉原駅 デジタル・イメージング(株)へ譲渡などが発表されている. 前に 9 月 16 日に開店した. いずれも 2005 年から続く写真企業各社の動きであるが,こ 2005 年の写真の進歩 151 の段階である程度の終息を見るのかどうかは,まったく不透 べ,硫黄増感への影響とその作用機構を考察した(日写春, 明である. 44;日写秋,73). なお執筆にあたっては,月刊「写真工業」と週刊「カメラ Dai ら(中国,Hebei 大)は,塩化銀立方体粒子乳剤への タイムズ」での掲載ニュースを基に,関連各社,団体が発表 K4[RuCl6]4– のドープの光電子の挙動への効果を(Proc. SPIE, したニュースレリーズ資料をあたっている.したがって,出 5638,688),Dong ら(同)は,[IrCl6]4– のドープの光電子の 典は一般ニュースということで省略させていただいた.詳し 挙動への効果を(Proc. SPIE,5643,88) ,Li ら(同)は,AgBrI くは関連企業,団体のホームページ等を参照いただきたい. の T 粒子での光電子の挙動を(Proc. SPIE,5633,243),マ イクロ波光導電測定法と誘電損失法から求めた.さらに Liu 2. 銀塩感光材料 ら(同)は,光電子の減衰寿命へ影響するパラメータを,減 衰の速度論から理論的に解析した(Proc. SPIE,5643,94). 田坂ら(富士フイルム)は,ベンゼンスルホン酸塩がハロ 2.1 理論 久下謙一(千葉大工学部) ゲン化銀上の銀核と反応することを利用して,放射性同位元 2.1.1 概観 素 35S と結合した銀核の放射能を測る事で銀量を定量する方 銀塩感光材料の理論的研究の報告は,フィルムの使用の縮 法を開発した(日写秋,67). 小とともに減少している.特にヨーロッパからの報告は激減 2.1.4 増感 している.アグファの破綻の影響であろう.一方,北京で 1 個の光量子で 2 個の電子注入を生じる 2 電子増感につい 2005 Beijing International Conference on Imaging(5 月 23 日~ 26 日,以後 Beijing と略記)が開催されたこともあるが,中 ての研究が引き続き調べられている. Eachus,Muenter ら(Kodak)は,EPR 測 定によ り Frag- 国からの発表は依然として多い.中国科学院,Hebei 大学, mentable Electron Donor(FED)化合物による 2 電子増感の 東華科工大などから,組織的な発表がある. 機構を探った.反磁性遷移金属錯体をドープした乳剤で EPR 発表内容を概括すると,一般感光材料についての発表は減 測定を行うと,FED の分解で注入された電子が捕獲されて 少し,熱現像(光熱写真)感光材料や,ホログラム用感光材 EPR 信号が増加した.これらより,これまでに提案した FED 料などの特殊な感光材料の発表が増えている.どちらも超微 による増感機構を確かめた(J. Phys. Chem. B,109,10126). 粒子乳剤を使っており,デジタル画像の及ばない高解像度を Ma ら(中国科学院)は,ギ酸塩を表面直下にドープした十 示す領域である. 四面体粒子乳剤を作った後,表面を化学増感と分光増感した. 2.1.2 乳剤調製 ギ酸塩のドープは,これらの増感とは別個に約 2 倍の感度を 大関(勝久) (富士フイルム)は,塩化銀粒子の双晶発生機 上昇させる増感作用を示した(Beijing,54). 構について研究した.双晶を生じた粒子をそのまま成長させ 硫黄増感などの従来の増感法も依然調べられている. て,その電子顕微鏡観察から,双晶面数と形体を決定した. 御舩ら(富士フイルム)は,チオシアン酸カリウムの存在 塩化銀でも臭化銀と同様の双晶粒子が観察され,双晶面がラ 下で硫黄増感処理すると,高照度不軌などによる減感が減少 ンダムに発生したとき予想される形体の確率と,観察結果が し,潜像中心が{100}面に選択形成されることを見いだし ほぼ一致した.1-ベンジル-4-フェニルピリジニウムクロリド た.チオシアン酸カリウムが{100}面に多く吸着し,銀イ を用いて双晶平板粒子を選択的に得た.(日写誌,68,332; オンと錯体を形成して銀イオン濃度を局所的に増大して,増 日写春,46) 感中心の形成を促進することで説明し,潜像形成競争に強い 2.1.3 物性分析 潜像中心が{100}面に選択的に形成されるとした(日写誌, Jiao ら(東華科工大,中国)は,暗所でわずかに熱励起さ 68,323;日写春,42). れた自由電子と自由正孔の電子特性を,Wagner 分極の理論を 森村ら(富士フイルム)は,硫黄,セレン,テルル増感の 適用して調べた.浅い電子トラップ剤のドープで電子電導が 増感中心とかぶり中心の違いを吸収スペクトルの解析で考察 増大し,正孔電導は減少した.電子電導はかぶりの発生に影 し(日写春,40),さらに増感中心の特性を,相反則不軌,光 響する因子,正孔電導はヨウ化物イオンの正孔トラップ能力 吸収,赤色光感度などで調べ,その性質を 2 量体モデルで説 に影響する因子と考察した (ISJ,53,46). 明した(Beijing,56) . Hasegawa ら(千葉大)は,マイクロ波の吸収を利用した 河戸ら(富士フイルムほか)は,塩化銀乳剤粒子中の Ir 錯 イオン伝導度測定法を開発し,この測定法がイオン伝導を 体ドーパントからの電子放出過程を ESR 測定で解析し,ドー 測っていることを確認した.この方法は粒子形状の影響を受 パントの減感を評価した(日写秋,69). けない(JIST,49,520;Beijing,114).また,マイクロ波の 吸収を利用したミリ秒領域の光正孔挙動を検出する方法を報 告した(日写秋,83). 2.1.5 分光増感,色素 Tani,Yoshihara ら(富士フイルム,北陸先端技術大)は, 空間電荷層が分光増感に与える効果について調べた.負帯電 谷(富士フイルム)は,塩化銀粒子乳剤にヨードイオンを キンクと中性キンクサイトにおける,増感色素のエネルギー 添加したときの効果を,拡散反射スペクトル,イオン伝導度, レベルや,J 凝集体中のエキシトンからの電子注入の違いを マイクロ波・ラジオ波の時間分解光導電などの物性測定で調 考察し,分光増感量子効率と電子注入速度の結果から検証し 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 152 子の光吸収のシミュレーションと,電子顕微鏡観察,吸収ス た(JIST,49,526). J 凝集体において色素が多層に吸着するか否かについての ペクトル測定との対応から,最適の銀微粒子の特性を考察し た.最適要因となる粒子サイズ,形状,粒子間距離などをも 論争が続いている. Saijo ら(京工大)は,これまでのハロゲン化銀への色素の 吸着状態についての AFM,SEM 観察などの各種の研究成果 とめた(JIST,49,370). Chen ら(Kodak)は,熱現像で生じるナノサイズの銀微粒 をまとめた総説で,色素の多層吸着が起こっている事を示し X 線回折で調べた.低温側で filament 子を,電子顕微鏡観察と, た(日写誌,68,146).一方,それに対し山下ら(富士フイ 状,高温側で dendrite 状の銀微粒子が形成され,dendrite が ルム)は,これまでに多層吸着は観察されていないとして, 光吸収による画像要素として重要であるとした(JIST,49, 多層吸着の可能性を調べている(日写春,38). 365). また Shapiro(ロシア)は,ポリメチン鎖を持つシアニン色 Bokhonov ら(ロシア固体化学研究所,Kodak)らは,X 線 素の混合 J 凝集体と,その写真特性を調べ,混合 J 凝集体を 回折のその場観察より,脂肪酸銀の熱分解と熱現像の 2 つの 作る色素の構造的要件を考察した(Beijing,46). プロセスで形成される金属銀の形体を比較した.熱分解でで きる銀微粒子はより大きな結晶子を作った(JIST,49,389). 2.1.6 現像 n– Bringley ら(Kodak)は,[AgaXb] クラスターとフェニレン Blanton ら(Kodak)は,X 線回折の 2θ 値が金属銀,ハロ ジアミン系のカラー現像主薬からなる複合化合物を合成し, ゲン化銀,ベヘン酸銀で明瞭に分離されることから,像形成 その結晶構造を詳しく解析した.この化合物からなる感光材 プロセスの解析への適用性を考察した(JIST,49,356). 料は水酸化ナトリウム溶液で 5 ~ 10 秒と迅速・容易に現像 現像剤,トナーなどの研究もなされている. できる(J. Solid State Chem.,178,3074). Akahori ら(コニカミノルタ,阪大)は,現像剤であるビ 2.1.7 熱現像(光熱写真)感光材料 スフェノール誘導体の分子内水素結合が電子移動特性に与え JIST の 4 号で,2004 年の Ventura での国際シンポジウムの る効果を調べた.反応速度を閃光光分解や ESR 測定などで求 発表の特集が組まれ,多くの論文が掲載された.その他にも めて,反応機構を考察し,最適の誘導体を求めた(JIST,49, 学会発表などが多数あり,この分野での研究は盛んである. 381).Whitcomb ら(Kodak)は,トナーとして用いられてい Sahyun は,熱現像感光材料の現像プロセスについての最近 るフタル酸の各種誘導体と銀との錯体を合成して,その配位 の進歩を,現像銀の形体,現像の熱力学と速度論,銀錯体の の化学について考察した(JIST,49,394). 構造と機能,現像剤とその作用,写真特性などについて概説 水系塗布感光材料についても研究報告がある. した.溶媒系と水系塗布感光材料の違いを考察し,銀粒子が Lin ら(中国科学院)は,水系塗布感光材料での pAg の pH できる際の影響半径は主に溶媒系塗布感光材料で観察される への依存性を調べた.pH 増大に伴い pAg も増大し,かぶり とした.(JIST,49,337) は pH とともに増大するが,感度は pH 7.0 ~ 7.5 付近で最大 House ら(Kodak)は,カラー熱現像感光材料の可能性を 論じた.マゼンタ発色感光材料を試作して,感度と貯蔵安定 性の特性を調べた(JIST,49,398). 熱現像感光材料についての物性測定,感光性についての研 究の報告も増えている. を示した(Beijing,88). 塚田ら(富士フイルム)は,水系塗布感光材料における高 分子材料について論じた(高分子,54(3),123).山根ら(富 士フイルム)は,水系塗布感光材料における感光性を調べ, 通常銀塩感光材料と類似しているとした(日写春,14).大 ソクマンホーキムラら(コニカミノルタ,千葉大)は,光 関(智之)ら(富士フイルム)は,水系塗布感光材料に特有 熱写真(熱現像)感光材料に用いられているナノサイズの超 の色調について,現像銀形体を調べ,その要因を探った(日 微粒子でのマイクロ波光導電を測定し,マイクロサイズ粒子 写春,16). と比較したその特性を調べた(Beijing,60;日写秋,71).御 ヨウ化銀を用いた熱現像感光材料が報告されている.この 舩ら(富士フイルム)は,後述のヨウ化銀を使用した熱現像 系では熱処理の際にヨウ化銀が溶解消失するため,その後の 感光材料に使われるヨウ化銀微粒子のイオン物性と電子物性 安定性が向上する. を測定した(日写秋,61) .Kong ら(Kodak)は,熱現像感光 山根ら(富士フイルム)は,ヨウ化銀ナノ粒子を用いた熱 材料での量子感度を,センシトメトリー,光漂白,モンテカ 現像感光材料システムについて(日写秋,63),大関智之ら ルロシミュレーションなどの手法で求めた.量子感度は, (富士フイルム)は,ヨウ化銀平板粒子を用いた熱現像感光材 35±7 であった(JIST,49,348).Cao ら(中国科学院)は, 料システムについて(日写秋,65)紹介した. 熱現像感光材料に用いる乳剤への化学増感の効果を調べた. 2.1.8 放射線検出 Sodium Benzensulfinate による増感が有効であった(Beijing, 銀塩感光材料は,高解像度,厚みを利用した 3 次元計測な 62). 現像銀の形状特性が,画像特性との関連も含めて関心が高 く,いろいろ調べられている. どの特長を生かして放射線飛跡の検出に用いられており,そ のための新しい処理方法なども開発されている. 久下ら(千葉大ほか)は,原子核乳剤に金沈着現像法を適 Whitcomb ら(Kodak)は,熱現像感光材料での最適な光学 用して,金微粒子からなる放射線飛跡の検出法を考案し(日 濃度と調子を示す光吸収を得るために,ナノサイズの銀微粒 写春,54;日写秋,57),さらにプラスチック飛跡検出器 CR- 2005 年の写真の進歩 39 と組み合わせた荷電粒子弁別法を報告した(日写秋,59). 153 vanced Gelatin Science Society(IAGS, Chairman Dr. P. Koepff) 2.1.9 ホログラム記録 の第一回国際会議が 9 月にドイツ,Heiderburg で開催された. ホログラムの記録材料は光の波長程度の高い解像度が必要 これまでの IAG が写真用途のゼラチン研究を目的としてい であり,デジタル系では実現できない.銀塩感光材料はこの たのに対し,IAGS ではより広いゼラチンの基礎,応用を包 分野でいまだ重要であり,その研究がいろいろなされていて, 括的に取り扱うことを志向しており,とくに食品,医薬関連 報告も数多い. 分野を中心に多くの発表があった.ゼラチン自体はさまざま 新しいホログラム用感光材料についての報告があった. な機能をもった有用な材料として,現在も幅広い分野からの Duenkel ら(Berlin 応用科学大学)は,ホログラム用の新 研究が続けられている. しい乳剤について報告した.約 15 nm の粒子からなり,高感 度で 8000 本/mm の解像度を有した(Proc. SPIE,5742,168). 2005 年度の第 11 回ゼラチンシンポジウム(本学会ゼラチ ン研究会主催,日本ゼラチン協議会共催)では最近のゼラチ 岩崎ら(京工大ほか)は,新しく開発された赤感のホログ ンに関する研究や話題が集められた.鈴木(新田ゼラチン) ラム用乾板(P-7000,コニカミノルタ)について,その特性 は上述の IAGS の様子をレポートした.野村(東京農工大) を調べた(日写秋,51).Ulibarrena ら(スペイン,Miguel は海洋性資源から得られる「マリンコラーゲン」の特徴とそ Hernandez大)は,カラーホログラム用に開発されたパンクロ の機能性食品への応用について解説した.その他の講演につ 超微粒子乳剤(BBVPan,Colorholographics)について,マル いては以下の各項で紹介する. チバンドホログラフィック回折格子の特性を調べた(Proc. SPIE,5827,173). 銀塩感光材料と金沈着現像を用いて金微粒子からなる回折 2.2.2 ゼラチンの物性 ゼラチンのゾル,ゲルの粘弾性的性質の理解,制御は,結 合素材として非常に重要な研究対象である. 格子を作製し,それを焼成して金の膜からなるホログラムを 大坪(千葉大)はゼラチンゾルのゲル化過程を動的粘弾性 得る方法が報告されている.久下ら(千葉大)は,金膜から 測定によって検討した結果について,レオロジーの専門家と なるイメージホログラムの作製(日写春,48;Optics Japan しての立場から解説し,ゲル化過程は基本的には弾性パーコ 2005,28),金膜形成の焼成条件の検討(日写秋,53),金微 レーションで理解できるとした(ゼラチンシンポジウム). 粒子調製におけるチオシアン酸カリウムの添加効果(日写秋, 55)などを報告している. 2.2 感光材料用結合素材 大川祐輔(千葉大学大学院自然科学研究科) Courty ら(英 Cambridge 大)は膜状のゼラチンゲル(エチ レングリコール溶液)を引き延ばしながら旋光度を測定し, 引き延ばしによってヘリックス含量が大幅に増大することを 見出した.このヘリックス形成程度は引き延ばし量が大きい 2.2.1 概要 ほど大きくなるが,ある引き延ばし量を超えると逆に減少し 2004 年版でも述べたが,現在では感光材料,写真材料を直 始める.また引き延ばしを緩めることによって可逆的に状態 接的な主題として掲げた結合材料の研究報告は非常に少なく が復元する.これらの変化が起こるにもかかわらず応力 - 歪 なっている.銀塩感光材料用結合材料として写真工学上重要 み曲線は単純な直線になり,ゲルの弾性率は一定である.彼 な地位を占めているゼラチンも,そのような観点からの研究 らはこの現象を理論的にも取り扱い,結果をほぼ説明できる が表に出ることは少なくなった. 「写真の進歩」総説に「感光 ことを示した(Proc. Nat. Acad. Sci.,102,13457).支持体上 材料用結合素材」という独立した項目を設けることの意味を に塗布されたゼラチンゲルが乾燥する過程では収縮に伴う張 再考する時期に来ているとはいえるだろう.インクジェット 力が膜にかかるはずであり,皮膜物性にこのような現象が関 紙関係には結合材料,バインダーの研究ニーズはあると思わ 係している可能性がある. れるが,企業の実用研究の側面が強いためか公表される研究 大川ら(千葉大)はこれまでの κ- カラギーナンに加え,λ- 事例はけっして多くないし,結合材技術というよりコート層 あるいは ι- カラギーナンをゼラチンにブレンドした系の粘弾 材料全体としての研究という面が大きいようである.しかし 性的性質を報告した.いずれのカラギーナンも増粘効果を示 今後はこの分野の動向をウォッチすることには意味があるだ すがその程度は異なり,またカラギーナンを高速噴射処理に ろう.今回はあまりきちんとした調査ができなかったが,試 よって低分子量化したときの変化も独特であった.これらの みにインクジェット紙関連分野の研究も取り上げてみた. 差異はカラギーナンの分子構造の違い,とくに硫酸エステル 2005 年の日本写真学会ゼラチン賞は伊藤典一氏(新田ゼラ チン)が受賞された.氏は銀塩感材の結合材料技術として重 サイトの含有量に起因すると思われるが詳細は不明である (日写春). 要なゼラチンの硬膜反応に関して,未反応の低分子成分を抽 倉地(コニカミノルタ)は 2004 年度の日本写真学会ゼラ 出・分析する手法を中心に多くの成果をあげられた.併せて チン賞の対象となった「高靭性シリカ・ラテックス・ゼラチ ゼラチン研究会の設立,運営にも多大な貢献をされ,これら ン複合薄膜」の研究を解説した(ゼラチンシンポジウム).乾 を評価されての受賞となった. 燥時の靭性が低いゼラチン皮膜の欠点をラテックスとの複合 これまで長年にわたって写真用ゼラチンの研究における国 化で補い,この結果おこる処理工程中の吸水時の弾性率低下 際的な組織であった IAG(International Workgroup for Photo- をシリカを複合させることで補う.この方法は同時に感材塗 graphic Gelatin)か ら 発 展 的 に 設 立 さ れ た International Ad- 布時の塗液粘度の上昇を防ぐこともできる. 154 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 魚類由来のコラーゲン,ゼラチンは従来の牛,豚由来のも 性有機液体中の顔料微粒子の電気泳動現象を利用する電気泳 のとは異なる特性を持つことから,新たな応用を目指した研 動表示素子(EPD)は代表的な方式のひとつであり,とくに 究が盛んに行われている.谷ら(ニッピ)は魚由来のゼラチ 泳動媒体をマイクロカプセル化したものがよく研究されてい ンが α 成分と β 成分に偏った特徴的な分子量分布を持つこと る.ゼラチンはこのためのマイクロカプセル材料としても有 に注目し,β 成分の単離を試み,とくに物性面から分子量分 用であるが,大川ら(千葉大)はマイクロカプセル様構造を 布の関係について検討した.β 成分は分子量から予想される もった EPD セルの簡便な作製法として,オイルプロテクト ように高粘度でありながらゼリー強度はあまり大きくなかっ タイプの写真感材の構造,調製法に着想を得た方法を提案し た(日写秋). た.ゼラチン水溶液中で泳動媒体(高沸点有機溶媒.この中 2.3.3 ゼラチンの反応,分析 に顔料微粒子を分散させてある)を粗大液滴として分散させ, ゼラチン中の微量アルデヒド成分は銀塩感材製造時への影 そのままゼラチンをバインダーとして透明電極上に塗布・乾 響などから古くから研究の対象になっているが,生成機構, 燥するという方法である.ゼラチンは液滴分散時には粗大液 分析法,化学種など多くの点で明らかになっているとはいえ 滴を安定化する保護コロイドとして働き,できあがったデバ ない.鈴木,三舛ら(新田ゼラチン)はゼラチンを様々な条 イス中では液滴を包み込んで壁材料兼バインダーとして機能 件で酸化すると分析されるアルデヒド成分が増加することに する(日写誌,68,538).ゼラチンの乾燥皮膜は絶縁性も高 ついて,その生成機構について考察し,不純物として存在す く,電気的なデバイスにおいても有用な機能素材になりうる. る不飽和脂肪酸の酸化解裂によって生成するとした(IAGS, 日写秋). 2.2.5 インクジェット紙関係 Hood ら(米 International Specialty Products)はインクジェッ 岩田ら(昭和電工)は,サイズ排除クロマトグラフィーに ト紙の受像層の耐水性を高めるための水溶性ポリマー架橋技 よるゼラチンの分子量分布解析の改良法と,多角度検出光散 術について,いくつかのポリマーについての最近の進展につ 乱検出器による絶対分子量測定による妥当性の検証結果につ いて述べた(JIST,49,646). いて報告した.