キャラクターブランドと商品ブランドの相互価値形成

キャラクターブランドと商品ブランドの相
互価値形成
指導教員名:
水越康介准教授
学習番号:
07159093
氏名:
志村直哉
枚数:
21 枚
キャラクターブランドと商品ブランドの相互価値形成
【目次】
1.
序論
2.
先行研究
2.1.
ブランド要素におけるキャラクター
2.2.
ブランドの働きの創造過程
ブランドとは何か
ブランドとしての働きの形成プロセス
2.3.
キャラクターの認知、連想の創造、維持
キャラクターのブランド認知の創造
キャラクターのブランド連想の創造
2.4.
キャラクターの認知、連想から発生する価値
ブランド認知から生まれるブランド価値
ブランド連想から生まれるブランド価値
2.5.
3.
ブランドの働き
仮説の構築
仮説.1
仮説.2
仮説.3
仮説のまとめ
4.
事例分析
4.1.
オリジナル・キャラクター
4.2.
既存キャラクター
5.
仮説の検討
仮説.1 の検討
仮説.2 の検討
仮説.3 の検討
6.
結論
7.
参考文献
1
1.
序論
本稿の目的は、キャラクターのもたらす、ブランド価値について、認知や連想といった
想起機能について中心に考察し、どのように商品やサービスに、キャラクタターがブラン
ドとしての働きをもたらすかを明らかにすることである。また、キャラクターには「オリ
ジナル・キャラクター」と「既存キャラクター」の二つがある。ブランドとして価値を持
ち、商品の支援をするまでのプロセスについて、二つのキャラクターを比較し、その利点
や使用方法の差異、プロセスの違いなどについて考察していく。さらに、商品を支援する
ブランドとしてのキャラクターのブランド価値と、商品と切り離れたキャラクター自体の
持つブランド価値のそれぞれが商品にどの様な影響を与えるかという点も考察する。
まず、キャラクターがブランドにおいてどのようなものなのか、「オリジナル・キャラク
ター」と「既存キャラクター」についてその違いに言及していく。その後、キャラクター
も含めたブランド自体が一般的にどのように、価値をもたらすのかというプロセスについ
て考察する。青木、恩蔵(2004)においてブランド要素はそれぞれ、認知、連想のプロセスや
ブランドの働きが異なると論じられているように(青木、恩蔵.2004.p,143)、ブランドとして
働くまでのプロセスをもとに、キャラクターについては、そのプロセスはどのようにあて
はまるのかを深く考察する。そして、キャラクターのブランド価値、
「オリジナル・キャラ
クター」、「既存キャラクター」の比較という 2 点に重点を置きつつ仮設の構築とその検討を
行う。
2.
先行研究
序論でもふれたが、まずキャラクターとは、どういうものなのかについて言及した後、
ブランド論について Aaker(1994)などを中心に確認しつつ、ブランドとしてキャラクターが
商品を支援するまでのプロセスを考察していく。
2.1.
ブランド要素におけるキャラクター
ブランド要素において、キャラクターとは「架空あるいは実在の人物や動物などを題材
にしたシンボル・マークである(青木、恩蔵,2004,p.149)。本稿でもキャラクターはこの定義
に従う。さらに、青木(1999)によれば、キャラクターは大きく二つに分けることができ、「オ
リジナル・キャラクター」と「既存キャラクター」に分けられている。「オリジナル・キャラ
クター」とは企業が独自に開発したキャラクターであり、「既存キャラクター」は過去のテ
レビ、マンガ、映画などで人気のあった登場人物を指すと青木(1999)では定義されている。
青木、恩蔵(2004)では既存キャラクターについて、「以前から広く認知されていたもの」と
し、オリジナル・キャラクターについては、「それまで広く認知されていなかったもの」と
補足的に説明している。つまり、ブランドとして商品の支援を行う時すでに、広く認知さ
れていたものが「既存キャラクター」であり、独自に商品を支援する目的で作られたもの
で、支援する段階では未知のものが「オリジナル・キャラクター」である。
2
この定義では、例えば、ミッキーマウスは既存キャラクターに分類されている。しかし、
ミッキーマウスは最初から「ディズニー」を支援するブランド要素と捉えることができ、
ディズニーランドのサービスを元々支援すると捉えることのできるキャラクターもいると
考えられる。こうした意味ではミッキーマウスはオリジナル・キャラクターと捉えること
もできる。そうした曖昧さを考慮し、本稿では、著作権や商標権を持つライセンサーの企
業がライセンス供与し、ライセンシーとなる企業のブランド要素となったアニメや漫画の
キャラクターを「既存キャラクター」と青木(1994)をもとに独自に定義する。
既存キャラクターの例として、アニメーションや漫画のキャラクターとしては、となり
のトトロの「トトロ」やサザエさんの「サザエ」、「ミッキーマウス」や「ドラえもん」な
どが挙げられる。また、ゲームのキャラクターであるポケットモンスターの「ピカチュウ」
やスーパーマリオブラザーズの「マリオ」なども既存キャラクターとして使うこともでき
る。先ほども触れたが、これらのキャラクターは今後、ライセンス供与されているものと
して議論を進める。
「オリジナル・キャラクター」としては、NOVA の「NOVA ウサギ」、NEC の「バザー
ルでござーる」、ペプシコの「ペプシマン」、ケンタッキー・フライド・チキンの「カーネ
ル・サンダース」などがこの定義に当てはまる。また、青木(1999)において、
「オリジナル・
キャラクター」は、製品の色や形を比較的そのまま表した「即物型キャラクター」、ブラン
ド化される製品の機能や情緒的価値をベースにデザインした「意味抽出型キャラクター」、
ブランド化される製品の基本的機能とは直接関係はなく新たな意味を付与した「意味付与
型キャラクター」と細分化されている。ブランド化される製品をベースにデザインされたも
のほどブランドと支援する製品が人々に認知されやすく、製品の直接的な機能から離れた
ものは新たな連想を人々に与えることができると考えられる。
図.1
キャラクターの分類
オリジナル・キャラクター
既存キャラクター
(著作権・商標権を持つ企業によるキャラクターの使用)
(ライセンス供与を受けた企業によるキャラクターの使用)
即物型キャラクター
となりのトトロの「トトロ」
ペプシコの「ペプシマン」
サザエさんの「サザエ」
意味抽出型キャラクター
ディズニーの「ミッキーマウス」
メンソレータムの「リトルナース」
ポケットモンスターの「ピカチュウ」
意味付与型キャラクター
任天堂の「マリオ」
不二家の「ペコちゃん」
ピーナッツの「チャーリー・ブラウン」
青木、恩蔵(2004)を基に著者作成
2.2.
