アウトソーシングの進展が日本の労働市場に及ぼす影響1

アウトソーシングの進展が日本の労働市場に及ぼす影響1
宮本章裕
横浜国立大学経営学部
国際経営学科4年
2005年1月
【要旨】
本論文では、日本を巡るアウトソーシングの進展が製造業の熟練労働者と非熟練労働者の賃金格
差の拡大を生んでいるのか、また全労働者に占める熟練労働者の比率の上昇をもたらしているの
かについて1998年から2001年を分析対象として分析・考察を行った。分析の結果、アウトソーシ
ングの進展が熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差を拡大させているという結論は得られなかっ
た。一方、アウトソーシングの進展が全労働者に占める熟練労働者比率の上昇に影響を与えてい
るということが本分析からわかった。本論文の結果により、日本でのアウトソーシングの進展は、欧
米とは異なる影響を労働市場にもたらしていることがわかる。
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本論文は卒業論文として執筆したものである。本論文の執筆にあたっては、清田耕造横浜国立
大学経営学部助教授、木村福成慶應義塾大学経済学部教授、高橋悠也慶應義塾大学経済学部
助手より、有益なコメント・ご指導をいただいた。また、賃金データ利用の際には、賃金構造基本統
計調査の『賃金センサス』に未収録のデータを、厚生労働省厚生労働大臣官房統計情報部賃金
福祉統計課賃金第四係の方々のご厚意により利用させていただいた。この場を借りて感謝の意を
表したい。ただし、あり得る誤りは筆者に属するものであり、本論文の内容、意見は筆者個人に属
するものである。
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・目次
1 はじめに
2 先行研究のサーベイ
2.1
アウトソーシングに関連する理論・ターミノロジーのサーベイ
2.2
実証研究
3 日本のアウトソーシングと労働市場の現状
3.1 日本のアウトソーシングの進展状況
3.1.1 海外事業活動基本調査から見たアウトソーシング
3.1.2 貿易データから見たアウトソーシング
3.2 日本の労働市場の現状
3.2.1 製造業における熟練労働者と非熟練労働者数の推移
3.2.2 製造業における賃金格差
3.2.3 賃金格差と労働者数の関係
4 実証分析
4.1 モデルの説明
4.2 データ
4.3 予想される符号・結果
4.4 結果・考察
5 結論
APPENDIX
参考文献
図表
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1 はじめに
近年、経済のグローバル化の帰結として日本を含む東アジアで製造業の部品貿易が活発化し
ている。また、企業レベルに視点を移してみても、1980年代のバブル期以降、日本の多国籍企業
をはじめとして海外生産活動を急速に拡大させてきた。これにより、労働集約的な生産工程は、ア
ジア各国を始めとする低賃金の国で生産されるようになり、各国から安価な工業製品の輸入が盛
んに行なわれるようになった。このことによって、日系企業のコスト削減による企業の強みを発揮す
ることができ、消費者にとってはより安価な製品を手に入れることができるようになり日本国内で見る
と厚生水準は上がるはずである。しかしその反面、生産拠点の移行により地方を中心とする日本国
内の産業空洞化の議論が巻き起こってきた。日本国内へのインパクトとして、非熟練労働者の労働
需要を下げ賃金水準を押し下げる一方、高付加価値な生産工程に特化することによる熟練労働
者の労働需要の増加により賃金水準を上げ、熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差が広がって
いるかもしれない。また、非熟練労働者の需要が減少することにより多くの失業者が生まれている
かもしれない。1980年以降、アメリカやイギリスなどの多くの先進国で熟練労働者と非熟練労働者
との賃金格差が広がってきていることが、政治的に叫ばれその原因を解明しようとする研究が進め
られてきた。それらの研究では労働集約的な中間投入財の輸入などを代理変数としたアウトソーシ
ングや、コンピュータ化などの偏向的技術進歩が重要な賃金格差や労働市場にインパクトをもたら
す要素であるということが国際経済学の先行研究で多く結論付けられた。
当然、日本においても労働集約的な生産工程の海外シフトにより、熟練労働者と非熟練労働者
の賃金格差や従業者数などの労働市場に影響を与えていることが予想される。日本の労働市場を
解明し、アメリカやイギリスなどと同様にアウトソーシングが労働市場に与える影響を解明することは
非常に重要である。しかし、日本においては賃金データの不備やアウトソーシングの代理変数の難
しさにより同様の研究は非常に少ない。熟練労働者と非熟練労働者を、生産労働者と非生産労働
者の区分で分析した日本における先行研究は筆者の知る限り存在しない。だが今回私は、厚生労
働省実施の賃金構造基本統計調査の『賃金センサス』に未収録のデータを利用して産業中分類
まで、生産労働者と管理・事務・技術労働者という枠組みで賃金データを手に入れることができた。
そこで、本稿ではアウトソーシングが日本の熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差や熟練労働者
比率などの労働市場に与える影響について分析する。
本研究における方法論はイギリスについて研究を行った Anderton and Brenton (1998)に従うこと
にする。アウトソーシングの変数の取得方法についても同研究を参照とした。
本稿ではイギリスの Anderton and Brenton (1998)とは異なる次のような結論を得た。アウトソーシン
グの進展が日本の労働市場において熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差に影響を与えてい
るという有意な係数は推定されなかった。一方、被説明変数を、全労働者に占める熟練労働者数
(熟練労働者比率)とした場合はアウトソーシングの進展が熟練労働者比率の上昇に影響を与えて
いるという有意な係数が推定された。日本においては、グローバル化の帰結によるアウトソーシング
の進展により、労働者の賃金よりもむしろ従業者数に影響を及ぼしているのである。今後、アウトソ
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ーシング変数の工夫や偏向的技術進歩の変数の工夫により本研究の精緻化が望まれ一層の研
究の重要性を示唆している。
本論文の構成は以下のとおり。第二節では、アウトソーシングに関連するターミノロジーと、アウト
ソーシングの進展が賃金格差に与える影響についての先行研究をサーベイする。第三節では、近
年の日本をめぐるアウトソーシングの進展状況と、日本の労働市場内の熟練労働者と非熟練労働
者の賃金や従業者数について分析・考察していく。そして第四節では、アウトソーシングの進展が、
熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差または熟練労働者比率に影響を与えているか否かにつ
いて実証分析をする。最後に第五節で本論文から得られた結論と今後の課題について言及し本
論文の結びとしたい。
2 先行研究のサーベイ
本章では、アウトソーシングと労働市場の関係について分析を進めた先行研究をサーベイして
いく。国際貿易論の文脈でのアウトソーシングの広義の意味とされる、「ある財の生産活動が2国、
3国に分散して行なわれること Feenstra and Hanson (2001)」を、厳密に捉え数値化することのでき
る指標は研究者の間で統一されていない。アウトソーシング や fragmentation といった多くのターミ
ノロジーが存在する。そこで本章では、まず第1節でこうしたターミノロジーや指標をサーベイし本
分析で私が採用したアウトソーシング 変数の道程を示したい。また、第2節ではアウトソーシングが
各国の労働市場に与える影響について分析した先行研究をサーベイしていきたい。
2.1 アウトソーシングに関連する理論・ターミノロジーのサーベイ
Feeenstra and Hanson (2001)によれば、アウトソーシングを「ある財の生産活動が2国、3国に分
散して生産活動が行なわれること」としている。彼らが、アウトソーシングが熟練労働者と非熟練労
働者の賃金格差に与える影響について分析する際にアウトソーシングの数値化を試みた。それは、
輸入中間投入額を中間財額または非エネルギ中間財額で除したものである。輸入に注目し簡単
にアウトソーシングを数値化し賃金格差に与える影響について分析してきた。しかし、ある多国籍
企業のアウトソーシングを考える際、この定義では厳密ではない。例えば、日本から部品を持ち込
み東アジアなどの低賃金国で組立てをする場合などもアウトソーシングと言える。この場合、輸入と
いう要素以外にも、輸出という要素が入っているため輸入しか捉えていない彼らのアウトソーシング
の定義ではこうしたアウトソーシングを把握することができない。
このため、アウトソーシングに関連して多くの研究者によってターミノロジーや理論の研究がなさ
れている。以下ではこうした先行研究について考察する。
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intra-product
