(ICJ)等の傍聴、関係国際機関の訪問

2013 年度海外実習・高度海外研究実施の報告
2013 年 8 月
国際協力研究科 博士前期課程 1 年
宮廻潤子
森
博士後期課程 2 年
I.
瑞穂
上田匡邦
海外実習
この度、宮廻と森は、神戸大学基金の財政的援助を受けて 2013 年度海外実習「法律系国際
公務員養成プログラムと連動させた国際司法裁判所(ICJ)等の傍聴、関係国際機関の訪問」
に参加してきた。以下では、実習の概要、実施内容、その成果について報告する。
1.
海外実習の概要
期間:2013 年 6 月 26 日(水)~7 月 17 日(水)
渡航先:ハーグ(オランダ)
、ジュネーブ(スイス)
訪問機関等:国際司法裁判所、国際刑事裁判所、化学兵器禁止機関、在ジュネーブ国
際機関日本政府代表部、国連欧州本部、国際労働機関。
2. 実習内容とその成果
(1)宮廻潤子
【オランダ・ハーグ】
(i)国際司法裁判所
国際司法裁判所の南極海捕鯨事件口頭弁論は 6 月 26 日~7 月 17 日にわたって行われた。
私は 2 日遅れてハーグ入りし、6 月 28 日の第 1 ラウンド(オーストラリア 3 日目)より傍
聴を行った。2013 年度前期開講の International Environmental Law(担当教員:柴田教
授)においては今回の海外実習と関連させて、本件を題材とした講義が行われており、講
義を通して必要な事前準備を行うことができた。今回の捕鯨事件の一般傍聴は、オンライ
ンでの事前予約制であり人気が高いと思われたことから、4 月後半の段階で予約申請を行っ
た。しかし、出発の 2 週間前になっても裁判所から何の反応も得られず、最悪の場合、裁
判所の前まで行っても傍聴ができないという事態も考えられた。結局、6 月 12 日に裁判所
のプレスリリースで「一般傍聴はこれまでの予約を一切考慮せず、毎日先着順で認める」
ことが発表され、早朝から裁判所の前に並ぶことも予想して、少々不安を抱えながらの出
発となった。
今回の捕鯨事件では、日本の弁護人を Alan Boyle 教授、Alain Pellet 教授などが、オー
ストラリアの弁護人を James Crawford 教授、Philippe Sands 教授などが務めており、国
際法の著名な先生方を一度に拝見することができた。弁論は英語、フランス語で行われ、
同時通訳を聞くことができた。法廷では、弁護人の身振り手振りや声の調子、弁論のスピ
ード、強調している箇所など、紙面からは得られないことを身体全体で感じることができ
た。また、非常に興味深かったのが第 1 ラウンドで行われた Cross examination だった。
日豪両サイドの科学者が相手方の弁護人から法廷で質問を受け、その場で答える形式のも
ので、用意してきた原稿を読む通常の弁論とは全く雰囲気が異なった、非常に緊張感のあ
る場面だった。
実際に JARPAⅡが行っている調査捕鯨の事実がどのように認識されるかという点、例
えば Sample Size が適当であるか、Lethal method が本当に必要か否かという部分が今回
の口頭審理において裁判官にどのように認識されたのか、今年の年末もしくはもう少し先
に出る判決を読むのが楽しみだ。もし「Science とは何か」という問題を法が決定すること
になれば、国際法分野のみならず非常に広範囲な分野に影響を与える判決になることが考
えられる。その意味でも大変興味深いものであった。
また、併設されている平和宮図書館も訪れ、国際司法裁判所の歴史を存分に感じること
ができた。
左:ICJ 正面
左:傍聴席にて開廷待ち
右:ICJ 法廷内
中央:日本側弁護人東京大学岩沢先生(左)と
右:ICJ 図書館にて
(ⅱ)化学兵器禁止機関
化学兵器禁止機関(OPCW)では、Legal Officer の神吉加奈枝さんに館内を案内してい
ただき、その後昼食をご一緒させていただいた。OPCW では 7 月半ばに執行理事会が控え
