リビングサービスの時代

リビングサービスの時代
リビングサービス
あらゆるモノのデジタル化と
“流動的な”消費者の期待
から生まれたサービス
目次
01
リビングサービス:
暮らしのためのデザイン
Page 04
02
04
Where
Will Living
創造的破壊
:
Services Emerge?
リビングサービスの時代に、
企業が対峙すべき課題
Page 18
03
05
Prepare to Atomise
企業を待ち受ける素晴らしき
新世界
Page 26
04
06
リビングサービスは
Designing for One:
どこで生まれるか?
Services made to
Page 32
measure
05
「サービスの遍在化」に備える
Page 66
06
07
Privacy and Ethics:
消費者一人ひとりのためのデザイン
:
Navigating our
計測するために生まれたサービス
changing values
Page 74
07
APPENDIX
プライバシーと倫理の問題:
刻々と変化する価値観への対応
Page 86
01
リビングサービス:
暮らしのためのデザイン
リビングサービスとはどん
なサービスでしょうか?
リビングサービスは「あら
ゆるモノのデジタル化」お
よび「
“流動的な”
消費者の
期待」という2 つの大きな
潮流から生まれました。
急速な普及)
と同様、次なるビッグウェーブもま
た、企業と社会に真の変革をもたらすに違いあ
りません。これを「インターネット・オブ・シングス
(Internet
of Things、以下IoT)」と呼ぶ人もいます
が、
「 IoT」という言葉では、新たな時代がもたら
すベネフィットとその特性とを正しく表現するこ
とはできません。これからの新たな時代は、
まさ
にリビングサービスの時代と言えるでしょう。
向こう5 年間で、センサー、通信スマート端末、
リアルタイム・アナリティクスの統合が進むこと
により、新たなコネクテッド・インテリジェンスが
実現されます。それにより、企業は、消費者の生
活に欠かすことのできない、
しかも使って楽しい
リビングサービスは、消費者の暮らし全体を包
み込むサービスです。消費者のニーズや意図、
嗜好を絶えず学習し、
より適切で、自身に合った
便利なサービスへと、柔軟に進化していきます。
いまや消費者は、業種や業界に関わらず、あら
ゆる領域で、最高の体験を求めるようになって
います。このように業種をまたがって高まる期待
を、私たちは“流動的な”消費者の期待と呼んで
デジタルサービスを提供する革新的な力を得る
ことができます。
リビングサービスは高度に洗練されたサービス
であり、あたかも生き物のように絶えず学習と
進化を遂げることができます。日常の雑務をな
くし、驚きと喜びをもたらすことにより、消費者
の暮らしを一変させ、改善させるサービスです。
います。
リビングサービスは消費者のすぐそばにあり、
これほど刺激的な時代はありません。私たちは
習慣や好き嫌いを学習し、絶えず変化する一人
今、革新的なデジタルサービスの次なるビッグ
ウェーブの頂点に乗っているのです。スマート・
デジタル・テクノロジーは、すでに多くのモノや
デバイス、マシンへと統合されています。過去
における2 つのビッグウェーブ( 1990 年代のデ
スクトップ・ウェブ、
また2000年代のモバイルの
日々行うことを網羅的にカバーして、消費者の
ひとりのニーズに合わせたパーソナライズされ
たサービスを提供します。結果として、消費者の
環境や行動パターンの変化に合わせて文脈を
理解し、
リアルタイムで対応できるデジタルサ
ービスが、かつて想像もできなかったほどの魅
力的な体験を生み出します。
リビングサービス
5
リビングサービスの1つの特性として、消費者一人ひとりの
デジタル化の波は必ず、それ以前の波と重なり、
より大き
ニーズに合わせてデザインされる点があげられます。これ
く拡大していきます。第 1 の波はデスクトップ・ウェブでし
は、
大量消費を目的として1つの企業によって提供されるパ
た。1990 年代初めに起こったその波は、90 年代後半の市
ッケージサービスと対極を成します。
場を覆い尽くし、
ドットコム・ブームの隆盛と破綻を引き起こ
しました。その影響は今でも甚大です。デスクトップ・ウェブ
リビングサービスは、
ブランドとデザインに大きな影響を
はeBayやAmazonといったインターネットサービスの革命
及ぼします(それぞれ詳細は第 3 章と第 6 章を参照)。デザ
を引き起こし、消費者による商品の売買に破壊的な革新を
インは、パーソナライズされ、柔軟であり、変化し続ける環
もたらしました。これらの企業は今なお、
デジタル経済の推
境に順応できるものでなければなりません。画面を用いた
進力の役割を担っています。同様に、Googleは情報検索に
視覚的なデザインは引き続き中心的な役割を果たします
革命を起こし、Friendsterなどの初期ソーシャルメディア・チ
が、音声や身振り/手振り、身体に装着したセンサーなどを
ャネルは私たちと友人や家族との関係に大きな変化をも
用いてユーザーの感覚とより密接に関わったものである
たらしました。
必要があります。その他に、温度や位置情報などの周辺環
境を認識できることも重要です。このようなデザインの役
割は、
かつてないほど重要になっていくでしょう。
デザインにおいては、人間工学的な側面や操作性(ユーザ
ーの身体的特徴への配慮/ユーザーに今何を提供すべき
か?)ばかりではなく、感情や生理学的な側面(ユーザーが
物理的にどう感じているか/どのような気持ちでいるか)
も考慮することが重要です。これらの要素の理解は、テク
ノロジーからのデータ提供により、今後はますます容易に
なっていくでしょう。
リビングサービスのデザインにおいて
は、極めて多くの要素を考慮しなければならないため、デ
ザイナーにはすべてのテクノロジーを最大限に生かして、
ユーザーに驚きと刺激をもたらし、
ブランドと消費者との
永続的な関係を構築していくことが求められます。
リビングサービス:デジタルの第3の波
スマート端末などを例にあげて、
リビングサービスをテクノ
ロジーの変化の 1つとして単純化するのは簡単です。
しか
し、実際にはリビングサービスとは過去20年間にわたって
企業が追求し続けてきたデジタル・
トランスフォーメーショ
ンの次なる、
ビッグウェーブなのです。
6
リビングサービス
デジタルサービスのモバイル化
第2の波、モバイルサービスの著しい発展は、過去10年間
にわたって続きました。21世紀の最初の 10年間は携帯電
話が瞬時に世界中に広がり、
テキストメッセージやオンライ
ン支払い、モバイル端末でのインターネット利用といった
基礎的なモバイルサービスが社会に受け入れられるように
なりました。
2007年以降はiPhoneの登場により消費者のスマート端末
の利用が加速化し、激しいイノベーションの時代が到来し
ました。すでに確立されていたモバイル端末やPCのメーカ
ーも、新たなOSの提供を開始したGoogleやMicrosoftとい
った新規参入組との競争を余儀なくされています。
先進国においては、スマート端末は必須のテクノロジーと
なりつつあります。Pew
Research Internetプロジェクトに
よると、米国の成人の 64%がスマートフォン所有者となっ
ています。
2014年、モバイル端末はデスクトップ端末に取って代わり、
革ももたらしています。モバイルアプリ革命の後、
多くの消
デジタルサービスにアクセスする主要な手段となりまし
費者サービス企業はこれらの技術による影響を受け、発展
た。ComScoreによる米国での調査によると、デジタルメ
を遂げています。
ディアの 利 用 時 間においてスマートフォンとタブレット
端末が占める割合は 60%と、前年の 50% から大きく伸
たとえば、モバイル・バンキング/ ペイメントの 領 域で
びています。
は、Venmo や Square などの革新的なサービスが台頭し
つつあります。ナビゲーションの領域では、
Google
スマートフォンはまた、
「アプリ」によってまったく新しいモ
Map
がもはや不可欠なツールとなっており、YelpやAroundMe
バイル・ソフトウェア・エコシステムを生み出し、
Minecraftや
といった口コミサービスは位置情報型検索サービスとし
Angry Birdsといった新たな人気ブランドやテクノロジー用
て一般的になろうとしています。Dropboxはデータ保存・
語を生み出しました。
共有ツールとして、Skypeは低コストな通話サービスとし
て、Evernoteは情報管理ツールとしてそれぞれ多くのユー
消費者がスマートフォン技術を好んで利用するようになっ
ザーに利用されており、
こうしたビジネスの例をあげれば
た結果、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアはマ
きりがありません。
ルチチャネル・サービスとなりました。さらにモバイル化の
する新たなソーシャルメディアの誕生も促進しています。
第3の波:IoT(インターネット・オブ・シン
グス)の先へ
モバイル化という第 2 の波は、情報をリアルタイムで文脈
デジタル革命の第3の波は自然な成長を遂げ、いまや企業
Snapchatをはじめと
波はWhatsApp、Tinder、Instagram、
の中に位置づけるスマート端末の位置情報技術による変
は積極的に通信技術を各種の「モノ」に統合するところま
で進化しています。
「 IoT 」とは、あらゆるモノ
(冷蔵庫、牛乳ケース、ピルケー
ス、
ウェアラブル端末、
自動車)
が消費者やスマート端末に、
そしてモノ同士が相互に語りかける未来を描く用語として
使われています。中にはIoT 化が無意味に思われるモノも
ありますが
(本当に卵ケースにIoTは必要か?)、極めて破壊
的な創造をもたらすIoTもあります。
という限定的な用語のさらに先
リビングサービスは、
「IoT」
を行きます。
リビングサービスは、マシンとモノがつながっ
た巨大なネットワークに息を吹き込み、その中をブランド
化されたサービスが行き渡るようにします。リビングサー
ビスはまた、サービスの「遍在化」を加速化させます
(サー
ビスの遍在化については第5章を参照)。
AroundMeは一般的な位置情報検索サービスの1つ。
リビングサービス
7
リビングサービスは、
デスクトップ・ウェブおよびモバイルの
給といったコンセプトはすべて、1990 年代後半にはすで
自然な発展形です。それはデジタル技術とハードウェアの
に積極的な議論がなされていました。では、
これまでなか
統合を後押しし、現代の生活者を取り巻く環境を創り上げ
った新しさはどこにあるのでしょうか。それは、上述したコ
ていきます。
ンセプトがすべて大規模に提供されているという事実で
す。現代において真のリビングサービスの構築は、単に実
なぜ今なのか?
破壊的なビッグウェーブ
ための企業にとって必須の経営課題となっているのです。
実際には、
リビングサービスを構成するコンセプトの多く
いまやリビングサービスは、
マスマーケット全体に広がる現
は(無意味なものから魅力的なものまで)、10年あるいは
象へと進化を遂げつつあります。今後2年間で、
リビングサ
それ以上前から存在していました。消費者がいつ何を必
ービスは幅広い業界や市場に多様な変化をもたらし始め
要とするかを「スマートなモノ」を使って把握する技術、人
るでしょう。現時点において、投資家らの関心は「ウェアラ
工知能の誕生、
コンピュータへのユビキタスなアクセス、
ブル機器」などに向けられていますが、彼らの関心は間も
物理的現実と仮想的現実の融合、情報のシームレスな供
なく新たなデバイスをまたがって利用できるサービスや、
現が可能になっただけではなく、消費者の期待に応える
個々の企業の独自の取り組みではない、多種多様な企業
が開発に関与したサービスへの継続的かつ幅広い投資に
拡大していくことでしょう。
とはいえ、
リビングサービスにとっての最大の推進力は2つ
の領域、すなわち文化と消費にまたがって変化し続ける消
費者の期待です。文化的に見ると、消費者はますます仕事
以外の生活を重視するようになっており、特に若年層では、
それ以上の世代に比べてその傾向が顕著です。たとえば、
ミレニアル世代(1980年から2000年代半ばに生まれた世
代)
に関する米政府によるレポートからは、
この世代がX世
代やベビーブーマーに比べて、
レクリエーションの時間を
楽しむことや、新しい体験を見つけることに、人生の目標と
しての大きな価値を見いだしていることが分かります。こ
のような文化的な変化が、
リビングサービスの発展を促進
しているのです。
リビングサービスは、人々の暮らしをシン
プルにし改善させるのみでなく、新しい音楽や友人、
ファッ
ション、趣味を見つけるための革新的で楽しい方法を提供
することにより、余暇の一層の充実を実現します。
「スマートな」モノを使って、消費者がいつ何を
必要とするかを把握できる。
8
リビングサービス
消費に関して言うと、消費者の期待は、製品/サービスの
つつあります。家庭に目を向けてみれば、各種端末を使っ
カテゴリーを横断し、まさに“流動化”しています。かつて、
て暮らしのさまざまなシーンを遠隔管理するケースが増え
銀行が自行の顧客体験を競う相手は、
ライバルの銀行でし
ていくでしょう。都市レベルの規模でのリビングサービス
た(顧客体験など考慮しない銀行もありましたが)。
しかし
も、2020年までに誕生する兆しが見えてきました。ただし、
現在では、直接競合しない企業によって定められた水準を
そのサービスの複雑さから、中東やアジアなどで台頭しつ
満たすことができなければ、その企業はいずれ消費者に見
つある一握りの象徴的なコネクテッド・シティに限定された
放されます。消費者はもはや、2つの銀行のブランド体験を
ものとなりそうです。
比較したりはせず、銀行の顧客体験と最も優れた航空会社
の顧客体験や、Uberのようにデザインを重視した、
スタート
アップ企業のブランド体験と比べることさえあるでしょう。
それだけではありません。消費者はコネクテッド・デジタル・
サービスの利用経験が増すにつれ、技術とデジタルサービ
スが多様な分野をまたがって、いかに改善されるかを目の
当たりにしています。消費者は、サービスがどのようにより
便利でより良い暮らしを実現するかを想像できてしまうの
です。こうして消費者は、市場を大きく変え、その過程にお
いて消費者の期待を新たにしてくれるサービスにますます
引かれるようになります。何かをする上で新しい方法がい
ったん確立されたら、消費者の関心も嗜好も、期待を実現
してくれるサービスに集中します。現代人はみな、
リビング
現代においては、真のリビング
サービスの実現が可能になった
だけでなく、消費者の期待に応
えるために企業にとって必須の
経営課題となっているのです。
2020年には、リビングサービスはビルや設備、工場、機械な
どのサービス/メンテナンスにも甚大な影響を及ぼしてい
ることでしょう。これにより、共通のメンテナンス・スケジュ
サービスのデザイナーだと言っても過言ではないのです!
ールから、個々にパーソナライズされたスケジュールへの
このように消費者の期待が流動的になっている時代にお
済性に大きなインパクトを与えるはずです。経済性は重要
いて、企業は1つの選択を迫られています。サービス/製
品を提供する方法を見直すか、それとも、顧客体験のあら
ゆる側面が管理できなくなっていくことを手をこまねいて
見ているかという選択です。この選択について、詳しくは第
2章で見ていくことにしましょう。
顧客との関係が悪化することを防ぐために、企業は今後、
顧客を個人として理解し、複数の顧客接点で柔軟にサービ
スを提供することにより、変化し続けるコンテクストに応じ
て個人のニーズを満たしていかなければなりません。過去
における2つの波のときと同様に、
リビングサービスの影響
を受ける時期は業種によって異なります。ヘルスケアは、
リ
ビングサービスが真っ先に台頭する業界の1つでしょう。そ
れを牽引するのが定量的な生体情報取得を可能とする端
末です。また、
コネクテッド・カーも急速に現実のものとなり
進化も起こるでしょう。これは多様な企業および業種の経
な触媒です。効率性と費用効率の改善に向けたリビングサ
ービスへの投資を行わない企業は、競争の観点からも収
益の観点からも、
自身が不利な立場に置かれることに気づ
くことになるでしょう。
リビングサービスの普及に拍車をかけるもう1つの要素と
して、時間やお金の節約、あるいは生活の質の向上といっ
た新たなメリットを一まとめに実現するパーソナライズ・サ
ービスへの消費者ニーズの高まりがあります。たとえば、
こ
れからの消費者は安全運転(センサーで証明される)の対
価としての自動車保険の割引を実現するコネクテッド・セン
サーを自身の車に取り付けるようになるでしょう。公共サー
ビスのプロバイダーについても、
エネルギー効率に関する
アドバイスをくれるだけではなく、エネルギー利用を最適
化し、それにより利用料金やエネルギー消費量、二酸化炭
素排出量の削減を同時に可能にしてくれるプロバイダーを
選ぶようになるはずです。
リビングサービス
9
リビングサービスはどのように私たち
の暮らしを変えるのか?
ンテクスチュアルなデータを「エネルギー」としています。
リビングサービスはまず、私たちが日常生活の中で行う小
織にとって、
これからは顧客や市民、ユーザーに最適かつ
さな意思決定を自動化します。家庭ではパーソナライズさ
有益なリビングサービスを提供することが義務となるでし
れたリビングサービスが暖房や照明、音楽のボリュームを、
ょう。
ータ、行動データ
(許可した場合のみ)、
サードパーティのコ
企業から政府機関、非政府機関( NGO )
に至るあらゆる組
その部屋にいる人の好み、時間、気温、個人やその家族の
1日の行動パターンなどに合わせて調節します。こうした
また、
リビングサービスはバックグラウンドで展開されるの
日々の面倒な雑事を代行してくれるほかにも、
リビングサ
で、消費者はサービスがもたらすメリットを享受していると
ービスはレジャーの楽しみを最大化してくれます。継続的
きでさえ、
サービス自体を意識しないことがあります。
な学習と、私たちとの長く有意義な関わりを通じて、
リビン
グサービスは私たちがレジャーを楽しんでいることを理解
従ってリビングサービスは、家庭および職場における多く
するようになります。さらに、時間的/金銭的制約や幸福
のシーンに関わることができます(詳細は第 4章を参照)。
度、健康状態、余暇を共に過ごす相手といったコンテクスト
意志決定の合理化を支援する自動化された学習サービス
への理解も深めていきます。
には、余暇や仕事、生産活動に大きな影響を与える可能性
があります。いずれのシナリオにおいても、従来の共通型
リアルタイム分析によって学習するようにデザインされて
ソリューションから、ユーザーの直感的な行動や知覚が可
いるリビングサービスは、
さまざまな選択肢を収集し、天候
能な程度まで自動化され、
コンテクストを捕らえることがで
やロケーション、気分、健康状態、さらには口座残高といっ
きる個人に最適化されたパーソナライズ・サービスへの転
た情報に基づいて、パーソナライズされたレコメンデーシ
換が起こります。
ョンを行います。特に優れた設計のリビングサービスでは、
驚きや喜び、感動を日常生活にもたらし、暮らしをさらに豊
リビングサービスが主流になるにつれ、民間企業と公共部
かにすることさえ可能となります。たとえば、お気に入りの
門双方で新たな競争が起こるでしょう。そのため企業や組
バンドのプレイリストをコンサートに向かう途中でスマート
織は、デスクトップ・ウェブやモバイルの波が起こったとき
フォンに自動的にダウンロードしたり、遊びに来てくれた高
と同様に、組織構造や経営手法を見直すことが求められま
齢の親戚にぴったりの、近くで行きやすい喫茶店を自動的
す。製造からサービス提供、販売、CRM、マーケティング&
に教えてくれるといったことが可能となります。
ブランディングに至るあらゆるプロセスにおいて、顧客や
サプライヤーとのコミュニケーションの構築/拡大の新た
リビングサービスは、私たちが使うセンサー搭載のモノや
な機会が生まれ、
ビジネスのあり方や公共部門の運営に根
デバイス、
アプリのほか、
日常的に利用するサービス
(銀行
本的な変革をもたらすはずです。
など)から得られる情報、天候や旅行情報といった過去デ
10
リビングサービス
リビングサービスを
体験する機会
家庭:
体:
エネルギー管理、
ショッピング、
セキュ
健康および食事に関するアドバイス、
リティ、環境、娯楽、
日記、家計の管理
トレーニング、病気の診断、健康状態
の記録
家族:
職場:
日々のスケジュール管理、日記の共
出張の調整、
日々の業務管理、学習/
有、位置情報/ステータス更新、文化
書籍のレコメンデーション、
リソース
的/地域イベントに関するレコメンデ
管理、意思決定のアドバイス
ーション
自動車/交通機関:
運転の管理とサポート、
メンテナンス
管理、道順のプランニング、交通情報、
保険料の評価、周辺施設やサービス
情報、
メディア/通信/燃料/エネル
家計:
口座管理、送金、買い物の意思決定、
投資アドバイス、
ローンのアドバイス、
借入
ギー消費管理、
ソーシャルメディア&
エンターテインメント
ショッピング:
学習:
注文の自動化、価格の比較、割引やプ
子供の将来的なニーズや、子供の感
ロモーションの検索、予算のアドバイ
情や注意力のリアルタイムでの計測
ス、
自動検索&オファーの比較、
ソーシ
結果に基づいた学習プランおよびキ
ャルシェアリング
ャリアプランの策定、授業への出欠の
自動記録、親が教室にリアルタイムで
参加できる機能
余暇の時間:
都市:
コンテクストに即したリアルタイム・レ
混雑度の管理、犯罪撲滅、街灯の管
コメンデーション、
コンテンツ収集、パ
理、インフラ管理、環境、ビル保守整
ーソナライズされたオファー、旅行/
備、
ゴミ収集&プランニング
駐車場の情報、意思決定ツール
少なくとも理論的には、日常生活から多くの雑務を取り除
き、日々の課題や仕事をより簡単で楽しめるものに変えて
いけば、暮らしの中の創造的、社会的、教育的な時間を楽し
む自由が増えるはずです。
しかし、技術を基盤とするユート
ピアには確実にリスクがあります。
リビングサービスにおい
ても、あらゆるステークホルダーが解決策を講じる必要が
ある倫理的な問題を社会にもたらす可能性があります。
(詳
細は第7章を参照)。
リビングサービスの台頭を可能
にするテクノロジーとは?
コネクテッド・デバイスの進化
リビングサービスの発展の道は、主に6つの技術的イノベ
ーションによって切り拓かれつつあります。その 1つ目が、
コネクテッド・デバイスの成長です。Gartnerによる最新の
推定では、2020年までにコネクテッド・デバイスの数は300
億台に達する見通しです
(2009年の実績は25億台)。
モ バイ ル・テクノロジー もリビングサ ービスの 進 化を
後押しする重要な要素でしょう。eMarketer のレポート
『Worldwide
Mobile Phone Users: H1 2014 Forecast and
Comparative Estimates(世界の携帯電話ユーザー:2014
年上半期予測と比較に基づく推定)』は、2013年から2017
年の間に世界人口における携帯電話の普及率が61.1%か
ら69.4%に拡大すると推定しています。モバイル端末は遠
隔操作ツールとして、他のコネクテッド・デバイスを意義が
あり、反応性に富み、可視化されたデバイスに変えるはず
です。
これらのデバイスは相互に、あるいはインターネットとつな
がるだけではありません。搭載された多数のセンサーを駆
使して、
リアルタイムで大量のデータを収集/分析するこ
とが可能です。
12
リビングサービス
コネクテッド・センサー
2つ目のイノベーションは、センサー技術の大規模な普及
です。センサーはますます低価格化と小型化が進み、耐久
性が延び、接続性が増しています。IoTはもはや単なるコン
セプトではなく現実となっているのです。
Cisco IBSGは、IoTの「誕生」時期を2008~2009年と推定し
ています。また、2020年までにコネクテッド・デバイスの数
は500億台に達すると予測しています。つまり、全人類が1
人当たり平均 6.6 台のコネクテッド・デバイスを持つ計算
です。
しかし、
Acquity
Groupによる『 Internet of Things Report
2014(IoTレポート2014)』は、コネクテッド・テクノロジーの
普及は長期的には広がるとみられるものの、消費者の大部
分(87%)はレポートのための調査を行う前は「IoT」
という
言葉を知らなかったと報告しています。事実、
この消費者
の認知度と価値への理解の低さが、
コネクテッド・テクノロ
ジー普及の最大の障壁だと言えます。
Markets and Marketsのレポートは、物理的情報(水流、溶
存酸素、気温、圧力、タッチ)をデータに変換できるセンサ
ーの市場規模について、2020年までに104億6,000万ドル
に達するとの試算を示しています。2012年から2020年ま
での年平均成長率(CAGR)
も36%に上る見通しです。
私たちはすでに、
スマート端末での各種センサーの利用に
慣れています。また、Pebble、Jawbone、Fitbug Orb、Apple
Watchなど、リストバンド型のウェアラブル端末も増えてい
ます。日常生活におけるこうしたセンサーの活用はさらに
一般的になっていくでしょう。
これらの小型センサーは、
「 照明はついているか?」
「動い
ているものがあるか?」
「場所はどこか?」
「動くスピードは
どれくらいか?」
といった多種多様な変数を検知することが
できます。
私たちはすでに、
スマート端末で各種センサーの活用に慣れています。また、Pebble、Jawbone、Fitbug Orb、Apple Watchなど、
リストバンド
型のウェアラブル端末も増えています。
センサーは、
ユーザーとともに移動することができます。こ
のような用途の初期の例としては、
Copenhagen
Institute
of Interaction Designのスマート・アンブレラがあげられま
す。気温や湿度のほか、二酸化窒素や一酸化炭素などの大
気汚染までを測定できる傘です。
「センシング・アンブレラ」のプロトタイプでは、収集したデ
Strategy Analyticsによるレポート『 Broadband and Wi-Fi
Households Global Forecast 2012(ブロードバンドおよび
Wi-Fiの家庭普及率に関する世界予測2012)』はWi-Fi環
境を有する世帯数について、全世界で現在の4億3,900万
世帯から、2016年には8億世帯に拡大すると予測していま
す。全世帯に占める割合で見ると、25%から42%への成長
となります。
ータをWi-Fiネットワーク経由で共有もできるので、大気汚
染レベルを時間データおよび位置情報データとともにクラ
超高速データ配信基盤の配備に向けた継続的な投資が、
ウドにアップロードしたり、分析に用いたりできます。
リビングサービスと消費者の生活のシームレスな統合に
ネットワーク・コネクティビティ
3つ目のイノベーションは、低コストで常時接続可能の高速
通信技術です。センサーそれ自体に変革を起こす力はあり
ませんが、光速ネットワークと拡大し続ける帯域幅が、
スマ
ート端末による随時の収集データの送信や大量のデータ
取得を可能にするのです。
は不可欠です。
クラウド
ビジネスおよびマーケティングの視点から見ると、消費者
および従業員からデータを得るためのデジタル・タッチポ
イントの数は急増し続けています。また、
ステークホルダー
の利用するデジタル・アプリケーションの数も増加してお
り、そこから取得できる大量のデータの保存は、企業にとっ
て大きな課題になろうとしています。
リビングサービス
13
リビングサービスの普及を後押しする4つ目のイノベーシ
能を客観的に評価できるチームがデータ内にパターンを
ョンが、
クラウド・コンピューティングです。
見いだして、運用の改善や新たなサービス開発を後押しで
きるかもしれません。つまり、
クラウド・データ・システムはよ
Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data
Traffic Forecast Update 2014-2019(シスコ・ビジュアル・
ネットワーキング・インデックス:世界のモバイルデータ・
トラ
フィック予測最新版2014-2019)
は、
モバイルデータ・
トラフ
ィックに占めるクラウド・アプリケーションの割合は、2014年
末の 81%から2019 年には90%に拡大すると予測してい
ます。
データの保存は、課題の一部にすぎません。企業や公的機
関にとっては、
データフォーマットの一貫性の保持と容易な
アクセスの確保も重要な課題です。クラウド・コンピューテ
ィングを活用すれば、組織は情報を安全に一元管理して、
そこからデータを引き出し、相互参照や分析を行えます。
また標準フォーマットで保存されたデータなら、業務プロ
セスに組み込むことにより、業務プロセスを革新すること
が可能となります。
企業の業務のあらゆるシーンからアクセスできる一元化・
標準化されたデータファシリティの整備は、
リビングサービ
スを推進する上で欠かすことはできません。
リビングサー
ビスが正しく機能し、学習・進化し続けるためには、組織の
り機転の利く、効率的で創造的な企業になることをサポー
トしてくれるのです。
データとアナリティクス
前述したように、データを生み出すデジタル・タッチポイン
トは急速に増加しています。当然ながらそこから生まれる
データ量も激増しており、
アナリティクスをめぐる急務の課
題となりつつあります。
リビングサービスの実現に向けた
5つ目のイノベーションは、リビングサービスだからこそ創
出され、活用されるデータとアナリティクスに関するもの
です。
食料品店に行くというごく単純な行動からでも、今日では
大量のデータを収集することが可能です。たとえば、ロイ
ヤルティ・プログラムを介した選好データ(低カロリー食
品、
エスニック料理、
ピーナッツアレルギーなど)、来店目的
( QRコードのスキャン)、来店するたびに顧客が体験する
カスタマージャーニー
(ビーコンを用いた店内ルートのトラ
ッキング)
などを収集できます。
ります。
リビングサービスが正しく機能
し、学習して進化し続けるには、
組織のあらゆる部門から収集さ
れる情報を参照できなければな
りません。
クラウドベースのデータ管理システムを活用することによ
しかしながら、消費者に質問をするたびに回答の山は大き
あらゆる部門から収集される情報を参照できなければなり
ません。
さらに、組織はソーシャルメディアやその他のサービスプ
ロバイダーから収集しているサードパーティデータも、
クラ
ウドベースで保管している自社データと統合する必要があ
り、経営を最新の状態に維持することも可能となります。ま
た組織内のあらゆるレベルの情報にアクセスできるように
すれば、
より迅速な意思決定が実現され、経営課題へのよ
り創造的な対処が可能となるでしょう。
とりわけ、製品イノベーションにおいては、組織内でのデー
タ活用を「共有化」することで、特定サービスやビジネス機
14
リビングサービス
くなるため、データ量だけではなく、データの幅もまた解
決するべき大きな課題の 1つとなります。データを念頭に
置きながらデザインすることによって(詳細は第 6 章を参
照)、個々の消費者とイベントに合わせてパーソナライズさ
れた、デジタル体験のための必要データの種類は、把握し
やすくなるでしょう。
データの幅が拡大するにつれて、
ピボットテーブルや伝統
大量のデータと高度なアナリティクスは、ニッチ製品に大
的なセグメンテーションなどのテクニックでは、あふれるデ
きな関心を抱く消費者を見つけるだけではなく、彼らに極
ータに対処できなくなるはずです。そこで、企業は従来型
めて迅速で極めて低コストでリーチすることを可能にしま
の手動での評価に取って代わる人工知能に目を向けるよう
す。データとアナリティクスを駆使したリビングサービス
になってきました。これにより、アナリストは自動分析機能
は、顧客ニーズに影響を及ぼしつつ、従来不可能だったや
によって何週間も前のデータを振り返り、数百万通りのシ
り方で企業の業務運営にも測定可能な大きなインパクト
ナリオをわずか1時間でより深く評価することが可能となり
を与えられるのです。
ます。センサーやモバイルアプリ、
ソーシャル/Eコマース
基盤、Eメールをまたがってデータを収集するのが当たり前
になった今、自動化された高度なアナリティクス技術はニ
ーズに合わせて進化し続けることでしょう。
第6章では、生体認証をはじめとする
「生体情報インターフ
ェース」の必要性についても論じます。消費者にとっての
選択肢が増える中、生体情報インターフェースのデザイン
は非常に重要です。アナリティクスは、消費者が欲しい商品
を見つけるだけではなく、
より自信を持って、後悔すること
なく、他には無い商品を見つけるためにも不可欠です。特
に後者については、
デジタルならではのロングテール現象
により、消費者の選好がニッチ化していることから、
アナリ
ティクスが欠かせません。
しかし、そのためには消費者自身
が、増え続ける多種多様なデジタル端末を効率的に使いこ
なせることが求められています。
見過ごされがちな重要ポイントとして、
リビングサービスが
企業の業務運営に及ぼす影響があります。顧客体験の改
善、販売およびマーケティング効果の向上、
ブランド・エクイ
ティのアップといったリビングサービスのメリットはすぐに
分かると思います。
しかしながら、
リビングサービスにより、
製造・物流や需要予測のプロセスを統合し、
増え続けるデジ
タル・タッチポイントを有効に活用することによって、組織に
はかつてないほどの俊敏性がもたらされるのです。かつて
は過剰在庫について、利ざやの縮小を覚悟の上で、
ターゲ
ット顧客を定めずに投げ売りをするか、わずかな利益でサ
ードパーティに譲渡するのが一般的でした。この手法はタ
ーゲット顧客を伝統的なオフライン市場(大量消費される
製品が主力の市場)
で見つけられなかったニッチ製品にお
ユ ー ザ ーインターフェースの
第2の進化は、オートメーション・
デザインという新たな領域で花
開きつつあります。
ユーザーインターフェース
リビングサービスの普及を可能にする6つ目のイノベーシ
ョンは、
スクリーンやキーボードに頼らない、
より直感的で、
なおかつ視覚的ではないユーザーインターフェースの進
化です。
今後、私たちの仕事や日々の活動のさまざまなシーンにお
いて、
ダイナミック・ユーザーインターフェースの進化が起
こるでしょう。生体情報インターフェースの台頭はすでに
起こりつつあります。キーボードやポインティングデバイス