specialization,
outsourcing
fragmentation
Vertical
Super-specialization speccialization
Jones and
Feenstra and
先行研究
Kierzkowski (1990)
Arndt (1998)
Hanson (1998)など Deardorff (1998)など など
独自に
特徴
数値化
Hummels, Ishii,
and Yi (2001)など
各生産ブロックをつなぐ H-O の定理
サービスリンクに注目
の枠組みで考察
輸出を考慮
(imported
輸入中間
intermediates
投入額÷非エネル
/gross output)
変数の取り方 ギー中間財
*export
上の表は、アウトソーシングに関連する様々なターミノロジーをまとめたものである。まずこれらの
中 で 、 多 く の 研 究 者 が 使 用 し て い る fragmentation を あ げ る 。 fragmentation は Jones and
Kierzkowski (1990)によって初めて発表され、「ある同一の最終生産物を生産するプロセスを、複
数のプロセスに分割して、異なる場所に立地させること」である。このターミノロジーの特徴は、各生
産ブロック間をつなぎ合わせるサービスリンクコストに注目しているということである。一般に、
fragmentation は各生産拠点間の生産コストの差があることによって行なわれるのであるが、その中
の重要なファクターとして拠点間をつなぎ合わせるサービスリンクコストが十分に低いことが、大い
に影響してくる。
次に、Hummmels, Ishii and Yi (2001)が定義した、vertical specialization を見てみる。これは、産
業連関表を用いた分析で、 式を ( imported intermediates/gross output )×export とし、輸出最終
財に占める輸入中間財の割合で定義している。そして、彼らは OECD の産業連関表を用いて、
OECD 諸国の vertical specialization の値を計測している。
このように、研究者によりアウトソーシングや工程間分業の定義はまちまちで、どのターミノロジー
が企業活動におけるアウトソーシングそのものを厳密に表すかのコンセンサスは得られていない。
しかし、アウトソーシングの定義や把握が非常に難しい中、熟練労働者と非熟練労働者との賃金格
差拡大の原因をアウトソーシングに求めた実証研究がアメリカやヨーロッパで盛んに行なわれてい
る。そこでは、アウトソーシング代理変数の定義に際して様々な工夫がなされている。次節では、こ
うした実証研究をサーベイし、私のアウトソーシング変数の取り方についても言及したい。
2.2 実証研究
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前節で、アウトソーシングに関連する様々な理論やターミノロジーをサーベイしてきた。本節では
本論文のメインとなる熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差とアウトソーシングの関係を分析した
論文をサーベイしていく。
まず、賃金格差が広がることの要因をアウトソーシング に求めた最初の大きな研究として
Feenstra and Hanson (1995)が挙げられる。彼らは、熟練労働者を非生産労働者、非熟練労働者を
熟練労働者と定義して分析している。熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差が広がっている原
因として、アウトソーシングなどの貿易量の増加が議論される前には、技術進歩が賃金格差を広げ
る主な要因として研究されてきた。彼らは、賃金格差拡大の原因を技術進歩であるとし分析を進め
た Berman et al (1994)以来の可変費用関数を用いた分析手法に倣った。そして、アウトソーシング
を総中間投入財額に占める輸入中間投入額の割合として定義した。1979年から1990年を 2 期
間に分け上昇率を測り、クロスセクションで分析することにより分析を進めている。そこで、彼らは熟
練労働者と非熟練労働者の賃金格差とアウトソーシングの間に正の相関を見出している。さらに、
Feenstra and Hanson (1998)では、賃金格差を引き起こす原因としてアウトソーシングの進展と偏向
的技術進歩であるとして両者どちらの影響が強いかを論じている。その結果、どの分析方法をとっ
てみても偏向的技術進歩とアウトソーシングの進展の両者とも熟練労働者賃金支払い比率の上昇
を説明することができると示唆している。
次に、イギリスについて Anderton and Brenton (1998)の先行研究を見てみる。この研究は、繊維
産業と非電気機械の11産業について1970年から1983年までパネルデータを取って分析したも
のである。Feenstra and Hanson (1995)と同じ可変費用関数の推計しで分析を進め、アウトソーシン
グの代理変数を年次の産業別の輸入額で、先進国からの輸入と途上国からの輸入額に分け、途
上国からの輸入額をアウトソーシングの代理変数としている。当分析では、イギリスにおいてアウトソ
ーシングの進展が、熟練労働者賃金支払い比率の上昇に影響を与えている推計された。一方、被
説明変数を熟練労働者賃金支払い比率から熟練労働従業者比率にかえて考察したところアウトソ
ーシングの進展が熟練労働従業者比率の上昇に影響を及ぼしていることがわかった。しかし、この
分析によるアウトソーシングの代理変数は、一般のアウトソーシング と厳密には異なると考えられる。
途上国へのアウトソーシングの重要な帰結である中間財の輸入が産業別の貿易額では厳密に把
握できないためである。また、ある生産工程で先進国が、資本集約的な生産プロセスを担当し、そ
の部員を途上国にアウトソースし、組立てるといったタイプのアウトソーシングについても把握でき
ない。しかしながら、途上国、低賃金国からの輸入はアウトソーシングの帰結を多く含むものであり、
先進国で非熟練労働者を多く必要とする労働集約的な生産工程や財の生産に大きく影響を与え
るものであると考えられる。
また、輸入という概念以外をアウトソーシングと定義した研究に Head and Ries (2001)が日本の製
造業について行った研究がある。彼らは、東洋経済新報社の『海外企業進出総覧』というマイクロ
データを利用しアウトソーシングの代理変数を取得している。彼らはアウトソーシングの概念を目的
別 FDI の割合の集計や、途上国の従業者比率を計測することによって変数化し、offshore
production と定義している。この研究によれば、オフショアプロダクションの進展が非熟練労働者の
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需要を押し下げ日本の技術集約度の上昇に寄与しているという結論を得ている。
私は本論文の分析でアウトソーシングの代理変数を Anderton and Brenton (1998)の手法をとるこ
とにした。その理由として、世界各国からの輸入、特に東アジアにおける工程間分業の進展に伴い
東アジアの低賃金国からの輸入が、日本における労働集約的な生産工程や財の生産に影響を与
えていると予想されることがあげられる。また、データが毎年利用可能なことも理由として挙げられる。
日本において賃金データは、アメリカやイギリスほど細かい産業レベルまで揃っていない。3 章と同
じように熟練労働者を賃金構造基本統計調査の管理・事務・技術労働者と定義し、非熟練労働者
を生産労働者と定義して分析を進めるが、利用可能なデータは生産労働者と管理・事務・技術労
働者の別の賃金データは製造業において産業中分類までであり22産業しかない。Feenstra and
Hanson (1995)などと同様に、数十年間の成長率を取り22産業で、クロスセクションで分析を行うに
はサンプル数が少なすぎる。そのため、5年おきにしか公表されない総務省やアジア経済研究所
の産業連関表を用いて輸入中間投入額や中間投入額の比率をアウトソーシング の変数とできな
い。そこで私は、Anderton and Brenton (1998)に倣い、産業別の輸入額をとり、彼らが途上国からの
輸入額を、日本において最も国内の産業構造、労働市場に影響を与えていると考えられる東アジ
アからの輸入額とし、全世界からの輸入額と東アジアからの輸入額に分けて分析していく。
3 日本のアウトソーシングと労働市場の現状
アウトソーシングが日本の労働市場へ与える影響について分析する前に、本章では日本のアウ
トソーシングの進展状況と、労働市場について個別に概観していく。第 1 節では、経済産業省の海
外事業活動基本調査や、貿易データを基に日本のアウトソーシングの進展状況を概観する。また、
第 2 節では、日本の労働市場について分析する。
3.1日本企業のアウトソーシングの進展状況
本節では日本企業のアウトソーシングの進展状況を見ていく。まず、1節ではアウトソーシングを
概観する際の指標である経済産業省の『海外事業活動基本調査』をもとに日本の多国籍企業のプ
レゼンスに焦点をあててアウトソーシング の断片を概観していきたい。次に2節ではアウトソーシン
グを概観する際に重要なマクロの指標となる部品貿易データをもとに概観していきたい。
