電子のスピンに関する簡単なコメント ∼相対論的量子論(Dirac 方程式)への舌足らずな招待∼ 1.はじめに これまで授業では、固体中の電子のバンド分散関係などについていくつかの計算をした 後で、「でも電子にはアップスピンとダウンスピンの2つの自由度が許されるので・・・」 といった言い訳をして、例えばバンド分散曲線上の許される k にはそれぞれ2個の電子を収 容できるなどという説明をしてきました。ここではどうして電子にはスピンの自由度が付 与されるのかということについて、私の浅い理解の中で、できるだけ簡単に説明すること を試みます。 電子に何故スピンの自由度が付与されるのかということは、実は相対論的量子論という、 多分大部分の方は学部時代に教わる機会がなかったであろう授業の中で取り扱うべきこと がらです。「ええっ∼!(古典的な)相対性理論ですらきちんと勉強したことがないのに、 その上に量子論かよ∼!」といきなり初めから腰が引ける方も大勢いると思いますが、こ こでは相対性理論の理解は全く前提にせず、そのおいしいところだけ齧って Dirac 方程式 の精神とその意味するところを簡単に理解することに少しだけお付き合い下さい。 2.Klein-Gordon 方程式 これから、 (非相対論的量子論の基礎方程式であるシュレディンガー方程式に相当するよ うな)“相対論的”な量子論の基礎方程式を導いていくことにしましょう。結論から先に言 ってしまうと、電子に対する相対論的量子論の基礎方程式は n=4 の Dirac 方程式と呼ばれ るものです。ただしここではこの式をいきなり導く前段階として Klein-Goldon 方程式と呼 ばれるものを導くことにします。 (Klein-Coldon 方程式は実はスピン 0 のボゾンを記述する 相対論的量子論の基礎方程式でしかないのですが)この導出過程を見ることにより、如何 にして相対論的な性質を量子力学に取り込むかという感覚?がよくわかるので、ここでは まず Klein-Goldon 方程式について説明します。 さていよいよ相対性理論の登場です。皆さんは漫画などでアインシュタインの公式 E = mc 2 というのを見かけたことがあると思います。これをより一般化してやると、実は古 典的な相対性理論の枠組みの中では、物体のエネルギーEは次の式によって書き表される ことが知られています。 E= p 2 c2 + m2 c4 -----(7) ここでpは運動量、cは光速、mは質量を意味します。なぜこんな式が出てくるかは、い つか時間ができたらまた、このHPにでも簡単な解説をアップしておきます(いつのこと やら?)が・・・、ここでは済みませんがこの古典的な相対性理論の結果は天下りに認め てしまって下さい。 シュレディンガー方程式の中のハミルトニアンは(非相対論的な)古典的なエネルギー の表式中の運動量を演算子に置き換えることによって得ることができました。そこでここ h でも(7)式の相対論的な古典的エネルギーの表式中の運動量pを演算子 ∇ に置き換えて i しまいましょう。するとハミルトニアンHは以下のようにかけることになります。 H = −h 2 c 2 ∇ 2 + m 2 c 4 -----(8) そして、これに対応するシュレディンガー方程式は、多分次のように書けるはずです。 ih ∂ψ = −h 2 c 2∇ 2 + m2 c 4ψ ------(9) ∂t これは相対論的な量子論の方程式のようにも見えますが、残念なことにルートの中に演算 子が入っていたりして何となくすっきりしません。この√をとるために、ここでは(9) 式 の 左 側 に は 演 算 子 ih ih ∂ を、また右側にはこの演算子と同等(つまり ∂t ∂ = −h 2 c 2∇ 2 + m2 c 4 )である −h 2 c 2 ∇ 2 + m 2 c 4 をかけて見ましょう。すると(9)式の√ ∂t が取れて次の式が得られます。 −h 2 ∂2 ψ = ( −h 2 c 2∇ 2 + m 2 c 4 )ψ ∂t 2 ------(10) これが Klein-Gordon 方程式と呼ばれるものです。 この Klein-Goldon 方程式はぱっと見にはシュレディンガー方程式に対応した相対論的な 電子の量子現象を記述する式のように見えます。