リチウムイオン電池の概要

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リチウムイオン電池の概要
負極の活物質が炭素(C,グラファイト)、正極の活物質がコバルト酸リチウム(LiCoO2)で
あり、イオン伝導媒体にはリチウムイオン伝導性の有機電解液(リチウム塩 LiX を極性の有機溶
媒に溶かした溶液)が用いられる。この両電極活物質の状態は LIB が化学エネルギーを放出して
放電状態にある組織に対応している。現在製品化されている LIB は放電状態として作成されるの
が特徴である。
充電すると、負極において電解液中のリチウムイオンが外部回路からの電子とともにグラフ
ァイトの層間に挿入される。グラファイトは強固な共有結合によりできた炭素原子のシートが弱
い分子間力で積層した層状物質(ホスト)で、リチウムのような電子供与性の強いゲストを層間
に取り込むことができる(=ホスト・ゲスト反応)
。生じた物質を層間化合物という。正極におい
ては LiCoO2 のシートが外部回路への電子の放出を伴ってリチウムイオンとして電解液中に離脱
する。LiCoO2 も共有結合でできた CoO2 のシートがリチウムを挟んで積層した層状化合物であ
る。
(負極反応)
C6 + xLi+ + xe- → LixC6
(正極反応)
LiCoO2 → Li1-xCoO2 + xLi+ + xe-
ここでは、グラファイトの層間が満たされた組織が LiC6 であるから、グラファイトを C6 で示す。
したがって、正味の充電反応は
C6 + LiCoO2 → LixC6 + Li1-xCoO2
となる。これは、LiCoO2 中の Li が電解液を通ってグラファイト層間に移動することに他ならな
い。リチウムがグラファイト層間に挿入されると、負極の電位は金属リチウムのそれとほぼ等し
くなる。また、LiCoO2 から Li が引き抜かれると高酸化状態の Co4+が生じ、正極の電位は金属リ
チウムに対して 4V 程度高くなる。従って、両極間には約 4V の起電力が生じる。この状態(充
電)で両極に負荷をつなげば、上式と全く逆方向の反応が起こり、外界に仕事をする。これがリ
チウムイオン電池の原理である。
以上のように、LIB の充放電における正味の反応は、リチウム原子が両極の層状物質を往復
するだけで極めてシンプルである。この特徴からロッキングチェア電池、スウィング電池とも言
われる。リチウムイオン電池という呼び名は、「LIB においてすべての Li は、常時、金属リチウ
ムより安定なリチウムイオンの状態で存在する」を強調するために、ソニーが命名したものであ
る。正極 Li1-xCoO2 は酸化物であるから Li は完全にイオン化しているのは当然であるが、負極に
おいてもリチウムは炭素に電子を与え、Liδ+C6δ- のようにイオン化していることが確かめられて
いる。
開発の歴史
リチウムは最も卑で(電極電位が低い)
、最もモル質量の小さい金属であるから、これを負極
とする電池には、高いエネルギー密度が期待でき、古くから多くの研究がなされてきた。LIB の
開発は 1970 年ころから盛んになり正極活物質材料として TiS2 や TaS2 など多くの層状硫化物
(MS2)が研究された。これらは、MS2 シートが分子間力で積層した層状物質で、Li1-xCoO2 の層
間リチウムが抜けたものに相当する。それゆえ、層間にリチウムが可逆的に出入りできるホスト
として機能する。1986 年、カナダの会社が負極に金属リチウム、正極に MoS2 を用いる電池
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(Li/MoS2)を商品化した。起電力約 2.8V と高く、一部の携帯電子機器に採用された。しかし、
電池の発火や破裂事故が続出、まもなく生産は中止された。事故の原因は、充電時に負極表面で
金属リチウムの針状結晶が成長、正極面にまで達してショートを起こしたためと考えられた。こ
の電池の負極反応はリチウムの電析(めっき)であるから、条件を厳しく選ばないかぎり平滑に
析出することはできない。充放電サイクルを繰り返すうちに急速に電池容量が低下するという問
