修士学位(専門職)請求論文 モバイルビジネスの環境変化とその展望 The change of Environment and the outlook of Mobile business 氏名:車田 貴之 学生番号:7210070109 大学院名:明治大学大学院 研究科名:グローバル・ビジネス研究科 専攻名:グローバル・ビジネス専攻 指導教員名:冨狭 泰 特任教授 2009.01.13 論文要旨 本論文は、急速にグローバル化が進むモバイル(携帯電話)ビジネスについて、通信事業者(以 下キャリア)、端末メーカー、コンテンツプロバイダー(以下 CP)それぞれの視点からの現状 分析を踏まえ、将来展望を述べたものである。 最先端の技術力を結集した日本の携帯電話であるが、世界に目を向けると独自の進化が行き過 ぎ、孤立した実情が見て取れる。世界のモバイルビジネスから大きくかけ離れた方向へ成長を 続ける日本市場に警笛を鳴らしたのは、2008 年夏に上陸したアップル(米国)の iPhone で あった。この iPhone でアップルの仕掛けたビジネスモデルは、端末メーカーによる垂直統合 型モデルであり、日本でのキャリアによる垂直統合型モデルとは考え方を逸するものである。 この 10 年で日本が飛躍的に携帯電話技術で最先端を走り続けてこれたのは、キャリア主導に よるこのモデルの恩恵が大きかったが、ここから生まれていった技術やサービスを世界で展開 するところまで持ち込むことが出来ずに終わってしまった。 同じ様な境遇の韓国では、政府のバックアップの元で端末メーカーの躍進が続く。この先 10 年、市場を勝ち上がっていくために日本が出来ることは、かつてのモノ作りの原点に立ち返る ことである。クリエイター同士がぶつかり合って緻密にモノを練り上げていく、ハードとソフ トによるエクスペリエンスの提供こそが、いま日本のモバイルビジネスには求められている。 キーワード 携帯電話、キャリア(通信事業者)、端末メーカー、コンテンツプロバイダー、モバイルコンテ ンツ、i モード、垂直統合型モデル、ガラパゴス化、おサイフケータイ、CRM、iPhone、SIM カード、Android、ブラックベリー、アライアンス、プラットフォーム、ユーザーインターフ ェイス、エクスペリエンス 目次 [1] 初めに……………………………………………………………………………………… 1 [2] 日本市場の動向…………………………………………………………………………… 2 2-1:全体概要…………………………………………………………………………… 2 2-2:リッチコンテンツの台頭………………………………………………………… 4 2-3:新たな市場戦略…………………………………………………………………… 5 2-4:海外進出の試練…………………………………………………………………… 8 [3] 技術トピックス…………………………………………………………………………… 10 3-1:おサイフケータイ………………………………………………………………… 10 3-2:キッズ・シニア市場……………………………………………………………… 16 3-3:健康サービス……………………………………………………………………… 19 3-4:GPS………………………………………………………………………………… 20 [4] iPhone上陸 ……………………………………………………………………………… 22 [5] SIMカードに見る日本と海外…………………………………………………………… 26 [6] 海外市場の動向…………………………………………………………………………… 28 6-1:全体概要…………………………………………………………………………… 28 6-2:韓国………………………………………………………………………………… 29 6-3:中国………………………………………………………………………………… 31 6-4:米国………………………………………………………………………………… 32 6-5:欧州………………………………………………………………………………… 32 [7] グローバル市場…………………………………………………………………………… 33 7-1:次の10年へ向けた6つの提言………………………………………………… 33 7-2:その1/オープン化 ……………………………………………………………… 34 7-3:その2/PC化……………………………………………………………………… 34 7-4:その3/共通化 …………………………………………………………………… 38 7-5:その4/一体化 …………………………………………………………………… 39 7-6:その5/MUI 2.0 ………………………………………………………………… 42 7-7:その6/ハードとソフトによるエクスペリエンス …………………………… 43 [8] 終りに……………………………………………………………………………………… 45 ※本文中、太字になっている用語については巻末に解説を掲載しています。 [1] 初めに モバイルインターネットの先駆けとなった株式会社 NTT ドコモ(以下ドコモ)の i モードサー ビスが 10 年目を迎え、今や最も身近な距離に存在するメディアとして「ゼロメディア」とも 呼ぶことが出来る携帯電話。この携帯電話の進化に呼応する様に世の中のサービスやインフラ が変化してきている。多くの産業界を巻き込んだこのモバイルビジネスの環境変化は周囲の市 場にどのような影響を与えていくのだろうか。 私がモバイルコンテンツに携わり始めたのは 1999 年 2 月の i モードサービス開始と同じタイ ミングからであった。当時、渋谷で携帯電話販売のアルバイトをしていた時期にこの i モード が登場し携帯電話は「電話」から「情報ツール」への階段を登り始めた。ドコモに先駆けて当 時のディーディーアイポケット株式会社(現在の株式会社ウィルコム / 以下ウィルコム)はイ ンターネットメール送受信に対応しており、i モードも開始当初はメールが独自仕様サービスで はなくインターネットメールであること、これが販売現場からみると唯一の売り文句であった ことが思い返される。それだけ携帯電話で情報を入手するという行為自体が近未来的な使い方 でありユーザーからみてもそれは商品力の強さではなかったのである。 いつの時代も新しい技術や文化はエンタテイン [図表01] デジタル・ムーバ P501i HYPER メントから生まれ育っていく。ポケベルやカメ ラ付き携帯電話がそうであった様に若者が遊び を起点として市場を広げたものはいずれ普及機 能となり文化として成熟する。モバイルインタ ーネットもまたしかりだ。i モードサービス開始 から 3 ヶ月後の 1999 年 5 月、松下通信工業株 式会社(現在のパナソニックモバイルコミュニ ケーションズ株式会社 / 以下パナソニックモバ イル)が発売した「デジタル・ムーバ P501i 出典:NTTドコモプレス資料より HYPER」[図表 01] は初めて「待ち受け画面」機能を搭載した。モノクロ 2 階調の 96 ピクセ ル×95 ピクセル(横×縦)という液晶画面領域でアニメ GIF 対応と、現在からすれば描画機 能はあまりに貧弱であるが、好きなグラフィックを常に画面に表示しておけるというのは先に 発売されていた F501i、D501i、N501i の 3 つの i モード対応端末との決定的な違いでもあっ た。交通情報や天気、ニュースといった「情報」中心だった i モードに自分の携帯電話を着飾 るためのエンタテインメントが登場。私はこの瞬間こそが今に続くモバイルコンテンツ市場が スタートした瞬間であると考えている。株式会社バンダイ(現在のバンダイネットワークス株 式会社)がグループで保有する人気キャラクターを待ち受け素材として有料配信する「キャラ っぱ!」などが盛り上がりを見せ始め、ビジネスの花が急速に開き始めた時期である。 2006 年 1 月 28 日、東日本旅客鉄道株式会社(以下 JR 東日本)とドコモの共同開発により 誕生したモバイル Suica の商用サービスが開始された[図表 02]。「携帯電話で改札を通過出来 れば便利になるだろう」という、いわば未来予想図が現実となったサービスだ。開始に先立ち 1 記者会見した JR 東日本の大塚陸毅社長(当時)は、 「モバイル Suica が普及していけば将来的には券売機がいらなくなる。そのスペースの有効活 用も考えられる。 」 と述べた。これはつまり携帯電話がキップの代わりとなる [図表02] モバイルSuicaロゴ だけでなく、通信でお金をチャージ出来ることに主眼を置 いた発言であり、駅中ビジネスに重きを置く同社の戦略に も追い風となる。このようにモバイルサービスの業界を超 えた広がりは我々の社会環境、分かりやすく言い換えれば 見慣れた風景を一変させる影響力を持っていることを意味 している。世界で見ても最先端の端末とサービスが普及レ ベルで展開されているのはこの日本のみであり、携帯電話 を中軸に据えたコンテンツビジネスは「モノ作り大国ニッ ポン」の誇るべきお家芸と言っても過言ではない。 この 10 年、私はフリーランスのクリエイター、ベンチャ 出典:モバイルSuicaサービス開始プレス資料より ー企業のデザイナー、ゲームメーカーのプロデューサーと さまざまな視点からモバイルコンテンツの現場を見つめてきた。この間に市場を牽引する通信 事業者(以下キャリア)もドコモ以外は名称・資本を替え、そして高機能化の一途をたどる端 末に比例してコンテンツプロバイダー(以下 CP)やサービスが増え、もはや生活シーンで欠 かせないアイテムとなった携帯電話は、他の国々よりも 2、3 年先の未来を次々と現実のもの へと変えてきた。10 年、これを一つの区切りと捉え私自身の集大成として、またモバイルビ ジネスの振り返りとして、本論文では国内外での市場概況をまとめていきながら現在抱える課 題を洗い出し、キャリア・CP・端末メーカーそれぞれの視点から将来の市場環境予測による提 言を行っていこうと思う。 [2] 日本市場の動向 2-1:全体概要 国内携帯電話契約者数は 2007 年 1 月現在で携帯電話が 9,532 万契約、PHS(Personal Handy-phone System)が 491 万契約となっている。2005 年に 9,000 万契約を突破して以 降、明らかに飽和状態にある数字は、堅調に推移しているとはいえ頭打ち感は否めない[図表 03]。 2 [図表03] 携帯電話・PHS加入数と携帯IP接続、3G、3.5G、定額制の契約数推移予測 出典:モバイル・コンテンツ・フォーラムが社団法人電気通信事業者協会と各社発表資料を基に推計 2006 年 10 月には番号をそのままにキャリア変更出来る番号ポータビリティ(以下 MNP) 制度が開始。ドコモから若者に人気のある KDDI 株式会社(au ブランドを展開 / 以下 KDDI) やホワイトプランの登場で注目を集めるソフトバンクモバイル株式会社(以下ソフトバンクモ バイル)に転出する流れが起きたが、この制度を利用したユーザーは全体の 3%程度となり、 シェアを揺るがすほどの動きは極めて限定的だ。 そうした中、2006 年のモバイルコンテンツとモバイルコマースを合算した市場規模は 9,285 億円(コンテンツ:5,624 億円、コマース:3,661 億円)となりいよいよ 1 兆円市場へ突入す る。市場を牽引している「着メロ」 「着うた」 「ゲーム」がそれぞれ 800 億円と横ばいなのに対 し、メール素材市場が 55 億円、電子書籍市場が 69 億円とこれら新しいジャンルの伸びが目 立つ。フルサイズの楽曲を利用出来る「着うたフル」も 237 億円と前年度比で 2 倍以上の成 長率であるが、これは偏に携帯電話端末の第三世代携帯電話(以下 3G)化が進み大容量コン テンツ(以下リッチコンテンツ)が台頭していることを意味している。 3 2-2:リッチコンテンツの台頭 3G は 3rd Generation の略であり、世界共通の通話周波数である 2GHz 帯を採用し高速なデ ータ通信や国際ローミングを利用出来る、国際電気通信連合(ITU)が定めた「IMT-2000 規 格」に準拠した携帯電話のことを指す。日本では 2001 年にドコモが W-CDMA 方式による FOMA での試験サービス開始を皮切りに、同方式で旧ボーダフォン(現在のソフトバンクモバ イル)が 2002 年末に、KDDI は CDMA2000 方式で 2002 年 4 月よりそれぞれサービス開始 している。現在では携帯電話契約数の 80%が 3G 端末へ移行しており[図表 04]、うち 30%が パケット定額サービスに加入している。このことから利用に心理的抑制のあったリッチコンテ ンツの裾野がジャンルの拡大とともに広がってきたという見方が出来る。メール素材はパソコ ンで言うところの HTML メールの素材を配信しているサイトで、通常の携帯電話メールに画像 添付や文字サイズ、背景色などの編集が出来る各キャリアのサービス(ドコモ:デコメール、 KDDI:デコレーションメール、ソフトバンクモバイル:デコレメール)に準拠したサービスだ。 10 代∼20 代前半の女性を中心に利用が拡大しており、無料サイトも台頭するなどかなりの乱 立状態である。 [図表04] 3G、3.5G、定額制市場推移のポイント 3G契約数 定額制加入者数 3.5G契約数 成長期(15%∼) 普及期(30%∼) 50%∼ 2003年10月 2004年12月 2006年2月 2007年3月 2008年9月予想 2009年9月予想 2006年4月 2007年7月 2009年3月 70%∼ 2007年2月 2009年末予想 2010年予想 出典:モバイル・コンテンツ・フォーラムが社団法人電気通信事業者協会と各社発表資料を基に推計 また、電子書籍については出版社を中心に過去の作品をデジタル化して再利用していこうとい う流れが加速しており、片手で見れる気軽さなどから 20 代∼30 代の男女に支持を広げている。 今後の伸び代は大きいものの、過去作品に対するデジタルデータ化の権利関係やその作業に伴 うコスト高など課題も多い。着うたフルについては楽曲視聴を目的として今後も安定的に市場 は伸びていくものと考えられるが、こちらもまた権利関係から楽曲の原盤権を持つレコードメ ーカー以外の参入障壁が高いことや、利益率の低さを理由に爆発的な伸びは期待出来ない。 モバイルコンテンツの中でも画像と楽曲の 2 ジャンルは順調に利用者を増やしてきたが、第 3 のジャンルと言われる動画についてはまだまだ先が不透明だ。通信が頻繁に必要である上に画 質が低い動画コンテンツは、まだ多くのユーザーにとって魅力的なサービスにはなり得ていな い現状がある。自宅で録画した番組を携帯電話やプレイステーションポータブル(以下 PSP) などに入れて持ち歩き、公共交通機関を利用中の空き時間で視聴するといったようなシーンが 増えてきていることから、将来的にはアップル(米国)の展開する iTunes + iPod のようにパ ソコン(以下 PC)を介したサービスとして花開くことになると私は考える。 このような取り組みの一環として KDDI は 2008 年 6 月 3 日、レンタル型動画配信サービス 「LISMO Video」を開始した。これまで動画配信と言えばミュージックビデオのようなショー 4 トムービーが中心であったが、本サービスでは「スパイダーマン 2」「チャーリーズ・エンジェ ル フルスロットル」などのハリウッド映画作品の他、「24-TWENTY FOUR-」などの人気テ レビシリーズ、「水野キングダム」といったバラエティー番組など約 2,000 本を集め、再生期 間を限定したレンタル形式での配信となっている。価格は 210 円∼525 円と携帯電話コンテ ンツ同等の価格帯となっており、ユーザーは PC からダウンロードしたものを携帯電話へ転送 して視聴する。PC からのみ視聴権利の購入が行えることでも分かるとおり、このサービスは アップルと同様に PC を母艦とし必要なものを輸送艦(このケースでは iPod や携帯電話)に 積んで持ち出していく発想をベースとしたビジネスモデルである。au one(http://auone.jp/) というポータルサイトを通じて PC と携帯電話の連携を強めてきている KDDI は、動画分野に おいても au ブランドでしか楽しむことの出来ないコンテンツ流通の仕組みを構築することで 新たな市場を作り出していく構えだ。 2-3:新たな市場戦略 ユーザー数の頭打ちに加え端末が高性能化の一途を辿る現在、コンテンツ制作の現場では開発 費高騰やサービス多様化で事業の利益率が大幅に落ち込んでいる現状がある。4,000 社近い乱 立状態にある CP は今後、資本力のある企業もしくはアイディアで他社よりも抜きに出た企業 のみが生き残る厳しいものとなっていくだろう。また携帯電話だけで展開してきたビジネスを、 携帯電話を含めた複合型ビジネスへと舵を切ることが求められてきているため、他の事業領域 を持たない CP にとってはモバイルコンテンツの扱いが難しくなっていく可能性も高い。 世界累計出荷数が 1,000 万本を超える株式会社スクウェア・エニックスの人気タイトル「キン グダム ハーツ」シリーズ。その最新作「キングダム ハーツ coded」はパナソニックモバイ ル製携帯電話へのプリインストールが決まっており、家庭用ゲーム機向け作品と引けを取らな いハイクオリティのグラフィックや従来作品とのストーリー連動に注目が集まっている。これ までの携帯電話コンテンツは単体プロジェクトとしてそれごとに予算が決まっていたが、家庭 用ゲーム機向けタイトルと同等の開発費が掛かるようになってきた昨今では、単体での黒字化 はなかなか難しくなった。そのため大型タイトルでは、同時期に発売される家庭用ゲーム機の シリーズ作品に組み込む形で、ブランドに紐づいたプロジェクト予算となるケースがある。業 界関係者によると先に紹介した「coded」も、ニンテンドーDS「キングダム ハーツ 358/2 Days」 、PSP「キングダム ハーツ Birth by Sleep」を含めた 3 タイトルが 1 つのブランドで プロジェクト化されているとのことだ。携帯電話へのプリインストール案件では通常、端末メ ーカーから 3∼4,000 万程度の開発費が CP に用意されるケースが多いが、「coded」の場合 はゲーム内容から見て開発費が億を超えると言われている。CP が収益度外視でも携帯電話へ コンテンツ投入する理由としては、ユーザー導線の拡大に加え 6,000 円前後するゲームソフト と比べた場合の購入障壁の低さ、そしてキャリアを通じた携帯電話でのプロモーションに乗っ ていける旨味があるからである。キャリアは自社で「i メニュー」や「au one」といった強力 な広告媒体を所有しており、ここでの商品紹介は数千万円規模の価値がある。こうした告知を 上手く利用し連動する家庭用ゲーム機向けタイトルのプロモーション施策として活用する側面 がある。 5 音楽業界では着うたを使った CD 連動のビジネスが盛んだ。