第 10 回ノン / フィクション国際ブックフェア

第 10 回ノン / フィクション国際ブックフェア
名 称
10th International Book Fair for High-Quality Fiction and
NON/fiction
会 期
2008 年 11 月 26 日 ( 水 ) ~ 30 日 ( 日 )
入場時間
11:00 ~ 19:00
会 場
Central House of Artists( 中央芸術家会館 )
展示面積
6,000㎡
主 催
EXPO-PARK Exhibition Projects Ltd.
テーマ国
フィンランド
出 展 社
250 社 ( うち国内 215 社、海外 35 社 )
参 加 国
21 カ国
アイスランド、イギリス、イスラエル、イタリア、ウクライナ、エ
ストニア、カナダ、スウェーデン、スペイン、チェコ、デンマーク、
ドイツ、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、
ラトビア、リトアニア、ロシア、日本
入 場 者
27,290 人 ( 昨年比 2.6%増、昨年は 26,590 人 )
報告 : 三吉 勇己 [ ㈱トーハン 海外事業部 ]
ブックフェア概要
地下鉄環状線を ParkKultury 駅で降りて
徒歩 10 分、モスクワ川を越えたところに
ある中央芸術家会館で今年もブックフェア
は開催された。トレチャコフ美術館の新館
と一体になった巨大な建物は彫刻公園内に
位置しており、施設内も洗練された雰囲気
である。初日と 2 日目は雪が降ったため、
慣れない私には歩くのも困難であったが、
会期後半には全て溶けてしまい、市内から
のアクセスも良いことから多くの人が訪れ
た。土日には開場後 1 ~ 2 時間経っても
( モスクワ川沿いに位置する中央芸術家会館 )
200 ~ 300 人が入り口に列を作っていた。
会場の広さは床面積で東京国際ブックフェアの約 3 分の1、フランクフルト・ブックフェアの
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約 30 分の 1 とこじんまりしているが、
「中央芸術家会館」で開催されるだけあってフランクフ
ルト・ブックフェア等と比較すると落ち着いた雰囲気である。建物の 1 階はエントランス、クロー
ク、カフェ等になっており、ブックフェアは 2 階と 3 階を使用して開催された。
今年のテーマ国であるフィンランドは、主に自国のコミックスと絵本をメインに PR しており、
2 階に設けられた特別スペースではムーミンを初めとするフィンランド産のコミックスを多数掲
示して来場者にアピールしていた。フィンランド以外にもフランスやポーランド、スウェーデン
等がナショナルブースを設けていたが、日本ブースのように自由に本を閲覧できるようにはなっ
ておらず、PR 資料やカタログ等を配布するだけに終始していた。
会期中最も盛り上がったのは 4 日目にゴルバチョフ元大統領が会場を訪れ自伝の PR イベント
を行った時で、このときばかりはブースアテンダントのロシア人学生も「すみませんがブースお
願いします!」との言葉を残し、カメラを片手に走り去っていった。
企業ブースの中で比較的目立ったブースは EKSMO 社と AZBUKA 社で、EKSMO 社は著者自身
による PR イベントを多数行い、AZBUKA 社は 100㎡近くある売り場一面に自社作品を並べ積極
的に販売を行っていた。なおどの出版社ブースでも通常の小売価格の半値近くで本を販売してい
るため、会場を訪れる人のほとんどは本の購入を目的としているとのことだった。
JAPAN ブース
国際交流基金と出版文化国際交流会の共催という形で設けられた JAPAN ブースには合計 401
冊を展示した。図書の内容と冊数は以下の通り。和文辞書(3 冊)、和文児童書(32 冊)、コミッ
ク(31 冊)
、和文写真集&一般書(63 冊)
、実用書&雑誌類(24 冊)、英文版図書(248 冊)。
ブースの設営にあたっては、昨年のレポー
トで「あまり人気がないようだ」と報告さ
れていた日本のポップカルチャーを積極的
に PR するため、マンガやアニメのポスター
