ソーラーシステム・サンシャイン代金詐取事件 1995SC1:YF 作 1.争いのない事実関係 20××年9月15日,ABCシステムの技術課長後藤明氏は某新興住宅地に新築したばかりの会社員 鈴木一氏宅を訪問した.後藤氏は,応対に出た鈴木氏に対して画期的なソーラーシステムのセールスに 来たことを告げた.鈴木氏は元々新しいものが大好きなうえ,久々の休日で昼頃まで寝ていたため家族 においてきぼりにされ暇を持て余していたので,話ぐらいは聞いてみてもいいと思い後藤氏を招き入れ た.後藤氏は,パンフレットを見せて,このソーラーシステム,サンシャインは某大手電気メーカーの 関連会社で東証一部上場企業の(株)大日本電気が新たに発売したもので,ABCシステムは(株)大日本電 気の販売代理店であり,今キャンペーンでこの地域を訪問していると述べた.さらに後藤氏は,カタロ グ類を見せながら,サンシャインが他社の製品と比べていかに高性能であるかを説明し,サンシャイン を取り付けた場合,ガス料金が激減し,仮にローンを組んだ場合,その差額で毎月の支払いができると, 既に取り付けた家庭のデータを示して説明した. 鈴木氏が興味を示し,価格は幾らぐらいかたずねると,後藤氏はあらかじめ用意していた見積書を提示 して,工事費込みで110万円だがキャンペーン期間中なので10万円割り引いて100万円でよいと 述べた.鈴木氏は,話を聞くかぎり性能も良さそうなので取り付けてもよいと思ったが,価格が100 万円なので躊躇していると,後藤氏は,われわれはこの製品に絶対の自信を持っているので,2か月間 テストしてもらって気に入らなかったら無償で取り外すと述べた.鈴木氏が,その事を特約事項として 契約書に記載するならば契約してもよいと言うと,後藤氏は了承した. 支払い方法については,鈴木氏はちょうど2か月後に満期になる定期預金があったので2か月間テスト 後一括払いにしたいと述べたが,後藤氏は一括払いの場合には工事完了時に受領しなければならないき まりになっていると述べた.鈴木氏が,テスト期間中は支払わないと言うと,後藤氏はとりあえず20 ××年11月を支払い開始とする分割払いにしておいて11月に一括払いに変更する方法にしてもら えないだろうかかと述べた.鈴木氏はそれなら同じことだと思い同意した.分割回数については,後藤 氏が,もし鈴木氏の気が変わって分割払いにすることにしてもガス料金の差額で支払いができる120 回払いにしておきましょうと言ったので鈴木氏はどうせ一括払いにするのだからどうでもいいと思っ て同意した.そこで,後藤氏はすかさずZ信販のクレジット契約書を取り出して鈴木氏に署名押印して ほしいと頼んだが,鈴木氏はテスト期間中は駄目だと拒否した. 結局,当日は,契約金額100万円,支払い条件120回分割,支払い開始20××年11月,2か月 間テスト特約付の工事契約をABCシステムの書式で締結した.20××年9月22日,後藤氏は,契 約通り,サンシャインの取付工事を実施した.それから1月ぐらいが経過した.後藤氏の言うとおりサ ンシャインは高性能を発揮し鈴木氏はとても満足していた.(株)大日本電気についても,念のため調べ てみたが,なかなかの優良企業でアフターサービスのほうも心配は無さそうであった. そんなある日,後藤氏は鈴木氏宅を訪問し,会社の売上の締めに間に合わないので,なんとかクレジッ ト契約を結んでもらえないかと懇願した.後藤氏は,今なら支払い開始は12月なのでそのときまでに 一括払いしてもらえればいい,解約手数料はこちらで全部負担すると述べた.鈴木氏は,サンシャイン に満足していたこと,支払いが1月延びること,工事の仕事ぶりなどから後藤氏を信頼しはじめていた ことから,快くZ信販のクレジット契約書に署名押印した.20××年11月9日,後藤氏は,再度, 鈴木氏宅を訪問し,今クレジット契約を解約しないと余計な手数料がかかってしまうと述べ,100万 円を一括払いしてくれるよう依頼した.鈴木氏にとっては,解約手数料は後藤氏が全額負担するので関 係ないことではあったが,余計な負担を後藤氏にかけるのも気の毒だし,ちょうど定期預金も満期にな ったので支払いを了承し,翌10日,後藤氏に対し100万円を現金で支払った.