学びみらい PASS 「新しい学力」を多面的に測定する新しい教育 - Kei-Net

Kawaijuku Report
Kawaijuku
Report
学びみらい PASS
「新しい学力」を多面的に測定する新しい教育ツール
「学びみらい PASS」は、4つのアセスメントテスト
を発展・統合した、これまでにない新しい教育ツール
である。
「新しい学力」を多面的に測定し、生徒の現状
の分析や伸長の可視化を通じて、個々の育成を支援す
ることができる。今回の Kawaijuku Report では「学び
みらい PASS」についてご紹介する。
Contents
概要●学びみらい PASS とは何か ……………p41
高校等での活用事例 ……………………………p45
事例紹介●土佐女子中学高等学校 ……………p46
概要●学びみらい PASS とは何か
れた4つのアセスメントテストを発展・統合し、
「新しい
現代社会で求められる「新しい能力」
学力<図1>」を多面的に測定、生徒の現状の分析や伸
大学入試でも問われる「新しい学力」
長の可視化を通じて、個々の育成を支援する新しい教育
現代社会は、ICT 化やグローバル化の進展を背景に、
より自律を求められる方向に大きく変化している。その
ような社会では、自ら成長し「学び続ける力」が求めら
れる。そして、この変化は高校にも及んでいる。
「知識・
技能」のみならず、
「思考力・判断力・表現力」
「主体性・
(注1)
多様性・協働性」が「学力の3要素
」として学校教
ツールを開発した。それが「学びみらい PASS」である。
4つのアセスメントテストで構成
多面的・総合的な評価が可能
「学びみらい PASS」は、次の4つのアセスメントテス
トによって構成されており、それぞれ異なる能力を測っ
育法で規定された。この考えに基づき、高校教育、大学
ている。
入学者選抜、大学教育の三者一体となった高大接続改革
「PROG-H( プ ロ グ Progress Report On Generic
が進展しており、大学入学者選抜は、これまでの「知識・
skills)」は、高校生を対象とした学校や社会で求められ
技能」に加え、
「思考力・判断力・表現力」と「主体性・
る汎用的な能力(ジェネリックスキル)を測定するテス
多様性・協働性」を多面的・総合的に評価する仕組みへ
トである。テストは現実的な場面を想定して作成されて
と移行する。そのための準備は、現在の高校教育現場の
いる。知識の有無を問うものや、自己診断的なものが多
課題となっている。
かった従来のテストとは異なり、「知識を活用して問題
これまで河合塾では、大学入試情報の提供や学習指導
を解決する力(リテラシー)」と「実践的な行動特性(コ
だけでなく、大学の教育改革、教育活動の調査、新たな
ンピテンシー)」を測定する(コラム参照)
。なお、大学
学力測定ツールの開発など、高大接続を視野に入れた教
生のジェネリックスキルを測定するテスト「PROG」は、
育施策や教育手法の開発に取り組んできた。そして、社
2012 年4月の開始以降、既に全国約 330 大学で利用さ
会の大きな変革期にあたり、これまでの取り組みで得ら
れ、年間の受験者数はのべ 13 万人に上るなど、ジェネ
<図 1>「学力の3要素」を含む「新しい学力」
新しい学力
学力の3要素
教科学力
知識・技能
(教科学力)
ジェネリックスキル
リテラシー
思考力・判断力・
表現力
コンピテンシー
主体性・多様性・
協働性
キャリア意識
適性・興味関心
学習生活パターン
学習スタイル
生活態度
(注1)学力の3要素は(1)十分な知識・技能、
(2)それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力、
(3)これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(2016 年 3 月 31 日 高大接続システム改革会議「最終報告」より)
Kawaijuku Guideline 2016.11 41
リックスキル測定の定番となっている。
「PROG-H」は、
に影響されない学力指標で、学力伸長を正確に把握でき
