中国における外国法の調査及び適用 に関する近年の理論及び実務 郭 玉軍* 判決における準拠法決定の結果に関する理論 1.はじめに 構成について説明がなくまたは説明が不十分 で,或いは誤りがあること,外国法の調査及 近年,中国法院が渉外民商事事件を受理し び適用についてある程度の混乱が存在するこ た件数は,上昇傾向にある 1。法官の渉外事 と,比較的に頻繁に法の回避または公序を用 件を審理する能力もある程度上がった。近年 いること,国際条約を適用する手続が正確で のいくつかの統計資料によれば,法院が審理 ないことである。但し,全体から見ると,近 2 した渉外民商事事件は,以下の特徴を有する 。 年の司法実務において国際私法を用い事件を ¸事件の性質から見ると,渉外契約事件,渉 審理する能力はある程度上がった。 外海事事件,渉外知的財産事件が相当の割合 学者の行った近年の渉外事件に関するアン を占め,次に,渉外婚姻家事事件である。¹ ケート調査によると,中国法院における外国 法の適用から見ると,絶対多数の事件に,中 法の適用の割合は低い 4 が,渉外司法実務に 国法を準拠法とし,僅かな事件にしか外国法, 現れた外国法の調査及び適用に関する問題は 国際条約または国際慣習を適用しなかった。 とても多かった。その中にもっとも厄介な顕 º法の決定方法から見ると,最密接関係原則, 著な問題は,現在,中国における外国法の調 当事者自治原則を用いた事件が比較的に多 査及び適用を規律する具体的な明確な法律の かった。»事件の当事者から見ると,中国と 少なさ及び外国法の調査適用それ自体の困難 外国,中国大陸地区と他の地域の当事者間の さから,審理過程において法官が外国法を適 事件は,多数を占め,中国大陸地区と香港, 用する自信が不十分で,ときには方法を工夫 マカオ,台湾との間の事件が渉外事件の相当 して外国法の適用を回避することである。そ の割合を占めたに対し,当事者双方がともに れによって,判決の結果に響き,渉外事件に 外国人または中国人である渉外事件は,非常 おける当事者の正当な権利の保護に影響を及 に少なかった。¼事件を審理する法院の所在 ぼしてしまう。それで,以下,本稿では,主 地から見ると,上海,北京,江蘇,広東の改 に中国における外国法の調査及び適用に関す 革開放の進んでいる経済発達地域における法 る司法解釈及び司法実務を考察し,外国法の 3 院の事件受理件数は,比較的に多かった 。 調査及び適用問題について検討するとし,今 渉外事件を審理する経験も比較的に豊富であ 後の立法及び司法実務の参考になっていただ る。 ければと期待している。 渉外民商事事件の審理過程には,法の適用 に関するいくつかの重要な問題が存在する。 * 中国武漢大学国際法研究所教授 241 ― ― 法適用の需要に対応するには程遠いと言わざ 2.外国法の調査及び適用に関する規定 及びその評析 るを得ない。なぜなら,調査の方法と調査で きない場合の法の適用についてのみ規定して おり,外国法の調査及び適用における他の諸 外国法の調査とは,英米法国では一般的に 問題について言及していなかったからである。 外国法の証明と言われ,ある国の裁判所がそ 例えば,法官が調査責任を負うか否か,五つ の国の抵触規範に基づき外国法を適用すべき の方法を尽くさなければならないか否か,外 とき,如何に当該適用すべき外国法の存在を 国法を調査できない判断基準,五つの方法を 調査し,その内容を特定するかを指す。世界 尽くしてはじめて外国法を調査できないと言 各国の法律が多種多様で,法官が各国の法律 えるか否か,如何に外国法を解釈するか,抵 を熟知するのは不可能であるから,ある国の 触規範の適用が強制的なのか任意的なのか, 裁判官がその国の抵触規範に基づき外国法を 等である。法律上明らかにしないから,実務 適用すべきとき,一定の方法で外国法の内容 上の困難及びある程度の混乱が生じる。 を特定しなければならない。 ¸ 抵触規範を適用することの性質 外国法の適用,証明と解釈は,国際私法の 重要な問題の一つである。解決すべき基本の 当事者が外国法を適用することを主張しな 問題は,¸外国法の適用が強制的なのか任意 かった場合,法官が抵触規範に従い外国法を 的なのか,即ち,当事者が外国法を適用する 適用しなければならないか否かについては, ことを主張しなかった場合,裁判官が職権で わが国の学説上,実務上,見解が分かれてい 外国法を適用する責任を負うか否か,¹外国 る。わが国には,明文規定はないとの見解も 法を,法律として本国法を証明・解釈するよ あるが,「意見」第 178条第2項には「人民 うに証明・解釈すべきか,それとも事実とし 法院は,民事関係事件を審理する際,『民法 て当事者が外国法の適用を主張しその内容及 通則』第八章の規定に従い適用すべき実体法 び効力を証明したときに限って適用すべきか, を特定しなければならない。」と明確に規定 º如何に外国法を解釈すべきかである。 しているとの見解もある。もしこの規定に従 我が国の立法には,外国法の調査及び適用 うなら,わが国の法官は,わが国の抵触規範 についての明文規定はないが,最高人民法院 を適用して渉外事件の準拠法を決定しなけれ 「『中華人民共和国民法通則』を忠実に適用す ばならないし,わが国の抵触規範が外国法を る若干の問題に関する意見(試行)」(以下, 適用するよう指示した場合,当該外国法を適 「意見」と略す)第 193 条には,「外国の法律 用しなければならないことになる。これは, を適用すべき場合,以下の経路を通じて調査 英米法国及び「任意的抵触法理論」により主 することができる。①当事者による提供,② 張されているような外国法の適用が当事者の 我が国と司法共助協定を締結した相手国の中 申立てによるものと異なる。また,法院にお 央機関による提供,③我が国の当該国に駐在 ける抵触規範の適用問題については,わが国 する大使館,領事館による提供,④当該国の の法院が職権で抵触規範を適用しなければな 我が国に駐在する大使館による提供,⑤中国 らないとし,そうでなければ,多くの国際民 及び外国の法律専門家による提供。以上の経 商事事件では国際私法が無視され,存在しな 路を通じても調査できない場合,中華人民共 がら無いに等しいことになるとの見解はある。 和国の法律を適用する。」と規定している。 他方,わが国では,当事者自治を基礎に「任 この規定は,その制定当時,非常に有益で 意的抵触法」理論を適切に取り入れるべきで, あったが,現在の我が国の法院における外国 但し,厳格な制限を加えるとの見解もある。 242 ― ― ¹ 外国法調査の責任 私見としては,折衷説に支持したいと考える。 即ち,法律の規定により選択できる法律の適 規定の具体的調査経路から見ると, 「意見」 用範囲内で当事者が明示的に主張した場合を には,いくつかの経路による調査について規 除き,法官が職権で積極的に法律により規定 定しているが,法官が外国法を調査する責任 される抵触規範を適用すべきである。 を有することについて明確に規定していない。 法院の実務には,中国法院が抵触規範の指 これについて,当該規定が間接的に法官の調 定した外国法を強制的に適用すべきと考える 査責任を負うことを表したと指摘する見解も 法官もいる。渉外民商事事件においては,大 ある。既に失効した最高人民法院「渉外経済 陸地区の抵触規範に従い事件を解決するため 契約法を適用する若干の問題に関する解答」 に外国法を適用すべきとき,当事者がその適 (法(経)発[1987]27号 1987年 10月 19日, 用を申立てるか否かを問わず,大陸地区の法 以下,「解答」と略す)の規定に比べてみる 官は,当該法律を適用し当事者に通知する責 と,「意見」には「人民法院はその内容を特 任も,義務も有する。大陸地区の法律が抵触 定できなかったとき」との文言はない。これ 規範について強制的適用の立場を採っている を意図的にしたものとする見解もあるし,そ ことは,裁判実務においても反映されている。 