WEEE RoHS 指令動向 Ver1.4

欧州 W EEE/ RoHS 指令の背景と最新動向
青木正光*
欧州から始まった環境調和の重要性は、今や世界を巻き込んで進展している。欧州の
WEEE/RoHS 指令に至った背景にある欧州の環境思想や臭素系難燃剤の問題提起等を紹介
するとともに指令の最新情報について解説する。
また、日本で進展している環境対応技術に関して設計思想の変遷を含めて最近の各企業の対応
について紹介する。
21 世紀は「環境」がキーワードとなって、環境調和の重要性が指摘されている。
欧州の電気・電子機器の廃棄物指令(WEEE=EU Directive on Waste from Electrical and
Electronic Equipment:ウィー)と電気・電子機器に含まれる特定有害物質使用制限指令
(RoHS=Restriction of Hazardous Substances:ロース)は、エレクトロニクス業界に大きなイ
ンパクトを与えつつサプライヤーを巻き込んでの対応を余儀なくされている。
欧州から環境対応の重要性のアドバルーンがあがったその背景を明らかにするとともに
WEEE/RoHS 指令の公布にともなって各国に波及し、その環境対策状況について解説する。
1. 環境への配慮
「欧州ではなぜ環境に対する配慮が重視されるのでしょうか?」との疑問を投げかける実装技術
者がいる。筆者は、欧州に住んだ経験があり、在欧中に環境関係のコンソーシアムや環境技術ロ
ードマップの策定委員会にも客員の形で参加した経験があるので事例をふまえて紹介することに
する。
特に北欧は、南欧と比較すると環境に対する配慮は熱心である。欧州からアドバルーンのあが
った環境調和への取り組みの重要性について、どんな背景があるかを先ず解きほぐしていくこと
にする。
1.1 環境汚染事故
環境への配慮には、環境汚染事故が大きく影響しており、代表的な欧州と北米の環境汚染事
故についてふれる。
1.1.1 .欧州の環境汚染事故
1976 年 7 月、イタリア・セベソで、殺菌剤などを製造する化学工場の爆発事故が発生し、史上
最悪と言われるダイオキシン汚染事故が起こった。
1996 年に採択された欧州連合 (EU)の指令に「EU 大規模事故災害防止指令」があり、セベソ
にある化学工場で発生したダイオキシン汚染事故をきっかけに制定されたことから、本指令は「セ
ベソ指令」とも呼ばれている。
スイスでは 1986 年 11 月にバーゼル郊外の化学工場から流出した水銀などの有害物質により、
ライン河が約 200km にわたって汚染された事故がある。被害規模が大きかったことに加え、環境
対策には熱心と考えられていたスイスで発生したことから沿岸国だけでなく、欧米諸国に大きな衝
撃を与え、国境を越えた大規模な環境汚染の事例となった。この事故をきっかけに、化学工場な
ど有害物質を扱う工場の事故についての国際的な協力の必要性が強く認識され、工場の事故に
1
関 す る 経 済 協 力 開 発 機 構 (OECD=Organization for Economic Cooperation and
Development)の勧告・決定を制定する契機にもなった。
1.1.2 アメリカの環境汚染事故
1973 年、シリコンバレーの半導体工場の地下トリクロロエチレンタンクからの漏洩による土壌・
地下水汚染が発見され、ハイテク汚染といわれたもので、同年に、アスベストが発がん性物質とし
て認知されるに伴い、アメリカのアスベスト製造最大手が製造責任を遡及的に追及され、6.5 億ド
ルの賠償金の支払い命令となったアスベスト事件が発生した。
1978 年、アメリカニューヨーク州ラブキャナルで、農薬工場の廃棄物に含まれている発ガン性
物質による汚染が発覚し、学校・住宅地に被害がおよび 400 世帯が移転した事故で、土壌汚染
の浄化責任を問われた代表的な事例で、後の「スーパーファンド法」の策定のきっかけとなった。
また、1989 年、アラスカ州バルティーズ港から出航したエクソン・モービルの大型タンカーのバ
ルティーズ号がプリンス・ウィリアム海峡で座礁し、原油 20 万キロリットルを流出し、北米のアラス
カ湾原油流出で海岸を汚染した事件で、この事件を契機にバルティーズ原則(後にセリーズ原
則)が策定された。
この事故を契機として、1990 年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約
(OPRC 条約)が締結された。
以上は、事故によって対策が取られた例であるが、次に、環境に対する意識についてふれる。
2. 環境意識
先ず、欧州で、山と言えばスイスアルプス。アルプスの山々を見ると壮大な風景を目の当たりに
する。
北欧においては、森林と湖に囲まれ、実に風光明媚な自然環境に恵まれているのを実感し、こ
れが「欧州」といった感じを受ける。
環境先進国であるドイツでは「我々は環境を無傷の状態で子孫に引き渡す義務がある」と言う
ドイツの環境モラルがある。
また、国土が狭くて埋め立てでできたオランダでは、「地球は親から譲り受けたものではなく、子
どもから借りているもの」と言った思い入れがある。
また、オランダ廃家電処理協会では「先祖が築いた土地を冷蔵庫の墓場にするな」とのスロー
ガンもあり、さらにデンマークには、「問題解決を子孫に残さない」というスローガンがある。
このように欧州の各国は、次世代までを想定しての「環境」を守る姿勢が特に強くある。
欧州から指摘された環境への重要性は、特に国土の狭い日本、台湾、韓国、シンガポールな
どは廃棄物処理に限界があり、深刻な問題として考えられるようになった。
国土の広いアメリカは、さし迫った切迫感がなく、欧州と比較すると環境対策に関しては大きな温
