患者さんのための 潰瘍性大腸炎 治療の手引き ハンドブック 監 修 (大阪市)東住吉森本病院 消化器病センター所長 北野 厚生 大阪市立大学 名誉教授 小林 絢三 はじめに CONTENTS 潰瘍性大腸炎はクローン病とともに(狭義の)炎症性腸疾患と して位置づけられています。 若年者に好発し、再燃と緩解を繰り返して慢性に経過する難治 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 1 2 3 4 5 6 どんな病気 ……………………………………1 潰瘍性大腸炎の症状 …………………………3 潰瘍性大腸炎の検査と診断 …………………6 潰瘍性大腸炎の治療 …………………………10 入院や手術、社会生活について ……………13 再燃予防のポイント …………………………14 性の強い病気です。 積極的に研究されているにもかかわらず、その病因(病気の原 因)は未だ明確に解明されていません。従いまして、明白な病 因をターゲットにした治療法が確立されていない状況下にあり ます。 しかし、5-ASA 製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン) やステロイドホルモンによく反応する場合が多くみられます。 他方、これらの薬剤にも反応せず、外科的な治療を必要とする 難治性の潰瘍性大腸炎も存在します。 医療費の補助 医療費の補助 これらの現況を正確に理解していただき、病気の重圧に押し流 特定疾患医療給付 ………………………………15 されることなく、信頼できる医師とともに前向きに病気と取り 組んでいただけることを目的として、このハンドブックを作成 致しました。 患者さん自身やご家族の方が安寧の気持ちを抱くことが出来 ますように祈念致しております。 (大阪市)東住吉森本病院 消化器病センター所長 北野 厚生 はじめに CONTENTS 潰瘍性大腸炎はクローン病とともに(狭義の)炎症性腸疾患と して位置づけられています。 若年者に好発し、再燃と緩解を繰り返して慢性に経過する難治 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 1 2 3 4 5 6 どんな病気 ……………………………………1 潰瘍性大腸炎の症状 …………………………3 潰瘍性大腸炎の検査と診断 …………………6 潰瘍性大腸炎の治療 …………………………10 入院や手術、社会生活について ……………13 再燃予防のポイント …………………………14 性の強い病気です。 積極的に研究されているにもかかわらず、その病因(病気の原 因)は未だ明確に解明されていません。従いまして、明白な病 因をターゲットにした治療法が確立されていない状況下にあり ます。 しかし、5-ASA 製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン) やステロイドホルモンによく反応する場合が多くみられます。 他方、これらの薬剤にも反応せず、外科的な治療を必要とする 難治性の潰瘍性大腸炎も存在します。 医療費の補助 医療費の補助 これらの現況を正確に理解していただき、病気の重圧に押し流 特定疾患医療給付 ………………………………15 されることなく、信頼できる医師とともに前向きに病気と取り 組んでいただけることを目的として、このハンドブックを作成 致しました。 患者さん自身やご家族の方が安寧の気持ちを抱くことが出来 ますように祈念致しております。 (大阪市)東住吉森本病院 消化器病センター所長 北野 厚生 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎の特定疾患受給者証交付数の推移 近年では年間 4,000 ∼ 5,000 人の増加傾向にあります。 (人) 70,000 1. 60,000 どんな病気 50,000 40,000 30,000 潰瘍性大腸炎は原因不明の大腸炎として厚生労働省の特定疾患 (難病)に指定されており、炎症性腸疾患〔Inflammatory(炎症 性)Bowel(腸)Disease(疾患) ;IBD〕と呼ばれる病気のひ とつです。潰瘍性大腸炎は、大腸(結腸や直腸)の粘膜に炎症を 伴う潰瘍が生じる病気で、先進国に多くみられ、最近わが国でも 食生活の欧米化と歩調を合わせるように増加しています。20 歳 代をピークとする若年者に多く発病し、わが国の患者さんの登録 数は 50,000 人を超えています。