を壁面に掲示したり、ファッション雑誌等
を目立つ場所に置いたりして若者にもア
ピールする展示にした。また折り紙の実演
を積極的に行い、老若男女の幅広い世代が
足をとめてもらえるよう努力した。モスク
ワでは日本大使館によって「日本の秋」と
いう日本の文化や伝統、食品等を宣伝する
( ポップカルチャーを積極的に PR)
キャンペーンが現在開催されているそうで(今回のブースもそのプログラムのうちの一つである
とのこと)
、その効果もあってか JAPAN ブースは絶え間なく多くの人でにぎわいを見せていた。
ブースを訪れた人の 7 割は女性で、特に料理本の人気が高かった。高齢の方に人気があるのは
やはり「折り紙」
。男性は年代を問わず空手など武道関連の書籍を手にとる傾向が高かった。事
前の狙い通り、男女問わず若者の多くが、マンガやアニメの関連書に高い興味を示してくれたが、
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展示した本の中で最も手にとった人が多かったのは、意外にもゴシックロリータ系のファッショ
ン雑誌であった。訪れた人の中には、これらのファッション雑誌が展示されているのを見ると、
驚きの表情を浮かべて友達を携帯電話で呼び出すなど、熱狂的な反応を見せる人が少なくなかっ
た。これは後に分かったことであるが、ロシアでは日本のゴシックロリータ系のファッションの
人気が非常に高いにもかかわらず、情報はインターネットを介して入手するしか方法がなく、日
本のオリジナル本については、ごく一部の書店でガラスのショーケースにいれて閲覧できない状
態で販売され、かつ日本円に換算して 7,000 円近くの高額で販売されているためであった。
多くの人が訪れ、かつ来場者アンケートでも高い満足度を得られた JAPAN ブースであるが、
その理由としては他のブースが書籍の販売を主な目的としており、展示されている本を時間をか
けて閲覧することができないのに対し、JAPAN ブースでは美麗な写真集からコミックスに至る
まで全ての本を自由にゆっくりと閲覧できる点があげられるだろう。反面、展示されている本を
一切販売できないため、購入を目的にして
いる来場者から「素晴らしい本を置いてい
るのに販売しないのは理解できない」とお
叱りを受けることもしばしばであった。ロ
シア滞在中には複数の書店関係者とコンタ
クトをとり「オリジナル本を日本からロシ
アに輸出する」ための販路の開拓を図った
が、そのうちいくつか好反応を得ることが
できたので、何とか取引開始にこぎつけ、
次回のノン / フィクション・ブックフェア
に派遣される方が、オリジナル本を購入で
( 料理、折り紙、武道、マンガやアニメが大人気 )
きるモスクワの書店を案内できるようにし
ておきたい。
ロシア出版事情
ロシアで刊行された書籍のタイトル数および発行部数の累計は以下の通りとなっており、5 年
前と比較するとタイトル数は増加しているものの発行部数は若干減少している。〈データ出典 :
「Knizhnoe obozrenie Pro」誌 (The Book review professional issue / 週刊の書評誌のプロフェッ
ショナル版 )2008 年第 10 号。資料はナウカ・ジャパン提供〉
年
タイトル数
発行部数
2004 年
89,066 点
685,881,300 部
2005 年
95,498 点
669,401,800 部
2006 年
102,268 点
633,524,100 部
2007 年
108,791 点
665,682,700 部
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ロシアの出版業界の中心は首都モスクワで、全体の 80%がモスクワで出版され、残りの大半
がサンクトペテルブルクで出版されるとのこと。(また英語で刊行される書籍も 8,000 点程度あ
る。
)なお書店の数は約 3,000 店で、そのうち 40%~ 50%は大きな書店チェーンに属している
とのこと。なおコミックス(マンガ含む)に特化したコミックショップはロシア全体でも 20 店
強のみで、それらの大多数はモスクワ、サンクトペテルブルク、エカテリンブルク、ノヴォシビ