そのテストを高校生用にアレンジしたものであり、評価
る。
「Kei-SAT」では、英語・数学・日本語の学力を、全
基準も同一である。そのため、高校から大学をつなげて、
学年共通の学力指標であるスコア(100 ~ 700)で算出
成長を可視化することも可能である。
し、7段階で評価を行う。
「Kei-SAT(ケイサット Kei-Scholastic Assessment
「LEADS(リーズ Learning Attitude & Daily Survey)
」
Test)
」は、教科学力を測定するテストである。項目反
は、学習生活パターンを測るセルフチェックであり、日
(注2)
応理論(IRT)
に基づき、教科学力のスコアを段階
頃の学習習慣や生活リズムをアンケート形式で回答する。
評価に換算して提示する。出題は高校1・2年生の履修
また、友人関係、進学・就職意識についても現状を把握し、
範囲に準じているが、実施時期・受験者集団・出題内容
日常生活の見直しやキャリア意識向上に向けた指導での
Column
リテラシーとコンピテンシーとは
今後、大きく変革する社会で活躍
つと概ね合致している。これは、
「学
って身につくものである。
するためには、生涯にわたって学習
力の3要素」にも通底しており、大
「PROG-H」では、「リテラシー」
を続け、新たな専門性を獲得するこ
学入学を希望する高校生に対しても
を問題解決のプロセスに即して6
とと、職業を超えて活用・移転可能
求められている能力と言える。
つの能力(情報収集力、情報分析力、
なスキル=ジェネリックスキルを身
「学びみらい PASS」を構成する
課題発見力、構想力、表現力、実
につけることが求められている。ジ
4 つ の テ ス ト の う ち「PROG-H」
行力)に整理し、表現力、実行力
ェネリックスキルを重視する動きは
は、このジェネリックスキルを「リ
を除く4つの能力を測定。また、
世界各国で活発になっており、日本
テラシー」と「コンピテンシー」の
「コンピテンシー」を社会人として
でも近年「社会人基礎力」
「学士力」
2つの側面から測定している<図>。
などさまざまな名称で、その重要性
成果を上げるために必要な能力と
「リテラシー」とは、新しい問題や
して、「対人基礎力」「対課題基礎
が提唱されている。
これまで経験のない問題に対して、
力」「対自己基礎力」の3つの能力
このジェネリックスキルを構成す
知識を活用して課題を解決する力で
に整理している。さらに「対人基
る能力については、複数の定義はあ
あり、
「コンピテンシー」とは、周
礎力」は親和力、協働力、統率力
るものの、 それらは OECD( 経 済
囲の状況に上手に対応するために身
から構成され、「対課題基礎力」は
協力開発機構)の報告にある「社
につけた、意思決定・行動指針など
課題発見力、計画立案力、実践力、
会・文化的、技術的ツールを相互作
の特性である。この「リテラシー」
「対自己基礎力」は感情制御力、自
用的に活用する能力」
「多様な社会
と「コンピテンシー」は、机に向か
信創出力、行動持続力で構成され
グループにおける人間関係形成能
って書物を読めば得られるものでは
ている。
力」
「自律的に行動する能力」の3
なく、
「実践」「体験」「経験」によ
<図>リテラシーとコンピテンシー
リテラシー
コンピテンシー
新しい問題や、これまで経験のな
い問題に対して知識を活用して課
題を解決する力
周囲の状況に上手に対応するため
に身につけた、意思決定・行動指
針などの特性
※習得した知識を現実の問題に活
用することで育成される
※経験を振り返りモデルを意識し
て行動することで育成される
知識を学ぶ
知的
コンピテンス
学び続ける
力の素養
42 Kawaijuku Guideline 2016.11
経験を積む
社会的・
コミュニケーション
コンピテンス
どんな仕事にも
転移可能な
力の素養
Kawaijuku Report
<図2>大学入学者選抜改革と4つのアセスメントテスト
多面的・総合的な評価・選抜の改革
文部科学省が
推進する
大学入試改革
(新しい学力観)
知識・技能
思考力・判断力・
表現力
高等学校基礎学力テスト
(仮称)
