レジュメ(PDF)

東京法曹会
平成20年度
第3回実務研究会
第1部
貸金業法等の改正
第2部
過払金返還請求訴訟に関する判例の整理
第3部
消費者金融会社が破綻した場合の過払金の処遇
第1部
貸金業法等の改正
Ⅰ
貸金業法等改正の経緯
1
「ヤミ金融対策法」の附則
平成16年1月に施行された「貸金業の規制等に関する法律及び出資の受入れ、預り
金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律」(いわゆる「ヤミ金融対策
法」)の附則において、貸金業制度のあり方や出資法の上限金利について、この法律の
施行後3年を目途として、新貸金業規制法の施行状況、貸金業者の実態等を勘案して検
討を加え、必要な見直しを行う旨が規定されている。
2
消費者金融マーケットの拡大
多くの消費者向け貸金業者が加入する信用情報機関である全国信用情報センター連合
会(全情連)のデータによると、貸金業者による無担保・無保証の消費者向け貸付の貸
付残高は、約14.2兆円、利用者数は、約1400万人1にのぼる。
これによると、少なくとも国民の8.5人に1人は消費者金融の利用者である計算に
なる。
3
多重債務者問題の深刻化
(1) 多重債務者数の増加
借入が5件以上ある債務者は、約230万人1あり、これらの者の平均借入総額は約2
30万円となっている。
(2) 自己破産者数の増加
平成7年・・・・・約4万3000人
↓
平成17年・・・・約18万4000人
(3) 経済生活問題による自殺者数の増加
平成7年・・・・・約2800人
↓
平成17年・・・・約7800人
1
この数値には、調査時点において、リボルビング契約の契約者で残高のない者、既に自己破産して残高のない
者を含む。
1 この数値には、調査時点において、リボルビング契約の契約者で残高のない者、既に自己破産して残高のない
者を含む。
1
4
貸金業者の違法行為と行政処分の急増
平成17年10月の金融庁発表によると、全国の貸金業者に対する平成16年度の行
政処分は、1612件で過去最多となった。「業務停止」が前年度の10倍で、より悪
質な場合に適用される「登録取消」も2.7倍に増えた。
5
過払金返還請求訴訟の影響
昭和58年5月13日に制定された貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制
法」といいます。)43条において、いわゆる17条書面と18条書面の交付の要件を
満たしている場合において、任意に利息を支払った場合、利息制限法を超えていても、
有効な利息の支払いと認める旨規定された(いわゆるみなし弁済規定)。
しかし、近時の最高裁判決において、みなし弁済を定める貸金業規制法43条1項の
適用要件については、「これを厳格に解釈すべき」との判決が相次いで出された。
特に、平成18年1月13日の最高裁判決によれば、期限の利益喪失約款付の契約に
ついて、事実上みなし弁済が有効と認められる事例はほとんどないものと思われる。
6
改正のポイント
上記の事情等から、多重債務者問題の抜本的解決を図るため、平成18年12月、貸
金業法等の改正が行われた。これら改正法のポイントとして、以下の2点があげられる。
(1) 過剰貸付の抑制(総量規制)
(2) 金利体系の適正化(上限金利の引き下げ)
2
Ⅱ
1
施行スケジュールと見直し規定
第1次施行(平成19年1月20日施行)
第1次施行として、公布日から1か月を経過した日、すなわち、平成19年1月20
日には、改正法第1条、第6条関係が施行されている。
改正法第1条、第6条では、ヤミ金融関係対策に関する刑事罰の重罰化が規定されて
いる。
2
第2次施行(平成19年12月19日施行)
第2次施行として、公布日から1年以内とされていた本体部分が、平成19年12月
19日に施行された。本体施行といわれる。
3
①
法律の題名・目的の改正
②
業者の登録要件の強化
③
業者の行為規制の強化
④
行政による監督の強化
第3次施行
第3次施行として、本体施行(第2次施行(平成19年12月19日施行))後、1
年半以内に、次の内容等が施行される。
4
①
業者の財産的基礎要件の引き上げ(2000万円)
②
貸金業務取扱主任者資格試験制度の創設
③
指定信用情報機関制度の創設
第4次施行
第4次施行として、本体施行(第2次施行(平成19年12月19日施行))後、2
年半以内に、次の内容等が施行される。
①
業者の財産的基礎要件のさらなる引き上げ(5000万円)
②
貸金業務取扱主任者の必置化
③
行為規制の強化
④
過剰貸付に係る規制の強化(総量規制)
⑤
みなし弁済制度の廃止
⑥
利息制限法の改正
⑦
出資法の改正(上限金利の引き下げ)
3
5
見直し規定
第4次施行と同時期に、すなわち、本体施行(第2次施行(平成19年12月19日
施行))後、2年半以内に、貸金業制度のあり方、金利規制のあり方について見直しを
行うとの規定が設けられている(附則67条)。
以上
【参考文献】
「貸金業法等改正の概要」金融庁HPより
「貸金業法等改正に係る政府令の概要について」金融庁HPより
「貸金業法等の改正について」金融庁HPより
『実務のための新貸金業法 第2版』
『Q&A新貸金業法の解説』
日本司法書士会連合会
大森泰人
編
4
編
(民事法研究会)
(金融財政事情研究会)
Ⅱ
1
過剰貸付の抑制
指定信用機関制度の創設
*第3次施行
(1)総論
信用情報の適切な管理や全件登録などの条件を満たす信用情報機関を指定する制度を導入し、
貸金業者が借り手の総借入れ残高を把握できる仕組みを整備する。
(2)現行の制度
一部の貸金業者は任意に信用情報機関に加盟し、借り手の返済能力を把握している。
全国信用情報センター連合会2、CIC3、CBC4など。
しかし、加盟は任意であるため、未加盟の業者が多かった。また、信用情報機関同士の情報
交流についても、一部の信用情報機関同士では任意的になされていたが、全ての信用情報機
関が情報交流をしていたわけではなく、借り手の返済能力の把握が不十分であった。
(3)平成18年改正法
○信用情報機関のうち、個人の信用情報を適切に管理しており、借り手毎の信用情報の名
寄せを行い、加入貸金業者からの信用情報の提供が速やかに行われるなどの体制が整備
されている機関を指定信用情報機関に指定する(法第 41 条の 13)。
○貸金業者による情報提供、信用情報の照会及び指定信用情報機関間の情報交流を義務付
ける(法第 41 条の 35)
(法第 41 条の 24)
。
→貸金業者が借り手の返済能力を十分に把握できるようになる。
(4)新制度に向けた対応
全国信用情報センター連合会、CIC、CBCでは、指定を受けるために準備中。
全国銀行協会では、指定の予定なし。
2
総量規制の導入
(1)返済能力の調査
*第4次施行
*ご参考資料2
○貸金業者に借り手の返済能力の調査を義務付ける(個人が借り手の場合には、指定信用
情報機関の信用情報の使用を義務付ける)
(法第 13 条第1項、第2項5)
2
4
多くの消費者金融業者が加盟
多くのクレジット・信販系の貸金業者が加盟
業種横断的に加盟
5
【H18改正】貸金業法
3
第 13 条第1項、第3項
貸金業者は、貸付けの契約を締結しようとする場合には、顧客等の収入又は収益その他の資力、信用、借入れ
の状況、返済計画その他の返済能力に関する事項を調査しなければならない。
5
①自社からの借入れ残高が 50 万円超となる貸付、又は
②総借入れ残高が 100 万円超となる貸付
の場合には、年収等の資料(源泉徴収票など)の取得を義務付ける(法第 13 条第 3 項)
。
○住宅ローン等を除き、調査の結果、総借入れ残高が年収の3分の1を超える貸付など返
済能力を超えた貸付を禁止する(法第 13 条の2)
。
但し、顧客の利益の保護に支障を生ずることがない貸付けである場合には、年収の3分
の1を超える貸付を行うことも可能である。
(2)違反の効果
○法第 13 条第2項違反 1年以下の懲役若しくは 300 万円以下の罰金又は併科(法第 48
条第1項第1号の4)
○法第 13 条第3項違反
100 万円以下の罰金
○行政処分
2
略
3
貸金業者は、前項の場合において、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、第一項の規定によ
る調査を行うに際し、資金需要者である個人の顧客(以下この節において「個人顧客」という。)から源泉徴収
票(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二百二十六条第一項に規定する源泉徴収票をいう。以下この項及
び第十三条の三第三項において同じ。)その他の当該個人顧客の収入又は収益その他の資力を明らかにする事項
を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録として内閣府令で定めるものの提出又は提供を受けなければならな
い。ただし、貸金業者が既に当該個人顧客の源泉徴収票その他の当該個人顧客の収入又は収益その他の資力を明
らかにする事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録として内閣府令で定めるものの提出又は提供を受け
ている場合は、この限りでない。
一
次に掲げる金額を合算した額(次号イにおいて「当該貸金業者合算額」という。)が五十万円を超える場合
イ
当該貸付けの契約(貸付けに係る契約に限る。ロにおいて同じ。)に係る貸付けの金額(極度方式基本契約
にあつては、極度額(当該貸金業者が当該個人顧客に対し当該極度方式基本契約に基づく極度方式貸付けの元本
の残高の上限として極度額を下回る額を提示する場合にあつては、当該下回る額))
ロ
当該個人顧客と当該貸付けの契約以外の貸付けに係る契約を締結しているときは、その貸付けの残高(極度
方式基本契約にあつては、極度額(当該貸金業者が当該個人顧客に対し当該極度方式基本契約に基づく極度方式
貸付けの元本の残高の上限として極度額を下回る額を提示している場合にあつては、当該下回る額))の合計額
二
次に掲げる金額を合算した額(次条第二項において「個人顧客合算額」という。)が百万円を超える場合(前
号に掲げる場合を除く。)
イ
当該貸金業者合算額
ロ
指定信用情報機関から提供を受けた信用情報により判明した当該個人顧客に対する当該貸金業者以外の貸
金業者の貸付けの残高の合計額
6
Ⅳ
金利体系の適正
1
上限金利の引き下げ
*第4次施行
(1)これまでの金利体系
①昭和 58 年
②平成 11 年
年 109.5%→年 40.004%に段階的引き下げ
出資法改正
刑事罰の下限
貸金業法制定
みなし弁済制度の導入
出資法改正
刑事罰の下限年 29.2%に
この間、利息制限法の上限金利は
年 15・18・20%
→
グレーゾーン金利の存在
③みなし弁済の要件を厳格に解釈する最高裁判例の流れ6
とくに、最高裁平成 18 年1月 13 日7により、貸金業者が、制限超過の約定利息の不払い
による期限利益喪失条項付きの契約において、制限超過利息を収受することは困難に。
(2)平成 18 年改正法
*ご参考資料1
◇刑事罰の下限(出資法第5条2項)を利息制限法の上限金利まで引き下げ
29.2%→20%
◇みなし弁済(貸金業法第 43 条)の廃止→制限超過部分は、例外なく無効
グレーゾーン金利の廃止
○出資法の上限金利内だが利息制限法上無効とされる部分の金利を設定した業者に対して
は、行政処分の対象(貸金業法第 12 条の8、第 24 条の6の4第1項2号)
。
○改正法施行日前の契約については、改正法施行後もみなし弁済制度の適用あり8。
○改正法施行後の契約…過払金が発生するケースの減少。
クレサラの処理としては、破産・民事再生が主なものに。
(3)賠償額の予定
営業的金銭消費貸借についての特例(利息制限法第7条)
賠償額の予定は、年 20%を超えた部分は無効
2
金利の概念
(1)現行法
【利息制限法上の金利概念
第3条】
【出資法上の金利概念
○契約締結費用・債務弁済費用→金利×
○契約締結費用・債務弁済費用→金利○
○ATM費用→不明確
○ATM費用→金利○
○保証料→金利×
○保証料→金利×
利息制限法と出資法の規制にズレ
(2)平成18年改正
6
7
8
第4条2項】
*ご参考資料2
最高裁平成 16 年2月 20 日(民集 58 巻2号 475 頁・判タ 1147 号 101 頁)など
最高裁平成 18 年1月 13 日(民集 60 巻1号1頁・判タ 1205 号 99 頁)
改正附則第 25 条
7
利息制限法(営業的金銭消費貸借のみ)と出資法の規制を一本化
○利息制限法の一般原則(第3条)…営業的金銭消費貸借についての特則(第6条)
○出資法の一般原則(第4条3項)…第5条の4第4項を新設し、くわしく規定
【原則】
金銭消費貸借において、債権者がその貸付けに関して受け取る金銭(元本以外)は、礼
金、手数料、調査料その他のいかなる名義をもってするかを問わず、利息とみなす
(利息制限法第3条本文/出資法第5条の4第4項本文)
【例外】
①債務者の要請により債権者が行う事務の費用として政令で定めるもの9
ⅰ金銭の貸付け及び弁済に用いるために債務者に交付されたカードの再発行の手数料
ⅱ金銭の貸付け又は弁済に関して、借主に交付された書面の再発行の手数料
ⅲ電磁的方法により提供された事項の再提供にかかる費用
ⅳ借主が弁済期に弁済できなかった場合に行う再度の口座振替手続きに要する費用
②契約締結及び債務弁済費用うち、以下のもの10
ⅰ公租公課の支払に充てられるべきもの
例:契約書に貼る印紙代
ⅱ公の機関が行う手続きに関して、その機関に対して支払うべきもの
例:強制執行の費用、担保権の実行としての競売の手続きの費用
ⅲATM手数料(政令で定める額の範囲内)
1万円以下の額:105 円/1万円を超える額:210 円
*契約締結費用及び債務弁済費用に含まれない例*
債務名義取得のための費用、担保物件の調査費用
など
(3)契約締結費用・債務弁済に該当するか否かが争われた場合のポイント(判例11)
○債権者は実際に契約締結費用・債務弁済費用として支出した費用に限られる
上記費用名目で受けた金銭であっても、費用として支出されなければ利息とみなされる
○現実に上記費用として支出したことの主張立証責任は、債権者の側が負う
(4)保証料についての規制
業者による貸付利息と借主が保証業者に支払う保証料12を合算
↓
○利息制限法上の上限金利を超える部分13
…
無効(第8条1項)
9利息制限法第6条1項/出資法第5条の4第4項2号
10利息制限法第6条2項/出資法第5条の4第4項1号
11
最判昭和 46 年6月 10 日最判集民事 103 号 111 頁。
公正証書作成費用・電話質権設定費用が、契約締結費用にあたるか否かが争われた例。
12 保証料の概念は、利息の概念と同様の規定になっている。原則、いかなる名義でも保証料とみなし、契約締結
費用等の例外がある。
(利息制限法第8条7項/出資法第5条の4第五項)
8
○年 20%を超えるとき
…
保証業者は5年以下の懲役もしくは 1000 万円以下の罰金。
併科あり。
(第5条の2第1項)
(4)営業的金銭消費貸借以外の金利
利息制限法第3条の一般原則の修正なし。
利息制限法上の金利概念については、現行制度が維持される(2(1)参照)
。
3
日賦貸金業者及び電話担保金融の特例の廃止
(4) 日賦貸金業者の特例(出資法改正法附則8項~11 項)
日賦貸金業者:取立てを実際の集金によって行う等の要件を満たす貸金業者14
これまで出資法において、年 54.75%の金利が特例として認められていた。
廃止
*施行予定
第4次施行15
(2)電話担保金融の特例(出資法改正法附則 14 項~16 項)
電話担保金融:電話加入権を担保に融資する業者
これまで出資法において、年 54.75%の金利が特例として認められていた。
廃止
*施行予定
第4次施行16
以上
【参考文献】
「貸金業法等改正の概要」金融庁HPより
「貸金業法等改正に係る政府令の概要について」金融庁HPより
「貸金業法等の改正について」金融庁HPより
『Q&A改正貸金業法・出資法・利息制限法 解説』
日本弁護士連合会 上限金利引き下げ実現本部 編 (三省堂)
『Q&A新貸金業法の解説』 大森泰人
編 (金融財政事情研究会)
13
保証料と利息の計算においては、第5条の元本額の特則が適用される。
これは、業者がより高利率の金利を適用するために、意図的に契約を複数に分割して締結しようとする脱法行
為を防ぐため。
14 日賦貸金業者の要件
① 貸付の相手方…主として物品販売業、物品製造業、サービス業を営む者で、常時使用する従業員が5名以下
② 返済期間…100日以上であるもの
③ 取立て方法…返済期間の半分以上を集金により取り立てるもの
15
改正法附則1条4項
16 改正法附則1条4項
9
Ⅴ
貸金業者の業務の適正化
1
貸金業への参入条件の厳格化
(1)純資産額規制
○現行の制度は、純資産額が法人は 500 万円、個人は 300 万円。
→今後は、原則として純資産額が 5000 万円以上(施行後 1 年半以内に 2000 万円、完
全施行時に 5000 万円の順に引上げ予定)であることを求める(貸金業法6条1項
14 号)
。
(2)貸金業務取扱主任者についての資格要件
○法令遵守のための助言・指導を行う貸金業務取扱主任者について、資格試験を導入し、
合格者を営業所ごとに一定数(従業者 50 人に対して 1 人以上)を配置することを求め
る(法 12 条の3第1項)
。
2
貸金業協会の自主規制機能強化
(1)貸金業協会の認可法人化と権限強化
○貸金業協会を、認可を受けて設立する法人とし、都道府県ごとの支部設置を義務づけ
る(法 26 条2項、34 条)
。
○貸金業者の加入を促す仕組みを導入するとともに、一定割合以上(本体施行時 15%以
上、
完全施行時 50%以上)の貸金業者を協会員とすることを義務づける
(法 37 条2項)。
○貸金業協会の各加入業者に対する制裁力を強化する(法 38 条。調査・監督権限を持た
せ、自主規制に服さない業者に対して過怠金の徴収等を認める)
。
(2)貸金業協会の自主規制ルールの充実
○テレビCM等の広告の内容・頻度や過剰貸付防止等について、貸金業協会に自主規制
ルールを具体的に制定させ、当局が認可する枠組みを導入する(法 32 条3項)
。
3
貸金業者の行為規制の強化
(1)書面交付等
○貸付にあたり、トータルの元利負担額等を説明した書面の事前交付を義務づける(法
16 条の2)
。
○契約締結時には、契約の内容を明らかにするため、所定の事項を記載した書面の交付を義
。
務づける(法 17 条1項)
○リボ契約(基本契約・個別貸付)の交付書面に関する規定を導入する(法 17 条)
。
10
○マンスリーステートメント方式
17
や電子化による書面交付制度を導入する(法 17 条
6項、7項、18 条3項、4項)
。
(2)取立行為の規制
○夜間に加えて日中の執拗な取立行為など、取立規制を強化する(法 21 条)
。
(3)生命保険金による支払いの禁止
○貸金業者が、借り手等の自殺により保険金が支払われる保険契約を締結することを原
則として禁止する(法 12 条の7)
。
(4)特定公正証書に係る制限
○公正証書作成にかかる委任状の取得を禁止する。利息制限法の上限金利を超える貸付
の契約について公正証書の作成を公証人に嘱託することを禁止する(法 20 条)
。
(5)連帯保証人の保護
○連帯保証人の保護を徹底するため、連帯保証人に対して、催告・検索の抗弁権がない
ことの説明を義務づけ、事前書面・契約書面の記載事項に追加する(法 16 条の2第1
項)
。
4
行政の貸金業者に対する監督強化
(1)業務改善命令の導入
○規制違反に対して機動的に対処するため、これまでの登録取消や業務停止に加え、業
務改善命令を導入する(法 24 条の6の3)
。
(2)行政処分の対象を拡大
○貸金業の業務に関し、法令又は法令に基づく行政処分に違反した場合には、登録取消
等の対象にする(法 24 条の6の6、24 条の6の7)
。
(3)立入検査の対象を拡大
○貸金業者の貸付け債務を保証している保証業者、及び貸金業者の業務の外部委託先に
ついて、それぞれ報告徴収命令・立入検査の対象に追加する(法 24 条の6の 10 第4
項)
。
(4)事業報告書提出義務の対象範囲の拡大
○改正前は、500 億円超の貸付残高がある貸金業者に限定して事業報告書の提出を求め
17「マンスリーステートメント方式」=個々の貸付け・弁済時には簡素な交付書面とし、定期的に貸付け・弁済に
関する情報をまとめて記載した書面を交付する方式。
11
てきた。
→貸付や資金調達の状況など、貸金業者の実態把握をより精緻に行うため、全ての貸金
業者から事業報告書の提出を求める(法 24 条の6の9)
。
(5)休眠業者の排除
○正当な理由がなく登録を受けた日から 6 カ月以内に貸金業を開始しない場合、
或いは 6
カ月以上休止した場合には、登録取消の対象にする(法 24 条の6の6第1項2号)
。
5
ヤミ金融に対する罰則の強化
○ 貸金業を営もうとする者が不正手段により登録した場合、無登録営業、名義貸し等に
関する罰則が引き上げられた(法 47 条、懲役5年⇒10 年、罰金 1000 万⇒3000 万)
○超高金利(109.5%超)の貸付け等に対しても同様に罰則が強化された(出資法5条3
項)
。
以上
12
資料
1
・貸金業法等改正法の施行スケジュール
おおむね3年間
公布日
平成 18 年 12 月 20 日
公布後1か月(第1次施行)
平成 19 年 1 月 20 日
改正法施行日(第2次施行)
平成 19 年 12 月 19 日
本体施行後1年半以内(第3次施行)
本体施行後2年半以内(第4次施行)
第1次施行(刑事罰の強化)
第2次施行(本体施行 ①法律の題名・目的の改正、②業者の登録要件の強化、③業者の行為規制の強化、④行政による監督の強化)
