映画館市場の参入・退出を巡る競争の分析

ガソリンスタンドの契約形態が小売価格
及び販売インセンティブに与える影響
企業組織パート
窪田悠介
櫻井皓司
志村紳太朗
吉野絢哉
はじめに
本論文では企業の垂直的関係を取り扱う。垂直的につながっている 2 つの工程や段
階には、それら 2 つが同一企業の異なる部門に統合されている場合と、それぞれが独
立した企業によって営まれている場合がある。より原材料に近いほうを上流、最終消
費者に近いほうを下流とする。上流と下流が同一企業に統合されている場合は企業内
で取引が行われ、異なる企業に属している場合は市場で取引が行われる。前者では共
同利潤最大化を試みるが、後者はそれぞれが私的利潤最大化を試みる。この行動の違
いが小売価格に与える影響について考察を与えることが本論文の目的の 1 つである。
また垂直的関係を、主導権を持つ上流がプリンシパル、下流がエージェントである
ようなプリンシパル・エージェント問題として置き換えたとき、プリンシパルはエー
ジェントが適切に行動しているかを観察できない場合がある。このような情報の非対
称性が存在するとき、エージェント側のモラルハザードを招く恐れがあり、プリンシ
パルは適切なインセンティブを与える仕組みを設計しなければならない。そこで適切
なインセンティブを与えるために、プリンシパルはどのような契約をエージェントと
交わし、いかにして垂直的関係をコーディネートしているのかについて分析すること
が本論文のもう 1 つの目的である。
なお、本論文ではガソリン市場の垂直的関係を分析する。なぜならガソリン市場に
は関係特殊的資産が存在せず、同質財市場であり、上流企業間のブランド力や下流に
対するモニタリング技術にはほとんど差異がないと考えられるため、分析を単純化で
きるからである。ガソリン市場では石油製品の輸入&精製を行う元売が上流、ガソリ
ン販売を行うサービスステーションが下流に対応する。また、上流と下流の間にはガ
ソリン販売に関して大きく分けて(1)直営、
(2)フランチャイズ、
(3)独自ブランド
の 3 種類の契約が交わされている。上流は下流のガソリンスタンドに対してガソリン
販売業務を委託するが、これらの契約形態がそれぞれ価格に与える影響、及びいかに
してインセンティブを付与しているのかを分析していく。
1 章の現状分析では現在のガソリンスタンド市場の動向を分析している。価格の推
移や契約形態の割合などに特に注目している。さらに、ガソリンスタンドが多角化の
ために様々な 2 次的サービスを行っているがその取り組みについても分析している。
2 章は各契約形態がガソリン小売価格に与える影響について理論、実証分析を用い
て考察している。契約形態によって生じる 2 重マージン問題の存在が価格上昇を招い
ていることを理論、実証分析で示している。
ii
3 章ではまず、各契約形態がそれぞれいかにして適切なインセンティブをエージェ
ントに与えているのかを考察する。次にガソリンスタンドにおけるコンビニエンスス
トア併設、車の修理業務などの 2 次的サービスにも注目し、2 次的サービスの性質が
ガソリン販売のインセンティブに与える影響を、マルチタスクモデルを用いて説明す
る。そしてそこで導かれた理論の妥当性を実証分析で確かめている。
iii
目次
はじめに
第1章
…ⅱ
現状分析
1.1
石油産業の概観
1.2
ガソリン市場の構造
…1
1.2.1
日本の石油元売会社・精製会社について
1.2.2
ガソリン市場の動向
1.3
ガソリン価格の推移
1.4
セルフガソリンスタンドについて
1.5
契約形態について
1.6
油外事業の取り組み
第2章
2.1
2.2
2.3
第3章
契約形態がガソリン小売価格に与える影響
…12
理論の概説
2.1.1
精製所と経営者
2.1.2
問題と契約形態
2.1.3
契約形態の紹介
契約形態と価格
2.2.1
所有権と交渉力
2.2.2
垂直的統合と 2 重マージン
実証分析
2.3.1
先行研究の紹介
2.3.2
データソース
2.3.3
変数定義
2.3.4
実証結果
契約形態がガソリン販売のインセンティブ及び 2 次的サービスの決定に
与える影響
…32
3.1
契約形態とエージェントの努力について
3.2
理論分析
iv
3.3
3.2.1
ガソリンスタンド市場について
3.2.2
補完性の定義
3.2.3
マルチタスクモデル
3.2.4
ガソリンスタンド市場に合致した仮定
3.2.5
最適契約の導出
3.2.6
最適契約とタスクの関係
3.2.7
ガソリン販売契約とインセンティブの関係
3.2.8
努力と契約形態の選択
実証分析
3.3.1
先行研究の紹介
3.3.2
本節における分析方法
3.4.2.1
順序 probit を用いた分析方法
3.4.2.2
パラメーターβの解釈
3.3.3
データソース
3.3.4
変数定義
3.3.5
実証結果
第4章
考察・今後の課題
…60
参考文献
…62
終わりに
…63
v
第1章
現状分析
文責
1.1
櫻井皓司・志村紳太朗・吉野絢哉
石油産業の概観
石油産業は原油の探査から石油製品の販売まで一連の流通経路全体に関する産業
のことを指し各工程において多くの企業が参加している。具体的な産業内でのフロー
は原油の探索、採掘に始まり、輸送、備蓄、精製、そしてガソリン等の石油製品の販
売でもって我々消費者に商品が提供されるという流れであり、産業全体で見た時には
原油の開発生産段階に携わる企業を上流企業、それ以降のプロセスに関わる企業は下
流企業とされる。生産プロセスにおいて、精製はガソリンスタンドの販売に比べて上
流にあることが分かる。
表 1-1
石油産業の中の企業の役割
石油産業
業務範囲
業務の細目
担当会社
上流部門
原油の開発と生産
全般
石油開発会社
輸出入計画
石油精製会社
原油の輸送
外航タンカー会社
原油の貯蔵、備蓄
石油基地会社
原油の精製
全般
石油精製会社
製品の国内輸送と
業務の計画
石油元売会社
貯蔵
製品の輸送、貯蓄
石油輸送会社
大口需要
石油元売会社
原油の輸送と備蓄
下流部門
石油製品の販売
一次卸
小売・二次卸
石油販売会社
特約店
出所
1.2
JX 日鉱日石エネルギー「石油便覧」
ガソリン市場の構造
この論文ではガソリン産業の中でおいて石油精製後のガソリンを消費者に届ける
までのプロセスに注目しこれを特にガソリン市場とする。そうするとガソリン市場に
は大きく分けて石油精製会社、すなわち精製所とガソリンスタンドの 2 つのプレーヤ
ーがいることになる。精製所は原油を輸入、精製し石油製品、ガソリン等を販売する
1
企業のことでこちらが上流企業となる。一方でガソリンスタンドはそういった精製所
から商品であるガソリンを仕入れ我々消費者に販売する企業で下流企業となる。なお
ガソリンスタンドは純粋なガソリンの販売以外にもコンビニエンスストアの併設や修
理など付随的な 2 次サービスの提供を行うこともある。以下簡単なガソリン市場の需
給フローを掲載する。
図 1-1
ガソリン市場の基本的な需給構造
精製所
(上流企業)
原油の輸入
卸売価格
ガソリンの販売
ガソリンスタンド
(下流企業)
ガソリンの販売、
小売価格
2 次的サービスの提供
消費者
1.2.1
日本の石油元売会社・精製会社について
日本でおいて石油会社は 2013 年 9 月現在では 17 社あるとされそのうち元売会社は
9 社あるが、グループ会社単位でみると出光興産、JX 日鉱日石エネルギー、コスモ石
油、昭和シェル石油、東燃ゼネラルグループ、太陽石油の 6 つに分かれる。このよう
な元売会社のうち精製会社を兼ねているものは JX 日鉱日石エネルギー、出光石油、
コスモ石油、東燃ゼネラル石油、太陽石油の 5 社である。
以下の表と図は 6 グループの売り上げ、営業利益額とそのシェア、従業員数につい
てである。売上高で見ると最も金額が大きいのは JX 日鉱日石エネルギーであり 2 位
の出光興産と比べ 1.91 倍とほぼ 2 倍に近い売り上げとなっているが営業利益で見て
みると 1 位が出光興産、2 位が僅差で昭和シェル石油となっており JX 日鉱日石エネ
ルギーは東燃ゼネラルグループに続き 4 位となっている。
2
表 1-2
石油元売各社の財務指標
石油元売会社
石油精製会社
JX 日鉱日
企業名
出光興産
石エネル
ギー
売上高
(百万円)
営業利益
(百万円)
従業員数
(人)
販売のみ
コスモ
東燃ゼネラ
太陽
昭和シェ
石油
ルグループ
石油
ル石油
5,034,995
9,604,552
3,537,782
3,241,150
855,000
2,953,808
78,197
34,794
4,348
52,289
10,400
75,430
8,749
6,208
1,837
2,921
659
953
各社ホームページ IR 情報(2013)
出所
図 1-2
石油元売 6 グループのシェア
売上シェア
営業利益シェア
出光興産
12%
3%
20%
出光興産
JX日鉱日石
エネルギー
29%
31%
コスモ石油
JX日鉱日石エ
ネルギー
コスモ石油
13%
東燃ゼネラル
グループ
14%
38%
東燃ゼネラル
グループ
4%
太陽石油
14%
20%
昭和シェル石
油
出所
1.2.2
2%
太陽石油
昭和シェル石
油
各社ホームページ IR 情報(2013)
ガソリン市場の動向
一般社団法人全国石油協会の調査 によればガソリンスタンドの 45%が赤字であり
一般社団法人全国石油協会の調査によればガソリンスタンドの
ガソリン市場は現在厳しい状況に置かれている。その理由としてガソリンが売れなく
3
なったということがあげられる。下記の図 1-3 のガソリンの国内向け販売量のグラフ
を見てわかる通り、2005 年あたりをピークとして減少しているのがわかる。このよう
な販売不況がガソリンスタンドの経営を圧迫しているのは間違いない。その原因の 1
つとして自動車の技術の進歩も考えられるが大きな理由は自動車の国内需要の減少で
ある。国内ガソリンの大口需要者は普通車やトラックなどの乗用車であるのだが以下
の図 1-4 を見ればわかる通り 2005 年以降は自動車の国内需要が低下しているのが分
かる。このようなガソリンの需要者の減少というのがガソリンの販売の低下の原因の
1 つであると考えられる。このようにガソリンスタンドは現在縮小している需要の中
で競争を繰り広げておりそのような環境の中で各社さまざまな工夫を凝らして集客を
伸ばそうとしているのである。
図 1-3
ガソリンの国内消費者向け販売量
65000
60000
55000
50000
45000
40000
35000
30000
出所
図 1-4
経済産業省「資源・エネルギー統計年表」
自動車国内需要の推移
8,000,000
7,500,000
7,000,000
6,500,000
6,000,000
5,500,000
5,000,000
4,500,000
4,000,000
3,500,000
3,000,000
出所
一般社団法人
日本自動車工業会 『自動車需要台数推移』2014.3.20
4
1.3
ガソリン価格の推移
図 1-5
年間のガソリン価格の推移
178
173
168
レギュラー看板価格
163
レギュラー実売価格
158
ハイオク看板価格
153
ハイオク実売価格
148
出所
e 燃費
図 1-5 は年間のガソリン価格を示したものである。縦軸がガソリン価格、横軸が年
月を示している。また、看板価格と実売価格の両方の価格の推移を示している。看板
価格と実売価格について説明する。看板価格とはガソリンスタンドでよく見かける看
板に書かれている価格のことである。実売価格とは実際に払う金額のことである。実
際には看板価格よりも実売価格のほうが低い傾向にある。本論文の実証分析ではガソ
リン価格の正確性を求め実売価格を使用している。図 1-5 ではレギュラーとハイオク
の価格推移を表しているが、レギュラーとハイオクの違いについて説明する。両者の
違いはオクタン価の数値で区別される。オクタン価が高いのがハイオクで低いのがレ
ギュラーである。最近のハイオクガソリンはオクタン価を高めるだけでなく、洗浄剤
もブレンドされている。その結果、燃費が向上するだけでなくエンジンの寿命も伸ば
す効果がある。そのためハイオクのほうがレギュラーよりも高くなっている。
次に上図の価格の変動について考察する。上図を見る通り価格は年間を通して大き
く変動している。上昇原因は大きく分けて 2 つ考えられる。1 つ目は増税である。消
費税が 2014 年 4 月に 8%に引き上げられた。その結果、輸入コストが増大しガソリ
ン価格が大幅に上昇している。2 つ目の原因はイラク情勢の悪化である。イスラム過
激派によるイラク侵攻によって中東情勢が悪化している。石油の原産国の多い中東諸
国の不安定性がガソリン価格を引き上げている。
5
図 1-6
月間のガソリン価格の推移
175
170
165
レギュラー看板価格
レギュラー実売価格
160
ハイオク看板価格
ハイオク実売価格
155
10月31日
10月29日
10月27日
10月25日
10月23日
10月21日
10月19日
10月17日
10月15日
10月13日
10月11日
10月9日
10月7日
10月5日
10月3日
10月1日
150
出所
e 燃費
図 1-6 は月間のガソリン価格の推移を表した図である。縦軸に価格、横軸に月日を
とっている。2014 年 10 月の 1 か月間のデータである。月間の中でも緩やかであるが
価格の変化があることがわかる。右下がりで価格が徐々に下がっていることがわかる。
この理由としてはガソリン需要の低下が挙げられる。中国経済や欧州経済の不透明さ
からガソリンの需要が低下していることが価格の低下につながっていると考えられる。
本論文では 10 月中のガソリン価格データを利用して実証分析を行っている。しかし
ながら上図でも示された通り、10 月中でも価格差が生じていることからその影響を避
けるために期間別ダミーを利用している。詳しくは後の実証分析で述べる。
表 1-3 で示されているのは都道府県別のガソリン平均価格(レギュラー、ハイオク)
を安い順から順位を付けたものである。本論文では東京都、埼玉、千葉、神奈川の 4
都県を対象にしているため 4 都県のみを抜粋している。示されている通り各都道府県
のガソリン平均価格の間には差が生じている。差が生じる要因としてはガソリン需要
の違いや、土地代、輸送費などが挙げられる。表 1-3 のように都道府県間でガソリン
価格に差があることから、本論文の実証分析では 4 都県別のダミー変数を加えること
によって 4 都県間の地域によるバイアスを是正している。
6
表 1-3
都道府県別のガソリン価格平均(4 都県)
順位
レギュラー
都道府県
1位
152.97 円
千葉県
4位
154.73 円
埼玉県
10 位
156.52 円
東京都
16 位
157.04 円
神奈川県
順位
ハイオク
都道府県
2位
163.67 円
千葉県
4位
165.44 円
埼玉県
16 位
167.88 円
東京都
18 位
168.26 円
神奈川県
出典: http://e-nenpi.com/gs/prefavg