ているにもかかわらず、我々の訪問を快諾して下さった。Legal Officer という仕事のやり
がいから、Legal Officer のポスト削減傾向といったお話も聞くことができた。私が今まで
漠然と想像していた国際公務員という職業とは違った実情も知ることができたと思う。ま
た、OPCW 訪問とは別に、Senior Planning Officer の阿部達也先生(青山学院大学准教授)
にもお会いした。日々のお仕事に関することから、現在論点になっている最新のトピック
まで、様々なお話を聞くことができた。
左:Legal Officer 神吉さん(中央)と OPCW エントランスにて
右:OPCW 正面玄関前
(ⅲ)国際刑事裁判所
国際刑事裁判所では、まず、検察局で勤務されている山口やよいさんから国際刑事裁判
所に関するレクチャーを受け、そのあと尾崎久仁子判事とお会いした。その際、尾崎判事
のお計らいで判事のアシスタントをしているインターン生、P2、P3 の方々ともお話する機
会をいただいた。法律系国際公務員になるために、どのようなキャリアを積んでいるのか、
どのような資質が求められるのかなど大変有意義な時間だった。特に、インターンや職員
の採用に関するお話は大変興味深かった。インターンであっても即戦力となることができ
る実務経験と語学力が必須であることに変わりはないということだった。インターンとし
て国際機関で働くことが正規職員として採用されるために必要な実務経験となるというお
話ではあったが、インターンとしてもそれなりの実務経験がなければ採用されない現状を
知り、国際公務員へのキャリア形成を考えるうえで非常に参考となった。さらに、近年の
日本人のインターン生は稀で、インターンに採用されるにもやはり英語のネイティブスピ
ーカーが有利な現状は変わらないようだ。インターン、職員問わず即戦力が求められる国
際機関での採用の厳しさを改めて認識した。
(左)ICC 正面玄関横
(右)ICC 建物
(ⅳ)旧ユーゴ刑事裁判所
今回は、旧ユーゴ刑事裁判所のオフィス訪問や傍聴はしなかったが、GSICS で国際法の
博士号を取得され現在旧ユーゴ刑事裁判所に Legal Officer として勤務されている大西央子
さん、同じく Legal Officer の河島さえ子さんと昼食をご一緒させていただいた。Chambers
(裁判部)でのお仕事や、ICTY でのインターン経験などについてお話して下さった。お二
方のお話から、刑事裁判に対する情熱ややりがいを感じ取ることができた。
左:ICTY 大西さん(前列中央)
、河島さん(後列右)と
右:金武さん(中央)とアムステルダム大学中庭にて
(ⅴ)アムステルダム大学
京都大学で博士号を取得され、現在アムステルダム大学で研究員としてプロジェクトに
携わっておられる金武真智子さんとお会いした。金武さんの紹介でアムステルダム大学の
他の研究員の方ともお話しする機会を作っていただいた。
【スイス・ジュネーブ】
(i)在ジュネーブ国際機関日本政府代表部
在ジュネーブ日本政府代表部では、外務省職員の荒池書記官、人事院から出向されてい
る本田書記官とお会いすることができた。今回の実習では主に国際機関職員の方々にお会
いしてきたので、国家公務員として国際的に活躍されている方々ともお話することができ、
非常に有益であった。国家試験受験のご経験から、採用後の研修、実際の勤務や海外での
生活に関することまで、幅広くお話を伺った。採用後は、個人の専攻など関係なく、様々
な職務を担当することから、仕事をしながら必要なことを日々勉強していくそうだ。自分
の専門にこだわるのではなく、むしろ勉強をしながら様々な職務を経験していくことを楽
しんでいらっしゃるように感じた。
(ii)国連欧州本部
国連欧州本部では、国際法委員会を傍聴した。議題は「災害時の人の保護」で、上智大
学の村瀬信也先生や、村瀬先生の補佐を務めている東京大学の寺谷広司先生とお話しする