ブランドの働きの創造過程
ブランドにおいて、キャラクターがどのように定義、分類されているかについて確認し
3
た。これから、キャラクターの認知、連想について考察していくが、その前にブランドと
は何か、どのようにブランド要素がブランドの働きを持ち、製品・サービスを支援するプ
ロセスはどの様なものなのかを簡単に把握したい。
ブランドとは何か
ブランドとは「それ自体は、製品やサービスに付与された名前やマークでしかない」(栗
木 2004,p.12)と言われているように、ブランドとは名前やマークそのものである。さらに、
「ある売り手あるいは売り手のグループからの財またはサービスを識別し、競争業者のそ
れから差別化しようとする特有の(ロゴ、トレードマーク、包装デザインのような)名前かつ
またはシンボルである」
(Aaker,1994,p.72.)と Aaker がブランドを定義するように、ブ
ランドは製品の差別化を目的としたものであり、その機能を果たしうるものはすべてブラ
ンドであると考えることもできる。本稿では、キャラクターも含めこのような名前やシン
ボルをブランドと定義する。また、ロゴ、シンボル、ブランド・ネーム、ジングルなどの
ブランド要素が組み合わさり商品を支援するが(青木、恩蔵.2004.p.142-3)、これら一つ一つ
の要素をブランド要素と本稿では呼ぶこととする。
ブランドとしての働きの形成プロセス
ブランドそれ自体は、先ほども述べたとおりただの名前やシンボルであるが、
「この名前
やマークが、マーケティング活動あるいは企業経営の持続的な競争優位の源泉になる」(栗
木 2004,p.12)とあるように、企業に大きな価値を与えるものである。この価値が形成され
るには「ブランドの効果の生じるメカニズム、すなわち「ブランドの機能」を明確にしてお
くことが欠かせない」(石井
他,2004,p428)とあるように、ブランドの機能がブランドの働
きを作り出すのである。また、今後、ブランドの機能の中でも「想起機能」を中心に考察
していく。
Aaker(1994)によれば「ブランド認知」や「ブランド連想」といった想起機能からブラン
ド価値が生じ、ロイヤルティなど商品を支援するブランドの働きを作り出すと考えられて
いる。また、プロモーション、パッケージ、使用体験など、さまざまな方法で想起機能が
創造されることにも触れられている(Aaker,1994,p.77-103,p.139-241)。青木、恩蔵(2004)
によって Aaker や Keller のブランド価値を生み出すプロセスを参考にまとめたものからも、
さまざまな方法でブランド認知、ブランド連想が形成され、ブランド価値を生み出し、商
品を支援することでブランドの働きが得られることが見て取れる。ブランドの働きを生み
出すまでのプロセスについて、今後、ブランド論について触れながら、キャラクターにつ
いて、どの様にブランド形成のプロセスがあてはまるのかを考察していく。
4
図.2
ブランドの働きの形成過程
キャラクターのブ
ランド認知、ブラ
ンド連想の創造
ブランド認知、ブ
ランド連想による
ブランド価値の発
生
キャラクターが商
品と結びつくこと
による、ブランド
の働きの発生
(著者作成)
2.3.
キャラクターの認知、連想の創造、維持
これまでで、キャラクターとブランドについてそれぞれまとめてきたが、次はキャラク
ターにどのようにブランド認知とブランド連想が創造されるかについて考察していく。ブ
ランド認知やブランド連想に言及したうえで、キャラクターが想起機能を獲得する方法を
考察する。
キャラクターのブランド認知の創造
想起機能には、ブランド認知とブランド連想の2つがある。ブランド連想は後述するも
のとし、まずは、ブランド認知について説明する。ブランド認知には「ブランド再認」、
「ブ
ランド再生」の二つの局面がある。ブランド再認とは、ナイキの「スウォッシュ」を見て、
「このマークは知っている」と認めるように、人々がブランドの名前やマークが既知のも
のと認められることである。より多くの人々に再認されることで、保証機能や識別機能と
いったブランドの他の機能を強くすることができる。
例えば、ある商品カテゴリーが提示されると頭に思い浮かぶいくつかのブランドがある
だろう。「アイスクリーム」と言えば「ハーゲンダッツ」、「エンゲージリング」というと「ティ
ファニー」といった具合である。このように、商品カテゴリーの掲示と連動して連動して特
定のブランドが想起されることをブランド再生という。掲示された特定の商品カテゴリー
から、そのブランドを想起する人々の比率を「再生率」という。再生率が高いブランドは、
購入時に買い手が検討する代替案の集合である「想起集合」に含まれる可能性が高い。つま
り、再生率が高いブランドは買い手が検討する代案に加わりやすく、商品・サービスを見
る前に買い手が、何を購入するかを決めている場合は特に、購買の対象は買い手が思い浮
かべることのできる少数のブランドに限定される(石井他,2004,pp.435-6)。このように、ブ
ランド認知とは、人々がブランドを未知のものから既知のものとし、製品のカテゴリーか
らブランドを想起するという過程をとらえたものである。
では、ブランド認知がどのようにキャラクターにもたらされるのかについて考察してい
く。キャラクターのブランド認知は、Aaker(1994)によれば「シンボルの露出」によって創
造される。それを、広告やイベント、パブリシティ、スポンサー、パッケージなどを利用
してキャラクターを露出させることにより、キャラクターのブランド認知が形成されてい
5
く。そして、露出をし続けることによって認知は強くなっていく(Aaker,1994,pp.97-104)。
また、キャラクターのブランド認知を発生させる時の特徴は、他のブランド要素よりも
学習が容易で、記憶に残り易いことである。青木、恩蔵(2004)では Henderson,P.W.and
J.A.Cote による「ロゴやキャラクターはいずれも視覚的側面の強い、図形的なブランド要
素である。図形は言葉よりもすばやく認知されるし、多くの場合、視覚的なコミュニケー
ションは言語的な方法よりも強力に作用する」(青木、恩蔵 2004,p.149)という主張を引用し、
キャラクターがブランド認知を強力に支援していると考察している。
また Aaker も「言葉(名
前)よりもビジュアルなイメージ(シンボル)を学習するほうが容易であることをわれわれは
知っている」(Aaker,1994,p.273)と主張している。つまり、キャラクターはブランド認知が
起こりやすく、キャラクターが強いブランド認知を持っており、ブランド・ネームやブラ
ンド化される製品と結びつきが強くなるほど、競合する企業のブランドよりも認知されや
すく、長く記憶に留められるという利点がある。また、「既存キャラクター」はすでに多く
の人に知られており高いブランド再認を持っているという特徴をもつ。
キャラクターのブランド連想の創造
ブランド連想とは、石井
他(2004)によれば、ブランド再生とは逆に、特定のブランドが
与えられた場合に、特定のカテゴリーや製品の特性、ある種の感情やイメージが思い浮か
ぶことである。ブランドからは、商品のカテゴリー、品質、属性、用途、使用経験、生産
者、生産地、典型的な使用者のイメージ、親しみや好感などの感情や態度など、さまざま
な事項が連想される。例えば、「ペプシ」というブランドから「若者」「現代的」「挑戦的」とい
う連想をする。これらは、「ペプシ」の名前に由来する連想ではなく、ペプシが長年にわた
って展開してきた製品戦略やプロモーション活動の蓄積に由来する連想である。マーケテ
ィング上重要なのは、高いロイヤルティや価格プレミアムは、このブランド連想を通じて
