遠赤外線について

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遠 赤 外 線 に つ い て
太陽光の中に「目には見えないが、物を温めることができる部分がある」こと
を見つけたのは、イギリスの天文学者ハーシェルです。(天王星の発見者)
1800年ごろ、プリズムを使って太陽の光を虹色(7色)に分光させる実験
を行なっているとき、赤色より外側の位置に置いた温度計が、光が当っていな
いのに、色のある部分より上昇したことに気づきました。
そこでハーシェルは、目には見えない光が存在し、それが熱を与える性質を持
つことを発見しました。その光は「赤色の外側」にあるので「赤外線」と名付
けられました。「赤外線」は、X線やマイクロ波と同じ「電磁波」の一種です。
(非営利・一般社団法人 遠赤外線協会 WEBサイトより転載)
電磁波とは
電界と磁界が相互に作用して「光と同じ速さで空間を伝達する波」のこと。
(ケータイ電磁波レポート WEBサイトより転載)
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波が、1往復する間に進む距離を「波長」といい、
波が、1秒間に往復する回数を「周波数」といいます。単位はヘルツ(Hz)
(出展:同上)
周波数が高いほどエネルギーは強くなります。
電磁波は、波長の長さで細かく分類され、その性質がまったく異なります。
遠赤外線とは
赤外線領域にある「電磁波」の一種です。
⋆ 赤外線の波長は「0.76μm(ミクロン)~1000μm(1mm)」までと
され、波長の短い方から順に「近赤外線」と「遠赤外線」に分けられます。
⋆ その中で「遠赤外線は3μm~1000μmの範囲」と定義されています。
その性質としてセラミックス、プラスチック、水、繊維、木材、人、動植物
などには吸収されやすいのですが、金属物質(特に腐食していない面)など
には反射する性質があります。
要するに、光や電波と同じ性質のもので「熱」そのものではありません。
物質を構成する分子や結晶は、それぞれ固有の振動をしています。水などの
遠赤外線を吸収しやすい物質は、共通して 3~30μmの固有振動があり、遠赤
外線の照射を受けるとお互いの波長帯が合うので、共鳴し合い分子レベルの
運動を活発にします。
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これを熱振動といい、照射された物質の温度を上昇させます。
遠赤外線は物質に吸収されると、まず共鳴する振動エネルギーに変換され、
これが熱エネルギーとなって、自分から熱を発するようになります。
逆に、紫外線などの波長の短い電磁波は、物質との波長が合わないために、
その構成分子を損傷させます。(日焼け、レントゲン照射、被曝など)
更に、同じ遠赤外線帯の電磁波でも波長が合わないと、その効果は小さくな
ります。また、熱源から対象物に直接伝達され、空気などの間接的に熱を伝
える媒体を必要としません。これを「放射(輻射)伝熱」といい、電磁波の
特徴です。
コーヒー焙煎機の釜は、一般的に鉄板で出来ていますが、熱源に遠赤外線バ
ーナーや炭火を使っても、遠赤外線は釜の外面で反射されてしまいます。
遠赤外線の特性
一般的に、ガスの燃焼温度は約1300℃、炭は条件によっては2000℃
近くにも達し、かなりの格差があります。
炭の主成分は90%以上が純度の高い炭素で、高温になっても壊れにくく、
分子の振動が活発になると比較的多くの遠赤外線を放射します。
(セラミック
スも同じです)
一方、ガス体は気体のため分子が振動しにくく、同じ温度でも遠赤外線を出
しにくい特性があります。
⋆ 遠赤外線は、絶対0℃(-273℃)でない限り、熱を持つほとんどの物質か
ら放射されています。その放射量(エネルギー)は、温度が高くなればなる
ほど多くなります。
⋆ これまで、遠赤外線は「対象物の中心まで浸透して中から温める」と思われ
ていましたが、最近の研究では表面の極わずか 0.1mm~0.2mm程度の所で
吸収され、直接深い所までは届いていないことが判明しています。
⋆ 遠赤外線の特徴である、放射(輻射)による伝熱は、熱エネルギーを低下さ
せる事なく対象物に供給できるため、他の加熱より深部への熱の伝わりが早
くなります。そのため、中から暖めているのではないか、と考えられていま
した。
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⋆ 表面で熱を発生するということは、そこで電磁波(遠赤外線)エネルギーが
吸収されていることであって、透過とは正反対です。
