リスク管理ガイドライン (オルタナティブ投資編)

リスク管理ガイドライン
(オルタナティブ投資編)
2006 年7月3日
リスク管理フォーラム
(オルタナティブ投資セッション)
第1章
オルタナティブ投資全般に関するガイドライン(AG)
1.導入目的の明確化
【AG1】(基本)
導入目的の明確化
<AG1-1>(基本)
年金制度運営上の問題点の分析と期待内容の明確化
2.投資対象の選定
【AG2】(基本)
投資対象の選定
<AG2-1>(基本)
リターン向上目的-リスク認識の必要性
<AG2-2>(基本)
リスクヘッジ目的
3.政策資産配分上の位置づけの明確化
【AG3】(基本) 政策資産配分上の位置づけの明確化
<AG3-1>(基本)
試験的投資
<AG3-2>(努力)
独立した資産クラス
<AG3-3>(努力)
伝統的資産の代替
【AG4】(基本) 政策資産配分上の位置づけの定期的な見直し
4.運用基本方針の策定
【AG5】(努力) オルタナティブ投資全般に関する運用基本方針の策定
【AG6】(上位) 個別商品ごとの運用基本方針の策定
5.リスク管理体制
【AG7】(基本) 情報収集
【AG8】(基本) 平時と有事のリスク管理
第2章
ヘッジファンド投資に関するガイドライン(HG)
第1節
計画段階におけるガイドライン
1.ヘッジファンドの導入目的の明確化
【HG1】(基本) ヘッジファンドの導入目的の明確化
2.ヘッジファンドの特徴とリスクの把握
【HG2】(基本) 一般的特徴の把握
<HG2-1>(基本)
規制の穏やかさと運用実態把握の困難さ
<HG2-2>(基本)
運用の自由度の高さとリスク・リターン特性の多様性
<HG2-3>(基本)
流動性の乏しさ
<HG2-4>(基本)
マネージャーの個人的な才覚への依存
<HG2-5>(基本)
運用内容の透明性と運用者の自己資金の投入
<HG2-6>(基本)
成功報酬体系の存在
<HG2-7>(基本)
ファンド・オブ・ファンズの長所と短所
<HG2-8>(基本)
ハイウォーターマーク方式の採用
【HG3】(努力) 投資戦略ごとのリスク・リターン特性の把握
<HG3-1>(努力)
リターンの源泉や定性的リスク要因の理解
<HG3-2>(努力)
平均収益率、リスク、相関の把握
<HG3-3>(努力)
個別ファンドのリターンのばらつき状況の把握
【HG4】(基本) リスク要因の把握
<HG4-1>(基本)
価格変動リスク
<HG4-2>(基本)
マネージャー・リスク
<HG4-3>(基本)
流動性リスク
<HG4-4>(基本)
レバレッジ・リスク
<HG4-5>(基本)
政治・規制リスク
<HG4-6>(基本)
早期解散リスク
<HG4-7>(基本)
オペレーショナル・リスク
<HG4-8>(基本)
プロセス・リスク
1
リスク管理フォーラム
3.投資形態の決定
【HG5】(基本)
個別ファンドとファンド・オブ・ファンズの選択
<HG5-1>(基本)
予定投資金額
<HG5-2>(基本)
年金スポンサーの投資経験
<HG5-3>(基本)
導入目的との整合性
【HG6】(努力) 投資戦略の特定化
4.政策資産配分上の投資枠の決定
【HG7】(基本) ベンチマークの設定
<HG7-1>(基本)
ヘッジファンド・インデックスの活用
<HG7-2>(上位)
カスタム・インデックスの構築
<HG7-3>(基本)
伝統的資産のベンチマーク・インデックスの利用
<HG7-4>(基本)
その他のベンチマークの設定
【HG8】(基本) ヘッジファンドの位置づけの明確化
【HG9】(基本) 投資枠の決定
<HG9-1>(基本)
期待リターン、リスク、相関係数の推計
①「独立した資産と見なして、伝統的資産とともに政策資産配分を決定」の場合
<HG9-2①>(基本)
最適化計算と政策資産配分の決定
②「独立した資産と見なして、伝統的資産間の政策資産配分の外枠で決定」の場合
<HG9-2②-1>(基本)
伝統的資産の政策資産配分の決定
<HG9-2②-2>(基本)
外枠での組入比率の変化と全資産の特性の分析
<HG9-2②-3>(基本)
投資枠の保守的な決定
③「独立した資産とは見なさず、特定の伝統的資産の内枠で一定比率を配分」の場合
<HG9-2③-1>(基本)
内枠とする資産の決定
<HG9-2③-2>(努力)
組入比率とトラッキングエラーのシミュレーション
<HG9-2③-3>(基本・努力)
投資枠の決定
<HG9-2③-4>(努力)
上限まで組み入れた場合の全資産のリスク量の確認
<HG9-2③-5>(基本)
代替的役割の終了
第2節
実行段階におけるガイドライン
1.ファンド選定
【HG10】(基本) ファンド選定
<HG10-1>(基本)
<HG10-2>(基本)
<HG10-3>(基本)
<HG10-4>(上位)
<HG10-5>(基本)
2.投資金額の決定
【HG11】(基本) 投資金額の決定
<HG11-1>(基本)
<HG11-2>(努力)
3.運用方針の確認
【HG12】(基本) 運用方針の入手と確認
【HG13】(努力) 運用方針の追加・修正
第3節
投資形態の条件の確認
候補ファンドのリストアップ
基本的情報の入手
面接・実地調査の実施
採用すべきファンドの選定
投資目標との整合性の確保
総合的な定量分析
モニタリング段階におけるガイドライン
1.モニタリング
【HG14】(基本) モニタリングの実施
<HG14-1>(基本)
<HG14-2>(基本)
<HG14-3>(基本)
<HG14-4>(基本)
<HG14-5>(基本)
<HG14-6>(努力)
<HG14-7>(基本)
<HG14-8>(基本・努力・上位)
<HG14-9>(基本)
<HG14-10>(基本)
<HG14-11>(基本)
2.リバランス
【HG15】(基本) リバランス
3.ガイドラインの見直し
【HG16】(基本) ガイドラインの見直し
リスク管理フォーラム
年金スポンサーの期待リターン・リスクと実績値の比較
インデックスや同一戦略のファンドとの実績値の比較
過去の実績値との比較
運用会社の期待リターン・リスクと実績値の比較
レバレッジの状況の確認
定量的指標による評価
ファンドの規模、他の投資家の投資状況のチェック
パフォーマンスの評価とヒアリングの実施
運用状況に関する定性的評価
運用体制やキーパーソンの変化の有無の確認
ファンド・オブ・ファンズの構成と変化の理由の確認
2
第3章
不動産投資に関するガイドライン
第1款
不動産私募ファンド編(PG)
第1節
計画段階におけるガイドライン
1.不動産私募ファンドの導入目的の明確化
不動産私募ファンドの導入目的の明確化
【PG1】(基本)
<PG1-1>(基本)
ポートフォリオのリターン向上を導入目的とする場合の留意点
<PG1-2>(基本)
分散投資効果を導入目的とする場合の留意点
<PG1-3>(努力)
インフレヘッジを導入目的とする場合の留意点
<PG1-4>(努力)
高いインカムリターンを導入目的とする場合の留意点
2.不動産私募ファンドの特徴とリスクの把握
不動産固有の特徴とリスクの把握
【PG2】(基本)
<PG2-1>(基本)
流動性・個別性
<PG2-2>(基本)
瑕疵・自然災害
<PG2-3>(基本)
時価評価
ストラクチャーの特徴とリスクの把握
【PG3】(基本)
<PG3-1>(基本)
財務レバレッジ
<PG3-2>(努力)
投資期間
<PG3-3>(努力)
法務リスク
<PG3-4>(努力)
税務リスク
3.主たる投資対象の決定
コア不動産ポートフォリオの決定
【PG4】(基本)
<PG4-1>(努力)
コア不動産ポートフォリオの分散
ノンコア不動産ポートフォリオの決定
【PG5】(努力)
4.政策資産配分上の投資枠の決定
【PG6】(基本)
ベンチマークの設定
<PG6-1>(基本)
不動産投資インデックスの活用
<PG6-2>(上位)
カスタム・インデックスの構築
<PG6-3>(基本)
その他のベンチマークの設定
不動産私募ファンドの位置づけの明確化
【PG7】(基本)
【PG8】(基本)
投資枠の決定
<PG8-1>(基本)
期待リターン、リスク、相関係数の推計
<PG8-1-1>(基本)
期待リターンの推計
<PG8-1-2>(努力)
リスクの推計
①「独立した資産と見なして、伝統的資産とともに政策資産配分を決定」の場合
<PG8-2①>(基本)
最適化計算と政策資産配分の決定
②「独立した資産と見なして、伝統的資産間の政策資産配分の外枠で決定」の場合
<PG8-2②-1>(基本)
伝統的資産の政策資産配分の決定
<PG8-2②-2>(基本)
外枠での組入比率の変化と全資産の特性の分析
<PG8-2②-3>(基本)
投資枠の保守的な決定
③「独立した資産とは見なさず、特定の伝統的資産の内枠で一定比率を配分」の場合
<PG8-2③-1>(基本)
内枠とする資産の決定
<PG8-2③-2>(基本)
資産特性の相違点の認識
<PG8-2②-3>(努力)
組入比率とトラッキングエラーのシミュレーション
<PG8-2③-4>(基本・努力) 投資枠の決定
<PG8-2③-5>(努力)
上限まで組み入れた場合の全資産のリスク量の確認
<PG8-2③-6>(基本)
代替的役割の終了
<PG8-3>(基本)
過大な投資枠設定の回避
<PG8-4>(努力)
最悪シナリオの想定
3
リスク管理フォーラム
第2節
実行段階におけるガイドライン
1.ファンド選定
(1)マネージャー選定
不動産私募ファンドのマネージャー選定
【PG9】(基本)
<PG9-1>(基本)
ゲートキーパーの役割の明確化
ゲートキーパーの選定
【PG10】(基本)
<PG10-1>(基本)
不動産に関する専門性
<PG10-2>(基本)
ストラクチャリングに関する専門性
<PG10-3>(基本)
定量評価
<PG10-4>(基本)
組織・体制
<PG10-5>(基本)
コンプライアンス体制
不動産私募ファンド運用者の選定
【PG11】(基本)
<PG11-1>(基本)
不動産に関する専門性
<PG11-2>(基本)
物件調達力
<PG11-3>(基本)
ストラクチャリング力
<PG11-4>(基本)
運用哲学
<PG11-5>(基本)
定量評価
<PG11-6>(基本)
プロパティマネジメント力
<PG11-7>(基本)
組織・体制
<PG11-8>(基本)
コンプライアンス体制
(2)不動産私募ファンドのガバナンス
不動産私募ファンドのガバナンス
【PG12】(基本)
2.利益相反的行為の排除
【PG13】(基本)
利益相反的行為の排除
<PG13-1>(基本)
ローンレンダーの兼任
<PG13-2>(基本)
仲介業者の兼任
<PG13-3>(基本)
前所有者の兼任
<PG13-4>(基本)
不動産管理処分信託受託者の兼任
3.投資金額の決定
投資金額の決定
【PG14】(基本)
4.運用ガイドラインの策定
【PG15】(基本)
運用ガイドラインの策定