この改良法は写真用ゼラチン合同審議会と共 インクジェット紙の受像層のバインダーとしてはPVAが多 同で開発されたものであり,従来法よりも分子量分解能,分 用されている.小野ら(日本ゼオン)はオフセット印刷紙の 別分子量範囲,回収率の点で優れているとし,分子量分布の コーティングバインダーに多用されるSBRラテックスを使う より定量的な評価が可能になったとした(日写春,ゼラチン ことを試みた.通常の SBR ラテックスは受像層に添加される シンポジウム) . カチオンポリマーで凝集をおこしてしまうため,保護コロイ Abrusci ら(スペイン マドリードコンプルテンス大ほか)は スペイン各地のアーカイブから集めた映画フィルム試料か ドとして PVA をグラフトした SBR ラテックスを用いて凝集 を防いだ.(紙パルプ技術協会年次大会). ら,バクテリアとカビを単離,同定した.単離された微生物 Komasatitaya ら(岐阜大)は水性顔料インクのバインダー は非常にバラエティに富み,また一見きれいに見える試料か 兼分散剤として疎水基と親水基をもつ櫛形コポリマーを合成 ら検出された.ベースの種類によらず,乳剤のバインダーで して,インクジェット画像の撥水性を動的接触角測定によっ あるゼラチンを栄養源にして乳剤面にのみ繁殖することも確 て検討し,高い効果を見出した(Trans. Mater. Res. Soc. Japan, かめられた(Inter. Biodeterioration Biodegradadtion,56,58). 30,599). 写真資料の保存は現在の重要な課題であり,この総説特集に も保存に関する章があるが,結合材料に関する生物汚染,生 2.3 感光材料用素材 池洲 悟(コニカミノルタテクノロジーセンター) 物分解の問題はまだあまり研究されていないようで,データ 2.3.1 概要 の蓄積が必要とされる課題といえる. 2005 年は,5 月に北京で画像に関する国際学会が開催され 2.2.4 ゼラチンの応用 た.また,日本化学会春季大会でもアドバンスドテクノロジー 重クロム酸ゼラチンは高品位なホログラム記録材料として プログラムが新たに企画され,プリント材料がその一つとし 知られるが,最適な作製条件はゼラチンによって異なり,経 て取り上げられた.これらのイベントが催されたにも拘らず, 験的に求められているにすぎない.とくにゼラチン膜の前硬 感光材料用素材に関する発表件数は 8 件で,残念ながら昨年 膜は画質に決定的な影響を与えるが,その効果は十分に解析 に比べて暫減であった. されていない.宮嶋ら(千葉大)はミョウバンによる前硬膜 効果について,膜中の Al (III) と光生成する Cr (III) の分析に その中で,熱現像感光材料用素材に関する発表が 4 件を占 め,活発に研究開発が行われている様子が伺える. よって検討し,光反応自体には前硬膜の程度は直接関係せず, 2.3.2 コンベンショナル感光材料用素材 光生成した Cr (III) による架橋形成と Al (III) による前硬膜のバ まず,コンベンショナル感光材料用素材の 4 件について, ランスによって干渉パターンの暗部からのゼラチンの溶出挙 動が変化することで変調程度が変わるとした(日写春). 紹介する. 竹内(富士フイルム)らは,新たに開発したベンゾチアジ 電気的に書き換え可能で,かつ,低消費電力,広視野角な アジン系イエローカプラーについて報告している.これらの ど,紙媒体,印刷媒体に近い特性を持つ次世代表示デバイス カプラーは従来のカプラーに比べ,アゾメチン色素の分子吸 として,各種の電子ペーパーが研究,開発されている.絶縁 光係数が高く,安定性に優れていることを報告している.ま 2005 年の写真の進歩 155 た,X 線結晶構造解析から,クロモファー部分の平面性が高 House(Kodak)らは,熱現像技術を新たなカラーフィルム いことが,高い分子吸光係数を有する要因として重要である ドライシステムに応用しようという試みについて紹介してい としている(日化春). る.保護された発色現像試薬,ベンゾトリアゾールもしくは また,嶋田(富士フイルム)らは,ピロロトリアゾール系 メルカプトテトラゾール銀塩,サリチルアニリド熱溶剤等を シアンカプラーの開発について紹介している.本タイプの発 使用することによって,高感度化とディスクリミネーション 色色素は優れた分光吸収特性を示し,膜中では 2 分子会合体 の改良が可能であると提唱している(JIST,49,398). を形成して高い色純度の吸収を示す.また,反応性の高いピ ロール環の α 位が反応位であることが,発色現像主薬の酸化 2.4 感光材料 上澤邦明(コニカミノルタフォトイメージング) 体との高いカップリング活性を示す理由であると推測してい 2.4.1 カラーフィルム る.さらに,本タイプのカプラーの合成法についても報告し デジタルカメラが撮影機材の主流となった 2005 年,一般 ている(日化春). 出口(富士フイルム)らは,上記のベンゾチアジアジン系 イエローカプラー並びにピロロトリアゾール系シアンカプ 用フィルムの発表は少なく,銀塩感光材料の特徴を生かした リバーサルフィルム,プロ用途のネガフィルムの発表がある. 富士写真フイルムは 2004 年に引き続き色再現に特徴を ラーを導入した新しいカラー印画紙について紹介している. 持った感度 ISO50 のカラーリバーサルフィルム「フォルティ これらの新しいカプラーから生成する発色色素は,いずれも ア SP」を限定発売した.このフィルムの特徴について竹中は 高い分子吸光係数を有するために,ハロゲン化銀の有効活用 高彩度の色再現でありながら,色強調度合いのバランスがよ が可能となり,迅速処理適性の向上に貢献していること,ま いため,2004 年に限定発売された「フォルティア」に比べ多 た色再現性および画像保存性の向上にも貢献していることを くの被写体に適応できるフィルムであると解説している(ア 報告している(Beijing,8). サヒカメラ,3,120). 一方,Shapiro(Scientific Center Niikhimfotoproket)は,シ コダックはカラーリバーサルフィルム「プロフェッショナ アニン色素を併用した場合の J 凝集体の形成について考察し ルエクタクローム E100GP」を日本市場限定で発売した.池 ている.ポリメチン鎖部に環構造を導入した構造および同一 田はクリアベースの採用により「ヌケのよい白」が再現でき, のヘテロ環構造を有するシアニン色素同士の組み合わせが J 特にややオーバー露出での撮影においてその違いが現れ,ハ 凝集体形成に優位であると結論付けている(Beijing,46). イエストライトの描写は銀塩乳剤でなければ再現できない領 2.3.3 熱現像感光材料用素材 次に,熱現像感光材料用素材の 4 報について紹介する.本 分野は,医療用ドライイメージャーでの研究開発が数年前よ り活発に行われている分野である. 赤堀(コニカミノルタエムジー)らは,銀塩熱現像システ 域であると解説している(写真工業,63(676),16). 富士写真フイルムはコマーシャル用カラーネガフィルム 「フジカラー PRO160NC プロフェッショナル」を発売した. 池田はこのフィルムの特徴と,2004 年に発売された「PRO 160NS」,「PRO160NH」と新フィルム「PRO160NC」で完成 ムにおける現像剤である 4 種のビスフェノール化合物に関す した「PRO160シリーズ」について解説している. 「PRO160NC」 る研究を行っている.レーザー閃光光分解によるラジカルカ はプリント時のピント合わせに苦労するほどの微細な粒状性 チオンおよびフェノキシラジカルの解析,ESR スペクトルに を有している.さらに,商品撮影に必要な長時間露光に対し よるクミルペルオキシラジカルのビスフェノール化合物から ても優れた性能を有している.これら 3 種のフィルムはプリ の水素引き抜き反応の解析を行っている.その結果,分子内 ントでの色補正量,露光時間が統一されており,また「PRO 水素結合がビスフェノールの最初の 1 電子酸化反応のみなら 160 シリーズ」の高い性能を有しているため,フィルムを選択 ず,ラジカルカチオンからの水素引き抜き反応の促進にも大 することによりコントラストを決められるため,ほとんどの きな要因となっていると提唱している.また同時に,t-ブチ 被写体に対応できる意義は大きい(写真工業,63(677),10). ル置換基を有するビスフェノール化合物が熱現像感材におい 2.4.2 カラーペーパー て高い反応性を示すことを紹介している(JIST,49,381). 写真プリンタの露光方式がアナログからデジタルが主流と また,Mitsuhashi(コニカミノルタエムジー)らは,熱現 なり,デジタル露光時に必要な高照度,短時間露光適性に加 像感光材料を用いた新しいマンモグラフィーシステムのレ え,色再現性,迅速処理適性を向上させた新世代のカラーペー ビューを行っている.その中で,新しい現像剤の特徴につい パーが発売された. て紹介している.5 および 6 員環構造を有する新しいビス 西村ら(コニカミノルタフォトイメージング)は,デジタル フェノール現像剤が優れた現像活性と画像保存性を有する 用「KONICA MINOLTA QA PAPER CENTURIA For DIGTAL」 ことを報告している(Beijing,58). の設計思想と技術について報告している(日写春,62) .この 一方,Whitcomb(Kodak)らは,熱現像感光材料に用いら ペーパーは蛍光強度を増大させる AWAC 技術により,明るく れるフタル酸誘導体から形成される銀錯体について報告して 透き通るような白地を達成している.また,高照度短時間露 いる.すなわち,フタル酸誘導体の銀錯体を合成し,その構 光時の潜像形成効率を向上させる EXRED 技術に加え,色再 造解析を行うと同時に,熱現像感材中での特性について紹介 現上好ましい分光吸収特性を有し,現像処理安定性も向上さ している(JIST,49,394). せた新規シアンカプラーも導入している.これらの技術の導 156 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 入により,美しい白地,引き締まった黒の再現,優れた細線 酸銀塩を用いている熱現像感光材料に適していることを示し 再現性,現像プロセスによる安定性の向上を達成している. た(日写秋,61). 副島ら(富士フイルム)は,迅速処理適性,高画像堅牢性 Lin ら(Chinese Academy Science)は,水系塗布型熱現像 を有するフジカラー「EVER-BEAUTY PAPER TYPE II」シリー 感光材料のpAgに対するpHの影響について報告した(Beijing, ズの報告をしている(日写春,60).このシリーズのペーパー 88). は新骨格シアンカプラーを導入し紫から青,緑の色再現域を Cao ら(Chinese Academy Science)は,ステアリン酸銀と 拡大している.また,前述のシアンカプラーに加え新規骨格 PVA(ポリビニルアルコール)を用いた熱現像感光材料の化 のイエローカプラー,部分構造を改良した新マゼンタカプ 学増感剤として,硫黄,金,硫黄・金,DMAB(dimethylamine ラーを導入することにより発色色素のオゾン,NO2 などの酸 boran) ,SBS(sodium benzensulfinate)を検討した結果を報告 性ガス耐性を向上させ,さまざまな条件下において従来に勝 した(Beijing,62). る画像保存性を達成している.さらに青感光性層のハロゲン Kong(Kodak)は,熱現像感光材料の赤外増感に関する量 化銀粒子の粒子サイズ低減,全層への高効率新規カプラー導 子収率の測定法を報告した.本測定法は,センシトメトリー, 入等による薄層化により大幅な迅速処理が可能となっている. 光漂白,および,モンテカルロ法の 3 つから成ること,この 2.4.3 モノクロフィルム 方法により熱現像感光材料の潜像形成に必要な平均光量子数 熱記録タイプのドライフィルム(レーザードライ方式 / サー を測定できたことを示した(JIST,49,348). Bokhonov ら(Institute of Solid State Chemistry)は,ミリス マルドライ方式)に関する技術について,日本写真学会,2005 Beijing International Conference on Imaging: Technology & チン酸銀を用い,単体で熱分解させて生成させた銀と,感材 Applications for the 21st century(以後 Beijing と略記),日本画 に添加して熱現像反応で生成させた銀について,X 線回折法 像学会研究会,日本放射線技術学会,および,Journal Imaging により比較解析した結果を報告した.熱分解で生成させた銀 Science and Technology(JIST)などで報告された. は熱現像反応によって生成させた銀より大きかったこと,こ Sahyun(Univ. of Wisconsin-Eau Claire)は,熱現像感光材料 に関する近年の技術進捗を展望した(JIST,49,337). 木村ら(コニカミノルタエムジー)は,熱現像感光材料に の要因は前者が固体結晶格子の圧迫によって成長した銀であ り,熱現像反応における銀の生成機構とは異なるためである と考察した(JIST,49,389). 用いられているナノサイズの超微粒子ハロゲン化銀結晶にお Liu ら(China Lucky Film)は,ベヘン酸銀ナノ粒子の熱的 ける潜像形成機構についてマイクロ波光導電測定法による検 挙動および熱分解について TG-DTA-MS を用いた解析結果を 討を報告した.ナノサイズの超微粒子ハロゲン化銀結晶に生 報告した(Beijing,344). ずる光電子の挙動はミクロンサイズのハロゲン化銀結晶とは Whitcomb ら(Kodak)は,現像銀の形成プロセスおよびそ 異なる粒径依存性を示すこと,写真感度は粒径の二乗に比例 の形状を制御する機能を有する銀錯体形成剤(フタル酸誘導 することを示した(Beijing,60;日写秋,71). 体 3 種)について錯体化学的観点からの解析結果を報告した. 山根ら(富士フイルム)は,水系塗布型熱現像感光材料に 画像形成反応における中間酸化体は純粋なカルボン酸銀錯体 おけるハロゲン化銀の挙動について従来のコンベンショナル ではなく非対称の銀錯体であろうと考察した(JIST,49,394) . 感材との比較検討し,報告した.その挙動はコンベンショナ Chen ら(Kodak)は,Kodak DryViewTM フィルムを用い現 ル感材と同様に取り扱えること,大きな違いは低 pAg 環境に 像温度を変化させた際の現像銀の形成およびその形状につい さらされていることを考察した(日写春,14). て,TEM 観察と XRD による解析結果を報告した.デンドラ 山根ら(富士フイルム)は,沃化銀微粒子を用いた熱現像 C で最大になったこと,温度が上昇す イト状銀の粒径は 122° 感光材料について報告した.沃化銀微粒子は,低 pAg 化によ るにつれてその結晶性が増したことなどを示した(JIST,49, り感度が上昇すること,フィルム中に存在するベヘン酸銀と 365). 置換フタラジンの寄与により熱定着されること,これにより 大関ら(富士フイルム)は,水系塗布の熱現像感光材料に 画像保存性に有利であること,および,青色域に高い固有感 おける現像銀形状と銀色調の関係について,TEM 観察とシ 度を有することを示した(日写秋,63). ミュレーションによる検討を報告した.水系塗布の熱現像感 大関ら(富士フイルム)は,沃化銀平板粒子を用いた熱現 光材料では,銀の供給が広範囲(勢力範囲が不明瞭)なため 像感光材料について報告した.沃化銀平板粒子は,臭化銀を 露光量に応じて現像銀サイズが変化すること,銀色調は現像 エピタキシャル接合させること,化学増感することにより感 銀の形態に依存することなどを考察した(日写春,16). 度が上昇すること,造核剤を用いることにより最高濃度が顕 著に上昇することなどを示した(日写秋,65). 御舩ら(富士フイルム)は,沃化銀微粒子のイオン物性と 電子物性を測定して写真特性と対比し,その特徴と熱現像感 光材料への適用性に関して考察した.沃化銀微粒子は,格子 Whitcomb ら(Kodak)は,熱現像感光材料における金属銀 ナノ粒子の光学挙動を報告した.少ない銀量で理想の冷黒調 を得るための現像銀サイズ・分散性などについて数値を示し た(JIST,49,370). Blanton ら(Kodak)は,熱現像感光材料の現像銀の定量, 間銀イオンの濃度は高いが動きにくいこと,光電子濃度が著 および,ミクロサイズ / ナノサイズのベヘン酸銀粒子のキャ しく低いこと,低 pAg 化により感度が上昇することから脂肪 ラクタリゼーションに X 線回折法が有用であることを報告し 2005 年の写真の進歩 157 酸を発生する従来のオニウム系酸発生剤より UV 吸収が少な た(JIST,49,356). 赤堀ら(コニカミノルタエムジー)は,熱現像剤として用 いのでArFリソグラフィー用として好ましい (JPST,18,407). いられているビスフェノール誘導体の電子移動酸化反応特性 3.2 光電変換材料 に及ぼす分子内水素結合の効果と熱現像性の関係について, 有機薄膜型光電変換素子の具体的応用例が報告されてい レーザーフラッシュフォトリシスおよびESRによる解析結果 る.Someya(東大工)らは,銅フタロシアニンとペリレンテ を報告した.ビスフェノール誘導体の酸化反応を制御する主 トラカルボキシイミドを用いた光検出器とペンタセンを用い 要因子はラジカルカチオンにおける分子内水素結合であるこ た有機トランジスターからなる 5 cm×5 cm のフレキシブル・ とを示した(JIST,49,381). シート状イメージスキャナーを作成し,36 ドット / インチの 三觜ら(コニカミノルタエムジー)は,乳房 X 線撮影に最 分解能で紙上の黒白画像を認識した(IEEE Trans. Electron. 適な高画質ドライイメージングシステムのために開発したド Dev.,52,2502) .Aihara(NHK)らは,テトラ(4-メトキシ ライフィルムについて報告した.超微粒子ハロゲン化銀結晶 フェニル)ポルフィリンコバルト錯体,トリス-8-ヒドロキ と微粒子脂肪酸銀結晶からなる高分散度乳剤の採用により, シキノリンアルミニウム(Alq3),およびバソクプロインから 最高濃度 4.0 および画像診断に好まれる銀色調を実現した なる層状の光導電膜を作成し,テレビの撮像管に用いた.テ レビ用として充分な分解能と階調を得た.Alq3 を用いない場 (Beijing,58). 倉元(富士フイルム)は,高画質 FCR マンモグラフィに対 応した新ドライイメージャシステム用フィルムDI-MLの特徴 合に比べて感度は 20 倍で,外部量子効率は 20%に達した (Jpn. J. Appl. Phys. Part 1,44,3743). 3.3 光機能性微粒子・ナノ材料 を報告した(日放技,1280). 原(富士フイルム)は,医療用画像出力のドライ化とサー 当研究会が主催した「第 2 回光機能性材料セミナー:機能 マルプリント技術の応用について,熱応答性マイクロカプセ 性微粒子の形成法とその機能」では,粒子形成技術を軸とし ル技術などを報告した(日本画像学会研究会,8). て,さまざまな応用分野間の活発な討論が行われた.杉本(東 北大)は,単分散ナノ粒子のサイズ形態制御法における原理 3. 光機能性材料 とその応用についてハロゲン化銀や酸化チタンの例を挙げて 光機能性材料研究会 解説した.占部(工芸大)はハロゲン化銀微粒子の核形成と 成長および結晶構造特に平板粒子に焦点を当てて解説した. 3.1 光微細加工材料 内田(東北大)は,酸化チタンの粒子形成およびナノワイヤー 高解像力,高集積化を目指す露光波長の短波化に合わせ の水熱合成と,色素増感太陽電池,ナノ結晶エレクトロクロ て,リソグラフィー材料も UV 感度,UV 透過性,反応や組 ミックディスプレイへの応用について解説した.原(静岡大) 成の均一化による微細形状の制御などの観点から改良が検討 は蛍光体に求められる粒子の諸特性および各種粒子形成法を されている. 解説し,開発中の GaN 系蛍光体粒子の気相合成について紹介 非ポリマー系レジスト材料は高分解能と低い線粗さを与え した.吉田(綜研化学)はポリメチルメタクリレート微粒子 ることが期待される.Sooriyakumaran(IBM)らは入手が容 を数十ナノメートルから十数ミクロンの領域で,プラスチッ 易で構造修飾もしやすい,ポリヘドラルシルセスキオキサン クとしての機能性を保持しながら作成する技術について解説 オリゴマーおよびオリゴ糖の高分解能ポジレジストとしての し,アクリル微粒子を用いたコロイド結晶の作成法を紹介し 性能を検討した(JPST,18,425).Tsuchiya(東工大)らは, た.これらの講演の内容は,特集として日写誌,69,96–120 高いガラス転移点の非晶質固体を形成するヘキサ(パラ - お (2006)に掲載されている. よびメタ -t- ブトキシカルボニルオキシフェニル)ベンゼン類 大川(千葉大)らは,表面疎水化した 0.2 ミクロンの TiO2 を用いて,電子線リソグラフィーで 200 nm のパターンサイ 粒子を含有する絶縁性油滴中に封入してゼラチン中に分散固 ズを実現した(JPST,18,431) .Shirai(阪府大)らは,分子 定化したものを ITO と銀電極で挟んだ電気泳動表示素子を作 量分布の狭いポリ(2-メチル-2-アダマンチルメタクリレー 成し,明確な光学応答を観測した.