題もあった。
そのようなことから、金属リチウムに変わる負極材料の探索が続けられた。比較的軽い原子
である炭素(質量数 12)の同素体グラファイト(黒鉛)が目をつけられた。グラファイトが層
間にアルカリ金属などを取り込み層間化合物(Graphite Intercalation Compound)をつくるこ
とは 1920 年ころから知られていた。層状のホストにゲストを挿入すること。グラファイト層間
化合物は炭素シート内で高い電子伝導性を示す2次元伝導体であり、多くの研究がなされた。ゲ
ストがリチウムである GIC を負極、正極を TiS2 や MoS2 とすれば、金属 Li を用いないリチウ
ム2次電池が可能であることは容易に発想される。しかし、これを実用化するには工業的合成法
の確立が必要であった。1980 年、オックスフォード大学の水島公一氏の発表した「層状岩塩型
構造を有する Li1-xCoO2 は、電気化学的手段により層間リチウムを引き抜き、挿入が可能なホス
ト・ゲスト系で、引き抜いた状態の電位は金属リチウムに対して 4V に達する」が学術専門誌に
掲載された。電池の研究者がこれを読めば、Li-GIC ではなく、グラファイトそのものを負極とし
てリチウム二次電池(充電により電池内で Li-GIC を合成する電池、今でいう LIB)を構成できる
ことは容易に思いつく。この発見から 10 年後の 1991 年、ソニーが世界に先駆けて LIB の製品
化に成功した。画期的な新素材が世にでても、それが実用化されるまでには 10 年の歳月を要し
た。1995 年ころから急速に普及、アルカリ電池やニッケル水素電池の市場を奪った。ここに電
池界の革命が起こった。
特性と用途
OCV(Open Circuit Voltage) 無限に小さい電流で電池を充放電したときの充放電曲線
エネルギー密度:必要なエネルギーを蓄える電池をいかに軽く、小さくできるかの指標。
電池の作動電圧を 3.7V とすれば、
容量が 2600mA であるから、
エネルギーは 9620mWh、
この電池の重量 40g で割れば、重量エネルギー密度は 240mWhg-1=240WhKg-1 となる。
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鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池の重量エネルギーは 40~50WhKg-1 であるから、その密度
の高さがわかる。
電池のもう一つの重要な基本的特性は、どれだけのパワーが取り出せるかを示す出力特性で
ある。上図(リチウムイオン電池(C6/LiCoO2)の放電曲線に見られるように、電池の作動電圧は
放電電流の増加とともに低下し、カットオフ電圧点に達する。これは各種の分極が電流とともに
増加するからである。ここで、OCF と電流を流したときの動的電圧の差を分極という。電極反応
速度が遅いために生じる活性化分極、活物質のゲストの拡散など物質移動が遅いために生じる濃
度分極、および電解液の電気抵抗などに起因してオームの法則に従う抵抗分極から構成される。
定められた電圧水準を一定時間維持できる最大の電流とその電圧の積を最大出力(W)と見ること
ができる。作動電圧は起電力から分極を差し引いたものであるから、起電力の高いことは出力特
性にとってきわめて有利である。最大出力を電池重量で除したものを出力密度というが、電気自
動車用の電池では加速性能や登坂性能を左右するので、とくに重視される。
二次電池は充放電ごとに電極反応が繰り返される。充放電の1サイクルで完全に元の状態に
戻ればよいのだが、電極反応は通常、電極活物質の体積変化を伴うので不可逆的な変形が生じる。
変形が蓄積すると、電極反応に関与できない活物質が現れてくる。このため、電池の諸特性が充
放電の繰り返しに伴って、多少なりとも劣化することは避けられない。容量維持率(初期容量で
規格化した容量)とサイクル数の関係は「サイクル特性」と呼ばれ、エネルギー密度、出力密度
と並んで重要な特性である。このように比較的劣化が少ないのも LIB の特徴のである。グラファ