第3次施行(①業者の財産的基礎要件の引き上げ(2000万円)、②貸金業務取扱主任者資格試験制度の創設、③指定信用情報機関制度の創設)
第4次施行(①業者の財産的基礎要件のさらなる引き上げ(5000万円)、②貸金業務取扱主任者の必置化、③行為規制の強化、④過剰貸付に係る規制の強化(い
わゆる総量規制)、⑤みなし弁済制度の廃止、⑥利息制限法の改正、⑦出資法の改正(金利の引き下げ))
第2部
最新判例の整理
1
問題点の総覧
池 上
1
雅
弘
過払金の定義及び発生根拠
過払金とは,消費者金融等の貸金業者から利息制限法1条1項の規定されている利率
を超える約定利息で借入をしている場合に,返済金を利息制限法の定める法定利息に基
づいて利息及び元本へ充当した結果算出される本来支払う義務のない過剰な金額をいう。
利息制限法1条1項は,「元本10万円未満の場合は年20%,元本が10万円以上
100万円未満の場合は年18%,100万円以上の場合は年15%を上限利率とし,
この制限を超えた利息の支払は無効とする。」と規定している。利息制限法所定の利息を
超過する支払が無効であることから,超過利息は,順次元本に充当されて,残っている
元本を減らすことができる。その結果,元本が完済されて借入れがなくなった後もさら
に支払った金銭については,不当利得となり,その金銭を返還することができることと
なる(最高裁昭和44年11月25日判決,判タ242号174頁)
。
2
過払金回収の手続及びその問題点
過払金の返還を依頼された弁護士等(以下「受任弁護士等」という。)は,過払い金の
発生の有無及びその額を確定するため,貸金業者に対し,貸金業法第19条の2に基づ
き,依頼者と貸金業者との間の取引履歴の開示を要求する。受任弁護士等は,貸金業者
から取引履歴が開示されると,利息制限法所定の利息に引き直し計算(利息制限法所定
超過利息を元本に充当すること)をし,引き直し計算の結果,過払金が発生及び額が判
明すれば,貸金業者に対し,過払金の返還を求めていく。
ところで,受任弁護士等の貸金業者に対する過払金返還には以下のような問題点があ
る。そこで,以下その問題点を総覧する。
(1) 取引履歴の開示要求
平成18年改正以前の旧貸金業法には,取引履歴の開示義務を定めた明文の法規
は存在しなかった。そのため,貸金業者は取引履歴を開示する法的義務はないこと反
論し,取引履歴を開示しないあるいは部分的にしか開示しなかった。
最高裁平成17年7月19日判決(判タ1188号213頁)は,「貸金業者は,債
務者から取引履歴の開示が求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認め
られなど特段の事情がない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借の付随義務と
して,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過しているものを含む)に基
1
づいて取引履歴を開示する義務を負う」と判示した。本件最高裁判決を踏まえ,平成
18年改正後の貸金業法19条の2は,貸金業者に債務者及び債務者であった者に対
し取引履歴の開示義務があることを規定した(平成19年12月19日施行)。
(2)
みなし弁済
「みなし弁済」とは,金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,借り手が貸金業者に
対し,利息制限法所定の法定利率を超える利息を任意に支払った場合に,一定の要件
のもとでその超過部分の支払いを有効な利息の弁済とみなす制度である(貸金業法第
43条1項)
。みなし弁済の規定が適用されると,超過利息の返還を請求できないこと
になるため,その適用が問題となる。みなし弁済規定適用の要件は,①貸金業者に対
する利息または損害金の支払であること,②利息制限法1条1項に定める法定利率を
超える金銭を,利息または損害金として,任意に支払ったこと,③貸金業者から法定
の記載要件を満たした書面の交付を受けていることである。
最高裁平成16年2月20日判決(判タ1147号101頁)は,「法43条の規定
の適用要件についてはこれを厳格に解釈すべき」と判示した。同平成17年12月1
5日判決は,リボルビング返済方式の貸付けで,個別貸付け時に交付される17条書
面に返済の回数・返済期間の記載のないことを理由にみなし弁済の成立を認めなかっ
た。さらに,同平成18年1月13日判決(判タ1205号99頁)は,消費貸借契
約に期限の利益喪失特約が定められている場合,借り手は事実上の強制を受けて利息
の支払をしており,任意の支払でないことを理由にみなし弁済の主張を退けた。以上
の最高裁判決に鑑みると,最高裁は,みなし弁済規定の要件を厳格に解すべきである
と立場を取っていると解される。これらの最高裁判決を踏まえ,平成18年に成立し
た「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」は,貸金業法に規定され
ているみなし弁済規定は完全に撤廃されることになった。ただし,上記改正法の本体
施行日(平成19年12月19日)から2年半以内の政令で定める日に廃止される予
定であるから,みなし弁済規定の撤廃は,最大で平成22年9月19日までかかるこ
とになる。
(3)
悪意の受益者
これは,貸金業者が債務者または債務者であった者に返還すべき過払金に対して利息
を付すべきかの問題である。すなわち,過払金返還請求権の法的性質は,不当利得返還
請求権であるところ,民法第703条は,「法律上の原因なく他人の財産又は労務によ
って利益を受け,そのために他人に損失を及ぼした者は,その利益の存する限度におい
て,これを返還する義務を負う。」
,同704条は,「悪意の受益者は,その受けた利益
に利息を付して返還しなければならない。この場合において,なお損害があるときは,
その賠償責任を負う。」と規定する。そこで,貸金業者が債務者または債務者であった
者に返還すべき過払金に対して利息を付すべきか否かは,民法第704条の適用がある
かに関わる。
2
ところで,民法第704条の規定によると,利息を請求する側が相手側の悪意を立
証することになる。しかし,過払金の返還請求する側が,貸金業者の悪意を立証する
ことは著しく困難である。そこで,「悪意の受益者」の立証責任の所在が問題となる。
この点,最高裁平成19年7月13日判決及び同年7月17日判決(いずれも金商1
272号16頁)は,貸金業者であれば貸金業法第43条1項のみなし弁済規定の適
用がない場合,発生した過払金を不当利得として借主に返還しなければならないこと
を十分に認識していることから,貸金業者においてみなし弁済規定の「適用があると
の認識を有しており,かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得
ないといえる特段の事情」がなければ,民法第704条の悪意の受益者であることが
推定されると判示した。
(4)
適用利率
これは,悪意の貸金業者が過払金を返還する場合に,支払わなければならない利息
の利率は年何パーセントかという問題である。
この点,過払金返還請求権は,不当利得返還請求権に基づく法定債権であり,直接に
は,商行為から発生する債権でないので,民事法定利率の年5パーセント(民法第40
4条)とする見解がある。他方,過払金請求権は,商行為である金銭消費貸借契約の義
務の履行としてなされた返済金が,利息制限法所定利率を超えた結果として発生する債
権であるから、商行為たる契約関係に基づき支払った金銭の清算としての側面がある。
また,商行為によって発生した債務について年6パーセントの利息を定めた趣旨は,商
取引における投下資本の高収益性にあるとこと,貸金業者は借り手から支払を受けた過
払金を自己の営業のための資本として利用してから,年6パーセント(商法第514条)
とすべきであるとの見解もある。
この点,最高裁判所平成19年2月13日判決(判タ1236号99頁)は,「商行
為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われ
た部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合に
おいて,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年
5分と解するのが相当である。」と判示した。
(5)
一連充当計算
これは,借入金を一度完済して,期間をおいて再度借入れをした場合,完済したと
きに発生した過払金は次の借入金に充当されるかという問題である。民法は,債務の
弁済として提供した金銭の充当について,当事者間で充当方法に合意があれば,その
合意に従い,合意がない場合は,民法第489条各号に定めるところ及び弁済の費用,
利息,元本の順に充当することを定めている(民法第491条第1項)。ところで,民
法の充当に関する規定は,弁済の提供をしたときに,債務が存在することを前提とし
ているように読めるので,過払金債権が発生した時点において貸付債務が存在しない
場合,その後発生する将来の貸付債務に充当することが可能か問題となる。
3
この点,最高裁平成19年2月13日判決(判タ1236号99頁)
,同年6月7日
判決(判タ1248号113頁),同年7月19日判決(判タ1251号145頁)及
び平成20年1月18日判決いずれも,過払金が発生した時点で他の借入債務が存在
しなかった場合に,「当然に」過払金をその後の貸付債務に充当することはできず,当
事者で「充当の合意」が必要であるとの立場をとっている。そして,平成20年1月
18日判決は,「1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基
本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取
引であると評価することができる場合には,上記合意が存するものと解するのが相当
である。」と判示し,そのための間接事実を列挙している。
(5)
消滅時効
過払金返還請求権(不当利得返還請求権)の消滅時効期間は10年である(最高裁
昭和55年1月24日・民集34巻1号6頁)
。それでは,過払金返還請求権の消滅時
効はいつから進行するか,時効の起算点が問題となる。この点,過払金債権は一個の
不当利得返還請求権と解すべきであり,過払い金請求権が発生し,その額が確定する
のは取引終了時であるとことを根拠として,消滅時効の起算点は取引終了時であると
の見解がある。他方,過払金請求権は,不当利得返還請求権(民法第703条)に基
づき,法律の規定によって発生する債権である。そこで,法定債権であることを理由
に過払金債権は各返済ごとバラバラに独立して発生し,それぞれ過払金請求権は返済
の時点から10年を経過するごとに順次時効により消滅するとの見解もある(個別進
行説)。なお,過払金返還請求権の時効の起算点について判断した最高裁判所判決はな
い。
以
4
上
2
みなし弁済制度の概要
石
第1
島
正
道
1
みなし弁済制度
原則:利息制限法
(1)元本10万円未満
年20%
(2)元本10万円以上100万円未満
年18%
(3)元本100万円以上
年15%
制限超過した利息契約は超過部分について無効
⇒受け取った制限超過利息は不当利得となり,
貸金業者は借主に対して返還しなければならない
2
例外:貸金業法43条1項「みなし弁済制度」
(1)主な要件
①債務者が利息として任意に支払ったこと(任意性)
②17条書面(契約締結時の書面)の交付
③18条書面(受取証書)の交付
(2)効
果
利息制限法所定の制限を超過した利息の支払いでも
有効な利息の債務の弁済とみなされる。
(参照条文)
(任意に支払つた場合のみなし弁済)
第四十三条
貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づ
き,①債務者が利息として任意に支払つた金銭の額が,利息制限法第一条第一項 に定める
利息の制限額を超える場合において,その支払が次の各号に該当するときは,当該超過部
分の支払は,同項 の規定にかかわらず,有効な利息の債務の弁済とみなす。
一
…②第十七条第一項に規定する書面を交付している場合…におけるその交付をして
いる者に対する貸付けに係る契約…に基づく支払(以下略)
二
…③第十八条第一項に規定する書面を交付した場合における同項の弁済に係る支払
2(略)
3(略)
5
第2
1
17条書面・18条書面の記載事項
17条書面の記載事項
①貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所
②契約年月日
③貸付けの金額
④貸付けの利率
⑤返済の方式
⑥返済期間及び返済回数
⑦賠償額の予定に関する定めがあるときは,その内容
⑧日賦貸金業者の場合,貸金業法14条5号に掲げる事項
⑨その他内閣府令(=貸金業法施行規則13条)で定める事項
イ 貸金業者の登録番号
ロ 契約の相手方の商号,名称又は氏名及び住所
ハ 貸付けに関し貸金業
○
○
○
ニ 債務者が負担すべき元本及び利息以外の金銭に関する事項
ホ
者が受け取る書面の内容 ○
○契約
の相手方の借入金返済能力に関する情報を信用情報に関する機関に登録するときは,その旨及び
ヘ 利息の計算の方法
ト 返済の方法及び返済を受ける場所
チ 各回の返済期日及び返
その内容 ○
○
○
リ 契約上,返済期日前の返済ができるか否か及び返済ができるときは,その内容
ヌ期
済金額 ○
○
ル 当該契約に基づく債権につき物的
限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容 ○
ヲ 当該契約について保証契約を締結するときは,保証
担保を供させるときは,当該担保の内容 ○
ワ 当該契約が,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに
人の商号,名称又は氏名及び住所 ○
関する法律 の一部を改正する法律(昭和五十八年法律第三十三号)附則第十四項 に規定する電
話担保金融に係る契約であるときは,その旨及び当該電話担保金融に関し設定された質権の登録
カ 当該契約が,従前の貸付けの契約に基づく債務の残高を貸付金額とする貸付けに
の受付番号 ○
係る契約であるときは,従前の貸付けの契約に基づく債務の残高の内訳及び当該貸付けの契約を
ヨ 貸付けに係る契約の貸付けの利率が利息制限法第一条第一項 に規定する利
特定し得る事項 ○
率を超えるときは,超える部分について支払う義務を負わない旨
2
18条書面の記載事項
①貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所
②契約年月日
③貸付けの金額
④受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額
⑤受領年月日
⑥その他内閣府令(=貸金業法施行規則15条)で定める事項
イ 弁済を受けた旨を示す文字
ロ 貸金業者の登録番号
ハ 債務者の商号,名称又は氏名
ニ 債務
○
○
○
○
者(貸付けに係る契約について保証契約を締結したときにあつては,主たる債務者)以外の者が
ホ 当該弁済後の残存債務の額
債務の弁済をした場合においては,その者の商号,名称又は氏名 ○
6
第3
1
最高裁判例/下級審裁判例
最判平成18年1月13日・民集60巻1号1頁(シティズ事件)
① 貸金業の規制等に関する法律施行規則15条2項の法適合性
貸金業の規制等に関する法律施行規則15条2項の規定のうち,貸金業者が弁済を
受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,貸金
業の規制等に関する法律18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えるこ
とができる旨定めた部分は,同法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効であ
る。
②
債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に
期限の利益を喪失する旨の特約の効力
利息制限法所定の制限を超える約定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費
貸借に,債務者が元本又は約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪
失する旨の特約が付されている場合,同特約中,債務者が約定利息のうち制限超過部
分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同法1条1項の趣旨に
反して無効であり,債務者は,約定の元本及び同項所定の利息の制限額を支払いさえ
すれば,期限の利益を喪失することはない。
③
債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に
期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無
利息制限法所定の制限を超える約定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費
貸借において,債務者が,元本又は約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の
利益を喪失する旨の特約の下で,利息として上記制限を超える額の金銭を支払った場
合には,債務者において約定の元本と共に上記制限を超える約定利息を支払わない限
り期限の利益を喪失するとの誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限
り,制限超過部分の支払は,貸金業の規制等に関する法律43条1項にいう「債務者
が利息として任意に支払った」ものということはできない。
7
2
最判平成18年1月24日・裁判所時報1404号89頁
①
日賦貸金業者の貸付について借用証書の記載内容が貸金業の規制等に関する法律1
7条1項に規定する書面の記載事項である「各回の返済期日」の記載として正確性ま
たは明確性を欠き借主に交付された上記借用証書の写しは上記書面に該当しないとさ
れた事例
日曜日等の特定の日には集金をしない旨の合意がある日賦貸金業者の貸付について,
集金をしない日の記載がされていない借用証書の記載内容は貸金業の規制等に関する
法律17条1項に規定する書面の記載事項である「各回の返済期日」の記載として正
確性を欠き,また,日曜日等の特定の日とともに「その他取引をなさない慣習のある
休日」に集金をしない旨の記載がされている借用証書の記載内容は上記「各回の返済
期日」の記載として明確性を欠き,借主に交付されたこれらの借用証書の写しは,上
記書面に該当しない。
②
日賦貸金業者の貸付について貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定が適用
されるために平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金
利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則9
項所定の各要件が実際の貸付において現実に充足されていることの要否
日賦貸金業者の貸付について,貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定が適
用されるためには,平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ,預り金
及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)
附則9項所定の各要件が,契約締結時の契約内容において充足されているだけではな
く,実際の貸付においても現実に充足されていることが必要である。
③
日賦貸金業者の貸付について平成12年法律第112号による改正前の出資の受入
れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律
第33号)附則9項2号所定の要件が実際の貸付において現実に充足されているとは
言えず貸金業の規制等に関する法律43条1項の規定が適用されないとされた事例
日賦貸金業者の貸付について,契約締結時の契約内容においては,返済期間が10
0日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行わ
れ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として新たに契約が締結され,旧債務が消
滅したために,旧債務の返済期間が100日未満となったときには,平成12年法律
第112号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の
一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則9項2号所定の要件が実際の貸
付において現実に充足されているとは言えず,貸金業の規制等に関する法律43条1
項の規定は適用されない。
④
債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に
期限の利益を喪失する旨の特約の効力
利息制限法所定の制限を超える約定利息とともに元本を分割返済する約定の金銭消
8
費貸借に,債務者が元本および約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益
