泌尿器科の旅行医学

21世紀の
知っておきたい旅行医学
(航空機時代へ向けての対応)
泌尿器科の旅行医学
よる心因性頻尿、尿意切迫症候群、
ます。また、肥満や便秘症の人に運動
全体の重さが膀胱と骨盤底筋に掛かり
末梢神経障害では糖尿病による残尿
不足が原因で起こりやすくなります。
ます。ですから肥満の解消は失禁予防
増加、子宮筋腫の手術など骨盤内の
寝ている時は腹圧が掛からないので、
の第一歩です。
隠れた旅行障害−尿失禁!
手術後に起きることがある低コンプラ
失禁は起きません。
遠山 裕一(とおやま医院院長)
“失禁すると恥ずかしいから旅行に行けない!”という女性が大勢います。
人口の 7 ∼ 8% 、あるいは少なくとも1千万人の人が失禁の問題をかかえ、
友人や家族にも相談できず、病院を受診し専門医による適切な診断、指導、
注意を受けられる人はきわめて少ないのが現状です。
で体脂肪を計測しています。BMIとい
イランス膀胱、また先天性の二分脊
髄、中枢神経障害では、(核上型)脊
2.切迫性尿失禁
「体重Kg÷身長m÷身長m」が25以下
できずに漏らしてしまうタイプです。
になるよう努力して下さい。たんに
機能的畜尿障害には、咳やくしゃみ
水分を摂るとすぐに尿意を感じ、夜間
「身長cm −100(kg)
」を目標としても
で尿漏れのある腹圧性尿失禁や不安定
でもたびたびトイレに行かなくてはな
よいです。肥満の場合内臓についた
膀胱などがあげられ、噐質的疾患とし
りません。高血圧、動脈硬化の人に多
脂肪は骨盤底筋群に負担を掛け、腹
て、膀胱炎、膀胱結石、膀胱腫瘍、
く、水道の水の流れる音を聞くと尿意
圧性尿失禁の原因となり、膀胱を圧
尿管と膣の間に瘻孔形成、膀胱憩室、
を感じます。また、頻尿を合併してい
迫し、切迫性尿失禁の原因にもなり
異所性尿管瘤や異所性尿管開口があ
る割合が多いタイプです。急性膀胱炎
ます。
げられます。
なども膀胱が過敏になり、この切迫性
ソン病などあげられます。
尿失禁の原因となります。
動ですが、社会のなかでは暗いこと、隠すべきこと、負の部分、不浄なことと
女性によくみられる
尿失禁
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2002年10月号
3.混合型尿失禁
腹圧性尿失禁を切迫性尿失禁が両
どを使用しないように心がけます。
便秘も膀胱や骨盤底筋群を圧迫し、
尿失禁の原因をなりますので、朝、水
50 %、切迫性が約15 ∼20 %混合型が
分を摂り、トイレに行く習慣をつけて
せきやくしゃみ、笑った時などお腹
約25∼30%でこの 3タイプを合わせる
下さい。食事は繊維質の多い野菜や果
に力が掛かった時、椅子から立ち上が
と女性の尿失禁の約90%を占めるとい
物、海草などをたくさん摂って下さい。
ったり、運動をした時にも尿がもれる
われています。
このほかに、溢流性尿失禁、反射
満、④子宮の手術、⑤加齢など男性
女性に最も多いタイプの失禁で、出
性尿失禁、神経因性膀胱、不安定膀
より多くの尿失禁のリスクファクター
産などにより骨盤底筋群の機能低下が
胱や夜尿症も尿失禁にあげられてい
があり、事実、尿失禁は男性より女性
原因で、お腹に力が入ると、膀胱が圧
ます。
尿失禁とは、本人の意思とは無関係
に多く、成人女性の尿失禁は3 0 歳代
されますが、普通は同時に尿道括約筋
に尿が漏れてしまうことを言います。
から徐々に増加し、40歳代後半から60
がぎゅつと締まって尿道を閉じるよう
そして今回は女性の尿失禁について解
歳代にピークを迎えます。
になります。しかし、これらの筋肉が
女性は、①出産、②更年期、③肥
て、こまめに体を動かし、歩けるとこ
方 あるタイプで、 腹 圧 性 が約 4 0 ∼
タイプです。
