プログラム集

第 1 回 日本口腔検査学会
総会・学術大会
プログラム・抄録集
会
期
平成 20 年 8 月 23 日(土)
会
場
東京歯科大学水道橋校舎血脇記念ホール
東京都千代田区三崎町 2-9-18(JR 水道橋駅東口)
大 会 長
井上 孝
準備委員長
松坂賢一
準備委員
康本征史・村上 聡
学会事務局
〒261-8502
千葉県千葉市美浜区真砂 1-2-2
東京歯科大学臨床検査学研究室
TEL: 043-270-3582 FAX: 043-270-3583
日本口腔検査学会ホームページ:www.jsedp.jp (入会はこちらから)
日本口腔検査学会 学会長挨拶
平成 19 年 4 月の改正医療法施行により、各歯科医院においても患者の安全と医療の質の保証
が法律的に求められるようになりました。国民はより質の高い歯科医療を求めるようになり、患
者への治療内容(方針、予後)についての説明責任は不可欠なものとなっています。
さらに、新規歯科医療技術の申請、歯科保険点数の改正において、当然のことながら、エビデ
ンスを示すことが要求されているのはよくご存知のこととおもいます。しかし、歯科医療をみる
と、歯質、歯牙の欠損をいかにして修復するかに主眼が置かれ、診断にかかわる検査や治療後の
評価に用いる検査が保険に導入されることはなかったのが現実です。
このような状況にあって、歯科医療、口腔疾患に関わる検査の開発、臨床現場への普及、検査
値の標準化・標準値管理、検査・診断機器の開発、臨床検査会社との連携などを強力に推進する
必要があると考えています。その結果、歯科医療の高度化、患者への説明責任、新規歯科医療技
術の導入などを達成し、歯科医療界全体として国民のニーズに応える高度な歯科医療を提供し、
国民の健康の維持増進の助けになると信じています。
つまり、国民が理解し、日常的に使用できる数値、すべての医療人が理解し、利用できる数値、
歯科医師が歯科医療において利用できる数値、歯科医療機器を開発する上で、目標となる数値が
必要なのである。歯科医の先生方にデータを蓄積して欲しいと願っています。大学人は、その結
果を持ってまず評価療養(先進医療:公的混合診療)に、そして国を動かし、歯科医療への導入
をしなくてはならないのだと信じています。そんな願いから、歯科医師が出したデータを発表し
ていけるよう平成 19 年 11 月には日本歯科医学会会長、日本歯科医師会会長、日本歯科商工会
会長をおよびして、日本口腔検査学会を設立しました。何卒本会の趣旨を御理解いただき、御協
力くださるよう御願い致します。
東京歯科大学 井上 孝
第 1 回日本口腔検査学会総会・学術大会 大会長挨拶
記念すべき第1回日本口腔検査学会を、
東京歯科大学発祥の地水道橋で開催させていただくこ
とは、東京歯科大学臨床検査学教室一同この上ない喜びであります。
さて、検査が谷底に置かれて久しい歯科界ですが、本学会を通じて臨床医の先生方、研究者の
方々、そして産業界の方々が壁を越えて一致協力し、エビデンスに基づく診断、治療、予後判定
を確立できるようになることを願っています。
第1回目の大会では、歯科臨床では非侵襲的に採取できる唾液について、その重要性と検査の
可能性に関するシンポジウムを組みました。
また特別講演では、参議院議員の石井みどり先生に今後の歯科の展望について、鶴見大学歯学
部附属病院病院長の斉藤一郎先生には、職域拡大の先駆者として歯科における検査の可能性を、
さらにインプラント治療にいち早く検査を導入された東京歯科大学インプラント学研究室教授
の矢島安朝先生に、検査の重要性についてお話いただけるようお願いしました。ポスター発表の
演題も 50 題を超える申し込みを各分野より頂戴しました。また、多数の企業の参加を得られた
ことも、本会にとって大変意義のあることと感謝しております。
本学会の英文名は日本名の直訳ではありませんが、真のEBMは検査から、そしてそれが歯科
医療の未来を支えることは疑いのないことであることを意味しております。これから、皆様方の
お力をお借りし、検査が歯科界において市民権を得られるよう切にお願いする次第です。
平成 20 年 8 月 23 日
東京歯科大学 井上 孝
日
程
8:30~ 受付開始
9:00~10:00 ポスター貼り付け
9:30~9:35 開会(大会長:井上 孝)
9:35~11:30 シンポジウム(唾液)
(座長:康本征史・松坂賢一)
9:35~10:00:佐々木脩浩 先生
10:00~10:25:柳沢 英二 先生
10:25~10:50:石原 容子 先生
10:50~11:15:武内 博朗 先生
11:15~11:30:
質疑応答
11:30~11:40 総 会
11:40~12:40 ポスター発表
12:40~13:30 ランチョンセミナー(司会:康本征史)
13:30~16:00 特別講演
13:30~14:00:石井みどり 先生(座長:栗原英見)
14:00~15:00:斉藤 一郎 先生(座長:安彦善裕)
15:00~16:00:矢島 安朝 先生(座長:井上 孝)
16:00 優秀ポスター賞の発表・表彰
16:10 次年度大会長挨拶(広島大学大学院医歯薬学総合研究科・栗原英見)
16:15 閉会 (準備委員長:松坂賢一)
16:15~16:30 ポスター撤去
交通・会場のご案内
東京歯科大学水道橋校舎 2F 血脇記念ホール
東京都千代田区三崎町 2-9-18(JR 水道橋駅東口)
1.
JR 中央・総武線 水道橋駅下車、東口改札を出て右手すぐ
2.
都営地下鉄三田線 水道橋駅下車、
「A2」出口を出て、JR 水道橋駅方面 徒歩 1 分
東京歯科大学水道橋校舎
会場見取図
受付のご案内
当日会費:
4,000 円(会 員)
8,000 円(非会員)
受付時間:
8 月 23 日(土) 8:30~
受付を済まされた方は名札に記名し、必ず着用してください。
クロークはございません。貴重品・お荷物は各自で保管してください。
シンポジウム (唾液検査)
シンポジウム
ウ蝕予防、歯周治療およびインプラント治療へのアプローチ
―唾液細菌検査によるハイリスク患者への応用と定期管理効果について―
佐々木 脩浩・八千代市開業
患者管理ソフトを用いて勝田台歯科医院の初診患者 2005 人のデータベースをもとに、喫煙の有無、D
MFTの男女別、カリオグラム(唾液検査、カリエスリスク診断)、フッ素塗布およびクロロヘキシジン(3
DS)塗布後の定期管理効果を検討してきた。フッ素塗布およびクロロヘキシジン塗布した定期患者の19
6人では4年間全くカリエスの発生は観察されなかった。不定期患者の3名はカリエスが観察されている。
不定期管理の患者のうち、女性では、喫煙経験者の残存歯は 17.4 本で定期管理を受けている患者は約2
5本とかなり少ない。
我々はサルでの実験的歯周炎で最も優位な歯周病原菌は P.gingivalis であることを報告してきた。病
的歯周ポケットが形成された歯周組織全体に進行した重症の慢性歯周炎では、
A.actinomycetemcomitans,P.intermedia,T.forsythia,T.denticola なども関与している。これらの歯周
病原菌は唾液から歯周組織およびインプラント周囲組織に伝播し、歯およびインプラントの脱落の原因と
なる。またインプラントと天然歯の歯周組織間の交叉感染の可能性も報告されている。今回は、侵襲性歯
周炎の長期症例やインプラント治療後の唾液中および歯周ポケット内の歯周病原菌の経時的変化につい
て報告したい。
シンポジウム
唾液と歯周病検査
柳沢英二・
(株)ミロクメディカルラボラトリー
唾液は、消化作用、抗菌作用、溶解作用、pH 緩衝作用、保護作用等の働きが中心であるが、唾液には
常在菌が存在しバリアを張り、呼吸器系等に病原菌が侵入しないような働きをしている。
しかし、この唾液中の P.gingivalis、A.actinomycetemcomitans、T.forsythensis、T.denticola、
P.intermedia 等の微生物が歯周病菌の原因菌になるといわれ、遺伝子による歯周病検査が行われるよう
になってきている。
歯周病検査は、唾液または歯周ポケットからペーパーポイントで採取した材料が、用いられているの
が現状である。唾液を用いるのは歯科の現場からみると採取しやすい面から便宜性はよいが、輸送・保存
温度を室温、4℃、凍結で検討してみると温度が高くなると陰性になることが解った。また日本での基準
