最新の人身傷害条項約款

2010年12月18日
最新の人身傷害条項約款
文責:今井
第1
力
新保険法における差額説
新保険法(平成22年4月1日施行)は、25条1項2号において、人身傷
害補償保険金が支払われた場合の代位の範囲について、「てん補損害額」との
差額説を明示的に採用した。
「てん補損害額」は、18条2項において、約定保険価額があるときは「約
定保険価額」(9条)によって算定するとされている。
条文は別紙のとおり。
第2
1
新保険法と最新約款
人身傷害補償保険金先払いのケース(別表1)
保険法改正に伴い、各社の約款は、代位の範囲について、新保険法に従って、
差額説を明示的に採用している(SBI損保を除く)。
各社の約款が、訴訟基準差額説、人傷基準差額説のいずれを採用しているか
は、以下のとおりである(別表1)。
○訴訟基準差額説
…
あいおいニッセイ同和、日本興亜、
○人傷基準差額説
…
共栄火災海上、三井ダイレクト。
三井住友海上も人傷基準差額説と思われる。
その余の保険会社は、訴訟基準差額説と人傷基準差額説のいずれを採用して
いるのか、約款文言からは一義的には明らかとは言えない。例えば、東京海上
火災の約款では、代位の範囲について、
「被保険者または保険金請求権者が取得した債権の額から、保険金(共済
金)が支払われていない損害の額」
- 1 -
と定めているものの(基本条項第7節第2条(1)②)、ここにいう「損害の
額」の定義がないため、
①人身傷害条項における「損害の額」を指すのか、
②「被保険者(被共済者)が取得した債権」(損害賠償請求権その他の債
権)における「損害の額」を指すのか、
一義的には明らかではないからである(その余の保険会社の定めも同様であ
る)。
2
人身傷害補償保険金後払いのケース(別表2)
対人賠償等が先行した場合、つまり、人身傷害補償保険金が後払いのケース
については、新保険法には、保険金の支払われる範囲に関する条文はない。
各社の約款が、訴訟基準差額説、人傷基準差額説のいずれを採用しているか
は、以下のとおりである(別表2)。
○訴訟基準差額説
…
あいおいニッセイ同和、損保ジャパン、日本興亜、
三井住友海上、三井ダイレクト
○人傷基準差額説
…
アクサダイレクト、共栄海上火災、全労済、ソニ
ー損保、東京海上日動、JA共済、SBI損保
○比例説
…
富士火災海上
【損保ジャパンのイメージ図】
損害額(訴訟基準)
自己負担額
⑴に定める保険金
回収金等
自己負担額からの超過額
支払保険金
支払保険金
⑴に定める保険金から超過額を差し引く
- 2 -
【富士火災海上の解説】
結論:人身傷害条項による算定額に、被害者過失割合を乗じた額となる
<事例>
①対人賠償責任責任の額の算出の元となる損害額
②過失割合
1億円
30%
③既払い金(訴訟認容額)
7000万円
④人身傷害条項11条(1)に規定する損害額
⑤人身傷害補償保険金限度額
6000万円
5000万円
<約款14条(1)③イ>
保険金の額
=
④6000万円 - ③7000万円 × ④6000万円 / ①1億円
=
④6000万円 ×(1- ③7000万円 / ①1億円)
←
=
④6000万円 ×(1-70%)
←
=
被保険者の過失割合
④6000万円 × 30%
←
=
加害者の過失割合
人身傷害基準による損害額
1800万円
- 3 -
×
被害者の過失割合
第3
その他
次の2点について、人身傷害先払い、後払いそれぞれで訴訟基準差額説が
採用されているかと併せて、別表3に整理した。
①
重度障害かつ要介護の場合に保険金限度額が倍額となるか
②
歩行中・自転車運転中に自動車事故にあった場合の人身傷害適用の有
無
注意すべき点として、次のことがあげられる。
①
アクサダイレクト、三井住友海上には保険金限度額倍額の規定がない
(三井住友海上では、「重度後遺障害時追加特約」を付する必要があ
る)。
JA共済は、1級の場合には3倍が限度額となる(上限2億円)。
②
日本興亜、三井住友海上では、歩行中・自転車運転中の事故に人身傷
害保険が適用されない。
適用されるためには、次の特約を付する必要がある。
日本興亜…人身傷害に関する交通乗用具危険補償特約(自転車によ
る被害も補償対象となる)
三井住友海上…自動車事故特約
以
- 4 -
上
<別紙>
(超過保険)
第九条
損害保険契約の締結の時において保険金額が保険の目的物の価額
(以下この章において「保険価額」という。)を超えていたことにつき
保険契約者及び被保険者が善意でかつ重大な過失がなかったときは、保
険契約者は、その超過部分について、当該損害保険契約を取り消すこと
ができる。ただし、保険価額について約定した一定の価額(以下この章
において「約定保険価額」という。)があるときは、この限りでない。
(損害額の算定)
第十八条
損害保険契約によりてん補すべき損害の額(以下この章におい
て「てん補損害額」という。)は、その損害が生じた地及び時における
価額によって算定する。
2
約定保険価額があるときは、てん補損害額は、当該約定保険価額に
よって算定する。ただし、当該約定保険価額が保険価額を著しく超え
るときは、てん補損害額は、当該保険価額によって算定する。
第二十五条
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちい
ずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより
被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権につい
て生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債
権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当
然に被保険者に代位する。
一
当該保険者が行った保険給付の額
二
被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足すると
きは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2
前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足
するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定に
- 5 -
より代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債
権に先立って弁済を受ける権利を有する。
(強行規定)
第二十六条
第十五条、第二十一条第一項若しくは第三項又は前二条の規
定に反する特約で被保険者に不利なものは、無効とする。
- 6 -