ただし、ここでは詳細は述べませんがこ の式に基づく確率密度は負の値を取る可能性があったり、また電子のスピンを説明できな いなど、電子の振舞いを記述するには不味い点がいくつかあることが知られています。電 子の相対論的量子論の基礎方程式を得るためには、これにさらに一工夫施すことが必要で す。 3.Dirac 方程式 シュレディンガー方程式 ih h2 2 ∂ ψ = − ∇ + V ψ と(10)式の Klein-Goldon 方程式を比 ∂t 2m べて違うのは、時間に関する偏微分がシュレディンガー方程式では1階の微分になってい るのに対し、Klein-Goldon 方程式では2回の微分となっていることです。ここでは詳述し ませんが、実はこれが Klein-Goldon 方程式に関して不味い点を生み出す原因となっていま す。この点を解決するため、Dirac は次のような要請を満たす方程式を求めることを考えま した。 a)時間に関して 1 階の微分だけを含む。 b)(相対性理論では時間と空間は等価なため)位置座標についても1階の微分のみ を含む c)得られた方程式は Klein-Goldon 方程式を自然に含む ここで c)についてはよくわからないかもしれませんが、直感的にはつぎのようなことです。 つまり(10)式の Klein-Goldon 方程式は 2 h ∂ h ∂ − ih∇ i + ih∇ ψ = ( mc ) ψ i c ∂t c ∂t -----(11) のように見ることも出来るので、時間、位置座標に対する1階微分でできた方程式を作っ ておいて、それを2回作用させてやった結果が時間と位置座標の2回微分で構成される Klein-Goldon 方程式となるような、時空に対する1階の微分のみを持つ方程式を作ってや ることができるだろうということです。 具体的に Dirac は、 i h ∂ ∂ ∂ h ∂ + + 、 、 mc の一次結合からなる方程式として、 i ∂x1 ∂x2 ∂x3 c ∂t h ∂ h ∂ − ∑ al − bmc ψ = 0 ----(12) i c ∂t l =1,2,3 i ∂xl のような方程式を考え、これが Klein-Goldon 方程式(10)と一致するように線形結合定数 al (ただしl = 1, 2,3)と b を決めてやることを行いました。なおここで x1 = x, x2 = y, x3 = z は空間の位置座標を表しています。 ( 1 2 ) 式 を Klein-Goldon タ イ プ の 式 に す る た め に 、 (12) 式 の 左 側 か ら h ∂ h ∂ + ∑ al + bmc を作用させることにしましょう。すると以下の式が得られること i c ∂t l =1,2,3 i ∂xl は面倒くさいけど簡単な計算ですぐおわかり頂けるかと思います。 h ∂ h ∂ h ∂ h ∂ + ∑ al + bmc i − ∑ al − bmc ψ = 0 i c ∂t l =1,2,3 i ∂xl c ∂t l =1,2,3 i ∂xl 2 2 h ∂ 2 h ∂ = − 2 − ∑ al + bmc ψ c ∂t l =1,2,3 i ∂xl 2 h 2 ∂ 2 h ∂ h ∂ h ∂ = − 2 − a1 + a2 + a3 + bmc ψ i ∂x2 i ∂x3 c ∂t i ∂x1 h h2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂2 ∂ = [− 2 2 − {−a12 h 2 2 − a1a2 h 2 − a1a3h 2 + a1 bmc i c ∂t ∂x1 ∂x1∂x2 ∂x1∂x3 ∂x1 − a2 a1h 2 h ∂2 ∂2 ∂2 ∂ − a2 2 h 2 − a2 a3h 2 + a2 bmc 2 i ∂x2 ∂x1 ∂x2 ∂x2 ∂x3 ∂x2 − a3 a1h 2 h ∂2 ∂2 ∂2 ∂ − a3 a2 h 2 − a32 h 2 2 + a3 bmc i ∂x3∂x1 ∂x3∂x2 ∂x3 ∂x3 ∂ h ∂ ∂ h h + a3 bmc + b 2 m 2 c 2 }]ψ + a1 bmc + a2 bmc i ∂x2 ∂x3 i i ∂x1 =− 2 2 2 h2 ∂2 2 2 ∂ 2 ∂ 2 ∂ a a a − − + + h [ 1 2 3 2 2 2 2 2 ∂x2 ∂x3 c ∂t ∂x1 ∂2 ∂2 ∂2 − h 2 ( a1a2 + a2 a1 ) + ( a2 a3 + a3 a2 ) + ( a3 a1 + a1a3 ) ∂x1∂x2 ∂x2 ∂x3 ∂x1∂x3 h ∂ ∂ ∂ 2 2 2 + mc ( a1b + ba1 ) + ( a2b + ba2 ) + ( a3b + ba3 ) + b m c ]ψ ∂x1 ∂x2 ∂x3 i ----(13) これをまとめると結局次の式となります。 h2 2 2 2 ∂2 2 2 2 ∂ 2 ∂ 2 ∂ h = − + + [ c a a a 1 2 3 2 2 2 2 ∂t ∂x2 ∂x3 ∂x1 ∂2 ∂2 ∂2 − h 2 c 2 ( a1a2 + a2 a1 ) + ( a2 a3 + a3 a2 ) + ( a3 a1 + a1a3 ) ∂x1∂x2 ∂x2 ∂x3 ∂x1∂x3 --(14) h ∂ ∂ ∂ 2 2 4 + mc3 ( a1b + ba1 ) + ( a2 b + ba2 ) + ( a3b + ba3 ) + b m c ]ψ ∂x1 ∂x2 ∂x3 i これが先ほどの Klein-Goldon 方程式(10) −h 2 ∂2 ψ = ( −h 2 c 2∇ 2 + m 2 c 4 )ψ ∂t 2 と一致するためには、係数 al ,b の間に次の関係が成り立つことが必要なことがわかります。 a12 = a2 2 = a32 = 1 ------(15) a1a2 + a2 a1 = a2 a3 + a3 a2 = a3 a1 + a1a3 = 0 a1b + ba1 = a2b + ba2 = a3b + ba3 = 0 b2 = 1 -----(18) -----(16) -----(17) 以上から、(15)∼(18)の条件を満足するような線形係数 al (ただしl = 1, 2,3)と b をもった h ∂ h ∂ 一次の微分方程式(12) i − ∑ al − bmc ψ = 0 が求めるべき相対論的量子論の基 c ∂t l =1,2,3 i ∂xl 礎方程式であることがわかります。これが相対論的量子論における基礎方程式である Dirac 方程式です。 こうして眺めてしまうと Dirac 方程式(12)式はシュレディンガー方程式とあまり変わら ないような形に見えます。しかし実は条件(15)∼(18)を通常の数(c数)で満足させること は出来ません。条件(15)∼(18)を満足する線形係数 al (ただしl = 1, 2,3)と b は実は4次以 上の偶数次の行列の形であることが知られています。次節で説明するように、実は係数が 行列となるところが、電子固有の性質であるスピンのオリジンとなっています。 この小節の説明も少し長くなってしまったので、一般的な話はここまでにして、次節で 具体的に最小の次数、つまり4次の行列で与えられる方程式(=スピン1/2のフェルミ オンを記述する Dirac 方程式)について考えて見ることにしましょう。 4.電子に対する Dirac 方程式 4次の行列で条件(15)∼(18)を満足させるためには、線形係数 al (ただしl = 1, 2,3)と b を以下のように取ればよいことが Dirac によって示されています。(Dirac のΓ行列) 1 0 b= 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 a1 = 0 0 −1 0 0 0 −1 −1 0 0 0 −i 0 0 0 i 0 0 a3 = a2 = 0 i 0 0 −1 −i 0 0 0 0 0 0 −1 0 0 1 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 1 0 0 0 0 −1 0 0 -----(19) これに対応して、Dirac 方程式を見たす波動関数は形式的には次のように書かれる4次の行 列(Dirac スピノル)で表現されることになります。 