この病気の特徴は、一般に症 状が良くなったり(緩解)、悪くなったり(再燃)を繰り返すといっ た慢性の経過をたどることです。また症状が極端に悪くなったと きには、大腸だけでなく身体の他の場所にも病気(合併症)を引 き起こしたりしますので注意が必要です。そのため、症状が一時 的に良くなっても、治療を根気よく続けて再燃を予防することが とても大事になります。 1 ど ん な 病 気 20,000 10,000 0 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 (年 度) 1 厚生労働省保健医療局調べ ど ん な 病 気 わが国の潰瘍性大腸炎の性別・年齢別発病率 1.0 男 女 人 口 10 万 人 対 比 率 0.5 潰瘍性大腸炎は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されて おり、医療費の補助が行われています。 (15 ページ参照) 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 4 9 14 19 24 29 34 39 44 49 54 59 64 69 発病年齢(歳) 宇都宮利善 , 北洞哲治:潰瘍性大腸炎─疫学─ . 最新内科学大系 45 炎症性腸疾患 , 中山書店 , 東京 , 25 ∼ 38 頁 , 1992 より 1 2 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎の特定疾患受給者証交付数の推移 近年では年間 4,000 ∼ 5,000 人の増加傾向にあります。 (人) 70,000 1. 60,000 どんな病気 50,000 40,000 30,000 潰瘍性大腸炎は原因不明の大腸炎として厚生労働省の特定疾患 (難病)に指定されており、炎症性腸疾患〔Inflammatory(炎症 性)Bowel(腸)Disease(疾患) ;IBD〕と呼ばれる病気のひ とつです。潰瘍性大腸炎は、大腸(結腸や直腸)の粘膜に炎症を 伴う潰瘍が生じる病気で、先進国に多くみられ、最近わが国でも 食生活の欧米化と歩調を合わせるように増加しています。20 歳 代をピークとする若年者に多く発病し、わが国の患者さんの登録 数は 50,000 人を超えています。この病気の特徴は、一般に症 状が良くなったり(緩解)、悪くなったり(再燃)を繰り返すといっ た慢性の経過をたどることです。また症状が極端に悪くなったと きには、大腸だけでなく身体の他の場所にも病気(合併症)を引 き起こしたりしますので注意が必要です。そのため、症状が一時 的に良くなっても、治療を根気よく続けて再燃を予防することが とても大事になります。 1 ど ん な 病 気 20,000 10,000 0 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 (年 度) 1 厚生労働省保健医療局調べ ど ん な 病 気 わが国の潰瘍性大腸炎の性別・年齢別発病率 1.0 男 女 人 口 10 万 人 対 比 率 0.5 潰瘍性大腸炎は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されて おり、医療費の補助が行われています。 (15 ページ参照) 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 4 9 14 19 24 29 34 39 44 49 54 59 64 69 発病年齢(歳) 宇都宮利善 , 北洞哲治:潰瘍性大腸炎─疫学─ . 最新内科学大系 45 炎症性腸疾患 , 中山書店 , 東京 , 25 ∼ 38 頁 , 1992 より 1 2 2. 潰瘍性大腸炎の症状 潰瘍性大腸炎は、直腸からはじまることが多く、そのまま限局す る場合と上行性(口側)に進展し、大腸全体を侵す場合がありま す。主だった初発症状として、便に粘液や血液の混じった粘血便 がたびたびみられることや、腹部全体の痛みや、下腹部に限られ た痛みが現れることがあります。また、 「しぶり腹」と呼ばれ、頻繁 に便意をもよおすのに、便がでないという症状も多く見られます。 症状が進むと、発熱、頻脈(脈拍が早くなる)、 怠感(身体のだ るさ)、関節の痛みなどが現れることがあります。