度差があるのも事実である。
2.1 欧州の環境の問題提起
ドイツでの環境運動は、今に始まったものではなく、既に 19 世紀にさかのぼるとも言われてい
る。 当時、ドイツ以外の国では蒸気機関車が走っており、工業化に全力をあげていた中、ドイツ
の詩人や思想家は「自然に帰れ!」と声高に主張をしたと言われており、この思想は現在も残っ
ている。
ドイツでは煤煙で覆われたルール地方の工業地帯で、「ルールに青空を!」のスローガンを掲
げた「青空を取り戻せ運動」が 1961 年に起こり、環境運動の走りであったと考えられ、環境運動
の歴史のある欧州に、さらなるインパクトを与えたのは 1986 年のウクライナ・チェルノブイリ原子力
発電所での原発事故である。
2
事故現場から汚染された空気が欧州の様々な国に流出し、原子力の怖さを欧州の人達は身を
もって体験した。
一方、スウェーデンは 1980 年 3 月の国民投票で 2010 年までに 12 基の原発を段階的に廃
止する方針を打ち出した。これが世界最初の「原発廃止宣言」である。
1997 年 2 月、エネルギー政策として原子力発電所を廃止する政策を打ち出し、1999 年 12
月 1 日にバースベック沸騰水型一号機(60 万 Kw/1975 年建設)原発を停止した。
同 2 号機は、2001 年 7 月に運転を停止する予定であったが、代替電源がないため運転を続
けている。
ドイツでは、原発の段階的廃止で政府と電力業界が合意し、2010 年までに電力供給の 10%
を自然エネルギーで賄うことを目指した法律が 2000 年春に制定された。
運転開始後 32 年を経過した原発を順次、廃止する方針を決定し、2020 年には原発を全廃
する予定となっている。
イタリアでは、1987 年 12 月 18 日に「原発凍結法案」を提案し、賛成多数で可決した。
スペインでは、社会労働党政権が誕生し、その後、原発建設計画を大幅縮小する方針となっ
た。
オーストリアでは、1978 年 12 月、「原子力禁止法」が可決され、1986 年、オーストリア政府は
ツベンデンドルフ原発の解体の指示を決定した。
スイスでは、国民投票で、新たな原発建設を 10 年間凍結することが決定している。
デンマークでは、1985 年 3 月に原発の建設を放棄することを決定し、以降、風力発電やバイ
オエネルギーに重点を移していく方針を掲げている。
このように、チェルノブイリ原子力発電所での原発事故は、各国に様々な影響を及ぼしたことに
なる。
この事故は、原子力発電の見直しの気運が高まるきっかけにもなり、国民の環境問題への関心
や環境意識に大きく影響をおよぼしたとも言われ、自然エネルギーの活用へと進展した。
3. 有害物質規制
難燃剤の使用は火災防止の観点から、火災事故による死亡者数の減少に役立っているものの
難燃剤の種類によっては環境に負荷をかけ、かつ、人体に蓄積性があることも判明し、難燃剤が
広く自然界から検出されたことによって問題提起となって規制対象となった経緯がある。
3.1 欧州の難燃剤規制
ドイツの「緑の党」が、家電製品を廃棄時に低温で焼却処分をすると、使用している難燃剤の種
類(特定臭素系難燃剤)によっては猛毒の臭素系ダイオキシンやフランが発生する懸念を指摘し
た。
北欧ではバルト海や北海の海洋汚染問題が指摘されて、PCB、ダイオキシン汚染の実態が明
らかにされるとともに、臭素系難燃剤の種類によっては蓄積性があり、人体の血中や野鳥から臭
素が検出されたことも明らかにされ、臭素系難燃剤の環境への汚染が自然界に広まっているとの
認識がされるようになった。これらの事実により、臭素系難燃剤の見直しを実施する機運が高まっ
た。
1993 年にドイツのブルーエンジェル、北欧のノルディックスワンは複写機に対して、また、オー
ストリアなどが蓄積性のある難燃剤としてポリ臭素化ビフェニル (PBB)の使用禁止を打ち出した。
1993∼1998 年には、ブルーエンジェルはプリンターやファックスに対して、PBB、ポリ臭素化
ジフェニルエーテル (PBDE)、塩化パラフィンの使用禁止の規制を実施した。
1997 年頃に議論された WEEE のドラフト案には、全ての臭素系難燃剤の禁止が盛り込まれて
おり、しかも、2004 年に施行する案であったために臭素系難燃剤が議論の対象となった。
3
その後、WEEE は RoHS と切り離され、有害物質の使用制限は 6 物質 (「鉛」、「水銀」、「カド
ミウム」、「6 価クロム」、「PBB」、「PBDE」)が対象となった。臭素系難燃剤は全ての臭素系難燃剤
から特定臭素系難燃剤(PBB と PBDE)が対象となり、2 種類に変更されて使用を制限することに
なった。
この特定臭素系難燃剤の PBDE には、Octa-BDE、Penta-BDE、Deca-BDE が存在し、
Octa-BDE および Pena-BDE は使用禁止の既に対象となっていた。
Deca-BDE については、EU の 10 年間におよぶリスクアセスメント(588 件)が完了し、いろん
な議論の末、やっと 2005 年 10 月 13 日に RoHS 指令の使用禁止から除外することが決定さ
れた。
ノルウェイは 2003 年に Penta-BDE、Octa-BDE、Deca-BDE、ヘキサブロモシクロドカデン
(HBCD)、テトラブロモビスフェノール A (TBBPA)の監視をするとともに 2010 年までに法規制す
るかどうかを検討する案が示されている。
ノルウェイは EU の加盟国でないために、より厳しい規制を設定しても EU の法にはふれないの
で注意が必要である。
当初、話題になって議論されたものの ABS 樹脂やブロム化エポキシ樹脂などに使用される
TBBPA は、EU 域内全域での禁止対象品目にはなっていないことである。