を喪失する旨の約定が付されている場合,同約定中,債務者が約定利息のうち制限超
過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同法1条1項の趣
旨に反して無効であり,債務者は,約定の元本および同項所定の利息の制限額を支払
いさえすれば,期限の利益を喪失することはない。
⑤
債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に
期限の利益を喪失する旨の特約のもとでの制限超過部分の支払の任意性の有無
利息制限法所定の制限を超える約定利息とともに元本を分割返済する約定の金銭消
費貸借において,債務者が,元本および約定利息の支払を遅滞したときには当然に期
限の利益を喪失する旨の約定のもとで,利息として上記制限を超える額の金銭を支払
った場合には,債務者において約定の元本とともに上記制限を超える約定利息を支払
わない限り期限の利益を喪失するとの誤解が生じなかったと言えるような特段の事情
のない限り,制限超過部分の支払は,貸金業の規制等に関する法律43条1項にいう
「債務者が利息として任意に支払った」ものと言うことはできない。
(ただし上田裁判官は,本件では「任意性あり」と考えている。)
3
その他の判例/裁判例
最判 H16.2.20 は,みなし弁済の適用要件は厳格に解釈するべきであるという姿勢を
明確に示している。また,上記2記載の最判 H18.1.24 は17条書面・18条書面に記
載の正確性や明確性を求めている。一般論として,正確性や明確性を求めることにつ
いて異論はないと思うが,貸金業者にとっては相当厳しいと思われる判断が各裁判所
で相次いでいる。
最判 H16.2.20 「法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務
者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過
部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制
として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付す
る義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な
利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金
需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める
法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第1
36号による改正前の法49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条
1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。」
最判 H18.1.24 「貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条
書面を交付すべき義務を定め,また,同法18条1項が,貸金業者につき,貸付けの契約
に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに,18条書面を交付すべき義務
を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容や弁済の内容を書面化することで,貸金業者の
業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容
や弁済の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,
17条書面及び18条書面の貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容
が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くという
べきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。」
9
(1)利息として任意に支払ったか否か
① 東京地 H9.2.21
ATMによる返済で,現金投入後に排出される書面によってはじめて元金,利息,
損害金の拡充当額がわかる場合には,支払金について利息や損害金に充当される認識
があったと認めることはできない。
② 東京地 H2.12.10
天引き利息の支払いは任意とは言えない。
(2)17条書面の交付があったか否か
① 最判 H11.3.11
「毎月X日」という記載は,現代の一般的取引慣行から翌営業日と解する黙示の合意
を推認できる。
②
東京高判 H13.1.25
書面は1通であることが必要。他の書面で記載漏れを補ったり,書面外の事情で補
充したりすることはできない。
③ 名古屋高判 H8.10.23
包括的貸付契約で具体的な借入金をあてはめて,返済期間・回数・期日・金額・充
当関係等時間をかけて計算しなければ理解できない程度の書面では17条書面になら
ない。
④ 大阪地判 H16.12.24
貸金業者担当者が貸付時にハンディコピー機で債務者の運転免許証をコピーして持
ち帰っていたことについて,運転免許証の写しの交付を受けたことを17条書面に記
載すべきところ,記載しなかった。この場合17条書面とはいえない。
⑤
京都地判 S63.8.19
貸金業者の登録番号記載漏れがあると17条書面ではない。
実質金利ではなく日歩だけが記載された書面は17条書面ではない。
⑥
浜松簡判 S61.12.2
返済を受ける場所の記載を各書面は17条書面でない。
⑦ 東京簡 H12.5.30
「自由返済方式」の場合でも返済期間・回数の記載は必要。
(3)18条書面の交付があったか否か
① 最判 H11.1.21
銀行振込による弁済であってもみなし弁済というためには受取証書の交付が必要。
② 横浜地判 H17.10.13
「契約番号その他により明示することをもって」代替できると定めている貸金業法施
行規則15条2項は,貸金業法18条1項の委任の範囲を超え,かつ,同法による委
任の趣旨を逸脱したものであり,全体として無効な規定であるといわざるを得ない。
10
従って,契約年月日と控訴人の本店の任所の記載を欠いた領収書兼利用明細書は,
18 条書面としての要件を満たさないものというべきである。
③
横浜地判 H16.8.26
振込を確認した日の翌営業日に18条書面を普通郵便で発送していたことは,18
条書面の交付を弁済の直後にしなければならないとされている要件を満たしていない
と解すべきである。
④
京都地判 S63.8.19
2回の貸し付けを1個の貸付と記載した領収書は18条書面でない。
第4
1
「みなし弁済制度」の今後
裁判所はみなし弁済の要件をかなり厳しく捉えるようになっており,貸金業者がみ
なし弁済を抗弁として主張しても,まず認められないものと思われる。
2
いわゆる改正貸金業法第5次施行(平成22年6月19日までに施行)により,み
なし弁済制度は廃止される。
以
11
上
3
悪意の受益者性
長
1
濱
晶
子
民法704条の「悪意」の認定に関する問題
借主
過払金返還請求訴訟において、貸金業者は民法704条の「悪意の受益
者」に当たるとして、過払金発生時点からの利息を請求。
貸金業者
貸金業法43条の「みなし弁済」が成立すると認識していたため「悪意」
ではない、との主張がなされる場合がある。
民法704条
前段
後段
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付
この場合において、なお損害があるときは、
して返還しなければならない。
その賠償の責任を負う。
民法704条にいう「悪意の受益者」であると認められた場合に、過払金に対する利息
が発生すると解されるところ、「悪意」の認定につき、悪意の立証責任は、民法704条に
基づいて利息を請求するものが負担。
→
いかなる事項を立証すれば、貸金業者の「悪意」が認定されるか、が問題となる。
貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)43条1項
貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利
息として任意に支払った金銭の額が、利息制限法第1条第1項に定める利息の制限額を超
える場合において、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項
の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。
2号
第18条1項(略)の規定により第18条第1項に規定する書面を交付した場合に
おける同項の弁済に係る支払
2
「悪意の受益者」該当性に関する最高裁の判断
(1)最高裁の判断
添付資料1
判例タイムズ1252号110頁
事件①
最高裁平成17(受)第1970号
平成19.7.13第二小法廷判決
事件②
最高裁平成18(受)第276号
平成19.7.13第二小法廷判決
事件③
最高裁平成18(受)第1666号
平成19.7.17第三小法廷判決
(2)争点
事件①,②,③のいずれも、金銭消費貸借契約の借主を原告とし、貸金業者を被告とす
12
る過払金返還請求訴訟において、貸金業者が利息制限法1条1項の制限を超える利息を受
領したが、そのことにつき貸金業法43条1項の適用が認められない場合に、貸金業者が
民法704条にいう「悪意の受益者」と推定されるかが争われた。
(3)最高裁の判断
ア
「悪意の受益者」該当性の判断(事件①,②、③共通)
結論
本件の各被告はいずれも民法704条「悪意の受益者」に当たらないとした原
判決の判断部分を破棄し、原審に差し戻した。
イ
「悪意の受益者」の推定
「金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は、その超過部
分につき無効であって、この理は、貸金業者についても同様であるところ、貸金業者に
ついては、貸金業法43条1項が適用される場合に限り、制限超過部分を有効な利息の
債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨
からすれば、貸金業者は、同項の適用がない場合には、制限超過部分は、貸付金の残元
本があればこれに充当され、残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に
返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そうすると、
貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業
法43条1項の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの
認識を有しており、かつ、そのような認識を有すると至ったことについてやむを得ない
といえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払
金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される」
本件事案については、貸金業法43条1項の適用が認められない。と判断。
→
「悪意の受益者」と推定
→
特段の事情の検討。
ウ
→
特段の事情の検討
事件①
特段の事情の有無等につきさらに審理を尽くさせるため、原審に破棄差戻し
事件②
平成11年判決と特段の事情の関係を検討
◇ 平成11年判決(添付資料2
判例タイムズ995号71頁)
最高裁平成11年1月21日判決(平成8年(オ)第250号)
◇ 平成11年判決の判決要旨
貸金業の規制等に関する法律43条1項によるみなし弁済の効果を生じるためには、債務
者の利息の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされた場合であ
っても、特段の事情のない限り、貸金業者は、右の払込みを受けたことを確認した都度、
直ちに、同法18条1項に規定する書面を債務者に交付しなければならない。
13
特段の事情の判断
「少なくとも、平成11年判決以後において、貸金業者が、事前に債務者に上記償還表を
交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を
有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには、平
成11年判決以後、上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか、上記認識
に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を
有するに至ったことが必要であり、上記認識に一致する見解があったというだけで上記特
段の事情があると解することはできない。」
→
上告人の敗訴部分を破棄・特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため、
本件を原審に差し戻し
事件③
貸金業者である被上告人は、(略)上記各弁済を受領した時点において貸金業法43条1
項の適用があるとの認識を有していたとの主張をしているとはいえず、上記特段の事情を
論ずる余地もないというほかない。
→
原判決中の上告人の敗訴部分の一部を破棄・原審に差戻し。
3
最近の動向
~弁護士費用及び慰謝料~
(1)最近の裁判例
悪意の受益者であることを認定した上で、灰色金利に基づく請求は違法な架空請求に類
似するとして過払金のほかに慰謝料や弁護士費用を認めた裁判例も現れている。
判例①
大阪高判平成19年7月31日判決言渡(平成19年(ネ)第676号)
判例②
札幌高判平成19年11月9日判決言渡(平成19年(ネ)第111号)
(添付資料3
兵庫県弁護士会ホームページ消費者問題判例検索システムより)
(2)法的構成
①
弁護士費用(判例①、②)
悪意の受益者性を認定し、民法704条後段に基づく「損害」として過払金返還請求訴訟
にかかる弁護士費用を請求、認容。
②
慰謝料(判例①)
制限超過部分の利息収受行為は、違法な架空請求に類似し、不法行為を構成するとして、
709条に基づく「損害」として、慰謝料を請求、認容。
(3)弁護士費用
判例①
ア
一審原告(借主)の主張
14
(ア)悪意の受益者該当性
あり
(イ)弁護士費用
「
そして、一審原告の一審被告に対する過払い金返還請求権が発生しているこ
とは明らかであり、かつ、一審被告はこれを認識しているにもかかわらず、一審
原告による裁判外での和解の提案に対して返答すらしなかった。そのため、一審
原告は、弁護士に委任して訴訟提起を余儀なくされたから、民法704条後段又
同法709条に基づいて、一審原告に対して弁護士費用を請求できる。
その金額は、過払金返還請求の認容額を考慮すると20万円が相当である。」
イ
一審被告(貸金業者)の主張
(ア)
悪意の受益者該当性
(イ)
弁護士費用
なし
「また、民法704条後段又は同法709条に基づいて過払い金返還請求訴訟に係る弁護
士費用を請求することはできない。仮にできるとしても、その弁護士費用は10万円を超
えることはない。」
ウ
裁判所の判断
(ア)悪意の受益者について
同項(貸金業法43条1項)の適用があるとの認識を有しいていたとは到底い
えず、上記特段の事情を論ずる余地もない。として、民法704条の悪意の受益
者性認定。
(イ)民法704条後段に基づく過払金返還請求訴訟に係る弁護士費用額
「民法704条後段の損害賠償責任は、不当利得制度を支える公平の原理から悪意
の受益者に対しての責任を加重した特別の責任を定めた規定であるが、賠償すべき損
害については、民法416条が準用されると解するのが相当である。
これを本件についてみると、長期間にわたる借入れと利息制限法の利息の制限額
を超過する弁済を繰り返した結果、過払金が発生した場合、債務者が悪意の受益者で
ある貸金業者から訴訟外での交渉等によって過払金の返還を受けられず、自己の権利
を擁護するために訴訟提起を余儀なくされた場合、貸金業法に関する専門的知見や充
当計算に関する技術的な知見が必要であるため、弁護士にその提起や遂行を委任する
ということも、通常生ずる事態であると考えられる。そうすると、過払金返還請求訴
訟を提起、遂行するために弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難
易、認容額その他諸般の事情を考慮して相当と認められる額の範囲内に限り、民法7
04条後段の「損害」に該当するというべきである。
そして、本件の事案の内容、認容額等を総合考慮すると、民法704条後段の損
害としての弁護士費用は、20万円が相当と認められる。
」
15
判例②
ア
控訴人(借主)の主張(4頁)
「
被控訴人は、「悪意」の受益者であり、利得の全額及び利息のほかに損害がある場合に
は、これを賠償する義務を負うところ(民法704条後段)、過払金返還請求に伴う弁護士
費用は、この損害に該当する。
この弁護士費用としては、35万円が相当である。」
イ
被控訴人(貸金業者)の主張(4頁)
「過払金返還請求についての弁護士費用は損害賠償として認められない。」
ウ
裁判所の判断(5頁)
(ア)
「控訴人の主張に理由があるか否かは、本件弁護士費用が、不当利得と相当因果関係の範
囲内にあるか否かによって決せられることとなる。」
「本件において、亡●●が弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をなし得なかったと認
めるに足る事情が認められるならば、事案の難易、認容された請求額等の事情を斟酌して、
相当と認められる範囲の弁護士費用につき、不当利得と相当因果関係に立つ損害として、
その賠償を求めることができるというべきである。」
(イ)
①
長期間にわたる借入れと利息制限法所定の制限を超過する利息の支払を繰り返した結
果発生した過払金の返還を求める訴訟であること、
②
控訴人代理人が、本件控訴提起前から取引履歴の開示を被控訴人に求めたにもかかわ
らず、被控訴人が昭和○○年以前の取引履歴を開示せず本件訴訟に至り、現在に至るまで
それ以上の開示はなされていないこと
が認められる。
以上によれば、亡●●としては、弁護士である被控訴人代理人に委任するのでなければ、
本件過払金返還請求訴訟を提起、遂行することは困難であったと認めるのが相当であり、
その弁護士費用は、民法704条後段の「損害」該当(原文ママ)するというべきである。
そして、事案の内容、過払金返還請求の上記認容額等を総合考慮すると、本件不当利得
と相当因果関係ある損害としての弁護士費用は、35万円が相当と認められる。
(4)慰謝料
判例①
ア
一審原告(借主)の主張
一審被告は、同条(貸金業法43条1項)所定の要件を具備しようとする努力やその
ための細心の注意を払うことなど全くせずに、漫然と制限超過部分の利息を収受し、そ
16
の結果、一審原告は、支払義務のない制限超過部分の支払を強いられて、精神的苦痛を
受けたから、一審被告の利息収受行為は、不法行為を構成する。
イ
一審被告(貸金業者)の主張(概要)
一審被告は、一審被告は、制限超過部分を収受するに当たり、貸金業法43条1項所
定の要件を具備するために細心の注意を払う義務を怠ったということはないから、架空
請求ではないし、説明義務違反にもならない。
そもそも、不法行為が成立するには、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保
護される利益を侵害したことが必要であるところ、約定利率に基づく元利金の請求が不
法行為に該当すると解することはできない。
貸金業者が、自らの立場に立った法律解釈に基づいて、合意に基づく約定利率によっ
て元利金の請求をすることは、ありもしない債務を請求する「架空請求」とは全く異な
る。
したがって、一審被告の利息収受行為は不法行為に当たらない。
ウ
裁判所の判断
「もっとも、前示のとおり、一審被告は、過払金が発生した時点でそれが法律上の原因
を欠くことを知っていたと推認するのが相当であるから、約定利率による元利金の請求
は、一部又は全部が無効な部分を含んでいることになり、その意味で架空請求に類似す
るといわざるを得ない。しかも、一審被告は、常に数か月程度しか17条書面や18条
書面を保管していないと主張していることからすると、本件取引において制限超過部分
について貸金業法43条1項が適用される余地が極めて乏しいことを認識しながら、す
なわち、訴訟になった場合には制限超過部分が利息の支払いとしては無効となる蓋然性
が極めて高いことを認識しながら、あえてこれを請求し、収受してきたものと認められ
る。その上、一審被告としては、契約時の一審原告の言動等から、一審原告が利息制限
法や貸金業法についての知識を持たず、そのために本来支払義務のない制限超過部分に
ついても継続して支払うことを予想できたと考えられる。
このような事実関係によれば、一審被告は、本来支払義務のない制限超過部分を、一
審原告の無知に乗じて請求してこれを収受してきたというべきであるから、社会的に許
容される限度を超えた違法なものと評価せざるを得ない。
」
「したがって、一審被告の制限超過部分の請求や利息収受行為は、不法行為を構成する
というべきである。」
諸事情を考慮して、一審原告の精神的苦痛に対する慰謝料額は15万円と認めるのが
相当。と判断。
以
17
上
4
民法704条前段所定の利息の利率
日
第1
置