機会をいただいた。国際法委員会の現状などについて、委員としての視点から興味深いお
話を聞くことができた。また、UN Joint Inspection Unit の Inspector としてご活躍されて
いる猪又忠徳氏と執務室にてお話を伺った。ご自身の国連での豊富な勤務経験を披露して
下さり、大変貴重な機会となった。さらに、国連人権高等弁務官事務所財務官の平野哲哉
氏と、国連欧州本部内のレストランにて昼食をご一緒し、職務の概要やジュネーブでの生
活など多岐に渡ってお話下さった。
左:国際法委員村瀬信也先生と
右:国際法委員 Dire Tladi 氏と
左:国際法委員会会議場にて開始を待つ
右:UN Joint Inspection Unit の Inspector 猪又忠徳氏と
(iii)国際労働機関
国際労働機関では、直前のアポイントにも関わらず、奥村有香さんと大村恵美さんとお
会いする機会を得た。奥村さんは労働経済の専門家で、国連のヤング・プロフェッショナ
ル・プログラム(YPP)制度を利用されたお話などを伺った。大村さんは労働基準局で勤
務されている法律専門家の方で、元々国際法を勉強されていたのではなく、弁護士として
日本で勤務されていて、その実務の中で国際公務員として労働法関係の仕事をしたいと思
い現在の職業を選んだという経緯を伺った。
【成果】
今回の海外実習では、国際司法裁判所での裁判や国際法委員会での会議の傍聴をするこ
とで学術的な国際法が使われる場面を体感し、また国際機関職員や外務省など政府機関職
員の方々とお話しさせていただくことで国際法の実務の一端についても知ることができた。
アポイントを取った方はもちろんのこと、現地で偶然出会った方とも国際法という共通の
話題で様々なお話ができた。
今後のキャリアについて、これまで私は漠然と「国際公務員になりたい」と考えていた
が、
「なぜ国際公務員になりたいのか、また、ならなければいけないのか」という問いにま
だ明確に答えを出すことができておらず、海外実習を終えた現在も進路を検討している途
中だ。しかし、この海外実習で多くのの方々のお話を聞き、本当に多様なキャリア形成の
方法があることを知った。その中でも国際公務員以外の実務経験を経て国際公務員になっ
た方のお話は特に興味深かった。ただし、そのような方も法律系の国際公務員として必要
な語学力や国際法の知識などは当然求められることに変わりなく、高い語学力と専門性と
いう条件は常に意識しなければならないことを改めて実感した。
今回の海外実習では、以前までの漠然とした国際公務員として働くことのイメージが現
実として実感できたという点で非常に有意義だったと思う。そのために必要なことなども
同時に知ることができ、得るものが大変多い実習だった。お忙しい中、快く我々学生のた
めに時間を作っていただいた皆様に感謝し、毎日の研究活動や勉強に精進したい。
(2)森 瑞穂
【オランダ・ハーグ】
(i)
国際司法裁判所
実習では、国際司法裁判所(ICJ)において、オーストラリアを原告、日本を被告とする
調査捕鯨事件の第二回口頭審理の傍聴を行った。南極海における日本の調査捕鯨 JARPAⅡ
が国際捕鯨取締条約や生物多様性条約、ワシントン条約等に違反するとしてオーストラリ
アが日本を提訴した事件である。この事件の判決が出されるのはまだ先のことだが、単な
る日豪関係の問題だけではなく、捕鯨国と反捕鯨国の今後の動向に重大な影響をもたらす
ものになると思われる。
左:国際司法裁判所(平和宮)
中央:正面玄関にて
右:法廷内部
南極海調査捕鯨事件の日本側弁護団
(ii)
国際刑事裁判所
国際刑事裁判所(ICC)の建物は非常に近代的な見た目の建物だった。傍聴者向けの入り
口があり、その玄関脇には、収監される被告人用の鉄格子でできたゲートがあった。Bemba
事件の公判が進行中ではあったが、ICC を訪問した日は、残念ながら公判のキャンセルに