マイクロカプセルを用い ト)を,ジチオ安息香酸シアノプロピルを連鎖移動剤とする る従来の電気泳動表示素子より簡便に作成できる(日写誌, リビングラジカル重合で合成した.このポリマーをアゾビス 68,538). イソブチロニトリルで更に処理することにより,末端に導入 3.4 機能性色材 された UV 吸収性の連鎖移動剤残基が 1-シアノ-1-メチルエ 光照射により物質の発光特性を変えて蛍光像を形成する新 チル基で置換され,193 nm の光透過率が向上することを見い たな方法が提案されている.Kim(Hanyan 大)らは,ポリ だした(JPST,18,389) .Varanasi(IBM)らは,ヘキサフル マー膜中のペリレン含有カリクスアレーン誘導体から t- ブト オロアルコール残基が側鎖に置換したポリメタクリレートが キシカルボニル保護基を選択的に除去することによりエキシ 膨潤せずに溶解する性質を有することを見いだした(JPST, マーからの発光を可能にし,湿式処理なしに蛍光像を得た 18,381).Asakura(チバ・スペシャリティケミカルズ)ら (Chem. Commun.,27,3427).Kwak(奈良先端大)らは,ナ は,ノニオン系光酸発生剤であるパーフルオロスルホン酸オ イルレッドを分散したポリ[ (1-トリメチルシリル)フェニル- キシムエステル類を開発した.強酸のパーフルオロスルホン 2-フ ェ ニ ル ア セ チ レ ン](PTMSDPA)に マ ス ク を 介 し て 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 158 1.15 mW/cm2 以下の UV 光(365 nm)でパターン露光するこ た(日写春,34). とにより,露光部では PTMSDPA の蛍光による黄緑色が,非 蔵本(富士フイルム)らは,ディジタルカメラを利用した 露光部ではナイルレッドの蛍光による橙赤色が認められ,多 忠実画像再現システムの紹介をした.モノクロディジタルカ 色像の形成ができることを示した.ナイルレッドのほうが低 メラとカラーフイルタを利用し,また色票と白色板の撮影 照度で褪色することを利用したものである(Macromolecules, データと分光放射輝度より得た較正データを適用することで 39,319(2006)). 測色的色再現画像を取得可能としている(日写春,27) .金子 Mustroph(FEW Chemicals)らは,CD-R や DVD-R に代表 (三菱電機)らは,sRGB 色域を超える色度成分を有する自然 される色素を用いた光情報記録の開発状況に関する総説の中 界被写体の画像データ作成を行った.南海の海,インコを被 で,シアニン色素,フタロシアニン色素およびアゾ色素の例 写体対象として,分光放射輝度計で被写体の色度を確認しつ を挙げて,記録層に用いられる色素の機能と設計指針につい つ,広色域評価用の画像データの取得をおこなった(日写 て解説している(Angew. Chem. Int. Ed.,45,2016(2006)). 春,28).矢口(千葉大)は,CIECAM02 の概要を解説した. オキソノール色素は一般に光に弱いが,Inagaki(富士フイル CIECAM97 からの改善点,同モデルを応用する際の有効性に ム)らは,オキソノール色素の陰イオンと電子受容性のビピ ついて述べた(日写誌,68(1),16).日写誌 68(4)では,階 リジニウム陽イオンとを組み合わせて塩を形成することによ 調表現技術の特集がされた.本庄(本庄研究室)は,銀塩撮 り耐光性が著しく向上し,この塩をガラス板にスピンコート 像系に関して確立された階調再現の考え方を解説した.それ して得られる非晶質の色素膜の耐光性は,光ディスク用とし は,視覚の明度関数の観察環境による変化分の補償が主な目 て高い耐光性が認められている重金属キレート型のアゾ色素 的であることを示し,更にデジタル時代に生じた新しい事態 の膜と同程度にまで達することを示した(J. Mater. Chem., についても触れた(日写誌,68(4) ,276) .中村(富士フイル 16,345(2006)). ム)らは,各種銀塩感材における階調設計ポイントについて レビューした.カラーネガフィルムにおけるアマチュア用 4. 画像評価・解析 途・営業用途での調子再現の違い,デジタルプリント時に要求 藤野 真(セイコーエプソン) されるカラーペーパーの特性,カラーリバーサルフィルムに おける風景用途・人物用途の設計思想の違い等に関して説明 2005 年も画像評価に関する多くの研究が行われている.画 をした(日写誌,68(4),281).水口(コニカミノルタ)は, 像評価の基本は,像構造,階調・色再現を主に行われてきた. デジタルカメラシステムの階調再現にかかわる因子とその影 ここで人間が一般に画像を観察する環境は,計測器における 響について論じた.デジタルシステムならではの特徴とし シンプルな幾何学的条件より複雑である.その影響をどのよ て,再現画像がディスプレイで鑑賞されること,階調と色と うに評価に取り込むか,またどう心理評価と対応づけるかが, を独立に制御可能であることを挙げ,特に前者については, より高度な評価へと発展する.このような背景を受けて,近 ビューイングフレアをどう扱うかが,機器設計上の実務的な 年は質感に関わる研究が増している.また,さらに上位の概 課題となること説明した(日写誌,68(4),287).岡野(滋 念となる審美的な見地からの解析も行われてきている. 賀文化短大 /シャープ)は CRT,LCD,PDP の階調再現を概 4.1 像構造 括し,LCD に用いられる階調再現技術として,少階調表示素 山崎(千葉大)らは,画像の像構造特性を解析するにあた 子を実質的に多階調化する手法を紹介した(日写誌,68(4), り,民生用スキャナを利用した.ハードコピーの鮮鋭度,粒 293).また,液晶ディスプレイの特徴である加法則の不満足, 状度,ディスプレイの鮮鋭度を対象として評価を行った.特 角度依存性,青色偏移特性について説明した(日写誌,68(1), にハードコピーの粒状度に対しては,高価なマイクロデンシ 21).後田(キヤノン)は,インクジェットプリンタにおけ トメータで得られる値と高い相関係数を得ている(日写春, る階調再現技術として,視覚特性からみた解像度,ドットサ 80).中上(交通博物館)らは,大型ガラス乾板をデジタル イズの設計論を概説するとともに,視覚の空間周波数応答を データアーカイブすること目的とした際の民生用スキャナの 巧みに利用したハーフトーン技術について説明した.2 値プ 調整方法を報告した.テストチャートにより利用スキャナの リンタにおいて十分な階調性を確保するには,1700 dpi の 実効的な解像能力を評価し,原版位置の実務的な決定方法を ドット密度制御が必用となること,網点スクリーン法,Bayer 紹介した(日写誌,68(5),402). ディザ法,誤差拡散法の 3 種のハーフトーンにおいて,誤差 4.2 色・階調 拡散法が望ましい周波数特性を有することを説明した(日写 船生(東京工芸大)らは,を円錐石膏の撮影画像を用いて, 誌,68(4),296).中澤(コニカミノルタ)は,オフィス向 デジタル写真システムの評価を行った.記録された L* 値の け電子写真複合機で採用されている階調再現技術の要点を解 階調特性と,再現された当該画像の主観評価との間に相関が 説した.ユーザー慣習,電子写真特有のハイライト孤立ドッ あることを確認した(日写春,36).宮田(千葉大)らは, トの安定形成,データ量削減等の観点から,網点スクリーン, ドームに投影される再現画像の色再現精度向上を試みた. 万線スクリーン,ハイブリッドスクリーン,誤差拡散の種々 ドーム内の多重反射の特性を測定し,これにより投影系のモ のスクリーン処理(階調処理)技術が用いられてきた経緯を デル化,補正を行い,従来よりも大幅な色再現精度向上を得 説明した(日写誌,68(4) ,300) .中野(大日本スクリーン) 2005 年の写真の進歩 159 は,オフセット平版印刷方式における階調表現手法である 鷺森(千葉大)らは,ゴッホ自画像の肌に用いられている 「網点」技術を概観した.AM スクリーン法においてトーン テクスチャを定量化し,このテクスチャを画像に適用するこ ジャンプやモアレを回避するためにさまざまな網点形状が用 とで,絵画らしい画像を生成することを試みた.テクスチャ いられていること,AM スクリーン法・FM スクリーン法の を方向情報と周波数情報との二つの要素とすることで絵画ら 違い,特徴に関して説明した(日写誌,68(4),304).さら しさが表現できるとしている(日写春,76).福士(千葉大) に杉浦(富士フイルム)は,線数や網点角度の設計自由度と らは,広告写真における肌色において,その印象語と背景色 精度を増すための新たな技法であるスーパーセル方式や, との関係を調べた.「エレガント」「ゴージャス」等の印象語 CTP における高線数 AM スクリーン,FM スクリーン,AM・ と当該肌色の L*a*b* 空間における分布が結びつけられてお FM スクリーンについて紹介した(日写誌,68(4),309).長 り,メッセージを込めた画像サンプル作成の際に参考となる 束(コニカミノルタ)は,X 線診断写真の階調再現について (日写春,82) .山本(千葉大)らは, 「ぎらつき感」という知 解説した.従来のアナログ X 線写真の特性,現在主流のデジ 覚に対して,その影響因子を調査した.背景色と円形注目色 タル X 線システムの特徴について説明し,デジタル系,アナ を様々に組み合わせたところ,背景色,注目色間に明度差が ログ系の階調設計の違いにつて言及した(日写誌,68(5), ない場合,いずれかに赤が含まれる場合に「ぎらつき感」が 377).久保(富士ゼロックス)は,ハイファイカラー用の色 高まることを見出した(日写春,84).Gershoni らは,意味 変換処理に対して,測色的色再現と色分解の連続性の調整を を持つモノクロ画像と単純なグレースケールとを用いて,コ 保証する新しい手法の検討を行い,従来困難であった前記両 ントラスト感度を比較し,Ansel Adams の表現技法の解析を 特性の両立の実現を果たした(日画誌,44(6),408).小寺 行った.Adams が見て,感じたものは,local contrast を調整 (千葉大)は,今後の知的 CMS の方向性として,視覚モデル, することで強調がなされていることを説明した(日写誌,68 画像依存,領域適応を挙げ,その最新動向を解説した(日印 誌,42(1),19). 4.3 光沢・質感 (6),518). 4.4 総合評価 卜部(富士フイルム)は,ISO20462 Psycophysical experi- 滝口(千葉大)らは,偏角分光イメージング法に基づく撮 mental methods to estimate image quality の紹介を行った.同 影システムを用いた実物体における光沢感再現システムの構 標準には,相互に補完的なTriplet comparison methodとQuality 築を行った.同モデルにおいて,異なる表示デバイスにおい ruler method がある.前者は小さい画質差の正確な評価に適 ても十分な光沢感再現が得られることを確認した(日写春, し,後者は大きな刺激差の定量化に適することを説明した(日 30).さらに中口(千葉大)らは,偏角分光イメージング法 写春,24).BRIGGS(QEA)はプリント品質を定量化する におけるカメラ・照明配置の最適化を行い,効率的な撮影回 ポータブルな解析システムの紹介を行った.同システムでは, 数で,画素単位の偏角反射特性を計測する手法を提案した. 対象画像における複数の品質属性(ドットサイズ,ライン幅, 鶴瀬・山本(千葉大)らは,投影型プロジェクタによる物体 濃度,MTF,階調再現,ヒストグラム)を定量化可能とする の光沢感再現において,視点移動の影響を盛り込んだ.磁気 ものである(日画誌,44(6),555,JH 53).三宅(千葉大) 位置センサで取得した視点位置での実物体の光沢部分を計算 は,デジタルイメージング時代における画質評価の課題,今 し,プロジェクタで無光沢物体に投影することで,光沢物体 後の課題に関して概説した.視覚特性,分光特性利用,質感 に近い再現を行った(日写春,32)(日写誌,68(6),510). 森(村上色彩)は,偏角分光測色の対象となる表面の反射光・ の解析・再現等多くの地道な研究の必要性について述べた (日印誌,42(1),10). 透過光の空間分布と分光分布の一般的な光学特性と,偏角分 光測色値を理解するのに必要な測定原理等の基礎知識を解説 した(日画誌,44(6),476).北野(富士ゼロックス)は,電 5. 分光画像 津村徳道(千葉大学大学院工学部) 子写真とオフセット印刷でのグロス発現メカニズムを解明し その差を明らかにすることを試み,電子写真では,オフセッ 昨年度より,“写真の進歩”に分光画像の項目が追加され, ト印刷に比較して,用紙表面形状が印刷後の表面形状に与え 昨年度は分光画像に関する背景に多くの紙面を割くととも る影響が小さいことを見出した(日画誌,44(6),451,JH2005, に,分光画像と色再現の分野の“光”と“影”の部分につい 169).伊藤(コニカミノルタ)は,ISO/IEC CD19799: Method て書いた.分光画像分野の“光”の 部分は,ブームに触発さ of measuring Gloss Uniformity for Printed page の概略説明と実 れて世界中の色彩工学とその応用に関する研究者の多くが分 際の光沢度測定における問題点を含む審議状況を紹介した 光画像に関係した研究に着手し,学会発表数,論文投稿数の (JH2005,57).佐藤(千葉大)らは,画像にホワイトノイズ, 増加傾向であることであった.この傾向は 2005 年度にも継 高周波ノイズ,1/f ノイズによる粒状を付加し,主観評価を行 続し,スペイン・グラナダで 5 月に開かれた色彩科学・工学 いその効果を調べた.結果 1/f ノイズを付加した場合に,評 の祭 典であ る The 10th Congress of the International Color 価が良くなる場合が多く,特に葉や雲や木目といったテクス Association(AIC)においても,口頭発表 22 件,ポスター発表 チャを持ったものに効果的であることを示した(日写春, 19 件もの多数の発表があった.分光画像ブームの“影”の部 78). 分は,分光画像処理の得意とする任意照明下での色再現が必 160 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 要とされる電子商取引などの実用的な分野において,分光画 示されたことが興味深い.ナチュラルビジョンからは,分光 像が実際に使われるに至っていないことであると書いた.し 画像のリアルタイム入力・出力に関する報告が行われた(AIC, かし,情報通信技術のますますの発展とその応用分野の拡大 137) , (Proc. SPIE,6062,G-1) .HDTV カラーカメラを二台用 にともない,一般ユーザの色再現に対する要求が益々高まり, いて干渉ビームスプリッターを介して,合計 6 バンド動画像 かつ,画像機器のコモディティ化に抵抗して生み出される多 を撮影し,DLP プロジェクターを 2 台用いた 6 原色プロジェ 機能画像機器の開発とがうまく呼応して,分光画像にもとづ クターで対象の忠実な色をリアルタイムで再現している.他 く色管理の時代が必ず訪れると期待すると書いた.2005 年度 に CCD 面のカラーフィルタ配列を 7 バンドで配置する方法 は,残念ながらまだその時代が訪れる傾向はあまり出ていな ((Proc. SPIE,6062,A-1),中赤外レーザを利用した物体検 い.さらに残念なことに,その時代が訪れる前に,1995 年度 出を目的とした分光画像撮影法((Proc. SPIE,6062,C-1), から情報通信研究機構が,東京工業大学の大山永昭教授をプ マルチバンド撮影時の各バンドの感度を適切に設定すること ロジェクトリーダとして研究開発してきたナチュラルビジョ で高ダイナミックレンジな画像撮影を実現する手法(AIC, ンプロジェクトが 2005 年度で期間満了により終了した.ナ 183)などが報告された. チュラルビジョンプロジェクトは,分光画像の分野の基礎技 分光画像応用に関しては,上で既に紹介した色素分析など 術,ハードウエア技術から応用技術まで多岐にわたる多大な の処理に続く,ゴッホの絵画に対する電子的な退色復元結果 寄与をしてきた.本紙面をかりて,心より感謝の意を表した (絵画の若返り結果:Digital Rejuvenation)が報告された(AIC, い. 分光画像の分野はこれからどこに行くのか?分光画像にも 369).また,ロシアの歴史的なイコンに対して,分光画像か らメタマー対を 探し出す 手法 が 提案 された(Proc. SPIE, とづく色管理の時代が訪れるまでただ待っているのだけか? 6062,L-1).メタマー対は観察光源下では等色であるが,分 筆者は,昨年の締めくくりにおいて,今後も活発な研究活動 光反射率として異なる分布を持つものである.メタマー対を を継続していくためには,分光画像を基盤とした質感の研究 見つけることにより,代替の絵の具で修復された部分を抽出 に展開されることを期待していると書いた.2005 年度の研究 することを実現している.医用応用としては,ナチュラルビ 発表には,その傾向がはっきりと認められた.さらに,2005 ジョンプロジェクトや千葉大などの肌の病態解析への応用 年度の研究発表の傾向として,美術品のデジタルアーカイブ (CIC,52)(CIC,264)や,ナチュラルビジョンプロジェク や絵画に使われる絵の具の解析などの特定分野に対する応用 トの病理検査画像への応用(CIC,63)が報告された.ナチュ の増加があげられる.振り返ってみると,分光画像の分野に ラルビジョンの肌の病態解析では,分光画像を用いることに とって 2005 年度は,来るべき時代にそなえて,特定分野に よりこれまで RGB 画像では解析できなかった,皮膚の浅い 対象を絞って,その技術をより高めるとともに,さらなる将 部分での赤斑と深い部分での赤斑の違いを見事に判別してい 来を目指して質感などのより未知なる分野に発展的に乗り出 る.病理検査画像への応用では,病理画像の核などの分光情 していく傾向が現れた年であったといえる.ナチュラルビ 報を利用することにより電子的に染色を実現している.他に ジョンプロジェクトも終了後は,皮膚科領域での医用応用, 近赤外バンドを用いた顔皮膚における水分量の計測を実現し デジタルアーカイブなどの特定応用分野に絞った研究開発を た報告がなされた(Proc. SPIE,6062,3-1) .分光画像応用と 行っていくとのことである. しては,他に,照明の判別(AIC,193) ,肉の鮮度の判別(Proc. 本稿では,上にも述べたスペイン・グラナダで 5 月に開か SPIE,6062,2-1),植物のオゾン被爆度判定(AIC,1653), れた国際会議 AIC,11 月に米国・アリゾナで開催された IS&T/ リモートセンシングにおける応用(Proc. SPIE,6062,6-1), SID 13th Color Imaging Conference(CIC),2006 年 1 月に米国・ データベース検索への応用(JIST,49(4),431)など多岐に サンノゼで開催された IS&T/SPIE Electronic Imaging の中の 渡った. Eighth International Symposium on Multispectral Color Science, CIE TC8-07 にて議論されている分光画像の標準化に関し JIST 雑誌,日写誌から,分光画像の入出力,応用,標準化と ては,分光画像のファイルフォーマットに関する議論(AIC, 質感分野の研究に分けて紹介する.大変多数の研究発表が 125)が活発にされたが,現在のところ様々なフォーマット あったため,一部の発表しか取り上げることができないこと の画像をデータベースとして公開し,分光画像研究者への良 を予めご了承いただきたい. きデータベースを提供するとともに,互いにその優越を評価 分光画像入出力に関しては,絵画の高精彩記録を目的とし しながら今後のフォーマット策定の参考にすることなってい て ヨー ロ ッ パに て EU の ファ ン ド に よ り 行 わ れ ている る.現在,http://www.multispectral.org/ にデータベースなどが CRISTAL project の成果が学術論文として刊行された(JIST, 公開されている. 49(6),551),(JIST,49(6),563).また,AIC では招待講 質感分野の研究に関しては,津村により分光画像と質感再 演として発表があった(AIC,463) .CRISTAL では,可視領域 現の関係がまとめられた(AIC,119).商品開発の短期化な 10 バンド,赤外領域 3 バンドの干渉フィルタを用いている. どが進むにしたがって,プロトタイプを質感再現技術により システムのノイズ特性などを考慮したシステムの高精度な 電子的に作成し,評価することは益々重要となる.質感再現 キャリブレーションを実現している.また撮影された絵画の 技術において,分光情報を用いて処理することは再現の正確 分光画像に対して,色素分析,補修判定など実用的な応用が さなど様々な観点から重要であることを紹介している.