WEEE/RoHS の技術適合委員会 (TAC)の結論が当初、出ず、結論が遅いためにスウェーデ
ンは、2006 年から Deca-BDE の使用禁止案を提案するとともに、2010 年から水銀の禁止案、
2020 年から鉛の全廃案をそれぞれ公表している。
3.2 アメリカの難燃剤規制
アメリカは火災事故防止の観点から難燃化のために難燃剤が使用され、火災予防に寄与して
いる。難燃剤の中には、臭素系難燃剤があり、特定臭素系難燃剤である PBB や PBDE が産業界
で広く使用されている。
ところが PBB は、1973 年にアメリカ・ミシガン州で家畜飼料に混入された PBB によって大量の
牛、豚、羊、鶏が死亡し、さらに母乳を通じて幼児への蓄積が認められ問題となった。
PBDE には、Penta-ブロモジフェニルエーテル(Penta-BDE)、Octa-ブロモジフェニルエー
テル(Octa-BDE)、Deca-ブロモジフェニルエーテル(Deca-BDE)の 3 種類の難燃剤があり、
母乳を通じて幼児への蓄積性があることが判明し、規制の対象となった。
既に Penta-BDE と Octa-BDE については 2004 年より EU で使用禁止となっている。アメリ
カも人体への蓄積性を鑑みてメーン州とミネソタ州が 2006 年から使用禁止を打ち出している。
Deca-BDE に 関 し て ハ ワ イ 州 が い ち 早 く 2006 年 か ら 、 ミ シ ガ ン 州 は 2007 年 か ら
Penta-BDE、Octa-BDE とともに Deca-BDE の使用禁止を、2008 年からメーン州とミネソタ州
が、それぞれ使用禁止案を提案している。
さらに、メーン州は、2010 年からテトラブロモビスフェノール A (TBBPA)とヘキサブロモシクロ
デカン (HBCD)の使用禁止案が公表されている。
欧州は、次世代への影響を重視するために有害物質の特定臭素系難燃剤の使用を禁止する
だけではなく、難燃剤そのものを全く使用しない製造方法も使用され、燃え易い家電製品が市場
に出ているため、アメリカや日本と比較すると製品安全の観点から問題であるとの指摘もされてい
る。
4. 欧州の環境対策
環境意識の高い欧州では、前述のような環境問題に対して、環境対策が実施されるようになっ
た。例えば、1990 年代、欧州では、OECD が環境に影響をおよぼすと想定される有害物質に関
してリストとして管理する方法がとられた。OECD のリスクリダクションにリストされたのは、「鉛」、「カ
ドミウム」、「水銀」、「塩化メチレン」、「特定臭素系難燃剤」の 5 物質であった。既に早い時期から
4
「鉛」や「カドミウム」等が管理対象となった。
1993 年になるとオーストリアが特定臭素系難燃剤である PBB を、北欧のノルディック・スワンが
複写機への PBB の使用を禁止するとともに、ドイツのブルー・エンジェルも複写機の 50g 以上の
部品には、特定臭素系難燃剤の PBB と PBDE の使用禁止を打ち出した。
その後、1994 年にドイツで成立した「循環経済・廃棄物法」(施行は 1996 年 10 月)は有名と
なり、欧州の各国で環境対策として参考にされるまでになった。
ドイツとフランスに国境を接するオランダは「ホワイト&ブラウングッズ廃棄処理に関する法律」を
作り、1999 年 1 月より施行している。
全家電を対象に、メーカーに回収責任を負わせる家電リサイクルの法制化は初めてで、欧州連
合(EU=European Union)指令案のモデルとされたと言われている。
他の環境に関する事項を含めて、EU の廃棄物の処理に関する特定の指令を列挙すると表 1
のようになる。
年度
1974
1978
1978
1989
1991
1991
1992
1994
1996
1996
1998
2000
2003
表 1 廃棄物の処理に関する特定の指令・条約・宣言
廃棄物関連の指令・条約・宣言等の内容
ロンドン条約(廃棄物の投機による海洋汚染防止)
廃油
二酸化チタンの産業廃棄物
バーゼル条約(有害廃棄物の越境移動禁止)
電池・蓄電器
有害廃棄物
リオ宣言(人類は自然と調和しつつ健全で生産的な生活を送
る権利がある)
包装廃棄物
PCB 及び PCT (ポリ塩化テルフェニール)
農業の下水汚泥
海上廃油及びガス設備
廃自動車 (ELV)
廃電気・電子機器指令 (WEEE/RoHS)
様々な廃棄物に関する EU 指令が検討され、最近では「自動車」に続き、「電気・電子機器」に
対しても廃棄問題が議論され、指令が出されるようになった。
この背景には、欧州では、年間 800∼900 万トンの自動車と、年間 600 万トンの電子機器が
廃棄されており、今後も廃棄物の増加が予測されているため対策が急務となってきたという状況
がある。
しかも、90%以上の電子機器が前処理なしで埋め立てや焼却、または再生されており、有害物
質の汚染はかなりの部分が電子機器からきているとみられている。
4.1 EU 指令
欧州は陸続きの国で、国境を接しており、EU は事実上、国境も関税も撤廃し、通貨もユーロに
統一し、人や製品の流れを自由にしようという運動があり、国によっては入国検査も廃止され、自
由に通行できるようになった。通貨は 2002 年 1 月からユーロに統一され、市場で流通するように
なった。
このような状況の中で、一国だけが厳しい法律を個別に作ってもうまくいかないので、欧州連合
5
として、共通の規制を「欧州指令」として発効し、それを各国の国内法に組み入れて運用する方法
が取られている。
有害物質関連では、前述したようにオーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン、ノルウェ