値は確立されていないが、カリフォルニア大学の基準値で比較すると、唾液では正常であっても歯周ポケ
ットから採取したペーパーポイントでは基準値以上になり検査材料により結果に差異がでることが解っ
た。本学会ではそのデータを報告し皆様のご意見をお聞きし、今後この学会の中で検査法の統一、日本で
の基準値の検討等、臨床と合わせ検討していくスタートとなることを望む。
シンポジウム
歯科医院で利用可能な唾液検査とその将来
石原 容子・株式会社ジーシー
厚生省(現厚生労働省)から展開された「健康日本 21」
(2000 年)や「健康増進法」
(2003 年)では、
「すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするために、従来の疾病予防の中心であっ
た「二次予防」
(疾病の早期発見・早期治療)や、
「三次予防」
(疾病が発症した後、必要な治療を受け機
能回復を図る)にとどまることなく、
「一次予防」
(発症前の予防)に重点を置いた対策の強力な推進がう
たわれている。
この考え方を歯科で推進するにあたり、う蝕や歯周病を発症する前の段階での予坊対策が重要となるが、
その対策の1つとして考えられるのが歯科「検査」である。
「検査」をすることで、個人個人それぞれの
口腔内の状態を正確に把握することができ、それによって、将来に対する疾病リスクを考慮した最適な予
防診療が可能となる。
各種の歯科検査の中でも、口腔内の疾患に大きな影響を及ぼしており、かつ、その採取が容易で非襲侵
性な「唾液」の検査は重要と考えられる。そこで、昨年日本口腔検査学会が発足して、今回第一回の学術
大会が開催されるにあたり、まずは現在歯科医院で利用
可能な唾液検査を整理してみたいと思う。
唾液検査は、目的別に大きく二つ「う蝕のリスク検査」と「歯周病検査」
、さらに「その他の検査」に
分けられる。そして、それぞれに対して検査手法別に「院内培養検査」院内抗体検査」
「外注検査」の三
種類がある。特に「う蝕のリスク検査」においては、う蝕の成因論に基づき、歯質を「攻撃する因子」と
「防御する因子」の検査に分けて考えてみるのも、検査結果を患者に展開する場合には有効であろう。各
歯科医院にて利用しやすい検査を活用していくのが好ましい。
現在利用可能な唾液検査をまとめた後、最後に、将来の唾液検査によってどのようなことが分かるよう
になるのかについて紹介したい。う蝕や歯周病といった歯科関連の疾患のみではなく、全身疾患に対する、
最新のバイオテクノロジーを用いた検査が導入される日もそう遠くないかもしれない。
平成 17 年度の厚生労働科学研究『新たな歯科医療需要の予測に関する総合的研究』によると、全国の
学識経験者による調査では、需要が増加すると考えられる歯科医療分野の筆頭に「予防歯科」が挙げられ
ている。科学的な「検査」をベースとして、個人個人に異なるアプローチを可能にした予防の重要性は、
患者自身の満足を重視するこれからの医療において、ますます高まっていくと考えられる。
シンポジウム
歯科細菌検査を応用したう蝕・歯周病のリスク制御
武内博朗・神奈川県開業
これからの歯科診療所は、疾患発見とその修復を目的とした従来の歯科治療から、歯科臨床検査などに
より発見された種々のリスク値(代用エンドポイント)を対象にリスク低減治療を行う体系へと、その役
割を変換するべきと思われます。
今回は、ビ−・エム・エルの歯科細菌検査を応用した口腔環境の改善例を提示致します。
同社のう蝕細菌検査は、ミュータンス菌の菌数のみならず、口腔総菌数に対する比率も得られるので、
再現性に優れています。この検査は、歯科矯正治療前のう蝕ハイリスク者に対して、3DSを応用したう蝕細
菌制御に活用しております。
歯周病原性細菌の検査では、培養が困難であった欠点を克服したリアルタイムPCR法やInvader法を用い
ているので、菌のDNAさえあれば、定量的な情報が得られ、口腔環境を改善する前後での菌量の推移を知る
ことが可能です。各種検査は、単にモチベーションに使うのではなく、治療効果の判定診断のために行う
のが本来の目的です。すなわち1)初期診断検査、2)介入処置 3)介入効果確認検査 の順番で臨床に検
査を組み込むと合理的です。
今現在症状はないが、リスクを抱えている人を対象にした予防歯科外来(リスク低減治療)の立ち上げ
と運用、細菌検査を用いたう蝕・歯周病のリスクコントロールについて、簡単に提示させていただきます。
特 別 講 演
参議院議員
石井 みどり 先生 (座長:栗原 英見)
鶴見大学歯学部口腔病理学講座
斉藤 一郎
先生 (座長:安彦 善裕)
東京歯科大学口腔インプラント学研究室
矢島 安朝
先生 (座長:井上 孝)
特別講演
歯科医療における検査の展望
参議院議員
石井みどり
昭和
昭和
平成
51 年
55 年
6年
平成
平成
平成
平成
7年
8年
9年
16 年
平成
平成
平成
17 年
18 年
19 年
鶴見大学歯学部卒業
みどり歯科クリニック開設(広島市)
広島県歯科医師会常務理事
広島県介護実習普及センター運営委員
広島県産業保健推進協議会委員
広島県障害者施策推進協議会委員
広島県高齢者ケアサービス体制整備検討委員会委員
広島県介護支援専門員指導者(第Ⅰ期)
日本歯科医師会常務理事
厚生労働省
・厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会委員
・社会保険審議会介護給付費分科会委員
厚生労働省 口腔機能向上研究班委員
日本歯科医師連盟 顧問
参議院選挙にて当選
・厚生労働委員会
・決算委員会
・政府開発援助等における特別委員会
・少子高齢化・共生社会に関する調査会
・自由民主党国会対策委員会
特別講演
新たな歯科医療の可能性と限界
—ドライマウスとアンチエイジング医学を中心にー
鶴見大学歯学部口腔病理学講座
斎藤一郎
従来型の歯科医療の需要は減少傾向にあり、歯科医療は大きな変遷のときを迎えてい
る。欧米では、教育や研究において学生や人材、研究費を自力で集められない歯科大学
の相当数が減少し、多くの医科大学病院との統廃合を余儀なくされている。
欧米で起こった歯科医療の変遷は、近い将来、日本にも訪れると十分に考えられるが、
いまだに従来型の歯科医療に埋没しリスクヘッジを模索しない歯科医師が多数いるこ
とは事実である。一方で,日本国内の歯科医師の数は増加を続け、もはや歯科医療は飽
和状態になりつつあり、従来型の業務に依存しているだけでは、生き残れない時代が訪
れようとしていることを無視できるだろうか。
このように歯科医学の将来的な社会的ニーズの変貌は自明であることから、その変換
が模索されている。日本は裕福な長寿国であるが、その生活の質には欧米と比べ格差が
あることが指摘されている。したがって、年齢を重ねても QOL が高く健康を享受し、日
常生活の質を高めるためのニーズを見据えた新たな歯科医療の必要性が求められてい
る。このことから、歯から口腔へ、そして口腔から全身へと、全身と口腔に精通した医
療のスペシャリストとしての歯科医師の役割も一つの選択肢と考えている。
減少する歯科医療のニーズのなかで,プラスアルファとして歯科医師が「医科のフィ
ールドである」と手を付けていなかった新たな領域にも職域を拡大しなければ、活路は
見出せないのではないだろうか。2002 年より演者が主宰するドライマウス研究会には
3.000 人の歯科医師が加入し、日本抗加齢医学会の分科会である抗加齢歯科医学研究会
も2年で 1.500 人の組織になった。しかも,会員の大半が若い歯科医師であることは、
将来を見据えた歯科医療の職域拡大につながる大きな成果であると考えている。
日本で初めて大学病院によるドライマウス外来が鶴見大学歯学部でスタートした。
開設から4年余りが経過した現在、初診患者数は 3.000 人を超えておりEBMを満足さ
せうる十分なデータを持っていると言えるだろう。
本講演では歯科医師の新たな役割と職域の拡大について自身の活動を紹介する。
経歴
鶴見大学歯学部教授(口腔病理学講座)松本歯科大学卒、日本大学歯学部、米国スクリ
プス研究所、東京医科歯科大学難治疾患研究所、徳島大学歯学部を経て 2002 年より現
職、2008 年 6 月より病院長
特別講演
Yes We Can
―インプラント治療に臨床検査は必須であるー
東京歯科大学口腔インプラント学研究室
矢島安朝