<PG15-1>(基本・努力)
投資スタイルごとの収益の源泉の明確化
<PG15-2>(基本)
投資対象ユニバース(地域・用途・築年等)
<PG15-3>(基本)
ベンチマーク
<PG15-4>(基本)
投資スキーム
<PG15-5>(基本)
レバレッジ戦略
<PG15-6>(基本)
ディスクローズ
<PG15-7>(基本)
時価評価
第3節
モニタリング段階におけるガイドライン
1.モニタリング
【PG16】(基本) モニタリングの実施
<PG16-1>(基本)
定量的モニタリング
<PG16-1-1>(基本)
財務収益
<PG16-1-2>(基本)
不動産収益
<PG16-1-3>(努力)
時価評価
2.今後の運用方針に関する運用機関との協議
【PG17】(基本) 今後の運用方針に関する運用機関との協議
リスク管理フォーラム
4
第2款
REITファンド編(RG)
第1節
計画段階におけるガイドライン
1.REITファンドの導入目的の明確化
REITファンドの導入目的の明確化
【RG1】(基本)
<RG1-1>(基本)
ポートフォリオのリターン向上を導入目的とする場合の留意点
<RG1-2>(基本)
分散投資効果を導入目的とする場合の留意点
2.REITファンドの特徴とリスクの把握
REITファンドの特徴とリスクの把握
【RG2】(基本)
<RG2-1>(基本)
価格変動リスク
<RG2-2>(基本)
不動産固有リスク
<RG2-3>(基本)
財務リスク
<RG2-4>(基本)
法制度・税制変更等によるリスク
<RG2-5>(基本)
各国のREIT市場の状況認識
3.主たる投資対象の決定
REITファンドの投資対象の決定
【RG3】(基本)
<RG3-1>(基本)
投資対象地域
4.政策資産配分上の投資枠の決定
ベンチマークの設定
【RG4】(基本)
<RG4-1>(基本)
ベンチマーク・インデックス
<RG4-2>(基本)
不動産会社株式
REITファンドの位置づけの明確化
【RG5】(基本)
【RG6】(基本)
投資枠の決定
<RG6-1>(基本)
期待リターン、リスク、相関係数の推計
①「独立した資産と見なして、伝統的資産とともに政策資産配分を決定」の場合
<RG6-2①>(基本)
最適化計算と政策資産配分の決定
②「独立した資産とは見なさず、特定の伝統的資産の内枠で一定比率を配分」の場合
<RG6-2②-1>(基本)
内枠とする資産の決定
<RG6-2②-2>(基本)
資産特性の相違点の認識
<RG6-2②-3>(努力)
組入比率とトラッキングエラーのシミュレーション
<RG6-2②-4>(基本・努力) 投資枠の決定
<RG6-2②-5>(努力)
上限まで組み入れた場合の全資産のリスク量の確認
<RG6-2②-6>(基本)
代替的役割の終了
第2節
実行段階におけるガイドライン
1.マネージャー選定
【RG7】(基本)
マネージャー選定
<RG7-1>(基本)
<RG7-2>(基本)
<RG7-3>(基本)
<RG7-4>(基本)
2.投資金額の決定
投資金額の決定
【RG8】(基本)
3.運用ガイドラインの策定
【RG9】(基本)
運用ガイドラインの策定
<RG9-1>(基本)
<RG9-1-1>(基本)
<RG9-1-2>(努力)
<RG9-2>(基本)
<RG9-3>(基本)
<RG9-4>(基本)
<RG9-5>(基本)
第3節
運用哲学・プロセス
運用実績・ファンド規模
運用体制
リスク管理
投資対象ユニバース
不動産会社株式
流動性
ベンチマーク
投資スタイル
ディスクローズ
運用報酬
モニタリング段階におけるガイドライン
1.モニタリング
【RG10】(基本) モニタリングの実施
2.今後の運用方針に関する運用機関との協議
【RG11】(基本) 今後の運用方針に関する運用機関との協議
5
リスク管理フォーラム
第1章
オルタナティブ投資全般に関するガイドライン(AG)
1.導入目的の明確化
【AG1】(基本)「導入目的の明確化」
伝統的4資産(国内外の株式と債券)に新たな資産クラスを加える場合は、その
資産クラスへ期待する内容を明確にしたうえで投資することが必要である。
<AG1-1>(基本)「年金制度運営上の問題点の分析と期待内容の明確化」
現在の年金財政や資産運用状況を踏まえて、どのような点を改善したいのかを分
析したうえで、新たな資産クラスにどのような効果(リターン向上やリスクヘッジ
等)を期待したいのかを明らかにすることが必要である。
2.投資対象の選定
【AG2】(基本)「投資対象の選定」
導入目的を踏まえて、どの分野の投資対象が望ましいかを比較・検討することが
必要である(【参考資料1】の「オルタナティブ投資の全体像」を参照)。
その際、導入目的と照らして、以下のような観点から、各資産クラスの投資対象
としての妥当性を評価することが必要である。
<AG2-1>(基本)「リターン向上目的 - リスク認識の必要性」
ポートフォリオのリターン向上を目的とする場合には、導入しようとする資産ク
ラスがリターンを生み出す経済的背景について把握する必要がある。また、リター
ンの源泉ばかりでなく、その資産クラスに特有のリスク要因も同時に把握し、リス
ク水準に見合ったリターン(リスク調整後リターン)が期待できるかどうかを検討
することが必要である。
<AG2-2>(基本)「リスクヘッジ目的」
他の組入資産の価格変動リスクやインフレ率・金利上昇等の経済的要因の変動リ
スクに対するヘッジ効果を期待する場合には、実際にその資産クラスへ投資するこ
とによって期待されるような効果が得られるかどうかを定量的・定性的手法を用い
て可能な限り確認しておくことが必要である。
リスク管理フォーラム
6
3.政策資産配分上の位置づけの明確化
【AG3】(基本)「政策資産配分上の位置づけの明確化」
伝統的資産に追加する新たな資産クラスについて、政策資産配分上の位置づけを
明確にすることが必要である。
<AG3-1>(基本)「試験的投資」
試験的な投資あるいはキャッシュの範囲内での投資とした場合には、暫定的な位
置づけを継続する期間と、暫定的な位置づけを見直す際の判断基準を事前に明確に
することが必要である。
<AG3-2>(努力)「独立した資産クラス」
独立した資産クラスとする場合は、資産クラスとしてのコア投資部分の期待リタ
ーン・リスク・他資産との相関について把握し、平均分散法等を活用した合理的な
アセット・アロケーションの決定を行うことが望ましい。ただし、オルタナティブ
投資の場合には、伝統的4資産に比べて長期にわたる十分な実績データが存在しな
いことが多く、また、ベンチマークも確立していないことが多いので、そうしたデ
ータ制約を踏まえたうえで、保守的な決定を行うことが望ましい。
<AG3-3>(努力)「伝統的資産の代替」
伝統的資産の代替と位置づける場合には、代替投資の期間を明確にしたうえで、
シナリオ分析や代替によるリスク・リターン特性の改善効果を明らかにすることが
望ましい。
【AG4】(基本)「政策資産配分上の位置づけの定期的な見直し」
新たな資産クラスを「試験的投資」もしくは「伝統的資産の代替」と位置づけた
場合には、その位置づけの妥当性を定期的に見直すことが必要である。
4.運用基本方針の策定
【AG5】(努力)「オルタナティブ投資全般に関する運用基本方針の策定」
オルタナティブ投資を導入する場合には、このガイドラインに従って検討した内
容を「オルタナティブ投資に関する運用基本方針」の形で明文化することが望まし
い。
【AG6】(上位)「個別商品ごとの運用基本方針の策定」
ヘッジファンドと不動産等、複数のオルタナティブ商品を導入する場合には、オ
ルタナティブ投資全般に関するものの他に、各々の商品ごとの運用基本方針を策定
することが望ましい。
7
リスク管理フォーラム
5.リスク管理体制
【AG7】(基本)「情報収集」
オルタナティブ投資関連商品の動向や法令等の変更状況などに関して、継続的に
情報収集する体制を整備することが必要である。
【AG8】(基本)「平時と有事のリスク管理」
オルタナティブ投資の計画・実行・モニタリングという一連の定常的プロセスに
おける年金スポンサーの役割とともに、投資しているファンドの破綻等の緊急事態
が発生した場合の対応方法について、事前に検討したうえで、その内容を内部文書
として明文化しておくことが必要である。
リスク管理フォーラム
8
第2章
第1節
ヘッジファンド投資に関するガイドライン(HG)
計画段階におけるガイドライン
1.ヘッジファンドの導入目的の明確化
【HG1】(基本)「ヘッジファンドの導入目的の明確化」
ヘッジファンドを導入する際には、
【AG1】、
【AG2】の基本原則を踏まえたう
えで、ヘッジファンドの導入目的を明確にしておくことが必要である。以下のよう
な導入目的のうち、どれが重要なのかを十分に吟味することが必要である。採用す
るヘッジファンドの投資戦略や具体的なファンド選択の際に、ここでの意思決定が
重要な意味を持ってくるからである。
導入目的としては、以下のケースが想定される。
① リスク調整後リターンの向上
ヘッジファンド投資の目的として、高いリスク調整後リターンの獲得を挙げ
る年金スポンサーが少なくない。市場全体の変動には依存せずにリターンの
獲得を期待したり、リスクの低さに注目し、低いリスクで相対的に高いリタ
ーンの獲得を目指したりする場合が該当する。
② リスクヘッジ効果
年金資産全体のリスク水準の抑制を目的として、ヘッジファンドを導入しよ
うとする年金スポンサーも少なくない。伝統的資産と相関の低いファンドに
投資して、ポートフォリオ全体の価格変動リスクの低下を狙うケースの他に、
金利上昇リスクに対するヘッジ効果を期待するケースが含まれる。
2.ヘッジファンドの特徴とリスクの把握
【HG2】(基本)「一般的特徴の把握」
ヘッジファンドは、伝統的資産とは投資上の特徴が大きく異なる。そのため、ヘ
ッジファンドの導入を具体的に検討する場合には、あらかじめ、ヘッジファンドの
大まかな特徴を把握しておくことが必要である。
<HG2-1>(基本)「規制の緩やかさと運用実態把握の困難さ」
規制が緩やかで、監督官庁等による管理が十分に行われているとは言えないた
め、伝統的資産の場合と比べて、運用実態の把握が困難なファンドもあることを
認識する必要がある。また、運用実態や時価評価に不透明性が存在するケースで
は、損失隠蔽行為を働こうとするファンドが存在する可能性があり、注意が必要
である。
9
リスク管理フォーラム
<HG2-2>(基本)「運用の自由度の高さとリスク・リターン特性の多様性」
投資対象や空売り、レバレッジの制約が比較的緩やかであるなど、運用の自由
度が相対的に高く、リスクやリターンの特性が多様であることを認識する必要が
ある。
たとえば、マクロ経済指標等の変化に関する予測に基づいて、デリバティブ取
引等を活用しながら高いリターンの獲得を狙うグローバル・マクロと呼ばれる投