ψ1 ψ ψ= 2 ψ3 ψ4 -----(20) (20),(19)を1次の線形微分方程式(一般的な Dirac 方程式)に代入すると、以下の電子に対 する Dirac 方程式が得られます。 h ∂ h ∂ − ∑ al − bmc ψ i c ∂t l =1,2,3 i ∂xl h ∂ i c ∂t ψ 1 0 0 0 i h ∂ ψ c ∂t 2 h 0 0 1 = − i h ∂ ψ i 0 −1 0 c ∂t 3 −1 0 0 h ∂ i ψ4 c ∂t =0 1 ψ1 ψ1 0 0 0 −i 0 ∂ ψ2 h 0 0 i 0 ∂ ψ2 − 0 ∂x1 ψ3 i 0 i 0 0 ∂x2 ψ3 0 ψ4 −i 0 0 0 ψ4 0 h 0 − i −1 0 0 1 0 0 0 −1 ∂ 0 0 0 ∂x3 1 0 0 ψ1 1 ψ 2 − mc 0 ψ3 0 0 ψ4 0 ψ1 1 0 0 ψ2 0 −1 0 ψ3 0 0 −1 ψ4 0 0 こいつをより見やすくするために、これを成分ごとに計算してやると i ∂ h ∂ h ∂ h ∂ ψ1 − ψ 4 + h ψ 4− ψ 3 − mcψ 1 = 0 c ∂t i ∂x1 ∂x2 i ∂x3 i ∂ h ∂ h ∂ h ∂ ψ2 − ψ3 − h ψ3 + ψ 4 − mcψ 2 = 0 ∂x2 c ∂t i ∂x1 i ∂x3 ∂ h ∂ h ∂ h ∂ i ψ3 + ψ2 − h ψ2 + ψ 1 + mcψ 3 = 0 ∂x2 c ∂t i ∂x1 i ∂x3 i ----(21) ∂ h ∂ h ∂ h ∂ ψ4 + ψ 1 + h ψ 1− ψ 2 + mcψ 4 = 0 ∂x2 c ∂t i ∂x1 i ∂x3 を得ることが出来ます。 これは自由空間を運動する(すなわちポテンシャルV=0での)内部自由度の最も小さ い(i.e. 4x4のΓ行列; 別の言葉で言うとスピン量子数 1/2 のシステム)系における 相対論的量子論的運動を記述する式であり、その波動関数は平面波解の形となることが予 想できます。実際に u1 u ψ = 2 exp i (k ⋅ r − ωt ) u3 u4 -----(22) を(21)に代入してみましょう。すると以下のような式(23)を得ることが出来ます。ただしこ こでは非相対論的量子論における時間をあらわに含んだシュレディンガー方程式の解を φ ∝ exp i (k ⋅ r − ωt ) とおいた場合に、 E = hω とおくことによって時間に依存しないシュレデ ィンガー方程式に移行したように、(22)式のωも E = hω により固有エネルギーに結びつけ ることができることに注意して式変形を行っています。具体的に(22)式を(21)式に代入し、 E = hω の関係を使うと次式を得ます。 ( E − mc ( E − mc ( E + mc ( E + mc 2 2 2 2 )u )u )u )u 1 − cpz u3 − c( px − ip y )u4 = 0 2 − c( px + ip y )u3 + cpz u4 = 0 3 + cpz u1 + c( px − ip y )u2 = 0 4 + c( px + ip y )u1 − cpz u2 = 0 -------(23) なおここでは式を見やすくするために、通例に従って hk1 = px , hk2 = p y , hk3 = pz とおきまし た。ここで注意して頂きたいのは、 “(28)式が non-trivial な解 ( u1 , u2 , u3 , u4 ) を持つためには、 この行列式=0とならなければいけない!”ということです。実際にこの計算は簡単だけ どすごく面倒くさいのですが、行列式の計算の果てに以下の関係を得ることができます。 {E 2 } − m 2 c 4 − c 2 ( px 2 + p y 2 + pz 2 ) 2 =0 -----(29) これは以下のことを意味します。