より傍聴することはできなかった。ICC が扱う事件が主に人権問題を扱ったものであるこ
と、証人が個人であることなどから、公判の予定が急遽変更されることや、公判がクロー
ズされることが多いという事実を目の当たりにした。Bemba 事件を傍聴できなかったこと
は残念だったが、ICC の判事である尾崎久仁子判事や、職員の山口やよいさん、尾崎判事
のリーガルアシスタントの方々とお話しする機会を得ることができた。国際的に活躍して
いる女性の方々と実際にお話しできたことはとても良い経験となった。
左:国際刑事裁判所建物
右:正面玄関
【スイス・ジュネーブ】
(i) 欧州国連本部
ジュネーブを訪問した 3 日間のうち最初の 2 日間は、欧州国連本部において国際法委員
会を傍聴した。今回の会合の題目は災害時における人の保護、というものだった。
国際法委員会以外にも、女子差別撤廃条約の委員会を聴講する機会も得た。ジュネーブ
では、多くの日本人の国際公務員の方々とお会いすることができ、国際法委員会の傍聴の
後に、村瀬信也先生や人権高等弁務官の平野哲哉氏との昼食の機会や、国際連合の監査官
であられる猪又忠徳氏と夕食をご一緒する機会を得ることもできた。
左、中央:欧州国連本部内部
左:欧州国連本部中庭
右:国際法委員会の様子
中央:各国の旗の下にて
人権高等弁務官事務所・財務官の平野氏との昼食会にて
右:欧州国連本部建物
(ii) 国際労働機関
国際労働機関(ILO)を訪問する機会にも恵まれた。ILO で活躍されている日本人職員の
奥村有香さんや大村恵美さんから、国際公務員として働くにあたってのお話を伺った。二
人のお話から国際連合で働く厳しさや、語学力の重要さを実感した。
左:国際労働機関
右:在ジュネーブ日本代表部
(iii) 在ジュネーブ日本代表部
在ジュネーブ日本代表部では、荒池克彦書記官と人事院の本田英章氏にお会いした。外
交官の仕事の難しさや楽しさ等を伺うことができ、外交を行っていくうえでの代表部の重
要さを実感した。
【成果】
現在私は、国際協力研究科博士前期課程国際法プログラム 1 年次に在籍中であり、特に海
洋法に興味を持っている。今回の海外実習では、南極海調査捕鯨事件という海洋に関する
国際裁判であり日本が国際司法裁判所で被告となった裁判を傍聴することができ、非常に
有益な経験ができた。各国の弁護団の弁論を実際に目の当たりにし、紙面だけでは学ぶこ
とができなかった生の国際裁判を体感した。また、この海外実習では、多くの国際公務員
の方々ともお会いすることができ、国際機関や国際的に海洋問題を扱える仕事に就きたい
と考えている自分の気持ちが、さらに大きくなった。国際公務員という仕事の厳しさ、楽
しさ、そして重要さを感じた。国際的に活躍されている女性の方々とお会いできたことも
よい体験となった。国際法の知識やその実践方法を学ばなければ、そして語学力を向上さ
せなければ国際的には通用しないということを改めて痛感した。博士前期課程 1 年次のこ
の時期に、このような海外実習に参加できたことは、今後の勉学に対するモチベーション
の向上につながった。私には足りないものがたくさんあるが、この海外実習の経験を活か
して、博士前期課程 2 年間でさらに学び、足りないものを少しずつ補っていきたいと思っ
ている。
文責:
I.海外実習 1. 海外実習の概要:宮廻潤子、森瑞穂
同 2. 実習内容とその成果:(1)宮廻潤子、
(2)森瑞穂
II. 高度海外研究
私、上田匡邦は、神戸大学基金の財政的援助を得て、国際司法裁判所(ICJ)におけ
る南極捕鯨事件(オーストラリア v. 日本)の口頭弁論の傍聴とハーグ周辺に所在す
る研究機関や国際機関の訪問等を内容とする高度海外研究を実施した。以下では、研
究の詳細には立ち入らず(別途報告)、主にその準備作業や現地での活動内容、感想
について簡単に述べたい。
1.高度海外研究の概要
・実施期間
国内での準備・成果のまとめ
海外での調査、研究