イトの代わりに非晶質に近い炭素(難黒鉛化性炭素)を用いればさらに劣化が抑えられ、1000
サイクルを超える充放電に耐えるものもある。ただ、サイクル特性は他の特性(エネルギー密度
など)の犠牲のうえに向上することもできるし、また、充放電の条件によっても大きく変わるの
で、他の電池と直接比較するのは難しい。
安全性は、電池を使う側から見ると最も重要な特性である。LIB では、すげてのリチウムが
常にイオンの状態で存在するので、金属リチウム電池に比べればはるかに安全である。わざわざ
「リチウムイオン」電池と命名されたのは、安全性を強調する意図からであった。しかし、すべ
ての電池はエネルギーの缶詰であるから、使い方を誤ると危険である。LIB は可燃性の電解液を
用いており、製品開発の段階では、想定し得るあらゆる誤使用・乱暴な取り扱いに対応する試験
項目を設定して安全性のテストが行われている。実用化されている LIB はこのようなテストで安
全性が確かめられたものである。
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電池に要求される他の特性として、温度特性、自己放電特性などがある。温度が低くなると、一
般に、電極反応の速度が遅くなるとともに電解質の抵抗が大きくなるので、分極が増加して容量
や出力特性が低下する。一方、高温では自己放電が早くなるなど好ましくない現象が起こる。し
たがって、電池系の種類により、適正な使用温度範囲が定まる。LIB は-20~+60℃という比較
的広い範囲をカバーしている。自己放電は活物質と電解液の直接反応などにより、電池を使わず
放置した状態でも容量が消耗する現象である。LIB の自己放電は水溶液系二次電池よりかなり小
さく、室温で放置した時の容量消耗率は 10%/月程度である。この他、ニッケル・カドミウムや
ニッケル水素電池で問題となるメモリ効果が見られないのも LIB の特徴である。メモリ効果とは、
容量が充分残っている状態から充電するという操作を繰り返すと電池がその容量を「記憶」し、
本来の容量を取り出すことができなくなる現象である。
本稿は材料学シリーズ「リチウムイオン電池の科学」より抜粋したものであります。
日本経済新聞(2013/8/1)記事より抜粋
―
スマホ電池容量 10 倍
信越化学が新材料 3~4年後量産 ―
信越化学工業はスマートフォンや電気自動車に搭載するリチウムイオン電池n新材料を開発した。
電池で蓄えられる電気の両を最大 10 倍に増やせるため、スマホの仕様時間を延ばしたり、電池
を小型にしたりできる。3~4年後に量産し、国内外の電池大手に供給する方針だ。次世代電池
材料の開発では日本の素材企業が先行している。信越化学の参入でより多くの電気をためる技術
の開発が加速しそうだ。
信越化学が開発したのは電池内で電気を蓄えるために必要なシート状の材料。現在は炭素系材料
が使われているが、同社は半導体ウエハーで培った技術を活用し、シリコンで代替する。シリコ
ンは炭素系に比べ価格は大幅に高いが、電気を 10 倍程度蓄える特性がある。スマホに搭載すれ
ば長時間使え、煩雑な充電の煩わしさの解消につながる。
信越化学は試作品を開発し、国内外のメーカーに出荷を始めた。2014 年までに群馬県安中市に
電池材料の工場と合わせて投資額は約 100 億円。使用時の材料の変形による劣化や生産コスト
など、量産に向けた課題を電池メーカーなどと協力して克服する。
民間調査会社の富士経済(東京・中央)によるとリチウムイオン電池の世界市場は 17 年に 12
年比 5 割増の1兆 7 千億円に拡大する見通し。韓国のサムスン SDI やパナソニックが強い。
こうした電池に使われる材料では日本の素材メーカーが世界で5割近いシェアを持つ。日立化成
は合金を使って電池容量を増やす技術を開発している。容量だけでなく、発火を抑える技術でも
日本勢は優位を保つ。住友大阪セメントなども新技術の開発を進めている。
電池材料として使えば多くのリチウムイオ
ンを吸収・放出できるが、充電や放電の際に
堆積が大きく変化し、耐久性の課題が指摘さ
れている。
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