直近 30 日間の平均(10/29 現在)
1.4
セルフガソリンスタンドについて
図 1-7
全ガソリンスタンド数とセルフガソリンスタンド数の推移
60,000
50,000
40,000
全GS所
30,000
セルフGS所
20,000
10,000
出所
H25
H24
H23
H22
H21
H20
H19
H18
H17
H16
H15
H14
H13
H12
H11
H10
0
全ガソリンスタンド数…資源エネルギー庁資料より作成
7
図 1-8
競争の激化の要因
競争の激化の要因
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
77.8
59.5
19.7
10.9
不当廉売・安売り業者によ
る採算を無視した安値攻勢
元売り子会社の小売業進出
異業種の新規参入
セルフ給油所・大型量販店
の増加
出所:給油所経営・構造改革等実態調査報告書)
図 1-9
契約形態別のセルフとフルの割合(2009 年)
100%
90%
80%
36.9
70%
77.1
60%
91.9
50%
セルフ
40%
30%
フル
63.1
20%
22.9
10%
8.1
0%
直営店
フランチャイズ
独自ブランド
出所:給油所経営・構造改革等実態調査報告書)
8
図 1-7 は全ガソリンスタンド数とセルフガソリンスタンド数の推移を表したもので
ある。縦軸にガソリンスタンドの数、横軸に平成年を示している。平成 10 年から平
成 25 年のデータを利用している。棒グラフが全ガソリンスタンド所で折れ線がセル
フガソリンスタンド数である。グラフを見てわかる通り、全体のガソリンスタンドは
減少している。しかし一方でセルフガソリンスタンド数は上昇していることがわかる。
この 2 つの変化の要因、背景について説明する。
まずは全ガソリンスタンド数が減少している要因、背景について述べる。これにつ
いては各ガソリンスタンドの経営悪化が挙げられる。
「給油所経営・構造改革等実態調
査報告書(H22)」によれば経営悪化の要因として約 9 割のガソリンスタンドが需要の
減少と競争の激化を挙げている。さらに競争の激化について注目し、
「競争の激化」の
要因について考察する。図 1-8 は同様にガソリンスタンドに対して行ったアンケート
である。内容は競争の激化の要因についてである。図にある通りセルフガソリンスタ
ンドや大型量販店の増加を競争激化の要因に挙げている。この要因は 2 番目の要因と
して挙げられている不当廉売・安売り業者による採算を無視した安値攻勢とも関連が
深い。なぜかというと、セルフガソリンスタンドは人件費が削減できるためガソリン
価格を安く提供することができる。このような特性を持ったガソリンスタンドが増大
するため価格競争が激化するのである。以上のように様々な要因、背景があって全ガ
ソリンスタンド数は年々減少している。
次にセルフガソリンスタンドの増加の要因、背景について説明する。セルフガソリ
ンスタンドは以前法律で禁止されており、日本では平成 10 年 4 月から解禁となって
いる。解禁以降年々セルフガソリンスタンド数は上昇している。なぜセルフガソリン
スタンドを導入しているのかについて説明する。その理由は、人件費の削減から低価
格戦略をとれるからである。消費者のニーズとして、節約的志向が高まった。それに
対応するためにより安い価格を提供できるセルフスタンドに移行している。低価格戦
略をとることで多くの顧客、石油販売量を拡大できるそのため利益率が上昇するため、
それを狙ってセルフガソリンスタンドを展開している企業が多い。ここで契約形態別
のセルフガソリンスタンドとフルサービスのガソリンスタンドの割合を見ていく。図
1-9 を見てわかる通り、直営店、フランチャイズ、独自ブランドの順にセルフの割合
は小さくなっている。つまり直営店の方がセルフガソリンスタンドの割合が大きくな
っている。なぜこの傾向が見られるかについては本論文で後述する理論分析、実証分
析で説明していく。
9
契約形態について
契約形態について
ガソリンスタンド業界には様々な運営形態がある。「平成 22 年度 給油所経営・構
造改革等実態調査」によると給油所の運営形態は以下の 6 つのグループに分類される。
・元売 100%子会社給油所
%子会社給油所
→「元売子会社」
・特約店直営給油所(二者
二者:元売との資本関係有り)
→「特約店・資本関係有」
・特約店直営給油所(二者
二者:元売との資本関係無し)
→「特約店・資本関係無」
・販売店給油所(三者)
→「販売店」
・JA 系給油所
→「JA
JA 系」
・その他(無印、漁協、PB
PB など)
→「その他」
日本のガソリンスタンドにおける各経営形態の割合は、上に挙げた略称を用いて表
すと、以下のようになっている。
図 契約形態の割合
契約形態の割合
[分類名
分類名]
[値
値]
元売子会社 0.5
[分類名]
[値]
元売子会社
[分類名]
[値]
特約店・資本関係有
特約店・資本関係無
販売店
[分類名]
[値]
JA系
その他
[分類名]
[値]
出所:給油所経営・構造改革等実態調査報告書
出所:給油所経営・構造改革等実態調査報告書)
なお、以下本論文において契約形態として直営店・フランチャイズ店・独自ブラン
ドの 3 種類に分類して議論を行う。直営店は「元売子会社」をさし、フランチャイズ
店は「特約店・資本関係有」、「特約店・資本関係無」を、独自ブランドは「販売店」、
「JA 系」、「その他」の事を指す。
10
1.6
油外事業の取り組み
原油価格の高騰や不況の影響で経営が圧迫される中、燃料油収益の低減を補完する収
益源として、油外収益力拡大を目的とした油外事業の拡大を進めるガソリンスタンド
が近年増加している。ガソリンスタンドにおける油外事業は事業別に表 1-4 の通りに
区分することができる。
表 1-4
油外事業の事業別取組区分
業種別取組区分
本
来
事
業
油外事業の例
自動車関連商品の販売促進重視
油外商品
洗車サービスの充実
販売
整備・点検サービスの充実
自動車関連商品販売の拡大
多
角
化
事
業
タイヤ、バッテリー、アクセサリー、オイル等
手洗い洗車、コーティング、会員割引カード発行等
無料タイヤ点検、会員割引カードの発行
カー用品ショップ等
洗車事業の拡大
自動車
自動車整備工場等の設置
関連事業
自動車関連サービスの実施
コイン洗車場、洗車専門店等
整備工場、鈑金工場等
保険取次、車検取次、車検等
自動車関連事業の拡大
自動車販売 中古車販売、レンタカー、カーリース等
コンビニ、ミニショップ、喫茶店/ コーヒーショップ、
レストラン、コインランドリー等
カタログ販売、米穀販売、書籍販売、食品販売、
日用雑貨販売、家電販売、宝飾品販売、
化粧品販売、住宅設備機器販売等
店舗事業の展開
物販、
サービス 物販事業の展開
関連事業
サービス事業の展開
宅配便取次、クリーニング取次、取次代行等
出所:給油所経営・構造改革等実態調査報告書)
特に 1987 年の消防法の危険物の規制に関する政令・同規制の改正、1996 年以降の
自由化以後、この多角化は急速に進行した。これよって「業務範囲の拡大」が認めら
れ、自動車整備・車検や、コンビニエンスストアの併設等の油外事業を行うスタンド
が増加した。
11
第2章
契約形態がガソリン小売価格に与える影響
文責
2.1
志村紳太朗・吉野絢哉
理論の概説
この章では Shepard (1993) に従って精製所をプリンシパル、各ガソリンスタンド
の経営者をエージェントとして垂直的な取引関係に生じる 2 重マージンの問題、プリ
ンシパルとエージェントの対立によって生じるモラルハザード問題について取り扱い、
それらの問題と契約形態の関係性について考察する。
2.1.1
精製所と経営者
精製所は経営に必要な土地と不動産をガソリンスタンドに提供する。その際、交通
量や他ガソリンスタンドの有無等を参考にその場所の需要を考え、ガソリンスタンド
の立地、石油貯蔵量、敷地面積等の決定を行う。また同様に 2 次的サービスの提供の
有無も決定し、それをエージェントに提案する。なおこのプリンシパルの目的はガソ
リン売上の最大化である。一方エージェントであるガソリンスタンド経営者は、消費
者にガソリンを販売するだけでなく自動車の修理やコンビニエンスストアの併設等の
2 次的なサービスを提供する場合がある。経営者はガソリンスタンドの売上を重視し、
同時に自らの努力を費用として考えた上で利潤の最大化を図って行動する。
2.1.2
問題と契約形態
この時、上流企業と下流企業それぞれが自己の利潤最大化を図るために 2 重マージ
ンの問題が発生したり、プリンシパルがエージェントの努力について観察不可能であ
るためにモラルハザードの問題が生じたりする。よって精製所はこのような問題に対
して価格のコントロールを実現しつつ経営者に対する適切なインセンティブを提供す
る た め の 解 決 策 と し て 経 営 者 に 直 営 (Company-owned) 、 フ ラ ン チ ャ イ ズ
(Lessee-dealer)、独自(Open-dealer)の 3 種類の契約の提示を行う。
2.1.3
契約形態の紹介
直営店
直営店では、ガソリンスタンドの経営に必要な設備を精製所が提供しており、さら
に精製所の社員が経営者に就任する。つまり、この契約において精製所とガソリンス
タンドの経営者はプリンシパル・エージェントの関係にはなく、雇用-被雇用の関係
にある、いわゆるサラリーマンである。資産の所有権は全て精製所が持っているため、
12
経営者の交渉力は弱く、精製所がガソリンスタンドの小売価格まで決定できる唯一の
契約形態である。
フランチャイズ店
フランチャイズ店では、ガソリンスタンドの設備は精製所が保有しているが、経営
者は精製所の社員ではない。つまり精製所から経営に必要な設備を経営者がレンタル
している。経営者は精製所からガソリンを卸売価格で仕入れ小売価格で販売を行うが、
この時ガソリン代に加えてフランチャイズ料を精製所に支払う。このフランチャイズ
料は精製所が各ガソリンスタンドの収益力をもとに決定する。一見お互いの利にかな
った契約形態に見えが、経営に必要な資産の所有権が精製所側にあるためにガソリン
スタンド側は交渉上不利な立場にあることが多い。例えば、精製所はフランチャイズ
先の品質を維持するため、ガソリンスタンドに対して清掃の時間を設けさせたり、店
内や記録の閲覧を行うことができる。また、取引の多くでは最低購入量が定められて
おり、経営者は契約の満期までこういった取引を続けなければならない。
独自ブランド
独自ブランドでは、ガソリンスタンドに必要な設備を全て独立の経営者が所有して
おり、精製所とはガソリンの売買の取引を行うのみである。この契約形態においても
最低購入量の契約はあるものの、資産に関する所有権は経営者が持っているため経営
者の交渉力が強い。よって現在の精製所との契約が自分に不利であると感じた際には、
契約途中でも精製所との販売関係を断って他の精製所と売買関係を結ぶことができる。
以下、この契約形態と価格について具体的に考察していく。
2.2
契約形態と価格
精製所は、その販売先であるガソリンスタンドの契約形態に関わらず、一様な卸売
価格で販売すると仮定する。この場合、フランチャイズ店や独自ブランドといった契
約形態よりも、直営店の形態の方が価格は安くなると考えられる。以下この事象につ
いて 2 つの側面から考察する。
2.2.1
所有権と交渉力
直営店の契約形態の場合、精製所はガソリンスタンドの経営に必要な資産を提供し
ており、さらにガソリンスタンドの経営者は精製所に雇われている社員である。よっ
て精製所は取引でおいて交渉力が強く価格に対するコントロール力を持っているので
直営店のガソリンスタンドに対してはその小売価格を卸売価格と一致させるようにす
13
ることができる。つまり他の2つの契約形態が卸売価格に自己の限界費用やマージン
を上乗せしているのに対して、直営店の場合はそのまま卸売価格で消費者にガソリン
を販売しているためガソリンの小売価格は他と比べて安くなるのである。
2.2.2
垂直的統合と 2 重マージン
もちろん上記のような所有権と交渉力によっても価格の違いが説明できるのだが、
以下精製所とガソリンスタンドの垂直的関係において、直営店の小売価格がその他の
契約形態のガソリンスタンドの小売価格よりも安くなることを Tirole (1988) を参考
にして理論的に示していく。精製所の利潤を 、ガソリンスタンドの利潤を とする。
精製所がガソリンを販売する際の卸売価格を (> )、ガソリンスタンドが消費者にガ
ソリンを販売する際の小売価格を とし、精製所には ( < 1)という平均費用がかか
るものとする。このようなときに非垂直的統合時、すなわちフランチャイズ契約や独
自ブランドの場合と垂直統合時、直営店の場合の価格の違いを見ていきたい。
図 2-1:垂直的関係と価格
精製所
平均費用ܿ < 1
卸売価格
ガソリンスタンド
ܲோ > ܿ
小売価格‫݌(݌ = ீ݌‬ோ )
消費者需要‫ܦ‬ሺ‫ ீ݌‬ሻ = 1 − ‫ீ݌‬
出所 Tirole (1988)
(1)フランチャイズ店や独自ブランドの場合
ガソリンスタ ンドは自 己の利潤 = − 1 − を について最 大化しよう と
する。一階条件により
=
1 + 2
となる。一方で精製所はガソリンスタンドの売り上げ販売量である
14
=
を需要として自己の利潤
1 − 2
1 − = − 2
を について最大化する。一階条件より
1+
2
=
このとき消費者価格は以下のように表される
1+
1 + 1 + 2
3+
= =
=
=
2
2
4
…(2.1)
(2)直営店の場合
上流にある精製所と下流にあるガソリンスタンドが 1 つの企業であると考えればよ
いので、その企業の利潤をとすると
= − 1 − をについて最大化すればよいということになる。一階条件より
=
1+
2
よって消費者価格は
=
2.1と(2.2)を比較すると
1+
2
− =
…(2.2)
1−
>0
4
∴ > よって非垂直統合的な場合、すなわちフランチャイズ店や独自ブランドの場合にはこ
のような 2 重マージンの観点からも直営店と比べて価格が高いことが分かる。
15
2.3
実証分析
本節では、先述の理論分析の「契約形態と価格」の関係についてデータを用いて分
析する。理論分析で述べたとおり、直営店であると直営店以外の契約形態と比べて 2
重マージンの解消から価格が下がることが示された。その理論分析の結果が実際の市
場でも起きているのかどうかを実証分析で分析していく。まずは先行研究ついて説明
していく。
2.3.1
先行研究の紹介
Shepard (1993) では、東マサチューセッツ州からガソリンスタンドに関するデー
タを取り、被説明変数をガソリン価格として重回帰分析を行っている。その結果から、
直営店とそれ以外の契約形態ではガソリン価格にどの様な違いが生じているかを考察
している。表 2-1 は彼が論文で用いた変数の一覧、表 2-2、2-3 はレギュラー、ハイオ
クのガソリン価格についての回帰結果をそれぞれ表している。注目すべき変数は
companyowned である。符号はセルフサービスに関しては、効果は薄れているものの、
