マレーシア大学調査

マレーシアの大学調査報告
山口大学留学生センター長・教授
福屋
利信
目次
1.マレーシアの文化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1-1.政治
1-2.民族構成
1-3.宗教
1-4.言語
1-5.マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラム(MM2HP)
2.マレーシアの大学受験までの教育制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2-1.教育理念
2-2.学制
2-3.高等教育
2-4.留学制度
3.JICA がイメージするマレーシア支援の今後・・・・・・・・・・・・・・・ 10
3-1.マレーシアの政治・経済・社会・開発の動向
3-2.JICA が描くマレーシア支援事業の将来像
4.最初の使節団の UNIMAS 訪問・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
4-1.意見交換会
4-2.UNIMAS の Vision, Mission and Motto
4-3.UNIMAS の学部、研究所、学術センター
4-4.UNIMAS の協定校
4-5.UNIMAS の学生数、教員数、博士号取得者数
4-6.ビンツル支社現地職員との面談
4-7.サマラジュ工業団地トクヤマ・マレーシア・サイト見学
4-8.マラヤ大学予備教育渡辺研究室訪問
5.UNIMAS における日本語教育の現状調査・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
5-1.UNIMAS 外国語センター(Center for Language Studies)
日本語コースの概要
5-2.分析
5-3.独立行政法人・国際交流基金・クアラルンプール日本文化センター訪問
5-4.UNIVERSITY MALAYA 訪問
6.UNMAS における理工系教育の現状調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
6-1.UNIMAS 工学部
6-2.田中教授による UNIMAS 電気工学科生に対する授業
6-3.UNIMAS 実験室及び研究棟見学
6-4.UNIMAS 工学部教員との意見交換会
1
7.トクヤマ、UNIMAS、山口大学共同研究意見交換会・・・・・・・・・・・・・27
7-1.共同研究のテーマについて
7-2.山口大学工学部が立案した研究計画
7-3.UNIMAS 工学部教員との意見交換会
7-4.サマラジュ工業団地トクヤマ・マレーシア・サイト見学(2回目)
8.広報活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
9.UNIMAS 工学部スタッフのトクヤマ周南工場及び山口大学訪問・・・・・・・ 33
9-1.
UNIMAS 工学部スタッフがトクヤマ周南工場を訪問
9-2.サラワク大学から工学部副学部長らが丸本学長を表敬訪問
10.MoU 締結・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
2
1.マレーシアの文化
1-1.政治
マレーシアは、半島マレーシアの11州と東マレーシアの2州(サバ、サラワク)の
合計13州と、クアラルンプールを含む3つの連邦直轄区からなる連邦国家である。
各州は、独自の州憲法と立法府として州議会を有する。州長には、スルタンを有する
州では世襲制のスルタンが就き、スルタンを有さないマラッカ、ペナン、サバ、サラワ
クの4州については、各州の首席大臣の助言に基づいて国王が任命する。
連邦政府は、外交、防衛、国内治安、民事・刑事法、市民権などに関する法律を制定
する権限を有し、州政府は、イスラム法、土地、農林業、地方行政などに関する権限が
与えられている。サバ州とサラワク州は、1963 年のマレーシア連邦への加入の際、連
邦政府との協議において、先住民に関する法や慣習、先住民裁判などについての権限を
認められ、半島マレーシア諸州に比べて、より大きな権限を有する。
マレーシアでは、独立以来一貫して、各民族・地域代表政党から成る与党連合「国民
戦線(Barisan National:BN)が政権を握っている。その BN は、1957 年のマラヤ独立
を主導した統一マレー国民組織(UMNO)、マレーシア華人協会(MCA)、マレーシア・イ
ンド人会議(MIC)を主要政党に擁し、サバ、サラワクの諸政党や元主要野党であった
マレーシア人民運動党(GERAKAN)をも加えた連合組織である。
1-2.民族構成
マレーシアは、古くより海上交通の要衝であり、また、主に英国による植民地支配を
経験した歴史的経緯から、典型的な多民族社会を形成している。その民族構成は、主に
原マレー(Proto-Malays)、新マレー(Deutero-Malays)、華人系、インド系から成る。
原マレーとは、紀元前 2500 年頃から、中国南部からメコン川沿いに南下し、東南アジ
アに到来したと考えられている。サラワクでは、イバン族(Iban)やビダユ族(Bidayuh)
など、サバではカダザン族(Kadazan)などを中心に両州の多数派を構成する。もとも
とは移動狩猟生活や移動焼畑農業を行なっていたと言われるが、現在の生活様式は多様
化している。新マレーとは、現在、一般的に「マレー系」あるいは「マレー人」と呼ば
れる民族が該当する。原マレーの後に到来した同系統の民族であり、東南アジアへの移
動の過程で混血し、高文化を身につけた。
このような経緯で多民族国家を形成してきたマレーシアだが、現在では、民族間の婚
姻などによる融合が少なく、それぞれの社会が独自の文化を保ちながら共存している安
定型多民族社会となっている。以下は、マレーシアの民族別人口である。
3
マレー系及びその他先住民(ブミプトラ:土地の子)
・・・・・ 15,701,400 人
華人系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6,074,600 人
インド系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1,806,800 人
その他(ヨーロッパ系、タイ系、フィリピン系など)
・・・・・・1,998,100 人
全国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25,580,900 人
*Year Book of Statistics 2004
1-3.宗教
マレーシアでは、憲法において、イスラム教が連邦の公式宗教と定められている。し