形成されるということである。(石井
他,2004,pp.437-8)つまり、ブランド連想とは、ブラ
ンド要素に触れることで、そこからさまざまな連想が発生することである。
ブランド連想がどのように想像されるかについて Aaker(1994)では「連想は、ブランドと
結びついた何ものかによって創造される。もちろん、製品またはサービスの特徴や便益は、
そのパッケージや流通チャネルとともに、ブランド・イメージの中心に位置している。さ
らに、ブランド・ネーム、シンボル、スローガンは最も重要なポジショニングの手段であ
る」(Aaker,1994,p.225)と論じている。つまり、製品やサービス、便益、パッケージ、チャ
ネルなどから得られる経験やプロモーションなどによるアプローチ、見た目から発生する
シグナルを理解することで、そこから生まれる連想がキャラクターなどのブランド要素に
結びつく(Aaker,1994,pp.225-236)。このようにして、ブランド認知発生する。また、
「シン
ボルはそれ自体が認知、連想、好感または感情を想像し、それはそれでロイヤルティや知
覚品質に影響することができる」(Aaker,1994,p.273)というように、キャラクターは製品や
サービスの経験や、様々なプロモーションからシグナルとして人々が読み取ることによる
6
連想だけなく、様々な独自の連想を人々がキャラクターを見るだけでも発生させる。
ブランド連想を生む具体的な例として、
「アイボリー石鹸で水に沈むものを見つけたら 10
万ドルもらえる」という P&G のプロモーションは、アイボリー石鹸が水に浮くという属性
の連想を創造、補強する。また、水に浮くということから様々な連想をさらに生み出すか
もしれない。さらに、Aaker は顧客の関与を高めることは最も強い連想をもたらすとした。
ワイナリーにおける利き酒の体験は製品やその背後の情報からの連想に加え、興味深く楽
しい体験も連想となる。(Aaker,1994,pp225-35)このように、商品からあらゆる経路でブラ
ンド連想が形成される。また、既存キャラクターは、キャラクター独自の連想をキャラク
ターと結びつく他のブランド要素に、移転することができる。さらに、キャラクターは人々
の個性やライフスタイルといったイメージも想起するという特徴を持つ
(Aaker,1994,pp.168-171)。
また、キャラクターはテレビやアニメ、キャラクターグッズを通じた経験からも連想は
生じると考えられる。
キャラクターは人間が幼少期から繰り返し接触し、耐久消費財のように長く生活を共にするものだ。
そして、その過程の中で、様々な体験、経験がキャラクターのイメージの中に内包され、いわばブラン
ド価値のようなものを形成していく。キャラクターはそうやって、本来のコンテンツとしての魅力だけ
でなく、幼少期の幸福体験のようなものが魅力として付加され、価値が強化されていく。/つまりキャ
ラクターは、様々な経験や体験が蓄積された耐久消費財のようなものだ。だからこそ、大好きなキャラ
クターは大人になっても特別なもので手放せなくなるというわけだ。
(相原,2007,p.59)
つまり、個人個人は、キャラクターの異なる肯定的な連想や愛着を自らの経験において創
造する。企業の操作できないものや、考えつかないような連想がプロモーションや商品・
サービスとは無関係に生まれる可能性がある。このように、キャラクターはその外見や、
プロモーションなどの企業からの人々へのアプローチ以外のそもそもキャラクターが持つ
世界観やストーリー、商品、企業から繋がりの断たれたキャラクターを通じた経験からも
連想が形成されると考えられる。そうしたキャラクターと共に過ごした体験もブランド・
ネームなどと結びついて、連想を移転する可能性もあると考えられる。さらに、キャラク
ターは人によって蓄積される経験や好感が異なると見ることもでき、キャラクターの連想
も個人差があると考えられる。
2.4.
キャラクターの認知、連想から発生する価値
ブランド価値は商品と結び付くことによって、価格プレミアムやロイヤルティといった
ブランドの働きを作り出す。ブランド認知やブランド連想が、どのようにキャラクターか
ら生まれるかということから、今度はキャラクターについて、どのような価値が生み出さ
れるのかを考察する。
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ブランド認知から生まれるブランド価値
ブランド再生において、掲示された特定の商品カテゴリーから、そのブランドを想起す
る人々の比率を「再生率」という。再生率が高いブランドは、購入時に買い手が検討する
代替案の集合である「想起集合」に含まれる可能性が高い。つまり、再生率が高いブランド
は買い手が検討する代案に加わりやすく、商品・サービスを見る前に買い手が、何を購入
するかを決めている場合は特に、購買の対象は買い手が思い浮かべることのできる少数の
ブランドに限定される。(石井
他
2004,pp.435-6)そして、心の中で最初に挙げることが
できる、最も認知されたブランドは「トップ・オブ・マインド」である。トップ・オブ・
マインドに商品が近づくほど強固な競争優位を提供する(Aaker,1994,pp84-5)。このように、
買い手の意思決定の対象に含まれることがブランド認知のもたらす価値である。では、キ
ャラクターが価値をもたらすために、どのような働きをしているのかを考察する。
ブランド再生において、再生されるものはハーゲンダッツやティファニーといった「ブ
ランド・ネーム」が主であり、キャラクターは再生対象ではないかもしれない。しかし、
ブランド要素が働きあって、ブランド・ネームの再生率をあげていると考えられる。例え
ば、「ガリガリ君」というブランド・ネームをアイスというカテゴリーで連想する時、「ガ
リカリ君」というキャラクターやロゴ、パッケージ、CM で使われるジングルなどのブラン
ド要素がブランド認知を高める働きをしているということである。先ほども述べたがキャ
ラクターは、ブランド要素の中でも、人々に認知されやすく、記憶に残りやすいという特
徴を持つ。つまり、ブランド・ネームの再生率を高め、上位に想起するブランドとなるこ
とを強く補助する作用がブランド要素の中でも高いと考えられる。
また、ブランド認識されることは、
「ブランドの属性を連想する名前が確立されていない
ときに、その属性を伝達しようということは、普通、無駄である。名前は心の中の特別な
ファイル・ホルダーのようなものであり、名前に関連する事実や感情でいっぱいにするこ
とができる」(Aaker,1994,p.86)とあるように、ブランド要素は人々に認知されることで、
様々な連想の受け皿と人々の記憶の中に入り込む。そういった意味でも、キャラクターは
少ない露出でも連想の受け皿となるといえる。また、ブランド認知は親しみや好感を生み
だすが(Aaker,1994,p.88)、これには反復してブランド要素を人々に知らせる必要がある。
しかし、キャラクター自身は初めから、親しみや好感といったものを持っている場合があ
る。つまり、商品を検討対象の上位に押し上げ、連想しやすい環境を作り出し、親しみや
好感を与えるといった価値をキャラクターは生み出す。もちろん、ブランド認知による価
値はそれぞれのブランド要素が様々な形でもたらす可能性があるが、キャラクターは認知
によるブランド価値をもたらすことに深く貢献していることが分かる。
ブランド連想から生まれるブランド価値
シグナルを理解することで連想は創造されると述べたが、キャラクター独自の類型に言
8
及すると、Aaker の連想の類型において、有名人をはじめ、ブランドと結びついた人物、