1990 年代後半をピークに CD の 年間売上は下降の一途であり、各レコードメーカーは限定パッケージや DVD の付属など商品 価値を上げていく試みを進める一方で、携帯電話による着うた連携も押し進めている。業界大 手のエイベックス・マーケティング株式会社が展開する音楽配信サイト「ミュゥモ」 (http://mu-mo.net/)では同社グループ企業に所属するアーティストが楽曲配信を行ってお り、CD 発売よりも数週間∼数カ月前に着うたとして先行配信するプロモーションを広く行っ ている。その他、CD 未収録の秘蔵楽曲やアカペラ、ライヴ音源や映像、アーティストの着信 設定用ボイス、インタビューなどで付加価値向上に努めている。また、株式会社ドリーミュー ジックと株式会社ドワンゴ(以下ドワンゴ)は 2006 年 4 月 26 日にリリースされた FUNKY MONKEY BABYS の第 2 弾シングル CD「恋の片道切符」において、ドワンゴの着うたサイト 「いろメロミックス」で同曲の着うたを購入したユーザーに対し、携帯電話ゲーム「FUNKY MONKEY BABYS-恋の片道切符-」をプレゼント。また、同曲 CD を購入すると同封されてい る ID 番号をサイト内で入力することで、FUNKY MONKEY BABYS スペシャル待ち受けがプ レゼントされるという「CD」「着うた」「携帯電話ゲーム」の 3 つを連動させた楽曲プロモー ションを展開した。楽曲の対象が若年層に近いほど携帯電話との親和性も高く、こうした連動 施策が打ちやすいというのも特徴と言える。 各社このような複合型ビジネスによる導線の拡大や顧客満足度の向上、そして自社でしか出来 ない強みをあらゆる形でモバイルビジネス上に発揮していきながら、携帯電話を「1 つのプラ ットフォーム」という独立した見方から「プロジェクトにおけるバトルフィールド(市場)の 1 つ」としてブランドを中軸とした捉え方へシフトし始めていることが分かる。 市場戦略の中でもう一つの視点から考えられるのはブルー・オーシャン戦略だ。コマースやネ ット広告代理店事業などを手がける株式会社ディー・エヌ・エー(以下 DeNA)は、従来キャ リア公式メニューの中をバトルフィールドとして捉えていたモバイルコンテンツビジネスの発 想を転換し、PC では一般化している広告収入による無料サービスを携帯電話へ持ち込んだ。 それが、キャリアとは独立して運営されるいわゆる一般サイトとして立ち上げられた「モバゲ ータウン」 (http://mbga.jp/)という無料 SNS & ゲームサイトであり、2006 年 2 月のサー ビス開始から 2 年 2 ヶ月で 1,000 万会員を集めることに成功している。 「ゲームをするのは有 料で」という概念があった当時、Flash で作られたカジュアルゲームが中心とはいえ、登録す るだけで遊び放題という魅力は 10 代男女から圧倒的な支持を集めた。また、他の登録ユーザ ー同士がコミュニケーションを取ることが出来る SNS や日記と連動していることから、Web 媒体で重要な指数となるアクティブユーザーやページビュー(以下 PV)を上げることにも成 功し、広告媒体としても成功を収めた。実はこれだけで終わらないところが DeNA の強みであ る。自社で展開する「ポケットアフィリエイト」という広告代理店事業でこのモバゲータウン を媒体として販売。そのインセンティブも収益にした上に、サイト内仮想通貨であるモバゴー ルドを従量課金でも購入出来る仕組みが取られており、 「モバゲータウン」と「ポケットアフィ リエイト」そして「従量課金」という三軸での収益モデルを構築した[図表 05]。 6 しかし現在すでに 20 代∼30 代へ対象会員を広げ 1,000 万登録を超えた上に、ネットの有害 情報から青少年を守ることを目的としたフィルタリング制度の施行で成長が鈍化したことによ り、同社はこうした国内での成功モデルを海外へ向けて導入していく動きを見せ始めている。 2008 年 9 月 16 日には「MobaMingle(モバミングル) 」という iPhone 向けのサイトを公開。 無料ゲームや小説コーナー、アバターアイテムなど「モバゲータウン」のサービスを踏襲して いる。すでに中国北京と米国カリフォルニア州に現地子会社を設立しており、ここを基点に海 外展開を加速させる構えだ。 無料ホームページ作成サイト「魔法の i らんど」を手がける株式会社魔法の i らんどは、 「ケー タイ小説」という横文字小説文化の生みの親とも言える存在だ。1999 年に i モードと PC 向 けサービスとして開始後は、10 代女性を中心とした若年層から支持を集め、日記だけではな く友達との連絡やサークルのサイトとしてなど、ユーザー単位ではなくユーザーの行動属性ご とに利用されるケータイ若者文化の象徴的存在となった。現在では利用者数 600 万ユーザー、 月間 35 億 PV(2008 年 6 月現在)を超える巨大コミュニティサイトへと成長し、このサイト で連載されていた小説「恋空」が 2006 年 10 月 7 日に書籍化されミリオンセラーを記録。2007 年 11 月 3 日には劇場公開され、興行成績 39 億円を叩き出し社会現象となった。このように 同社は無料でサイト(場所)を提供し、そこから生まれたコンテンツを多面的にビジネス化す ることで商品化による版権収益を得る独自のモデルを構築している。 7 Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/)や mixi(http://mixi.jp/)を始めとするユーザー による自発的なコンテンツ創出の仕組みは Consumer Generated Media(以下 CGM)と呼 ばれ、2000 年以降の Web を語る上では欠かせない存在だ。紹介した「モバゲータウン」や 「魔法の i らんど」も携帯電話文化が融合した新しい形の CGM である。総務省統計では 2006 年 3 月末の国内でのブログ利用者数は 2,539 万人となり、一般ユーザーだけではなく芸能人 や政治家など著名人のブログも話題となることが多い。ブログは米国でニュース記事の URL 紹介に記事を付けたものが発端とされ、2003 年に米英がイラク侵攻した際の現地報告がブロ グとして大きくメディアに取り上げられ、話題となったことが思い出される。こうした米国初 の文化に携帯電話からの写真投稿や絵文字、また時間や場所を問わず投稿出来る仕組みといっ た日本独自の文化が融合して現在のブログを形作っている。 このようにモバイルコンテンツ市場は CP が一方的にコンテンツ供給するのではなく、ユーザ ー側もコンテンツ創出するという表裏一体の分野へと変貌を遂げている。こうした市場環境の 変化に上手く乗ったのが「モバゲータウン」や「魔法の i らんど」のような新興サイトであり、 キャリアによる垂直統合型モデルの中で成長を続けた携帯電話のコンテンツビジネスは 10 年 目の今大きな節目を迎えている。国内で新たな形の収益モデルを確立するか、国内で成功した ビジネスモデルを海外へ輸出するか、CP は次の 10 年を乗り越えていくために大きな岐路に立 たされた。 2-4:海外進出の試練 日本ではドコモが行ってきた垂直統合型モデルにより生み出された i モードがコンテンツ市場 を牽引しビジネスとして大成功を収めた。専用ネットワーク内でドコモ自身が認可したサイト およびコンテンツの配信から利用料金の代行課金までを、一気通貫で行えるシステムが高い評 価を受けたためだ。2006 年 1 月時点で i モード登録者数は 4,500 万契約を超え、ドコモは単 独のワイヤレスインターネットプロバイダーとしては世界一位である。そうした中でドコモは この i モードビジネスを海外へ展開するべく、2000 年頃よりアジアやヨーロッパを中心とし た海外キャリアに向けた投資を活発化した。これは出資者という立場を通じてモバイルインタ ーネットにおける仕様に自社技術を導入してもらうことを狙いとした戦略であった。しかし海 外ではすでに WAP(Wireless Application Protocol)と呼ばれるインターネット閲覧方式が 標準化されており、またメールについても、MMS(Multimedia Messaging Service)とい うユーザーが任意に選択したメールのみを受信するという方式が広く採用されていた。このよ うに業界標準規格がある中で独自規格である i モードが浸透することはすでに難しい状況とな っており、ライセンス提供がされた地域でもその後のユーザー利用に繋がっていないことに加 え、出資比率が当初の予定よりも低く収まったことでドコモの影響力が仕様導入に結び付かな かったケースもあり海外 i モードは成功事例が無いに等しい。 海外のモバイルコンテンツ市場に目を移すと、欧米を中心に成長が続いている。カラー液晶を 搭載するなど高性能端末も増えてきておりゲームや着メロなどの利用が増加傾向にあることか ら日本での 6、7 年前の市場環境に似ているとも言える。そうした中で CP は海外展開を進め 8 ているがこれも上手くいっていない。国内では月額課金が主流となっているが、これは 300 円 前後という安い価格帯で提供する代わりに、長い期間登録して遊んでもらうことで CP は売上 予測の立てやすい安定したビジネス展開を行えることがメリットとなっている。一方、海外で はアジアの一部地域を除いてはほぼ全域が従量課金である。これはコンテンツをダウンロード したらユーザーはそれを無制限に遊び続けられるいわゆる売り切り方式だ。この場合、継続利 用が見込めない上に、売り切りとはいえモバイルコンテンツに 2,000 円や 3,000 円といった 価格設定は難しく、かつ購入したユーザーが再度興味が湧いたとしてもそのコンテンツからサ イトに戻ってくるための導線がないという課題がある。 配信から代行課金までの一貫したシステムとなっている日本とは違い、海外は CP とキャリア の間に ISP(Internet Services Provider)が仲介し、代行課金もキャリアではなく専門企業 が間に入る[図表 06]。その手数料も然(さ)ることながら、いくらコンテンツに魅力があって もキャリアと CP の距離が広がれば配信時の意向が届きにくくなり、最終的にユーザーの目に 触れる機会損失にもなりかねない。 海 外 で は 通 信 方 式 も 第 二 世 代 ( 以 下 2G ) の GSM ( Global System for Mobile Communications)方式が主流であり、パケット定額もなく、SMS(Short Message Service) によるコンテンツ添付が中心と、日本での最先端のビジネスモデルがまったく通用しない独自 のビジネススキームがすでに出来上がってしまっている現状となっている。 日本同様に海外戦略が立ち遅れている国がある。2G に日本同様 GSM 方式を採用しなかった 隣国の韓国だ。韓国では SK テレコム、KTF、LG テレコムの 3 つのキャリア(詳しくは [6] 6-2 項で記載)があり、従来バラバラであったキャリア間のプラットフォームを統一し CP の制作 コ ス ト や 端 末 の 開 発 費 抑 制 を 目 的 と し た WIPI ( Wireless Internet Platform for Interoperability)という独自のプラットフォームが作られた。これは韓国電子通信研究院が主 導する「韓国無線インターネットフォーラム」が策定し、2005 年に韓国政府の情報通信部で 国内標準として採択されたプラットフォームで、現在韓国国内の携帯電話への搭載が義務化さ れている。韓国ではこの WIPI を中長期戦略として世界規格へ育てていくことを狙っていたが、 海外では携帯電話端末メーカー最大手ノキア(フィンランド)傘下のシンビアン(英国)製 9 「Symbian OS」やグーグル(米国)の「Android」といった強力な携帯電話プラットフォー ムが台頭し、タッチパネル操作で話題となったアップルの「iPhone」といった大ヒット端末が 登場するなど、急速にグローバル化が進む市場環境変化により、2008 年 12 月の放送通信委 員会の全体会議において WIPI 義務化の廃止を決定した。これにより 2009 年 4 月以降、WIPI 搭載を各端末メーカーの判断に委ねられることとなる。韓国では WIPI に絡み iPhone は未だ発 売されていないが、今回の廃止により日本同様に仕様を変えず投入されることになると思われ る。プラットフォームに関する詳細は[7]7-3 項にて触れるが、日本や韓国で取られた独自プラ ットフォーム戦略は市場立ち上げ時の短中期的にみた場合、他からの参入障壁も高く国益にも 沿う非常に良いモデルと言える。しかし中長期的にはクローズドモデルが行き過ぎ、技術やサ ービスが国内市場で独自の進化を遂げてしまい世界標準からかけ離れてしまう所謂「ガラパゴ ス化現象」が起こるため、世界で戦えない状況を作り出してしまうことにも繋がる。 [3] 技術トピックス 3-1:おサイフケータイ ここからは日本の携帯電話に登場している各種新サービスの動向を見ていく。おサイフケータ イは 2004 年 6 月 16 日にドコモが発表した携帯電話に搭載される FeliCa チップ(非接触 IC) を使った決済等のサービス名称である[図表 07]。2007 年度末のおサイフケータイ対応端末の 契約台数は 4,700 万台を超えた。一度でもおサイフケータイによる決済の利便性を体験してし まったユーザーは、機種変更する際にも必須機能として捉えるため、コスト競争の激しい端末 開発においても原価を押し上げる FeliCa とはいえ搭載せざるを得ない要素となっている。 2008 年 7 月に日本へ上陸した iPhone も端末の優れたデザイン性やタッチパネルによるユニークな インターフェイスに興味を引かれたユーザーが、不満要素としておサイフケータイ非搭載を挙 げている。 現在おサイフケータイで使われている主要サービスは JR 東日本の「Suica」、株式会社セブン &アイ・ホールディングス(以下セブン&アイ)の「nanaco」 、ビットワレット株式会社の「Edy」 である。3 社のサービスはもともと IC カードとして利用が始まっていたもので、2008 年 3 月 までの累計発行枚数は「Edy」が 4,000 万枚、 「Suica」が 2,415 万枚、 「nanaco」が 500 万 枚となっている。利用率では「Edy」が 28.2%とトップだが、2 位の「Suica」と互換性のあ る「PASMO」(関東地方を中心とする鉄道・路線バス事業者が加盟する共通乗車 IC カード) の 800 万枚を合算すると 36.8%であり、鉄道系電子マネーの強さが伺える。冒頭で触れた通 り、携帯電話で電子マネーを扱えることはカードを持ち歩かなくて済むばかりでなく、チャー ジを行えることが大きなポイントである。現在、セブン&アイ傘下でコンビニエンスストアの セブン-イレブンでは「nanaco」が、ローソンや am/pm、サークル K サンクスでは「Edy」 が、ファミリーマートでは「Suica」が決済手段として使える。将来的にユーザーがおサイフ ケータイへシフトすることでコンビニエンスストアでの現金の取り扱いをする必要がなくなる ため、防犯に役立つといった見解もある程である。 (現在「nanaco」は店頭でのチャージのみ) 10 08 年 3 月末の電子マネーの発行残高は 771 億円。同時期の現金通貨全体の 0.1%程度に留ま っているが、日銀でも「電子マネーは小口決済手段の1つとして一定の位置を占めつつある」 とのコメントが出されており、おサイフケータイの利用が加速することにより現金通貨の流通 にも影響を及ぼし始めるだろう。 11 [図表07] 主な おサイフケータイ対応サービス一覧 サービス名 提供事業者 業種 Edy ビットワレット ANAモバイルAMCアプリ 全日本空輸 会員証 航空券 club apアプリ am/pm 会員証 eLIOモバイルサービス ソニーファイナンス クレジットカード セガ モバイルフレンズ セガ 会員証 ビックポイント機能付き ケータイ ビックカメラ 会員証 vitアプリ TOHOシネマズ チケット発券 Mobile J-WAVE PASS J-WAVE チケット発券 club DAM MEMBERSアプリ 第一興商 会員証 ゴールドポイントカード ヨドバシカメラ 会員証 マツキヨポイントアプリ マツモトキヨシ 会員証 Cmode(シーモ2) コカ・コーラ 電子マネー GEOモバイル会員証 ゲオ 会員証 かざポン フェリカネットワークス PC連携 kesakaサービス KESAKAシステム 電子錠 Smartplus(VISA TOUCH) 三菱UFJニコス クレジットカード JAL ICサービス 日本航空 FeliCaポケットモバイル ソニー 電子マネー 航空券 トクトクポケット NEC 会員証 QUICPay モバイル ジェーシービー クレジットカード プラスモバイル for Edy-Style サイバード 会員証 TOWNPOCKET テックファーム 会員証 モバイルい∼カード 伊予鉄道 乗車券 ホークスICチケット 福岡ソフトバンクホークス マーケティング チケット ジード 電子カード トルカ NTTドコモ 電子カード iD NTTドコモ クレジットカード モバイル長崎スマートカード 長崎バス協会 乗車券 モバイルSuica 東日本旅客鉄道 モバイルNicoPa 神姫バス 乗車券 電子マネー 置くだけ認証 BIGLOBE ユーザー認証 MoCoCa NTTビジネスアソシエ 電子錠 χsmart(カイスマート) NTTテレコン オフィス総合認証 WonderGOOモバイル会員証 ワンダーコーポレーション 会員証 ゆめピッと イズミ 会員証 auケータイクーポン KDDI 電子カード ピットモット フェリカネットワークス nanacoモバイル セブン&アイHLDGS. 会員証 チケット発券 ぐるなびタッチ ぐるなび 電子カード モバイルWAON イオン 電子マネー タッチャン ipoca 電子カード かざしてスタンプ ラージヒル スタンプ&ポイント 楽天アプリ 楽天 会員証 Tポイントアプリ Tカード・アンド・マーケティング 会員証 ポコカ 電子マネー 会員証 乗車券 電子マネー 出典:Wikipediaより 12 おサイフケータイはマーケティングツールとしての潜在能力も秘めている。これまで携帯電話 向けのプロモーションには、URL や QR コードを経由したサイト誘導およびメールアドレス取 得後のダイレクトメールという、対象商品に対して趣味趣向の高いユーザーに向けた限定的な ものが中心であった。しかし広告商品に対してそれほど興味のないユーザーにとっては、URL の入力や QR コード取得といった「手間」が大きな行動障壁になっていたのである。