といった物理的インターフェース/デバイスに代わって、
私たちの身体の一部や固有の体質が、より迅速で直感的
な操作を可能にしています。マーケティングから医薬品に
至るさまざまな分野において、
イノベーターたちは指紋/
顔/音声認証といった生体情報を日々の業務の効率化
や、医療検診に活用できないか実験を進めています。たと
えば、PayPalは顔認証システムとクレジットカードを結び付
けて、
お財布なしで決済する仕組みを構築しました。英アス
トン大学の数学者であるマックス・リトル氏は、音声録音を
基に最大99%の精度でパーキンソン病の重度を測定する
プロジェクトを推進しています。
いて、取られることがよくありました。
リビングサービス
15
ユーザーインターフェースの第2の進化は、
オートメーショ
ン・デザインという新たな領域で花開きつつあります。ここ
では、デザイナーがソフトウェア開発者やデータ・サイエン
ティストと緊密に協働して、
コンテクストに応じて人々のニ
ーズにリアルタイムに答えるため、
リビングサービスが自ら
調整するアルゴリズムの設計に取り組んでいます。
具体的には、従業員が朝出勤してきた際の暖房や照明の自
動的調節やコンピュータの入電、あるいはウェブに接続さ
れたモノとのインタラクションを可能にするアルゴリズム
です。このようなアルゴリズムによって実現されるのが、い
わゆるタンジブル・ユーザーインターフェース
(TUI)
です。
最 近 の ユ ー ザ ー イ ン タ ー フェ ー ス の 進 化 例 とし
(MIT
て、Siftables
Media Labのデヴィッド・メリル氏とジー
ヴァン・カラニティ氏が開発)を基盤としたインタラクティ
ブ・ゲームシステムのSifteo
Cubesがあります。Sifteo Cubes
は上部表面にグラフィックスを表示する小型コンピュータ
現在、私たちが直面しているデ
ジタル・
トランスフォーメーショ
ンの波は、デジタル誕生当初20
年間の変化よりも、
さらに多くの
重大な変化をもたらすでしょう。
ヒューマンアシスト型のリビングサー
ビス
リビングサービスについて議論する場合、人間の知性を
二の次にして、高度なマシンがデータ主導の自動化された
意思決定を行うというシナリオばかりに焦点を当てがちで
す。上述したようなテクノロジーは確かにリビングサービ
スの進化に欠かせません。
しかしながら、スマート・デジタ
ルサービスの構築と提供を行うのはあくまで人間です。実
で、
キューブ同士で動きを感知させて、
ゲームを行います。
際、大部分のリビングサービスはヒューマンアシスト型で
もう1つのつ、TUIシステムの例としてInfrActablesがありま
る選択肢をキュレーションしたり、顧客体験をデザインする
す。前方もしくは後方からプロジェクターで投影されたデ
スク型あるいはテーブル型の表面上で、複数の入力デバイ
スを使った作業を可能にするシステムです。入力デバイス
(電子ペン/ポインター)は個別に認証され、位置や状態(
ボタンが押されたなど)、方向がリアルタイムで検知さ
れます。
TUIシステムの多くはまだ実験段階や市場投入の初期段階
にあるか、製品設計などのごく一部の目的に使われている
にすぎません。
しかしながら、モノや情報、あるいはその両
方を一緒にコントロールする方法に変革をもたらす可能性
があることはすでに明らかです。
16
リビングサービス
あり、専門家がアルゴリズムを駆使して、消費者に提示す
ことにより、各タッチポイントをまたがったサービスの適切
な管理を行い、消費者一人ひとりのリアルタイムなニーズ
に応えているのです。ヒューマンアシスト型リビングサービ
スの最近の例としては、Beats
Musicがあります。人間のキ
ュレーションと最先端のテクノロジーを統合して、消費者の
「今の」気分やロケーションに合わせた曲を提供するサー
ビスです。また、Trunk
Clubは男性向けのデジタル・スタイ
リング・サービスで、実際にスタイリストが高級衣料品を選
び、消費者に送り届けています。Birchboxも美容/ライフ
スタイル製品をキュレーションし、消費者一人ひとりのプロ
フィールに合わせた美容製品を毎月送り届けています。
社会における変革の力
デジタルと物理的な暮らしの融合は、何年も前から議論さ
れてきました。私たちが今直面しているデジタル・
トランス
フォーメーションの波は、デジタル誕生から最初の20年間
に見た変化よりも、さらに多くの重大な変化をもたらすで
しょう。
その実現に対する賛否は人によってまちまちですが、良か
れ悪しかれ、私たちには今、
これを現実のものとする能力
が備わっています。
消費者の暮らし全体をカバーし、
リアルタイムでニーズに
応えることができるリビングサービスは今後、パーソナル
サービスに新たな時代をもたらすでしょう。新たなサービ
スはある意味、100年前に富裕層だけがデパートや家庭で
受けていたサービスに似ているかもしれません。
もちろん、200年に及ぶ産業化の歴史の時計を巻き戻すと
いう意味ではありません。リビングサービスの強みの 1つ
は、製品やサービスの大規模な生産/提供という大量生
産の原理を利用することです。
しかし、一方でスマート・テク
ノロジーを活用することで、企業はスケールメリットだけを
考慮した汎用サービスではなく、
マスカスタマイゼーション
を提供することが可能となるのです。
消費者を個人として理解できる企業、彼らのニーズに合わ
せてサービスを継続的に調整できる企業は、
たゆまぬイノ
ベーションによって競争性を維持できるでしょう。流動的な
消費者の期待を前に、企業は今、それらの努力を余儀なく
されているのです。
リビングサービス
17
02
創造的破壊:
リビングサービスの時代に、
企業が対峙すべき課題
運輸から小売、ヘルスケア
リビングサービスの到来は、新たなビジネス機
から公益事業に至るまで、
アップ・効率化という面でも、さらには企業が提
今日のあらゆる企業はデ
も、企業のビジネスに大きなポテンシャル(とさ
会という面でも、社内プロセスや業務のスピード
供する製品やサービスの進化や革新という面で
ジタル・ビジネスへの転換
らに大きな課題)
を提示しています。
を迫られています。これま
しかしながら、果たして現在の企業は、
リビング
での2つのデジタルの波(
ットを十分に享受できる組織体制になっている
デスクトップ・ウェブおよび
でしょうか?デジタル化の第1と第2の波は、企業
の業務プロセスに創造的破壊をもたらすと同時
モバイル)においては、幾
に、特に大企業で一般的なサイロ化された組織
層もの業務上の課題に多
第3の波とリビングサービスが提示する本質・原
サービスがもたらすビジネス上/業務上のメリ
体制の見直しを企業に強いることになりました。
理(顧客を理解すること/柔軟性のあるテクノ
くの企業が直面させられ
ロジーを活用すること/それらを踏まえたデザ
ました。
デジタル・
トランスフォーメーションの時代にお
インを行うこと)は、
これからますます加速する
いて、伝統的な組織構造に終止符を打つよう企
その結果として効率性の向上といった成果を達
成した企業があった一方、今なお課題を解決で
きずにいる企業もいます。いずれにしても、
これ
までの20年間は、
デジタル化が企業に新たな機
会をもたらすと同時に、複雑性も高める時代だ
ったのです。
業を導いていきます。
物理的な資産とデジタル資産の境界線が曖昧
になっていく中、多くの企業内では新たな部門
が設立されていくことが予想されます。多くの
企業は、製品カテゴリーや、製造、販売、
マーケテ
ィング、IT、流通、研究、開発といった明確に定義
付けられた組織体制を見直すことを余儀なくさ
れるはずです。
リビングサービス
19
乗り越えるべき壁1:
リビングオペレーション
企業によってはすでに、従来の組織・製品・サービスに柔軟
リビングサービスは、
これから1~2年の間にユーザーを中
デバイス「Nike+」を市場に投入後、劇的な変化を遂げまし
心とし、劇的に変化していくことでしょう。
リビングサービス
た。靴の中の内臓型センサーであったNike+は、
アプリと連
を確立し、顧客、企業、従業員などのステークホルダーをつ
動したリストバンド型「Fuel
なぐためには、その裏でサービスを支える一貫したオペレ
接に顧客の生活に寄り添うようになりました。
ーションが不可欠です。ただし、
このオペレーションは企業
がこれまで慣れ親しんだ従来の手法では設計することが難
しいため、
リビングサービスと共に、それを支える「リビン
グオペレーション」のコンセプトを検討することが必要にな
ってきます。
問題は、上述したように、ユーザーに合わせて進化するこ
とを多くの大企業が苦手としている点です。これを克服す
るためには、企業文化を抜本的に見直すことが求められま
す。管理者は、
リビングサービスを実現するためのオペレ
ーションがなされているかを定期的に自問自答し、年ごと
ではなく月ごと、あるいは週ごとに、チェックと評価を繰り
返す必要があります。
サイロ化された機能配置や過剰な業務効率の追求はや
め、
より柔軟性を備えた業務プロセスを実現する必要があ
ります。また年度末の予算決定時には、
リビングサービス
の実現に必要なまったく新しい組織・機能の構築に、一定の
予算を配分しなければならないでしょう。
リビング
企業文化の見直しにおいてもう1つ重要なのが、
オペレーションの実践のために必要な責任とスキルを従業
員に与えることです。管理者は、従業員に「やるべきこと」
をただ命じるのではなく、彼らに原則と指針を提示し、あと
は自らの直感と知見に従って行動するよう権限を与え、必
要な能力の構築を支援しなければなりません。さらに従業
員にとっての優先順位も手順に従うことから自ら考えるこ
と、指示を待つことから直感と知見を生かすことへシフトさ
せることが必要です。
20
リビングサービス
性を与え、
リビングオペレーションを実践しているケースも
あります。たとえば、Nikeは2006年に同社初のトラッキング
Band」に姿を変え、より深く密
従業員にとっての優先順位も、
手順に従うことから自ら考える
ことへ、指示を待つことから直感
と知見を生かすことへシフトさ
せることが大切です。
2006年から2014年にかけてのNikeサービスの変遷を見
れば、同社が社内でどのようなケイパビリティや機能を構
築しなければならなかったかがよく分かるでしょう。
リアル
タイム・アナリティクスやデータの可視化、
プラットフォーム
を横断するサービス提供といった新たな能力の開発によ
り、Nikeは劇的な転換を遂げることに成功したのです。
IBMもハードウェアからソフトウェアへの転換を果たしまし
た。Appleは短期間のうちに、チップ製造分野で世界中の
他の企業を牽引するポジションを確立しました。Googleは
Google Xライフサイエンス部門で自動運転車を開発し事業
領域を拡大しました。このように、大きな目標を掲げつつ、
そこに至るまでのプロセスを厳密に固定化しすぎないこと
が、
リビングサービスの普及した世界で企業が活動するた
めに不可欠なのです。
乗り越えるべき壁2:
絶え間ないデザインの実践
しかし、絶え間なくデザインが変化していく製品の場合は
19世紀に生まれ、20世紀にかけて普及した伝統的なビジ
めには、企業はカスタマー・ジャーニーのあらゆる場面でユ
ネス戦略は、顕在化したニーズに合った製品を売ることに
ーザーや消費者を捉え、彼らとのコミュニケーションを図
より、収益性に富んだビジネスモデルを構築することに注
らなければなりません。これを実現するには、企業としての
力してきました。たとえば、粉石けんメーカーが革新を目指
マインドセットを大きく変える必要があります。
して新製品開発に取り組んでも、洗濯機に合う量産品とい
どうでしょう?毎年どころか毎日、あるいは毎時間、毎分デ
ザインが変化するとしたら?そのような製品を提供するた
が固まった後、継続してそれを提供し続けるタイプの製品
乗り越えるべき壁3:
マーケティングの刷新― CXO / CDO の
任命
ならば、ある製品に特化してサイロ化された業務オペレー
リビングサービスの時代に企業が求められる変化の中で
う既存の製品枠を越えることはできませんでした。結果と
して、
メーカーは可能な限り効率的に量産品を提供するこ
とを目指すようになります。このように、いったんデザイン
ションの構築は理にかなっているということです。
も、CMO(最高マーケティング責任者)
とITオペレーション
を統括するCIO(最高情報責任者)の協働を一層進めるこ
とはとりわけ重要です。
既存のセールス/マーケティングの観点に立って考える
と、
リビングサービスのコンセプトは難しいものに見えるか
もしれません。
リビングサービスは、
ビジュアル上のブランドの一貫性や
製品売上といった観点からではなく、顧客体験を中心に置
き、顧客のライフスタイルにサービスを適合させ、
より寄り
添ったものになるようデザインされます。
リビングサービス
は、消費者が求めるのならば、積極的に顧客と他のブランド
を結び付けることさえします。自社のすべてのサービスを
使うことを顧客に強いることもありません。顧客が最高の
体験をするためにブランドが壁となってそれを妨げてはな
らないのです。
ディズニーのゲストは常に、
「 いつもの」ではなく
「特
別」を求めています。同社は、
「マジックバンド」などのウ
ェアラブル・テクノロジーの導入に10 億ドルをも投じ、
テーマパーク体験のさらなる向上に努めています。
リビングサービス
21
CMOとCIOの協働は、ビジネス界ではすでに進みつつあり
ます。化粧品小売会社の Sephoraは事業戦略全体におい
てデジタル・マーケティングの統合を加速させており、1人
の経営幹部がCMOとCDO(最高デジタル責任者)
を兼任し
顧客をカテゴライズするのではなく、顧客一人ひとりを見
て対応することを重視しています。
アクセンチュア・インタラクティブの調査(2014
CMO-CIO
の最上位に位置づけ、継続的な顧客体験向上を全社共通
Alignment調査)では、デジタルが生み出す新たな機会を
生かすために、企業のCMOとCIOは以前よりも協働してい
目標として掲げ、
マーケティングチームとITチームが同じ目
ると回答しています。
ています。同社のアプローチは、デジタル戦略を事業計画
標に向かって活動することを目指しました。
世界各国の1,100人以上のマーケティング/IT幹部を対象
一方、Amazon 傘下でオンライン靴販売事業を展開する
に実施した同調査では、マーケティングリーダーの43%お
Zapposは、機能別にサイロ化されていた意思決定をカス
よびITリーダーの 50%が、
この 1年間で相互関係が改善し
タマーサービスチームに委譲することで、一人ひとりのオ
たと回答しました。
とはいえ、企業は今後も両者の間のギャ
ペレーターが顧客の問題に対して自ら考え、
自発的に対応
ップを埋めていく必要があります。両者の協働はリビング
するようにしました。また、
クレームや質問の種類によって
サービスの実践に不可欠であると同時に、企業の変革を加
速させる推進力でもあるのです。
乗り越えるべき壁4:
顧客理解とニーズの予測
リビングサービスは、言うまでもなく顧客中心のサービス
です。それは、
「どうすれば製品が売れるか?」ではなく、
「ど
うすれば消費者の暮らしをより良くできるか?」
という問い
から生まれてきます。
リビングサービスの提供をいち早く
開始したスタートアップ企業は、
このことを正しく理解して
います。まずは顧客ニーズを特定し、そのニーズに基づい
て、顧客が喜び、
「欠かせない製品/サービスだ」
と思って
くれるような製品/サービスを開発するのが、そうしたス
タートアップ企業のビジネスモデルです。
Amazon 傘下で事業を展開するオン
ライン靴販売の Zapposは、顧客サー
ビスチームを横断して存在していた
意思決定のサイロ化を解消しました。
22
リビングサービス
たとえば、
If
This Then Thatは「アプリ同士を連携させて、
「最高の利益を顧客にもたらす企業」という高い信頼を確
コンテンツをあるアプリから別のアプリに移したい」
という
立することには時間がかかります。顧客の実際のアクショ
消費者のニーズを捉え、Instagram上の写真をDropboxに
ンに基づいてマーケティング・PRがされ、企業のKPIなど優
移せるサービスを提供しています。ユーザーの時間や手間
先順位を再考することも長期的に考える必要があります。
を省くといった点で革新的でした。Evernoteの場合は、ラ
イフスタイルがデジタル化されていく中で、さまざまなデ
バイスから物事を保存し、それらを整理することに消費者
が難しさを感じていることを踏まえたサービスを生み出し
ました。Evernoteはデジタル時代の自己管理を見直すこと
乗り越えるべき壁6:
複雑性への対応
デスクトップ・ウェブとモバイルの波が起こったときと同様、
で、顧客の暮らしに小さな変革をもたらしています。いまや
リビングサービスもまた、企業にとっては複雑性が増す動
Evernoteは「あらゆる場面で暮らしをより豊かに」をモット
きとなっています。
しかも、
この複雑性は複数の源から生じ
ーに掲げたサービスを提供しています。こうしたデジタル・
スタートアップ企業は、顧客を深く理解し、彼らの暮らしに
小さくとも確かに意味のある変革をもたらしていることが
ています。
・ スマートデバイスの数が増えるに従い、顧客との接点も
共通点だと言えるでしょう。
増加し続けています。顧客は、増加する一方の接点を横
GoogleとAmazonは、リビングサービスの領域で他をリー
ドしている大企業の代表例です。Googleはパーソナルア
シスタントの Google Nowを、Amazonは配送を予測する
明確に要求していると言えます。
・ 万能型あるいは最大公約数型のサービスから、高度にパ
アルゴリズムを生み出しました。両社とも、顧客を理解し彼
にとって、サービスのデザイン過程における複雑性は著
らが求める本質的欲求に応えることを事業の中枢に据え
ています。両社の成功を見習いたい企業は、
この点にこそ
注目するべきでしょう。
乗り越えるべき壁5:
信頼の構築
リビングサービスによってビジネスモデルの発展を目指す
既存企業にとっては、顧客の暮らしに溶け込んで顧客と密
接に結び付いたブランドというポジションを確立するといっ
断した一貫性のあるサービスを期待するだけではなく、
ーソナライズされたサービスへの転換を果たしたい企業
しく拡大します。
・ センサー網は拡大し、
データ量は激増していますが、企業
はデータから意味のあるインサイトを読み取り、それを
知識や知見に変えて適切なアクションへと転換しなけれ
ばなりません。
・ デジタル時代以前に構築された従来のサイロ化された組
織構造は、往々にして一貫性のない寸断された顧客体験
しか提供できないものです。
たチャレンジもあります。
これを実現するためには、顧客第一主義を体現したサービ
スやコミュニケーション、そして信頼が不可欠です。
しかし
ながら、
この「信頼」
というものが、銀行や公益事業、
エネル
ギー分野の多くの大企業が確立・維持できずにいるものな
のです。
リビングサービス
23
こうした複雑性に正面から取り組まなければ、企業はシー
す。たとえば、NespressoのコーヒーマシンZeniusは、SIM
ムレスかつ喜びにあふれた素晴らしい体験を顧客に提供
カード技術を利用してカスタマーセンターと遠隔接続し、
することはできません。シンプルでエレガントな顧客体験
コーヒーカプセルの再注文を受けています。これは小さく
を提供するために、企業は顧客価値を最優先し、業務プロ
ても、
マシンのメンテナンス状況やコーヒーの消費量をも
セスの優先順位を決めて、合理化するための仕組みに投
ってプロアクティブに働きかける画期的なサービスと言え
資する必要があります。
ます。
乗り越えるべき壁7:
目指すべきは変革をもたらす
サービスのみ
消費者の暮らしに変革をもたらすことを考えたとき、
コー
1999 年に出 版 された 画 期 的 な 書 籍『 経 験 経 済( The
Experience Economy)』の中で、著者のB・・
J パインIIと・
J H・
ギルモアは、
「企業が単に製品やサービスを消費者に提供
するだけでは十分ではなくなる時代がやってきた」と唱え
ました。企業が真の差別化を実現して、顧客とつながり、
ロ
イヤルティを向上させるには、記憶に残る体験を提供しな
ければなりません。
実はこのコンセプトが誕生してからすでに15年が経過して
いますが、
これを実現できる時代が今ようやく到来したの
です。
パインとギルモアは著書の中で、経済価値の発展を5層の
ピラミッドで示しました。ピラミッドは底辺から順番に、コ
モディティ
(低価値・大量生産品)、
ブランド/製品、サービ
ス、顧客体験で構成されています。未来経済で勝利を収め
る者は、
この最上位にある顧客体験を構築できる企業とい
うわけです。
しかし、同著はさらにもう1段階上の層を提示
しました。ピラミッドの頂点に「変革」を加えたのです。つま
り、ユーザーに変革をもたらす顧客体験を提供することこ
ヒーカプセルは決して大きな変革とは言えないかもしれま
せん。
しかし、毎日の暮らしで使う数百の小さなモノやデバ
イスから小さな変革が生まれたら、そのインパクトは相当
な規模になるはずです。
複数の変革が実現したときに一体何が起こるのか、その好
例は音楽/メディア業界に見ることができます。Forrester
Researchは、1999年から2009年にかけて米国の音楽業界
の売上が146億ドルから63億ドルに落ち込んだと報告して
います。この急激な衰退は、Napsterをはじめとする音楽フ
ァイルの無料共有サービスの誕生によって始まり、その後
のiTunesなどの有料オンライン音楽サービスの登場でさ
らに加速しました。10年の間で消費者の大部分が、店舗で
購入する有形の音楽メディアからオンラインの音楽サービ
スへと移行したのです。
またTV/映画業界では、NetflixやAmazon
Prime Instant
Videoなどの配信サービスのほか、オンラインビデオの急
速な成長がTV 放送や映画館上映、DVD 販売といった既存
ビジネスに破壊をもたらしつつあります。
音楽業界では、Spotify のように、
どこにいても、ハードウ
ェアがなくても、大量の音楽データにアクセスできる新
そが、最も高い価値であると考えたのです。
しいサービスが音楽の消費方法に変革をもたらしていま
変革をもたらす製品/サービスと言うとどこか神頼み的な
るよう顧客接点を拡大し、サービスの細分化も推し進めて
印象を与えますが、変革はごく小さいもので構わないので
24
リビングサービス
す。Spotifyはまた、さまざまなデバイスからアクセスでき
います。彼らは、消費者が多様な音楽へのアクセスを実現
Spotifyは、ハードウェアの記録媒体がなくても、
どこからでも大量の音楽コンテンツにアクセスできるようにすることで、音楽の消費方法
に変革をもたらしています。
し、
アクセス時の多くの障害を取り除いたという点で、真の
テクノロジーの種別までは予見できませんでしたが、パイ
変革を実現しているのです。既存の企業でも、
「 顧客体験
ンとギルモアは著書の中で、
インターネットはいずれ有益
の変革」
というコンセプトに挑んでいる例があります。鉄道
な経験と革新的なサービスを実現するだろうと予見してい
事業はコモディティ化したサービスと言えますが、
フランス
ました。15年たった今まさに、そのテクノロジーが台頭し、
の鉄道会社SNCFは駅への行き帰り用にレンタカーサービ
革新を起こそうとしているのです。
スを導入することにより、最終目的地まで含んだエンドツ
ーエンドの交通サービスを利用者に提供しています。これ
リビングサービスは、顧客体験に基づく経済ピラミッドの
により同社は単なる付加的サービスの提供を実践してい
頂点に位置するものです。かつてインターネットの誕生に
るばかりか、旅行体験全体に変革をもたらしたのです。
よって、既存のビジネスが破壊され大きな革新がもたらさ
タクシーアプリの Uberも、乗客と一番近い空車タクシー
をつなぐことによって、
タクシー業界に変革をもたらしまし
た。タクシーを利用したい消費者は、一番近い空車をスマ
れたように、変革実現のためデザインされたリビングサー
ビスもまた、多種多様なより良い体験を提供する機会を企
業にもたらします。
ートフォンで予約することにより、タクシーを呼んだり、道
路で探して停めたりする手間を省けます。支払いもUberへ
のユーザー登録時に登録したクレジット/デビットカードで
自動的に行えるので、現金取引の煩わしさもありません。
リビングサービス
25
03
企業を待ち受ける
素晴らしき新世界
デジタル革命が加速化す 企業にとっての「ダンバー・ナン
る中、消費者の関心を引
バー」の意味
き、ロイヤルティを維持す
消 費 者が意 味 の ある関 係を構 築できる企 業
ることが、ブランドにとっ
す。Nielsen の最近の調査によると、
このことは
て大きな課題となってい
ールセンは、米国のAndroidおよびiPhoneユー
の数にも、同じように限りがあると考えられま
間違いなくモバイルアプリに当てはまります。ニ
ザーのアプリ利用を2年間にわたり追跡しました
ます。消費者もまた、デジ
が、その結果、同期間中にモバイルアプリの使
タル化に当惑を覚えてい
数は約25種類を上限としてそれ以上増加しなか
用時間が65%伸びた一方で、利用するアプリの
ます。デジタル接点やデジ
ったことが明らかになったのです。
タルサービスが急増する
企業幹部はこの事実を踏まえ、
インターネットへ
一方で、消費者がそれらに
て、消費者の関心を引き、継続した関係を維持
関わる時間には限りがあ
できるほど、本当の意味で興味深いブランドを
構築できているか、厳しく自己批評を行わなけ
るからです。
ればなりません。
の常時接続が当たり前となっている現代におい
リビングサービスは今、消費者と企業の力関係
このような時代において、企業幹部にとっては
に変化をもたらそうとしています。企業視点で、
英国の人類学者ロビン・ダンバーの意見が参考
単独のチャネルを基とした関係から、顧客中心
になるはずです。ダンバーは、私たち一人ひとり
で関係性を重んじる関係への変化です。こうし
が意味のある社会的つながりを維持できる人間
た中で企業は、一人ひとりの消費者とどのよう
の数には限りがあることを指摘しました。その数
な関係を築くかを再考する必要があるのです。
この人数を越えると人間関係は本物で
は150人。
なくなり、意味もなくなると彼は唱えています。
リビングサービス
27
たくさん
Fjordは、消費者と企業の関係を4象限に分類する、企業の
ダンバー・ナンバー・マップを作成しました
(上記参照)。
1.
好きなブランドだが、関係は薄い
2.
好きなブランドで、関係も深い
・我が社は現実的に考えて、
どのカテゴリーに属するだろ
うか。
・我が社は目標とするカテゴリーに移行できるだろうか。
・我が社の属するカテゴリーが顧客によって異なる場合、
どのように対処するべきか。
3.
好きなブランドではなく、関係も薄い
4.
好きなブランドではないが、関係は深い
ダンバー・ナンバー・マップは消費者一人ひとりで異なりま
このマップは消費者一人ひとりで異なり、
また、企業との関
目のカテゴリー「好きなブランドで、関係も深い」に多く分
係性に応じて絶えず変化します。
消費者が愛着を感じられるブランドや企業の数にもダンバ
ー・ナンバーのような限界値があると仮定すると、上記のマ
ップからは以下のような興味深い疑問が浮かび上がってく
るはずです。
28
リビングサービス
すが、
デジタル先進企業の方が非デジタル企業よりも、2つ
類される傾向があります。BrandZ Top 100 Most Valuable
Global Brands study 2014によると、デジタル先進企業と
されるGoogleとAppleは、
マクドナルドなどの巨大ブランド
をしのいで1位と2位につけています。
デジタル先進企業に対する顧客のロイヤルティは、インタ
ラクションする頻度と距離感によるものと言えます。
やInstagramといったデジタルブランドへの迅速なアクセ
スを可能にします。
たとえば、携帯電話は消費者のすぐ近くにあり、Evernote
ターテインメント・チャネルなら、顧客は継続的にアクセス
やInstagramといったデジタルブランドへの迅速なアクセ
します。
スを可能にします。
ブランドが消費者の「最終候補リスト」
に入るには?
これまで純粋に製品販売を主体とした事業を展開してきた
企業は、
より長く顧客とつながり、高い価値をもたらすよう
サ ービス提供型にシフトする必要性を認識しつつあり
ます。
デジタル化時代の今、
ブランドが消費者のロイヤルティを
勝ち取るには、顧客一人ひとりに対するパーソナライズさ
れたサービスの提供と、
サービス利用目的の理解が鍵を握
ります。幸い、
リビングサービスは洗練されたリアルタイム
技術に支えられており、消費者一人ひとりのニーズに応え
ることが可能です。もちろん、
このポテンシャルを現実のも
のとするには顧客への深い理解と柔軟なテクノロジー、そ
して適切なデザインが必要です。
顧客理解を深めるために時間を投じ、顧客のニーズに合わ
せてパーソナライズされたリビングサービスを提供できる
企業幹部は、
ダンバー・ナンバー・マップの2つ目のカテゴリ
ー、つまり最も大きな利益をもたらし得るカテゴリーを占
めることができるでしょう。
では、
ここで企業が提供するべきものは、製品でしょうか、
それともサービスでしょうか。答えは業種によって、そして
すべての製品はサービス化される
デジタル革命のおかげで、あらゆる企業は、多様な接点を
通じて顧客一人ひとりにパーソナライズされたインタラク
ションを行うことができ、顧客との関係構築/維持をより
革新的に行えるようになりました。この事実を踏まえれば、
製品をサービス化するのはインターネットのない時代に比
べてずっと簡単であると言えるでしょう。
子供が成長するように、
オンライ
ンとつながった玩具の進化は、
業界のトレンドとして今後も勢
いを増していくことでしょう。
企業によっても異なりますが、注目すべき大きなトレンドと
玩具/ゲーム業界では、玩具とオンラインゲーム「Disney
して、企業が顧客との関係を深めていくに従い、製品とサ
品を売るという活動は、販売という一度の取引で発生する
Infinity 」を融 合させてデジタル体 験を創 出している
Disneyがデジタル分野で他をリードしています。Toys R Us
もこれに倣い、ToysRUsmovies.comを開設してファミリー
ものに過ぎず、それだけでは企業が顧客と関係を築くチャ
向けのメディア配信サービスの提供を開始しました(現在
ンスがあまりありません。
はすでにサービスを終了)。一方、玩具ブランドの Hasbro
ービスの境界線が曖昧になるという点があげられます。製
は 3Dプリント・マーケットプレースの Shapewaysと提携
顧客はそのサービスを利用するために支払いを続けます。
Little Pony、Transformers、Mo
nopoly、Scrabbleなど)を使った3Dデザインをファンが作っ
たり、販売したりできるサイト
「Super Fan Art」をローンチ
もちろん、サービスの種類が違えば、顧客とブランドの関
しました。子供が成長するように、
オンラインとつながった
係のレベルも違ってくるでしょう。たとえば公益事業なら、
玩具の進化は、
業界のトレンドとして今後も勢いを増してい
顧客は事業者を変えるときやトラブル発生時しか事業者と
くことでしょう。
しかし、サービスを売る場合は複数の接点をもち、継続的
に価値提供が行われます。サービスの契約期間を通して、
し、
Hasbroのブランド(My
対話をすることがありませんが、
ソーシャルメディアやエン
リビングサービス
29
リビングサ ービスの 誕 生により、消 費 者が真に愛 着を
シー予約アプリmytaxiおよび北米のカーシェアリング・アプ
覚えて頻繁に利用するサービスは今後、2 つのカテゴリ
リRideScoutも買収しサービスの拡充を図っています。ま
ーに分 類されることになるでしょう。第 1 のカテゴリー
ったく別の業界ではノートブックメーカーのMoleskineが、
は、Nestlé、HP、Nikeといった製品主体の企業が既存のブ
これまで属していた「美しいノート」
というアナログの世界
ランドやリソース、
ノウハウを、新たなテクノロジーや革新
から、
デジタルの世界に踏み入れました。同社はスマートペ
的なスタートアップと統合し、
まったく新しい方法で消費者
ン・メーカーのLivescribeと提携して Livescribe
のニーズに応えるサービスです。Mercedes-Benzを傘下
ノートを開発し、ユーザーがLivescribeスマートペンを使っ
に置くDaimlerがその良い例でしょう。高級車メーカーの
てMoleskineノートにメモや絵を書くと、Livescribeアプリ
Daimlerは、自動車販売台数の低下と都市部の道路混雑と
いう2つの問題を解決するため、
モビリティ
・プラットフォーム
「moovel」の提供を開始しました。moovelを使うことで顧
客はcar2goや公共交通機関、
タクシー、電車、
カーシェアリ
を介して携帯電話やノートパソコンに手書きのメモや絵が
Moleskine
保存されるサービスをローンチし
「デジタルで記録/保存
したい」
という顧客の欲求に応えました。
ング、
レンタル自転車といったさまざまなオプションから、
第 2 の カ テ ゴリー は 、デ ジ タ ル 時 代 に 生 ま れ 、既 存
価格と時間を比較することができます。同社は先ごろ、
タク
の 企 業 に 果 敢 に 挑 む 新し い 企 業 に よ る サ ー ビ ス で
自転車やスキー、
スノーボード
す。Uber、Airbnb、JustPark、
のレンタルサイトSpinlisterなどがこのカテゴリーに分類さ
れます。彼らには手に取れる製品がありません。彼らにとっ
ての「製品」
とはサービスそのものなのです。このカテゴリ
ーは、消費者が必要としているサービスは何かを明らかに
し、一人ひとりにパーソナライズされた方法でサービスを
提供する基盤を構築してきました。
北米のカーシェアリング・アプリRideScout。
30
リビングサービス
もちろん、
ここには課題がないわけではありません。多くの
企業が「サービス」の提供を開始していますが、
ここで言う
「サービス」は本当の意味での価値を付加できるサービス
であって、消費者の暮らしをかえって煩雑にするようなサ
ービスであってはならないという点です。これについては、
既存企業も新企業も同じように忘れてはならないのです。
常にインターネットにつながったデジタル社会において
は、最も必要とされるタイミングと場所で最高の価値を提
供し、彼らをサポートし、喜びを与えられる企業こそが、
リビ
ングサービスのもたらす機会から最大の恩恵を受けること
になります。
リビングサービス
31
04
リビングサービスは
どこで生まれるか?