資戦略のファンドでは、投資リスクが高くなる傾向が見られる。一方、類似した
価格変動を示す複数の投資対象(株式と転換社債など)の投資価値を分析し、割
安なものの買いと割高なものの売りを組み合わせて投資することによって利ざや
を稼ごうとするレラティブ・バリュー戦略のファンドでは、一般的に市場方向性
に関するリスクの抑制を意図した運用が行われる場合が多い。
さらに、ヘッジファンドは個別性が強く、同一の投資戦略に分類されるファン
ドであってもリスク・リターン特性が大きく異なることがある点にも留意する必
要がある。
<HG2-3>(基本)「流動性の乏しさ」
伝統的資産と比べて、流動性が極端に乏しいファンドも存在することを認識す
る必要がある。
<HG2-4>(基本)「マネージャーの個人的な才覚への依存」
ファンドマネージャーの個人的な才覚に過度に依存していると思われるファン
ドも少なくないことを認識する必要がある。
<HG2-5>(基本)「運用内容の透明性と運用者の自己資金の投入」
具体的な運用方針を秘密にしておきたいというインセンティブを持っているマ
ネージャーが運用するヘッジファンドでは、運用内容の開示が十分に行われない
ことがある点を留意する必要がある。ただし、このようなケースでも、投資家の
利益追求のために忠実に運用が行われていることを担保するために、運用者の自
己資金を投入しているファンドも少なくない。
<HG2-6>(基本)「成功報酬体系の存在」
資産ベースの報酬(通常、運用資産額の1~2%)に加えて、あらかじめ定め
られた基準収益率を上回る運用成績を達成したファンドでは、成功報酬(通常、
超過収益率の 15~20%)が支払われるケースが大半であることを認識する必要が
ある。
<HG2-7>(基本)「ファンド・オブ・ファンズの長所と短所」
ファンド・オブ・ファンズ(FOF)は、専門性を有するゲートキーパーが適切
なヘッジファンドを組み合わせて提供するものであり、小額の資金で複数のヘッ
ジファンドに分散投資できる有効な手段であることを認識する必要がある。日本
では、直接アクセスが困難な個別ファンドに対しても、FOF を通じて間接的に投
リスク管理フォーラム
10
資できるというメリットもある。
一方で、FOF においては、組み入れられた個別ファンドへの報酬に加えて、フ
ァンドの組成者に対しても同様の報酬が支払われるため、コストが二重構造にな
っていることに留意する必要がある。もっとも、この追加的なコストは、ヘッジ
ファンドの調査・選定・モニタリング等をアウトソースするための必要経費と考
えれば、自分たちですべてを行う場合のコストとの比較の問題となる。
<HG2-8>(基本)「ハイウォーターマーク方式の採用」
投資開始以来の累積リターンがマイナスであっても、単年度や四半期毎といっ
た各ファンドにおける単一の成功報酬計算期間内に利益が生じている場合に成功
報酬が支払われるという状況を防ぐために、累積リターンがプラスの場合にのみ
成功報酬が支払われる仕組み(「ハイウォーターマーク方式」と呼ばれる)を採用
しているファンドが少なくないことを認識する必要がある。なお、この方式を採
用している場合でも、成功報酬計算期間後にマイナスに転じたケースでは、過去
に支払われた成功報酬は返還されない点にも留意が必要である。また、成功報酬
計算の基礎となるファンド収益を計算する際に、一定のハードルレート(例えば、
米ドル建ての場合には、米ドル短期金利が利用されるケースが多い)を控除する
場合がある。
ハイウォーターマーク方式を採用しているファンドでは、累積損失が膨らむと、
成功報酬を受け取ることがむずかしくなるため、過剰なリスクを伴った運用を行
ったり、早期に当該ファンドを解散して新たなファンドを立ち上げようとしたり
する、年金スポンサーにとっては望ましくないインセンティブの発生するケース
がある点に留意する必要がある。
【HG3】(努力)「投資戦略ごとのリスク・リターン特性の把握」
ヘッジファンドでは運用の自由度が高いため、投資戦略が異なれば、リスク・リ
ターン特性も大きく異なる。そのため、様々な投資戦略別に、リターンの源泉とと
もに、リスク・リターン等の特性を把握することが望ましい。
<HG3-1>(努力)「リターンの源泉や定性的リスク要因の理解」
投資戦略ごとのリターンの源泉や定性的リスク要因を理解することが望ましい。
<HG3-2>(努力)「平均収益率、リスク、相関の把握」
投資戦略ごとの平均収益率、リスク、伝統的資産との間の相関の大きさを把握
することが望ましい。
<HG3-3>(努力)「個別ファンドのリターンのばらつき状況の把握」
投資戦略ごとに、個別ファンドのリターンのばらつきに関する状況を把握する
ことが望ましい。
11
リスク管理フォーラム
【HG4】(基本)「リスク要因の把握」
ヘッジファンドには、伝統的資産と共通のリスク要因に加えて、独自のリスク要
因が存在する。そのため、ヘッジファンドを採用する際には、ヘッジファンドに関
連するリスク要因の全体像を認識しておくことが必要である。
<HG4-1>(基本)「価格変動リスク」
ヘッジファンドは、株式や債券等、伝統的資産に投資するケースが一般的であ
るため、これらの投資対象の価格変動に伴うリスクを負うこととなる点に留意す
る必要がある。
<HG4-2>(基本)「マネージャー・リスク」
ヘッジファンドは、個々のファンドマネージャーの個人的な才覚に依存するケ
ースが少なくない。また、様々な投資手法を駆使した運用を実践するファンドも
多いことから、マネージャーによるパフォーマンス較差は、伝統的資産運用の場
合に比べて、一般的には大きいことを認識する必要がある。
さらに、スタッフ数の少ない小規模なヘッジファンドが多いため、後述するオ
ペレーショナル・リスクやプロセス・リスクなど、ファンド運営上の様々な定性
的リスク要因が顕在化しやすい点にも留意が必要である。
<HG4-3>(基本)「流動性リスク」
ヘッジファンドの採用する投資戦略や投資対象によっては、
「流動性の乏しい市
場や投資対象に投資しているファンド」や「解約や現金化に時間がかかるファン
ド」もあり、伝統的資産運用に比べて、一般的に資金化には時間がかかるケース
が多いことを認識する必要がある。
<HG4-4>(基本)「レバレッジ・リスク」
借り入れやデリバティブの活用を通じて、自己資本額を大幅に上回る規模の投
資を行っているヘッジファンドも存在することを認識する必要がある。また、デ
リバティブ取引を多用しているファンドでは、取引の相手方の信用リスク(カウ
ンターパーティ・リスク)が発生する可能性がある点にも留意が必要である。
<HG4-5>(基本)「政治・規制リスク」
ヘッジファンドは、ケイマン諸島など運用の自由度の高いオフショアに設立さ
れる傾向があるため、伝統的資産と比べると、政策・税制・資本・海外送金等の
制限や国際政治の進展、突発的な法律の変更に伴って、ファンド運用が大きな制
約を受ける可能性が高いことを認識する必要がある。
<HG4-6>(基本)「早期解散リスク」
早期に解散されるヘッジファンドが少なくないため、新たな投資対象へ資金を
移す際に追加的なコスト負担が発生するリスクがあることを認識する必要がある。
また、早期に解散されたファンドのデータがヘッジファンド・インデックスに反
映されないため、パフォーマンス・データに生存者バイアスが生じやすい点にも
リスク管理フォーラム
12
留意が必要である。
<HG4-7>(基本)「オペレーショナル・リスク」
内部・外部の関係者による不正行為、システム・インフラや法的文書の未整備、
キーパーソンの退職等の発生リスクが存在するファンドもあることを認識する必
要がある。
<HG4-8>(基本)「プロセス・リスク」
運用プロセスが不透明ないし属人的なファンドでは、あらかじめ約束した投資
手法や投資プロセスが守られないリスクにも留意する必要がある。
3.投資形態の決定
【HG5】(基本)「個別ファンドとファンド・オブ・ファンズの選択」
年金スポンサーは、自身の資産規模や管理体制を踏まえて、個別ファンドに投資
するか、FOF に投資するか(双方を組み合わせることも可能)を決定することが必
要である。その際、両投資形態の投資単位、費用構造、追加投資や解約の条件等の
制約条件を比較したうえで、十分に検討することが必要である。
<HG5-1>(基本)「予定投資金額」
ヘッジファンドへの予定投資金額はどの程度かを検討する必要がある。FOF に
は、比較的小額の資金で複数のヘッジファンドへ分散投資できるという特徴があ
るため、試験的投資を行うケースのように、予定投資金額があまり大きくない場
合には、好ましい側面を備えていることを認識する必要がある。
<HG5-2>(基本)「年金スポンサーの投資経験」
ヘッジファンドに関する自分たちの投資経験はどの程度かを検討する必要があ
る。FOF では、ゲートキーパーが個別ファンドの投資適格性の検査を行うため、
投資家の段階では、個々の組入れファンドに関して、それほど詳細な調査を行う
必要がない。そのため、初めてヘッジファンド投資を行う場合など、ヘッジファ
ンドに関する投資経験の浅い年金スポンサーでも、FOF は、比較的導入しやすい
投資形態であるという見方もできる。
<HG5-3>(基本)「導入目的との整合性」
FOF は、分散投資効果の影響で、個別ファンドと比べると一般的にリスク水準
は相対的に低いことを認識する必要がある。そのため、中程度のリスク量で中程
度の投資収益の獲得を目標とする年金スポンサーにとって、FOF は望ましい特性
を備えている。しかしながら、個別ファンドの中にも、リスク水準の低い投資戦
略が存在するため、一概に、「低リスクを指向する年金スポンサーは、FOF を選
択すべき」という結論にはならない点には留意が必要である。
13
リスク管理フォーラム
【HG6】(努力)「投資戦略の特定化」
年金スポンサーは、個別ファンドに投資する場合には、
【HG3】で把握した投資
戦略別のリスク・リターン特性を踏まえて、
【HG1】で定めた導入目的と合致する
投資戦略の選択や導入目的と整合的でない投資戦略の除外をあらかじめ行っておく
ことが望ましい。
FOF に関しても、ある程度、採用する投資戦略を明確にしたものも存在するため、
「市場中立型の FOF」などの形で、投資戦略を特定化することも可能である。たと
えば、市場環境が悪い時期でもプラスのリターンを獲得することを導入目的とする
年金スポンサーがレラティブ・バリュー型のヘッジファンドを選択するケースが一
例である。
4.政策資産配分上の投資枠の決定
【HG7】(基本)「ベンチマークの設定」
まず、導入予定のヘッジファンドの投資形態に応じて、適切なベンチマークを設
定することが必要である。
<HG7-1>(基本)「ヘッジファンド・インデックスの活用」
FOF もしくは投資戦略が異なるヘッジファンドへの分散投資を予定している