了
問題の所在
過払金返還請求訴訟において、貸金業者が悪意の受益者と認められた場合に、民法704
条前段所定の利息の割合は、民法所定の年5分の割合によるのか、商事法定利率年6分の
割合によるのかが問題となる。
この点、通説的な学説は、商事法定利率説をとっている(我妻榮「民法講義・債権各論(下
巻1)
(岩波書店、1972)1110 頁など)。下級審裁判例は、民事法定利率説と商事法定利率
説とに分かれていたが、次のとおり、最高裁は、民法所定の年5分である旨を明示した。
(商事法定利率)
第五百十四条
第2
商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年六分とする。
最高裁判例
最高裁第三小法廷判決平成19年2月13日(添付資料4)
「商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われ
た部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合におい
て、悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は、民法所定の年5分と解
するのが相当である。なぜなら、商法514条の適用又は類推適用されるべき債権は、商行
為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、上記過払金につい
ての不当利得返還請求権は、高利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の
規定によって発生する債権であって、営利性を考慮すべき債権ではないので、商行為によっ
て生じたもの又はこれに準ずるものとは解することはできないからである。」と判示した。
なお、上記平成19年最判の原審は、
「本件の不当利得返還請求権(過払金返還請求権)は、貸金業者の商
行為によって生じた債務と同一性を有すると認められ、実際にも、貸金業者は、過払金を営業のために使
用し、収益を上げているのは明らかであるから、不当利得返還請求権(過払金返還請求権)についての法
定利息(民法704条)は、商事法定利率である年6分とするのが相当である。」としていた。
(第1審は悪意の受益者性を否定したため、利息の割合については判断していない。)
18
第3
下級審裁判例
概説
年6分とする下級審裁判例は、概ね、利得者が商人であり、利得物を営業のために利用し
て収益を上げている(商事法定利率年6分の割合による運用利益を生じている)ことを、
その論拠とする。
上記平成19年最判が否定した商法514条の「商行為により生じた債務」に準ずるもの
と判示する裁判例が存在する一方、本問題にとって、商行為によって生じたもの又はこれ
に準ずるものであるかどうかは問題ではない旨判示した裁判例が存在する。
…問題①
また、過払金返還請求権の法的性質は、当該請求権の消滅時効の期間をめぐっても問題と
なるところであるが、利率について、民事法定利率ではなく、商事法定利率を適用する場
合、過払金返還請求権は民事上の一般債権であるなどとして消滅時効期間は10年とされ
ている(最一小判昭和55年1月24日)こととの整合性についてどのように説明するか
が問題となる。
…問題②
さらに、運用利益の返還に関しては、民法704条における「利益」には、受益者(貸金
業者)における運用利益も含まれ、受益者は少なくとも商事法定利率年6分に相当する運
用利益を得ているのであるからこの返還義務を負担するという主張がされ、その根拠とし
て、最三小昭和38年12月24日が引用されることがある。しかし、同判例は、不当利
得の運用利益が損失者の損失といえるのは、社会通念上、受益者の行為の介入がなくても、
損失者が当該財産から当然取得したであろうと考えられる範囲である旨判示しており、過
払金返還請求訴訟における過払金の運用利益がこのような場合に当たるといえるかが問題
となる。
…問題③
19
第4
年6分とする下級審裁判例の論拠とその検討
問題①:過払金返還債務の商行為性
1
商法514条の「商行為によって生じた債務」に準ずるものとする裁判例
その理由としては、以下の3点が挙げられる。
鹿児島地名瀬支判平成18年6月6日
ア
商法514条の「商行為によって生じた債務」とは、商行為と因果関係を有する債務
である必要があるが、現存する債務自体が必ずしも直接に商行為によって生じたことは
必要ではなく、…商行為によって生じた債務が変形したもので、これと実質的に同一性
を有すると認められるもの…を含むと考えられる。その例として、商行為たる契約の債
務不履行による解除に基づく原状回復義務(大判大正5年7月18日ほか)などを挙げ、
「商事契約上の義務の履行としてされた給付が法律上の原因を欠くことにより生じた不
当利得返還請求権は、契約の履行によって生じた関係を清算するものである点で、商事
契約の解除に基づく原状回復請求権等と異ならない。
イ
商法514条は、双方的商行為のみならず一方的商行為も含み、しかも、その行為が
債権者又は債務者のいずれのために商行為であるかを問わず適用されると解されている
(最一小判昭和30年9月8日等)
。
ウ
企業取引において資金の需要が多く、資金を効率よく利用されるのが通常であること
から、商法514条の規定する商事法定利率は、民事法定利率よりも高率の年6分と定
められている。商人が金銭を非商人よりも有利に利用するということは、債権者が商人
である場合に非商人よりも高率の利息の支払を要求することを正当化する一方、債務者
が商人である場合には債務者が非商人である場合に比べてより高率の利息の支払を債権
者に期待させるとの理解が背景に存すると考えられる。原契約(商事契約)上の債権に
関する法定の利息・遅延損害金について商事法定利率が適用される場合、原契約上の債
務者としては、この契約上の義務の履行としてされた給付が法律上の原因を欠くことに
より生じた不当利得返還請求権に関しても、原契約同様に商事法定利率による支払を期
待するのは当然のことであり、上記商法514条の立法趣旨に照らしても、この期待は
正当なものとして保護されるべきである。
20
2
本問題にとって、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものである
かどうかは問題ではないとする裁判例
その理由は、本問題は、民法704条の趣旨に照らして判断すべきであるとする。
①
大阪高判平成18年1月31日
民法704条が悪意の受益者に対して利息を付して返還すべき旨を定めているのは、
悪意の受益者が不当利得の目的物について収益を得ていることを考慮し、単に法律上の
原因なく移転した財貨(不当利得の目的物)の返還のみならず、これを利用して生み出
された収益をも返還させることによって、法律上の原因のない利得から得られた収益を
悪意の受益者の手元に残させないようにする趣旨によるものと解される。そうすると、
受益者が商人であり、不当利得の目的物を営業に利用したものと見られる場合には、民
法704条による法定利息の利率は、商事法定利率である年6分と解するのが相当であ
る。
このような民法704条の趣旨、目的に照らすと、不当利得返還請求権が法律の規定
によって発生する債権であるからといって、常に民法404条所定の利率によるべきも
のであると断ずることはできず、商行為によって生じた債権かどうかという点も、直ち
にこの点に関する結論を左右するものではない。
②
大分簡判平成17年7月28日
ここで問題とすべきは、
「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなけ
ればならない」と規定する民法704条の「利息」の解釈であり、不当利得返還請求権
が商行為によりて生じた債権に該当するかどうかの問題ではない。民法704条の文理
解釈からすると、返還対象とされているのは、もっぱら受益者(返還義務者)に生じ、
又は生ずべき利息である。これは、権利者の損害の有無にかかわらず(このことは、同
条後段に別途損害賠償が規定されていることからも明らかである。)、悪意者において、
法律上の原因なくして得た利益によって果実を得て収益を確保させるのは相当ではない
との立法趣旨によるものと思われるが、商人においては、商法514条の趣旨からする
と、一般に年6分の収益力を有しているものと認められるので、被告が返還すべき民法
704条所定の利息の利率は、商事法定利率の年6分と解するのが相当である。
問題②:商事時効が適用されないこととの整合性
1
昭和55年最判
同判例は、過払金返還請求権の消滅時効期間は、民事上の一般債権として民法167
21
条1項により10年と判示し、その理由として、「商法522条の適用又は類推適用され
るべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければ
ならないところ、利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息・損害金についての不
当利得返還請求権は、法律の規定によって発生する債権であり、しかも、商事取引関係
の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて、商行為によって生じた債
権に準ずるものと解することもできない」ことを挙げている。(もっとも、同判例には中
村裁判官の反対意見があり、
「商事契約の無効等の理由によって右契約に基づいてされた
給付による利得につき不当利得返還請求権が生ずる場合には、右債権は、商事債権ない
しこれに準ずるものとして、商法522条所定の消滅時効期間に服すべきものと解する
のが相当」とされていた。)
2
上記昭和55年最判との関係について
(1)裁判例
①
前掲鹿児島地名瀬支判平成18年6月6日
②
札幌地判平成18年1月27日
被告は、過払金の不当利得返還請求権について商法522条の短期消滅時効が適用な
いし類推適用されないこと(最一小昭和55年1月24日参照)との均衡を主張するが、
過払金の不当利得返還請求権について商法522条が適用ないし類推適用されないのは、
同請求権には商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めたという同条の趣旨
が妥当しないからであり、この論理は、これと趣旨を異にする商法514条ないし民法
704条の解釈に直ちに妥当するものではない。
(2)検討(判タ1209号14頁)
上記昭和55年最判が10年説を採用したのは、消費者保護等の見地に立った利息制
限法の趣旨を踏まえたものであるから、利息については、消費者保護等の見地から商事
法定利率の適用を認めるべきとの見解もあり得るところである。同判例の調査官解説に
おいても、過払金の消滅時効を5年にするか、10年にするかは、借主をどこまで保護
するかという利益衡量が決定的な要素であると指摘されている(篠田省三・昭55最判
解説(民)31頁)のも確かである。しかし、過払金の利率を年5分ではなく年6分に
しなければ消費者保護に欠けるといえるかについては疑問なしとはしないし(過払金返
還請求権の存否そのものにかかわる消滅時効の問題とは質的に異なるのではないか。)、
同一の請求権について、商法514条は適用されるのに、商法522条は適用されない
22
とする合理的な根拠を見出すのは困難ではなかろうか。と指摘されている。
問題③:運用利益の返還
前掲最三小昭和38年12月24日とは事案を異にするとした裁判例
東京高裁平成17年7月21日
上告人が、前掲最判昭和38年12月24日(以下「昭和38年判決」という。
)を引用
し、民法704条における「利益」にも受益者における運用益が含まれると主張したのに
対し、昭和38年判決は、銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益について
は、商事法定利率による利息相当額であり、損失者が商人であるときは、社会通念上、受
益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと
考えられる収益の範囲内にあるものと認め、受益者が善意のときであっても、返還義務を
免れないと判示したものである。これに対し、本件においては、損失者である上告人は商
人ではないから、上告人が不当利得された財産から当然取得できたであろうと考えられる
範囲の損失は民法法定利率年5分の利息相当であると解すべきであるから、所論引用の昭
和38年判決は本件とは事案を異にするものであって適切でない。
この判例は、年6%の利息を認めない理由として『損失者が商人でないこと』を挙げて
いるが、この判示からすると、損失者が商人の場合には、商事法定利率年6分と解する余
地のあることを示唆しているようにも解されると指摘されている(金法1761号44頁)
。
第4
前掲平成19年最判後の下級審裁判例
利率の割合の問題は、最高裁判決をもって解決されたといえよう(金判1262号17
頁)。
もっとも、損失者が商人である事案において、民法703条により、年6分の割合による
利息相当額の返還を認めた裁判例がみられた。
長崎地裁佐世保支判平成19年5月18日
原告(損失者=有限会社)が、被告は原告に返還すべき過払金を他への貸付資金などし
て運用することで年15%以上の割合で利益を得ているので、過払金とともにその運用利
益を不当利得として返還することを求めたのに対し、前掲最判昭和38年12月24日を
引用した上で、「被告が貸金業を営む株式会社であることを照らすと、被告は、原告の過払
金を受領した日の翌日から少なくとも商事法定利率である年6%の割合による利息相当額
23
の利益を得ており、かつ、同利益は現存していると推認される。そして、同利益について
は、社会通念上、有限会社である原告においても、受益者である被告の行為の介入がなく
ても当然取得することができた利益であると推認される。
」として、年6分の割合による利
息相当額の利益の返還を認めた(もっとも、上記商事法定利率による割合を超える部分に
ついては、社会通念上、被告の介入がなくてもそのような運用利益を原告も当然得ていた
であろうとまでは認めがたいとした。また、原告が、予備的に、不当利得に関する損害賠
償として、過払金に対する年15%の割合相当額の支払を求めたことから、年6%を超え、
年15%までの範囲の支払を求める点について、予備的主張を検討しているところ、その
主張は、利息制限法所定の利率の範囲内における原告と被告との間の約定利息の支払をも
って原告の損害とするものであるが、同利息の支払は原告と被告との消費貸借契約に基づ
く支払であって、これを原告の損害とみることはできない旨判示した)。
※
なお、この判例は、利息相当額の返還を認める条文上の根拠を民法703条の「利益」
としている。そこで、この民法703条による利息相当額の請求のほかに、さらに民法
704条前段「利息」や同後段「損害」を請求することはできないだろうか。同判例で
は、原告は、上記運用利益のほか、被告は悪意の受益者であるから、過払金に利息を付
した返還、及び、過払金の返還を請求した翌日からの遅延損害金についても求めたが、
次のように判示し、いずれも否定した。
ア
悪意の受益者の利息の付加返還義務について、
民法704条は、悪意の受益者は利得財産に利息を付加して返還すべきことを定めて
いるところ、その趣旨は、利得財産から法定利息程度の付加利益が生じるのが通常であ
り、損失者には同利益を得られなかった損失があるので、これを悪意の受益者に賠償さ
せる点にあると解されるとし、原告は、被告に対し、過払金に対する年6%の割合によ
る利息相当額の運用利益の返還を求めることができるのであるから、このような原告が、
被告に対し、運用利益と別個に、被告が悪意の受益者であることを理由に、同じく過払
金から生じる付加利益である法定利息(民法所定の割合によるべきである。)を請求する
ことを認めることはできない。
イ
遅延損害金について、
民法704条は、「なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」として、悪意の
受益者が賠償すべき損害の範囲は、利得財産及びその利息(又はその利息相当額)を返
還してもなお損失者に損害がある場合の、その超過部分であることを明らかにしている。
ところで、金銭債権における利息は元本利用の対価であり、他方、遅延損害金は金銭債
権の履行遅滞に基づく損害賠償であって、両者は法律上の性質を異にするものの、金銭
債権の履行遅滞に基づく損害は、結局債権者が元本使用によって得ることができた利得
24
の損失にほかならず、両者は経済的な実質を同じくするというべきであり、法定利息の
付加返還義務を負う悪意の受益者の不当利得返還において、法定利率に基づく遅延損害
金が上記の超過部分にあたる損害としてなお存在すると認めることはできないとし、原
告の主張を排斥した。
以
25
上
5
一連充当計算
本
1
田
雄
巳
近時の最高裁判例
(1) 証書貸付の場合
① 最高裁平成19年2月13日判決(添付資料5)
【問題点】
基本契約がない場合に第1の取引について発生した過払金を、第2の取引にか
かる債務に充当することができるか(借入が反復・継続していないケース)
。
【判例】
「特段の事情のない限り、第1の貸付けに係る過払金は、第1の貸付けに係る
債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず、第
2の貸付けに係る債務には充当されない」
【結論】
「特段の事情がない限り」別個の取引として一連計算はできない。
② 最高裁平成19年7月19日判決(添付資料6)
【問題点】
基本契約がない場合に第1の取引について発生した過払金を、第2の取引にか
かる債務に充当することができるか(借入が反復・継続しているケース)。
【判例】
「本件各貸付のような1個の連続した貸付取引においては、当事者は、一つの
貸付けを行う際に、切替え及び貸増しのための次の貸付けを行うことを想定
しているのであり、複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望
まないのが通常であることに照らしても、制限超過部分を元本に充当した結
果、過払金が発生した場合には、その後に発生する新たな借入金債務に充当
することを合意しているものと解するのが合理的である」
【結論】
貸付けの切替え及び借増しとして、長年にわたり同様の方法で取引を反復継続
していた場合、基本契約が存在しない場合でも充当の合意が存在することが認
められる。
(※本件事案は、従前の貸付けの約定の返済期間の途中において、従前の貸付
金残額と追加貸付金額の合計額を新たな貸付金額とする旨合意した上で、新た
26
な貸付金額から従前の貸付金残額を控除した額の金員を交付し、それによって
従前の貸付金残金がすべて返済されたものとして取り扱うというものであっ
た。
)
(2) 基本契約が締結されている場合
① 最高裁平成19年7月17日判決(添付資料7)
【問題点】
約定利率に基づいて計算して債務が残っている状態で新たな借入をした場合
に、その時点で発生している過払金が新たな借入の返済に充当されるか。
【判例】
「本件取引により発生する貸金債権と不当利得返還請求権の清算については、本
件各貸付けは合算されて1個の貸付けとなり、弁済は、その1個の債権に対す
るものとして扱い、過払金が生じた場合は不当利得返還請求権が発生し、その
後貸付けがされた場合には、その貸金債権と不当利得返還請求権が当然に差引
計算されるという上告人主張の計算方法によるというのが当事者の合理的意
思であると認められる」
【結論】
基本契約が締結されている場合、取引が継続している間に発生した過払金は次
の貸付金に充当される。これは「当事者の合理的意思」から導かれる。
② 最高裁平成19年6月7日判決(添付資料8)
【問題点】
約定利率に基づく債務を完済した後に新たな借入をした場合、その時点で発生
している過払金が新たな借入の返済に充当されるか。
【判例】
「本件各基本契約に基づく債務の弁済は、各貸付ごとに個別的な対応関係をも
って行われることが予定されているものではなく、本件各基本契約に基づく
借入金の全体に対して行われると解されるのであり、充当の対象となるのは、
このような借入金債務であると解することができる。・・・過払金が発生し
た場合には、上記過払金を、弁済当時存在する他の借入金債務に充当するこ
とはもとより、弁済当時他の借入債務が存在しないときでもその後に発生す
る新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相
当である」
【結論】
基本契約が締結されている場合、取引が継続している間に発生した過払金は、
27
約定利率のもとで完済されている状態であっても次の貸付金に充当される。
これは借入金額、返済方法、返済金額、利息の計算方法等が定められた基本
契約の合意内容から導かれる。
③ 最高裁平成20年1月18日判決(添付資料9)
【問題点】
第1取引の債務を全額弁済した後に、さらに第2取引の基本契約を締結した
場合、第1取引の過払金は第2取引の新たな借入の返済に充当されるか。
【判例】
「第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契
約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した
取引であると評価することができるときには、第1の基本契約に基づく取引
により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな
借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である」
〈考慮された事情として〉
a.