フルサービスに関してはレギュラーハイオク共に「-」となっている。この結果から、
直営店はそれ以外の契約形態と比べてガソリン価格が安くなっていることが分かる。
表 2-1
説明変数について
説明変数
説明
Company owned
直営店の場合 1 をとるダミー
Split island
セルフ、フルどちらもある場合 1 をとるダミー
Repair
修理を行っている場合 1 をとるダミー
Cstor
コンビニエンスストアを併設している場合 1 をとるダミー
Capacity
スタンド内に入る車の台数
Remodel
築年数
Nearby capacity
近くにあるスタンドの車の収容台数の合計
Outlying
ボストンからの距離
Mini-service
セルフスタンドで給油を行っていれば 1 をとるダミー
16
表 2-2
レギュラー価格
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
セルフサービス
説明変数
係数
Company owned
フルサービス
標準偏差
係数
標準偏差
-5.96
0.21
1.50
-0.87
1.79
11.25
2.93
1.85
1.95
2.61
4.29
Cstor
-2.05
2.01
-3.36
4.38
Capacity
-0.30
0.37
1.50
0.78
Remodel
0.69
1.70
-4.24
2.89
Mini-service
0.94
2.20
Split island
Repair
サンプル数
60
40
地域エリアの数
20
14
調整済決定係数
0.3549
0.7507
出所
表 2-3
2.39
Shepard (1993)
ハイオク価格
被説明変数
(2) high(ハイオク価格)
セルフサービス
説明変数
Company owned
係数
フルサービス
標準偏差
係数
標準偏差
-4.75
1.34
1.37
-0.37
1.73
10.92
4.97
Repair
1.77
2.28
2.71
7.29
Cstor
2.11
2.08
0.52
8.65
Capacity
-0.85
0.50
0.88
1.39
Remodel
0.66
1.98
-4.12
4.55
Mini-service
1.67
2.37
Split island
サンプル数
45
35
地域エリアの数
16
13
調整済決定係数
0.1102
0.4621
3.84
出所
17
Shepard (1993)
2.3.2
データソース
デ ー タ は イ ン タ ー ネ ッ ト サ イ ト
gogo.gs(http://gogo.gs/) 、 e
燃 費
(http://e-nenpi.com/)、東燃ゼネラルグループのエッソ・モービル・ゼネラルオフィシ
ャルサイト(http://www.emg-ss.jp/)を利用した。対象企業は直営店とフランチャイズ
については東燃ゼネラルグループに限定した。なぜなら 3 章の実証で必要となる、ガ
ソリンスタンドの属性を表す変数(コンビニエンスストアの有無、修理業務の有無な
ど)について、正確なデータを収集できた企業が、東燃ゼネラルグループのみであるか
らである。東燃ゼネラルグループの説明については後述する。価格についてのデータ
は e 燃費で収集した。レギュラー、ハイオクの 2 種類のデータを収集している。価格
については看板価格と実売価格が存在する。ガソリンの正確な価格の情報を得るため
に実売価格をデータとして収集している。収集した期間は 2014 年 10 月である。また、
それぞれのガソリンスタンドの契約形態、特徴のデータは gogo.gs、エッソ・モービ
ル・ゼネラルオフィシャルサイトで収集した。
東燃ゼネラルについて
東燃ゼネラルグループは、東燃ゼネラル石油株式会社を親会社とする、連結グルー
プである。子会社には EMG マーケティング、MOC マーケティング、極東石油工業
がある。東燃ゼネラルグループは、「エッソ」、「モービル」、「ゼネラル」の 3 ブラン
ド共通の販売施策を全国展開している。業界内でもセルフ SS の数が多く、とりわけ
セルフ SS ブランド「express」では、「最もすばやく、最も簡単な操作、最もきれい
で快適な設備」をコンセプトに供給サービスを展開し、他社との差別化を図っている。
また、セブン-イレブンやドトールコーヒーショップとも提携し、共同店舗開発を積
極的に行っている。
東燃ゼネラルグループが展開するセルフ SS「express」のコンセプトは、
「最もすば
やく、最も簡単な操作で、最もきれいで快適な設備で、給油サービスを提供すること」。
このブランド・バリューをさらに進化させるために、販売促進プログラムの強化や接
客サービスの向上、清潔な SS づくりの徹底など、ハード・ソフト両面におけるサー
ビスの充実を図っている。東燃ゼネラルグループが力を入れているガソリンスタンド
であり、全体の約 1/3 が express である。express は全てセルフサービスであり、直
営店のほとんどは express である。
18
表 2-4
サンプルデータの特徴(レギュラー)
直営店
フランチ
独自ブ
ャイズ
ランド
during1
during2 during3
東京都
11
45
8
12
37
15
神奈川県
12
68
7
12
48
27
埼玉県
27
31
10
15
33
20
千葉県
35
35
14
6
17
61
合計
85
179
39
45
135
123
cstr
repair
cwsh
self
24hours
express
サンプル数
東京都
9
26
33
49
33
40
64
神奈川県
16
37
61
76
50
69
87
埼玉県
22
21
44
62
36
48
68
千葉県
21
41
61
79
48
65
84
合計
68
125
199
266
167
222
303
表 2-4 で示されているのは収集したサンプルデータ(レギュラー)の特徴をまとめた
ものである。収集した 4 都県別にまとめている。まず、行の項目について説明する。
直営店、フランチャイズ、独自ブランドはそれぞれの契約形態の個数を表している。
次に during1 について説明する。during1 とはデータ収集月の 10 月を 3 等分したう
ちの 1 日から 10 日の期間に当てはまるデータの数を表している。同様に、during2
は 10 月 11 日から 20 日、during3 は 10 月 21 日から 31 日の期間を表している。次に
cstr であるが、これはコンビニエンスストアが併設されているスタンドの数を表して
いる。repair については修理、cwsh は洗車、self についてはセルフサービス、24hours
は 24 時間営業を行っているガソリンスタンドの数をそれぞれ表している。express は
東燃ゼネラルグループに express として指定されているガソリンスタンドの数を表し
ている。
総サンプル数は 303 個となっている。サンプルデータの特徴としては契約形態で 1
番多いのはフランチャイズ、次に直営店、そして一番少ないのは独自ブランドとなっ
ている。実証分析では、直営店とそれ以外という分類で実証分析を行っている。その
理由は、理論分析で上流企業と下流企業が 1 つのグループになることで 2 重マージン
19
が解消され価格が下がることが示された。1 つのグループになっているという契約形
態の特徴が重要であることが理論分析から明らかである。そこで、1 つのグループに
なっていると考えられる契約形態は直営店のみである。この理由から、直営店とそれ
以外という分類で実証分析を行っている。
表 2-5
サンプルデータの特徴(ハイオク)
直営店
フランチ
独自ブ
ャイズ
ランド
during1h
during2h
during3h
東京都
7
31
5
4
34
5
神奈川県
10
50
2
8
42
12
埼玉県
21
17
3
5
32
4
千葉県
22
18
6
7
16
23
合計
60
116
16
24
124
44
cstr
repair
cwsh
self
24hours
express
サンプル数
東京都
6
17
24
35
27
30
43
神 奈 川
16
24
52
60
40
57
62
埼玉県
13
16
29
39
25
34
41
千葉県
16
20
37
45
29
39
46
合計
51
77
142
179
121
160
192
県
表 2-5 は収集したサンプルデータ(ハイオク)の特徴をまとめたものである。行列の
項目については前述のレギュラーと同様である。総サンプル数は 192 個となっている。
レギュラーと比べると少なくなっている。直営店、フランチャイズ、独自ブランドの
比率はレギュラーと比べると独自の比率が少なくなっている。
20
図 2-2
4 都県別平均価格データ(レギュラー)
162
160
158
156
154
during1
152
during2
150
during3
148
全期間平均
146
144
142
140
東京都
神奈川県
埼玉県
千葉県
総合平均
図 2-2 は縦軸にレギュラーガソリン平均価格(円)、横軸に各 4 都県と 4 都県合計を
とったものである。注目すべき点は 2 つある。まず第 1 に、図 2-2 の総合平均の during1、
during2、during3 の 3 つの棒グラフに注目する。それぞれの棒グラフは 10 月の 1 か
月間を 3 分割したそれぞれ期間に得られたガソリンスタンドの平均価格を表している。
3 つの棒グラフを見てわかる通り、10 月後半になる(during3 になる)につれて平均価
格は減少していくことが分かる。この事実は本論文の現状分析にもある通り市場全体
の傾向にも合致する。つまり、いつの価格のデータなのかということ(during1,2,3 ど
れに当てはまるか)が価格に大きな影響を与えていることが分かる。このことは、実証
分析の際にバイアスとなって現れ、正確な回帰結果を得られない恐れがある。そのた
めに本論文の実証分析では期間別のダミー変数を用いてこのバイアスの影響を避けて
いる。具体的なダミー変数の説明は後で述べる。
次に、図 2-2 の各都県の全期間平均に注目する。各都県の全期間平均に注目すると、
平均価格が高い順から神奈川県、東京都、埼玉県、千葉県という順番になる。各期間
で 4 都県を比べてもほぼ同じ様な傾向がみられる。このことから、平均価格について
は地域差が生じていることが分かる。特に千葉県では他と比較して格段に安くなって
いる。地域差が生じる理由については、輸送コストやガソリンスタンドの土地代など、
様々な要因が考えられる。価格に地域性が影響しているとすると、実証分析の際にバ
21
イアスが生じる可能性がある。このバイアスの影響を考慮して本論文の実証分析では
地域ダミー変数を後に追加して実証結果を地域ダミー追加前と追加後で比較している。
図 2-3
4 都県別平均価格データ(ハイオク)
170
168
166
164
during1h
162
during2h
160
during3h
158
全期間平均
156
154
152
東京都
神奈川県
埼玉県
千葉県
総合平均
図 2-3 は先述した図 2-2 の内容をハイオクの価格の情報を用いて表したものである。
ハイオクにもレギュラーと同様の傾向が見られた。この結果からハイオクもレギュラ
ーと同様に期間の違いによって生じるバイアス、地域性によって生じるバイアスの 2
つを考慮する必要がある。
2.3.3
変数定義
ガソリン価格と契約形態の関係について考察するために、価格を被説明変数として
重回帰を行う。表 2-6、表 2-7 は説明変数とその説明、重回帰した際に期待される符
号をそれぞれ表したものである。ここでは、それぞれの説明変数について説明すると
ともに、期待される符号についての説明をしていく。
22
表 2-6
説明変数の意味
説明変数
説明変数の意味
companyowned
契約形態が直営店の場合 1 をとるダミー
cstr
コンビニエンスストアを併設している場合 1 をとるダミー
repair
修理を行っている場合 1 をとるダミー
cwsh
洗車を行っている場合 1 をとるダミー変数
self
セルフサービスの場合 1 をとるダミー変数
hours
24 時間営業の場合 1 をとるダミー変数
during2
価格情報が 10 月 11 日から 20 日の場合 1 をとるダミー変数
during3
価格情報が 10 月 21 日から 31 日の場合 1 をとるダミー変数
express
express に指定されている場合 1 をとるダミー変数
表 2-7
期待される符号
説明変数
期待される係数の符号
companyowned
-
cstr
±
repair
±
cwsh
±
self
-
hours
±
during2
-
during3
-
express
+
companyowned
この変数は契約形態が直営店であるガソリンスタンドは companyowneed=1 とする
ダミー変数である。期待される符号は「-」となる。つまり契約形態が直営店であれ
ば価格が安いという関係があると期待される。この理由としては、理論分析でも述べ
たとおり、契約形態が直営店の場合、2 重マージン問題の解消により価格が下がると
考えられるからである。
23
cstr
この変数はコンビニエンスストアが併設されているスタンドの場合、cstr=1 となる
ダミー変数である。期待される符号は「±」となる。つまり、コンビニエンスストア
が併設されているかどうかはガソリン価格とは関係がないということである。
repair
この変数は修理サービスを行っているガソリンスタンドは repair=1 とするダミー
変数である。期待される符号は「±」である。つまり、修理を行っているかどうかは
ガソリン価格と関係がないということである。
cwsh
この変数は洗車サービスを行っているガソリンスタンドは cwsh=1 とするダミー変
数である。期待される符号は「±」である。つまり、洗車サービスを行っているかど
うかはガソリン価格と関係がないということである。
self
この変数はセルフサービス営業をしているガソリンスタンドは self=1 とするダミ
ー変数である。セルフサービスとはガソリンスタンドで利用者が自ら給油を行い、支
払いをするシステムである。期待される符号は「-」である。つまり、セルフサービ
スのガソリンスタンドはガソリン価格が低いという関係があるということである。こ
の理由としてはセルフサービスの場合、利用者が自ら給油を行うため従業員を削減で
き、人件費を削減できる。その結果、より安い価格でガソリンを提供できる。これら
の理由からセルフサービスのガソリンスタンドはガソリン価格が低いと考えられる。
hours
この変数は 24 時間営業を行っているガソリンスタンドは hours=1 とするダミー変
数である。期待される符号は「±」である。つまり、24 時間営業しているかどうかは
ガソリン価格と関係ないということである。
during2