そうした 中でおサイフケータイの「タッチすれば OK」という利便性を使った新たなマーケティング手 法が広まことによって、ユーザー側の手間の障壁を低くしインタラクティブ・マーケティング の裾野を広げることに寄与する可能性が高いと予想される。 JR 東日本では子会社の株式会社ジェイアール東日本企画を通じて、ポスターに IC リーダーを 搭載し、Suica と連動する「SuiPo」 (スイポ)の導入を 2006 年より進めている。ユーザーは 気になる商品のポスターを見かけた場合、携帯電話をタッチするだけで URL や商品情報、ク ーポンといったものを携帯電話へ取り込むことが出来る。これだけ敷居が低ければマス媒体と しての意味を持ってくると言える。また Suica は交通機関向け電子マネーであり、山手線の場 合ピーク時には 1 時間で 83,000 人強を自動改札で処理しなければならないため、他社の電子 マネーと比べ圧倒的に決済スピードが速いという優位性がある。駅張りポスターという性質上、 ユーザーに情報を渡すチャンスは一瞬であるため Suica の特徴とマッチしたサービスである。 株式会社ぐるなびの運営するグルメ情報サイト「ぐるなび」では、2007 年 9 月から「ぐるな びタッチ」というサービスを開始している。ぐるなびに加盟している約 60,000 店舗のうち優 良顧客の約 10,000 店舗に対して IC リーダーが無償配布されており、店舗では電源にこのリ ーダーを接続してレジに置いておくだけでよい。ユーザーはこのリーダーを通じて来店スタン プや特典が得られる。クーポン情報やスタンプ情報はすべて携帯電話の中ではなくサーバー上 に置かれている。携帯電話でぐるなびタッチのサーバーにアクセスする手間が必要な半面、ア プリのダウンロードが不要でかつキャリアを問わない仕組みになっているのが特徴だ。サーバ ーはぐるなび側で管理しており、来店回数や店舗など IC を通じて携帯電話端末にひも紐付けら れるため、店舗側にはユーザー行動パターンを知るツールとしてのメリットがある[図表 08]。 いまやおサイフケータイは CRM(Customer Relationship Management)の新しい形とし ても注目を集めている。 13 日本マクドナルドホールディングス株式会社(以下マクドナルド)はドコモと会員組織向けプ ロモーション活動の企画・運営を行う新会社 The JV 株式会社(以下 The JV)を 7 月 31 日 に 設立 。 マク ド ナル ド が 2003 年 7 月 よ り運 営し て いる 「 トク す るケ ー タイ サ イト 」 (http://w.mdj.jp)では店頭で見せるタイプの電子クーポンを提供しており、サイト会員はす でに 2008 年 4 月時点で 1,000 万人となっている。それを進化させた形で 2008 年 5 月 20 日より The JV が福岡県・佐賀県・鹿児島県、荒尾市(熊本県) ・日田市(大分県) ・下関市(山 口県)のマクドナルド 175 店舗の試験サービスを皮切りに現在首都圏でも展開されているのが、 おサイフケータイ対応の会員向けサービス「かざすクーポン」だ。この「かざすクーポン」は 従来の携帯電話のクーポン画面を店頭で見せるという行為をおサイフケータイに代用したもの であり、ユーザーは「トクするケータイサイト」から「かざすクーポン」アプリをダウンロー ドしておき、使いたいクーポンを IC 側に書き込んでおく。店頭ではレジ横に置かれている IC リーダーに携帯電話をかざすだけでレジにクーポン情報が送信され、あとは会計を済ませれば よい。この仕組みによりマクドナルドは会員番号と購買履歴の収集が可能になり、この顧客情 報の蓄積で会員の嗜好や店舗利用ニーズに応じたクーポンの提供などが行える。またユーザー は従来のクーポンと違いかざすだけで済む利便性の高さに加え、将来的に導入が予定されてい るポイントプログラムへの参加も出来る。以下は日本マクドナルド 取締役上席執行役員 兼 The JV 代表取締役社長の前田信一氏による 5 月 20 日の「かざすクーポン」発表会でのコメ ント。 「お客様とのコミュニケーションや来店の動機付けといったマーケティングの基本部分におい て、従来のテレビなどのマスメディアのみに頼っていた形態から変化をせざるを得ない状況に あります。携帯電話を使った e マーケティングは、マスマーケティングに比べてはるかに短時 14 間で準備ができ、その上で柔軟なセグメント戦略で展開できます。また、お客様のフィードバ ックもすぐに得られますから、状況に応じてマーケティングの軌道修正も可能です。こうした 点でよりきめ細かくお客様にサービスが提供できるのです。 」 携帯電話の画面にクーポンを表示する従来の電子クーポンの準備期間や展開は、新聞折り込み など紙ベースのクーポンに比べて 10 倍以上のスピードがあり、おサイフケータイと POS 連動 のサービスへ昇華させることでユーザーの利便性をさらに向上させることが出来る。今回のお サイフケータイ対応サービスにより同社は One-to-One マーケティングによる新規需要の創出 を狙う構えだ[図表 09]。 [図表09] マクドナルドが考えるeマーケティングの可能性 準備期間 効果の反応 カバーエリア マスマーケティング 長い 早い 広い 店舗ごとのマーケティング やや長い 長い 狭い eマーケティング 短い リアルタイム 柔軟(狭∼広) 出典:2008年5月20日「かざすクーポン」発表会資料より このようにおサイフケータイは決済手段とマーケティングという 2 つの側面を切り口に携帯電 話による「情報管理」という流れを加速させている。IC カードは大学の学生証や企業の社員証 にも使われ始め、マンションの鍵といったセキュリティ分野でも注目され始めている。パスポ ートや免許証などの身分証にも IC 導入は進んでいるが、カードとしてバラバラに所有すること をユーザーは望んでおらず、将来的には携帯電話での一元管理の方向へ進んでいくと考えられ る。これらのノウハウも持たない官庁とモバイル向けソリューションを展開する企業が手を組 むような産業構造の変化も訪れるのではないだろうか。 国内ではようやく生活インフラとして定着してきた感のあるおサイフケータイであるが、いっ そうの市場拡大を狙った海外戦略も始まってきている。国内ではおサイフケータイにも採用さ れているソニー株式会社(以下ソニー)の FeliCa がトップシェアであるが、世界に目を転じて みるとフィリップス(オランダ)の MIFARE がトップシェアとなっている。IC カードと IC タ グの総合展「IC CARD WORLD 2007」のソニーブースではソニーとフィリップスによる近距 離無線通信規格「NFC」(Near Field Communication)のデモンストレーションが行われて いた。NFC は 2003 年、 「ISO/IEC IS 18092」として国際標準規格に承認されているもので、 FeliCa や MIFARE と同じ 13.56MHz の電波を用いる近距離無線通信規格である。NFC チッ プは無線通信機能を担当し FeliCa と MIFARE の上位互換として設計されているため、それ単 体では FeliCa も MIFARE も動作しないが、こうした決済などセキュアな処理が必要になる機 能を別チップで盛り込むことでおサイフケータイにも対応する。つまりこの部分が FeliCa にな れば日本で、MIFARE になれば海外で利用出来ると言うわけだ[図表 10]。ソニーでは FeliCa と MIFARE を 1 チップ内で実現するセキュア IC チップの開発に、フィリップスの半導体部門 が独立して出来た NXP セミコンダクターズ(オランダ)との合弁会社モベルサ(オーストリ 15 ア)を設立し、グローバル戦略に布石を打っている。 3-2:キッズ・シニア市場 携帯電話の普及台数がすでに飽和状態の中、各キャリアは新たな市場開拓の一環として家族割 引などのサービスを軸にキッズ向けとシニア向け端末の開発に力を入れている。家族が防犯・ 安全対策から、連絡手段として子供や高齢者へ携帯電話を持たせたいという意識も高まり始め ており、現在では国内での新規顧客獲得の主戦場といっても過言ではない。 実際にこれらの層がどのようなサービスを利用しているのかを見ていくことにする。19 歳以 下では「メール」「Web の閲覧」が際立って高く、その他では「着メロ」や「ゲーム」といっ たコンテンツが並ぶなど多様性を見せる。一方の 60 歳以上の高齢層では「通話」が利用の中 心であり、他では「時計」「アドレス帳」といった携帯電話の基本機能程度となっている[図表 11]。こうしたニーズはキャリアの端末戦略にも大きく影響している。 16 [図表11] 若年層と高齢層別 利用機能・サービス(複数回答/全体順位20位まで) 100% 90% 80% 70% 全体 19歳以下 20∼29歳 50∼59歳 60歳以上 60% 50% 40% 30% 20% 10% 辞 書 覧 子 プ リ ブ ロ グ や 電 生 閲 再 S N S の 用 音 楽 影 ) の 外 以 ビ ( ゲ ー ム ー 利 撮 ー の ー ) ゲ ( ム 画 動 R コ Q ア や た し ー ド コ 利用サービス ダ ウ ン ロ ー ー バ ム り ー 読 み ど な ー ド ラ ー ュ ジ ケ ド ス の カ レ ン ・ ー 着 や ロ 取 ダ 帳 用 メ モ の た の う 真 写 た 着 メ し 利 送 信 ス 帳 閲 覧 レ ド 電 卓 の eb ア 撮 影 カ W 計 計 時 ま 目 覚 真 写 し 時 ) の 撮 影 信 受 の ー ル メ の メ ラ ( 通 ル ー メ 送 信 話 0% 出典:平成18年度一般向けモバイル利用調査より シニア向けではドコモが 1999 年より「らくらくホン」(初代はパナソニックモバイル製、以 降は富士通株式会社製)のブランドで 50 代以上の高齢者層にターゲットを絞ったシンプル操 作が売りの商品が注目されている。ボタンとその数字は大きく配置され、ディスプレイも文字 が大きく表示される。またあらかじめ家族など特定の連絡先を 3 カ所登録でき 1 ボタンで発信 するなど、複雑化した携帯電話を「通話」という電話の原 点に回帰したコンセプトである。一方のキッズ向けもシニ [図表12] キッズケータイ SA800i アと同じ様に親が子供の外出時の連絡手段として持たせる ケースを想定しており、防犯機能がハード・ソフトの両面 で組み込まれている点が特徴だ。ドコモの SA800i(三洋 電機株式会社製)[図表 12]では、端末自体に防犯ブザー 機能が内蔵されており、約 100 デシベルのアラームで危 険を知らせるとともに指定 3 カ所への電話発信や GPS (Global Positioning System)による位置情報送信を行 えるなど、携帯電話のネットワークを生かしたサービスが 端末と融合している。 出典:NTTドコモプレス資料より キッズ層への携帯電話普及の高まりとともに課題となっているのが「出会い系サイト」などの 有害サイトだ。こうしたサイトを通じて事件に巻き込まれるような事例が後を絶たないことか ら、総務省が 2007 年 12 月 10 日に行った「青少年が使用する携帯電話・PHS における有害 サイトへのアクセス制限の強化要請」に合わせる形で、ドコモが「キッズ i モードフィルタ」 「i モードフィルタ」「時間制限」、KDDI が「EZ 安心アクセスサービス」、ソフトバンクモバイル が「ウェブ利用制限」「Yahoo!きっず」という名称で有害サイトへのアクセス制限を行うフィ ルタリングサービスを開始している。これらのサービスは未成年者の名義で新規契約する場合 に、親権者にフィルタリングサービス利用意向の確認を行うというもの。既にインターネット サービスを利用している未成年名義契約者でフィルタリングサービスを適用していない場合に 17 は、請求書同封物やメールなどで親権者に対してフィルタリングサービス利用の意思確認を行 う。フィルタリングではキャリア公式サイトへのアクセスは原則可能(グラビアやギャンブル などの一部カテゴリは NG)となっているが、一般サイトへのアクセスはネットスター株式会 社のフィルタリングデータベースのうち、出会い系やアダルトなど成人向けに指定してあるサ イトの閲覧が出来ない。このため自由に書き込みなどが行えるコミュニティサイトなどは一斉 にフィルタリング対象となったことで、業界全体にサイト監視体制強化の取り組みが広まるき っかけにもなった。 キッズやシニア層への安心・安全を対象にしたサービス拡充の動きはキャリアだけではない[図 表 13]。国内警備サービス業界首位のセコム株式会社が提供している「ココセコム」は、専用 端末もしくは GPS 搭載携帯電話で利用出来るセキュリティサービスだ。契約者専用ホームペ ージにアクセスし契約番号や暗証番号などを入力することで検索対象者の現在地を簡単に知る ことが出来る(最良の条件下であれば 5∼10mの誤差で位置確認が可能)。また電話を通じた オペレーター対応も行い、現場急行サービスの要請をする場合は緊急対処員が待機している全 国 2200 ヵ所の緊急発進拠点の最も近い位置から迅速に駆けつける。携帯電話の GPS 機能と 警備会社のネットワークを生かしたサービスだ。 小田急電鉄株式会社では小・中学生が小田急線の自動改札機を通過した際に、保護者に改札通 過情報をメールで通知するサービス「小田急あんしんグーパス IC」を 2007 年 12 月 12 日よ り開始している。これは通学に IC 乗車券「PASMO」を利用し事前登録したユーザーが対象で 料金は 1 カ月 525 円。以前より磁気定期でも提供されていたサービスが「PASMO」対応した 形となる。子供の位置情報をユーザー自らが取得しにいく GPS サービスと比べ、こちらは通 学路の行動記録を自動配信する受動的サービスのため、小田急線のみという限定された利用範 囲に課題があるものの交通機関ならではの新しいアプローチと言える。 18 3-3:健康サービス 携帯情報端末を使った健康サービスへの取り組みも加速している。キャリアの公式サイトカテ ゴリで健康・ヘルスケアに登録されているサイト数は、 2007 年1月現在でドコモが 26 件、 KDDI が 89 件と前年度と比べ倍増している。ただ、こうしたサイト急増に反して実際のユーザー利 用には結びついていない現状もある。健康管理支援サービスの利用状況アンケートでは利用し たユーザーの割合は全体の 0.3%ほどであり、これは前年度の 0.8%からさらに落ち込んでい る[図表 14]。最近では万歩計データを PC と繋いで健康管理したり、アップルとスポーツ用品 メーカーのナイキ(米国)が共同で、iPod と専用シューズの無線連動により運動距離や時間、 消費カロリーなどを iPod に表示させる商品が話題になるなど、携帯電話のみならず多くのデ バイスを通じて多様な健康サービスが展開され始めていることも要因と言えるだろう。しかし 2008 年から生活習慣病に繋がりやすいとされるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群) 対策の一環で、企業も社員に対して健康指導義務が出てきたこともあり、この分野における携 帯電話の可能性は今後も非常に高いと言える。 19 [図表14] 禁煙やダイエットなどを支援する健康管理支援サービスの利用状況 3.8% 4.0% 3.5% 2.9% 3.0% 2.5% 2.0% 2.1% 利用した 今後利用したい 1.6% 1.5% 1.3% 1.2% 1.0% 1.0% 0.5% 2.0% 0.3% 0.4% 0.6% 0.3% 0.2% 0.0% 全体 男性 女性 10代 20代 30代 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 40代 50代 60代以上 出典:平成18年度一般向けモバイル利用調査より 健康サービスへの取り組みをもっとも強く進めているキャリアが KDDI である。2008 年 1 月 31 日 よ り 、 ラ ン ニ ン グ や ウ ォ ー キ ン グ 時 の コ ー ス や 消 費 カ ロ リ ー な ど が 確 認 で き る 「Run&Walk アプリ」と、携帯電話と PC を連動しトレーニングをさらに充実させるサービス 「Run&Walk サイト」を軸とした「au Smart Sports」の提供を開始した。このサービスの 考え方のベースとなっているのは「健康」ではなく「音楽」であり、着うた市場を LISMO な どで切り開いてきた KDDI が音楽の利用シーンの新しい形として「スポーツ」を組み合わせた ものである。しかし KDDI は健康に気遣う幅広い層に対しても本サービスを拡販していきたい 狙いがあり、GPS を生かしたランニングコースの提供や、他のサービス利用者が今どのぐらい 走っているのかを確認出来るなど、携帯電話ならではの共有感を感じられる機能を武器にユー ザーを育てていきたい考えだ。 3-4:GPS 総務省が 2007 年 4 月に施行した事業用電気通信設備 規則では携帯電話からの緊急通報機能の充実を目的に、 以後発売される 3G 端末は原則として GPS モジュール の内蔵が義務付けられた[図表 15-1]。これは携帯電話 からの 110 番や 119 番などの緊急通報が急増してい るものの通報者が場所を特定できないケースが多くあ ったためで、この解決のため携帯電話へ GPS を搭載し、 緊急通報時に場所情報も合わせて警察・消防・海上保 20 安本部に自動通知する仕組みの構築が進められている[図表 15-2]。警察庁通信施設課によると 「2008 年春には全国に 52 カ所ある 110 番通報の受信拠点のうち半数への導入を目指す」と コメントしており、まだ一部地域での運用に留まっている現状もある。 株式会社ナビタイムジャパンが手がける携帯電話向け GPS を使った総合ナビゲーションサー ビス「ナビタイム」は 2007 年までに 200 万人が利用登録しており、GPS 義務化により最も 追い風となるコンテンツと言われている。同社は大西啓介社長が大学在学中に研究した探索ア ルゴリズムを、携帯情報端末向けにライセンス提供始めたことが創業のきっかけとなっており、 2001 年 12 月に KDDI 向けのサービスで携帯電話事業へ参入した。ナビタイムの特徴は「時 刻表」と「道路属性」という移動手段をコントロールする 2 つのデータベースを、同時に 1 つ の経路探索エンジンで検索することが出来る点だ。また、すべてを端末で処理するカーナビや、 サーバー上で処理する Web アプリケーションと比べ、描画機能や音声ガイダンスなど最低限 は携帯電話端末側で用意し、その他最新情報をサーバーから引っ張ってくるという分業の部分 が他社にない強みと言える。こうしたリアルタイム情報の提供により渋滞情報や駐車場の空き 状況といった鮮度の高い情報を、経路と合わせて検索することが出来るわけである。ASP とし ても提供されており、例えば就職情報サイトの「リクナビ」ではセミナー会場までの道のりを ルート表示したり、グルメ情報サイト「ぐるなび」でのお店までのルート検索付き地図などが それにあたる。