3.1.1 海外事業活動基本調査からみた日系企業のアウトソーシング
<挿入 図3.1 図3.2 表3.1>
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本節では、日本企業のアウトソーシングの進展状況を概観する。まず、図3.1に注目してみる。
図3.1は、経済産業省の『海外事業活動基本調査』より引用した日本における製造業の海外生産
比率の推移である。日本国内の全法人ベースの海外生産比率は1990年代において一定して上
昇し、2002年度には過去最高の17.1%に達した。また、母体を海外進出企業のみとした、海外
進出企業ベースの海外生産比率を見てみると1993以来上昇し2002年度には41.0%にも及ん
でいる。
次に図3.2の現地法人の従業者数についてみてみる。2002年における、現地法人の海外従業
者数は341万にも達し、1990年以降ずっと上昇している。地域別に見てみるとアジアにおいて90
年代永続して従業者数が増加しているのを確認することができる。こうした現地法人の従業者数の
増加は、日本国内の労働市場、雇用にどういった影響をもたらすのであろうか。表3.1は、経済産
業省が実施した海外事業活動基本調査の中での、海外生産活動と日本国内の生産活動との関係
を質問したアンケート結果である。表3.1によると「現地需要への対応で、国内の生産活動に変化
はない」の項目が依然として高い回答率を得ているが、年々この項目に対する回答率は年々減少
してきている。それに変わって、徐々にではあるが上昇してきているのが「国内の生産は減少する
が、人員削減は行わない」より右の3項目である。このように、海外生産が国内生産に影響を及ぼさ
ないという回答は減少し、海外生産により雇用の面や何らかの形で日本国内の生産に影響を及ぼ
すであろうという回答が増加している。
この節では、日本企業の海外生産比率、現地法人の従業者数などを概観しアウトソーシングの
現状を見てきた。しかし、日本企業のアウトソーシングや、製造業の工程間分業においては EMS
の存在や OEM が活用されることもあり、日系企業の海外進出、企業内貿易だけが全てのファクタ
ーではない。アウトソーシングを含む、全てを把握した工程間分業を概観するために次節では、日
本国内に関連する部品貿易について観察していきたい。
3.1.2 貿易データからみたアウトソーシング
本節では、アウトソーシングを概観する際の重要なファクターである部品貿易に関する研究につ
いてサーベイしていく。
まず、Yeats (1998)によれば1970代以降製造業における貿易が急速に拡大していると言ってい
る。年間の貿易額は8000億ドルを越し、世界全体の貿易額の30パーセントを占めると言っている。
また、製造業において、部品貿易は急速に伸びており、その速度は最終財よりも圧倒的に速い。
また、東アジアにおいて部品貿易が急速に拡大しているといった研究に、Ng and Yeats (2001)が
ある。彼らは、東アジアの製造業における部品貿易は一般的に知られているよりも大きく、アジア諸
国における製造業の輸出うち5分の1を占め、OECD 諸国よりもより速いスピードで拡大していると
言及している。
東アジアの部品貿易について、Ando and Kimura (2003)によると東アジアにおいて、機械産業
や機械部品の貿易が非常に活発であると言う。東アジアにおいては、製造業、特に機械産業にお
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いて未曾有の精緻な生産ネットワークが作られている。
このように、日本を含む東アジアにおいては、製造業の貿易や部品貿易が、ヨーロッパや南北ア
メリカの他地域と比して活発に行なわれており、特に機械産業の貿易額に占める比率は大変大きく
部品貿易の額も大きい。さらに、東アジアにおいては、日本企業も大きく関わる精緻な生産・流通
ネットワークが形成されており、工程間分業が盛んに行なわれている。日本国内や、日本企業を巻
き込む工程間分業が近年進展していることは明らかである。このため、日本においてもアメリカやイ
ギリスなどで確認されたように、労働集約的な生産プロセスの低賃金国へのアウトソーシングにより、
労働市場に大きく影響を及ぼしている可能性がある。次節では、日本の労働市場について概観し
ていきたい。
3.2日本の労働市場
本節では、近年の日本国内における労働市場の動向について分析していきたい。なお、本論文
は、厚生労働省実施の賃金構造基本統計調査の生産労働者を非熟練労働者、管理・事務・技術
労働者を熟練労働者と定義して分析を進めていく。また、賃金構造基本統計調査上の10人以上
の事業所における男性の調査結果を使用する。
<図3.3>
まず、図3.3を見てみる。これは日本標準産業分類において、産業大分類で製造業を見たとき
の1988年から2001年までの男子の総従業者数と非熟練労働者と熟練労働者数の変遷である。
この図を見ると、1990年を境として、製造業に置ける労働者数は大きく減少していることがわかる。
さらに、熟練労働者と非熟練労働者の変遷を見てみる。熟練労働者数は若干であるが減少してい
るが、大きな減少は見られない。一方非熟練労働者数を見てみると顕著に減少していることが見て
とれる。このように、近年製造業において、非熟練労働者と熟練労働者の間に変化が起こっている
ことがわかる。
このため本節では、製造業における熟練労働者と非熟練労働者の関係について詳しく概観して
いきたい。
3.2.1 製造業における熟練労働者と非熟練労働者数の推移
本節では日本国内の製造業における、熟練労働者と非熟練労働者数の関係を日本標準産業
分類の大分類で見ていく。
<挿入 図3.4 図3.5 >
9
まず図3.4を見てみる。これは、賃金構造基本統計調査結果が収録されている賃金センサスを
用いて分析した製造業の熟練労働者比率1である。これによると、熟練労働者比率は1998年から
2001年にかけて、顕著な上昇傾向を見せている。図3.3で確認できるように、1990年代非熟練
労働者数が減少し熟練労働者数が増加してきたか、もしくは熟練労働者数と非熟練労働者数との
差が減少してきていることがわかる。これは、日本企業の海外展開や東アジアにおける工程間分業
の進展により、労働集約的で特殊な技術力を必要としない部品の製造や組立てを、賃金の安い海
外へ生産活動をシフトさせ、日本は資本集約的な生産工程や高い技術力を必要とする高付加価
値品へ特化してきた結果かもしれない。
次に、製造業の中でも特にどの産業が熟練労働者比率を上昇させてきているかを見てみるため
に日本標準産業分類の中分類で分析してみる。データについては、厚生労働省実施の賃金構造
基本統計調査結果の原本を使用した。
<挿入 表3.2 図3.8 図3.10 >
表3.2は産業中分類で見た製造業の熟練労働者比率である。ここで、電気機械器具製造業に注
目するために図3.8を見る。電気機械器具製造業において、1988年から2001年にかけて熟練
労働者比率が大きく増加している。この増加の原因として、東アジアにおける電気機械産業での工
程間分業が加速していることが考えられる。電気機械産業は非常に多くの部品からなり、多くの工
程を必要とする。Ando and Kimura (2003)などで言われているように、東アジアでは製造業、特に
機械産業において、機械部品の貿易が盛んに行なわれ、非常に多くの生産拠点を東アジア各国
にフラグメントさせた工程間分業が起こり精緻な生産・流通ネットワークが築かれている。こうした、
東アジアにおける工程間分業の進展により、各国が比較優位を持つ工程に特化し最適な資源配
分を達成し生産することができる。これにより、非熟練労働者を必要とし労働集約的な工程が東ア
ジア各国などの低賃金国にシフトし、高付加価値名財や工程の生産を日本国内に特化させるよう
になる。こうして、電気機械器具製造業において非熟練労働者の需要は減少し非熟練労働者数は
減少していることが考えられるのではないだろうか。また、高付加価値産業への生産の集約や、経
営資源の集中により、非熟練労働者の需要は減るが、その一方熟練労働者の需要は増え熟練労
働者数は上昇し熟練労働者比率が1990年代に上昇していることが考えられる。
また、一般機械産業、輸送用機器産業を見てみても1990年代に熟練労働者比率は上昇してい
ることがわかる。こうした産業の上昇の原因にも、日本の低質な工程の低賃金国への生産拠点の
移行や、日本国内のプラントや施設において、高付加価値の工程へ資源集中や生産の集約の帰
結があげられる。
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熟練労働者比率=管理・事務・技術労働者数÷(生産労働者数+管理・事務・技術労働者数)
と定義した。
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次に、衣服・その他の繊維製品製造業に注目する。図3.10によれば、注目すべき点として、19
98年ごろからの急速な熟練労働者比率の上昇が挙げられる。ここ、5年の間に管理・事務・技術労
働者といった、熟練労働者の比率は上昇し、労働集約的な生産活動を東アジア各国を中心とする
低賃金国に移行させてきた帰結でないかということが予想される。こうした時期にバブルが崩壊し、
デフレの進行に伴い、ユニクロなどの廉価な商品を販売する企業が活躍し、廉価な消費財に高い
需要があったことを考えて見ても、この熟練労働者比率の上昇は大変興味深い結果である。