漫画のキャラクターなどは、その連想を商品のブランドに移転することができる。さらに、
ブランドを擬人化してイメージしたとき、顧客のライフスタイルや個性に類似したライフ
スタイル特性を、ブランドが持たせるとも論じている(Aaker,1994,pp.168-71)。つまり、キ
ャラクターは支援する商品のブランドに対して、キャラクターのイメージを移転させるこ
とや、ライフスタイルや個性を表現し、ポジショニングを明確にすることなどによりブラ
ンド連想を生みだしブランド価値を持つのである。では、具体的にそれはどのような価値
なのかを考察していく。
Aaker によれば、ブランド連想は、購入意思決定やブランド・ロイヤルティの基盤とな
り、「情報の加工/検索の支援」「差別化/ポジショニング」「購入理由」「肯定的態度/感
情の創造」「拡張の基盤」としてブランドに価値を与える。(Aaker,1994,pp.148-9)
「情報の加工/検索の支援」は製品、企業など一連の事実や出来事など多くの様々な情
報を、ブランドを通じてコンパクトな情報の塊として買い手に知らせることである。また、
事実の解釈の仕方は人によって異なるが、望ましい解釈の形に導くことができる。さらに、
ブランドを考察しなければ起こらないような思いや経験も知ることができる手がかりとし
て機能する。(Aaker,1994,pp148-9)つまり、キャラクターなどのブランドは買い手に与えた
い情報を加工し入力することで、言葉では膨大な量になってしまうような情報をブランド
に収斂させ、買い手に伝える役割を果たす。オリジナル・キャラクターは見た目や商品の
特性、情緒的価値をデザインとして表現するので、視覚的に情報を加工しているとも見る
ことができる。
「差別化/ポジショニング」は製品クラスに多くの商品がある場合、ブランドは顧客にそ
の識別を容易にする役割を果たす。ブランドから連想されることは、同一セグメントにお
けるポジショニングを買い手に対して明確にし、競争業者に対する障壁として機能する
(Aaker,1994,pp.148-9)。キャラクターを愛好する層や、商品のポジショニングにマッチす
るキャラクターを起用することは「差別化/ポジショニング」に当たると考えられる。
「購入理由」はブランド連想が、商品の購入と使用における製品特性または顧客便益を提
供し、購入意思決定やブランド・ロイヤルティの基盤となることである。例えば、歯磨き
粉ならば、クレストは虫歯予防用の歯磨き、コルゲートは清潔、白い歯を提供、クローズ・
アップは歯磨きの一般的な目的の提供に加え、新鮮な息をもたらすというような特性を顧
客の便益として提供するのである。また、信頼性や確信といった連想も購入理由を提供す
る。例として、ウインブルドンの優勝者のラケットのブランドは買い手に満足感や性能へ
の信頼を与えるというものである。(Aaker,1994,p.150)「差別化/ポジショニング」と比較
すると、便益を与えることが「購入理由」であり、便益の違いは「差別化」になる。
一つだけ確認しておきたいのはキャラクターが好きだから買うということや、キャラク
ターのおまけがあるから買うというのはブランド連想による「購入理由」にはならない。
「ブ
ランドの役割は、その外観の魅力や、外観から想起される連想の魅力から、直接的な対価
9
を得ることではなく、製品・サービスの販売を支援することなのである」(石井
,2004,p.440)とあるように、キャラクターから連想されるものが、商品の便益であるこ
他
とがここでいう「購入理由」なのである。
「肯定的態度/感情の創造」は連想が人々によって好まれ、それがブランドに転嫁する
ことで、ブランドが人々の肯定的な感情を刺激することである。例えば、メトロポリタン
生命保険の代弁者となったチャーリー・ブラウンは、好感のもてるキャラクターや暖かく
肯定的なイメージがメトロポリタン生命保険と結びつき、大規模で非人間的な組織や重々
しいメッセージを和らげている。また、製品使用時にも連想は連想のない時とは異なる経
験を消費者に与える。ペプシを飲むことがより楽しくなり、ブランコの運転を冒険的なも
のに変えるといったものである(Aaker,1994,p.151) 。Aaker(1994)では肯定的態度や好感と
いった面からキャラクターに言及する点がいくつかあり、キャラクターというブランド要
素の持つ連想の一つの大きな特徴であるととらえることができる。
「拡張の基盤」は連想されるイメージが他の商品とも適合することによりブランド拡張
をもたらすことである。サンキストはオレンジとともに健康的な屋外活動という連想を持
ち、そのブランドをフルーツ・バー、清涼飲料水やビタミン C 錠を含む多様な製品への適
合をもっともらしいものとして支援した。(Aaker,1994,pp.151-2)キャラクターのライセン
ス供与もほかの商品にキャラクターが付与される点で「拡張の基盤」という価値からもた
らされるものであると考えられる。以上の五つがブランド連想から生じるブランド価値で
ある。
2.5.
ブランドの働き
では、まずブランド自体が企業に対してどのような競争優位を与える働きをしめすかを、
石井淳蔵
他(2004)を基にブランドとしての働きをまとめていく。
(1)価格プレミアム効果
他社の同等の製品、サービスよりも高価格で、自社の製品・サービスを販売できるという
効果
(2)ロイヤルティー効果
顧客が自社の製品・サービスを繰り返し購入するようになるという効果。
(3)プロモーション活動の支援
ブランドが生み出す顧客との絆を背景に、プロモーション活動を展開しやすくなる。
(4)流通業者の協力の獲得
ブランドが生み出す顧客との絆を背景に、企業が流通業者に対する交渉力を高める。
(5)ブランド拡張
新たな製品・サービスを開発したり販売したりする際に、自社の既存の製品・サービスに
用いてきたブランドを使用する。新しい製品・サービスを売ることを容易にする。
(6)ライセンスの供与
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自社のブランドの使用を他社に許可し、その対価としてブランド使用料を得ること。自社
が取り扱ってない商品カテゴリーや地域を対象にして行われる。新しい製品・サービスを
売ることを容易にする。
(石井淳蔵
他(2004)
『ゼミナール
マーケティング入門』日本経済新聞出版社,pp.425-6)
ブランド連想やブランド認知によってブランドは商品を支援し価格プレミアム効果やロ
イヤルティ効果をもたらすことは Aaker(1994)や石井
他(2004)により言及されている。キ
ャラクターもブランド連想、ブランド認知を作り出し、商品を支援することでブランドと
して働くことが分かる。また、キャラクターは企業にとっても(3)~(6)のように戦略上の
利益をもたらす。例えばライセンス供与は既存キャラクターでは度々起こりうるし、オリ
ジナル・キャラクターや既存キャラクターを店頭で使うようなプロモーションを見ること
もある。また、このような戦略に企業がキャラクターを利用することはシンボルの露出な
どにつながり、想起や認知が再び強化されると見られる。
図.3
キャラクターのブランド価値の形成
パッケージ、使用体験
プロモーションなどに
よるキャラクター使用
シンボルの露出
シグナルの理解
ブランド連想
ブランド認知
ブランド価値
ブランド価値
想起集合による検討対象化
情報の加工/検索の支援
親しみ/好意
差別化/ポジショニング
イメージとブランドを繋ぐ
購入理由
ブランドの働き
価格プレミアム効果
肯定的態度/感情
拡張の基盤
ロイヤルティ効果
プロモーション活動の支援
流通業者の協力の獲得
ブランド拡張
ライセンスの供与
(Aaker(1994)を基に著者作成)
11
3.