インプラント治療が欠損補綴の一手段として、有効な方法であることは広く認識されて
いる。しかし、一方では、インプラント治療に関するトラブルや医療訴訟が、急激な勢い
で増加しているといわれている。これらのトラブルの多くは、インプラント治療前に、そ
のリスクを充分に把握せずに治療を開始していることに起因するのではなかと思われる。
通常、インプラント治療の失敗は、炎症あるいは過重負担により骨との結合が消失するた
めである。具体的にいいかえれば、天然歯の喪失原因がその後同部に埋入したインプラン
トのリスクファクターとなるわけである。歯周病によって天然歯が失われたのであれば、
インプラント周囲炎によって骨結合が消失しやすく、力によって天然歯が失われたのであ
ればインプラントもその危険が高い。さらに全身的要因により、口腔粘膜あるいは骨の創
傷治癒不全を招くような状態であれば、術後感染や過大な咬合力の影響を受け、骨結合の
消失を起こしやすいことは明らかである。
そこで、現在、今後のインプラント治療の潮流の一項目として挙げられている「リスク
ファクターの明確化」が大きな注目を集めている。特に、臨床検査(血液、尿、唾液)に
より、貧血、糖尿病、骨代謝異常等のスクリーニングや歯周病細菌の定量は、インプラン
ト治療にとって欠かすことのできない検査項目であると考えられる。現在、東京歯科大学
口腔インプラント科では、初診患者すべてに対して唾液による歯周病菌の定量、血液と尿
を検体とした血液学検査、生化学検査、骨吸収マーカー、骨代謝マーカーを調べ、これら
を反映した治療及びメンテナンスを試行錯誤しているところである。
インプラント治療のリスクファクターを術前の臨床検査によって明確に把握することは、
インプラント治療に関する様々なトラブルも減少し、国民からより信頼される治療法につ
ながるであろう。さらに、インプラント治療ばかりでなく、すべての歯科医療を名人や匠
の世界からサイエンスに向かってより発展させるためには、今後臨床検査が大きなキーワ
ードになると予測される。
経歴
東京歯科大学教授(口腔インプラント学研究室)東京歯科大学卒、ドイツ連邦共和国ハノ
ファー医科大学顎顔面外科学教室留学、2006 年より現職
一
般
演
題
演題番号
P-1
演題名
Myeloperoxidase 活性法を利用した炎症評価について
演者
○磯村治男1)、神田昌巳1)、松﨑紘一1)、坂本
所属
1)北海道形成歯科研究会
2)藤女子大
亘1)2)、松沢耕介1)
福祉(QOL)研究所
抄録
目的:歯科インプラント周囲組織の病態の早期評価は、歯科インプラントの長期的な機
能維持に不可欠である。また、天然歯周囲組織の炎症状態の把握も同様である。しかし
ながら、簡便な生化学的判定法は未だ十分に確立されていない。今回、我々は好中球、
マクロファージより逸脱した唾液 Myeloperoxidase(MPO)活性の高感度基質溶液を開発
し、インプラント及び天然歯周囲組織の病態を簡便にスクリーニングできる新たなシス
テムを研究開発したので報告する。
方法および結果:3.3’-diaminobenzidine, guaiacol,H₂O₂からなる高感度基質溶液は従来
の基質に比べて約5倍の発色度を呈すること、また、陰イオン交換能を有する濾紙と保
水能を有する濾紙からなる検出用試料保持器(内径 13mm)は、他の反応固相に比べて
1.6 倍から 4.0 倍の発色度を呈することが解った。また、酵素活性は発色度(A460)が
反応 30 分で最高値に達し、その後一定値を示した。この新規ペルオキシダーゼ活性法を
用いて唾液中の MPO 活性を測定したところ、歯周病患者は健常者に比べて有意に高い
値を示した。
考察:我々が開発した唾液 MPO 活性の測定法は極めて感度が高く、しかも歯周疾患の
病態を反映し、炎症の程度(歯周ポケット)と相関した。従って本法による唾液 MPO 活性
の測定は歯周疾患の発症、進展の予知並びに治癒経過を判定できる簡便な検査である可
能性が示唆された。今後は、天然歯及びインプラント周囲組織の炎症の進行との関連性
についてデータを蓄積し、報告したいと考えている。
演題番号
P-2
演者
○新美勝海1)
演題名
インプラント治療における術前検査の意義について
近藤孝洋1) 有馬嗣雄1)
所属
1)医療法人社団厚誠会
岡
俊一2)
2)日本大学歯学部歯科麻酔学教室
抄録
目的:
高齢化社会の到来に伴い、全身疾患を有する歯科治療患者が激増していることは想像
に難くない。そのために、歯科治療とりわけインプラント治療を行う患者の全身状態を
術前に把握することは極めて重要となる。しかし現状は、問診および対診のみで全身状
態を把握、対処する場合がほとんどである。当法人では、患者の全身状態を把握し、歯
科治療をより安全に行うために、平成 19 年 4 月より、当法人が開設する 6 診療所で静脈
鎮静下にてインプラント診療を希望する全患者に対し、治療開始前に、血液・生化学検
査をはじめとする諸検査を施行してきた。
そこで今回、同手術を施行した患者を対象に、術前の問診、他科対診および諸検査か
ら、患者の全身疾患の有無および種類を抽出し、その意義について検討した。
方法:
平成 19 年 4 月 1 日から平成 20 年 6 月 30 日までの期間に静脈内鎮静法下でインプラ
ント手術を施行した患者 51 名を対象に問診、必要により他科対診後、全患者に血液・生
化学検査・血圧測定・心機能検査等を施行した。尚、血液検査および心機能検査の実施
にあたっては、内科等の医療機関に紹介・依頼のかたちをとった。
結果および考察:
対象患者数は男性 19 名、女性 32 名の計 51 名で、その平均年齢は 58.3 歳であった。
また、全症例中なんらかの全身疾患を有する患者は 26 名で、このうち複数疾患を有する
患者は 5 名であった。疾患別では高脂血症が 8 例と最も多く、続いて、高血圧症が 7 例、
糖尿病が 6 例であった。
これらのことから、我々は、問診および対診をより慎重かつ的確に行う必要性を再確
認するとともに、術前のスクリーニングとして全患者に対し血液・生化学検査をはじめ
とする諸検査を行うことの有効性を確認することができた。
演題番号
P-3
演題名
血清カルシウム、血清マグネシウムと歯槽部 CT 値の関係
演者
○南部聡、磯村治男、神田昌巳
所属
北海道形成歯科研究会
抄録
目的:
インプラント治療は、歯科臨床において一般的な治療法の一つとして応用されている
が、現在に至っても予後不良となる症例も多いく予後を推測しうる検査診断法は確立し
ていない。本研究では、インプラント症例の患者の血液から得られた血清カルシウム、
血清マグネシウムの値と歯槽骨の CT 値の関係を評価することを目的とした。
方法:
インプラント治療を予定する患者総数 13 人、男性 3 人、女性 10 人、平均年齢 58.2 歳、
対象 51 部にそれぞれの患者から得た血清カルシウム値と血清マグネシウム値を高値群
と低値群に分け、対象部位から得た歯槽骨部の平均 CT 値との関係について統計的検討
を行った。
結果および考察:
結果として血清カルシウムと血清マグネシウム値の高値群の CT 値は優位差をもって
低値を認めた。CT 値の低値とは、骨密度が低く粗な骨質の傾向でありこの度の研究によ
って血清カルシウムと血清マグネシウムの血中濃度が平均値より多いほうが歯槽骨に骨
質の粗の傾向を示すことがわかった。これによりインプラント治療の予後を推測しうる
一つの指標となる可能性があると考え,今後症例数を増しより精度の高い研究の必要が
あると思われた。
演題番号
P-4
演題名
唾液検査を主体に行ったインプラント患者の口腔内検査
-歯周疾患とう蝕のリスク診断について-
演者
○片岡利之 1),藤井俊治 1)2)3),熊坂士 1),守田誠吾 1),岡本俊宏 1),杉原てる子 1),
安藤智博 1)
所属
1)
2)
3)
東京女子医科大学医学部歯科口腔外科学教室
日本大学歯学部口腔外科学教室
新潟再生歯学研究会
抄録
目的:年々増加しているインプラント患者の口腔状態を長期的に管理することは極めて
重要な問題であるが,従来の管理,指導は,レントゲン,咬合状態,口腔清掃状態など
を指標の中心にして行われており,唾液を中心とした患者の生理的な機能及び口腔環境
についての検査は,ほとんど行われていないのが現状である.今回我々は日常臨床で行
える唾液検査を中心に患者の口腔環境について検査を行ったので報告する.