ルスクなどの大都市に存在している。
出版タイトル数に基づいた出版社のランキングトップ 10 は以下の通りである。AST、EKSMO
社が 2 大出版社であり、2 社のランキングの位置は度々入れ替わるとのこと。以下 10 社のうち
ブックフェアに出展していたのは EKSMO 社と AZBUKA 社のみである。〈データ出典 : 同上〉
英文社名 ( 出版分野 )
タイトル数
発行部数
AST( 総合 )
7,681 点
55,125,100 部
EKSMO( 総合 )
6,553 点
70,712,800 部
Drofa( 教科書・総合 )
1,414 点
27,157,400 部
Egmond Rossiia Ltd.( 児童書 )
1,084 点
17,421,300 部
Prosveshenie( 教科書専門 )
1,068 点
45,136,600 部
Feniks( 教科書・総合 )
932 点
4,071,300 部
OLMA Media Grupp( 総合 )
922 点
9,451,700 部
Its Akademiia( 教科書 )
906 点
2,492,600 部
Ripol klassika( 総合 )
766 点
8,646,900 部
Azbuka klassika( 総合 )
646 点
5,248,000 部
ロシア語版マンガを刊行する出版社
1998 年に『羊をめぐる冒険』のロシア語版が刊行されてから、村上春樹はロシアで最も成功
した日本の作家となり、現在ではロシアのどの書店に行っても村上春樹の作品を購入することが
できる。吉本ばななや村上龍などの作家も人気があり、村上龍作品についてはいわゆる「ビジュ
アル系」のコスプレをした人物の写真をカバーに使用するなど、若い世代にもアピールしようと
する工夫が見られる。
1990 年代後半からはマンガに先行してアニメの人気がヨーロッパからの影響をうける形で
徐々に高まりをみせ、
(正規にライセンスされた)マンガの翻訳版に関しては、Sakura Press 社
が 2005 年に『らんま 1/2』を初のロシア語版マンガとして刊行開始し、2006 年には Comics
Factory 社が
『ペットショップオブホラーズ』
を、
そして 2008 年 10 月には EKSMO 社が『デスノー
ト』の刊行を開始している。コミックスを刊行する出版社は上記 3 社以外にも 2 社あるが、現
時点では 2 社とも韓国、台湾の作家によるマンガ作品の翻訳版のみ刊行している。
出版業界トップである EKSMO 社の参入により、マンガ市場はまさに拡大していく兆しを見せ
ており、まさに夜明け前といえる。ブックフェア期間中には Sakura Press 社、Comics Factory 社、
EKSMO 社とコンタクトをとり、現状についてヒアリングを行った。
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Sakura Press Publishing, Ltd.( モスクワ )
2002 年に会社を設立後、3 年がかりで『らんま 1/2』のロシア語版権を獲得し 2005 年より
刊行を開始している。現在『らんま 1/2』
『ふしぎ遊戯』(小学館)、
『ガンスリンガーガール』(ア
スキーメディアワークス)
、
『藍より青し』
(白泉社)の 4 シリーズを刊行しており、『バトル・
ロワイアル』
(秋田書店)
、
『クロノクルセイド』(角川書店)の 2 シリーズについても近く刊行
開始予定である。2009 年には年間 20 点程度を刊行予定とのことで、現在の平均売上部数は 7,000
部~ 10,000 部とのこと。
フルタイムの社員は 6 人で、翻訳は全てフリーランスの翻訳者に任せている。翻訳のクオリ
ティを保つため、同じシリーズには同じ翻訳者に翻訳させるとのこと。同社が刊行するマンガで
はオノマトペ(擬声語)をロシア語版に翻訳しなおしている。他国の翻訳版のマンガでは擬声語
を日本語のオリジナルそのままにし、欄外に現地語での解説をつける例もあるが、「読者にとっ
ては欄外の解説を見るだけでも負担になってしまうため、すべてのオノマトペをロシア語に翻訳
しなおしているのがこだわり」とのこと。またカバーには作品ごとに「+14」「+16」「+18」等