リビングサービスがもたら を支援することになるでしょう。このようにさま
ざまな分野で、
リビングサービスは大きなメリッ
す変革効果は、消費者の トをもたらすのです。
暮らしや仕事のあらゆる 本章では、リビングサービスがすでに普及しつ
領域に影響を及ぼします。 つある8 つの領域(健康&ヘ ルスケア/自動
車/旅行&ホスピタリティ/メディア&エンター
リアルタイムで顧客が置 テインメント/教育/家庭/ショッピング/都
市&職場&産業)
について考察していきます。こ
かれている状況を理解し、 こでは便宜上リビングサービスを上記の領域で
自動的に意思決定を行う 分けて考えていますが、こうした分類はいずれ
意味を失い、境界線が曖昧になっていくことでし
サービスとして、消費者と ょう。
企 業 が 共に有 効 活 用 す
心と身体のためのサービス
るようになります。
リビングサービスは健康&ヘルスケアの領域に
たとえば、
これまで医師任せだった身体/精神
の健康面を、自分でモニタリング/管理できた
らどうなるでしょうか?あるいは、地球上のどこ
にいても自宅にアクセスし、家の安全をモニタリ
ングしたり、暖房の消し忘れやテレビ番組の録画
予約の確認など、家電を遠隔操作したりするこ
とができたら?もちろんオフィスでも、
リビング
サービスは多種多様な効果を発揮します。たと
えば高度な業績データを活用することで、マネ
ジャーはより効果的な意思決定を行い、部下が
業務負荷やストレスレベルをマネージすること
大きな影響を及ぼします。
トラブルや疾病の事
後処置や治療から予防医療へのシフトを実現し
ます。また、診断/処方についても集団レベル
から個人のレベルへと転換していくことになり
ます。従来の医療では病院やクリニックに出向く
ことが当たり前でしたが、
これもリビングサービ
スの普及によって、診察・施術ともに自宅の居間
で行うことが可能になります。テクノロジーの進
歩により、自分の健康状態を今まで以上に自ら
モニタリングし、長期的な病気の管理ができる
ようになります。
リビングサービス
33
このようなヘルスケア革命は、2つの方向で生じると考え
肥満と診断されます。肥満は長期的な健康状態に大きな
られています。クオンティファイド・セルフ
(QS)
・ムーブメン
悪影響を及ぼし、特に懸念されるのが糖尿病、心疾患、慢性
ト
(各種デバイスで定量的に自分を客観視する取り組み)
閉塞性肺疾患です。
は、2007年にサンフランシスコで始まり、以後、世界中で限
られた、健康志向の高い人々によって取り組まれてきまし
た。QSムーブメントは今後ウェアラブル・ヘルス・デバイス
やスポーツ・テクノロジーがより広く受け入れられ、低価格
で提供されることで、大勢の人々に受け入れられるトレンド
となっていく考えられます
(もちろん、
ウェアラブル・デバイ
スや QS ムーブメントについては懐疑的な意見もありま
す)。Fjordの分析では、利用者が得られるメリットへの認識
が徐々に高まり、
さらに、
より優れたデバイスやデザインが
誕生することで、大変革が起こると考えられています。おそ
らくヘルスセンサーを内蔵したApple
Watchが、QSムーブ
メントの重大な転機となるのではないでしょうか。
結局のところ、
自分の健康に関心のない人はいません。Pew
Research Centerによる調 査「Internet & American Life
Project」では、米国で健康状態のモニタリングを実践して
いる成人の60%は食事やエクササイズ、体重を、33%は血
圧や血糖値をそれぞれトラッキングしており、21%はこの
モニタリングのためにテクノロジーを利用していると回答
しています。
こうした健康データ収集が毎日の習慣になれば、今度はそ
れらの情報を医療の専門家に見てもらい、健康状態のチェ
ックや異常がある場合、早期発見に活用してほしいと思う
ようになるでしょう。
世界的に見て、人類は長寿化・肥満化が進んでいます。これ
は医療関係者と政府にとって大きな問題で、急増する医療
コストの問題や、
スマート医療技術へのニーズと期待の高
まりと重ね合わせて考えると、1つの乖離が浮かび上がって
きます。つまり、私たちの期待と、それに対して社会が応え
られる範囲とのギャップは年々広がっているのです。
本レポートの執筆時点において、世界の太り過ぎの人の人
口は10億人を超えており、そのうち6億人以上が臨床的に
34
リビングサービス
テクノロジーの進歩により、私た
ちは自分の健康状態を今まで以
上に責任を持ちモニタリングし、
長期的な病状を自分自身で管理
できるようになるのです。
EUでは、65 歳以上の中高齢者が全人口に占める割合が
2010年の17.4%から、2060年には約30%に拡大する見通
しです。これにより、医療関係者への負担は限界に達する
でしょう。
こうしたことから、ヘルスケア・サービスの提供方法に革新
が必要だという認識が高まりつつあります。デジタル技術
には、私たちの期待と社会が応えられる範囲のギャップを
埋めるポテンシャルが備わっています。デジタル技術があ
れば、使いやすくて魅力あるツールを用いて市民が自らの
健康状態をトラッキングし、改善していく方向へシフトして
いくはずです。
一方で個人のヘルスデータをより意義のある情報にする
ためには、地域の医療関係者がそれらのデータを受け取
り、情報を整理して提供し、必要なアクションをとるための
システムを構築しなければなりません。この領域こそ、既
存の企業や革新的なスタートアップがビジネスを展開する
大きなチャンスが隠されているのです。
現在、ヘルスケア関連のリビングサービスをリードしてい
るのは、消費者向けのテクノロジー業界です。デジタル技
術の発展により、携帯電話や腕時計、
リストバンドは健康状
態をリアルタイムでモニタリングするパーソナル・デバイス
へと変化しつつあります。
「スマート・ヘ ルス」のポテンシャルは、モバイルアプリ
GoogleとAppleも、Google FitやApple HealthKitといった
の 爆 発 的な増 加からも明らかです。すでにヘ ルス&フ
フィットネス・プラットフォームを開発し、同様の動きを見せ
ィットネス関連のアプリは世界で 10 万種類以上 ありま
ています。いずれも、ヘルス&フィットネス・データをさまざ
す。Nielsenのデータによると、米国のスマートフォン保有
まなアプリで管理/共有できるようにするプラットフォー
者(約 4,600 万人)のおよそ 3 分の 1は、1カ月に平均 16 回
ムです。Apple
もこの種のアプリを利用しており、消費者のニーズの大
験的にサービスを導入しており、医師らがこのプラットフォ
きさがうかがえます。一方、Acquity
Groupが米国の 2,000
人の消費者を対象に実施した 2014 Internet of Things
調査では、消費者の 7% がウェアラブル・デバイスを所有
していることが明らかになりました。この数字は 2016 年
には 4 倍に拡大し、消費者の 28% がウェアラブル・デバイ
ス所有者となる見込みです。Acquity Groupのレポートは
ームを用いて患者のデータの遠隔収集/モニタリングを
また、ウェアラブル・フィットネス・アプリ&テクノロジー
ヘルスケア分野では、
テクノロジー関連企業が重度あるい
の導入率は今後最も加速し、向こう5 年以内の所有を検
は経度な疾患をモニタリングする技術を開発する事例も
討する人が全体の 33% に達すると予測されています。
見られます。
健康&ヘルスケア市場は現在、
フィットネス関連企業の独
この分野で特に注目されているのが糖尿病です。現在、世
壇場となっています。Adidasの心拍計miCoachやReebok
のヘッドインパクト・センサー CHECKLIGHT、
活動量計の
FitbugやWithings、JawboneのUP、などのスタートアップ
が、
フィットネス/健康分野の変革を後押ししています。
単なる物理的な製品の提供から、顧客一人ひとりに合わせ
た製品とサービスの一体提供への変化が、
この変革の意
味するところです。
Health Kitは米国のいくつかの大病院が試
行っています。糖尿病をはじめとする予防可能な疾患の解
決策を求める消費者と経済のニーズの高まりを背景に、
健康&ヘルスケア関連ではない企業がこの市場に新たに
参入するケースは、今後も増えていくと考えられます。
界の糖尿病患者は3 億 8,700万人に達しており、その数は
2035年には5億9,200万人に拡大すると見られています。
台湾のSensionicは先ごろ、
ミニチュア・インプラント技術を
活用し、ユーザーの携帯電話へのデータ転送が可能な血
糖値モニタリング・デバイスを開発しました。同社は現在、
長期にわたり継続的に血糖値をモニタリングするシステム
の開発を計画中です。
今まで、スポーツ&ライフスタイル・アパレル製品でその
ブランドを構築してきた Nike が、フィットネス・
トラッカー
FuelBandやスマート・スポーツ・ウォッチNike+によってウェ
アラブル・フィットネス・テクノロジーの領域に参入したの
は、驚くべき方向転換と言えるでしょう。これによりNikeも、
ハードウェアの提供からサービス主体のソフトウェアの提
供へのシフトを果たしています
(FuelBandもいずれ、Apple
Watchと同じようにサードパーティ・デバイスを活用すると
私たちは見ています)。
リビングサービス
35
特 許 出 願 中 の テクノロジー のビジネス化に取り組 む
デバイスを用い、胎児の心音の確認/記録/共有のほか、
LabStyle Innovationsも、血糖値モニタリング用のアプリ
妊婦の体重増や胎児の動きといったさまざまな状態のトラ
とウェブポータルを開発しました。ユーザーがデータアー
ッキングが可能です。
カイブの管理と食事内容の記録を行える同社のシステム
「Dario」は、臨床データをリアルタイムで医療従事者と共
スマート・モバイル・テクノロジーにより、効率的かつ効果的
有することも可能です。一方、Googleとノバルティスが開
に健康管理ができるようになりました。今後はこのテクノロ
発した糖尿病用のスマート・コンタクトレンズは、涙を用い
ジーによって、
より正確な診断や、
より迅速な治療も実現さ
て血糖値を測定することが可能です。
れるでしょう。この大きな市場への参入を目指して、
すでに
多くの企業がやっきになって取り組んでいます。
Googleとノバルティスが開発し
た糖尿病用のスマート・コンタク
トレンズは、涙を用いて血糖値
を測定することが可能です。
糖尿病が精神に与える影響(糖尿病患者はうつ病を併発し
やすい)
に着眼したテクノロジー企業Ginger.ioは、鬱の症
状が現われる前に
(早くて2日前に)、その兆候を予測する
アプリです。このアプリは患者のスマートフォンで、日々の
行動を記録しパターンを読み取ることにより、医療従事者
潜在的なメリットが非常に大きい市場とはいえ、通信企業
とヘルスケア企業が普遍的な基準とプラットフォームを構
築するには甚大な努力が必要になります。世界の携帯通信
事業者の業界団体GSMAも、
現在ヘルスケア・サービス・プロ
バイダーと携帯通信業界の連携を目指しているところです。
通信各社はすでに、戦略として、データサービス販売事業
からコネクテッド・リビング・ライフスタイル・サービスの販売
事業への転換に向けヘルスケア市場に積極的に目を向け
ています。
に早期に鬱症状の兆候を知らせます。
またヘルスケア市場に以前から関心を示していた企業で
ミシガン大学の研究者らも、双極性障害(躁うつ病)患者の
れています。
気分の変化を早期に検知するため、毎日の電話の声の微
妙なニュアンスをモニタリングするスマートフォン・アプリ
を開発中です。
健康&ヘルスケア・アプリは、胎児の健康状態のモニタリン
グにも用途を拡大中です。Bellabeatは妊婦が自身と胎児
は、
この市場におけるリビングサービスの提供も視野に入
医薬品業界は「医薬品のさらに先へ」をモットーに、薬剤や
投薬プログラムを中心としたヘルスサービスの構築を推
し進めています。2012年に米国で実施されたManhattan
Research の調査でも、患者の 30% および医療従事者の
38%が、医薬品メーカーのさまざまなサポートサービスに
の健康状態をモニタリングするための「コネクテッド・シス
アクセスできる患者支援プログラムの利用に関心を持って
テム」で、iPhoneやAndroidスマートフォンに接続する小型
いると回答しました。
36
リビングサービス
消費者向けのテクノロジー業界は現在、JawboneのUP24をはじめとするフィットネス・
トラッカーを用いたヘルスケア関連リビングサービ
ス市場をリードする存在となっています。
スマート・モバイル・テクノロジー
によって、より効率的かつ効果
的に、パーソナライズされたヘ
ルスケア管理ができるようにな
りました。
英国では、国民保健サービス
(NHS)
が遠隔モニタリングの
利用により、患者が入退院を繰り返さずに在宅医療を受け
られるシステムを検討しています。最近のラジオインタビ
ューでも NHS の医療部長であるSir
Bruce Koegh氏が、
携帯電話を用いた患者のモニタリング方法を紹介しま
した。
スイスでは、科学者らが血液分析用のインプラント型診断
チップを開発しました。血糖値や乳酸値など最大 5つの数
値測定が可能で、医師にリアルタイムデータを提供しま
す。チップは健康状態のモニタリング用に設計されたもの
ですが、患者に投与された医薬品の効果測定にも用いるこ
とができるため、患者一人ひとりに合わせた正確な投与量
のカスタマイズにも利用可能です。将来的には、さまざま
な疾患の検査にこのチップを役立てたいと開発チームは
考えています。
これは、肌の中にセンサーを埋め込んで患者の生体信号
を24時間トラッキングする手法の一例にすぎません。この
ほかにも、患者への投薬の効果をモニタリングするセンサ
ーも開発されています。たとえば、Proteus
Biomedicalの
デジタル・メディスンは胃の中で作動するセンサーを用い、
患者への薬剤投与と薬剤への反応をモニタリングします。
真のリビングサービスがすでに導入されている事例と言え
るでしょう。
リビングサービス
37
治療法がまだ開発段階にある疾病と向き合うとき、
リビン
ヘルスケア分野のリビングサービスの開発におけるもう1
グサービスは研究と治療の両面から貢献することができま
つの大きな課題として、サービス提供や患者データに関わ
す。Intelとマイケル・J・フォックス財団はパーキンソン病へ
る規制の問題があげられます。これは根源的な問題であ
の理解を深め、治療法を解明するため、
センサー・テクノロ
り、解決には長期にわたる議論と検討を要するでしょう。市
ジーと分析プラットフォームの開発を進めています。同プ
場ごとにさまざまなソリューションや基準が生まれると考え
ロジェクトでは、毎秒200データポイント以上を測定できる
られますが、最終的には規制機関、医療従事者、およびテク
ウェアラブル・センサーを装着した被験者を、24時間観察す
ノロジー・サービスともに、
コスト面を考慮したパーソナル・
ることになります。
ヘルス・マネジメントと、消費者が求めるテクノロジー水準
の確立を目指すことになります。
テクノロジーとデータ収集技術が向上しても、
この領域に
おける変革を遅らせるロジスティクス面や構造的な課題が
数多く残されています。たとえば、検査の結果を数時間で
患者のもとに届けることができても、医師が同じスピード
感で検査結果に目を通せるとは限らないのです。
コネクテッド・カー体験の発進
リビングサービスは、運転体験に劇的な変化をもたらし、
自
動車での移動という時間を浪費する面倒な体験を、生産的
で刺激的な体験へと変えることができます。まずコネクテッ
ドカーにより、
目的地に時間通りに到着できるようになりま
す。自動車が道路の混雑状況や走行条件をキャッチして、
運転者に適切な出発時間を教えてくれるからです。自動車
に運転を任せることも可能になるので、安全かつ環境に優
しい運転が実現され、燃費と安全性の向上、
ならびに自動
車保険料の削減までも期待できます。運転者や同乗者が
望めば、観光名所を含む目的地の詳細情報も自動車が教
えてくれます。もちろん、そうした情報は顧客の購買行動
の好みに合わせて、
移動中にタイミングよく提供されます。
中核的な事業におけるイノベーションと定期的な購入サ
イクルの実現を背景として、
自動車メーカー各社は積極的
に、
スマート・デジタル技術と自動車技術の統合により運転
者と同乗者の体験の向上を図ってきました。
自動車の自動化が進むにつれ、消費者は自
動車とより広いライフ・マネジメント・サービ
スとの統合を期待するようになります。
コネクテッドカーは、消費者のデジタル・サービス・エコシス
テムに加わる新たなデジタル・プラットフォームです。コネ
クテッドカーは、PCやスマートフォン、
タブレット、
ウェアラブ
ル・デバイス、それらの関連サービスといったさまざまな接
点と同じように機能し、
また、各接点と相互に連携できなけ
ればなりません。モバイルアプリと同じように、消費者は自
動車に内蔵されたインターネット・サービスも自分でパーソ
コネクテッドカーは、消費者のデ
ジタル・サービス・エコシステム
に加わる新たなデジタル・プラッ
トフォームです。
ナライズしていきたいと考えるはずです。従ってパーソナ
汎用的なコネクティビティは、自動車がいずれ消費者の個
ライゼーションの管理が、
オーナー体験において重要な一
人データや嗜好性、
コンテンツにアクセスできるようになる
部を占めると考えられます。Google、Apple、Microsoftの3
ことを意味します。さらに言うと、個人データやそれに付随
社はすでにこの市場への参入を進めており、
自動車メーカ
するサービスは1台の車に固定されるのではなく、
クラウド
ー各社もさまざまなサービスに参画しています
(p.42のコ
を基点として消費者を中心に活用できるようになるため、
ラムを参照)。
消費者は乗っているのが自分の車でもレンタカーでも、同
じコンテンツと情報にアクセスすることが可能となります。
しかしながら、
リビングサービスを通じた自動車業界の変
とい
革とは、
「アプリやEメールへのアクセスを可能にする」
変革をもたらし得る2つ目の進化は、
「自動車を所有する」
った小規模な変化を指すわけではありません。自動車業界
という概念に関するものです。特に都市部に住む若い層を
における進化は、
もっと革新的なものとなるはずです。
はじめとし、多くの消費者にとって自動車は今後、所有する
製品ではなく、サービスあるいは体験そのものになってい
自動車と運転の未来を、
リビングサービスで実現する方法
はいくつか考えられます。1 つ目は自動運転車、または半
自動運転車の誕生です。自動運転車は、社会やライフスタ
イル、経済へのインパクトという観点から言って、
ガソリン
くと考えられます。たとえばZipcar(カーシェアリング・サー
ビス)
やBlaBlaCar( Web上でマッチングする相乗りサービ
ス)
といったサービスが、
このような消費者の意識の変化
を物語っています。
自動車の発明と同じくらい革命的な存在となるでしょう。
日産は2020年までに自動運転車の大量生産を目指してお
特定の目的のために特定の車種(都会を走るための小型
り、
Googleはさらに早い2017年を目標に掲げています。
で燃費の良い車、休日のドライブのためのオープンカー
等)
を借りるにせよ、短期間のレンタルにせよ、あるいは長
自動車の自動化が進むに伴い、消費者はより幅広いライ
期間のカーシェアリングを利用するにせよ、消費者の自動
フ・マネジメント・サービスと自動車との統合を期待するよう
車の使い方は、
これから劇的に変化するはずです。
になるでしょう。言い換えるなら、他のリビングサービスが
自動車に組み込まれることを消費者は求めるようになるの
フィットネス関連企業と同様、自動車メーカーも自動車の
です。
販売や所有という考え方から離れ、消費者のライフスタイ
ル・ニーズや一時的なニーズに合わせたリビングサービス
を開発することが可能です。そしてメーカーと消費者の関
係は、今後、消費者が求める特定の運転の体験や提供価値
を重視して構築されるものとなるでしょう。
リビングサービス
39
自動運転車は、社会やライフス
タイル、経済へのインパクトとい
う観点から言って、ガソリン自動
車の発明と同じくらい革命的な
存在となるでしょう。
コネクテッドカーがもたらすリアルタイムデータを活用す
ることで、保険会社や整備会社、修理会社といった既存の
サービス・プロバイダーは顧客との関係を一層深め、拡大
することができます。
自動車に内蔵されるセンサーの数は増加傾向にあります。
エンジン、タイヤ、
ブレーキシステム、エアコン、ライト、制
御系――あらゆる主要コンポーネントはいまやリンクして
おり、センサーがスピードや運転挙動、位置、天候、路面状
況、周辺の交通量などを検知しています。サービス・プロバ
イダーはそこから得られる大量のデータを使って、自動車
の状態や運転者/同乗者の行動、現況、起こり得る問題と
最善の回避方法などを認識し、消費者の時間的/金銭的
コストの削減や、燃料効率の改善を支援することが可能で
す。たとえば高級電気自動車メーカーのTeslaは、車載アプ
リSmartcarを開発しました。運転中のエネルギー効率の最
適化や、
ピーク時料金を避けた充電を促すことで、電気代
を節約できるアプリです。同アプリの学習システムは、運転
者の行動を基にパーソナライズされた運転体験を提供す
るので、
たとえば寒い朝には出勤前に車内を自動暖房をし
ておくといったことが可能です。
自動車のデータを共有することで見返りを得るというコン
自動車メーカーはこれまで、
デジタル・サービスが持つポテ
ンシャルをいち早く生かし、
サービスの改善を図ってきまし
た。Mercedes-Benzの診断サービスmbrace2は、モバイル
アプリを使ってマイカーの性能およびメカニカル・ステータ
スをチェックするものです。またmbrace2を利用して、整備
予約を入れたり、走行中に故障やパンクが起こった場合に
モニタリング・センターにリアルタイム・アラートを送信した
りすることもできます。アラート・データと自動車の正確な
位置データが、修理サービスに送られる仕組みです。
デジタル・サービスのポテンシャルとして、車内にいながら
にして、従来では考えられなかったような外部の位置情報
を活用したサービスにアクセスできるようになります。たと
えば、走行中に目的地の観光情報を取得する、
ガソリンス
タンドが旅行者の利用を促進するためにEクーポンやポイ
ントを発行するといったことが可能です
(英国でO2が成功
させたEクーポン・アプリ
「Priority
Moments」の自動車バ
ージョンのようなもの)。英ナショナル・
トラストなども、
この
ようなリアルタイムの位置連携情報サービスを提供してい
ます。Acquityのレポートを再度参照してみると、頻繁に利
用するルートや現在地に基づいてクーポンや割引サービ
スが得られるなら、
自分自身の自動車の走行データを共有
してもいいという回答者は、
50%以上に達しています。
燃費の改善から、高齢者の自由の拡大、道路混雑や大気汚
染の緩和、制限速度の順守、鉄道/バス網やタクシー会社
への影響、労働効率の著しい改善に至るまで、
リビングサ
ービスは消費者と自動車の関係や、運転という体験そのも
のを根本から変える可能性を備えているのです。
Volvoは現在、道路状況に関するリアルタイムデータを車両
間や車両と行政間で自動的に共有できる車両の実証実験
セプトを、消費者が前向きに捉えていることも分かってい
を、北欧で実施しています。この実証実験は、
スウェーデン
Groupの2014 Internet of Things調査で
交通行政機関
(Trafikverket)
とノルウェー公共道路行政機
ます。Acquity
は、無料のメンテナンス・サービスと引き換えであれば自動
車メーカーとデータを共有してもいいという回答が、消費
者の60%に達しました。
40
リビングサービス
関( Statens
vegvesen)で共同実施されています。Volvoの
テスト車両が、道路の凍結状態やスリップのしやすさや、
道路摩擦を検 知し、携 帯 電 話 網 経 由でVolvo
Carのデー
タベースに情報を送信し、
この情報を基に近隣車両に警告を
送信したり、スリップしやすい道路では車両の計器群が運
転者に注意を喚起する仕組みで、その警告は道路整備当
局へも送られて、
危険な道路状況の改善を促します。
都市部に住む若い層を中心と
した多くの消費者にとって、今
後自動車は所有するモノではな
く、サービスあるいは体験その
ものになっていきます。
旅行体験の乗り換え
リビングサービスで変わるのは自動車だけではありませ
ん。旅行&ホスピタリティ分野でも、今後10年間で大転換
が起こると考えられます。この大転換のうちのいくつかは、
コネクテッドカ―や自動運転といった、
自動車の再発明によ
り後押しされます。運転者が不要になり、自動車が長旅の
間に眠ったり遊んだりできる空間になれば、自動車は鉄道
やバス、飛行機と競合する新たな体験を生み出すことがで
きるでしょう。家族と一緒に車内で遊びながら目的地まで
向かうことができるのなら、
わざわざ駅や空港に行き、
セキ
ュリティ・チェックを通過することや、起こり得る遅延や人ご
みを我慢したいと思う人はいないはずです。
コペンハーゲン空港は乗客の体験拡大と、
運行効率の改善を目指しました。
リビングサービス
41
コネクテッド・インカ
ー・サービスの提供を
めぐるプラットフォー
ム・レース
コネクテッド・デジタル・テクノロジーはすでに大部分
の新車に組み込まれています。消費者にとって、デジ
タル・コネクティビティが運転性能と同様に重要な要
素であることを示す事実は増加しつつあります。
ブラジル、中国、
フランス、
ドイツ、インドネシア、イタ
リア、マレーシア、南アフリカ、韓国、スペイン、英国、
米国の1万4,000人のドライバーを対象にアクセンチ
ュアが先ごろ行った国際的な消費者調査では、購入
意思決定において車内テクノロジーが性能よりも重
視されることが明らかになりました。新車購入時の主
な検討事項として、車内テクノロジーをあげたドライ
バーは39%に達し、運転性能をあげた14%を大きく
上回りました。車内テクノロジーとは、ナビやトラフィ
ック・サービスのほか、各種の自動運転支援機能、
エン
ターテインメントやワークツール学習システムを含む
インカー・サービス、保険料の見直しに役立つ運転パ
ターン・モニタリング・システム、同乗者向けサービス
等の各種サービスを指します。
とはいえ、現在の社内テクノロジーは、
メーカーによ
って提供され、異なるメーカー間の互換性の問題が
つきまとうのが実状で、協働体制がほとんどないため
に自動車メーカーによってはいくつものシステムを
採用するケースもあります。
AppleのCarPlayはFerrari、Mercedes-Benz、Volvoをは
じめとする20社あまりの自動車メーカーの40車種に
搭載される見通しです。CarPlayは、車両のナビシステ
ムを拡張するシステムで、電話をかけたり、
メッセージ
を読み上げたりします。ホンダ、Ford、BMW、Citroën、
トヨタといったメーカーも、今後開発する車両にこの
システムを搭載すると発表しています。
とい
一方GoogleはOpen Automotive Alliance(OAA)
う車内システムにAndroidを組み込む計画です。単に
携帯電話のAndroidを車載するだけではなく、統合的
な車内エクスペリエンスを構築するとしています。
ホンダ、
ヒュンダイ、GMといったメーカーは、Android
とiPhoneの両方と提携するとしていますが、同一車両
への搭載ではない模様です。
Micr osof t 社 の 最 新 の 車 内 テクノロジ ー で ある
Windows Embedded Automotive 7は、FordのSYNCシ
ステムなど、
さまざまな車内システムに取り入れられ
ています。
Nokiaのロケーション・テクノロジー・プラットフォーム
であるHEREは、車両用の地図サービス部門における
マーケット・リーダーとして広く認識されています。同
社は過去数年間にわたり、地図やコンテクストに応じ
たサービスの可能性を積極的にアップデートし続け
てきました。
BMW、Intel、GMらが設立したGENIVIアライアンスは、
自動車向けのオープンソース開発プラットフォームの
実現を推し進めています。また、
コネクテッドカー・コン
ソーシアムはMirrorLinkという、車載画面にスマート
フォンのアプリや機能を表示するシステムを提供して
おり、ボタンやタッチスクリーンで操作することがで
きます。
これらのシステムは真のリビングサービスの域には
達していませんが、
リビングサービスを促進する大き
なステップであることは確かです。自動車を中心とし
た真のリビングサービスを創出するには、各ブランド
が自社のインカー・インフラを活用して、保険や整備
といったサポートサービスと顧客データを点と点で
結ぶ必要があるのです。
旅行体験の転換の次の例として、絶え間なく変化する消費
将来的には、乗客が原因で起こる飛行機の遅延削減にもこ
者の期待に後押しされた、空港や航空各社・鉄道会社・バス
のアプリが活躍するでしょう。すでに搭乗が始まっているの
会社による、エンドツーエンド・サービスのあり方の再考、
にゲートから離れた乗客がいる場合、乗客に対して急いで
他の運輸業界との相互交流の推進があげられます。Fjord
ゲートに向かうよう通知することができます。ロンドン・シティ
は、19個の旅の主要プロセス
(旅行計画、空港までの移動、
空港などでも、
同様のシステムの開発が進められています。
帰国準備など)のうち、航空会社の主な強みである
「飛行」
が生かされるプロセスがわずか2つにすぎないことを明ら
適切な情報をタイミングよく提供するには、
まずはユーザ
かにしました。体系的に見てみると、旅の目的のシェア、旅
ーの状況を正確に理解しなければなりません。たとえば、
先での移動手段の確保、現地通貨の入手、
ビザなどの準
その旅行が定期的なものなのか、それとも特別な旅なの
備、旅行体験を振り返るといった新たなニーズが生まれて
かを把握することで顧客を大きく分類することができ、そ
います。このような「エクスペリエンス・チェーン」を捉え、推
れに基づいて、旅行者のニーズの基本的な優先順位を把
進できる企業が、
これからの勝者となるはずです。
握することができます。たとえば、定期的な旅であればそ
運転者が不要になり、自動車が
長旅の間に眠ったり、遊んだりで
きる空間になれば、自動車は鉄
道やバス、飛行機と競合する新
たな体験の装置となるでしょう。
すでに変革に着手している例もあります。コペンハーゲン
空港は乗客の体験拡大と、運行効率の改善を目指していま
した。そこでCiscoが空港内に900のアクセスポイントを設
置し、個々の乗客の空港ビル内の移動ルートをトラッキン
グしました。空港内におては、消費者はプライバシーや匿
名性を諦めざるをえないため、
プライバシーの問題が大き
く取り沙汰されはしませんでした。
乗客の行動データを基に、
「 空港内案内」アプリが開発さ
れ、乗客がリアルタイムで空港のゲートを確認したり、空港
内で興味がある店舗に迷わずに辿り着けるようになりまし
た。コペンハーゲン空港では、乗客は空港ビル内でより多
くの食事/買い物時間を過ごせるよう、
「空港ビル内の交
通難所」を撤廃することに焦点を当てました。同空港は現
在、