質感 2005 年の写真の進歩 161 を異なる方向から見えを記録.再現する技術として,布地の ファイルを重ねることにより,評価の信頼性を高めたプロ 異方性反射特性の分光的計測とコンピュータグラフィックス ファイル内挿法,劣化のプロファイルそのものが温度依存性 技術を用いた衣類の再現に関する研究報告がされた(AIC, をもつ非アレニウス系材料を評価するために,室温での 129).また,異なる方向から見えを記録する際のカメラ位置 フィッティング関数の係数を数学的に算出し,その温度にお や照明位置の最適化に関する研究成果(日写誌,68(6),532) ける劣化曲線を求めるプロファイル外挿法,更には精度の向 や,飽和した画素値より角度補間により光沢を推定する手法 上を目指した確率予測法などの考え方と手法について解説し (Proc. SPIE,6062,8-1)が発表された.質感を記録する装置 としては,スキャナに 2 つの異なる角度から光源を設置する ている. 従来の暗保存評価に対する改良の試みという観点では, ことにより,光沢感や表面粗さを計測することができる質感 Bugner ら(Kodak)は,インクジェットプリント種によって スキャナの提案が行われた(Proc. SPIE,6062,D-1).他に, は高湿下で滲みが発生し,暗保存のアレニウス評価の信頼性 肌の見えの再現を皮膚内部での光散乱を考慮して分光的に実 に支障をきたすことから,従来の一定相対湿度(50%RH)に 施した研究も報告された(JIST,49(6) ,574) .新しい概念と お け る 試 験 に 対 し,一 定 絶 対 含 水 量 の も と で 評 価 す る しては,プロジェクターを物体に投影することにより,物体 (Constant Dew Point 法)ことによる有用性を検討している の質感を制御する技術の報告が行われた(日写誌,68(6) ,510) (NIP21,348).また,意味のある加速試験結果を得るには, (CIC,31) (Proc. SPIE,6062,I-1).以上のように,分光画 像と質感再現の組み合わせの研究が増加傾向にある. プリント材料の物理特性にも注意を払う必要があり,Smitley ら(Kodak)は,暗保存のアレニウス評価を行う場合,支持 2006 年 2 月に東京大学出版会より分光画像処理入門(三宅 体のガラス転移点以下の温度で実施しないと正しい予測にな 洋一編)が出版された.本書では,分光反射率推定理論,シ らないことを,自社の昇華型プリントを例に喚起している ステムから質感の記録と再現まで幅広く紹介されている. (NIP21,339). 2006 年度は,特定応用での実用を目指した研究や,さらなる インクジェットの耐光性とオゾンガス耐性については,加 将来を目指して質感などのより未知なる分野に発展的に乗り 藤と須田(コニカミノルタ)により解説がなされた(日写誌, 出していく研究が益々進むものと思われる. 68(2),112 / 画像保存セミナー 11).ガス耐性評価における 試験条件(湿度及び風速依存性等)や相反則不軌は,各種イ 6. 画像保存 ンクとメディアの組み合わせに依存すること,及び最近の寿 命年数の求め方や ISO の規格動向についても言及している. 6.1 画像保存関連技術 金沢幸彦(富士写真フイルム・イメージング材料研究所) 画像保存評価方法の検討は,昨今改良目覚しいインク ジェット用インクやメディアの開発に連動し,引き続き精力 最新の染料系及び顔料系インクジェットの耐光性及び耐ガス 性能については,大西(セイコーエプソン)が,各加速試験 において,旧製品との比較データをもとに紹介している(日 写誌,68(2),120). 的に行われている.銀塩カラーペーパーにおいても画像保存 更に,耐オゾン性や耐光性における試験条件依存性に関し 性,特にガス耐性を更に改良した製品が世に出され,これら ては,Bugner ら(Kodak)が,オゾンガス耐性における湿度 画像形成方式や材料の異なる各種デジタルプリントを横断的 や風速の依存性を,インクとメディアの組み合わせの中で評 に評価するに足る画像保存性評価法や,自然経時劣化をより 価しており,その挙動は多孔質と膨潤系メディアで異なるこ シミュレートする加速試験方法の探求が共通の課題となって と,また,相反則の特性は,主に染料系インク / 多孔質メディ いる. ア,染料系インク / 膨潤系メディア,顔料系インクの 3 つに 昨年の画像保存関連技術に関する報文及びセミナーの特徴 分類できるとしている(JIST,49(3),317).また,間欠露 は,1)劣化に関わる各種環境要因に対する画像保存性評価 光の耐 光性 試験 における 湿度 依 存性について,Reber ら 法について,現時点での総括的な解説がなされたこと,2)ガ ス耐性に関し,引き続き妥当な評価法の検討がなされている こと,3)従来の評価法の問題点を改良する試み(例:イン (Ilford)が検討(NIP21,344)している. ガス耐性の評価法に関しては,金沢ら(富士フイルム)が, 室内における自然経時劣化と加速ガス試験(単一ガス・混合 クジェットの暗保存評価において,ノイズとなる高湿下にお ガ ス)と の 比 較 よ り,最 近 提 唱 さ れ た 混 合 ガ ス 試 験 ける滲みを回避する手段の検討)がなされたことなどがあげ (O3+NO2+SO2)では,自然経時に合わないケースがあるこ られる.また,技術報告とは別に,各種プリントの画像保存 と,及びそれは試験槽における O3 と NO2 ガスの急激な反応 性能を,統一的に評価するための規格化推進の動きが国内外 によるものであることを指摘している(Japan Hardcopy 2005, で見られた.以下,画像保存評価技術別に概要を紹介する. 99/NIP21,357).一つの試験法で,材料や画像形成法が異な まず暗保存性(湿熱)に対しては,瀬岡ら(富士フイルム) るプリント材料のガス耐性を正確に評価するのは困難な部分 が,これまで開発してきた暗保存評価法について,総括的な を伴うが,複数の単独ガス試験結果を,総合的に評価するこ 解説を行った(日写誌,68(2),107/ 画像保存セミナー 11). とで対応できると考えている. 評価法としては,一定量変化するのに要した時間をプロット する従来のアレニウス評価のほか,各温度における劣化プロ 寿命予測の評価に関しては,瀬岡ら(富士フイルム)が, 絶対評価法を用いた強制耐光試験による寿命予測が市場実態 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 162 に合うことを検証.また,広告用透過画像の掲載必要年数か る.資料館等の建設を目指して,調査・収集した資料を保 ら,現行品種の耐光性を比較した(日写春,72). 管・活用するための事業を進めている(月間 IM,1,10).橋 保存方法についても検討がなされ,瀬岡(富士フイルム) 本(神戸学院大学)は,英文学者・宗教家である平井金三の は,長期経時(6,10 年)により劣化した試料を,長期推奨 遺稿や関連資料をマイクロ化および電子化を行い,劣化,損 C 40%RH)で更に 10,6 年保管したところ,劣 保存条件(7° 傷のはげしいものやハンドクリプトを中心に,資料保存をは 化はほぼ停止されることを確認した(日写春,68).また坂 かった実例をまとめている.この成果は,平井金三に関する 本ら(林原資料センター)は,夏場に写真用長期低温低湿保 宗教史,仏教学,英文学,文化史,日本学といった様々な側 管庫から試料を取り出して作業する場合の,フィルム表面の 面からの研究の基礎データになると期待される(月間 IM,3, 温湿度変化を追跡し,今後の工程改善への指針を得た(日写 10).山口(東京都写真美術館)は,写真画像の劣化の要因, 春,70). 写真保存関連の JIS 規格,東京都写真美術館での保存環境・ 6.2 展示・修復・保存関係 保存包材,一般家庭における望ましい保存方法について概説 山口孝子(東京都写真美術館) した(日写 誌,68,248).Bigourdan(Rochester Institute of 展示・修復・保存関係分野では,資料を取り巻く保存環境, Technology)は,自然な劣化と初期段階における加速度試験の 災害への取り組み,修復理念,材料の耐久性と多岐にわたっ 結果が一致していること,また,劣化の始まった酢酸セルロー て報告があった.デジタルアーカイブでは,館内検索からイ C の収蔵庫で保管した場合には,劣化の進 スフィルムを –16° ンターネットを介して自宅検索へと積極的な公開が進み,よ 行が認められないことを報告した(IS&T Archiving Conference, り身近になった.デジタルデータや写真技術を活用した計測 60). や,古典技法に挑戦した高校生からも報告があった. ここで, 「共通文献略称」の他に次の略称(括弧内)を使用 デジタルアーカイブにおいて,飯島博史(国立公文書館) は,歴史公文書等の目録情報の検索サービスであり,検索結 した.マテリアルライフ誌(MLF 誌),文化財保存修復学会 果と連動して資料画像を閲覧できる「インターネット閲覧室」 (文化財誌),日本色彩学会誌(色彩誌),埋文写真研究(埋 と,重要文化財や大判資料などの閲覧が困難な資料を閲覧で 文),文化財修復学会第 27 回大会研究発表(文化財). きる「インターネット展示室」を概説し,採用した画像デー 九州国立博物館開館にあたり,保存環境に関する報告が多 タの形式についても解説している(月間 IM,11,10).山際 数あった.鳥越(九州国立博物館)らは,収蔵庫と展示室の (マイクロテック)は,低 UV,低温度設計ランプ,非接触で 空気室の測定結果(文化財,136),有野(同)らは,館内全 ある大判カラースキャナー,デジブックを使用した,テキサ 域における揮発性有機化合物の濃度測定とその軽減対策(文 ス大学図書館が所蔵するグーテンベルグ聖書のデジタル化を 化財,138),藤田(同)らは適切な収蔵庫棚の研究(文化財, 紹介している(月間 IM,11,16).篠塚(筑波大学附属図書 140),犬塚(東京文化財研究所)らは,壁付展示ケースの相 館)は,電子図書館システムを導入してから今日までの取り 対湿度の安定性と,換気回数および調湿剤の能力との相関を 組みを紹介し,今後は「所蔵資料のデジタルアーカイブによ 調査した(文化財,142).博物館等での作品劣化を防止する る公開→それを利用した研究成果の学術機関リポジトリ(学 1 つに空気汚染管理を挙げられるが,瀬古ら(竹中工務店) 術雑誌掲載論文等の研究成果を大学として永続的に保存して は,コンクリート施工前の材料選定によってアンモニアガス 広く公開すること)への登載→学術機関リポジトリに登載さ が低減できることを確認した(文化財,92).及川(東北歴 れた研究成果を利用した新たな研究の開始」という流れの中 史博物館)らは,木質系収蔵庫内装材に使用されるベイスギ で,所蔵資料の公開と活用を想定するとしている(月間 IM, 揮発成分であるヒノキチオールが,文化財材質に影響を与え 12,10).中土(交通博物館)らは,大型ガラス乾板ネガか る物質となっている可能性が高いことから,その除去の検討 ら直接ディジタルデータ化する際に,スキャナーの解像度, を行なっている(文化財,96). 階調性,焦点調節の検討,さらに原板位置の設定を行なった. また,IPM(総合的有害生物管理)の概念は広く浸透した ものの,理想と異なる状況におかれている博物館等では,そ の適用方法に苦慮しているという.木川(東京文化財研究所) さらに安心して使用できるデータ保存するためには,議論す べき要素がまだあるとしている(日写誌,68,402). 保存を目的に,デジタルデータあるいは写真を計測に活用 らは,主に施設の状況に応じて 7 段階に想定し,各段階で予 した報告として,二神(東京文化財研究所)らは,タイ・ア 想される生物劣化の状況と,それに応じた IPM の活動例やさ ユタヤ遺跡のマハタート寺院の煉瓦建造物を例に,デジタル らなる改良案を提示している(文化財誌,49,132). 写真測量技術による文化財計測を実践し,その有用性を示唆 小見(新潟県立近代美術館)は,大地震に見まわれた県立 した(文化財誌,49,86).呉市海事歴史科学館は,戦艦「大 美術館が,余震の続くなかで「展覧会」 「所蔵品」 「施設」 「情 和」(縮尺 1/10)復元が展示の中核を占める.齊藤(呉市海 報」をめぐる対応や「公開」と「保存」の両立をどのように 事歴史科学館)は,戦艦「大和」の不明箇所解明にあたり, 目指したのかを報告した(画像保存,25). 設計図面・写真資料類のデジタル化とそのデータの活用事例 アナログの保存関係において,高木(寒川町企画部)は, を紹介している(月間 IM,9,10).田辺(アートラボ AGRA) 昭和 61 年より始められた町史編さん事業の調査概要,およ らは,ヴェネツィアの景観の色彩構成を記録するため,建物 び 65 万コマにも及ぶ古文書のマイクロ化の実例を語ってい 外壁の撮影を行いプリントした紙を部材別に切り出し,その 2005 年の写真の進歩 紙片を色別に精密重量測定する色彩重量法を用いた調査報告 をしている(色彩誌,29(3),105). 163 7. 映画 杉山宏明(富士写真フイルム・イメージング材料研究所) 材料の劣化・影響度に関して,稲葉(東京藝術大学大学院) らは,実際の保存環境で酸性紙とアルカリ紙が接触したこと 2005 年の日本国内における映画館への入場者数は邦画「ポ によって生じた変色の事例を報告し,酸性紙とアルカリ紙の ケットモンスター;ミュウと波導の勇者ルカリオ」, 「交渉人 接触圧力と湿度の変色度への影響を検討した結果,変色に関 真下正義」 ,洋画「スターウォーズ;シスの復讐」 , 「宇宙戦争」 与する物質の一部は発揮性であるとした(文化財誌,49, 等が上映されたが,1 作品あたり興行収入 100 億円を越える 100).中野(特種紙商事)は,挿入法によって隣接する紙同 作品がなく,入場者数は 161 百万人で前年比 5.7%減少,興 士が作用した結果を受け,新たに保存用紙に対する安全性の 行収入は 1981 億円で前年比 6.0%減少した.一方,スクリーン 基準を提案し,また,調湿性やガス吸着性を有する,保存環 の数は2926スクリーンで前年に比較し3.6%の増加となった. 境を改善する機能を持たせた紙の有効性について紹介した 文化庁は「日本映画映像振興プラン」として日本映画・映 (画像保存,19).園田(国立民族学博物館)らは,発生ガス 像の創造,流通促進,人材育成,フィルムの保存・継続など 分析,熱分解ガスクロマトグラフィー,熱脱着ガスクロマト に平成 18 年度予算を 22 億円とした.昨年に比較し 12.2%減 グラフィーを使用して,資料の保管・展示に用いる紙や合成 少した. 樹脂の素材の材質試験を行ない,質量分析と組み合わせるこ 米国では興行収入 9100 百万ドルで 5.0%減少,観客動員数 とで,検出された成分の正確な同定がおこなえるとした(文 1400 百万人で 9.0%減少,スクリーン数 36.6 千スクリーンで 化財,90) .また,文化財修復に使用される接着剤は,文化財 2.5%増加となった. に影響を与えず,適度な強度を持ち,可逆性があり,耐久性 富士写真フイルム(株)は映画用ネガフィルム ETERNA に優れていなければならない.植田ら(元興寺文化財研究所) 400T タイプ 8583,8683,及び ETERNA250T タイプ 8553,8653, は,埋蔵文化財に使用される接着剤を中心に,保存修復後の 同 250D タイプ 8563,8663 を発表した.又,映画用ポジフィ 変化を調査して接着剤の劣化要因をまとめ,さらに強制劣化 ルムについては ETERNA-CP XD タイプ 3521XD を発表した. 実験による保存処理薬剤の接着剤への影響から,薬剤が接着 剤の劣化を促進すると指摘している(MLF 誌,17(3),89). コダック(株)は映画用ネガフィルム VISION2 50D タイプ 5201,7201 を発表した. 高根(日本ウエザリングテストセンター)は,実験室光源曝 (株)ピクトと(株)東北新社は,スーパー 35 フィルム撮 露試験で使用されるフィルターの種類と経時変化が,耐候性 影から HD テレシネ変換に関する「PT システム」の運用基 試験の相関性や再現性等に及ぼす影響をプラスチックフィル 準を提案した(映画テレビ技術;以降映テレ 642,2-62 プロ ムを用いて実験し,短波長部に吸収のない材料への影響は小 グレス委員会). さいとしている(MLF 誌,17(4),127). 修復や修復理念に関して,川瀬ら(堀内カラー)は福井県 教育庁埋蔵文化財調査センターの水害フィルムの救済の過程 を記し,さらに水害による写真フィルムの応急処置として, (株)ナックイメージングテクノロジーは,アリ社が開発し たデジタルカメラ「ARRIFLEX D-20」を導入し,レンタルを 開始した. ソニー(株)は青紫色レーザーを利用したプロフェッショ 薬品処理の有効性や冷蔵・冷凍の静菌効果について報告して ナルディスクシステムの XDCAM シリーズとして HD 対応モ いる(埋文,16,110). デル「XDCAM HD」3 機種を発売した. また,川瀬(堀内カラー)は,歴史資料のデジタルアーカ 池上通信機(株)はイメージセンサーに 2/3 型 210 万画素 イブにおける色彩画像の記録と修復の問題点を挙げ,カラー の CMOS を採用した,テープレスカメラレコーダー「HDN- 写真フィルム(E-3 ポジ)の退色復元を交え,文化財の記録 X10」を発表した. はデータの信憑性と正しい記録のために,データの素性や修 松下電器産業(株)は半導体メモリーに HD 信号を記録す 復した履歴をメタデータとして残すことの重要性を述べてい る小型 HD カメラレコーダー「P2 ハンドヘルド」AG-HVX200 る(色彩誌,29(3),243).河野(コニカミノルタフォトイ を発表した. メージング)は,白黒銀画像の場合の劣化のメカニズムと, (株)NEC ビューテクノロジーは,米国テキサスインスツ 変退色した写真の化学的な修復処理について解説した(画像 ルメント社の DLP シネマ用「DC2K」を搭載した,NC2500S 保存,26).尾立(京都造形芸術大学)は,美術工芸品領域 DLP シネマプロジェクターを発表した. における社会性をもった修復倫理が,国内外でどのように構 (株)IMAGICA は,キネスコープレコーディング(キネレ 築されてきたのかを紹介し,日本独自の倫理要綱を設ける必 コ / キネコ)技術に代わる デ ジタル処理シス テム Digital 要性を述べている(画像保存,32). Intermediate(DI)を採用したリアルタイムフィルムレコー 古典技法の再現として,前野ら(石川県立金沢泉丘高校) が所属する化学部では,既に銀廃液から金属銀を回収し硝酸 ダーを開発し,処理作業の受注を開始した(映テレ 642,262 プログレス委員会). 銀を再生することに成功していたが,ここではリサイクル硝 プロデユーサーである Bankston は,色域と色管理に関する 酸銀を使用したコロジオン湿板写真法の再現への取り組みを 記述の中でフィルムとディジタルのハイブリッド制作ワーク 紹介している(日写誌,68,133). フローの諸問題と解決の可能性について考察している.現段 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 164 階では,個々の作品ごとにワークフローが構築される状況に プの乳房撮影用および一般撮影用アルミステップウェッジを 対し,ASC 技術委員会はディジタル・ワークフローに適用で 用いて,乳房撮影用 SF 系におけるブートストラップ法につ きること全てを概括した「ディジタル入門書」を作成中であ いて検討した結果,特性曲線の肩部においてタイプによって り,その内容は,技術的進歩と機器開発双方を反映し,委員 若干の違いが見られるが,線質に起因する違いは確認できな 会の推奨実践法と共に定期的に継続更新される予定であると かったので,どちらのタイプのアルミステップウェッジでも Bankston は述べている(American Cinematographer, January, 乳房撮影用 SF 系のブートストラップ法に用いることができ April 2005). ると報告している(医学物理,25(4),165) (株)エヌジーシーはディジタルシネマとして 2006 年 3 月 松尾ら(滋賀医大附病)は,X 線位相イメージング用に改 より公開される「ナルニア国物語 第 1 章ライオンと魔女」 良された X 線乳房撮影装置の物理特性を評価した結果,位相 を米国 QuVIS Cinema Player を利用し,日本初の商用での DCI イメージングはエッジ強調により密着撮影に比べて鮮鋭性, 規格に準じた JPEG2000 圧縮,X:Y:Z カラースぺース,MXF 分解能ともに優れていて,散乱線の影響を受けにくく,画像 ファイル形式,セキュリティーを用いたディジタル上映で行 の劣化が少ないため,密度差の少ない物質間でのエッジ強調 うことを発表した.日本におけるディジタルシネマは,ディ 効果により検出能の向上が期待されると報告している(日写 ジタルシネマサーバとして QuVIS がほぼ 100%採用され,全 誌,68(別 1),8). 国の映画館で約 40 スクリーンが導入されている. 大原ら(コニカミノルタエムジー)は,新しい位相コント ラスト技術を従来技術で構成されている乳房撮影装置で実現 8. 医用画像 するために,撮影拡大率の設計を検討して,フルフィールド 松本政雄(大阪大学大学院医学系研究科) 撮影および撮影拡大で最も画質が良くなり,病変の描写性の 高いシステムを構築したと報告している(日写誌,68(別 1), 8.1 医用画像の基礎 10).