説したいと思います。
1 日3 食、規則正しく腹八分目とし
ろはエスカレーターやエレベーターな
1.腹圧性尿失禁
尿失禁とは
い、
排尿したくなると、トイレまで我慢
髄疾患や脳血管障害、そしてパーキン
本来、
“排泄”は“食べること”と対等に位置づけられるべき大切な生理活
され、誤解され無理解の状態にあります。
肥満については、市や区の健康診断
尿失禁を起こしうる病態を考えると
弱まってくると、膀胱の圧力が尿道の
女性機能障害には、不安、ストレスに
圧力より高くなり、尿が漏れてしまい
排尿記録と
トレーニング
御家庭でできる尿失禁の対処法は、
まず排尿の記録を付けることです。
肥満対策と便秘対策を
1 日24 時間、水分をどのくらい摂取
したか、排尿の量はどのくらいか、漏
立位や座位では、脂肪を含めた内蔵
れはあったかを表にします。
Mebio Vol.19 No.10
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体操1
仰向けに寝て膝を立てた姿勢で
①仰向けに寝て、膝をこぶし1つくらい開いて立て、手をおなかの上にのせます。
②肛門を締めた後に腟、尿道を締め、息を吸いながら、肛門、腟を胃のほうに吸い
上げるように力を入れます。3∼5数えてから、ゆっくりと力をぬきます。
例 ○月△日
時間
水分摂取量
排尿量
漏れ
とで、
“トイレに行ってはいけない”と
③これを5回くりかえします。
思わないことです。多くの方々より
④次に、肛門、腟、尿道を早いテンポで締め上げ、すぐにゆるめます。5回くらいか
7:00
水 200mL
100mL
−
みそ汁 200mL
8:00
10:00
pm
1:00
3:00
6:00
7:00
10:00
am
計
お茶 150mL
ジュース 200mL
300mL
−
50mL
−
100mL
+
らはじめ、慣れてきたら20回まで増やします。
行いやすくなります。
いう気持ちをもって、トイレに行きた
くなったら通勤電車、バスの中では次
+
にトイレに行けるよう通路側の座席を
みそ汁 200mL
200mL
−
リクエストしましょう。長距離バスで
水 200mL
200mL
−
は、運転手さんに恥ずかしいと思わず、
100mL
+
1450mL
をぬいて、元へ戻してゆるめます。
④顔をやや上方に向けると運動が
は、窓側の座席より他人に気を使わず
1,620mL
いながら胃のほうへ吸い上
げます。3∼5数えてから力
③5回くりかえします。
お茶 150mL
2:00
を向いて両手をテーブルにつき
ます。
して“いつでもトイレへ行けば良い”と
の停車駅で降りることです。飛行機で
400mL
①足を肩幅に開いて立ち、やや上
を聞きますが、水分はしっかりと摂取
スープ 70mL
水 200mL
立ってテーブルに
両手をついた姿勢で
②肛門、腟、尿道を締めて、息を吸
“外出中は水分を摂らない”というお話
am
体操4
体操2
仰向けに寝て足をのばした姿勢で
①仰向けに寝て、足をのばし、手をおなかの上にのせます。
②体操1と同じ動作〔②∼④〕をくりかえします。
つま先を開いて立ち
テーブルに片手をついた姿勢で
①かかとをつけて、つま先をやや
開いて立ち、片手をテーブルに
つきます。
“トイレに行きたくなった”と声をかけ
②体操4と同じ動作〔②〕を5回くり
るなど、膀胱の訓練と同時に気持ちの
方も訓練もするとよいでしょう。
体操5
かえします。
体操3
仰向けに寝て腰を高く持ち上げた姿勢で
③できる人は締める動作に合わせて、
つま先立ちをすると、締めやすく
①仰向けに寝て、膝を少し開いて立て、手のひらを下にします。
なります。
②下腹に力を入れ、腰をできるだけ高く持
次に膀胱訓練、つまり1 日のリズム
骨盤底筋を鍛える!