うでもないとする見解もある。実務における もし大陸地区の法院で英国裁判所のように当 取り扱いは,比較的に混乱しており,統一し 事者が外国法の適用を申立てなければ法官が ていない。当事者が関係する外国法を提供し 事件の渉外的要素を無視し直接に中国法を適 なかった場合,直ちに中国法を適用した判例 用し審理したら,それは,法の適用が間違っ もあれば 6,当事者が外国法を提供した場合 た事件となり,上級審の訴訟手続で新たに判 でもその他の経路,例えば専門家証人 7 等の 断が下されるか,裁判監督手続によって是正 方法を通じて調査した判例もある。さらに, されるであろう。抵触規範の強制的適用に関 一方当事者が関係する外国法を提供した場合 する大陸地区法の理念は,正確に法律を適用 でもそれを無視し外国法を調査できないこと することにより抵触規範の裁判実務における を理由に法廷地法を適用した判決 8 もある。 実現を保証することを法官に要求し,沈黙に したがって,類似の渉外事件でも,法の適用 より外国法の適用を回避する当事者の選択を の結果が異なる可能性がある。 認めない。事件の準拠法を外国法に特定した 多くの学者は,国際的傾向がミックス方式 場合,たとえ双方当事者が当該外国法を適用 であると認め 9,「中華人民共和国国際私法模 するよう申立てなくても,大陸地区の抵触規 範法」10(以下,「模範法」と略す)も,「中 範に従い当該外国法を適用することが大陸地 華人民共和国民法典(草案)」11(以下,「民 区の公共利益及び強行法規に反しない限り, 法典草案」と略す)も,ミックス方式を採っ 法官は,抵触規範の指定に従い当該外国法を ている。わが国のミックス方式が,ヨーロッ 5 適用し紛争を解決しなければならない 。し パ大陸諸国のようなものか米国のようなもの たがって,法官は,外国法の調査過程で積極 かについては,権威のある見解はない。「模 的に役割を果たさなければ,外国法を適用す 範法」は,当事者の証明を一次的に,法官の る責務を果たしその正確性を確保することは 調査を二次的にする方式を採っていると言え できない。但し,当事者が外国法の適用を主 るが,「民法典草案」は,それと正反対で, 張しなかったとき,法官が直接に中国法を適 法官の調査を一次的に,当事者の証明を二次 用する例もある。 的にする方式を採っている。 実務上,多くの法官は,わが国における外 国法の内容の調査を当事者の挙証責任とし, 243 ― ― 基本的に当事者の提供により,それがないと り,例えば,他の三つの国家機関による調査 きはじめて法官がその他の方法を通じて調査 経路に比べ,客観性を欠く。わが国では,司 するという法官の調査が二次的な立場を採っ 法実務の発展につれ法院が外国の法律事務所 ているようである。例えば,武漢海事法院は, にその法律意見を委託する例も現れた 14。こ 外国法の調査に積極的で,外国法の内容を特 れを「内外法律専門家」に入れることができ 定する際,単に外国法を事実問題とし挙証責 るが,もちろん外国法律事務所の法律見解が 任を負う当事者による挙証に頼るではなく, 専門家意見に含まれるか否かについて疑問視 当事者の提供した法律関係資料をも重視し, する見解もある。私見としては,「専門家」 その他の経路を通じて自主的にも調査する。 の文言に拘らず,それを広く解釈すべきであ 外国法を明らかにした後,当事者に外国法を ると考える。それに,集めた資料から見ても, 提供すると同時に補足として当該国の著名な 外国法律事務所による外国法内容の提供のほ 学者によるそれに関する法律意見書をも提供 うが中国の法律専門家または弁護士による外 12 するよう求める 。広東省高級人民法院の実 国法証明のほうより多いと思われる。さらに, 務上の採っているのは,事件で争われた準拠 上海市第一中級人民法院が法廷でインター 法が香港,マカオ地区の法である場合,当事 ネットを通じて外国法を調査する先例を創り 者がそれに関する法律の内容を提供し,証明 出した 15。インターネットにおける外国法に しなければならないとの方法である。当事者 関する情報を鵜呑みするではなく,その権威 は,関係する法律の提供が困難な場合,人民 性,専門性及び信頼性を考慮しなければなら 法院の職権による関係する法律の調査を申立 ないから,法官が専門家証人を招聘し,法廷 13 てることができる 。他方,一部の法官は, でその検索過程の証人として,専門家として 調査責任が当事者にあり,法官がそれを負わ の意見を述べさせた。上述したとおり,わが ないと考え,実務でもそのようにしている。 国における外国法調査の制度は,わが国にお 集めた関係判例から見ると,各審級の法院が ける渉外民商事裁判の発展につれ,実務で絶 渉外事件における外国法調査の問題について, えずに新たに創設され探索されつつある。 その多くは上述の1番目と5番目の方法を 2005年 12月 26日最高人民法院が公表した 採っており,その他の方法を通じて調査した 「第二回全国渉外商事海事審判工作会議紀要」 ものは少ない。外国法を調査する際,関係す (法発[2005]26号,以下,「会議紀要」と る事件の基本的情況を把握し,その法律関係 略す)第 51条には,渉外商事事件における をある程度分析してからはじめて正確に外国 外国法の調査の問題について比較的に詳細に 法を調査することができるから,このような 規定した。当該規定によれば,渉外商事紛争 要求は,わが国の外国に駐在する大使館,領 に適用すべき法が外国法である場合,当事者 事館,外国の我が国に駐在する大使館,領事 が当該外国法の関係する内容を提供または証 館及びわが国と司法共助協定を締結した相手 明する。当事者は,法律専門家,法律サービ 国の司法機関にとって場合によって困難であ ス機関,業界自主組織,国際組織,インター るので,実務における大使館,領事館経路は, ネット等の方法を通じて関係する外国法の成 基本的に大使館,領事館認証の方法による。 文法または判例を提供し,それと同時に,関 これに対し,当事者または法院の委託を受 係する法律著書,法律紹介資料,専門家意見 けた法律専門家或いは当事者本人は,事実関 書等を提供することができる。当事者は,外 係を十分に理解し,事件に適用すべき関係す 国法を提供することが確かに困難な場合,人 る外国法を探すのが比較的に容易であると言 民法院が職権で関係する外国法を調査するこ える。しかし,この二つの方法にも問題はあ とを申立てることができる。これは,渉外商 244 ― ― 事事件において,一次的に当事者による証明, 入( material reception)」の理論がある 16。 二次的に法官による調査,複数の方法を通じ 実務でも,外国法による解釈と法廷地法によ て外国法を調査する見解を反映したものであ る解釈が分かれている。数は少ないが,いく る。特に,法官が具体的情況を鑑み「確かに つの国,地域の立法には,これについて明文 困難な場合」であるか否かを判断し,職権で 規定があり,即ち,関係する外国法に従い外 外国法の内容を調査する必要性があるか否か 国法を解釈しなければならないと規定してい を自由に裁量できると規定している。全てを る 17。 中国では如何に外国法を解釈するかは,近 当事者が証明するまたは法官が職権で調査す る方法に比べて,この方は,より合理的で, 年やっと中国国際私法学界に注目され始めた 比較的に我が国の司法実務の実態及び我が国 一つの問題であり,これについて明確な立法 の司法改革の方向に合致し,司法資源の合理 及び司法解釈はなく,学者の関心,研究も不 的分配に寄与する。 十分であった。但し,「民法典草案」第九編 渉外民事事件にも一次的に当事者による方 「渉外民事法律関係の法の適用法」第7条に 法を採るべきか否かについては,さらに検討 は,外国法の解釈はその所属国の法律及びそ する余地がある。いくつの国,例えば,メキ の解釈規則によると規定している。 