軽症ではわずか な粘血便程度で、排便回数も 1 日 4 回以内のことが多いのです が、この病気では軽症といえども発熱などの全身症状を伴う場合 があります。また、生活環境の変化、例えば季節の変化や、受験、 離婚、事業の失敗といった大きなストレスによって、病気の悪化 を招くことがあります。潰瘍性大腸炎をはじめとする IBD の発症 要因の一つとして、食生活の変化や現代社会のストレスがその背 景に関連すると考えられています。 2 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 症 状 潰瘍性大腸炎の炎症範囲による分類 2 直腸炎型 左側大腸炎型 全大腸炎型 直腸∼S状結腸に 炎症が限局した状態 横行結腸中央より 左側に炎症がある状態 大腸全体に 炎症がある状態 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 症 状 潰瘍性大腸炎の経過による一般的な分類 初回発作型 将来再燃緩解型になる可能性のあるもの 再燃緩解型 再燃と緩解を繰り返す 慢性持続型 緩解期がほとんどみられないもの 電 発症から急激に進展する重症型 撃 型 (再燃緩解型が約 80%を占める) 潰瘍性大腸炎の病期(炎症の状態)による分類 3 活 動 期 大腸の炎症が活動性の状態にあり、血便、 腹痛などの症状がある。 緩 解 期 大腸の炎症が消褪している状態にあり、 症状がない場合が多い。 4 2. 潰瘍性大腸炎の症状 潰瘍性大腸炎は、直腸からはじまることが多く、そのまま限局す る場合と上行性(口側)に進展し、大腸全体を侵す場合がありま す。主だった初発症状として、便に粘液や血液の混じった粘血便 がたびたびみられることや、腹部全体の痛みや、下腹部に限られ た痛みが現れることがあります。また、 「しぶり腹」と呼ばれ、頻繁 に便意をもよおすのに、便がでないという症状も多く見られます。 症状が進むと、発熱、頻脈(脈拍が早くなる)、 怠感(身体のだ るさ)、関節の痛みなどが現れることがあります。軽症ではわずか な粘血便程度で、排便回数も 1 日 4 回以内のことが多いのです が、この病気では軽症といえども発熱などの全身症状を伴う場合 があります。また、生活環境の変化、例えば季節の変化や、受験、 離婚、事業の失敗といった大きなストレスによって、病気の悪化 を招くことがあります。潰瘍性大腸炎をはじめとする IBD の発症 要因の一つとして、食生活の変化や現代社会のストレスがその背 景に関連すると考えられています。 2 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 症 状 潰瘍性大腸炎の炎症範囲による分類 2 直腸炎型 左側大腸炎型 全大腸炎型 直腸∼S状結腸に 炎症が限局した状態 横行結腸中央より 左側に炎症がある状態 大腸全体に 炎症がある状態 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 症 状 潰瘍性大腸炎の経過による一般的な分類 初回発作型 将来再燃緩解型になる可能性のあるもの 再燃緩解型 再燃と緩解を繰り返す 慢性持続型 緩解期がほとんどみられないもの 電 発症から急激に進展する重症型 撃 型 (再燃緩解型が約 80%を占める) 潰瘍性大腸炎の病期(炎症の状態)による分類 3 活 動 期 大腸の炎症が活動性の状態にあり、血便、 腹痛などの症状がある。 緩 解 期 大腸の炎症が消褪している状態にあり、 症状がない場合が多い。 4 3. 潰瘍性大腸炎の合併症 ◆局所性合併症 ◎ 大出血 ◎ 狭窄 (腸管が狭くなる) ◎ 中毒性巨大結腸症 (腸管が異常拡張する) ◎ 瘻孔 (腸管に穴があく) ◎ 大腸癌* 2 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 症 状 潰瘍性大腸炎の検査と診断 潰瘍性大腸炎の診断は、まず患者さんの便が慢性(持続性また は反復性)の粘血便であることを確認することからはじまります。 続いて、大腸ファイバースコープを肛門から挿入して直腸∼内部 を観察し、この病気に特徴的な所見(びらんや潰瘍がびまん性(境 界が不鮮明)にみられる)を確認します。また、この時ほかの病 気と区別するために粘膜のごく一部を取って顕微鏡で調べる検査 (生検組織学検査)も行われます。これらの検査で多くは診断が 可能ですが、病気の範囲や程度を確認するために、必要に応じて 注腸 X 線検査(バリウムを肛門から入れて X 線撮影を行います) や大腸内視鏡検査(大腸の奥をさらに観察するため)を行うこと もあります。