さらに,同社の本田らは,位相コントラスト乳房撮影 8.1.1 医用画像の変革 システムを使用する場合の 1.5 倍スポット拡大撮影の画質を 小寺(名大)は,「医用画像 その過去と現在そして未来」 解析して,フルフィールド画像と比較して拡大効果による鮮 と題して,1895 年のレントゲンによる X 線発見以来の医用 X 鋭度の向上が大きく,臨床撮影において微小石灰化粒子の視 線画像である増感紙 / フィルム(Screen/Film: SF)系を使っ 認性の向上が認められたと報告している(日写誌,68(別 2), た X 線写真からコンピューテッドラジオグラフィ(Computed 35). Radiography: CR)や平面検出器(Flat-Panel Detector: FPD)を 片桐ら(鈴鹿医科大)は,ウェーブレット(wavelet)変換 使用したディジタル画像までの変遷を概観し,現在の医用 X を用いて胸部ディジタル X 線画像のノイズ低減を行う場合, 線画像のディジタル化の利点として,コンピュータ支援診断 20[dB]以下のノイズの多い画像に対しては,閾値決定に関 CAD(Computer-Aided Diagnosis)の導入やネットワークによ してノイズパワーの情報を必要としない判別分析の適用が有 る画像情報の共有化の現状,及び将来のディジタル画像に特 効であるかどうかを検討し,有効なことがわかったと報告し 有な画像の取扱と読影システムの構築を目的としたシステム ている(日写誌,68(別 2),13). 開発やコンピュータ支援医療 CAC(Computer-Aided Clinical) の有用性について検討していく必要性を解説している(日写 誌,68(別 1),2). 松本ら(阪大院医)は,ディジタルマンモグラフィにおけ る最適化撮影のための画質と被曝線量を検討し,CDMAM (Contrast Detail MAMmography)ファントムの検出能の比較 松本(阪大院医)は, 「医用画像の変革と画像表現」と題し において,被曝線量を一定にした場合,CDMAM ファントム て,1972 年の X 線 CT 装置の開発から始まった医用画像にお を挟む PMMA ファントムの厚さが 1.7 cm 厚では線質の違い ける X 線画像のディジタル化について概観し,現在の医用画 による有意差は見られなかったが,Mo/Mo の検出能が高く, 像のディジタル画像検出システムの主流になりつつあるFPD Rh/Rh の検出能が低い傾向になった.3.7 cm 厚でも線質の違 の現状について,SF 系や CR と比較しながら解説している いによる有意差は見られなかったが,Mo/Mo の低管電圧撮影 (日写誌,68,450). 真田(金沢大)は,FPD システムの新たな臨床応用技術に では検出能が高く,Mo/Mo の高管電圧撮影では検出能が低い 傾向が見られた.5.7 cm 厚では,Rh/Rh の検出能が高く,Mo/ 関する開発研究,さらには臨床試用についての特集号を編集 Mo の検出能が低い傾向が見られたと報告している(日写誌, し,FPD が拓く新しい X 線画像の検査技術,歯科口腔外科領 68(別 2),33). 域の FPD を用いたトモシンセシス,FPD の優れた時間分解 8.2 医用画像の応用 能を応用したエネルギーサブトラクションや動画像解析, 8.2.1 医療用 3 次元画像形成と画像診断技術 ポータブルFPDを用いた画像サーバーとの連携システムなど について報告している(医画情誌,22(1),2). 8.1.2 画質評価 中森(京工繊大)は,秋季大会の特別セッション「デジタ ル画像処理の応用最前線」で医療分野における 3 次元画像再 構成,可視化およびコンピュータ支援診断技術の現状につい 阿部ら(茨城医療大院)は,散乱線及び X 線強度分布の空 て概説し,3 次元画像は人体を非侵襲的に可視化し,病気の 間的不均一の影響を小さくするために工夫された 2 つのタイ 早期発見に大いに貢献しているが,局在化した病巣の発見で 2005 年の写真の進歩 165 は,データ量が多く,医師の負担が増加する原因になってお いて行なわれている.3 次元画像表示一般については 3 次元 り,医師が 3 次元画像を用いて,効率的に病巣を発見するに 画像コンファレンス 2005(3D コンファレンスと略)で広範 は,3 次元画像の可視化や病気の発見を支援するシステムの 囲にわたる分野の研究発表が行われた.ホログラフィに関し 開発が重要であると報告している(日写誌,68(別 2),11). ては SPIE と IS&T 共催の Electronic Imaging のシンポジウム 村瀬(阪大院医)は,磁気共鳴撮像法(Magnetic Resonance (Practical Holography XIX:Materials and Applications,その Imaging: MRI)を用いた血流動態情報や代謝情報の取得と解 Proceeding は SPIE の Vol. 5742 として出版された)を初め, 析ついて,簡便,非侵襲的,短時間,高精度などをキーワー 国内では写真学会の年次大会,秋季大会,Optics Japan 2005 ドに医用画像の機能解析に関して解説している(医画情誌, 22(2),117). (OJ と略)などにおいても研究発表が行なわれた. 3 次元画像表示に関しては,被写体を周囲 24 方向から撮影 8.2.2 医療トレーニングシステム しその画像をミラーを介して回転する特殊なスクリーンに表 遠藤ら(千葉大院)は,腰椎穿刺トレーニングシステムを 示する新しい 360 度立体映像表示システムの開発について大 構築する際に,針の挿入位置を決定する触診のため正確な触 塚(日立製作所)が紹介した.スクリーンは 1 秒間に約 25 回 覚再現を目的として,方向依存性を考慮した多次元ハプ 転しており,両眼視差によって立体感が得られ 360 全周の映 ディックテクスチャとその実現アルゴリズムを提案し,仮想 像を見ることができる.この手法を応用すればリアルタイム オブジェクトの内部構造を考慮した従来のハプディックテク で立体映像の伝送も可能である(3D コンファレンス,33). スチャ法と比較できるようにした.今後の課題は多次元ハプ 3D 映像技術の応用の一つとして,無形文化財の保存に活用 ディックテクスチャを生成する式の定数の決定や精度評価を する研究が行われている.片山(NHK)らは,伝統舞踊の中 行い,実際のトレーニングシステムへ実装することであると の能楽を取り上げ,演者の 3 次元動オブジェクトを高品質に 報告している(日写誌,68(別 1),4).また,同大学院の奥 生成し,3 次元映像をアーカイブ化する技術の開発を行って 井らは,腹腔鏡手術トレーニングシステムに,術前に腹腔鏡 いる(3D コンファレンス,149).カメラ 19 台と照明機器を や鉗子の挿入箇所の位置決めを決定するシミュレーションシ 備えたスタジオで画像を取り込み 3 次元形状生成アルゴリズ ステムを実装するために,Level Set Method を用いて,手術 ムを用いて動的 3 次元モデルを生成する. の妨げになる膵臓をCT画像から抽出することを試みた結果, 計算時間の短縮化のためのプログラムの改良,再初期化の実 鶴田(工芸大)らは,物体を 2 方向から照明して得られる 投影像のペアを用いた立体顕微鏡を考案し,微小な透明・半 装,膵臓形状情報を用いた新しい速度関数が必要であること 透明物体の実時間立体視の研究を行っている(OJ,101).照 がわかったと報告している(日写誌,68(別 1),6).さらに, 明光として従来の発光ダイオードに代わり半導体レーザーを 同大学の三宅は,秋季大会の特別セッション「デジタル画像 用いることによりコントラストの高い像が得られる. 処理の応用最前線」の基調講演で,医療過誤の再発防止のた ホログラフィ関係では,3D 表示として,反射型ホログラム め臨床研修の充実や医師の再教育による技量向上を目的とし を利用して左右視差分離を行うスクリーンによる立体映像表 て,同大学の研究室で開発している VR(Virtual Reality),CG, 示システムの試作が坂本(島根大)らによって行われている 画像処理技術を駆使した中心静脈穿刺,腰椎穿刺,腹腔鏡手 (3D コンファレンス,81).音響光学素子や液晶パネルを利用 術トレーニングシステムの開発例を中心に,最近行われてい した電子ホログラフィはリアルタイムの 3 次元動画像表示が る医療トレーニングシステム開発の現況と課題について紹介 可能である.山口(日大)らは,水平視差だけでなく垂直視 し,医工学の連携の重要さについて報告している(日写誌, 差ももつ全方向視差のホログラフィテレビジョンを実現する 68(別 2),9). ための基礎検討を行い,計算の高速化によりリアルタイムの 8.2.3 医療画像出力 像表示が可能であることを示した(3D コンファレンス,89). 鈴木ら(キヤノン)は,インクジェットプリンタを用いて, 金岡(湘南工大)らは,光変調デバイスとしての DMD(Digital 医療画像を透明フィルムと紙ベースメディアに出力すること Micromirror Device)にホログラムパターンを書き込み,それ を試み,合わせて ROC 解析を用いて臨床画像(胸部画像)評 にレーザー光を当てて得られる反射波面を水粒子で構成され 価を行い,診断に使用されているドライイメージャと画質的に るアレイ状粒子スクリーンで散乱させることによって再生像 透明フィルムは同等で,紙ベースメディアは若干劣るものの を観察するシステムについて報告した(3D コンファレンス, 検定上の有意差がないことが確認できたが,透明フィルムは 41). 薬価に対応していないことから紙ベースメディアに対応した 68(別 1) 12) 製品の発売を開始すると報告している (日写誌, , . 反射型ホログラムは波長選択性に優れており白色光で再生 できるため,この型によるカラーホログラムの研究が行われ ている.記録は原理的には 3 原色に相当する 3 波長の光で行 9. 科学写真 われるが,3 つ以上の波長の光で記録した方が再生像の色再 現はよくなる.Mirlis(North East Wales Institute of Higher Education)らは,7 波長記録までの最適な波長の組み合わせ 9.1 3D 表示 久保田敏弘(京都工芸繊維大学 名誉教授) ホログラフィを含む 3 次元画像表示に関する研究が引き続 に対して色再現性を解析し,よい色再現が行われるためには 4 ないし 5 波長で記録することが望ましいことを報告した 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 166 術開発による全く新しい局面も期待できる. (PSPIE,5742,113). ホログラフィ用記録材料に関しては,久下(千葉大)らは 鷺森ら(千葉大)は絵画の表現技法を写真における心地よ 写真感光材料を用いた新しい金微粒子分散ゼラチン膜の作製 いノイズとしてとらえ,現代イメージング技術に応用するこ 法について研究している.ホログラフィ用乾板に干渉縞を記 とを試みている.まず絵画と写真の違いとして輝度の差を求 録し金沈着現像を行うことにより薄い金膜からなるホログラ めた.そして絵画の特徴としてテクスチャの解析を行った. ムを作製することができる.Agfa8E75HD 乾板と He-Ne レー これらの結果をデジタル画像上で処理することにより,新た ザーを用いてマスターホログラムを作製し,これからコニカ なイメージング技術への応用を試みている.ここでは絵画の ミノルタ P-5600 乾板と Ar レーザーを用いて金膜のイメージ 輝度やテクスチャをデジタル画像の向上に利用するために解 ホログラムを作製した(日写春,48;OJ,428).膜の厚みは 析しているが,文化財の面からみると写真と絵画の比較によ 5 nm 程度であり,明るい再生像が得られたことが報告され る輝度の差や絵画のテクスチャの解析など文化財の研究にも た. 多いに役立つと考えられる(日写誌,68(別 1),76–77). 岩崎(京工繊大)らは,新しく開発された赤色域に感度を 富永(大阪電気通信大)はデジタルアーカイブで映像化さ もつコニカミノルタ P7000 乾板のホログラフィック特性につ れる絵画を従来のような固定された視点,照明下で撮影され いて報告した(日写秋,51) .現像液,漂白液の種類の種々の たものではなく,希望する照明や視点位置で再現されたもの 組み合わせに対する透過型および反射型ホログラムの回折効 を利用できるようにする研究を行った(日印誌,42(2),28– 率,再生波長などを測定した.感度に関しては Agfa8E75HD 34) (画像ラボ,16(4) ,2–26) .デジタルアーカイブでの画像 が勝るが回折効率において P7000 の方が優れている結果が得 の質の向上につながるものと期待される. デジタルアーカイブは様々な文化財の情報や画像をデジタ られた. 銀塩乳剤,フォトポリマーがホログラフィ用記録材料とし ル化して保存,公開するシステムのことであるが,樫村(慶 ては使われているが,重クロム酸ゼラチンは高い回折効率や 応義塾大)は,貴重書のデジタルアーカイブに関する研究と SN 比が得られるのが特長である.宮嶋(千葉大)らは,分 実践を推進し,その現状について報告している.貴重書を画 子量分布の異なる 3 種類のゼラチンを試料として前硬膜時に 像化する具体的な方法や困難な点について,また公開する時 ゼラチンを架橋する Al (III) と露光時にゼラチンを架橋する に生ずる問題点を挙げ興味深い(日写誌,68(2),123–132). Cr (III),および現像時に溶出するゼラチン量を調べ,ゼラチ 彫刻や建造物の記録では,三次元による形状の計測的要素 ン種によるホログラムの質の違いは前硬膜に対する反応性が により構成された立体的な画像を取得することは重要であ 重要な因子であることを報告した(日写春,142). る.年々改良される三次元画像のなかで文化財への応用が期 近年,最先端の物理学,化学,生物学などの自然科学の分 待される研究をいくつか取り上げる.滝口ら(千葉大)は実 野においてフェムト秒レーザーを用いた超高速現象の研究が 物体の光沢感をより正確に再現するシステムを構築するた 精力的に行われている.フェムト秒レーザーからの光は時間 め,実験を行った.文化財のデジタルアーカイブを構築する 的に極めて短いパルスであり,これを利用したホログラフィ 際に,形状,色,質感,などの情報を保存するシステムが普 により光の伝播の様子を連続画像として観察することができ 及しつつある.だが,画像の光沢感と実物体の光沢感が異な る.駒井(京工繊大)らは,今まで行ってきた 2 次元像の観 るため正確な画像再現を行うことが出来なかった.この研究 察の結果を進めて,3 次元空間を伝播する光パルスそのもの により,実物体を自由に動かし,再現画像との光沢感を評価 を観察する方法について報告し,得られた超短パルスの 3 次 する実験に再現モデルの有効性がより高いことが確認された 元動画像とその理論的な解析結果を示した(3D コンファレン (日写誌,68(別 1),30–31).また,鶴瀬ら(千葉大)はここ ス,61) .フェムト秒レーザーによる光硬化性樹脂の 2 光子吸 でも物体の質感を再現するために重要な光沢感に着目してい 収を利用した微小立体構造物の造形に関して,山田(工芸大) る.光沢感は視点移動により光沢部分の形や位置が変化する らは,導電性高分子を用いた 3 次元情報の記録・表示を目指 が,これまではこの変化については考慮されてこなかった. した研究において,ルテニウム錯体のフェムト秒レーザーに 今回の研究では視点移動に追従した光沢感の再現を行い,よ よる光誘起電子移動系の組み合わせにより,導電性高分子の りリアルな光沢感の再現を可能にした(日写誌,68(別 1), 増感重合を確認した(日写春,138). 32–33). 画像を表示するデバイスは様々あるが,ドーム投影法に 9.2 文化財 城野誠治(東京文化財研究所) 文化財の情報は画像のみならず,形状や材質の計測やハー よって映し出される画像は高い臨場感を提供する.宮田ら(千 葉大,千葉大フロンティアメディカル工学研究開発センター, ドコピー,画像の保存,動画,といった様々な要素が必要で オリンパス)はこのドーム投影における色再現の補正を研究 ある.文化財における画像を用いた情報の取得といった面か している.ドーム投影法はスクリーンが球面であるため,ドー らみると,目立った進歩は認められないが,三次元画像にお ム内で多重反射が起こる.これにより,正確な色再現が容易 ける質感の追求といった研究に代表されるように,すでに開 ではない.このため,補正モデルを導きだし,適用すること 発されている技術のさらなる向上と活用に期待がよせられ によって色差の改善に努めている(日写誌,68(別 1),34–35). る.また,三次元ビデオや電子ペーパーの開発など新たな技 古典芸能などの無形文化財の記録手段のひとつとして, 2005 年の写真の進歩 モーションキャプチャーが挙げられる.寺田ら(徳島大)は, 167 16(1),14–18). モーションキャプチャーによる記録だけでなく,動作の記録 実際の映像を想像することは難しいが,文化財の分野でも の定量化を試みることによって,技術の向上に役立てるべく 古典芸能など,動きの記録を要する分野での活用に期待でき 研究を行い,教育マシーンの開発などを目指している(画像 る. 電子学会,34(3),220–227). 文化財ではハイエストからシャドウ部に至る幅広い諧調再 持丸(産業技術総合研究所)はオンデマンド着装品ビジネ スに向けて,人体形状計測の簡便な装置作りを研究している. 現が必須であり,記録画像の情報を遜色なく出力,または表 店頭での計測を目指しての計測方法の研究を重ねている一 示することは重要である.内山ら(富士写真フィルム)はリ 方,発掘された骨の復元技術への応用なども試みている(画 バーサルフィルムの画像イメージを再現することができる高 像ラボ,16(3),13–17). 品位デジタルプリントの開発を発表した.高画質銀塩カラー 坂本ら(株式会社デンソー,名古屋工大,中京大)は,皿 ペーパーを採用し,専用 ICC プロファイルを開発するなどし や蓋などの平面的な形状を持つ土器破片を対象とした二次元 て高品位デジタルプリントを実現させた(日写誌,68(別 1), 土器復元システムにおける,接合判別処理のための類似箇所 22–23).佐藤ら(千葉大,東京工芸大)は,質感や奥行きを 検出手法について研究し,土器復元への応用を試みている. 失ったとされるインクジェットプリンタの質感を向上させる この二次元土器復元システムは土器復元作業に於ける考古学 ため,銀塩写真システムが持っていた現像銀フィラメントの 者の負担を軽減するために,土器破片データを計算機に与え, 複雑な三次元構造から生まれる粒状感を加えることを試みて 接合を行い,その復元結果を自動的に出力するシステムであ いる(日写誌,68(別 1),78–79).撮影された画像をプリン る(画像電子学会,34(3),228–235). ト媒体へ置き換えるためのインクジェット印刷や,FM スク 文化財の資料は文献,焼付写真,ガラス乾板,フィルム, リーン印刷,昇華型熱転写方式などが様々開発され,改良を デジタルデータと多くの媒体が存在する.それぞれに適する 重ねている.山下ら(松下電器産業)は,昇華型プリンタに 長期保存方法は異なるが,理想的な保存環境を整備すること おける熱転写方式のプロセスの特性のばらつきにより起こる は様々な問題があり,容易ではない.近年ガラス乾板に於い ハイライトの劣化を改善するアルゴリズムを発表している て劣化が進行し,画像情報の消失という深刻な問題が発生し (日画誌,44(1),9–15).昇華型熱転写方式はデジタル写真 をより銀塩写真に近い画質でプリントできる技術として知ら ている. 瀬岡(富士フイルム)は長期推奨保存条件下を満たす低温 れているが,画質劣化の要因を解決していくことで,さらな 低湿庫での写真の保存は 6–10 年に渡って画像劣化状態を凍 る高画質化が期待できる. 結できることを実証した(日写誌,68(別 1),68–69).今後, 近年,紙に置き換わる可能性を持った媒体として電子ペー 実際的な画像保存への応用が望まれる.加藤ら(コニカミノ パーが注目を集めている.文化財の画像を表示するにあたっ ルタ)はプリントデータの保存性について,現在抱えている て,紙上やディスプレイ上での表示色の問題など議論がつき 問題点を指摘している.インクジェット技術による画像が一 ないが,今後行われるであろう電子ペーパーによる表示を視 般的になってきているが,銀塩カラープリントに対する画像 野に入れ,電子ペーパーの最新動向にも注目した.田沼ら(ブ 保存性の知識,常識でインクジェットプリントの画像保存性 リジストン)は高流動性を付与した新しい粉体材料の開発を もみている.実際には銀塩カラープリントの保存性のテスト 発表した.この粉体材料を使用したディスプレイは,今まで 方法に規格はあるが,新規画像技術にあてはまらないことが のディスプレイでは実現できなかったペーパーライクな高視 ある.新たに考慮すべき項目がでてくる可能性を指摘してい 認性と広視野角性,気中移動方式による高速応答性,バイス る(日写誌,68(2),112–119). テイブル性を活かした超低消費電力性などをその特徴として 挙げている.また,応力歪による表示の乱れもなく,高解像 9.3 天体写真 山野泰照(コニカミノルタテクノロジーセンター) 度の表示も可能なため,文化財の分野での応用も盛んになる 2005 年も天体写真の世界では,デジタル化が進行した.