2013 年 6 月 12、13 日、7 月 19、22 日(4 日間)
2013 年 6 月 25 日~7 月 17 日(23 日間)
・訪問機関等
国際司法裁判所、平和宮図書館、アムステルダム大学国際法センター、ライデン
大学、欧州経済社会評議会(欧州連合の一機関)、化学兵器禁止機関、国際刑事裁
判所。
2.実施内容
・ICJ 南極捕鯨事件の口頭弁論傍聴
本件は、南極海における日本の調査捕鯨活動が国際捕鯨取締条約(ICRW)、及
びワシントン条約、生物多様性条約上の国際義務に違反するとして、オーストラリ
ア政府が 2010 年 5 月、ICJ に提起した国際裁判である。昨年の日本側の答弁書の
提出等を経て、今年の 6 月 26 日から 7 月 16 日まで、当該事件に係る口頭弁論を
行う予定であることが今年 4 月、ICJ より発表された。これを受けて、私は、この
口頭弁論を傍聴し、日本が行う調査捕鯨活動の内容や、両国の主張及びそれらを裏
付ける法的根拠についての理解をより深め、自らの研究内容の高度化に役立てよう
と考え、
「高度海外研究」として計画することにした。
私は、この国際裁判の傍聴を計画するに当たり、まず ICJ のウェブサイトで公表
されている情報、特に豪政府から提出された訴状を参考にしながら、南極捕鯨事件
に関連する文献を収集する作業を行い、法的な分析に有用と思われるものを中心に
読み進めた。幸いにも、特定した一部の文献は 、2013 度前期に開講された
International Environmental Law(柴田教授担当)のコースでも用いられること
となり、同コースの講義に出席し予習を念入りに行い、講義中の議論に積極的に参
加した。こうして、本件の背景や考察すべき論点の把握に努めた。併せて、「海外
実習」として実施する上記修士学生の準備作業やロジ面もサポートした。
そして、いざ現地に赴いたのだが、やはり口頭弁論初日と第1ラウンドの日本側
の弁論初日が最も印象深かった。両日ともマスコミ関係者の数がとても多く、彼ら
が平和宮建物内のホールのあちらこちらでインタビューやテレビ撮影を行ってお
り、時に彼らに混じってインタビューの内容を聞いたりもした。その上、豪側の弁
護人である Philippe Sands 先生やマスコミ関係者の方々と話す機会もあり、国際
裁判ならではの臨場感を存分に味わうことができた。
左:豪政府
中央:日本政府
右:シーシェパード
場の活気という面の他にも、口頭弁論初日に注目する理由がある。その一つは、
両当事国からこれまでに提出された訴答書面が公表されることである。ここで、私
のような公衆の一員が訴訟当事国間でやりとりされてきた内容に初めて触れるこ
とができる。例えば、豪側はその請求内容を ICRW 第 8 条に基づく国際義務に限
定し、日本側は本件が選択条項に付された留保に該当するとし、ICJ の本件に対す
る管轄権を否定する内容の答弁を行っていたことが、訴答書面やそれを踏まえた初
日の豪側の主張から新たに分かった。もう一つは、初日の弁論冒頭で、当事国は誰
がどの論点に関する主張を行うか、どの順序でその主張を展開するかを大よそ明ら
かにするので、論理構成の骨子がおぼろげながら透けて見えることである。弁論の
一部だけに注目しすぎると、弁論の全体像を見失ってしまいかねない。口頭弁論で
は、木を見て森を見ず、にならないよう、弁論初日に示された当事国が行おうとす
る弁論の全体像を頭の片隅に残して、その後に続く個別の主張を聞き、その主張を
裏付ける根拠や他の主張との関係性を理解しようとした。
ところで、今回初めて国際裁判の口頭弁論の全日程を傍聴した。2 年前に国家免
除事件の口頭弁論の一部を傍聴した時に比べ、国際裁判がより動的で、ドラマチッ
クなものである印象を受けた。相手の出方を受けて弁論の力点や内容を巧みに変化
させ主張を展開する弁護人の様子は文字通り「動的」なものだ。第 1 ラウンドの豪