かし同時に、個人の信仰の自由も保障されている。マレーシアの人口割合を宗教別に見
ると、以下の如くである。
イスラム教(マレー人中心)・・・・・・・・・・60.4%
仏教徒(華人中心)
・・・・・・・・・・・・・・19.2%
キリスト教・・・・・・・・・・・・・・・・・・9.1%
ヒンドゥー教(インド人中心)
・・・・・・・・・ 6.3%
マレーシアのイスラム教
今日、多くのマレーシア人の生活において、イスラム教は大きな位置を占めている。
ムスリムの基本的義務には、①信仰告白、②礼拝、③断食、④喜捨、⑤巡礼の5つが
ある。礼拝は、一日5回行うことが義務とされており、日の出、真昼、午後、日没、
夜中の、それぞれ一定時間以内に行なわなければならない。そのため、マレーシアの
公共施設や職場、ショッピングセンターなどには、スーラウ(Surau)と呼ばれる礼
拝所が設置されていることが多く、また、町中には大きなモスクが散見する。毎週金
曜日は、男性はモスクでの集団礼拝が義務とされている。
イスラム教では、毎年ラマダーン(Ramadhan)と呼ばれる1ヶ月間の断食月があり、
日の出から日没まで飲食が禁止されている。日没後に、あちこちで市場がたち、食事
が取られる。
イスラム教の二大祭日は、ラマダーン明けのハリ・ラヤ・プアサ(Hari Raya Puasa)
と、年に一度ある大巡礼ハリ・ラヤ・ハッジ(Hari Raya Haji)である。これらの祭
日の前後には、多くのムスリムが故郷に帰省する。メッカへの大巡礼に参加すると、
それまでの罪が全て免罪となるとされており、ハッジのために貯蓄に励む者も多い。
加えて、敬虔なムスリムの間では、トゥドゥンと呼ばれる女性用スカーフの着用な
どムスリムに相応しい服装をしたり、イスラム法に従って合法に処理されたハラール
(Halal)食品を摂ったり、金融では利子を禁止するイスラム法に合わせて無利子の
4
イスラム金融商品を購入するなど、日常の様々な場面において宗教が重要な生活要素
を構成している。
マレーシアは、ムスリム世界の中では、一定のイスラム化を進めつつも多民族が
大規模な紛争に陥ることなく共存し、なおかつ持続的な経済成長を維持してきたとい
う点において、比較的安定したイスラム教と国家との関係が構築されているケースの
一つだと考えられている。
1-4.言語
マレーシアで使用される言語は、マレー語、英語、中国語、タミル語であるが、国語
は、憲法によってマレー語と定められている。
イギリス植民地時代、英語を重視する学校制度が普及したが、独立後、政府は多額の
教育予算を組み、英語重視からマレー語重視の教育政策に転換し、マレー語はマレーシ
アの国語としての地位を確立した。
1-5.マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラム(MM2HP)
海外引退者受け入れプログラムである。これはマレーシアに多額の外貨を齎し、世界
各国との民間レベルの交流を増進し、知的レベルの高い良質な移住外国人の定着により、
マレーシア社会の文化・秩序などにも好影響を与えることが期待されている。
日本人の新しい永住型移転先としては、マレーシアが圧倒的に他を引き離して人気を
集めている。その理由は、以下の如くである。
1) 東京の3分の1という物価の安さ。
2) 気候が穏やかで、自然が人体に優しいこと(地震、台風、スギ花粉は皆無)
。
3) 国情が安定し、治安が良い。
4) 日本人に対して好意を感じている点では、世界でも最高クラスである。
5) インフラなど社会設備水準が日本に劣らないくらい高い。
6) 日本人会などが充実していて、セカンドライフ環境をサポートする体制が整っ
ている。
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2.マレーシアの大学受験までの教育制度
2-1.教育理念
マレーシアには日本の教育基本法に相当するような、教育の基本理念を規定する法律
は存在しない。その代わりに、国家理念(the National ideology)である「ルクヌガ
ラ」
(RUKUNEGARA)を持つ。この国家理念をしっかり認識しておくことが、マレーシア
での企業活動には大切である。それは以下のような内容である。
我々マレーシア国民は、以下の5つの目的の達成を目指す。
1)複合社会の統一された国家
2)法的に選ばれた国会による民主社会
3)すべての者に平等な機会がある公正な社会
4)多様な文化的伝統を持つ自由な社会
5)科学と現代技術を志向する進歩的社会
これらの目的の達成は、以下の原則によって導かれる。
1)神への信仰
2)国王と国家への忠誠
3)憲法の擁護
4)法の支配
5)良き行動と道徳
下線部の「神への信仰」と「国王と国家への忠誠」は、マレーシア人のメンタリティ
ーの中心を占める。マレーシアの教育は、この二つの精神性を基盤になされている。こ
の二つの存在を常に意識しておくことは、平均的日本人にこの二つの理念が希薄なだけ
に、重要である。ちなみに、発生するマレーシア人と日本人の異文化摩擦の源泉を辿れ
ば、ほとんどこの二つに起因すると言ってもよいだろう。
2-2.学制
学制は、イギリスのそれを基本にしており、6-3-2制となっている。
初等教育6年〈日本の小学校に相当〉
前期中等学校3年(日本の中学校に相当)
後期中等学校2年(日本の高等学校に相当)
6
*各学校段階が修了した時点で共通国家試験を受験し、その成績で進路が決定される。
特に後期中等学校修了時に受験する国家試験の成績は、大学進学、就職の際にも参
考にされるほど重要なものである。
*マレーシアには日本のような義務教育に関する法令上の規定はないが、初等教育
98.5%、前期中等学校 84.4%(2003 年現在)である。
2-3.高等教育
後期中等学校修了後すぐに進学できる高等教育機関には、以下のようなものがある。
ポリテクニック(2~3年)
教員養成学校(2~3年)
カレッジ(2~3年)
大学へは、後期中等学校修了後2年制の大学予科に進学し国家試験の準備を行い、国
家試験に合格後進学するのが一般的である。しかし、マレー系学生には、大学の予備
教育課程(2年制)に進学する道もある。また、カレッジ・レベルの教育を修了した
後に、大学へ進学することもできる。
マレーシア国内の大学は、現在、国立大学20校、私立大学40校がある。
国立大学
world ranking (2010)
マラヤ大学(UM)Research Univ.
207
マレーシア科学大学(USM)Research Univ.
309
マレーシア国民大学(UKM)Research Univ.
263
マレーシア農業大学(UPM)Research Univ.
319
マレーシア工科大学(UTM)Research Univ.
