コンテンツビジネスのためのデジタル=アナログ変換サイクル

コンテンツビジネスのためのデジタル=アナログ変換サイクル
Digital=Analog Transformation Cycle of the Media for the Content Business
木村誠
Makoto Kimura
新潟経営大学経営情報学部
Niigata University of Management
要旨:
本研究はデジタル=アナログ(D=A)変換サイクルモデルを提示し、コンテンツビジネスのためのメディア変換プ
ロセスの分析・設計の可能性を示す。コンテンツ配給側・消費側のリアリティは D=A 変換サイクル内メディア変
換プロセス(D/D 変換、D/A 変換、A/A 変換、A/D 変換)を通じて構成される。4 つのメディア変換プロセスを駆
動する各主体によってコンテンツ形式はオブジェクト化、ディスクリプション化、エンティティ化、ビデオグラム
化に変化する。
メディア変換プロセスの内部活動は 5 つの活動に大別できる。
事例分析としてポケモン
(1996∼1998)
とケータイ小説 Deep Love(2000∼2004)を取り上げる。
Abstract:
The paper proposes the potential of media transformation process (MTP) analysis and design, utilizing the model of
Digital=Analog(D=A) transformation cycle. The reality of content distributor and consumer is composed of MTPs such as D/D,
D/A, A/A and A/D. The MTP drives the cyclical changes of content forms: object-type, description-type, entity-type and
videogram-type. The inner activities of MTP are classified into 5(five) kinds of activities. Applying this conceptual framework,
the cases of "Pokemon”(1996-1998) and cellular phone novel, "Deep Love"(2000-2004) are analyzed.
1. 本研究の基本概念
コンテンツは「情報の内容」である。放送やネットワークで提供される動画・音声・テキスト等の情
報の内容を意味する。メディアは「コンテンツを保存、伝達させるための手段、方法、媒体」であり、
外部記憶装置であるハードディスク(HD)、通信手段としてのテレビ、ラジオ、通信回線が含まれる。
リアリティは、
「ある現象に対して主観的に思念された意味が付与された状態」である(今田;2000)
。
コンテンツ配給側は常に商業的意味を持たせてメディアを構成する。コンテンツを蓄積・伝達するメ
ディアはあるリアリティを構成しうる。コンテンツ消費側はメディアを通じてコンテンツを使用するこ
とでリアリティを認識し、ある意味を読み取り、リアリティを再構成する。メディアはアナログメディ
アとデジタルメディアの 2 分類ができる。
2. メディアの D=A 変換サイクルの概念枠組み
アナログメディア
デジタルメディア
アナログメディア
デジタルメディア
メディアのデジタルとアナログ(D=A)変換サイクルは、D/D 変換、D/A 変換、A/A 変換、A/D 変換
の 4 つのメディア変換プロセスから構成される。メディア変換プロセスを駆動する各主体によって、コ
ンテンツはそれぞれ、オブジェクト化、ディ
図 1 D=A 変換サイクルとリアリティの対応づけ
スクリプション化、エンティティ化、ビデオ
A/A変換
A/D変換
アナログメディア
アナログメディア
アナ・アナ
アナ・デジ
グラム化された表現形式に変化する。
(アクティブプレイ)
(パッシブプレイ)
コンテンツ配給側そしてコンテンツ消費
側におけるリアリティは、デジタル=アナロ
アナログ
ハイパーデジタル
リアリティ
リアリティ
グ(D=A)変換サイクルにおける 4 つのメデ
エンティティ化