この変数は価格データの情報が 10 月 11 日から 10 月 20 日のガソリンスタンドは
during2=1 となるダミー変数である。期待される符号は「-」である。つまり価格の
データが 10 月 11 日から 10 月 20 日の場合、ベースグループである 10 月 1 日から 10
月 10 日と比べるとガソリン価格が安いという関係があるということである。この理
由については図 2-2、2-3 の 4 都県別の平均価格データで見たように、価格データの期
間に差があることが分かった。特に 10 月後半になるにつれてガソリン価格が低くな
っていることがグラフからも読み取れる。この理由から、ベースグループである 10
24
月 1 日から 10 月 10 日と比べて、10 月後半である during2 の期間においてはガソリ
ン価格が安くなっていると考えられるため期待される符号は「-」であると考えられ
る。
during3
この変数は価格データの情報が 10 月 21 日から 10 月 31 日のガソリンスタンドは
during3=1 となるダミー変数である。期待される符号は「-」である。この理由につ
いては during2 の変数と同様で、10 月後半になるにつれてガソリン価格が安くなる傾
向があるため、during3 の符号は「-」であると考えられる。
express
express は東燃ゼネラルグループがとくに力を入れているガソリンスタンドである。
express に指定されているガソリンスタンドは express=1 となる。期待される符号は
「+」となる。express に指定されているガソリンスタンドは、
「最もすばやく、最も
簡単な操作で、最もきれいで快適な設備で、給油サービスを提供すること」をコンセ
プトにしているだけあって、その分設備投資などを特に行っている。そのため費用分
が上乗せされてガソリン価格が高くなると推定できる。
2.3.4
実証結果
前述した説明変数を用いて、レギュラーガソリン価格とハイオク価格それぞれを被
説明変数として重回帰を行った。
表 2-8 は地域ダミー(千葉県)を入れなかった時の回帰結果である。被説明変数はガ
ソリン価格で説明変数は表 2-6 で説明した通りである。(1)がレギュラーガソリン価格
を被説明変数として回帰している。(2)はハイオクガソリン価格を被説明変数としてい
る。表 2-9 は回帰結果に関して不均一分散が生じているかを確認するために BP テス
トを行った結果を表したものである。結果は(1)レギュラーガソリン価格に関する回帰
と(2)ハイオクガソリン価格に関する回帰両方に不均一分散が存在することが示され
た。この結果を受け、white 修正標準誤差を求め、white 修正済 t 値を表 2-8 の t 値欄
のカッコ内に記した。また、有意水準は white 修正済の P 値を用いて判断している。
回帰式の説明力を示す決定係数はレギュラーの回帰式では 0.3967(39.67%)、ハイオク
の回帰式では 0.2772(27.72%)となっている。
25
表 2-8
回帰結果まとめ(地域ダミーなし)
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
説明変数
係数
(2)high(ハイオク価格)
t値
companyowned -2.156032***
t値
係数
-3.56(-3.69)
-1.956653***
-2.82(-2.95)
cstr
-0.3836951
-0.56(-0.58)
0.5704026
repair
-1.141314**
-2.19(-2.09)
-0.7835316
-1.27(-1.39)
cwsh
-0.6499461
-1.02(-1.18)
-0.9191716
-1.13(-1.23)
self
-4.556386***
-4.99(-4.29)
-3.829427**
-2.76(-2.28)
hours
0.4008693
0.83(
0.80)
1.568299**
0.73(
2.77(
0.79)
2.53)
during2
-2.250158***
-3.25(-3.84)
-1.981175***
-2.40(-2.81)
during3
-6.285824***
-8.78(-9.85)
-5.490755***
-5.80(-5.94)
express
2.136452***
_cons
159.5678***
2.70(
2.81)
195.85(199.99)
2.385955**
168.3457***
サンプル数
303
192
決定係数
0.3967
0.2772
調整済決定係数
0.3782
0.2414
(注)
2.13(
2.27)
125.21(113.26)
t 値のカッコ内は white 修正済 t 値
***は 1%有意、**は 5%有意、*は 10%有意である(white 修正済 t 値を利用)。
表 2-9
BP テストまとめ(地域ダミーなし)
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
テスト結果(P 値)
0.0002
不均一分散あり
(2)high(ハイオク価格)
0.0110
不均一分散あり
係数の符号に関して考察する。最も注目しなければならないのは companyowned
の係数である。表 2-8 の回帰結果を見てみるとレギュラーとハイオク共に符号は「-」
で 1%有意である。この結果は表 2-7 の期待される符号とも合致する。つまり、直営
店の方がそれ以外の契約形態よりもガソリン価格は低くなっているということである。
理論分析では、直営店になることで 2 重マージンの解消により価格が低いと示された
が、実際の市場でも直営店の方が価格は低くなっている。他の変数についても考察す
る。cstr についてはレギュラーハイオク共に有意ではないので期待される符号と同様
26
に「±」となっている。つまりコンビニエンスストア併設の有無はガソリン価格とは
無相関であるということである。次に、repair である。これに関してはハイオクに関
しては有意ではなく、期待される符号と同様に「±」である。しかしながら、レギュ
ラーでは符号が「-」で 5%有意となっている。この理由としてはレギュラーガソリ
ン利用者の方がハイオクガソリン利用者よりもガソリンスタンドが修理をやっている
かどうかに注目してガソリンスタンドを選択している可能性があることが挙げられる。
ガソリンスタンドの修理の特徴として他の修理専門店と比べて安価であるということ
が挙げられる。つまり高級品志向であるハイオクガソリン利用者より価格に敏感であ
るレギュラーガソリン利用者は安価な修理を利用できるガソリンスタンドを利用する
のである。その結果、修理を提供しているレギュラーガソリンの需要も増加し価格が
下がるということである。次に cwsh についてであるが、これはレギュラーガソリン
共に有意ではなく「±」であり期待される符号と一致する。つまり、洗車の有無はガ
ソリン価格と無相関ということである。次に self についてであるが、これはレギュラ
ーハイオクそれぞれ 1%、5%有意で符号は「-」となっている。期待される符号とも
合致する。この理由としては先述した通り、セルフサービスによって人件費を削減す
ることでガソリン価格を安くできているからである。次に hours である。レギュラー
については有意ではなく「±」となり、期待される符号と一致する。しかしながらハ
イオクでは符号は 5%有意で「+」となっている。この理由については 24 時間営業に
なると夜間の人件費が高くなり、その分がガソリン価格に影響が出ていると考えられ
る。ハイオクガソリンはレギュラーガソリンと比較して価格の需要弾力性が低い。そ
のため、レギュラーガソリン価格を上げられない分をハイオクガソリン価格を上げる
ことで補っていると考えられる。次に、期間別ダミーの during2、during3 について
である。これらについてはレギュラーハイオク共に 1%有意で符号は「-」である。
この結果は期待する符号とも一致する。10 月後半になるにつれ価格が低くなっている
傾向が統計データからも読み取れた。この理由から期間別ダミーの符号は「-」にな
ったと考えられる。最後に express である。これについてはレギュラーハイオクそれ
ぞれ 1%、5%有意で符号は「+」である。この結果は期待される符号と一致する。東
燃ゼネラルグループとして express 指定のガソリンスタンドには力を入れているため
費用が多くかかっている。その結果ガソリン価格に上乗せされるためにガソリン価格
が高くなっていると考えられる。
27
表 2-10
回帰結果まとめ(地域ダミーあり)
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
説明変数
係数
companyowned
-1.409673***
-2.44(-2.80)
-1.197186**
cstr
-0.4732636
-0.74(-0.85)
0.6254687
repair
-0.855425*
-1.75(-1.65)
-0.5169834
-0.90(-1.00)
cwsh
-0.4711351
-0.79(-0.94)
-0.4024464
-0.53(-0.57)
self
-3.960909***
-4.62(-3.63)
-3.350377**
-2.60(-1.98)
hours
(2)high(ハイオク価格)
t値
0.1541643
t値
係数
0.34(
0.34)
1.451137**
-1.82(-2.10)
0.86(
2.77(
1.00)
2.47)
during2
-2.340494***
-3.62(-3.81)
-2.462194***
-3.19(-3.31)
during3
-5.124797***
-7.42(-7.87)
-4.597832***
-5.16(-5.26)
express
1.529301**
2.06(
2.02)
chiba
-3.509894***
-6.65(-6.21)
_cons
159.7432***
209.90(187.77)
1.633889*
-3.565131***
168.8188***
サンプル数
303
192
決定係数
0.4760
0.3826
調整済決定係数
0.4580
0.3485
(注)
1.56(
1.63)
-5.56(-5.70)
135.17(109.74)
t 値のカッコ内は white 修正済 t 値
***は 1%有意、**は 5%有意、*は 10%有意である(white 修正済 t 値を利用)。
表 2-11
BP テストまとめ(地域ダミーあり)
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
テスト結果(P 値)
0.0000
不均一分散あり
(2)high(ハイオク価格)
0.0071
不均一分散あり
表 2-10 は chiba というダミー変数を追加した回帰結果である。chiba という変数は
千葉県のガソリンスタンドは chiba=1 となるダミー変数である。期待される符号はレ
ギュラーハイオク共に「-」である。この理由としては、図 2-2、図 2-3 で見た通り
千葉県のガソリン平均価格が他都県と比べても低いからである。現状分析でも千葉県
のガソリン平均価格はレギュラーでは全国 1 位、ハイオクは全国 2 位という安さであ
ることが示されている。次に、表 2-11 は千葉県ダミーを追加した回帰式に不均一分散
28
があるかどうかを調べた BP テストの結果である。BP テストの結果、レギュラーハイ
オク共に不均一分散が生じていることが明らかになった。不均一分散の対処として
white 修正済標準誤差を求め、white 修正済 t 値を表 2-10 のカッコ内に表した。有意
の判断も white 修正済 t 値を用いて行っている。
結果について考察していく。表 2-8 の千葉県ダミー追加前と表 2-10 の千葉県ダミー
追加後を比較する。千葉県ダミー以外の変数の符号については追加前と変化は見られ
ない。有意性についてもほとんど変化は見られない。つまり、千葉県のガソリンスタ
ンドが比較的低いという要因を固定し、地域性を排除してもそれぞれの変数の効果は
追加前と同じということである。次に chiba の符号に注目すると結果は「-」となっ
ている。これは期待される符号と一致する。千葉県のガソリンスタンドはレギュラー
ハイオク共にガソリン価格が低いという相関があることが分かる。最後に決定係数に
注目する。レギュラーは 0.3967 から 0.4760 に、ハイオクは 0.2772 から 0.3826 に共
に上昇している。このことから、千葉県ダミーを入れたことで回帰式の説明力が上が
ったことが示された。
表 2-12 は契約形態別のダミー変数 fc と opendealer を追加してレギュラー価格に関
して重回帰を行った結果をまとめたものである。以前までの重回帰では
companyowned という変数を使って、直営店とそれ以外のガソリンスタンドで分類し
ていたが、表 2-12 の重回帰では契約形態を直営店とフランチャイズ、独自ブランド
に分けてそれぞれの契約形態とガソリン価格の関係を考察する。ベースグループを直
営店のガソリンスタンドに設定した。フランチャイズのガソリンスタンドであれば
fc=1 と な る 変 数 を 追 加 し 、 ま た 独 自 ブ ラ ン ド の ガ ソ リ ン ス タ ン ド で あ れ ば
opendealer=1 となる変数を追加した。fc=0 かつ opendealer=0 であるガソリンスタン
ドであれば契約形態は直営店となる。この重回帰についても不均一分散の有無を調べ
る BP テストを行った。結果は表 2-13 に表されている通り、不均一分散が存在した。
不均一分散の対処として white 調整済 t 値を用いて有意判断を行った。
29
表 2-12
回帰結果まとめ(地域ダミー、契約形態別ダミーあり)
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
説明変数
係数
fc
1.426856***
2.48(
2.82)
opendealer
-0.24787
-0.20(-0.21)
cstr
-0.4427058
-0.69(-0.79)
repair
-0.821275
-1.69(-1.58)
cwsh
-0.3578136
-0.60(-0.71)
self
-2.858166**
-2.52(-2.33)
hours
(注)
t値
0.1753583
0.39(
0.38)
during2
-2.312666***
-3.58(-3.82)
during3
-5.108352***
-7.41(-7.91)
express
0.1236112
0.10(
chiba
-3.448258***
_cons
158.4553
サンプル数
303
決定係数
0.4799
調整済決定係数
0.4603
0.10)
-6.52(-6.08)
162.61(165.89)
t 値のカッコ内は white 修正済 t 値
