粘着トラップを利用したネギアザミウマ発生予察の再検討

粘着トラップを利用したネギアザミウマ発生予察の再検討
松﨑正典・中野昭雄(徳島県農林水産総合技術支援センター)
はじめに
ネギアザミウマの粘着板に対する誘引性は,黄色と青色で多い。特に,青色では誘引数が極端に少
ない資材がなく,淡青色でも誘引数が多い(松本・藤本,2002)
。IYSV の媒介虫であるネギアザミウマ
の発生状況調査には,青色の粘着板が用いられている(藤永ら、2007)が,ウイルス病蔓延を防止する
ためには,これまでより低い密度で媒介虫の発生を把握するための,より誘殺効率の高い粘着板が必
要である。
しかしながら,一般的に粘着板を野外に設置した場合,種々雑多な昆虫類等が大量に誘殺される。
特にウイルス病対策のための発生予察を考えた場合,粘着板にハエ類等様々な昆虫も誘殺されるため,
媒介虫のウイルス保毒状況を調査する際,対象となるアザミウマ類の回収効率が低下するとともに,
これらの中からネギアザミウマを識別し,計数するには時間と労力を無駄に費やす。
そこで,より誘殺効率の高い色彩等を調査し,選定した粘着板と防虫ネットを組み合わせることで,
ハエ等の目的外昆虫を誘殺することなく,ネギアザミウマを効率的に誘殺する手法を開発したので,
紹介する。
誘殺効率の高い市販の粘着板の検索
市販された粘着板を用いて誘殺効率を調査し,誘殺効率の高い粘着板を検索した。
供試資材として,青色粘着板(商品名:ホリバー,バグスキャン,ITシート,ピタッ
トトルシー)の4種類,黄色粘着板(商品名:ホリバー,バグスキャン,ITシート,ス
マイルキャッチ,ピタットトルシー,虫バンバン)の6種類,計 10 種類で検討した。な
お,バグスキャン以外は縦 120mm ×横 100mm に分割して使用した。設置方法については,
ネギ施設内に各粘着板を地上約 50 ㎝の位置に設置し,約7日間隔でネギアザミウマの成
虫誘殺数を調査した。
その結果,ネギアザミウマに対する粘着板に対する誘引性は,市販されている黄色,青
色粘着板で比較すると,青色粘着板の誘殺効率が高かった。また,青色粘着板の中でも,
バグスキャン,ホリバー,ピタットトルシーの順で誘殺数が多かった(図1)。
以上のことから,ネギアザミウマには青色粘着板を設置する方法が最も良いと考えられ
た。また,野外における耐久性等を考慮した場合,プラスチック材質のバグスキャン,ホ
リバーが適当と考えられた。
ネギアザミウマ分別捕獲トラップの検討
粘着板にはハエ等の様々な昆虫も誘殺されるために,これらの中からネギアザミウマを
識別し,計数するには時間と労力を無駄に費やす。
そこで,防虫ネットと粘着板を組み合わせることで,ハエ等を誘殺せずにネギアザミウ
マを効率的に誘殺する手法を検討した。
ネギアザミウマ分別捕獲用トラップの作成方法として,上部が空いた透明プラスチック
ケース(縦 190mm ×横 100mm ×高さ 17mm)の底に青色粘着板(商品名:バグスキャン
(青),124mm × 100mm)を貼り,上部に目合いの異なる8種類の防虫ネット(最小 0.3
~最大4 mm)を被せ,ビニルテープ等で固定した。トラップの設置場所と方法は、上記
トラップを吉野川市山川町若宮の白ネギ圃場に高さ約 45cm より粘着面が地面と垂直にな
るように吊り下げた。その結果,ネギアザミウマの誘殺数は4 mm 目合いの防虫ネットを
被覆した場合が最も多くなった。
次に,上部が空いた透明プラスチックケース(縦 190mm ×横 100mm ×高さ 18mm(深
型))と CD/DVD プラケース(縦 125mm ×横 120mm ×高さ 2mm(浅型))の底に青色粘
着板(商品名:バグスキャン(青),124mm × 100mm)を貼り,上部に目合いの異なる3
種類の防虫ネット(最小 0.1 ~最大4 mm)を被せ,ビニルテープ等で固定した。なお,
トラ ップの 設置 場所 と方法 は, 上記 の試験 と同 様と した。 その 結果, CD/DVD プラケース
(縦 125mm ×横 120mm ×深さ 2mm(浅型)
)に青色粘着板(商品名:バグスキャン)を貼り付け、
4 mm 目合いの防虫ネットを被覆すると,他の目合いの防虫ネットやプラスチックケースの組み合わ
せより誘殺数が多くなった(図2)
。
上記の2つの試験ではネギアザミウマ以外の昆虫(主にハエ類)の誘殺がなかったため,
分別捕獲の効果を検討した。
青色粘着板(商品名:バグスキャン)に 4mm 目合いの防虫ネットと CD/DVD プラケースを組み合
わせたトラップ(図3)と防虫ネットを被覆していないトラップを佐那河内村のネギ栽培ハウスに高
さ 90 ㎝より粘着面が地面と垂直になるように吊り下げた。その結果,青色粘着板に4 mm 目