第1取引期間の長さ
b.
空白期間の長さ
c.
契約書返還の有無
d.
カード返却の有無
e.
空白期間における貸主と借主の接触状況
f.
第2の基本契約が締結された経緯
g.
契約条件の異動
【結論】
2つの取引が事実上1個の連続した取引であると評価することができるとき
には一連充当計算をすることができる。
2
判例の検討
基本契約が存在しない場合は、原則として先行する貸付に基づく過払金は、その
他の貸付に基づく借入金債務に充当することはできない。例外的に借換えの方法で
取引を反復継続していた等の「特段の事情」がある場合は、充当の合意が存在する
ことが認められる。
複数の個別貸付が1個の基本契約に基づいているときは時間的先後にかかわら
ず、過払金は借入金債務に充当される。さらに、複数の基本契約が存在する場合で
あっても、「事実上1個の連続した取引であると評価することができるとき」には
一連充当計算が認められる。
28
「1個の連続した取引」か否かの判断基準は、基本契約の有無や個数という形式
的なものから、大局的にみて一連取引と評価しうるかという実質的なものへと拡大
している。平成20年1月18日の最高裁判例は上記のとおり7つの判断要素を示
しているが、下級審の裁判例ではクレジット取引の併存、支店の異動、契約番号・
会員番号の同一性等その他の事情も判断要素とされており、定まった基準というも
のはない。したがって、「1個の連続した取引」か否かは上記要素を考慮しつつ、
具体的な事案に応じて「評価」していくしかない状況にあるといえる。
以
上
【参考文献】
『Q&A過払金返還請求の手引〔第3版〕
』
名古屋消費者信用問題研究会
『クレジット・サラ金処理の手引
編
(民事法研究会)
4訂版』
東京三会
『過払金返還請求への対応~オリコの実務対応より』
29
編
猪狩俊郎
編
(きんざい)
6
過払金の消滅時効に関する問題
日
第1
置
了
過払金の消滅時効期間
民法167条1項により10年か?商法522条により5年か?
⇒過払金の消滅時効期間は、10年間と解されている(最一小判昭和55年1月24日)。
(商事消滅時効)
第五百二十二条
商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、
五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効
期間の定めがあるときは、その定めるところによる。
第2
1
過払金の消滅時効の起算点
最高裁判例
不当利得返還請求権は、その発生と同時に行使することができるから、そのときから時効
が進行すると解されている(大判昭和12年9月17日)
。
ただ、継続的金銭消費貸契約により発生した過払金の消滅時効の起算点について、明示的
に判断を示した最高裁判例はない。
2
下級審裁判例
不当利得返還請求権の消滅時効の起算点についての原則は、1で述べたとおり、権利発生
時(すなわち過払金発生時)となるが、近時の下級審裁判例の多くは、過払金が発生した
時点で消滅時効が進行するという判断をしていない。
(1)裁判例
ア
各過払金の発生時とする裁判例
イ
最終貸付日とする裁判例
ウ
取引終了日とする裁判例
30
ア
各過払金の発生時とする裁判例
高松高判平成19年2月2日(添付資料10
※別紙省略)
◎ 事案の概要
昭58.9.26
当初取引
昭62.3.17
過払金発生(以後最終取引日まで過払状態)
この間の借入金額は合計103万円余、返済金額は合計118円余
⇒この間の借入金は過払利息と過払元金へ充当される
平3.1.25
以降の借入金は合計75万円余、返済金額は合計287万円余
⇒以後の借入金は過払利息のみへ充当され過払元金への充当はなし
(返済によりひたすら過払元金が増えるのみ)
平4.1.31
最終取引日
平17.9.13
提訴
提訴より10年前に発生した過払金について消滅時効を援用
控訴人(借主)の主張:
被控訴人と控訴との取引は、一定の貸付極度額を設定し、その範囲内で金銭貸借を繰り返
して利用することができるもので、返済については、最低支払額を定めた上、任意での追
加返済を許容するといういわゆるリボルビング契約(包括契約)に基づくものである。個
別の貸付ごとに貸付条件の合意や契約書類の作成が行われておらず、被控訴人による信用
調査も行われていないなどの事情に照らせば、包括契約に基づく一連一体の継続的取引で
あって、全体として1口の貸付とみるべきであるから、本件における過払金の不当利得返
還請求権も1個であって、その消滅時効の起算点は、最終取引日の翌日である。
裁判所の判断:
被控訴人と控訴人との間の取引は、控訴人主張のようなリボルビング方式によるものであ
ることを認めた上で、基本契約に基づいて設定される貸付極度額は、あくまで与信枠にす
ぎず、取引がその限度内にとどまる限りにおいて個別の貸付けに際して契約書の作成や信
用調査等も不要とされているにとどまるものであって、一定の金額についての貸付けの合
意が成立していて、その貸付金の交付が複数回に分割して行われるといったような貸借の
単一性を肯認し得る場合とは異なる。
控訴人の主張の事情だけから本件における被控訴人と控訴人との間の取引が全体として1
口の貸付けであるとまでは認めることはできない(立替払契約において一定の与信枠及び
返済条件を定めた上でその範囲内で利用を繰り返すことができるものとされている場合と
の対比からしても、本件における貸借の単一性を肯認することは相当でない。)
。
したがって、基本契約に基づき個別の貸付けが繰り返されることにより独立かつ複数の貸
31
付けが成立し、過払金が発生した時点で他に充当されるべき借入金債務が存在しない場合
にはその都度過払金に係る不当利得返還請求権が発生することになり、その時点から消滅
時効が進行するというべきである。
イ
最終貸付日とする裁判例
最終貸付日を消滅時効の起算点とする理由付けとしては、以下の2通りがある。
(ア)貸金業者の借主に対する貸付は実質的に1つの貸付けであり、過払金は当然にその
後の貸付金にも充当されることから、原告の不当利得返還請求権は最後の貸付が行われた
ときから10年の経過により時効消滅する。
①
徳島地判平成18年12月20日
②
横浜地川崎支判平成17年2月25日
(イ)過払金発生後の貸付が過払金返還債務の「承認」であり、これにより消滅時効が中
断する
①
長崎地五島支判平成19年8月8日
過払金が発生した場合には、その後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意
が存在したとした上で、消滅時効の起算点を問題とするまでもなく、過払金の一部につ
いては、その後の貸付金への充当により消滅するから消滅時効の成立する余地はないと
し、充当により消滅しなかった過払金については、仮に、過払金についての不当利得返
還請求権の消滅時効の起算点を過払金が発生する個々の弁済が行われた時であると解し
ても、当事者間に過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意があり、かつ、貸主に
おいて、当該貸付時に、過払いの状態であることを認識している場合には、貸付けをも
って、債務の一部弁済と同様に、過払金についての債務の承認をしたものと評価でき、
民法147条3号の消滅時効の中断事由又は既に完成した時効を援用することができな
い事由に当たるというべきであり、過払金の消滅時効は完成していない。
②
名古屋地一宮判平成16年10月14日
原告は、被告との包括的金銭消費貸借契約に基づいて、借り入れと返済を繰り返して
いたものであるから、その結果過払金が生じ、不当利得返還請求権を有するに至った以
後の新たな貸付金は、過払金を清算する趣旨で交付されたものと解するのが相当であり、
貸付けの都度、不当利得返還請求権についての弁済がなされたものと解され、貸付けの
都度、債務の承認がなされ、消滅時効は中断する。
32
ウ
取引終了日とする裁判例
①
東京高判平成20年8月27日
1個の連続した取引であることを前提に、当事者は一つの貸付けを行う際に、切替え
および貸増しのために次の貸付けを行うことを想定しているのであり、複数の権利関係
が発生するような事態が生じることを望まないのが通常であることに照らし、過払金が
発生した場合には、その後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在する
と解すべきであるから、最終取引日まで過払金返還請求権について消滅時効は進行しな
い。
②
神戸地判平成20年8月22日
1個の連続した取引であることを前提に、消滅時効の進行が開始する「権利を行使す
ることができる時」(民法166条1項)につき、※最大判昭和45年7月15日を引用
した上、利息制限法所定の制限を超える利率による金銭の借入れとその弁済が繰り返さ
れる継続的金銭消費貸借取引においては、従前の貸付けに対応する弁済や新たな借入れ
が相前後して充当される結果、取引が続く限り、過払金の有無や過払金額は、常に増減
を繰り返して一定しないことになることなどから、過払金返還請求権の行使が現実に期
待できるようになるのは、一連の連続した消費貸借取引の終了時又は借主が過払金の発
生を認識し、その返還を求める意思を明らかにしたときのいずれか早い方であると解す
べきである。
※
最大判昭和45年7月15日は、消滅時効の進行が開始する「権利を行使することが
できる時」(民法166条1項)とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないと
いうだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであ
ることをも必要と解するのが相当であると判示する。
(2)検討(判タ1209号16~17頁)
ア
最終貸付日説は、各過払金発生時説を前提としながら、各個別の貸付を全体として実
質的には一つの貸付と捉えるか、又は、過払金発生後の貸付が過払金返還債務の「承認」
であり、これにより消滅時効が中断するとし、最終貸付日を消滅時効の起算点とする。
「承認」(民法147条3号、156条)とは、「時効の利益を受ける当事者が、時効
によって権利を失う者に対して、その権利の存在することを知っていることを表示する
ことと解されており(我妻榮「民法講義・民法総則」
(岩波書店、新訂版、1956)470 頁)、
借主による債務の一部弁済はその典型例とされる。過払金返還訴訟において、充当計算
の過程で、あたかも新規貸付けを既発生の過払金に対する弁済であるかのように扱うこ
33
とが通常であることは確かであるが、これを超えて、貸金業者が、新規貸付けにより、
過払金債務の存在を知っていることを借主に表示しているといえるかについては、慎重
な検討が必要であろうと指摘されている。
イ
他方、取引終了日説は、貸金業者、借主間の継続的な取引が一体であることを前提に、
取引終了時をもって消滅時効の起算点とする。
これに対しては、民法166条1項の解釈論との整合性を検討する必要がある。すな
わち、伝統的な学説は、民法166条1項の「消滅時効は、権利を行使することができ
る時から進行する」との解釈について、権利を行使する上での障害を「事実上の障害」
と「法律上の障害」とに区別し、前者については時効の進行を妨げないとしており、そ
の例として、権利者の不在、疾病や権利の存在や行使の可能性を知らない場合を挙げる
のが一般的である。また、前掲昭和45年最判の考え方によっても、権利者が主観的に
権利行使できないというのでは足りず、権利の客観的な性質からして、その権利行使が
現実に期待できない場合である必要があると解すべきであるから、過払金がこのような
場合に当たるかは慎重な検討が必要であろうと指摘されている。
第3
一連充当計算と消滅時効との関係
訴え提起時から10年以上前に、先行する取引がいったん完済になった後、一定
の中断期間を経て、同一の貸金業者との取引を再び行った場合
消滅時効の起算点をどのように考えるかについては、以上と同様の議論が妥当する。
問題は、取引の中断期間がある点。
このような場合、消滅時効の起算点がいつと判断されるかは、まず一連充当計算が認めら
れるかどうかによる。
1
一連充当計算が認められる場合
取引の中断期間があっても、一連充当計算が認められれば、取引終了日を消滅時効の起算
点と考えた場合、すべての取引の最終取引日から消滅時効は進行する。
①
大阪高判平成20年4月15日
事実上1個の連続した取引であることを前提に、過払金が発生した場合には、その後
に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在したとし、一連の連続した貸付
と弁済によって生じる過払金は、過払金が生じた都度、その時点において不当利得返還
請求権が発生するが、当該発生した過払金は、後の借入金債務に充当される可能性もあ
34
り、また継続的に分割弁済が予定された契約においては、借主は、少なくとも一連の取
引が終了するまでは、各分割弁済を契約上の義務の履行として行う旨の認識のもとで弁
済を継続していると考えられるから、事実上1個であると評価できる一連の取引が終了
する以前に、当該借主に不当利得返還請求権の権利行使を期待することは現実には困難
であり、かつ、その権利行使をしないからといって、当該借主が必ずしも権利の上に眠
れるものであるとは即断できないとし、過払金返還請求権の消滅時効の起算点は、事実
上1個の連続した取引であると評価できる一連の取引の終了した時点である。
なお、中断期間は6ヶ月を若干下回る。
②
横浜地判平成20年1月24日
被告は、全取引を通じて同一の会員番号により借入及び返済の状況を管理しており、
借主は、当該業者との貸付取引において、借入れ総額の減少を望み、複数の権利関係が
生ずるような事態を望まないのが通常であるから、過払金があればこれを過払金発生後
の貸付に当然充当するというのが合理的意思であり、原告も同様であったと認められる
から、一連の取引とみるのが相当であるとし、借入と返済を繰り返す一連の取引の中で
発生した過払金返還債務は、新たな借入の元本に順次充当される関係にあり、返済と新
たな借入によってその額は増減するものの、同一の不当利得返還請求権に基づくもので
あるから、その消滅時効の起算日は、一連の取引が終了し、その額が確定した時点と解
するのが相当である。なお、中断期間は約6年9ヶ月間。
2
一連充当計算が認められない場合
先行する取引の終了時からは10年が経過しており、取引最終日を消滅時効の起算点と
考えた場合、先行する貸付け、弁済により発生した過払金については、消滅時効が完成し
ているということになる。
但し、いったん発生した過払金が、その後の貸付けと相殺されないかという問題は残る。
民法508条によれば、時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するように
なっていた場合には、この債権を自働債権として相殺に供することができるとされている
からである。
ただ、後続の取引に残債務がない場合には、相殺の対象となる債権が存在しないことと
なるため、相殺の意思表示前に弁済その他の債権消滅事由により債権が消滅した場合、そ
の後になってされた相殺の効力は生じないとされていることが問題となる。
①
横浜地判平成20年9月5日
◎
第1取引と第2取引とは、ともにリボルビング契約であり店番・会員番号とも同一
35
の2口の取引について、利息や遅延損害金の利率・各回の最低弁済額・借入限度額等の
契約の重要な要素が異なること、1年2月の空白があること及び第2の取引が偶然に開
始されていることから充当の合意があったと推認できる特別事情がないとして一連計算
を否定。
◎
過払金の発生事実を取引終了時に原告が認識していたかどうかには疑問もあり、権
利を行使することができる時(民法166条1項)をどのように解釈するかは問題があ
るが,引き直し計算により、過払金が発生した年月日を「権利を行使することができる
時」とみるのが相当であるとして、第1取引の過払金返還請求権は時効消滅していると
した。
◎
しかし、以下のように判示して、先行する取引の過払金(約132万円)をその後の
借入金との相殺における反対債権に供することができるものとして、結論的に一連計算
した場合と同一の結果を認めた。(第2取引単独でも約204万円の過払金)
(1)
債権が消滅した後になってされた相殺の意思表示が原則として効力を生じないこと
は主張のとおりであるが、その効力の発生が否定される理由は、返済を受けた当事者の
期待を保護する点にあるというべきである。
(2
)ところで、本件のような過払金返還請求訴訟においては,利息制限法所定利率によ
る引き直し計算を行い、いわば過去の弁済の効果を一部覆して計算をし直すものである
から、弁済により債権が消滅しているという前提そのものが崩れており、過去の弁済に
より債権が消滅したという事実を維持する必要はないことになる。また,問題の性質上
消費者金融業者である被告の期待を保護する必要性も否定される。また、過払金の有無
及びその額は,引き直し計算によって、初めて確定するものであるから、比喩的にいえ
ば、相殺過状は,引き直し計算によって、初めて発生すると考えることもできないでは
ない。その効果は過払金発生年月日に遡るとしても、以上の諸点を考慮すれば、意思表
示の時点で相殺適状が現に存在しなければならないとする原則は、この種訴訟では考慮
する必要はないと解する。
(3)
なお、原告の相殺の意思表示は順次相殺という包括的なものであり,相殺充当の特
定性(額及び充当債権)に問題がないわけではないが、これも許されるものと解する。
そうすると、第1取引の終了時点で過払金(及び法定利息)が発生し、第2取引の開始
時点以降相殺適状を生じ、順次借入金債務に充当されることとなることから、結論的に
は、第1取引と第2取引とを一連計算したのと同一の結果となる。
②
岐阜地多治見支判平成20年3月31日
先行する取引と後続の取引とは基本契約を異にする別個の取引であり、先行する取引
により発生した過払金を新たな借入金債務に充当することはできず、先行する取引によ
り発生した過払金の返還請求権は、遅くとも、先行する取引の終了時点から10年を経
過したことにより消滅時効が完成するとし、また、時効が完成した過払金の返還請求権
36
と後続の取引の貸金債権との相殺につき、受働債権とされた後続取引の貸金債権は、相
殺の意思表示のなされる以前である同取引の終了時までに、全額、各弁済ないし引直し
によって消滅したこととなるとし、借主の相殺の抗弁を排斥した。
もっとも、同判決は、継続的金銭消費貸借取引においては、過払金返還請求権の存否
は、借主にとって当該取引を継続すべきか否かの判断に当たり、重要な要素となってお
り、後続取引の開始時点で、先行する取引により発生した過払金の存在を知っていれば、