主体性・多様性・
協働性
適性・興味・関心
各大学の個別入学者選抜
大学入学希望者学力評価テスト
(仮称)
「学びみらい PASS」
4つのテスト領域
教科学力
Kei-SAT
学習生活状況調査
LEADS
ジェネリックスキル
PROG-H
キャリア意識
R-CAP for teens
活用が可能となっている。学習・生活実態から生徒の志
を検討することができる。このように生徒にとっては自
向性タイプを分析し、指導のポイントを明確化する。
分を見つめ直し、次なる目標を設定する機会となり、指
「R-CAP for teens(アールキャップ)
」は、社会で
導者にとっては個々の生徒に寄り添い見守るための機会
活躍する社会人・学生約3万人の「興味・価値観・志向」
となる。そのためのツールが、受験後に提供される生徒
に関するデータをもとに「キミのタイプ」
「職業適性」
「学
別の「個人報告書(担任用面談シート)
」である。
問適性」などの領域で診断結果を表す。客観的に自身を
「個人報告書(担任用面談シート)
」には、4つのアセ
知る手がかりになると同時に、キャリア意識・進路に関
スメントテストの測定結果と、そこから導き出される「学
する意欲を高める機会にもなる。
「R-CAP for teens」は、
力の3要素」のバランスと「志向性」の現状が記載され
生徒の職業観・学問観の視野を広げるため、文理選択や
ている。
「学力の3要素」は、教科学力、リテラシー、コ
科目選択に効果を発揮し、生徒の志向を把握した的確な
ンピテンシーの3つの力を3次元に図式化したバランス
進路面談に有効である。
チャートで表されており、これによって生徒の強みと弱
このように「学びみらい PASS」は、これら4つのア
みが一目で確認できる。この3つの力の評価の組み合わ
セスメントテスト結果から導き出される統合診断結果に
せにより、生徒像を8つのパターンに分類しており、生
よって、生徒の「新しい学力」を可視化。生徒一人ひと
徒の特徴に合わせた面談や進路指導につなげることがで
りの特性に合わせた進路指導を可能とする。また、
「学び
きる。当然、全ての生徒が完全に8つのパターンに分類
みらい PASS」で測定する能力は、文部科学省の推進す
できるわけではないが、それを補うため、
「個人報告書(担
る大学入学者選抜改革にも対応している<図2>。
任用面談シート)
」では、より細かく構成要素別に能力が
個人報告書によって
視覚的に生徒の強みと弱みを把握
「学びみらい PASS」は、教科学力とともに「考える力」
確認できる。生徒によって能力状況はさまざまであり、
総合値が良いからといって、必ずしも構成要素全てが良
好なわけではない場合もある。このように個々の状況を
細かく確認することで、生徒の強みと弱みを的確に把握
「行動する力」などの力を測定し、かつ「学習・生活状況」
することができる。
「キャリア意識」などを調査している。これらによる統合
また、
「志向性」は、生活状況と意識、興味関心度を
診断結果によって生徒の強みと弱みを可視化することに
表しており、生徒の生活時間、キャリア意識等から、生
より、生徒と指導者が共有することが可能だ。生徒の強
徒を5つの志向性タイプに分類する。そして、単に分類
みは、それを活かした進路・キャリア設計になるような
するだけではなく、現状の分析コメントも詳しく記載さ
助言につながる。生徒の弱みは、生徒自身も認識できて
れる。また、生徒の「友人関係」
「自尊感情」
「キャリア
いる場合もあるが、弱みを改善するとどのような利点が
意識」
「興味関心」の各項目の良好度が星の数で示される。
あるかを指導者が生徒と共に考えることで次のステップ
「興味関心」の星の数は、方向性の定まり具合を示してお
(注2)項目反応理論は、統計的な手法を用いて受験条件(実施時期・受験者集団・出題内容等)の違いをいわば調整する仕組みであり、外国語の検定試験な
どでも広く利用される一般的な方法である。
Kawaijuku Guideline 2016.11 43
<図3> “ 花のカタチ ” ワークシート
り、定まっていると3つ、分散していると1つの星が表
示される。これによって視覚的に生徒の志向性を把握す