場合には、既存のヘッジファンド・インデックスを活用することが可能である。
ただし、ヘッジファンドに特有の定量リスク(確率分布の歪みやファットテール
の問題等)やデータ制約を十分に理解し、ヘッジファンド・インデックスの限界
を認識することが必要である。
<HG7-2>(上位)「カスタム・インデックスの構築」
導入予定のヘッジファンドの投資形態がかなり特定化されている場合には、カ
スタム・インデックスを構築することも考えられる。
<HG7-3>(基本)「伝統的資産のベンチマーク・インデックスの利用」
特定の資産のロングオンリー運用、もしくはそれに準ずる投資戦略を選択する
場合には、株式や債券等、伝統的資産に関する代表的なベンチマーク・インデッ
クスを活用することも可能である。
<HG7-4>(基本)「その他のベンチマークの設定」
既存のインデックスを活用することがむずかしい場合には、何らかの便宜的な
ベンチマークを設定することも想定される。期待リターンとして、特定のリター
ン水準や短期金利に一定のプレミアムを上乗せした値を用いたり、他の資産との
相関係数を一律ゼロと置いたりするケースが含まれる。
リスク管理フォーラム
14
【HG8】(基本)「ヘッジファンドの位置づけの明確化」
次に、年金スポンサーが採用する政策資産配分の中で、ヘッジファンドをどのよ
うに位置づけて投資するかを明確にすることが必要である。
*
本ガイドラインでは、ヘッジファンドの位置づけの仕方としては、以下のように、大
きく3つのタイプに分けることができると考える。それぞれのタイプによって、導入時
のチェック項目・リスク管理方法は異なってくる。
① ヘッジファンドもひとつの独立した資産クラスとして認識し、国内外の株式や債
券などの伝統的資産とともに最適化等を行い、政策資産配分を決定する。
② タイプ①と同様に、ヘッジファンドをひとつの独立した資産クラスとして認識す
るが、すでに策定している伝統的資産から構成される政策資産配分は動かさず、
その政策資産配分が規定するリスク制約のもとでヘッジファンドの組入比率を外
枠で決定する。ヘッジファンドの組入比率分だけ、伝統的資産の政策資産配分を
比例配分して減少させることになる。
③ ヘッジファンドをひとつの独立した資産クラスとは認識せずに、伝統的資産の内
枠として考える。伝統的資産からなる政策資産配分は動かさず、その政策資産配
分が規定するリスク制約のもとで、組み入れるヘッジファンドの特性を踏まえた
うえで、ある特定資産のアクティブ運用ファンドの一種と位置づけて組み込む。
* <AG3-1>における試験的投資を導入目的とする場合には、②において外枠で
ヘッジファンドを管理する方法や③において現金性資産等の代替的な位置づけと
見なす方法等が考えられる。
【HG9】(基本)「投資枠の決定」1
ヘッジファンドの政策資産配分上の位置づけに応じて、ヘッジファンドの投資枠
を決定することが必要である。
<HG9-1>(基本)「期待リターン、リスク、相関係数の推計」
【HG7】で定めたベンチマークに基づいて、ヘッジファンドの期待リターン、
リスク(標準偏差)および他の資産との間の相関係数(①と②の場合は、他のす
べての資産、③の場合は、内枠とする資産との間の相関係数)を推計することが
必要である。ただし、上記パラメーターに関しては、保守的な推計(過去データ
に基づく推計値よりも、リターンは低く、リスクは高く、相関係数は高く調整)
が望ましい。
1
ここで投資枠とは、政策資産配分上のヘッジファンドの組入比率に関する上限のことを表す。当該投資
枠の範囲内で、ヘッジファンドに投資されることになる。この点は、不動産私募ファンドや REIT ファン
ドでも同様である。
15
リスク管理フォーラム
①「独立した資産と見なして、伝統的資産とともに政策資産配分を決定」の場合
<HG9-2①>(基本)
「最適化計算と政策資産配分の決定」
<HG9-1>で推計した前提条件と伝統的資産に関する前提条件に基づいて最
適化計算を行った結果等を踏まえて、政策資産配分を決定することが必要である。
ただし、ヘッジファンド特有のリスク要因や年金スポンサーの負債構造、リスク
許容度も考慮したうえで、保守的な決定を行うことが必要である。
②「独立した資産と見なして、伝統的資産間の政策資産配分の外枠で決定」の場合
<HG9-2②-1>(基本)「伝統的資産の政策資産配分の決定」
ヘッジファンド以外の伝統的資産に関する政策資産配分は、あらかじめ決定し
ておくことが必要である。
<HG9-2②-2>(基本)「外枠での組入比率の変化と全資産の特性の分析」
ヘッジファンドの組入比率を外枠で変化させることによって、全資産のリス
ク・リターン特性の変化を分析することが必要である。
<HG9-2②-3>(基本)「投資枠の保守的な決定」
定性的な判断も加味して、ヘッジファンドの投資枠を決定することが必要であ
る。ただし、保守的な設定が望ましい。
③「独立した資産とは見なさず、特定の伝統的資産の内枠で一定比率を配分」の場合
<HG9-2③-1>(基本)「内枠とする資産の決定」
どの資産の内枠とするかを検討のうえ、内枠とする資産を決定することが必要
である。
<HG9-2③-2>(努力)「組入比率とトラッキングエラーのシミュレーション」
ヘッジファンドの組入比率に応じて、その資産のベンチマークに対するトラッ
キングエラーの変化をシミュレーションすることが望ましい。
<HG9-2③-3>(基本・努力)
「投資枠の決定」
(シミュレーション結果を踏まえて、)投資枠を決定することが必要である。
<HG9-2③-4>(努力)「上限まで組み入れた場合の全資産のリスク量の確認」
投資枠の上限までヘッジファンドを組み入れた場合でも、全資産のリスクが運
用基本方針のリスク許容範囲内に収まることを確認することが望ましい。
<HG9-2③-5>(基本)「代替的役割の終了」
どのような条件のもとで、代替的な役割を終わらせるかをあらかじめ決定して
おくことが必要である。
リスク管理フォーラム
16
第2節
実行段階におけるガイドライン
1.ファンド選定
【HG10】(基本)「ファンド選定」
実際にファンドを選定する際には、導入目的に応じてあらかじめ定めた投資形態
と合致するかどうかを確認することが必要である。また、候補となるファンドに関
して、基本的な情報を集めたうえで、投資すべきかどうかを慎重に判断することが
必要である。
<HG10-1>(基本)「投資形態の条件の確認」
すでに候補となるファンドが存在する場合には、そのファンドが【HG5】、
【H
G6】で定めた条件に合致するかどうかを確認することが必要である。
<HG10-2>(基本)「候補ファンドのリストアップ」
候補となるファンドが存在しない場合には、
【HG5】、
【HG6】で定めた条件
に合致する候補ファンドをリストアップすることが必要である。
<HG10-3>(基本)「基本的情報の入手」
<HG10-1>ないし<HG10-2>における候補ファンドについて、基本的情報
を入手することが必要である。
(1)個別ファンドの選定の場合
① 投資戦略の概要、リターンの源泉、定性的リスク要因
② キャパシティ、現在の投資金額、他の投資家の数や投資金額
③ ファンドの時価総額と時価の評価方法および評価するタイミング(特に、流動
性の乏しい市場へ投資するファンドの場合)
④ ディスクローズの内容と水準
⑤ 同一マネージャーが運用する類似ファンドの存在やファンド間の取引など、利
益相反行為の発生原因となり得る状況の有無
⑥ 運用報酬控除後の目標リターンや目標リスク
⑦ リターンやリスクの実績値、およびドローダウンの水準とその背景
⑧ 運用体制、キーパーソンの経歴
⑨ 資産管理会社、監査法人、プライム・ブローカー等の関係者の概要
⑩ 最低投資金額と追加投資金額の単位
⑪ 投資している市場や証券等の流動性
⑫ 解約不能期間(ロックアップ期間)の有無と長さ、解約の頻度、解約してから
キャッシュ化できるまでの期間、解約手数料の有無と料率、これらファンド組
成上の流動性が⑪における投資対象の流動性と照らして妥当かどうか
⑬ 資産ベースの報酬と成功報酬の料率、成功報酬の基礎となる利益の定義、ハイ
ウォーターマークの有無とハードルレート
17
リスク管理フォーラム
⑭ レバレッジ定義と大きさ、類似ファンドの標準的なレバレッジ
⑮ 運用方針に関する文書(運用ガイドライン)
(2)ファンド・オブ・ファンズの選定の場合
②、④~⑩、⑫~⑮ 個別ファンドの場合と同様
① 組入れる個別ファンドに関する方針(分散投資に関する方針、投資戦略の定義、
特定の投資戦略のファンドに特化する場合にはその理由、投資戦略の構成や戦
略的アロケーションの有無)
③ 組入れている個別ファンドの時価総額
⑪ 組入れファンド数が多い場合には、各ファンドの流動性をチェックすることは
非常に困難であるが、可能な限り、各ファンドが投資している市場とファンド
組成上の流動性を確認することが望ましい。(上位)
<HG10-4>(上位)「面接・実地調査の実施」
可能であれば、面接や実地調査を行い、キーパーソンの識見や運用の現場を確
認することが望ましい。
<HG10-5>(基本)「採用すべきファンドの選定」
<HG10-3>や<HG10-4>の情報に基づいて、採用すべきファンドを選定す
ることが必要である。
2.投資金額の決定
【HG11】(基本)「投資金額の決定」
【HG9】で定めた投資枠の範囲内に収まるように、
【HG10】で採用することに
内定したファンドの配分比率を決定することが必要である。
<HG11-1>(基本)「投資目標との整合性の確保」
<HG9-1>で設定した期待リターンやリスクとできるだけ整合的なポートフ
ォリオとなるように配分比率を決定することが必要である。ただし、各ファンド
の流動性や最低投資金額、追加投資金額等を制約条件として考慮しながら、比率
を決定することが必要である。
<HG11-2>(努力)「総合的な定量分析」
<HG11-1>で定めた金額を各ファンドへ投資した場合に、ポートフォリオ全
体に関するリスク管理ガイドラインを満たすかどうかを確認することが望ましい。
【HG9】で、ヘッジファンド投資の位置づけが③伝統的資産の内枠の場合には、
その資産に関するガイドラインと整合的かどうかも確認することが望ましい。
リスク管理フォーラム
18
3.運用方針の確認
【HG12】(基本)「運用方針の入手と確認」
採用したヘッジファンドの運用会社から、運用方針に関する文書を入手し、その
内容を確認することが必要である。
① 運用手法
② 投資する市場や資産の範囲
③ レバレッジの定義と上限、平均的な水準
④ 目標収益率と目標リスク
⑤ パフォーマンス評価の際のベンチマーク
⑥ 運用状況の報告の頻度と方法
⑦ 報酬体系と成功報酬算定の基礎となる利益の定義、ハイウォーターマークの有