365
マレーシア北大学(UUM)
マレーシア・サラワク大学(UNIMAS)
マレーシア・サバ大学(UMS)
マレーシア・レンガヌ大学(UMT)
マレーシア・パハン大学(UMP)
マレーシア・ぺルリス大学(UniMAP)
マレーシア・イスラム科学大学(USIM)
マレーシア・技術大学・マラッカ(UTeM)
スルタン・イドリス教育大学(UPSI)
マラ工科大学(UiTM)
マレーシア国際イスラム大学(UIA)
フセイン・オン技術大学(KUITTHO)
7
マレーシア・ダルルイマン大学(UDM)
マレーシア・クランタン大学(UMK)
マレーシア防衛大学(UPNM)
*マレーシア・サラワク大学は、マレーシア国内の評価で7位にランクされており、
現在5位までが認定対象となっている研究大学(RU)への昇格を視野に入れて、研
究業績及び大学院への進学率向上を目指している。尚、6位以下は教育大学と見做
されている。国からの補助金は、研究大学と教育大学とではかなり差があると言う。
2-4.留学制度
東方政策(Look East Policy)
1982 年、当時のマハティール首相の提唱により開始された政策で、マレーシアの
経済発展と産業基盤の確立のためには、欧米諸国ではなく、マレーシアと同じアジア
にあり、短期間に近代国家に発展した日本及び韓国の経験に学ぼう(Look East)と
いうものである。具体的には、両国の労働倫理、技術力、経済システム、文化などを
直接学び取らせるために、両国に留学生及び研修生を派遣するプログラムである。
東方政策は、ほぼ30年が経過し、日馬友好の象徴的存在となっている。そして、
8
この政策の中身は、学生を対象とした留学プログラムと、社会人を対象とした研修プ
ログラムから構成されている。
学部留学プログラム
マレーシア国内の予備教育機関において、日本留学に必要な予備教育(日本語、数
学、物理、化学、社会科)を2年間実施した上で、日本の大学の学部に派遣するプロ
グラム。本プログラムの予備教育機関としては、マラヤ大学(UM)予備教育部日本留
学特別コース(略称 AAJ、工学部及び歯・薬学部進学コースがあり、定員160名)
と帝京マレーシア日本語学院(略称 IBT、工学部進学コースと社会科学系進学コース
があり、定員40名)がある。日本政府は、AAJ に日本人教師団(団長 1 名、教科教
員19名(以上、文部科学省から)
、日本語教員13名(国際交流基金から)
)を派遣
している。この予備教育で2年間学び、日本留学の要件を満たした学生は、学生の希
望及び成績に基づき、日本全国の国立大学に派遣される。
高等専門学校留学プログラム
マレーシア国内の予備教育機関において、日本留学に必要な予備機養育(日本語、
数学、物理、化学)を2年間実施した上で、日本の高等専門学校(以下「高専」
)3
年次に編入させるプログラムであるが、近年では、高専において優秀な成績を修め、
大学編入学試験に合格した学生は、大学への編入が認められている。本プログラムの
予備教育は、2008 年度まではマレーシア工科大学(UTM)で行なわれていたが、2009
年度よりマラ工科大学(UiTM)に移管された。定員は80名。
大学院留学プログラム
マレーシアの公務員の研修、人材開発を目的とし、マレーシアの公務員を日本の大
学院修士課程に派遣するプログラム。
研修プログラム
日馬経済連携協定(EPA)の共同声明に基づき開始された経済連携研修プログラム
と、マレーシア政府の若手行政官を対象に、日本国際協力機構(JICA)において研修
する青年研修プログラムがある。
9
3.JICA がイメージするマレーシア支援の今後
3-1.マレーシアの政治・経済・社会・開発の動向
政治
2009 年に誕生したナジブ新政権は、“One Malaysia”を新たなスローガンに掲げ、
マレー人優遇政策であるブミプトラ政策の見直しを行い、民族融和とともに経済政策
に力を入れている。
経済
2007 年まで6年連続で5%を超える高成長を達成してきたが、輸出依存度が高い
ことから、2009 年度にはマイナス成長を記録した時期もあった。しかし、その後世
界経済の回復を受けてプラス成長に転じ、2010 年度は7%を超えた。
社会
マレーシアの悲願は貧困削減であった。1970 年時点でおよそ半数弱が貧困世帯で
あったが、その後の30年間で大きく改善され 2002 年には5%にまで削減された。
現在では、国民の健康改善や環境問題に社会的課題のフェーズが上がっている。
人間開発指数(HDI)
HDI とは、0から1の間の数値で表され、1に近いほど高い開発度とされる。2010
年の人間開発レポートによると、169カ国中57位となっており、前年の66位か
ら上昇した。他のアセアン諸国との比較では、シンガポール27位、ブルネイ37位
についで第3位と鳴っている。2010 年、マレーシアの HDI は 0.741 であった。この
数値は、東アジア及び太平洋地域の平均値 0.650 と比較して高い水準だと言える。
3-2.JICA が描くマレーシア支援事業の将来像
マレーシアに対する JICA の基本的イメージ
3-1で示した社会動向を踏まえて、マレーシアは、支援対象国としての最終段階
にあると認識されている。すなわち、インフラ整備への支援段階から生活のクオリテ
ィ向上への支援段階に入っていると言える。さらに、マレーシアに日本の海外支援に
おけるパートナー的役割を期待している。つまり、日本のアセアン諸国への支援に対
して、マレーシアに人的支援を含めた様々な協力を望んでいるのである。
具体的には、環境保護、人材育成、格差是正などの分野への支援が今後のマレーシ
ア支援の中心になる。そして、今後の日本の支援体制に対して、戦略的パートナーシ
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ップの構築をマレーシアに求めて行く。
3-3.JICA の協力事例
高等教育基金借款事業Ⅲ
マレーシアの学生に対し、日本の大学及び大学院への留学により日本の理工系教育
を受ける機会を提供することで、開発・研究などに必要な高度な技術の習得を支援し、
人材育成を図るもの。
ボルネオ生物多様性・生態系保全プログラム(フェーズ2)
サバ州における生物多様性・生態系保全体制を強化するとともに、マレーシア国内
外への知識・情報発信の拠点となることを目的として、サバ州生物多様性評議会の強
化に取り組んでいる。
第三国研修
マレーシアとのコストシェアに基づき、第三国研修を中心にアセアン統合支援(鳥
インフルエンザ、カンボジア職業訓練など)
、イスラム諸国への協力(ミンダナオ・
南部タイなど平和構築セミナーなど)
、アジア・アフリカ協力(マレーシアの開発経
験を生かした起業支援など)を実施している。
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4.最初の使節団の UNIMAS 訪問(2011 年 3 月 3 日)
4-1.意見交換会
UNIMAS 側からは、学長
以下大学幹部に出席い
ただき歓待を受けた。
出席者
UNIMAS
Vice Chancellor: Prof. phD. Khairuddin Ab Hamid
Deputy Vice Chancellor: Prof. phD. Peter Songan
Dean (Faculty of Engineering): Prof. phD. Wan Hashim Wan Ibrahim
Head (International Affairs Division): Prof. phD. Kasing Apun
Head of Center for Language Studies
Tokuyama Malaysia Sdn. Bhd.