ることができ、さらに詳しい分析は「LEADS」
「R-CAP
for teens」の結果で確認できる。
「R-CAP for teens」
の分析では、生徒のアセスメントテスト受験時での進路
希望を一覧で確認でき、職業適性、学問適性、文理傾向
なども表示されているため、文理選択や将来の方向性な
どについての指導方針を定めるのに活用できる。
生徒向けワークブックを活用
ワークによって理解を深める
模擬試験の個人成績表に該当する「個人報告書」は、
生徒個人にも返却される。それとともに「学びみらい
NOTE( 生 徒 向 け解 説 書 )
」 と「 学 びみらい PASS Personal Report(生徒向けワークブック)
」も生徒全
員に提供される。
「学びみらい NOTE(生徒向け解説書)
」は、
「学びみら
い PASS」で測定している力は何か、なぜ必要なのか、
それらの力を高めていくためにはどうしたらよいかといっ
た内容をわかりやすく解説している。
そして、
「Personal Report(生徒向けワークブック)
」
は、
「学びみらい NOTE」と並行して行うワークを中心と
のポイントは、花の大きさではなく“ 花のカタチ ” に生徒
した教材である。
「学びみらい PASS」の測定結果から自
の意識を向けることだ。
「花を満開にすること」ではなく、
分の現状を把握するワークや、リテラシー、コンピテン
生徒たちが「自分のなりたいカタチ」を考えることが大
シーを理解するためのワークをしながら、これから必要
切である。そのカタチに近づくために自分の将来につい
な力を意識させるためのツールでもある。ワークは1人
ての見通しを持たせることが指導の重要なポイントとなる。
で行うことも可能なため自宅学習の課題とすることもで
グループワークを行う場合は、“ 花のカタチ ” をグループ
きるが、各生徒がより深く理解するためにグループワー
内でお互いに見せ合い、見比べることで、より興味を持っ
クを含む形式で行うことが効果的である。
て調べたり、お互いの強みを認め合うことで効果が高ま
ワークの狙いは、生徒が「学力の3要素」の構成概念
ることが期待される。
を知るとともに、自分の現在のバランスを理解すること
さらに、ワークブックには、①花のカタチから自分の
である。また、自分の「志向性」に関する結果を振り返
現状を把握して職業について考え、今後の行動計画を立
り、自分の現状と未来について考える機会を提供するこ
てるワーク、②リテラシーについて考え、その向上のた
とである。ワークブックは、標準的なワークのほかに簡
めの行動計画を立てるためのワーク、③コンピテンシー
易なワークもできる教材となっており、簡易ワークであ
と自分の強みと弱みを理解しながら、その向上にむけて
れば想定される時間は 30 分のため、授業の中でも実施
意識を高めることを目的としたワークと、3つのワーク
が可能である。
用教材が用意されている。
この簡易ワークでは、“ 花のカタチ ” ワークシートを利
これらのワークと面談指導を組み合わせることで、生
用する<図3>。ワークは、まず始めに「個人報告書」
徒は成長のサイクルを意識する。そして、それを主体的・
で示された各評価の数値分、花びらや葉、植木鉢に色を
能動的な学びにつなげることができれば、新しい社会に
塗る。単純な作業のようにも思えるが、こうして実際に
挑む生徒たちの多様な可能性と未来を拓くことに大きく
手を動かすことでより理解が深まる。ここで大切な指導
貢献するだろう。
44 Kawaijuku Guideline 2016.11
Kawaijuku Report
高校等での活用事例
生徒を多面的・総合的に支援するツール
高校で広がる「学びみらい PASS」への期待
アクティブラーニング型授業
績などから進路指導を行ってきたが、
いる。リテラシーが高くても教科学
「学びみらい PASS」導入以降は、
力の向上につなげられていない生徒
これまでの経験値を超えたより多く
は、探究的素地は持っているため、
「学びみらい PASS」は、高校の
の可能性について検討することが可
計画立案力、実践力、行動持続力を
現場で活用され、広がりを見せ始め