方法:対象は平成 17 年 5 月から 20 年4月までにインプラント治療を行い,検査に同意
が得られた男性 27 例、女性 46 例の計 73 例である.唾液検査は 5 分間の刺激唾液量,
唾液緩衝能(dentobuffer Strip™),Mutans.S 菌数(Culti-Mate™,35-37℃,2 日間培養),
Lactobacillus 菌数(Culti-Mate™,35-37℃,4 日間培養)を測定した.その他,年齢に
応じた齲蝕経験,食事頻度,プラーク量,ロダン試薬を使用したヤニ検査,Bana 活性検
査も行いそれぞれについて 0-3 の4段階に分類して評価を行った.
結果および考察:今回の結果からは,Lactobacillus 菌数,Mutans.S 菌数,唾液分泌速
度で女性にスコアが高い傾向が見られ,ヤニ検査では男性に高い傾向が見られた.各検
査項目に年齢による明らかな傾向は見られなかった.
結果および考察:口腔内環境検査は,歯周疾患とう蝕についての危険性をある程度予知
することが可能であり,今後生じる疾病や傷害に対し,従来は受け身であった患者自身
が積極的に行なう予防処置の指導,管理にも有効である。また,口腔環境の実態を把握
することで患者の口腔管理に対する理解が深まり,インプラントのみならず残存する天
然歯の管理,予防にも効果をもたらすことが推測されたが,今後はさらに症例数を増加
させて,検査項目,評価方法などを再度検討していく必要性も示唆された.
演題番号
P-5
演題名
健康な口腔環境に植立されたインプラント周囲溝に、いつから歯周病
原菌が検出されるかー症例報告からー
演者
○Sultan Zeb Khan1),佐々木脩浩 2) ,松岡海地 1),村上
所属
聡 1) ,松坂賢一 1) ,井上孝 1)
(東歯大・臨検)1)(千葉県)2)
抄録
目的:インプラント周囲炎は、共存する歯周病に罹患した歯牙の歯周病原菌が伝播感染
することは周知の事実で、関連する報告にも枚挙に暇が無い。しかし、歯周病を持たな
い患者に植立されたインプラント周囲に歯周病原菌が感染するか否かについては未だ明
らかにされていない。本研究の目的は、歯周病の無い患者に植立されたインプラントに
ついて発現する歯周病原菌の経時的動態変化について検討することである。
症例:患者は 59 歳の女性で、インプラント治療を希望し歯科医院に来院した。既往歴と
して特記すべき全身疾患はなく、家族歴として、父親が 40~50 歳の間に重度な歯周病で
歯をほとんど喪失したという。口腔内の現症として PCR(Plarque control record)は 3.8%
で、全顎的な歯肉の腫脹は認められなかった。歯周精密検査では、歯周ポケットの深さ
が 4~6mm のものが 0.6%であったが、出血する部位はなかった。エックス線検査におい
ても骨吸収は見られなかった。 インプラント体埋入直前に唾液中の細菌検査を行い、
インプラントの埋入直後とその後一ヶ月ごとにインプラント周囲溝(MB)からペーパーポ
イントにより滲出液を採取し、PCR-Invader 法にて 5 種類 A. actinomycetemcomitance、
P. intermedia、P. gingivalis、B. forsythus、および T. denticola の歯周病関連細菌の分
析を行った。なおメインテナンスとしては、インプラント周囲を機械的に清掃し管理を
行った。
結果および考察:術前の唾液中には F. nucleatum が 0.25%と B. forsythus が 0.01%検索
されたが、手術直後および 3 ヶ月後までの MB からはいかなる細菌も検出されなかった。
しかし、3 ヶ月目に F.nucleatum が 0.16%、4 ヶ月目に T.forsythensis が 0.06%と
F.nucleatum が 0.06% 、 6 ヶ 月 目 に は A.actinomycetemcomitans が 0.054% 、
F.nucleatum が 3.29%、7 ヶ月目には F.nucleatum が 5.0%、8 ヶ月目には F.nucleatum
が 1.58%検出された。今回の症例ではインプラント植立前の歯周組織には著変はなく歯
周病原菌も検出されなかった。しかし、埋入 3 ヶ月後以降に様々な病原菌が検出された。
つまり、インプラント植立後一定期間 PCR-Invader 法で検査を実施し炎症の発症を予防
する必要があることが示唆された。
演題番号
P-6
演題名
インプラント治療におけるリスクファクターの明確化
-唾液を用いた歯周病関連細菌検査について-
演者
○ 安田雅章、伊藤太一、小田貴士、伊藤寛史、猿田浩規、法月良江、吉田有智、
北川博美、森岡俊行、佐々木穂高、鈴木憲久、古谷義隆、矢島安朝
所属
東京歯科大学千葉病院口腔インプラント学研究室
口腔科学研究センター 口腔インプラント学部門
抄録
目的:インプラント治療の成功率は全身状態、口腔内環境、生活習慣との関連性があるといわれ、近
年これらがインプラント治療のリスクファクターとして注目を集めている。特に歯周病はインプラント
治療におけるリスクファクターのひとつとして考えられている。
歯周病の主たる原因はデンタルプラーク中の歯周病関連細菌であり、これらは口腔内で伝播するとい
われ、同一患者でインプラントサルカス内と歯周ポケット内で同じ遺伝子型の細菌が認められたとの報
告がある。したがって歯周病関連細菌の検査は、歯周病の診断をはじめ、インプラント周囲炎のリスク
判定などに有用であると考えられる。本研究では採取が簡便で口腔内の細菌叢を反映していると考えら
れる唾液による歯周病関連細菌の検出と定量を行い、歯周病およびインプラント周囲炎のスクリーニン
グ検査として応用できるかどうかを検討した。
方法:被験者は東京歯科大学千葉病院口腔インプラント科に来院した歯周炎患者(軽度、中等度、重
度)および非歯周炎患者の合計 69 名を対象とした.歯周病関連細菌の定量(菌数、対総菌数比率)は
Real Time-PCR 法(株式会社ミロクメディカルラボラトリー)を用い,各被験者より得られた唾液サン
プルから P.gingivalis(以下 P.g), A.actinomycetemcomitans(以下 A.a), T.forsythia, T.denticola、
P.intermedia の計5菌種に対し検索を行い、Mann-Whitney U 検定を用いて統計処理を行った。本研
究は東京歯科大学倫理委員会の承認を受け実施された。
結果および考察:非歯周炎患者群と比較して軽度歯周炎患者群では、P.g において菌数、対総菌数比
率ともに有意差が認められた(P<0.05)。非歯周炎患者群と比較して中等度歯周炎患者群では A.a に
おいて菌数、対総菌数比率ともに有意差がみられなかったが、その他の菌種において菌数、対総菌数比
率ともに有意差が認められた(P<0.01)。重度歯周炎患者群に関しては検体数の関係上、統計解析はで
きなかったが、5 菌種とも菌数、対総菌数比率において高い値を示した。
以上の結果より、歯周病の状態と歯周病関連細菌数との間に関連性が確認された。したがって唾液を
用いた歯周病関連細菌検査は歯周病およびインプラント周囲炎のリスクを判定するスクリーニングに
応用できることが示唆された。
演題番号
P-7
演者
○高橋耕一
演題名
インプラント埋入予定患者の全身状況について
栂安秀樹
所属
つがやす歯科医院(北海道帯広市)
抄録
目的:歯牙の欠損補綴の第一選択となりつつあるインプラント治療であるが、そもそも
歯牙の欠損した原因が生活習慣病の一つである歯周病に起因する場合、生活習慣の改善
なしではその予後が心配である。そこで今回、術前に血液検査を行いインプラント治療
を受ける患者の全身状態および歯周疾患の状態を評価した。