Vice President: Mr. Toshiki Nakamura
12
Deputy General Manager: Mr. Kazuhiko Hayashi
Coordinating Manager: Mr. Lau Jeck Deng
Human Resource Manager: Mr. Momoki Fukuda
Tokuyama Corporation
Personal Dept. Assistant Manager: Mr. Kota Ito
Yamaguchi University
Presidential Deputy for International Affairs: Prof. phD. Ooi Hong Kean
International Student Center: Prof. phD. Toshinobu Fukuya
UNIMAS 全景
1992 年 12 月 24 日創立
1993 年 8 月 8 日学生初入学
4-2.UNIMAS の Vision, Mission and Motto
Vision
To become an exemplary university of internationally acknowledged stature and
a scholarly institution of choice for both students and academics through the
pursuit of excellence in teaching, research and scholarship.
13
教育、研究そして学術の分野における卓越さを追い求めることにより、学生や学者に
とって、魅力的且つ国際的に認められる模範的な大学に成長する。
Mission
To generate, disseminate and apply knowledge strategically and innovatively to
enhance the quality of the nation's culture and prosperity of the people.
知識を生み出し、皆に伝え、そしてそれを戦略的且つ革新的に応用し、高い素質の文
化を作りだして、人民の幸福や富の増大に貢献する。
Motto
CONTEMPORARY AND FORWARD LOOKING(現在と未来への展望)
4-3.UNIMAS の学部、研究所、学術センター
学部(Faculties)
1992:Resource Science & Technology(資源科学と理学部)
Social Sciences(社会科学部)
Cognitive Science & Human Development(人文学部)
1994:Applied & Creative Arts(応用芸術学部)
Engineering(工学部)
Computer Science & Information Technology
(コンピュターサイエンスと情報工学部)
Medical & Health Sciences(医・保健学部)
1995:Economics & Business(経済・商学部)
研究所(Research Institutes)
Institute of Biodiversity & Environmental Conservation (IBEC)
Institute of Health & Community Medicine (IHCM)
Institute of East Asian Studies (IEAS)
Institute of Design and Innovation (InDI)
Institute of Social Informatics and Technological Innovation (ISITI)
学術センター(Centers of Excellence)
Rural Informatics (CoERI)
Malaria Research (CMR)
14
Water Research (CWR)
Image Analysis and Spatial Technology (CIAST)
Renewable Energy (CoERE)
Semantic Technology and Augmented Reality (CoSTAR)
Sago Research (CoeSAR)
4-4.UNIMAS の協定校
University Level Memorandum of Understanding(MoU)
(協定校の数)
country / continent
Number of MoU
ASEAN
12
Asia
14
Australia & New Zealand
8
United States of America & Canada
7
Europe
10
South Africa
1
Total
52
大学間協定の調印式(左が UNIMAS 学長)
4-5.UNIMAS の学生数、教員数、博士号取得者数
学部生の1割強
が大学院に進学
15
教員数:715 人(学生数 7041 人に対する教員数の割合は1割を超える)
博士号取得者の割合:教員数の 33%
4-6.ビンツル支社現地職員との面談(3月4日)
面談風景
*面談内容は、個人情報につき割愛
4-7.サマラジュ工業団地トクヤマ・マレーシア・サイト見学(3月4日)
井出 General Manager(左)にサイトを案内してもらう
4-8.マラヤ大学予備教育渡辺研究室訪問(3月7日)
渡辺教授は、元山口大学教授で敬虔なイスラム教徒。研究室を表敬訪問
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5.UNIMAS における日本語教育の現状調査(2011 年 5 月 16 日~20 日)
5-1.UNIMAS 外国語センター(Centre for Language Studies)日本語コースの概要
外国語センター(以下 CLS)の 1 コースとしての位置づけ
対象言語:英語、マレー語、アラビア語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、
タミル語、中国語、イバン語、日本語
選択科目(第三外国語)として受講。レベル 1 と 2 に分類されている。
対象:全学部・全学年の学生
授業形態:英語で日本語を教えるスタイル
到達度レベル:レベル 1~2
レベル 2 終了で日本語能力試験 N5 レベル:ごく簡単な日常会話ができるレベル
*マレーシアの他の大学と同レベル(マラヤ大学を除く)
受講者数
レベル 1=395 人(14 クラス)
レベル 2=37 人(2 クラス)
*日本語は、第三外国語の中で最も人気が高い(ウェイティングリス
トに 30 名程度)
。
*レベル 2 は中華系が多い。
*レベル 2 は専門の講義が忙しくなり、受講を断念する学生も多い。
*夏休み期間の集中講義を今年度から開講。
教員:ローカルの教員(マレー系)2名、日本人の教員3名
教科書:UNIMAS CLS の方針のもと、レベルごとに UNIMAS オリジナルの教科書を作
成。その際、独立行政法人国際交流基金の日本語教育専門員の指導の下で
作成。英語併記。
授業数:1週間に2コマ(1コマ2時間)
、1学期14週(つまり 56 時間)。
この時間数は、テストやオリエンテーションなどを含めない、純粋な授業
時間。
レベル 1:56 時間
レベル 2:112 時間
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UNIMAS CLS スタッフと永井講師(中央)
永井講師の授業を受ける学生たち
5-2.分析
日本語教育の方向性
UNIMAS での日本語コースの方向性(教科書、進度など)は問題ない。スタッフ
の補充およびスキルアップ、教育内容の改訂などを行えば、各レベルの到達度を
ある程度上げることが可能である。その教育内容の改訂を行うには日本語教育専
門家の協力が必要。UNIMAS では、日本語教育の専門家は、コーディネーターの Ms.