ビデオグラム化
ィア変換プロセスを通じて構成される。メデ
ディスクリプション化
オブジェクト化
ィア変換プロセスによって構成されたリア
ハイパーアナログ
デジタル
リティは、次のメディア変換プロセスを誘導
リアリティ
リアリティ
する。誘導されたメディア変換プロセスは、
(パッシブプレイ)
(アクティブプレイ)
表現形式を変化させたコンテンツによる新
D/A変換
D/D変換
デジタルメディア
デジタルメディア
たなリアリティを構成する一方で、前メディ
デジ・アナ
デジ・デジ
ア変換プロセスによって構成されているリアリティの再構成にも貢献する。D=A 変換サイクルにおける
コンテンツ消費側のリアリティ範囲は、D/A 変換と A/D 変換による包括的、D/D 変換と A/A 変換による
局所的の 2 分類ができる。D/A 変換と A/D 変換におけるコンテンツの物語は固定的進行であり、消費者
はメディアがもたらす物語性(謎解きと筋書きの完成度)を楽しむ(パッシププレイ)
。D/D 変換と A/A
変換におけるコンテンツの物語は可変的・偶然的進行であり、物語の筋書きと同様に双方向性の概念が
重要視される。消費者は観客であり、プレイヤーでもある。インタラクティブ性(双方向性)を活かし
た操作のための技能習熟が必要となる(アクティブプレイ)
。
表 1 4 つの D=A 変換プロセスの特性
D/D 変換
変換主体
構成するリアリ
ティタイプ
コンテンツ
表現形式
メディア
バンドル化
配給側使用価値
D/D コンバータ
デジタルリアリティ
消費側使用価値
消費側
リアリティ範囲
コンテンツ消費
タイプ
D/A 変換
A/A 変換
A/A コンバータ
アナログリアリティ
A/D 変換
オブジェクト化
D/A コンバータ
ハイパーアナログリア
リティ
ディスクリプション化
エンティティ化
A/D コンバータ
ハイパーデジタルリア
リティ
ビデオグラム化
アンバンドル化
バンドル化
バンドル化
アンバンドル化
物語の可変性・偶然性
物語のインタラクティ
ブ編集性
局所的
固定した物語の物理的
な配給
固定された物語の保有
と鑑賞
包括的
コンテンツの物理的尺
度の向上
総天然色、三次元化、
実寸大への接近
局所的
固定した物語の物理的
な配給
固定された物語の鑑賞
と保有
包括的
アクティブプレイ
パッシブプレイ
アクティブプレイ
パッシブプレイ
D=A 変換サイクルにおける 4 つの変換プロセス(D/D 変換、D/A 変換、A/A 変換、A/D 変換)の内部
活動は以下の 5 つの活動に大別できる。この 5 分類を用いて、D=A 変換サイクルにおける各変換プロセ
スの分析・設計が可能である。
図 2 D=A 変換サイクルにおける活動
①前活動:前変換プロセスの後活動から
A/D(アナ・デジ)
D/D(デジ・デジ) D/A(デジ・アナ) A/A(アナ・アナ)
誘導される活動
変換
変換
変換
変換
②主活動:本変換プロセスによるリアリ
前活動
前活動
前活動
前活動
ティ拡大・深化のための一次活動
③副次活動:主活動を補完するための二
主活動
主活動
主活動
主活動
次活動
副次活動
副次活動
副次活動
副次活動
④後活動:次変換プロセスを駆動するた
めの準備活動
後活動
後活動
後活動
後活動
⑤遡及活動:前変換プロセスによるリア
リティ拡大・深化のための貢献活動
遡及活動
遡及活動
遡及活動
遡及活動
3. 研究仮説と事例分析
本研究の仮説は、
「メディアのデジタル=アナログ(D=A)変換サイクルをうまく廻らせることが、
コンテンツビジネスの成功につながる」ことである。コンテンツ配給側による適切なメディアコントロ
ールを行うための方策として、特に D/A 変換と A/D 変換プロセスの内部活動の設計が重要となる。D/A
コンバータと A/D コンバータを同一にすることによって、A=D 変換サイクル全体の調整とメディア展開
のコントロールが可能となる。いわゆるプロデューサーの役割は、D/A 変換と A/D 変換プロセスの契機
と内部活動間の調整といえよう。本研究の枠組みによるポケットモンスター(1996∼1998)事例とケー
タイ小説 Deep Love 事例におけるメディア変換プロセスと活動連鎖の分析結果を表 2、表 3 に示す。
参考文献
[1] 今田高俊編,
社会学研究法・リアリティの捉え方, 有斐閣, 2000 年.