仮説の構築
これまで、Aaker の先行研究などを基に、キャラクターやブランドについて言及しつつ、
キャラクターがブランドのとしての働きを生むまでのプロセスを整理し、キャラクターが
どのようにブランドとしての価値を生み出すかを考察してきた。ここからいくつかの仮説
を構築し、企業のキャラクターの活用のケースをもとに仮説の検討を行う。
仮説.1
オリジナル・キャラクターであれ、既存キャラクターであれブランドとして機能する。
しかし、両者がブランドとして商品を支援する時の状況は異なる。既存キャラクターはす
でに多くの人に知られている以上、すでに高いブランド再認があり、多くの人がストーリ
ーや世界観からの連想、体験による連想を持っていると仮定できる。つまり、商品と結び
ついた時には高い再認率と多くの連想をすでに持っている。一方オリジナル・キャラクタ
ーは商品と結びついたその瞬間にはブランド再認はなく、連想も外見からのものにとどま
る。ようするに、キャラクターは未だブランドではない状態である。オリジナル・キャラ
クターのように最初は認知や連想がない場合と既存キャラクターのように最初から高い認
知、連想を持つ場合では、企業がキャラクターをブランドとして使用する際注意する点が
異なると考えられることから、オリジナル・キャラクターと既存キャラクターでは商品の
ブランドとしての価値を生み出すための、プロセスやブランドのマネジメントの重点や利
点が異なるという仮説を立てる。
仮説.2
石井
他(2004)に言われるように、キャラクターから直接対価を得ることではなく、製
品・サービスを支援することが、ブランドにおけるキャラクターの役割である。既存キャ
ラクターのおまけがついた商品や既存キャラクターのパッケージの商品は、ケースで触れ
るが、購入理由は既存キャラクターが付与されたものが欲しいからである。つまり、既存
キャラクターのおまけやパッケージといった、キャラクターの直接的対価が購入の意思決
定要因であり、ブランドの役割を果たしていないと仮定できる。しかし、既存キャラクタ
ーが商品の購入機会や体験機会を作り出す。その際に、体験による連想が生まれ、商品の
何らかのブランド要素に連想が結びつくはずである。よって、既存キャラクターは、ブラ
ンドへの連想の移転以外の方法でブランド要素の連想を創造、強化する側面があるという
仮定ができる。
また、オリジナル・キャラクターは製品・サービスの支援が目的であり商品のイメージ
などから生み出されたキャラクターである。当初から支援する商品とオリジナル・キャラ
クターには商品のブランドとしての強いつながりがある。オリジナル・キャラクターがラ
イセンス供与によりキャラクターが他の企業に使われ、キャラクターが広まることは Aaker
のいうシンボルの露出につながる。オリジナル・キャラクターがブランドとして常に支援
12
する企業、商品は、ライセンス供与によって、ライセンシーが商品やプロモーションで作
った連想の影響を受けると考えられる。ここから、オリジナル・キャラクターはライセン
シーのブランドとして商品を支援することや、おまけ商品やキャラクターのぬいぐるみな
ど、キャラクターの魅力から生まれる価値や、何らかの付加価値として利用されることか
ら認知、連想が生まれる。こうした点から、ライセンス供与によってライセンシーが生み
出した認知や連想は、オリジナル・キャラクターのブランド価値を高めることになり、オ
リジナル・キャラクターと結び付く製品・サービスをより強く支援するという仮説を構築
する。
仮説.3
Aaker のブランド連想における価値の中の肯定的な感情の創造では、キャラクターの好
感がブランド・イメージの低下を防ぐと論じている(Aaker,1994,p.151)。これは、逆にブラ
ンドのイメージが低下しても、それらのブランド要素と繋がったキャラクターの印象は低
下に結びつかないと仮定できる。キャラクターの印象が低下しない要因として、企業が作
り出した好感以外の、商品とは関係のないキャラクターの持つ魅力や、これまでのキャラ
クターを通しての体験などの影響が考えられる。つまり、商品や企業と結び付いたもで出
ない、好感や連想がキャラクターにはあり、キャラクターのブランド・イメージ自体は商
品と結び付くほかのブランド要素のように、イメージが低下しない面があるということで
ある。このようなプロセスでキャラクターのブランド・イメージが低下しないという仮定
のもと、キャラクターそのものの魅力やキャラクターから連想される魅力、経験から蓄積
された連想は、好感をもち、商品のブランド・イメージの低下を防ぐ支援をする。また、
不祥事などによる商品のブランド・イメージの低下も受けにくいという仮説が構築する。
仮説のまとめ
仮説.1 オリジナル・キャラクターと既存キャラクターでは商品のブランドとしての価値を
生み出すための、プロセスやブランドのマネジメントの重点や利点が異なる。
仮説.2 ブランドへの連想の移転以外の方法でブランド要素の連想を創造、強化する側面が
ある。また、ライセンス供与によってライセンシーが生み出した認知や連想は、オリジナ
ル・キャラクターのブランド価値を高めることになり、オリジナル・キャラクターと元々
結び付くライセンサー、製品・サービスなどをより強く支援する。
仮説.3 キャラクターそのものの魅力やキャラクターから連想される魅力、経験から蓄積さ
れた連想は、好感をもち、商品のブランド・イメージの低下を防ぐ支援をする。また、不
祥事などによる商品のブランド・イメージの低下も受けにくい。
13
4.
事例分析
まず、企業がどのようにキャラクターをブランドとして育成、使用しているのかをオリ
ジナル・キャラクターと既存キャラクターのケースに分けて考察し、その後仮説ごとに考
察の結果をまとめていくことにする。
4.1.