***は 1%有意、**は 5%有意、*は 10%有意である(white 修正済 t 値を利用)。
表 2-13
BP テストまとめ(地域ダミー、契約形態別ダミーあり)
被説明変数
(1) regular(レギュラー価格)
テスト結果(P 値)
0.0000
不均一分散あり
表 2-12 の 結 果 に つ い て 考 察 し て い く 。 前 述 の 回 帰 結 果 で は 有 意 と な っ て い た
express の符号が有意ではなく「±」となっている。express の係数の絶対値は小さく
なり、express の効果は非常に小さいものとなった。次に、fc についてである。回帰
結果の符号は「+」となっている。つまり、直営店と比べてフランチャイズであると
価格が安くなっているということである。この結果は妥当である。理由としては、理
30
論分析でも示されている通り、直営店よりフランチャイズの方が 2 重マージン問題が
存在するからである。よってこの符号は期待される符号と一致し、妥当な結果である。
最後に、opendealer についてである。結果は表 2-12 でもある通り符号は有意ではな
いので「±」である。つまり、直営店と独自ブランドでは価格差は無く、また独自ブ
ランドの方がフランチャイズよりもガソリン価格が低いという相関があるということ
である。この結果の理由としては、大きく 2 つ考えられる。1 つ目はフランチャイズ
料の存在である。フランチャイズのガソリンスタンドは上流企業である精製所から各
ガソリンスタンドの売上に応じてフランチャイズ料が課される。売上は価格に数量を
掛けたものであるから、それに一定割合で課されるフランチャイズ料は実質的にはガ
ソリンスタンドにとって余分に稼がなければならない可変的な費用と考えることがで
きる。つまりその分価格が独自企業と比べて高くなると考えられる。2 つ目は独自企
業の仕入れ先の幅の広さが考えられる。独自ブランドは直営店とフランチャイズ企業
と比べてガソリンの仕入れ先に制限がない。それによって現在最も低い価格でガソリ
ンを仕入れることができる上流企業から仕入れることができる。この理由から、独自
ブランドはフランチャイズよりも低い価格で、そして直営店とほとんど同じ価格で販
売できていると考えられる。
31
第3章
契約形態がガソリン販売のインセンティブや 2 次的サービスの決定に与える
影響
文責:窪田悠介・櫻井皓司・志村紳太朗
ガソリンスタンド経営者はガソリンを仕入れて販売を行うために、ガソリン卸売企
業と結ぶ契約を選択する。本章ではまずガソリン販売のインセンティブとリスクシェ
アリングのトレードオフについて奥野(2008)と神取(2014)を参考に説明する。そして
Slade (1996) を用いて、契約の種類がガソリン販売のインセンティブやスタンドで行
うサービスの種類に、どのような影響を及ぼすのかを示す。実証分析では理論から導
かれた予測が現実のガソリンスタンドに当てはまるのかを確かめる。
3.1
契約形態とエージェントの努力についての理論的分析
はじめに奥野(2008)と神取(2014)を参考に、ガソリン販売のインセンティブとリス
クシェアリングの基本的な関係について解説する。
ここでは精製所(プリンシパル)がガソリンスタンドの経営者(エージェント)と契約
する際の問題を考える。以下、プリンシパルはリスク中立的、エージェントはリスク
回避的であると仮定する。まず、プリンシパルは賃金契約を設計してエージェントに
提示する。契約を受諾した場合、エージェントはその後にガソリン販売における努力
水準
を選ぶ。ただし、努力水準は高い努力水準
か低い努力水準
のどちらかを選択
するものとする。また、高い努力水準
には努力費用がともなう。
ガソリン販売業務の結果、ガソリンの売上が実現する。ただし、売上は高水準 か
低水準 のどちらかであり( < )、売上は観察可能であるとする。どちらの売上が
実現しやすいかは、エージェントの努力水準に依存する。エージェントが
を選択し
た場合は の確率で が、(1 − )の確率で が実現し、エージェントが
を選択した
場合は、 の確率で が、1 − の確率で が実現する。ただし、 0 < < < 1で
あり、高い努力水準を選んだからといって必ずしも高い売上が実現するわけではない
が、高い努力水準を選択する方が高い売上量が実現しやすい。
エージェントの効用は、賃金より得られる利得()から、努力費用を差し引いた
も の に な る 。 た だ し 、 エ ー ジ ェ ン ト は 賃 金 に 関 し て リ ス ク 回 避 的 で あ り 、 ()は
′() > 0かつ′′() < 0を満たすものとする。プリンシパルはリスク中立的であり、獲
得する効用は、売上からエージェントに支払った賃金を差し引いた利潤である。
32
情報の非対称性が存在しない場合
プリンシパルはエージェントの努力を観察できるとき、仮にエージェントが怠けて
という選択をした場合は罰則によって、高い努力水準を強制させることができる。
エージェントに高い努力水準を強制させられることを前提に、プリンシパルは以下の
最大化問題に基づいて賃金契約( , )を決定する。
− + 1 − − , . + 1 − − ≥ はエー
ここで は高い売上、 は低い売上が実現した場合の賃金である。また、
ジェントの留保効用である。エージェントの参加制約の下で目的関数であるプリンシ
パルの利潤を最大化する。この最適な契約 ∗ は = を満たし、エージェントがリ
スクを負わない固定給となる。このようにエージェントの努力が観察可能な時、プリ
ンシパルは固定給を支払い、リスクを全て負担することで、パレート効率的なリスク
シェアリングが達成される。図 3-1 はこれをグラフとして表したものである。次節に
詳述するが、ガソリンスタンドの直営店がこの契約形態に該当する。
図 3-1
‫ݓ‬ி = ‫ݓ‬ௌ
33
出所
奥野(2008)
情報の非対称性が存在する場合
プリンシパルがエージェントの努力を観察できない場合、固定給は望ましくない。
なぜならば、売上がどうあろうとも同じ賃金を受け取れるのであれば、エージェント
はわざわざ高い努力を選んで努力費用dを負担するよりも低い努力水準を選んで努力
費用を負担しないほうが望ましいからである。このようなエージェントのモラル・ハ
ザードを阻止するためには参加制約に加えて、インセンティブ制約を満たす必要があ
る。ゆえに、このときプリンシパルは以下の利潤最大化問題に基づいて賃金契約
( , )を決定する。
− + 1 − − , ,
. + 1 − − ≥ + 1 − − ≥ + 1 − 図 3-2
‫ݓ‬ி = ‫ݓ‬ௌ
出所
34
神取(2014)
インセンティブ制約は
− − ≥ と書き換えることができる。これはすなわち、 > でなければならないことを示し
ている。つまりエージェントの努力が観察不可能なとき、高い売上が出たときの賃金
を大きくし、低い売上が出たときは賃金を下げるという「成果主義」が必要になる。
業績結果に対してエージェントに責任を取らせ、一定のリスクを負担させることによ
り、インセンティブを付与するのである。よって、参加制約とインセンティブ制約の
両方を満たす範囲は図 3-2 の斜線部分であり、最適な契約w ∗は > を満たす。次
節に詳述するが、ガソリンスタンドのフランチャイズ店、独自ブランドがこのような
契約形態に該当する。
3.2
理論分析
次に Slade (1996) を用いて、契約の種類がガソリン販売のインセンティブやスタ
ンドで行うサービスの種類に、どのような影響を及ぼすのかを理論分析で示す。
3.2.1
ガソリンスタンド市場について
契約形態の選択は、リスクや不確実性、モニタリング、関係特殊的投資、上流企業
のブランド力などの様々な要因が絡み合った問題である。
ガソリンスタンド市場の場合は関係特殊的資産が存在せず、同質財市場といえる。
また、上流企業のブランド力やモニタリング技術にはほとんど差異がない。直営店を
除き、上流企業と下流企業の間ではガソリン販売についてのみ契約が結ばれる。ガソ
リン販売に付随して自動車の修理やコンビニエンスストア営業などの 2 次的サービス
を行う場合、スタンド経営者は 2 次的サービス販売に対する残余請求権 1を持つ。その
ため上流企業は 2 次的サービスに関してモニタリングを行う必要はない。
以下、2 次的サービスに焦点を当てながらそれぞれの契約形態について分析を行っ
ていく。特に、2 次的サービスの性質が最適な契約形態の選択にどのような影響を与
えるのかを見ていく。
1
契約的な支払義務を全て果たした後の企業収入の残余を受け取れる権利
35
3.2.2 補完性の定義
本論文の分析において、ガソリン販売、2 次的サービス間の補完性が重要な要素と
なっている。本論文では補完性を
(1) 交差価格弾力性
(2) 不確実性の共分散
(3) 努力の代替可能性
の 3 要素を基準に計るものとする。
2 次的サービスの性質と補完性の関係について述べる。
まず、交差価格弾力性はガソリン売上とコンビニエンスストア売上間のほうがガソ
リン売上と修理売上間よりも大きくなる。もしガソリン価格が下がれば、コンビニエ
ンスストア売上は相対的に修理売上よりも伸びやすいということが言える。
また、もし需要が不確実で、外生的要因によってガソリン需要が増大した場合に、
ガソリン売上の伸びはコンビニエンスストア売上を伸ばすといえる。例えば、高速道
路の渋滞が起きた時には、修理をするよりもコンビニで飲食料やタバコを購入しよう
とする利用者が増える。つまり、ガソリン売上との不確実性の相関はコンビニエンス
ストア売上のほうが修理での売上よりも大きくなる。
コンビニエンスストアがあるガソリンスタンドにはセルフサービスが多く、そこで
は店員はコンビニエンスストアのレジ打ちのみ行っていることが多い。故にコンビニ
エンスストア利用客が増えても、ガソリン販売の限界費用を上げはしない。反対に、
修理業務を行っているガソリンスタンドにはフルサービスが多い。フルサービスを行
っているスタンドが修理業務を行う場合、修理業務を犠牲にしてガソリン販売に注力
する事は損失が大きい。つまり、ガソリン販売と修理の間には努力の代替性がある。
以上より、タスクについて、ガソリン販売‐コンビニエンスストア営業間の方がガ
ソリン販売‐修理業務間よりも補完性が高いものと仮定する。
3.2.3 マルチタスクモデル
以下の分析においては、2次的サービスとガソリン販売が様々な補完性を持つ場合
におけるマルチタスク-エージェンシー問題を想定する。また、線形契約にのみ着目す
る 2。
2
Holstrom and Milgrom(1987)が線形契約のみ考えればよいという正当性を証明
36
マルチタスクモデルを用いた以下の分析によって示されているのは、ガソリン販売
に対して高い補完性を持つ 2 次的サービスが選択された場合に、ガソリン販売のイン
センティブが弱くなるだろうということである。
モデルは、Holmstrom and Milgrom (1991) のモデルに手を加えたマルチタスクモ
デルである。このモデルではプリンシパルがガソリン卸売企業、エージェントがスタ
ンド経営者である。エージェントは 2 つのタスクを持ち、1 つ目がガソリン販売、2
つ目が自動車の修理業務、または、コンビニエンスストア経営であるとする。以下、
前者をタスク 1、後者をタスク 2 と表記する。また、本論文ではこのモデルにガソリ
ン業界の性質に合致した制約を加えることにより、有力な仮説を得る。
エージェントの報酬を + とおく。は販売量、はインセンティブ強度、は基本
給を表わしている。例えば、期待報酬額が等しい 2 つの契約を比較した場合、が大
きくが小さいエージェント程インセンティブが大きいと言える。またがゼロである
場合、これを受け取るエージェントはプリンシパルによって全てのリスクを保障され
ていると言える。逆にがゼロの時取引は市場で行われ、エージェントがガソリン販
売の残余請求権を持つ。
エージェントが決定する各タスクの努力水準を
( = 1,2.)とおく。また、ガソリン
と 2 次的サービスの販売量を
、販売価格を
と表す。全てのスタンドは各タスクに
ついて右下がりの需要に際している。この価格支配力はスタンドの立地、サービスの
良さ、ブランド力に依る。しかしスタンドは無数に存在し、どのエージェントも戦略
的な行動をとらない。つまり、ガソリンスタンド市場では独占的競争が行われている。
価格と努力、販売量の関係(線形であると仮定する)は以下のように仮定される。
= − + + ⇔ = − + + = − − + + ⇔
= − − + + %
~ !, ", " = #$ = %
%
% , , はそれぞれ価格、販売量、努力水準を表すベクトル、()はパラメーターの行
している。
37
列であり、は 2 変量正規分布に従う誤差項である。また、は対称行列であり、正定
値である。
は非対角成分で需要の補完性を表す指標となる。
プリンシパルにとって、販売量は観察可能だが努力
は観察不可能である。誤差項
はエージェントが売上をコントロールしきれない確率的要因であり、プリンシパルが
エージェントの努力を正確にはモニタリングできない要因でもある。誤差項の分散%
が大きいほど、確率的要素による変動に左右されることとなる。
と の共分散%
は
これらによって変動する、補完性を計る指標となる
エージェントの努力費用を狭義凸関数
&
1
1
= ' ' = 2
2
2
で表し、この時& = は対称行列であり、正定値である。ここでc ≥ 0と仮定する。
この仮定は片方のタスクに力を入れることでもう一方のタスクの限界努力費用が下が
ることはないことを示している。c が努力の代替性を計る 1 つの指標となる。
本論文では線形契約のみを考えていた。エージェントは販売量
に応じた
に加え、
基本給を足した額を報酬として受け取る。は正負どちらもとるが、負である場合は
フランチャイズ料と考えてよい。例えば = 0, > 0である時、エージェントは固定給
を受け取り、リスク中立的なプリンシパルがリスクを全て負担する形となっている。
エージェントの報酬yは
= + で表され、リスク回避的なエージェントは負の指数効用関数
= −
(−$)
…(3.1)
を持つ。(3.1)において、$はエージェントの絶対的リスク回避度を表す。このときエ
ージェントの確実同値額 CE は、
&( = ( −
&
$
− #$
2
2
= − + + −
&
$ − "
2
2
…(3.2)
となる。(3.2)はつまり(期待報酬―努力費用―リスクプレミアム)である。
リスク中立的なプリンシパルの確実同値額は
38
= ) − − * − …(3.3)
と表せる。(3.3)においては限界費用を表すベクトルである。以下、一般性を失わな
いので = 0とする。
行動のタイミングは次の通りである。まず第1期にプリンシパルは, を提案し、
エージェントは採択 or 拒否を選択する。もし採択するのであればエージェントは第 2
期に努力水準
を決定する 3。
プリンシパルは総確実同値額(期待報酬―期待コスト-リスクプレミアム)を最大
化するように, , を決定する。以上のことからプリンシパルは