Rokiah Paee のみ。漢字を全く扱っていないので、必要性に応じて漢字学習も取り
入れる必要がある。
日本語コースの様子
学生:熱意がある。ウェイティングリストに入っている学生が教員に受講を掛
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け合っている姿が多く見られた。中には無許可でクラスに入り込んでいる学生も
いた。授業にも積極的に参加している。日系企業の進出などにより、さらに学習
動機が高まると考えられる。
教員:熱意を持って指導している。日頃から授業の問題点を話し合い、改善を
希望している。しかし、問題点をどのように改善すればよいのかわからず、困っ
ている様子も見られた。現在使用している教科書を1年で仕上げるなど、熱心な
取り組みが見られる。
CLS の協力
CLS のセンター長である Dr. Soubakeavathi Rethinasamy に、学生の日本語レベ
ル向上の必要性を伝えたところ、以下の回答を得た。
① 現在、レベル1、レベル2のみ開講している日本語クラスをレベル4まで
開講可能。ただし、単位を認めるのはレベル3までで、レベル4はオプシ
ョン。レベル4まで開講可能となると、日本語能力試験 N3-4 レベルの口
頭能力および基本漢字の学習が可能。
② 専門が忙しい学生に対しては、クラスの時間を夜間帯に設定する。レベル
3以上は、夏休みの集中講義とする。
③ 漢字学習はレベル1,2で本格的に取り入れることは難しいが、レベル3
以上で入れることは可能。
④ 教員、特に現地教員(任期なし)の日本語能力を向上させる必要がある。
Ms. Rokiah Pae(コーディネーター)は日本の大学・大学院での留学経験
もあり問題ないが、もう 1 名の教員は日本語学習歴が短く、担当できるレ
ベルも限られている。教員の再教育の必要性を感じている。
専門の授業との兼ね合い
日本語のレベルを増やすことは学生からも希望が出ている。ニーズはあると
言える。しかし、どの学生も専門の授業との兼ね合いで日本語学習を諦めてい
るのが現状。専門の講義がない夜間開講として、一般公開にし、社会人も参加
できるようにするなどの対策が考えられる。株・トクヤマへの就職の可能性は、
学生のモティベーションを高めると予測される。
5-3.独立行政法人・国際交流基金・クアラルンプール日本文化センター訪問
(5月23日午前)
・磯ヶ谷浩之日本語事業部長の案内で施設見学
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・磯ヶ谷浩之日本語事業部長、エドワード・リー日本語事業部長補佐らと面会し、
マレーシアの今後の日本語教育事情調査及び UNIMAS の日本語教育充実について
アドバイスをもらう約束をいただいた。
・伊藤愛子日本語事業部講師と面会し、マレーシアの日本語教育について現場の様
子を伺った。
磯ヶ谷部長と永井講師(KL 日本文化センターにて)
5-4.UNIVERSITI MALAYA を訪問(5月23日午後)
・日本政府派遣教師団団長の渡辺淳一教授と面会し、マラヤ大学における日本語教
育の取組みの大枠について伺い、UNIMAS の日本語教育事情を話したうえで、今後
の UNIMAS における日本語教育への協力の方向性について助言をいただいた。
・日本政府派遣教師団の原田明子先生(Head of Japanese Language Lecturers)と
面会し、マラヤ大学の日本語教育の現場の様子を伺い、今回の UNIMAS の訪問目的
や調査結果を伝えた後に UNIMAS への協力の方向性について助言をもらった。
・Ms. Mahfuzah Binti Mahmud(日本語教師)と面会し、現地の日本語教員がどのよ
うに日本語教育に取り組んでいるのかについて伺った。
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6.UNIMAS における理工系教育の現状調査(2011 年 9 月 12 日~13 日)
6-1.UNIMAS 工学部
4 Departments
Department of Civil Engineering
established in 1993.
Department of Electronic Engineering
established in 1993.
Department of Mechanical &
Department of Chemical Engineering
Manufacturing Engineering
& Energy Sustainability
established in 1996.
established in 2009.
established in 1993.
Academic Staff
Number of Staff
Professor
9
Assoc. Prof.