オリジナル・キャラクター
再度確認すると、オリジナル・キャラクターはブランド要素として商標権を持つ企業や
その商品を支援するために作られたキャラクターである。
新たな事業展開や市場開拓に成功することで、キャラクターの力を実感することは珍しくなくなった。
「ガ
リガリ君」で氷菓の全国展開に成功した赤城乳業にとって、このキャラクターはまさに「ブランド成長の
エンジン」だった。また、業務用のエアコン市場から家庭用エアコン市場に切り込んだダイキン工業は、
「ぴちょんくんが新市場を開いた」と確信しているに違いない
『日経デザイン』2007 年 9 月号 p.39
「ペプシマン」のテレビ CM を始めてから、ペプシコーラの売り上げが14%上昇。颯爽と登場はするもの
の、最後は必ずどじを踏むアンチヒーロー。
『日経ビジネス』1997 年 3 月 24 日号 p.132
というように、キャラクターの商品への支援について取り上げられるケースもある。上の
記事を見てもらえばわかるとおり、優れたオリジナル・キャラクターがもつ商品支援にお
けるブラント価値への評価は高い。その中でも、不二家の「ペコちゃん」のケースを中心
に取り上げる。なぜなら、「ペコちゃん」は多くの国民に認知され、キャラクターグッズも
多数あり、愛好家も多いという点でキャラクター自体のブランド価値が高いからである。
さらに、不二家の長い歴史の中で商品を支援するブランドとしての「ペコちゃん」は不二
家の競争力に大きな役割を果たしており、2007年に起きた期限切れ原材料使用問題と
いう不祥事は、オリジナル・キャラクターのブランド価値を知る上で興味深い出来事であ
った。次の記事からもペコちゃんの価値の大きさを認識できる
「キャラクターの存在意義をこれほど度強く印象付けた出来事は、これまでほかにないだろう。2007
年1月に発覚した不二家の一連の企業不祥事は、同社のキャラクター「ペコちゃん」の価値を浮き彫りに
した。不二家に対する信用は低下しても、ペコちゃんに対する好感度はほとんど変わらなかったからだ。
(中略)同社は信頼回復にペコちゃんを活用するプランを慎重に進めている。
「ペコちゃんがいてよかった
…」というのが、同社の本音ではないだろうか。こうしたプランが成功すれば、ペコちゃんは「企業を救
う力」を実証するだろう。そうなれば、キャラクターは“広告塔”の枠を超え、企業の本質や存在意義と
14
極めて近い位置に座ることになる」
『日経デザイン』2007 年 9 月号 p.38
保証機能にあるように、品質や性能に重大なトラブルがあれば、そのブランドの付与さ
れた商品から消費者は遠ざかってしまう。これは、ブランドにネガティブな連想が加わる
からである。もちろん、不二家から多くの消費者は遠ざかった。「不二家」の名前も不二家
のロゴもブランド価値は低下し、好感は失われたにちがいない。しかし、「ペコちゃん」と
いう不二家と深く結び付いているはずのブランド要素自体は好感度をほとんど落とさなか
った。神楽坂のペコちゃん焼きも不祥事により販売休止となったが、ペコちゃんのへの同
情や応援のメッセージが多く届き、3ヶ月後の販売再開では行列が出来ていた(asahi.com)
という。報道によりペコちゃん焼きの安全性が伝えられるなど、広告効果があったにせよ、
商品から消費者が遠ざかるどころか、わざわざ多くの人が、社会的に大きな問題の起こっ
た企業の商品を買い求めている。当時の問題の悪質性を考えるとペコちゃんのブランド価
値の高さがポジティブな報道を生み、応援メッセージが届くなど、不二家を世論の敵意か
ら守ったにちがいない。
なぜこのようにペコちゃんがブランドとして機能したかという点について、ペコちゃん
のキャラクターそのものが人々に非常に人気があるためであると考えることができる。不
二家の商品、他のブランド要素に興味がなくても、キャラクターそのものが好感を生むと
Aaker が言うように「ペコちゃん」に強い愛着を持つ人も多いはずである。また、通常、
ブランド化した商品の熱烈なファンがロゴなどを何らかの形で所有することは考えられる
(青木、恩蔵.2004.p,152)が、ペコちゃんのようなキャラクターは商品・企業の熱烈なファン
でなくても、人々が様々なキャラクターグッズを買い求めるように、キャラクターを所有
する。そしてペコちゃん自身が強いブランドの価値をもつようになり、商品、企業と切り
離された連想を生みだす。そうしたキャラクター独自のブランド価値が、報道などにより、
強く不二家という企業や商品と結びつき、ネガティブな印象を持った「不二家」というブ
ランドに対し、好感をあげる作用を果たしたと考えられる。不二家のケースと似たものと
して「70年代の石油危機の時、シェブロンは、陽気で楽しい音楽に乗せてかわいいアニ
メーションの恐竜を用いることによって、石油会社に対する敵意と戦うことに成功した。
企業の、かわいいしゃれたシンボルやそのメッセージに腹を立てることは難しい」
(Aaker,1994,p.151)と Aaker がキャラクターの生む連想について述べており、やはりネガ
ティブなイメージを緩和している。
4.2.
既存キャラクター
既存キャラクターはもともと独自で高い好感を持ち、多くの人に認知され強力な連想を
持っている。このブランドの価値を企業は自社の商品・サービスに結びつけ利用している。
Aaker はその例として以下のようなものを挙げている。
15
プルーデンシャル、トラベラーズ、オールステートのような競合企業とは対照的に、メトロポリタン生命
保険は、一九八〇年代半ばには認知やポジショニングを助けるようなシンボルを全く持っていなかった。
その解決策は(チャールズ・シュルツによる)チャーリー・ブラウンというキャラクターの採用であった。そ
のねらいは、保険に対する暖かみのある、明るい、脅威とならないアプローチである。それは深刻で無神
経な競争業者のアプローチとは全く対照的である。それは深刻で無神経な競争業者のアプローチとは全く
対照的である。
(Aaker,1994,p.276)
ここから、チャーリー・ブラウンから連想される暖かさや明るさを、自社の商品にブラン
ド連想として結びつけ利用していることがわかる。さらにその結果として、
プログラムが認知を促進し(知名度は八九%であった)、「人生に出会う」というスローガンに向けられる感情
に積極的な影響を与えたという証拠がある。(中略)しかし、チャーリー・ブラウンというキャラクターは、
この会社に対してより攻撃的で事実に基づいたマーケティング・プログラムを行わせなかったという議論
もあった。
(Aaker,1994,pp276-7)
とあるように、チャーリー・ブラウンはメトロポリタン生命保険にブランド要素として定
着した。そして、Aaker はチャーリー・ブラウンの好感、肯定的な面が企業の「大規模で
非人間的な組織や重々しいメッセージを和らげている」(Aaker,1994,p.151)と論じているよ
うに、企業のブランドとして機能しているとする。このことから、既存キャラクターであ
ってもネガティブな面を抑える効果があることが見て取れる。しかし、ライセンス供与さ
れたチャーリー・ブラウンは企業がブランドとしてマネジメントできない面もあり、マー