方法:インプラント治療予定患者 40 名(男性 19 名 女性 21 名)に DEMECAL(株式会
社リージャー)を用いて血液検査を行い BMI、中性脂肪、HDL コレステロール、LDL コ
レステロールの値を測定して肥満の状態を、血糖値、HbA1c の値を測定して糖尿病の状
態を診断し、CPITN にて歯周疾患との関連を判断した。
結果および考察:血液検査の結果、インプラント治療予定患者は BMI が 22.2、中性脂肪
が 124.3、HDL コレステロールが 57.6、LDL コレステロールが 105.3、HbA1c が 5.3
と基準値内であったが、血糖値は平均 113.3 でやや高い傾向にあった。また CPITN の平
均は 3.4 であり歯周疾患も重症傾向にあった。糖尿病と歯周病は以前からその関連が示
唆されているが、当院でもインプラント治療予定患者においては、その関連を支持する
傾向にあり通常のメンテナンスに加えて管理栄養士による栄養指導などを含めた生活習
慣指導や糖尿病専門医への紹介といった役割も果たす必要があると思われた。
演題番号
P-8
演題名
インプラント治療患者における骨代謝関連検査の統計
演者
○佐々木穂高、法月良江、森岡俊行、安田雅章、吉田有智、猿田浩規、小田貴士、
伊藤寛史、北川博美、鈴木憲久、古谷義隆、伊藤太一、矢島安朝
所属
東京歯科大学
口腔インプラント学研究室
口腔科学研究センター 口腔インプラント学研究部門
抄録
目的:インプラント治療における成功は骨結合(Osseointegration)の獲得であり、骨
代謝の状態を把握することは、術前および術後のリスクファクターを明確化する為に重
要である。また、インプラント治療患者層の高齢化から、加齢に伴う骨粗鬆症等の骨代
謝障害の発現を予測する必要がある。そこで今回、我々はインプラント術前診査で行っ
ている骨代謝関連検査を比較し、その必要性、有用性について検討した。
方法:対象者は、05 年 5 月~08 年 4 月に東京歯科大学千葉病院口腔インプラント科を
受診し、術前に骨代謝関連検査を受けた計 488 名。検査項目として、①オステオカルシ
ン(OC)②骨アルカリフォスファターゼ(BAP)③尿中Ⅰ型コラーゲン架橋 N-テロぺ
プチド(NTx)④尿中デオキシピリジノリン(DPD)⑤血清カルシウム(Ca)⑥無機リ
ン(P)、⑦副甲状腺ホルモン(PTH)の計7項目について異常値の有無を性別、年齢別、
検査項目別に統計を行った。また、CBCT からオトガイ孔部の頬舌側顎骨幅径および皮
質骨幅径を計測し、骨代謝マーカー(①~④)において異常値を認めた群と全項目で正
常値であった群とで女性のみを対象とし比較検討を行った。
結果および考察:骨代謝関連検査で異常値を認めた患者数は、男性:51%、女性:46%、
全体 47%であった。年齢別では 40~60 歳代で平均 48%と高い値を示し、男性では 60
歳代、女性では 40 歳代にピークが認められた。検査項目別(骨代謝マーカー)では、男
性では BAP 減少が多いのに対し、女性では DPD 増加が多くみられた。オトガイ孔部皮
質骨幅径および顎骨幅径の計測では、両者ともに差は認められなかったが、顎骨幅径に
対する皮質骨の割合では異常群が正常群よりも少ない傾向が見られた。
以上より、インプラントの治療患者が多い 40~60 歳代では男女共に約半数が何らかの骨
代謝異常があることがわかった。しかしながら、本検査がインプラントの術前評価や予
後にどのように関連しているかは現在、明らかとなっていない。今後は、骨密度測定に
よる骨質の評価やインプラント成功率との関連性を研究し、骨代謝関連検査によるイン
プラント治療のリスクファクターの評価について明らかにしていく予定である。
演題番号
P-9
演題名
天然歯とインプラントの防御機構
―天然歯とインプラント周囲組織の浸出液中での
αディフェンシンの定量的評価―
演者
○ 浜野弘規1)、天野牧人1)、丸森英史1)、斉藤正人2)、倉重圭史 3)、安彦善裕2)
所属
横浜歯科臨床座談会、2)北海道医療大学 個体差医療センター 口腔内科学分野、
3)
北海道医療大学 歯学部 小児歯科学分野
抄録「目的」
:1960 年に Gargiulo らによって提唱された「生物学的幅径」は、生体の物
理的防御機構と補綴設計の基準として意義深いものであるが、近年の文献考察やインプ
ラントの経過など、必ずしもその定義では説明のつかない現象が多く認められる。一方、
生体の防御機構として、自然免疫機構が近年注目されてきており、その分子の一つ、αディフェンシンは、主に好中球から産生する抗細菌性ぺプチドとして注目されている。
これまで、歯肉溝浸出液中の様々な物質の同定が試みられてきたが、α-ディフェンシン
の量を定量的に評価したものは、天然歯で僅かにあるのみで、インプラントでの報告は
みられない。本研究では、臨床的に健常な歯周組織と炎症のみられないインプラント周
組織からの歯肉溝浸出液中のαディフェンシン量を定量し、自然免疫による歯周組織と
インプラント周囲組織の防御機構の検証を目的とした。
「方法」
:被験者の承認のもと、健常者ボランティアおよびインプラント患者から歯肉
溝浸出液と唾液の採取を行った。歯肉溝浸出液は、#30 ペーパーポイント(GC社)を
歯肉溝に 1 分間挿入して採取後、緩衝液中に浸漬冷凍し、定量のために保存した。唾液
も同様にペーパーポイントに吸着して保存した。α-ディフェンシンを定量するために、
緩 衝 液 中 の 総 タ ン パ ク 量 を BcATM protein Assay(Pierce 社 ) に て 測 定 し 、 そ の 後
HNP1-3ELISA test kit (Hycolt Biotechnology 社)で天然歯とインプラントの歯肉溝浸
出液、唾液中のα-ディフェンシン量を比較検討した。
「結果・考察」
:歯肉溝浸出液中のα-ディフェンシンは唾液中に比較して多く検出された。
またインプラント周囲溝滲出液からもα-ディフェンシンが検出され、歯肉溝周囲よりも
その発現は高く認められた。これらのことから、臨床的に健康なインプラント周囲組織
でも、天然歯以上に多くの好中球が存在することが予想され、これらが物理的な防御機
構の弱いインプラントを防御していることが考えられることから、天然歯・インプラン
ト周囲組織には自然免疫による防御機構の存在の可能性が示唆された。またα-ディフェ
ンシンは歯肉溝浸出液中の防御機構のマーカーの候補であることも考えられた。
演題番号
P-10
演題名
静脈採血と超微量採血による血液検査データの比較
演者
○廣安一彦1)、上田一彦2)、伊藤秀俊1)、小林英三郎3)
、永合徹也4)、渡邉文彦5)
所属 日本歯科大学新潟生命歯学部
1)口腔外科
2)新潟病院総合診療科 3)口腔外科学第2講座
4)歯科麻酔学講座 5)歯科補綴第2講座
抄録
目的:インプラント埋入手術やそれに関連する外科処置は観血治療となるため、感染防
護、また患者さんの血糖値、肝機能、血液疾患などに関して事前の検査が必要であるが、
なかなか一般の歯科医院では静脈血の採取は難しい。このようなことから手指の部分の
超微量採血により、これらを検査するシステムが市販されている。本研究の目的は超微
量採血と静脈採血による血液検査データの比較し、超微量採血による検査の信頼性を確
認することである。
方法:
被験者は日本歯科大学新潟生命歯学部口腔インプラントセンターに所属、登録する歯
科医師、歯科衛生士のボランテア12名(男性8名、女性4名)に DEMECAL 社の予防
医療ステーション・スターターセットを用いて血糖値、感染症、肝機能、血液検査を行
い、すでに健康診断で静脈採血よりの検査結果を比較した。
結果および考察:
男性8名、女性4名について手指による超微量採血と静脈採血による血液検査データ