無とハードルレート
⑧ 運用契約期間、更新の方法、解約手数料の有無と料率
【HG13】(努力)「運用方針の追加・修正」
ヘッジファンド運用会社の設定している標準的な運用方針に項目の追加もしくは
修正が必要な場合には、運用会社と協議のうえ、その要請を運用方針に盛り込むこ
とが望ましい。
第3節
モニタリング段階におけるガイドライン
1.モニタリング
【HG14】(基本)「モニタリングの実施」
ヘッジファンドの導入時に設定した期待リターン、リスク、相関係数と実際のリ
ターン、リスク、相関係数を比較し、導入時の数値目標の達成状況を確認すること
(定量的チェック)が必要である。また、運用状況に関する報告結果に基づいて、
実際の運用が運用ガイドライン通りに行われているかどうかを確認すること(定性
的チェック)も必要である。
<HG14-1>(基本)「年金スポンサーの期待リターン・リスクと実績値の比較」
導入時に設定した期待リターンやリスクと実績値の比較を行うことが必要であ
る。
<HG14-2>(基本)「インデックスや同一戦略のファンドとの実績値の比較」
【HG7】で定めたベンチマークや当該ファンドと同一戦略の他のヘッジファ
ンド等のリターンやリスクと実績値を比較し、採用ファンドの相対的な運用状況
を把握することが必要である。
19
リスク管理フォーラム
<HG14-3>(基本)「過去の実績値との比較」
当該ファンドの過去の実績リターンやリスクと直近の実績値を比較することが
必要である。
<HG14-4>(基本)「運用会社の期待リターン・リスクと実績値の比較」
運用会社から自己申告された期待リターンやリスクと実績値を比較することが
必要である。
<HG14-5>(基本)「レバレッジの状況の確認」
レバレッジの大きさが、運用ガイドライン上の目標値と整合的かどうかを確認
することが必要である。
<HG14-6>(努力)「定量的指標による評価」
複数の定量的指標(リターンの安定性、絶対リターン、下振れリスク、伝統的
資産との相関)によって、運用実績を評価することが望ましい。
<HG14-7>(基本)「ファンドの規模、他の投資家の投資状況のチェック」
ファンドの規模を定期的にチェックし、大きな変化がないか、またキャパシテ
ィを超えていないかを確認することが必要である。また、ファンドの顧客数や顧
客属性に大きな変化がないかを確認することも必要である。
<HG14-8>(基本・努力・上位)
「パフォーマンスの評価とヒアリングの実施」
<HG14-1>~<HG14-7>のような分析・確認を行ったうえで、期待通りの
運用実績か、期待から大きく乖離しているのかを評価することが必要である(基
本)。期待から大きく乖離していると判断される場合には、その理由をファンドマ
ネージャーから確認することが望ましい(努力)。また、可能であれば、必要に応
じて現地調査を実施することが望ましい(上位)。
<HG14-9>(基本)「運用状況に関する定性的な評価」
ファンドマネージャーやゲートキーパーから運用報告を聞き、説明の内容と定
量分析の結果が整合的かどうかを確認することが必要である。
<HG14-10>(基本)「運用体制やキーパーソンの変化の有無の確認」
運用体制やキーパーソンの変化がなかったかどうかを確認しておくことが必要
である。
<HG14-11>(基本)「ファンド・オブ・ファンズの構成と変化の理由の確認」
ファンド・オブ・ファンズに関しては、ポートフォリオに組入れている個別フ
ァンドや投資戦略の構成の変化を確認しておくことが必要である。解約もしくは
追加した個別ファンドがあった場合には、その理由を確認しておくことも必要で
ある。
リスク管理フォーラム
20
2.リバランス
【HG15】(基本)「リバランス」
採用したヘッジファンドに関する当初の組入比率と運用報告を踏まえた直近の組
入比率を比較し、リバランスの必要があるのかどうかを判断することが必要である。
その際、解約を伴う意思決定を行う場合には、解約手数料や、その他の投資対象と
の相対的な魅力度の比較などを行ったうえで、最終的な判断をすることが必要であ
る。
3.ガイドラインの見直し
【HG16】(基本)「ガイドラインの見直し」
【HG14】におけるモニタリング結果を踏まえたうえで、当初の導入目的を満足
することができたのかを総合的に評価することが必要である。そのうえで、計画・
実行段階のガイドラインを見直すべきかどうかを判断することが必要である。
21
リスク管理フォーラム
第3章
不動産投資に関するガイドライン
本章では、不動産投資の対象として、年金スポンサーの間でもっとも活用頻度の高い不動
産私募ファンドと REIT ファンドを取り上げる。
不動産は実物資産であり、一般的に不動産時価(ネット・アセットバリュー倍率=1倍)
での取引であるのに対して、REIT は証券であり、株価(ネット・アセットバリュー倍率≠
1倍)での取引になる場合が多い。このような資産特性の違いを反映して、不動産私募フ
ァンドと REIT ファンドについて、それぞれ異なるガイドラインを策定する。
なお、年金スポンサーの規模から政策資産配分上の不動産の投資金額が小額となり、複数
の不動産私募ファンドへの投資が不可能な場合は、十分なリスク分散が図れないリスクが
存在する。そのような場合においては、REIT ファンド、もしくは投資対象となる物件およ
び不動産物件の購入売却時期が十分に分散された不動産私募ファンドを選ぶことがリスク
管理の面から重要である。
また、本ガイドラインでは、不動産私募ファンドのポートフォリオに REIT ファンドを一
定程度含めることやその逆のケース(REIT ファンドに一部不動産私募ファンドを含めるこ
と)を排除していない。
第1款
第1節
不動産私募ファンド編(PG)
計画段階におけるガイドライン
1.不動産私募ファンドの導入目的の明確化
【PG1】(基本)「不動産私募ファンドの導入目的の明確化」
不動産私募ファンドを新たな資産クラスとして加える場合には、この資産クラス
に何を期待するのか(導入目的)をあらかじめ明確にしておくことが必要である。
導入目的としては、以下のケースが想定される。
① ポートフォリオのリターン向上
② 分散投資効果
③ インフレヘッジ
④ 高いインカムリターン
ここでは、年金スポンサーが想定する投資目的自体に優劣をつけるものではなく、
それぞれの目的においての留意点を記載する。
リスク管理フォーラム
22
<PG1-1>(基本)
「ポートフォリオのリターン向上を導入目的とする場合の留意点」
ポートフォリオのリターン向上を目的にする場合は、リスクの所在を認識する
とともに、ポートフォリオ組み入れ時におけるリスク分散効果について把握する
ことが必要である。
<PG1-2>(基本)「分散投資効果を導入目的とする場合の留意点」
分散投資効果を期待する場合は、平均分散法等による分析により、分散効果の
妥当性を確認することが必要である(ただし、分散投資効果の検証に際しては、
投資対象の収益の源泉がベータなのかアルファなのか、分別不能なのかを認識し
たうえで、分散すべきリターンおよびリスクの源泉の性格について把握すること
が望ましい)
。
<PG1-3>(努力)「インフレヘッジを導入目的とする場合の留意点」
インフレヘッジを目的とする場合は、制度上インフレリスクに対して対応する
必要があるのかを改めて確認することが望ましい。
<PG1-4>(努力)「高いインカムリターンを導入目的とする場合の留意点」
高いインカムリターンを導入目的とする場合は、財務レバレッジや投資手法等
から、トータルリターンの中に占めるインカムゲイン部分とキャピタルゲイン部
分の割合を認識することが望ましい。
2.不動産私募ファンドの特徴とリスクの把握
不動産私募ファンドに関しては、不動産固有の特徴とリスクに加えて、不動産私募ファン
ドのストラクチャーの特徴とリスクについても把握する必要がある。
【PG2】(基本)「不動産固有の特徴とリスクの把握」
不動産は、債券や株式などの伝統的資産と比べて、資産特性や取引される市場の
状況が異なることから、不動産固有の特徴とリスクについて把握する必要がある。
<PG2-1>(基本)
「流動性・個別性」
不動産は、債券や株式などの伝統的資産と比べると、流動性や個別性などの点
において、情報の非対称性や不透明性が相対的に大きいことを認識する必要があ
る。
<PG2-2>(基本)
「瑕疵・自然災害」
不動産には、物件または権利の瑕疵が存在することがあり、また、自然災害等
により、その価値が大きく毀損する可能性もあることを認識する必要がある。
<PG2-3>(基本)
「時価評価」
不動産の時価評価結果は、第三者の鑑定評価によるものであっても、評価者の
主観によって差異が生じることが多い点を留意する必要がある。
23
リスク管理フォーラム
【PG3】(基本)「ストラクチャーの特徴とリスクの把握」
不動産私募ファンドのストラクチャーは、ファンドごとに特性が異なることから、
その特徴とリスクを把握することが必要である。
<PG3-1>(基本)
「財務レバレッジ」
財務レバレッジの活用に伴い、キャッシュフローに特異なパターンが生じたり、
金利リスクが発生したりする可能性があることを認識する必要がある。また、そ
の際、優先劣後構造が追加的なリスクを生み出す可能性がある点にも留意が必要
である。
<PG3-2>(努力)「投資期間」
投資期間が定められている場合には、売却価格や賃料収入、調達金利などを変
化させた感応度分析を行うことが望ましい。
<PG3-3>(努力)「法務リスク」
譲渡人等からの倒産隔離といった法務上のリスクについて適切な対処が行われ
ているかどうかを確認することが望ましい。
<PG3-4>(努力)「税務リスク」
二重課税の回避や導管性の確保といった税務上のリスクに対して適切な対処が
行われているかどうかを確認することが望ましい。
3.主たる投資対象の決定
不動産は債券や株式のような有価証券と異なり、個別性および流動性のリスクが相対的に
大きい。そのため、一般的には、年金スポンサーがターゲットとするコア不動産ポートフ
ォリオ2を決めたうえで、一定の時間をかけてポートフォリオを組成することになる。その
際、主たる投資対象(地域、用途、スタイルなど)を決定したうえで、不動産ポートフォ
リオを組成するが、市場環境によっては、投資タイミングを主たる収益の源泉とするオポ
チュニスティック・ファンドのような案件が持ち込まれることがあり、事前に主たる投資
対象から外れるノンコア投資の投資可能額を明確にしておくことが望ましい。
なお、コア不動産ポートフォリオは、他の伝統的資産と同様、国内と国外を分けて管理す
る考え方と、グローバル投資の一環として、内外一体で管理する考え方がある。
【PG4】(基本)「コア不動産ポートフォリオの決定」
不動産私募ファンドの投資にあたっては、想定する不動産私募ファンド投資の資