ケティング・マネジメントを制限する一面も見受けられる。
日本においても既存キャラクターを使った CM などのプロモーションが数多く行われて
おり、既存キャラクターをブランドとして活用した例として、東芝が「サザエさん」をブ
ランドとして活用したケースを考察する。「サザエさん」は1946年から1974年まで
新聞で連載され、1969年から現在までアニメが放映されており、視聴率が20%前後と
多くの日本人が認知している。また、井田(2005)において「サザエさん」は一家団欒や懐か
しい時代をイメージできることに言及している。このように、サザエさんは再認率が非常
に高く、仲の良い家庭、愉快さ、楽しい一家団欒、といった連想を持つと考えられる。
1969年放送当初東芝はスポンサーとなった。1998年までサザエさんは東芝の一
社提供の番組であり、その間はアニメが放映されている間の CM は東芝だけであった。CM
にもサザエさんのキャラクターが使われることもあり、蛍光灯やテレビなどを、サザエさ
んをはじめ磯野家の人々がその世界観を生かして宣伝するプロモーションが行われていた。
16
また、オープニングでサザエさんが日本各地を旅する映像が流れるが一社提供であった時
代は「東芝」「TOSHIBA」の看板が街中にほぼ必ず掲げられていた。さらに提供読みにお
いても1998年までは「提供は、東芝でございます。カラーでお送りします」
「エネルギ
ーとエレクトロニクスの東芝が、お送りいたします」と読まれていた。現在も「サザエさ
んは、東芝と、ごらんのスポンサーの提供でお送りします」となっている。このように、
サザエさんを積極的に東芝のブランドといて結びつけようとしていた。しかし、1996
年の東芝談合事件や、東芝機械ココム違反事件といった不祥事の際にはオープニングの提
供表示は「TOSHIBA」のかわりに「SAZAESAN」と表示され提供読みもされず、CM も
東芝のものは使われなかった。
また、現在では東芝は一社提供をしておらず、プロモーションを見てもサザエさんと東
芝の結びつきは弱くなっている。しかし、当時は東芝とサザエさんを強く結びつけるプロ
モーションによって、東芝からサザエさんを想起する傾向が強かった。生活家電は家庭に
深くかかわる商品であり、サザエさんの一家団欒というイメージとの親和性は高いと考え
られ、東芝の商品のブランド・ネームと連想が結びつき「一家団欒」や「仲の良い家族」
という肯定的なイメージの連想の移転する可能性は高かったと考えられ、サザエさんは東
芝を支えるブランド要素となったと見ることができる。
既存キャラクターを使う場合、その高い認知や好感、人々が知っている多くの連想は、
企業と結びついた時オリジナル・キャラクターと同じように、企業や商品を支援する。し
かし、企業や商品のブランド・ネームなどと結びつけるには多額のコストが発生し結びつ
くまでの時間も発生する。また、不祥事が起こった際にはキャラクターは、ライセンス供
与を取りやめさせられてしまうというデメリットもある。しかしながら、ブランド・ネー
ムのネガティブな印象であれば、緩和する役目は発揮される。
上記に上げたような東芝やメトロポリタン生命保険におけるオリジナル・キャラクター
は商品のブランドとしての要素が強かった。つまり、キャラクターが商品のブランド認知
を促し、ブランド連想を移転したことで商品に対しブランド要素となり支援したのである。
一方、パッケージやおまけにキャラクターを付与した商品などは、キャラクター自体のブ
ランド力によって購入される傾向がある。つまり、商品のブランドとしてではなく、キャ
ラクターから得られる直接的対価に顧客が価値を求め商品を買う傾向がみられる。このよ
うな商品は、ブランド育成による長期的な戦略ではなく、キャラクターは短期的なセール
ス・プロモーションに終わる傾向がある。また、キャラクターの人気がなくなると商品が
売れなくなるのも特徴である。こうしたキャラクター商品の例として、ツムラのバスクリ
ンにディズニーのキャラクターをデザインしたものや、永谷園によるスーパーマリオふり
かけ、明治製菓のゴジラグミ、ニッスイのクレヨンしんちゃんソーセージなど(電通キャラ
クタービジネス研究会,1994,pp.135-43)があげられ、今日でも身の回りに多くのこうした商
品があるはずである。では、こうした商品の一例として永谷園のケースについて考察して
みる。
17
80年前後に永谷園はふりかけ市場で圧倒的な地位にあった丸美屋とテレビ CM によっ
て肩を並べるようになったが、しかし、その後シェアは下降していく。そうした中で、シ
ェア回復の戦略としてキャラクター商品の投入を決定する。キャラクターとして当時全盛
期のキャラクターであった任天堂の「マリオ」を使った「スーパーマリオふりかけ」を市
場に投入する。その結果、「スーパーマリオふりかけ」は永谷園のふりかけの50%を一品
で占めるようになった。しかも、これまでの永谷園の他のふりかけの売り上げが自体は減
らなかった。このためシェアも回復した。キャラクター商品は短命の場合もあるが、人気
のピーク時には想像を絶する売り上げをみせる。(電通キャラクタービジネス研究
会.1994,pp136-7)
キャラクター商品は人気によって売り上げが左右するという点からみて、キャラクター
持つ直接的な価値が主として働き、商品のブランド要素としての価値は小さいと考えられ
る。しかし、永谷園の「スーパーマリオふりかけ」が他の商品と食い合いをもたらしにくい
という点から、今まで永谷園の商品やふりかけのユーザーではないキャラクター商品を求
める消費者が購買を行うことになる。「そうした商品(キャラクター商品)を通じて、永谷園
自体に親しみを感じてもらえれば、大人になっても永谷園の味への親しみを持ってもらえ
る の で は な い か と 期 待 し て い る 」 ( 括 弧 内 筆 者 )( 電 通 キ ャ ラ ク タ ー ビ ジ ネ ス 研 究
会.1994,p138)というように、キャラクター自体のブランド力が、これまで商品に関心のな
い買い手と商品を結びつけ、これまでのターゲット以外の人々に対して、商品を購入させ
るだけでなく、商品の使用経験という形で連想を生む可能性も期待できる。
しかし、キャラクター自体のブランド価値で商品が購入に結び付く場合とキャラクター
が商品と結び付いたときのブランド価値で商品が購入に結び付く場合は明確に分けること
ができないと考えられる。なぜなら、サザエさんが東芝のブランド要素として機能するか
らでなく、サザエさんが好きだからというキャラクター自体のブランド価値が東芝の電化
製品を買うような意思決定をすることや、マリオがブランド要素として働き、商品のブラ
ンドを高められることによって購買に結び付くこともありうるからである。このように、
キャラクター自体のブランド価値と商品のブランド価値のどちらか購買に影響するかを明
確に分けることはできない。だが、既存キャラクター自体のブランド価値が強くなるよう
なときは、商品は短期的にしか売れないケースが目立ち、商品のブランド要素として既存
キャラクターを取り込んだ場合のほうが企業にもたらす価値は大きいはずである。
5.