このアプリ導入後に乗客の増加率50%という目標を達
成しつつあります。
の旅行者は遅延情報や友人との交流、気晴らし、旅の効率
性に関心を持つでしょうし、特別な旅であればその土地に
関する地図や景色、観光スポット、新たな発見などに関心を
抱くでしょう。
ビジネス旅行者の場合は、上記の2つの側面が混在するケ
ースが多々あります。定期的に出張していても、行き先は
必ずしも同じではないからです。仏 Thales
Groupは、飛
行機のシートをアプリで操作でき、
ソーシャルメディア・デ
ータを用いて乗客のエンターテインメントに関する嗜好を
特定する、イマーシブビジネスクラスシートを発表しまし
た。B/E
AerospaceおよびBMW Designworksとの共同開
発によるこのシステムは、高級感あふれるセミプライベー
ト空間にHDディスプレイとサラウンド・サウンド、
タッチパッ
ド・コントロールを備えています。シートを予約した乗客は
専用アプリをダウンロードし、
シートの仕様やエンタメ・サー
ビス、機内サービスなどを事前に指定しておくことができ
ます。自分の興味をアプリに伝えるために、
ソーシャルメデ
ィアを連携させることも可能です。
列車が駅に到着したときに、乗客がプラットフォームにまん
べんなく散らばることなく、同じ場所に集中するということ
はよくあります。これにより、一部の車両が満員になり他の
車両は空いてしまうため、乗車に時間がかかり乗客にも駅
員にも迷惑なことです。そこでオランダ鉄道(NS)が、乗客
がスマートフォンで席を探せるアプリReisplanner Xtraを
リビングサービス
43
導入しました。デザイン会社のEdenspiekermannが鉄道
これらの取り組みに共通して見られる問題点は、統一的で
会社のProRailやNSの駅でプラットフォームの全長にLEDデ
エンドツーエンドの体験や、それを実現するプラットフォー
ィスプレイを設置し、車両の混雑状況に関するリアルタイ
ムの欠如です。Disneyの取り組みが唯一、統一的な仕組み
ムな情報も提供しています。
とも言えますが、それは同テーマパークが独立型の施設
Edenspiekermannのシステムの主要構成要素はプラットフ
ォームの全長 180メートルに設置される大型 LEDディスプ
レイで、乗客が最適な車両に乗るためにどこで待てばいい
か、あらゆる情報を通じて乗客に知らせます。数字で車両
のクラス
(ファースト/スタンダード)
を示すほか、扉が開く
正確な位置も表示し、各種シンボルを使って自転車やカー
ト、車椅子、大きな手荷物に適した車両、空いている車両な
ども知らせます。列車に搭載された赤外線センサーと連動
して車両ごとの混雑度も検知しており、緑色なら空席があ
り、黄色ならやや混雑しており、赤は満席であることを示
だからこそ可能とも言えます。他の業界と同様、観光の業
界においても、真にリビングサービスの機会を生かせるの
は、旅に存在するさまざまなギャップを埋められる企業や、
旅行者を自宅~目的地/目的地~自宅の移動を快適に橋
渡しができる企業だと考えられます。旅の中で発生するギ
ャップは、現在旅行中に多く存在します。機内で見ていた映
画がまだ途中なのに、
ゲートをくぐったらもう見られないの
では意味がありません。なぜ誰も、映画の残り部分へのリ
ンクをメールで乗客に提供しないのでしょうか
(オフライン
モードでNetflixを見ていたら話は別ですが)。
します。
サービス革新の物語はつづく・
・
・
ディズニーのゲストは常に、
「 いつも通り」の旅ではなく、
メディア&エンターテインメント業界は、第 1と第 2 のデジ
「特別」で限定感の高い旅を求めています。同社はテーマ
パーク体験のさらなる拡充に向け、MagicBandなどのウ
ェアラブル・テクノロジーの導入に10億ドルを投じました。
ゲストはMagicBandを使ってパークやホテル客室に入っ
たり、支払いをすることができ、列に並ぶ時間は短縮され、
レストランで着席してすぐに料理が出てくるといったカス
タマイズされた体験を楽しむことができます。MagicBand
は、世界的に見ても、
ホスピタリティ業界におけるリビング
サービスの中核的存在と言えるでしょう。ホテル各社も鍵
を握るデバイスとして、モバイルへの投資や注力を急速に
進めています。たとえばHiltonやStarwoodは、モバイルア
プリを鍵代わりに利用するキーレス入室サービスを実現
しています。
タル革命の波によって他業界よりも大きな影響を受けまし
た。新たなプラットフォームやユーザー発のコンテンツ、新
たなビジネスモデル、
コードカッター(ケーブルテレビでは
なくネット経由での動画視聴者)などの誕生により業界が
再編成され、一新されたのです。このことからFjordでは、
コ
ンテンツ業界は他の業界に比べると、
リビングサービスに
よる直接的な影響はあまり受けないだろうと見ています。
ただし、
コンテンツ業界では以下のような3つの問題に留
意が必要です。
第1に、
メディアとコンテンツの選択肢は広がる
(例えば自
動車がメディアのハブになる等)なか、情報検索のGoogle
や、音楽配信サービスの Spotifyに相当する映像コンテン
ツ配信サービスはどこなのかという問題です。メディアチ
ャネルの急増と著作権の問題が絡まり合い、
ユーザーは特
定の映像コンテンツを見つけるのに苦労するようになって
44
リビングサービス
います。
リビングサービスの時代によって、いつでもどこで
も映像コンテンツにアクセスできるような、創造的破壊の
機会がもたらされるのでしょうか。サービスの遍在化(第5
章を参照)の理論が正しければ、
チャネル
(既存メディア)側
に明るい未来はないでしょう。事実、米国におけるオンデマ
ンド・ネット配信動画のNPS(ネットプロモータースコア)は
平均39で、従来のテレビ局の平均NPSである12を大きく上
回っています。音楽の世界でSonarflowのように直感的に
楽曲を見つけたりリコメンドしたりするサービスが生まれ
るのなら、映像の世界でも類似のサービスが誕生してもい
いはずです。
第2の問題は、
メディアはいまやアテンション・ビジネスであ
るという事実です。従ってメディア分野のリビングサービ
スは今後、2つの方向のいずれかに発展していくと考えら
れます。1つは、ユーザーが自分で利用時間を決められる
没入型の体験が重視され、従来のいわゆるリニアコンテン
ツとしての役割が減少していくという方向。そしてもう1つ
は、ルーチンタスクを自動化することでユーザーの貴重な
時間を節約し、
リラックスタイムやメディア消費時間を拡大
するという方向です。現時点でどちらの方向に進むかを予
測するのは時期尚早でしょう。
「テクノロジーではなく、オーデ
ィエンスを主体に考える必要が
あります」
-Kim Shillinglaw、BBC Two/BBC Four役員
とはいえ、
リビングサービスがコンテンツそのものに影響
を及ぼすことは間違いないでしょう。BBC
TwoおよびBBC
Fourの役員であるKim Shillinglaw氏も次のように述べて
います
(Wiredからの引用)
:
「テクノロジーではなく、
オーデ
ィエンスを主体に考える必要があります。つまり、
オーディ
エンスがどのように自分の時間を使いたいと考えているか
を理解することが大切なのです。オーディエンスのニーズ
は3つあると思います。第1に、現実から逃避してリラックス
し、何かと一体化する感覚を得ること。このニーズには、語
りやイベントを主体に展開するテレビ番組で応えることが
できます。その種の番組は今後ますます人気が出るでしょ
う。第 2に、好きな時に好きなものだけを見ること―ここ
ではオーディエンスの権限が重要になってきます。第3に、
テクノロジーの中には、ユーザーに負担を強いるものもあ
るためその権限を気軽に行使できることがあげられます。
また、優秀な学芸員並みの、優れたリコメンデーション機
能も必要でしょう。Netflixのアルゴリズムは非常によくで
きていますが、今後 10 年間で新たなアルゴリズムが生ま
れて、ユーザー一人ひとりを識別してその興味関心を把握
し、その人が見た番組からプレイしたゲーム、訪問したウェ
ブサイトまでをデータとして統合するようになるはずです」
リビングサービス
45
新しいアイデアは、ライブ・エンターテインメントの世界で
も徐々に生まれつつあります。たとえばDJ用のリストバンド
型ウェアラブル・デバイスLightwaveは、
オーディエンスの
エンゲージメント・データをその場でDJに送信し、
リアルタ
イムに選曲の変更をサポートします。
リストバンドがオーデ
ィエンスの動きや体温、
オーディオレベルなどを検知し、
こ
れらのデータを受け取ったDJは、踊っている人数やフロア
後方での音の聴こえ方等を一目で確認することができま
す。通常DJはオーディエンスを盛り上げるために事前に当
日の選曲に「低音を下げる」などのイベントを入れ込んで
いますが、Lightwaveはイベントを実施する最適なタイミ
ングを判断する助けにもなります。
リビングサービスは、
メディアチャネルを介した普及や販
売も十分に可能です。というわけで第 3 の問題は、エンタ
ーテインメント企業がリビングサービスの一部としてどの
ような役割を果たせるかという点です。2014 Ericsson
ConsumerLabレポートによると、全24種類あるテレビ/映
像番組タイプの中で最も重要性が低いのは、
インタラクテ
ィブテレビとクリック・
トゥ・バイ
(番組内で紹介される製品を
リモコンで買える)の2つということです。同レポートは、
ブ
ラジル、中国、
ドイツ、
インドネシア、英国、米国を含む23カ
国で実施した調査に基づいています。この新たな有望市場
にメディアが入り込めるかどうかは、今のところまだ明らか
ではありません。
サービスのイノベーションを保証する
消費者にとって保険商品は仕方なく買う商品であるとされ
てきました。消費者にとっての保険商品は、保険請求時に
は非常な面倒がかかる上に、
付加的なメリットもほとんど得
られません。
「買ったらすぐに忘れる」タイプの商品であり、
消費者は何か好ましくないことが起きたときにしか保険会
社とコミュニケーションしようともしません。そうした中で
リビングサービスは保険会社に対し、顧客とより豊かで継
続的な関係を構築することができる、大きなメリットをもた
らし得るのです。
46
リビングサービス
保険業界のように複雑なエコシステム(ブローカー、引受
人、
ファンド、代理店、査定員など)
を有する業界では、創造
的破壊によって大規模な変化を起こすことは簡単ではあり
ません。
しかしながら、
リビングサービスの原動力であるデ
ータとインターコネクティビティを統合することによって、
消費者から見た保険会社の役割に変革をもたらすことは
可能です。
保険関連のスタートアップは、保険市場に大きな変化を起
こす可能性があります。今後、保険会社のビジネスモデル
を180 度見直すようなスタートアップが生まれることも考
えられます。ヘルスケア分野において、保険会社が顧客に
提供する体験を、医療に関わる深刻な事態に取り組む存在
から、慢性的に存在する問題を検知したり治療と予防をサ
ポートする存在へと、転換させるかもしれません。
行動を調査し、捕捉する新たな能力とそれに付随する各種
デバイスを駆使することによって、保険業界はデータを活
用する大きな機会を得ることができます。ウェアラブル・デ
バイスやクオンティファイド・セルフ
(IoT技術を活用した人
の行動や状態の定量的な捕捉)
といったイノベーションは、
ヘルスケア業界にとっての目標を、保険業界にとってのブ
レイクスルーやメリットへと変えるのです。
調査会社のON Worldは米国の消費者を対象とした調査に
基づいて、
ウェアラブル・デバイスやインプラント用、
モバイ
ルヘルス/フィットネス・デバイス用のヘルスセンサーの
数が、2012年の1億700万個から、2017年には5億1,500万
個に拡大すると予測しています。純粋な個人データの収集
から、ランニングのパフォーマンス改善のためのデータ利
用、健康保険料の見直しのためのデータ利用へと、
センサ
ーの役割はまたたく間に変化しようとしています。
自動車業界では、走行状況に関するリアルタイムデータと
保険料をテレマティクス保険として活用し、真のビジネスチ
ャンスが生まれだろうと考えられています。
車載衛星ナビメーカーのTomTomは、
Usage Based Insurance
(UBI:利用量課金型保険システム)を開発しました。同社
のテレマティクス保険システムは、保険会社が保険加入者
に対し、走行状況を即座にフィードバックする機能を備えて
います。自身の走行状況データを共有することで、加入者
は自分自身が事故リスクが低いことを証明し、保険会社は
それらの情報に基づいてリスク判断し、保険料を見直すと
いう仕組みです。
車載デバイスにより顧客の運転状況をモニタリングし、保
険料の個別算出を行うテレマティクスまたはブラックボッ
クス型の保険サービスは、すでに一般化しつつあります。
例として英国では AAのAA DriveSafeサービスやAdmiral
LittleBox、HalfordsのAutosaint、Tesco Bank Boxなどがあ
ります。
BMWは保険会社Allianz U.K.とパートナーシップを結び、
電気自動車の BMQi3 およびi8 専用の保険商品を開発し、
自社ブランドの保険商品として、両車種のオーナー向けに
販売する計画です。BMW ConnectedDriveテクノロジーと
車載システムにより、顧客の走行距離をトラッキングして保
険料を算出するサービスで、毎月の明細もシステムから直
接、保険加入者に送信される仕組みになっています。
保険料の見直し以外にも、たとえば、保険料と組み合わせ
た最も安全なルートの提案サービス、セキュリティや料金
や利便性に基づいた最適な駐車場の提案サービス、宿泊
施設提案サービス、
リアルタイムの交通情報の提供やナビ
サービスなどにもビジネス機会が考えられます。
リビングサービスの原動力であ
るデータとインターコネクティ
ビティの統合により、保険会社
の役割に大きな変革がもたらさ
れるでしょう。
万一、契約車両が衝突事故を起こした場合には、
テレマティ
クスによって直ちに、
かつ自動的に救急サービスが呼ばれ、
その後、実在もしくは自動のカスタマーサービス・アドバイ
ザーを介して事故被害の診断が行われることでしょう。
このようなサービスの例として、OnStar FMVがあげられ
ます。GPS内蔵のバックミラーを用いたサービスで、事故が
発生すると車に取り付けたミラーが救急サービスを現場に
呼んでくれます。
金融資産の有効活用
金融サービスの顧客体験は、顧客の過去、現在、未来とい
うタイムラインに基づいて定義されます。たとえば保険業
界では、経済的補償によって「過去の問題」を改正するこ
とがビジネスのコアである業態です。
しかし上述した通り、
保険業界では現在、交通事故から水道管の破裂まで、
さま
ざまなトラブル発生時に顧客とコンタクトを取り
「現在の
問題」に対処するビジネスを行うという大きな転換が起こ
りつつあります。
リビングサービスは今後、保険業界に「未
来」にフォーカスした事業への転換をもたらし、
データを用
いたリスク予測を可能にするでしょう。
銀行も過去、現在、未来というタイムラインに基づいてサ
ービスを提供する傾向を高め、未来を示す存在になると考
えられます。これからの消費者は銀行に、資産残高や、安全
な投資先、1年後の資産状況といったアドバイスを求めるよ
うになります。消費者は取引明細をただ確認するだけでは
なく、将来の資産の変動を予測したいと考えるようになる
でしょう。
リビングサービス
47
消費者の変化は、銀行のサービスのあり方にも徐々に変化
第3に、銀行はデータを活用することで、顧客がより劇的に
をもたらします。金融サービスは、以下の4つの段階を経て
資産運用を管理するのをサポートできるでしょう。モバイ
変わっていくでしょう。
ルアプリのMintはすでにそうしたサービスのあり方を模索
リビングサービスは今後、保険
業界の「未来」にフォーカスした
事業への転換をもたらし、デー
タを活用したリスク予測を可能
にするでしょう。
まず1つ目としてセルフチェック型の取引明細の開発が期
待されます。買い物時のレシートのデジタル化が今後も進
むなら、
レシートを銀行に転送して過去の支出と自動照合
し、何らかの異常やレシートのない取引が発見されたとき
にユーザーに知らせるサービスもあってしかるべきでしょ
う。また指紋識別システムは、
デビット/クレジットカードの
セキュリティプロセスに変化をもたらします。モバイルアプ
リのBillGuardは、疑わしい請求があったときにユーザーに
知らせたり、
トラブル発生時の売主への問い合わせサポー
トを行ったりします。個々の請求は、ユーザーが自ら支払い
処理に回したり、詐欺の可能性があるとして保留すること
もできます。さらに同アプリは、ユーザーの行動から学習
することもできます。
第2に、全顧客の過去の行動データをベースにしたアルゴ
リズムに基づき、データ・アナリティクスを用いた資産変動
予測サービスの提供が期待されます。分析結果としてから
月末に資産の残高がマイナスになると予測された場合は
知らせてほしいと顧客は思うはずです。さらにマイナス残
高にならない回避方法を提案してくれるサービスがあれ
ば、
より便利になるでしょう。
しています。Mintはユーザーのすべての残高情報や取引
情報を統合することで、支出金額のモニタリングや請求の
事前通知、予算オーバーの通知、住宅ローンのトラッキン
グ、詐欺警告サービスなどを提供しています。Tinkも個人
向け財務アプリで、
ユーザーの全財務情報を統合/管理し
ます。基本的な情報(銀行口座やクレジットカード情報)を
登録しておくと、データに変更があったときにはTinkが自
動的にそれを検知して、最新情報に基づいた分析を行いま
す。銀行口座はいくつでも登録でき、個々の支出をアプリ
が自動的に分類する機能もあります。Pocketsmithは入出
金データを基に銀行口座の変動予測を行うサービスで、
日
付を特定した予測も可能です。
リビングサービスのためのプラットフォームの開発
第4に、
が必要です。これはおそらく最も難しいチャレンジとなる
でしょう。すでに多くの異業種(Google、PayPal、Apple)が
開発に乗り出しています。完成したプラットフォームは、銀
行(のお金とデータ)
と顧客の暮らし全般をダイレクトに結
び付けるものでなくてはなりません。またプラットフォーム
の誕生により、そこから得られるデータや顧客のニーズに
は急速な変化が現われると考えられます。たとえば、顧客
の電力消費を銀行が把握できれば、より正確に将来の資
産状況を予測できるでしょう。顧客が旅行中であることを
銀行が把握できれば、ATMサービスや外為ディーラーと積
極的にレート交渉ができるでしょう。顧客がドライブ中にガ
ソリンの最安値を探したり、交渉したりすることも可能でし
ょう。さらに、ガソリンスタンドでは現金取引をしなくても
前もって支払いを済ませておけるでしょう。イスラエルの
24meは、すでにそのようなサービスへの転換を図ってい
ます。同社のアプリは自動的に公共サービスの情報と同期
して、ユーザーに請求の事前通知や、支払い処理サービス
を提供しています。
48
リビングサービス
Eラーニングの試練
統一化されたテストのための詰め込み学習が当たり前の
現在から、一人ひとりに合った学習ができる未来へと、
リビ
ングサービスは教育の現場をも変えようとしています。こ
の大がかりな変化が実現すると、教師たちは手間のかかる
クラス管理の業務から解放され、個人データに基づいた学
生一人ひとりにあった教育に専念できるようになります。
一方、学生たちは、個人のニーズや才能に基づいて教育を
受けることが可能になり、
より各人が持つ潜在能力を引き
出す機会を得ることができるようになります。
ヘルスケアの領域と比べると教育の現場には、
パーソナラ
イズされ、
自動化された学習サービスの余地がたくさんあ
るにもかかわらず、
これまでインパクトのあるイノベーショ
ンの実例は、
さほど多くはありませんでした。
リビングサービスにより、教師た
ちは手間のかかるクラス管理の
業務から解放され、個人データ
に基づいた学生一人ひとりにあ
った教育に専念できるようにな
ります。
唯一の例外が、
クラス管理の業務です。一説によると、教
師は業務時間の 50%を学生の行動管理に費やしていま
す。ClassDojoというアプリはこの問題点を解決するもの
で、学生の行動を捕捉・分析して教師に伝えることができ
るため、教師はさまざまな問題に対して、生徒や保護者、学
校関係者と連携して、即時に対処することができます。
しか
も、同アプリは、特典ポイントや賞賛コメントを学生に贈っ
たり、学生の行動に対して教師が素早くフィードバックを返
すことで、学生の行動改善を促すことができます。
一方、同様に新たに開発されたアプリBeHereは、Apple社
のiBeaconテクノロジーを用いて教師に各学生の出欠状況
を通知します。これにより、教師は出欠を取る必要がなくな
るわけです。同アプリは教師と学生の、両方のデバイスに
インストールが必要ですが、
これにより学生は、授業前に質
問があればアプリ内のボタンをタップすることにより、教師
のデバイスに予め質問を送ることが可能です。
アリゾナ州立大学は、学生のデータを収集・
トラッ
キングすることによって、学生の状況を素早く察知
して、対処することができます。
リビングサービス
49
アリゾナ州立大学は、学生のデータを収集・
トラッキングす
ることによって、学生の中退を防止する、早期発見ツール
を導入しました。同大学では、学生のIDカードを通じて学生
の行動を追跡し、教室に移動したとき、図書館を訪れたと
き、
ランチに行ったときといった、学生の行動を把握するこ
とができます。同大はこれらのデータと予測分析の手法を
活用して、進級できなそうな新入生の見極めや、成績が下
がりそうな学生の見極めを始めました。早期発見の予測ツ
ールが出す指標を参考に、学生に進路や専攻の見直しのア
ドバイスを行うことができるのです。この予測ツールの導
入により同大は1年生の中退率を8%改善することに成功
しました。
BeHere は、Apple社の iBeacon
テクノロジーを用い教師に学生
の出欠状況を通知。教師は、学
生の出欠を取る必要がなくなり
ます。
ClassDojoやアリゾナ州立大学の例が示すように、教育の
現場で教師と学生の双方のためにカスタマイズされたリビ
ングサービスを導入することで、大きなメリットがもたらさ
れます。
中等教育の現場でも、パーソナライゼーションの手法を用
いることで、視覚や聴覚、手で触った感覚、数字の得意不得
意や、習熟スピードなど、生徒一人ひとりの個性に合わせた
学習方法を展開することが可能です。生徒の心理面や感
情面を含む幅広な評価基準を基に、個々のスキルや苦手
な部分をモニタリングすることも可能です。生徒一人ひと
りを尊重しない学習プログラムと、生徒に自信をもたらす
学習プログラムは、
まったく程遠いもののはずです。学習
のモニタリングはまた、失読症などの問題の早期発見を可
能とし、そのような生徒を学習の仕組みの中に取り込むこ
とにも貢献できます。
教育課程をさらに考えていくと、
リビングサービスは、学校
外での生活に学習を効果的に取り入れていくという面で
も効果を発揮します。たとえば、
リビングサービスを利用し
て、学生が学校外で何をしているのか、
どこで過ごしている
のか、成績を上げるには何に注力すべきなのかを、把握す
ることが可能となります。
リビングサービスは教育現場でも効果を発揮します。
50
リビングサービス
そして、
より環境に即したパーソナライゼーションや、状況
将来的には、
リビングサービスは学生が何を学んでいる
に応じた学習への動機付けが可能となります。位置情報や
か、何に関心を抱いているかを見極め、学生に適する職
時間などのデータを使うことで、学生がいつ勉強しようとし
業を予測することにより、彼らの人生設計を支援する役
ているかを把握したり、適切なタイミングで学習を促した
割も担うようになるでしょう。アルゴリズムを用い、企業
りできます。学生が今家にいるのかどうか、あるいは何かほ
側のニーズと照らし合わせることで、キャリアに関する
かの用事の前に空き時間があるかどうかが分かっているか
目標を達成するのに必要な改善点も明らかにできます。
らこそ、
こうしたサービスを提供することができるのです。
また、
リビングサービスは、学生の身体状況をトラッキング
学習障害を抱えた子供に対し、
リビングサービスはとりわ
できるウェアラブル・デバイスを用いることで、授業の内容
け大きなメリットをもたらすことが可能です。ジョージア工
を変更することもできます。たとえば、学生やクラスが授業
科大学の研究者らはタブレット内蔵の人間型ロボットを開
に飽きていることが検知されたら、教科書を使った授業か
発し、認識障害や運動障害のある子供がロボットにモバイ
らビデオを使った授業に変えるといった具合です。
ルゲーム「アングリーバード」のプレイ方法を教えるという
教育の現場では、学生一人ひと
りの学習スタイルと弱点を把握
できる、データに基づいたアプ
ローチが特徴のリビングサービ
スが 今 後 の 主 流となるはず
で す。
教育現場では、学生一人ひとりの学習スタイルと弱点を把
握できる、データに基づいたアプローチが特徴のリビング
サービスが、今後の主流となるはずです。言語学習・翻訳プ
ラットフォームのDuolingoは、面白い事例の1つです。同プ
ラットフォームは学習にゲーミフィケーションのアプローチ
を取り入れており、
ユーザーが言語学習をしたり、言語スキ
ルを発揮したりすることでスキルポイントを獲得できます
(
取り組みを支援しています。この取り組みの狙いは、
タブレ
ット内蔵ロボットを、将来、学習障害を抱えた子供向けのリ
ハビリツールとすることを狙いとしています。
教育分野へのリビングサービスの導入も、戦略的かつ長期
的な取り組みとなるはずです。
しかしながら、ヘルスケア同
様に、教育もリビングサービスがもたらす効率性によって
大きなメリットが得られる分野です。教師たちは学生の個
人データを活用し、
また、自らの評価技術と知識を活用す
ることでこれまでより格段に効果的に、目的を絞った授業
ができるようになります。教育機関は、人材や特定のスキ
ルをどこに投入すべきか、
これまでより緻密に見極められ
るようになります。教育エージェント
(代理人)の台頭によっ
てこの新たなシステムをサポートすることも可能になるで
しょう。学生ももちろん、
これまで以上に一人ひとりに最適
化され、興味をそそる学習体験から多くの恩恵を得られる
はずです。学び方の選択肢が増え、究極的には選択すべき
キャリアパスの提示をも受け取ることができるでしょう。
ミスをするとポイントは引かれます)。いずれの学習レベル
でも、ユーザーの弱点を見極めて、ユーザーに指摘する機
能が設けられています。
リビングサービス
51
学習障害を抱えた子供に対し、
リビングサービスはとりわけ大きなメリットをもたらすことが可能です。
KnowledgeWorks Forecast 3.0にあるように、
「学習はもは
ングできるスマートアラームまで、遠隔管理によってリビン
や時と場所に縛られない」ものとなるでしょう。徹底的なパ
グサービスは私たちの暮らしをより便利で豊かなものにし
ーソナライゼーションと継続的な評価とフィードバックを特
てくれます。またリビングサービスが、我々の一日の暮らし
色とする、
「ライブ」な教育サービスが生まれるはずです。
全体に与える影響を考えると、
家庭こそが、
いくつものデバ
教育は、人生のはじめの20年だけで終わらない、生涯にわ
イスやデータソースを管理する「ハブ」
として、複雑なデジ
たる持続的なものとなるのです。
タルライフを統合するための源となるにふさわしいはず
家庭を
“ハブ”
にする
リビングサービスによって最も大きな恩恵を受けられる場
所、それは単調で時間ばかりを消費する、不毛な大量の雑
務の集積地点である家庭です。帰宅時間に合わせて照明
や暖房のスイッチを入れるといった効率的なエネルギー管
理から、世界中のどこからでもセキュリティ状況をモニタリ
52
リビングサービス
です。
我々にとっての一番のパーソナルスペースである家庭は、
リビングサービスが成長を遂げるのに最適な環境を整え
ています。家電が高度化し、Wi-Fi接続が高速化・普及して
いる今、複数のコネクテッド・デバイスで管理される家庭は
いずれ確実に誕生するはずです。
コネクテッド・ホームが目指すシ
ンプルな狙いとは、暮らしのあら
ゆる側面をより管理しやすく、よ
りスムーズにすることで、有益で
楽しい活動に費やせる時間を増
やすことです。
ブロードバンド市場の調査会社Point
Topicは、2018年末に
はブロードバンド接続者数が世界で9億 4,000万人に達す
ると予測しています。2004年が約 1億 5,000万人であった
ことと比べると、劇的な増加です。同社は2010年代中にブ
ロードバンド接続者が10億人を突破するとみており、特に
アジアおよび東欧地域で大きく接続者数が拡大するとの
見通しを示しています。家電メーカーからサービス企業、
ス
タートアップに至るまで、先見の明のある企業はいずれも、
消費者の暮らしの向上に寄与する製品/サービスの提供
に乗り出しています。この流れによって、消費者により多く
の情報がもたらされ、
より自由度の高いコントロールや、
よ
り優れたリモートアクセス、
より効率的な家庭環境の全般
的管理が始められています。
たとえば、Samsung・Intel・Dellの3社は、サーモスタットや
照明などのスマート家電の世界標準の規定を目指し、
たコ
ンソーシアムを設立しました。
コネクテッド・ホームが目指すところはシンプルです。暮らし
のあらゆる側面を、
より管理しやすく、
よりコントロールし
やすくすることで、有益で楽しい活動に費やす時間を増や
すことがコネクテッド・ホームの狙いです。
この目的のために最も重要なのが、行動データの蓄積で
す。セキュリティから洗濯に至るまで、
リビングサービスが
暮らしのあらゆる側面をコントロールするための情報を、
行動データから読み取るのです。
モバイル端末を通じて家庭用デバイスをよりスマートに管
理する取り組みであることを考えると、
「コネクテッド・ホー
ム」
と呼ぶよりむしろ、
「ディストリビューテッド・ホーム
(家庭
環境の拡がり)」
と呼んだ方が、取り組みの内容を正確に表
わしているかもしれません。
完全な形でコネクテッド・ホームが実現されるのは少し先
になりますが、その過程において、暮らしのさまざまな領
域で自動化は徐々に進んでいくはずです。家庭用エネル
ギーの管理やセキュリティの分野への新規参入の数だ
けを見ても、その傾向がうかがえます。たとえば、ホーム・
テクノロジー 分 野 のスタートアップであるChai
Energy
は、統合的なエネルギー管理システムを開発しました。消
費者はスマートフォンで暖房を遠隔操作したり、電気代や
ガス代 の 節 約に役 立つ個々人 別 の 分 析 結 果を受け取
ることができます。MicrosoftとSmartlabs’
働で、Windows
Insteonは協
Phoneから操 作 が 可 能 な、コネクテッ
ド・ホームをDIYで構築するためのキットを発売しました。
一方、QualcommとMicrosoft は同様の目的を掲げる
このキットを利用することでユーザーは複数の家庭や職
AllSeen Allianceという別 の 業 界 団 体 を 推 進して い ま