イの各国が特定臭素系難燃剤の使用禁止を、ブルー・エンジェル、ノルディックスワン、TCO 等が
複写機、ファックス、プリンター、電池・電子部品、モニターへの特定臭素系難燃剤や塩化ビニル
の使用を規制する動きとなるとともに、EU 指令では、包装廃棄物指令(94/62/EC)で「鉛」、「カド
ミウム」、「水銀」、「六価クロム」の 4 物質の総量規制 (100ppm 以下)が、自動車廃棄指令
(2000/53/EEC)では、「鉛」(1、000ppm 以下)、「カドミウム」(100ppm 以下)、「水銀」(1、
000ppm 以下)、「六価クロム」(1、000ppm 以下)が、それぞれ規制されるようなった。
エレクトロニクス業界に環境対策で大きな影響を与えたのは、欧州指令の一つでもある WEEE
指令であり、様々な議論がなされた結果、現在は、WEEE から有害物質を切り離し、RoHS 指令と
して動きだしている。
この RoHS 指令が、現在エレクトロニクス業界で大きな話題となっており、これに対応するため
にモノづくりの変革が強く求められている。
RoHS 指令では、「鉛」、「水銀」、「カドミウム」、「6 価クロム」、「PBB」、「PBDE」の 6 物質が指
定され、EU の官報に 2003 年 2 月 13 日に公布され、2006 年 7 月 1 日より電気・電子機器に
はこの 6 物質の使用が禁止されることになった。
4.2 拡大する EU
日本から欧州に輸出されている電気・電子機
器は金額ベースで約 1.2 兆円にもなると言わ
れている。今回の EU の対象となる国は、アイル
ランド、英国、オーストリア、フィンランド、スウェ
ーデン、デンマーク、オランダ、ドイツ、ベルギ
ー、ルクセンブルグ、フランス、イタリア、ポルト
ガル、スペイン、ギリシャの 15 ヶ国の加盟国に
対して 2004 年 5 月に新たに加盟した国として
エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チ
ェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、キプ
図1 欧州 (■EU メンバー
■EFTA メンバー)
ロス、マルタの 10 ヶ国がある。この 10 ヶ国が加
わり、現在、25 ヶ国で構成されている。
また、スイス、ノルウェイ、アイスランドは、EU 加盟国ではないため、EU の法規制に従わずに独
自の厳しい環境法規制を制定できる。
別の言い方をすれば、例えば、北海の難燃剤による汚染に関して、ノルウェイは自国の漁業を
保護するために、より厳しい難燃剤規制を設けても問題にならないということである。ノルウェイで
は、2010 年までに臭素系難燃剤を規制する動きがある。この規制は、EU 加盟国の隣国のスウェ
ーデンやフィンランドに波及する可能性を秘めている。
4.3 EU の法体系
4.3.1. EU 指令の位置付け
EU は、独自の法体系を持っており、表 2 のようにそれぞれの文章の重みが異なっている。EU
理事会と欧州委員会が制定する法令には、いくつかの類型があり、5 つに分類され、今、話題とな
っている WEEE と RoHS は「指令」に該当する。
EU 指令は発令されても、そのままでは各加盟国内で効力を発揮するわけではない。一定期間
6
内に国内法とすることが義務付けられており、各国が指令に基づき国内法を整備して初めて指令
が実効性を持つようになる。
表 2 欧州の法令の体系
文 書
規則
(Regulation)
指令
(Directive)
決定
(Decision)
勧告
(Recommendation)
意見
(Opinion)
内容及び例
全ての加盟国に直接適用され国内法と同じ拘束力を有する
自動的に EU 法となる。
・エコラベルに関する理事会規則(1992)
・環境管理および環境監査要綱に関する理事会規則(1993)
新しい国内法の制定、現行の国内法の改正、廃止の手続き
の 後 に 拘 束 力 が 発 揮 さ れ る 。 加 盟 国 は 官 報 ( Official
Journal)掲載後3年以内に対応する義務がある。拘束力は
あるが、その目標達成のための手段は各加盟国に任せられて
いる。
・包装および包装廃棄物に関する欧州議会および理事会指
令(1994)
・電気・電子機器の廃棄に関する欧州議会および理事会指令
(2000)
・電気・電子機器の有害物質使用制限に関する欧州議会およ
び理事会指令(2000)
対象範囲を特定(加盟国、企業、個人等)して、具体的な行為
の実施あるいは廃止等を直接的に拘束する。
加盟国、企業、個人等に一定の行為の実施を期待することを
欧州委員会が表明するもので拘束力はない。
特定のテーマについて欧州委員会の意思を表明したもので
拘束力はない。
法制化のプロセスは複雑で、共同決定手続きを踏むには、「欧州委員会」、「欧州議会」、「理
事会」の 3 者が関与しなければならないという意味での「共同」が存在する。
「理事会」は「委員会」と「議会」が合意したことについて基本的に合意し、それを承認する。
欧州共同体設立条約(アムステルダム条約)第 249 条(旧 189 条)には、「理事会と共同して行
動する欧州議会、理事会および委員会は、その使命を達成するため、この条約の規定に従って、
規則を制定し、指令を発し、決定を行い、勧告を行い、または意見を表明する」と規定している。
4.3.2. EC 条約の取り扱いの違い
EC 条約の第 95 条と第 175 条には制定後の扱いが異なる点があり、注意が必要である。
WEEE と RoHS は指令(Directive)であり、新しい国内法の制定もしくは現行の国内法の改
正、廃止の手続き後に拘束力が発揮される。