の比較した結果、B 型、C 型肝炎の感染症の有無、血糖には統計学的に差は認められな
かった。また肝機能においても同様な数値がみとめられた。このようなことから超微量
採血は侵襲も少なく、また簡易でできる方法として外科処置を行う患者さんにとって有
効である。
演題番号
P-11
演題名
急性骨髄性白血病の歯周病治療における歯周病細菌の血清 IgG 抗体価
および細菌 DNA 検査の応用例
演者
○園井教裕 1),曽我賢彦 1) ,妹尾京子 1),久枝綾 1),工藤値英子 2),大森一弘 2),苅田
典子 2),杉浦裕子 2),目黒道生 1),前田博史 1),高柴正悟 2)
所属
1)岡山大学医学部・歯学部附属病院 歯周科
2)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 病態機構学講座 歯周病態学分野
抄録
【緒言】
急性骨髄性白血病患者はその疾患の特徴から易感染性であり,さらに化学療法はそれ
を増悪させる。このような患者にとって,感染管理は重要な問題であり,これには口腔
内感染巣のひとつである歯周病も含まれる。我々は,歯周病原性細菌に対する血清 IgG
抗体価測定,および歯周ポケット内の細菌検査を用いて,歯周感染の有無のスクリーニ
ングと歯周ポケット内の歯周病原性細菌数の定量を行っている。今回,歯周病に罹患し
ている急性骨髄性白血病患者の感染量の把握ならびに歯周病治療の評価に,血清 IgG 抗
体価測定および細菌 DNA 検査を用いた症例について報告する。
【患者】
患者は,47 歳の男性で,血液腫瘍内科より急性骨髄性白血病に対する化学療法に際し
て,口腔内感染巣のスクリーニングおよび治療を目的として紹介された。
【口腔内所見】
辺縁歯肉は,軽度に発赤と腫脹していた。レントゲン写真像には,全顎的に不規則な
中等度の水平的および垂直的歯槽骨吸収があった。歯周ポケット深さは,3 mm 以下が 72%,
4-6 mm が 27%,7 mm 以上が 1%であった。Bleeding on probing は,100%であった。
【診断】
慢性歯周炎(持続的感染症として急性骨髄性白血病治療に影響を与える状態)
【治療方針および治療計画】
化学療法の合間の血球が回復する時期に,歯周病の感染量の把握,口腔内感染源の除
去,治療の評価を行った。なお,感染量の把握と治療の評価には血清 IgG 抗体価および
細菌 DNA 検査を用いた。
【治療経過】
細 菌 DNA 検 査 の 変 化 : 初 診 時 , 歯 周 ポ ケ ッ ト 内 か ら は Aggregatibacter
actinomycetemcomitans(Aa)および Porphyromonas gingivalis(Pg)が検出された。
治療後,Aa および Pg 数は著しく減少した。総細菌数も著明に減少した。血清 IgG 抗体
価の変化:初診時,Aa ATCC29523, Aa SUNY67 および Prevotella intermedia(Pi)ATCC25611
に対する血清 IgG 抗体価が健常者の平均値から 2SD を越えて高値を示した。治療後,Aa
SUNY67 および Pi ATCC25611 に対する血清抗体価は 2SD 以下となった。Aa ATCC29523 は
治療後も 2SD を越えていたが初診時より減少していた。
上記の検査値の変化に連動して,辺縁歯肉の発赤と腫脹は改善した。歯周ポケット深
さは,3 mm 以下が 100%となった。BOP は 0%に減少した。また, 化学療法中の血球減少期
にも歯周病の急性化をきたすことなく,5 回の化学療法において急性骨髄性白血病は寛
解した。
【考察およびまとめ】
感染管理を必要とする急性骨髄性白血病患者の歯周病感染を定量的に把握し,歯周治
療を行うことができた。治療後,検査値は改善し歯周感染巣を除去できたと評価できた。
この症例から,血清 IgG 抗体価測定と歯周ポケット内細菌検査は,歯周病の感染度の把
握と治療成果の評価に有用であると示唆された。また,こういった患者における歯周病
感染を把握するにあたり,内科医師にも可能な血液検査は非常に便利である。この検査
は医療連携における医師と歯科医師の情報共有のツールと成りうるだろう。将来,この
ような検査が日常臨床に取り入れられる制度設計が必要である。
演題番号
P-12
演題名
歯周病スクリーニング検査としての
歯周病原細菌に対する指尖血漿 IgG 抗体価の有用性
演者
○工藤値英子 1),成石浩司 2, 3),久枝 綾 2),安孫子宣光 3),小方頼昌 3),島内英俊 3),
長澤敏行 3),永田俊彦 3),沼部幸博 3),野口俊英 3),日野孝宗 3),村上伸也 3),山崎
和久 3),吉村篤利 3),新井英雄 1),高柴正悟 1,2,3)
所属
1)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野,2)岡山大学医学部・歯学部附属病
院歯周科,3) 日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(A)研究班
抄録
目的:
現在,歯周病は,口腔内写真,X 線写真,歯周組織検査などの繁雑な検査結果をもとに総合的に診断され
ている。我々は,新たな簡便な歯周病検査法を確立するため,歯周病原細菌の感染度検査として,「歯周病原
細菌に対する血清 IgG 抗体価検査」の臨床応用について検討してきた。また,本検査法を広く社会に浸透させ
るため,医療機関に限らずあらゆる会社・企業がこの歯周病細菌感染度検査過程に参入して行う,歯科界では
新しい検査システムの構築を目指している。これまでに我々は,既に,サンプリングはデバイスキット(リージャー
社)を用いた指尖血漿(デバイス処理),搬送は Mail-Medicine(郵送検診),検査は ELISA 法(歯周病原細菌に
対する抗体反応)で処理する一連の指尖血漿 IgG 抗体価測定検査システムを工程化した。
一方,本検査法の臨床的な意義を検討するため,平成 19 年度から日本全国の複数の大学歯周病学関連講
座と連携したマルチセンター方式の研究による大規模な臨床検討を開始した。今回,その中間報告として,①
検査の測定精度,②臨床的有用性の検討結果について報告する。
方法:
1. 歯周病原細菌
歯周病原細菌は,Pg FDC381(Pg),Pi ATCC25611(Pi),Aa ATCC29523(Aa),および Ec FDC1073
(Ec)の 4 菌種(特殊免疫研究所より購入)を検査した。
2. 歯周病原細菌に対する血漿 IgG 抗体価の測定
歯周病原細菌に対する IgG 抗体価は,Murayama らの記載(Adv Dent Res, 1988)を改変した ELISA 法を用
いて測定した(リージャー社に外注)。
3. 血漿 IgG 抗体価検査の測定精度の検討
検査の測定精度は,ボランティア 2 名の両手,計 10 本の指尖からデバイスキットを用いて採取した血漿を用
いて,血漿 IgG 抗体価における測定値の変動係数(Coefficient Variation:CV)の値によって評価した。ま
た,ボランティア 23 名の指尖血漿および静脈血清を用いて,それぞれの歯周病原細菌に対する IgG 抗体
価を測定した後,両値の相関の有無を調べた。
4. 血漿 IgG 抗体価検査の臨床的有用性の検討
岡山大学医学部・歯学部附属病院をはじめ,全国 11 大学の附属病院を受診した慢性歯周炎患者(Pg: 109
名,Pi: 336 名,Aa: 287 名,Ec: 328 名)を対象とした。なお,非歯周病群としてボランティア 15 名を対象
とした。歯周病患者群と非歯周病群での血漿 IgG 抗体価の有意差は,Mann-Whitney の U 検定を用いて
比較検討した。
結果および考察:
① 測定精度