す。Microsoftはまた、新たな家庭用コネクテッド・デバイス
権を持った人だけが、カメラによるモニタリングや、照明
の普及に向け、保険会社のアフラックと、
ホーム・テクノロ
ジーの開発推進していくためのパートナーシップを結びま
した。一方、Appleは、HomeKitプラットフォームの展開を進
めています。HomeKitが普及すると、家庭にある機器とサ
ービスをコントロールする幅広なアプリを統合して管理す
ることができるようになります。
場を遠隔管理できるようになります。遠隔管理のアクセス
や電気のオンオフを操作することができる仕組みです。
他の事例として、
スタートアップのNovi
Securityは、スマー
トフォンのアプリを使った遠隔モニタリング・システムを提
供しています。HDカメラで家庭の様子をモニタリングする
ことができ、
また、
センサーが煙や何らかの動きを検知する
と、
警告を受け取ることができるシステムです。
リビングサービス
53
完全な形でコネクテッド・ホーム
が実現されるのは少し先になり
ますが、暮らしのさまざまな領域
における自動化が徐々に進んで
いきます。
GoogleはNest Labsへの投資を機に早速パートナーシップの拡
大に着手しており、Mercedes、Jawbone、LIFX、Whirlpool
といったライフスタイル/家庭用製品各社と提携し、Nest
Wallflowerは、家庭における電気やガスの供給状況を常
シリコンバレーに本社を構えるLIFXが開発したスマート電
にモニタリングする、防火システムです。火事やその他の
緊急事態の発生時にはスマートフォンを介して警告を受け
取り、遠隔操作で電気/ガスの供給を止めることができま
す。多くの市場でエネルギー費用と供給の信頼性が懸念
される中、英国をはじめとした各国政府はスマートメータ
ーの設置の義務付けを進めており、エネルギー管理の分
野がイノベーション創出において優先的な領域となるのは
当然の流れと考えられます。
Nestやecobeeは、好みの室温や行動パターンを学習して、
自動的にユーザーに合わせた温度管理を行うサーモスタッ
ト
(温度調整機器)の必要性に気が付きました。わざわざ壁
のスイッチで調節しなくても、携帯電話などからコントロー
ルできるサーモスタットです。
Googleの傘下となったNestは、消費者はパンを焦がすた
びに家の外に避難することなく、手を握るだけで警報を止
められる賢い煙探知機を求めていることを理解していま
した。Nest
LabsはBig Ass Fans と提携し、ユーザーの好
みを学習できるスマート空調システムSenseMEを開発して
います。
のスマート・サーモスタットおよびスマート煙検知器と、
各社が持つデバイス/製品との連動を推し進めていま
す。GoogleはNestデベロッパー・プログラムを展開し、
スマ
ートフォンや各社が持つデバイスを介した自社テクノロジ
ーのオープン化を目指しています。
球は、
プログラムによるコントロールが可能で、
たとえばユ
ーザーが外出中でも、夜になると点灯するように設定する
ことができます。Jawboneのリストバンドは、モーションセ
ンサー技術を活用して装着者の起床を検知し、照明や暖
房をつけます。Mercedesはホーム・マネジメント・システム
と連動し、自動車とドライバーが家まで30分の距離まで近
づくと暖房をつけるなどの機能を提供しています。スマー
トホーム関連の製品やサービスを提供するAugustのキー
レス・スマート・ロック・システムをはじめとして、
この分野を
開拓する企業の多くはこれまで、それぞれの問題を個別
に解決するソリューションを提供してきました。これに対し
Philips が開発したワイヤレス照明システムは、スマート・
テクノロジーを活用して、照明の色を変えたり、
自然の朝日
をまねた明るさにしたり、照明がアラームを発したり、帰宅
時にユーザーを迎えたりといった、個々の制御を行うこと
ができる照明システムです。
家庭用コネクテッド・プロダクトの考案は、インテリア/家
庭用製品デザイナーにとっても魅力的な仕事です。そのた
め、
コネクティビティ機能が付加された特殊な
(中には奇抜
な)製 品がいくつも生 み 出されてきました。たとえば、
生卵の消費期限が近づいてきたら教えてくれるエッグト
レーや、食べ過ぎを防ぐためにゆっくり食べることをユー
ザーに促す振動するフォークなどがあります。また、GPSデ
ータを使って、
ユーザーの外出/帰宅時に合わせて電源を
オンオフをするスマート・エアコン・システムもあります。
54
リビングサービス
次のステップは、
これらの異なる要素のすべて、
または意義
Samsungもスマート・テクノロジーを使った製品の最適化
あるものを相互につなげ、相互に連携することを可能にす
と、それによるサービスの拡充に着手しました。
ることです。これにより、家庭内の複数の要素を個別にモ
ニタリング/操作する面倒から解放されます。
SamsungのWi-Fi接続可能なスマート冷蔵庫は、内臓のデ
ィスプレイを使ってウェブやアプリにアクセスしたり、同社
スタートアップのNeuraは、
コネクテッド・デバイスや製品を
の他のスマート・デバイスに接続することができます。同社
つないだ、消費者個々人のためのパーソンナル・ネットワー
は自社製品をネットワーク・サービスに統合することを目指
クの構築を目指しています。複数のスマート・デバイスをネ
しており、先日、
ホームオートメーション・キットを開発する
ットワーク化することで、消費者の行動データから習慣や
Smart Things社(韓国)を買収しています。
行動パターンを識別するよう設計されています。
SmartThingsは家庭内の複数のセンサーとデバイスをつ
なぐアプリ兼ハブで、
これらのセンサー/デバイス間の相
互コミュニケーションを可能にすることにより、
コネクテッ
ド・ホームと、
より統合的なホーム・セキュリティを可能にし
ます。ハブとセンサーが、動きや人/動物の存在、振動、温
度、扉/窓の開閉といった家庭のバイタルデータをモニタ
リングする仕組みです。
このように、小規模なスタートアップや俊敏なテクノロジー
企業がまず方向性を定め、垂直統合型のホーム・サービス
分野の大企業が参画するという図式が、
この分野ではしば
しば見られます。
ほかにも、Appleはユーザーがインプットを行わなくても、
ニーズを予測できる機能によって、複数デバイスの管理を
支援する包括的なホーム・システムに関する特許を保有し
ています。また、
AT&TはDigital
Lifeにより、カメラを使った
家庭の遠隔管理や、モバイルでのドアの制御を可能にしま
した。同サービスはエネルギー管理や漏えい探知も行う
ことができます。米国では一般家庭の保険請求の 70%が
水漏れに起因するため、
このような小さなサービス改善で
も、大きな経済的インパクトをもたらすと考えられます。
LIFXのスマート電球は、プログラムによるコントロールが
可能で、たとえばユーザーが外出中でも、夜になると点
灯するように設定することができます。
リビングサービス
55
個人の空間や環境や住まいを形作り管理する能力へのニ
サービスにより大規模なインパクトが期待できるのは都市
ーズは今後も増え続けるはずです。それと同時に、つなが
でしょう。多くの場合、私たちは都市に暮らし、働き、遊びま
りがある周囲の人を巻き込んでいく、
ディストリビューテッ
す。都市の急激な人口増に対処する、
スマート・ソリューショ
ド・ホームのコンセプトは、
ソーシャルメディア上で拡大しつ
ンの創出が急務であることが分かっています。すでに地球
つあります。
人口の半分以上が都市部に暮らしており、2050年までに、
世界の90億人の人口の70%が都市部に暮らすようになる
NextdoorやNeighborlandといったソーシャルネットワーク
との見方もあります。
が、家庭のデバイスやリビングサービスとつながることで、
何が起こるでしょうか。たとえば、
エネルギー節約に関心の
都市部の人口急増に対し、街灯や廃棄物回収といったサー
高いコミュニティーが誕生し、エネルギーの消費行動を共
ビスを今後どのように供給していけるのでしょうか。都市部
に見直すといった動きが考えられます。
ではほかにも、混雑の緩和、人と車のより迅速かつスムー
ズな移動、および汚染の管理に対する、よりスマートな対
この領域ですでにイノベーションを起こしている例が、
フィ
応方法が必要とされています。
ンランドのアンチウィルスソフトの開発会社F-Secureによ
る位置情報の共有サービスLokkiです。F-Secureは、
これま
リビングサービスは以下の 3つの方法により、都市部特有
で自社をスマート・リモート・セキュリティの会社と位置づけ
のこれらの課題に対処していけると考えられます:
てきましたが、現在ではその役割を拡大し、外出先の家族
や友だちと彼らの現在地を把握するサービスを提供して
います。
家庭向けリビングサービスがさまざまな問題を解決し、細
々とした家事を簡単でより良いものにできれば、異分野の
多くのサービスや私たちの暮らし以外の場面でも、徐々に
メリットをもたらすようになるでしょう。今後20年間で家庭
はリビングサービスの「ハブ」として発展を遂げ、やがてソ
ーシャル・コミュニケーションや地域コミュニティー、
ショッ
ピング、旅行、子育て、職場をも統合していくかもしれま
1. コネクテッド・モビリティ
インターネットを活用することで、環状道路やバイパス、
駐車場といった新たなインフラを構築しなくとも、都市部
の労働者や旅行者、居住者がよりスムーズに移動できる
ような革新的サービスが実現されてきています。たとえば
Citymapperのようなスマート・アプリ、あるいはStreetline
のようなパーキング・アプリのおかげで、人々は都市をより
素早く楽に移動できるようになりました。これらのアプリは
リアルタイムで、最寄りの駐車場や、避けるべき道路や地
せん。
下鉄のルートを教えてます。将来的には、
より連携性に富
リビング・シティ~息づく都市
れるはずです。たとえば、街の中心部で渋滞にはまったドラ
上述したように、
リビングサービスは暮らしのさまざまな
側面に変化をもたらします。広い視野で考えると、
リビング
56
リビングサービス
んだサービスが、都市のモビリティをさらに向上させてく
イバーに最寄りの駐車場と、
自転車が用意された自転車シ
ェア・サービスの場所を伝え、
目的地までの移動をサポート
するといったアプリ・サービスが考えられます。
SmartThingsは家庭内の複数のセンサーとデバイスをつなぐアプリかつハブで、センサーやデバイス間の相互連携が可能なコネクテッド・
ホーム環境を提供します。
2. スマート・ビルディング&スマート道路
環境に配慮しない建物群は、都市の大気の質に大きな影
響を及ぼします。建物のエネルギー効率やCO2排出量に関
するリアルタイムデータを収集するセンサーの利用は、大
きなメリットをもたらします。
収集したデータを個々の建物や道路、地区レベルで分析す
れば、その情報を基に、都市計画の責任者や公益事業者、
医療従事者、環境の専門家らが大気汚染の問題地点を詳
細に見極めることが可能です。建物やエアコン機器、水道
管、照明、暖房設備、
セキュリティ・システムにセンサーを内
蔵すれば、各建物のオーナーに価値あるデータを提供する
ことができます。これらのデータを用いて、修理の必要性
を予測するリビングサービスや、居住者の快適な暮らしの
確保に役立てることが可能です。また、データを基に建物
の占有率や温度/時間に応じて、
リアルタイム調節を行う
ことで公共料金の費用を抑えるリビングサービスにも活用
もできるでしょう。
先駆的な企業はすでに、住むにも働くにもより快適でエネ
ルギー効率の良い都市環境の構築につながる、スマート・
テクノロジーの開発に乗り出しています。フィンランドのス
タートアップであるEnevoは、スマートシティのためのゴミ
収集システムを開発しました。ゴミのコンテナにゴミの量
を測定/予測するためのワイヤレスセンサーを設置し、
ゴ
ミでいっぱいになったときにだけ収集する仕組みです。最
も効率の良いスマート収集プラン
(回収スケジュールとル
ート)の作成も行っています。このようなスマート・テクノロ
ジーを基盤とするアプローチにより、同社はゴミの物流に
おける直接費用を最大50%削減できるとしています。
リビングサービス
57
一方、
欧州では100億ユーロ超を街灯の整備に投じ、
400億
トン以上のCO2を排出しています。当該道路を誰も利用し
ていない時のことを考えれば、
これは著しい資源の無駄使
いです。この問題に対処するため、照明ソリューション企業
のTvilightは自動車や歩行者をモニタリングし、
車や人が近
づいた時だけ街灯をつけるシステムを開発しました。モー
ション・センサーと予測分析を用いることにより、単に直接
小売業界は、データを文脈的に
関連付け、新たなインタラクショ
ン創出へと導くのに最も適した
市場です。
的に対象物を感知して反応するのではなく、
自動車や自転
Amazonが発表した「先回り配送」の特許取得により、ショッ
車、歩行者の移動速度を検知し、必要に応じて照明をつけ
ピングの分野にもリビングサービスが誕生する見通しが強
ることができます。同社のシステムはあくまで街灯用です
まってきました。小売業界は、
データを文脈的に関連付け、
が、救急車が近づいたら信号が赤になるなど、他の領域へ
新たなインタラクション創出へと導くのに最も適した市場
の応用も可能と考えられています。
です。小売業界におけるリビングサービスについては、新
3. 小売スペースの再考
リビングサービスにより、小売の実店舗はオンラインショッ
プに奪われた市場の一部を取り戻せるのではないかと私
たちは考えています。少なくとも、今以上に統合的なアプ
ローチで、
自社の物理的な接点/オンライン上の接点をま
たがったカスタマー・ジャーニーを管理できるようになるで
しょう。
店舗の入口にセンサーを設置して顧客を特定し、彼らの
モバイル・デバイスに購入履歴や顧客プロファイルを基
にしたお勧め商品を送信するサービスは以前からありま
す。Bluetooth テクノロジーもこのような機能を念頭に
開発されました。このアプローチを磨き上げ、拡充したの
は、
AppleのiBeaconでしょう。
たな販売方法やプロモーション方法を中心に、検討がなさ
れてきました。消費者が店舗を訪れたときに「お勧め商品」
を提示するというのが、業界でよく言われるリビングサー
ビスのシナリオでしょう。このシナリオの問題点は、広告を
サービスと取り違えている点、そして、
「 お勧め商品」のモ
バイル・デバイスへの送信を消費者が望んでいて、複数の
店舗が並ぶモールでも管理/展開できると勘違いしてい
る点です。
しかし、真に価値あるサービスとは、顧客に喜び
をもたらすことにより、収益面での成功とエンゲージメント
の拡大を実現できるものでなければなりません。
NordstromはPinterestとの協働により、真のリビングサ
ービスの提供を目指しています。消費者のオンライン上
での行動には、必ず足跡が残ります。Pinterestは、消費者
の嗜好の集大成である、画像コレクションを保有していま
す。Nordstromは、
このPinterestサービスを週単位で商品
展開計画に活用しています。また、店員にiPadアプリを支
給し、来店客への売れ筋商品の紹介や、
リアルタイムでの
発注を可能にしています。今後、
ショーウィンドウや店頭の
ディスプレイを、顧客が近寄ったときに顧客の嗜好に合わ
せて変えるといったサービスも考えられるでしょう。すでに
Adidasは、このようなインタラクティブ・ショーウィンドウを
実験的に採用しています。
58
リビングサービス
インタラクティブ・ショーウィンドウは、消費者のモバイル・
Amazon Dashは、バーコード・スキャンや音声認識機能を
デバイスへの商品表示に関する問題も解消してくれます。
使って、
ショッピングリストを一瞬にして作成し、編集/購入
消費者が、利用するデバイスにすべてのお店のアプリをダ
まで済ませることができるサービスで、Hikuも同様のサー
ウンロードするという考えは現実的とは言えませんし、そ
ビスを提供しています。近い将来にはこの種のアプローチ
もそもデバイスの画面ではなく、商品実物を見たいはずで
により、あらゆる場所が店舗に変わる時代がくるでしょう。
す。Burberryの旗艦店は、RFIDテクノロジーを商品に用い、
拡張現実を活用したBlipparもまたその一例で、消費者は
各アイテムに関連するコンテンツを店内ディスプレイに表
文字通り、
目にしたものを
(もちろん買える範囲のものを)
、
示し、パーソナライズ化された買い物体験作りを実現して
欲しくなったそのときに、
どこにいたとしても買えるように
います。
なるのです。
小売業界にとってのチャレンジは、当然、
ショッピングがどこ
広い視野に立ってみれば、
センサーによって捕捉されたあ
でも可能になるということです。
しかも、
リビングサービス
る街の主要エリア内の自動車や歩行者の行動データは、そ
が、
この傾向をさらに加速させます。
れぞれの店舗における訪問客数や購買情報と相関します。
分析ソフトウェアを使ってこれらのデータから、店舗マネジ
ャーは、忙しくなりそうなタイミングはいつかリアルタイム
で把握することができたり、最適なタイミングで可能な限
り多くの顧客にプロモーションを展開することができるよ
うになります。
消費者が、利用するデバイスに
全てのお店のアプリをダウンロ
ードするという考えは、現実的で
はありません。
これらのデータは、都市計画の責任者や建築家、デザイナ
ーにとっても有益であり、地域コミュニティーのニーズ変
化に合わせた市街地の分析や改善に活用できるでしょう。
たとえばリビングサービスによって、人々のニーズに合わ
せて、駐車料金や駐車禁止エリアをリアルタイムで変更す
ることができるようになります。
消費者がオンライン上で何かをすると、必ずそこに
は足跡が残ります。Pinterestは、消費者の嗜好の集
大成である、画像コレクションを保有しています。
リビングサービス
59
これらの試みはすべて、街にとって欠かせないものです。
ずですが、
これらの時間を定量的に計測したことは、おそら
街の小売がオンライン小売と競うことができなければ、市
くないでしょう。
街地や郊外にある多くの小売向け不動産に影響を及ぼし
ます。反対に、実店舗が購入プロセスにおいて主要な役割
デスクトップ・コンピュータや携帯電話、
タブレットはもちろ
を果たすようになれば、それはそれで都市部の交通状況や
ん労働効率を高めてくれます。
しかしながら、労働者一人ひ
営業時間、物流に影響を与えることになるのです。
とりの視点から直感的に理解できるように設計されたリビ
直感的な職場へようこそ
自動車や家庭といった領域に続いて、大規模なコネクテッ
ド・エコシステムが生まれる可能性があるのは、職場でしょ
う。
リビングサービスがあらゆるレベルの労働者にメリット
をもたらし得るのは明白です。高度化されたデジタル・デバ
イスやサービスによって、オフィスでの業務負荷をより効
果的に管理することができるようになります。また、労働者
の注意力レベルや健康状態をモニタリングするウェアラブ
ル・デバイスを活用して、難しいタスクは1日のうちで最も
活力のある時間帯に取り組み、単調な業務は、
よりストレス
を感じない楽しめる時間帯に取り組むことで、生産性の向
上が実現できます。
リビングサービスが生み出す高度なデータによって、企業
幹部は従業員のニーズをより深く理解でき、優れたデータ
によってより良い意思決定ができるようになります。さらに
リビングサービスは、重工業分野にも活躍の幅を広げるこ
とが期待できます。スマート・センサーがあれば、作業員は
複雑な機器とリアルタイムにコミュニケーションができる
ため、
スムーズに業務をこなすことができ、その結果、効率
ングサービスであれば、生産性を定量化することにより、
パ
フォーマンスの改善に貢献することができます。たとえば、
会社支給のウェアラブル・デバイスによって、従業員の心拍
数や姿勢、血糖値などを捕捉して、休憩が必要であること
を早期に知らせることができるでしょう。
労働者の注意力レベルや健康状
態をモニタリングするウェアラ
ブル・デバイスにより、生産性の
向上が実現できます。
信じ難い話だと思う方のために、ロンドンを拠点とする予
測分析会社The
Outside Viewの例を紹介しましょう。同社
は全従業員を対象に、Sleep Cycle、Moves、Meal Snapと
いった、各種アプリやウェアラブル・デバイスを用いた実験
を行っています。従業員の食事量や睡眠量、幸福度、健康
度などを捕捉することで、生産性を向上させることが狙い
です。法的/倫理的な問題を指摘する向きもありますが、
同社では、従業員はデバイスの装着に前向きであり、法的
性の向上につながるでしょう。
問題が生じたときには対処の用意があるとのことです。こ
今日、
デスクトップとモバイルのコンピュータ環境が備わっ
ウェアに関するデータを提供することで、企業や公的機関
ていない職場は、
まず考えられません。5年後の職場環境
におけるリビングサービスについても、同じことが言える
は、支社への出張を予定している経営陣に飛行機の遅延
のほかにもリビングサービスは、個々の業務状況やハード
のさまざまな業務を進化させることができます。具体的に
のではないでしょうか。
を伝え、別の行き方を自動的に準備するといったことが考
意味のない会議や、機器の到着を待つ時間、情報や人や必
部品のモニタリング情報とスペアパーツの調達情報を組
需品の到着の遅延といった問題は、誰もが体験しているは
60
リビングサービス
えられます。あるいはもっと複雑なことも可能で、航空機の
み合わせて、機体のメンテナンス・スケジュールに反映させ
るリビングサービスを作ることも可能でしょう。
自動車や家庭といった領域に続いて、大規模なコネクテッド・エコシステムが生まれる可能性があるのは、職場でしょう。
リビングサービス
があらゆるレベルの労働者にメリットをもたらし得るのは明白です。
特殊な用途の機器が、モバイル環境やクラウド環境と連
Kinesisは、生のデータを送信・管理するシステムで、企業は
携するケースも増えてきています。たとえばPocketScan
同システムを通し、自社の製品やサービスにより一層効果
は、
どんな表面に描かれた文字や画像でもスキャンして、
的にリアルタイムデータを生かすことができます。
デバイスに転送することができ、読み込まれた文字や表は
Microsoft Officeなどで開いて編集することでき、また文
これらの例はまだ真のリビングサービスとは言えません
字は翻訳することも可能です。ウェアラブル・カメラである
が、
コネクティビティのためのインフラの構築は確実に始ま
Ca7ch Lightboxは、携帯電話と同期することで、写真やビ
っており、今後は多様な職場向けリビングサービスの誕生
デオを自動的にクラウドに転送することができます。
につながっていくはずです。
企業はすでに、大量の顧客データや行動データを保有して
職場向けリビングサービスの構築に向けた大きな一歩は、
います。例えば、Ca7ch
配送や営業といったフィールドサービスの業務管理の領域
Lightboxのようなデバイスやポジ
ション・センサーがオンライン小売店の倉庫にいくつもある
で起きています。
ことを想像してください。これらのセンサーが連動するこ
とで、生のデータを経営管理や業務システムに取り込むこ
フィールドサービスの作業員や彼らの使う機器、車両など
とが可能になります。
をリアルタイムで本社とつなげる事例は、
ますます増えて
います。これによりセールスマネジャーや物流チーム、人材
大規模なリアルタイムデータを活用するためのテクノロ
部門などは、情報に基づいた正確な意思決定を迅速に行う
ジーはすでに誕生しつつあります。たとえば Amazon の
ことが可能となっています。
リビングサービス
61
たとえば配送車にテレマティクス・ユニットを設置しておけ
って、
ドリルの平均寿命データを使って、
エネルギー企業は
ば道路標識を撮影した画像やGPSデータといった現場情
世界中のあらゆる掘削現場において、
ドリルビットを一定
報を送信できるので、指定のドライバーが指定の時間に決
期間後に交換することができます。
まった場所へ納品を済ませたことを証明できます。
ワークシナリオやハードウェアに
関する正確なデータを提供する
ことで、さまざまな業種の企業
や公的機関におけるスピードア
ップも実現できます。
TomTom Telematicsは、衛星ナビとモバイル・ビジネス・ア
プリケーションを単一のデバイスで操作できる統合的なフ
ィールドサービスを提供しています。納品証明から、各作
業員の進捗度モニタリング、車両安全点検データの送信な
また、機器類にスマート・センサーを統合することで、エネ
ルギー企業は機器の各部品の働きや摩耗時期を詳細に知
ることができる、著しい効率の改善を実現できます。
平均に基づく性能評価から脱却し、必要なときに自動的に
提供されるカスタムデータを活用するようになることで、
ビ
ジネス・オペレーションは大きく変化します。産業分野にお
いて誕生した、文脈や状況を重視したコネクテッド・デジ
タル・サービスは今、
諸方面においてIndustrial
Internet of
Things(IIoT、インダストリアル・インターネット・オブ・シン
グス)
と呼ばれています。
鉱業分野では、立坑坑口への Wi-Fi導入をはじめとするコ
ネクテッド・インフラや、
センサー内蔵の機器、
自律型ドロー
どさまざまな用途に用いることが可能です。
ンがすでに一般化しています。
肉体労働の負担を軽くする
BHP Billitonは現在、掘削機のバケツに原鉱を等級分けで
リビングサービスは、肉体労働の分野にも大きなインパク
きるセンサーを試験的に運用中です。このセンサーにより
トをもたらし、効率性の向上を実現します。たとえばエネル
ギー業界なら、石炭燃料の掘削作業におけるロジスティク
スを地質評価や天候パターンの予測、機器の交換時期の
現場マネジャーは、原鉱の品質情報や、最適な加工方法な
どを直ちに知ることができます。
予測といった側面から最適化することが可能です。
産業向けリビングサービスのもう1つの例として、石油精製
掘削作業員は、
メーカーのアドバイスや作業条件などから
ソリューションがあげられます。同サービスは、作業員一人
ドリルビットのおよその寿命を割り出すことができるかも
業界向けに提供しているアクセンチュア・ライフセーフティ・
ひとりを捕捉して毒性ガスのモニタリングを行い、それら
しれません。
のデータを中央処理システムに送信します。これにより、作
エネルギー企業は、
ドリルのライフサイクルデータの平均
でき、時間のかかる書類作業や各種の手続きから解放され
値を知っています。
ドリルは大量生産品であるためです。従
62
リビングサービス
業員は精製所で定期メンテナンスを安全に実施することが
ます。同サービスの根本的な狙いは、極めて危険度の高い
作業現場で働く人たちに安全な環境を確保することにあり
ドリルビットから航空機、鉄道、機関車、公共事業、食品製
ます。加えて、作業員の健康や安全面のプロセスを自動化
造に至るまで、
カスタムデータが大きなインパクトをもたら
することによって、生産性の向上にも寄与しているのです。
す業界は実に多岐にわたります。
アクセンチュアは、AeroScout 、Cisco 、および Industrial
全能なる管理者
Scientificとの協働により、ワイヤレス・ガス検知器と位置情
報技術を結び付けた同ソリューションを開発しました。ガス
検知器は精製所の中央にデータを送信して、ガス・レベル
が通常値を超えていれば制御室にアラートを発し、作業員
の現在地を知らせます。検知できるガスの種類は硫化水素
ガス、一酸化炭素、二酸化硫黄、二酸化窒素の4種類です。
企業経営の領域でも、可能性は無限です。アプリベースの
タイムシートから人事管理コスト、
オンサイト・エンジニアリ
ングまで、
ビジネスのあらゆる側面を統合し、外部の情報
を用いることで、従業員一人ひとりの業務を調整してパフ
ォーマンスを最適化できます。
個人のパフォーマンス・データを、キャリアを通してモニタ
リングすることも可能でしょう
(中には望ましくないことだ
と感じる人もいるでしょうが)。このデータを心理試験や、
身体的/精神的能力試験の結果、修了済み研修の詳細な
どと統合すれば、各従業員のキャリア開発プランに役立て
られます。大企業なら、事業成長計画に活用することも可
能でしょう。あるプロジェクトで必要性が生じたときに、特定
のスキルや体験を有する従業員を直ちに配置転換できま
す。あるいは、既存の業務の優先順位が上がったときに、社
内のリアルタイム・ニーズに合わせて分担を割り振り直す
ことも可能です。
消費者と直に接する企業、あるいは自社製品が公共技術網
や家庭用ハードウェアと深く連動している企業にとっては、
ワークフロー・マネジメント・システムを顧客サービス・コミ
ュニケーションと統合することで大きな機会が得られます。
リビングサービスはいずれ、企業と消費者の間の最大の摩
擦要因の1つ、すなわちトラブルに関する情報の欠如を解
消するでしょう。
石油精製業界向けのアクセンチュア・ライフセー
フティ・ソリューションは、作業員一人ひとりを捕捉
して毒性ガスのモニタリングを行い、それらのデ
ータを中央処理システムに送信します。
リビングサービス
63
ドリルビットから航空機、鉄道、
機関車、公共事業、食品製造に
至るまで、カスタムデータが大
きなインパクトをもたらす業界
は実に多岐にわたります。
リビングサービスは、企業の経営構造の見直しを担う人々
には大きな課題を突きつけます。企業や公共事業者は今
後、縦割りにサイロ化した組織構造を解体し、あらゆるタッ
チポイントをまたがって顧客とサプライヤーと物流を継続
的に管理する、新たなアプローチを構築しなければならな
いのです。
64
リビングサービス
新たな仲介者:
あなただけのパー
ソナルITチーム
家庭や暮らしのさまざまな側面がつながり、自動化さ
れるにつれ、
リビングサービスのパーソナル・エコシス
テムが形成されていきます。これに伴い企業や個人
は、企業が利用するデジタル・バックルーム・サービス、
あるいはITサポートサービスを、
さらに個人向けや家庭
向けにカスタマイズしたようなサービスを提供する機
会を得ることになるでしょう。
よりつながったデジタル時代においては、家や都市や
国への移動をはじめとした、
さまざまな移動をいかにし
て管理するかという問題が生じるはずです。現在のと
ころ、
これらの暮らしのシフトはもっぱらアナログ方式
で行われています(家具の移動、公共サービスの使用
停止/開始など)。
個人向けまたは家庭向けのリビングサービス・エコシス
テムの移動は、非常に複雑です。リビングサービス・エ
コシステムの取り外しや設定といった複雑な作業を行
うパーソナル・デジタル・リロケーション・サービスとい
うビジネスの機会が生まれるでしょう。
リビングサービス
65
05
「サービスの遍在化」
に備える
Google MapsやPayPalが、
本来のブランド・アイデン
ティティを維持しながらも
さまざまなデジタルサー
ビスの中に導入されてき
たように、
リビングサービ
スは今後、幅広い環境と状
況の中で出現してきます。
場所と方法次第で、明確な差別化がされるリビ
ングサービスもあれば、そうでないものも出て
くるでしょう。
しかし、
これからのデジタルサービ
ス環境において長く生き残ることができるリビ
ングサービスは、自身のサービスの一部を他の