デ であろう(日画誌,44(2),96–101).電子ペーパーに関する ジタル撮影機材では,冷却 CCD カメラは引き続き撮像素子 記事として,面谷ら(東海大)は電子ペーパーの目指す,読 の大型化や性能の向上に依存した新製品が継続的に製品化さ みやすさに関する研究を発表している.表示面のスペック追 れているが,最も注目されたのは,受注生産ではあるが天体 求だけでなく,人間の心理や思考にまで踏み込んだ考察が必 専用のデジタル一眼レフカメラ(キヤノン EOS 20Da)が発 要であるとの指摘が興味深い(日画誌,44(2),121–129). 売されたことである(2006 年 4 月 21 日で受付終了).大きな 松山(京都大)は 21 世紀における情報メディアの画期的 特徴はふたつある.ミラーアップした状態で撮像素子の画像 な発展を遂げるものとして,三次元ビデオを紹介している. を LCD に表示させる(ライブビュー)機能が付いたこと,内 三次元ビデオは人や動物などの生の姿,形,色の時間的変化 蔵する赤外カットフィルターのカットオフ波長を長波長にシ を三次元的にそのまま記録した実写映像である(日印誌,42 フトさせることで,Hα の輝線スペクトル波長 656 nm の透過 (1),35–41). 率を高めたことである.前者については,すでに同じ機能を また,冨山ら(NHK 放送技術研究所)も多視点画像から三 実現している製品(富士フイルム FinePix S3 Pro)もあるが, 次元動オブジェクトを生成する研究を行っている(画像ラボ, ミクロンオーダーのピント合わせに苦労するデジタル一眼レ 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 168 フレフにおいては,すばやくかつ正確にピント合わせができ 10 月:ペンタックス株式会社と韓国・サムスンテックウィン る機能として注目される.また後者については,肉眼の分光 (株)がレンズ交換式デジタル一眼レフカメラの共同開 感度分布と異なる感度分布になるために一般撮影においては 発を発表. 正しい色再現にはならないものの,天文ファンが望んでいる 年明け 1 月:コニカミノルタフォトイメージング株式会社が Hα 輝線スペクトルの波長の透過率が高い赤外カットフィル 共同開発先であったソニー株式会社へデジタル一眼レ ターを搭載した製品の登場で,選択肢が広がった.これまで フカメラシステムの一部資産の譲渡を発表. はデジタルカメラのメーカーではなく天体望遠鏡販売店など 同 1 月:株式会社ニコンがフィルムカメラ製品のラインナッ で,市販されているデジタルカメラの改造という形により プ見直しを行いフィルムカメラとしては 2 機種のみ継 656 nm の透過率の高い赤外カットフィルターへの換装サー 続しデジタルカメラに経営資源を集中することを発 ビスが行われてきたものが,デジタルカメラメーカー自らが 表. 基本仕様としてそのような特定用途向けの製品を発売したこ 同 4 月:12 月にデジタル中判カメラを発売したばかりのマミ ヤ・オーピー株式会社が中判カメラを含む光学機器事 とで注目された. 一方,デジタル画像処理のためのソフトウェアについては, デジタルカメラの RAW データを用いダークノイズ処理を行 業部門のコスモ・デジタル・イメージング株式会社へ の営業譲渡を発表. うことが一般化してきた.撮像素子の高性能化とカメラ内部 以上のように,2005 年から 2006 年にかけて,フィルムか でのノイズ処理技術によりカメラ本体の対ノイズ性能も向上 らデジタルへの開発力集中と電機メーカーのデジタルコンパ しているが,3 板の撮像素子あるいは面順次の撮影ではない, クトカメラからデジタル一眼レフカメラへの進出が顕著に いわゆるベイヤー配列などのカラーフィルターを搭載した単 なってきている.このような中でフィルムカメラはほとんど 板のカラー撮像素子を使用する,一般的なデジタルカメラの 登場せずデジタルカメラもコンパクトタイプでは製品サイク 場合には,ガンマ補正を行う前の RAW データを用いてダー ルが一層短くなりコストだけではなく新しい付加価値を模索 クノイズ補正を行うことで,より正確なダークノイズ処理が した数多くの製品が登場している.また,デジタル一眼レフ 可能になり,暗い天体の撮影において大きな画質改善が可能 カメラも普及機の登場が活発となり,今後は共同開発製品の になった.また,RAW データのままダークノイズ補正を行え 登場が待たれる.研究や製品開発に関した発表は日本写真学 ばリニアな輝度情報が得られることから,測光性能が向上し 会の大会や会誌などで活発になされ,デジタル技術や周辺技 たことも注目された(アストロアーツ StellaImage 5). 術に関した多岐にわたる成果の数々が報告された. また動画撮影機材では,デジタルビデオにおけるハイビ 10.1 カメラ ジョン仕様の製品の低価格化が進んだ.暗い天体に向く撮影 研究・開発ではデジタルカメラのノイズ低減や画像処理を 機材ではないので,日食を含む太陽や,月や惑星などの比較 含めた撮像素子・画像関連技術,さらに昨年同様に手ぶれ防 的明るい天体に限られるが,特に解像度の面で従来のフォー 止技術などの周辺技術が報告された. マットとは一線を画す画質が得られることから,ユーザーの 少なくはなったがフィルムカメラ関連の報告もなされ,内 満足度が高く普及が加速した.まだ画像編集や保存の点で不 田(富士フイルム)は明るいレンズと ISO1600 のフィルムお 便が多いが,今後パーソナルコンピュータの進化や,大容量 よび露光制御の開発によりノンフラッシュ撮影で自然な描写 記録メディアの登場などのユーザー環境が整ってくれば,さ が可能となる NATURAL PHOTO SYSTEM について報告した (日写春,114).北岡(ニコン)は一眼レフカメラ F6 で開発 らに普及が進むと言われている. したフラグシップ機として歴代 F シリーズで培ってきた高い 10. 画像入力(撮影機器) 信頼性を維持しながら実現した切れ味と最上質感について報 池野智久(ニコン) 告した(日写誌,68,238). デジタルカメラ関連の報告では多くの報告がされており, 2005 年はデジタルカメラの多様化が一層進み,またコンパ 小林,小田(富士フイルム)は感度の異なる 2 種類の画素を クト機では価格競争の傾向が強まり,業界としてもフィルム 独立配置することで,各画素の光学特性を各々調整すること 市場の縮小とデジタル市場の再編へと変化した.以下にその を可能とした一眼レフ用広ダイナミックレンジ撮像素子スー 流れを示す. パー CCD ハニカム SRII の開発について報告した(富士フイ 1 月:オリンパスと松下電器がレンズ交換式デジタル一眼レ ルム研究報告,50,1) (日写春,110).山下(富士フイルム) フカメラ(フォーサーズシステム規格)の共同開発を はデジタルカメラで暗い被写体の画質を向上させるために 発表. S/N 比を上げるノイズ低減処理回路の改良について報告した 4 月:京セラ株式会社が「CONTAX ブランド」カメラ事業終 了を発表. (日写春,112)(カメラ技術,4). 植松(松下電器)はアスペクト比 16:9 の CCD 撮像素子を 7 月:コニカミノルタフォトイメージング株式会社とソニー 採用したワイド対応カメラ DMC-LX1 の特徴とホームエン 株式会社がレンズ交換式デジタル一眼レフカメラの共 ターテイメントの核として AV 機器との連携に関し報告した 同開発を発表. (カメラ技術,15).古都(キヤノン)はデジタル一眼レフカ 2005 年の写真の進歩 169 メラ EOS 20 Da で実現した天体写真撮影に要求される仕様お 画素の 22.5 mm×15.0 mm CMOS センサーを装備し,天体撮 よび製品化を可能とした C-MOS イメージャの特性と実力に 影に適した光学特性を実現している.ニコン D70s は有効 610 ついて報告した(カメラ技術,7).川村(ニコン)はデジタ 万画素の 23.7 mm×15.6 mm CCD を装備した D70 の後継機と ル一眼レフカメラ D2X で実現した新画像処理,クロップ高速 して 登場 した.ニコ ン D50 は有 効 610 万画 素の 23.7 mm 機能,画像合成,無線 LAN を利用したコントロールシステム ×15.6 mm CCD を装備し,普及機種として登場した.ペン について報告した(カメラ技術,15) .水口(コニカミノルタ) タックス* istDL は有効 610 万画素の 23.5 mm×15.7 mm CCD はデジタルカメラシステムの階調再現に関わる因子と,その を装備し,単 3 形電池対応で簡単操作の小型・軽量機種とし 影響について論じ,美しい階調を創り出すテクノロジーにつ て登場した.コニカミノルタ α-Sweet DIGITAL は有効 630 万 いて報告した(日写誌,68,287). 画素の 23.5 mm×15.7 mm CCD を装備し,普及機種に CCD シ 手ぶれ防止技術を中心に周辺技術他でも盛んに報告されて フト方式手ぶれ補正機能を搭載している.キヤノン EOS-1D おり,田中(コニカミノルタ)はデジタル一眼レフボディに Mark II N は有効 820 万画素の 28.7 mm×19.1 mm CMOS セン 搭載した「CCD シフト方式」手ぶれ補正機構について技術的 サーを装備し,高速連続撮影を実現している.キヤノン EOS 側面より報告した(カメラ技術,22).新谷,三谷,真島,柴 5D は有効 1,280 万画素の 35.8 mm×23.9 mm CMOS センサー 谷,糸原(コニカミノルタ)は光学ユニットに撮影 CCD を を装備し,高画素数と高レスポンスの両立した 35 mm フルサ 搭載した状態でユニットごと手ぶれ補正駆動する「レンズユ イズ機種として登場した.ペンタックス* istDS2 は有効 610 ニットスイング方式」の開発に関して報告した(日写秋,1). 万画素の 23.5 mm×15.7 mm CCD を装備し,* istDS の後継機 井上,高野(コニカミノルタ)は DiMAGE シリーズの CCD 種として登場した.オリンパス E-500 は有効 800 万画素の シフト方式手ぶれ補正の機構をデジタル一眼レフカメラとし 17.3 mm×13.0 mm CCD を装備し,質量 435 g の小型軽量化を て α-7 DIGITAL にどのように発展させたのかを報告した(日 実現している.ニコン D200 は有効 1,020 万画素の 23.6 mm 写誌,68,234).松澤(オリンパス)はデジタル一眼レフカ ×15.8 mm CCD を装備し,高画質と高速レスポンスを実現し メラ E-300 の開発において携帯性の良いフラットトップ形状 ている.マミヤZD (12月)は有効2,130万画素の48 mm×36 mm を実現する為の技術及び普及機価格帯を実現する為のコスト CCD を装備したデジタル中判一眼レフカメラとして登場し 低減について報告した(日写誌,68,229).吉田(オリンパ た. ス)は「デジタル化によって何が変わったか」という問いを コン パ クトタ イプでは WiFi 機 能を 搭載した Kodak 立て,個人的感想に基づいて写真のデジタル化について論じ EasyShare-Oneや全てのLUMIXシリーズに手ぶれ補正機能を た(日写誌,68,454).荒井(ペンタックス)は昨今のカメ 搭載したパナソニック DMC-FZ5 等が登場し,各社とも各ラ ラ市場の変化とカメラ技術の推移を元に,カメラの機械設計 インナップ毎に多くの機種を投入し,画素数・デザイン性・ 者からみたアナログカメラからデジタルカメラへの変遷につ 高機能化でしのぎを削っている. いて報告した(日写誌,68,464).村上(ニコン)はカメラ 10.2 レンズ 機構の小型軽量化,動作負荷平滑化等の施策を効率的かつ的 光学系の研究・開発でもデジタルカメラに対する光学系の 確に達成するための 3D モデルによる動作シミュレーション 特長について報告が主となっており,川合(オリンパス)は 解析について報告した(日写春,116). フォーサーズシステムの撮像光学系の概要及び特徴について フィルムカメラでは市場自体が縮小しており,極端に登場 報告した(サマーセミナー,44).佐藤(ニコン)は光学系 機種数が減少している.一眼レフとしては中判のマミヤ の周辺技術(CCD と銀塩フィルムの違い・デジカメ用光学系 645AFDII が最新のテクノロジーを搭載して登場したのみで, の特徴)とデジタルカメラ用光学系の設計について報告した 35 mm カメラの登場は無かった.またコンパクトカメラでも (サマーセミナー,).永田(オリンパス)は自由曲面プリズム キヤノンオートボーイ N130II やフジ CLEAR SHOT S AF など を用いたカメラモジュール光学系の設計・製作・評価につい デザイン性を重視した 5 機種の登場にとどまっている. て報告した(光学シンポジウム,4). デジタルカメラは一眼レフで普及機から高級機まで幅広い 一眼レフの交換レンズは,昨年同様に広角系のズームレン 層で 15 機種が登場した.オリンパス E-330 は有効 750 万画 ズや,デジタルカメラ専用仕様の製品が多く登場した.フル 素の 17.3 mm×13.0 mm CCD を装備し,ライブビュー機能を サイズ用としては,Zeiss プラナー T* 50 mmF2ZM,同ビオ 実現し,可動式の液晶モニターにより常時被写体を観察でき ゴン T* 21 mmF2.8 などがあり,レンズ専業メーカーからも る.ニ コ ン D2X は 有 効 1,240 万 画 素 の 23.7 mm×15.7 mm コーティング等の変更によりデジタルに対応してリニューア CMOS センサーを装備し,高画素数と高速レスポンスの実現, ルしたレンズが登場した. 無線 LAN 対応,多重露出機能等を搭載している.キヤノン デジタル一眼レフ専用では,オリンパス ZUIKO DIGITAL EOS KISS DIGITAL N は有効 800 万画素の 22.2 mm×14.8 mm ED8 mmF3.5 フィッシュアイ,コニカミノルタ AF DT ズーム CMOS センサーを装備し,シリーズ最小・最軽量ボディを実 11–18 mmF4.5–5.6(D),同 AF DT ズーム 18–200 mmF3.5–6.3 現して い る.ニ コ ン D2Hs は有 効 410 万 画素 の 23.3 mm (D) ,同 DT ズーム 18–70 mmF3.5–5.6(D) ,AF-S DX ズームニッ ×15.5 mm JFET センサーを装備し,高速連続撮影や無線 LAN コール ED18–55 mmF3.5–5.6G,AF-S DX ズームニッコール 対応等を特徴としている.キヤノン EOS 20 Da は有効 820 万 ED55–200 mmF4–5.6G,smc PENTAX-DA 40 mmF2.8 Limited, 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 170 smc PENTAX-DA ズーム 50–200 mmF4–5.6ED,smc PENTAX- カメラの弱点を画像補正アルゴリズムで補正していることを DA ズーム 12–24 mmF4 ED AL(IF),smc PENTAX-DA FISH- 紹介した(日写誌,68(5),373). EYE 10–17 mmF3.5–4.5ED(IF),シグマ 10–20 mmF4–5.6 EX 11.1.2 サーマル DC HSM,タムロン SP AF11–18 mmF4.5-5.6 Di II,キヤノン 花上(ソニー)らは,サーマルヘッドを利用した医療用プ EF-S60 mmF2.8 マクロ USM など昨年同様に主として広角系 リンタの紹介をした.同プリンタでは,サーマルヘッドの蓄 のズームレンズやフィッシュアイレンズがあり,一段と広角 熱の履歴制御だけでなく,実装濃度計による濃度キャリブ 系のラインナップが充実してきている.光学式手ぶれ補正機 レーション,搬送ローラー速度変動キャンセル機構,多数ヘッ 構搭載製品としてはキヤノン EF24–105 mmF4L IS USM,同 ドの印加熱エネルギーバラツキ補正機能を搭載し,医療用画 EF70–300 mmF4–5.6 IS USM,AF-S DX VR ズームニッコール 像として求められる高品質出力を実現している(日画誌,44 ED18–200 mmF3.5–5.6G(IF)が登場し,コンパクトな高倍率 (5),356).石津(神鋼電機)は昇華型プリンタの基本的な ズーム機にも本機能が搭載されるようになってきた. 仕組みの説明をし,フォト分野とアミューズメント分野の展 開を紹介した.アミューズメント分野(プリクラ)ならでは 11. 画像出力 の特徴として,グレーバランスを崩してまでの肌色のチュー ニング,鑑賞サイズが小さいため高解像度化(300 ⇒ 600 dpi) を挙げている(日写誌,68(5),357).家茂(大日本印刷)ら 11.1 プリンタ 藤野 真(セイコーエプソン) は画像耐久性の改良を中心にその材料的特徴を紹介した. プリンタに用いられるマーキングテクノロジの主たるもの YMC の各染料単独では良好な耐久性を有していてもこれら は,銀塩方式,サーマル,インクジェット,電子写真である. を重ねることで耐久性が低下しうるため,そのような相互作 高画質,高速出力と言う基本的要請に対する着実な改善活 用のない染料材料を選択することが重要であること,オー 動,新規用途展開のアプローチが進んでいる. 池州(コニカミノルタ)は,銀塩写真プリント,インク バーコート相の熱転写は,耐皮脂性,耐ガス性の向上だけで なく,染料を受像層内部により拡散させる機能も有すること ジェットプリント,感熱昇華材料,電子写真材料の各種プリ を説明した(日写誌,68(5),363).山下(松下電器)は昇 ント材料の画像形成原理について説明し,これらのプリンタ 華型熱転写方式でプロセスバラツキによるハイライトの階調 材料の一般的な特徴に関して言及した.色素構造の選択の自 性を安定化する技術として,ハイライト誤差拡散法を検討し 由度,記録メディア上での色素暴露状況,粒状,面質等がそ た.誤差拡散後の面積率によりオン画素のパルス幅を補正し, れぞれの技術によって特徴があることを示しつつも,近年の ミクロ濃度を平均的に補償するアプローチにより,マクロ濃 技術改良によってプリント材料の品質差が以前より少なく 度を目標濃度に一致させ,結果サーマルヘッド,インクフィ なってきていることも指摘している(日写誌,68(5),163). ルムの特性バラツキに起因する画質劣化の耐性の向上を図っ 11.1.1 銀塩 内山(富士フイルム)らは,リバーサルフィルムオリジナ ル透過画像の輝くイメージを再現する高品位デジタルリバー サルプリントシステムについて述べた.高 Dmax,高白色度, た(日画誌,44(1),9). 11.1.3 インクジェット 鈴木(キヤノン)は,濃淡 5 段階のインク,1200 dpi のドッ ト密度によるモノトーンインクジェットプリンタ画像の臨床 広色再現域のカラーペーパーを採用し,また“色の見えモデ 医用適正を評価した.前記インクジェット出力であっても, ル”に基づく色変換処理,主観評価実験に基づくコントラス 現行医用システムであるドライイメージャ出力と遜色の無 ト・彩度強調処理により,リバーサルフィルムの印象をプリ い,臨床医用適正があることを示した(日写春,12).永井 ント上に再現可能とした(日写春,22).小出(富士フイル (リコー)らは,普通紙高速両面印刷・高画質化を可能とする ム)らは,モバイルプリンタ用のインスタント感材に新規導 インクジェットプリント技術の紹介を行った.同プリンタで 入した技術について説明した.各感色性感光層の分光感度設 用いられているインクでは,静的表面張力,動的表面張力を 計を従来の自然光前提から,LED 光源前提とすることで,プ 下げる 2 種の浸透剤が組み合わされ,高粘度と高浸透性を両 リンタ自体の小型化,省電力化に結びつけた(日写春,58). 立がなされている.さらには,前記高粘度インクをドット量 西村(コニカミノルタ)らは,デジタルプリンタ適正をより 変調しながら吐出可能とする広幅インクジェットヘッド・静 高めたカラーペーパーの紹介を行った.蛍光増白剤の導入に 電吸着ベルト搬送方式によりレーザープリンタに対して遜色 より美しい白さを向上させ,デジタル露光時の感度ロスや潜 のない印刷文字品質,印刷速度を実現した(日写誌,68(1), 像特性を改良することで,引き締まった黒を再現するなどし 31).同じく井本(リコー)は,前記の静電吸着ベルトの吸 て高画質化を実現している(日写春,62). 着メカニズムにおける解析をおこなった(JH2005,79).奥 青崎(富士フイルム)はカメラ付き携帯電話用プリンタの 田(理想科学)は,事務用・軽印刷用の高速ビジネスインク 主な特徴とその関連技術について述べた.光源に RGB の LED ジェットプリンタの紹介を行った.150 dpi ヘッドを 2 個貼り を用い,これを導光板にて線上光源とし,液晶シャッターに 合わせた 300 dpi としたラインヘッドを採用し,吐出安定性 て露光制御し,ロッドレンズアレイを介し,インスタントフィ 確保の点から液体成分を不揮発性用材で構成した油性顔料イ ルム上に結像を行い,さらに暗部描写性,逆光時再現性等の ンクを用い,また高品位とするため専用の用紙を用い,最高 2005 年の写真の進歩 171 毎分 105 枚の高速度プリンタにまとめている(日写誌,68 ミュージアム主催の「第二次世界大戦 日本の敗戦:キャパ, (1),36).