後藤氏は,鈴木氏に 対しABCシステムの100万円の領収書を手渡して,Z信販のクレジット契約の解約はこちらでやっ ておくと述べたので,鈴木氏としてはこれですべて終わったと思っていた. ところが,11月の終わりごろ,鈴木氏宛にZ信販からクレジット代金支払い明細書が郵送されてきた. その内容は,契約日は20××4年10月10日,契約金額100万円,クレジット利用店Y商事とな っていた.鈴木氏は,すぐにZ信販に電話して事情を話したが,クレジット契約が解約された事実はな く,Z信販ではY商事に確認してみるが,鈴木氏のほうからも確認してほしいと言われた.鈴木氏は, Y商事という会社名は初耳だったので,とりあえずABCシステムに電話すると,女性事務員が出て後 藤氏は不在であるという.そこで,後藤氏が戻り次第鈴木氏に連絡をもらうよう伝言を頼んだが,その 日は結局後藤氏からの連絡はなかった.翌日,鈴木氏は,再度ABCシステムに電話したが,やはり後 藤氏は不在で,女性事務員の話によると毎日出社しているわけではないとのことであった.鈴木氏が緊 急の用件だというと,携帯電話の番号を教えられたので,電話してみたが何回電話してもつながらなか った.そこで鈴木氏は,ABCシステムに電話して責任者と話をしたいと言うと責任者も不在なので, 後で連絡させるとのことであった.その日の午後になって,ABCの山田五郎氏から鈴木氏に電話があ り,鈴木氏が事情を話すと,山田氏もその日Z信販から連絡を受けたと述べた.山田氏は,鈴木氏に対 し大変迷惑を掛けたことを謝罪し,一度会って話をしたいと述べた.場所は,鈴木氏の指定するところ でよいと山田氏が言ったので,鈴木氏は後藤氏の名刺に記載されている本社が本当に実在するのか確認 したかったので,ABCシステムの本社に出向くことにした.翌日,鈴木氏はABCシステムの本社を 訪問し,山田氏と会った.山田氏の名刺によると山田氏の肩書は,Y商事,ABCの代表取締役であっ た.山田氏によると,山田氏の事業の中心はY商事で,学習塾の経営と教材販売をしており,Z信販と は以前から取引があること,ソーラーシステムの方は経営の多角化にともなう新規事業でありABCと いう別会社でやっているとのことであった.また,ABCは大日本電気の特約店で,ABCシステムは ABCの販売代理店で後藤氏の個人事業であり,ABCでは電話と場所を提供し,Z信販のクレジット 契約書についてはY商事名義のものを使わせていたと述べた.さらに山田氏は,後藤氏はセールスや工 事で10日間ぐらいは顔を見せないこともあるので,まず山田氏が後藤氏に連絡を取って事実関係を確 かめたいので少し待ってほしいと述べた.そして,自分は永い間学習塾の経営をしてきた人間だから信 用してほしいと鈴木氏に頼み,とりあえず12月分のクレジット代金はABCで払うと述べた.鈴木氏 は,今日のところはこれでしょうがないと思い引き揚げてきたが,山田氏の発言の中で,ABCとAB Cシステムは無関係であることを強調するニュアンスが気になっていた. 数日後,山田氏から鈴木氏に電話があり,後藤氏とはまだ連絡がつかないが,あまりお待たせするわけ にもいかないので今後のことについて話をしたいと申し入れがあった. 2.交渉の経緯 山田氏は,鈴木氏に対して今回の一件で大変迷惑をかけたことを詫びた.そして,後藤氏とはまだ連絡 がとれないが心当たりのところがあるので連絡をとってみると述べた.その上で,もし後藤氏が逃げた のなら自分も被害者なので,弁護士と相談して一緒に告訴しようと述べた.ただ,他に被害を受けた人 がいないかどうか確認したいのでもう少し時間が欲しいと頼んだ.鈴木氏が,余り長引かせたくないと いうと,山田氏は,前にも言ったように自分を信用してほしいといった.鈴木氏は,山田氏のことを信 用していないわけではないと述べて,弁護士から言われたとおり山田氏に対して要望した.山田氏は, この一件が解決するまでは,ABCが鈴木氏に代わって毎月のクレジット代金を払うのでもう少し待っ てほしいと述べた.鈴木氏は,ABCとABCシステムを切り離して考えようとする山田氏の意図を感 じたので,ABCの責任は免れえないのではないかという見解を述べて,弁護士に相談してみようかと 思っていると言った.