「模範法」 シコでは,外国法の調査について事件の性質 第 11条にも,準拠法の解釈はその所属国の により民事か商事かに区別して,外国民事法 法律及び解釈規則によると規定している。し 規を法律とみなし裁判官が職権で調査し特定 たがって,外国法が準拠法に指定されたとき, しなければならず,外国商事法規を事実とみ その所属国の法律及び解釈規則に従いそれを なし当事者が証明責任を負うとしている。 解釈すべきである。これは,現在の中国にお 1987 年のスイス国際私法,2001 年のロシア ける外国法の解釈に関する代表的な見解と言 国際私法にも類似の規定がある。例えば,ロ える。 シア民法典第 1190条には,一般的に,裁判 官が外国法の内容を調査するが,当事者双方 » 外国法を調査できないとの判断 が経営,企業活動に従事することにより生じ 一体外国法を調査できないとはなにか。中 た紛争に関する請求の場合,裁判官は,双方 国の学界,実務界は,当事者或いは法院が調 当事者に外国法の内容を提供するよう求める 査を通じて外国法の内容を知ることができな ことができると規定している。これらは,主 かった場合と外国法上ある問題についての成 に,商事事件の当事者が一般的に外国法を調 文規定がなかった場合を特に区別していない 査する能力または専門家に外国法を調査する ようである 18。「模範法」第 12条には,調査 よう依頼する能力を有するに対して,渉外民 できなかった場合と調査したが対象となる法 事事件の当事者にとって外国法の調査が時に 規が存在しなかった場合を区別しているが, は極めて困難で,裁判官が調査する責任を負 この二つの場合を同一の解決方法によるとし, わなければならないことを考慮したものであ 即ち当該外国法に近似する法或いは中国法に る。このような区別は,合理性があるが,現 よるとしている。 わが国では,調査できないことについて期 在の我が国の学界及び実務界がまだそれに気 間制限或いは十分な努力による制限を設けて 付いていないようである。 いない。これに対し,合理的な期間内におい º 外国法の解釈 て或いは十分に努力しても外国法を調査でき 外国法の解釈について,国際的に,「形式 ない場合に限り,法廷地法を適用すると明文 的受入( formal reception)」と「実質的受 で規定するいくつの国がある。 245 ― ― 現在の中国大陸地区の学界には,全ての調 法官が十分に説明し尋問した後,一方当事者 査経路を尽くしたか否かに基づき,外国法を が他方当事者の提供した外国法について認否 調査できないことを認定すべきとの見解があ せず,或いは理由なく欠席した場合,人民法 る。法院或いは当事者が法律に規定されてい 院は他方当事者の提供した法律を特定するこ るすべての方法または経路を尽くしても外国 とができる。人民法院は,一方当事者の提供 法を調査できないとき,はじめて法の欠㔐補 した法律に明らかな間違いがあると認める場 充の問題が生じる。もし一つ或いはいくつの 合,たとえ他方当事者が異議を申立てなくて 方法しか利用せず,すべての方法を尽くさな も,これを認めるべきではない 21。「会議紀 ければ,法官は,これに基づき外国法を調査 要」第 52条には,類似の規定を規定してお できないとの結論を出すことも,当該外国法 り,すなわち,当事者の提供した外国法につ の代わりに他の法を適用することもできない。 いて質疑を経て異議がなければ,人民法院は 他方,もし法官が渉外事件を審理する過程 認めるべきで,当事者の異議を申立てた部分 で中国大陸地区の現行法に規定されている五 または当事者の提供した専門家意見の一致し つの外国法の調査経路を尽くさなければ外国 ない部分について人民法院は調査し認定する。 法を調査できないと認定することができない 特に注意すべき点は,たとえ双方当事者が関 としたら,時間の遅延と訴訟資源の浪費につ 係する法律の内容について争いはなくても, 19 ながることになるとの見解もある 。広東省 法官は,外国法の内容に関する証拠が明らか 高級人民法院は,実務で,当事者が関係する に信頼できないまたは事実無根と認めるとき, 香港,マカオ,台湾の法律の提供を拒否し, 当該証拠を斥けなければならない 22。 または人民法院の指定した期間内にそれを提 ½ 外国法を調査できないときの法の適用 供できず,かつ正当な理由を説明できなかっ 当事者の合意に基づき選択された外国法, た場合,大陸地区の法律を適用することがで きるとの方法を採っている 20。私見としては, 或いは抵触規範に従い指定された外国法を適 「外国法を調査できない」の濫用を防ぐため 用することになって,わが国の人民法院が当 に,他国の方法を参考し,調査できないこと 該外国法の内容を調査できなかった場合,如 について,合理的な期間或いは十分な努力に 何にしようか。「意見」第 193条には,「以上 よる制限を設けるべきと考える。 の経路を通じても調査できない場合,中華人 民共和国の法律を適用する。」と明文で規定 ¼ 外国法内容の特定 している。「解答」第 11条にも,「我が国の これについては,法律に明文規定がないが, 相応しい法律を参考し処理することができ 実務では独自の方法を用いた法院がある。例 る。」と規定していた。したがって,外国法 えば,広東省高級人民法院は,以下の方法を を適用すべき場合,法定経路を通じても調査 用いている。つまり,人民法院は,当事者の できないとき,中国法を適用するのは,わが 提供した香港,マカオ地区の法について,各 国の従来の立場である。しかし,もし「合理 当事者を召喚し,それぞれの調査した法律を 的な期間内において」或いは「十分な努力を 交換させ,合理的な期間内に異議を申立てる 経て」との制限を付け加えなければ,ときに よう通知しなければならない。当事者が調査 は外国法を調査できないことが,外国法の適 された法律の内容について異議を申立てなけ 用を回避するために法官に濫用される可能性 れば,人民法院は特定することができる。異 はある。 議の申立てられた部分について,人民法院が 外国法調査について明文規定を置いている 審査手続を通じて認定しなければならない。 国々の多くは,外国法を調査できないとき, 246 ― ― 法廷地法を適用すると規定している 23。しか 場合,当事者が上訴し是正を求めることが許 し,少数であるが,近似外国法,法理,補充 されることは問題がなかろう。実務には,上 連結素により指定された法律或いは最密接関 級審法院が下級審法院の法選択の誤りを是正 24 係法を適用すると規定している国もある 。 した判例もある 26。 「模範法」第 12 条にも,外国法を調査できな 上述したとおり,外国法の調査及び適用に いときの解決方法を広く採用し,「調査でき ついては,中国の立法がまだ不十分で,理論, ない或いは調査により関係法律が存在しない 実務における見解も一致しない。更なる注目 と判明した場合,当該外国法に近似する法律 及び研究が必要である。 或いは中華人民共和国の相応しい法律を適用 3.外国法の調査と適用に関する判例及 び評釈 27 する」と規定している 25。「民法典草案」に は,当該外国法に近似する法律或いは中華人 民共和国の相応しい法律を適用するほか,さ らに最密接関係原則に従い指定された法を適 事件1:オランダ商業銀行上海支店訴蘇州工 業園区売牌燃気有限会社担保契約返済紛争 用すると柔軟に規定している。 事件 28 外国法を調査できないとき,直ちに中国法 本件の争点は,双方の合意に基づき選択さ を適用することは,多くの弊害が存在すると 指摘されている。つまり,まず,多くの場合, れた法,つまり英国法によれば,保証人がそ 我が国の法と本来適用すべき外国法との間に の義務を履行した後,被保証人に求償する権 大きな差異が存在し,我が国の法を適用する 利を取得するか否かである。