3.2.2 製造業における賃金格差
前節では、非熟練労働者と熟練労働者数の推移を観察してきた。この節では熟練労働者と非熟
練労働者の賃金格差について観察していきたい。
まず、データについては前節と同様に賃金構造基本統計調査結果を利用した。また、賃金につ
いては産業による特性を排除するため橘木他(1995)に倣い現金給与と年間賞与他の和を所定時
間と超過時間の和で除したものを各賃金とした。
<挿入 図3.6 図3.7>
まず、製造業全体の熟練労働者賃金比率をとった図3.6を見てみる。これを見てみると、1998
年から2001年にかけて緩やかな上昇傾向であることがわかる。しかし、図3.7で示した Görg
(2003) が1982年から1997年まで分析したイギリスの熟練労働者賃金比率のような一定した顕著
な上昇傾向は見られない。日本では1992年まで下がり続け1998年までまた上がり1999年から
緩やかな上昇傾向であることが確認される。日本においては、熟練労働者と非熟練労働者の賃金
格差はそれほど拡大していないのかもしれない。各種製造業における動向を分析するため、産業
中分類で熟練労働者賃金比率を計測した。
<挿入 表3.3 図3.9 図3.11>
表3.3を見てみる。この中で、少し上昇しているのが飲料・タバコ・飼料製造業、電気機械器具
製造業である。しかし、図3.9で電気機械器具製造業を見てみると、図3.8の熟練労働者比率の
上昇に比してそれほど大きな熟練労働者賃金比率の上昇は引き起こされていない。図3.11の衣
服・その他の繊維製品製造業を見てみても、熟練労働者比率の上昇に比して賃金比率はそれほ
ど上昇していない。その他の産業についても、はっきりとした熟練労働者賃金比率の上昇を読み取
ることができなかった。日本の労働市場における賃金格差は、それほど拡大していない。図3.5や
図3.7で確認できるようにアメリカやイギリスなどの欧米諸国は、熟練労働者比率よりも熟練労働者
賃金比率のほうが顕著に上昇しており、労働市場の動向は日本と同じではない。
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このように近年、日本の労働市場のトレンドは、イギリスやアメリカなどの多くの先進国とは大きく
異なる。熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差が生まれているというよりも、熟練労働者比率の上
昇という形で顕著に表れている。3.2.3ではより詳しく、賃金格差の拡大のスピードと熟練労働者
比率上昇のスピードとではどちらが速いかについて考察していきたい。
3.2.3賃金格差と労働者数の関係
前節では、産業別の熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差と熟練労働者比率についてみてき
た。この節では、前節までの分析を踏まえ熟練労働者比率の変遷と熟練労働者賃金比率の変遷と
の両者の関係に焦点を当てていく。
<挿入 図3.12 図3.13 図3.14>
この図は、熟練労働者賃金比率を熟練労働者比率で除した図である。この図上の折れ線が減
少していると、熟練労働者賃金比率の上昇よりも熟練労働者比率の拡大が早いスピードで起こっ
ていることを意味する。また、増加していると熟練労働者賃金比率のほうが、熟練労働者比率より速
いスピードで拡大していることを意味し、労働市場に賃金格差という影響をもたらしていることがい
える。
ここで折れ線を見てみるとほとんどの産業においてこの値は減少している。ほとんどの産業では、
賃金格差の拡大というよりもむしろ、熟練労働者比率の拡大のスピードが速い。しかし、食料品製
造業、金属製造業において折れ線は上昇しており、これらの産業においては熟練労働者比率の
拡大というよりも賃金格差として現れている。しかしながら、製造業内の産業において、賃金格差の
拡大よりも熟練労働者比率の上昇のスピードが速く欧米とは異なった形で労働市場に変化が起き
ている。
本節では、日本のアウトソーシングの進展状況と、近年の労働市場の動向について考察を進め
てきた。近年、日本企業の海外生産は活発化し部品貿易も拡大し、アウトソーシングは進展してき
た。また、労働市場を見てみても製造業の従業者数は減少し特に非熟練労働者が顕著に減少す
るなど、大きな変化が起こっている。そこで筆者は、こうしたアウトソーシングの進展が労働市場に
何らかの影響を及ぼしているのではないかと考えた。次節では日本においてアウトソーシングが、
労働市場に与える影響について実証分析をしていく。
4 実証分析
本章では、アウトソーシングの拡大がもたらす日本の労働市場内の非熟練労働者と熟練労働者
12
の賃金格差、熟練労働者比率に与える影響について実証分析をすることにする。まず、1節では
本分析で用いる費用関数の回帰式の説明をする。2節ではデータの出所について言及する。
4.1モデルの説明
本 節 で は 私 が 用 い た 回 帰 分 析 の モ デ ル の 説 明 を す る 。 私 の 分 析 で は 、 Anderton and
Brenton(1998)の先行研究を参考とし分析を進めていきたい。最初に、彼等も用いた Berman et al
(1994)以来の、アウトソーシングまたは偏向的技術進歩が熟練労働者と非熟練労働者に与える影
響について分析をした際のモデルとなるトランスログ型の可変費用関数を説明する。
まず、このモデルの前提として i 産業の生産要素には資本 K と非熟練労働jと熟練労働kが存在
すると仮定する。またここで、資本 K は短期的には固定要素であるとし熟練労働jと非熟練労働kは
可変要素であると仮定する。T はアウトソーシングや偏向的技術進歩など i 産業の費用を変化させ
る要素を一括したものである。また、この可変費用関数としてトランスログ型をとるとすると下のような
①式が出来上がる。
ln C i = α 0 + α y ln Y i +
+
1
2
∑∑γ
j
jk
1
α YY ln( Y i )
2
ln W ij ln W ik +
k
+ λ T Ti +
∑δ
YJ
2
+ β K ln K i +
∑δ
ln Y i ln W ij +
j
1
λ TT T i + λ YT T i ln Y i + λ KT T i ln K i +
2
∑φ
iwj
1
β KK ln( K i ) 2 +
2
KJ
∑γ
j
ln W ij
j
ln Y i ln W ij + ρ ln Y i ln K i
T i ln W ij
j
・・・・①
ここで、 ln Wi で一次微分し、シェファードの補題を適用すると以下のような方程式が出来上がる。
左辺は、熟練労働向けの費用が総可変費用に占める比率である。
S ij = α j + δ Yj ln Yi + δ Kj ln K i + ∑ γ jk + φiwj Ti ・・・②
K
また、価格を所与とするとトランスログ型の費用関数が一次同次でなければならないのでそのため
の条件が
∑γ
K
iK
= ∑ γ iK = ∑ δ iK = ∑ δ Yj = 0
j
j
j
である。また、規模に関して収穫一定であるので②式は次のような式に書き換えることができる。
13
Wj
S ij = α j + δ Yj ln Yi + δ Kj ln K i + d ln
 Wk

 + φ iwj Ti ・・・③

そして③式の変化量をとると
Wj
ds ij = φ ij dTi + δ Kj d ln K i + δ Yj d ln Yi + γd ln
 Wk

 ・・・・④

④式が出来上がる。
ここで、④式のうち Y、K、T はともに外生変数であると仮定している。しかし、
Wj
Wk
外生変数であると
は考えられない。したがって、本研究では先行研究に倣い、被説明変数に、熟練労働者賃金支払
い比率をとる際の分析に関しては
Wj
Wk
を除外して推計することにする。
本分析では、可変費用の変化をもたらすその他の要因である T を先行研究に倣いアウトソーシン
グと偏向的技術進歩として分析を進めていくことにする。回帰式は以下の⑤式に示す。
dSWit = αd ln K it + β d ln Yit + ρ (R & D )it −1 + λd ln MS it + γDit + U it ・・・⑤
そして⑤式を基に、Anderton and Brenton (1998)に倣い、産業別のデータをプールさせパネルデ
ータで分析を始める。
この式において、SW は、総賃金支払いに占める熟練労働者への賃金支払い、K は資本ストック、
Y はアウトプットである。 MS はアウトソーシングの代理変数である。本研究では Anderton and
Brenton (1998)に倣い、産業別の貿易額をアウトソーシングの代理変数とする。また、先行研究と同
様に、産業別の輸入額を全世界から、東アジアから、東アジア以外からの輸入額に分けて取得し
た。近年、日本の多国籍企業の安価な労働力を求めた東アジアへの進出や、東アジア各国での
労働集約的部品の輸入が上昇していることを3節で確認した。このため日本の労働市場へ影響を
与えていると予想されるアウトソーシングは、東アジアからの輸入額が一番近いと考えられる。また、
R&D は偏向的技術進歩の代理変数である研究開発費比率である。労働市場の、賃金格差や熟
練労働者比率に与える影響として、本分析では主にアウトソーシング として分析を進めるが、欧米
の先行研究ではアウトソーシングとするものと偏向的技術進歩とするものの論争が巻き起こった。