こうした検査は簡単ではありません。しかし、これら の検査による正しい診断が、より良い治療に結びつくことをよく 理解しましょう。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 ◆全身性合併症 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 眼病変 アフタ性口内炎 肝機能障害 尿路結石 皮膚病変 関節痛 * 全大腸炎型の長期(10 年以上)経過症例において 大腸癌の発生率が高くなるといわれています。 慢性大腸炎の検査 患者さんの持続性または反復性の 粘血便、またはその既往の確認 細菌学的・寄生虫学的検査 (感染性腸炎との鑑別) 大腸(直腸∼ S 状結腸)内視鏡検査 (特徴的な腸病変を観察・確認) 生検組織学検査 (粘膜組織の特徴を確認) 注腸 X 線検査 (腸病変の性状や程度・炎症の範囲を確認) 大腸内視鏡検査 (腸全体の病変の性状や程度・炎症の範囲を観察・確認) 5 6 3. 潰瘍性大腸炎の合併症 ◆局所性合併症 ◎ 大出血 ◎ 狭窄 (腸管が狭くなる) ◎ 中毒性巨大結腸症 (腸管が異常拡張する) ◎ 瘻孔 (腸管に穴があく) ◎ 大腸癌* 2 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 症 状 潰瘍性大腸炎の検査と診断 潰瘍性大腸炎の診断は、まず患者さんの便が慢性(持続性また は反復性)の粘血便であることを確認することからはじまります。 続いて、大腸ファイバースコープを肛門から挿入して直腸∼内部 を観察し、この病気に特徴的な所見(びらんや潰瘍がびまん性(境 界が不鮮明)にみられる)を確認します。また、この時ほかの病 気と区別するために粘膜のごく一部を取って顕微鏡で調べる検査 (生検組織学検査)も行われます。これらの検査で多くは診断が 可能ですが、病気の範囲や程度を確認するために、必要に応じて 注腸 X 線検査(バリウムを肛門から入れて X 線撮影を行います) や大腸内視鏡検査(大腸の奥をさらに観察するため)を行うこと もあります。こうした検査は簡単ではありません。しかし、これら の検査による正しい診断が、より良い治療に結びつくことをよく 理解しましょう。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 ◆全身性合併症 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 眼病変 アフタ性口内炎 肝機能障害 尿路結石 皮膚病変 関節痛 * 全大腸炎型の長期(10 年以上)経過症例において 大腸癌の発生率が高くなるといわれています。 慢性大腸炎の検査 患者さんの持続性または反復性の 粘血便、またはその既往の確認 細菌学的・寄生虫学的検査 (感染性腸炎との鑑別) 大腸(直腸∼ S 状結腸)内視鏡検査 (特徴的な腸病変を観察・確認) 生検組織学検査 (粘膜組織の特徴を確認) 注腸 X 線検査 (腸病変の性状や程度・炎症の範囲を確認) 大腸内視鏡検査 (腸全体の病変の性状や程度・炎症の範囲を観察・確認) 5 6 注腸 X 線検査 ■ 目的と内容 ■ 目的と内容 腸管壁は単純 X 線では検出できないため、肛門からチューブを 挿入し、バリウムと空気を注入することにより腸管壁の凹凸をみ る検査です。 肛門より内視鏡(大腸ファイバースコープ)を挿入することにより 腸管内を肉眼的に観察し、必要に応じて生検組織学検査を行なう ものです。検査だけでなく、高周波を用いてポリープの切除や、止 血などの治療にも用いられています。大腸ファイバースコープは、 先端のレンズにより得られた画像を光ファイバーにより誘導し、体 外で観察するものですが、最近では先端に超小型のカメラを装着 し得られた画像を電気信号として取り出し、再び画像化して観察す る電子内視鏡が普及しています。この検査は多少の痛みを伴いま すが、大腸の精密検査には欠かすことのできない重要な検査です。 ■ 具体的な方法(手順) (1)検査直前に浣腸を行います。 (2)直腸指診にて直腸に狭窄がないことを確認したあとに、造影 用のチューブを挿入します。 (3)バリウムを注入し、引き続き空気を注入してから、体位変換 によりバリウムを深部大腸に移動させていきます。この際、 排ガスはなるべくがまんします。