常に身に付けている携帯電話 GPS は、カーナビが対象とする自動車道路の道 21 案内だけが役目ではなく、個人の行動範囲の情報をあらゆる確度からサポートする。そのため 地図には目的地までの道のりだけではなく、そこに屋根があるのか、坂があるのかなどの情報 を基に、ユーザーが距離以外に経路属性からも検索が出来る様に工夫されている。これを突き 詰めていけば、「本を買って、食事をして、ハチ公前で 18 時に待ち合わせ。 」というような、1 日の行動をナビゲートする検索も不可能ではない。ナビタイムでは鉄道遅延情報や航空券予約 などのサービスを拡充しており、生活に欠かせないツールとしてその地位を固め始めている。 現在では日本だけではなく、中国やタイなど 27 カ国でサービスを提供しており、さらにナビ タイムの市場拡大は続きそうである。 CEATEC JAPAN 2008 ではドコモが開発した位置情報を活用する情報配信システム「次ナビ」 を利用し、JTB グループで出版事業を行っている株式会社 JTB パブリッシングと共同で「るる ぶ mobile アプリ」の展示を行っていた。これは位置情報に連動した情報配信の仕組みとグル メやレジャー、イベント情報などを組み合わせたソリューションで、ユーザーの行動履歴や属 性等に基づいて推奨する情報をタイムリーに提供することを目的としている。また、コマース サイトなどで見られる「○○を購入した方はこのような商品も購入しています」といういわゆ るレコメンドと同様、計測した位置情報履歴を基に「○○を訪れた人はこんなスポットも訪れ ています」といった表示も可能だ。 自動車と歩行の最大の違いはその自由度である。目的が明確で駐車場が必要な自動車と違い、 歩行の場合はプライベートに限ればかなりアバウトなものだ。そのためその個人に訴求出来る 情報を与えることが出来れば誘導も容易なのである。従来のモバイル広告と上記のような位置 情報をベースにした広告とが決定的に違うのは、対象となる商品が携帯電話サイトではなくリ アル店舗であることと、広告対象者の「場所」が特定されている点である。「サイト」「ワンセ グ」に次ぐ携帯電話第三のメディアとして GPS コンテンツが名乗りを上げる日もそう遠くな いと考えられる。実際に商品を見て買いたいというユーザーはネット世代にも多いと想像され、 外出時にわずかな時間の余裕を利用して近隣の店舗に寄ってみることが気楽にかつ確実に出来 ることから、バーチャルな店舗に対抗してリアルな店舗側からネット戦略を展開する場合のイ ンフラ構築の一端として捉えることも出来る。 [4] iPhone 上陸 ここからは端末メーカーを取り巻く環境について触れていく。アップルが 2007 年 1 月 9 日に 発表し、米国で話題となった全面タッチパネルを要したスマートフォンの第三世代携帯電話モ デル、通称「iPhone 3G」 (以下 iPhone)が日本で 2008 年 7 月 11 日よりソフトバンクモバ イルより発売された。これまでもタッチパネル操作の携帯電話は存在していたが、iPhone 最 大の特徴はマルチタッチに対応し、フリック(はじく)、タップ(軽く叩く)、ピンチ(つまむ) による 3 種類のシンプルな動作で直感的操作を実現している点にある。 22 この第二世代の iPhone は世界 21 か国で同時に発売されたが発売 3 日間で 100 万台を売り上 げる記録的なヒットとなった。内 6 割が米国での売り上げだが、続く 2 位には 7 万台で日本、 続いてドイツ、フランスとなっている[図表 16]。発売前後にはソフトバンクモバイルの基幹シ ョップである表参道店に行列ができ、マスコミがその様子を大々的に伝えるなどの盛り上がり を見せたことが思い出される。 (万台) 60 [図表16] iPhone 3Gの初期出荷100万台の国別内訳 60 50 40 30 20 6.9 6.7 5.5 2.9 1.6 1.5 1.1 1 ナ ダ キ シ オ コ ス ラン ウ ェ ダ オ ーデ ー ス ン フ トリ ィ ン ア ラ ン イ ド タ リ ベ ア ル ノ ギ オ ルウ ー ー ス ェー ト ラ ポ リア ル ト ガ ル ス デ イス ン ア マー イ ニ ュ ルラ ク ー ジ ンド ー ラ ン ド 0.9 0.9 0.8 0.7 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.2 メ 英 国 カ イ フ ツ ラ ン ス ス ペ イ ン 日 本 ド 米 国 0 香 港 7 10 Goldman Sachs Global Investment Research統計データより 日本での「携帯電話」という概念を崩す斬新な [図表17] iPhone 操作性とスタイリッシュなデザインにより、業 界のみならず多くの人に強烈な印象を与えたこ の iPhone[図表 17]であるが、実は真に注目す べきは商品そのものではなくビジネスモデルに ある。この「黒船」は確実に日本のモバイルビ ジネスに大きな一石を投じたと言えるだろう。 携帯電話端末から見た場合の日本のモバイルビ ジネスはドコモなどのキャリアが通信方式や端 末仕様などを決め、それに基づいて端末メーカ ーが開発した端末を買い上げ、キャリアブラン 出典:アップル公式サイトより ドとしてユーザーの手に渡っている。コンテン ツ同様キャリアを頂点とした垂直統合型モデル 23 となっているわけだ。しかし今回、日本で iPhone の販売契約を結んだソフトバンクモバイル は、販売代理と通信回線の提供を行っているに過ぎない。これまで長年キャリアが端末メーカ ーを率いる形で市場をけん引してきたわけだが、その慣例から外れ海外同様にアップルが主導 したビジネスモデルでの参入となったわけだ。通常キャリアは自社で開発したプラットフォー ムを一律で端末メーカーに搭載させ仕様の決定権も持つ。これによりユーザーはドコモであれ ば i モード、ソフトバンクモバイルであれば Yahoo!ケータイといった Web サービスや各種コ ンテンツ利用を行え、またそうした利用料を代行課金した一部がキャリアの収益になるパッケ ージされたモデルであった。しかし iPhone はプラットフォームやコンテンツ流通などすべて をアップルが管理して全世界で販売されており、そこにはキャリアが入り込む余地がなくなっ ている。今回、日本での販売権を巡りソフトバンクモバイル以外にドコモも名乗りを上げてい たが、最終的に発売にこぎつけることが出来なかったのも端末メーカーに主導権があることが 一つの要因になっていたとされる。ソフトバンクモバイルから発売された iPhone も Yahoo!ケ ータイによるサービスは利用出来ず端末にソフトバンクモバイルのロゴも入っていない。 総務省所管の社団法人である電波産業会(当時の電波システム開発センター)が定めた通信方 式である PDC(Personal Digital Cellular) 。2G であり、ドコモの mova シリーズなどで採用 されている。ドコモはこの方式を世界に向けて広めていくことを狙っていたが、日本と韓国を 除く世界各国の携帯電話市場の 82%は GSM 方式を採用しており、世界の 212 ヵ国約 20 億 人が利用している。GSM 方式であれば国を跨いでもそのまま同じ端末・番号が利用出来ると いう点からすれば、既に日本のガラパゴス現象化は PDC 方式を採用した段階で始まっていた とも言える。現在 3G では ITU の定めている 2GHz 帯(CDMA 方式)のみで規格統一されて いるため、国内端末もようやく海外でも使える国際ローミングが可能となった。しかし未だに CDMA 方式よりも GSM 方式の方がネットワークが広く、新興国ではより安価な GSM 方式の 端末の方が売れるという事情もあり世代交代は進んでいない。そうしたことから国内で販売さ れている国際ローミング対応端末も CDMA 方式と GSM 方式のデュアル仕様になっているも のが多い[図表 18]。 [図表18] 携帯電話の世代別通信規格一覧 地域 1G 2G 2.5G 3G 3.5G 日本 TACS、HiCAP PDC cdmaOne W-CDMA、CDMA2000 HSDPA 韓国 - - cdmaOne W-CDMA、CDMA2000 HSDPA 北米 AMPS GSM、D-AMPS、iDEN cdmaOne W-CDMA、CDMA2000 HSDPA 欧州 NMT GSM - W-CDMA、CDMA2000 HSDPA 中国 - - - TD-SCDMA、W-CDMA、CDMA2000 - !"#$!%&'()*+,-. 海外では GSM 方式を中心に端末メーカーが販売する携帯電話端末にキャリアが販売する SIM (Subscriber Identity Module Card)カードを挿入して利用するスキームとなっており、キ ャリアと端末メーカーが分業を行っている。そのため日本市場で 15%ほどのシェアで均衡す るシャープ株式会社(以下シャープ)やパナソニックモバイル、日本電気株式会社(以下 NEC) は各キャリアの定める特殊なプラットフォームに合わせた開発を特化するあまり、海外向け製 24 品を新たに独自開発するといった二重投資となっていたことで、先行するノキアやモトローラ のビジネス規模をはるか先方に眺めるだけで、完全に国際競争力を失ってしまった。こうなっ た要因としては端末メーカー各社が市場戦略で日本に特化しすぎたことや、キャリアによる垂 直統合型モデルに固執しすぎた点にあったのではないかと考えられる。 こうした状況下の中、2008 年 3 月 10 日に日本経済新聞がソニー・エリクソン・モバイルコ ミュニケーションズ(スウェーデン / 以下ソニー・エリクソン)のドコモ向け端末供給からの 撤退を報じた。好調の KDDI 向け供給は継続するが、パナソニックやシャープに押されている ドコモ向けからは撤退をし、主力市場である欧米に注力するというのが大方の見方である。し かし同社は依然として撤退報道を否定している。また、2008 年 11 月 27 日にはノキアが日本 市場からの撤退を表明。ドコモとソフトバンクモバイル向けに発売を予定していた端末も直前 になり中止となった。こちらも国内で普及するおサイフケータイやワンセグといった日本市場 固有の機能へ資源を向けることに見切りを付け、スケールメリットを生かしたグローバル戦略 に集中していくということである。ただしこれは端末供給からの撤退であり、2009 年春より ドコモから回線を借りる MVNO(Mobile Virtual Network Operator)でキャリアとして 「VERTU」(ヴァーチュ)というブランドでの富裕層向けサービスを展開する予定となってい る。上記で触れた発売中止のノキア端末「N82」と「E71」はその端末名を見てもわかるとお りドコモやソフトバンクモバイルのプラットフォームが載っていないノキア型番のスマートフ ォンであり、海外ではノキア自身がさまざまなサービスを拡充させていることから、日本でも 自社だけで完結するようなビジネスモデルへの舵切りをしたという見方も出来る。これはアッ プルの iPhone と同様のスタイルだ。ソフトバンクモバイルの前身である旧ボーダフォンが日 本市場から撤退した理由も、同社端末のグローバル戦略に日本市場が合わなかったことが原因 だったことが思い出される。今回、唯一違うのはその主役がキャリアではなく端末メーカーだ ということである。この事態は将来の日本でのモバイルビジネスの方向性を指し示す大きな足 掛かりとなる。 ここからはコンテンツの面を見てみよう。今や携帯電話は家庭用ゲームハードに並ぶ位置付け となり、世界最大のゲームの祭典「TOKYO GAME SHOW」の会場を見ても分かる通り 1 つ のゲーム機として認知されるまでなった。しかし設計は端末ごとにバラバラであり、1 つのプ ログラムが同じキャリア間の端末でそのまま動くことは皆無と言っていい。端末の高性能化に より複数の機種にコンテンツ対応をしていく手間と時間が膨大に膨れ上がったことで、かつて 50%を超えると言われた高い利益率のコンテンツビジネスは薄利へと陥っている。 そこに iPhone が現れた。iPhone は 1 つのハードウェアで世界市場を網羅し、iPod で培った iTunes を間口とした iPhone・iPod touch 向けアプリケーションのダウンロードサービス 「App Store」[図表 19]という仕組みも持ち込んだ。仕様が世界で 1 つということは機種対応という 概念もない。1 つの端末に向けて制作したコンテンツが世界で販売でき、そのチャネルも確保 されている、まさに CP の抱える不満や希望が現実となった端末だ。この、1 つのハード向け に世界で販売するという形は家庭用ゲームソフトの仕組みとも似ており、コンテンツの企画段 階から世界で売れるための企画が必要なのも同じである。キャリアへコンテンツ提案を行った 25 [図表19] App Store およびアイコン 上で承認を受け、制作に取り掛かる従来の日本 のモバイルコンテンツビジネスと iPhone は全 く違うものであることが分かっていただけると 思う。アップルは 2008 年 9 月 9 日に App Store でのアプリケーション販売が 3,000 種 類以上(600 種類以上が無料)提供され、ダウ ンロード数累計が 1 億本を超えたと発表した。 一般クリエイターの作品から大手ソフトウェア メーカーの作品まで幅広く並ぶ商品群は、 出典:アップル公式サイトより iPhone の魅力をさらに引き上げるものであり、 また iPhone の普及が進めば進むほどソフト提供側の対象市場が増えることにも繋がる。昨今、 日本のキャリアから発売される新端末で iPhone を連想させるタッチパネルベースのものを目 にする機会が増えたが、結局のところ端末メーカーが iPhone という「ハード」をどれだけ追 随したところで、機能やコンテンツ流通といった「ソフト」が切り離されている以上追いつく ことは出来るはずがない。iPod+iTunes のハード・ソフトが一体となった仕組みに他のデジ タルオーディオメーカーが淘汰されていったことが今、携帯電話市場でも繰り返されようとし ている現状に日本の端末メーカーはなぜ気付かないのか。日本での慣例をまったく無視したこ の「黒船」の襲来はキャリア主導のビジネスモデルに風穴を開けたと同時に、足下しか見てい なかった日本の端末メーカーに冷や水を浴びせたのではないだろうか。 [5] SIM カードに見る日本と海外 ここまで日本市場におけるモバイルビジネス動向をまとめてきた。 [図表20] FOMAカード 次の項からは海外市場に目を向けていくが、その前に日本と海外 の携帯電話ビジネスの違いを見ていくため SIM カードを取り上げ ようと思う。SIM カードとは GSM 方式の携帯電話で使われてい る固有 ID 番号が記録された IC カードのことで、W-CDMA 方式 でも互換性のある UIM(User Identity Module Card)カードや USIM(Universal SIM)カードが採用されている。これらを含んだ 出典:Wikipediaより 総称として SIM カードという名称が一般化していることから本項でも区別なく SIM カードと させていただく。 SIM カードは「ISO/IEC 7816」規格の接触型 IC カードで外形寸法は幅 15mm×奥行き 25mm ×厚み 0.76mm 程度と非常に小さなものだ。この中に IMSI(International Mobile Subscriber Identity)と呼ばれる固有番号が割り振られており、これと電話番号が記録された言わば回線 契約情報を記録した IC カードである。この情報をキャリアのネットワーク上で結びつけること で始めて携帯電話としての通信が可能になる。日本ではドコモの FOMA が「FOMA カード」[図 表 20]、 ソフトバンクモバイルが SoftBank 3G で 「SoftBank 3G USIM カード」 、 KDDI は CDMA 26 1X WIN で「au IC カード」という名称が SIM カードに付けられている。通常、携帯電話購入 時や機種変更時にはキャリア系列ショップや量販店などで、カード挿入を行った上で端末を渡 してくれるケースが多いことに加え、SIM カード自体がもともと頻繁に抜き差しするものでは ないため電池を外さないと取り出せないようになっていることから、その存在自体を知らない ユーザーも多い。 日本では SIM カードを採用する様になった 3G 移行後も、原則的に SIM カードを他キャリア で販売されている端末に入れて使うことは端末側の設定で意図的に出来ない様にしてある。こ の状態を「SIM ロック」、逆に海外の様にキャリアから SIM カードを購入し、好きな端末メー カーの携帯電話に挿入して自由に利用できる状態を「SIM フリー」と呼ぶ。総務省では 2007 年に諮問グループを発足させ日本での SIM フリーを検討してきたが、ドコモを始めとする 3 キ ャリアはこれに否定的な見解を示しており、最終的には 2010 年頃に開始される第四世代(以 下 4G)までに再検討することとなっている。捕捉になるが、現時点で日本が SIM フリーにな った場合でもドコモ、ソフトバンクモバイルが採用する W-CDMA 方式に対し、KDDI は CDMA2000 方式を採用しているため互換性はない。また各キャリアのプラットフォームにも 互換性がないため、ドコモの SIM カードをソフトバンクモバイル端末に入れても通話以外の一 連ネットワークサービスはメールを含めて利用することが出来ないという課題がある。ただし 同キャリア端末であれば SIM カードの入れ替えで通話・ネットワークサービスなどのフルサー ビスの利用が可能である。例外として KDDI では端末に最初に挿入された SIM カードとの組み 合わせでしか利用出来ず、別の端末で SIM カードを利用するには au ショップで 1 回につき 2,100 円の変更手続きが必要となる。 それではなぜ日本はキャリア限定で SIM ロックされているのか。その答えは販売方式にある。 日本ではキャリアが端末メーカーから携帯電話端末を買い上げた上で、キャリアブランドの端 末としてユーザーの手に渡っている。2007 年より各キャリアは段階的に割賦販売方式へ移行 しているが、それ以前は通信料収入を見込んだ上で販売店がユーザーを新規獲得(1 契約)す るごとに販売奨励金をキャリアが支払う方式が主流であった。これによりユーザーは通常 5 万 円以上する携帯電話端末を2万円前後という安い価格帯で購入出来ていたのである。この契約 者に継続して通信料を払ってもらうことで、キャリアは販売奨励金の元を取り返していくわけ であり、短期間での買い替えで端末購入値段が大幅に高くなるのもこうした理由からである。 このように日本では販売奨励金を中核としたビジネススキームにより、ユーザーの購入障壁を 低くしたことで短期間での市場成長をしてきた。