産特性を定義するために、地域、用途、スタイルなどの観点から、主たる投資対象
(コア不動産ポートフォリオ)を決定することが必要である。
2
ここでコア不動産ポートフォリオとは、年金スポンサーが主として投資を予定している不動産私募ファ
ンドの地域、用途、スタイル等の投資ユニバースのことである。なお、コア不動産私募ポートフォリオで
想定した投資ユニバースから外れる不動産私募ファンドへの投資はノンコア不動産ポートフォリオになる。
リスク管理フォーラム
24
<PG4-1>(努力)
「コア不動産ポートフォリオの分散」
コア不動産ポートフォリオを決定する際には、個別に投資することになる不動
産私募ファンドの分散の程度について事前に想定しておくことが望ましい。
【PG5】(努力)「ノンコア不動産ポートフォリオの決定」
コア不動産ポートフォリオに対するノンコア不動産ポートフォリオの位置づけや
ウェイトを定めたうえで、その投資対象を明らかにすることが望ましい。また、こ
れらのノンコア不動産ポートフォリオについては、許容できる投資対象の範囲を定
めることが望ましい。
4.政策資産配分上の投資枠の決定
【PG6】(基本)「ベンチマークの設定」
【PG4】で定めたコア不動産ポートフォリオの資産特性を踏まえて、適切なベ
ンチマークを設定することが必要である。
<PG6-1>(基本)「不動産投資インデックスの活用」
地域、用途、スタイルなどの投資対象の面で多様な不動産物件への分散投資が
予定されている場合には、既存の不動産投資インデックスを活用することが可能
である。最近は、不動産投資インデックスの開発が進んできており、個別のビル
ごとの収入および支出のキャッシュフロー・データを用いて計算された期間収益
率に基づいて作成されたインデックスを活用することも可能な状況になっている。
<PG6-2>(上位)「カスタム・インデックスの構築」
導入予定の不動産私募ファンドの投資形態がかなり特定化されている場合には、
カスタム・インデックスを構築することも考えられる。
<PG6-3>(基本)「その他のベンチマークの設定」
既存のインデックスを活用することがむずかしい場合には、何らかの便宜的な
ベンチマークを設定することも想定される。期待リターンとして、特定のリター
ンの水準や短期金利に一定のプレミアムを上乗せした値を用いたり、他の資産と
の相関係数を一律ゼロと置いたりするケースが含まれる。
【PG7】(基本)「不動産私募ファンドの位置づけの明確化」
【PG4】で定めたコア不動産ポートフォリオの資産特性を踏まえて、政策資産
配分上の不動産私募ファンドの位置づけを明確にすることが必要である。
* 不動産私募ファンドの位置づけとしては、以下の3つのケースが想定される。
① 独立した資産クラスとして、伝統的資産とともに最適化等を行い、政策資産配分
を決定する。
25
リスク管理フォーラム
② タイプ①と同様、独立した資産クラスとして認識するが、すでに策定している伝
統的資産から構成される政策資産配分は動かさず、不動産私募ファンドの組入比
率を外枠で決定する。不動産私募ファンドの組入比率分だけ、伝統的資産の政策
資産配分を比例配分して減少させることになる。
③ 不動産私募ファンドをひとつの独立した資産クラスとは認識せずに、特定の伝統
的資産の内枠として考える。伝統的資産からなる政策資産配分は動かさず、その
資産クラス内で一定割合を配分する。
* 不動産私募ファンドにおいては、コア不動産ポートフォリオの範囲を確定することに
よって、不動産の期待リターン、リスクおよび他資産との相関を推計することが、一
定程度可能になることから、定量的なアプローチも可能である。
【PG8】(基本)「投資枠の決定」
【PG7】で定めた政策資産配分上の位置づけに応じて、不動産私募ファンドの
投資枠を決定することが必要である。
<PG8-1>(基本)「期待リターン、リスク、相関係数の推計」
【PG6】で定めたベンチマークに基づいて、不動産私募ファンドの期待リタ
ーン、リスク(標準偏差)および他の資産との間の相関係数(①と②の場合は、
他のすべての資産、③の場合は、内枠とする資産との間の相関係数)を推計する
ことが必要である(ただし、上記パラメーターに関しては、保守的な推計、すな
わち過去データに基づく推計値よりも、リターンは低く、リスクは高く、相関係
数は高く調整することが望ましい)
。
<PG8-1-1>(基本)「期待リターンの推計」
期待リターンの推計にあたっては、将来の希望的な観測に基づくものではなく、
コア不動産ポートフォリオの実績等を十分に踏まえたものとする必要がある。
<PG8-1-2>(努力)「リスクの推計」
リスクの推計にあたっては、鑑定評価の結果もたらされる不動産のリターンに
おける平準化バイアスの問題を考慮することが望ましい。
①「独立した資産と見なして、伝統的資産とともに政策資産配分を決定」の場合
<PG8-2①>(基本)
「最適化計算と政策資産配分の決定」
<PG8-1>で推計した前提条件と他の伝統的資産に関する前提条件に基づい
て最適化計算を行った結果等を踏まえて、政策資産配分を決定することが必要で
ある。
②「独立した資産と見なして、伝統的資産間の政策資産配分の外枠で決定」の場合
<PG8-2②-1>(基本)「伝統的資産の政策資産配分の決定」
不動産私募ファンド以外の伝統的資産に関する政策資産配分は、あらかじめ決
定しておくことが必要である。
リスク管理フォーラム
26
<PG8-2②-2>(基本)「外枠での組入比率の変化と全資産の特性の分析」
不動産私募ファンドの組入比率を伝統的資産クラスの外枠で変化させることに
よって、全資産のリスク・リターン特性の変化を分析することが必要である。
<PG8-2②-3>(基本)「投資枠の保守的な決定」
定性的な判断も加味して、不動産私募ファンドの投資枠を決定することが必要
である。ただし、保守的な設定が望ましい。
③「独立した資産とは見なさず、特定の伝統的資産の内枠で一定比率を配分」の場合
<PG8-2③-1>(基本)「内枠とする資産の決定」
どの資産の内枠とするかを検討のうえ、内枠とする資産を決定することが必要
である。
<PG8-2③-2>(基本)「資産特性の相違点の認識」
内枠とする伝統的資産と不動産私募ファンドの資産特性上の相違点を認識する
ことが必要である。
<PG8-2③-3>(努力)「組入比率とトラッキングエラーのシミュレーション」
不動産私募ファンドの組入比率に応じて、その資産のベンチマークに対するト
ラッキングエラーの変化をシミュレーションすることが望ましい。
<PG8-2③-4>(基本・努力)
「投資枠の決定」
(シミュレーション結果を踏まえて、)投資枠を決定することが必要である。
<PG8-2③-5>(努力)「上限まで組み入れた場合の全資産のリスク量の確認」
投資枠の上限まで不動産私募ファンドを組み入れた場合でも、全資産のリスク
が運用基本方針のリスク許容範囲内に収まることを確認することが望ましい。
<PG8-2③-6>(基本)「代替的役割の終了」
どのような条件のもとで、代替的な役割を終わらせるかをあらかじめ決定して
おくことが必要である。
<PG8-3>(基本)「過大な投資枠設定の回避」
<PG8-2①>~<PG8-2③>のどのケースにおいても、不動産のリスク特
性を十分に考慮したうえで、過大な投資枠を設定しないことが必要である。
<PG8-4>(努力)「最悪シナリオの想定」
不動産私募ファンドの投資枠は、過去の実績等から想定される最悪のケースに
耐え得るものになっていることが望ましい。
27
リスク管理フォーラム
第2節
実行段階におけるガイドライン
1.ファンド選定
(1)マネージャー選定3
不動産私募ファンドへの投資にあたっては、信託銀行あるいは投資顧問会社がゲートキー
パーとなるケースが一般的である。また不動産私募ファンドの選定については、ゲートキ
ーパーが主体的に選定を行う場合と、年金スポンサーが選定に一定程度関与する場合があ
る。
【PG9】(基本)「不動産私募ファンドのマネージャー選定」
不動産私募ファンドの選定にあたっては、まずマネージャーの選定を行う必要が
あるが、その際、不動産私募ファンドに投資を行うゲートキーパーと、不動産私募
ファンドの運用者をそれぞれ選定する必要がある。
<PG9-1>(基本)「ゲートキーパーの役割の明確化」
ゲートキーパーには、不動産私募ファンドの運用状況をチェックする役割が求
められており、事前にゲートキーパーの役割と責任を明確にする必要がある。
【PG10】(基本)「ゲートキーパーの選定」
ゲートキーパーの選定にあたっては、ゲートキーパーに求める役割と責任の遂行
が可能なだけの専門性および実行力を有しているかを確認する必要がある。
<PG10-1>(基本)「不動産に関する専門性」
ゲートキーパーが不動産の市場動向、立地、地盤、建築・設計、権利関係等に
関する専門的知識をどの程度有しているかチェックする必要がある。不動産私募
ファンド運用者がこれら不動産のリスクを見落としたり、実際より小さく見積も
ったりする可能性があるからである。取得物件の価格チェックに関する見識は、
特に重要である。
<PG10-2>(基本)「ストラクチャリングに関する専門性」
ストラクチャー上のリスクを排除するために、ゲートキーパーがファンド組成
における法律・税務等に関する専門知識をどの程度有しているかチェックをする
必要がある。
<PG10-3>(基本)「定量評価」
ゲートキーパーの過去のトラックレコードから、ゲートキーパーとしてのファ
ンド選定能力をチェックする必要がある。
3
ここで、マネージャーとは、不動産私募ファンドの運用者および不動産私募ファンドの選定者すなわち
ゲートキーパーの両方を包含する概念として使っている。
リスク管理フォーラム
28
<PG10-4>(基本)「組織・体制」
ゲートキーパーに期待される役割と責任を果たすために必要と考えられる組
織・体制が整備されているかどうか、また当該ファンドへの投資にあたって、ゲ
ートキーパーの立場からどの程度の主体的な調査・判断を行っているのかについ
てチェックする必要がある。
<PG10-5>(基本)「コンプライアンス体制」
不動産私募ファンド投資家の利益とゲートキーパーないし不動産私募ファンド
運用者の利益が対立する可能性について、ゲートキーパーが的確なコンプライア
ンス上の管理体制を備えているかどうかをチェックする必要がある。
【PG11】(基本)「不動産私募ファンド運用者の選定」
年金スポンサー自らが不動産私募ファンドの選定に関与する場合には、事前に定
めたチェック項目に従って選定を行うことが必要である。
<PG11-1>(基本)「不動産に関する専門性」
不動産のリスクを適切に把握し、将来のキャッシュフローを確実なものにする
ために、不動産私募ファンド運用者が、不動産の市場動向、立地、地盤、建築・
設計、権利関係等に関する専門的知識をどの程度有しているかをチェックする必