Berman et al (1994)も偏向的技術進歩とした研究であった。日本においても、賃金格差や熟練労
働者比率の拡大に偏向的技術進歩が考えられるため、研究開発費比率を追加して分析を進めて
いく。なお、研究開発比率の波及効果は、即時現れずタイムラグを経て、賃金に影響を与えると予
14
想されるので添え字を i-1 としている。
次に、被説明変数に全従業者に占める熟練労働者の従業者比率を取った回帰式を分析する。
⑤式は可変費用関数を変形したものであり、左辺の熟練労働者賃金支払い比率を、熟練労働者
比率として比較考察することは、理論的背景は弱い。しかし、両推計を比較考察することは、アウト
ソーシングが労働市場に影響を与えるメカニズムを解明する上で大変興味深い。そのため、
Machin (1998)や Anderton and Brenton (1998)と同様に賃金比率を従業者比率に変えた回帰式に
ついても分析を進めていく。以下の⑥式である。
dSEit = αd ln K it + βd ln Yit + ρ (R & D )it −1 + λd ln MS it + ϖd ln RWit + γDit + U it ・・・⑥
ここで、RW は非熟練労働者の賃金に対する熟練労働者の賃金である。このモデルでは、パネル
データを取って分析していく。パネルデータの分析に際しては一般的に固定効果モデルと変量効
果モデルの 2 種類の推定法が考えられる。この分析では、各変数のトレンドとして産業による特性
が考慮され重要なファクターとなってくる。このため、先行研究に倣い、ダミー変数で産業の特性を
コントロールした固定効果モデルで推定していくことにする。
4.2 データ
本分析でのデータは次のものを利用した。まず、熟練労働者と非熟練労働者の賃金そして従業
者については、厚生労働省が毎年実施している賃金構造基本統計調査報告の昭和63年度から
平成13年度調査結果の10人以上の事業所を対象とした男性の統計結果を使用した。 産業につ
いては産業中分類の製造業 F12∼F34 までの中でデータの制約上、F21(石油製品・石炭製品製
造業)、F24(なめし皮・同製品・毛皮製造業)、F33(武器製造業)、F34(その他製造業)を除外し
た19産業で分析を進めていくことにする。次に資本ストックについては経済産業省が毎年実施し
公表している工業統計表、産業編の製造業産業中分類別で集計してある有形固定資産額の投資
総額を資本ストックとした。また、付加価値も工業統計表、産業編の調査結果を使用し有形固定資
産総額と同様に、製造業の産業中分類別に平成元年∼平成13年調査結果からとった。
次に貿易データについて言及する。本分析においては、先行研究による途上国からの産業別の
輸入額を、日本の多国籍企業が多く進出し、低賃金の豊富な労働資源を利用し、低品質な工程
や低付加価値な財を生産している東アジアからの産業別の輸入額とした。ここで、東アジアとは、
ASEAN 諸国(カンボジア、タイ、マレーシア、ベトナム、インドネシア、ラオス、ブルネイ、フィリピン、
シンガポール)、中国、韓国、香港とした。データの出所については全世界からの貿易量、国別の
貿易量共に、1988年から2001年まで、国連のデータベースである United Nations Statistics
Division Commodity Trade Statistics Database から SITC(R1)で取得した。それにより得られた商品
別の貿易データを、小浜・木村(1995)、総務省ホームページを参照に、日本標準産業分類の製造
15
業産業中分類別にコンバート1することにより、日本標準産業分類別の貿易額を得た。なお、1992
年は当データベースにおいて結果が提供されておらず除外した。また、当データデータベースに
おいてドルベースのため、International Financial Statistics より PPP 換算した為替レートを参照し円
換算することにより分析を進めた。
次に、偏向的技術進歩の代理変数である研究開発費比率について言及する。ここで研究開発
費は、総務省統計局が出版している科学技術調査研究の調査結果を利用した。科学技術研究調
査における産業分類と日本標準産業分類とは産業分類が異なるため、お互いをマッチングさせて
分析を進めなければならない。科学技術研究調査の付録を参照に、日本標準産業分類を科学技
術調査研究が製造業において分析対象である14産業にコンバートさせた。日本標準産業分類に
おける F12(食料品製造業)と F13(飲料・たばこ・飼料製造業)を集計し、科学技術調査研究の食
品製造業とした。また、F14(繊維工業)と F15(衣服・その他の繊維製造業)を集計し科学技術調
査研究の繊維製造業とした。一連の集計作業において、非熟練労働者と熟練労働者の賃金を集
計する際には従業者数でウエイト付けした。また、日本標準産業分類と科学技術研究調査報告に
おいて、マッチングの悪い F16(木材・木製品製造業)F17(家具・装備品製造業)F29(一般機械
器具製造業)の産業については偏向的技術進歩を回帰式に加える分析からは削除した。これによ
り、説明変数に偏向的技術進歩を加える分析に関しては14産業で分析することする。
4.3予想される符号・結果
この分析で予想される符号を下の表に図示する。先行研究と同じような結果になることが予想さ
れる
貿易額
予想される符号
R&D
貿易額
貿易額(東アジ
(全世界) (東アジア) ア以外)
熟練労働者賃金比率
+
+
+
+
熟練労働者比率
+
+
+
+
まず、非説明変数に熟練労働者賃金比率をとったときの予想を見てみる。R&D の符号を見てみ
ると、一連の R&D と熟練労働者と非熟練労働者との関係を示した論文と同様に、プラスの符号が
予想される。これは、研究開発費が増えるほど、国内に資本集約的で高付加価値な生産活動に集
約することにより、非熟練労働者の労働需要が落ち込み賃金が下がることが予想されるためである。
次に、貿易額の符号を見てみる。これは、東アジア、全世界ともプラスの係数が予想される。これは、
日本以外の低賃金の国から、労働集約的で低質な財の輸入額が上昇することにより、日本国内の
低質な財を作る労働集約的な財の生産が海外にシフトし、生産労働者の労働需要が落ち込み非
1
データの利用上の注意については APPENDIX 参照
16
熟練労働者の賃金が減少することが予想される。また、資本集約的な工程や財の生産に特化する
ことにより、熟練労働者への労働需要があがり熟練労働者賃金が上がることも予想される。
次に、被説明変数に熟練労働者比率をとったときの予想される符号を見てみる。R&Dに関して
は、研究開発比率が増えるほど、熟練労働者を必要とし資本集約的な工程や財に生産を特化し
非熟練労働者への労働需要が落ち込み労働者数が減少することが予想される。このため、プラス
であることが予想される。最後に、アウトソーシングの代理変数である貿易額を見てみる。これも同
様に低賃金国からの労働集約的な部品や財の輸入額が上昇することにより、国内の労働集約的
な生産工程や非熟練労働者を多く必要とする労働集約な財の生産は海外の低賃金国にシフトし、
非熟練労働者への労働需要は落ち込み非熟練労働者数が減少することが予想される。
しかし、Anderton and Brenton(1998)がイギリスで行った先行研究とは異なる結果が出る可能性
がある。熟練労働者賃金比率を被説明変数としたときに、輸入額の係数が有意に推定されない可
能性がある。それは、日本においては賃金格差があまり広がっていないことが原因としてあげられ
る。3節で概観したように、2000年にかけてのアウトソーシングの進展に比して、製造業の熟練労
働者賃金比率を個別に概観してみると、顕著に上昇している産業はあまり確認することはできなか
った。一方、熟練労働者比率は産業別に見てみても顕著に上昇している。このため、アウトソーシ
ングの進展により熟練労働者比率に大きく影響を与えていることが予想される。
4.4 結果・考察
<挿入 表4.1>
表4.1は被説明変数を熟練労働者賃金比率とした時の回帰分析の結果である。この回帰分析
結果において、(1a)∼(1c)を見てみると、Anderton and Brenton (1998)の先行研究とは大きく異な
る結果であることがわかる。まず、注目すべき点として輸入額の係数を見てみると全世界、東アジア、
東アジアの国以外からの係数がそろって有意な係数が推定されていない。このことより、産業別の
輸入額がアウトソーシングの帰結の一部であると考えると、アウトソーシングが国内の熟練労働者と
非熟練労働者の賃金格差に影響を与えているとは言えないことがわかる。
また、(1d)∼(1f)の研究開発比率を回帰式に加えた式を見ても、各方面からの輸入額、研究開
発費の項に有意な係数は推定されていない。
次に、被説明変数に熟練労働者比率をとったときの結果を見てみる。
<挿入 表4.3>
表4.2は被説明変数を熟練労働者比率とした時の回帰分析の結果である。まず、研究開発費
を回帰式に加えない、(2a)∼(2c)までの分析結果を見てみると、全世界からの輸入額、東アジア
17
からの輸入額、東アジア以外からの輸入額の項ともそろって予想通りの正の有意な係数が推定さ
れている。しかし、全世界からの輸入額、東アジアからの輸入額、東アジア以外からの輸入額の係
数がそれぞれ 0.015、0.0075、0.012 と、予想とは異なる係数が推定された。1990年代の東アジア
諸国への低品質な工程や、低付加価値財の生産拠点のシフトにより、東アジア諸国へのアウトソー