しかしそのために産業構造が海外とはまった く違うものとなっている。この販売奨励金の仕組みは固定電話などで他キャリアの電話回線間 の中継回線を加入者に提供し、通話料金を加入者に請求する「中継電話」と呼ばれるサービス を携帯電話に応用したもので、ADSL や FTTH などのインターネット通信契約でも同様のスキ ームが導入されている。この手法は市場立ち上げ時には顧客獲得に大変有効であるが、携帯電 話については 2000 年以降、通信仕様が 3G で世界と共通化し、国際ローミングも一般化、海 外の端末メーカーの進出やスマートフォンの台頭など、周囲を取り巻く環境が大きく変化して きている中で早期のビジネスモデル転換が必要である。PC はごく当たり前にユーザーが PC 27 端末とインターネット回線をそれぞれ選んでいる。携帯電話もそうあるべきではないだろうか。 i モードの育ての親として知られる夏野 剛氏が 2008 年 5 月、ドコモを退職した。11 年間の ドコモ在籍中に行った彼の仕事の中で「i モード」「FOMA の再生」「おサイフケータイ」とい う 3 つを印象深いものとして挙げている。日本でシェアの約半分を握るドコモが仕掛けた上記 ビジネスは、世の中の生活スタイルを一変させ産業の早期成熟にも大変大きな意味を持ってい る。そんな夏野氏が退職することにした理由として挙げているのが以下の点であった。雑誌の インタビューでこう答えている。 「(アップルの)スティーブ・ジョブズよりも僕のほうが、携帯に関する知識は深いと思う。し かし、ジョブズは CEO で、自分は一役員に過ぎなかった。つまり全社的に陣頭指揮を執ると いうのができなかった。iPhone を見たときに(今の立場では)限界だなあ、というのは感じ た」 今の日本ではドコモはキャリアでもあり端末の共同開発も行う。彼が行ってきた仕事はキャリ アによる垂直統合型モデルから生み出されたものであり、ハードウェアとソフトウェアありき のビジネスでもある。ここで生まれた各種サービスが日本を超えていくことが出来なかった現 状と、それらを牽引してきた夏野氏の退職はまさにキャリアによる垂直統合型モデルの終焉を 意味しているのではないだろうか。優秀な技術やコンテンツを世界に向けて発信していくため には、その世界と同じ枠組みに体制を立て直して向かっていく必要があるだろう。SIM ロック 解除に向けた取り組みが遅くなればなるほど日本の端末メーカーや、それを支える中小の部品 メーカーにとって世界への足がかりがなくなることを意味している。 [6] 海外市場の動向 6-1:全体概要 この項では日本を除く世界市場を「韓国」「中国」「米国」「欧州」の 4 つの地域セグメントに し、それぞれのモバイルビジネス動向を抑えていきたいと思う。日本ではリッチコンテンツの 台頭が進んだことでも分かるとおり携帯電話のブロードバンド化が飛躍的に進んでいるが、海 外ではその進捗はかなりの地域差がある。 韓国では携帯電話加入者数が 2005 年 12 月現在 3,834 万人で 79.4%の普及率となっている。 政府が携帯電話を基盤とした産業発展を強力に推し進めており、どこでもオンラインサービス を受けることが出来るユビキタス社会に向けた取り組みとして「u-Korea」構想を掲げている。 日本同様に W-CDMA 方式による 3G と、その改良版でデータ通信がより高速化されれ 3.5G とも呼ばれる HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)でのサービスが行われてい る。 28 中国では携帯電話加入者数が 2006 年 9 月に 4 憶 5,500 万人となり 33.9%の普及率となった。 2009 年には 6 億人を超えるとされ、3G の独自規格である TD-SCDMA(Time Division Synchronous Code Division Multiple Access)方式により 2008 年 4 月 1 日から北京と上 海、天津、沈陽、広州、深セン、アモイ、泰皇島の 8 都市で中国最大手のキャリア、チャイナ モバイルが試験サービスを開始。中国政府は 2008 年末から 2009 年初めを目途に 3G のライ センスをチャイナモバイル、W-CDMA 方式でチャイナユニコム、CDMA2000 方式でチャイ ナテレコムに対しそれぞれ発行する方針であることを明らかにしている。 米国では携帯電話加入者数が 2006 年 6 月で 2 憶 1,900 万人となり 73%の普及率となった。 2005 年 12 月には米国最大手のキャリア、AT&T モビリティ(当時のシンギュラーワイヤレ ス)が HSDPA による高速データ通信サービスを開始。MP3(MPEG Audio Layer-3)再生 に対応した端末の普及も進み音楽配信ビジネスが急成長をしている。またブラックベリーなど のスマートフォン市場も活況となっている。 欧州では携帯電話加入者数が 2005 年 12 月で 84.5%の普及率となっている。世界で携帯電話 普及率が 100%を超える国は 20 カ国存在するが、実に 12 カ国が欧州地域にあり固定電話を 持たない世帯も多い。3G 導入は 2004 年、その 2 年後に HSDPA のサービス開始となってお りブロードバンド化が進む一方で、固定電話との統合に向けた動きもあるなど携帯電話分野で の先進国と言える。 6-2:韓国 韓国には財閥系の SK グループ傘下でキャリア最大手の「SK テレコム」 、固定電話事業で国内 最大である KT を母体とする「KTF」 、財閥系で LG エレクトロニクスをグループに持つ「LG テレコム」の 3 つのキャリアがサービス提供を行っている。SK テレコムは CDMA2000 方式 による事業展開を軸に、W-CDMA、HSDPA の各種方式でも並行してサービスを行っている。 通話品質の高さから支持が高く韓国内の加入者が 1,800 万人を超え 52%のシェアを持つ。そ れに追随する形で KTF がグループのブロードバンド事業やインターネットポータル事業などと 連携をとりながら、LG テレコムは MP3 データによる楽曲配信サービス「MusicOn」やオン ラインバンキングサービス「BankOn」を国内で初めて投入するなど、先進的なサービスでユ ーザーを獲得している。MNP は日本よりも 2 年以上早い 2004 年 1 月から施行されている。 ただし日本と違い、キャリア変更に伴う番号変更の不便さ解消という目的よりも、LG テレコ ムの寡占状態を改善するための施策として位置づけられていた。これを示す例として MNP 開 始半年間は LG テレコムユーザーのみが対象、そこから半年間は LG テレコムと KTF ユーザー、 それ以降全キャリアを対象としており、加入者が多い順から段階的に施行されていった。シェ ア状況を含め日本と似ている部分も多いが、決定的な違いとしては先に触れたように u-Korea 構想で政府が国を挙げてこの産業の推進を行っている点である。これを実現するための具体的 な戦略案が以下で紹介する「u-IT839」[図表 21]だ。 29 韓国市場では現在音楽配信サービスが若年層を中心に流行っており、2004 年の LG テレコム による「MusicOn」に続き、SK テレコムは「MelOn」、翌年には KTF の「dosirak」がサー ビス開始となった。同国内での携帯電話コンテンツ利用ではニュースやゲーム、待ち受けなど のジャンルを抜き音楽配信が利用率でトップに立っている。これらのサービスは月 5,000 ウォ ンで音楽がダウンロードし放題となるもので、携帯電話からも PC からも利用できる。多くの ユーザーは PC でダウンロードしたものを携帯電話へ転送して持ち歩くことが多く、こうした 使い方は携帯電話端末の音楽再生機能と合わせて標準となっている。今後の課題は各キャリア の楽曲配信サービスで仕様が異なっている DRM(Digital Rights Management)の互換性を どう取っていけるかである。 30 6-3:中国 中国では国内最大の固定電話事業を行うチャイナテレコムから分割された「チャイナモバイル」 、 1994 年に中国政府や国営機関によって設立された「チャイナユニコム」の 2 大キャリアによ りサービスが提供されている。すでに 3 人に 1 人は携帯電話を所有している巨大市場であり、 世界のキャリア別加入者数では 1 位がチャイナモバイル、2 位がボーダフォングループ(英国) 、 3 位がチャイナユニコムとなっており世界最大の携帯電話市場とも言える。もともとは通話以 外の利用機能としては SMS が大半であり、この延長線上である IM(Instant Messenger)の サービスも正式稼働に向けて動き始めているなど、まだテキスト中心の携帯電話文化である。 しかし 2005 年に SMS の市場規模をインターネット閲覧の仕様の一つである WAP が抜いて からは、右肩上がりにモバイルインターネット市場規模が上がり始めており、着メロや待ち受 けといったエンタテインメントコンテンツの利用に注目が集まる。インターネット閲覧の増加 に合わせて課題となりそうなのがブログである。開設数も WAP 端末の普及に合わせ上がって おり、PC よりも携帯電話を手にする国民が多い中で、自身の考えを発信するためのタッチポ イントは確実に増加する。政府がメディア規制を厳格に行ってきた歴史がある中で、携帯電話 を通じた言論発信にどう対応していくのかは、モバイルビジネスの展開においても 1 つの重要 な要素であると言える。また韓国同様、音楽配信についてもその土台が出来始めており、ソニ ー・エリクソンやノキアなどの大手端末メーカーだけではなく、中国国内メーカーからも再生 機能付き端末がリリースされるなど、2004 年時点で 5%未満であった端末割合も 2006 年に は 24%ほどまで上がっている。[6] 6-1 項で触れたように 3G サービスが 2009 年に控え、ブ ロードバンド化が進むことで中国での楽曲配信市場は大きな転機となる可能性がある[図表 22]。 [図表22] 中国の音楽配信市場(2006年以降は予測値) (億元) 80.0 72.6 70.0 60.0 53.8 50.0 40.0 40.0 30.0 25.9 20.0 10.0 15.8 7.5 0.0 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 出展:iResearch Consulting Group Webサイトより作成 31 6-4:米国 米国では 6,100 万人以上の加入者を擁し最大キャリアである「AT&T モビリティ」、米国の大 手固定電話事業者であるベライゾン・コミュニケーションズとボーダフォングループとの合弁 で全米最大規模の通話エリアを誇る「ベライゾン・ワイヤレス」 、2004 年にスプリント(米国) がネクステル(米国)を買収して誕生した「スプリント・ネクステル」、ドイツテレコムの子会 社でヨーロッパ及び北米で事業展開する「T-モバイル」の 4 つのキャリアが全国サービスを行 っている[図表 23]。 [図表23] 米国のキャリア(全国サービス提供キャリア) 2006年 順位 1位 2位 3位 4位 2006年末 加入者数(千人) 2005年末 加入者数(千人) 前年度比 マーケットシェア 61,000 52,300 16.6% 27.8% ベライゾン・ワイヤレス 56,700 49,300 15.0% 25.8% T-モバイル 24,100 20,300 18.7% 11.0% 企業名 AT&Tモビリティ (当時のシンギュラー・ワイヤレス) スプリント・ネクステル 53,100 45,600 16.4% 24.2% 出展:各社Webサイト、CTIA、Mobile Society 2006より作成 米国でも携帯電話をデバイスとした音楽配信市場は伸びてきており、2005 年からスタートし ている同市場は 5 年後には 10 億ドルを超えるとみられている。またアップルの iPod + iTunse による映画やテレビ番組配信の普及により、移動中に視聴するというライフスタイルが定番化。 これに合わせて各キャリアでは携帯電話向けの映像配信事業にも乗り出している。移動手段と して車の利用率が高いという文化もあり、短距離無線通信規格である Bluetooth 対応の携帯電 話端末も 2005 年第 2 四半期では全体の 9%だったものが翌年の同時期には 22%となり、対 応ヘッドセットが端末同梱で発売されるケースも目立つようになった。車での移動中の会話は もちろんのことだが、歩行中にもヘッドセットによるハンズフリー通話のスタイルが一般に定 着してきていることも普及の後押しとなっている。ゲーム市場においては 10 代の若者が市場 牽引をしており、パズルジャンルが利用の多くを占める。日本同様に近年では広告モデルによ る無料ゲームも増えてきているが、サイト上への広告掲載よりもゲーム内のあらかじめ決めら れた広告スペースへ広告表示を行う仕組みが目立つ。課題としては 3G への移行がキャリアの 意思とは反対になかなか進まず、利用者割合は全米で 16%ほどと言われている。通話と SMS 以外のサービスに興味がない層が多いことや、Wi-Fi の利用環境も整っており 3G の携帯電話 に換えることで何が良くなるのかが浸透していないことが要因と考えられる。 6-5:欧州 欧州では 5 大陸 26 ヶ国でサービスを行う加入者数世界第 2 位の「ボーダフォングループ」 、 フランスで固定電話事業などを行うフランステレコム傘下の「Orange」(仏国)、北米でもサ ービスを行っているドイツテレコム傘下の「T-モバイル」(独国)、英国で固定電話やブロード バンドプロバイダーなども手がける「O2」(英国)などが主要キャリアとして挙げられる。携 帯電話の普及に関しては先進国ではあるが、日本と違いサービス普及率で地域間格差が大変大 きい。普及率で見るとルクセンブルクが 154.8%と最も高く、ウクライナの 37%が最も低い。 32 ただし全体的には年々増加傾向出ることは変わらず、固定電話の減少に伴い今後も堅調な伸び を見せると思われる。またポストペイドがほぼ 100%の日本に対し、英国やドイツなどでは 50%以上がプリペイドとなっているのも欧州の特徴と言える[図表 24]。 [図表24] 各国の代表的事業者のプリペイド比率(2006年9月) (%) 0.1 100 90 36.3 80 70 51.4 54.6 67.1 プリペイド 60 50 99.9 ポストペイド 40 63.7 30 20 48.6 45.4 32.9 10 0 O2(英国) ボーダフォン(英国) Orange(フランス) T-モバイル(ドイツ) ドコモ(日本) 出展:informa telecoms & mediaのデータを基に作成 ブロードバンドサービスの統合も進んでおり、「固定電話」「インターネット接続」「映像配信」 の 3 つをまとめたトリプルプレイ、 「固定電話」と「携帯電話」を統合した FMC(Fixed Mobile Convergence)、トリプルプレイに携帯電話をまとめてサービスするクワッドプレイというカ テゴリに分類され、それらを提供するキャリアのグループ再編も進んでいる。主要国では HSDPA のサービスが 2005 年∼2006 年までに相次いて開始されているが、米国同様にユー ザーの関心が高いとは言えず音楽配信などのリッチコンテンツの台頭まではまだ時間がかかり そうである。 [7] グローバル市場 7-1:次の 10 年へ向けた 6 つの提言 ここまでは日本および海外主要地域のモバイルビジネス概況を振り返ってきた。地域ごとに環 境要因の違いからさまざまな形で成長を続けている中で、急速に地域間の境界線がなくなりグ ローバル化が進んでいる。そうした中で日本はかなり立ち遅れてしまっている状況であり、国 内のビジネスモデルによる成長路線もこの 10 年でピークを迎えている。今後コンテンツで成 長を続けた企業は統廃合が進み資本力のあるメーカーに集約され、これまでキャリアを支えて 33 きた端末メーカーも高度な技術水準や開発投資の割に元が取れない国内ビジネスからの撤退が 加速し、新規端末の投入もペースダウンして行くだろう。海外端末メーカーは日本への参入に 躊躇し、日本の端末メーカーは世界への足がかりを失ってしまった。次の 10 年は日本がグロ ーバルでモバイルビジネスをどう展開していけるかに焦点が移っていく。ここからは 6 つのキ ーワードを元に私の提言を述べていくとともに、モノ作り先進国日本におけるモバイルビジネ スへの取り組み方のあるべき姿を本論文の結びとさせていただこう。 7-2:その 1/オープン化 海外の i モード展開が進まない原因の一つとして海外端末メーカーが i モード対応にあまり旨み がないという事情がある。i モード対応端末はすべてドコモとの共同開発となる。そのため仕様 策定から開発・実装・販売までに時間が掛かり過ぎ、数か月ごとに新しいモデルが並ぶ海外市 場において、店頭に並ぶ頃には一世代古いモデルとなってしまう。このことはドコモが i モー ド採用を押し進めていくには大きな課題であった。これを解決するためドコモはノキアと手を 組むことにより解決を模索していくこととなる。その解決策が、ノキアが Symbian OS 用の アプリケーションプラットフォームとして開発した S60(Nokia Series 60)上で動作する i モード用アプリケーションソフトの開発提供である。S60 3rd Edition 搭載のノキア端末上か ら i モードブラウザや i モードメール、i アプリ、さらに i チャネルといった一連の i モードサー ビスの利用が出来るようになり、既存海外端末での i モード利用環境という大きな間口を用意 したこととなる。しかしこの i モードのオープン化は諸刃の剣でもある。ガラパゴス化した国 内市場はキャリアがルールをガチガチに固めた言わばクローズドモデルであり、シャープやパ ナソニックモバイル、NEC といった国内端末メーカーは海外の巨大端末メーカーの攻勢を警戒 する必要のない中で成長を続けてきた。しかし上記の様な i モードアプリケーションパッケー ジの登場は、これまで守ってくれていた参入障壁が崩れ去ることを意味しており、仮に海外で の i モード採用が増えたとしても国内端末メーカーにとってのメリットは薄い。パナソニック 株式会社の大坪文雄社長は 2008 年 10 月に行った業績発表の席で、撤退した海外事業へ再度 参入する意向を表明しており、従来掲げていた国内を基点とした競争力強化という方針を大き く転換することとなった。これはもはや攻めに転じなければ日本市場でも生き残れないという 判断があったからであり、ソニーとエリクソンが手を組んだ様に海外端末メーカーとの事業統 合も考えられる。 7-3:その 2/PC 化 2007 年 11 月に検索エンジン最大手のグーグルが発表し現在無償提供されている携帯電話端 末向け総合プラットフォーム Android はインターフェイスやアプリケーション、電話帳など携 帯電話に必要とされる基本機能をパッケージ化したオープンプラットフォームだ[図表 25]。 