要がある。
<PG11-2>(基本)「物件調達力」
優良な不動産物件を効率的に取得することは不動産私募ファンドのパフォーマ
ンスに直結することから、不動産私募ファンド運用者が、不動産物件の調達につ
いて、独自のネットワークあるいは強みをどの程度有しているかをチェックする
必要がある。
<PG11-3>(基本)「ストラクチャリング力」
ストラクチャー上のリスクを排除するために、不動産私募ファンドの運用者が
ファンド組成に関する法律や税務上の問題等に関する専門知識をどの程度有して
いるかをチェックする必要がある。
<PG11-4>(基本)「運用哲学」
不動産私募ファンド運用者の運用能力を明らかにするために、超過収益の源泉
を明確にし、それが運用者の運用哲学と一貫しているかをチェックする必要があ
る。
<PG11-5>(基本)「定量評価」
不動産私募ファンド運用者の過去のトラックレコードから、運用者の運用能力
をチェックする必要がある。
<PG11-6>(基本)「プロパティマネジメント力」
不動産のキャッシュフローを安定化あるいは向上させる能力があるかどうかを
29
リスク管理フォーラム
確認するために、不動産私募ファンド運用者のプロパティマネジメント力(適正
賃料で高稼働率を維持する能力、建物・設備を効率的に維持管理する能力等)の
有無をチェックする必要がある。
<PG11-7>(基本)「組織・体制」
不動産私募ファンドの運用スタイルの維持あるいは超過収益の源泉を確保する
ために必要と考えられるだけの組織・体制が整備されているかどうか、また、当
該ファンドの運用を実際に担当しているかどうかをチェックする必要がある。
<PG11-8>(基本)「コンプライアンス体制」
不動産私募ファンド投資家の利益と不動産私募ファンド運用者の利益が対立す
ることを極力回避するために、不動産私募ファンド運用者の内部におけるコンプ
ライアンス体制の整備状況をチェックする必要がある。
(2)不動産私募ファンドのガバナンス
不動産私募ファンドは、採用しているビークルによって、投資家の意向が反映できる度合
いが異なる。匿名組合出資形態において、匿名組合出資者が不動産物件の売買等について
何らかの意思決定を行った場合には、その出資者は営業者と見なされ兼ねず、導管性を否
認されるリスクもある。
【PG12】(基本)「不動産私募ファンドのガバナンス」
不動産私募ファンドはファンドによって、投資家の意向を反映できる度合いが異
なることから、年金スポンサーの運用基本方針や運用ガイドラインを踏まえて、フ
ァンドのリーガル・ストラクチャーを十分に確認する必要がある。
2.利益相反的行為の排除
【PG13】(基本)「利益相反的行為の排除」
ゲートキーパーおよび不動産私募ファンド運用者が、ファンドの利益と相反する
立場に身を置いていないかを確認する必要がある。また、このような恐れがある場
合には、利益相反的行為の回避策を含めた報告を求める必要がある。
<PG13-1>(基本)「ローンレンダーの兼任」
ゲートキーパーまたはその実質的な支配会社が、不動産私募ファンドのローン
レンダーを兼任する場合は、ローン条件およびローンレンダーによるテール期間
での不動産売却の意思決定がファンドの利益と対立する可能性がないことを確認
する必要がある。
<PG13-2>(基本)「仲介業者の兼任」
ゲートキーパー、不動産私募ファンドの運用者、または彼らの実質的な支配会
社が、不動産私募ファンドの運用において、不動産または不動産信託受益権の取
リスク管理フォーラム
30
得・売却の仲介業者、ないし不動産物件の賃貸借を行う際の仲介業者を兼任する
場合には、当該取引に伴って発生する仲介手数料の水準の妥当性とともに、売買
ないし賃貸条件について不動産私募ファンドの取引の相手方の意向が一方的に反
映されていないことを確認する必要がある。
<PG13-3>(基本)「前所有者の兼任」
ゲートキーパーや不動産私募ファンド運用者、または彼らが実質的に支配する
会社か実質的に運用するファンドが、取引の対象となる不動産物件の前所有者と
なる場合には、取得物件の適格性の判断および取得価格の設定がファンドの利益
と対立する可能性がないことを確認する必要がある。
<PG13-4>(基本)「不動産管理処分信託受託者の兼任」
ゲートキーパーとなる信託銀行が、不動産私募ファンドで取得する不動産管理
処分信託受託者を兼任する場合には、不動産管理処分信託受託者として有する契
約上の権限および信託報酬の設定がファンドの利益と対立する可能性がないこと
を確認する必要がある。
3.投資金額の決定
【PG14】(基本)「投資金額の決定」
不動産私募ファンドへの投資金額の決定にあたっては、コア不動産ポートフォリ
オおよびノンコア不動産ポートフォリオへの資産配分額と分散状況を踏まえたうえ
で、適切な投資額を決定する必要がある。なお、不動産私募ファンドの最低投資可
能額に照らして、複数の不動産私募ファンドへ適正に分散することがむずかしい場
合は、実際に投資を行う不動産私募ファンドにおいてコア不動産ポートフォリオで
想定した投資対象ユニバースを極力カバーできるようなファンド選定を行う必要が
ある。
4.運用ガイドラインの策定
【PG15】(基本)「運用ガイドラインの策定」
不動産私募ファンドの特徴を把握したうえで、ゲートキーパー等と十分な協議を
行って運用ガイドラインを策定し、これを不動産私募ファンド運用者に提示する必
要がある。
<PG15-1>(基本・努力)「投資スタイルごとの収益の源泉の明確化」
収益の源泉を明らかにし、投資スタイル(コア、バリューアディッド、オポチ
ュニスティック等)を指定する必要がある(基本)。また、それぞれの投資スタイ
ルにおいては、トータルリターンに占めるインカムゲイン部分とキャピタルゲイ
ン部分の割合を合理的な水準とすることが望ましい(努力)。
31
リスク管理フォーラム
<PG15-2>(基本)「投資対象ユニバース(地域・用途・築年等)
」
投資対象ユニバース(地域・用途・築年等)について、指定することが必要で
ある。
<PG15-3>(基本)「ベンチマーク」
投資スタイルや投資対象ユニバースを考慮して、ベンチマークを設定すること
が必要である。ただし、ベンチマークが十分に整備されていない場合には、事業
計画書等に表示されるキャッシュフロー計画をベンチマークとして代替すること
は差し支えない。
<PG15-4>(基本)「投資スキーム」
法務・税務面の検証を行ったうえで、投資スキームを指定する必要がある。
<PG15-5>(基本)「レバレッジ戦略」
投資スタイルに合致したレバレッジ戦略であることを確認する必要がある。
<PG15-6>(基本)「ディスクローズ」
運用報告の内容およびその頻度について、事前に明確にする必要がある。
<PG15-7>(基本)「時価評価」
投資期間中の時価評価の有無およびその方法について、明確にする必要がある。
第3節
モニタリング段階におけるガイドライン
1.モニタリング
【PG16】(基本)「モニタリングの実施」
不動産私募ファンドの投資プロセスにおける計画段階および実行段階で設定した
不動産私募ファンドの目標数値と実際の数値を比較することが必要である。また、
運用状況に基づいて、実際の運用が運用ガイドライン通りに行われているかどうか
を確認する必要がある。
<PG16-1>(基本)「定量的モニタリング」
不動産私募ファンドのパフォーマンスの要因分析は、ストラクチャーによる財
務収益と不動産収益に分解して行う必要がある。
<PG16-1-1>(基本)「財務収益」
財務レバレッジ付きの不動産私募ファンドについては、レバレッジに関わる財
務収益を把握するとともに、金利変動に伴うリスクについても認識する必要が
ある。
<PG16-1-2>(基本)「不動産収益」
不動産収益については、市場要因と個別要因の分析をしたうえで、運用者の能
力を評価する必要がある。
リスク管理フォーラム
32
<PG16-1-3>(努力)「時価評価」
運用期間中の時価評価が恣意的に行われていないかどうかを確認することが
望ましい。
2.今後の運用方針に関する運用機関との協議
【PG17】(基本)「今後の運用方針に関する運用機関との協議」
モニタリング結果を踏まえて、実際の数値の目標数値との乖離やガイドラインか
らの逸脱がある場合には、是正に向けた対応策を運用機関からヒアリングする必要
がある。
第2款
第1節
REITファンド編(RG)
計画段階におけるガイドライン
1.REITファンドの導入目的の明確化
【RG1】(基本)「REITファンドの導入目的の明確化」
REIT ファンドを新たな資産クラスとして加える場合には、この資産クラスに何
を期待するのか(導入目的)をあらかじめ明確にしておくことが必要である。
導入目的としては、以下のケースが想定される。
① ポートフォリオのリターン向上
② 分散投資効果
ここでは、年金スポンサーが想定する投資目的自体に優劣をつけるものではなく、
それぞれの目的においての留意点を記載する。
<RG1-1>(基本)
「ポートフォリオのリターン向上を導入目的とする場合の留意点」
ポートフォリオのリターン向上を目的にする場合は、リスクの所在を認識する
とともに、ポートフォリオ組み入れ時におけるリスク分散効果について把握する
ことが必要である。
<RG1-2>(基本)「分散投資効果を導入目的とする場合の留意点」
分散投資効果を期待する場合は、平均分散法等による分析により、分散効果の
有無を確認することが必要である。
33
リスク管理フォーラム
2.REITファンドの特徴とリスクの把握
【RG2】(基本)「REITファンドの特徴とリスクの把握」
REIT ファンドへの投資にあたっては、REIT の商品性とともに REIT が投資して
いる不動産の特徴とリスクについても認識する必要がある。
<RG2-1>(基本)
「価格変動リスク」
REIT は日々市場で取引されるため、市場参加者の思惑から、将来の不動産価
格やキャッシュフローの見通しから合理的に推測される範囲を超えて、価格が変
動する可能性があることを認識する必要がある。
<RG2-2>(基本)「不動産固有のリスク」
REIT が保有する不動産には、物件または権利の瑕疵が存在することがあり、
また自然災害によりその価値が大きく毀損する可能性もあることから、REIT フ
ァンドへの投資にあたっては不動産固有のリスクについても十分に認識する必要
がある。
<RG2-3>(基本)「財務リスク」
REIT では負債による資金調達を行っていることから、それぞれの REIT が財
務戦略において異なる金利リスクを伴っていることを認識する必要がある。
<RG2-4>(基本)「法制度・税制変更等によるリスク」
REIT および不動産に関する法制度ならび税制の変更が、REIT の価格に影響
を及ぼす可能性があること、また投資法人の倒産や上場廃止等により投資額の回
