ゲーム機 小笠原誠/ゲームライター - インターネット白書ARCHIVES

第
インフラストラクチャー
4部
第
3章
製品/端末
ゲーム機
ネット端末としての普及を目指して
ブロードバンド接続サービスが本格始動
早くからPCの普及が進んだアメリカと
メールが利用できるようになっていた。当
結局ゲーム専用機をネット端末にすると
は異なり、Windows 95以前はなかなか
時、PCの世界では、すでにパソコン通信
いう構想は失敗に終わるかに見えた。
PCが一般化しなかった日本。そのためか、
の時代からインターネットの時代へと移行
PCの代りに家庭用ゲーム機をネット端末
しており、ゲーム専用機もそうした時代
として利用するという構想が、他国に先
の流れを無視できなくなったのだ。
ところが、状況は一変する。2002年5
駆けて実用化されていた。数ある家庭用
ゲーム機の中でネット対応端末第 1号と
ブロードバンド時代の新サービス
ドリームキャスト、ランドネットの失速
月、SCEが同社の新世代機プレイステー
ション2向けのブロードバンド接続サービ
なったのは、1983年の発売以来、豊富な
ソフト資産によってライバル機を圧倒し
1998年、任天堂とソニー・コンピュー
ス、「PlayStation BB」の運営をスター
た任天堂のファミリーコンピュータだ。同
タエンタテインメント(以下、SCE)の
トしたのだ。それ以前からプレイステーシ
機は1988年に野村證券など各證券会社
三つ巴の戦いに遅れを取っていたセガは、
ョン2は、サードパーティーからリリース
が運営するホームトレードシステムと、中
起死回生を図って新型ゲーム機、ドリー
されたモデムを利用することによりインタ
央 競 馬 会 の勝 馬 券 電 話 投 票 システム
ムキャストをリリースする。同機は当時
ーネット接続やネット対戦を楽しむこと
「JRA-PAT」、翌1989年には各都市銀行
のライバルであるNintendo 64やプレイス
はできたものの、対応ソフトの少なさから、
のホームバンキングシステムのネット端末
テーションを凌 ぐ処 理 能 力 に加 えて、
同機でネットに接続するユーザーは少数
として採用されている。
33.6kbps(北米版は56kbps)モデムを
派 にとどまっていた。 だが、
一方、ハードウェアメーカー自らがネ
内蔵している点に注目が集まった。1997
「PlayStation BB」は、対応ソフトの第
ットの可能性に注目したのは、任天堂の
年の「X-Band System」終了時、その
1弾として、大物「ファイナルファンタ
ライバルだったセガだ。同社は1990年、
運営をカタパルト・エンターテインメント
ジーXI」
(スクエア)を用意した。いっき
16ビットゲーム機メガドライブ専用の通
社から引き継ぎ、サターン向けに細々と
に30万人のユーザーの獲得を目指してい
信ユニット「メガモデム」を発売。通信
インターネット接続サービスを提供してい
る。
速度が1200bpsと遅かったためリアルタ
たセガだが、この次世代機ではインター
イム対戦は不可能だったが、約 2年間、
ネット接続機能を全面的にアピールした。
ない。2002年2月に発売が開始されたマ
パズルを中心とした各種ゲームソフトのダ
実際、ドリームキャストでインターネット
イクロソフトのXboxは、100/10Mbpsイ
ウンロードが可能な「ゲーム図書館」と
初体験を果たすユーザーが50万人を超え
ーサネット端子を標準搭載した。2002年
いうサービスを運営した。1990年代半ば
るに至ったのだ。
内には専用ブロードバンド接続ユニット
一方、ほかのメーカーの動きも見逃せ
になると、モデムの通信速度の向上によ
ライバル機種とのシェア競争には遅れ
をリリースし、ネット対戦に対応する予
り、アクションゲームのリアルタイム対戦
を取ったものの、ネット対戦対応ソフト
定になっている。2001年9月に発売され
も可能になる。1995年、米国のベンチャ
も順調にリリースされ、徐々にユーザー
た任天堂のゲームキューブも、2002年下
ー企業であるカタパルト・エンターテイン
数を増やしていたドリームキャスト。だが、
半期中にモデムアダプターおよびブロード
メント社が開発した「X-Band System」
2001年、衝撃的なニュースが発表される。
バンドアダプターがリリースされ、ネット
は、モデムユニットを介して専用ゲームサ
赤字に悩むセガが、収益改善のため同機
対戦に対応するという。つまり、多少予
ーバーに接続するという方法で、任天堂
の製造中止を決定したのだ。この2001年
定がずれ込むとしても、2003年には主要
のスーパーファミコンおよびセガのサター
に は 、 も う 1つ の 事 件 が あ っ た 。
機種がすべてネット対戦に対応するとい
ンでネット対戦を実現した(日本におけ
Nintendo 64とその専用周辺機器 64DD
うわけだ。ただし、インターネット接続に
るサービス開始は1996年)
。このサービス
を利用し、新作ソフトのダウンロードや
対応するか否かはまだ不明だ。
自体は約 1年という短命に終わったが、
インターネット接続などをユーザーに提供
現在のゲーム専用機は、いずれもPCに
その後のゲーム専用機とネットの関係に
していた「ランドネットサービス」(運営
負けない処理能力を持っている。それが
は、大きな影響を与えている。それは、
はランドネットディディ)が、運営開始
ネット端末として広く活用されるとなれ
インターネットへの接続だ。同サービスは
後1年も経たないうちにサービスを終了
ば、もはや“ゲーム専用機”という呼び
運営開始直後、インターネットへの接続
したのだ。ドリームキャストの失速と、ラ
名自体を変える必要が出てくるだろう。
が可能になり、ウェブブラウジングや電子
ンドネットの終結。これらの事態により、
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インターネット白 書 2 0 0 2
(小笠原誠 ゲームライター)