サービスを介して広く普及させることが可能な
もの、あるいは他のサービスが、いつでも自身
のサービスにアクセスすることを許可し、活用さ
せるサービスだと考えられます。このような状況
を、
「サービスの遍在化」
と呼んでいます。
Google MapsやPayPalの事例にも見られるよう
に、
こうしたサービスの遍在化はすでに始まって
います。デジタルのプラグ&ソケットが世界を取
り巻き、企業は互いにつながって、情報やサービ
スを交換し、あるいは自社の製品やサービスと
たとえば、企業は第三者が提供するサービスの
ある要素を用いて、自社サービスの一部と組み
合わせることにより、消費者は1つの製品/サー
ビスとして利用することが可能です。あるいは
逆に、
自社サービスの一部を他社に公開し、元の
使われ方とは異なるサービスに組み込まれるこ
ともあるでしょう。
サービスの遍在化は、新世代の音楽サービス
でもすでに普 及しはじめています。たとえば
Deezer のユーザーは、Deezer のアカウントを
FacebookやTwitterのアカウントと連携すること
で、お気に入りの楽曲やプレイリストを友だち
と共有することができます。
オ ン ラ イ ン 音 楽 ファイ ル 共 有 サ ー ビ ス の
SoundCloudでは、ユーザーが自分で作った音
楽を自分だけのSoundCloud URLにアップロー
ドしたり、録音・宣伝したり、簡単に友人にシェア
することができます。音楽ファイルはどこにでも
埋め込むことができるため、Facebookなどのさ
まざまなソーシャルメディアから自由にアクセス
できます。
また SoundCloud は、ウィジェットやアプリを
用いた音楽配信も行っています。ユーザーは
SoundCloudを自身のウェブサイトに組み込み、
他のアプリやスマートフォンで音楽ファイルをア
ップロード/ダウンロードすることが可能です。
の統合を推し進めています。
リビングサービス
67
破壊的なサービスは、音楽業界においては、他の業界より
で友人に安全に送金をしたり、銀行からのサービス案内を
も普及しやすいのかもしれません。
しかし、
サービスの遍在
友人にツイートしたり、外出時に自分の位置情報を基に店
化は、金融サービスなどの他の業界でも目立つようになっ
舗からお得になる案内を受け取ることができます。前述し
てきました。支払いプロセスやソーシャル・バンキングの領
たようにeBay傘下の PayPalは、決済処理サービスを遍在
域をはじめ、多くの銀行が小売業者やソーシャルメディア
化させた代表例と言えます。
を統合しながら新たなサービスを生み出しています。
トルコの銀行 Garantiによるデジタル・バンキングiGaranti
は 、そ の 好 例 の 1 つ です 。iGaranti は 、お 財 布 、貯 金 、
ロ ー ン と い っ た 各 種 バ ン キ ン グ・サ ー ビ ス を 遍 在
化 さ せ る こ と を 狙 い 、ア プ リとし て 提 供 し て い ま
す。Facebook、Twitter、FourSquareといったソーシャルチ
ャネルと統合することで、iGarantiの顧客はFacebook経由
この新たな時代においては、ブ
ランディングの概念や従来のビ
ジネス構造は根底から覆され、
破壊されます。
200カ国以上で、1億4,800万を超える有効アカウントを有
するPayPalは、多数の小売チェーン店や個人事業主に採用
され、消費者にもモバイルアプリを提供しています。
周 知 のとおり、American
Express、MasterCard、Visaとい
った大手クレジットカード会社は、自社と銀行、および小
売業者を結び付けることで、積極的に自社の決済サービ
スの普及拡大を図ってきました。これらのカード会社や
Google、Squareらは現在、モバイル決済サービスの標準化
を推し進めています。
モバイル・バンキングは、世界中の銀行が最も注目している
分野です。世界各国で多数の銀行がモバイルアプリをリリ
ースし、移動中の消費者に対して銀行の幅広いサービスに
アクセスすることを可能にしています。顧客は金額と受取
人の携帯電話番号を入力するだけで、
テキストメッセージ
のように送金を行うことが可能です。こうしたモバイルアプ
リによって、小売業者も銀行が提供する分化されたサービ
スを利用することができます。
iGarantiは、お財布、貯金、ローンといった
各種バンキング・サービスを遍在化させる
ことを狙い、
アプリを提供しています。
68
リビングサービス
銀行がアプリを提供することは目新しいものではありませ
せています。究極的には、
こうしたサービスは消費者の行
ん。
しかし、銀行のサービスが広がっていくことは大変興
動や経験則に基づいて提供されます。ユーザーの時間を
味深いものがあります。さらに多くの銀行が、米国の3銀行
節約し、問題解決を支援できるような適切な状況において
(JP
Morgan Chase、Bank of America、Wells Fargo)が
設立したジョイントベンチャーclearXchangeのようなモバ
のみ提供されるわけです。
しかし、
この点について詳しく見
る前にサービスの遍在化を進める原動力が何であるかを
イル送金ネットワークに加わることで、
この傾向はさらに拡
もう少し詳細に考えてみましょう。私たちはすでに、私たち
大していくでしょう。
を観察し、観察結果に基づいて継続的にデータを生み出す
さまざまなデバイスに囲まれています。そうしたデバイス
これらのイノベーションは、新たな時代の到来を指し示し
はデータを分析したり、分析結果に基づいて自動的に反応
ています。これからは、銀行やそれ以外の企業も自社サー
したりすることはまだできませんが、必要に応じてデータ
ビスを柔軟にし、顧客の流動的なニーズに応える時代とな
を集め、転送し、表示することは可能です。また、
クラウド・コ
るでしょう。たとえば、消費者がメインバンクのアプリを使
ンピューティング・サービスとつながって必要な情報を引き
いながら、お気に入りのスーパーマーケットに今夜の夕食
出すこともできます。
を注文したり、公共サービスの加入条件を確認したり、税
金相談を行うことが可能とです。
この新たな時代においては、
ブランド概念や従来のビジネ
ス構造は根底から覆され、破壊されます。サービスは、消費
者の時間や場所、状況に合わせて即座に形を変えて提供
されるのです。
サービスの遍在化は容易ではありません。ブランド体験を
コントロールできなくなるだけではなく、多くの組織構造
にはそぐわないコンセプトだからです。それでもその傾向
はすでに強くなっており、今後10年にわたって徐々に市場
を覆い尽くしていくでしょう。それに伴ってリビングサービ
スの種類は多様化し、有用性が高まり、消費者はいつでも
そのサービスを利用できるようになり、操作性も洗練され
サービスの遍在化は容易ではあ
りません。ブランド体験のコント
ロールができなくなり、多くの組
織構造にはそぐわないコンセプ
トです。
これらのデバイスが高度化し、数が増えるに伴い、私たち
にとってのインターネットのあり方や、
インターネットへの
つながり方は変化しています。特に大きな変化をもたら
したのがスマートフォン・アプリでしょう。アプリの誕生に
よってインターネット体験は、
ブラウザ経由のウェブペー
たものになっていくはずです。
ジ訪問という概念から脱却しました。アプリを通じてモバ
サービスの遍在化はリビングサービスの 1 つの側面とし
まったく新しいインターネット体験が可能になりました。
て、徐々に浸透しながら、組織の長期的な考え方や経営
に劇的な変化をもたらすのです。
イル/タブレット・デバイスでコンテンツにアクセスする、
この傾向が進化し、
自動車やサーモスタット、
ドア、照明、冷
蔵庫、
テレビといった多くのモノがインターネットでつなが
遍在化への道のり
っていけば、私たちはいつ、
どこにいてもインターネット接
サービスの遍在化を加速させているのは、消費者ニーズ
な転換点が訪れます。その際に重要になるのは、サービス
だけではありません。適切な状況でニーズに応じて連携し
たサービスを提供するテクノロジーも、その傾向を加速さ
続されたモノに囲まれ、
ウェブにアクセスできるという大き
の提供方法ではなくサービスとそのときのユーザーが置
かれた状況との関連性です。
リビングサービス
69
複数のブランド・サービスを束ね
て提供することが当たり前の時
代には、サービスと消費者との
関連性を考え直すことは不可欠
です。
これからのサービスは消費者の暮らしの一部として、常に
消費者のそばに存在するでしょう。消費者は、サービスの
体験や利用に制限があるようなサービスは嫌い、制約のな
い「オープン」なサービスを求めるようになります。このよ
うな世界では、毎回自分で携帯電話を操作してアクセスす
る必要があるアプリは、時代遅れなものと見なされるよう
になります。
とによって、他のさまざまなデジタルサービスや企業の体
験とのつながりや統合を実現してきました。Google Maps
やTwitterは、
このトレンドの先鞭と言えるでしょう。
これらの革新的企業にとって、自社のサービス/製品がた
とえ地図であれ、意見共有サイトであれ、その一部を他社
に供与するのはごく自然な判断なのでしょう。消費者の視
点に立つと、単一企業によって提供される包括的なサービ
ス体験が、時と場合によっては必ずしも消費者ニーズに合
わないことを、彼らはよく知っているのです。むしろ、消費
者は一連の包括的なサービス全体のうちの、一部だけを
求めているケースが多いのです。
さらに、消費者がコンテンツや情報を一時的にしか利用し
ない傾向も強まっており、第1章で見た通り、彼らの期待は
常に変化しています。たとえば、
ミレニアル世代の消費者
たちはサービスやコンテンツを「つまみ食い」することが多
企業を超えてつながる世界
く、複数あるサービスの選択肢の中をめまぐるしく移ろい
サービスの遍在化を加速させる2つ目の要素は、サービス
ます。それと同時に、状況に合わせて提示されるサービス
のさらなる展開を支援するソフトウェアの共有/提供で
す。テクノロジーの観点から言うと、
これは2つの方法で可
を好む傾向も高まっています。
る派生サービスを外部企業に開発してもらう方法です。
これ からの 企 業 は 、自 社 の サ
ービスがこれまでに経 験した
ことのないまったく新しい環境
で提 供される時 代に備えてお
か な け れ ば ならな い の で す 。
こ の ような オ ー プ ン 化 の 試 み は 、主 に 先 進 的 な テ
このような新たな傾向の消費者を対象にする場合、企
能となります。1つは、企業が自社サービスの一部を消費者
のために外部の開発企業と共有し、サービス・プロバイダ
ー・インターフェース
(SPI)
を開発することです。SPIという
のは特に外部企業が使うことを想定されたもの、もしくは
外部企業自体が開発したアプリケーション・プログラミング・
インターフェース
(API)
を意味します。もう1つは、企業がソ
フトウェア開発キット
(SDK)
を提供し、
ソフトウェアと連動す
クノロ ジ ー 企 業 によって 推 進 さ れ て い ま す 。たとえ
ば、Facebook、Google、Twitterはシェア・サービスやオープ
ンソース・サービスの普及を積極的に推し進めています。こ
れらの企業は自社サービスのコンポーネントを共有するこ
70
リビングサービス
業はあらゆる接点において、付加価値を提供すること
が求められますが、必 要に応じてサ ービスを組 み 合わ
せることで容易に付加価値の提供を実現できます。た
とえば、消費者にとって Foursquare 傘下の Swarmプラ
グインと統合された小売企業のサービスは、その小売
プセルを常に1つのアクセスポイントから実現しようとする
企業自身が提供する中核的な体験とはまた別のものと
組織運営も難しくなっていくでしょう。
なります。消費者は Swarm を介して、ブランド体験と情
報を共有するのです。2 つの異なる要素の組み合わせ
この変化は、極めて高レベルでブランド戦略に影響を及ぼ
が、1 つの体験そのものを拡充していると言ってもよい
します。企業はいずれ消費者とつながることのできる瞬間
でしょう。同じようなコンセプトは、旅行や金融サービス、
を、
データを駆使して必死に探すことを余儀なくされるでし
公共サービス、教育などにも応用できます。複数のブラ
ょう。
ンド・サービスを束ねて提供するアプローチが当たり前
の時代を迎えるには、このような考え方が不可欠です。
オープンネスが企業にとっての課題
サービスの遍在化は止められない潮流ですが、
自社のイメ
ージや顧客との関係を100%管理してきた大企業や大手ブ
ランドにとっては、大きな課題でもあります。ブランド・マー
ケティングやカスタマー・リレーションシップ・マネジメント、
企業の経営体制に甚大な影響を及ぼすからです。サービ
ス全体が分化することはすぐには起こり得ないでしょうが、
長期的なビジネス戦略を展開するあらゆる企業は、サービ
スの遍在化とは何かを今から学んでいく必要があります。
ブランド・マネジャーは、顧客データや企業情報、
ブランド・
イメージを支配することを諦め、少なくとも一部の情報へ
の第三者によるアクセスの許可が求められます。まったく
新しい環境で自社のサービスが提供される時代に備えて
おかなければならないのです。
企業には、常に顧客を掌握し、顧客とサービス/ブランドの
関係を微細管理するという既成概念を捨てることも求めら
れます。100年にわたりマーケティングの原則とされてきた
概念を覆す変化が起きようとしているのです。
皮肉なのは、完全に管理することをやめることこそが、市場
へのリーチの改善、および関連度の高い新たなサービス
体験の提供機会を生んでくれる点です。
Spotifyは、複数の第三者接点を
介したユビキタス性を確立して
おり、サービスの遍在化を実現
した先駆的な事例の1つです。
米国のオンライン不動産会社Zillowは、住宅購入者が希望
に合う住宅を見つけたら、その場で住宅ローンを比較し住
宅ローンの事前承認を得られる、モバイルアプリを通じた
サービスを提供しています。
利用者は複数の住宅ローン会社からの事前承認を前提と
して、まさに必要とするタイミングでリアルタイムに住宅
ローン会社とコミュニケーションすることができます。
銀行が住宅購入のプロセスにおいて、自社の住宅ローン・
サービスを分化させて提供することは難しいことではあり
ません。
このような未来シナリオにおいては、銀行や通信企業の各
部門が個々のサービス・コンポーネントを顧客に提供する
という構造は通用しなくなります。また、
クロスセルやアッ
リビングサービス
71
米国拠点のオンライン不動産会社Zillowは、住宅購入者がその場で住宅ローンの事前承認を得られるモバイルアプリを開発しました。
デジタルにおける協働と連携
サービスの遍在化は、
自社サービスを第三者のサービスに
組み込む、
または自社サービスを第三者に公開して統合を
図るという2つの方向で進められます。従って、サービスの
遍在化の普及は企業によって異なる速度、異なる方法で起
こると考えられます。
多くの企業にとってサービスの遍在化への最初のステップ
は、
自社のサービス/製品を他社サービスと組み合わせる
チャンスを見極めることでしょう。先に紹介したデジタル・バ
ンキングのiGarantiは、他の企業がつなぐソケットを用意し
た企業の一例です。
トルコの小売企業はiGarantiのAPIに
アクセスすることにより、iGarantiのサービス・ネットワーク
の一員となることができます。
つまり、
これらの小売業者は自社の店舗の一部を分化させ
て、銀行のサービスを組み込んで、消費者との関係管理を
銀行に委ねていることになります。
72
リビングサービス
実際にソケットを用意し、第三者に管理を委ねるという第2
のステップは、第1のステップよりも難しいものかもしれま
せん。
しかしPayPalやSquareといった有名企業はすでにビ
ジネス戦略として実践し、サービスの幅広い展開を実現し
ています。
たとえば、エンターテインメント業界におけるサービスの
分化を実現した先駆的な事例の1つとして、
Spotifyは複数
の第 三 者 接 点(例:Sonos 、Ford 、iOS、
Android、Samsung
Smart TV)を用意しユビキタス性を確立しています。
第 3のステップは、
ブランドの態度や振る舞いに一貫性を
もつことで、第 3者に管理を任せることで想定されるブラ
ンドのコントロールを失うという損失を補うことです。そ
れにより、いかなる状況でも、一貫した体験を提供するこ
とができます。
つまり、
ブランドがデジタルにおいても一貫して同じ態度や
なぜ自動化が重要なのか。それはサービスに関する嗜好に
振る舞いを維持することにより、
コミュニケーションにも一
ついて、企業が顧客に質問できる範囲には限りがあるから
貫性が生まれ、消費者はルートこそ別であってもあくまで
です。
そのブランドのサ ービスを享受していると安心できる
わけです。
たとえば、新しく購入した自動車に取り付ける多くのオプシ
ョンサービスを選ぶために、消費者は何時間もかけたいと
どれほど提供環境が異なっても、
ブランド・サービスに一貫
は思わず、自分の欲しいサービスのみ提供してほしいと考
性のある振る舞いをさせることは、
デジタルサービスの設
えています。多くの消費者は、売り手側に消費者が必要と
計において最も大切な領域であると同時に大きな課題で
するサービスを理解してほしいと望んでいるのです。
もあります。
サービス企業も消費者もこれか
らは、個人の行動データをどこ
まで共有するかという大きな課
題に向き合っていく必要がある
でしょう。
もちろん、
これからはサービス企業と消費者の双方が個人
の行動データをどこまで共有するかという大きな問題に向
き合っていく必要があるでしょう。あたかも消費者を追跡し
ているかのような行動ターゲティング・テクノロジーを用い
たオンライン広告には多くの反発があります。消費者の中
には、広告主が個人情報を必要とすることに異議を唱える
人もいます。
サービスの自動化および消費者のエンゲージメントのパー
ソナライゼーションを目指す企業は今後、
この問題に真っ
直感的なサービス提供
先に向き合わなければなりません。新たなサービスは、消
最終的にサービスの遍在化は、消費者の行動/状況デー
確約しなければなりません。一方、それらのデータを活用
タの分析に基づいて、
ブランドが提供するサービスの一部
を他のブランドと組み合わせるという段階まで進化を遂げ
ると考えられます。消費者にメリットがもたらされることが
データ分析によってから明らかになった時点で、自動的に
サービスが消費者に提供されるような世界がゴールと言
えるでしょう。
費者に責任ある企業が個人データを活用していることを
しなければ、企業は消費者が喜ぶサービスを開発できませ
ん。これはニワトリが先か、卵が先かという問題です。プラ
イバシーの問題はおそらく、新たなデジタル時代の到来が
実現するか否かを決定づける最大の課題と言えるでし
ょう。
しかし、
これを実現するには自動的な状況理解と、その理
解に基づいたサービスの自動的なカスタマイズを迅速に
行えなければなりません。また、サービスの提供にふさわ
しいタイミングを見極めることも必要です。消費者が何を
求めているかを理解し、個人の嗜好や習慣データと重ね合
わせ、個々の消費者にカスタマイズした体験を設計する必
要があります。
リビングサービス
73
06
一人ひとりのためのデザイン:
計測するために生まれたサービス
リビングサービスの誕生
により、企業は消費者一人
ひとりの期待や習慣に合
わせてカスタマイズされ
たサービス体験を提供す
るために、組織やビジネス
の変革を余儀なくされる
でしょう。
消費者にあわせてカスタマイズされたサービス
体験を構築するという大きなビジネスチャンス
を最大化するには、行動/状況データの最適化
に基づいた新たな設計哲学が必要となります。
多数に提供できる唯一の体験を設計するパラダ
イムから、絶えず変化する個人のニーズに合わ
せて多数の体験を設計するパラダイムへの転
換と言ってもいいでしょう。
自動車から家具に至るまであらゆる製品/サー
ビスの設計は、
これまで1つのものでより多くの
消費者のニーズを満たすという万能型のアプロ
ーチが取られてきました。デジタルにおける設
計コンセプトも、現時点ではこの万能型アプロ
ーチにごく限られた側面から対抗しているにす
ぎません。たとえば、
モバイルデバイス、
タブレッ
ト、
デスクトップといったプラットフォーム別の状
況を考慮した設計や、数種類の決まったインタ
ラクティブ・オプションの提供、Amazonのリコメ
ンデーション機能のような顧客購入パターンに
基づく設計といったものがそうです。
これまでの多くのデジタルサービスは、消費者
の嗜好や状況の変化によって変わることのな
い、変化の無い体験を生んできました。
同様にサービス企業も、消費者の使うデバイス
や状況に関わらず、一定のサービス・オプション
を提供するのが一般的でした。こうしたサービス
は静的なまま変化しませんが、いずれは余計な
ものと見なされ、新たなサービスに取って代わ
られたり、変更を余儀なくされたりします。
この万能型アプローチは、やがて根底から覆さ
れるでしょう。現代のつながった暮らし、ニーズ
が拡大し続ける社会と歩調を合わせてサービス
が「生きて」いくには、サービスは常に学習と変
化を繰り返しながら、消費者のニーズをシーム
レスに満たす必要があります。これからのサー
ビスは消費者のニーズに合わせてリアルタイム
に統合され、消費者の暮らしの一部となり、
さま
ざまな方法とタッチポイントで活用されるように
なるのです。
大切なのは、中核的なサービスやユーザー体験
の進化だけではありません。サービスの外にも
目を向け、必要に応じて変化を遂げたり、他のサ
ービスとつながったりしなければなりません。そ
のために重要なのが、
これらを可能にする設計
です。
リビングサービス
75
リビングサービスにおけるデータの
活用
せん。最初のコンセプトの段階から、設計と行動データを
データはいわば、
リビングサービスの血液です。オックスフ
そのためには、
カスタマー・ジャーニーのすべてのプロセス
ォード大学の情報哲学および情報倫理学教授のルチアー
ノ・フロリディは、
著書
『The
4th Revolution(4度目の革命)』
の中で次のように指摘しています。
「ICT(情報通信技術)の
世界では少々矛盾した言い方だが、
コンピュータがコンピ
ューティングを行っていないこと、電話が電話をしていな
いことを忘れてしまいがちだ。コンピュータやスマートフォ
ン、
タブレットなどICTの生んだモノが行っているのは、
デー
タ処理なのである」
消費者のために絶えず調整される生きた体験を創出する
には、データの収集・分析・活用が欠かせません。消費者自
身と、彼らがサービスを利用する環境という2つのデータ
源から得たデータを活用します。
融合させる革命的な設計能力が必要です。
を念頭に置いた上でサービスのあり方を検討しなければ
なりません。想像し得るすべてのチャネル、
タッチポイント、
スタート/エンドポイント、利用状況、並行してあるいは補
足的に利用されるサービス・オプションといった要素を考慮
することが重要です。
このアプローチにおいて特に大切なのが、顧客の微細な
行動/嗜好データを獲得する方法を確立することです。こ
れにはまず、組織内のすべての部門がそれぞれ保持してい
る顧客データを解放し、すべての部門で共有できるように
しなければなりません。
サービスの利用履歴に基づいた行動データをトラッキング
する一方で、設計者はダイナミックサービスの基礎の 1つ
現代のつながった暮らし、ニー
ズが拡大し続ける社会と歩調を
合わせて、消費者のニーズをシ
ームレスに満たすためにサービ
スが「生きて」いくには、サービ
スは常に学習と変化を繰り返す
必要があります。
となる、社外のデータソースについても活用を検討する必
ダイナミックなサービスの設計には、下記 2本の柱が必要
ルタイムに組み合わせられるかどうかが、企業と消費者の
です。
自然な対話を実現する鍵を握ります。
1.
データを念頭に置いた設計
また、サービスを形成するコンテンツの構成要素とクリエ
リビングサービスに必要なのは、一定のオプションや機能
わせて、要素を迅速に組み合わせて提供できるように、小
をベースとした視野狭窄的な設計アプローチではありま
76
リビングサービス
要があります。たとえば、消費者の検索エンジンの履歴、製
品の選好と価格比較行動、旅行のパターンと主な旅行先、
関心事とソーシャルメディアの利用履歴、人口動態も踏ま
えた個人属性などを考慮することが重要です。
これらのプロセスを経ることによって、消費者が「自分の意
向を正確に読み取ってくれている」
と感じられるような体験
を、企業は提供できるようになるのです。
消費者の行動データを分析して、
プロフィールデータに継
続的に追加し、それらの情報と適切なコンテンツとをリア
イティブ・デザインは、消費者一人ひとりの異なる反応に合
さな単位へと分解できなければなりません。人と人との会
話のように状況が刻々と変わるようなサービスにおいて
この場合、サービスは第三者の中から適切なオープンAPI
は、状況をすぐに分析し、自動的に柔軟に構成要素やデザ
を探して採用し、自身のサービスに統合する必要がありま
インを組み合わせて反応することが非常に効果的です。こ
す。そのオープンAPIの普及が拡大傾向にある現状からす
うして設計者の役割は根底から変化します。設計者の仕事
ると、統合する第三者サービスを検索できるような仕組み
は「体験を」デザインするのではなく、
「体験のために」デザ
が望ましい手法ですが、暫定的には、パートナーを見つけ
インすること―すなわち、
監督ではなく演出家となるのです。
て提携サービスを作り出す方法でもよいでしょう。
2.
継続的なサービス変更
リビングサ ービスに必 要 な の
は、固定の選択肢や機能を前提
とした視野の狭いサービスデザ
インのアプローチではなく、一
からあるべき姿を描くことが で
きる革 命 的な設 計 能 力です。
従来のサービスは、外界の変化が顧客のサービス体験に
影響を及ぼし得ることを考慮せず、サービスは想定された
状況の中で提供されるという前提で設計されてきました。
真に効果的なリビングサービスを展開するには、我々の住
む世界が直接サービス体験に影響し、
サービス自体を形作
っていくように設計する必要があります。そのためには、サ
ービスはそのサービスが提供する主要な価値に関わるこ
とだけではなく、消費者のサービス利用方法や、消費者と
サービスの関係性といったデータを収集するように設計さ
れる必要があります。
消費者がどういう時に、
どのような場所からサービスにアク
セスし、利用するのかというサービスの利用情報の一つ一
つにしっかりとタグを付け、情報を活用することで消費者を
第一歩としての例の 1 つが、ヘアケアブランドPantene の
「Beautiful
Hair Whatever the Weather(どんな天気で
も美しい髪を)」キャンペーンです。消費者が天気に起因す
る髪の悩みを解消できるよう、地域別に天気予報ならぬ「
髪予報」を行い、その日の天気に最適なPantene製品を推
奨します。このように、
プログラムが消費者に自動的に最適
理解することができます。
なサービスを提供するプログラマティック・マーケティング
たとえば、消費者が置かれた状況を取り巻く情報を理解す
リビングサービスを適合させていくことが可能です。
ることが重要です。消費者が今いる位置や、その消費者が
旅行者なのか住民なのか、店舗からどのくらい離れた場所
の領域では、
個人の嗜好や状況に合わせて絶えず自動的に
米国で初めてプログラマティック・マーケティング・プラット
にいるのか距離、あるいはその日の天気などの情報です。
フォーム
(PMP)
を導入したChangoをはじめとする企業は、
同時に、提供するサービスのコアな価値を拡充する、
また
タイムで分析し、
カスタマイズされたマーケティング・キャ
は消費者とつながるきっかけを作るような第三者サービス
を探し出し、消費者に勧め、消費者と結び付ける必要があり
ます。前述の通り、
これはサービスの遍在化であり、第三者
を通じて自社のサービスが中立的なものとして消費者に
個人別にまで詳細化された消費者の行動データをリアル
ンペーンを展開しています。ソーシャルメディアや小売店、
デジタルディスプレイをまたがった、行動ターゲティングは
まだ発展途上ではありますが、
リビングサービスをいかに
して最適化できるか、
企業が学べる部分は多いと言えます。
提供されることになります。
リビングサービス
77
プログラマティック・テクノロジーは、
どの消費者がどのよう
富んだダイナミックなインターフェースを自然なものとし
な行動を取るか、企業からのどのようなメッセージに興味
て受け止めるのではないでしょうか。
を持つかなどをリアルタイムで分析することを可能にしま
す。匿名の消費者一人ひとりについてカスタマー・ジャーニ
彼らにとっては部屋や環境がインタラクティブなのは当た
ーをモニタリングし、その消費者が目にするメッセージや
り前です。ある環境から別の環境へ変わっても、
コンテンツ
情報を記録して、究極的にはその消費者がブランド・キャン
やインターフェースに途切れること無くスムーズに接続で
ペーンに対してどのような関わりを持ったかを把握できる
きるダイナミック・インターフェースを望むでしょう。
テクノロジーです。
現在使われている機械的インターフェースの中には、市
アド・テクノロジー企業のConversant
Inc.は、オンライン行
場から消え去りナチュラル・ユーザー・インターフェース
動データをオフラインのCRM(顧客関係管理)データと統
( NUI )に取って代わられるものも出てくるでしょう。自分
合することによって、
より包括的に消費者の嗜好や行動を
自身の体の一部や自分の遺伝子情報を用いて、より効率
把握する技術を開発しています。
的かつ直感的に操作や作業を終えられる時代がやって来
人間の体を使ったコントロール
変化を前提としない静的な設計から、個人データや分析を
基に絶えず変化する動的な設計への根本的なシフトと並
行して、デジタルサービスへの物理的なアクセスやインタ
ラクション方法にも、大きな変化が訪れると考えられます。
この変化により、デジタル・インタラクションは従来の無味
乾燥で機械的なものから、
より一層有機的なものへと進化
するでしょう。ライフスタイルを中心とした、
より自然に我
々の日常の行動に溶け込んだものへと変わるはずです。
たとえば、すでに私たちはマウスをはじめとしたポイント&
クリック式のデバイスから、タッチスクリーン式への変化
を体験しています。スクリーンは今後ますます私たちの
生活に入り込んでくると同時に、体の一部をコントローラ
ーおよびインターフェースとする機会も増えると考えら
れます。
生活の一部として複数のインタラクティブ・タッチスクリー
ンに慣れ親しんできた子供たちは、スピーディで反応性に
78
リビングサービス
るのです。さらに展開すれば、人間の体を使ったコントロー
ルはやがて設計プロセスの必須要素の 1 つとなるはず
です。
人間の体をコンピュータもしくはデバイスとして考えてみ
てください。デバイスの処理能力と言われると、
まずはデー
タをアップロード/ダウンロードする時間を思い浮かべる
と思います。体についても同じように考えてみましょう。最
もスピーディかつ確実に人の体と情報をやりとりするには、
どうすればよいでしょうか?