表 2 ポケモン事例(1996~1998):メディア変換プロセスと活動連鎖
D/D(デジ・デジ)変換
前活動(pre-activity)
前変換プロセスの後活動
から誘導される活動
主活動(main activity)
本変換プロセスによるリ
アリティ拡大・深化のため
の一次活動
ゲームボーイ用「ポケットモンス
ター」を赤バージョン・緑バージ
ョンと別々にして発売する。
【1996 年 2 月】
《オブジェクト化現出》
副 次 活 動 ( secondary
activity)
主活動を補完するための
二次活動
プレイ中に捕獲したポケモンに名
前をつけることを可能とする。
ゲームボーイ間ケーブル通信によ
るプレイヤー同士のポケモン交換
を可能とする。
後活動(post-activity)
次変換プロセスを駆動す
るための準備活動
隠しキャラクター(ポケモン)
「ミ
ュウ」が特定のキー操作手順ある
いは想定外の物理的操作によって
発現する(バグ)。
遡及活動
(retroactivity)
前変換プロセスによるリ
アリティ拡大・深化のため
の貢献活動
D/A(デジ・アナ)変換
A/A(アナ・アナ)変換
コロコロコミック 11 月号誌上で
ポケモンカードゲームの全容を独
占初公開する。
特別とじ込み付録として、2 枚の
プレミアムカード(プリンとピカ
チュウ)を配布する。
【1996 年 10 月】
ポケモンコミック連載を隔月刊別 メディアファクトリー販売元によ
冊より月刊コロコロコミック誌上 るポケモンカード『ポケモンカー
に格上げ、9 月号より新連載する。 ド第 1 弾スターターパック』と『ポ
【1996 年 8 月】
ケモンカード第 1 弾拡張パック』
を販売開始する。【1996 年 10 月】
隔月刊別冊コロコロスペシャル 4
月号誌上でゲーム「ポケットモン
スター」紹介とマンガ『ポケット
モンスターとふしぎポケモンピッ
ピ』掲載する。
【1996 年 2 月】
《ディスクリプション化現出》
月刊コロコロコミック 5、7 月号誌
上で、応募者より抽選で幻のポケ
モン「ミュウ」プレゼントを告知。
次世代ワールドホビー展会場小学
館ブースでケーブル通信から 700
人に「ミュウ」交換プレゼント。
「何かいいことがある」とだけ誌
上で告知し、イベント会場でポケ
モンカードゲームの展示とデモを
行う。
【1996 年 8 月】
赤・緑 100 万本突破記念特別限定
商品として青バージョンを小学館
雑誌による独占通信販売を行う。
【1996 年 10 月】
再度の通信販売。【1997 年 6 月】
《エンティティ化現出》
A/D(アナ・デジ)変換
テレビ東京系列 6 局ネット、地方
局 24 局でテレビアニメ『ポケット
モンスター』を放送開始する(2005
年も放映中の長寿番組)
。
【1997 年 4 月】
テレビアニメ『ポケットモンスタ
ー』ビデオのレンタルを開始する。
【1997 年 11 月】
《ビデオグラム化現出》
イトーヨーカ堂でポケモンカード テレビアニメ『ポケットモンスタ
を目玉とするコロコロホビープラ ー』主題歌『目指せポケモンマス
ザのテレビ CM を製作・配給する。 ター』CD シングルを発売する
(128 万枚のヒット)。
【1997 年 6 月】
小学館プロダクション(小プロ)
がポケモンの版権窓口となる。
【1997 年 3 月:1996 年 10 月に遡
り発効】
小プロがアニメ制作を行い、放送
開始までの制作費用を負担する。
イトーヨーカ堂 138 店舗で流通業
界初の単一雑誌掲載商品展示コー
ナーのコロコロホビープラザコー
ナーを設置する。
【1996 年 10 月】
『劇場版ポケットモンスターミュ
ーツーの逆襲』
『ピカチュウの夏休
み』を東宝系で公開する(配給収
入 48 億円ヒットし、夏の定番映画
シリーズとなる)。
【1998 年 7 月】
アニメスポンサーを原則 1 業種 1
社として、任天堂とそのライセン
シー、メディアファクトリー、ト
ミー、バンダイ、パンプレスト、
永谷園、明治製菓、小学館にする。
表 3 ケータイ小説 Deep Love 事例(2000∼2004)
:メディア変換プロセスと活動連鎖
前活動(pre-activity)
前変換プロセスの後活動
から誘導される活動
主活動(main activity)
本変換プロセスによるリ