合いの防虫ネットと CD/DVD プラケースを組み合わせたトラップ(図3)は,ハエ類(4㎜以上の大
型)の誘殺数が防虫ネット被覆なしと比べ7割程度少なくなる(図4)
。
おわりに
発生予察は,総合的病害虫管理体制を構築する上で根幹をなすものであり,IYSV を含
めた虫媒伝染性ウイルス病対策においては,媒介虫の発生消長およびウイルス保毒状況を
モニタリングすることが重要である。
今回,開発した分別トラップは,青色粘着板(商品名:バグスキャン)を CD/DVD プラケースに貼
り付け,4 mm 目合いの防虫ネットを被覆するとハエ等の目的外昆虫を誘殺することなく,IYSV 媒介
虫であるネギアザミウマを効率的に誘殺することができる。また,IYSV 保毒虫の多頭検定(マス検
定)用として有効性が確認され,モニタリング性能が高い新たな発生予察法の一つと考えられる。
本トラップは,検定法を効率的に実施するため,圃場周辺に地表面から50~100㎝の間に3枚を,3
~6カ所程度設置する。また,防虫ネットを被覆しないトラップに比べ,ネギアザミウマの誘殺数が
半分程度となるため,発生の少ない時期や圃場では設置数を増やす必要がある。トラップの回収につ
いては,1 週間に 1 回程度行う。ただし,誘殺数が多い時期は,回収間隔(3~5日程度)を短くする。
具体的データ
a
ホリバー・青
a
バグスキャン・青
横
※異なるアルファベット間には、分散分析の後、クラスカル・ウオリス+多重比較に
よる解析で有意差あり。エラーバーは標準誤差。
POフィルムを展張した108㎡のパイプハウス2棟供試。また、各粘着板は縦124㎜×
ac
ピタットトルシー・青
ac
ITシート・青
bc
スマイルキャッチ
100㎜のサイズに分割して使用した。
設置方法:ネギ栽培ハウス内に各粘着板を地上約50㎝、1.5mの間隔で設置し、トラ
ップは垂直に立て、粘着面が南向きになるように設置した。なお、粘着面の裏側はO
bc
ピタットトルシー・黄
c
ホリバー・黄
bc
バグスキャン・黄
ITシート・黄
HP
b
フィルムで覆った。また、トラップの更新ごとに、設置位置をローテーションした。
調査方法:約7日間隔でトラップを更新し、ネギアザミウマの個体数を数えた。
設置期間:2010年7月23日~10月1日
bc
虫バンバン
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1枚、7日あたりの平均捕獲数(頭)
目 合 い (m m )・ 糸 の 種 類
フ ゚ラ ス チ ッ ク ケ ー ス C D / D V D フ ゚ラ ケ ー ス
図1 市販粘着トラップ別のネギアザミウマ誘殺数
無処理
※図中の数値は、対無処理比を示す。エラーバーは標準誤差
100
4.0 太糸
POフィルムを展張した108㎡のパイプハウス2棟供試。
設置方法:高さ約90㎝より粘着面が地面と垂直になるように吊り下げた。
50.6
2.0 太糸
17.8
0.98 太糸
5.3
設置期間:2011年9月25日~10月2日
無処理
100
4.0 太糸
20.6
2.0 太糸
7.9
0.98 太糸
1.3
0
100
200
300
400
500
600
700
1枚あたり総誘殺数(頭)
図2 各ケース別防虫ネット被覆トラップにおけるネギアザミウマ誘殺数
防
防
虫
虫
ネ
ネ
ッ
ッ
ト被
ト被
覆
覆
な
あ
し
り
0
10
20
30
40
50
60
70
7日ごとの平均捕獲数(頭)
図3 防虫ネット(4㎜目合い)を被覆したトラップ
図4 防虫ネット被覆によるハエ類の誘殺数
※ハエ類は4㎜以上を対象とした。エラーバーは標準誤差。
※分別トラップの作成方法
防虫ネットはダイオ化成(株)製のサンシャインマルハナネットP-6060を使用
青色粘着板を、CD/DVDプラケース(フタ側(透明)
)の中心部に貼り付ける。
県内ネギ栽培ハウスに地上約50㎝、5mの間隔で設置し、トラップは垂直に立
それを4㎜目合いの防虫ネット(ダイオ化成(株)製のサンシャインマルハナネ
て、粘着面が南向きになるように設置した。また、トラップの更新ごとに設
ットP-6060)で覆うように被せ、裏面をビニールテープ等で固定する。
置位置をローテーションした。
調査方法:約7日間隔でトラップを更新し、個体数を数えた。
設置期間:2013年5月20日~6月25日
引用文献
松本英治・藤本 伸(2002) 青色ポリエチレン袋にシンナムアルデヒドを添加した粘着トラッ
プによるネギアザミウマの捕獲.四国植防(37)
:29-35
藤永真史・古畠修一・米山千温・宮本賢二・宮坂昌実・小木曽秀紀(2007) タマネギ栽培地周
辺におけるネギアザミウマの誘殺消長と IYSV 保毒虫率の推移および防虫ネット利用による施
設内への侵入防止効果.関東病虫研報(54)
:89-92
80
MEMO