− + −
,,
&
$ − "
2
2
subject to
max { − + −
&
}
2
…(3.4)
…(3.5)
となるように行動する。(3.5)式はエージェントのインセンティブ制約である。
エージェントの一階条件は
− &
= 0 ⇔ ∗ = & (3.6)を(3.4)に代入すると
− + & −
,
& $ − "
2
2
…(3.6)
…(3.7)
と書き換えられる。この数式(3.7)が最大となるように, が決定される。
∗ > 0と仮定すると、この最大化問題の一階条件は
C − & − $Σ = 0 ⇔ = +, + $&Σ-
…(3.8)
− 2 + & = 0
…(3.9)
and
となる。数式(3.8)を(3.9)に代入してについて解くと、
努力水準 ݁はリスクに影響を与えない。これによって不確実性が発生するタイミ
ングと努力水準決定のタイミングの前後は重要性を持たない。
3
39
∗ = )2&, + $&" − ,* &
…(3.10)
これが最適契約を表わす。
次節において、さらにガソリンスタンド市場の現実に合致した仮定を置く。
3.2.4 ガソリンスタンド市場に合致した仮定
(3.10)で与えられる値について、ガソリン市場に最も合致した、 = という仮定
を置く。プリンシパルとエージェントが契約を結ぶ場合、それはタスク 1 に関する契
約のみであり、タスク 2 については契約を交わさない。つまり、エージェントはタス
ク 2 の売上に対する残余請求権を持つ。エージェントはタスク 2 を行うための設備を
所有している。この場合、2 次的サービスの性質が規約(∗ , ∗ )にどのような影響を与
えるのかを分析することができる。
この仮定の下では 2 次的サービスの価格は外生的であるとする。つまり、例えばコ
ーラを市場価格で販売する、といったことだ。しかし、ガソリンの価格が潜在的顧客
数を変化させることでコーラの需要をシフトさせることとなる。よって2次的サービ
スの需要は内生的である。
3.2.5 最適契約の導出
ガソリンスタンド市場に合致した制約の下において、プリンシパルは
− + & −
భ ,భ
& $ − "
2
2
となるよう = の下で , を選択する。(̃
)を以下のように置く
& =
1
/−
− −
̃
0 = 1̃
̃
2
̃
これを用いて(3.11)を展開すると、
) − − + ̃ + ̃ *
+) − − + ̃ + ̃ *
1
− 3̃ + 2̃ + ̃ 4
2
40
…(3.11)
$
− {% + 2% + % }
2
…(3.12)
ここで、目的関数を
5 , = +6 − + & - −
′& $ "
−
2
2
と置くと、一階条件は
75 , = − 2 − 2 + ̃ + ̃ = 0
7
75 , = ̃ + ̃ − ̃ − ̃ − $% − $% = 0
7
…(3.13)
…(3.14)
(3.13)を について整理すると、
=
(3.14)は = より、
+ ̃ + ̃ − 2 2
…(3.15)
̃ − ̃ − $% − $% = 0
…(3.16)
と書き換えられる。(3.15)を(3.16)に代入すると、
̃
+ − 2 − ̃ + ̃ - − ̃ − $% + % = 0
2 …(3.17)
(3.17)を について解くと、
∗ =
=
̃ + − 2 − ̃ - − 2 $% 2 ̃ + $% − ̃ ̃ + − 2 − ̃ - − 2 $% 8
…(3.18)
となる。ここで二階条件から8 > 0である。(3.18)について、各変数についてこれを微
分すると以下の結果が得られる。
భ
భమ
=−
̃భభ మ
<0
భ
భమ
=−
భభ మ
<0
భ
మ
=0
భ
మమ
=0
భ
మమ
=0
1. 交差価格弾力性 が増加するとタスク 1 のインセンティブ は減少する
2. タスク間の誤差の共分散% が増加するとタスク 1 のインセンティブ は減少
する
3. タスク 1 のインセンティブ は , , % に影響されない.
41
3.2.6 最適契約とタスクの関係
仮定の下における最適契約は前節で導いたように、次の通りとなる。
∗ =
̃ + − 2 − ̃ - − 2 $% 2 ̃ + $% − 9
&: = ̃
= & 得られる結果は以下の通りになる
= という仮定の下で ⅰ)b が大きく、ⅱ)σ が大きいときには最適契約の下で
のタスク 1 のインセンティブ は小さくなる。また ⅲ)a ,b ,σ はタスク 1 のインセ
ンティブに寄与しない。
つまり、各タスクの需要とリスクそれぞれの補完性が高い時、インセンティブは低
くなり、賃金が高くなるのと同時に販売量は少なくなる。これを補完性の3つの要素
についてそれぞれ解説すると以下の通りになる。
① 交差価格弾力性が高い時( , が大きい時)、タスク 1 に力を入れることでタ
スク2の販売量が落ち込んでしまうこととなる。
② 各タスクの誤差( と )の相関係数の絶対値が大きい時、エージェントのイン
センティブは小さくなる。正の相関が強い場合には、一方の売上が小さくなれ
ばもう一方の売上も落ち込むため、リスクが増えてしまう。逆に負の相関が強
い場合には、一方の需要が大きくなればもう一方の需要は小さくなるのでエー
ジェントは需要が大きい方のタスクにしか注力しなくなる。
③ 努力の代替性について得られる結果は曖昧なものとなる。 が低く、努力の代替
性が高い場合、エージェントはタスク 1 をおろそかにしてタスク 2 ばかりに時
間を割くだろう。逆にもし が高く、努力の代替性が高い場合、エージェントは
タスク 1 ばかりに時間を割くだろう。よって努力の代替性が増大した場合、努
力をどちらに費やすのかは の値にも依存することとなる。
タスク 2 がコンビニエンスストアの営業である場合は、タスク 1 との交差価格弾力
性および不確実性の補完性が大きく、努力の代替性は低い。故に補完性の側面から見
てガソリン販売のインセンティブが低いと言える。また、タスク 2 が修理サービスで
ある場合、ガソリン売上との補完性は小さく、努力の代替性は高い。これはすなわち、
42
高いガソリン販売のインセンティブに対応していると言える。
3.2.7 ガソリン販売契約とインセンティブの関係
上流企業と下流企業は、3 種類の契約形態のいずれかによって関係を持っている。
以下、アルファベットの右上の数字は契約タイプ、右下の数字はタスク番号を表して
いる。なお契約形態の詳細については第 2 章 1 節の定義に準ずる。
Type1:直営店
直営店はモニタリングによって高い努力を強制することが可能であるため、リスク
中立的なプリンシパルがリスクをすべて負担し、エージェントには固定給を支払うと
いう契約が最適となる。この契約における報酬の支払い計画は = = 0, and > 0
と表せる。
Type2:フランチャイズ店
フランチャイズ店では、プリンシパルがエージェントの努力水準を観察することが
できない。故に固定給ではなく、業績に依存した報酬を与えるべきである。エージェ
ントはプリンシパルからガソリンを購入し、その際の販売価格と仕入れ価格の差額が
インセンティブ強度となる。この契約における報酬の支払い計画は0 < , ≈ and
< 0と表せる。
Type3:独自ブランド
独自ブランドも業績に依存した報酬を得る。エージェントは全ての売上に対して残
余請求権を持つ。この契約における報酬の支払い計画は ≈ , ≈ and = 0と
表せる。
これらを整理すると、 < ≈ , and γ > γ and 0 = γ > γ となる。
3.2.8
努力と契約形態の選択
ガソリンの販売に対して観察不可能な努力が重要である場合、高いインセンティブ
を持つフランチャイズや独自ブランドといった契約形態が選択されやすい。一方で観
察可能な努力が重要な場合、精製所からすると直接的なコントロール力が大きい直営
店の契約形態の方が魅力的である。このような契約形態の性質のトレードオフを考慮
して精製所はガソリンスタンドの経営者に対して契約を打診する。
43
契約形態の種類とタスク 1
タスク 1 のガソリン販売にはフルサービス、セルフサービスの2つの手段がある。
フルサービスの場合は顧客と直接に接する機会が多く、またプリンシパルからすると
接客の質を観察することが難しい。つまり、フルサービスでは接客に対しての観察不
可能な努力が重要である。それゆえ、ガソリン販売のインセンティブが高いフランチ
ャイズ店や独自ブランドではフルサービスを、インセンティブの低い直営店ではモニ
タリングが容易なセルフサービスを行う傾向にあると言える。
契約形態の種類とタスク 2
ガソリンスタンドの 2 次的なサービスは、精製所が周辺地域のガソリンの需要、そ
して 2 次的なサービスの需要を考慮した上で、これを決定する。そのような 2 次的な
サービスの売上はエージェントに帰属するため、プリンシパルにとってはこれらの業
務に関してあまり関心がないように思える。しかしながらこの 2 次的サービスによる
集客は結局 1 次的サービス売上の向上につながるため、プリンシパルにとっても 2 次
的なサービスの選択は重要事項となるのである。以下各種 2 次的サービスと契約形態
の関係について記述する。
修理
2 次的サービスの中でも、修理は特に観察不可能な努力が重要となる。修理の質は
数値で測れるわけではないため、精製所にとっては(直営店であっても)努力水準を観
察しにくい。修理サービスの質はガソリン販売の需要にも寄与するので、エージェン
トに質の高い修理業務を自発的に行ってほしいなら、高いガソリン販売のインセンテ
ィブを持つフランチャイズ店や独自ブランドといった契約形態が選択されやすい。補
完性の側面から見ても、ガソリン販売のインセンティブが大きいフランチャイズや独
自ブランドが補完性の小さい修理業務を行うことは妥当である。
コンビニエンスストア
コンビニエンスストアの経営は、商品の棚卸や店内の様子、記録などを見ることが
できるため、努力の観察が容易である。そのため、直営店にはモニタリングが容易な
コンビニエンスストアの業務を行わせることで、高水準の努力を強制させることがで
きる。故に、コンビニエンスストアは主に直営店に併設されていると言える。補完性
の側面から見ても、ガソリン販売のインセンティブが低い直営店が補完性の大きいコ
44
ンビニエンスストアの営業を行うことは妥当である。
3.3
実証分析
前節の理論分析では、ガソリン販売と 2 次的サービスのインセンティブについて述
べた。マルチタスクモデルの理論では、2 次的サービスの例として主にコンビニエン
スストア経営と修理を扱った。理論から得られる予測は、ガソリン販売のインセンテ
ィブが低い直営店ほどセルフサービスでコンビニエンスストアを併設しているところ
が多く、ガソリン販売のインセンティブが高い独自ブランドほど、フルサービスで修
理を行っているところが多いというものである。実証分析の目的は、理論から導かれ
たこの予測が現実のガソリンスタンドに当てはまるのかを確かめることにある。
3.3.1
先行研究の紹介
Slade(1996)では、ガソリンスタンドの契約形態を被説明変数、説明変数にはコンビ
ニエンスストア併設の有無、修理業務の有無などのスタンドの属性を表す変数を用い
て、順序 probit モデルを当てはめた。
Slade(1996)が分析の対象としたのは、バンクーバー市に本社がある Chevron、Esso、
Shell の 3 つのブランドと各独自ブランドである。サンプルデータは 1991 年秋、バン
クーバーの周辺地域でそれらのブランドを扱う合計 96 個のガソリンスタンドに対し
て、契約形態及びスタンドの属性に関するデータを収集したものである。対象地域で
あるカナダには日本とは異なり、4 つの契約形態が存在する。これは下記の通り、直
営店とフランチャイズ店の中間的な契約形態である”Commissioned Agent”が存在す
るためである。なお、”Commissioned Agent”に対応する契約形態は日本には存在しな
いものの、カナダでは最も多く存在する契約形態である。
1. Company Operated (直営店)
8個
2. Commissioned Agent (該当なし)
53 個
3. Lessee Dealer (フランチャイズ)
31 個
4. Dealer Owned (独自企業)
4個
45
表 3-1
Slade(1996)の被説明変数
被説明変数
説明変数の意味
contract(質的従属変数)
Company Operated
:1
Comissioned Agent
:2
Lessee Dealer
:3
Dealer Owned
:4
出所:Slade(1996)
表 3-2
Slade(1996)の説明変数
説明変数
説明変数の意味
DIST
バンクーバー都市中心部からの距離
HOURS
営業時間
VOL
年間の売上量(10 リットル)
BAYS
ダミー変数
CSTR
SELF
SPLIT
Firm 1
Firm 2
VHAT
ダミー変数
ダミー変数
ダミー変数
ダミー変数
ダミー変数
修理をしている
:1
修理をしていない
:0
コンビニエンスストア併設がある
:1
コンビニエンスストア併設がない
:0
セルフサービスをしている
:1
セルフサービスをしていない
:0
フル&セルフ両方をしている
:1
片方のみ行っている
:0
Chevron のブランドである
:1
Chevron のブランドでない
:0
Esso のブランドである
:1
Esso のブランドでない
:0
VOL を(DIST, HOURS, BAYS, CSTR, SELF, SPLIT, Firm , Firm )
に回帰した時の VOL の理論値
Age
ガソリンスタンドの築年数
出所:Slade(1996)
46
CWSH
CSTR
BAYS
HOURS
DIST
説明変数
-0.20
0.40
-0.77***
-0.36***
0.12***
-1.28**
係数
2.0
-0.7
1.4
-2.9
-3.5
3.3
-2.1
被説明変数:contract
SELF
0.50**
4.1
2.64
84
1.2
(3)
z値
係数
-0.02
-0.9
-0.18
-1.8
0.69
0.2
2.65*** 3.6
-2.71** -2.6
-0.87
-1
-1.62*** -2.6
1.01
1.4
2.69
84
1.3
(4)
z
係数
-0.02
-1
-0.14
-1.1
3.13
0.5
2.44*** 2.9
-2.46** -2.2
-0.85
-1
-1.74*** -2.6
1.19
1.5
0
0.5
3.05
1.4
84
順序 probit 推定結果
表 3-3
OLS
SPLIT
0.97***
3.5
被説明変数:VOL
補助回帰
表 3-4
Firm
0.88***
z値
Firm
47
(2)
z値
係数
-0.02
-0.8
-0.18
-1.7
0.83
0.2
2.63*** 3.4
-2.70* -2.5
-0.95
-1
-1.61** -2.5
1.04
1.4
-0.43
-0.6
-0.08
-0.1
CONS
0.38
サンプル数
84
0.5