の推奨年齢表記が見られるが、読者の年齢を制限するという目的だけでなく、「マンガ=小さい
子供が読むもの」というロシア人の認識を変える目的もある、とのこと。 同社は出版業界大手
の AST グループと印刷および流通に関して提携を結んでいる。
Comics Factory( エカテリンブルク )
モスクワから南東に 1,600km 離れたエカテリンブルクにある出版社で、Urals University
Press(ウラル大学出版局)を母体としている。2006 年に設立され、同年『ペットショップオ
ブホラーズ』
(宙出版)の刊行を開始した。2008 年の刊行点数は 40 点あまりで、そのうち日本
のマンガは 13 点で、それ以外は韓国、台湾、アメリカ、ドイツの作家が描くマンガ作品の翻訳
版である。日本のマンガのラインナップは
『ペットショップオブホラーズ』
(宙出版)、
『プラスチッ
クリトル』
(学研)
、
『少女椿』
(青林堂)などで、競合他社とは異なるコアな読者をターゲットと
したマンガを選択している。ベストセラー作品は韓国人作家による作品で、日本のマンガの中で
のベストセラーは『ペットショップオブホラーズ』で、平均販売部数は 20,000 部ほどであると
のこと。2009 年には年間 60 点程度を刊行予定である。同社も出版業界大手の AST グループと
流通に関して提携を結んでいる。
EKSMO Publishing( モスクワ )
1991 年に会社設立後、AST グループと常にトップ争いをくりひろげている総合出版社。同社
提供の資料によれば 2007 年の刊行点数は約 12,000 点で、合計印刷部数は 9,300 万部近くにの
ぼり、ロシアの出版市場の 15%近くを占めているそう。なお村上春樹作品を全点刊行している
出版社でもある。
同社は 2007 年にまずアメリカ人作家によるマンガ作品 ( ロシアでの通称「アメリマンガ
=AMERIMANGA」) の翻訳版を 6 シリーズ刊行して編集経験をつみ、2008 年後半よりロシア語
版『デスノート』
『NARUTO』
『BLEACH』
(集英社)の刊行を開始した。2009 年は本格的にマン
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ガ出版に乗り出し、年間 100 点以上を刊行予定とのこと。なおマンガの編集作業等はモスクワ
ではなくサンクトペテルブルクにある関連会社が全て行っている。AST グループ同様、傘下に書
店チェーンを所有しているため、自社書店においては効果的に販促をかけていきたいとのこと。
ロシア語版マンガの販売状況
モスクワおよびサンクトペテルブルク滞
在中、いくつかの書店を訪れて翻訳版マン
ガの販売 / 流通状況を調査した。事前に現
地出版社より、
「ロシアでは再販制度がなく
書店の力が強いため、出版社が小売価格を
決定することができず、同じ本であっても
書店によって価格が異なる」と聞いていた
が、その事実を確かめることが主な目的で
ある。後述の通り、結果的には書店により
かなり価格にばらつきがあり、さらに同じ
シリーズであっても巻によっても異なるこ
(M. C. Entertainment が運営するアニメショップ )
とが多いことも分かった。なお「輸送コストの上乗せ分により、首都モスクワよりもサンクトペ
テルブルクの方が小売価格は高いのではないか」という事前の予想も外れてしまった。(なお一
般的に小売価格は卸売り価格の 2 ~ 3 倍程度であるとのこと。)
※以下 : ルーブルの参考レート / 1 ルーブル≒ 4 円
ドム・クニーギ ( 一般書店 / モスクワ : ノヴィ・アルバート通り )
モスクワ最大の書店ということで期待していたが、1 階の児童書コーナーの目立たない場所に
あるコミックス棚には、
EKSMO 社のアメリマンガ
(6 シリーズ 70 冊 / 値段 139 ルーブル)とスター
ウォーズのコミックスが数冊並べて置いてあるのみで、日本のマンガの翻訳版は 1 冊もなかった。
一方で、
2 階の「世界の文学」コーナーには村上春樹作品(15 作品 120 冊 / 値段『海辺のカフカ』
328 ルーブル)
、
村上龍作品(3 作品 40 冊)