すなわち4行4列のガンマ行列で表されるシステムに対 する Dirac 方程式(ポテンシャルV=0の場合についての計算)から、その固有エネルギ ーとして E± = ± m 2 c 4 + c 2 ( px 2 + p y 2 + pz 2 ) 、またそれぞれの固有関数として E+ について 1 0 cpz ψ 1= 2 exp i (k ⋅ r − ω t ) E+ + mc c p + ip y) ( x 2 E+ + mc -----(30) 0 1 c ( p − ip ) x y exp i (k ⋅ r − ωt ) ψ 2= E+ + mc 2 − cpz E+ + mc 2 -----(31) また E− については cpz E − mc 2 − c ( px + ip y ) exp i (k ⋅ r − ωt ) ψ 3= E− + mc 2 1 0 ------(32) c ( px − ip y ) 2 E− + mc cpz exp i (k ⋅ r − ωt ) ψ 4= − E− − mc 2 0 1 -----(33) が得られるということです。ここで E+ に対する(30),(31)式は正のエネルギーを持つ2つの 異なる内部自由度を持つ粒子を表しています。一方 E− に対する(32),(33)式は、負のエネル ギーを持つ2つの異なる内部自由度を持つ反粒子を表しています。ここで得られた内部自 由度の最も小さい(スピン量子数 1/2)粒子の一つに電子があります。従って以上の結果は、 相対論的に量子論を扱うことにより(内部自由度をスピンという言葉で表すことが許され れば)電子に対して自然に2つの異なるスピン状態が現れることがわかるのだということ を示していることになります。 5.内部自由度∼スピンの意味づけ ただしここまでの説明では、4行4列のΓ行列に対する Dirac 方程式によって、私達が 通常目にする電子のスピンの特徴(例えばスピンベクトル)を自然に説明できるというこ とを示していないので、 「確かに内部自由度が2つあるということはわかるけれどもそれが スピンによるものだといあわれてもなあ・・・!?」という尤もな疑問にはまだ答えてい ません。 これに答えるためには、例えば電磁場をベクトルポテンシャルで書いて、メカニカル運 動量として取り込んだ扱いをすれば結構簡単にわかるのですが、このやり方をきちんと説 明するためはいくつか他の話も少ししなければなりません。ここでは少し別の見方で上に 現れた内部自由度がスピンに関係することを見て行きましょう。 話を簡単にするために、やや天下りですが γ 5 行列と呼ばれる次のような行列によって、 上で求めた固有状態 ψ 1 ,ψ 2 ,ψ 3 ,ψ 4 がどのように変換されるかを眺めてみることにしましょ う。 0 0 5 γ = 1 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 1 0 0 -----(34) 例えば、この γ 5 行列によって(30)式の固有状態ψ 1 は以下のように変換されます。 0 0 5 γ ψ1 = 1 0 0 0 0 1 cpz 2 E+ + mc c ( px + ip y ) E + mc 2 = + 0 0 cpz 2 E+ + mc c ( px + ip y ) E + mc 2 + = 0 0 1 0 0 0 1 cpz 2 E mc + 0 0 + c ( px + ip y ) cp 1 z 2 = 0 E+ + mc E+ + mc 2 0 c ( px + ip y ) 1 E+ + mc 2 0 c ( px − ip y ) 0 E+ + mc 2 −cpz E+ + mc 2 0 0 cpz E+ − mc 2 c ( px + ip y ) 0 E+ − mc 2 c ( px − ip y ) 0 E+ + mc 2 −cpz E+ + mc 2 0 0 cpz E+ − mc 2 c ( px + ip y ) 0 1 0 0 cpz 2 c ( px − ip y ) E+ + mc E+ − mc 2 c ( px + ip y ) E + mc 2 + −cpz 2 E+ − mc 0 0 ------(35) ψ 1 c ( px − ip y ) E+ − mc 2 −cpz E+ − mc 2 0 E+ − mc 2 同様のことをψ 2 についても行うと、同じ結果 cpz 2 E+ + mc c ( px + ip y ) E + mc 2 γ 5ψ 2 = + 0 0 c ( px − ip y ) E+ + mc 2 0 −cpz E+ + mc 2 0 0 cpz E+ − mc 2 0 c ( px + ip y ) E+ − mc 2 0 ψ 2 c ( px − ip y ) E+ − mc 2 −cpz 2 E+ − mc 0 ------(36) が得られます。