能となった。
高めることで学習効果につなげる方
の効果検証で利用
ている。導入の経緯は、各高校で異
なるが、目的はこれまで測定できな
かった生徒の多様な能力を把握し、
生徒の内なる可能性を伸ばす
教科学力の向上にも活用
法などが考えられる。このほか、リ
テラシーと総合的な学習の時間との
関係性や、リテラシー・コンピテン
進路・キャリア設計に活かすという
大阪府B高校は、ジェネリックス
シーと学校行事(文化祭、体育祭)
点で一致している。
キルを教科学力と並ぶ重要な柱と考
との関係性についても調査を行い、
例えば、神奈川県 A 高校では、ア
えていた。しかし、教科学力とは異
今後の指導への活用を検討している。
クティブラーニング型の授業の効果
なり、ジェネリックスキルの測定方
検証のために導入した。その結果、
法が課題だった。そこで客観的な振
教科学力は高校全体で見ると決して
り返り(検証)ツールとして「学び
河合塾でも「学びみらい PASS」
高くはないが、
「PROG-H」の能力
みらい PASS」を導入。「PROG-H」
による進路指導に取り組み始めてい
別到達度から、コンピテンシーは優
の能力別到達度によってジェネリッ
る。特に文理選択で悩んでいる生徒
れているといった評価結果が出るな
クスキルを客観的に測定することで、
に対して、「R-CAP for teens」の
ど新しい発見があった。そして、
「学
総合的な学習の時間や部活動の教育
結果を使い、面談時に付属の「仕事
びみらい PASS」を継続することに
効果の検証を計画し、生徒自身もま
/学問カタログ」を生徒に示して、
より、授業、学校行事、部活動など
だ気付いていない、内なる可能性を
志望校などを検討する場面で活用し
の活動を通じて、生徒がどのように
伸ばすツールとして活用することを
ている。文理選択に迷う生徒の保護
成長するかを把握しようと試みてい
目標としている。
者からは、文理選択から志望校決定
る。
既に校内では、
「学びみらいPASS」
までの支援の充実が実感できるとの
現段階でも、クラス担任が各生徒
を活用したいくつかの調査が進めら
高い評価をいただいている。また、
の特性について、これまでとは違っ
れている。そのひとつが「PROG-H」
保護者が何となく認識していた生徒
た多くの新たな気付きが得られてお
のリテラシーの能力別到達度と教科
の志向や特性などが、「学びみらい
り、また、生徒自身も新しい気付き
学力の関係について、模擬試験の結
PASS」の個人報告書に明確に数値
が得 られている。 例 えば「R-CAP
果などから検証を行った調査である。
も使って表現されている点も好評で
for teens」による職業適性、学問
その結果、リテラシーと各教科の学
ある。
適性の適合度から、生徒は興味関心
力には一定の相関が見られ、リテラ
このように教科学力とは異なるさ
を持っていなかった分野で高い適合
シーの向上が教科学力の向上につな
まざまな評価結果は、教科学力で思
度が示されることで、その分野につ
がる可能性があることがわかった。
うような結果が出ていない生徒でも、
いて調べたり、関連する本を読んだ
この結果から、成績が思うように上
必ず優れた能力や領域などがあるこ
りして、自身の新しい適性に気付き、
がらない生徒に対して、「学びみら
とを示す。将来、活躍するために必
結果的にその進路を選ぶ生徒も出て
い PASS」の多面的な測定項目を活
要な力を可視化することが生徒の進
いる。また、ベテラン教員は、これ
用して、成績向上につなげるツール
路選択や学習への動機付けにつな
までの経験に加えて、模擬試験の成
として活用する可能性も見えてきて
がっていくと期待されている。
河合塾でも指導に活用
Kawaijuku Guideline 2016.11 45
進路適性、職業観、教科学力などを包括的に把握
中高6年間の系統的な指導が可能に
学びみらい
PASS
土佐女子中学高等学校
土佐女子中学高等学校は、今年から「学びみらい PASS」を導入し、高校1年生が4月に受験した。一部導入
に慎重な意見もあったが、高大接続改革など今後の社会の変革を見据えて導入を決めた。6月に個人報告書(模