信頼性は重要な要素の1つです。携帯電話で接続が切れた
ときに、かけた人も受けた人もイライラするのと同じよう
に、体からのデータが失われれば、明確な分析が妨げられ
ることになります。
もう1つの検討要素が、状況に即した最適な情報のインタ
ラクション方法は何かという点です。体に情報を取り込む
方法は多数あります。耳を介して聴覚で、目を介して視覚
で、あるいは振動でも情報を取り込むことができます。体
を通じた情報のアップロード/ダウンロードスピードはも
MC10のBioStampは、個人のIDを認証できるフレキシブル・マイクロプロセッサです。
ちろん重要ですが、
これが唯一の検討要素ではありませ
できます。Touch
ん。消費者の置かれている状況にあっているか、方法は適
テムApple Payにもセキュリティ機能として導入されていま
切かという点も考慮に入れる必要があります。たとえば、運
す。iPhone
転中に複雑な視覚的指示を与えるのは、運転手の注意力
バイスをモバイル・ウォレットとして使うことが可能です。店
を削いでしまうので望ましい方法ではないでしょう。また周
頭では、Touch
りの誰にでも聞こえるような音声でのフィードバックは、会
ーにかざすだけで支払いができます。
IDは、Appleの新しい非接触型決済シス
6はNFC(近距離無線通信)を搭載しており、デ
IDで指紋認証し、iPhoneを非接触型リーダ
議中にはふさわしくありません。
先駆的な企業はすでに、人間の体を活用して消費者と企業
Philips、Emotiv、アクセンチュア、Fjordの4社は、協働によ
り、ALS( 筋萎縮性側索硬化症)などの神経変性障害を患
のインタラクションを合理化し、そこに付加価値を生み出
う患者が、家庭内の環境やスマート製品を脳からの指令
す方法はないかと模索を開始しています。PayPalはクレジ
やウェアラブル・テクノロジーを使っていかにして制御でき
ットカードに顔認証システムを組み合わせ、お財布不要の
るか実証テストを行いました。脳波(EEG)検知ヘッドセット
決済を可能にしました。MC10のBioStampは個人のIDを認
証できるフレキシブル・マイクロプロセッサです。iPhone
は生体認証システムのTouch
「Emotive
Insight」を基に開発されたコンセプトモデル
6
では、脳からの指令や顔の微細な表情、感情などをヘッド
IDを改良し、ユーザーが複数
セットで 検 知 することにより、ユ ー ザ ー は 脳 から 指 令
の指紋を登録できるようにしました。ユーザーはパスワー
ドの代わりに指紋を使って、デバイスのロックを解除した
Lifelineメディカ ルアラ ート・サ ービ
ス 、Philips Smart TV、Philips Hueパーソナル無線照明シ
り、iTunes
ステムを含むPhilips製品を制御することができます。
Store、App Store、iBooksでの 買 い 物をしたり
することでPhilips
リビングサービス
79
さらに今、想定外の方法で個人データが測定される時代に
たとえば、スマートカメラ付きの鏡は顔と毎日の体の変化
突入しようとしています。たとえば、皮膚科医はスマートフ
から多くの健康データを迅速かつ適切に収集することがで
ォンの写真から診断を行うことが可能になりました。
きるでしょう。適切なサービスインターフェースを設計する
ためには、インターフェースのユーザビリティーだけでは
人の体を使ったインターフェースの設計においては、
ウェ
なく、人の体を通じた適切な情報のやりとりを考える必要
アラブルやリストバンド、
アミュレットといったデバイスでは
があります。
なく、それらのデバイスを介して提供するサービスについ
てまず考えるべきです。その際に鍵を握るのは、
「サービス
たとえば、Googleは Google
Glassの設計において、最も
を実用的なものとするためには、人体からどのような情報
素早く情報を取り込む方法として視覚を、最も素早く情報
を獲得すればよいか?」
ということです。
を取り出す方法として音声を採用しています。対照的に
adidasは、アスリート向けのmiCoach Smart Runウォッチ
で、触覚テクノロジーを採用して、個々のトレーニングに最
適な各種アラートを発します。
miCoach Smart Runは、1kmを走り終えたところで振動
を発してユーザーに知らせ、時計を見るしぐさに合わせ
て、1km走るのにかかったタイムをディスプレイに表示しま
す。視覚的な機能は心拍数の測定にも最適化されており、
ユーザーはディスプレイ上の表示色から現在の心拍数が
ランニング時に最適かどうかを判断できます。また、同製品
は、
より複雑なトレーニングの際のコーチ用音声として、五
輪 7 種競技チャンピオンの Jessica
Ennis-Hillなど、有名ア
スリートの声を使っています。
人の皮膚や目、
脳はナチュラル・ユーザー・インターフェース
(NUI)
として脚光を浴びるでしょう。またボディランゲージ
は、今後ますますサービス設計の1要素として重要性が増
していくはずです。特にスクリーンとスクリーンのないモノ
が混在する環境では、その傾向が高まるでしょう。
adidasのmiCoach Smart Runは、触覚テク
ノロジーを採用したアスリートのための
腕時計です。
80
リビングサービス
人から機械へのボディランゲージ
触 れることで、身 体を通じて反 対 の 手に持っている携
かつてPCやラップトップ、携帯電話の台頭は遠隔通信に革
リを 開 い て お け ば 、包 み の 中 身 や 販 売 期 限 、使 用 方
命を起こし、
ボディランゲージの重要性は一見低下してい
ました。
しかし、人と人が顔を合わせた状況では、会話や文字がよ
り高度ではあるものの、
ボディランゲージは意味を伝えた
り、強調したりするには不可欠なものです。文化的な相違
はあるものの、世界中のすべての人が意識的に、あるいは
無意識のうちにボディランゲージを通して他者を「理解し
て」います。ナチュラル・ユーザー・インターフェース
(NUI)
の利用と並行して、
ボディランゲージはサービス設計にお
いて重要な要素となっていくはずです。
具体的なボディランゲージの活用手法として、以下の様な
手法が考えられます。
ジェスチャー
帯 電 話やタブレットに情 報が送 信されます。対 応アプ
法 など、必 要 な 各 種 情 報を確 認 することができます。
ジェスチャー・テクノロジーは、すでにReemoなどの企業が
製品に組み込んでいます。Reemoはいわばリストバンド型
のマウスで、ユーザーは照明からキッチン家電、
ブライン
ド、
コンピュータなどReemoに接続されたモノをジェスチ
ャーで制御することができます。
その他の例としては、Microsoft
Kinectセンサーを開発し
たPrimeSenseもジェスチャー・テクノロジーを採用してい
ます。同社のセンサーは現在、2,000万種類以上のデバイ
スに組み込まれています。PrimeSenseは2013年にApple
に買収され、
ジェスチャーで操作可能なApple TVを開発中
と噂されています。
このようにジェスチャー・テクノロジーが一般化するに
私たちが気づいているかは別として、
ジェスチャー・テクノ
つれ、
「ジェスチャー同士の干渉」の問題も浮上してきまし
ロジーは身近で使いやすい技術として浸透しつつありま
た。技術の普及に伴ってジェスチャー・インターフェースの
す。たとえば、
センサー付きの蛇口はこの技術を用いたも
数が増加すれば、ユーザーの動きが想定外の動きを誘発
のです。ジェスチャー・テクノロジーは大きな可能性を秘め
するといった、混乱が生じる可能性があります。
ています。便利であれば、人々はほとんど気が付かないう
ちに利用するようになり、暮らしの中の小さな障害をなくし
さまざまなインタラクションやデバイスに採用されるジェ
てくれます。
スチャー認識に、現在のところ標準フォーマットはありませ
ん。他のさまざまなインタラクションを見れば分かるよう
ジェスチャーは、家庭において、より活躍するでしょう。
に、標準は徐々に浸透していくものです。たとえば、
カセット
たとえば、ジェスチャーによって音楽をかけたり、照明を
テープ・プレイヤーで最初に採用された再生/巻き戻し/
調節したりすることが可能です。Ericsson の Connected
停止ボタンは、今では誰もが知る標準的なインタラクショ
Paper は 、パッケ ー ジ や 包 み に 回 路 や 小 型 バッテリ
ンとなっています。
を 低 コ ストに 印 刷 で きる 技 術 で 、印 刷 さ れ た 包 み に
リビングサービス
81
ジェスチャーの干渉が起こりやすい領域は3つあります。1
ーを使うべきか、自動車メーカーのジェスチャーを使うべ
つは、大手テクノロジー企業間の競争です。ユーザーの標
きか、個々のジェスチャーが異なる意味を持つ場合には、
準的な操作方法としてジェスチャーを組み込むケースが増
頭を悩ませることになります。
えた場合、誰が真っ先にジェスチャーを組み込み、手振りを
停止ボタンのようなシンプルなコマンドとして自社だけの
3つ目は、文化間によるジェスチャーの違いです。ある文化
ものにするかという問題です。
では有効なジェスチャーが、別の文化ではそうではない場
合があります。開いた手のひらのアイコンは「決済中」を意
2つ目は、実際の使用に消費者が使用するシーンにおいて
味しますが、
アラブ圏で開いた手のひらと言えば「物乞い」
です。テクノロジー企業間で違ったルールのジェスチャー
するときの動作です。ジェスチャー・テクノロジーは、企業が
を採用していると、
ユーザーにも大きな不便が生じるでしょ
ブランド名を決めるときと同じような、異文化間の問題を
う。たとえば自動車に乗り込んでから、Spotifyのジェスチャ
引き起こすのです。
意図を伝える設計
私たちは日常のインタラクションにおいて、互いの意図を
伝えるために多種多様なさりげないジェスチャー、あるい
は合図を用いています。物理的な世界をスムーズに生きる
上で、意図を伝えるユーザーインターフェース
(UI)
は極め
て重要な役割を担っています。
ロボットや自動車といったモノのスマート化が進むにつれ、
私たちはそれらのモノの意図を理解し、モノは私たちの意
図を理解する必要が生じてきます。この問題は、デバイス
の自律化に伴ってさらに大きくなっていくでしょう。たとえ
ば自動運転車の場合なら、交差点で立ち止まる歩行者はど
うすれば、
自動運転車が交差点に入る手前で一時停止して
くれると判断できるでしょうか。優れた設計がなければ、歩
行者は自動運転車の意図を理解できないし、歩行者の意
図を自動 運 転 車が理 解してくれるかどうかも分かりま
せん。
Withings Wi-Fi Body Scaleは、
オープンシステムの一例です。
82
リビングサービス
ある文化では有効なジェスチャ
ーが、別の文化ではそうではな
い場合があります。
ここで鍵を握りそうなのが、機械から人に向けたシグナル
発信です。Rethink
RoboticsのRodney Brooksはこの問題
の解決に向け、自作のロボットにグラフィックな目を搭載し
ました。目の動きで人間に意図を教えるのが目的で、たと
えばロボットが左を見ることで人間に「左に動きます」
と伝
えることができます。このロボットは、棚への陳列のような
簡単な動作を自動でできますが、その際の動作も目の動
きで人間に伝えます。ロボットには大きくて重たい腕がつ
いており、動いたときや腕を動かしたときに、周囲の人間に
けがをさせる恐れがあるからです。
表情の伝達スピード
これは技術面の課題であると同時に、設計面の課題でもあ
ります。とはいえ設計段階でモノの人間化が進むほど、ユ
ーザーはモノに対し、人間と同じスピードで反応することを
期待するようになるでしょう。
新たなインタラクション・パラダイムは、ユーザーが求める
シンプルかつ自然なものであれば、広く普及するはずで
す。
しかし企業はあくまで慎重に、進化の余地があるシステ
ム、他社のシステムと協調/協働できるシステムを選ばな
ければなりません。よりスマートでより速い設計がなされ
たサービス・ソリューションであっても、ユーザーがサービ
ス企業ごとに固有のジェスチャーをいくつも学ばねばなら
ないとしたら、普及は期待できません。
さらに言うと、残念ながら現在のテクノロジーや製品の多
くは閉じたエコシステムの中でしか機能しません。ユーザ
ーのエクササイズをトラッキングするシステムNikeFuelが
その例で、Nike製のデバイスにしか使えない仕組みです。
人間は誰かと話すとき、相手の表情を読み取ろうとします。
これらのテクノロジーが持続的な成長を遂げるには、
オー
表情を見ると同時に、その意味を読み取ります。
プンシステムと、新たな標準を基盤とした開発環境が不可
欠でしょう。Withings
Wi-Fi Body Scaleはオープンシステ
周囲の環境に埋め込まれたモノとインタラクションするよ
ムの例です。ユーザーの体重と体脂肪を測定する同デバ
うになり、そのプロセスがより人間的になるにつれ、私たち
イスは、サードパーティのフィットネス・アプリMyFitnessPal
はモノのスピードの遅さを許容できなくなっていきます。
も同期できるので、
アプリ内でユーザーの体重を自動的に
コンピュータのボタンを押した後の待ち時間に耐えられる
更新できます。
のは、相手が機械であって人間ではないからです。たとえ
ばAppleはコンピュータが「考え中」であることをユーザー
に伝えるアイコンをスクリーンに表示することで、待ち時
間のイライラをできる限り軽減しています。
しかし私たち
が冷蔵庫と会話をし、ジェスチャーで指示を出すようにな
れば、人と人の対面でのスピードと同じ速さでの反応を期
待するようになるはずです。
消費者の状況に応じて柔軟に変
更することを前提とした動的な
設計と人と機械の間の物理的な
インタラクション、
リビングサー
ビスの時代が、すぐそこまでやっ
て来ているのです。
リビングサービス
83
消費者が望んでいるのは、複数のリビングサービスへのス
ムーズなアクセスを妨げるような、別々のOSによって分断
される未来ではありません。閉じたエコシステムとオープ
ンシステムの戦いは、
リビングサービスの普及速度を左右
する大きな要因となるでしょう。
企業は、複数のソースから得られるビッグデータを活用し
て、ユーザーとその行動をより深く理解し、彼らの暮らしを
補完し得るサービスを創出しなければなりません。変化を
前提としない静的なサービスの時代は、間もなく幕を下ろ
そうとしています。
消費者の状況に応じて柔軟に変更することを前提とした動
的な設計と人と機械の間の物理的なインタラクション、そ
してリビングサービスの時代が、すぐそこまでやって来て
いるのです。
84
リビングサービス
人間の精神構造にマ
ッチした設計
リビングサービスの設計で念頭に置かなければならな
いのは、データやテクノロジーを巧みに使って問題を解
決したり、時間を節約したりすることばかりではありませ
ん。設計者と開発者は、人が特定のシナリオにどのように
反応するかも考慮しなければならないのです。言い換え
るなら、
リビングサービスは人間の脳の働きを踏まえて
調整する必要があるのです。
経済学者ダニエル・カーネマンは2011年に発表した著書
『ファスト&スロー』の中で、意思決定と行動経済につい
て論じました。カーネマンの研究により私たちは、脳の働
きについて理解を深めると同時に、
リビングサービスの
設計に影響を及ぼし得る重要な知識を得たのです。
同著の最も重要な知見は、人の思考には「自動システ
ム」
と
「制御システム」の2種類あるという指摘です。これ
らの「仮想システム」を理解することは、人間の思考のメ
カニズムを理解することに役立ちます。
「2×2は?」
「フランスの首都は?」といった簡単な問題に
対して、私たちの脳は極めて迅速に反応します。答えを
導き出すのに、脳を制御する必要はありません。従って
これは「自動応答システム」に基づく思考です。
ところが「24×17は?」
という問題では、私たちの脳はまっ
たく異なる思考回路へとシフトします。これが「制御シス
テム」です。
「自動システム」は、
メンテナンスが簡単なランダムアク
セス・メモリであり、ほとんど制御せずとも継続的に稼働
しています。従って、2つの事柄(例:バットとボール)の間
にある関係性を学んで、直ちに記憶として呼び出すこと
ができます。対する「制御システム」は、自動システムで
答えを持たない問題が生じたときに、初めて稼働します。
このような思考体系にはいくつかの問題点があります。
なりますが、そもそも注意力には限界があるという点で
す。制御を要する行動では、互いの干渉も生じます。よっ
て、
「制御システム」でのマルチタスクは非常に難しいと
言えるでしょう。
第2に、人の脳が「制御システム」を避けて、なるべく
「自
動システム」を使おうとするという点です。要するに私た
ちの脳は怠惰にできているのです。既知のパターンであ
ると脳が認識すると、
「自動システム」が回答を呼び出そ
うとします。
しかし私たちの直感は、間違いであることも
多いのです。
カーネマンの知見は、効果的なリビングサービスの創出
を目指す設計者にも、大きな意味を持っています。設計
者は、人がどちらの思考モードでサービスにアクセスし
たり、
インタラクションを試みたりするかを考えなければ
なりません。たとえば人は、
自動車の速度計を見るときは
「自動システム」を、パスポート申請を行うときは「制御
システム」を使います。
「自動システム」を基盤とする設計は、腕時計のように
一目で分かること重要です。インフォメーショングラフィ
ックスやデータの分かりやすい可視化によって、たとえ
ば月極めモバイルプランの利用可能データ量や、月末ま
での残り日数などの計測値を簡単に伝えることが可能
です。一方、
「制御システム」を基盤とする設計では、直感
的な思考とは異なるモードにユーザーがシフトしている
点を考慮しなければなりません。
設計者はまた、消費者が思考モードをシフトする選択肢
にどこで遭遇するか、その選択に合わせてどう対応させ
るべきかを理解する必要もあります。
私たちの脳は、脳による制御を必要とする「制御システ
ム」を避けようとする傾向があります。従ってリビングサ
ービスは、
自動応答が可能な「自動システム」
との連動を
できる限り目指すべきでしょう。もちろん常に可能なわ
けではありません。従って「制御システム」に頼らなけれ
ばならない場合、
リビングサービスはユーザーに考える
ことを要求してしまいますが、同時に、その要求に対する
報酬も提供するべきでしょう。
第 1に、
「 制御システム」の下では脳の注意力が必要に
リビングサービス
85
07
プライバシーと倫理の問題:
刻々と変化する価値観への対応
データ・プライバシー:
パワーバランスのシフト
データ・プライバシーに関する懸念、
とりわけデ
ジタルサービスおよび通信サービス事業者によ
る個人情報の利用は、現代における最大の課題
の1つです。
複数のリアルタイムな個人データをサードパー
ティ・データと統合して活用するリビングサービ
スは、当然ながらプライバシーや倫理の問題を
避けて通ることができません。個人データとい
う極めて機密性の高いデータを誰が所有し、誰
が利用するのか。デジタルで接続され、
追跡され
る現代のライフスタイルにおいて、個人や企業
はどのような倫理観念を持つべきなのか疑問は
尽きません。
アクセンチュアによるデータ・プライバシーに
関する最新の調査では、20~ 40 歳の消費者の
80%が、完璧なデータ・プライバシーはもはや存
在しないと考えていることが分かりました。さら
に全体の約半数(49%)は、購入行動がトラッキ
ングされても、それが企業やサプライヤーから
の適切なオファーにつながるのであれば問題な
いと回答しました。
一方で、企業によるプライバシー保護活動につ
いて、消費者が不十分だと見なしていることも
ル・テクノロジーの活用が有益な取引につながる
ことを認めています。
しかし、個人情報の利用方
法について不透明感があると回答した人が全体
の70%、個人情報の保護策が十分ではないと回
答した人が87%を占めます。
Fjordは、リビングサービスが消費者の企業への
交わり方に劇的な変化を起こすとみています。
たとえば消費者が、いつ、
どの程度まで、個人情
報を企業と共有したいと思うか、個人データに
基づいてサービスを受けたいと思うか、
といっ
た面で変化が起こるはずです。
現在、企業と消費者間の情報のやりとりは、企業
側によって管理されています。消費者である私
し
たちは、企業の Facebook ページで「いいね!」
たり、Twitterでフォローしたり、
オンラインショッ
プで買い物をしたりと、自ら起業側に歩み寄る
必要があります。その際、
プライバシーやデータ
の共有の可否も自ら選択しなければなりません
が、
たいていの場合、共有の是非をゆっくり検討
する時間はありません。つまり私たちはプライ
バシーと引き換えに利便性を得ているのです。
リビングサービスの到来は新たな時代の幕開け
を告げます。この新たな時代において、
サービス
は消費者を中心として成長/進化し、我々消費
者に脚光を当て、我々が暮らしやデータやプラ
イバシーを今以上に大切にすることを可能にす
るのです。
同調査で明らかになりました。消費者は、
デジタ
リビングサービス
87
2014年に、欧州連合司法裁判所が検索エンジンに対し、EU
受け入れるでしょう。ただし、そうでない企業は、消費者を
市民の過去の個人情報へのリンクを検索結果に表示しな
保護する自動システムや、消費者自身がオンライン上で選
いように命じた判決(忘れられる権利)は、データをめぐる
択することによって排除されるはずです。
パワーバランスがシフトしたことの一例と言えるでしょう。
顧客と一対一の関係を上手に築ける企業は、顧客からの信
アクセンチュアによるデータ・プラ
イバシーに関する最新の調査で
は、20 ~ 40 歳の消費者の 80%
が、完璧なデータ・プライバシー
はもはや存在しないと考えてい
ることが分かりました。
消費者が企業を理解しようとする動きから、企業が消費者
一人ひとりを理解しようと努力する動きへとシフトし始め
ています。
現状とは反対に、企業が顧客をFacebookやTwitterでフォ
ローする時代が来たらどうなるでしょうか。実際そのような
時代はすでに到来しつつあります。事実、企業はソーシャル
メディア分析を行い、調査や直接市場へ影響を与える目的
でインフルエンサーを識別しています。こうした試みはプ
ライバシーの問題をはらむかもしれません。
しかし、私たち
はすでに現実社会やオンライン上の自らのプロフィールに
おいて、公開したい情報とそうでない情報の選別をしてい
るのです。
従って、私たちがプロフィールを自ら管理し、
どの程度自身
を企業に認知させ、
どの情報を企業と共有するか判断する
ような段階へ進むことは、さほど大きな変化とも言えませ
ん。友人知人と同様、私たちのことを知ろうとし、適切に行
動し、むやみに境界をまたいだりせず、共有可能な情報の
限界を尊重してくれる企業であれば、私たちは生活の中に
88
リビングサービス
頼を勝ち取って、たとえばホーム・セキュリティや旅行予約
の手配を行える特権が得られるでしょう。そうした関係を効
果的に築けない企業、あるいは過度の情報交換を求める
企業は、
これらの特権を得ることなく、顧客を失うでしょう。
消費者に個人情報を管理する権限を与えた場合に得られ
るビジネスチャンスは、近年になってますます注目されるよ
うになりました。従って、消費者へのパワーバランスのシフ
トは今後勢いを増していくはずです。
事実、
スタートアップ企業では、消費者との情報交換のあり
方を見直す動きが盛んになっています。たとえばGhostery
は、オンライン上で消費者をトラッキングする企業を消費
者が自らモニタリング/ブロッキングできるサービスを提
供し、ユーザーは自身の個人データを今まで以上にしっか
りと管理できます。Safeplugによる同様のサービスは、自
宅のウェブルータに専用デバイスを設置し、
インターネット・
トラフィックを匿名ネットワークを経由させることにより、
ウ
ェブ閲覧情報をプライベート化するものです。
大手企業においても、消費者による個人データ管理への
ニーズに応えようとする動きが出てきました。通信会社の
Verizonは先ごろ、Smart Rewardsプログラムを発表
しました。同社パートナーによるターゲット広告において、
位置情報、
ウェブ閲覧、モバイルアプリ利用などのデータ
を顧客の同意のもと収集して用いるプログラムです。デー
タの共有に同意した顧客は見返りとして、
さまざまなブラン
ド製品や26,000 軒のホテルの割引サービスを得ることが
できます。一方、小売スタートアップであるSwarmは店頭
Wi-Fiを用いて消費者のインターネット活動を追跡し、消費
者による価格比較やショールーミングを防止しています。
見返りとして同社は消費者に、無料Wi-Fiとウェブブラウザ
スマート端末の利用に関して行われたAcquity
を介してリアルタイムで各種クーポンや割引を提供してい
る最近の調査でも、暮らしをさらに合理化し得る通信デバ
ます。
イスの普及について、
プライバシーへの懸念が大きな障壁
実質プライバシーと知覚プライバシー
デジタルサービスをめぐるプライバシーの取り扱いに苦慮
している企業は、デジタル・ソリューションが消費者に大き
なメリットをもたらす一方で、デメリットも内包している事
実を忘れてはなりません。たとえば、
スマートフォンのGPS
機能はA地点からB地点への移動に革命をもたらし、
道に迷
う可能性をほぼなくしました。
しかしGPS機能がユーザーの知らないうちに、あるいは許
可を得ずに位置情報を収集すれば、
消費者は実質的なデメ
リット
(身の安全やセキュリティへの懸念)
や、感覚的なデメ
リット
(プライバシーの侵害への懸念)
を感じます。よって、
文脈に応じて適切なサービスを提供するには、1つの方程
式を常に念頭に置く必要があります。すなわち、
メリット
(
利便性、自動化、喜び、美、新たな視点など)が、必ずデメリ
ット
(個人情報を自ら管理できないこと、
プライバシーの欠
如、不安、懸念など)を上回っていなければならないの
です。
ミレニアル世代のプライバシー
感を踏まえると、企業が重視す
べきは、
「個人情報やプライバシ
ーをどのように尊重するべきか」
よりも、
「どのようにして彼らを
知るべきか」でしょう。
消費者は、革新的デジタルサービスのデメリットを著しく懸
念しており、
この懸念が、
リビングサービスの成功を妨げる
Groupによ
となることが明らかになりました。米国の2,000人以上の消
費者を対象に実施された同調査では、全体の 23%がプラ
イバシーへの懸念を理由に、家庭用のスマート端末を購入
したことがないと回答しました。また全体の 19%は同じ理
由から、
ウェアラブル機器を購入したことがないと答えて
います。
その他の調査などでも、通信機器やスマート端末に関する
プライバシーについて、消費者が懸念するのは当然と言え
る結果が出ています。
HPのFortifyセキュリティ部門が家庭用のアプリ管理型デ
バイス10 種類(スマートTV 、スマート・サーモスタット、家
庭用アラームなど)を対象として行った最近のレビューで
は、10種類すべてにハッキングにつながり得るセキュリティ
上の欠陥が見つかっています。BBCも先ごろ、
スマート・ガジ
ェットに関するテストを実施しました。ベビーモニターやス
マートTV、Wi-Fiカメラなどの通信機器を家庭に設置し、
コ
ンピュータ・セキュリティの専門家がハッキングを試みたと
ころ、全アイテムともハッキングできたと報告されてい
ます。
新たなデジタルサービスのメリットが常に実質的/知覚的
デメリットを上回ることを消費者に確約するに、企業は何を
すればよいのでしょうか?Fjordでは、2つの方策を提唱して
います。第1の方策は、以下を改善することによる、
リビング
サービスの暗黙的デメリットの軽減です:
・透明性:消費者に個人情報がどう扱われているかを伝える
・自律性:消費者に個人情報を管理させる
・安全性:個人情報を扱うデバイスネットワークの欠陥を
なくす
最大の障壁の1つとなると考えられています。通信機器や
リビングサービス
89
第2の方策は、以下の改善をすることによる、
リビングサー
デジタルなサービス体験を台無しにする、以下のようなさ
ビスの明確なメリットの拡大です:
さいな誤解や失敗は、
すでに数多く見受けられます。
・パーソナライゼーション:消費者を中心としたサービスを
・ 行動 履 歴の分析データだけをベースに考えた結果、
創出する
・適応:外的要因の変化を理解してサービスをカスタマイ
ズする
・自動化:消費者が感じる不要な負担を取り除く
「不気味の谷」現象を回避する
デジタルサービスの設計者にとってのもう1つの課題が、
「不気味の谷」現象です。ロボット工学者の森政弘が提唱
したこの概念は本来、人とロボットのインタラクションを対
象としたものですが、
リビングサービスにも当てはめること
ができます。
森氏の提唱する理論は、次のようなものです――ロボット
がより人間らしくなるにつれ、
ロボットへの好感性や共感性
は高まるが、ある時点でロボットが境界線を越えて人間に
近くなり過ぎると、嫌悪感を抱くようになる。ところが、
ロボ
ットの外観が人間から再び遠ざかると、
ロボットへの好感性
や共感性も再び高まる。
以上の理論からリビングサービスの設計者は、消費者が容
認できる限界を把握する必要があると言えます。サービス
として何ができるかではなく、消費者の視点で何をするべ
きかを把握する、
と言い換えてもいいでしょう。人間は、知
られ過ぎることを嫌い、不気味だと感じます。実用的なデ
ータ分析のみを基盤とした設計は、文化や気分、エチケッ
ト、意外性といった人間ならではの特質を考慮することが
できません。これらの特質を考慮しようとすれば、確かにリ
ビングサービスの設計は一層難しくなります。
しかし考慮し
なければ、人々に不快感を与える体験を創出することにな
るでしょう。
90
リビングサービス
消費者のニーズを誤解してしまう。たとえば、1週間前の
同じ時間にランニングに出かけたというデータに基づい
て、夜更かしした挙句に早朝ミーティングが待っていると
ころへ、今からランニングに出てはどうかと勧める。
・サービス設定時の最初の決定に基づいて他のオプショ
ンを除外してしまう、あるいは、後から別の選択をしても、
最初に選んだオプションやロケーションに毎回設定して
しまう。消費者の承認を得ずに、勝手に消費者の代行を
してしまう。たとえば、勝手に企業やソーシャルメディアと
情報を共有する、文脈に合わないメッセージや意見を勝
手に使うなど。
「同意する」ボックスにチェックマークが付
いていても、常に承認するというわけではないのです。
・消費者の文化的/社会的関係を誤解してしまう、ある
いは、消費者の日常生活や考え方を踏まえずに不適切な
製品などを薦めてしまう。
・求められてもいないのに、助言を与えてしまう。
基となるデータや選好情報がごくシンプルな場合でも、
こ
れらの落とし穴は十分に深いと言えます。プライバシーに
踏み込み過ぎていると消費者が感じるほど多くのデータを
基に設計されたサービスだと、穴ははるかに深くなるの
です。
私たちの暮らしの細部をトラッキングし、
モニタリングし、学習できるサービスは増加しています。企業やサービス設計者は、そうしたサー
ビスをめぐる倫理的問題に適切に対応しなければなりません。
リビングサービスの設計者は、
消費者が容認できる限界を把握
する必要があります。サービス
として何ができるかではなく、消
費者の視点で何をするべきかを
把握する、と言い換えてもいい
でしょう。
いるはずです。つまり消費者は、
どのようなインタラクショ
ンが自分にとって価値あるものかを考える段階に来ている
のです。
リビングサービスがより一般化すれば、消費者保護団体や
政府機関はプライバシーをめぐる問題に注目せざるを得
なくなります。消費者自身がプライバシー/個人情報を確
実に行っていると自負していたとしても、企業はやはり、デ
ータの取り扱いにおける透明性と倫理性を適切に維持し
なければなりません。さもないと、
リビングサービスは規
制を受けて、普及することさえできないでしょう。とはいえ
そこには、
また新たなサービスのための隙間が生まれるか
端的に言うと、人は直感的で、感情的で、時に非合理的な存
もしれません。個人情報の重要性を認識した消費者に対し
在です。この事実を設計者は考慮しなければなりません。
て、情報が持つ商業的な価値と、
ブランドや企業との交渉
しかし、個人情報の管理権限が企業から個人へと移りつつ
方法を教えて、情報交換の代価として大きな見返りが得ら
ある今、消費者は、権利に責任が伴うことに気づき始めて
れるようサポートするようなサービスです。
リビングサービス
91
倫理的問題:
モチベーションか自由か
消費者のプライバシーは、文脈に応じたスマートなデジタ
ルサービスが引き起こす多種多様な社会的/倫理的問題
の1つの例にすぎません。私たちの暮らしの細部をトラッキ
を1つのモチベーションとして官民が個人に対し健康への
配慮を促すのはどこまで許されるかという問題もあり
ます。
2.
コネクテッドカー
ングし、モニタリングし、学習できるサービスは増加してお
Googleの新たな自動運転車のプロトタイプから、オランダ
り、
ブランドやサービス設計者はそうしたサービスをめぐる
政府の公道を使った自動運転車の試験プログラムに至る
倫理的問題に適切に対応しなければなりません。
まで、いまやコネクテッドカーは、長期的に社会と経済に激
業界・業種やデータの使い方により、問題点は異なります。
リビングサービスがすでに誕生し始めている3つの分野に
ついて詳しく見てみましょう。
1)健康&ヘルスケア
2)
コネクテッドカー
3)
コネクテッドホーム/ファミリー
1.
健康&ヘルスケア
Appleはウェアラブル分野および健康&ヘルスケア分野へ
の参入を、
Apple Watchおよび専用のヘルスケア・プラット
フォームであるHealthbookにより果たしました。同社の市
場参入は、
この分野の重要性の高まりを如実に示してい
ます。
調査会社の ABI
Researchは健康&ヘルスケア・ウェアラブ
ル端末の世界市場について、2017年までに端末数で1億
7,000万台に拡大すると推測しています。ウェアラブル端末
を使って自らの健康状態を管理する消費者が増えれば、保
険会社がそれらのデータを基に保険料を決めるようになる
のは時間の問題でしょう
(各市場における規制の課題は別
として)。ある消費者が端末のデータから健康かつ活動的
だと判断され、遺伝子的にも問題がなければ、いわゆるカ
ウチポテト族(ソファーから動かず、主にテレビを見て長時
間過ごす人)
よりも長生きする確率が高いと考えられるか
らです。この分野における最大の倫理的問題は、
「自身の
健康への配慮の度合いに基づいて保険料を算出する手法
を、社会が容認するかどうか」でしょう。また、保険料の軽減
92
リビングサービス
変をもたらし得るリビングサービス型のテクノロジーとし
て台頭しつつあります。自動車の分野では、運転中の行動
がさまざまなインセンティブをもたらします。
しかしながら
保険料については、望ましくない行動が事故につながり、
それによって費用が生じたり、過失が証明されたりした場
合に限って上がる仕組みとなっています。では、事故の発
生確率を高めるような望ましくない行動に基づいて、保険
料が上がる仕組みができたらどうでしょうか?
健康・ヘルスケア分野における
最大の倫理的問題は、
「自身の
健康への配慮の度合いに基づ
いて保険料を算出する手法を、
社会が容認するかどうか」。
5~10年後のシナリオを想定するのは難しくありません。
たとえば速度違反はいずれ、
カメラ式の違反取締装置に頼
らなくなるかもしれません。代わりに、テレマティクスによ
って走行車両同士をつなぎ、速度と車間距離を測定して、
それらの情報を保険会社に送信する仕組みができるかも
しれません。保険会社はこの情報を基に、危険な運転状態
であること、直ちに是正しなければ保険料を引き上げるこ
とをダッシュボード経由でドライバーに警告することができ
ます。
ドライバーに選択肢を与えず、
自動的にリアルタイム
でペナルティを課すことも可能でしょう。
この場合の倫理的問題は、個人の自由の著しい侵害であ
監督の映画『 her/世界でひとつの彼女』はこのシナリオの
ると見なす人が出てくる一方で、個人の自由よりも大義が
さらに先を行き、人工知能OSの「サマンサ」に恋をする男、
重んじられる例にすぎないと考える人も出てくる点です。
セオドア・
トゥオンブリーの姿を描いています。
3.
