防災・保全部門 No.3 道路管理の高度化に向けた無線LANの活用について 近畿地方整備局 奈良国道事務所 電気通信課 電気通信係長 中井 康雄 1 はじめに 奈良国道事務所は、奈良県内の一般国道 24 号、25 号、163 号、165 号の4路線(延長約 150km)を管理し、京奈和自動車道(大和・御 所道路、五條道路)、165 号大和高田バイパス など、自動車専用道路も多い。(図1) 奈良国道事務所では、平成 10 年より ITS の 導入検討を進め、その中でも無線LAN整備に ついては、平成 13 年度に一般国道 25 号(名阪 国道)へアクセスポイント(以下 AP という)を設置 して以降、平成 19 年 3 月現在では名阪国道の 全線のほか、京奈和自動車道、一般国道 24 号・25 号・163 号・165 号などに合計 231 箇所の AP 設置の整備が進んでいる。 これまで、無線LAN技術を活用した道路パ トロール支援システムの運用を行ってきたが、 さらに新たな端末機器等の導入したことによる 効果事例と、得られた結果をふまえた今後の 図1:奈良国道事務所管内の管理区間 展望について報告する。 2 無線LANの活用についての概要 奈良国道事務所では、図 2 で示した無線LA Nの活用をもとに、道路パトロール支援システ ムを導入し、運用を行ってきたが、無線LANを 利用して映像を事務所へ伝送を行う場合に伴 う作業手間や操作技術の内容についての改善 等が現場から寄せられていた。現場から寄せら れた意見等を踏まえ実施した内容と得られた 効果事例を報告する。 図2:無線LANの活用 2.1 既存システムの問題点の整理 2.1.1 通行止め時など現地での情報不足 名阪国道などの通行止め時に、現地では情報不足によりドライバーからの問い合わせ等 へ適切に対応することができないため、リアルタイムに詳細な情報を把握したいという要望が あがっていた。 -1- 防災・保全部門 No.3 2.1.2 災害時等の映像伝送 既存システムでは、道路パトロールカーなどに設置した無線LAN車載設備を中継した、 車載固定カメラまたは可搬用ハンディカメラの映像伝送や、デジタルカメラ撮影データの伝 送を行っていたが、災害時等には以下のような問題点があがっていた。 ①機器等のケーブル接続や機器設営が難しい ②有線ケーブルでは災害現場まで届かない ③画像無線送受信機を使ったが映像伝送の距離が短い ④デジタルカメラによる写真撮影を行った後にメモリカードリーダ経由で伝送を行ったいた が、メモリカードリーダが市販品のためすぐに壊れた 2.1.3 車載器の不具合 車両に搭載の機器においては、設置スペースいっぱいに機器を設置していて、熱対策が 問題であり、また全体的に電源負荷容量も大きく、さらに車両のバッテリーから電源供給して いるためバッテリーに大きな負担がかかり、災害時でのバッテリー上がりが問題であった。 2.2 道路管理の高度化に向けた機器の導入・運用 2.2.1 多機能携帯端末(モバイルPC)の導入 いままでの道路パトロール支援システムについては、道路パトロールカーなどに設置して いた無線LAN車載設備を用いて、車載固定カメラおよび可搬用ハンディカメラを利用した 装置で現場からの映像を伝送したり、携帯カメラからの静止画像を車載設備の中継により伝 送をしていたが、それらに伴う機器の設置作業や技術操作について、利便性を高め、持ち 運びが容易である多機能携帯端末(以下モバイルPCという。)を導入した。 (図 3,図4) 図3:多機能携帯端末(モバイルPC) 図4:現場での使用状況 2.2.2 可搬型Webカメラの導入 既存システムでは車載設備を中継した映像伝送を行う場合、可搬用ハンディカメラ∼車載 -2- 防災・保全部門 No.3 設備間にビデオケーブル又 は画像無線送受信機が必要 であったが、可搬型Webカメ ラの導入によりこれらが不要 になった。 また、可搬型Webカメラに は旋回ズーム機能の持つも のを採用することにより、閲 覧側の事務所より遠隔操作 が可能となった。 (図5−1、図5−2) 図5−1:今回導入した可搬カメラ装置 図5−2:既存の可搬カメラ装置 2.2.3 無線LANキットの導入 道路パトロールカーに設置している装置と同程度の 内容のものを、どのような車にでも容易に搭載できるこ とを可能にするため、無線LAN通信機器を一つにま とめた無線LANキットを導入した。(図6) 図6:無線LANキットの概要 2.3 道路管理業務の効率化による検証 2.3.1 多機能携帯端末等における多機能運用の実現 モバイルPCの導入により今ま での設備と比較して、設置作業 手間の簡素化や操作技術の負 担軽減が可能となった。特に、 モバイルPCは無線LAN機能内 蔵であり、モバイルPCと AP が直 接通信することも可能なので、 既存可搬カメラによる映像伝送よりも、 図7:ネットワーク接続状況 図8:ワンセグチューナー接続状況 さらに機動性が高く迅速なリアルタイムによる現地映像を伝送することが可能となった。 モバイルPCは、機能仕様が通常のノートパソコンと同程度のスペックとなっているため、無 線LANでのネットワーク接続中は事務所からの情報が閲覧可能であり、現地においても詳 細な情報を把握することが可能となった。(図7) また、モバイルPCにはワンセグチューナー内蔵であるため、現地においてTVメディアから の情報収集も可能となった。(図8) 2.3.2 多機能携帯端末等の導入における現場作業の効率化 ① モバイルPCには通信エリア情報表示ソフトウェアを導入(インストール)しており、ネットワ -3- 防災・保全部門 No.3 ーク接続の状態を操作員が容易に確認でき、常にエリ ア状況を確認しながら映像や写真を伝送できるため、 映像等の通信が途切れる状況を低減することが期待 される。(図9) ② APエリア内であれば、モバイルPCがAPと直接通信 することも可能なので、現場からの詳細映像の撮影が 容易になり、従来の可搬カメラによる機器設営(立ち 図9:通信エリア情報表示ソフトウェアの表示状況 上げ作業)を行うための初期設定時間と比べモバイ ルPCの場合では格段に短く、モバイルPCは軽量の ため、さらなる現場作業の効率化が実現できた。 ③ モバイルPCとAPとが直接通信のエリア外である場合 は、道路パトロールカーの車載機器を中継し、モバイ ルPCが中継用車載アンテナを経由してAPとネットワ ーク接続することにより、APエリア外においてもモバイ ルPCが通信できることを実現しており、モバイルPC と中継用アンテナとの通信では、見通し可能な条件 図10:中継アンテナを利用した場合の接続状況 で約 200m 程度の距離まで通信可能であり、さらに広 範囲エリアの映像伝送が実現できる。(図10) ④ モバイルPCにより、撮影された写真は、現場での操作を一切行わず、事務所でFTPソ フトを操作するだけで簡単に取得できる。 2.3.3 ネットワーク機器導入における効果 車両に搭載の機器においては、電源容量の少ないネットワーク機器(特にWebカメラ)の 導入により、全体の電源負荷容量が減少できたため、車両のバッテリーにおける負担の軽 減に効果があった。また、従来機器では設置スペースいっぱいに設置していたが、機器見 直しによる機器総数が減少しスペースの余裕ができたため熱対策にも効果があった。 事務所では、無線LANキットを導入したことにより、現地情報の収集に使用する車両に制 限がなくなり、事務所全体として災害等対応時の機動性が増した。 3 結論と今後の展望 道路管理における無線LANの活用について、以下の効果について確認できた。 1) 情報の収集:モバイルPCのもつ機能をフルに利用した、事務所と現地双方の情報収 集機能の向上 2) 業務の効率化:モバイルPC利用による操作性の向上と、情報伝達の迅速化の獲得 今後は、今回導入したモバイルPCにおいて設営時に操作上の設定を若干行う必要性が あることの改善や、リアルタイム映像のサイズを大きくし事務所でより詳細な画像が閲覧でき るようにする等、操作性や機能をさらに向上させ、現地にて機器を操作する側の負担軽減と、 高度な情報収集による道路管理のさらなる高度化を図ることが重要であると考える。 -4- 以上
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