つまり、EC 条約第 95 条と第 175 条では、制定後の扱いが異なるということになる。
WEEE は第 175 条の適用を受け、環境保全そのものに目的があるので、共同決定手続きにより
議会諮問後理事会の特定多数決で、最小を決め、指令より厳しい国内法を制定することができる。
その場合は最少限要求事項となり、各国の実情にあわせてリサイクル率を高く設定しても問題に
はならない。
WEEE に関する経過と今後の予定を記述すると表 3 のようになる。
7
表 3 WEEE の経過と今後の予定
EC条約第175条(環境保護)に準拠したEU指令
経 過
内 容
2002 年 10 月 11 日
調停委員会協議合意に至る
2002 年 12 月 16 日
閣僚理事会が採択
2002 年 12 月 18 日
2003 年 2 月 13 日
議会が採択
EU官報に指令が公布される
EU加盟国で各国内法で制定する
2004 年
8 月 13 日 までに
2005 年
8 月 13 日
加盟国より、回収、廃棄物処理システムとファイナンスシ
ステムを明示する
8 月 13 日
製造者は、指定マークを適合製品に貼付し、廃棄に対す
る責任を負うことになる(大きさ、製品の機能如何では、
パッケージ、使用書、保証書などにマーク貼り付けること
も可能)
2005 年
リサイクル目標達成のためのモニタリング手法が呈示され
る
2006 年 12 月 31 日
までに 製造者は回収・再利用・リサイクル削減目標を達成
2008 年 12 月 31 日
医療用機器(カテゴリー8)について、回収・再利用・リサイ
までに クル削減目標が設定される。その他の機器に対し、新し
い目標が設定される。
*EU加盟国は、独自に、より厳しい国内法を制定することもありうる
表 4 WEEE の回収率/リサイクル再使用率
製
品
製品の回収率
リサイクル再使用率
大型家庭用電子器具及び自動販売機
80%
75%
IT、通信及び民生機器
75%
65%
その他
70%
50%
RoHS は第 95 条の適用を受け、主な目的が単一市場の達成にあるので、共同決定手続きにより
理事会の特定多数決で、最大を決め、指令より厳しい国内法は制定できないことになっている。
RoHS 指令に関するこれまでの経過と今後の予定を示すと表 5 のようになる。
表 5 RoHS 指令の経過と今後の予定
EC 条約第 95 条(域内市場の統一)に準拠した EC 指令
2003 年 2 月 13 日
EU 官報に指令が公布
2004 年 8 月 13 日ま EU 加盟国で各国内法を制定する
で
2005 年 2 月 13 日
医療用機器(カテゴリー8)、監視用及び制御機器(カテゴリー9)
を含め、適用範囲が再度明示される
2006 年 7 月 1 日以 指定有害 6 物質について、原則として使用禁止となる
降
8
RoHS の第 4 条の予防の項で、有害物質の含有量に関する規制値は 2003 年 12 月に欧州
委員会から決定(Decision)の案(表 6)として提案され、2004 年 9 月に欧州環境理事会に提出
された。
表 6 RoHS の有害物質の閾値
閾
鉛 (Pb)
(%)
0.1
値
(ppm)
1,000
カドミウム (Cd)
水銀 (Hg)
六価クロム(Cr6+)
ポリ臭化ビフェニール (PBB)
ポリ臭化ジフェニールエーテル (PBDE)
0.01
0.1
0.1
0.1
0.1
100
1,000
1,000
1,000
1,000
物
質
2006 年 7 月 1 日以降に EU で上市される電気・電子機器は、上記の 6 物質に関して、均質
物質において閾値以上の含有が認められないことになる。均質物質とは、物理的に解体できない
構成単位のことを意味する。
RoHS 規制には技術的に代替が困難なもの (例えば、蛍光灯の水銀、高温はんだ、)に対して
は除外規定があり、いくつかを RoHS 対象からはずしている。体系化すると表 7 のようになる。
この除外規定は、当初、決められたものであるが、2004 年 12 月に開催された技術適用委員
会 (TAC)では、新たに 22 項目(すずのウィスカー問題対策等)が検討され、追加される案の是
非について議論されている。最大許容量の閾値に関しても再度、議論の対象となっていたが、決
定され 2005 年 8 月 19 日に官報で正式に通知された。
表 7 RoHS 指令の除外規定
RoHS規制の除外規定
物質名
水銀
鉛
カドミウム
対 象 除 外 製 品
許容量
5 mg
小型蛍光灯に含まれる1本あたりの水銀
ハロリン酸型水銀
10 mg
通常寿命用の三燐酸型水銀
5 mg
一般の直菅蛍光管
超寿命用の三燐酸型水銀
8 mg
特殊目的のための直菅蛍光管
付属書に明記されていないその他のランプ
陰極線管(CRT)、電子部品、蛍光管に使用されるガラスに含まれる鉛
0.35%
鋼材に合金成分として含まれる鉛
合金類
0.40%
アルミ材の合金成分として含まれる鉛
4%
銅材の合金成分として含まれる鉛
鉛85%以上の鉛はんだ
高融点ハンダの鉛
サーバー、ストレージ、ストレージアレイ
(2010年まで)
スイッチング、シグナリング、トランス
鉛はんだ
ミッション、通信ネットワーク管理ための
通信インフラ装置などのはんだに含まれる
鉛
セラミック製電子部品に含まれる鉛
EU指令76/769/EECの改正指定である91/338/EECで禁止されている用途を除く範囲でのめっき(高信頼を維持
しなければならない電気接点への表面処理として使用するカドミウム)
コンプレッサを使わない吸収型冷蔵庫中で使われる炭素鋼配管の冷却装置の防錆用として作動液にまぜられ
六価クロム 剤として使用する六価クロム
*適用除外