本法の両手,計 10 本の指から採取した血漿 IgG 抗体価における測定値の CV は, 10%以内(Subject#1:
8.0%, Subject#2: 7.0%)であった。さらに,4 菌種とも静脈血清と指尖血漿との間で歯周病原細菌に対する
IgG 抗体価は正の相関を示した。
② 臨床的有用性
1. Pg に対する血漿 IgG 抗体価は,歯周病患者群( X = 12.19 )の方が非歯周病群( X = -0.14 )に比べて
有意に高値を示した( p <0.0001)。
2. Pi,Aa および Ec に対する血漿 IgG 抗体価は,有意差はないものの,歯周病患者群(Pi: X = 0.01 ,
Aa: X = 0.13 , Ec: X = -0.07 ) の 方 が 非 歯 周 病 群 ( Pi: X = 0.00 , Aa: X = -0.07 , Ec:
X = -0.15 )に比べて高値を示した。
以上のことから,慢性歯周病患者において,Pg をはじめ各種歯周病原細菌に対する血漿 IgG 抗体価は,健
常者と比較して高値を示した。本研究結果は,歯周病のスクリーニング検査としての本検査システムの臨床的
有用性を期待し得るものである。
演題番号
P-13
演題名
唾液の日内変動
第1報
~リアルタイム PCR 法による細菌学的考察~
Circadian change in human saliva : PartⅠ
―A bacterial observation using real-time PCR assay―
演者
○高井周太郎 、巻島由香里 、田島祥子 、近藤慎也、田中真喜、吉野敏明
○ Shutaro Takai , Yukari Makishima, Sachiko Tajima, Kondo Shinya , Maki Tanaka , Toshiaki Yoshino
所属
吉野歯科診療所 歯周病インプラントセンター
Yoshino Dental Office Perio Implant Center
抄録
目的:
唾液はその量と質に日内変動が認められ、就寝時には量の減少、食後には pH が酸性に傾くことが報告されて
いる。しかし、口腔内細菌の質と量を経時間に遺伝子レベルで定量したデータは認められない。
そこで我々リサーチグループは、健常者を被験対象として、経時的な菌数および Red complex を含む歯周病原細
菌 5 菌種類の対総菌数比率の変化について、PCR 法を用いて検討したので報告する。
方法:
被験者は 4mm 以上の歯周ポケットを持たず、BOP および歯の動揺を認めない健常者(男性 2 名、女性 2 名)と
し、検体は刺激唾液とした。サンプリング方法は、5 分間のシリコンガムを用いた刺激唾液を全てサンプルし、よく
攪拌後これから 5ml を採取したものを唾液サンプリングの規格として、5ml 中の細菌をリアルタイム PCR で定量的
に増幅して計測した。検査は 2 日間行い、1 日目の検査シークエンスは、起床直後、朝食後、朝食後のブラッシング
直後、9 時、10 時、11 時、昼食前、昼食後、昼食後のブラッシング直後、PMTC 前、PMTC 直後、2 日目の検査シ
ークエンスは、PMTC 前、洗口剤なしの PMTC 直後、CHX による含嗽直後とした。また、唾液量も同時に記録し
た。測定対象は、総菌数および Red complex を含む歯周病原細菌 5 菌種類(A. a ,
P. g , T. f , T. d , P. i )と
した
結果および考察:
【結果】
総菌数の値は、起床直後に最も高くなり(1.7 ×10 12cell/ml)、朝食後に有意に減少(5.4×10 11cell/ml)した。そ
の後時間の経過とともに、緩やかに上昇し、昼食後のブラッシング直後(3.7×10 11cell/ml)および PMTC 直後に有
意に減少(2.6×10
cell/ml)した。2 日目、PMTC 直後(3.0×10
11
cell/ml)および CHX による含嗽直後(1.3×
11
10 11cell/ml)に有意に減少し、この値が各シークエンスで最も低い値となった。
歯周病原細菌 5 菌種類の対総菌数比率は、被験対象がすべて健常者あったため有意な変化および基準値を逸脱する
変化は認められなかった。
【考察および結論】
口腔内の細菌は、食事およびによる PMTC などの機械的な刷掃、および CHX による含嗽の物理的あるいは科学
的な刷掃によりその数が影響を受けることが示唆された。
今後は、検査シークエンスを延長し終日の日内変動および、PMTC 後の細菌数の変化を検索したデータをコント
ロール群として、慢性歯周炎および侵襲性歯周炎患者における総菌数および歯周病原細菌叢の日内変動を検討してい
きたい。現在、被験者数を増やしデータを集積中である。
演題番号
P-14
演題名
歯周病原細菌に対する血清抗体による冠動脈心疾患リスク判定の
有用性の検討
演者
○高橋直紀 1,2,3 本田朋之 1,2,3 奥井隆文 2 梶田桂子 1,2,3 中島貴子 2,4
多部田康一 2 工藤値英子 5 高柴正悟 5 苔口進 6 西村英紀 7 山崎和久 1,2
所属
1
新潟大学歯学部口腔生命福祉学科 口腔衛生支援学講座,2 新潟大学超域研究機構
3
新潟大学大学院医歯学総合研究科 歯周診断・再建学分野,4 新潟大学医歯学総合病院 歯科総合診療部
5
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 歯周病態学分野,6 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 口腔微生物学分野
7
広島大学大学院医歯薬学総合研究科 健康増進歯学分野
抄録
目的:歯周病が冠動脈性心疾患などの全身疾患のリスク因子となり得ることが疫学調査によ
って示されている。また歯周病原細菌に対する血清抗体価が健常者に比べ冠動脈性心疾患患
者において上昇しているという報告もある。そこで本研究の目的は、歯周病原細菌に対する
血清抗体価を測定し、ある特定の細菌と冠動脈性心疾患に関連が認められるかを検討するこ
とである。
方法:インフォームドコンセントの得られた冠動脈心疾患患者 (CHD 群;51 名) を対象とし
歯周炎罹患状況を確認した.血清マーカーとしてコレステロール (HPLC 法),高感度 CRP
(Latex-enhanced immunoassay),TNF-α,IL-6,歯周病原細菌 12 菌種に対する抗体価
(ELISA 法) を測定した.抗体価については Murayama らの方法 (Adv Dent Res. 1988) に
準じて健常者の平均値より標準偏差の 2 倍を超えて高い被験者を陽性と判定した.血清マー
カーは冠動脈心疾患の既往のない歯周炎患者 (P 群;55 名) および健常者 (Control 群;37
名) に対しても測定し,各群間の差を Mann-Whitney U-test にて解析した.
結果および考察:血清 hs-CRP は CHD 群で最も高く、P 群においても Control 群と比較して
有意に上昇しており、歯周病原細菌の感染が全身の炎症に影響することが確認された。歯周
炎患者では P. gingivalis 381, SU63 株および C. rectus ATCC33238 に対する抗体陽性率が健
常者と比較して明かに上昇していた。一方、歯周疾患を有する冠動脈心疾患患者において P.
gingivalis SU63 株に対してのみ抗体陽性率が上昇していた。このことは P. gingivalis の異な
る菌種に対する抗体応答性のパターンが冠動脈心疾患のリスクを予測する可能性を示唆して
いる。P. gingivalis Su63 株のもつ病原性が動脈硬化症に与える影響については不明であり,
今後さらなる検討が必要である.