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 大腸内視鏡検査 ■ 検査にあたっての注意点 腸管内容物が残っていると、粘膜の微細な変化が埋もれてしまい ますので、検査にあたってはできるかぎり腸内容物を排出させて おく必要があります。このために検査前日から残渣の少ない食事 に制限し、前夜に下剤を服用します。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 ■ 具体的な方法(手順) (1)左側を下に横になった姿勢で 両膝を抱えこみます。 (2)直腸指診をして異常の有無を 確認した後にファイバースコー プの挿入を開始します。 ■ 検査にあたっての注意点 ■ 正常所見 正常大腸ではその辺縁にソーセージ様のくびれがみられます。 (ハ ウストラ)。また、腸粘膜の微細な溝状構造がレントゲン像では腸 管の長軸に交差する無数の線状の影として認められることがあり、 微細な病変の診断に有用です。 注腸検査と同様に前処置が必要ですが、最近では経口的な腸管 洗浄液が開発され、食事制限なしに腸管の洗浄が行えます。検査 中は腸管に空気を注入して検査しますので、検査後腹部膨満感 が生じますが、排ガスにより軽快しますので心配はいりません。 ■ 正常所見 潰瘍性大腸炎の場合は、辺縁に小さなノコギリの歯状の像がみら れ、粘膜は顆粒状となりますが、深い潰瘍が形成されると辺縁か ら突出する像や、バリウムのたまりとして認められます。炎症によ る偽ポリープを形成する場合には多数の陰影欠損として認められ ます。慢性期になるとハウストラが消失し、管状の鉛管像を呈す ることがあります。また、これらの変化は直腸から口側に連続し て認められます。 7 腸管は黄赤色を示し、血管が透けて認められます。 ■ 異常所見とその所見から考えられる疾患 直腸から口側にかけて連続したびらんや潰瘍が認められる場合は 潰瘍性大腸炎が考えられます。この場合、内視鏡的に病変がどこ まで及んでいるか、また潰瘍の数、深さ、大きさなどが重要な観 察のポイントとなります。 8 注腸 X 線検査 ■ 目的と内容 ■ 目的と内容 腸管壁は単純 X 線では検出できないため、肛門からチューブを 挿入し、バリウムと空気を注入することにより腸管壁の凹凸をみ る検査です。 肛門より内視鏡(大腸ファイバースコープ)を挿入することにより 腸管内を肉眼的に観察し、必要に応じて生検組織学検査を行なう ものです。検査だけでなく、高周波を用いてポリープの切除や、止 血などの治療にも用いられています。大腸ファイバースコープは、 先端のレンズにより得られた画像を光ファイバーにより誘導し、体 外で観察するものですが、最近では先端に超小型のカメラを装着 し得られた画像を電気信号として取り出し、再び画像化して観察す る電子内視鏡が普及しています。この検査は多少の痛みを伴いま すが、大腸の精密検査には欠かすことのできない重要な検査です。 ■ 具体的な方法(手順) (1)検査直前に浣腸を行います。 (2)直腸指診にて直腸に狭窄がないことを確認したあとに、造影 用のチューブを挿入します。 (3)バリウムを注入し、引き続き空気を注入してから、体位変換 によりバリウムを深部大腸に移動させていきます。この際、 排ガスはなるべくがまんします。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 大腸内視鏡検査 ■ 検査にあたっての注意点 腸管内容物が残っていると、粘膜の微細な変化が埋もれてしまい ますので、検査にあたってはできるかぎり腸内容物を排出させて おく必要があります。このために検査前日から残渣の少ない食事 に制限し、前夜に下剤を服用します。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 ■ 具体的な方法(手順) (1)左側を下に横になった姿勢で 両膝を抱えこみます。 (2)直腸指診をして異常の有無を 確認した後にファイバースコー プの挿入を開始します。 ■ 検査にあたっての注意点 ■ 正常所見 正常大腸ではその辺縁にソーセージ様のくびれがみられます。 (ハ ウストラ)。また、腸粘膜の微細な溝状構造がレントゲン像では腸 管の長軸に交差する無数の線状の影として認められることがあり、 微細な病変の診断に有用です。 注腸検査と同様に前処置が必要ですが、最近では経口的な腸管 洗浄液が開発され、食事制限なしに腸管の洗浄が行えます。