・2006年7月1日以前に上市した電気・電子機器
・リペア及びリユース用スペアパーツ
9
-
-
WEEE/RoHS 指令に適用される電気・電子機器は、表 8 に示すように大半の機器が対象とな
る。
分類8と分類9に関しては RoHS の規制対象から除外されており、2005 年 2 月 13 日までに
見直しが検討されることになっていたものの 2005 年 5 月現在、その見直しに関しては実施され
ていなく、除外のままになっている。
表 8 WEEE/RoHS 指令の対象製品
分類
項
目
詳
細
WEEE RoHS
1
大型家庭用電気製品
大型冷凍機、冷蔵庫・食品保存庫、洗濯機・洗濯乾燥機、食器洗い機、調理器、電気ス
トーブ、ホットプレート、電子レンジ、その他の大型食品調理器、電熱器、電気暖房機、
その他の大型ルーム加熱機、ベット、椅子、電動ファン、エアコン、その他空調機等
2
小型家庭用電気製品
電気掃除機、カーペットクリーナー、その他の掃除機、ミシンなどの裁縫機器、アイロンな
どの衣類機器、トースター、フライヤー、コーヒーマシーン、電気ナイフ、整髪機器、ヘア
ドライヤー、電動歯ブラシ、電動ひげそり、ボディーケア機器、時計、タイムレコーダー、
スケール等
○
○
3
IT及び遠隔通信機器
中央データー処理機、メインフレーム、ミニコン、プリンター、パソコン(CPU、マウス、モニ
ター、キーボード)、ラップトップパソコン(CPU、マウス、モニター、キーボード)、ノートパ
ソコン、ノートパッドパソコン、複写機、タイプライター、電卓、その他の収集、保存、加工
機器、ファックス、テレックス、電話機、コードレス電話、携帯電話、応答機器、その他の
情報機器等
○
○
4
民生用機器
ラジオ、テレビ、ビデオカメラ、ビデオ、ハイファイ録音機、オーディオアンプ、電気楽器、
その他の録音・映像機器等
○
○
5
照明装置
各種蛍光灯(家庭用照明を除く)、直管蛍光灯、小型蛍光灯、高輝度照明(ナトリウムラ
ンプ、ハロゲンランプ)、低圧ナトリウムランプ、その他のランプ類(フィラメント菅球を除く)
等
○
○
6
電動工具
電気ドリル、のこぎり、旋盤、フライス盤、研摩盤、リベット機器、溶接機、はんだごて、塗
装工具、その他の電動工具、芝刈機、その他のガーデン機器等
○
○
玩具
電動電車/カーレーシングセット、携帯ゲーム機器、ゲーム機、各種スポーツ用コン
ピューター、スロットマシン等
○
○
医療用機器
放射線療法機器、心電図測定器、透析装置、人工呼吸器、試験菅診断装置、分析器、
フリーザー、その他の検査・予防・モニター・処置の機器等
○
X
監視及び制御機器
煙探知機、加熱制御機、サーモスタット、家庭用・実験室用計測機、はかり、監視用機器
等
○
X
飲料自動販売機、飲料缶や瓶の自動販売機、固形物自動販売機、現金交換機、その
他の自動販売機等
○
○
7
8
9
10 自動販売機
○
○
○: 適用 X: 適用外
Note
*対象製品(交流1,000V、直流1,500Vを超えない定格電圧で使用される製品に適用)
*車載用、軍事用、宇宙用を除いた全ての電気・電子機器が対象となっている。
*明記されていない機器は除外された訳ではない。
4.3.3 技術的課題
WEEE/RoHS 指令が公布されたものの様々な技術的課題も検討項目として挙げられている。
さらに対象製品の明確化や均質物質の定義、除外規定の取り扱いや追加等が TAC 委員会で検
討されている。
有害物質の分析方法の標準化についても大きな検討課題の一つでもある。
既に存在する分析方法(EPA 法、EN 法)を電気・電子機器の部品・材料に当てはめても正しい分
析が出来るかどうかについても検証する必要性が出てきた。
現在、これらを解決するために分析方法に関するアドホック委員会(委員長 Dell/欧州・米国・
日本・中国の委員で構成)を設置して 2004 年から検討され、2005 年末までには IEC 規格へ提
案することで、世界レベルで検討されている。第 3 回の会合が日本で 2005 年 3 月 3∼4 日に
開催され、2004 年 12 月に公表されたワーキング・ドラフトについてさらに詳細について討議され
た。
5. 環境法規制案検討中の事件
環境調和の重要性が論議されている中で、電子機器に関して、スウェーデン政府の管理開発
庁は 1999 年コンピューターに使用されているプラスチックにハロゲン系難燃剤が用いられている
ことから米国コンピューターメーカーの納入停止の姿勢を打ち出した。この調達ストップのニュー
スは世界を駆け巡り、大きな衝撃波として広がり、日本の新聞でも報道された。
10
また、2001 年には日系エレクトロニクスメーカーのゲーム機から基準値以上のカドミウムが検出
された事により、オランダ税関より出荷が一時停止されたケースもあり、これは、企業を震撼させる
事件でもあった。
また、上記の事件は、いまや「環境」を経営問題の中に組み入れて真剣に取り組む姿勢がない
と、欧州の市場から、ある日、突然、排除されてしまうという教訓でもあった。
その後、メディアでの紹介はないものの、オランダでは 2001 年移行も同様のケースが続いて
おり、そのたびに税関当局から指摘がなされている。こういった指摘は、環境調和型製品の開発
を促す大きなドライビング・フォースとなったといえる。
6.日本企業の環境対策の現状
環境問題は、企業経営の重要課題の一つであり、各企業は、「すべてをグリーンに」や「環境に
優しい製品作り」といったスローガンを策定して環境行動計画を展開している。
欧州連合の WEEE/RoHS 指令は、環境配慮型製品の開発を促進する結果となり、業界内で
は、社内にとどまらず、取引先とも連携して環境配慮型製品を商品化するために、環境に配慮し
た部品、材料、製品を優先して購入する「グリーン調達」が活発化している。