ここで(36),(37)式の行列の中身をもう少し詳しく見てみましょう。どこかで パウリ行列というものを聞いたことありませんか?パウリ行列とは次の3つの2行2列の 行列のことです。 0 1 0 −i 1 0 , σ z = 0 0 −1 σx = , σ y = 1 0 i ----(37) これを使うと(36),(37)の行列の上隅、下隅の2x2行列は記号的に次のように書くことが出 来ます。 cpz 2 E+ + mc c ( px + ip y ) E + mc 2 + cpz 2 E+ − mc c ( px + ip y ) E − mc 2 + c ( px − ip y ) E+ + mc 2 c cσ ⋅ p σ p + σ y p y + σ z pz ) = = 2 ( x x E+ + mc 2 −cpz E+ + mc E+ + mc 2 c ( px − ip y ) E+ − mc 2 c cσ ⋅ p σ p + σ y p y + σ z pz ) = = 2 ( x x 2 E mc E − + + − mc −cpz E+ − mc 2 ----(38) なおここで σ 、 p はそれぞれ σ = (σ x , σ y , σ z ) , p = ( px , p y , pz ) を成分とするようなベクトル として表現しています。これを使うと結局 γ 5 行列による固有関数の変換は次のように書く ことができます。 cσ ⋅ p E + mc 2 γ 5ψ j = + 0 ψ j cσ ⋅ p E+ − mc 2 0 ただしここで j=1,2,3,4 であり、行列要素 -----(39) cσ ⋅ p cσ ⋅ p 、 、0,0はそれぞれ2行2 2 E+ + mc E+ − mc 2 h 列の行列を表しています。一般にスピン演算子 S は S = σ と書かれることを思い出せば、 2 結局(39)式は直感的には γ 5 行列はスピン S の運動方向 p への射影成分の大きさを与えるよ うなものであることがわかります。 簡単のために、ここでは特に粒子の運動エネルギーが大きくて質量が無視できる場合を 考えましょう。このとき(7)式の E = p 2 c 2 + m 2 c 4 の関係から、 E = p c と書くことが許され ます。特に粒子は+z方向に運動している( px = p y = 0, pz > 0 )ものとしましょう。この場 合には pz = E / c となり、これらを(35)式に代入すると 1 0 0 −1 γ 5ψ 1 = 0 0 0 0 0 0 0 0 ψ1 1 0 0 −1 -----(36)となります。 また E = p c において px = p y = 0, pz < 0 にとることも可能で、この場合には pz = − E / c とな ります。このときには −1 0 γ 5ψ 2 = 0 0 0 0 1 0 0 −1 0 0 0 0 ψ2 0 1 ------(37) を得ることが出来ます。つまり今の例の場合ψ 1 はスピンが運動方向を向いていますが、ψ 2 ではスピンは運動方向と反対側を向いていることになります。ここでスピンは大きさが h 2 の角運動量ベクトルであることを思い出せば、以上の結果は、スピンと運動方向が一致し ているψ 1 では、角運動量は右回り回転によって発生しているのに対し、スピンと運動方向 が反対のψ 2 では角運動量は左回り回転によって発生していることを意味します。 以上 参考文献: この解説を書くにあたっては以下の文献を参照しました。 L.I.Schiff, “Quantum mechanics” McGraw-Hill 相原博昭 “素粒子の物理” 東大出版会 久保謙一、鹿取謙二 “スピンと偏曲” 培風館
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