擬試験の個人成績表に相当)と学校全体の統計資料が返却されると、これまで感覚的に捉えていた生徒たちの傾
向が客観的にデータで示された。現在は、得られた結果を基にして、高校1年 11 月の文理選択指導、学校行事
の検討などさまざまな指導計画の改善に向けて動き始めている。導入の経緯や受験後の変化、今後の計画などに
ついて、松山宰先生(教務部長、前・進路部長)、松岡英樹先生(進路部長)、伊藤和晶先生(高1学年主任)の
3人に話を聞いた。
中高6年間を通した進路指導を再検討する中で
「学びみらいPASS」を導入
これまでも土佐女子中学高等学校では、教科学力の育
成だけでなく、卒業生を招いた社会人講話による職業観
の育成、職業適性に基づく指導など、キャリア教育に力を
入れてきた。しかし、職業の変化、キャリアの多様化など
(左から)伊藤和晶先生、松岡英樹先生、松山宰先生
社会が変化するとともに、高大接続改革が進み、大学入
性なども測定する上に、いずれのテストも問題を回収する
学者選抜で求められる資質・能力も変わってきている。そ
ため、従来とは異なる指導が必要となる。そのため、導入
れらの課題に対応し、中高6年間を通した進路指導の在り
に対して慎重な意見もあった。
方を再検討する中で「学びみらいPASS」を知り、2016 年
「
『コンピテンシー』や『リテラシー』とは何か、偏差値
度から導入することとした。
が出ないのはなぜか、受験後にどのような指導をすればよ
「高大接続改革が進む中、これからの高校生には教科学
いのかイメージしにくいなど、教員からはさまざまな質問
力だけでなく、さまざまな資質・能力が求められるように
や意見が出ました。しかし、これまでの模擬試験とは異な
なります。
『学びみらいPASS』では、教科学力のほか、ジェ
り、生徒の現在の能力を多面的に測定・診断することで、
(注)
ネリックスキル
、キャリア意識、学習・生活パターン
など、生徒の状況を多面的に測定することができます。以
前から、キャリア意識や学習状況などは別のテスト等を利
用して把握していましたが、全てを包括して測定できるこ
今後の進路指導に活かすテストであることを説明して理解
を求めました」
(松山先生)
これまでの感覚的なイメージをデータが可視化、
とに大きな魅力を感じました。また、1つのテストにまと
改善のヒントが見える
めることで、生徒の負担軽減にもつながると考えました」と、
多くの先生方が「学びみらいPASS」の意義や活用方法
2015 年度の導入決定時に進路部長を務めていた松山宰先
をイメージできたのは、学校全体の統計資料と個人報告
生(現・教務部長)は語る。
書が返却され、生徒向け・教員向け説明会が実施されて
しかし、導入に当たっては課題も生じた。従来から行っ
からだという。
ていた定期考査や模擬試験では、教科別に出題され、受
統計資料では、これまで感覚的に持っていた生徒のイ
験後には素点や偏差値、校内順位が示され、事後指導と
メージがデータで裏打ちされ、学校全体の傾向が明確に
して各生徒が問題を解き直し、各教科の授業で正答率の
示された。
「例えば、
『PROG-H』の結果を見ると、本校の
低い問題について教員が解説を行うといった指導をしてい
生徒は『親和力』
『協働力』で高い数値が示されています。
た。しかし、
「学びみらいPASS」では、教科学力に留まら
我々の印象通りでもありますが、これまで学校の教育方針
ず、ジェネリックスキルや、生活習慣や職業適性・学問適
として取り組んできた『明朗、聡明、愛情、気品』の伝統
(注)ジェネリックスキル…あらゆる分野や職業で求められる汎用的能力のこと。
「学びみらい PASS」では「知識を活用して問題を解決する力(リテラシー)
」と
「他者と自分にベストな関係をもたらそうとする力(コンピテンシー)
」に整理して測定している。
46 Kawaijuku Guideline 2016.11
Kawaijuku Report
が受け継がれており、これまでの指導の成果がデータによっ
<資料> Personal Report 生徒の記入内容より
て再確認できました」
(松山先生)
一方で、
「統率力」などがやや弱いという結果も示された。