5
Senior Lecturer
26
Lecturer
57
Tutor
22
Total
119
*上記のように、学部教員が非常に若いのが UNIMAS の特徴である。
21
学部生総数・・・・・・・・・・1050 人
大学院修士課程・・・・・・・・・73 人
大学院博士課程・・・・・・・・・18 人
*大学院進学率は 8.7%
6-2.田中教授による UNIMAS 電気工学科学生に対する授業(9 月 12 日午前)
対象:電気工学科1年生 102 名
使用言語:英語
授業内容(キーワード)
A Basic DC Circuit, A Basic AC Circuit
Forms (Shapes) in Electricity
Classifications of the Power Converters
From AC to DC Rectifier
DC to AC Converter: “Inverter”
A Charger for Mobile Phones
授業風景(女子学生 60%、男子学生 40%)
・学生たちは、日本の学生たちに比べて非常に積極的。
・田中教授の質問に対して、即座に挙手して即答する学生が相次いだ。
・日本と同じ現象だが、女子学生の方が積極的。
・授業内容とは関係ないが、男女が通路を分けて、一人の例外もなく男女別に着
席。UNIMAS スタッフによると、コントロールは一切なく、自然発生的と言う。
田中教授の感想
22
学生たちの工学的基礎知識は、比較的高い。応用力は授業内容からは判断不可。
6-3.UNIMAS 実験室及び研究棟見学(9 月 12 日午後)
説明を受ける田中教授
田中教授の所見(日本の国立大学との思想の違い)
山口大学を含む国立大学の工学部では、学生実験用装置は、
「助手と技官による手作
り」が基本である。これは、主に2つの理由による。
1. 助手への教育
技官には長年のノウハウが蓄積されており、これを助手に伝えていくことが
大切である。助手は、近い将来、准教授や教授となるわけであるから、長い意味
で「教育職員」への教育となる。そして、この助手の経験が、学生にフィードバ
ックされる。
2. 教科書にない基本事項の習得
UNIMAS の実験室では、学生実験は、
「教科書の原理確認」である。これに対し
て、日本の国立大学では、
「教科書の原理確認」に加えて、教科書に書かれてい
ない事項〈実システムでは当然の事項〉の習得が目的となっている。例えば科
学の分野でも「温度管理」をした上でないと、教科書と同じ反応結果が得られ
ない例は沢山ある。このことから、日本企業における「製造現場主義」への理
解をいきなりマレーシア学生に求めるのは難しい。日本式の訓練が必要。
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さらに、サーボメーター系の実験装置も特注であり、かつ制御プログラムも専用ソ
フトを一括して購入している。このことは、一見効率的なような気がするが、制御ア
ルゴリズムを助手や学生に学ばせる機会がなくなる。現在は、すべてC言語を用いて
マイコンとパソコンを接続し、計測・制御系を実現している。この一端でも学ばない
と、全く産業界とかけ離れた教育となる。
一番驚いたのは、UNIMAS におけるすべての実験室が同じ靴で入室できたことである。
山口大学では、実験の項目により履物を制限している。当然、クリーン度の要求にし
たがって、履物のみならず白衣着用やクリーンルームでは専用の服を用意する。とこ
ろが UNIMAS では、このことを重要視していないようである。電波暗室までも革靴で入
室できた。エンジニアは、現場に足を踏み入れることはないし、踏み入れる必要がな
いと考えてのことだろうが、これでは、製造現場で徹底的な防塵対策をしていること
を原理的に理解できても、「体」でその重要性を理解することができない。
この結果が、学部長の部屋も会議室も実験室も同じレベルの防塵対策ということに
なるのであろう。このことは、学生に現場第一の精神を教育する機会の喪失につなが
り、それを理解する必要がないと考える学生を送り出すことになりかねない。
日本の国立大学の現場主義に対して、欧米の教育ではエンジニアとワーカーとの役
割がはっきりと分けて教育される。マレーシアはイギリスの教育制度や理念を受け継
いでいるので、概して欧米に類似する教育理念である。したがって、日本の製造現場
の根幹を成す Quality Control などの概念をマレーシアの大学出身者に教え込むには、
入社後の社員教育が不可欠と考える。
6-4.UNIMAS 工学部教員との意見交換会(9 月 13 日)
意見交換会の様子
24
意見交換会の内容
・山口大学の留学生支援体制のブリーフィング。
(福屋)
・山口大学部の工学部のブリーフィング。
(田中教授)
・UNIMAS 工学部のブリーフィング。
(Zen 工学部副学長)
・交換留学生システムを UNIMAS と山口大学との間で提携する可能性について。
・その際の UNIMAS 学生に対する奨学金制度の設置について。
・UNIMAS 側から共同研究プロジェクトの申し入れ。
・UNIMAS 工学部のカリキュラム(Washington Accord)についてのブリーフィング。
6-5.ワシントン・アコード
ワシントン・アコード(Washington Accord)は、技術者教育の実質的同等性を相互
承認するための国際協定である。この協定の目的は、各加盟団体が行う技術者教育認
定制度の認定基準・審査の手順と方法の実質的同等性を相互に認め合うことにより、
他の加盟団体が認定した技術者教育プログラムの実質的同等性、ひいてはその修了者
について自国・地域の認定機関が認定したプログラム修了者と同様に専門レベルで技
術業を行うための教育要件を満たしていることを相互に認め合うことである。
1989 年 11 月に最初の6カ国・地域を代表する技術者教育認定団体が協定を結び、
2005 年 6 月に日本を代表する認定団体として JABEE の正式加盟が認められた。2009 年
に新たに加盟の認められたマレーシアを含め、現在の加盟団体は、以下の 13 団体と、
暫定加盟の4団体(ドイツ、ロシア、インド、スリランカ)である。アングロ・アメ
リカン諸国から始まったワシントン・アコードは、非英語圏を含む世界の技術者教育
認定団体の相互協定へと変遷・拡大している。
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米国: Accreditation Board for Engineering and Technology (ABET)
カナダ: Engineers Canada
英国: Engineering Council UK (ECUK)
オーストラリア: Engineers Australia
アイルランド: Engineers Ireland