検査 中は腸管に空気を注入して検査しますので、検査後腹部膨満感 が生じますが、排ガスにより軽快しますので心配はいりません。 ■ 正常所見 潰瘍性大腸炎の場合は、辺縁に小さなノコギリの歯状の像がみら れ、粘膜は顆粒状となりますが、深い潰瘍が形成されると辺縁か ら突出する像や、バリウムのたまりとして認められます。炎症によ る偽ポリープを形成する場合には多数の陰影欠損として認められ ます。慢性期になるとハウストラが消失し、管状の鉛管像を呈す ることがあります。また、これらの変化は直腸から口側に連続し て認められます。 7 腸管は黄赤色を示し、血管が透けて認められます。 ■ 異常所見とその所見から考えられる疾患 直腸から口側にかけて連続したびらんや潰瘍が認められる場合は 潰瘍性大腸炎が考えられます。この場合、内視鏡的に病変がどこ まで及んでいるか、また潰瘍の数、深さ、大きさなどが重要な観 察のポイントとなります。 8 4. 前 処 置 検査前に大腸内を空にする必要があります。大腸は、胃と違って 曲がりくねっているので便があれば全く見えないためです。検査 2 ∼ 3 日前から、特別食を用意することもあります。前日には下 剤を服用し、当日は浣腸を行います。しかし、大腸の集団検診の 場合と異なって、潰瘍性大腸炎の場合は腸に炎症があるので下 剤はかえって症状が強くなることがあり注意が必要です。当日は 絶食ですが、どうしてもおなかがすいたときは、砂糖水、ジュー スなどをとります(牛乳は禁)。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 潰瘍性大腸炎の治療 主流は薬物療法 潰瘍性大腸炎は、大腸のびまん性(境界が不鮮明)にひろがる炎 症です。治療の主流は薬を使います(薬物療法)。この病気を治 すための薬としてサラゾスルファピリジン、メサラジンといった 5-ASA(5- アミノサリチル酸)製剤やステロイド剤などが用いら れています。 病気が軽症から中等症では、5-ASA 製剤の内服が基本となります。 また全身症状を伴う中等症や重症および難治例(治りにくい状態) では、大量のステロイド剤が使われますが、効果がみられない場 合は手術の対象となることがあります。 緩解期になりますと、5-ASA 製剤の内服等で緩解を維持してい くことが基本となります。 4 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 治 療 ポイント こうした薬は、お医者さんの指示にしたがって 根気よく飲みましょう。 9 10 4. 前 処 置 検査前に大腸内を空にする必要があります。大腸は、胃と違って 曲がりくねっているので便があれば全く見えないためです。検査 2 ∼ 3 日前から、特別食を用意することもあります。前日には下 剤を服用し、当日は浣腸を行います。しかし、大腸の集団検診の 場合と異なって、潰瘍性大腸炎の場合は腸に炎症があるので下 剤はかえって症状が強くなることがあり注意が必要です。当日は 絶食ですが、どうしてもおなかがすいたときは、砂糖水、ジュー スなどをとります(牛乳は禁)。 3 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 検 査 と 診 断 潰瘍性大腸炎の治療 主流は薬物療法 潰瘍性大腸炎は、大腸のびまん性(境界が不鮮明)にひろがる炎 症です。治療の主流は薬を使います(薬物療法)。この病気を治 すための薬としてサラゾスルファピリジン、メサラジンといった 5-ASA(5- アミノサリチル酸)製剤やステロイド剤などが用いら れています。 病気が軽症から中等症では、5-ASA 製剤の内服が基本となります。 また全身症状を伴う中等症や重症および難治例(治りにくい状態) では、大量のステロイド剤が使われますが、効果がみられない場 合は手術の対象となることがあります。 緩解期になりますと、5-ASA 製剤の内服等で緩解を維持してい くことが基本となります。 4 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 治 療 ポイント こうした薬は、お医者さんの指示にしたがって 根気よく飲みましょう。 9 10 食事のポイント ■ 症状により繊維の多いものは避ける。 消化されにくい食物繊維が含まれる野菜(ゴボウ、たけのこ、山菜、 みょうが、ふき、きのこなど)や海藻は症状の強い時はできるだ け避け、これらを除く野菜もやわらか煮など繊維を細かくする工 夫をしましょう。 ■ 脂肪をとりすぎないように。 4 食事は繊維が少なく消化のよい蛋白質ならびにビタミンを豊富に 含んだ日本食をとるようにしましょう。 症状の落ち着いている人はあまり食事に神経質になる必要はあり ませんが、魚を中心とした日本食は良い影響を与えます。また、 暴飲暴食は避けましょう。 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 治 療 病状が活動期のときの食事のポイント ■ 高エネルギー食に ごはん、煮込みうどん、パン、おかゆなどのでん粉類はよいので すが、砂糖類や甘いおかしばかりの偏った食物でとるエネルギー は控えましょう。 脂肪のとりすぎは、下痢の原因にもつながります。脂肪の多い肉 類(牛肉ロース、ばら肉、豚肉脂身、べーコン、ロースハム、サ ラミソーセージなど)、揚げ物(カツレツ、フライ、天ぷら)など油 を多く使用した料理をできるだけ控えるように注意しましょう。 4 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 治 療 ■ 刺激の強い香辛料、塩分は控えめに。 わさび、からしなどの香辛料、また、炭酸飲料水、コーヒー、紅茶、 アルコール類など、腸を刺激するものは控えめに。また塩分のと りすぎにも注意が必要です。薄味の習慣をつけましょう。 ■ 食物の温度にも気をつけて。 食べもの、飲みものは極端に熱すぎたり、冷たすぎたりすると腸 を刺激するおそれがあります。 ■ 蛋白質は良質で消化のよいものを。 出血や腸から蛋白が漏れることにより低栄養状態になりがちです。 質がよく、消化もよい蛋白質をとることが大切です。例えば、魚 ならかれい、ひらめ、たい、あじ、まぐろなど、大豆製品では豆腐、 ゆばなど。 ■ 乳製品は控えめに。 牛乳や牛乳の入ったおかし(ケーキ、プリン、クッキーなど)はと りすぎに注意しましょう。 11 12 食事のポイント ■ 症状により繊維の多いものは避ける。 消化されにくい食物繊維が含まれる野菜(ゴボウ、たけのこ、山菜、 みょうが、ふき、きのこなど)や海藻は症状の強い時はできるだ け避け、これらを除く野菜もやわらか煮など繊維を細かくする工 夫をしましょう。 ■ 脂肪をとりすぎないように。 4 食事は繊維が少なく消化のよい蛋白質ならびにビタミンを豊富に 含んだ日本食をとるようにしましょう。 症状の落ち着いている人はあまり食事に神経質になる必要はあり ませんが、魚を中心とした日本食は良い影響を与えます。また、 暴飲暴食は避けましょう。 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 治 療 病状が活動期のときの食事のポイント ■ 高エネルギー食に ごはん、煮込みうどん、パン、おかゆなどのでん粉類はよいので すが、砂糖類や甘いおかしばかりの偏った食物でとるエネルギー は控えましょう。 脂肪のとりすぎは、下痢の原因にもつながります。脂肪の多い肉 類(牛肉ロース、ばら肉、豚肉脂身、べーコン、ロースハム、サ ラミソーセージなど)、揚げ物(カツレツ、フライ、天ぷら)など油 を多く使用した料理をできるだけ控えるように注意しましょう。 4 潰 瘍 性 大 腸 炎 の 治 療 ■ 刺激の強い香辛料、塩分は控えめに。 わさび、からしなどの香辛料、また、炭酸飲料水、コーヒー、紅茶、 アルコール類など、腸を刺激するものは控えめに。また塩分のと りすぎにも注意が必要です。薄味の習慣をつけましょう。 ■ 食物の温度にも気をつけて。 食べもの、飲みものは極端に熱すぎたり、冷たすぎたりすると腸 を刺激するおそれがあります。 ■ 蛋白質は良質で消化のよいものを。 出血や腸から蛋白が漏れることにより低栄養状態になりがちです。 質がよく、消化もよい蛋白質をとることが大切です。例えば、魚 ならかれい、ひらめ、たい、あじ、まぐろなど、大豆製品では豆腐、 ゆばなど。 ■ 乳製品は控えめに。 牛乳や牛乳の入ったおかし(ケーキ、プリン、クッキーなど)はと りすぎに注意しましょう。 11 12 5. 入院や手術、社会生活について ■ 入 院 症状が中程度の患者さんの一部、または重症の場合は原則とし て入院が必要です。重症の場合は入院期間は比較的長く、数ヵ月 以上になることも珍しくありません。軽症の場合でも、検査のた め入院することもありますが、多くは外来(通院)治療になります。 