借主はその返還を求める一方、後続の取引の借入を受けることはないのが通常であるか
ら、後続の借入には、借主にとって、取引の可否を左右するに足りる重要な動機の錯誤
が存在したと認めるのが相当であり、この動機を十分知りうる立場にあった被告にその
表示の有無を争わせることは、信義則及び民法130条の趣旨に照らし不相当といわざ
るを得ず、この動機は、被告に対し黙示的に表示されており、後続取引の各借入の要素
になっていたとして、錯誤により後続取引を無効とし、錯誤の結果、被告は後続取引の
各弁済金相当額及び従前から負担する先行する取引により発生した過払金の不当利得返
還義務を、原告は後続取引の各借入金相当額の不当利得返還義務をそれぞれ相手方に対
し負うことになるが、これについて対等額による相殺を認めた。
なお、中断期間は約8年間。
なお、相殺を認めると、結論的には、先行する取引と後続の取引とを一連充当計算したの
と同一の結果となる。
第4
消滅時効が完成する場合のその他の処理
最終の貸付日から訴え提起時まで10年以上経過している場合
【最終弁済日(取引終了時)から訴え提起までは10年内】
(1)裁判例
①
前掲高松高判平成19年2月2日(添付資料10)
◎
事案の概要
(1 頁参照)
裁判所の判断:
消滅時効の起算点につき各過払金の発生時説に立ち、消滅時効が完成するとした上で、次
のように述べ、消滅時効の援用を信義則に反するとした。
(1) 約15年にわたって恒常的に過払いの状態が続いてきた
(2) (過払いが生じたあと)の借入金額と返済金額との不均衡には著しいものがある
37
(3) 被控訴人は,貸金業法の正当な解釈に従った措置を十分に講じることなく多額の金員を
取得してきた
(4) 被控訴人と控訴人(債務者)の立場・法的知識・能力の違い
(5) 被控訴人が,貸金の返還請求を続けることによって結果的に過払金の累積
などの事情にかんがみれば・・・被控訴人による消滅時効の援用を認めることは,誠実な債
務者に不利益を強いる一方で,貸金業法を遵守しなかった貸金業者に対して長期間に及
ぶ過払い状態の放置による不当利得の保持を容認することにつながるものであって,ク
リーンハンドの原則に反し,信義にもとる結果をもたらすものとして許されない。
②
大阪高判平成17年1月28日(添付資料11※別紙省略)
◎ 事案の概要
昭57.11.2
当初取引(100万円貸付)
複数回の貸付が予定されていたが、実際には以後新たな貸付なし
昭61.4.28
過払金発生(以後最終取引日まで過払状態)
平15.4.15
最終弁済日
裁判所の判断:
消滅時効は各過払金発生時から進行し、消滅時効が完成するとした上で、過払金の消滅時
効が完成したのは、貸金業者が長期(貸付時から約20年間、過払発生時点から約17年
間)にわたって支払を請求し弁済を受け続けてきたことによるものであり、本件の貸付金
は100万円にすぎないのに、貸付後貸金業者が借主に対して残債務の一括返済ないし早
期完済を請求した形跡はないことなどを挙げ、このような事情にもかかわらず、過払金の
一部の消滅時効を援用することは信義則に反する。
(2)検討(判タ1209号17~18頁)
ア
消滅時効の完成を認めた上で、その援用が信義則に反するとする上記大阪高判平成1
7年1月28日を事例判決であるとし、ただ、最終貸付けが訴え提起時から10年以上
前であり、かつ、最終貸付け後に弁済を受け続けたという場合に、いかなる事情があれ
ば時効の援用が信義則に反するといえるかについては十分な検討を要するであろうと指
摘されている。
イ
他方、(取引終了時説の立場によれば、このような場合も消滅時効は完成しないことに
なるが、)取引終了時をもって消滅時効が開始するとの見解に対しては、上述のように民
法166条1項の解釈論との整合性を検討する必要があるところ、このような場合、借
主は、貸金業者から既に貸付けを受けていないのであるから、借主が依然として貸付け
38
を受けていた場合に増して、「権利の性質上、権利行使が現実に期待できない」といえる
か否かについて慎重な検討が求められるであろうと指摘されている。
最終弁済日(取引終了時)から訴え提起日まで10年以上経過している場合
神戸地判平成19年11月13日
◎ 事案の概要
昭56ころ
当初取引
昭60.2.26
過払金発生(以後最終弁済日まで過払状態)
平2.9.6
最終弁済日
最終弁済日より10年を経過した過払金について消滅時効を援用
裁判所の判断:
主位的請求の不当利得返還請求については時効より消滅したとした上で、予備的請求の不
法行為に基づく損害賠償請求を認容。
同判決は、「被控訴人がした過払金となる弁済金の受領行為は、債務者である控訴人の無知
に乗じ、適法に保持し得ない金員を収受するものというべきであるから、社会的相当性を
欠く違法な行為といわざるを得ず、民法709条所定の不法行為を構成する。」そして、
「本
件不法行為に基づく損害賠償請求権は発生と同時に遅滞に陥る」と判示している。
以
39
上
7 「冒頭ゼロ計算」「推定計算」の裁判例
塩
田
隆
弘
1 「冒頭ゼロ計算」と「推定計算」
⑴ 意義
取引履歴が一部しか開示されない場合の利限計算の方法
「冒頭ゼロ計算」=被告の不合理な取引履歴の不開示のために取引履歴が再現できない等
の事情がある場合,再現できた取引履歴(被告が開示した取引履歴の
一部)の冒頭(初日)時点での貸付残金(貸金債務)を0として利息
制限法の利率で引き直さざるを得ない旨主張する方法
「推定計算」
=取引履歴の開示のない部分については,原告の記憶,残存する手持ち
資料(ATMなどでの振込証書等)によって再現し,あとは文書提出
命令等によって対応していく方法
⑵ 相違点
「推定計算」は,「冒頭ゼロ計算」に比較し貸付金額がマイナスになる(「冒頭ゼロ計
算」はゼロであるのに対し「推定計算」では過払金が生じる)という意味で原告に有利で
あるが,文書提出も困難な事情があり,しかもATMなどの振込領収書などを散逸してい
る場合など,立証をどのようにするかといった点で原告としても苦慮する実情にある。
2 裁判例
⑴ 「冒頭ゼロ計算」
争点
不当利得返還請求権の要件(損害,利得,因果関係,法律上の原因がないこと)のうち,
「法律上の原因がないこと」の主張立証責任につき…
原告が負うとの見解 ⇒ 当初貸付残高がないことを原告が証明しなければならない
被告が負うとの見解 ⇒ 当初貸付残高があることを被告が証明しなければならない
ア 原告が負うとの見解に立ちつつ「冒頭ゼロ計算」を認めなかった裁判例
東京地判平17.5.24(後記⑵ア①と同じ)
「控訴人は,主位的主張として,平成5年2月3日現在の本件取引における元金の残高を0円とし
て,それ以後の借入れと弁済に基づく不当利得の主張をすれば足りると主張している。しかしながら,
不当利得返還請求権における利得と損失の発生原因事実については,控訴人に主張立証責任があると
いうべきであるから,本件取引のうち,一定時期以後の期間のみを取り出して主張立証すれば控訴人
として主張立証責任を果たしたと解する根拠はない。また,控訴人は,平成5年2月3日現在の借入
残高は,少なくとも0円であったと推認されると主張するが,このような事実上の推定が働くために
は,少なくとも控訴人と被控訴人との間に一定期間の金銭消費貸借取引が行われていたこと,これに
基づき一定の利息制限法所定の制限利息を超える利息の弁済が行われてきたことが具体的な経過ま
では別として一応推認できることを基礎として,これに対して利息制限法所定の制限利息を超過する
40
利息の弁済を元金の弁済に充当する計算すれば,前記のとおり具体的な取引経過が認定できない結果,
具体的な過払金の金額までは認定できないとしても少なくとも元金が完済され,過払金が生じている
可能性が高いということを推認することができなくてはならない。しかるに,本件取引においては,
控訴人の主張する取引経過は,別紙計算書のとおりであるところ,同計算書によると,これに対して
前記の利息制限法所定の制限利息の弁済を元金への弁済に充当する引き直し計算をしても平成5年2
月3日現在の元金残高は15万6590円であるとされている。したがって,本件においては,控訴
人主張の事実上の推定をする前提事実を推認することができないから,控訴人の主位的請求は失当で
ある。」
イ 原告が負うとの見解に立ちつつ「冒頭ゼロ計算」を認めた裁判例
① 東京地判平16.3.31
「原告は,遅くとも昭和62年3月2日に貸金業者と取引を開始して以来,平成4年9月18日
まで5年あまりという長期間にわたって金銭消費貸借取引を継続してきたこと,その間,ほぼ限度
額一杯まで借り入れをしては,ほぼ毎月元利金の弁済をし,また借入れを繰り返すという取引経過
をたどってきたこと,その間の利息は,実質年率39.785パーセントと利息制限法所定の利率
を超えるものであったことを推認することができる。」「一般にこのような長期間にわたり,この
ような状況の下で利息制限法所定の制限利息を超える部分を元本の弁済に充当していけば,元本を
全額弁済し,さらに過払金を生じることになると認められる。したがって,原告と上記貸金業者と
の取引経過を詳細に認定することができない結果,原告が平成4年9月18日の時点で具体的に幾
らの過払金返還請求権を有していたのか認定することはできないとしても,上記のような制限超過
利息の元本充当計算によって原告の被告日する借入元本が完済され,過払金返還請求権が生じてい
たことを推認することができる。」「したがって,原告主張のとおり,平成4年9月18日時点に
おいて原告の上記貸金業者に対する残元本をゼロとした上で制限超過利息の元本充当計算を行うこ
とには合理的な根拠があると考えられる。」「上記帳簿は仮にこれが存在していれば文書提出命令
の対象となるべき文書である。したがって,前記のとおり,被告がこれを存在しないと主張してい
ることは,これが前記のとおり貸金業法施行規則に違反している疑いがあることと相まって訴訟上
の信義則に反すると評価せざるを得ない。以上によれば,本訴において,原告に対し,被告が取引
履歴を開示した部分よりも前の取引について貸付けと弁済についての具体的な主張,立証を求める
のは相当ではなく,前記に挙げたような諸事情から平成4年9月18日の時点における原告の借入
金残高を控えめにみてゼロと認定することも許されるというべきである。」
② 東京高判平16.7.29(上記①の控訴審)
上記①の判決理由の記載を引用するほか,下記を説示して,上記①の判断を是認。
「控訴人は,控訴人の手元に残っている資料によれば,平成5年2月18日における貸付残元本
は31万5692円である旨主張し,顧客取引リストにはその旨の記載があるが,同リストによれ
ば,その利率は実質年利39.785パーセントという利息制限法所定の利率を大幅に超えるもの
であり,被控訴人は,これを支払い続けてきたのであるから,仮に平成5年2月18日における貸
付残元本が31万5692円であったとしても,その5か月前である平成4年9月18日の時点で
制限利息超過部分を元本に充当していれば,少なくとも借入金元本は完済されたものと推認するこ
とができる。」
ウ 被告が負うとの見解に立ちつつ「冒頭ゼロ計算」を認めた裁判例
① 広島地判平16.8.3
「被告の主張が期間の初日現在の残高についてまで原告らが証明責任を負担すべきであるという
ものであるならば,独自の見解であって採用できない。そのように解するときは,債務者において
41
債権の存在(正確には,より以前の債権の発生原因事実)について証明責任を負担することになる
からである。したがって,期間の初日現在の残高については被告において主張立証すべきところ(こ
れが請求原因に対する反証であるのか,抗弁に係る本証となるのかはともかくとして),これに係
る主張立証がない以上,同日現在の残高は存在しないもの,すなわち,原告らによる計算のとおり
0円であったとして以後の計算をするのが相当である。」
② 広島高判平17.4.6(上記①の控訴審)
上記①の判決理由の記載をそのまま引用して,その判断を是認。
③ 盛岡地判平16.12.27
「昭和63年5月18日現在で貸金債権が存在することについては被告に主張立証責任がある
と考える
べきであり(そのように解さないと,債務者である原告が同日以前の債権の発生原因事実について
証明責任を負担することになる。),かかる主張立証がなされない以上,原告が主張するように,
昭和63年5月18日の時点では,債務残高を0円として以後の計算をするのが相当である。また,
このように同日時点において,貸付残高も過払金もいずれも存在しないものとして計算することは,
当事者間の公平の観点からも相当というべきである。」
⑵ 「推定計算」
手持ち資料によって取引履歴が再現されたとしてもあくまで推認に過ぎず、文書提出
命令に従わない場合の真実擬制を用いることにより取引履歴を認定する例が多い。
ア 文書提出命令に従わない場合の真実擬制により「推定計算」を認めた裁判例
① 東京地判平17.5.24(前記⑴アと同じ)
「・・・控訴人と旧レイクとの間の平成5年2月3日までの取引の内容についての控訴人の予備
的主張は,控訴人の陳述書及び控訴人本人尋問の結果によってもおおよそ事実に近いものと推認
できる。しかし,個々の具体的な借入れと返済の年月日及び金額についてまでは,これらによっ
ても認定することはできないので,被控訴人が文書提出命令に従わないこととの関係について,
さらに検討する。
前記・・・のとおり,被控訴人は,上記の取引経過を記載した帳簿等の文書提出命令が確定しても
これらを提出していない。弁論の全趣旨によれば,控訴人は,上記取引経過を客観的に示す文書
を保管していないため,上記文書提出命令によって提出を命じられた文書の記載に関し控訴人が
具体的な主張をすることは著しく困難であると認められる。また,上記の事情からみて,控訴人
は,当該文書により証明すべき事実(・・・)を他の証拠により証明することが著しく困難であると
認められる。したがって,民事訴訟法224条3項により,前記文書提出命令によって上記取引
経過についての控訴人の予備的主張(・・・)を真実と認めることとする。」
② 大阪地判平17.1.25
「被告のような利息制限法を超える利息金利を収受している貸金業者から金員を借り受ける者
の中には,多重債務者となり,債務整理を余儀なくされるようになる者が多いことは公知の事実で
あること,その際,債務者側が借入れ及び返済の証拠を保存しているようなことは稀であると考え
42
られる一方,債権者側がコンピューター処理によって債務者の取引履歴を保存することは容易であ
ると考えられること,貸金業法17条,18条は,貸金業者は,債務者に対し,いわゆる契約書面
及び受取証書の交付を義務づけており,同法19条は,債務者ごとに契約関係の帳簿の備付け及び
保存を義務づけていることからすると,貸金業者である被告は,債務者との取引履歴を保存し,債
務者から取引履歴の開示を求められた場合には,信義則上,これを開示すべき義務があると解する
のが相当である。
証拠(・・・)中には,被告(・・・)は,平成15年1月1日から,顧客との取引履歴が10年を経
過したものを順次廃棄していくことにし,同年4月2日から10年を経過した取引履歴を自動消去
しているとの記載部分(以下「本件記載」という。)があるところ,被告が本件記載を根拠として,
原告・・・の取引履歴についての文書提出命令に従わなかったことは当裁判所に顕著な事実である。
しかし,本件記載によっても,被告は,平成15年1月1日以前においては,原告・・・とレイク
との全取引履歴を有していたことが推認できる上,証拠(・・・)によれば,被告(・・・)は,原告・・・
に対し,平成14年3月27日に同日現在の債務内容を通知し,同年7月2日に平成4年1月27
日以降の取引履歴を通知していたことが認められる。そうすると,本件記載による取引履歴の削除
が開始された平成15年1月1日以前において,既に原告・・・と被告との間に,継続的金銭消費貸
借取引契約に基づく債務の内容ないし過払金の発生が問題となっており,被告が本件において貸金
業43条のみなし弁済を主張しているのであるから,被告が原告・・・との取引経過を示す重要な証
拠である取引履歴を廃棄してしまうというようなことは考えられず,被告が原告・・・の取引履歴を
廃棄したとして,これに対する文書提出命令に従わないということは,実際は,原告・・・の主張す
る以上に過払金が発生していることを隠ぺいしているものと推認するほかない。
以上検討の結果,被告が原告・・・の文書提出命令に従わなかったことにより,原告・・・の主張する
レイク
との取引履歴が真実であると認めるのが相当である。」
イ 事実認定で「推定計算」を認めた裁判例
宮崎地判平17.3.1
「・・・原告と被告との金銭消費貸借取引は,平成5年4月27日時点における貸付残元本が47万
5707円であったこと,原告と被告との間で,平成元年6月29日付で契約限度額を50万円とす
る基本契約証書が作成されていることなどの事実が認められるところ,これらの事実に,前記事実の
とおり,被告の宮崎店と取引を開始した者のうち,「契約番号1026-9236-1」を付された
者の基本契約書が昭和63年4月11日付で作成されていること,同じく,「契約番号1026-1
0157-1」を付された者の基本契約書が昭和63年5月16日付で作成されていること,原告の
契約番号は上記2つの契約の契約番号の間に位置する「1026-9529-1」となっていること
などの事実を併せ考慮すれば,原告と被告との取引は遅くとも昭和63年5月16日に開始されたも
のと推認することができる。
そして,原告は,昭和63年5月16日から平成5年4月27日までの取引につき,別紙原告計算
書1記載のとおり推定できる旨主張しているところ,同主張は,平成元年6月29日付で契約限度額
を50万円とする基本契約証書が作成されていることから当初の借入金額を30万円としている点,
平成元年6月29日付で契約限度額を50万円とする基本契約証書が作成された時点での原告の被
告に対する残債務額が約50万円としている点,原告が被告と同時期に借入れを行った株式会社武富
士への返済額(同社からの借入金額は50万円)が昭和62年10月30日から平成4年11月5日
まで2万円ないし3万円の間で推移している点(・・・)などからして一応の合理性を有しているとい
える。他方で,被告は,基本契約書の存する平成元年6月29日から平成5年4月27日までの取引
につき別紙被告計算書記載のとおり推定できる旨主張するところ,同主張は,前提事実及び弁論の全
趣旨により認められる,基本契約書(・・・)の作成年月日が上記2つの契約の契約締結日に遅れる平
成元年6月29日である一方で,契約番号が,昭和63年4月ないし同年5月に締結された上記2つ
43
の契約の契約番号の間に位置しているにもかかわらず,被告において,同基本契約書の作成年月日と