本件は,主に外 ことが当事者の当初の意思及び法律関係その 国法調査の問題,つまり英国法調査の問題に ものの性質に反する可能性はある。次に,外 関係する。 国法調査が法官の負担増加につながるとの見 江蘇省高級人民法院は,本件における法の 解もあるので,もし常に我が国の法をもって 適用問題について,双方当事者に英国法の関 調査できない外国法を替えるとすれば,わが 係法律を提出するよう求めた。双方当事者が 国の法官は外国法調査に消極的になる可能性 提供できないと表明したため,法院は,「意 がある。そして,本来調査能力を有する当事 見」第 193条第5項の規定に基づき,華東政 者も,外国法の適用より我が国の法のほうが 法学院国際経済法専門家陳治東教授に書面で 有利と考える場合,中国法の適用を望み適用 イングランド法の規定を提供するよう委託し, すべき外国法を調査しない可能性が生じる。 双方当事者がこれについて異議はなかった。 双方当事者が外国法の内容を提供できない したがって,わが国の司法実務界と学界では, 常に調査できない外国法の代わりに中国法を と表明したとき,法官が法律専門家にその提 適用する方法を否定する見解が主張されてい 供を委託したことは,外国法を適用する際, る。 当事者自治を尊重し積極的に外国法を調査す る法院の立場を明らかにした。 ¾ 外国法の適用が誤った場合の救済 わが国には,外国法の適用に誤りがあるこ 事件2:中化江蘇連雲港会社等訴フランス達 とが上訴理由になるか否かについて明文規定 飛船舶有限会社等海上輸送契約船荷証券な はない。しかし,わが国の民事訴訟制度及び しで貨物を引き渡した損害賠償紛争上訴事 実務から見ると,我が国が民事事件について 件 29 二審終審制を採っており,法律審と事実審の 本件は,外国法を調査できない場合の解決 分類もないから,外国法の適用に誤りがある 方法に関するものである。 247 ― ― 法院は,その判決文において「船荷証券の 工の経済損失について賠償責任を負わないと 裏面約款には米国法に従い解釈するとの記載 判示した。結局,判決の結果は本件と正反対 があるが,博聯会社がその適用すべきと思わ であった。 れる米国の具体的法律の規定を提供しなかっ 本件に注意すべきもう一つの問題は,もし た。最高人民法院「意見」第 193 条規定に従 各当事者が中国法を適用することについて同 い,法院が法定のいくつかの経路を通じても 意したら,当然,当事者間に準拠法に関する 当該法律の規定を調査できず,かつその他の 新たな合意が成立したと判断でき,中国法を 各当事者が中国法を適用することに同意した 適用することも問題はなく,他の調査経路を ため,本件における実体的争いに法廷地法即 尽くす必要もないが,実際は,他の当事者が ち中国法を適用すべきである」と判示した。 中国法を適用することに同意したが,米国博 米国で使用されている言語は英語で,情報 聯会社が米国法を適用することを一貫して主 公開の程度も高く,米国法を研究する内外学 張しているにもかかわらず,法院が判決文に 者も少なからずおり,中米間の法律業務に従 中国法を適用する理由を補強するために, 事している弁護士も大勢いる現在,もし米国 「かつその他の各当事者が中国の法律を適用 法さえ調査できなかったら,他の国の法律を することに同意した」ことをその理由の一つ 調査できないことになろう。したがって,法 としたことである。これは,妥当性を欠くと 院が外国法の調査と適用の問題について過度 いうべきである。 に消極的ではないかとの疑問が生じる。 本件の提起する問題は,如何に外国法を調 事件3:江蘇省軽工業品進出口株式有限会社 査できないと認定するか,法官が調査義務を 訴江蘇環球国際貨物運送有限会社,米国博 果たしたかを判断するかである。当事者の合 聯国際有限会社海上物品運送契約紛争事 意で選択された外国法,或いは抵触規範に従 件 30 い指定された外国法を適用することになって, 本件の主な問題は,当事者の選択した法に わが国の人民法院が当該外国法を調査できな 争点に関する具体的規定がない場合,如何に かった場合,如何にしようか。外国法を適用 適用すべき法を認定すべきかである。 武漢海事法院は,以下のように判断した。 すべきであるが,法定経路を通じても調査で きなかった場合,中国法を適用するのは,わ 江蘇軽工が米国博聯と江蘇環球の船荷証券正 が国の一貫した立場であるから,「合理的な 本なしで貨物を引き渡したことを訴えた本件 期間内において」或いは「十分の努力を経て」 は,契約紛争事件である。当事者が船荷証券 との制限を付け加えないと,ときには,法官 の主要条項に「1936年米国海上物品運送法」 は,簡単に「外国法を調査できない」ことを を本件の準拠法とすることは,中国法律の規 理由に外国法の適用を回避する恐れがある。 定に適合する。しかし,本件に関係する運送 訴訟原因が船荷証券なしで貨物を引き渡し 人の船荷証券正本なしで貨物を記名荷受取人 たものであるもう一つの類似の事件(事件3) に引き渡した問題について当該法律には明確 には,双方当事者が船荷証券の主要条項に な規定はないから,選択された法律が契約当 「1936 年米国海上物品運送法」を準拠法と合 事者の一部の権利義務関係しか調整できず, 意したが,当該法律が事件の主な争点に関す 本件争点に適用すべき法律が選択されていな る規定はなく,即ち当事者の選択した法律が いと認定すべきである。したがって,本件争 関係する契約の全部をカバーできないから, 点については,最密接関係原則に基づきその 武漢海事法院は,最終的に最密接関係原則に 適用すべき法律を特定しなければならない。 基づき米国法を準拠法とし米国博聯が江蘇軽 本件紛争は,運送人が米国港で貨物を引き渡 248 ― ― す過程で生じたもので,船荷証券発行地或い いから,この問題について検討する必要があ は積荷地で生じたものではなく,運送人が陸 る。なぜなら,異なる選択方法を採ることに 揚げ地で貨物を引き渡す行為は,直接に貨物 よって,結論が異なる可能性があるからであ を引き渡す行為地の法律に拘束されるから, る。本件では,法官が米国法を最密接関係法 本件紛争に関係する米国法を準拠法として適 としたが,他の船荷証券正本なしで貨物を引 用すべきである。米国博聯が船荷証券に基づ き渡した地がロシア,韓国であった類似の事 き貨物を指定された記名荷受取人に引き渡し 件には,中国法院が中国法を最密接関係法と たことは,適切であり,米国法律の規定に適 した 32。事件の結果が異なることは生じる。 合し,米国博聯が江蘇軽工の経済損失に賠償 事件4:中国遠洋運送(集団)総会社訴菱信 責任を負うべきではない。 賃貸国際(パナマ)有限会社貸金契約紛争 実は,本件は,主に外国法調査の問題に関 事件 33 係するもので,つまり外国法を調査できない 本件の主な問題は,当事者の選択した準拠 場合,如何に法を適用するかである。本件の 判断は,上述した外国法を調査できない場合, 法である英国法の内容の調査である。法院は, 中国法を適用すべき司法解釈を突破し,外国 最終的に英国富尓徳法律事務所の法律意見を 法を調査できない場合の解決方法の新たな展 採用し,中遠運送会社の上訴を棄却した。 これは,わが国の法院が,争点について, 開となり積極的な意義を有するとの見解はあ 31 る 。当事者が「1936 年米国海上物品運送法」 法院或いは一方当事者から外国法律事務所に を選択したことは,契約準拠法に関する選択 法律意見を委託する方法を採った判例である。 ではなく,契約条項に関する合意であり,即 本件では,法院は,一方当事者である菱信賃 ち,当該条項の役割が 1936 年法を契約に取 貸会社の提供した英国富而徳法律事務所の法 り入れ契約合意の一部分に構成したに過ぎな 律意見を採用し判決した。しかし,一つの法 いから,本件は,当事者が契約準拠法を選択 律事務所の提出した法律意見書を,法律を適 しなかった事案であり,最密接関係原則に従 用し判決を下す主な根拠とするのは,よく当 い契約準拠法を決定すべきとの見解もある。 