島本(ノーリツ鋼機)は,PET フィルムに染料を スミス,スォープ,三木淳の写真」(清里フォトミュージア 定着させた高耐候性,高画質プリンティングシステムの紹介 ム,2005 年 7 月 2 日~ 10 月 23 日)や富士美術館主催の「ロ を行った.同システムで用いるメディアは,インク受容層, バート・キャパ展」の三部作,日本新聞博物館,共同通信社 フッ素層,ベース層,粘着層,セパレータから構成されるも 主催の「戦後 60 年写真が伝えた戦争」(日本新聞博物館,3 ので,インクジェットヘッドでインク受容層上に分散染料イ 月 25 日~ 6 月 26 日),日本写真協会主催の「日本の子ども ンクによる像形成を行った後,熱処理によりインク像をフッ 60 年」(東京都写真美術館,12 月 17 日~ 1 月 9 日,他 3 カ 素層に転移させ,インク受容層を剥離し,フッ素層を表面層 所巡回),世田谷美術館主催「ウナセラ・ディ・トーキョー とするものである.同構成により,屋外で用いられる広告看 ―残像の東京物語」(世田谷美術館,4 月 23 日~ 5 月 29 日) 板媒体に高画質,高耐候の画像を形成することが可能となっ などは,戦後の日本の社会の記録,戦争自体の記録,戦後の た(日写誌,68(1),42).嶋田(セイコーエプソン)は,モ 子供や都市に焦点を当てた記録と,それぞれに視点は異なる ノクロ再現を重視したカラーインクジェットプリント技術に が,戦後 60 年を感じさせられる写真展であった.個人作家 ついて紹介をした.黒インクを 3 レベル揃えることで,グ の写真展でも,広島,長崎の原爆関係の写真展や,戦場跡, レースケールの安定性,カラーインコンスタンシーの耐性が 戦争遺跡の現在の記録,戦争捕虜になった外国人の現在を取 増すこと,間接的にカラー画像の画質向上にも寄与すること 材したものなど,戦争に関わる様々な視点の写真展が 8 月を を説明した(サマーセミナー).吉澤(信州大)らは,UV 硬 中心に多かった. それらを制作した写真家達の年代が幅広く, 化性インクジェットプリントの高画質化の検討を行った.画 戦争を知らない世代でも多くの写真家が,戦場跡地や戦争に 像プリント直後にさらに無色透明の UV インクでプリント面 関わった人々を取材しているのも印象深かった. を覆う方法,ラミネートフィルムで覆う方法の 2 種を評価し もう一点はやはりデジタル写真による作品の増加がある. たところ,特に前者の手法では光沢度,反射濃度,色再現性, デジタルによる作品化はすでに始まっていたが,今年はより 鮮鋭性のいずれにおいても画質向上することが確認された 身近になってきた.産經新聞に掲載された「月とコウノトリ」 の合成で話題となった写真も,手軽に合成が可能になったこ (JH,83). 石井(ライオン)らは,インク受容層にコロイダルシリカ とを人々に知らしめた事件であった.その後の写真展で「こ を用いているインクジェット用紙の特性変更を試みた.従来 の写真は合成ではありません」と書かれていたことに,写真 アニオン性を示すコロイダルシリカをアミノシラン表面処理 の真実を写すという神話が崩れたことを感じさせられた.写 にてカチオン性に変更したところ,白色光沢度の上昇と,顔 真のデジタル化は,合成や画像処理を意味するのではなく, 料インクの滲み抑制効果を得た(JH,87).吉澤(キヤノン) 写真の制作技術が銀塩からデジタルによる記録に変わったと らは,同社プリンタに採用した新染料インクに関して,開発 いうことで,ストレート写真であってもインクジェットプリ 時における技術的課題について述べ,併せて同社性インク ンタの出力による作品が増えた.また通常の印画紙のような ジェット用紙に印刷した場合の画像堅牢性についての評価結 写真用紙ではなく,和紙や特殊な紙に写真を出力したものや, 果を紹介した.染料・溶剤の見直しにより,耐ガス,耐光, それらを絵のように額縁に入れての展示方法,あるいは巨大 耐湿の性能向上が実現された(JH,91). な写真に伸ばしての展示なども目立った. 11.1.4 電子写真 12.2 写真展 望月(富士フイルム)らは,ゼログラフィー方式をベース ・石元泰博作品展「シカゴ 1966」 (フォト・ギャラリー・イ とした高速・高画質のデジカメプリントシステムの紹介を ンターナショナル,4 月 5 日~ 28 日),石元泰博写真展「都 行った.まず写真品質目標を面質と粒状にて定義し,前者に 9月16日~11月11日) 市への視線」 (ギャラリーエークワッド, 対しては冷却剥離定着装置にて面質を鏡面化することで,後 「都市への視線」はアメリカ生まれの石元が 1953 年に来日 者に対しては,ゼログラフィープロセスの最適化と画像処理 してから半世紀に渡り東京を撮り続けた作品の集大成であっ パラメータの変更を行うことで対応を図っている(日写誌, た. 68(1),42).さらに村井(富士フイルム)は,同システムに 前述のような巨大に引き伸ばされた写真が増加した現状の 用いられているフォトペーパーの各層の機能について詳説し 中で,旧来の正当的写真でありながら,写真の美しさと魅力 た(サマーセミナー). を存分に示したのが石元泰博の写真展であった.「シカゴ 1966」と「都市への視線」の写真展は,四つ切りのプリント 12. 写真芸術 サイズでありながら,昨今の巨大に引き伸ばされたプリント 西垣仁美(日本大学芸術学部) にひけをとらない力強さがあった.そして石元の技術の高さ と視点の非凡さ,時空の捉え方の素晴らしさを示していた. 12.1 概況 その長い写真制作の過程の中で,その技術が磨かれ,技術や 戦後 60 年ということが話題になった 1 年間であった.写 知的作業を超えた境地に達したかのように感じられる,撮影 真界でもその影響は大きく,戦争関係のものや戦後 60 年を された写真の美しさは格別であった.80 歳を越えてから行っ 振り返る類のものが例年になく多く感じた.清里フォト・ たというプリントが,ヴィンテージのプリントと遜色がない 172 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 事にも驚きを禁じ得なかった. ・「ブラッサイ―ポンピドゥーセンター・コレクション展」 (東京都写真美術館,8 月 6 日~ 9 月 25 日) ・その他若手 片桐飛鳥「Light Navigation」 (フォトギャラリー・インター ナショナル,2 月 15 日~ 3 月 18 日)光そのものを記録した ブラッサイの全貌が見える作品展であった.ブラッサイに いと撮影した光の写真展であった.光溢れる空を何年もかけ とって写真は制作の一部であるのだが,この展示では彼の彫 て記録してきたもので,作者によって空ではなく光そのもの 塑から素描,クリシェヴェールまで幅広い作品が集められて を記録することが成功された.他に類をみないオリジナリ いた.写真においても有名な「夜のパリ」に止まらず, 「昼の ティを感じるものであった. パリ」, 「落書き」, 「ヌード」, 「ミノトールに掲載された写真」, 石田千帆「夢日記」 (新宿ニコンサロン,6 月 7 日~ 13 日), 「MoMA での展示のための写真」とかつてない多くの作品が ニコンのユーナ 21 で登場してきた女性だが,昨今の若手が 並べられた. 「落書き」などは壁面全体にレイアウトされ,雰 私生活,身の回りのものを撮り集めて再構築して作品化する 囲気をより醸し出していた.多くの作品を同時に見る事で, 傾向が強い中で,夢を咀嚼し,徹底的に作り込んで行く作品 ブラッサイの思想全体を感じられ,創作の広さ,深さも分か スタイルに今後の大きなエネルギーを感じた. る展覧会であった. ・横須賀功光の写真魔術「光と鬼」 (東京都写真美術館,11 月 19 日~ 12 月 18 日) 2003 年に 65 歳の若さで急逝した横須賀の本格的回顧展で 大沼英樹,彼は「沖縄口(ウチナーグチ)」(銀座ニコンサ ロン,9 月 20 日~ 10 月 1 日) 「この空をみて人はなぜ争うの だろう」 (コダックフォトサロン,11 月 9 日~ 15 日)の 2 つ の写真展を行った.共に平和へのメッセージである. あった.広告作品の分野で 40 年にわたり,常に現代的で斬 「沖縄口」は沖縄での本土決戦を体験し,それを語り継ぐ人 新な表現を発表してきた部分と,写真作家として 60 年代の を取材し,戦争の傷跡を辿りながら風化させずに語り続ける 「射」,「亜」, 「壁」から 80 年代の「小夜子」,「月」, 「光銀事 ことこそ世界平和へつながるという試みである. 「この空をみ 件」,90 年代の「エロスの部屋」, 「時間の庭」, 「光学異性体」 て人はなぜ争うのだろう」は全く異なる切り口で,虹,夕焼 まで横須賀の幅広い制作の全貌を見る事ができた.写真展会 け等の美しい空が主体であるが,そこに何枚かの原爆ドーム, 場のレイアウトも暗い会場内全体にパネルをあしらい,独自 長崎や沖縄等,戦争の残した風景と組み合わされている.そ の設計で計画されていた.若い頃から尊敬していたというマ れらは決して強く写真の中で主張されていないが,全体とし ン・レイからの影響を含め,1 枚の写真の完成度へのこだわ て力強い平和へのメッセージを感じる力作であった. りが随所に感じられ,時代の先端を駆け抜けた横須賀の全体 12.3 「東京写真月間 2005」開催 像がようやく見えた. 第 10 回を迎えた「東京写真月間 2005」が, 「東京写真月間 ・杉本博司「時間の終わり End of Time」 (森美術館,9 月 17 日~ 1 月 9 日) 2005」実行委員会と社団法人日本写真協会,東京都写真美術 館の主催で,6 月 1 日の「写真の日」を中心に開催された. 「時間の終わり」は,日本における初の大回顧展といえるも 2005 年は東京都写真美術館が開館 10 周年を迎え,同館の ので,会場に能舞台を設置,能の上演などの企画も加えられ コレクションによる特別企画展「写真はものの見方をどのよ ていた.初期の「ジオラマ」から「劇場」,「海景」,「恐怖の うに変えてきたか」を第 1 部「誕生」第 2 部「創造」第 3 部 館」, 「仏の海」, 「建築」など杉本の全貌を知ることができた. 「再生」第 4 部「混沌」と 4 回に分けた展示を 4 月 2 日~ 11 コンセプトから作品制作へ入ってゆくことが分かりやすく示 月 6 日まで長期にわたり開催し,その第 2 部が「東京写真月 されており,その大きく引き伸ばされたプリントは美しく, 間」の一環としての展示であった.この企画展は,日本に写 力強く,コンセプトを輝かせていた.内容と作品の美しさの 真が渡来してから今日に至るまでの日本と世界の写真史を同 相乗効果を感じさせるものであった. 時に理解する上でも重要で,貴重な作品の展示であり,それ ・野町和嘉写真展「エチオピア黙示録」 (コニカミノルタプラ を通して人々の生活や思考に写真が与えたものは何であった ザギャラリー B & C,4 月 29 日~ 5 月 20 日) , かを展開するものであった.その他の企画展は「明治・大正・ 野町和嘉写真展「地球巡礼」 昭和 三代を生きた貌」というテーマで 2 人のアマチュア写 (キヤノンギャラリー S,9 月 21 日~ 10 月 29 日) 真家をとりあげた写真展を行った.熊谷孝太郎「はこだて・ 「エチオピア黙示録」と「地球巡礼」は共に写真集も出版さ 記憶の街」 (新宿ニコンサロン,5 月 31 日~ 6 月 6 日),大崎 れた,野町の長い取材をまとめた力作であった. 「エチオピア 周水「104 冊のアルバム」 (コニカミノルタプラザ,5 月 21 日 黙示録」は 1980 年からの取材のまとめで,他のアフリカと ~ 30 日)である.熊谷は 1910 年代から 30 年代前半にかけ 異なる独自の文化形成の様子,内戦と旱魃による飢餓の記録, て,大陸との交流の玄関口であり北洋漁業の基地としてにぎ エチアピア正教を記録した人々の信仰の姿が黒白写真で生々 わいを見せ,亡命ロシア人や世代と社会階層の異なる人々の しく描かれていた. 「地球巡礼」は 30 年に渡り撮り続けた 行き交う函館の街を,暗箱カメラを使い,路上でのスナップ “祈りと巡礼”の総集編であり「PILGRIMAGE」というタイ 撮影を行ったアマチュア写真家の写真展であった.大崎は福 トルで世界 7 カ国語版で同時出版された.その日本版が「地 岡の福岡日日新聞で活躍した報道写真家であったが,それと 球巡礼」である.世界各地の独自の文化と信仰が視覚化され は別に彼の私的な写真で,妻や子供の日常を愛情に満ちた眼 ている. 差しで撮影し,その両面から激動の 3 つの時代を記録した写 2005 年の写真の進歩 173 長年にわたり,音楽の感動とその素晴らしさを写真で表現 真展であった. アジアの発達途上国の写真家と交流を深めるために,昨年 してきた功績に対して与えられた.氏はカラヤン,小沢征爾 から始めたアジアの写真家たち 2005 では, 「ウズベキスタン」 をはじめとする多くの音楽家の撮影や世界のオペラハウスの の写真家 29 名の様々な視点からの作品が紹介された. 「ウズ 取材を行ってきた. ベクの人々の暮らしと文化」 (アイデムフォトギャラリーシリ ・作家賞:坂田栄一郎 ウス,6 月 2 日~ 6 月 8 日),「追放の高麗人」(オリンパス 最新作「PIERCING THE SKY―天を射る」で,存在感ある ギャラリー,6 月 9 日~ 6 月 15 日), 「The elegance of light and ポートレートと花や動物,水,大地,大気などを組み合わせ shadow」(キヤノンサロン,5 月 30 日~ 6 月 4 日),「ウズベ ることで,両者が呼応しあい,独自の宇宙を作り上げたこと クの職人たち」 (ギャラリーコスモス,5 月 24 日~ 6 月 6 日) , に対して与えられた. 「Water is life」 (ペンタックスフォーラム,5 月 27 日~ 6 月 2 日)などが 5 カ所の会場で展示された. 「日本写真協会賞」は日本の写真文化の国際交流や,写真界 ・新人賞:梶井照陰 630 万画素のデジタルカメラにより,佐渡の海で,ひと時 も止まることのない波にせまり,千変万化する波を捉えた写 への貢献・功労のあった個人や団体,地域において写真文化 真集「NAMI」に対して与えられた. の振興発展に寄与した個人や団体,写真作家活動や写真研究 ・新人賞:勝又邦彦 活動において顕著な業績を残した写真家・研究者,将来を嘱 4×10 のフォーマットで,林立する高層ビル群を画面の下 望される新人写真家に贈られるもので,その「日本写真協会 わずかに配置し,画面の大部分は空というスタイルで都市の 賞受賞作品展」(富士フォトサロン,5 月 27 日~ 6 月 2 日) 輪郭を作品化した作品「Skyline」に対して与えられた. が開催され,その表彰式が 6 月 1 日東京商工会議所東商ホー ・新人賞:森澤ケン 新しい地図からは消された風景である東京都内の配線の風 ルで行われた. 景による写真展「TOKYO OUT OF DATE」と競泳選手の泳ぐ ・国際賞:アン・W・タッカー 2003 年にヒューストン美術館とクリーブランド美術館で 行われた日本に写真が渡来してから現代までの真摯に調査, 研究された「日本写真史展」の企画に対して与えられた. ・功労賞:東松照明 姿を水中から仰ぎ見て撮影した斬新なアングルによる写真展 「PURSEUR」に対して与えられた. また 2005 年から新しい企画で〈「写真の日」記念写真展・ 2005〉(新宿パークタワー・アトリウム,5 月 31 日~ 6 月 8 長年にわたる,すぐれた社会批評としての写真表現と 2004 日)が始まった.この写真展は,全国から 797 名,1706 点の 年からアメリカ,ヨーロッパを 3 ~ 4 年かけて巡回予定の回 応募があり,その中から大賞 1 名,外務大臣賞 1 名,優秀賞 顧展に対する国際的評価,日本現代写真の精神的支柱として 10 名,準優秀賞 20 名,レディース賞 10 名,協賛会社賞 20 の氏の写真文化への貢献に対して与えられた. 名,入選 250 名が選ばれ展示された. ・功労賞:奈良原一高 恒例の誰でも参加できる写真愛好者〈1000 人の写真展「わ 長年にわたる,斬新な方法論による作品制作と国内にとど まらず,海外における作品発表,2002 年パリで開催された回 顧展,2004 年東京都写真美術館で行われた国内初の回顧展, 現役写真家としての写真文化への貢献に対して与えられた. ・特別賞:谷 忠昭 たしのこの一枚」〉 (新宿パークタワー・アトリウム,5 月 26 日~ 5 月 29 日)も行われた. 12.4 出版 ・写真集「A KA RI」写真:藤井保,文:秋山晶 リトルモア 黒白とカラーの両方で編集されている.広大なアメリカの 銀塩写真感光理論における多大な成果と写真科学,写真文 大地の写真集は多いが,この作品はそこに 1 点の灯を持ち込 化の発展・普及,国際交流における貢献に対して与えられた. み,全く違うイメージを生み出している.「無数の灯は美し ・文化振興賞:ドキュメンタリーフォトフェスティバル宮崎 い.が,それは風景だ.ひとつの灯は,そこにいる人を想像 ドキュメンタリー写真の重要性に着目し,国内とアジアの させる.」という秋山の言葉どおり,早朝,夕暮れ,夜,霧 写真家を招き,写真展と講演会などを開催し,写真文化の向 中,雪中という環境で広大な土地の中に小さく浮かび上がる 上のために活動を続けていることを評価された. マグライトの光,星の光等が暗闇や靄の中に浮かび上がる風 ・年度賞:今森光彦 景と混じり合い,物語を感じさせる.写真の特徴を最大限に 五感をフルに使い,すべての生物と大気を写真化した作品 あお 「湖辺 みずべ 生命の水系」と「藍い宇宙 琵琶湖水系をめ 生かした作品である. ・写真集「our face 日本に暮らす様々な人々 3141 人を重ねた ぐる」に対して与えられた. 肖像」北野謙 著,窓社 ・年度賞:小松健一 肖像,ポートレートは個人を表現するものと先入観があっ ネパール王国で,その土地にねづく習慣,儀礼を真摯に受 た.写真には個々の人物が表現されると信じ込んでいた.そ け止め,日々の生活を営む人々と,それを取り囲む宗教を根 んな常識を打ち砕いてくれたのがこの写真集である.59 の場 底に人間の生き様を捉えた写真集「ヒマラヤ古寺巡礼」に対 の人々を,重ね合わせて 1 つのポートレートを作り上げてい して与えられた. る.一番重なっていたのが会社員で 107 名,最低でもチア ・作家賞:木之下晃 リーダー 17 名である.漁師,医師・歯科医,僧侶,母親,小 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 174 学校の生徒,舞妓さん等様々な立場,年齢の人々の肖像であ ち歩くにも限界がある.それらのカードを撮影中にバック る.銀塩写真で撮影,丹念に重ね合わせて制作されたポート アップするストレージは数多いが,単純にバックアップする レートは個人を超えた肖像で垂直に深まり,同時に横へと水 のみで実用性に乏しい. 平に様々な立場の人に出会うのである.実に衝撃的であった. ・写真集「いま」大橋 仁著,青幻舍 その中で異彩を放つのが,EPSON のこれらの製品群だ.高 速バックアップに加え,大型液晶搭載で,撮影直後に撮影し 「戦後 60 年」というキーワードが氾濫した 1 年は,人間を たカットを確認できる.実際の撮影現場では撮影直後にス 死の観点からみつめる写真展,写真集が多く見受けられた. タッフと撮影したものについてディスカッションを行ったり その中にあって,高らかに人間の生の美しさ,素晴らしさ, することも多く,そんなときにこれらの大型液晶でのビュー 愛を謳い上げた秀逸な写真集である.何か物語りが始まる予 ワー機能は大変役に立つ.また,得意の大型液晶を搭載して 感を感じさせる導入部,無名の多くが住む都市の風景,そし いながらかなりの省電力で大容量ストレージである.同じこ て出産シーン,生まれたばかりの子供の力強さ,成長した幼 とをノートブックで行えば荷物は大変重くなるので,実用度 児達の屈託のない喜怒哀楽,夜のシーンを駆け抜ける狐をは も含めてピカイチだ.もっと本質的にデジタルカメラを活用 さみ,大人になり愛し合い再び子供が産まれる.言葉にする してくるユーザーが増えてくることが今後ますます期待され と説明的であるが,1 枚 1 枚の写真には,その場を「いま」 る中,こういった周辺機器は実践での戦闘力が高く,業界動 を生きる素晴らしさがにじみ出て,同時に,人間の儚いけれ 向をかなり先んじていると言えるだろう. ど充実した一生と人類の綿々たる歴史を感じさせられた. しかし,デザイン自体があまりかっこ良くないとの評もさ ・写真集「二〇〇四年 写狂人日記 空言」 ることながら,すでに熟成しているとおもわれる PDA などと 荒木経惟著,スイッチ・パブリッシング 比べると現場での取り回しをあまり考慮せずに,余計な機能 この写真集は,上記,大橋とは逆に真っ正面から死を取り (例えば音楽鑑賞機能とか)を追加してフラッグシップ化をは 扱っている.乳癌により 34 歳の若さで逝った歌人,宮田美 かっている.今後,本来の機器の存在意義を損ねる方向性に 之里の左乳房を摘出した自分のヌードを撮影してほしい,と 発展していくとユーザーが存在しないマーケットに突入する いう彼女からの願いで始まった 2 人の最後の 1 年間の交流を 恐れがある. 軸に,荒木の 1 年間が重ねられている.宮田と共に,繰り返 13.3 A3ノビ/半切対応, インクジェット顔料プリンター群 し表れる空の写真,合間に妻陽子や昨年下咽頭癌で逝った江 PC の高速化とデジタルカメラの大画素化に伴い,2006 年 戸風俗研究家の杉浦日向子の写真が登場し,人間の限りある 時点で出揃った感があるのが,これらのプリンター群だ.従 生を思わせられる.