契約番号の関係が他の契約者のそれと逆転していることについて合理的説明をなしえていないこと,
被告が,平成元年6月29日付基本契約書について,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」
という。)に基づいてその写しを保存している旨主張しながら,貸金業法19条所定の帳簿について
廃棄の時期及び方法が不明である旨述べ,特に,電磁的記録の消去についてあえて回答しない旨の態
度を示していることなどの事実から直ちに信用することができない。
したがって,原告が主張する平成5年4月26日以前の取引経過は,一応合理的なものとして是認
することができ,他に上記推認を左右するに足りる証拠はない(・・・)。」
〈参考文献・HP〉
・判タNo.1209P27~
・「兵庫弁護士会 消費者問題判例検索システム」http://www.hyogoben.or.jp/hanrei/
・名古屋消費者問題研究会編「Q&A過払金返還請求の手引(第2版)」P60~,154~,172~
・民事訴訟手続研究会編「最新 民事訴状・答弁書モデル文例集1」P216ノ16~,212ノ27~
以
44
上
平成 20 年 11 月 13 日
東京法曹会実務研究委員会 3 班
C グループ
新入会員 大塚
陵
あかつき総合法律事務所
田中
公悟
奥野総合法律事務所
中村
広樹
西村あさひ法律事務所
野口
徹晴
山川萬次郎法律事務所
クレサラ事件に関する諸問題
第 3 部 消費者金融の破綻と過払金の処遇
本報告は、過払金返還請求権の法的性質についての検討を前提に、倒産手続(再生手続
及び更生手続を念頭にしている。)の各場面において、過払金返還請求権又は過払金債権
者が、どのように取り扱われ、どのような問題点を生じさせるかについて、近時の消費者
金融業者の破綻事例を基に考察を行うと共に、近時消費者金融業者が、顧客に対する貸金
債権を流動化して資金調達を行っている点に鑑み、消費者金融業者が破綻した場合の貸金
債権流動化及び過払金返還請求権の所在の帰趨についての考察を行った結果を取り纏めた
ものである。
第1 倒産手続における過払金返還債権のポジション
1 過払金返還請求権の法的性質
(1) 不当利得構成
利息制限法所定の上限利率を超える利息及び損害金が支払われた場合、その超
過利息等は元本に充当され、元本完済後に支払われた弁済金については、不当利
得として返還を求めることができる(最高裁大法廷判決昭和 43 年 11 月 13 日民集
22 巻 12 号 2526 頁、最高裁判決昭和 44 年 11 月 25 日民集 23 巻 11 号 2137 頁)。
(2) 不法行為構成
貸金業者が消費者より過払金となる弁済金を受領する行為は、消費者の無知に
乗じ、適法に保持し得ない金員を収受するものというべきであるから、社会相当
- 1 -
性を欠く違法行為である(神戸地裁判決平成 19 年 11 月 13 日判時 1991 号 119
頁。ただし、本判決は貸金業法施行前の取引に関するものである1。)
2 過払金返還債権の倒産手続における取扱い
(1) 問題の所在
倒産手続開始決定前の原因に基づく倒産債権者に対する財産上の請求権は、原
則として、再生債権又は更生債権(以下、個別に又は総称して「倒産債権」とい
う。)となる(民事再生法 84 条 1 項、会社更生法 2 条 8 項柱書)。倒産債権となれ
ば、債権カットの対象となり、また、債権届出期間内に届け出なかった場合、原
則として再生計画認可決定の確定時又は更生計画認可決定時に、失権する(民事
再生法 178 条本文、会社更生法 204 条 1 項)。
そこで、消費者金融業者が倒産した場合において、その顧客が倒産手続の前後
を通じて当該業者との間で貸付と弁済を繰り返したことにより過払金が発生して
いるとき、その過払金返還債権は「倒産手続開始前の原因に基づく」請求権となる
のであろうか。ここでは過払金返還債権の発生時期と関連して問題となる。
ア
個別発生説
過払金返還債権は、「過払金が発生した都度、具体的な債権として発生す
る」と考える立場であり、これによれば、倒産手続の開始決定時までに発生
した部分(既存過払金返還債権)については、倒産債権となる。
イ
取引終了時説
過払金返還債権は、「基本契約に基づく取引が継続される限り、不当利得
債権として顕在化しないのであり、取引終了時(今後基本契約に基づく新た
な貸付が発生しないことが確定した時)に、具体的な一個の債権として確定
的に発生する」と考える立場であり、この立場によれば、取引終了時が開始
決定時より後であった場合、過払金返還債権は倒産債権ではなく、手続開
1
本判決は、「本件取引において、超過利息の支払が貸金業法により有効な利息の債務の弁済とみなさ
れる余地は全くなかった。」「本件取引には貸金業法が適用されないことに照らせば、被控訴人が、
本件取引において、支払われた超過利息を利息ないし損害金として適法に保持する余地はなく、適
法な営業を前提とする限り、残元本があれば超過利息は元本に充当し、元本完済後の弁済金は不当
利得とする以外の計算を行うことは、およそ観念できなかったのである。」と判示されている点には
注意を要する。
- 2 -
始後に生じた不当利得返還請求権として共益債権にあたり(民事再生法 119
条 6 号、会社更生法 127 条 6 号)、その全額の返還を請求できることにな
る。
(2) 裁判例
ア
大阪高裁判決平成 20 年 9 月 25 日
本件は、会社更正法の適用を受けたライフに対し、その顧客であった者が
過払金の返還を求めた事案(以下、この事案を「ライフ事件」という。)である
が、裁判所は、前記「個別発生説」に立ち、既存過払金債権は、更生債権に該
当すると判示した。
すなわち、「会社更生法は、基準時における更生会社の債権債務を明確に
したうえで、それを基にその事業の維持更生を図るため更生計画を立てるも
のであるから、基準時前の債権債務と基準時後の債権とは同一の債権債務で
はなく、被控訴人(註・顧客側)主張のように、基準時前の既存過払金返還債
権が最終的には基準時後に確定することがあるとか、既存過払金債権が基準
時後の債務に充当されるような考えをとることはできないし、同債権が更生
債権でないと解する余地はない。…過払金返還債権は、過払金が発生した
都度、具体的な債権として発生するのであって、被控訴人が、控訴人を悪
意の受益者として法定利息の発生を主張することや、新たな貸付への充当を
認めること自体、過払金が発生した都度、その返還を求める債権が具体的な
債権として発生することを認めていることに他ならない。」などと判示して
いる。
もっとも、①ライフは、顧客が既存過払金債権について債権届出をするか
しないかでその権利関係に大きな影響があることを容易に認識していたはず
であるから、債権届出をしない顧客を債権届出をした顧客と同様の取扱をす
るか、更生管財人において全国各紙に「ライフカードはこれまで通り使えま
す」との宣伝をする際、過払金返還債権について債権届出をしないと失権す
ることがある旨付け添えて説明すべきであったと考えられること、②本件よ
り後に会社更生手続開始決定を受け、ライフと同じくアイフルがスポンサー
となったティーシーエムは、既存過払金返還債権につき共益債権と同様の取
扱をしているのであるから、ライフにおいても、同じスポンサーを持つ
ティーシーエムの上記取扱が判明した後は、免責の主張をしないのが筋の
通った態度というべきであること、などを理由として、ライフの免責の主
張は信義則に反するとした。
その結果、ライフの免責(失権)の抗弁は排斥され、既存過払金返還債権に
- 3 -
ついては、一般更生債権の最低弁済率 54.268%を乗じた金額が認容された
(なお、基準時後の過払金返還債権については、これを請求できることは明
らかであると判示している。)。
イ
神戸地裁判決平成 20 年 2 月 13 日(アの原審)
前記「取引終了時説」をとり、原告(顧客)の請求を全面的に認めた。
すなわち、「本件取引は、同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継
続的に貸付と弁済が繰り返される金銭消費貸借取引」であり、「このような
継続的取引において、超過利息の弁済を繰り返すことによって過払金が生じ
た場合、この過払金については、その後に発生する新たな借入金に充当する
旨の合意を含んでいるものと解される(最高裁平成 19 年 6 月 7 日判決参照)」
から、「取引が継続される限り、…過払金返還債権の額も変動し、これが確
定するのは、基本契約が終了した時点(新たな借入も弁済もしないことが確
定した時点)である」として、「このような過払金返還債権は、取引終了時
に、具体的な一個の金銭債権として認識可能な状態となると解される(すな
わち具体的な金銭債権として顕在化する-発生する-と解される)」と述べ
て、更生手続後も更生会社による貸付と弁済の受け入れが繰り返された本件
取引には、免責にかかる旧会社更生法 241 条(現 204 条)の適用はないと判示
した。
2 「手続開始後に生じた不当利得返還請求権」以外の共益債権にあたるか
「個別発生説」に立脚し、既存過払金返還債権を倒産手続開始前の原因に基づく請求
権と解したとしても、なお同債権が民事再生法又は会社更生法が共益債権として掲げ
る請求権にあたれば、もとより共益債権となる余地がある。
以下では、前記ライフ事件において争点になった条項について、顧客側の主張内容
とそれに対する前記大阪高裁判決の判示を紹介する。
(1) 更生手続開始後の更生会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分に関する費用
の請求権(会社更生法 127 条 2 号、同旨民事再生法 119 条 2 号)又は更生会社のた
めに支出すべきやむを得ない費用の請求権で、更生手続開始後に生じたもの(会
- 4 -
社更生法 127 条 7 号2、同旨民事再生法 119 条 7 号)
前記ライフ事件において、顧客側は、「貸金業者は、真実は過払金が発生して
いる顧客であっても、更生手続上は、貸金債権を有する顧客として取り扱い、こ
うすることによって、債権者の配当を極大化するとともに事業継続が可能となっ
たのであって、多数の顧客の過払金返還債権について、更生手続内で更生債権と
して統一的かつ集団的に取り扱うことは全く予定されていなかったのであるか
ら、その返還に要する費用は、更生手続上避けることのできない、やむを得ない
費用というべきである」旨主張した。
しかし、前記大阪高裁判決は、「既存過払金返還債権は、更生手続開始前の原
因に基づいて生じた財産上の請求権であり、更生手続開始後の会社の事業並びに
財産の管理及び処分に関する費用とはいえない」などとして、顧客側の主張を採
用しなかった。
(2) 双務契約について更生会社及びその相手方が更生手続開始の時において共にまだ
その履行を完了していない場合において、管財人が債務の履行を請求する場合に
相手方が有する請求権(会社更生法 61 条 4 項、民事再生法 49 条 4 項)
ライフ事件において、顧客側は、「カード会員契約は、顧客に信用事故等が生
じない限りは、限度額の範囲内において、控訴人(註・ライフ)が顧客に対し立替
払あるいは金銭消費貸借に応じるべき義務を負わせる契約である」などとして、
既存過払金返還債権は、旧会社更生法 208 条 7 号(現 61 条 4 項)の適用又は類推
適用による共益債権となると主張した。
しかし、前記大阪高裁判決は、「本件取引は、金銭消費貸借取引、すなわち片
務契約たる金銭消費貸借契約に基づく取引であって、これが双務契約であること
を前提とする被控訴人の主張は明らかに理由がない」として、その主張を容れな
かった。
3結
論
既存過払金返還債権を倒産手続開始前の原因に基づく請求権と解する以上は、同債
2
なお、ライフ事件は、旧会社更生法の事案であるところ、現行会社更生法 127 条 7 号に相当する旧
同法 208 条 8 号には「更生手続開始後に生じたもの」という限定規定がなかった。そこで、旧会社更
生手続においては本来は更生債権であっても、人道上又は事業継続上の強い要請から、共益債権と
しての支払が許容される条文上の可能性を残していた。しかし、現行会社更生法及び民事再生法に
おいては、前記限定規定を設け、明文でその可能性を排除したことになる。したがって、現行法下
においては、本争点について、会社更生法 127 条 7 号及び民事再生法 119 条 7 号が問題とされるこ
とはないと思われる。
- 5 -
権に共益債権性は認めらない。したがって、過払金返還請求権は、倒産手続において
以下のとおり取り扱われることになる。
①
開始決定前に取引が完了している場合は、過払金全額が倒産債権となる。
②
開始決定の前後を通じて取引が継続している場合は、開始決定時までに発生した
部分は倒産債権となり、他方、開始決定後に発生した部分は共益債権となって、
同部分については、倒産債権に先立って、かつ随時弁済される。
第2 倒産手続での問題点
過払金返還請求権は、一定の計算式に基づき計算をしてみないと、債権の有無や金
額が分からないという特殊性がある。ところが、消費者金融業者が全ての過払金債権
者について取引履歴を調査し制限利息に引き直し計算をすることは、不可能ではない
が、技術的に著しく時間がかかる。また、過払金返還請求権者である一般消費者は、
取引が終了している場合などは自己が過払金返還請求権を有していることに気付かな
いことも多く、また過払金返還請求権を認識した場合であっても、家族等への発覚を
おそれて法律の専門家へ相談することや権利行使を控えることが少なくないため、債
権者の積極的な手続参加が必ずしも期待できない。
以上の前提のもと、膨大な過払金債権者はどのように処遇されるのであろうか。
1申 立 て
(1) 債権者一覧表への記載
実務上、申立ての段階では、現に取引履歴の開示請求をしてきた者、過払金返
還請求をしてきた者、訴訟提起してきた者、及び、訴訟上の和解が成立している
者のみが記載されているようである3。
この段階で潜在的な過払金債権者を拾いあげることは時間的な制約から難しい
ように思われる。潜在的過払金債権者をどのように取り扱うかについては、手続
3
民事再生手続の申立書には、債権者の氏名、住所、郵便番号、電話番号及びファックス番号を記載
した債権者の一覧表を添付するものとされている(民事再生規則 14 条 1 項 3 号)。この債権者の一覧
表は、閲覧等の請求者を限ることができる文書等に含まれていない(民事再生法 17 条 1 項参照)。過
払金債権者の一覧表は消費者金融会社の顧客名簿に等しいため、プライバシー保護の観点から、問
題が大きい。過払金債権者を知れたる債権者と解する場合、大部分の顧客の情報を開示することに
なろう。なお、会社更生手続においては、会社更生規則 13 条 1 項 5 号は、氏名又は名称及びその有
する債権の内容を記録した一覧表の添付を求めているに過ぎない。濱田芳貴「民事再生の申立てと再
生債権者の個人情報について」金融商事判例 1280 号 2 頁参照。
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開始決定後に具体的に問題となっていくこととなる4。
(2) 保全処分
ア
弁済禁止の保全処分
保全処分の除外債権の上限額≦計画において全額弁済を受ける債権の上限
額という実務上の運用を前提とすれば、弁済禁止の保全処分の除外債権の上
限額を高く設定すると、過払金返還請求権が計画に基づき弁済される債権で
あるとの前提に立った場合、過払金債権者数が膨大な消費者金融業者におい
ては、計画における弁済原資が相当に大きくなる。
このため、アエルの事例では、金額を基準とした除外債権は設けられてい
ない。
イ
債権譲渡禁止の保全処分(後述第 3・4(1)参照)
2 開始決定
開始決定時に行われる知れている債権者への通知(民事再生法 35 条 3 項 1 号、会社
更生法 43 条 3 項 1 号)を潜在的な過払金債権者に対しても行う必要があるか。
(1) 民事再生の場合
知れている債権者5への通知の際は、申立書に添付された債権者一覧表に記載
された債権者(履歴開示請求してきた者、請求してきた者、訴訟提起してきた
者、及び債権届出書の送付を求めてきた者)にのみ個別に書面を送付することで
足りるとして取り扱われている。潜在的な過払金債権者に対しては、送付されて
いない。
民事再生法には自認債権の制度(民事再生法 101 条 3 項)があり、また仮に自認
債権として救済ができなくとも、帰責事由なく債権届出期間内に届出ができな
4
後述の知れたる債権者への通知の議論とパラレルに考えれば、更生手続においては、潜在的な過払
金債権者の記載も要求されるものと考えられるが、事実上困難であると言わざるを得ない。
5
「知れている債権者」とは、開始決定当時裁判所に知れている者をいうのであって、一般的には再生
債務者等が作成した債権者一覧表に記載された再生債権者をいう。再生債権者は、その額が確定し
ていることは必要ではない。ただし、係争中の債権であって再生債権者がその存在を争い、債権者
一覧表に記載していない場合には、仮にそのような訴訟が官署としての再生裁判所に係属している
ときにおいても、当該債権者は、知れている再生債権者としての取扱いを受けない。園尾・小林編
「条解民事再生法」146 頁〔植村〕(弘文堂、第 2 版、2007)
- 7 -
かった再生債権を救済する制度がある(民事再生法 181 条 1 項)ためであると考え
られる。
※
ア
届出を促す新聞広告
潜在的な過払金債権者を知れている債権者として認める必要はないとの立
場に立った場合は、新聞広告自体に法的な意味はないと思われる。
この立場によれば、新聞広告は、届出期間経過後あるいは再生計画認可決
定確定後に新たに現れる債権者の数を減少させ、手続における不安定要素を
減らすためにする事実上の方策ということになる。
イ
仮に、潜在的な過払金債権者を知れたる債権者として認める立場に立った
場合、債権者への個別の通知(民事再生法 35 条 3 項)をしなかったことが争
われたときは、通知は必ずしも個別に書面を送付する方法による必要はな
く、相当と認める方法によればよいから(民事再生規則 11 条、民事訴訟規則
4 条 1 項)、新聞広告という相当と認める方法により通知したと主張する余
地がある。
(2) 会社更生の場合
知れている債権者6への通知の際は、潜在的な者を含む全ての過払金債権者に
個別に書面を送付する必要があるとの見解のようである。これは、会社更生法に
おいては、民事再生法と異なり、条文上期日までに債権の届出をしないと失権し
てしまうため(会社更生法 204 条 1 項)、債権届出の前提となる通知は必須である
との考えに基づくと考えられる。
6
................