事者の疑問と反感を惹き起こす。例えば,別 私見としては,本件はさておき,本件を通 の事件では,原告の米国会社が一枚の借金書 してさらに注目すべき問題は,当事者がある を主な根拠として中国法院に英国会社を提訴 国のある具体的な法律を選択し,当該法律に した。双方は,紛争が生じた場合,米国法に は当事者間の紛争に関する規定はないが,当 よると約束した。外国法調査について,一審 該国の他の法律にはそれに関する規定はある 法院は,米国公証人のある法律事務所のある 場合,当事者の選択を無効とし,或いは当事 弁護士に争点に関する法律意見を委託するよ 者が選択しなかったとした上で,最密接関係 う中国司法部に委託し,そしてその意見を採 原則に基づき紛争の準拠法を決定するか,そ 用し判決を下した。被告英国会社は,¸一審 れとも当事者が黙示的に当該国の法律のすべ 法院は,外国法の調査及び適用問題を米国の てを選択したとした上で,直接当該国の法律 一つの法律事務所及び公証機関に依頼し,最 の他の関係規定を援用するかである。かつて 終的にその提出した判決の性質を有する法律 の「解答」には,黙示的選択を認めず,法院 意見書に基づき判決を下し,法的根拠を欠き, が最密接関係原則に基づき紛争の準拠法を決 米国の法律事務所と公証機関に一部の裁判権 定すべきとしたが,「解答」の失効した現在, を代行させ,それに被告英国会社の弁論権を わが国の法律及び司法解釈には,黙示的選択 侵害したこと,¹一審法院は,中国の法律規 を認めるか否かについて明確な禁止規定はな 定に基づき五つの経路を通じて外国法を調査 249 ― ― できるが,外国法を調査した後,当該外国法 事件5:スイス銀行,伊文達株式会社訴湖北 を適用するか否かを独自に判断すべきであり, 昌Є化繊工業有限会社貸金契約紛争事件 36 一審法院がこの規定に反したことを理由に不 本件は,当事者らがスイス法を準拠法に選 服として上訴した。二審法院は,法院が内外 択したもので,主に外国法の調査が問題と 法律専門家による提供を含む五つの経路を通 なった。 じて外国法を調査することができ,一審法院 スイスが成文法国であり,その法律の調査 が適用すべき米国法について米国法律事務所 は,英米法国に比べて,大量の判例を調べる にその解釈を委託し,審査した後当該法律に 必要はなく 37,比較的に調べやすいと言える。 基づき判決を下したことは妥当であるとして, 本件には,「意見」の規定に従い,原告側当 原審を維持した 34。 事者であるスイス銀行と伊文達会社の提供し 当然,このような処理については反対する た上海に駐在するスイス総領事館の証明した 見解もある。まず,外国法律事務所が法律意 「スイス債法典」を採用し,判決の根拠とし 見書を提供する際,その委託人に有利に働く た。 よう意見を述べてないかと懸念される。次に, 外国弁護士が我が国の「意見」における「専 事件6:中国銀行(香港)有限会社訴広東省 門家」として認められるかについて疑問視さ 湛江市第二軽工業聯合会社(以下,「二軽 れる。現在,わが国の法には,「専門家」の 会社」と略す),羅発,湛江市人民政府貸 資格について明確な法規定はなく,ただ 金担保紛争事件 38 2002 年4月1日から施行された「最高人民 本件の主な問題は,法律の回避を理由に香 法院の民事訴訟証拠に関する若干の規定」第 港法の適用を排除すべきか否か,如何に外国 61 条に,専門家証人制度を規定しているだ 法(域外法)を調査できないと判断するかで 35 けである 。本件は,わが国の法には専門家 ある。 証人に関する諸問題について詳細に規定すべ 一審法院は,審理した結果,本件が香港に きであることを明らかにした。例えば,専門 関係する担保契約紛争であり,双方当事者が 家証人の資格,中立的専門家証人を当事者が 香港法を適用すると合意したので,本件に香 依頼すべきかそれとも法院が依頼すべきか, 港法を適用すべきと判示した。 専門家証人の義務と法的責任,専門家証人の 二審法院は,以下のように判断した。本件 証言の認証手続,専門家証人の証言を認定す は,香港に関係する担保契約紛争である。二 る過程における法官の役割,等である。実務 軽会社の提供した撤回不可担保書には,香港 では,各種「専門家」の提供した法律意見に 法によると定めており,「中華人民共和国民 ついて,一概に採用すべきでなく,特に一方 法通則」(以下,「民法通則」と略す)第 145 当事者の委託した専門家により提供された法 条第1項の規定によれば,中国銀行香港支店 律意見について,十分な検証を経なければ信 と二軽会社との間の担保契約紛争に香港特別 用すべきではないとの立場が採られている。 行政区の法律を適用すべきである。しかし, 本件では,中遠運送会社の提出した専門家に 貸主である中国銀行香港支店も借主である金 よるイングランド法に関する釈明が菱信会社 美達会社も香港で設立された企業であるから, の提供した英国富尓徳法律事務所の法律意見 二軽会社の提供した担保は,外国に提供した 書による反論を受け,法院が検証,比較を経 外貨担保に属する。1987 年国務院が批准し, た後,英国富尓徳法律事務所の法律意見書を 国家外貨管理局が公布した「外債を統計し監 採用した。この方は,説得力があり,外国法 測するための暫定規定」と 1991 年8月1日 の調査をよりし易くなる。 中国人民銀行が批准し,同年9月 26日国家 250 ― ― 外貨管理局が公布した「境内機関による外国 いようはない。ほかには,理論上,当事者が に対する外貨担保に関する管理弁法」によれ 大陸地区の法律を回避するために香港法を選 ば,二軽会社の提供した担保は,わが国の外 択したと認定したことは,法院が香港法の内 貨管理機関の批准と登記を経なければならな 容を知っていることを意味するではないか。 い。外国に提供する担保に関する外貨管理機 関の批准と登記は,わが国の外貨管理上,重 事件7:交通銀行香港支店訴Є懋国際有限会 要な内容であり,わが国の経済秩序と社会公 社,広東陽江紡織品輸出入集団会社,李孔 共利益の一部分となる。「民法通則」第 150 流,黄小江,陽江市人民政府貸金担保紛争 条の規定によれば,外国法を適用する場合, 事件 39 中華人民共和国の社会公共利益に反してはな 本件は,前の事件に似ており,即ち担保登 らない。「意見」第 194 条にも,「当事者のわ 記手続きをしなかった担保が有効か否かであ が国の強制的或いは禁止的法律規範を回避す る。本件の主な問題は,法律回避を理由に香 る行為は,外国法を適用する効力が生じな 港法の適用を排除すべきか否か,如何に外国 い。」と規定している。二軽会社と中国銀行 法(域外法)を調査できないと判断するかであ 香港支店との間の法の適用に関する合意は, る。 わが国の強制的法律規範を回避する行為に属 一審では,被告らは,主契約に香港法を適 し,中華人民共和国の社会公共利益に反する 用する定めはないから,最密接関係原則に基 から,当該合意は無効であり,二軽会社と中 づき大陸地区の法律を適用すべきであり,ま 国銀行香港支店との間の担保契約紛争に中華 た当該担保が中国大陸地区の法律の強行規定 人民共和国大陸地区の法律を適用すべきであ に反し,担保契約に香港法の適用を選択し中 る。羅発と中国銀行香港支店との間に締結し 国法の強行規定を回避したから,中国法を適 た担保契約には香港法によると定め,羅発と 用すべきであると主張した。一審法院は,審 中国銀行香港支店との間の担保契約紛争に香 理を経て以下のように判断した。本件は,貸 港特別行政区の法律を適用すべきであるが, 金担保契約紛争であり,双方当事者が準拠法 双方当事者が香港特別行政区の関係する法律 を選択しなかった。貸金契約の双方当事者が を挙証せず,香港特別行政区の法律を調査で いずれも香港法人であり,契約締結地も履行 きないから,「意見」第 193 条の規定により, 地も香港であるから,契約の最密接関係地は, 羅発と中国銀行香港支店との間の担保契約紛 香港である。