側の弁論以降の日本、豪の主張合戦は、見物だった。第 1 ラウンドの日本側最初の
弁論を担当し、事件の背景について述べた Payam Akhavan 先生の主張は圧巻で、
Philippe Sands 先生を名指し彼が提示した根拠を真っ向から否定する形で論を進
めた。そして、第 2 ラウンドで豪側の弁論を担当した Philippe Sands 先生は第 1
ラウンドでの落ち着いた弁論とは対照的に、とても感情にあふれており、何度も日
本側の弁護人、特に Payam Akhavan 先生へと鋭い眼差しを向けていた。弁論の途
中で休憩に入る直前に、裁判長が Philippe Sands 先生に少し落ち着くようウィッ
トに富んだ発言をしていたのが、とても印象的だった。
最後に、全ての口頭弁論を傍聴しても、豪、日本のどちらに軍配を上げるべきな
のか、その評価は難しい。ここでは、事実とそれに適用すべき国際法は何かという、
国際裁判ではごく当たり前の点を一例に挙げる。事実のうち、捕鯨の実施方法等の
特徴に鑑みれば、商業捕鯨とは別の捕鯨の形態、いわゆる特別許可捕鯨(持続可能
な商業捕鯨の再開を求めて実施する科学調査)であると考えられよう。しかし、科
学的、統計的に正確な情報を得るために、毎年 850±10%のミンク鯨の捕獲が計画
されており、この捕獲は商業捕鯨が実施されていた頃の何分の一かの量に相当する。
これらの事実のどの部分に注目するかによって、ICRW 第 8 条の他に、附則の諸規
定や、IWC の決議やガイドラインのうち関係する法として特定すべきものが異な
ってくるだろう。この点は、口頭弁論中にガヤ裁判官から提起された「科学調査と
商業の両方の目的を有するプログラムに対して適用されるルールとは何か」という
質問にも表れているように思う。今後、本件に係る訴答書面や口頭弁論の書面にも
目を通し、事実や関連する条文、附表、国際捕鯨委員会の決議、並びに科学委員会
の報告書の内容をより詳細に吟味するつもりである。
・研究機関や国際機関への訪問
<研究機関>
アムステルダム大学国際法センターの研究員、金武真知子さんの紹介により、同
国際法センターの研究員の方々にご挨拶させていただいた。私と同じく国際環境法
を中心に研究を行っている Tim Staal さんとの面談の機会も得て、環境条約の下に
設立された条約機関について意見を交換した他、彼から南極捕鯨事件の内容に関す
る質問を受けたので回答した。同国際法センターでは、Jaye Ellis マギル大学准教
授による“Rule of Law in Transnational Space”いうレクチャーも聴講させていた
だいた。さらに、金武さんを通じて、現在ライデン大学大学院の博士後期課程に在
籍し研究されている防衛大学の黒崎将広先生とも知り合い、食事をご一緒した。お
忙しい中こうした機会を与えて下さった、金武さん、Tim Staal さん、黒崎先生に
心より感謝申し上げたい。
左:アムステルダム大学前の運河にて
中央:グロチウス像
右:ライデンにて
<国際機関>
2011 年にインターンシップを実施した欧州経済社会評議会を訪問した。あいに
く当時の上司は出産直後で母国に帰国中で再会はかなわなかったが、その上司の部
下で当時親しくしていた Milen Minchev さんが都合をつけてくれて、彼のオフィ
スを訪れ、昼食を共にした。
また、修士の宮廻さん、森さんとともに、化学兵器禁止機関に勤務する阿部達也
先生や神吉加奈枝さん、国際刑事裁判所の尾崎久仁子判事や同裁判所に勤務する山
口やよいさんにもお会いした。国際協力研究科の先輩である、大西央子さんや村井
伸行さん、大西さんの同僚の河島さえこさんとも食事の席で近況についてお話しし
た。このように海外の第一線で活躍される多くの邦人関係者と面会できることは、
まさに海外研究の醍醐味である。
左:欧州経済社会評議会
中央:OPCW
文責:II.高度海外研究(上田匡邦)
右:ICC 尾崎判事、山口さんとともに