コネクテッドホーム/ファミリー
サマンサには極めて高度なテクノロジーが用いられている
子供が学校にいる間や、家の外で活動をしているときに、
親が我が子を遠隔で監視することが可能になるのも時間
ため、
セオドアの心の動きにリアルタイムで反応できます。
映画が進むにつれ、セオドアはますます「her( 彼女)」すな
わちサマンサに夢中になって行き、
やがて彼女中心の暮ら
の問題でしょう。
しを送るようになります。
前述の通り米国ではClassDojoというアプリを使って、教室
1つの予測としては、インターネ
での子供たちの行動をリアルタイムデータとして取得し、
親と教師の関係をより緊密にしたり、教室での行動の改善
を図ったりすることができます。
しかし、
このようなサービ
スも子供のプライバシーの侵害ではないか、
自主性を奪う
ものではないかという疑念を引き起こします。
以上の3つのシナリオは、いずれも私たちが望む自由の度
合いと、社会的コストと制約のバランスという2つの問題を
提示しているのです。
リビングサービスは私たちの行動に変
化をもたらすか?
リビングサービスの成長によって起こり得る最後の倫理的
な問題は、人の行動と他者とのインタラクションへの影響
に関するものです。
インターネットや携帯電話を介して世界とつながることが
可能になった結果、私たちと現実との距離は著しく拡大し
つつあります。FjordのMark
Curtisはこの問題について、著
書『 Distraction: Being Human in the Digital Age(現実
との乖離:デジタル時代に人間であるために)』の中で論じ
ています。
仕事や家庭、音楽コレクションなどを管理する最新の必須
サービスによって、我々がますます現実世界から乖離して
いくシナリオが容易に想像できます。スパイク・ジョーンズ
ットとモバイルというデジタル
の 2 つの潮流が引き起こした現
実世界との乖離現象に対し、
リ
ビングサービスが矯正手段とし
て働く可能性が考えられます。
映画『 her 』の世界は空想にすぎないかもしれません。し
かし、私たちが思う以上に現実に近い世界とも考えられ
ます。Apple の Siri や SamsungのS
Voiceなど、モバイ ル
デバイスに内蔵され、ユーザーに反応したり、パーソナル
タスクを実行したりできる音声認識機能は、いまや標準
装備となっています。一方、Xboxの最新コンソール「Xbox
One 」はKinect 音声コマンドを内蔵しており、ユーザーは
コンソールとのインタラクションを楽しむことが可能で
す。Googleのエンジニアリング・ディレクター、
レイ・カーツ
ワイルは先ごろ、15年後にはコンピュータと心を通わせる
ことが可能だと予測しましたが、
これもあながち意外とは
言えません。
果たしてリビングサービスは、私たちが互いにつながり、
イ
ンタラクションする方法に混乱をもたらすのでしょうか。そ
れにより、私たちはお互いからも現実からも一層切り離さ
れてしまうのでしょうか。
リビングサービス
93
率直に言って、答えを出すのは現時点では時期尚早でしょ
う。1つの予測としては、
インターネットとモバイルというデ
ジタルの2つの潮流が引き起こした現実世界との乖離に対
し、
リビングサービスが矯正手段として働く可能性が考え
られます。私たちのニーズに合わせ、関連性の低いデータ
を除去することによってパーソナライズされるリビングサ
ービスは、現実との距離を縮める助けとなるかもしれませ
ん。そうしたリビングサービスなら、欲しい時に欲しいもの
を提供してくれるはずだと信頼できるからです。
また、スクリーンやキーボードといった従来の物理的イン
ターフェースが、私たち自身の声や皮膚、目、脳をはじめと
するナチュラル・ユーザー・インターフェース
( NUI )
に取っ
て代わられるようになれば、人と外界との物理的な障壁は
少なくなるはずです。それにより私たちは、
デバイスが生む
仮想障壁を忘れて、現実とより密接につながっている感覚
を得られるようになるでしょう。
デジタルサービスは進化し続けます。デジタルサービスが
プライバシーや倫理、人に及ぼす影響について、私たちは
重要課題として向き合っていかなければなりません。そう
することによってリビングサービスは、私たちの暮らしの質
を真の意味で高めてくれるでしょう。
94
リビングサービス
LIVING SERVICES
95
出典
Chapter 1
Mobile Technology Fact Sheet, Pew Research Center (Oct, 2014) http://www.pewinternet.org/fact-sheets/mobile-technology-fact-sheet/
Andrew Lipsman, Major Mobile Milestones in May: Apps Now Drive Half of All Time Spent on Digital, ComScore (June 25, 2014) http://www.comscore.com/Insights/Blog/
Major-Mobile-Milestones-in-May-Apps-Now-Drive-Half-of-All-Time-Spent-on-Digital
Venmo https://venmo.com/
Square https://squareup.com/global/en-gb/register
Yelp http://www.yelp.co.uk/
AroundMe http://www.aroundmeapp.com/
Craig Grannell, 50 best free iPhone apps 2015, TechRadar (April 7, 2015) http://www.techradar.com/news/phone-and-%20communications/mobile-phones/70-best-freeiphone-apps-2013-663484
15 Economic Facts About Millennials, The Council of Economic Advisers, (Oct, 2014) https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/docs/millennials_report.pdf
Gartner says Personal Worlds and the Internet of Everything Are Colliding to Create New Markets, Gartner (Nov 11, 2013) http://www.gartner.com/newsroom/id/2621015 §
Smartphone Users Worldwide Will Total 1.75 Billion in 2014, eMarketer (Jan 16, 2014) http://www.emarketer.com/Article/Smartphone-Users-Worldwide-Will-Total-175Billion-2014/1010536
Dave Evans, The Internet of Things—How the Next Evolution of the Internet Is Changing Everything, Cisco (April, 2011) http://www.cisco.com/web/about/ac79/docs/innov/
IoT_IBSG_0411FINAL.pdf
Acquity Group 2014 Internet of Things Study, Acquity Group (2014) http://www.acquitygroup.com/news-and-ideas/thought-leadership/article/detail/acquity-group-2014internet-of-things-study
Smart/Intelligent Sensor Market worth $10.46 Billion by 2020, Markets and Markets (2013) http://www.marketsandmarkets.com/PressReleases/smart-sensor.asp
Pebble https://getpebble.com/
Jawbone https://jawbone.com/
Fitbug Orb https://www.fitbug.com/uk/orb?lng=en_UK
Nicola Davis, Smart Umbrellas keep you dry and check the air you breathe, The Guardian (June 19, 2014) http://www.theguardian.com/environment/2014/jun/19/smartumbrellas-check-air-quality
David Watkins, Broadband and Wi-Fi Households Global Forecast 2012, Strategy Analytics (Mar 20, 2012) https://www.strategyanalytics.com/default.aspx?mod=reportabstr
actviewer&a0=7215
Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update 2014-2019, Cisco (Feb 3, 2015) http://www.cisco.com/c/en/us/solutions/collateral/serviceprovider/visual-networking-index-vni/white_paper_c11-520862.html
Neil Versel, Phone detection of Parkinson’s approaches 99 percent accuracy, MobiHealthNews (Jan 29, 2013) http://mobihealthnews.com/20068/phone-detection-ofparkinsons-approaches-99-percent-accuracy/
Sifteo Cubes https://www.sifteo.com/cubes
Siftables http://alumni.media.mit.edu/~dmerrill/siftables.html
InfrActables https://www.youtube.com/watch?v=2l59zCQ3JbE
Beats Music http://www.beatsmusic.com/
Trunk Club https://www.trunkclub.com/
Birchbox https://www.birchbox.co.uk/
96
リビングサービス
Chapter 2
Google X http://en.wikipedia.org/wiki/Google_X
Julie Bornstein and Dan McGinn, How Sephora Reorganized to Become a More Digital Brand, Harvard Business Review (June 26, 2014)
http://blogs.hbr.org/2014/06/how-sephora-reorganized-to-become-a-more-digital-brand/
Zappos http://www.zappos.com/
Cutting across the CMO-CIO divide, Accenture (2014) http://www.accenture.com/us-en/Pages/insight-cmo-cio-alignment-digital-summary.aspx
If This Then That https://ifttt.com/
Evernote https://evernote.com/
B. Jospeh Pine II and James Gilmore: The Experience Economy (2011) http://www.amazon.co.uk/The-Experience-Economy-Updated-Edition/dp/1422161978
Nespresso http://www.nespresso.com/pro/zenius/#/intro
Derek Thompson, Who’s to blame for the music industry’s free-fall? The Atlantic (Feb 2, 2010) http://www.theatlantic.com/business/archive/2010/02/whos-to-blame-forthe-music-industrys-free-fall/35212/
Uber https://www.uber.com/
Chapter 3
Robin Dunbar profile, Magdalen College, University of Oxford http://www.magd.ox.ac.uk/member-of-staff/robin-dunbar/
Sarah Perez, An Upper Limit for Apps? New Data Suggests Consumers Only Use Around Two Dozen Apps Per Month, TechCrunch (July 1, 2014) http://techcrunch.
com/2014/07/01/an-upper-limit-for-apps-new-data-suggests-consumers-only-use-around-two-dozen-apps-per-month/
BrandZ Top 100 Most Valuable Global Brands study 2014 http://www.millwardbrown.com/mb-global/brand-strategy/brand-equity/brandz/top-global-brands
Richard Lawler, Toys R Us launches family-friendly internet movie service, plans Tabeo across HD video and more, Engadget (Oct 5, 2012) http://www.engadget.
com/2012/10/05/toys-r-us-launches-family-friendly-internet-movie-service/
Shapeways http://www.shapeways.com/
Hasbro and Shapeways Launch SuperFanArt, New Website That Empowers Fans to Be Creators Using Hasbro Brands (July 21, 2014) http://investor.hasbro.com/releasedetail.
cfm?ReleaseID=860946
Moovel mobility platform https://www.moovel.de/#/en/DE/
car2go https://www.car2go.com/
Matt McFarland, Moovel acquires RideScout, mytaxi to further its vision for urban mobility in the age of smartphones, Washington Post (Sept 3, 2014) http://www.
washingtonpost.com/blogs/innovations/wp/2014/09/03/moovel-acquires-ridescout-mytaxi-to-further-its-vision-for-urban-mobility-in-the-21st-century/
mytaxi https://us.mytaxi.com/index.html
RideScout http://www.ridescoutapp.com/
Livescribe http://www.livescribe.com/uk/
Livescribe Moleskin Notebook http://www.moleskine.com/gb/news/livescribe-notebook
JustPark https://www.justpark.com/about/
Spinlister https://www.spinlister.com/about
リビングサービス
97
Chapter 4
Pew Internet & American Life Project (2013) http://www.pewinternet.org/2013/01/28/tracking-for-health/
Obesity and Overweight—Fact sheet N311, WHO (Jan 2015) http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs311/en/
Global status report on noncommunicable diseases 2010, WHO (2010) http://www.who.int/nmh/publications/ncd_report_full_en.pdf
The Future Report 2012—‘The Future’, Steria (2012) http://www.steria.com/fileadmin/com/sharingOurViews/publications/files/The%20Future%20report%202012/files/
assets/common/downloads/publication.pdf
Aditi Pai, Nielsen: 46 million people used fitness apps in January, MobiHealthNews (April 17, 2014) http://mobihealthnews.com/32183/nielsen-46-million-people-usedfitness-apps-in-january/
2014 Internet of Things Study, Acquity Group (2014) http://www.acquitygroup.com/news-and-ideas/thought-leadership/article/detail/acquity-group-2014-internet-ofthings-study
CHECKLIGHT http://www.reebok.com/us/checklight/Z85846.html
Fitbug https://www.fitbug.com/g/orb?lng=en_UK
Withings http://www.withings.com/uk/
UP by Jawbone https://jawbone.com/up
Fluxstream https://fluxtream.org/welcome;jsessionid=0B18EED9BD97179AD2520921BC8D6DE3
Chris Martin, Google Fit vs Apple Health Kit: What’s the difference?, PC Advisor (July 28, 2014) http://www.pcadvisor.co.uk/features/software/3532886/google-fit-vs-applehealth-kit/?olo=editorspick
John P. Mello Jr., Google, Novartis Team on ‘Invisible’ Health Monitor, Tech News World (July 16, 2014) http://www.technewsworld.com/story/80744.html
Sensonic http://www.sensonic-global.com/
LabStyle Innovation Corp. http://mydario.com/
Ginger.io https://ginger.io/for-individuals/
Kara Gavin, Listening to bipolar disorder: Smartphone app detects mood swings via voice analysis, University of Michigan (May 8, 2014) http://www.engin.umich.edu/
college/about/news/stories/2014/may/listening-to-bipolar-disorder-smartphone-app-detects-mood-swings-via-voice-analysis
Bellabeat https://www.bellabeat.com/
Strong Demand for Online Pharma Services ‘Beyond the Pill’ Among Online Consumers, Manhattan Research survey (Jan 10, 2013) http://manhattanresearch.com/Newsand-Events/Press-Releases/beyond-the-pill
Hugh Pym, Could the future hospital be in the home? BBC News (July 11, 2014) http://www.bbc.co.uk/news/health-28272809
Liat Clark, Tiny implantable blood test chip could personalise medicine, Wired (March 20, 2013) http://www.wired.co.uk/news/archive/2013-03/20/implantable-chip-doctor
Proteus Biomedical has teamed up with Lloydspharmacy to sell Helius, a smart pill that tells a patient when to take a drug, Phramafile (Jan 20, 2012) http://www.
pharmafile.com/news/170945/british-pharmacy-sell-smart-pills
Neal Ungerleider, Why Intel And The Michael J. Fox Foundation Are Teaming Up To Create Wearable Tech For Parkinson’s, Fast Company (Aug 15, 2014) http://www.
fastcompany.com/3034433/why-intel-and-the-michael-j-fox-foundation-are-teaming-up-to-create-wearable-tech-for-parkin
Todd Wasserman, Nissan Plans to Offer Driverless Cars by 2020, Mashable, (Aug 27, 2013) http://mashable.com/2013/08/27/nissan-plans-to-offer-driverless-cars-by-2020/
Google’s driverless cars take a ride on city streets, RT.com (April 28, 2014) http://rt.com/usa/155468-google-driverless-cars-2017/
Zipcar http://www.zipcar.co.uk/
BlaBlaCar https://www.blablacar.co.uk/
Tesla Smartcar https://smartcar.com/
A new era for the automotive industry, Accenture (2014) http://www.accenture.com/SiteCollectionDocuments/PDF/Accenture-New-Era-Automotive-Industry.pdf
CarPlay https://www.apple.com/uk/ios/carplay/
Open Automotive Alliance (OAA) http://www.openautoalliance.net/#about
Windows embedded Automotive 7 http://www.microsoft.com/windowsembedded/en-gb/windows-embedded-automotive-7.aspx
Ford SYNC http://www.ford.co.uk/experience-ford/Technology/FordSYNC
Nokia’s HERE https://www.here.com/?map=51.54187,-0.13,10,normal
GENIVI Alliance https://www.genivi.org/
MirrorLink http://www.mirrorlink.com/
98
リビングサービス
SNCF http://www.sncf.com/en/services/pro/door-to-door
Cisco, Copenhagen Airport http://www.cisco.com/c/en/us/products/wireless/copenhagen_airport.html
Thales unveils revolutionary Immersive Business Class Seat, Thales press release, (April 8, 2014) https://www.thalesgroup.com/sites/default/files/asset/document/immersive_
seat_unveiling.pdf?ref=access
NS Reisplanner Xtra https://play.google.com/store/apps/details?id=nl.ns.android.activity&hl=en_GB
Edenspiekerman http://www.edenspiekermann.com/projects/prorail-and-ns-dutch-railways?ref=access
ProRail https://www.prorail.nl/?ref=access
NS http://www.ns.nl/en/travellers/home
Unlock the Magic with Your MagicBand or Card, Walt Disney World https://disneyworld.disney.go.com/plan/my-disney-experience/bands-cards/
Sonarflow http://www.sonarflow.com/
Harry Lambert, Predictions on the future of television watching, Wired (October 5, 2014) http://www.wired.co.uk/magazine/archive/2014/10/start/how-will-we-watch-tv
Ryan Lawler, iPad DJ Launches Lightwave To Provide Wearable, Realtime Analytics For Events, Techcrunch (March 8, 2014) http://techcrunch.com/2014/03/08/lightwave/
TV and Media 2014—changing consumer needs are creating a new media landscape, Ericsson ConsumerLab (2014) http://www.ericsson.com/bo/res/docs/2014/consumerlab/
tv-media-2014-ericsson-consumerlab.pdf
515 Million Mobile Sensing Health & Fitness Sensor Shipments in 2017, ON World research http://onworld.com/news/mobile-sensing-health-wellness.html
TomTom http://business.tomtom.com/en_gb/industries/insurance-telematics/
confused.com http://www.confused.com/car-insurance/specialist/telematics/providers
BMW Gives Usage-Based Insurance the Green Light with FlexiMile, InsuranceNewsNet (July 29, 2014) http://insurancenewsnet.com/oarticle/2014/07/29/bmw-gives-usagebased-insurance-the-green-light-with-fleximile-a-537039.html#.VS-ayRPF958
BillGuard https://www.billguard.com/?ref=access
Mint https://www.mint.com/how-mint-bills-works/pay
Tink https://www.tinkapp.com/en/
Pocketsmith https://www.pocketsmith.com/
24me http://www.twentyfour.me/?ref=access
Liam Don, Tackle behaviour so teachers can do their jobs, The Independent (Jan 17, 2012) http://blogs.independent.co.uk/2012/01/17/tackle-behaviour-so-teachers-can-dotheir-jobs/
ClassDojo https://www.classdojo.com/en-GB/
BeHere http://www.beelieve.com.br/behere/
Arizona State University https://net.educause.edu/ir/library/pdf/ESPRNT123ASU.pdf
Duolingo https://www.duolingo.com/info
Angry Birds Could Help Children With Learning Disabilities: Study, TechAz, (Nov 7, 2014) http://techaz.co/angry-birds-could-help-children-with-learning-disabilitiesstudy-a16922.html
A Glimpse Into The Future Of Learning, KnowledgeWorks Forecast 3.0 http://knowledgeworks.org/sites/default/files/A-Glimpse-into-the-Future-of-Learning-Infographic_0.
pdf
Laura Kell, Five Year Broadband subscriber forecasts—to end 2018, Point Topic (2013) http://point-topic.com/free-analysis/five-year-broadband-subscriber-forecasts-toend-2018/
Chai Energy http://www.chaienergy.com/
Smartlabs Inc. http://www.smartlabsinc.com/
Novi Security http://www.novisecurity.com/
Wallflower http://www.wallflower.com/
Ecobee https://www.ecobee.com/
Rebecca Borison, Nest Is Partnering With A Smart Fan Company To Take Internet Of Things To The Next Level, Business Insider (Aug 19, 2014) http://www.businessinsider.
com/nest-partners-with-bigg-ass-fans-2014-8?IR=T#ixzz3B2JXQM2n
Google’s Nest signs deal with third-party brands Mercedes, Jawbone, Whirlpool and LIFX, Marketingmagazine.co.uk http://www.marketingmagazine.co.uk/article/1300346/
googles-nest-signs-deal-third-party-brands-mercedes-jawbone-whirlpool-lifx?DCMP=EMC-CONMarketingDailyBulletin&bulletin=marketingdaily
August Smart Lock http://www.august.com/
リビングサービス
99
Philips hue http://www2.meethue.com/en-gb/
Quirky.com, Egg Minder: https://www.quirky.com/shop/619#.
Nina Mandell, To Really Lose Weight Ditch That Diet, Grab This Vibrating Fork, Fast Company (Jan 7, 2013) http://www.fastcompany.com/3004531/really-lose-weight-ditchdiet-grab-vibrating-fork
Zac Hall, GE-backed Quirky Aros is a window air conditioner with Nest smarts, controlled by iPhone, 9to5mac.com (March 19, 2014) http://9to5mac.com/2014/03/19/gebacked-quirky-aros-is-a-window-air-conditioner-with-nest-smarts-controlled-by-iphone/
Neura http://www.theneura.com/
Samsung http://www.samsung.com/us/appliances/refrigerators/RF28HMELBSR/AA
SmartThings http://www.smartthings.com/
Apple http://www.apple.com/
AT&T http://www.att.com/#fbid=dkf8qllN0nw
AT&T Digital Life https://my-digitallife.att.com/learn/
Water Related Issues Responsible for Most Insurance Claims, Dryout.net: http://www.dryout.net/stories/Water_Related_Issues_Responsible_for_Most_Insurance_
Claims_1192.htm
Nextdoor https://nextdoor.com/
Neighborland https://neighborland.com/
F-secure https://www.f-secure.com/en/web/home_global/products
How to feed the world in 2050, fao.org http://www.fao.org/fileadmin/templates/wsfs/docs/expert_paper/How_to_Feed_the_World_in_2050.pdf
Citymapper https://citymapper.com/london
Streetline http://www.streetline.com/
Enevo http://www.enevo.com/
Tracking Clean Energy Process, International Energy Agency (2013) http://www.iea.org/publications/tcep_web.pdf
Tvilight http://www.tvilight.com/about-us/introduction/
Pinterest for Business, Nordstrom Success Story https://business.pinterest.com/en/success-stories/nordstrom
Burberry Regent Street, Retail-Innovation http://retail-innovation.com/burberry-regent-street/
Amazon Dash https://fresh.amazon.com/dash/
Hiku http://hiku.us
Blippar https://blippar.com/en/
The Outside View http://theoutsideview.co.uk/
Siraj Datoo, These companies are tracking the fitness of their employees, The Guardian (March 17, 2014) http://www.theguardian.com/technology/2014/mar/17/whycompanies-are-tracking-the-fitness-of-their-employees
Sleep Cycle http://www.sleepcycle.com/
Moves https://www.moves-app.com/
Greg Kumparak, Too Lazy To Count Calories? Now You Can Just Take A Picture Of Your Meal, Techcrunch (April 5, 2011) http://techcrunch.com/2011/04/05/too-lazy-tocount-calories-now-you-can-just-take-a-picture-of-your-meal/
PocketScan https://www.kickstarter.com/projects/1776222658/pocketscan
Ca7ch Lightbox https://www.kickstarter.com/projects/ca7ch/ca7ch-lightbox?ref=discovery
Amazon Kinesis http://aws.amazon.com/kinesis/
Connected Business—bringing field workers and managers closer together, Field Service News (June 2015) http://fieldservicenews.com/connected-business-bringing-fieldworkers-managers-closer-together/
Kipp Bradford, The Industrial Internet Of Things, Forbes (May 2, 2014) http://www.forbes.com/sites/oreillymedia/2014/02/05/the-industrial-internet-of-things/
James Wilson, Minors Tap Into Rich Seam Of Internet Of Things Financial Times (July 16, 2014) http://www.ft.com/cms/s/854fb212-084b-11e4-938000144feab7de,Authorised=false.html?_i_location=http%253A%252F%252Fwww.ft.com%252Fcms%252Fs%252F0%252F854fb212-084b-11e4-9380-00144feab7de.html
%253Fsiteedition%253Duk&siteedition=uk&_i_referer=%23axzz3Vx5WO7tn%20,%20please%20hyperlink%20to%20BHP%20Billiton%20at%20start%20of%20paragraph
100
リビングサービス
Chapter 5
Deezer http://www.deezer.com/
SoundCloud https://soundcloud.com/
iGaranti https://www.fjordnet.com/workdetail/igaranti/
Square https://squareup.com/global/en/register
Philip Ryan, Half of All Mobile Banking Customers Are Now Part of ClearXchange (February 19, 2014) http://bankinnovation.net/2014/02/half-of-all-mobile-bankingcustomers-are-now-part-of-clearxchange/
Brian Steinberg, Study: Young Consumers Switch Media 27 Times An Hour, Advertising Age (April 9, 2012) http://adage.com/article/news/study-young-consumers-switchmedia-27-times-hour/234008/
Frederic Lardinois, Zillow Expands Its Mortgage Services With Mobile Pre-Approvals, TechCrunch (Aug 7, 2014) http://techcrunch.com/2014/08/07/zillow-expands-itsmortgage-services-with-mobile-pre-approval/
Chapter 6
Lusiano Floridi, The Fourth Revolution. How the Infosphere is Reshaping Human Reality. Oxford University Press (2014) 272pp. 978-0-19-960672-6
http://www.oii.ox.ac.uk/news/?id=1162
Effie Worldwide http://effie.org/case_studies/case/3071
Chango https://www.chango.com/
Programmatic media http://e.wikipedia.org/wiki/Programmatic_media
Conversant LLC. http://www.conversantmedia.com/
MC10 http://www.mc10inc.com/
Apple Touch ID https://www.apple.com/iphone-6/touch-id/
Apple Pay https://www.apple.com/apple-pay/
Emotiv http://emotiv.com/
Philips Proof of Concept https://www.fjordnet.com/workdetail/philips/
Philips AutoAlerts http://www.lifelinesys.com/content/
Philips Smart TV http://www.philips.com/content/global/country-selectors/www/en/smarttv.html
Google Glass http://www.google.co.uk/glass/start/what-it-does/
adidas miCoach smart run https://www.fjordnet.com/workdetail/adidas/
Ericsson Connected Paper http://www.ericsson.com/res/docs/2014/connected-paper.pdf
Reemo http://www.getreemo.com/reemo-developers-program/
PrimeSense http://en.wikipedia.org/wiki/PrimeSense
Microsoft Kinect http://www.microsoft.com/en-us/kinectforwindows/
Apple TV http://www.apple.com/uk/appletv/
Rethink Robotics http://www.rethinkrobotics.com/
NikeFuel http://www.nike.com/us/en_us/c/nikeplus/nikefuel
Withings Wi-Fi Body Scale https://www.myfitnesspal.com/apps/show/7
MyFitnessPal https://www.myfitnesspal.com/
Daniel Kahneman, Thinking Fast and Slow (2012) http://www.amazon.co.uk/Thinking-Fast-Slow-Daniel-Kahneman/dp/0141033576
リビングサービス
101
Chapter 7
Eighty Percent of Consumers Believe Total Data Privacy No Longer Exists, Accenture Survey Finds, Accenture http://newsroom.accenture.com/news/eighty-percent-ofconsumers-believe-total-data-privacy-no-longer-exists-accenture-survey-finds.htm
Rory Cellan-Jones, EU court backs ‘right to be forgotten’ in Google case, BBC News (May 13, 2014) http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-27388289
Ghostery http://www.ghostery.com
Safeplug http://pogoplug.com/safeactivate/
Verizon Smart Rewards http://www.verizonwireless.com/wcms/myverizon/smart-rewards.html
Neal Ungerleider, Swarm Tracks You While You Shop—And That’s Actually A Good Thing, Fast Company (September 10, 2012) http://www.fastcompany.com/3001128/
swarm-tracks-you-while-you-shop-and-thats-actually-good-thing
The Internet of Things: The Future of Consumer Adoption, Acquity Group (2014) http://www.acquitygroup.com/docs/default-source/Whitepapers/acquitygroup2014iotstudy.pdf?sfvrsn=0
Smart home kit proves easy to hack, says HP study, BBC News (July 30, 2014) http://www.bbc.co.uk/news/technology-28569342
Mark Ward, How to hack and crack the connected home, BBC News (Aug 18, 2014) http://www.bbc.co.uk/news/technology-27373328
Masahiro’s ‘Uncanny Valley’ http://en.wikipedia.org/wiki/Uncanny_valley
Matt Swider, Apple Watch release date, price and features, TechRadar (April 15, 2015) http://www.techradar.com/news/portable-devices/apple-iwatch-release-date-newsand-rumours-1131043
Mark Sullivan, Apple’s ‘Healthbook’ will finally debut as part of iOS 8 this Monday, VentureBeat (May 31, 2014) http://venturebeat.com/2014/05/31/apples-healthbook-willfinally-debut-as-part-of-ios-8-this-monday/
Reuven Cohen, The Next Big Thing In Enterprise IT: Bring Your Own Wearable Tech? Forbes (Aug 14, 2013) http://www.forbes.com/sites/reuvencohen/2013/08/14/the-nextbig-thing-in-enterprise-it-bring-your-own-wearable-tech/
Jordan Novet, Google’s new self-driving car prototype foregoes steering wheel, mirrors, & pedals, VentureBeat (May 27, 2014) http://venturebeat.com/2014/05/27/googlesnew-self-driving-car-prototype-forgoes-wheel-mirrors-pedals/
Dutch approve large-scale testing of self-driving cars, Phys.org (Jan 23, 2015) http://phys.org/news/2015-01-dutch-large-scale-self-driving-cars.html
Mark Curtis, Distraction: Being human in the digital Age (2005) http://www.amazon.co.uk/Distraction-Being-human-digital-age/dp/0954432746
Her (film) http://en.wikipedia.org/wiki/Her_(film)
Apple’s Siri https://www.apple.com/uk/ios/siri/
Samsung S Voice http://www.samsung.com/global/galaxys3/svoice.html
Xbox One http://support.xbox.com/en-GB/browse/xbox-one/kinect/Voice
Hannah Devlin, Search engines will be able to flirt with users by 2029, The Times (June 14, 2014) http://www.thetimes.co.uk/tto/technology/article4118943.ece
フィヨルドについて
デザインとイノベーションのコンサルティング業務
フィヨルドは、2013年にアクセンチュア・インタラクティブの傘下に入り、
を行っています。フィヨルドが目指すものは、人々が魅力を感じる、有益で効率的な、価値のあるデジタルサービスの構築で
す。デザインの力を駆使し、世界の一流企業とともに、複雑なシステムをシンプルで洗練されたものへと変える取り組みを
行っています。2001年に設立、現在は、世界19カ所にクリエイティブ拠点を構え
(アトランタ、
オースティン、ベルリン、
シカ
ゴ、ヘルシンキ、香港、
インスタンブール、
ロンドン、
ロサンゼルス、
マドリッド、
ミラノ、ニューヨーク、
パリ、サンフランシスコ、
サンパウロ、
シアトル、
ストックホルム、
シドニー、
トロント)、
750人以上の多様なデザインの専門家を擁しています。フィヨル
ドの詳細は、
www.fjordnet.comをご覧ください。
アクセンチュアについて
アクセンチュアは「ストラテジー」
「コンサルティング」
「デジタル」
「テクノロジー」
「オペレーションズ」の5つの領域で幅広い
サービスとソリューションを提供する世界最大級の総合コンサルティング企業です。世界最大の規模を誇るデリバリーネッ
トワークに裏打ちされた、
40を超す業界とあらゆる業務に対応可能な豊富な経験と専門スキルなどの強みを生かし、ビジネ
スとテクノロジーを融合させて、お客様のハイパフォーマンス実現と、持続可能な価値創出を支援しています。世界120カ国
以上のお客様にサービスを提供する37万3,000人以上の社員が、
イノベーションの創出と世界中の人々のより豊かな生活
の実現に取り組んでいます。
アクセンチュアの詳細はwww.accenture.comを、
アクセンチュア株式会社の詳細はwww.accenture.com/jpをご覧ください。
アクセンチュア・インタラクティブについて
アクセンチュア・インタラクティブは、世界有数のブランド企業が、あらゆるマルチチャネル上での顧客体験において効果的
なマーケティングを実現する支援を行っています。数多くのマーケティングの専門家で構成されるアクセンチュア・インタラ
クティブは、業界に特化した先進的なマーケティング・ソリューション、分析に基づいたコンサルティングやテクノロジー、
アウ
トソーシングなどのサービスを提供します。
Copyright © 2016 Accenture
All rights reserved. Accenture, its logo, and High Performance Delivered are trademarks of Accenture. This document is produced by consultants at Accenture as general guidance.
It is not intended to provide specific advice on your circumstances. If you require advice or further details on any matters referred to,
please contact your Accenture representative.
This document makes descriptive reference to trademarks that may be owned by others. The use of such trademarks herein is not an assertion of ownership of such trademarks by Accenture
and is not intended to represent or imply the existence of an association between Accenture and the lawful owners of such trademarks.
FJORDNET.COM
@FJORD
#LIVINGSERVICES