Botswana Medical Information 2016 年 5 月 【医療トピックス】 ○ボツワナでのダニ媒介リケッチア感染症 在留邦人がハボロネ市内でダニに刺され、リケッチア感染症に罹患しました。大使館医 務室の記録では 2014 年にも在留邦人が1名、ハボロネ市内で感染し発病しています。 1)リケッチア症とは リケッチア症は世界的に存在する感染症で、リケッチアという特殊な細菌に感染するこ とで発症します。地域で症状や原因となるリケッチアの種類に差があります。日本のダニ に刺されることで感染するリケッチア症には、つつがむし病と日本紅斑熱があり、いずれ も治療が遅れると亡くなる人がいます。ロッキー山紅斑熱は北米に見られ、無治療の場合、 死亡率 20~60%といわれています。シラミから感染するリケッチア症として、日本でも第 二次世界大戦中及び戦後しばらくみられた発疹チフスがあり、死亡率 10~40%といわれて います。 ボツワナをはじめとするアフリカ諸国には地中海紅斑熱(Mediterranean spotted fever) とアフリカ紅斑熱(African tick-bite fever)が存在しています。地中海紅斑熱はネズミや犬 につくダニから感染しますが、アフリカ紅斑熱は牛・羊・山羊などの反芻動物につくダニ が感染源とされています。過去の事例として、アフリカ紅斑熱はボツワナ軍の教育訓練目 的で派遣された米軍や、南アのクルーガー国立公園に来たツアー客に集団発生したことが 報告されています。 2)症状 ダニに刺された1~2 週間後、発熱、体の節々の痛み、頭痛、リンパ節の痛み、痛くもか ゆくも無い赤い発疹(紅斑)などの症状があり、体のどこかに特有の「刺し口」を認めま す(次ページ写真参照)。写真の「刺し口」は、刺したダニにリケッチアがいた場合にのみ、 進入したリケッチアが増殖して形成されます。リケッチアを持たないダニが刺しても、「刺 し口」は形成されません。 今回のリケッチア症の発症者は、発熱、頭痛、リンパ節の痛み、関節痛、 「刺し口」を認 めました。 「刺し口」周囲の発赤以外は紅斑を認めていません。アフリカ紅斑熱は発疹が見 られないことが多く、リンパ節の腫れを伴うとされており、今回の発症者はアフリカ紅斑 熱の可能性が高いと考えます。ダニの宿主動物の分布により、都会に地中海紅斑熱、田舎 にアフリカ紅斑熱が多いとされていますが、ボツワナでは町の中を家畜がうろついている ことがあるため、町中でもブッシュに入ったりすると、アフリカ紅斑熱に感染する可能性 は十分あり得ます。アフリカ紅斑熱の死亡率はわずかで良性の経過をたどるとされていま すが、一方で循環器系や神経系の合併症が報告されています。 3)治療 治療にはテトラサイクリン系の抗生剤を1~2週間内服します。また頭痛や体の痛みに 対して解熱鎮痛剤を併用します。たとえ「刺し口」があっても症状がない人や、無治療で も自然治癒する人がいるなど、リケッチアを持つダニに刺されてからの経過は様々です。 そうはいっても、治療が遅れると重症化する確率が上昇するため、リケッチア症を疑う時 は、早めにテトラサイクリン系抗生剤の内服をお勧めします。 4)予防 リケッチア症に対する予防内服やワクチンは存在しないため、ダニなどの防虫対策が予 防の中心になります。長袖長ズボンを着用したり、防虫スプレーの使用を検討してくださ い。ハボロネ市内でも草むらや灌木の葉にダニがいる可能性があるため、ブッシュに入る ときは注意してください。 文責:平 昭嘉(在ボツワナ日本国大使館医務官) リケッチア症の症状を認めた感染者の「刺し口」 症状が出現して数日後の写真 リケッチア症の症状が無かった感染者の「刺し口」 上の写真と同日に撮影 (二人とも同じ日に感染したと考えられる) 【新聞報道】 2016 年 5 月 3 日 Daily News ○マラリア患者の減少 ボツワナではマラリア患者数が、2000 年の年間 8,000 人以上から、2015 年には約 300 人に劇的な減少を示している。ボツワナは SADC の 8 カ国の中で、マラリア対策がうまく いっている国に属する。また、ボツワナは SADC のマラリア根絶の枠組みの中で、近隣の SADC7 カ国(アンゴラ、ナミビア、スワジランド、南ア、モザンビーク、ザンビア、ジン バブエ)と連携を進めてきた。地区住民に対し、マラリア対策に従事する担当者への協力 が呼びかけられている。 2016 年 5 月 6 日 Mmegi ○私立ボカモソ病院の抗弁を棄却 私立ボカモソ病院が主張する、過失に対する責任がないという抗弁申請を、裁判所は棄 却した。この裁判は女性が婦人科的処置をボカモソ病院で受けたところ、障害が残ったこ とに関するもの(平成 27 年 10 月医務官レポート:新聞報道参照)。病院側は、手術をした医 師は独立した存在なので、手術の責任は病院にないという主張を行っていた。裁判所はこ の論拠を、 「医師の独立性と病院側に責任がないという点の関連を、証明する物は何もない。」 として証拠不十分として棄却した。 