最密接関係原則に従い本件貸金 争に中華人民共和国大陸地区の法律を適用す 契約の法律関係に香港法を適用すべきである。 べきである。湛江市政府と中国銀行香港支店 しかし,当事者が法院に香港における担保に との間には紛争を解決するために適用すべき 関する法律文書を提供せず,法院が香港法に 法律に関する定めはなく,担保人の住所が中 おける担保に関する規定を調査できないから, 華人民共和国大陸地区にあるから,最密接関 係原則に従い同じく中華人民共和国大陸地区 中華人民共和国の法律を適用する。ほかには, 「中華人民共和国外貨管理条例」の「外国に 対し担保を提供する場合,国家の規定する条 の法律を適用すべきである。 本件には,その他の証拠を示せず,当事者 件に適合する金融機関と企業でなければこれ が香港法を選択したことだけによって当事者 を為すことができず,それに外貨管理機関の が大陸地区の強制的法律規範を回避したと判 批准を経なければならない」との規定に基づ 断したのは,綿密さが足りず,また双方当事 き,紡織品会社,李孔流,陽江市政府がЄ懋 者が挙証しなかったことだけによって香港法 会社のために香港交行に貸金担保を提供した を調査できないと判断したのは,独断しか言 ことは,上述した法規の強行規定に反した。 251 ― ― 「意見」第 194条には,「当事者のわが国の強 である。原審法院が,主契約については当事 制的或いは禁止的法律規範を回避する行為は, 者の選択した香港法を適用し,担保契約につ 外国法を適用する効力が生じない。」と規定 いては我が国の強制的または禁止的規定を回 している。香港交行と紡織品会社,李孔流と 避したこと或いは香港法を調査できないこと の間に締結した契約に香港法が準拠法として を理由に中華人民共和国大陸地区の法律を適 選択されたが,これは,わが国の強行法規を 用したことは,法律の規定に適合する 40。 本件における香港法の調査には問題がある。 回避したもので,法に従い香港法を適用する 効力が生じない。したがって,香港交行と紡 前の事件に似ており,一審法院が「当事者が 織品会社,李孔流,黄小江,陽江市政府との 香港における担保に関する法律文書を提供し 担保関係についていずれも大陸地区の実体法 なかったこと」を理由に,「本法院が香港法 を適用する。 における担保に関する規定を調査できない」 二審では,香港交行は,以下のように主張 と判断したのは,独断で,消極的であった。 した。原審法院が香港法を準拠法と認定した 特に,資料によれば,当事者が香港の「貸主 が,種々の理由でその適用を排斥した。¸香 条例」を提出したことはあると主張したが, 港交行の提出した香港の「貸主条例」には担 一審も二審もこれについて言及せず,当事者 保に関する明確な規定があるにもかかわらず, に香港法の関係する内容を証明するよう注意 原審法院が,審理中,香港交行に香港におけ しなかった。ほかに,法律の回避を香港法の る担保に関する規定の法律文書を提出するよ 排斥理由の一つとするのも,若干強引であっ う一度も要求せず,また一度も関係する規定 た。 事件6,事件7に,充分に検討しなければ を調査することなく,「当事者が法院に香港 における担保に関する法律文書を提供せず, ならない域外法調査の問題が提起された。す 法院が香港法における担保に関する規定を調 なわち,同一主権国の異なる法域の法の調査 査できない」ことを理由に,中国大陸地区の に,裁判所による確知( judicial notice)の 法律を適用したことに,理由はない。¹Є懋 方法を採ることができるか否かである。米国 会社も香港交行も中国から出資された企業で では,他の州( foreign states)法について あり,両者間の貸借関係には渉外的要素を有 は,裁判官が裁判所による確知を行い,積極 せず,貸借関係に関係する担保関係にも渉外 的に調査すべきで,当事者による証明が不要 的要素を存在しない。香港がわが国の特別行 であるが,外国(foreign countries)法につ 政区であり,その現行法は,「香港特別行政 いては,当事者による証明が必要である。イ 区基本法」の下で制定され施行されたもので, ギリスの上院議院も,イングランド,スコッ 外国法の範疇に属しない。李孔流が自然人で トランド,北部アイルランドの民事事件の上 あり,その担保行為は,「外貨管理条例」に 告審裁判所として,この三つの法域の何れか よる制限を受けない。回避が故意でなければ の裁判所の上告事件を審理する際,職権で域 ならないが,本件には各当事者が故意に香港 外法の内容を調査する 41。このような方法を 法を選択し大陸地区の法律の適用を回避した 検討し取り入れるべきである。 いかなる証拠もないから,紡織品会社の担保 4.結びに代えて にも法の適用を回避した問題は存在しない。 二審法院は,審理を経て,以下のように判 断し,原審を維持した。わが国の大陸地区と 外国法の調査は,外国法を正確に適用する 香港特別行政区とは異なる法域に属し,香港 前提であり,事件の審理と判決の結果に直接 に関係する事件を渉外事件に準じ審理すべき に影響を及ぼすから,これを十分に重視し, 252 ― ― わが国における外国法の調査及び適用に関す る制度の整備を急がなければならない。わが 国における外国法の調査義務については,法 官による調査と当事者による調査のミックス 方式を採るべきであり,それに当事者が外国 法の適用を主張しなかった場合でも,法官が 抵触規則の指定に従い外国法を適用すべき義 務を負うと明確に規定すべきである。外国法 の調査については,現段階では,異なる性質 の事件及び異なる法域の法を区別し,異なる 方法を採ることも考えられる。外国法の解釈 については,当該外国法に従い解釈すべきで ある。外国法を調査できないとの判断につい ては,合理的な期間による制限と十分な努力 による制限を付け加えて,調査できない場合, 法廷地法を適用すると規定すべきである。 注 1 2003年全国法院司法統計公報情況説明(七) によれば,2003年全国法院の受理した各種類 の外国,香港,マカオ,台湾に関係する事件 及び渉外執行事件は,15746件で,前年に比 べ,43.08%下がった。その中に渉外事件は, 6338件で,香港に関係する事件は,6043件 で,マカオに関係する事件は,528件で,台 湾に関係する事件は 2837件であった。2004 年全国法院司法統計公報情況説明(七)によ れば,2004年全国法院の受理した各種類の外 国,香港,マカオ,台湾に関係する事件及び 渉外執行事件は,17066件で,前年に比べ, 8.38%上がった。その中に渉外事件は,7151 件で,前年に比べ,12.83%上がり,香港に 関係する事件は,5987 件で,前年に比べ, 0.93 %下がり,マカオに関係する事件は, 555件で,前年に比べ,5.11%上がり,台湾 に関係する事件は 3373 件で,前年に比べ, 18.89%上がった。2005年全国法院司法統計 公報情況説明(七)によれば,2005年全国法 院の受理した各種類の外国,香港,マカオ, 台湾に関係する事件及び渉外執行事件は, 20030件で,前年に比べ,17.37%上がった。 その中に渉外事件は,7843件で,前年に比べ, 9.68%上がり,香港に関係する事件は,8123 件で,前年に比べ,35.68%上がり,マカオ に関係する事件は,452件で,前年に比べ, 18.56%下がり,台湾に関係する事件は 3612 件で,前年に比べ,7.09%上がった。また, 253 ― ― 訴訟事件は,全体の 85.95%,執行事件は, 全体の 14.1%を占める。主な渉外事件類型は, 民商事事件で,訴訟事件の94.3%を占める。 2 黄進=李慶明=杜煥芳「2004年中国国際私 法司法実践述評」『中国国際私法与比較法年 刊(2005年巻)』(法律出版社,2006年)96 頁以下。