2008 年 9 月 23 日には T-モバイルから初の商用 Android 搭載端末「T-Moblie G1」 (HTC 製) が発売され注目を集めた。世界各国のキャリアや半導体メーカー、端末メーカーなどを含む 34 社による規格団体「オープン ハンドセット アライアンス」(OHA)には、インテル(米国) やエヌビディア(米国)などの半導体メーカーや、ドコモや KDDI などのキャリア、サムスン 34 電子(韓国)や LG エレクトロニクス(韓国)といった端末メーカーなどが参加し、Android での通信機能からユーザーインターフェースまであらゆる利用においての機能向上を目的に各 社が協力する連合体が結成されている。 [4] 項でも触れたが世界的にスマートフォン市場は大変賑わっている。スマートフォンとは音 声通話や通信機能だけでなく、PDA(Personal Digital Assistant)が得意とするスケジュー ルや個人情報管理など多種多様な機能を持つ携帯端末のことを指す。しかし欧米と日本ではそ れぞれ独自に携帯電話が発達してきたため、「多種多様」という部分においては日本の携帯電話 は十二分にその定義を超えているもののスマートフォンと呼ばれることはない。一般的には OS に米マイクロソフト製の「Windows Mobile」を搭載するなど PC との親和性の高い端末のこ とを指すケースが多い。一方の欧米ではノキア製の QWERTY フルキーボード内蔵機種などの 「携帯電話系統」 、Palm デバイスを基とする Treo シリーズなどの「PDA 系統」 、ブラックベ リーシリーズなどの「ポケットベル系統」の 3 つに分けられる。 スマートフォンという名称が世に広まるきっかけとなったのが、リサーチ・イン・モーション (カナダ)が 1997 年にキーボード付き双方向ポケットベルとして発売したブラックベリーで ある。 世界で 130 カ国以上 1,900 万人以上が利用しており、 日本でも外資系企業を中心に 1,200 社以上が導入している。ブラックベリーの特徴は先に紹介した PDA 機能やインターネット閲 覧などの他、プッシュ型メール配信や Microsoft Office のアプリケーションファイル・PDF (Portable Document Format)ファイルの編集・閲覧機能を備えていることだ。また社内ネ ットワークへのセキュアなアクセスが可能なことも追い風となり企業での導入が進み、2004 35 年頃より米国を中心にアジアやヨーロッパ圏にも市場を拡大した。またブラックベリーは端末 の名称であると同時にネットワークサービスの名称でもある。リサーチ・イン・モーションの 売上構成比は、69.7%の端末売上に次いで 18.5%でサービス売上が続いている[図表 26]。つ まり端末とサービスを一体化したビジネスモデルとなっているのが日本の端末メーカーとの違 いであり、これらのサービスはノキアやサムスンなど他の端末メーカー向けにも提供されてい る[図表 27]。そしてユーザーニーズでソフトウェアを開発できるようオープンプラットフォー ムとなっているのも大きな特徴である。 [図表26] リサーチ・イン・モーション2006年度事業別売上構成 その他 4.2% ソフトウェア 7.6% サービス 18.5% 端末 69.7% 出典:リサーチ・イン・モーション Webサイトより作成 [図表27] ブラックベリーの主な2つのサービス 企業向けソリューション。企業の設置するグループウェアであるIBM Lotus BlackBerry Enterprise Service BlackBerry Internet Service NotesやMicrosoft Exchange Server Novell GroupWiseのメールの送受 信、PIM(アドレス帳、スケジューラー、ToDo、ドキュメント等)との同 期を図ることができ、メールのPush配信も可能。また管理者によってブ ラックベリー端末の音声通話やSMS、アプリケーションなどを制御するこ とも出来る。 個人や中小企業向けサービス。POPメール、IMAPメール、Gmailや HotmailなどのWebメールの送受信ができ、メールのPush配信も可能。ブ ラックベリー用のメールアカウント(xxx.blackberry.com)が付与される ため、PCを持っていないユーザーでも利用することができる。その他、 メッセンジャー機能やWebブラウジングなどに加えGmail、Google Talk、 Googleカレンダ、Google MapsなどGoogleの一連のサービスとリモート 連携が図れる。 出典:既出情報を基に著者が制作 日本ではドコモが「BlackBerry8707h」を発売しており、2008 年度内には HSDPA や GPS を搭載した上位モデル「BlackBerry Bold」が発売予定となっている。これらは i モードプラ ットフォームを非搭載のため従来の i モードサービスは利用できない。 36 日本でのスマートフォンはシャープ・ウィルコム・マイクロソフトの 3 社が共同開発し、ウィ ルコム向けに供給されている「W-ZERO3」が火付け役とされる。OS に Windows Mobile を 搭載し、PHS 網を使った通話や通信、QWERTY キーボードや、Microsoft ActiveSync を使 った PC とのデータ同期などで注目を集め、2005 年 12 月 14 日に発売された初代端末 「WS003SH」は店頭で行列が出来るなど話題となった。このことは日本市場にもモバイル PC と携帯電話との間に確実にニーズがあることを示し、このセグメントに向けた商品開発が本格 化する契機にもなった。 ではキャリアからは PC 化の流れがどう映っているのだろうか。KDDI の小野寺正社長は 2007 年の講演で携帯電話産業の国際競争力に関して以下のようなコメントをしている。 「今は端末を通信事業者が主導しているが、将来的にはパソコンと同じように、標準化された 部材を集めて組み立て、載せるソフトをどうするかというようなことになる可能性は非常に高 い。その場合、日本では端末メーカー、部材メーカーどちらが強い国際競争力を持っていたほ うがいいのか」 同氏の主張はこうである。国内の端末メーカーの世界シェアは合計しても世界では 1 割未満。 ただし部品メーカーは 4 割を持つ。将来的に端末メーカー主導のビジネスモデルを良しとする 向きもあるが、キャリア主導による垂直統合型モデルにより先端的な商品展開を行えることが 部品メーカーの競争力につながり、そちらの方が国際競争力となるのではないか、という考え 方である。私自身の見解としては端末メーカー主導になった方が他のデバイスとの融合が加速 することで、より先端的な商品展開は可能だと考えるため国際競争力の持ち方については同意 しかねるが、PC の様な部品設計により 1 つの端末を組み上げていくことになるという将来予 測は同意する。この先、端末メーカーが力を握るようになれば、現在 PC をオンライン購入す る際の BTO(Build to Order)を携帯電話でも行える可能性が開けてくるからだ。実はこうし た取り組みに対してもっとも先進的なキャリアは KDDI である。 「フルチェン」と呼ばれるサー ビスで携帯電話の外装およびユーザーインターフェイス、コンテンツをさまざまなデザインか ら組み合わせることが出来る試みを行っている。外装の交換には特殊工具が必要なため全国に 展開される au ショップのみで可能だが、これも一つの BTO である。ユーザー視点に立てばさ らに踏み込んで OS や内部メモリ、グラフィックカードなどまで細かくカスタマイズし、世界 に一つだけの携帯電話が欲しいはずである。すでに携帯電話の機種変更を Web だけで申し込 めるようにもなっており、フルチェンの様なカスタマイズの自由度も高くなってきた。このよ うに携帯電話はいまや「携帯電話」という固有のデバイスではなく PC との融和が進み始めて おり、従来の端末メーカーに加え PC のハード、ソフトウェアを中心にビジネス展開してきた 企業が参入し混戦状態にある。ハードウェアとソフトウェアの両方手掛ける系統としてノキア の「Symbian」、アップルの「iPhone」。ソフトウェア側からのアプローチとしてグーグルの 「Android」 、マイクロソフトの「Windows Mobile」 、これら 4 つのグローバル OS に合わせ 日本や韓国などで端末メーカーが個別に用意している数多くのローカル OS が混在しており、 端末メーカー各社も次の一手に大きく頭を悩ませている。日本ではキャリア主導のクローズド システムが崩壊しかかっている今、端末メーカーはキャリアと手を取り合ってきたこれまでの 37 スタイルを捨て世界市場で戦うためのプロセスとして何が最良の選択であるのかを考えると共 に、他社では真似できない独自に強みを発揮することの出来る戦略が必要になってくるだろう。 7-4:その 3/共通化 日本のキャリアも新しい動きを始めている。2008 年 4 月、ソフトバンクモバイル、チャイナ モバイル、ボーダフォングループの 3 社が「ジョイント・イノベーション・ラボ」(JIL)を設 立することで合意したと発表。3 社で新技術や新サービスの開発コストを負担していき、共通 アプリケーションから将来的には共通プラットフォームでの展開を狙うという構想だ。チャイ ナモバイルは 3 億 9,000 万人、 ボーダフォンは 2 億 5,000 万人、 ソフトバンクモバイルは 1,900 万人の契約者数を抱えているため、合算でおよそ 7 億人。ソフトバンクモバイルの孫正義社長 は、将来 1 つのアプリケーションで 7 億人に向けてサービスが出来る様な仕組みを作っていく と会見で話しており、キャリア主導の共通プラットフォーム化を進めていく構えだ。課題はあ るにしてもバトルフィールドとして「世界」を選択出来る端末メーカーや CP と違い、キャリ アは免許制のためサービス範囲が自国内と制限されている。コードシェアやマイレージの相互 乗り入れなどで顧客サービス向上を目指すためにスターアライアンスやワンワールドなどの航 空連合があるように、キャリアも国際ローミングや多国籍企業向けサービスの分野で事業協力 するため、アジア太平洋地域を中心とした「コネクサス・モバイル・アライアンス」と「ブリ ッジ・アライアンス」の 2 つの連合体が存在する[図表 28]。ただし現状でその活動範囲はロー ミング時の料金体系などごく一部に留まっており、また加入している日本のキャリアはコネク サスのドコモのみという状況で、こうした場を生かそうという雰囲気は残念ながら感じられな い。確実に緩やかな連携は加速しており、通信環境や料金体系などでキャリアは積極的に世界 との共通化を模索していくべきである。 [図表28] アジアの2大通信キャリア連合および加入企業 ブリッジ・アライアンス コネクサス・モバイル・アライアンス インド エアテル BSNL / MTML 香港 CSL ハチソン フィリピン グローブ スマート オーストラリア オプタス 日本 タイ マカオ マレーシア シンガポール 韓国 台湾 インドネシア - AIS ドコモ - CTM ハチソン マクシス - シングテル スターハブ 台湾モバイル ファーイーストン SKテレコム テレコムセル KTF PTインドサット 出典:既出情報を基に著者が制作 38 11 月 12 日、ドコモはタタ・グループ(インド)傘下のキャリア「タタ・テレサービシズ」 (イ ンド)の発行済み株式 26%を 1,307 億ルピー(約 2,640 億円)で取得することを発表した。 タタ・テレサービシズは財閥系企業で 2005 年 1 月に CDMA 方式によるサービスで携帯電話 事業に参入しインドでのシェアは 9.3%の第 6 位だ。同国は携帯電話加入件数が約 2 億 5,000 万件で中国に次いで世界 2 位であるが、約 10 億の人口に占める保有率が低いことなどもあり、 市場の伸び代がもっとも高いと言われている。先に紹介したようにドコモはこれまで海外展開 での成功例がなく、売上高のうち海外事業では 2%ほどに留まっているが、将来的にはこれを 10%まで引き上げて日本市場に比重がかかっている状況の改善を狙っている。ドコモの山田隆 持社長は資本提携記者会見の席上、この投資を中長期的な成長に伴うリターンを狙うものと位 置付け、タタ・テレサービシズの事業運営にも積極的に関与すると語った。3,500 店以上の専 門店・直営店での販売網や、インド当局がトップに格付けた高いネットワーク品質などの強み を生かし、端末の共同調達や付加価値サービスの技術輸出などを進めていく狙いがある。ドコ モはこれまでにアジア 7 カ国・地域のキャリアへ出資しており、前出のソフトバンクモバイル と同様「アジア」を軸とした戦略である点は共通である。しかし出資による技術導入というプ ロセスは従来と同じであるため、どうやって同じ失敗を繰り返さないかの具体的な戦略は興味 深いところだ。 CP 側を見ていこう。高機能化・複雑化する端末仕様と合わせて膨大な数の機種対応を行って いく必要のあるコンテンツ提供は、利益率低下の一番大きな要因になっている。キャリア別だ けではなく端末メーカー別、シリーズ別などで仕様が細かく分かれ、アプリケーションも Java や BREW といった言語の違いがある。機種依存はこれだけに留まらず、メール素材のテンプ レート方式やユーザーインターフェイスを変更するきせかえコンテンツ仕様など、ありとあら ゆるサービスで存在する。Flash を用いたカジュアルゲームの導入が急速に進んだ背景には、 シンプルで気軽に遊べるゲーム需要が高まっただけではなく、携帯電話向けの Flash 仕様であ る Flash Lite に対応したコンテンツであれば、1 ファイル用意すればキャリアや端末メーカー、 画面サイズに関わらず機種対応をほぼ行わずに済むというメリットがあるからである。CP と しては機種対応に掛ける時間は人件費を意味し、人件費の高騰は利益率低下に繋がる。如何に して機種対応への負荷を減らしていけるかは、コンテンツ制作の上で大きなテーマとなってい るわけだ。ここで考えられるのが端末別、キャリア別となっている開発環境の共通ミドルウェ アの用意である。現在は各キャリアから提供されている開発ツールごとに制作を行ってきてい たが、これを 1 つの環境にまとめていく発想だ。端的に表現すれば 50 機種に対して 50 のプ ログラムがあったものを、1 つのプログラムですべて賄おうということである。すでに家庭用 ゲーム機向けではこうした共通ミドルウェア環境の整備は進んできており、モバイルでも急務 と言えるだろう。 7-5:その 4/一体化 CP の海外戦略は次のステージに進まなければならない。個別に進出していた従来の方法を我 慢強く続けるだけではただの消耗戦である。各 CP が手を取り合い 1 つの連合体として優良な コンテンツを束ね、それをドコモなどのキャリアが旗振り役として月額課金とその代行を行う 39 仕組みを合わせて、オールジャパンで海外へ売っていく体制作りが必要だ。先に触れた様に現 地ではさまざまな環境要因で配信からユーザーの手に届くまでが複雑化しており、それを地域 ごとに合わせていくことは、国内市場の推移を見てきても分かるように、端末の高性能化が進 めば破綻する。それであれば一気通貫の日本のビジネスモデルを国内企業全体で担いで、総力 戦で現地に根付かせていくことが絶対条件である。 また、日本政府とキャリア、端末メーカーの取り組みも重要である。韓国では近年、サムスン 電子や LG エレクトロニクス製携帯電話の出荷が好調に推移しており、ノキアとモトローラに 次いで世界トップ 5 入りを果たしている。この躍進には 2G で cdmaOne 方式を採用したこと も影響しているが、やはり韓国政府が掲げる u-Korea 構想に基づき進められている u-IT839 戦略により、関連技術や産業を海外へ輸出することや特許獲得、金大中政権下で 2 兆ウォンを 投入しブロードバンド環境を整備するなど、国を挙げての産業支援が裏にある。日本では 2007 年 1 月、総務省内にデジタル放送やモバイルについて ICT(Information and Communication Technology)企業の海外展開にかかわる各種活動を支援・実施する体制を整備することを目 的とした「ICT 国際展開対策本部」が設置された。ここで出された報告書[図表 29]は表の通り だが、BRICs(Brazil,Russia,India,China)で立ち上がってきている新興市場は GSM 方式で あり、3G 普及を前提にした考えはあまり意味のないものであることや、これらの施策を具体 的に誰がどうアクションを起こすかが曖昧のままとなっている。[5]項で述べた SIM フリーも 政府が推進できる一つの施策ではあると思うが、 「点」ではなく「線」で長い時間をかけた一体 感のある取り組みが必要である。 40 また、日本の端末メーカーもより海外で戦い抜くためにどうすればよいかを真剣に考える必要 がある。国内で技術力や体力を付けた後に 4G になったら巻き返しを、などという考えは捨て るべきだ。サムスン電子は政府の指針に乗っ取り「国内はあくまで試験場、そこでの実績を持 って海外へ出ていく」という強い信念を持って世界戦略に取り組んでおり、そもそもの国内外 市場に対する考え方に違いがある。日本と韓国では 2G で GSM を選択せず世界から孤立した ことや、独自のプラットフォームで成長を遂げてきた歴史など非常に状況は似ている。一方で 成功しているメーカーが誕生している中、日本の端末メーカーも国内市場の特異性を理由に海 外へ踏み出せないというのは論外である[図表 30]。 41 [図表30] 2007年 世界市場における携帯電話端末メーカー別シェア その他 17.7% ノキア 38.2% LGエレクトロニクス 7.0% ソニー・エリクソン 9.0% モトローラ 13.9% サムスン電子 14.1% 出典:IDC調べ 7-6:その 5/MUI 2.0 携帯電話市場の長い歴史の中で今まさにスタートラインになっている分野がある。ユーザーイ ンターフェイス(以下 UI)である。人が人と意思疎通を図るためには言葉や文字、ジェスチャ ーなど多くの方法が存在する。言語の壁があっても海外旅行を楽しめるのはこのためだ。それ では人が機械と意思疎通を図るためにはどうすればよいのか。これを仲介してくるのが UI で ある。UI は人と機械がコミュニケーションを取るために欠かせない存在である。この UI が携 帯電話の分野で新しいフェーズに入った。 私はこれを第 2 世代の携帯電話 UI の意を込めて 「MUI 2.0」と呼ばせてもらう。この MUI 2.0 の先駆者が iPhone に採用されたタッチパネル UI だ。 日本の携帯電話は通話しか出来なかった頃の UI を、メールやアプリ、カメラなど新しい機能 が載るごとにアップデートして積み上げてきたものがほとんどである。