ニュージーランド: The Institution of Professional Engineers New (以上 1989 年加
Zealand (IPENZ)
盟)
香港: The Hong Kong Institution of Engineers (HKIE)
(1995 年加盟)
南アフリカ:The Engineering Council of South Africa (ECSA)
(1999 年加盟)
日本:日本技術者教育認定機構(JABEE)
(2005 年加盟)
シンガポール:Institution of Engineers Singapore
(2006 年加盟)
韓国:Accreditation Board for Engineering Education of Korea
(2007 年加盟)
台湾:Institute of Engineering Education Taiwan
(2007 年加盟)
マレーシア:Board of Engineers Malaysia
(2009 年加盟)
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7.トクヤマ、UNIMAS、山口大学共同研究意見交換会(2011 年 11 月 14 日)
7-1.共同研究のテーマについて
第9次マレーシア計画(2006~2010)に基づく、5つの地域開発計画の一つとして
サラワク再生可能エネルギー回廊(SCORE:The Sarawak Corridor of Renewable Energy)
がある。この開発プロジェクトのコンセプトは、豊富な石油代替エネルギー資源(石
炭、天然ガス)に加え、豊富な水資源による潜在的な大電力供給能力を積極的に開発
してエネルギー供給面での競争力を強化するというものである。この強化策と様々な
優遇措置を用意して、エネルギー多消費型企業からの投資を促し、2030 年までに 160
万人もの新規雇用の創出とサラワク州経済の発展を目指している。
この開発プロジェクトは、多くの日本企業の注目を集め、山口県に事業基盤を持つト
クヤマが既に進出を決め、太陽電池向け多結晶シリコンのプラント建設に着手してい
る。エネルギー多消費型企業にとって、エネルギーの安定供給は、事業進出・拡大を
判断する上で重要事項の一つであり、エネルギー供給が信頼性の高いものでなければ、
企業にとっては魅力的な地域とならない。現に 2008 年 8 月に送電線増強工事の回線切
替時の大規模停電、2011 年 8 月のバクン水力発電所試運転トラブルに起因する広域停
電等が発生しており、今後の地域経済の発展に支障を来たすことも懸念される。
今回のサラワク大学と山口大学の共同プロジェクトでは、双方の強みを活かしサワ
ラク州の経済発展と日本企業のサラワク州への進出・拡大を後押しすべく、サワラク
州の電力インフラの信頼性向上に取組んでいく。
1. ビジョン
「サラワク州の電力系統の信頼性向上を目指す。
」
研究機関・教育機関の立場からのアプローチとして
1)信頼度の高い電力系統の検討
2)基幹送電系統の構成に関する検討
3)電源品質の実態調査と改善に関する検討
サラワク州の実情調査結果と、日本の電力状況の調査結果を基に検討方法の考
え方を提案していく。
2. 今回のテーマ
「サマラジュ工業団地への電力安定供給」
重点成長地域3ヵ所のうちの一つであるサマラジュ工業団地は重工業地域と
して既に複数の企業が進出を決め工場建設に着手している。大電力を消費するこ
とになるこの地域への電力安定供給が電力系統全体の信頼性を確保する上で最
27
重要となる。
3. 今回のゴールイメージ
「瞬時負荷変動に対応するシステムの導入と、サマラジュ工業団地内への共同火
力発電所の建設」
1)サラワク電力(SEB)での瞬時負荷変動に対応するシステムの導入
大規模自家発有するトクヤマ徳山製造所でも導入されている①発電ユニッ
トが脱落時の選択負荷遮断システムと、②大電力消費工場が緊急停止した場
合の逆インターロックの必要性を提言する。日本の電力会社でも一般的に装
備されているしシステムであり、今年8月のバクン水力発電所のトラブル時
のような状況でも本システムが導入されていれば防げた可能性は高い。
2)サマラジュ工業団地内における共同火力発電所の建設
重工業においては、操業に蒸気が必要であるとともに、保安電力の確保が
機械損失を最小限に抑えるために重要である。そこでサラワク州で産出され
る石炭のうち低品位で輸出できない褐炭を使った石炭(褐炭)発電所を建設
すれば、燃料単価を安く抑えた火力発電による安定した電力と蒸気が供給可
能となる。このコジェネレーションシステムをサマラジュ工業団地に設置す
れば、バクンダム(Bakun Dam)~シミラジャウ(Similajau)開閉所~サマラジ
ュ(Samalaju)変電所までの発電及び送電ルートのどこかに支障をきたして
も電力系統の壊滅的なダメージを避けることが可能になると考えられる。
4. 研究分担
【UNIMAS】
1) 最終提言書の作成
サマラジュ工業団地に最初に進出するトクヤマの電力系統解析検討結果、
並びに日本の電力事情調査結果を基に加筆修正のうえ上記のゴールイメージ
にて報告書を作成する。作成した報告書は、州政府、並びに連邦政府に提出
する。
2) サラワク電力でのシステム調査
現状把握としてサラワク電力から情報収集をする。できればマレー半島側
の電力会社であるテナガ・ナショナルからも情報収集を行う。
3) 現地で電圧周波数や周波数変動などを実測
山口大学側からLabVIEWベースの測定器とソフトウエアの提供を受
け、山口大学の院生とともに一定期間測定を実施して落雷による電源品質へ
の影響を調査する。
28
【山口大学】
1) 日本の電力品質保証実態の報告書作成
日本で有数の自家発電を有するトクヤマ徳山製造所、並びに中国電力等の
実態調査に基づいて報告書を作成する。
2) 日本の電力会社(中国電力)の実態調査
瞬時負荷変動システムに関する内容を中心に、系統信頼性確保に関する取
り組み状況を調査する。
3) トクヤマ徳山製造所の自家発電の実態調査
瞬時負荷変動システムに関する内容を中心に工場内電源系統の安定運用に
関する取組み状況と、コジェネレーションシステムの実態を調査する。
4) その他日本における電力事情の調査
上記2社以外についても日本の電力事情全般状況、自家発電所及びコジェ
ネレーションの実態等についても幅広く情報収集に努めていく。
7-2.山口大学工学部が立案した研究計画
UNIMAS の研究分担
Prof. A (専門領域:電力系統)
,Prof. B(専門領域:電気機器)
最終提言書の作成:株式会社トクヤマ並びに日本の電力事情調査結果を基に加筆
修正のうえ報告書作成(選択負荷遮断システムなど瞬時負荷変動への対応システ
ムのあり方)

サラワク電力でのシステム調査

現地で電圧波形や周波数変動などを実測

山大側から LabVIEW ベースの測定器とソフトウエアを提供

山大の院生とともに一定期間測定
(雷時期が効果的?)