黄進=杜煥芳「2003年中国国際私法 的司法実践述評」『中国国際私法与比較法年 刊(2004年巻)』(法律出版社,2005年)134 頁以下。 3 広東省を例にして見ると,2004年省すべて の法院の受理した外国,香港,マカオ,台湾 に関する商事事件は,4005件で,終審した事 件は,3463件で,受理件数も終審件数も全国 トップであった。統計によれば,2004年全国 の法院が 7631件の渉外(香港,マカオ,台 湾に関するものを含む。)商事事件を審理し 終了したに対し,我が省の法院が 3463件で, 約 45%を占める。「広東渉外民商事審判工作 成 績 顕 著 」 中 国 渉 外 商 事 審 判 網 : http:// www.ccmt.org.cn/ss/news/show.php?cId=59 74,2006年11月25日現在。 4 学者のアンケート調査によれば,2003年は, 6 % で , 2002 年 は , 5 . 5 % で , 2001 年 は , 6%であった。「2003年中国国際私法司法実 践述評」 , 「2002年中国国際私法司法実践述評」 , 「2001年中国国際私法司法実践述評」,『中国 国際私法与比較法年刊』(2004年巻,2003年 巻,法律出版社)の関係する内容を参照。こ れに対し,渉外裁判に係る者の提供したデー タによれば,外国法の適用の割合がさらに低 く,例えば,上海市第一中級人民法院の2002 年から 2005年までの審理終了した外国,香 港,マカオ,台湾に関する 496件の商事事件 には,外国法または香港特別行政区法律を適 用した事件は,4件で,占めた割合は1%に 及ばなかった。その中に香港法は,2件で, アメリカ法は,1件で,シンガポール法が, 1件であった。「渉外審判における外国法の 調査と適用に関する分析」, http://www.a- court.gov.cn/infoplat/platformData/infoplat/ pub/no1court_2802/docs/200609/d_456015. html 参照,2006年11月10日現在。 5 鄭新倹=張磊「中国大陸地区における域外 法調査の制度に関する研究」中国渉外商事海 事 審 判 網 : http://www.ccmt.org.cn/ss/ explore/exploreDetial.php?sId=811,2006 年 11月8日現在。 6 中国銀行(香港)有限会社与広東省湛江市 第二軽工業連合会社,羅発,湛江市人民政府 貸金担保紛争事件,広東省高等人民法院 (2004)粤高法民四終字第 26号。詳細は本文 後半の判例評釈の関係する部分を参照。 7 オランダ商業銀行上海支店訴蘇州工業園区 売牌燃気有限会社担保契約返済紛争事件,江 蘇省高級人民法院(2000)蘇経初字第1号一 審判決。本文後半の関係する部分を参照。 8 交通銀行香港支店与 Є懋国際有限会社,広 東陽江紡織品進出口集団会社,李孔流,黄小 江,陽江市人民政府貸金担保紛争事件,広東 省高等人民法院(2004)粤高法民四終字第 137号。本文後半の判例評釈の関係する部分 を参照。 9 筆者は,57ヶ国と地域,82の成文法規と 三つの国際私法典を調べた結果,第一,いく つかの国の国際私法典或いは渉外民事法律関 係法の中には,外国法調査に関する規定はな い。第二,いくつかの国において外国法調査 に関する規定があるが,その法典或いは法律 法規における地位が違う。多くの国において それを国際私法の一般問題とし,総論或いは 総則に規定を置く。例えば,タイ。しかし, いくつかの国において,それを国際民事訴訟 手続の一部分とし,国際民事訴訟編に規定を 置く。例えば,ベネズエラ・ボリバル。全体 的に言えば,上述の 57ヶ国の中,34ヶ国或 いは地域と一つの国際私法典において外国法 調査に関する制度について規定しており, 10ヶ国において規定しておらず,16ヶ国に おいて裁判所と当事者によるミックス方式を 採用しており,5ヶ国において裁判官による 調査を規定し当事者による調査を規定してお らず,3ヶ国が不明で,その他の調査方法例 えば専門家証人しか規定していない国は1つ であったことを判明した。多数の国において ミックス方式を採用していると言うべきであ る。ヨーロッパ諸国を見ると,フランスにも イタリアにもはっきりと事実説を支持するい くつかの最高裁判決があり,フランスの実務 がずっと不安定な状態にあり,未だに定説に 至っていない。See Jacob Dolinger, Applica- tion, Proof, and Interpretation of Foreign Law: A Comparative Study in Private International Law, 12 Ariz. J. Int’l & Comp. Law 225-232. 2005年6月 28日フランス最高裁判 所第一民事廷と商事廷の下した二つの判決 (( Nº de pourvoi 00-15734と Nº de pourvoi 02-14686)には,フランス裁判所の裁判官が, ある外国法の適用を認めた場合,職権で或い は当該外国法によるべき主張をした一方当事 者の請求に基づき,当該外国法の内容を調査 しなければならない。必要な場合,裁判官は 254 ― ― 当事者の協力を要求し自ら調査することがで きる。裁判官は,当該外国実体法に基づき紛 争となった問題について判断を下す義務を負 うとした。これに対し,ヨーロッパ大陸諸国 の多くは,明確な立法或いは一貫した判例法 により,確かに外国法を法律とされている。 他方,英米では,外国法を事実としてきた。 英国では未だにそれを維持し続けているが, 米国では既に変化が生じ,近年外国法を法律 とする傾向が現れた。米国における「裁判所 による確知(judicial notice)」に関する法規 或いは規則には,既に上述した不合理な立場 を変えた。例えば,連邦民事訴訟手続規則 ( Federal Civil Procedure Rule)第 44.1条に は,裁判所が外国法に関係する問題を上訴で きる法律問題とする。現在,わが国の学者は, 外国法の性質に関する認識について違う見解 を示しており,法律である,或いは法律であ るが内国法の法律と違うとの見解もあれば, 事実であるとの見解もある。 10 模範法第 12条には,「中華人民共和国の法 院及び仲裁機関は,国際民商事事件を審理す る際,或いは中華人民共和国の行政機関は, 国際民商事事務を取り扱う際,法律に外国法 を適用すべきであると規定している場合,当 事者による提供或いは証明を求めることも, 職権で調査することもできる。調査できない, 或いは調査した結果当該法規が存在しない場 合,当該外国法に近似する法律或いは中華人 民共和国の法律を適用すると規定している。 中国国際私法学会『中華人民共和国国際私法 模範法(第六次草案) 』 (法律出版社,2000年) 第6頁参照。 11 『中華人民共和国民法典(草案)』第九編 「渉外民事法律関係の法律適用法」第 7条に は,「本法の規定により適用すべき法律が, ある外国法である場合,中華人民共和国法院, 仲裁機関或いは行政機関が職権で当該域外法 を調査することも,¸当事者,¹我が国の当 該国に駐在する大使館,領事館,º当該国の 我が国に駐在する大使館,領事館,»中国と 司法共助協定を締結した相手国の中央機関, ¼中国及び外国の法律専門家,により当該外 国法を提供することもできる。当該外国法を, 法院,仲裁機関,行政機関が調査できない, 或いは当事者,上述した大使館,領事館,中 央機関と法律専門家が提供できない場合,当 該外国法に近似する法律,当事者に最も密接 な関係を有する国の法律或いは中華人民共和 国の相応しい法律を適用することができる。 外国法の解釈は,その所属国の法律及びその 解釈規則によると規定している。 