出所:Slade(1996)
先行研究での結果
表 3-1、3-2 は Slade(1996)の実証結果である。Slade は 4 つの契約形態に分けてガ
ソリンスタンドのデータを収集していたが、最終的に直営店のデータは使用しなかっ
た。これは、サンプルデータにおける直営店がどこも似たようなサービスを提供して
いて、属性を表す説明変数どうしが多重共線性を起こしてしまったためである。表 3-1
において(1)は直営店を抜いた 3 つの契約形態に対して順序 probit を当てはめたもの、
(2)は独自ブランドを抜いた 2 つの契約形態に対して(順序)プロビットを当てはめたも
のである。(2)で独自ブランドを抜いた理由は、サンプル数が少ないことを考慮したた
めである。表 3-1 の(3),(4),(5)も独自ブランドを抜いている。表 3-1 の(1),(2)では企業
間ダミー変数を加えていたが、いずれも有意ではなかったので、企業間ダミーを抜い
たものが表の(3)である。表 3-1 の(4),(5)も企業間ダミーは抜いている。表 3-1 の(4)は
ガソリンの売上量 VOL の内生性を仮定した推定を行っている。売上量の内生性とは、
例えば、外生的な要因によって従業員のガソリン販売に対するインセンティブが増大
した場合、ガソリン販売に注力することによってガソリンの売上量も増えるのではな
いかというものである。そこでまず、ガソリンの売上量 VOL に対して補助回帰を行
ったものが表の 3-2 である。ここで得られた残差 VHAT を新たに説明変数として加え
たものが表 3-1 の(4)である。なお、VHAT の係数は有意ではなかった。表 3-1 の(5)
はガソリンスタンドの築年齢を説明変数として加えたものである。なお、築年齢を公
開していた企業は Chevron と Esso だけだったので、Shell のガソリンスタンドは抜
いている。築年齢 Age を説明変数に加えた理由は、古いスタンドほど、フルサービス、
修理、少ない売上、短い営業時間で営業している傾向があるだろうという仮説を考慮
48
したためである。しかしながら表 3-1 の(5)を見れば明らかなように築年齢 Age は有意
ではなかった。注目するべきは BAYS(修理)と CSTR(コンビニエンスストア)の係数で
ある。どちらも理論通りの符号であり、かつ相対的に係数が大きい。つまり、ガソリ
ン販売のインセンティブが低い”Commissioned Agent”ほどコンビニエンスストアを
併設していて、ガソリン販売のインセンティブが高い独自ブランドほど修理をしてい
ることになる。
本節における分析方法
3.3.2
Slade(1996)の実証方法と同様に、ガソリンスタンドの 2 次的サービスと契約形態
について理論通りの結論が得られるかを実証する。日本におけるガソリンスタンドの
契約形態(1)直営店、(2)フランチャイズ、(3)独自ブランドの 3 つを被説明変数として、
ガソリンスタンドの属性と、契約形態について順序 probit を当てはめる。
3.3.2.1 順序 probit を用いた分析方法
まず、順序 probit の概念を北村(2007)と別所(2009)を参考に解説する。順序選択モ
デルでは、被説明変数は何らかの序数で表される。;個の選択肢があるとき、被説明変
数を
= 1, 2, 3, ⋯ ⋯ ;
と定義するものとする。
このようなモデルは、順序が関係なければ、多項選択モデルを用いて分析すること
ができる。しかし、選択の順序に意味がある場合、それを無視した分析をすることは
推定方法としては望ましくない。同様に、これを単なる最小 2 乗法で推定すると、序
数であるにも関わらず基数として扱うが故に、これもまた推定方法としては問題が生
じる。
ガソリンスタンドの契約形態には、
1)
直営店
2)
フランチャイズ
3)
独自ブランド
の 3 つの選択肢があるが、これらは基数的ではなく、序数的である。なぜなら、直営
店、フランチャイズ、独自ブランドの順にガソリン販売に対するインセンティブが増
大するからである。そこで分析には順序選択モデルを用いるのが適切である。順序選
49
択モデルの中でも、とくに順序 probit モデルを採用する。このとき、被説明変数とし
て、
!<$
= 1, 2, 3
を考える。つまり、ガソリンスタンドの契約形態が、直営店であるならば 1、フラン
チャイズならば 2、独自ブランドならば 3 の数値をそれぞれ割り当て、これを被説明
変数とする。さらに順序 probit モデルをガソリンスタンドの契約形態に当てはめると、
被説明変数!<$
は次のような連続潜在変数<
<=
∗に対応していると考えるこ
とができる。
<
<=
∗= + = 1, 2, ⋯ ⋯ <
はガソリンスタンドの属性を表す説明変数(ベクトル)、
は誤差項である。は係
数ベクトルで、には依存しない。属性を表す説明変数とは、たとえばコンビニエンス
ストアを併設しているか、修理を行っているかなどである。このとき<
<=
∗は、
ガソリンスタンドの、ガソリン販売に対するインセンティブ強度の大きさを表す指標
ととらえることができる。定義により潜在変数は観察できないが、被説明変数!<$
は観察できる。この 2 つの変数は次のような関係で表されると考えられる。
!<$
= > ↔ ? < <
<=
∗< ?
> = 1, 2, 3
この対応関係は閾値メカニズム(threshold mechanism) と呼ばれている。すなわち、
3 つの選択肢は実数を 3 個の区間に分割して対応させればよく、区分するためには次
のように閾値? < ? < ? < ? を決める。
!<$
= 1 ↔ ? < <
<=
∗< ? ↔ ? − < < ? − !<$
= 2 ↔ ? < <
<=
∗< ? ↔ ? − < < ? − !<$
= 3 ↔ ? < <
<=
∗< ? ↔ ? − < < ? − ここで、? = −∞, ? = ∞である。!<$
がある値>> = 1,2,3をとる確率は、誤差項
の累積密度関数@(A)を用いて、次のように表せる。
= = >|
= @? − − @(? − )
@−∞ = 0, @∞ = 1
50
ただし、誤差項の確率密度関数として標準正規分布を当てはめたものが順序 probit モ
デルであるので、
@A = C D==
DA = (2) exp (−
A
)
2
である。
の独立性が仮定されれば、全体の尤度は個別観測値の尤度の積で表現する
ことができる。個別観測値の尤度は、
E
= (
)೔భ (
)೔మ ⋯ ⋯ ⋯ ೔಻
= F(
)೔ೕ
ここで、
1
= G
0
選択肢jが選ばれた場合(y = j)
それ以外
H
よって、<個のガソリンスタンドに対する対数尤度関数は次のように定義できる。
ln F E
= ' ' ln (
)
!
!
この式に対して最尤法推定を行うことで、係数ベクトルと閾値の値? , ? を得ること
ができる。ただし、説明変数ベクトルに定数項が含まれているときには閾値の値のう
ちの 1 つが識別されないので、そもそも説明変数には通常定数項を含めない。Stata
の場合、説明変数ベクトルに定数項が含まれない代わりに閾値がすべて推定される。
3.3.2.2
パラメーターIの解釈
推定されたベクトルJ は潜在変数の値を決める。係数" (ベクトルのK番目の成分)が
プラスに推定されたとき、説明変数"
(ガソリンスタンドiのK番目の属性)が大きくなれ
ば潜在変数<
<=
∗の当てはめ値が大きくなることを示している。したがって、被
説明変数!<$
も「大きく」なる傾向があることを表している。つまり、属性" の
51
係数" がプラスであれば、その属性を保有しているスタンドほど、より大きいガソリ
ン販売のインセンティブに対応していることになる。限界効果を説明変数の平均で表
すことにすれば、
7
7
!<$
= >|L =
[D? − L − D? − L ]#
7"
7"
が成り立つ。
3.3.3
データソース
データはインターネットサイト gogo.gs(http://gogo.gs/)、エッソ・モービル・ゼネ
ラルオフィシャルサイト(http://www.emg-ss.jp/)を利用した。gogo.gs のサイトについ
てはサイトの利用者がガソリンスタンドの情報を投稿している。それぞれのガソリン
スタンドの契約形態、属性のデータは gogo.gs、エッソ・モービル・ゼネラルオフィ
シャルサイトで収集した。
データの対象は、東燃ゼネラルグループが東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に展
開する全ガソリンスタンドおよび、同対象地域においてデータが入手できた独自ブラ
ンドのガソリンスタンドを合わせた合計 716 店舗である。
表 3-5
サンプルデータの特徴 1
直営店
フランチ
独自ブラ
ャイズ
ンド
express
直営かつ
サンプル
express
数
東京都
14
135
37
49
13
186
神奈川県
16
153
17
82
12
186
埼玉県
31
95
31
62
31
157
52
千葉県
43
113
31
78
42
187
合計
104
496
116
271
98
716
表 3-6
サンプルデータの特徴 2
cstr
repair
cwsh
24hours
サンプル
self
数
東京都
10
53
54
57
66
186
神奈川県
21
47
76
62
99
186
埼玉県
29
37
68
43
88
157
千葉県
26
54
83
59
108
187
合計
86
191
281
221
361
716
3.3.4
変数定義
表 3-7
表 3-8
ガソリンスタンドの契約形態を表す被説明変数
被説明変数
説明変数の意味
Contract(質的従属変数)
直営店
:1
フランチャイズ
:2
独自ブランド
:3
ガソリンスタンドの属性を表す説明変数
説明変数
説明変数の意味
Cstr
ダミー変数
repair
ダミー変数
コンビニエンスストア併設がある
:1
コンビニエンスストア併設がない
:0
修理をしている
:1
修理をしていない
:0
53
ダミー変数
cwsh
ダミー変数
hours
ダミー変数
self
express
ダミー変数
洗車をしている
:1
洗車をしていない
:0
24 時間営業している
:1
24 時間営業していない
:0
セルフサービスをしている
:1
フルサービスをしている
:0
express ブランドである
:1
express ブランドでない
:0
被説明変数=ガソリンスタンドの契約形態!<$
と説明変数=ガソリンスタンド
の属性($
, $
$
, ℎ
, K5
, ℎ!$
, $
)に対して、順序プロビットモデルをあ
てはめた場合に期待される係数の符号は表 3-9 の通りである。
表 3-9
各説明変数に期待される符号
説明変数
期待される係数の符号
cstr
-
repair
+
cwsh
なし
hours
なし
self
-
express
-
cstr
直営店であるほどガソリン販売のインセンティブは低い。コンビニエンスストアを
併設した場合、コンビニエンスストアとガソリン販売の売上は補完的であり、不確実
性も正の強い相関を示すと考えられる。直営店以外のスタンドほどリスクを減らそう
とするので、ガソリンの売上と補完的なコンビニエンスストアの併設は避けようとす
るはずである。故に期待される符号はマイナスで、これは「直営店ほど、コンビニエ
ンスストアを併設している可能性が高い」ということである。
repair
修理は観察不可能な努力が重要である。また、ガソリン販売との補完性も小さい。
54
よって、ガソリン販売のインセンティブが高いフランチャイズや独自ブランドが修理
を行うことで、自発的に質の高いサービスを提供してくれるはずである。従って、期
待される符号はプラスであり、
「直営店以外のスタンドほど、修理サービスを提供して
いる可能性が高い」ということである。
cwsh
洗車については、何も理論的な説明を与えてこなかった。洗車は本質的にガソリン
スタンドの従業員、つまりエージェントが労力を費やすものではなく、機械が自動的
に行ってくれるところが多いので、洗車とガソリン販売のインセンティブには直接的
なつながりはないと考えられる。故に期待される符号はなく、係数が 0 に近くなると
予想できる。
hours
24 時間営業に関しても何も理論的な説明を与えてこなかった。24 時間営業をすれ
ば、その分売上は増えるだろうが、人件費もかかる。それゆえに、24 時間営業に関し
て期待される符号や係数は何もない。
self
インセンティブの低い直営店ほどモニタリングが容易なセルフサービスを提供し、
ガソリン販売のインセンティブが高いそれ以外のスタンドほど、質の高いフルサービ
スを提供するだろう。よって期待される符号はマイナスであり、
「直営店ほどセルフサ
ービスを行っている可能性が高い」ということである。
express
express は東燃ゼネラルグループが特に力を入れているガソリンスタンドである。
「最もすばやく、最も簡単な操作で、最もきれいで快適な設備で、給油サービスを提
供すること」をコンセプトにしているだけあり、express 以外のスタンドと比べて、
相対的にプリンシパルのモニタリングが強いはずである。直営店のほとんどは
express であり、東燃ゼネラルグループのガソリンスタンドのうち、約 1/3 が express
である。express であるスタンドは全てセルフサービスであるが、このことはモニタ
リングが容易であるセルフサービスを従業員に行わせることで、高水準の努力を強制
させるためであると考えられる。また、プリンシパルの強いモニタリング下にあるの
で、直営店が express である場合はもちろんのこと、フランチャイズのガソリンスタ
ンドが express である場合も、その契約形態としては通常のフランチャイズ店と比べ
て相対的により直営店に近いものであるとみなせる。故に、期待される符号はマイナ
スで、
「より直営店に近いほど、express である可能性が高い」ということである。な
55
お、当然のことではあるが、express は東燃ゼネラルグループのブランドであるため、
独自ブランドには express などというものは存在しない。
3.3.5
実証結果
表 3-10
被説明変数:contract
(1)
(2)
z値
係数
z値
説明変数
係数
cstr
-0.9141938***
-5.18
-0.9128935***
-5.09
repair
0.4687675***
3.53
0.4832436***
3.60
cwsh
1.285659***
8.46
1.335312***
8.66
hours
-0.2218628*
-1.66
-0.2731924**
-2.01
self
1.357685***
7.82
1.462112***
8.25
express
-3.941518***
-15.75
-4.036589***
-15.91
tokyo
0.2624378*
1.66
kanagawa
0.1729125
1.11
chiba
-0.2854485*
-1.83
閾値?