⋆ の項目は、非営利・一般社団法人 遠赤外線協会 WEBサイトから引用
遠赤外線で調理すると、食べ物が美味しくなるかのような宣伝を見かけます
が、電磁波であって「熱」そのものではない遠赤外線に、食品の味を直接変
えるような働きはありません。また、中まで熱を通し中から暖めるといった
表現も間違いです。
実際には、遠赤外線を利用して加熱した時の「熱の伝え方、伝わり方」が、
他の加熱と違うために、味や風味が変わるのです。
調理の火加減で引用される表現として「中華は強火、焼き物は遠火の強火」
といわれますが、その科学的な理由はどこにあるのでしょうか。
中華の炒め物で、野菜のシャキシャキとした食感を残そうとすれば、強火で
一気に加熱し、短時間の内に調理しなければなりません。これは中華鍋から
直接熱が伝わる「伝導伝熱」の効果を利用したものです。
料理される物は高温の熱源に直接触れているため、表面は一気に熱源の温度
近くまで加熱され、表面だけが高温になってしまいます。そうなると、熱源
である中華鍋との温度差が小さくなり、受け取る熱流が低下して内部まで熱
が伝わりにくくなります。
物理的に、熱は温度差がなければ伝わりません。仮に、鍋が300℃であっ
ても、調理される物の表面が一瞬でも300℃になれば、熱の移動が行なわ
れず、熱は中に入ることが出来ません。
中華の炒め物が家庭で上手に出来ないのは、家庭用コンロの火力が弱いため
です。弱火だと温度差が付きやすく、調理時間が長くなれば、熱が浸透して
野菜の食感は失われてしまいます。
同じ様に、焼き肉を「レア」に仕上げる「コツ」は、鉄板を高温にしておい
て、一瞬で焦げ目が付くぐらいに表面だけを焼きます。そうすることで、鉄
板と肉の表面との温度差が小さくなり、熱は中まで伝わりにくくなります。
一方、炭火のように、熱量の大きい熱源を、料理される物から適切な距離を
置いて加熱する場合は、たとえ強火であっても表面が一気に加熱されること
がありません。
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よって、表面を焦がすことなく、温度差が付いたままの状態を維持できます。
料理される物は熱源に触れていないので、受け取る熱流が低下することなく
供給され、熱の移動が効率よく行われます。
遠赤外線だから中まで熱を通しているのではなく、あくまで「温度の差で中
まで熱を伝えている」のです。熱は高い方から低い方にしか移動できません。
これが物理的な原則。
コーヒーの生豆を焙煎する過程で起こるとされる様々な化学変化も、炭火や
過熱水蒸気を使っても、熱が正しく伝わらなければ、適正な熱反応は起きま
せん。
焙煎における味作りで「直火式」とか「半熱風式」とかいった形式の違いや、
炭火や遠赤外線の照射で味に差が出ると思われていた主な要因は、加熱方法
の違いに起因するものです。
これはまた、形式が違っても加熱工程が同じ様になれば、味覚の差は小さく
なる、ということにもなります。
俗に「焙煎機が変わると味が変わる」といわれますが、正確には「焙煎機が
変わると熱の伝わり方に違いが出るため味が変わる」のです。
熱源から離れているか、また触れているか触れていないかで加熱工程に差が
生まれ、それが味を左右する要因となっています。
遠赤外線の嘘(あり得ない事例)
・遠赤外線は、物体の内部まで浸透して中から加熱する。
・遠赤外線には、血行改善や細胞活性などの効果がある。
・遠赤外線には、水を活性化させる効果がある。
・遠赤外線には、脱臭、防菌、防湿、防カビ効果がある。
・遠赤外線ヒーターは、暖房効率が良い。
・トルマリン(石)は常温でも特別多くの遠赤外線を出す。
・セラミックス繊維を織り込んだ布は、常温でも遠赤外線効果で温かい。
遠赤外線の利用
熱源として利用される炭や遠赤外線バーナーの一番の利点は、ガスや電気で
は得られない熱量の大きさと、放射(輻射)による伝熱にあります。
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放射エネルギーは、放射体温度「K」の4乗に比例して増大し、放射体面積
にも比例します。空気(媒体)を加熱しにくいので、熱損失が少なく熱効率
が高いなどの特長があります。
問題は、この熱媒体の利用方法であって、遠赤外線ということばを強調しす
ぎると誤解を招きます。また、科学的に何故そうなるのかを説明しないと、
客観的に認識されません。
記)大和鉄工所
岡
崎
出展・参考書籍
・非営利・一般社団法人 遠赤外線協会 WEBサイト(同 協会 会報、資料)
・「おいしさをつくる熱の科学」 斉藤秀美 著 発行:(株)柴田書店