シングが熟練労働者比率に与える影響が一番大きいことが予想された。しかし、(2b)を見てみると、
係数は 0.0075 と全世界からの輸入額、また東アジア諸国以外からの輸入額の方が大きな係数が
推定された。このことにより、日本の労働市場、熟練労働者と非熟練労働者の従業者に与える影響
として、東アジア諸国だけのアウトソーシングよりも、全世界、さらにはアジア諸国以外へのアウトソ
ーシングの影響の方が大きいことが、本分析の結果から示唆された。
最後に、研究開発費を回帰式に加えた(2d)∼(2f)の結果を見る。研究開発費を説明変数に加
えてみても、全世界からの輸入額の項は1%有意水準で有意な正の係数 0.017 が推定された。ま
た、東アジア諸国からの輸入額においても5%有意水準で有意な正の係数 0.008 が推定された。し
かし、研究開発費の項を見てみると、どの式にも有意な正の係数は推定されていない。日本にお
いては、研究開発費の増加が労働市場に与える影響を、本回帰式では確認することができなかっ
た。このことから、日本国内の労働市場の中で熟練労働者と非熟練労働者の従業者数に与える影
響として、偏向的技術変化というよりもアウトソーシングの進展が 1 つの重要なファクターであること
が分かる。
本章では、アウトソーシングの進展や民間企業の研究開発の進展が、日本の労働市場内の、熟
練労働者と非熟練労働者の賃金格差と労働者数に与える影響を分析するために回帰分析を通し
て分析を進めてきた。本章から導かれる重要な示唆として、日本においてアウトソーシングの進展
が熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差を広げる要因であるいうような有意な係数が推定できな
かったということがあげられる。また、偏向的技術進歩と賃金格差の関係をみてみても、偏向的技
術進歩が賃金格差を拡大させているというような係数を推定することはできなかった。日本の労働
市場内、熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差や熟練労働者比率に影響をもたらすものとして、
アウトソーシング 偏向的技術進歩とも有意な係数を推定することができなかった。一方、日本にお
いて、アウトソーシングの進展が製造業の全労働者に占める熟練労働者の比率の上昇に影響を与
えているという有意な係数は推定された。しかし、偏向的技術進歩が熟練労働者比率の上昇に影
響を与えているという、有意な係数は推定されなかった。このことから、日本において労働市場内
の熟練労働者比率の拡大に寄与しているものとして、偏向的技術進歩というよりもアウトソーシング
の進展によるものが大きいことが分かった。
次章では、本論文で得られたこと、今後の労働政策や通商政策における日本政府の指針を提
言し結論を論じることにより本論文の結びとしたい。
18
5 結論
本論文では、賃金構造基本統計調査によって得られたデータにより、日本の労働市場における
熟練労働者と非熟練労働者の、従業者数と賃金格差を分析した。また、全労働者に占める熟練労
働者の比率と、熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差を中心とする日本の労働市場に、アウトソ
ーシングの進展が影響しているかという回帰分析も実施した。
主な結果として、1990年代の日本の労働市場において、熟練労働者と非熟練労働者の賃金格
差が拡大するというよりもむしろ、全労働者に占める熟練労働者の比率が高まっているということが
わかった。特に、近年東アジアの工程間分業の活発化が言われる電気機械産業を中心とする機
械産業や、衣服。その他の繊維製品製造業で顕著であった。
また、アウトソーシングが労働市場に与える影響についての考察結果では、世界各国や東アジア
各国へのアウトソーシングの進展が、熟練労働者比率を高めているという示唆が導かれた。一方、
偏向的技術進歩により熟練労働者比率を高めているという示唆は本考察からは導かれなかった。
次に、アメリカや、イギリスで確認されたアウトソーシングの進展による熟練労働者と非熟練労働
者の賃金格差への影響は、日本において確認できなかった。偏向的技術進歩が賃金格差を広げ
ているという結論も得ることができなかった。
こうした、日本国内の労働市場の現状とアウトソーシングの進展状況の中、経済のグローバル化
がさらに進むことは疑いようもない。日本も、先日シンガポールに続いて2国目の FTA であるメキシ
コと FTA を締結し、フィリピンや韓国とも交渉途中である。こうした、FTA の締結の帰結となるグロー
バリゼーションはモノの交流だけでだけでなくヒトの交流も推し進めていく。日本においては、こうし
たグローバリゼーションの進展や、輸送費や通信費などのサービスリンクコストの低下により、さらに
アウトソーシングは加速し、労働集約的で低付加価値の工程は低賃金国へシフトし続けるであろう。
さらには、アウトソーシングの進展により国内の非熟練労働者の需要が減少し、従業者数は減少し
ていくことが考えられる。このような現状の中、政府はこうした非熟練労働者の受け皿と簡単に他の
産業に労働者が異動できるような労働市場の流動性を作ることが必要である。製造業やサービス
業における、新規事業が多く立ち上がるような、制度を作ることや、直接投資の誘致による労働者
の受け皿を作っていくことが必要だろう。
最後に本稿の課題について、言及し結びとする。本稿では、熟練労働者と非熟練労働者の賃金
格差、熟練労働者の全労働者に占める比率の拡大の原因を主にアウトソーシングとして、分析を
進めてきた。しかし、こうした労働市場の変化への原因として欧米諸国では、アウトソーシングと偏
向的技術進歩率とする論争が続いている。本稿で分析した日本においては、アウトソーシングと偏
向的技術進歩ではアウトソーシングが熟練労働者比率の拡大に寄与しているという結論であった。
しかし、こうした労働市場の構造変化をもたらす他の要因も考えられ、アウトソーシングや偏向的技
術進歩の変数に関して工夫する余地がある。本稿ではアウトソーシングの変数を産業別の貿易額
と定義して分析を進めてきた。本文でも触れたが、産業別の貿易額は垂直的なアウトソーシングを
性格に測ることができない。また、東アジア固有の、生産・流通ネットワークを正確に測ることのでき
19
る指標を定義することも非常に難しい。そのため、本研究においては、アウトソーシングを正確に数
値化することができるような研究が進められることが今後の課題として挙げられる。さらには、日本に
おける賃金データについても改善が望まれる。欧米諸国に比してデータの制約が非常にあり、今
回賃金構造基本統計調査において日本標準産業分類において産業中分類までしか賃金データ
を手に入れることができなかった。産業小分類まで利用可能になれば本研究はより精緻になること
が期待される。賃金構造基本統計調査の賃金データが、産業小分類レベルまで整理、公表される
ことを期待する。こうした改善点を改められることによって、アウトソーシングの進展が及ぼす日本国
内の労働市場への影響に関する研究がより精緻に進められ本研究は発展し、重要な労働政策や
通商政策における政策提言につながるであろう。
20
APPENDIX データの利用上の注意
<挿入 表5>
本分析では、アウトソーシングの代理変数を産業別の輸入額として分析をした。現在、日本標準産
業分類などの産業別の貿易額を時系列で取得することは非常に難しい。貿易データを取得する際
一般的に利用される財務省の貿易統計や国連のデータベースである UN COMTRADE などは、
商品分類である HS (国際統一商品分類)や SITC (標準国際貿易商品分類)を分類として提供して
いる。産業別の貿易額は総務省の産業連関表を用いれば取得可能であるが、5年毎の公表であり
本分析に用いることはできない。また近年、内閣府経済社会総合研究所のプロジェクトにより Japan
Industry Productivity Database:JIP データベースという84産業別の要素投入や産業連関表が作成
された。しかし、このデータベースは1998年までで、さらに毎年取得することは不可能である。その
ため、最終手段として本分析では SITC 分類で得た商品別の貿易データを、表5を用いて日本標
準産業分類別にコンバートすることにより貿易額を得た。しかしながらこの手法は厳密性を欠くもの
である。例えば、鉄鋼業製造業の輸入として分類される鉄板なども、輸送用機械器具産業に属す
る自動車メーカーの輸入もあるかもしれない。また、精密機械器具産業の輸入とコンバートされる
半導体も、商社などのサービス業が輸入している可能性がある。こうしたコンバートにおけるマッチ
ングの厳密性の欠如は存在するが他に代替案が考えられないため、こうした方法論で産業別の貿
易額を得ることにする。今後、産業別の貿易額が時系列で取得可能になるデータベースが設置さ
れることを期待する。
21
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23
・賃金構造基本統計調査報告 昭和 63 年度実施結果∼平成 13 年度実施結果
・賃金センサス 昭和 63年度調査結果∼平成 13 年度調査結果
厚生労働省
・United Nations Statistics Division Commodity Trade Statistics Database
・Research and Development Expenditure in industry 1987-2001