「知れている」とは、開始決定当時裁判所に知れていることで、帳簿その他の資料により知ることの
....
できる者および調査結果によって知れている者を含む(傍点筆者)。兼子ほか著「条解会社更生法上」
455 頁(弘文堂、第 4 次補訂版、2001)
- 8 -
3 債権届出7・認否
(1) 潜在的な過払金返還請求権の自認(民事再生法 101 条 3 項)
クレディアは、自認債権とは扱っていない。しかし、弁護士会、司法書士会か
らは、自認債権とするよう求める声明が出されている8。
「再生債権があることを知っている場合」とは、再生債務者が再生債権が存在す
る根拠となり得る資料を有しており再生債権があることを知ることができる場合
を当然に含むのか、含むとして膨大なデータ処理が事実上困難である場合も、こ
のような場合に当たるのか。
自認制度の目的は、再生債務者等が認識している債権まで計画弁済の対象から
除外することは信義に反し相当でないため、そのような債権を失権させないこと
にある。
とすると、再生債務者等が現実に認識していない債権であっても、「合理的な
努力」をすれば知ることができる債権を失権させることは相当でない。
したがって、申立ての時期、会社の規模、債権を認識するのに必要な時間と被
費用等を総合考慮して自認の要否を決すべきであろう(山本和彦『過払金返還請
求権の再生手続における取扱い』NBL892 号 12 頁)。
(2) 届出期間満了後付議決定前に届出があった場合(民事再生法法 95 条 1 項、会社更
生法 139 条 1 項)
再生債権者又は更生債権者等が「その責めに帰することができない事由」9
10
に
7
裁判所が開始決定と同時に定める債権届出期間は、過払金返還請求権が権利の存在や金額を把握し
づらい特殊な債権であることに鑑み、「特別の事情」(民事再生規則 18 条 1 項、会社更生規則 19 条 1
項)があるとして、通常よりも長く定めるべきであるとの指摘がある(山本和彦「過払金返還請求権の
再生手続における取扱い」月刊登記情報 553 号 1 頁)。この「特別の事情」とは、例えば極めて多数の
債権者が存在する場合であって、債権届出期間の周知に相当の時間や手間を要することが予想され
る場合をいう。最高裁判所事務総局民事局監修「条解民事再生規則」52 頁(法曹会、2005)
8
自認債権を広く認めることは、潜在的な過払金債権者には利益になるが、現実的には弁済率の低下
を招来するため、届出債権者にはかえって不利益になる可能性もある。
9
届出期間を設定したのは、スピーディな再生計画立案を可能にする目的であるから、再生計画立案
に支障がない場合は、「その責めに記することができない事由」は緩やかに解するのが妥当である。
前掲「条解民事再生法」437 頁〔岡〕。再生手続においては、破産手続における絶対的平等原則を修
正し、高額な債権者よりも少額の債権者を優遇すべき規定があり、少額の債権者を相対的に有利に
扱う傾斜弁済規定なども衡平を害さないと解されている。このように、一定の場合には少額の債権
者の相対的な優遇も許されれていることからすれば、債権額が小さく遅れが短いために計画の作成
にまったく支障を来さないような事情がある場合には、「その責めに帰することができない事由」に
ついて、例外的に緩やかに解す余地もあると考えられる。全国倒産処理弁護士ネットワーク編「新注
釈民事再生法【上】」472 頁〔林〕(きんざい、2006)。
- 9 -
よって届出をすることができなかった場合に当たるか。
個別の通知を受けていない場合、通知がなされていないこととの関係で「その
責めに帰することができない事由」に当たるかも問題となりうる11。
一般論としては、個別の通知を受けていなくとも、新聞広告等により倒産手続
の事実を知ることができたのに、それでも届出をしなかった債権者を保護する必
要性は高くはないとも思われるが、債権の存在及び金額を容易に知ることができ
ないという過払金返還請求権の特殊性に鑑みれば、広く救済をしてもよいように
思われる。
(3) 貸金債権が証券化の対象となっている(譲渡されている)場合(後述第 3・2 参照)
貸付債権の信託譲渡に伴い、過払金返還請求権は、どこに移転しているのか。
4 計画案の作成と付議
(1) 過払金債権の優遇
少額債権の弁済については、一定額までは 100%弁済を行うのが慣例となって
いること、また、法律上も少額再生債権者を優遇することを認めていることか
ら、過払金債権者の過半数が全額弁済ないし大部分の弁済を受けられるような少
額債権のバーを設定して、頭数で上回る過払金債権者に納得の得られる弁済の方
法を提案しなければ、計画案の成立は難しい12。
10
会社更生法も民事再生法と同様の議論が妥当すると思われる。手続に重大な支障を生ぜしめない限
り右の事由をできるだけ広く解し、届出の機会をできる限り広く認めるのが妥当だからである。兼
子ほか著「条解会社更生法中」586 頁(弘文堂、第 4 次補訂版、2001)
11
再生手続がされていることを当該再生債権者が再生債務者から知らされずにいた場合は、再生手続
開始決定等が官報公告され広く利害関係人に知らしめられていることを考慮すると、どこまで考慮
するかは難しい問題である。(中略)東京地方裁判所破産再生部の運用では、再生債務者に異議がな
いときは、一般調査期間開始前であれば認否書に届出と認否の追加記載を認めている。東京地裁破
産再生実務研究会著「破産・民事再生の実務《下》」206 頁〔松井〕(きんざい、2008)。もっとも、
前掲「条解民事再生法」437 頁には、マスコミなどにより当該再生手続が公知となっていた場合は別
論である旨の指摘がなされている。
12
過払金債権者からの事前の賛成票集め(委任状集め)も、債権者数の多さから問題となる。多数の過
払債権者の利益代表として行動するのに相応しい者は誰か(司法書士は、職務範囲と関連して、問題
はないか)、代理委員(民事再生法 90 条 1 項、会社更生法 122 条 1 項)の選任の余地などはないか、
検討の余地がある。
- 10 -
(2) 届出のない潜在的過払金債権者の処遇
クレディアの事例では、債権届出をしなかった潜在的過払債権者も、「当該債
権者には『責めに帰することができない事由』が存在するものと考えるべきであ
り、民事再生法 181 条 1 項 1 号13の趣旨を尊重して、請求があれば再生債権額の
確定を行った上で、債権届出を行った債権と同じ条件にて弁済を行う」という取
扱いをしている。
また、自認債権に該当するかという解釈にも関連するが、事案によっては再生
債務者が届出がされていない再生債権があることを知っている場合に当たるとし
て、民事再生法 181 条 1 項 3 号により救済することもできる余地もあると考えら
れる。
潜在的な過払金債権者の救済の途を閉ざし、失権させることは、債権者平等を
害するという点はもとより、計画案成立後の会社ないし事業承継先への訴訟を濫
発させる原因にもなりかねないといえる。
しかしながら、付議決定後の届出債権者をも救済することは、スポンサーに
とっては、将来の資金負担等の見積もりを不確実なものとし、好ましいものでは
ない。
そこで、自主再建型、スポンサー型を問わず、潜在的な過払金債権者を織り込
んだ計画案の立案をしなければならない(但し、潜在的過払金債権者の債権が顕
在化する時期およびその額が計画案作成時に判断し難いため、自主再建型の計画
案については履行可能性に懸念が生じうるものと思われる)14。クレディアの計画
案に見られるように、弁済額の上限を画するのが現実的であると思われる。
13
会社更生法には本条 1 項 1 号のような規定はないが、手続開始前に行われた会社の不法行為に基づ
く被害が届出追完後期間経過後に顕在化したように、届出期間中はもちろん、審理のための関係人
集会までに届出をすることがおよそ期待できない場合にも、会社更生法 204 条 1 項 2 号ないし 4 号
をを類推適用して救済しようという解釈論はある。兼子ほか著「条解会社更生法下」745 頁(弘文堂、
1974)
14
この他にも、①本来失権するはずの債権まで他の再生債権と同様に弁済することを内容とする再生
計画が適法か(失権を認めない手続としては簡易再生があるが、通常再生の再生計画で同様の扱いを
することが許されるか)、②本来失権する債権者と届出再生債権者を同じ弁済率とすることが債権者
平等に反しないか、③過払金返還請求権以外の債権を有していたが届出をせずに失権した債権者と
の間で不平等な取扱いとならないか、④潜在的な過払金債権者の債権確定手続はどうするのか、な
ど問題は少なくない。特に③に関しては、過払金返還請求権の届出の困難性のみで正当化できる
か、疑問がある。前掲山本和彦論文を参照。
- 11 -
第3 貸金債権が証券化(譲渡)されていた場合の問題点
1 背景
貸金債権の譲渡担保への提供や信託譲渡等による流動化と過払金返還請求の急増
2 貸金債権が証券化(譲渡)されている場合の過払金返還債務の所在
貸金債権が証券化(譲渡)されている場合、誰が過払金返還債務を負担するのだろう
か。破綻した消費者金融業者に対する債権届出の可否・要否及び消費者金融業者以外
の者に対する過払金返還請求の可否と関連して問題となる。
論理的には
①
譲受人(信託の受託者や SPC)のみが過払金返還債務を負う
②
譲渡人(消費者金融業者)のみが過払金返還債務を負う
③
受益者(投資家)が過払金返還債務を負う
④
譲受人及び譲渡人が過払金返還債務を負う
との考え方がある。
クレディアの事例では、譲渡人であるクレディアは過払金返還債務を負うとして、
(信託)譲渡された貸金債権の債務者から債権届出があった場合、それに応じるとの取
扱いがされた。
少なくとも、貸金債権が譲渡された場合には、譲受人たる受託者が過払金返還債務
を負担するとの考え方が自然ではないだろうか(前記①又は④)。私見では、クレディ
アの処理は、④と整合的と考えられる。
3 貸金業法 24 条 2 項の書面交付義務
貸金業法 17 条を準用する同法 24 条 2 項により、貸金債権の譲受人は、貸金債権の
債務者に対し、債権譲渡日や債権譲渡金額等法定事項を記載した書面を交付する義務
がある。このような書面の交付義務が、債務者数が多数にのぼる貸金債権の流動化の
際にも生じると考えれば、実務上の負担から流動化の極めて大きな障害となる。
しかし、貸金債権の譲渡が信託的譲渡である場合には、消費者金融業者がサービ
サーとして回収を継続する等の一定の要件の下、同法 24 条 2 項の通知は不要である
という実務慣行が形成されている。
その主な根拠は以下の 2 点にある。
①
同法 17 条の立法趣旨(債務者に債権譲渡の事実を了知させ、債権の譲受人に
- 12 -
よる不意打ち的な履行請求から債務者を保護すること。)に反しない。
②
譲渡担保との均衡。
もっとも、明文上の根拠がない以上、実際に消費者金融会社がデフォルトした場
合、同法 24 条 2 項に基づく通知を欠いていることを指摘されるおそれは現実問題と
しては存在する(例えば、クレディアのケースにおける静岡県司法書士会による一連
の行動)15。
4 倒産手続と貸金債権の流動化・集合債権譲渡担保
(1) 集合債権譲渡担保や ABL に関する債権譲渡実行禁止の保全処分
ア
集合債権譲渡担保や債権譲渡の実行禁止の保全処分の必要性
集合債権譲渡担保権や債権譲渡(及び譲渡通知・承諾要求)の実行、さらに
バックアップサービサーの発動などが実行された場合、消費者金融業者の重
要資産である貸金債権や顧客基盤が失われ、会社再建が事実上不可能にな
る。
イ
債権譲渡等の実行禁止保全処分の可否
(ア)
会社更生法 28 条 1 項(同旨民事再生法 30 条 1 項)が「開始前会社の業
務及び財産に関し、開始前会社の財産の処分禁止の仮処分その他の必
要な保全処分」と規定していることから、従前は、担保権者等の第三者
を名宛人として保全命令を発令することは、許されないのではないか
との考え方もあった。
しかしながら、現在では、保全処分は手続開始の効果を開始前にお
いて仮定的に形成するものであり、開始決定があれば担保権者等の第
三者も手続に拘束される以上、認められると考えられている。
(ィ) 過去の事例
日本リースの更生手続においては、申立会社を名宛人として債権の
譲渡及びその対抗要件の具備が禁止されている。
また、ティーシーエム、アエル及びナイスの事案では、債権譲渡担
保との区別を一義的に行うことが困難な流動化された貸金債権の取り
15
この他、バックアップサービサーが発動した場合、貸金業法 24 条 2 項通知の問題が顕在化する。
- 13 -
立てを阻止するため、債権譲渡担保権者並びに債権の信託譲渡を受け
た信託銀行及び信託銀行に対する貸付人である SPC を名宛人として保
全命令が発動されている。
なお、株式会社ライフの事案においては第三者たる担保権者や債権
譲受人を名宛人とした保全処分が発動されているが、流動化の対象と
なった債権の譲受人は保全処分の名宛人から除外されている。
ウ
債権譲渡実行禁止の保全処分とサービサー交代通知の送付
貸金債権を証券化している消費者金融業者がデフォルトした場合、バック
アップサービサーが発動され、サービサーが交代すると契約されているのが
少なくない16。
仮に、実際にサービサーが交代された場合、そのサービサー交代通知を送
付することが債権譲渡実行禁止の保全処分に抵触しないか問題となる。
この点、当該書面が民法 467 条に基づく通知であることが明記されていな
くても、特定の債権が特定の譲受人に譲渡されてという事実を示すもので、
当該通知によって債務者が当該債権譲渡の事実を知ることになる以上、サー
ビサー交代通知の発送であっても保全処分に抵触することになるのではなか
ろうか。
(2) 取り立てた回収金の使用の可否
ア
貸金債権の回収権限の喪失
取立委任契約上、被担保債権の期限の利益喪失や倒産手続開始の申立て自
体が取立委任の解除事由とされていることが通常であるから、倒産手続開始
申立てにより譲渡担保に供されている貸付債権の回収権限が失われるのでは
ないか問題となる。
この点、倒産手続開始原因となるべき事実が生じたことを契約解除事由と
する旨の特約は、会社事業の維持更正を図ろうとする会社更生法の目的を害
することから、無効とした最高裁判決昭和 57 年 3 月 30 日民集 36 巻 3 号
484 頁からすると、特段の事情がない限り再生債務者等又は保全管理人らが
16
過去、アエルの事例では実際にバックアップサービサーが発動されたが、クレディアの事例では発
動されなかった。バックアップサービサーが発動されなかった理由としては、これが発動される
と、消費者金融会社がサービシング業務を継続できなくなり資金繰りに支障が生じたり、通知の未
達等通知に伴うトラブルによりバックアップサービサーの回収率が消費者金融会社の回収率よりも
一般的に低下したりすると言われていることが考えられよう。
- 14 -
回収権限を失うことはないと思われる。
イ
取り立てた回収金の使用の可否
回収された金員はもはや担保目的物ではないことから、再生債務者等又は
保全管理人が管理処分権を有するのが原則である。
もっとも、このような金員は譲渡担保の対象となっている債権が回収され
て現預金に変じたものであるから、これを無断で使用することは担保権者の
利益を害するし、また、破産手続に移行した場合に譲渡担保権は別除権とし
て取り扱われるところ、当初から破産手続で処理されていた場合とで不均衡
が生じるのではないかという点から、再生債務者等又は保全管理人としては
善管注意義務に基づき慎重かつ適切に行使することが必要となってくる17。
この点、特に、再生債務者等又は開始前会社若しくは更生会社に余剰資金
がなく回収した金員を運転資金に使用せざるを得ない場合、譲渡担保権者と
協議の上、回収金のうち一部は預金をしたうえで担保権者のために質権を設
定して担保返還を行い、残部については事業資金として使用することの許諾
を受けるという処理が考えられる。
なお、ティーシーエムの事案では、保全管理人団は、回収した金員のう
ち、被保全債権の元本充当予定部分及び約定利息充当予定分を超える利ざや
の部分については、譲渡担保契約の趣旨からして、これを運転資金及び追加
融資のための資金として利用することが元々予定されているのだから、事業
資金として利用し、元本及び約定利息分は別口座にて管理することを譲渡担
保権者全員にアナウンスした上で、実行している。
ウ
別除権協定
これまでの事例と異なり、過払金返還請求権が顕在化している昨今の状況
の下では、別除権協定における担保目的物たる貸金債権の価額の算定に関し
ては、過払金部分の評価が問題となる。
近時の利息制限法の下でのグレーゾ-ン利息に関する判例理論とみなし弁
済(貸金業法 43 条 1 項)の要件の厳格な解釈の確立のもと、みなし弁済の適
用が否定される可能性のある貸付債権が流動化されている場合には、担保目
的物たる貸金債権の価額の算定について過払金部分に関する減価がなされる
必要があるものと思われるが、(譲渡担保契約締結時などの)流動化スキーム
17
破産管財人の担保価値を維持すべき義務違反が問われた最高裁判決平成 18 年 12 月 21 日民集 60 巻
10 号 3964 頁が出たことから、神経質になる必要があるように思われる。
- 15 -
の設計時点で現状のような過払金返還請求権の顕在化リスクを十分に想定し
ていた(すなわち過払金部分の減価を織り込んだ担保目的物の価額評価をし
ていた)スキームは多くないと思われる18。
消費者金融業者の保有する貸金債権のうち過払金部分は、財産評定にあ
たっても、評価の対象とならないことから19、今後の事案においては担保目
的物の価額評価が争われることとなろう。
以
上
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貸金債権の証券化(ABS)についても、過払金返還請求による証券化プールの希釈化に十分耐えられる
だけの信用補完措置を備えている ABS はそう多くはないと言われている。ドイツ証券株式会社 2007
年 9 月 18 日付け「証券化市場コメンタリー」参照。
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具体的には公認会計士協会の基準にしたがい、貸付金額から貸倒引当金及び利息返還損失引当金の
うち元本毀損見合分を控除することになろう。
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