そういった写真の中にちりばめられた死 来,A4 プリンターが全盛であったが,写真を楽しむというよ とは無縁な様子で生きる人々と,何気ない日常の風景が人生 りはむしろ多目的プリンターとして用いられてきた中で,写 の悲しさと美しさを表現していると感じられた. 真もプリントする,と言った位置づけであり,対コンシュー マー向けであった.昨年から今年にかけてそれらの様相が大 13. 写真家から見た画像技術の進歩 矢部國俊(写真家,光藝工房) きく変わったと思われるのが,これらの A3 プリンターの対 プロフェッショナル / ハイアマチュア向けのフォトプリン ターだ.無論,多目的ユースを残したまま,大手メーカーが 13.1 総論 2005 ~ 2006 年にかけても様々な写真向けの商品がリリー 『フォト』プリンターとしてリリースしてきたことは,写真文 化が花開く福音になると思われる. スされてきたが,そのほとんどがデジタル製品であり,銀塩 大きなポイントはいくつかあり,従来の A3 プリンターと 向けはかなり少なくなった.しかし,写真周辺機器という点 一線を画す.ひとつにはモノクロ写真に対する対応で,加え では銀塩もデジタルもあまり関係ないため,むしろ景気動向 て,光沢などで腰の強い美しい写真がプリントできるように における余波を大きく感じる. また,画像技術に関する進歩はここ近年目覚ましいものが あり,以下に目立った面白いと思うものを取り上げる.余談 なった点であろう.これらは,昨年紹介した PX-5500 が突破 口になっているのは間違いの無い事実だ. 実際に,写真を飾るという行為におよんだ時,おおむね良 だがこれらの進歩に対し,写真自体を文化として楽しむ方向 く用いられるサイズが六ツ切~半切までであり,ハイアマ には旧態然としたままあまり進歩をしておらず,せいぜい チュア層がもっとも手軽に用いることができるというところ ネットや携帯電話で写真を楽しむなどの方向に進んだのみ で,大変有意義なサイズなのだ. で,文化と文明のアンバランスさを感じる.これらは開発に EPSON PX-5500(顔料 8 色)/HP Photosmart Pro B9180(顔 尽力し世界一の写真文明を築いてきた方々に対し,大変,申 料 8 色)/Canon PIXUS Pro 9500(顔料 10 色)と三つのマシン し訳なく感じる次第である. 13.2 EPSON P-4500/P-4000/P-2000 ストレージビュー ワー 大画素化デジカメ全盛時代に突入した昨今,撮影データの バックアップをはからないと,カードメディアをたくさん持 が予定されているが,実は執筆時点では EPSON 以外のマシ ンはまだ発売されておらず,HP が 2006 年 6 ~ 7 月,Canon が 2006 年夏頃が発売予定だ.テストしていないマシンも含 むので個別の解説は残念ながら行わないこととする. これらがすべて出揃った今年の後半以降,もっと写真を出力 2005 年の写真の進歩 すると言った行為が前向きに進んでくるようになれば,銀塩 175 補足になるが,なぜ汎用のこういった展開ソフトが必要で 回帰も含めて写真が盛り上がるであろうと大いに期待したい. あるか,と言ったことだが,銀塩時代のカメラは一緒でフィ 余談だが,これらの中心になる PC については,OS のみが ルムを使い分けるような使い方に対して,デジタルカメラで 取りざたされるだけでハードウエアにはあまりフォーカスさ は寿命自体も短く搭載センサーで使い勝手が縛られるなどの れない.特にデジタルカメラではモニタが初見のスタートラ 実用的な問題点から,様々なメーカーのものを使い分けるよ インであるから,モニタ自体の描画性能も問われてくるであ うになるからであり,さらに,RAW での撮影そのものも撮影 ろうし,大画素をコントロールする場合,CPU やメモリの性 データがイコール撮影者の資産であると言った観点から,年 能も厳しく問われることになる.こういった高精細プリン を重ねるごとに様々な機種のデータが混在することになるか ターにふさわしい PC についてはあまり触れられないのが今 らである.PC も PS も年を重ねるごとにバージョンアップし までの慣例であるが,今後,PC 自体も写真を形作る礎のひ てしまう(含デスコン)と,古いカメラのデータは開けない とつであることを考慮すれば,写真向け PC といった切り口 ことになってしまうわけだが,これらのソフトの恩恵でそう も必要になるかもしれない. いった問題点からは解放されるのだ. 13.4 RAW 展開ソフトウエア 補足の 2 として,これらのソフトの各開発メーカーは,す デジタルカメラでの撮影の神髄は,RAW での撮影にあると べて実際のカメラのデータを取り寄せるかカメラ自体を購入 言っても過言ではない.しかし,ユーザーベースで見ると, して新しい機種に対応している.DNG ファイルフォーマット あまりそれらの機能が使いこなされているとは言えないのが の規格などがあるにも関わらず,カメラメーカーは独自に開 現状だ.そもそも,RAW での撮影の意義は,撮影者がシャッ 発を進めあまり足並みを揃えることは無い.実際のユーザー ターを切ったきっかけである『感動』を,きちんと写真とし の立場からすると,いちいちそれぞれのメーカーのソフトを て『表現』する為に必要な条件に他ならず,銀塩的に言えば, インストールして使い勝手を覚えコントロールする負担を強 暗室作業無くして写真表現はあらずとも言える位,大事なも いられることになり,アドビなどの新しい Camera Raw プラ のなのである.そもそも写真は記録的要素を多分に含むが, グインの開発を待ったりすることになる.そういった点では それらを記録ではなく表現としてなし得る根拠は,そこに行為 あまりユーザーフレンドリーでなく,加えて,それぞれのカ があるからである.単純にあとで修正できるなどと言った切 メラメーカーでバラバラなソフトの使い勝手や用語の仕様な RAW での撮影は片手落ちになってしまうのだ. り口だけだと, のである.開発コストなどを考慮しても今後はもう少し業界 2006 年に入って,これらの RAW を扱うソフトウエアも, の足並みを揃える必要があろう.かつてコダックや富士フイ 色々でてくるようになった.従来は,デジタルカメラに付随 ルムが業界標準をつくっていたことを考えると,とてもお粗 して専用のソフトウエアが添付されてくるか,別売りの専用 末きわまりないしユーザーの利便を無視している状態なので ソフトウエアを購入するのが一般的であったが,昨年のアド ある. ビ CS2 のリリースに伴いアドビ / ブリッジが同梱されてくる 13.5 高精細モニター よ う に な っ て か ら 火 が つ い た.そ れ ま で は,ア ド ビ の デジタル写真にとってモニターは命である.ここでの初見 CameraRawConverter(フォトショッププラグイン)や市川ソ がすべてを決定し,そこからすべての写真のカラーがスター フトラボラトリーシルキーピックス,シンボリックコント トする.しかし,昨今,安価な LCD が跋扈し,『観る』と ロール / ピクチャーラボがメーカー純正でない RAW 展開ソフ 言ったことがおざなりと言える.それらの中で善戦している トであった. のがナナオ(EIZO)のモニター群だ.高精細モニターに加え, 昨年末からこれらを大きく変える原動力になったのが, AdobeRGB カラー対応や,キャリブレーションを重視したう アップル / アパーチャーである.そして,PIE2006 で一般に えで,以前存在した高精細キャリブレーションモニターに比 もお目見えしたアドビのライトルーム,昨年にバージョン べ安く提供されている. アップしてより強力になったシルキーピックス 2,それとア ColorEdge シリーズがそれらであるが,大変高精細で美し ドビ / ブリッジ(正確にはフォトショップとの連動)であろう. い.これらはすべて昨年以前リリースしたモデルで目新しさ これらの RAW 展開ソフトの分類としては,アーカイヴ重 は無いが,他のところでも触れたように今後のデジタル写真 視か,8bit 展開重視に別れる.アパーチャー / ライトルーム の動向に対して重要なポイントになりそうなのであらためて はフォトブラウズと RAW カラーコントロールだけでなく, ピックアップした次第である. データ整理などの写真分類の作業に特化した機能をいくつか 液晶モニターは時代の趨勢であるが,値段のみで語られる 持っている.ブリッジなどが汎用での作業に主眼をおいてい ことが多く,実際に写真を表示することを考慮すると,キャ るのとは対照的である.単体での 8bit 展開に大きく主眼をお リブレーションすらろくに受け付けない(保護パネル自体が いているのがシルキーピックス 2 で,いかに美しく 8bitRGB 真っ青であったり階調が硬すぎるなど)LCD は写真の世界に データを生成するかにその開発意図がある.余談ではあるが とっては喜ばしい存在とは言えず,今後,留意していくべき 同じ RAW データを様々なソフトで 8bit 展開し直してみると, ポイントであろう.このモニタの問題における見えない経済 シルキーピックスがダントツに美しい.企業規模で比較する 損失はかなり大きいと私見ながら推測する. と恐るべき努力と言えよう. 176 日本写真学会誌 69 巻 3 号(2006 年,平 18) 13.6 キャリブレーション 2006 年に新たに発表されて面白いと思ったキャリブレー 撮り味がおざなりなのが国産のポイントとも言える. 13.8 ブロンカラー ターは,カラービジョンの PrintFIXpro だ.モニタキャリブ ブロンカラーは,スイスのストロボメーカーだ.かなり高 レーターはスパイダーという商品名ですでに販売されてい 品質なストロボを提供してくれるメーカーで,フィルムの る.キャリブレーターは,業務用の測定機器に比べるとはる メーカーテストなどでもよく使われる. かにチープな商品であるが,デジタル写真ユーザーには必携 デジタルカメラをメインで用いるようになると,こういっ のツールである.この市場は従来,グレタグマクベスのアイ たライティング機材は大変重要な要素を持つ.色温度や細や ワンシリーズと,X-Rite のモナコシリーズが有名であった. かな撮影コントロールができる機種がデジタルカメラには向 グレタグマクベスと X-Rite の吸収合併により,今後,数少な いているからに他ならない.銀塩では,1/3 の露出の差は見 いライバルとして君臨する予定なのがカラービジョンである た目ではほとんどわからないくらいにしか変わらないが,デ (USA ではもともと知名度 / シェア率は高い). ジタルカメラでは 1/10 の露出のばらつきを拾ってしまう.色 PrintFIXpro の面白いところは,インクジェットプリンター 温度に対しても同様の鋭敏さをもつ為,デジタルカメラを用 などの RGB データを受け付けるプリンターに特化している いたライティングはかなり難しいと言える.そういった高度 点だ.プリント対応のキャリブレータは印刷なども見据えて な要求に対応できるのがブロンカラーストロボシステムなの いる為価格が高く,写真を扱う人間にはモニタキャリブレー である. ターだけを購入するのが一般的であった.これは,価格だけ フォトとは光であり,光はカラーである為,写真にとって でなく,おおくの撮影者にとって印刷は不可侵な分野という は命とも言えるものなのだ.細かい機種解説は割愛するが, ことも理由としてあげられる.しかし,価格をぐっと抑えて, どの機種を用いても安定したライトが魅力だ. 写真家がプリントサンプルとして用いる / 成果物として用い 13.9 データストレージ ることの多い RGB プリンターにのみ対応したということは, 今後のデジタル写真にとって,周辺機器として大事なもの ユーザー動向をよくわかっているといえるのだ. は,先にあげた PC やモニタ,ソフトウエア以外に,データ 13.7 デジタルカメラ ストレージがあげられる.撮影データを管理バックアップし 一眼レフ形状のデジタルカメラ全盛なので,数少ない中盤 ていかなければならないからだ. 向けデジタルカメラであるハッセルブラッド H2D-39 をとり あげる. 1 ショットで 3900 万画素を撮影してしまう市販機では最高 周知のように,撮影データは WEB データやドキュメントな どに比べて極端に重い.その為,あっという間にハードディス クは埋まってしまう.それらを整理すると,コピーだけでも 峰の,CCD 搭載デジタルカメラだ.645 ベースなので取り回 時間がかかり,バックアップするだけでも多大な負担がかか しも良く,実用にして十分なデジタルカメラであると言える. る.これはハードの故障などにも対応する必要があるからだ. 実際のテストでは大変高画質で C-MOS を用いたデジタルカ そういったニーズに対応してくれるのが,アップルの RAID メラと比較するとびっくりしてしまうくらいの画質だ. システムだ.最大 7TB もの容量を安全に速く格納することが 仕事でデジタルカメラを用いると A3 ~ B0 での使用は意外 できる(詳しい技術解説は HP でチェックしてほしい.http: に多く,高画素の一眼レフタイプのデジタルカメラでは画素 //www.apple.com/jp/xserve/raid/).ヘビーに画像を扱うパワー 数が足りないこともままある.また,トリミングにはデジタ ユーザーには,今後こういったストレージが当たり前の世界 ルカメラは弱いので,画素が多いというのはそれだけで魅力 になっていくだろうとおもわれる. になる.当然,問題になるのはシューティングレートとバッ 事実,筆者はバックアップを DAT(DDS4)で行っている テリーだ.前者は 35 カット / 分なのでかなり実用的だ.後者 が,これだけでも大変な負担であるからだ.また,かつてバッ はカメラの駆動バッテリーと共用の為,カタログスペックほ クアップしている HD の故障により顧客サービスが不能に どは使えない.ちなみに,背面の液晶はもっと使えない.ヒ なったり作品データを喪失したことが何度もある.デジタル ストグラムチェック専用ぐらいに考えるべきだ. 写真を本格的に運用するようになるとそういった問題が日々 ドライバソフトは専用のもの(FlexColor)だが,これもイ マコンベースなためスキャナチックで,写真家向けとは ちょっと言いにくい.加えて,3900 万画素ものデータをコン トロールすることを考えると,撮影してからフォトショップ 発生する.本年以降,そういった周辺機器についてもデジタ ルが本格化するほど重要になってくると思う. 13.10 トイカメラ デジタルカメラ主流の昨今に,意外なブームを起こしてい などでデータをチェックするのに PC に多大な負担がかかり, るのがトイカメラだ.ずいぶん以前から存在する分野なのだ 素早くチェックすることは到底かなわない.2200 万画素機の が,過去一年くらい徐々に盛り上がりを見せているのは今更 ような DNG 対応の方が良いと思われる.こういうところで 説明の必要も無いだろう. ムダな開発コストを割いているせいか,価格はカメラ本体と レンズ付きで 420 万円!ただし,撮影する感覚はピカイチで, 画質もものすごくいい. この感覚は,ちょうど国産カーと外車のような関係にあり, そんな中で面白い商品なのが,レンズベイビーという商品 だ(TPC 取扱). これはアメリカ人の写真家が開発した光学的に画像処理を するレンズだ.作りはいたって簡単で,固定絞りで単純なレ 2005 年の写真の進歩 177 ンズ構成の円筒蛇腹でできていて,様々なカメラに付けるこ で規格番号及び規格名称の検索が可能),JIS(日本工業規格) とができる. の B 分野(光学機械)は 14 件,K 分野(写真材料・測定方 レンズのもつ収差などの基本的な特徴を表現に用いようと いうツールなのだ.トイカメラとちょっと異なるのは,デジ タルカメラにも付けられるという点と,あくまで表現を能動 法)は 8 件である.JIS は日本工業標準調査会の Website(http: //www.jisc.go.jp/)で検索・閲覧が可能である. 14.2 ISO 専門委員会会議 的に行うツールであるというところだろう.レンズを介して ISO/TC42(写真)の全体会議・専門委員会会議は,2005 年 ぼけなどの効果を与えるため,PC を用いた画像処理による 秋の開催予定であったが中止され,2007 年 6 月 25 日~ 29 効果と異なりより自然に加工できるわけだ. 日,スイスのローザンヌで開催の予定. 価格もかなり安く,冗談で買ってみてもいいかな,と思う ような商品なのだ.デジタル全盛時代にあって,こういった ISO/TC130(印刷)の全体会議・専門委員会会議が,2005 年 9 月 26 日~ 30 日,ブラジルのサンパウロで開催された. 観点は日本人には無いなぁといたく感心する.これらは既知 次回は 2006 年 4 月 21 日~ 28 日,アメリカのサンディエゴ の技術の応用であり, 『進歩』という観点ではむしろ後退とも で開催の予定. いえるのだが,文化的進歩と考えれば,大変なる進歩だろう 14.3 規格発行,改正等の動き と思う次第である. 2005 年に発行,廃 止 及び確 認 された ISO 規格(TC42: 13.11 最後に Photography),JIS(K:写真材料・測定方法,B:光学器械) 以上,筆者の私見で述べた.知りうる範囲での記載なので 及び団体規格(カメラ映像機器工業会)を以下に示す. 抜け等については平にご容赦願いたい.また,執筆時点(2006 14.3.1 ISO 規格 年 4 月末日)での情報であることを注意してほしい. 1)発行された ISO 規格 筆者から見た業界に対する技術的な要望としては,文化創 成を念頭に置いてほしいということ,最低限の業界基準を設 ける努力をしてほしいということなどがあげられる.今現在, ・ISO 12231: Photography — Electronic still picture imaging — Vocabulary ・ISO 15740: Photography — Electronic still picture imaging — 個々のメーカーの利益(=意地ともいう)優先だったり,大 Picture transfer protocol (PTP) for digital still photography 手メーカーのルールになびくことが多く見受けられるように devices 感じる.これらの改善はユーザーの利益を守るだけでなく, 業界の健全な育成の為に不可欠なものだ.そういったことが ・ISO 18932: Imaging materials — Adhesive mounting systems — Specifications きちんとなされてはじめて,全うな『画像技術の進歩』とい ・ISO 18935: Imaging materials — Colour images on paper え,高度な写真文化創成につながるはずであるからだ.世界 prints — Determination of indoor water resistance of printed 一の写真王国なのだから,世界に誇る写真文化の国にしたい colour images ものだ.これ即ち写真需要の創成に他ならず,業界が潤う重 要かつ不可欠な方向であるといえる. 乱筆乱文は,これまた平にご容赦ください.最後までお読 みいただき感謝いたします. ・ISO 20462-1: Photography — Psychophysical experimental methods for estimating image quality — Part 1: Overview of psychophysical elements ・ISO 20462-2: Photography — Psychophysical experimental methods for estimating image quality — Part 2: Triplet com- 14. 工業規格 parison method 甘利孝三(写真感光材料工業会) ・ISO 20462-3: Photography — Psychophysical experimental methods for estimating image quality — Part 3: Quality ruler 14.1 概要 現在,規格制定・改正の活動が活発に行われているのは, ISO(国際標準化機構)/ TC42(Photography)の WG(Working Group)5(物理性と保存安定性),WG18(デジタルスチルカ メラ),JWG(Joint Working Group)20(デジタルスチルカメ method 2)廃止された ISO 規格 ・該当なし. 3)確認された ISO 規格 ・不明(定期見直しの結果によって確認されるが,定期見直 ラの色特性)/ 22(色管理)/ 23(デジタル画像の拡張色空間) しの結果は未だ公表されていない). である. 14.3.2 JIS 日写誌 68(6) ,459 の吉田(オリンパス)の評価・測定方法 の規格は,TC42/WG18 及び WG5 で審議されている ISO 規格 案である. 発行されている写真関係の国際規格[TR(技術報告書)を 含む]又は国家規格は ISO/TC42 では 168 件(http://www.iso.ch/ 1)発行された JIS,廃止された JIS 及び確認された JIS ・該当なし. 14.3.3 発行された団体規格 ・カメラ映像機器工業会(CIPA)の団体規格:CIPA DC-005 “Picture Transfer Protocol” over TCP/IP networks
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