や出かける時間などにあわせて少しず
④5回くりかえします。
つ排尿を我慢していきます。始めは家
骨盤底筋群を鍛えるための体操をし
の中で、水分摂取量は女性で約
ましょう。例を紹介します。このなか
1,500mLを目標として下さい。トイレ
で自分のできる体操を選び自由な時間
の間隔は、始めは2 時間ぐらい我慢し
に居間でも台所でも可能な場所で10分
てみましょう。少し我慢してから排尿
を目安に毎日行いましょう。2∼3カ月
することを心がけ、3 ∼4 時間に1 回ト
で効果が表われます。
イレへ行くことを目標として下さい。
家の中で自信がついてきたならば、
また骨盤底筋は、スポーツによって
も強化されるので、定期的にスポーツ
勇気をもって外出してみて下さい。始
をすることは尿失禁の予防に役立ち
めはナプキンや生理用ショーツを使用
ます。
してみても結構ですので、外出先でも
ち上げ、同時に肛門、腟、尿道を締めます。
③肩、背中の順におろし、力をぬきます。
体操6
仰向けに寝て膝を立て上体を起こした姿勢で
1∼6の順序に
こだわらず、
できる体操から!
!
の筋肉強化に役立ち、骨盤底の筋肉
外出時間を伸ばしていきます。この時
を自然に鍛えられます。特に背泳では
に注意することは、リラックスするこ
体が伸びて骨盤底が引き上げられ、腕
てます。
②肛門、腟、尿道を締めて
から、上体を起こし、3
つ数えます。力をぬき
ながら元へ戻します。
とりわけ全身運動である水泳は全身
少しずつ我慢するように訓練してゆき、
①仰向けに寝て、膝を立
③5回くりかえします。
(監修・福井準之助:自分でできる骨盤底筋をきたえるための10分間体操. より改変引用)
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基本の動作
1
その結果をもとに一人一人に適した
息を吸う動作に合わせて、肛門、腟、尿道を胃のほうへ吸い上げる。
解決方法、必要な服薬を含めた指導
肛門を締める
(排便や放屁を我慢するように)。
をしてくれます。
3
息を吸いながら肛門、腟を胃のほうへ
吸い上げるような感じで持ち上げる。
おわりに
膀胱
近年、泌尿器科においても医療の目
尿道
2
腟
的は生死にかかわる疾病の治療に加
肛門
腟、尿道を締める
(トイレで尿を途中で止めるように)。
4
そのまま3つ数えたら、息をはきながら
全身の力をぬいてもとへ戻す。
え、患者の日常生活のQOL を向上維
持することも重視されるようになりま
した。畜尿から排泄の機構について
は、いまだ研究中であり、臨床におい
ては数種類の薬剤があるものの、多く
の薬品は開発中です。
また病院に来られる方は少なく、特
(監修・福井準之助:自分でできる骨盤底筋をきたえるための10分間体操. より引用)
に女性においてはほとんど来院されて
いません。女性の場合は、他の疾患に
を回すたびに肛門周囲の筋肉が締まり
す。病院へ行かれる前に相談するのも
て来院され、紹介で泌尿器科を受診さ
骨盤底筋群強化に理想的な運動です。
よいことです。
れる方が多く、このほとんどの方が旅
また病院では、毎日1 0 数人から数
行や遠くへ出かける時は水分摂取を控
十人の尿失禁の患者さんに対して医師
え、またナプキンや生理用ショーツを
や看護婦が相談を受けています。泌尿
使用しています。しかし、このような
器科のスタッフは、ごくあたりまえに
安易な対応に走ることではなく、“排
排尿に関する悩みを聞き入れてくれま
泄”にまつわる偏見を無くし、普通の
個人個人いろいろと排尿に関するさ
す。そして必要に応じ原因の究明のた
病気として立ち向かうことが必要です。
まざまな問題を抱えていると思います。
めのウロダイナミクス検査(尿が膀胱
尿失禁は、糖尿病や高血圧症など
ボランテイア団体で「日本コンチネン
から対外へ排出されるまでを総合的に
と対等の病気であり、本来恥じる理由
ス協会」がすべての人が気持ちよい排
チェックする検査)をはじめ、超音波
はどこにもありません。そう考え、ほ
尿ができる社会づくりを目指し、普及
検査(排尿後どのくらい膀胱に残尿が
んの少しの勇気をもって行動すること
活動、相談活動(電話、手紙などによ
あるかチェックする検査)
、X線検査で
が、週末の日帰り旅行、数泊の国内旅
る)、教育活動、研究活動、開発活
腎臓から膀胱までの尿の流れをみた
行、そして長期の海外旅行を再び楽し
動、情報サービス活動を行っておりま
り、膀胱の角度を測定したりします。
めることにつながります。
アドバイスと
専門治療
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