なお、外来治療で大切なことは、経過を長期にわたって注意深く 観察することです。症状が軽くなっても、月 1 ∼ 2 回ほどの受診 が必要となります。 5 入 院 や 手 術 、 社 会 生 活 に つ い て 6. 再燃予防のポイント 1 病気を正しく理解して、少しおかし いなと気付いたら、必ずかかりつけ の医師に連絡をとり、医師の指示に よる必要な薬の追加と生活指導を 受けましょう。 6 ■ 手 術 薬や他の治療によっても効果がなく症状の悪化が進むときや、急 性の重症のときには、手術が必要となります。 2 症状がよくなっても医師の指示どお りに薬はきちんと飲みましょう。 3 定期的にかかりつけの医師の診断 を受け、病気の状態をチェックして もらいましょう。 再 燃 予 防 の ポ イ ン ト ■ 出 産 妊娠や出産を引き金に、病気が悪化することがありますので、妊 娠については専門のお医者さんの診察を定期的に受け、適切な アドバイスを受けることが大切です。 ■ かぜに注意 かぜの症状に加え、下痢が出現し、それが再燃のきっかけとなる ことが多いといわれています。かぜをひかないように注意しましょ う。また、かぜの薬として使用される非ステロイド性消炎・鎮痛 剤により症状が悪化する場合がありますので、かぜ薬を服用する 場合には医師に相談しましょう。 ■ 小児患者の注意点 小児の場合、症状は再燃緩解型(4 ぺージ参照)が多いとされて います。薬は医師の指示通りの量を守り、体の調子がよくなって も忘れずに飲むようにしなければなりません。 13 14 5. 入院や手術、社会生活について ■ 入 院 症状が中程度の患者さんの一部、または重症の場合は原則とし て入院が必要です。重症の場合は入院期間は比較的長く、数ヵ月 以上になることも珍しくありません。軽症の場合でも、検査のた め入院することもありますが、多くは外来(通院)治療になります。 なお、外来治療で大切なことは、経過を長期にわたって注意深く 観察することです。症状が軽くなっても、月 1 ∼ 2 回ほどの受診 が必要となります。 5 入 院 や 手 術 、 社 会 生 活 に つ い て 6. 再燃予防のポイント 1 病気を正しく理解して、少しおかし いなと気付いたら、必ずかかりつけ の医師に連絡をとり、医師の指示に よる必要な薬の追加と生活指導を 受けましょう。 6 ■ 手 術 薬や他の治療によっても効果がなく症状の悪化が進むときや、急 性の重症のときには、手術が必要となります。 2 症状がよくなっても医師の指示どお りに薬はきちんと飲みましょう。 3 定期的にかかりつけの医師の診断 を受け、病気の状態をチェックして もらいましょう。 再 燃 予 防 の ポ イ ン ト ■ 出 産 妊娠や出産を引き金に、病気が悪化することがありますので、妊 娠については専門のお医者さんの診察を定期的に受け、適切な アドバイスを受けることが大切です。 ■ かぜに注意 かぜの症状に加え、下痢が出現し、それが再燃のきっかけとなる ことが多いといわれています。かぜをひかないように注意しましょ う。また、かぜの薬として使用される非ステロイド性消炎・鎮痛 剤により症状が悪化する場合がありますので、かぜ薬を服用する 場合には医師に相談しましょう。 ■ 小児患者の注意点 小児の場合、症状は再燃緩解型(4 ぺージ参照)が多いとされて います。薬は医師の指示通りの量を守り、体の調子がよくなって も忘れずに飲むようにしなければなりません。 13 14 医療費の補助 特定疾患医療給付 潰瘍性大腸炎とクローン病で医療を受けてい る患者さんに対して、国と都道府県から医療 費の補助が行われています。 ●申請方法 特 定 疾 患 医 療 給 付 特定疾患の申請書および診断書は、住民登録している住所の最寄り の保健所にあります。特定疾患診断書を担当のお医者さんに記載し てもらい、申請書は患者自身、あるいは家族が書き込み、最寄りの 保健所に提出します。 その際、印鑑、健康保険証、住民票(自治体により必要)が必要です。 提出した申請書類は審査の結果、該当すると判断されると「特定疾 患給付事業受給者票」 (医療券)が交付されます。 受給者票はその有効期間内(1 年間、年度末切り替え)で医療給付 がうけられます。 その他、自治体により異なる場合がありますので最寄りの保健所にお問 い合わせください。 15
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