収が困難になる可能性があることを認識する必要がある。
<RG2-5>(基本)「各国のREIT市場の状況認識」
海外においては REIT 市場が存在しない国や REIT 市場が創成期にある国もあ
るなど、銘柄分散や流動性などにおいて限界がある点について十分に認識するこ
とが必要である。
3.主たる投資対象の決定
REIT の実態は不動産投資会社であり、リスク・リターンの水準は株式に類似している一
方、インカム利回りの高さなどから債券的な特徴も有している。一般に、伝統的資産運用
にあたっては、為替リスクを考慮し、国内資産と外国資産を異なる資産クラスで管理して
おり、REIT ファンド投資においても同様の手法が考えられる。ただし、国内における市場
規模が現時点では必ずしも大きくないことから、グローバル REIT として一体の資産クラ
スで管理することを否定するものではない。
【RG3】(基本)「REITファンドの投資対象の決定」
REIT ファンドの政策資産配分を決定するために、REIT ファンドの投資対象を決
定する必要がある。
リスク管理フォーラム
34
<RG3-1>(基本)
「投資対象地域」
REIT ファンドの投資対象地域を決定する必要がある。
4.政策資産配分上の投資枠の決定
【RG4】(基本)「ベンチマークの設定」
REIT ファンドの資産特性や投資対象を踏まえて、適切なベンチマークを設定す
ることが必要である。
<RG4-1>(基本)「ベンチマーク・インデックス」
投資対象地域に見合ったベンチマーク・インデックスを設定する必要がある。
<RG4-2>(基本)「不動産会社株式」
グローバル REIT インデックスの中には、REIT のみならず不動産会社株式を
含めるものもあることを認識することが必要である。
【RG5】(基本)「REITファンドの位置づけの明確化」
【RG3】で定めた REIT ファンドの主たる投資対象の資産特性を踏まえて、政
策資産配分上の REIT ファンドの位置づけを明確にすることが必要である。
* REIT ファンドの位置づけとしては、以下の2つのケースが想定される。
① 独立した資産クラスとして、伝統的資産とともに最適化等を行い、政策資産配分
を決定する。
② REIT ファンドをひとつの独立した資産クラスとは認識せずに、特定の伝統的資
産の内枠として考える。伝統的資産からなる政策資産配分は動かさず、その資産
クラス内で一定割合を配分する。
【RG6】(基本)「投資枠の決定」
【RG5】で定めた政策資産配分上の位置づけに応じて、REIT ファンドの投資
枠を決定することが必要である。
<RG6-1>(基本)「期待リターン、リスク、相関係数の推計」
【RG4】で定めたベンチマークに基づいて、REIT ファンドの期待リターン、
リスク(標準偏差)および他の資産との間の相関係数(①の場合は、他のすべて
の資産、②の場合は、内枠とする資産との間の相関係数)を推計することが必要
である。
①「独立した資産と見なして、伝統的資産とともに政策資産配分を決定」の場合
<RG6-2①>(基本)
「最適化計算と政策資産配分の決定」
<RG6-1>で推計した前提条件と他の伝統的資産に関する前提条件に基づい
35
リスク管理フォーラム
て最適化計算を行った結果等を踏まえて、政策資産配分を決定することが必要で
ある。ただし、インデックスの期間が十分でない場合は、定量的なアプローチか
らのみの最適化の信頼度が低下することから、定性的な要因も加味して投資枠を
決定する必要がある。
②「独立した資産とは見なさず、特定の伝統的資産の内枠で一定比率を配分」の場合
<RG6-2②-1>(基本)「内枠とする資産の決定」
どの資産の内枠とするかを検討のうえ、内枠とする資産を決定することが必要
である。
<RG6-2②-2>(基本)「資産特性の相違点の認識」
内枠とする伝統的資産と REIT ファンドの資産特性上の相違点を認識すること
が必要である。
<RG6-2②-3>(努力)「組入比率とトラッキングエラーのシミュレーション」
REIT ファンドの組入比率に応じて、その資産のベンチマークに対するトラッ
キングエラーの変化をシミュレーションすることが望ましい。
<RG6-2②-4>(基本・努力)
「投資枠の決定」
(シミュレーション結果を踏まえて、)投資枠を決定することが必要である。
<RG6-2②-5>(努力)「上限まで組み入れた場合の全資産のリスク量の確認」
投資枠の上限まで REIT ファンドを組み入れた場合でも、全資産のリスクが運
用基本方針のリスク許容範囲内に収まることを確認することが望ましい。
<RG6-2②-6>(基本)「代替的役割の終了」
どのような条件のもとで、代替的な役割を終わらせるかをあらかじめ決定して
おくことが必要である。
第2節
実行段階におけるガイドライン
1.マネージャー選定
【RG7】(基本)「マネージャー選定」
伝統的資産と同様、定性・定量の両面からマネージャーの評価を行い、運用機関
を選定することが必要である。
<RG7-1>(基本)「運用哲学・プロセス」
REIT の資産特性や市場の状況に即した運用哲学・プロセスを採用しているか
を確認する必要がある。
<RG7-2>(基本)「運用実績・ファンド規模」
REIT ファンドの運用実績やファンド規模について確認することが必要である。
運用実績に関しては、アクティブファンドであれば、超過収益の源泉が運用哲学
に基づくものであるか、ファンド規模に関しては、運用額の増額があっても、引
リスク管理フォーラム
36
き続き運用コンセプトを維持することが可能であるかについて確認する必要があ
る。
<RG7-3>(基本)「運用体制」
REIT に関するリサーチ体制およびファンドマネージャーの経験について確認
する必要がある。特にリサーチ体制については、REIT 専任のアナリストを採用
しているか、不動産セクターのアナリストが兼務する体制かを確認する必要があ
る。また、海外の REIT を運用対象とする場合は、グローバルなリサーチ体制に
ついても確認する必要がある。
<RG7-4>(基本)「リスク管理」
REIT ファンドのリスク管理手法について確認する必要がある。伝統的資産と
同様にトラッキングエラー等の管理が可能かどうかについて、確認する必要があ
る。
2.投資金額の決定
【RG8】(基本)「投資金額の決定」
REIT ファンド全体への資産配分額と分散可能性を踏まえたうえで、各ファンド
への適切な投資金額を決定することが必要である。
3.運用ガイドラインの策定
【RG9】(基本)「運用ガイドラインの策定」
REIT ファンドの資産特性を把握したうえで運用ガイドラインを策定し、これを
運用者に提示する必要がある。
<RG9-1>(基本)「投資対象ユニバース」
REIT ファンドの投資対象を決定する必要がある。国内の REIT のみを投資対
象にするのか、海外の REIT を含めるのか決定したうえで、海外 REIT にも投資
を行う場合には、投資対象国を確認する必要がある。
<RG9-1-1>(基本)「不動産会社株式」
特に海外 REIT ファンドへ投資する場合には、投資対象とする REIT 市場な
らびに不動産会社株式の組み込みの是非について決定する必要がある。
<RG9-1-2>(努力)「流動性」
投資対象とする REIT 市場の決定に際しては、その市場の規模や流動性など
を勘案することが望ましい。
<RG9-2>(基本)「ベンチマーク」
投資対象ユニバースを考慮し、ベンチマークを設定することが必要である。
<RG9-3>(基本)「投資スタイル」
REIT ファンドのベンチマークに対する期待超過リターン(ただし、アクティ
37
リスク管理フォーラム
ブ運用の場合)およびリスクを指定する必要がある。
<RG9-4>(基本)「ディスクローズ」
REIT ファンドの運用報告について、その頻度や運用評価基準、リスク管理指
標などを事前に確認する必要がある。
<RG9-5>(基本)「運用報酬」
REIT ファンドの運用報酬については、固定報酬か成功報酬かの別、およびそ
の体系を確認する必要がある。また、料率の設定方法が運用スタイルに照らして
妥当かどうかについて事前に検討する必要がある。
第3節
モニタリング段階におけるガイドライン
1.モニタリング
【RG10】(基本)「モニタリングの実施」
REIT ファンドの投資プロセスにおける計画段階および実行段階で設定した
REIT ファンドの目標数値と実際の数値を比較することが必要である。また、運用
状況に基づき、実際の運用が運用ガイドライン通りに行われているかを確認する必
要がある。
2.今後の運用方針に関する運用機関との協議
【RG11】(基本)「今後の運用方針に関する運用機関との協議」
モニタリングの結果を踏まえて、実際の数値の目標数値からの乖離やガイドライ
ンからの逸脱がある場合には、是正に向けた対応策を運用機関からヒアリングする
必要がある。
リスク管理フォーラム
38
【重要な留意事項】
本資料に記載した情報に基づき当社とお取引いただく場合は、次の事項に十分ご注意く
ださい。
手数料等およびリスクについて
● お客様から当社が受領する報酬額は、投資一任契約に係る運用する資
産または投資顧問契約におけるご提供するサービス内容、投資顧問契
約に基づき当社が分析する運用機関の会社数、分析対象の運用資産の
種類等によりお客様と個別に協議させていただいた上、決定いたしま
す。
また、お客様のご依頼により遠隔地に出張する場合、出張旅費等の実
費を投資一任契約または投資顧問契約に基づきご請求させていただく
ことがあります。この場合、その他費用等の総額を事前に明示するこ
とはできません。
● 投資一任契約または投資顧問契約により運用または助言する有価証券
等についてのリスクは、次のとおりです。
・ 金利水準、為替相場、株式相場、不動産相場、商品相場、その他
の指標等の変動、有価証券等の発行者の経営・財務状況の変化等に
伴い、当該有価証券等の市場価格が変動し、また、その支払いを
受けられなくなることがあるため、投資元本を割り込んだり、そ
の全額を失うことがあります。
・ さらに、信用取引や有価証券関連デリバティブ取引を用いる場合
においては、委託した証拠金を担保として、証拠金を上回る多額
の取引を行うことがありますので、上記の要因により生じた損失
の額が証拠金の額を上回る(元本超過額が生じる)ことがありま
す。
当社とのお取引に際しては、必ず契約締結前書面等をよくお読みになり、
お客様のご判断と責任に基づいてご契約ください。
商号等
株式会社 大和ファンド・コンサルティング
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 843 号
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