アリティ拡大・深化のため
の一次活動
D/D(デジ・デジ)変換
D/A(デジ・アナ)変換
A/A(アナ・アナ)変換
A/D(アナ・デジ)変換
ケータイサイト zavn 設立する。
渋谷センター街で 200 人位の若い
男女の写真を撮り、メッセージを
つけてサイトに掲載をはじめる。
【2000 年 1 月】
連載小説の配信を開始する。一度
に配信可能な 1,600 文字以内の起
承転結をつけた展開の早い文章を
作成する。
【2000 年 5 月】
「第二部ホスト」を配信開始する。
【2001 年 8 月】
「第三部レイナの運命」を配信開
始する。
【2001 年 10 月】
「アユの物語」の連載終了後に読
者の要望を受けて連載内容を変え
ずに文庫本として自費出版する。
【2000 年 11 月】
渋谷センター街中央に読者が集う
ことのできる事務所兼ショップ・
カフェ・イベントスペースを開く。
【2001 年 10 月】
脚本・監督をつとめた劇場版「Deep
Love アユの物語」を上映開始す
る。
【2004 年 4 月】
「アユの物語」のハードカバー版
を自費出版し、ネット販売する。
【2001 年 8 月】
「第二部ホスト」自費出版する。
【2001 年 10 月】
「第三部レイナの運命」自費出版
する。
【2001 年 12 月】
「Deep Love アユの物語完全版」を
スター出版より全国出版する。
【2002 年 12 月】
Yoshi 執筆による書籍、アユや義之
がつけていたペンダント等アクセ
サリーを zavn ショップで販売す
る。
【2001 年 12 月】
ビデオ版「Deep Love アユの物語」
を販売する。
【2002 年 5 月】
劇場版「Deep Love アユの物語」
DVD 販売を開始する。
【2004 年 6 月】
ドラマ版 「Deep Love アユの物語
第 1 巻」DVD 販売する。
【2004 年 12 月】
《オブジェクト化現出》
《エンティティ化現出》
《ビデオグラム化現出》
《ディスクリプション化現出》
副 次 活 動 ( secondary
activity)
主活動を補完するための
二次活動
読者からの感想メールを毎日チェ
ックし、メールから送られてくる
読者からの実話をもとにして、
「ラ
イブ」に小説を構成していく。
アクセス記録を分析し、読者が読
み進むのに壁になったと思われる
言葉は以後使わない等工夫する。
「女子高生の口コミ」からの全国
出版という経過をプレスリリース
する。
Yoshi 自身が、女子高生以外を対象
とする成人向けスポーツ新聞や雑
誌等のインタビューにも積極的に
応じる。
Yoshi 自身が土日等にショップに
顔を出し、来客者にサインを行う。
時間のある場合は、ファンと数時
間話し込む。
後活動(post-activity)
次変換プロセスを駆動す
るための準備活動
zavn メルマガを通じて読者と夢
を約束する。「この小説を本にし
て、ショップを作って、映画も作
る」。
書籍あとがきに、読者からの感想
を受けつけるメールアドレスを付
記する。
東京と大阪の都市圏で年 1 回のパ
ーティ・イベントを主催する。
zavn ショップおよびサイトで、出
演者 オーディションの公募を 行
い、メインキャストを決定する。
【2003 年 9 月】
劇場 版の全国規模上映のため に
100 万人応援メールプロジェクト
を主催する。
【2003 年 10 月】
自費出版した「Deep Love」ハー
ドカバー版を zavn ショップで販
売する。
遡及活動
(retroactivity)
前変換プロセスによるリ
アリティ拡大・深化のため
の貢献活動
書籍の目次のあと、あとがきのま
えに zavn の由来と zavn サイトの
紹介、zavn ショップ開店の予告を
記載する。
ビデオ版「Deep Love アユの物語」
を CS-WOWWOW から R-15 指定で有料
放映する。
【2002 年 8 月】
ドラマ版「Deep Love アユの物語」
をテレビ東京系全国 12 局ネットで
放映する。
【2004 年 10 月】
Yoshi が視聴者にメッセージを自
らの声で伝えるためにドラマ版の
ナレーターと総監修を務める。
zavn ショップのみで販売するシ
ルバーアクセサリーをドラマに登
場するアユと義之が身につける。