「これも予想通りの結果でしたが、リーダーシップの育
成を改めて課題として認識できました。そこで、運動会や
文化祭などでは、率先して立候補する生徒ばかりに任せ
るのではなく、さまざまな生徒をリーダー役に指名し、リー
ダーシップを発揮する機会を持たせるようにするなど、行
事の進め方を工夫するようにしました。他にも、掃除で『協
働力』
、定期考査に向けた勉強で『計画立案力』など、ジェ
ネリックスキルは学校生活のあらゆる場面で育成すること
ができます。新しい取り組みを導入するのではなく、学校
行事や部活動の位置付けを見直すことで、これらの力を高
めていきたいと考えています。そのためには、学校生活の
どの場面で生徒のどのような力を養うことができるのか、
学校全体で議論していくことが必要であり、今後の課題だ
と感じています」
(松岡先生)
実際に受験した生徒の反応について、高1学年主任の
伊藤和晶先生は次のように語る。
「個人報告書は、生徒に
れています。教科別の成績だけでなく、
『LEADS』の学習
さまざまな気付きを与えてくれたように思います。例えば、
生活パターンや、
『R-CAP for teens』の職業適性・学問
『PROG-H』では、さまざまな資質・能力がスコアで示さ
適性など、さまざまな切り口からアドバイスをすることが
れることで、自分の長所を発見し、自信をもった生徒もい
可能です。ただし、そのためには教員自身が個人報告書
たようです。
『R-CAP for teens』では、希望している進路
を読み込む必要があります。例年以上にしっかりと準備し
に適性があると結果が出た生徒は安心する一方で、あまり
て、面談を行いたいと思います」
(伊藤先生)
進路について具体的なイメージを持たない生徒や、想定
また、保護者との連携も重要である。
「保護者の方々は、
もしていない分野に適性があることが示された生徒は、そ
子どもの進路選択などの際に、自身の経験に基づいてアド
の分野のことを調べ始めるなど、自分の進路について深く
バイスする傾向があります。しかし、保護者の高校生時代
考えるようになりました。このような、職業・学問調べの
と現在とは状況が異なりますし、今後は高大接続改革が
『出発点』となることに、大きな期待を寄せています」
進む中で、さらに変わっていくはずです。面談や保護者会
6~7月には、毎朝のホームルームの時間(10 分間)に、
で『学びみらいPASS』を紹介することで、これからの高
受 験 者 全 員に配 付される「 学 びみらい PASS Personal
校生に求められる力や考え方とはどのようなものか、保護
Report(生徒向けワークブック)
」<資料>に取り組んだ。
者にも伝えていきたいと考えています」
(松岡先生)
「ワークの中で、生徒は自分の強み・弱み、興味のある職
今後は他学年の指導内容との連携も強化する予定だ。
業や学問などを認識し、今後の行動計画を立てていきます。
「今回は高校1年生で受験しましたが、受験学年に限ら
継続的にワークに取り組むことで、ジェネリックスキルや
ず、結果の活用について学校全体で検討していきたいと
キャリアに対する理解を深め、夏休みの過ごし方、特に
考えています。中学校までの活動がどのように結果に影響
11月の文理選択に向けた意識を高めることが狙いです。
したのかなどを分析するとともに、受験結果を高校2・3
その効果は、10月以降の面談で確認したいと考えています」
年生の指導にどのように活用するのかを考えることで、6
(伊藤先生)
今後は校内での共通理解と保護者との連携が鍵に
年間を通した系統的な進路指導の実現をめざしています」
(松山先生)
土佐女子中学高等学校では、今後も継続的に「学びみ
現在は、文理選択に向けた面談(10月中旬以降)で活
らいPASS」を使用して、ジェネリックスキルの推移など
用するため、校内で検討を進めている。
を見ながら、従来の進路指導の枠を超え、学校生活全体
「
『学びみらいPASS』の個人報告書には、模擬試験の個
を通じて生徒の多面的な資質・能力を伸ばすための取り
人成績表などに比べて、非常に多面的な情報が盛り込ま
組みを進めていく。
Kawaijuku Guideline 2016.11 47