12 「管理を規範化し,積極的に探索し,渉外 海事審理裁判業務を上手く取り扱えるよう努 力する」中国渉外商事海事審判網: http:// www.ccmt.org.cn/ss/news/show.php?cId= 6360,2006年11月18日現在。 13 陶凱元「広東法院における香港,マカオ, 台湾に関係する商事審理裁判の実践,探索及 び展望」珞珈―羊城法律論壇論文集(2006年) 第140頁参照。 14 中国遠洋運送(集団)総会社訴菱信賃貸国 際(パナマ)有限会社貸金契約紛争事件,北 京市高等人民法院(2001)高経終字第 191号 二審判決,北京市第二中級人民法院(1999) 二中経初字第 1795号一審判決。本文後半の 判例評釈の関係する部分を参照。ほか,張磊 「外国法調査の立法及び司法問題に関する探 析」法律適用2003年1号第98頁をも参照。 15 謝軍「上海一中院が法廷でインターネット を通じて外国法を調査するのを最初に創り出 した」光明日報 2006年1月 15日版第6面を 参照。 16 Jacob Dolinger, Application, Proof, and Interpretation of Foreign Law: A Comparative Study in Private International Law, 12 Ariz. J. Int’l & Comp. Law 240-241. 17 チュニジア,チェコ−スロバキア,イタリ ア,ポルトガル,ペルー,中国マカオ特別行 政区。 18 日本では,この二つの場合について区別す べきであるとの見解がある。山田鐐一『国際 私法』(有斐閣,1992年)第 123頁,木棚照 一=松岡博=渡辺惺之『国際私法概論』(有 斐閣,2005年)第72頁。 19 鄭=張・前掲注(5) 。 20 陶・前掲注(13)第140頁参照。 21 陶・前掲注(13)第140頁参照。 22 See J.G.Collier, Conflict of Laws, 3rded, Cambridge University Press, 2001, p. 35. 23 ロシア,スロベニア,モンゴル,カザフス タン,アゼルバイジャン,リトアニア,チュ ニジア,ベラルーシ,ルーマニア,タイ,ア ラブ首長国,トルコ,セネガル,ハンガリー, フランス,イタリア,オーストリア,スイス, リヒテンシュタイン,ポーランド等の国々で は,立法で明文規定を置いている。米国裁判 所には,二つの立場がある。一つは,当事者 が適用すべき外国法に関する証拠を提出する ことができなければ,その訴えを斥ける。も う一つは,米国及び英国判例法の立場である が , 法 廷 地 法 を 適 用 す る 。 See generally 255 ― ― Eugene F. Scoles, Peter Hay, Patrick J. Borchers, & Symeon C. Symeonides, Conflict of Laws §12.19 (3d ed. 2000). 米国では, 法廷地法を適用する立場がいろんな理論によ り支持されている。反対証拠がある場合を除 き,外国法と内国法とは同じであると推定す るとのものもある。しかし,適用すべき法が コモン・ローでない場合,内外法が同じであ る推定は,困難であるから,当該理論が強く 批判されている。また,当事者が外国法の適 用を主張しなかったことは,当事者が黙示的 に法廷地法を選択したことを意味するとのも のもある。連邦裁判所が 20世紀 60年代から 訴訟手続の国際化を図り始め,さらに上述し た外国法調査に関する規則をも実施したにも かかわらず,米国連邦裁判所の裁判官は,外 国法の適用に消極的で,より熟知している法 廷地法の適用を常に選択している。しかも, このような外国法を適用したがらない傾向は, 現在のインターネット時代において裁判官と 当事者が外国法の内容をより入手しやすく なったことによって弱まることはない。See Louise Ellen Teitz,From the Courthouse in Tobago to the Internet: the Increasing Need to, Prove Foreign Law in US Courts, Journal of Maritime Law and Commerce, January, 2003, pp.97-98, 102. 24 例えば,ポルトガル,中国マカオ特別行政 区とドイツ。ほかには,1995年『イタリア国 際私法制度改革法』第 14条,1995年『朝鮮 人民民主主義共和国渉外民事関係法』第 12 条を参照。 25 中国国際私法学会・前掲注(10)第6頁参 照。 26 順徳市韋邦家具有限会社訴熊猫有限会社 (PANDA S.R.L.)貸金紛争事件,最高人民法 院(2004)民四提字第4号。 27 特に断らなければ,評釈を外国法の調査に 関する問題に限定する。 28 江蘇省高等人民法院(2000)蘇経初字第1 号一審判決。 29 上海市高等人民法院(2002)上海高民四 (海)終字第 110号二審判決,上海海事法院 (2000)上海海法連商初字第45号一審判決。 30 武漢海事法院 2001年 12月 25日判決,中国 渉外商事海事審判網: http://www.ccmt.org. cn/hs/news/show.php?cId=700,2002年3月 2日人民日報「中国渉外審判案例」コラム, 当該事件の被告の一人である米国博聯は,前 事件の被告の一人でもある。 31 黄進=杜煥芳「『外国法の調査と解釈』の 条文設計及び論証」求実学刊 2005年第3号, 第75∼76頁参照。 32 達飛船舶有限会社訴山東省東方国際貿易株 式有限会社船荷証券正本なしで貨物引き渡し 紛争事件。山東省高等人民法院民事判決書 (2002)魯民四終字第 20号。海塩県対外貿易 会社訴韓国第一航易株式会社等海上物品運送 契約船荷証券なしで貨物引渡し賠償紛争事件。 中華人民共和国上海海事法院民事判決書 (2002)上海海法商初字第252号。 33 北京市高等人民法院(2001)高経終字第 191 号二審判決,北京市第二中級人民法院 (1999)二中経初字第1795号一審判決。 34 張・前掲注(14)第98頁参照。 35 当事者は,1,2名の専門知識を有する者 が出頭し事件の専門的問題について説明する よう法院に申立てることができる。法院がそ の申立てを認めた場合,発生した費用は,申 立人が負担する。法官,当事者は,出頭した 専門知識を有する者に対し審尋することがで きる。法院の許可を得て,各当事者の申立て た専門知識を有する者は,事件の問題につい て対面質疑を行うことができる。専門知識を 有する者は,鑑定人に対し質問をすることが できる。 36 湖北省高等人民法院(2003)鄂民四初字第 2号一審判決。 37 適用する外国法に外国の判例法が含まれる かについて,国際私法学界には見解が分かれ ている。外国法に成文法規がない場合,法官 は外国の関係する判例法を調査すべきである との立場がある。実務上,外国判例を適用し て判決を下したものはある。例えば,本件。 他方,外国判例を調査し正確にそれを適用す るのは容易ではなく,コモン・ロー国の英国 でさえ,外国法に明文規定がない場合,外国 判例を適用しないから,容易く外国判例を適 用せず誤審を避けるべきであるとの立場もあ る。 38 広東省高等人民法院(2004)粤高法民四終 字第26号。 39 広東省高等人民法院(2004)粤高法民四終 字第137号。 40 二審法院は,準拠法の決定については一審 判決を維持したが,実体法の適用については 部分的に修正した。 41 See J.G.Collier, Conflict of Laws, 3rded, Cambridge University Press, 2001, p. 33. 256 ― ―
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