iPhone のヒットを受 けてタッチパネル対応端末も増えてきたものの、これらの UI はあくまで既存のものに手を加 えたものであり専用に作られていない。一方の iPhone は専用に作られている上に、長年 UI で 高い評価を受けているアップルの PC 向け OS である Mac OS X の系譜で誕生している。 今後 10 年の携帯電話市場を考えた際、タッチパネル型が主流になっていくことが予想される。 [4]項でも紹介したように iPhone が世界中で 1 つの端末仕様を実現している最大の要因として、 従来国別で対応しなければならないキー配列をソフトウェア上で補うことが出来るからである。 またキー操作を伴う仕様が前提となっていると、文化圏の違いにより使いづらさをどうしても 払拭することが出来ない。ノキアの携帯電話が日本人にとって使いづらい状況がそれを表して いる。「慣れ」の部分は先行者有利で乗り切れるため、携帯電話端末に資源集中をした当時のノ キアは大英断であったが、すでに携帯電話自体が普及し始めている現在ではまったく別のアプ ローチでこうした使い勝手による障壁を崩していかなければならず、アップルが出した一つの 42 結論が慣れる必要も学ぶ必要もないタッチパネルによる直観操作だったわけだ。 HTC(台湾)は Windows Mobile を搭載するスマートフォンを開発している新興端末メーカ ーであり、国内でもドコモとソフトバンクモバイル向けに端末供給をしている。同社の端末は 付属のタッチペンによる操作の他、指によるタッチパネルでのメニュー操作など独自の UI 「TouchFLO」を採用している。端末スライドでダイヤルキーも搭載されているが今後商品展 開されるモデルにはこの TouchFLO を標準搭載していく意向だ。同社はパームサイズ PC や PDA なども手がけてきておりそうした技術も携帯電話向け UI に生かされている。 5 年後グローバルで出荷される携帯電話端末の分類は、フルタッチパネルが半数、残りを QWERTY キーとダイヤルキーで分けるようになるのではないかと予測する。そうした中で日 本の端末メーカーが海外へ攻勢に出るためにはゼロベースから取り組む MUI 2.0 が必須である。 この分野は OS を開発しているメーカーがノウハウや経験からしても一日の長があるが、Web デザインやコンシューマーゲームなどの先進的な分野から UI のスペシャリストを募り、日本 発の MUI 2.0 を発信することで海外戦略の活路となるのではないだろうか。 7-7:その 6/ハードとソフトによるエクスペリエンス 最後に本論文の総括として「ハードとソフトによるエクスペリエンス」について触れていく。 「モ バイル」というのは一般的に「移動中の使用が可能なコンピューター環境」のことを指す。こ れまで紹介してきた携帯電話はもはやコンピューターであり、モバイルビジネスの要諦はこれ らコンピューターの中でもポータブルなデジタルエンタテインメントに我々クリエイターがど う取り組んでいくかであると私は考える。キャリアも、CP も、端末メーカーも、日本企業が 最先端と言われていた時代はとうに過ぎ去り、今やアジアを始めとする諸外国の波に呑まれよ うとしている。そうした中で、再び日本が世界に向けて発信していけるモノ作りはどうあるべ きなのかを考えてみた。 以下は東京コンテンツマーケット 2008 のトークセッションより「機動戦士ガンダム」の監督 として知られる富野由悠季氏の言葉だ。 「宮崎駿は 1 人だったらオスカーなんか絶対取れませんよ。彼は鈴木敏夫と組んだからオスカ ーが取れた。組んだ瞬間僕は「絶対半年後に別れる。こんな違うのにうまくいくわけがない」 と思いました。知ってる人はみんなそう思ったんです。それがこういう結果になったというこ とは、あの 2 人が半分は自分を殺して半分は相手の話を聞いたんです。ビジネスを大きくした いならそこで必要なのはチームワークです。 」 私はこれまで携帯電話端末や家庭用ゲーム機向けにソフトウェア制作をしてきた。そのどれも が「面白いコンテンツを、魅力的なサービスを。 」と創意工夫してきたわけだが、最終的にユー ザーの手に届く時にはハードウェアを通じて遊ばれるのである。つまり、すでにハードの仕様 が決まっている後にソフト制作をすることは、ソフト開発のスタート時点でそこに妥協が生ま れていることになる。逆の立場であるハード設計の段階では、後々そこで動くことになるソフ 43 トのことはまったく考慮されていない。考慮されるのは数値上の仕様だけである。 アップルや任天堂株式会社(以下任天堂)が長い間優れたメーカーでありイノベーターであり えた由縁を、私は「ハードとソフトによるエクスペリエンス」の提供だと考えている。アップ ルは世界で唯一 PC 市場におけるハードおよびソフトを 1 社で行う開発メーカーであり、 Windows 普及後にも Mac が共存している理由の一つが、そこでしか体験出来ない心地よさが、 また iPod と iTunes の組み合わせでしか体験出来ない仕組みが存在するためである。任天堂も またファミリーコンピュータから始まるハードおよびソフト開発を 1 社で行う老舗メーカーで あり、国内累計普及台数が 2,300 万台を突破したニンテンドーDS も、ハードのスペックが理 由だったのではなく、他のものでは代用することの出来ない操作体験を提供したことで大ヒッ トとなったのである。そしてどちらのメーカーにも言えることがもう一つ。サードパーティー が提供するソフトより圧倒的に自社提供のソフトが魅力的である点だ。 ここで話しを再び富野氏へ戻す。彼の主張するところは、立場の違う人同士が意見をぶつけ合 いながら一つのモノを練り上げていく日本のモノ作りの強さの根幹を意味しており、これをモ バイルビジネスに置き換えると、ハードとソフトの歩み寄りが必要だと言うことである。もっ と言えば、エンジニアとデザイナーが 50:50 でモノ作りに取り組まなければいけないというこ とだ。ハードウェアメーカーはエンジニア主導の開発が多く、バランスの取れた体制というの を私は見たことがない。プリンター組み込み用ソフトウェア向けにインターフェイスデザイン などを手がけるデザイン事務所で話しを聞いたことがあるが、ユーザーが説明書なしで触って も直感的に扱えるようなインターフェイスを作り上げてメーカーへ納品しても、最終的に実装 段階でプログラムしやすい様にメーカー側で改変され、粗末な内容で出荷されるケースがある そうだ。こうした実例を真に教訓とするためには、ハード担当者、ソフト担当者共にどちらの 主張も一部に目を瞑り最終的なアウトプットとしてユーザーから見た場合、何が最良の手段な のかを考えバランスよく手を取り合っていく必要があるということだろう。今回取り上げた携 帯電話もまた然りである。端末開発する際にメーカーはキャリアと行うだけではなく、クリエ イター集団でありソフトウェアのプロでもある CP と行っていくべきだ。そうでなければ iPhone のような体験は生まれてくるはずがない。ソニーはグループで FeliCa を扱っており、 PSP や WALKMAN、Cyber-shot などのメガブランドも保有するなど武器は揃っている。こ れらを生かしていくのは間違いなく優秀なソフトウェアやサービスであり、それによって市場 が創造開拓されるはずだが、こと志に反して自社テリトリーの重要な一部をアップルに先行さ れたのも、上記の様なバランス感覚の差だったのではないだろうか。 44 [8] 終りに 2008 年の夏に私は 1 週間ほどロサンゼルスヘ出張をしていた。所有する携帯電話 SO905iCS (ソニー・エリクソン製)は「世界ケータイ」を唱うモデルであり、電話やメール、i モードも 普段通りローミングで行うことが出来た。出張中、友人や同僚から電話やメール連絡を受ける ことがあるわけだが、あまりに普段と同じ様に使えてしまうため、相手からなかなか海外にい ることを信用してもらえなかった苦い記憶がある。現在ではビジネスの距離感の単位もこのぐ らい縮まったのだと考えられないであろうか。中長期的に目を向ければ、端末メーカーが今よ り力を持つ時代が必ず来る。すでにノキアはそうした存在になりつつあるが、それでもまだチ ャンスがあることを、アップルが新しいエクスペリエンスを持って示してくれた。しかしノキ アやモトローラはその出自が交換機や半導体などのハードベンダーでありコンテンツに明るい とは言えない。ここに日本のチャンスがある。Wii や DS のようなエクスペリエンスは日本の お家芸である。ハード、サービス、コンテンツを一体的に提供出来る体制をいち早く整えた企 業(あるいは企業グループ=エクスペリエンス・プロバイダー)こそが、変化の激しいモバイ ルビジネスで生き残ることになると私は考える。 以上 45 【参考文献】 ■モバイルコンテンツ産業構造実態に関する調査研究(2005 年 3 月) 財団法人マルチメディア振興センター(著) ■ケータイ白書 2008(2007 年 12 月) モバイル・コンテンツ・フォーラム(監修) ■モバイル社会白書 2007(2007 年 7 月) NTT ドコモモバイル社会研究所(企画/監修) ■経験経済 - エクスペリエンス・エコノミー(2000 年 3 月) B.J.2 パイン、J.H. ギルモア(著)/ 電通「経験経済」研究会 (翻訳) ■[Gpara.com] 『キングダム ハーツ』新作 3 タイトルの発売時期が明らかに(2008 年 8 月) http://www.gpara.com/article/cms_show.php?c_id=8865&c_num=14 ■[The Wall Street Journal] Hiroko Tabuchi:米国狙うモバゲー、その課題は(2008 年 10 月) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/22/news030.html ■[KDDI 総研 R&A] 勢川 誠/青沼 真美:主要モバイルキャリアの海外進出動向(2000 年 1 月) ■[ITmedia] 佐々木 朋美:“WIPI 鎖国”で「iPhone 3G」を販売できない韓国(2008 年 9 月) http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0809/22/news066.html ■[ITpro] 日経ネットマーケティング:電子マネー利用率「Edy」トップ、小差で「Suica」2 位、3 位は「nanaco」 (2008 年 8 月) http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Research/20080821/313190/ ■[FujiSankei Business i.] 三塚 聖平:電子マネー(2008 年 9 月) http://www.business-i.jp/news/for-page/naruhodo/200809030012o.nwc 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マーケティングによる革新(2008 年 5 月) http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0805/20/news043.html ■[グーパス] 小田急あんしんグーパス IC http://goopas.jp/ag/ic/ ■[日経パソコン 2006 年 9 月 25 日号] 金子 寛人:来年 4 月、すべての携帯電話に GPS(2006 年 9 月) ■[ITmedia] 岡田 有花:「お前らの作品は所詮コピーだ」富野由悠季さん、プロ論を語る(2008 年 10 月) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/31/news118.html ■[ケータイ Watch] 太田 亮三:ドコモ、GPS 利用の行動解析型コンテンツ配信ソリューション(2008 年 10 月) http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/event/42070.html ■[KDDI] フルチェン/ナカチェン http://www.au.kddi.com/pr/change/ ■[ZDNet Japan] 奥山 順子:苦戦するソニーエリクソン、独り勝ちノキアの利益率は 20%超に(2008 年 5 月) http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20373632,00.htm ■[マイコミジャーナル] 大川 淳:真に国益となる携帯電話産業の国際競争力とは--KDDI 社長が問題提起(2007 年 3 月) http://journal.mycom.co.jp/news/2007/03/15/001.html ■[ITmedia] 後藤 祥子:2640 億円でインドに足がかり - ドコモ、タタ傘下の通信キャリアに出資(2008 年 11 月) http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0811/13/news019.html ■[月刊アスキー 2008 年 8 月号] 石川 温:夏野剛氏が退社のワケを告白(2006 年 7 月) ■[ITmedia] 房野 麻子、あるかでぃあ(K-MAX):新販売方式の影響は、そして国内端末メーカーの未来は(2008 年 12 月) http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0812/30/news017.html ■[ITmedia] 神尾 寿:2009 年、ドコモは「オープン OS」を支援する──ドコモ 辻村清行副社長(2009 年 1 月) http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0901/01/news005.html ■[@IT] 西村 賢:Android 端末と SDK が正式リリース(2008 年 9 月) http://www.atmarkit.co.jp/news/200809/24/android.html ■[ITpro] 堀越 功:Android とクラウド,プラットフォームをめぐるパワーゲーム(2008 年 10 月) http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20081003/316118/ ■[Tech-On!] 菊池 隆裕:Samsung 社の携帯電話事業トップが強さの源泉を語る(2004 年 11 月) http://techon.nikkeibp.co.jp/members/NEWS/20041122/106536/ ■[msn 産経ニュース]谷脇 康彦:「携帯SIMロック解除、実現したい」谷脇康彦・総務省事業政策課長(2008 年 5 月) http://sankei.jp.msn.com/economy/business/080505/biz0805051626005-n1.htm ■[MSN 産経ニュース]「ガラパゴス」から世界標準へ(2008 年 8 月) http://sankei.jp.msn.com/economy/it/080815/its0808151440000-n1.htm ■[ITmedia] 園部 修:「TouchFLO」は高性能でも簡単──HTC が考える未来の UI とは(2007 年 9 月) http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0709/01/news015.html ■[@IT 情報マネジメント] 鈴木 貴博:e ビジネスが生み出すエクスペリエンス(2001 年 8 月) http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/serial/xp/01/01.html http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/serial/xp/02/01.html http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/serial/xp/03/01.html http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/serial/xp/04/01.html http://www.atmarkit.co.jp/fitbiz/serial/xp/04/02.html 【図表出典】 ■[図表 01] デジタル・ムーバ P501i HYPER NTT ドコモプレス資料より ■[図表 02] モバイル Suica ロゴ モバイル Suica サービス開始プレス資料より ■[図表 03] 携帯電話・PHS 加入数と携帯 IP 接続、3G、3.5G、定額制の契約数推移予測 モバイル・コンテンツ・フォーラムが社団法人電気通信事業者協会と各社発表資料を基に推計 ■[図表 04] 定額制市場推移のポイント モバイル・コンテンツ・フォーラムが社団法人電気通信事業者協会と各社発表資料を基に推計 ■[図表 05] モバゲータウンのビジネススキーム 株式会社ディー・エヌ・エー決算説明会資料より ■[図表 06] ユーザーにコンテンツが届くまでの段階別の違い 「ケータイ白書 2008」より ■[図表 07] 主なおサイフケータイ対応サービス一覧 Wikimedia より ■[図表 08] ぐるなびタッチの仕組み 2008 年 8 月 29 日「ぐるなびタッチ」発表会資料および参考文献を基に著者が作成 ■[図表 09] マクドナルドが考える e マーケティングの可能性 2008 年 5 月 20 日「かざすクーポン」発表会資料より ■[図表 10] 合弁会社が開発する IC チップ ソニーの非接触 IC 事業に関する合弁会社設立の発表資料より ■[図表 11] 若年層と高齢層別 利用機能・サービス(複数回答/全体順位 20 位まで) 平成 18 年度一般向けモバイル利用調査より ■[図表 12] キッズケータイ SA800i NTT ドコモプレス資料より ■[図表 13] 主要な子供向け防犯サービスの一覧 三菱総合研究所の調査に基づき作成 ■[図表 14] 禁煙やダイエットなどを支援する健康管理支援サービスの利用状況 平成 18 年度一般向けモバイル利用調査より ■[図表 15-1 , 15-2] 携帯電話からの緊急通報に関して 「日経パソコン」2006 年 9 月 25 日号より ■[図表 16] iPhone 3G の初期出荷 100 万台の国別内訳 Goldman Sachs Global Investment Research 統計データより ■[図表 17] iPhone アップル公式サイトより ■[図表 18] 携帯電話の世代別通信規格一覧 既出情報を基に著者が制作 ■[図表 19] App Store およびアイコン アップル公式サイトより ■[図表 20] FOMA カード Wikimedia より ■[図表 21] u-IT839 の内容 国政公報処「国政ブリーフィング」より作成 ■[図表 22] 中国の音楽配信市場(2006 年以降は予測値) iResearch Consulting Group Web サイトより作成 ■[図表 23] 米国のキャリア(全国サービス提供キャリア) 各社 Web サイト、CTIA、Mobile Society 2006 より作成 ■[図表 24] 各国の代表的事業者のプリペイド比率(2006 年 9 月) informa telecoms & media のデータを基に作成 ■[図表 25] Android のアーキテクチャ Wikimedia Commons より ■[図表 26] リサーチ・イン・モーション 2006 年度事業別売上構成 リサーチ・イン・モーション Web サイトより作成 ■[図表 27] ブラックベリーの主な 2 つのサービス 既出情報を基に著者が制作 ■[図表 28] アジアの 2 大通信キャリア連合および加入企業 既出情報を基に著者が制作 ■[図表 29] ICT 国際競争力懇談会の中間報告における基本戦略 総務省「ICT 国際競争力懇談会 中間とりまとめ(案) 」より作成 ■[図表 30] 2007 年 世界市場における携帯電話端末メーカー別シェア IDC 調べ ■[デザインエクスチェンジ] 具満タン Web http://www.dex.ne.jp/mantan/ 【用語解説】 2G 3.5G 3G 4G ADSL Android App Store au one au Smart Sports Bluetooth BREW BRICs BTO CDMA 1X WIN CDMA2000 cdmaOne CGM CP CRM Cyber-shot DRM Edy FeliCa Flash Flash Lite FMC FOMA FTTH GPS 第二世代携帯電話方式の総称。