、
よしもとばなな作品(2 作品 /10 冊 / 値段『みずうみ』
231 ルーブル)等が、もっとも大きな通路に面する目立つ棚に面陳されていた。
ビブリオ・グローブス ( 一般書店 / モスクワ : ミャスニーツカヤ通り )
こちらもドム・クニーギと並ぶモスクワでも最大級の書店であるが、現地出版社より「モスク
ワで最初にマンガ専門の棚をつくった書店」と聞いていた通り、日本のマンガやアメリマンガ、
韓国人作家のマンガ等を合わせる 400 冊以上が専用の棚にて販売されていた。またドム・クニー
ギと異なり、児童書コーナーではなくティーン向けノベルのコーナーの近くに棚が設置されてい
る。
(値段『藍より青し』144 ルーブル、
『らんま 1/2』133 ルーブル、
『デスノート』138 ルーブル、
『ペットショップオブホラーズ』163 ルーブル)
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M.C.Entertainment( アニメショップ / モスクワ )
こちらは「モスクワの秋葉原」とガイドブックに書かれることも多い「GABRSHKA(ガブルー
シカ)
」
(モスクワ市内 : 地下鉄 BAGRATIONOVSKAYA 駅下車)という大電気街の中に存在する、
アニメ DVD やグッズ、マンガを扱うお店である。現地のマンガファンの中では最も有名なお店
でロシア語版のアニメ DVD を販売する M.C.Entertainment 社がショップを運営している。10 畳
程度のお店を囲む形でショーケースが並んでおり、DVD やアニメグッズ、ごくわずかではある
が日本語のオリジナル本も置いている。
文豪カフェ ( 書店併設カフェ / モスクワ )
国際交流基金の坂上さんのご厚意により、モスクワ市内にある通称「文豪カフェ」(モスクワ
市内に 3 ~ 4 店舗あるとのこと)に連れて行っていただいた。こちらは書店が併設された地下
にあるカフェで、防空壕のような雰囲気の照明が暗い書店には、いわゆるサブカル系の本が多く
販売されている。翻訳版のマンガは Comics Factory 社のものが 2 ~ 3 点のみ販売されている。
著者がサイン会を行ったり、出版社が新刊の発表イベントに使用したりすることもあるそうで、
客層は若い女性が多かった。
(値段『ペットショップオブホラーズ』185 ルーブル)
アニメポイント ( コミックショップ / サンクトペテルブルク )
「サンクトペテルブルク最大のコミックショップ」と聞いて訪れてみたが、アングラな雰囲気
が漂う地下にある 6 畳ほどの店内には、コスプレグッズや翻訳版のマンガ、見るからに海賊版
のグッズやアニメ DVD がところ狭しと並んでいた。連れていってもらった現地出版社の担当者
に「さらに小さいコミックショップが 2 ~ 3 店舗あるが、行ってみる?」と問われたが、丁重
にお断りした。
Novi Knizny( 一般書店 / サンクトペテルブルク )
サンクトペテルブルクにある、ロシア初の 24 時間営業の一般書店。「外国文化」セクション
の村上春樹コーナーの隣にマンガ専用の棚があり、320 冊程度のコミックスがおかれているが、
その 7 割はアメリマンガや韓国、台湾の作家によるマンガの翻訳版である。なお、現地出版社
の担当者によれば、もともと「児童向け絵本コーナー」に置かれていたが、出版社の「教育」に
より徐々に現在の位置に移動したとのこと。
(値段『らんま 1/2』128 ルーブル、『デスノート』
143 ルーブル)
違法サイトの問題
正規にライセンスされたロシア語版のマンガの刊行が既に開始されている市場であるが、現地
マンガファンによって翻訳&スキャンされたものがインターネット上にあふれている。日本ブー
スに訪れたマンガのファンに最も有名な Web サイトについてヒアリングしたところ、「http://
www.animanga.ru」というサイトを教えてもらったため、ブースアテンダントに同行をお願い
ロシア 69
して会場内にあるネットカフェにて実態を調査した。
同サイトは現地の違法アップロードサイト 300 以上を集約したポータルサイトで、一日
20,000 ビュー以上に上るとのこと。リンクされている違法ファイルは数多く、ブックフェア会