そうすると,山田氏は弁護士に相談すると余計な負担を鈴木氏にかけるし,そん なに大袈裟にしなくても大丈夫だといった.そして,ABCは責任逃れをしようなどとは思っていなく, クレジット代金はずっと払いつづけるつもりなので安心してほしいと述べた.鈴木氏は,再度,ABC の責任でZ信販のクレジット契約を解約するよう申し入れたが,山田氏はもう少し待ってほしいと頼ん だのでいつまで待てばよいのか尋ねた.山田氏は1月ぐらいと答えた.鈴木氏はこれ以上交渉してもし ょうがないと思ったので,その日はきりあげた.そして,会社の顧問弁護士にその日の交渉の経過を話 した.そうすると,弁護士は,山田氏がそこまで言うのなら1月待ってみてはどうかと言った.そこで, 鈴木氏はしばらく様子を見ることにした.やがて12月に入り,第1回目のクレジット代金の支払日が きた.支払日の前日,山田氏の約束どおり,鈴木氏の銀行口座にはABCからクレジット代金と同一の 金額が振り込まれた. 前回,鈴木氏が山田氏に会ってから1月が経過したので,山田氏に電話すると,もう少しで後藤氏の行 方をつかめそうだと言った.後藤氏を捕まえたら,まず2人で責任を追及しようというような話を山田 氏が一方的にしてその日の電話は終わってしまった.そうこうしているうちに,鈴木氏も公私共に多忙 で数カ月が経過してしまった. 鈴木氏の銀行口座にはABCから毎月クレジット代金と同一の金額がきちんと振り込まれている. 3.山田氏の秘密の事実関係 山田氏がサンシャインの販売について,ABCで後藤氏を雇用する直営方式によらなかったのは,後 藤氏には,過去に同じ様な犯罪歴があったことを知っていたからである.さらに,山田氏は,後藤明と いうのは実は偽名で本名は高橋次男であるということも薄々知っていた.そのため,代理店方式による ことにし,後藤氏から契約書が上がってきた時点で,後藤氏には内緒で,契約者に対し,支払いは全て ABCの銀行口座に振り込むこととし,けっして現金で支払わないように連絡していた.しかし,鈴木 氏に対しては,たまたま事務員のミスにより連絡がされなかったため今回の事件が起こってしまったわ けである. 鈴木氏にはじめて電話した日の夜,山田氏は後藤氏の住むアパートを訪問したが既にもぬけの殻だった. ABCも後藤氏に対して幾分かの債権を有しており,山田氏自身もやられたと思っている.ABCとA BCシステムは無関係ということで逃げられないこともないような気もするが,事態が拡大して後藤氏 の素性を知っていたことが発覚でもしたら,本業のほうの信用にも傷がつくので,今回の100万円は ABCで負担せざるをえないと覚悟している.しかし,ABCも被害を受けているので100万円を一 度に払うのは資金繰り上厳しい. 4.鈴木氏の秘密の事実関係 山田氏からはじめて電話が来た日,鈴木氏は勤務する会社の顧問弁護士に相談に行っている.顧問弁護 士によると,鈴木氏の不注意はやむをえないものであり,関係者が多くてややこしいが,二重払いにな っていることは明らかなので,山田氏に対して,鈴木氏にとってはY商事もABCもABCシステムも 同じだというスタンスで話をして,山田氏の方でZ信販のクレジット契約を解約するようまずは申し入 れて,山田氏の反応を見てはと言うことであった. 鈴木氏の今後の方針 ABCから毎月クレジット代金が鈴木氏の銀行口座に振り込まれているとはいえ,いったん送金が途絶 えれば鈴木氏がクレジット代金を払わなければならない状況に変わりはない.支払い回数があと100 回以上あっては安心できない.そこで,鈴木氏は山田氏に対して,ABCが鈴木氏に代わってクレジッ ト契約の債務者になってくれるように要求するつもりである.その交換条件として,ABCに対しサン シャインのユニット増設工事(約15万円)を発注してもよいと思っている.鈴木氏の家族は4人家族 なので今の容量では少し足りないのである.山田氏が,もし要求に応じない場合には,ABCの責任を 追及するつもりである.後藤氏は,実質的にはABCの雇用者であり,ABCには使用者責任があると いう法律構成である.
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