仮説の検討
仮説.1 の検討
既存キャラクターの場合、すでに多くの人に認知されており、多くの連想を持っている。
企業はキャラクターの認知や連想の強化のマネジメントは不要である。ライセンスを所有
する企業が認知や連想のマネジメントを行うので既存キャラクターのマネジメントは規制
されると見ることもできる。既存キャラクター自体の価値が買い手の意思決定である場合、
18
短期的な利益しか生まない傾向があるので、既存キャラクターにとって重要なのは、いか
にブランド・ネームや商品にキャラクターを結びつけるかということである。サザエさん
にしてもチャーリー・ブラウンにしてもキャラクターと企業、商品が結びつくことで好感
や想起機能の強化をもたらし連想を移転しブランド価値を与えている。東芝はサザエさん
のアニメの中で多くのキャラクターと企業、製品を結びつける工夫をしていた。さらに生
活家電とサザエさんの世界観は調和しやすいものであった。よって、青木、恩蔵(2004)でも
マネジメントのポイントとされているが、キャラクターを他のブランド要素、製品、サー
ビスと結びつけること、効率よく連想を移転することが重要である。
オリジナル・キャラクターの場合、キャラクターを自ら作りマネジメントできる。その
ため、いかに認知を高め、どのような連想を作り出すかということが重要である。逆に商
品とは元々結びついており連想を移転するよりも育成していく必要がある。つまり、企業
や商品のイメージをいかにキャラクターとして体現し、キャラクター自身に豊かな連想や
好感を増大させるかがカギになる。不二家がペコちゃんは商品と元々深く結び付いており、
不二家はペコちゃんを認知させ、好感や連想を創造することに労力を割いている。つまり、
商品とキャラクターとの結びつきより、オリジナル・キャラクターはキャラクター自身の
認知、連想の強化に重点が置かれる。
仮説.2 の検討
キャラクター商品の場合、例にあげたような、ふりかけや魚肉ソーセージ、グミなど
の購買の意思決定は付与されたキャラクターそのもの価値である人もいる。これは、キャ
ラクターの人気と商品の売り上げが連動していることや、シェアからこれまでの商品とカ
ニバライゼーションを起こしにくいケースなどからそのように言える。さらに、こうした
セールス・プロモーションは短期的でブランドの育成という長期的な視点が欠けている点
などからもキャラクターがブランド価値を連想の移転などによって企業や商品に直接もた
らしているとは言い難い。しかし、ここから普段はある製品を購入、使用等をしない人々
に対してキャラクターを付与することによって製品を購入させることができるということ
もいえる。
Aaker が言うように製品の使用経験からも連想は生まれる。ここから、キャラクターが
製品と人々を結びつける役割を果たし、製品からの経験を人々に与える機会をつくる。つ
まり、キャラクターは通常、製品を購入しない人々に製品の使用経験と想起機能の創造を
与える側面を持つ。永谷園もキャラクター商品を出すことで、キャラクターをブランド要
素として利用することでなく、永谷園の製品への経験から愛着を持ってもらうことを期待
している。しかし、連想はブランド要素に結びつかなければ、それが商品から、想起され
ることはない。そのため、ブランド・ネームなどがキャラクター商品に分かるような形で
表示されていなければならず、パッケージなどのブランド要素を消費者が見過ごした場合
は、使用経験による連想は失われるはずである。つまり、使用経験による連想をキャラク
19
ター以外で商品と結びつけるブランド要素が必要不可欠である。
また、オリジナル・キャラクターをキャラクターグッズとしてライセンス供与した場合、
キャラクター商品を所持する人々には、所持から得られる様々な経験が連想としてキャラ
クターに蓄積され好感を強める。そして、その連想は他のブランド要素に移転される。つ
まり、企業の関与しないところで、キャラクターが連想や好感を作り出し、キャラクター
のブランド価値を上昇させ、不二家とペコちゃんのようにキャラクターの権利を持つ企業
に対してブランドとしての高い働きをもたらす。このことは、オリジナル・キャラクター
を企業が持つ上で大きなメリットである。
仮説.3 の検討
キャラクターは、独自に強い好感をもたらすが、オリジナル・キャラクターでは、不二
家の「ペコちゃん」やシェブロンの恐竜、既存キャラクターであってもメトロポリタン生
命保険の「チャーリー・ブラウン」などからもたらされる連想や好感が、不祥事やブラン
ドから連想されるネガティブなイメージに対して抵抗していることが分かる。しかしなが
ら、サザエさんが東芝の不祥事の際に CM を取りやめ、スポンサーとしての提供を出さな
かったように、既存キャラクターは肖像権や商標権を持つ企業を守るためなどの理由でネ
ガティブな要素との抵抗をなさないこともある。
さらに不二家のケースから見られるように、不二家に対する信頼は失墜しブランド・イ
メージや好感は低下した。しかし、ペコちゃんだけは好感を維持した。さらに、不二家に
対して同情的な報道を生みだし、ペコちゃん焼きに見られるようにブランドとして働きを
失わなかった。ライセンス供与によって商品とは無関係に生まれたポジティブな連想がこ
のようなケースを生みだした一面も見られる。これらのケースから、キャラクターという
ブランド要素はネガティブなイメージを緩和し、キャラクター自身の好感が、企業が批判
される状況においても好感を維持していることが見て取れる。
6.
結論
企業のキャラクターの活用方法のケースから、仮説を裏付けることができる。しかし、
考察したのは一部のキャラクターであり、仮説を証明するには、さらに多くのキャラクタ
ーを使った例を分析、考察する必要がある。さらに、仮説.2 はブランドの価値が経験を通
して創造されるプロセスに当てはめただけであり、実際に既存キャラクターを使った商品
が使用経験によって企業や商品に連想として蓄積されるかには疑問が残る。数値を使った
分析や多くのケースからの考察が必要である。だが、本稿からキャラクターが豊かな連想
や強い好感を持つという特性を持ったブランド要素であり、こういった特徴は多くの企業
で活用されており、戦略的に使用する重要性は確認できる。キャラクターは一朝一夕でブ
ランド価値が生まれるわけではない。多くのキャラクターが生まれる中で、高いブランド
価値を持つものはほんの一部であるが、そうしたキャラクター活用に成功した企業には貴
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重な資産になるはずである。
7.
参考文献
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(陶山慶介・中田善
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石井淳蔵・栗木契・嶋口充輝・余田拓郎(2004)『ゼミナール
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済新聞出版社。
青木幸弘・恩蔵直人(2004)『製品・ブランド戦略
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相原博之(2007)『キャラ化するニッポン』講談社現代新書。
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親しみと共感のマーケテ
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栗木契(2004)「ブランド力とは何か
~ブランド・マネジメントのデザインのために~」
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坪井明彦(2006)「地域ブランド構築の動向と課題」
『地域政策研究』第 8 巻、第 3 号,pp.189-199。
青木幸弘(1999)「ブランド構築におけるキャラクターの役割(上)」
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井田瑞江・松信ひろみ・長井暁子・内田哲郎・大山治彦(2009)「家族の結びつきと「食」~
家庭における「食行動」が家族に果たす役割と課題~」
『アサヒビール学術振興財団 2007
年度
研究助成報告』、pp.65-74。
『日経デザイン』2007 年 9 月号、p.39。
『日経デザイン』2007 年 11 月号、P.158。
『日経ビジネス』1997 年 3 月 24 日号、p.132。
不二家
ホームページ http://www.fujiya-peko.co.jp/index.html。
asahi.com http://www.asahi.com/special/070115/TKY200703050222.html
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