24
OECD
付表
図 3.1 日本における製造業の海外生産比率の推移
出所)海外事業活動基本調査
図3.2 日本企業の現地法人の従業者数
出所)図3.1に同じ
25
表3.1 国内生産活動との関連性のアンケート結果
出所)図3.1、図3.2と同じ http://www.meti.go.jp/
図 3.3 製造業の労働者数の変遷
700000
600000
500000
400000
300000
200000
100000
0
非熟練労働者
熟練労働者
製造業労働者数
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
人
製造業の労働者数の変遷
年
出所)賃金センサスより筆者作成
26
図3.4 日本の製造業の熟練労働者比率
skilled employment share
employment share of skilled labor
0.45
0.445
0.44
0.435
0.43
0.425
0.42
0.415
0.41
1985
employment
share of skilled
labor
1990
1995
2000
YEAR
出所)賃金センサスより筆者作成
図3.5 イギリスの熟練労働者比率
出所)Görg (2003)
27
2005
図3.6 日本の製造業の熟練労働者賃金比率
cost share of skilled labor
cost share of skilled labor
0.64
0.638
0.636
0.634
0.632
0.63
0.628
0.626
0.624
0.622
1985
wage share
1990
1995
YEAR
2000
出所)賃金センサスより筆者作成
図3.7 イギリスの製造業の熟練労働者賃金比率
出所)図3.5と同様
28
2005
図3.8 電気機械器具製造業熟練労働者比率
電気機械器具製造業熟練労働者比率
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
電気機械器具製造
業
19
90
19
88
0.61
0.6
0.59
0.58
0.57
0.56
0.55
0.54
0.53
0.52
0.51
0.5
出所)賃金構造基本統計調査報告より筆者作成
図3.9 電気機械器具製造業の熟練労働者賃金支払い比率
電気機械器具製造業賃金比率
0.650
0.645
0.640
0.635
電気機械器具製造
業
0.630
0.625
0.620
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
0.615
出所)図3.8と同様
29
図3.10 衣服・その他の繊維製品製造業熟練労働者比率
衣服・その他の繊維製品製造業熟練労働者比率
0.56
0.54
0.52
0.5
衣服・その他の繊
維製品製造業
0.48
0.46
0.44
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
0.42
出所)図3.8と同様
図3.11 衣服・その他の繊維製品製造業熟練労働者賃金支払い比率
衣服・その他の繊維製品製造業熟練労働者賃金比率
0.670
0.660
0.650
0.640
衣服・その他の繊
維製品製造業
0.630
0.620
0.610
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
0.600
出所)図3.8と同様
30
図3.12 賃金比率と従業者比率の関係
賃金比率と従業者比率の関係
3.5
3
食料品製造業
飲料・たばこ・飼料
製造業
繊維工業
2.5
2
衣服・その他の繊
維製品製造業
木材・木製品製造
業
家具・装備品製造
業
パルプ・紙・紙加工
品製造業
1.5
1
0.5
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
0
出所)図3.8と同様
31
図3.13 賃金比率と従業者比率の関係
賃金比率と従業者比率の関係
3
出版・印刷・同関
連産業
化学工業
2.5
2
プラスチック製品
製造業
ゴム製品製造業
1.5
1
窯業・土石製品製
造業
鉄鋼業
0.5
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
非鉄金属製造業
19
90
19
88
0
出所)図3.8と同様
図3.14 賃金比率と従業者比率の関係
賃金比率と従業者比率の関係
2.5
金属製品製造業
2
1.5
1
0.5
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
0
出所)図3.8と同じ
32
一般機械器具製造
業
電気機械器具製造
業
輸送用機械器具製
造業
精密機械器具製造
業
武器製造業
表3.2 産業中分類で見た熟練労働者比率
パルプ・
飲料・たば
衣服・その
食料品製
出版・印
窯業・土石
木材・木製 家 具 ・ 装 備 紙 ・ 紙 加
こ ・ 飼 料 製 繊維工業 他の繊維製
造業
刷 ・ 同 関 化学工業
品製造業 品製造業
造業
工品製造
品製造業
非 鉄 金 属金 属 製 品一般機 械器
製 品 製 造 鉄鋼業
製品製造業 製造業
連産業
熟練労働者比率
電 気 機 械輸 送 用 機精 密 機 械
プラスチック ゴ ム 製 品
器 具 製 造 械 器 具 製 器 具 製 造 武器製造業
製造業
製造業
具製造業
業
業
造業
業
業
1988 0.409 0.442 0.349 0.4668 0.211
0.233 0.335 0.541
0.577 0.3573 0.349 0.304 0.254 0.341 0.317 0.4047
1989 0.439
0.47 0.347 0.5063 0.193
0.247 0.342 0.547
0.569
1990 0.414
0.48 0.357 0.4875 0.207
0.27 0.344 0.537
1991 0.417 0.493
0.54 0.342
0.539 0.4307545
0.35 0.303 0.4246
0.542 0.367
0.552 0.4571734
0.25 0.333 0.314 0.4332
0.558 0.367
0.532 0.4504639
0.33 0.266 0.363 0.316 0.4541
0.553 0.383
0.562 0.4928703
0.374 0.342 0.335
0.572 0.3504
0.35 0.335
0.26
0.36 0.4809 0.219
0.274 0.332 0.566
0.554 0.3888 0.404
1992 0.414 0.474 0.374 0.5469 0.231
0.275 0.323 0.506
0.593
0.36 0.358 0.336 0.271 0.402 0.329 0.4528
0.571 0.386
0.547 0.5159625
1993 0.412 0.463 0.364 0.5114 0.221
0.278
0.32 0.511
0.595 0.3561 0.387 0.317 0.277 0.374 0.329 0.4644
0.583 0.398
0.564 0.5210997
1994
0.275 0.317 0.547
0.593 0.3574 0.387 0.312 0.291 0.369 0.349 0.4695
0.565 0.388
0.542 0.4907293
0.526 0.234
0.251 0.336 0.537
0.587 0.0553 0.394 0.335 0.282 0.384 0.326 0.4619
0.585 0.398
0.563 0.4584514
1996 0.406 0.449 0.341 0.5006 0.249
0.269 0.308 0.529
0.579 0.3643
0.581 0.373
0.56 0.4798082
1997
0.271
0.557
0.41 0.468
0.36 0.4822 0.222
1995 0.393 0.456 0.349
0.41 0.475
0.34 0.5275 0.226
1998 0.395 0.452 0.329
0.32 0.543
0.4 0.314 0.276 0.386 0.315 0.4673
0.35 0.365 0.308
0.27 0.379 0.328 0.4555
0.575 0.403
0.548 0.5271572
0.27 0.393 0.368 0.4497
0.589 0.391
0.541 0.4785346
0.538 0.225
0.271 0.334 0.536
0.569 0.3537 0.393 0.314
1999 0.391 0.476 0.329 0.5326 0.264
0.279 0.328 0.531
0.569 0.3446
0.432
0.566 0.393
0.538 0.4530505
2000 0.382 0.479
0.37 0.5329 0.243
0.267 0.333 0.543
0.563 0.3695 0.369 0.312 0.281 0.394 0.302 0.4567
0.593 0.399
0.528 0.4853346
0.44 0.353 0.5426 0.254
0.284 0.326 0.551
0.554 0.3529 0.369 0.329 0.276 0.407 0.322 0.4501