場で確認した際には 2,000 シリーズ以上が当サイトから簡単にアクセスすることが可能な状況
であった。なお「製作の進行状況」のリストや人気ランキングも用意され堂々と違法行為が行わ
れている。
こうした問題に対し、現地出版社のある担当者は「ロシア語版のライセンス獲得をアナウンス
すれば、該当作品の違法アップロード活動は ” 鈍く ” なるものの、なくなることはない」と語っ
てくれた。また同時に「こうしたファン活動が現段階ではマンガ市場の裾野を広げてくれている
ことは否定できず、なかなか強い態度にはでられない」とも語っていた。なお 11 月末時点での
作品人気ランキングは以下の通り。
Rank
作品名
1
NARUTO
2
愛をうたうより俺におぼれろ
3
ヴァンパイア騎士
4
ONE PIECE
5
花ざかりの君たちへ
6
うさぎと狼の紳士協定
7
BLEACH
8
Queen’s Knight
9
ビネツショウジョ
10
桜蘭高校ホスト部
上記ランキングに少女マンガや BL 作品が多く含まれている点、および現地で得た感触をもと
に判断すると、ロシアのマンガ市場には男性読者よりも女性読者のほうが多く、またゴシック系
の作品を好む点を加えると、ドイツのマンガ市場に似通っていると強く感じた。
な お ロ シ ア で の イ ン タ ー ネ ッ ト の 利 用 状 況 は FMO ( 英 語 名 : THE PUBLIC OPINION
FOUNDATION/ 世論基金 ) という団体が定期的な調査をおこなっており、2008 年夏時点でのロ
シア全土での利用率(※)は 30%程度とのこと。ただし、モスクワのみであれば 58%、サンク
トペテルブルクが含まれる北西部は 38%と、都市部とそれ以外の地域によってかなり異なって
いる。
(※ネットを利用する場所を問わず、純粋に「利用しているか否か」についての調査結果。
「日常的に自宅でインターネット利用する」のは、利用者の 60%。自宅以外の利用場所では職場、
友人の家、学校、インターネットカフェ等が続く。)
アニメ DVD の海賊版については、前述の「GABRSHKA(ガブルーシカ)」に巨大な海賊版マー
ケットが存在している。DVD や CD を販売する小さな店が 100 店舗以上集まる建物があり、そ
の中にアニメ DVD の海賊版を専門的に販売する店が 5 ~ 6 店舗存在する。店舗に近づくと取り
扱っている DVD のカタログを見せてくれるのだが、リスト上にはアニメ DVD が 1,200 点、音
70 ロシア
楽 DVD(X Japan, ラルクアンシエル、浜崎あゆみ、YUI など ) が 30 点近く掲載されており、ど
の店舗も 200 ルーブル程度で販売していた。
なお、ブックフェア初日の記者会見において、主催者から「デジタルコンテンツ」がロシアで
も徐々に普及し始め市場も拡大しつつあるとの話もあったが、現地読者からは「確かにハード面
でいえばデジタルデバイスは普及し始めているが、インターネットを探れば違法にアップロード
されたデータがどこかに存在するため、お金を払ってまでソフトを購入する人はなかなか増えな
いのではないか」という意見も聞かれた。
マンガに関して言えば現時点ではネット上の海賊版が市場の裾野を広げる役目を果たしている
ようだが、このまま放置すれば市場の成長を阻害する要因になることは間違いないだろう。
おわりに
今回派遣の機会を頂いたブックフェアでは、ロシアのマンガ人気の高まりを肌で感じることが
でき、大変有意義なものになった。また JAPAN ブースの出展によって日本文化を PR すること
が非常に意義のあることであると強く感じた。ロシアの高等教育課程において、日本語教育を選
択できる学校が増えてきている(2007 年は 15 校→ 2008 年は約 30 校)とのことなので、マ
ンガ人気をひとつのきっかけとして、より幅広いジャンルの出版物にも興味が広がっていくこと
を期待したい。最後に現地では国際交流基金モスクワ事務所の坂上さんに大変お世話になりまし
た。この場をお借りしてお礼申し上げます。
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