2016 年 5 月 10 日 Daily News ○9 人の患者がインドで移植実施へ プリンセスマリーナ病院は、5 人の腎移植患者と 4 人の骨髄移植患者をインドの Apollo Hospital へ送った。ボツワナ保健省は、2014 年 9 月に Apollo Hospital と 5 年間の協定を 結んでいる。今回とは別に、これまで 13 人の腎移植と 1 名の骨髄移植が施行された。 2016 年 5 月 18 日 Botswana Gazette ○公立病院における新生児死亡 National Under-Five Mortality Audit Committee(NUFMAC)の 2015 年報告に、プリン セスマリーナ病院(PMH)とニャンガブェ病院(NRH)(双方ともボツワナにおける主要 公立病院)における新生児死亡数が 303 名と報告された。2014 年に PMH では、入院した新 生児 1195 名に対し死亡 142 名 (12%)、 NRH は新生児 568 名の入院に対し死亡 141 名(25%) であった。報告では、これらの病院の人手と機材の不足が新生児死亡の原因の一つとされ ている。その例として NRH には小児 ICU がなく、成人 ICU を使用している。しかし成人 ICU のスタッフは小児患者をみるように指示されていないという理由で、小児科医を助け ない。また同病院では新生児病棟の看護師と患者の割合が不適切である。病棟の血液ガス 測定器も試薬不足で使用できない。新生児死亡の主因として、未熟児が 59%、新生児敗血 症 16%、胎児仮死 14%と報告されている。 2016 年 5 月 18 日 Mmegi ○エアボツワナが医師の移動を支援 エアボツワナは専門医がボツワナ各地で医療サービスを行えるように、医師の移動のた めの航空チケット(40 万プラ相当)を提供することとした。協力団体は Airbone Lifeline Foundation(ALF)という慈善団体である。エアボツワナはフランシスタウン、カサネやマ ウンなどへの航空券を、月に 6 枚提供する。昨年 9 月から現在まで、19 フライトで 28 名 の専門医が ALF の施設へ移動した。ALF は、各科の専門医により月に 367 名の患者が治 療を受けたと話している。また航空機で遠隔地に薬などの運搬を行うことができることも、 利点であると述べた。ALF はボツワナだけで無く、マラウイでも航空機による医療サービ スの提供を行っており、専門医や医薬品の移送を、毎週あるいは 2 週に 1 度、行っている。 2016 年 5 月 20 日 Mmegi ○ボツワナの高齢者介護 医療サービス(血圧や血糖値測定、服薬指導、マッサージ、患者教育やカウンセリング、 訪問看護など)を提供する成人向けデイケアセンターを開設している、在宅ケア専門家の Chawa Enyatseng 氏がボツワナの現状を語った。2014 年開設の彼女の施設に通う利用者 は白人と黄色人種が主で、黒人はまれである。ボツワナ人は、高齢者を病院や施設に預け るのを好まず、家族単位で世話をすることを好み、多くの場合、孫が高齢者の所を定期的 に訪問する。高齢者をデイケアセンターのような施設に預けることはタブーの一つであり、 先祖の怒りを買うという文化的な禁止事項である。統計ではボツワナの高齢者数は増加し ており、ボツワナの文化的背景にかかわらず、今後はボツワナ人も病院や施設に高齢者を 預ける必要が出てくると彼女は述べた。 2016 年 5 月 25 日 Botswana Gazette ○医師の過重労働 ボツワナ全土から医師が首都ハボロネに集まり、36 時間勤務後にも休みが取れないなど の長時間労働に対する不満を述べた。法律では 24 時間もしくは 36 時間の勤務の後は、休 みが取れるように定められている。また超過勤務は週 14 時間までとされているが、それも 守られていない。また超過した分の残業代も支払われないため、サービス残業を強制され ている。参加した医師の一人は、病院側は医師不足を理由に聞く耳を持たないため、政府 が対策を講じないと、患者への医療サービス提供が劣化し、また医者不足に拍車がかかる と述べた。 2016 年 5 月 31 日 Sunday Standard ○南部アフリカ開発共同体(SADC)は麻薬使用の合法化を勧告 SADC のフォーラムが、麻薬使用の合法化と、麻薬常用者を収容所に入れる代わりに治 療に重点を置くことを勧告した。専門家は、薬物使用は公衆衛生上の問題であって、刑法 上の問題ではないと考えていくことが、薬物問題を解決していくと述べた。また、タンザ ニアを除く他の SADC 諸国には、薬物乱用者が社会復帰できるような特別な治療プログラ ムがないこと、薬物乱用の原因として、貧困や職が無いなどの経済問題があるため、貧困 対策が重要であることを指摘した。 文責:平 昭嘉(在ボツワナ日本国大使館医務官)
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