GSM方式やPDC方式、PHSを指す。 第三世代携帯電話のデータ通信速度を高速化させた通信規格の総称。HSDPAやCDMA2000 1xEV-DOを指す。 第三世代の携帯電話方式の総称。基本的にCDMA方式を指す。 第四世代携帯電話方式の総称。2010年∼2012年ごろの実用化に向け技術開発や標準化が進め られている。 一般の加入電話に使われている電話線を使い、下り1.5∼約50Mbps程度の高速データ通信を行 なう技術。 オープンソースOSであるLinuxをベースとした携帯電話上で動作するOSやミドルウェア、ユー ザインターフェースなどのプラットフォーム。 アップルが運営する、iPhone・iPod touch向けアプリケーションのダウンロードサービス。 KDDIおよび沖縄セルラーが提供している携帯電話向けインターネットサービス「EZweb」や PC向けインターネット接続サービス「DION」などを一体化した統合ポータルサイト。 KDDIおよび沖縄セルラーが提供している携帯電話とPCとの連携が可能なスポーツ支援サービ ス。 携帯情報端末などで数m程度の機器間接続に使われる短距離無線通信技術の一つ。 プログラミング言語にC言語/C++言語を用いる携帯電話向けのソフトウェア実行環境。 経済発展が著しいブラジル (Brazil)、ロシア (Russia)、インド (India)、中国 (China) の頭文字 を合わせた4ヶ国の総称。 顧客から注文を受け製品を生産する受注生産方式のこと。 KDDIおよび沖縄セルラーが提供しているCDMA2000 1xEV-DO方式を利用して下り最大 2.4Mbpsの高速なデータ通信が可能な携帯電話サービス。 クアルコム(米国)が開発した第三世代携帯電話の通信規格の一つ。日本ではKDDIが採用。 クアルコム(米国)が開発した第二世代と第三世代の中間に位置する携帯電話の通信規格の一 つ。日本ではKDDIが採用。 インターネットなどを活用してユーザーが内容を生成していくメディアの総称。SNSやブログ などがこれにあたる。 デジタル化された情報を提供する事業者の総称。 情報システムを応用して企業が顧客と長期的な関係を築く手法のこと。 ソニー製デジタルカメラのブランド。 デジタルデータで表現されたコンテンツの著作権を保護し、その利用や複製を制御・制限する 技術の総称。 ビットワレット株式会社が提供する電子マネー。Edyの名称はユーロ(Euro)・ドル (Dollar)・円(Yen)に次ぐ第四の基軸通貨になって欲しいとの願いからそれぞれの頭文字を 取っている。 ソニーが開発した非接触ICカード技術。FeliCaの名称は英語で「至福」を意味するFelicityと Cardによる造語。 アドビ(米国)が開発した音声やベクターグラフィックスのアニメーションを組み合わせて Webコンテンツを作成するソフトウェアおよび生成されたコンテンツのこと。 アドビ(米国)が携帯機器向けに開発したFlash。 移動体通信と固定通信を融合した通信サービスの形態。 ドコモが提供している第三世代携帯電話のサービス名称。2001年10月1日に世界で初めて商用 サービスを開始した。 光ファイバーによる家庭向けの高速データ通信サービス。 米国が軍事用に打ち上げたGPS衛星を使って地球上の現在位置を調べるための衛星測位システ ム。 GSM HSDPA ICT IM IMT-2000 iPhone iPod ISP ITU iTunes iメニュー iモード Java Mac OS X Microsoft ActiveSync Microsoft Office MIFARE mixi MMS MNP MP3 MUI 2.0 MVNO nanaco NFC Palm PASMO PDA PDC 日本と韓国を除く全世界で使われている第二世代の携帯電話の通信規格であり事実上のデファ クトスタンダード。 第三世代携帯電話のうちW-CDMA方式でデータ通信を高速化した規格。3.5Gとも呼ばれれ る。 情報(information)や通信(communication)に関する技術の総称。日本ではITと呼ぶこと もい多いが、国際的にはICTが使われる。 接続中のユーザー間でリアルタイムに短いメッセージをやりとりすることができるアプリケー ション全般を指す名称。 国際電気通信連((ITU)の定める第三世代携帯電話を指す。W-CDMA方式やCDMA2000方式 が採用されている。3Gとほぼ同義。 アップルが開発したスマートフォン。初代モデルはGSM方式を採用し2007年6月29日に米国 で発売。二代目モデルではW-CDMA方式を採用し2008年7月11日より日本を含む22カ国で発 売された。 アップルが開発した携帯デジタルオーディオプレイヤー。 インターネット接続業者のことを指す。海外では携帯電話市場でもこのような接続業者が存在 する。 スイスのジュネーブに本部を置く電気通信に関する国際標準策定を目的とする国際連合の下位 機関。 アップルが開発し無償配布している音楽再生・管理アプリケーション。現在では機能拡張され 音楽配信やコンテンツ販売の役割も担う。 ドコモのiモードに接続した際に最初に表示されるメニューサイト。 ドコモが提供している携帯電話によるインターネット接続サービス。 サン・マイクロシステムズ(米国)が開発したオブジェクト指向のプログラミング言語。 アップルの販売するMacに搭載されているOS。カーネルは「Darwin」と呼ばれるUNIX系OS の一系統であるBSDベースの設計となっている。 マイクロソフトが提供するWindows Mobileなどにプリインストールされているアプリケー ションで、主にPC上のメールや予定表などとデータ同期をする。 マイクロソフトが開発・販売するオフィス業務に必要なソフトウェアをセットにした製品。 フィリップス(オランダ)の開発した非接触ICカード技術。 株式会社ミクシィの運営する国内最大のSNS。 携帯電話用のメールサービスを機能拡張したもので、画像、音声、動画などを送受信できる規 格。 携帯電話や固定電話などで、契約しているキャリアを変更しても電話番号を変更しないまま利 用できる仕組み。 映像データ圧縮方式のMPEG-1で利用される音声圧縮方式の一つ。 ダイヤルキーを要さずフルタッチパネルによる操作体系や、学習することなく国や文化を超え て誰もが利用できる次世代インターフェイスの総称。 携帯電話などで他社から無線通信インフラを借り受けてサービスを提供している事業者のこ と。日本ではディズニーモバイルがこれにあたる。 セブン&アイ・ホールディングスが日本国内で展開する非接触ICを用いた電子マネーサービ ス。 ソニーとフィリップスが開発した短距離無線通信規格。ソニーの「FeliCa」で使われている方 式。 パーム(米国)が開発・製造・販売するPDAの名前。およびそのOS。 株式会社パスモが発行する非接触ICカード方式の鉄道・バス共通乗車カード。関東地方及び山 梨県、静岡県東部(一部を除く)の鉄道・路線バスで使用できる。 スケジュールや住所録などを管理するための携帯情報端末のことを指す。PDAの元祖とも言わ れるアップルのNewton の開発を推進した当時のジョン・スカリーCEOによる造語。 第二世代携帯電話の通信方式の一つ。日本国内のみで使用されている。 PDF アドビによって開発された電子文書のためのフォーマット。 PHS 第二世代携帯電話と無線アクセスの中間的な性能を持つ移動体通信サービス。 POS PSP PV QRコード QWERTY SIM 物品販売の売上実績を単品単位で集計する手法。コンビニエンスストア等において購入者の年 齢層、性別、当日の天気もデータなどの収集にも使われる。 ソニー・コンピュータエンタテインメントが2004年12月12日に発売した携帯ゲーム機。 インターネットサイトにおけるアクセス数の単位の一つ。ユーザーのブラウザにページ表示さ れたものが1PVとなる。同じユーザーが繰り返し訪れてもカウントされる。 1994年に株式会社デンソーの開発部門(現在の株式会社デンソーウェーブ)が開発したマト リックス型二次元コードの一種。 19世紀に考案された英文タイプライターのキー配列の一つ。現在でも多くのPCのキーボードで 採用されている。上から2段目の左から6文字が「QWERTY」であることが名称の由来。 GSM方式やW-CDMA方式などの携帯電話で使われている契約者の電話番号および固有IDが記 録されたICカード。 携帯電話やPHS同士で短文を送受信するサービス。海外では通信規格やキャリアが違っても電 SMS 話番号だけでメッセージの送受信が可能であるためコミュニケーション手段の主流となってい る。日本ではキャリアが同じでなければ送受信が出来なかったため現在ではほとんど利用され ていない。 SNS SoftBank 3G Suica SuiPo Symbian OS TD-SCDMA TouchFLO URL VERTU WALKMAN WAP W-CDMA Wi-Fi Wii Wikipedia Windows Mobile WIPI W-ZERO3 社会的ネットワークをインターネット上で構築するサービスの事で、英語圏では 「MySpace」、日本では「mixi」が有名。 ソフトバンクモバイルが提供する第三世代携帯電話サービス及びそのサービスに対応した端末 を指す。 JR東日本が開発したFeliCa技術を用いる乗車券や電子マネー等のサービス名称。 ジェイアール東日本企画が開発したポスターにSuicaリーダーが内蔵されている広告サービス。 おサイフケータイやカードをかざすことでポスターに関連する情報が携帯電話に送られてくる というもの。 シンビアン(イギリス)製の携帯機器向けOS。低スペック端末でも動くよう設計されており、 高いUIの適応性により携帯電話やPDA、キー入力やペン入力など幅広いデバイスへの活用が出 来る。 第三世代携帯電話方式の一つで中国独自の仕様。大唐集団(中国)とシーメンス(ドイツ)が 中心となって開発された。 HTC(台湾)が開発したWindows Mobile上で動作するUI。 インターネット上に存在する情報の場所を指し示す記述方式で「住所」にあたる。 ノキアが展開する高級携帯電話ブランド。ダイヤモンドやプラチナなどをちりばめた端末デザ インと質の高いコンシェルジュサービスの提供で富裕層を中心に提供されている。日本でも 2009年春より開始予定。 ソニーが1979年7月1日に発売した携帯型ステレオカセットプレーヤーで、現在ではソニー製 ポータブルオーディオプレーヤーの総称。 携帯端末用のインターネット閲覧サービスを可能にするための技術仕様。WAP Forumによっ て策定された。 ドコモや欧州の携帯電話端末メーカーによって共同開発された第三世代携帯電話の通信規格の 一つ。日本ではドコモとソフトバンクモバイルが採用。 無線LAN機器間の相互接続性を認証されたことを示す名称およびそのブランド名。 任天堂が開発し2006年に世界各国で発売された家庭用ゲーム機。無線通信で接続されるコント ローラ「Wiiリモコン」による直感的な操作が話題となった。 ウィキメディア財団が運営するオンライン百科事典。コピーレフトなライセンスの下、誰でも が無料で自由に編集に参加できる。世界各国の言語で展開されている。 マイクロソフトが開発する携帯電話およびPDA向けOS。 韓国無線インターネットフォーラムが策定した韓国内の携帯電話端末に搭載が義務付けられて いる共通プラットフォーム。 シャープが製造しウィルコム向けに供給されているスマートフォン。OSにWindows Mobileを 搭載。 Yahoo!ケータイ アクティブユーザー アバター おサイフケータイ かざすクーポン ガラパゴス化現象 キャリア キングダム ハーツ ソフトバンクモバイルが提供する携帯電話のインターネット接続サービス。 サイト会員のうち頻繁にサイト訪問をするユーザーのことを指す。広告収入による会員制サイ トの場合、会員数が多くてもそのほとんどが利用していない場合は広告価値が低くなり、逆に 頻繁に利用している会員が多いほど広告が目に触れる機会が増えるため広告価値が高くなる。 インターネットコミュニティで用いられる自分の分身となるキャラクターまたはそのサービス 名称。 携帯電話に埋め込まれたFeliCaを使ったサービス及び、このサービスに対応した携帯電話端末 の総称。 マクドナルドによるおサイフケータイを利用したクーポンサービス。 生物の世界でいうガラパゴス諸島における現象のように、技術やサービスなどが日本市場で独 自の進化を遂げて世界標準からかけ離れてしまうという現象のこと。 一般に固定電話や携帯電話等の電気通信サービスを提供する会社の総称で、「音声やデータを 運ぶ」というところからキャリアと呼ばれる。 ディズニーとスクウェア・エニックスのコラボレーションにより誕生したアクションロールプ レイングゲームのシリーズ作品。 ぐるなび 株式会社ぐるなびが運営する飲食店の情報サイト。 ケータイ小説 携帯電話を使用して執筆し閲覧される小説のこと。 タタ・グループ トクするケータイサイト ナビタイム ニンテンドーDS パケット定額 インドの企業グループの一つで、ビルラ 、リライアンスと並びインド3大財閥の一つ。 マクドナルドが運営する携帯電話向けに電子クーポンを配信するサイト。かざすクーポンの提 供もこのサイトで行われている。 株式会社ナビタイムジャパンが提供している総合ナビゲーションサービス。様々な移動手段を 組み合わせて最適な経路を探すことのできる経路探索エンジンを採用している。 任天堂が開発・販売している携帯型ゲーム機。画面を2つ持つことや、タッチスクリーン、マイ クによる音声入力などのユーザーインターフェースを特徴とする。 パケット通信料金を使った分だけ従量課金するのではなく、どれだけ使っても一定額となる携 帯電話・PHSの料金制度。 ファミリーコンピュータ 1983年7月15日に任天堂より発売された家庭用ゲーム機。 フィルタリング 未成年による出会い系サイトや有害サイトなどへのアクセスを制限する有害サイトアクセス制 限サービスの総称。 プリペイド 現金や料金をあらかじめ前払いして商品購入やサービス利用すること。 フルチェン KDDIが提供している携帯電話の外観と中のコンテンツを有償で交換するサービス。 ブルーオーシャン戦略 ブログ 競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」とし、競争のない未開拓市場であ る「ブルー・オーシャン(青い海)」を切り開くべきだという経営戦略論。 インターネットサイトのURLに覚え書きや論評などを記録しているサイトの一種。「Webを Logする」という意味よりブログと呼ばれるようになった。 ポケットアフィリエイト DeNAが提供している携帯電話およびPC向けのアフィリエイトネットワークサービス。 ポケベル ポストペイド ホワイトプラン 特定の手順によって電波で小型受信機に合図を送るシステム。日本ではポケットベル、国際的 にはページャーと呼ぶ。 商品購入やサービス利用した料金を後日支払うこと。 ソフトバンクモバイルが提供する携帯電話の料金プラン。ソフトバンク契約回線(ディズ ニー・モバイル、iPhone 、プリペイド契約を含む)への音声通話が無料となる音声通話定額プ ラン。 モバイルSuica JR東日本が提供するおサイフケータイ向けSuicaサービスおよびアプリケーションの総称。 モバゲータウン DeNAが運営する携帯電話向けのポータルサイト。 らくらくホン レコメンド ワンセグ 携帯電話初心者および50代以上の高齢者層をターゲットした携帯電話端末のブランドおよびシ リーズ名。 ユーザーの行動履歴を蓄積・分析し、そのユーザーの嗜好に合わせた商品を表示する方法。 ネットマーケティング施策の一つである。 日本での携帯機器を受信対象とする地上デジタルテレビジョン放送。正式名称は「携帯電話・ 移動体端末向けの1セグメント部分受信サービス」。 月額課金 利用料が月単位で決まっている課金体系。 従量課金 利用に応じて料金が発生する課金体系。 垂直統合型モデル 着うた 着うたフル 商品やサービスを市場に供給する際、関連業務の多くを単一企業内で連携させること。 携帯電話の着信音をMP3やAACなどのフォーマットで符号化された30秒程度の長さの楽曲に するサービス。 携帯電話で従来の着うたを1曲全体ダウンロードできる音楽配信サービス。 電子書籍 ディスプレイを利用した機器で読むことができる出版物。 魔法のiらんど 携帯電話向けの無料ホームページ作成サイトのサービス。 恋空 魔法のiらんどに掲載されて人気となったケータイ小説。2006年に書籍化、2007年に漫画化、 映画化、2008年にテレビドラマ化された。 出典:Wikipedia、IT 用語辞典 e-Words、既出情報を基に著者が作成。
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