環境負荷の少ない製品をつくるためには、環境負荷の少ない素材や部品を調達することが必
須であり、大手セットメーカーは取引先に「グリーン調達ガイドライン」を配布し、環境保全活動、調
達品の省資源、省エネ、リサイクルといった環境負荷低減に関する項目や自主管理物質の含有
に関する項目などについての情報提供を求めるようになった。
煩雑な作業ではあるが、日系企業では一般化しつつあり、そのグリーン調達の仕組みは中小
企業にも広がりつつある。
日本の家電や電子機器は輸出比率が高く、多くの企業ではグリーン調達基準として、欧米諸
国の基準を参考にすると同時に、家電や電子機器メーカーに関連する取引先企業では、納入先
のグリーン調達基準が法規制同様の扱いとなり、その基になった環境基準が事実上のデファクト
スタンダード化する可能性も一方である。
環境に配慮した製品開発を進めるに当たって、最終製品の製造企業が最も神経を使っているの
は、調達する部品や原材料に含まれる有害化学物質の含有状況の把握であった。
原材料や部品を調達する際に実施されるそれらの規制物質含有調査の負担軽減を目的に、
社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)に事務局をおく「グリーン調達調査共通化協議会」
(JGPSSI)の活動が進展している。
「グリーン調達調査共通化協議会」は大手電子機器メーカーの有志の集まりが発端となって、
調査方法や調査票の様式の統一化を図る目的で設立された。
源流にさかのぼって開示可能な環境情報を、いかにうまく国内各社の環境管理業務に活用し
ていくか、という源流把握によって調査の無駄な労力を省き、日本の標準化活動が世界的に通用
するための議論が各ワーキンググループによって進められた。この仕組みは、グリーン調達を実
施する上で、各社バラバラで実施していたグリーン調達についてのガイドラインの統一にも寄与す
るものでもある。
6.1 環境志向の機器設計技術
時代の要請にそって、設計段階から環境を配慮した設計も取り入れられるようになり、これも電
子機器の差異化の一手段として検討されるようになってきた。
時代の変遷とともに設計思想の重点が、表 7 に示すように耐久性 安全性 サイズ 分解容
易性 環境配慮 リサイクルへと様々な設計思想を取り込んで対応してきている。今や環境を抜
きにすることは出来ない状態で、重要な位置付けとなっている。
11
表 7 設計思想の変遷
DfD=Design for Durability(耐久性を配慮した設計)
DfS=Design for Safety(安全性を配慮した設計)
DfX
DfS=Design for Size (サイズを配慮した設計)
=Design for X
DfD=Design for Diassembly (分解容易性を配慮した設計)
DfE=Design for Environment (環境を配慮した設計)
DfR=Design for Recycling (リサイクルを配慮した設計)
経営の中で「環境」は重要な位置付けになったため、設計思想に大きく影響を及ぼしている。
環境を配慮したグリーン製品は、企業にとって目玉商品になりつつある。各企業はエコラベルを
自ら作成して一般消費者が手にするカタログやパンフレットにそれを表示して販売する傾向が強
くなってきた。
電気・電子機器に関する「リサイクル(WEEE)」と「有害物質使用制限(RoHS)」の対応に向け
て各企業で整備されつつある。
機器設計者は、商品の開発段階から環境を配慮した機器設計(DfE)や、リサイクルが出来るよ
うな設計(DfR)も必要であり、設計段階からより安全な材料や工法があれば積極的に採用する動
きとなっている。
まさに「モノづくり」が変わりつつある。特に環境法規制の導入により、環境調和技術は加速され
る可能性がある。
6.2 環境管理技術
モ ノ づ く り の 世 界 に お い て 、 商 品 で 重 要 な の は 、 〝 品 質 〝 (Q=Quality) 、 〝 価 格 〝
(C=Cost)、〝納期〝(D=Delivery)の「QCD」と言われていたが、これに〝サービス/安全〝
(=Service/Safety に〝環境〝(E=Environment)も加わり、今や、「QCD+S+E」の時代とな
っている。
環境を配慮してのモノづくりには、今までになかった管理手法も必要であり、有害物質に関して
は代替技術の確立とともに代替材料への切替えが焦眉の課題となっている。
また、たとえ、有害物質を含まない部品や材料に切替えたとしても、2006 年 7 月 1 日以降も
有害物質が含まれていないとの確証が必要で、継続的に実施されていることの確認が重要であ
る。
そのためには、源流からの管理体制が必要であり、有害物質不使用証明のみならず分析を実
施して、プロセスもチェックしての有害物質が混入していないことの確認が必要であると思われる。
部品・材料の調達は、今や、グローバルに展開されており、様々な国からの調達が行われている。
グリーン調達を実施しながら、サプライチェーンの中で、グローバルな見地での取組みが必要と
なってきた。特に部品・材料は、日本国内での調達ではなくグローバル・レベルで調達する時代と
なっている。そう言う意味でも、これからは、オンラインデーターベース等を含めて環境管理技術
を駆使してのモノづくりが重要となってきたと言える。
欧州から環境対策の重要性が指摘されると日本では、いち早く、企業レベルでの対応が行わ
れた。
難燃化方式が検討されて臭素系難燃剤を使わないハロゲンフリータイプの材料が開発されたり、
鉛を使わない鉛フリーはんだにおいては、各種プロジェクトを発足して数種類の鉛フリーはんだの