-2.09148
-2.385146
閾値?
1.22518
1.049141
Number of objects: 716
Pseudo M :0.3912
(注)
***は 1%有意、**は 5%有意、*は 10%有意である。
Stata を用いて、被説明変数=ガソリンスタンドの契約形態!<$
と説明変数=
ガソリンスタンドの属性($
, $
$
, ℎ
, K5
, ℎ!$
, $
)に対して、順序プロ
ビットモデルをあてはめた。埼玉県を base group とした県別ダミー変数を加えなか
った結果が表 3-10 の(1)、加えた結果が(2)である。県別ダミー変数はいずれも 5%水
準のもとでは有意ではなかったので、ガソリン販売のインセンティブに関して、地域
差はないと言える。よって(2)の結果に対しては、以下では一切考慮しない。
hours
5%水準の下では hours の係数だけ有意ではなかったが、もともと hours には期待
56
される符号も理論的な説明も与えていなかった。また、推定結果を見ても係数が相対
的に小さいので、hours の説明変数にはほとんど説明力がないと言える。故に hours
は無視してしまって問題ない。
self
次に注目するのは、self を除いた各説明変数の係数の符号が期待されていた符号に
一致した点である。まず、self が符号条件を満たさなかった理由について考察する。
推定された self の符号がプラスであることをそのまま解釈すると「独自ブランドほど
セルフサービスを提供している」ということになり、明らかに理論と反している。符
号条件を満たさなかった原因は、express の影響であると考えられる。ここで東燃ゼ
ネラルグループの「express」ブランドはすべてセルフサービスであり、直営店のほと
んどが express であることに留意したい。実際にサンプルデータでは、全 716 のスタ
ンドのうち、セルフサービスを行っているところは 361 個、express ブランドは 271
個、直営店は 104 個、直営かつ express は 98 個であった。このことからも、直営店
のほとんどが express であり、express 以外でもセルフサービスを提供しているスタ
ンドが 90 個もあることがわかる。事実として直営店の多くが express でセルフサー
ビスを提供しているわけであるから、理論で説明していた「セルフサービスを行って
いるほど直営店である可能性が高い」という予想が間違っていたわけでは決してない。
しかしながら self の符号がプラスになってしまったのは、express 以外でセルフサー
ビスを提供しているフランチャイズ店&独自ブランドに引きずられた結果であると考
えられる。
express
また同時に express に関して、符号がマイナスでしかも絶対値が 3.94 と大きい理由
も、直営店のほとんどが express であるからだと説明することができる。なお、説明
変数の平均値で評価した express の限界効果は 0.5309237 であり、
「 express であれば、
直営店である確率が約 53%上がる」という結論が得られた。
cwsh
洗車は係数が 0 に近くなるだろうと予想を立てていた。しかし回帰結果を見る限り、
cwsh の符号はプラスで係数も相対的に大きく、1%有意であるから、
「ガソリン販売の
インセンティブが高い独自ブランドほど洗車を行っている確率が高いこと」を意味し
ている。この原因は洗車サービスに観察不可能な側面があったためではないかと考え
られる。いくら機械がほとんど自動で洗車を行ってくれるとはいえ、洗車の前後では
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多少なりともエージェントが接客を行うはずである。そして接客のクオリティーは観
察しにくいため、直営店ではなく、インセンティブの高いフランチャイズや独自ブラ
ンドが洗車を行うほうが望ましいのだと考えられる。なお、説明変数の平均値で評価
した cwsh の限界効果は-0.1731787 であり、
「洗車を行っていると、直営店である確
率が約 17%下がる」という結論が得られた。
cstr&repair
最後に cstr と repair の係数について考察する。どちらも 1%水準で有意である。符
号がそれぞれマイナスとプラスであったから、
「 コンビニエンスストアを併設している
ほど直営店である確率が高く、修理を行っているほど、独自ブランドである可能性が
高いこと」を意味する。これはまさにマルチタスクモデルの理論から得られる予測と
合致する。符号条件についての説明は理論分析で詳述したので、ここでの考察に値す
るものは係数の絶対値である。cstr の絶対値が 0.914 であるのに対し、repair の絶対
値は 0.468 であるから、他の変数の係数と比較しても、repair の絶対値が低いという
ことがわかる。1%有意であるから少なくとも係数は 0 ではないが、絶対値が小さいた
め、素直に回帰結果を見ると修理はガソリン販売のインセンティブにはあまり寄与し
ていないように思える。この理由を考える。まず留意したいのは、ガソリン販売のイ
ンセンティブ強度について、 < ≈ という理論的説明が与えられていたことであ
る。直営店と比べると、フランチャイズと独自ブランドはリスクに晒されているため、
ガソリン販売のインセンティブが大きい。しかしながら、フランチャイズと独自ブラ
ンドを比較したとき、必ずしも < ではなかった。どちらも不確実な報酬のリスク
に晒されているという点では共通であり、両者のインセンティブ強度について一概に
絶対的な大小関係が成り立つとは言えないからである。ただし、一部のフランチャイ
ズ店ではプリンシパルのモニタリングが強化されているところがあり、その場合は
< であると言える。たとえば東燃ゼネラルグループの「express」ブランドがそ
れに該当する。直営店が express である場合は言うまでもないが、フランチャイズ店
が express である場合、通常のフランチャイズ店と比べてプリンシパルの強いモニタ
リング下にあるので、スタンドの属性としてはより直営店のそれに近いものになるで
あ ろ う 。 従 っ て 、 ス タ ン ド 全 体 的 に 見 れ ば ≤ が 成 り 立 つ だ ろ う が 、 必 ず し も
< と言えるほど両者のインセンティブに大きな差があるとは言い切れないので、
repair の係数があまり大きくなかったのではないかと考えられる。もう 1 つの理由と
しては独自ブランドの資本力である。資本力で劣る独自ブランドはそもそもマルチタ
スクモデルの前提が崩れてしまい、フルサービスだけを提供するシングルタスクなス
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タンドがデータとして多く見受けられた。逆に資本力で優位な直営店や express のフ
ランチャイズ店がコンビニエンスストアと修理の両方を行っているケースもあった。
以上のことを考慮すると、repair の係数があまり大きくなかったことにも納得がいく。
そして最後に、説明変数の平均値で評価した cstr と repair の限界効果はそれぞれ、
0.1231422 と-0.0631431 であり、
「 コンビニエンスストアを併設していると直営店で
ある確率が約 12%上がり、修理業務を行っていると直営店である確率が約 6%下がる」
という結論が得られた。
第4章
考察・今後の課題
文責
窪田悠介・吉野絢哉
本論文では 2 つの理論、実証分析を行った。第 2 章の「契約形態がガソリン小売価
格に与える影響」についてと第 3 章の「契約形態がガソリン販売のインセンティブ及
び 2 次的サービスの決定に与える影響」についてである。ここでは本論文で行った理
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論、実証分析の考察と今後の課題を述べる。
第 2 章の契約形態がガソリン小売価格に与える影響については、直営店とそれ以外
の契約形態を比較すると、直営店であるほどガソリン価格が低いという実証結果が得
られた。この理由の 1 つとして、直営店という契約形態をとることで 2 重マージン問
題が解消されることが挙げられた。このことは理論分析からも得られた結論である。
さらに契約形態を 3 種類に分けた実証分析ではフランチャイズ店は価格が高く、直営
店と独自ブランドの間に価格差が見られないことが示された。この要因としてはフラ
ンチャイズ店特有のフランチャイズ料の存在と、独自ブランドの仕入れ先の幅広さが
挙げられる。前者は可変的な費用が増大するため価格がさらに高くなり、後者はより
価格が安い仕入れ先を選択できるため価格が安くなる。以上のように、契約形態が持
つ様々な特性がガソリン価格に影響を及ぼしていると考えられる。本実証分析の今後
の課題としては、さらに各契約形態のどの特性が価格に影響を与えているのかを明確
にしていくことである。先述したようなフランチャイズ料や仕入れ先の制限などが重
要な要因なのかをさらに明確にしていく必要がある。
次に第 3 章について考察する。下流のガソリンスタンドが上流の元売とガソリン販
売に関して契約を交わす場合、大きく分けて(1)直営、(2)フランチャイズ、(3)独自ブ
ランドの 3 種類の契約形態があった。直営店ではプリンシパルがエージェントの努力
をモニタリングしやすく、情報の非対称性が存在しないため、高い努力水準をエージ
ェントに強制させることができる。この場合は固定給を設定することでリスク中立的
なプリンシパルが、リスク回避的なエージェントのリスクを全て負担するのが望まし
い。一方のフランチャイズ&独自ブランドでは、プリンシパルがエージェントの努力
水準を観察することが困難であり、情報の非対称性が存在する。この場合、エージェ
ントに適切なインセンティブを与えるためには、業績に連動した報酬を与えるべきで
ある。これらのことから、直営のガソリンスタンドではモニタリングが容易なセルフ
サービスが、フランチャイズ&独自ブランドでは観察できないサービスの質が重要と
なるフルサービスが提供されている傾向にあると言える。
しかしそれだけで話は終わりではない。適切なインセンティブを与える上において、
垂直的関係のコーディネーションも重要な問題である。たとえばガソリンスタンドで
は、ガソリン販売の他にも、コンビニエンスストアや車の修理などの 2 次的サービス
が提供されている場合がある。各ガソリンスタンドが提供している 2 次的サービスの
種類は、ただ闇雲に選択されているわけではない。適切なコーディネーションの下で、
各契約形態に相応の選択がなされているのである。3 章の第 2 節では、各 2 次的サー
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ビスとガソリン販売との補完性に注目した。マルチタスクモデルから導かれた結論は、
ガソリン販売との補完性が高い 2 次的サービスは、ガソリン販売のインセンティブを
下げてしまうというものである。それゆえ、補完性の高いコンビニエンスストアは主
に直営店で、補完性の低い修理業務はフランチャイズ&独自ブランドで提供されてい
る傾向にあると言える。
実証分析では、理論から導かれたこれらの予測の妥当性を順序 probit を用いて検証
した。実証結果では理論通り、直営のガソリンスタンドではセルフサービスやコンビ
ニエンスストアのサービスを提供している確率が高まり、フランチャイズ店&独自ブ
ランドではフルサービスや修理を提供している確率が高まるという結論が得られた。
したがって以上のことから、エージェントに適切なインセンティブを与えるために
は、適切な報酬契約を設定することはもちろんのこと、各契約形態に見合った適切な
コーディネーションを設計する必要があると言える。そして実証分析の結果から、現
実のガソリンスタンドではまさに、適切なインセンティブを与えるための契約形態及
びコーディネーションが実践されていることが確かめられたのである。今後の課題と
しては本論文では東燃ゼネラルグル-プに限定して実証分析を行ったが、この範囲を
さらに広げてガソリンスタンド市場全体を対象に実証分析をしていく必要がある。
参考文献
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一般社団法人日本自動車工業会「自動車需要台数推移」(2014.3.20)
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出光興産ホームページ
http://www.idemitsu.co.jp/
JX 日鉱日石エネルギーホームページ
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コスモ石油ホームページ
東燃ゼネラルグループホームページ
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http://www.noe.jx-group.co.jp/
http://www.tonengeneral.co.jp/
http://www.taiyooil.net/
昭和シェル石油ホームページ
http://www.showa-shell.co.jp/
e 燃費 http://e-nenpi.com/
gogo.gs
http://gogo.gs/
おわりに
我々がガソリン市場を論文の対象にしたのは契約形態と価格の関係について調べ
る上でガソリンは同質財であるという市場特性を考慮してのことでもあったのだが、
このガソリン市場の分析こそ我々企業組織パートが半年間学習してきたことが最も活
かせるようなものであったというのが大きい。上流下流の企業における取引、モラル
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ハザード、リスクシェアリング、所有権などいずれも企業組織パートで取り扱ったも
のであり、特に契約におけるモラルハザードについては当時まだ学習していなかった
論点であったためにそのときのパートゼミは 5 時間以上 4 人で苦戦していたのを覚え
ている。
学部生程度の知識しかない我々が経済学、とくにミクロ経済の論文を書こうと思っ
たならば先人の知恵を借りる必要がありそのために先行研究は不可欠である。それ故
に純粋に興味があることであってもそれについて取り扱っている先行論文がなければ
おおよそ「論文」と呼べるものは仕上げられない。またそのような論文が運よく見つ
かったとしてもその論文の実証分析で取り扱われているデータを日本で集めることは
なかなかに困難な場合がある。専門的な研究所であるのならば必要なデータを集める
ことは容易だろうがそこにもやはり学生としての限界がある。
そのような制約がありながらも我々は自分たちの学んだことが活かせるトピック
を取り扱っている先行論文を見つけ、それを実証するためのデータを自分たちで集め、
そして一本の論文を書き上げることができた。それは今年ノーベル経済学賞を受賞し
た Jean.Tirole 氏の論文のような偉大なものではないにしても 1 つの論文として、決
して恥のないものに仕上がっていると思う。現状分析、理論分析、実証分析の一貫性
にご注目いただきながら、ご一読いただければと思う。そしてそこから我々企業組織
パートのこの論文にかけた妥協のない熱意が伝われば幸いである。
石橋孝次研究会
第 16 期
企業組織パート一同
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