山口大学の研究分担
教授:田中俊彦,准教授:平木英治,助教:岡本昌幸
日本の製造工場における電力品質保証実態の報告

日本(中電)の瞬時負荷変動対応システム調査

トクヤマ事業所における電力品質保証と日本の電力事情の報告

日本における電力状況と自家発電所およびコジェネレーションの実態調査と
報告
29
7-3.UNIMAS 工学部教員との意見交換会
トクヤマ、山口大学間で合意した内容を UNIMAS に伝え、3者間で意見を交換した。
UNIMAS 側から、バクンダムの発電量で十分ではないかという意見が出たが、トクヤ
マ側から、エネルギーの安定供給が製造現場では不可欠であることが説明された。田
中教授が本報告書6-3で指摘した、UNIMAS の現場軽視の教育方針の弱点が少し露呈
した感が否めなかった。現場で起こり得る可能性への配慮が認識されてないので、最
初のうちは、机上の計算でのみで議論しようとする姿勢が垣間見られた。しかし、ト
クヤマ側及び田中教授の説明により、不慮の事故などに備えてのバックアップの必要
性が徐々に理解されていった(いまだ十分な理解が得られたとまでは言えない)
。
以上のように、日本の現場第一主義とマレーシアの原理主義との衝突は、これから
も様々な分野で起こり得ると予想される。この際、大切なことは、こちら側の意見は
臆せずきっぱりと主張し、なおかつ相手側の言うことにも耳を傾ける態度であろう。
会議は原則的に議論を戦わす場であることがグローバル・スタンダードであるので、
かなり議論が白熱しても、言うべきことは堂々と言うべきであり、その議論を経て最
終的に導かれた結論に関しては、議論中の意見の衝突は水に流して、協力しあって実
現化に向けて努力することが重要であろう。この点は、日本側がマレーシア側から学
ぶ点があるように感じる。
意見交換会の様子
議論の結果、以下のような結論が得られた。
・共同研究のテーマは、
「瞬時負荷変動に対応するシステムの導入と、サマラジュ工
業団地内への共同火力発電所の建設」とする。
・近い将来、一度トクヤマ周南工場を UNIMAS スタッフに訪問・見学してもらう。
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・その際、山口大学工学部も訪問・見学してもらう。
・UNIMAS、トクヤマ、山口大学間で研究者が相互研修できる制度を構築するよう努
力して行く。
・UNIMAS 学生のインターンシップ制度を模索して行く。
・UNIMAS 学生の山口大学への奨学金制度設置に向けて、努力して行く。
・将来を見据えて、UNIMAS と山口大学との協定は、工学部間ではなく、大学間協定
締結を目指して行く。
7-4.サマラジュ工業団地トクヤマ・マレーシア・サイト見学(11 月 15 日)
建設が着々と進むサイト
*トクヤマ・マレーシア現地スタッフから電力事情について説明を受けた。尚、内容
は confidential.
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8.広報活動
KRY 山口放送ラジオ番組「お昼はゼンカイ、ラヂオな時間」
月曜日~金曜日(正午~午後3時半)
水曜日パーソナリティ(青木京子、福屋利信)
2010 年 10 月 13 日(水):白神誠一顧問出演
・株・トクヤマの経営理念
・株・トクヤマのマレーシア進出の経緯
・マレーシアでの企業活動に対する理念
2011 年 9 月 21 日 :広戸静雄氏(ビンツル・オフィス)出演
・ビンツルの街
・マレーシアで企業活動することで発生する異文化摩擦
・日本からのスタッフが働き易い環境作り
・海外で働く上で必要なスタンス
生放送中(Now On Air!)
KRY 山口放送テレビ番組「スクープアップやまぐち」での報道内容の英語版作成
制作:山口放送
翻訳・ナレーション:Nathaniel Edwards(山口大学留学生センター・准教授)
監修:福屋利信
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9.UNIMAS 工学部スタッフのトクヤマ周南工場及び山口大学訪問
9-1.UNIMAS 工学部スタッフがトクヤマ周南工場を訪問
2012 年 2 月 21 日から 22 日にかけて、サラワク大学から、
工学部副学部長の Al-KHALID
BIN HAJI OTHMAN 氏と HUSHAIRI HJ ZEN 氏、同学部講師の NORDIANA BT RAJAEE 氏が(株)
トクヤマ本社を訪問し、周南工場を見学した。サラワク大学工学部スタッフにとって
は、(株)トクヤマのマレーシア進出に賭ける意気込みが伝わり、加えて、日本の最
新技術を目の当たりにすることができた。学術交流協定提携を進めていく上で非常に
有意義な訪問となった。
また、2日目の夜には、周南工場で研修中のマレーシア研修生との懇談会が模様さ
れ、サラワク大学スタッフとの懇談がなされた。研修生のなかには、サラワク大学出
身者もおり、図らずも旧交を温めるかたちとなった。
トクヤマ本社前での記念撮影と
マレーシア研修生たちとの
懇談会風景
9-2.サラワク大学から工学部副学部長らが丸本学長を表敬訪問
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2 月 23 日には、サラワク大学部工学部スタッフは、山口大学丸本学長、吉田理事、
松田副学長(国際・社会連携担当)を表敬訪問した。
サラワク大学と山口大学は、株式会社トクヤマの資金援助を受け、共同研究プロジ
ェクトの立ち上げや、サラワク大学から山口大学への工学系留学生の奨学金制度の設
立等に向けて、3月末に学術交流協定を締結する予定で、このたびの訪問では、今後
の交流についての打合せ、協定書の内容確認も行われた。
表敬訪問では、まず、留学生センターの福屋から、サラワク大学との交流の経緯の
説明をし、丸本学長が、「将来の交流の発展を期待する。山口で有意義な時間を過ご
してほしい」と挨拶した。また、訪問団を代表して、SHAIRI HJ ZEN 氏が、「山口大
学とサラワク大学との提携が、学問的にも研究面でも有益なものになることを望む」
と述べた。
引き続き、関係者で協定書の内容の協議を行い、協定締結に向けての準備が進めら
れた。交流は、まず、工学系の学生の受入れからスタートするが、今後、セミナーの
開催、研究者交流等を通じ、サラワク大学との友好関係が発展することが期待される。
山口大学長室にて記念撮影
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10.MoU 締結
以上のような、綿密な計画と準備を経て、2012 年 3 月 30 日、マレーシア・サラワ
ク大学にて、
(株)トクヤマ、サラワク大学、山口大学の三者間で学術交流協定(MoU)
が締結された。その日、会場には多くの地元メディアが取材に訪れ、地元では大変な
ビッグニュースとなった。この提携は、
「トライアングル・ウィン」をキャッチコピー
に、三者それぞれがこの協定から利益を得られる関係構築をめざす。
調印式風景(中央はサラワク州副知事)
以下は、サラワク州最大規模の新聞社「ボルネオ・ポスト」の記事からの引用。
UNIMAS’garaduate students would be able to further their studies at
Yamaguchi University, Japan under the support of Tokuyama Corporation
with the signing of Memorandum of Understanding (MoU) between the three
parties at UNIMAS campus yesterday.
The students would then have the opportunity to work at the corporation’s
polycrystalline silicon plant in Samalaju Industrial Park.
Apart from that, other activities outlined in the MoU included jointresearch activities, students and staff exchange between two universities,
exchange of academic information and publications as well as conducting
of conferences, lectures and seminars.
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