0.601 0.355
0.563 0.4966134
2001 0.364
出所)賃金構造基本統計調査より筆者作成
33
0.36 0.313 0.287 0.402 0.312
表3.3産業中分類で見た熟練労働者賃金比率
パ ル
衣 服 ・
出版・
飲料・
プ
・
そ の 他 木 材 ・家 具 ・
熟 練 労 働 者 食料品 たばこ・ 繊維工
紙・紙
の 繊 維 木製品 装 備 品
賃金比率
プ ラ ス
印刷・
製造業 飼料製 業
化 学 工チ ッ ク
同 関
加 工
製 品 製 製造業 製造業
造業
業
土石製
製品製
造業
精密機
機械器
鉄鋼業 属製造 品製造 械 器 具 械 器 具
品製造
造業
品 製
輸送用
非鉄金 金属製 一 般 機 電 気 機
品 製
連 産
造業
窯業・
ゴム製
武器製造
械器具
具製造
業
業
製造業 製造業
業
業
製造業
業
業
造業
1988 0.602 0.563 0.634
0.639 0.623
0.645 0.604 0.650
0.608
0.633 0.607 0.619 0.647 0.625 0.632
0.622
0.638 0.626
0.612
0.634
1989 0.616 0.579 0.639
0.646 0.614
0.633 0.609 0.648
0.608
0.625 0.616 0.620 0.649 0.634 0.615
0.614
0.638 0.620
0.623
0.630
1990 0.607 0.569 0.628
0.634 0.614
0.626 0.614 0.635
0.608
0.622 0.620 0.613 0.643 0.622 0.605
0.614
0.640 0.616
0.621
0.638
1991 0.606 0.578 0.632
0.631 0.611
0.631 0.610 0.631
0.611
0.619 0.608 0.612 0.637 0.621 0.601
0.608
0.639 0.614
0.614
0.392
1992 0.612 0.589 0.634
0.653 0.618
0.628 0.615 0.642
0.608
0.622 0.610 0.610 0.642 0.628 0.620
0.613
0.633 0.616
0.613
0.625
1993 0.621 0.600 0.617
0.655 0.624
0.617 0.604 0.663
0.607
0.621 0.596 0.603 0.639 0.625
0.611
0.612
0.627 0.625
0.609
0.637
1994 0.623 0.590 0.614
0.650 0.619
0.617 0.593 0.643
0.612
0.629 0.600 0.610 0.637 0.632 0.616
0.614
0.633 0.613
0.602
0.620
1995
0.611 0.589 0.622
0.637 0.630
0.628 0.606 0.623
0.607
0.626 0.601 0.606 0.645 0.631 0.613
0.621
0.637 0.608
0.618
0.621
1996 0.607 0.594 0.642
0.622 0.635
0.632 0.600 0.647
0.612
0.638 0.604 0.616 0.649 0.634 0.617
0.626
0.642 0.629
0.609
0.630
1997 0.623 0.586 0.626
0.632 0.628
0.607 0.595 0.686
0.600
0.630 0.599 0.603 0.632 0.643 0.609
0.622
0.648 0.623
0.621
0.635
1998 0.618 0.598 0.629
0.639 0.626
0.633 0.596 0.648
0.598
0.618 0.603 0.597 0.627 0.631 0.627
0.611
0.642 0.621
0.613
0.616
1999 0.595 0.585 0.628
0.625 0.613
0.647 0.600 0.634
0.606
0.613 0.614 0.602 0.636 0.627 0.625
0.622
0.648 0.627
0.627
0.611
2000 0.617 0.593 0.648
0.661 0.624
0.641 0.590 0.635
0.610
0.623 0.610 0.611 0.634 0.629 0.623
0.621
0.635 0.622
0.628
0.607
2001 0.632 0.600 0.630
0.649 0.635
0.625 0.610 0.691
0.613
0.626 0.596 0.613 0.641 0.645 0.614
0.628
0.641 0.602
0.618
0.615
出所)賃金構造基本統計調査より筆者作成
34
表4.1 回帰分析結果
被説明変数:熟練労働者賃金比率
(1a)
(1b)
(1c)
(1d)
(1e)
(1f)
C
0.89***
0.91***
0.91***
0.95***
0.93***
1.02***
(t)
(2.74)
(2.84)
(2.85)
(3.98)
(3.91)
(4.23)
アウトプットの変化量
0.009
0.008
0.008
0.008
0.007
0.006
(t)
(1.09)
(0.97)
(1.1)
(1.36)
(1.28)
(1.08)
-0.01
-0.04
-0.005
0.004
0.001
0.004
(-0.28)
(-0.75)
(-0.12)
(1.34)
(0.41)
(1.32)
0.05
0.11
0.04
(0.67)
(1.54)
(0.62)
資本ストックの変化量
(t)
1期前の研究開発比率
(t)
全世界からの輸入額の変化量
0.01
0.004
(t)
(0.4)
(0.98)
東アジアからの輸入額の変化量
-0.0008
(t)
-0.0015
(-0.54)
(-0.64)
東アジア以外の国からの輸入額の変化量
0.003
0.005
(t)
(1.08)
(1.6)
観測数
決定係数
209
209
209
166
166
166
0.069
0.004
0.01
0.03
0.02
0.02
注)有意水準は***は1%、**は5%、*は10%
35
表4.3 回帰分析結果
被説明変数:熟練労働者比率
C
(2a)
(2b)
(2c)
(2d)
(2e)
(2f)
2.25***
2.45***
2.51***
2.65***
2.76***
2.84***
(4.16)
(4.54)
(4.63)
(3.58)
(3.69)
(3.69)
-0.033**
-0.04***
-0.04***
-0.04**
-0.04**
-0.048**
(-2.43)
(-2.85)
(-2.98)
(-2.24)
(-2.38)
(-2.5)
資本ストックの変化量
0.2**
0.02**
0.01*
0.024**
0.026**
0.02**
(t)
(2.43)
(2.31)
(1.77)
(2.49)
(2.49)
(1.91)
0.01
0.016
0.007
0.005
0.005
-0.002
(0.26)
(0.15)
(0.16)
(-0.06)
-0.3
0.03
0.11
(-0.13)
(0.16)
(0.34)
(t)
アウトプットの変化量
(t)
賃金比率の変化量
(t)
(0.36)
1期前の研究開発比率
(t)
全世界からの輸入額の変化量
(t)
0.015***
0.017**
(3.26)
(2.27)
東アジアからの輸入額の変化量
(t)
0.0075***
0.008*
(2.66)
(1.96)
東アジア以外からの輸入額の変化量
(t)
0.012**
0.01
(2.45)
(1.36)
観測数
209
209
209
154
154
154
決定係数
0.1
0.08
0.08
0.03
0.07
0.03
注)有意水準は***は1%、**は5%、*は10%
36
表5 日本標準産業分類 SITC 対応表
日本標準産業分類 SITC 対応表 日本標準産業分類 製造業 F
SITC(R1)
012,013,023,024,06,07,0
F12(食料品製造業)
9
F13(飲料・たばこ・飼料製造業)
11,12
F14(繊維工業)
266 651 652 653
F15(衣服・その他の繊維製品製造業)
84
F16(木材・木製品製造業)
63
F17(家具・装備品製造業)
82
F18(パルプ・紙・紙加工品製造業)
25 64
F19(出版・印刷・同関連産業)
892
F20(化学工業)
5
F21(石油製品・石炭製品製造業)
33102 332
F22(プラスチック製品製造業)
58 893
F23(ゴム製品製造業)
2311 62
F24(なめし皮・同製品・毛皮製造業)
61 85
F25(窯業・土石製品製造業)
666
F26(鉄鋼業)
67
F27(非鉄金属製造業)
68
F28(金属製品製造業)
69
F29(一般機械器具製造業)
71
F30(電気機械器具製造業)
72
F31(輸送用機械器具製造業)
351、34、353、352+359
F32(精密機械器具製造業)
33、86
出所)木村・小浜 (1995)、総務省ホームページを参照に筆者作成
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