組成が開発され、工法の管理を含めた検討が行われた。日本では、既に 650 機種以上の製品
にこれらの材料が採用されて、量産レベルで生産されている。欧州の法規制対応を施行よりも 1
年程度、前倒しで実施する企業も出現しつつある。
環境調和型設計として、日本では「鉛フリー化」、「ハロゲンフリー化」、「カドミウムフリー化」、「ク
12
ロムフリー化」等が、ここ最近、進展している。
その実際の応用例の一例を写真で紹介すると写真 1∼2 のようになる。多くの機種に応用され
ているのが理解できるかと思う。
写真 1 鉛フリーはんだの適用例
写真 2 ハロゲンフリー材料の適用例
以上、欧州から始まった「環境調和」への重要性は、法的に規制されるようになり、日本ではいち
早く対応が行われ、新製品に応用され、量産ベースで流れるようになった。
環境調和型製品が実用レベルで生産され、その応用範囲は拡大されつつある。この分野では、
世界中で日本が最も先行しているのではないかと想像される。
日本では、EU の環境法規制に対してセットメーカーを筆頭にエレクトロニクス業界のみならず
部品・材料業界を巻き込んでグローバルに対応しており、その裾野は広がりつつある。
「環境調和型技術」を確立した様々な企業は、欧州市場への参入のチャンスが到来したとも言
える。
7. 参考文献/ 資料
1. 青木正光、 "欧州の環境対応の最新情報" エレクトロニクス実装学会
電子機器エコデザイン研究会公開研究会講演資料 pp 7-15 (2001)
2. 青木正光、 "欧州におけるエレクトロニクス環境情報"
エレクトロニクス実装学会誌 Vol.5 No.3 pp227-232 (2002)
3. 青木正光、"EU におけるエレクトロニクス関連環境情報" 表面技術
Vol.54 No.9 pp8-14 (2003)
4. Ericsson Environmental Report 1997
5. 青木正光、 "環境指向の機器設計<「環境対応の重要性」という認識は世界規模でひろが
りつつある>" Design Wave Magazine April (2002)
6. 青木正光、"欧州のエレクトロニクス業界では今何が起ころうとしているか?"
エレクトロニクス実装技術 2000臨時増刊号 pp74-pp80 (2000)
7. 青木正光、"EUにおけるエレクトロニクス関連の環境規制とその対応"
環境対応型表面処理技術 pp69-79 テクノシステム ISBN-924728-48-9C 3050 (2005)
8. 青木正光、"電子機器の難燃化国際プロジェクトとプリント配線板"
電子材料 Vol.39 No.10 pp 6-11 (2000)
9. 青木正光、"環境調和型プリント配線板" 環境対応型表面処理技術 pp713-721
テクノシステム ISBN-924728-48-9C 3050 (2005)
10. Masamitsu Aoki、 "Example of Japanese Solutions for Environmental Issues"
High Density Packaging User Group UK Meeting London、 UK June 1999
11. 菅沼克昭、 "EU 指令の最新動向" INTERNEPCON 2003 INJ-8 (2004)
12. 松浦徹也、 "欧州規制及びアメリカの環境規制"表面技術
13
Vol.54 No.9 pp33-40 (2003)
13. "ハロゲン系難燃剤使用の PC"電波新聞 1999-05-25
14. "蘭で差し押さえ"日刊工業新聞 2001-12-06
15. 青木正光、 "最先端電子機器における実装技術の動向"
電子材料 Vol. 43 No.6 pp84-95(2004)
16. 青木正光、 " UL の環境ソリューションプログラム<RSCS プログラムの紹介>"
Insulation2004 講演予稿集 (2004)
17. "RoHS 対策負担を軽減" 日刊工業新聞 2004-11-25
18. 青木正光、 "欧州 WEEE/RoHS 規制動向と日本の対応状況" 第 111 回高密度実装技
術部会定例会(日本実装技術振興協会) 講演予稿集 2005
19. 青木正光、 "海外における鉛フリー動向と UL の環境ソリューション" INTERNEPCON 200
5 INJ-11(2005)
20. 青木正光、 "RoHS 指令の現状(輸出促進)セミナー" JETRO セミナー (2005)
21. 青木正光、 " 欧州の環境規制における難燃化対策と環境ソリューション" 工業技術会
「臭素系ダイオキシン類、臭素系難燃剤をめぐる最近の動向」講習会予稿集 2005
22. 青木正光、 "RoHS 対策の効率化-有害物質規制のソリューション:有害物質の低含有量製
品に要求される会社から選ばれるサプライヤーへ" プラスチック工業技術研究会 2005 年
2 月会員特別講演会 講演予稿集 2005
23. 各社カタログ資料
本報告は、エレクトロニクス実装学会環境調和型実装技術委員会、日本実装技術振興協会
高密度実装技術委員会定例部会、電気機能材料工業会、合成樹脂工業協会、プラスチック
工業連盟、日本プリント回路工業会、カメラ映像機器工業会、JETRO 環境セミナー、神奈
川県産業技術総合研究所 RoHS 研究会等で講演資料として配布したものを見直して整理し
たものです。
欧州の環境に関する指令の動きを理解して頂ければ幸いです。
Version 1.4 (2005.11.23)
* NPO 法人 日本環境技術推進機構
e-mail MattAoki@nifty.com
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