演題番号
P-15
演題名
歯周炎症がメタボリックシンドロームの病態に及ぼす影響を
判定するための検査指標の確立を目指した基礎研究
演者
○山下明子 1,2),曽我賢彦 2),岩本義博 2),高柴正悟 2),西村英紀1)
所属
1) 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔頚部医科学講座 健康増進歯学分野
2) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病態制御科学専攻 病態機構学講座 歯周病態学分野
抄録
【目的】
近年,歯周病が軽微な慢性炎症としてインスリン抵抗性や動脈硬化の進行促進因子として
作用する可能性が指摘されるようになった。そうであれば歯周炎症の影響を的確に判断できる
検査項目の確立が望まれる。そのためには歯周病による炎症がどのような機序で増幅されるの
かについてその分子基盤を明らかにする必要がある。一般に,メタボリックシンドローム患者の
内臓脂肪に由来する種々の生理活性物資,すなわちアディポサイトカインの過剰産生が疾患
の病態形成に大きく関与することが明らかにされている。近年,脂肪細胞からのアディポサイト
カイン産生に,マクロファージが関与する可能性,すなわち脂肪細胞とマクロファージが互いに
作用し合い,アディポサイトカイン産生がさらに亢進するという,脂肪細胞‐マクロファージ相互
作用説が提唱された。演者らは,代表的なアディポサイトカインである IL-6 および MCP-1 に注
目し,脂肪細胞‐マクロファージ共培養系に,低濃度の LPS 刺激を加えた際,LPS 無刺激時と
比較して,IL-6 で 100 倍以上,MCP-1 で約 50 倍,それらの産生性が亢進することを報告した
(Yamashita et al., Obesity, 2007)。しかしながら脂肪細胞由来アディポサイトカインは多種多様
であり,マクロファージとの相互作用で IL-6 や MCP-1 以外にも影響を受ける分子群は数多く存
在すると予想される。
そこで,本研究では,脂肪細胞‐マクロファージ共培養系に歯周病感染を想定した低濃度
LPS を作用させた場合のサイトカインの産生性の変化を知るため,抗体アレイの手法を用い産
生量が著明に変化する分子の解析を試みた。
【方法】
1. 細胞およびその培養
マウスマクロファージ由来細胞株 RAW264.7 とマウス由来前駆脂肪細胞株 3T3-L1 を使用
した。3T3-L1 を分化誘導し,誘導開始から 14 日後の細胞を分化脂肪細胞として用いた。
2. マクロファージ・脂肪細胞の共培養および LPS 刺激
分化した 3T3-L1(1×105 cells/well)および RAW264.7(5×104 cells/well)を,トランズウェル
システム(Corning)で共培養し,両細胞を E. coli LPS (1ng/ml)で 24 時間刺激した。
3. 培養上清中のサイトカイン解析
回収した培養上清中のサイトカインを抗体アレイ(Ray Biotech, Inc)で解析した。なお,産
生性の変化が顕著であったものに関しては, ELISA(R&D)にて追試して確認した。
【結果および考察】
脂肪細胞とマクロファージを LPS 刺激することで,IL-6 や MCP-1 以外に RANTES および KC
といったアディポサイトカインの産生性が亢進した。RANTES は脂肪組織への T 細胞浸潤に,
一方 KC は脂肪組織における毛細血管新生に,関与する可能性がある。すなわち,歯周病のよ
うな慢性の微細感染症に由来する抗原が,脂肪組織における炎症変化を亢進することによっ
て,動脈硬化や糖尿病をさらに悪化させる可能性が示唆された。
以上からメタボリックシンドロームを有する歯周炎患者では IL-6, MCP-1, RANTES および KC
などを測定することで歯周炎症による影響が判定できる可能性が示唆された。
演題番号
P-16
演題名
軽微な慢性炎症としての歯周炎症の程度を判定するための
高感度 CRP 測定の有用性に関する検討
演者
○西村英紀, 山下明子
所属
広島大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔頚部医科学講座 健康増進歯学分野
抄録
【目的】
歯周病は軽微な慢性炎症として動脈硬化進行促進因子として作用する可能性が指摘されて
いる。炎症マーカーである C-反応性蛋白(CRP)レベルの軽度の上昇、すなわち高感度 CRP の
上昇は将来の心筋梗塞の発症を予知する上で有用なマーカーとなることが明らかとなっている
(Ridker et al., N Engl J Med, 1997)。
そこで、①歯周感染によって高感度 CRP が上昇するかどうか、仮にそうであれば②歯周治療
によって上昇した高感度 CRP 値が低下するかどうかについて確認した後に、③歯周感染による
CRP の上昇がどの程度の炎症反応であるかについて考察を加えた。
【方法】
1. 歯周感染と高感度 CRP の関連性に関する検討
歯周病感染の指標として歯周病細菌(Aa, Pg, Pi)に対する血清 IgG 抗体価を用いた。肥満
による影響を極力排除するため肥満度がさほど高くない(BMI<27)日本人 2 型糖尿病患者
131 名を対象として血清抗体価を測定し、高感度 CRP 値との関連性を調べた。
2. 歯周治療が高感度 CRP 値に及ぼす影響に関する検討
NCEP の診断基準*を満たすメタボリックシンドローム患者で重度歯周炎を併発した被験
者 15 名に対して局所抗菌療法を主体とした歯周治療を施し、治療前後で高感度 CRP 値に
変動があるかどうかを検討した。
3. 歯周炎症による高感度 CRP の上昇がどの程度の炎症反応を反映するかについての効果
判定
歯周炎症による高感度 CRP の上昇がどの程度の炎症反応であるかについて、今回の結
果を Ridker らの報告(E Engl J Med, 1997)ならびに Matsumoto らの日本人を対象とした報告
(Atherosclerosis, 2003)と照らし合わせ考察した。
【結果および考察】
2 型糖尿病患者 131 名を対象とした調査から歯周病細菌 3 菌種のうち Pg 菌に対する血清抗
体 価 が 高 感 度 CRP 値 と 有 意 に 相 関 し た ( r=0.219, p<0.013; Spearman’s Correlation
Coefficiency)。すなわち、Pg 菌に感染することで CRP 値が上昇する可能性が示唆された。さら
にこの関連性は CRP と虚血性心疾患に対する古典的危険因子(血糖、体格指数、脂質パラメ
ータ等)との間の関連性よりもより強いものであった。一方、NCEP のメタボリックシンドロームの診
断基準を満たす重度歯周炎患者に対して局所抗菌療法を主体とした歯周治療を施すことで上
昇した CRP 値は有意に低下した。さらに、これらの患者における CRP の上昇の程度は Ridker
らの報告に照らし合わせて考察すると心筋梗塞のリスクを 2~2,5 倍上昇させるだけのリスクに匹
敵すること、また Matasumoto らの日本人を対象とした調査結果に照らし合わせて考察しても心
筋梗塞やそれに伴う死亡リスクを 2 倍以上上昇させる危険度に匹敵するものであった。
以上から、重度歯周炎患者に対して生体への影響を考慮に入れた炎症指標として高感度
CRP を用いることは極めて有用である可能性が示唆された。
(参考)NCEP の診断基準:内臓肥満を必須の項目とせず、肥満、耐糖能以上、脂質代謝異
常ならびに高血圧すべてを同格に扱い、これらのうち 2 つ以上を満たす場合をメタボリックシンド
ロームと定義するもの。
演題番号
P-17
演題名
歯周病関連細菌に対する血清抗体価検査
演者
○川村優人 1)、日野孝宗 2)、新谷智章 3)、小川郁子 3)、柴 秀樹 1)、河口浩之 2)、栗
原英見 2),3)
所属
1)広島大学病院 歯周診療科、2)広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 先進医療開発科
学講座、3)広島大学病院 口腔検査センター
抄録
目的:
細菌抗原に対する血清中の抗体価検査は、歯周病の原因菌を宿主応答の側面から捉え
るものである。また、自己免疫疾患様の病態を持つ歯周炎の検出にも有効であると考え
られる。本研究の目的は歯周炎の病態や治療経過と歯周病原細菌に対する IgG 抗体産生
の関連を調べることである。また、血清中の自己抗体の検出についても併せて紹介する。
方法:
広島大学病院歯周診療科にて血清抗体価検査の同意が得られた、歯周炎治療を必要と
する患者延べ 1,500 人を対象とした。抗原には主要な歯周病関連細菌 10 菌種 16 株の全
菌体破砕画分を用いた。血清は通法に従い上腕静脈から採血し、分離した。ELISA 法に
よる血清 IgG 抗体価測定は、村山ら 1)の方法に準じて行った。また、過剰な免疫応答
が組織破壊の進展に関わっていると考えられる患者について、培養ヒト歯肉線維芽細胞
に対する自己抗体産生の検出も行った。
結果および考察:
侵襲性歯周炎と分類される患者において、P.gingivalis、及び P.intermedia に対して高
い抗体産生を示した。また、血清 IgG 抗体価は歯周炎の治療の経過に伴って変動した。
侵襲性歯周炎患者の一部に、ヒト歯肉線維芽細胞に対する自己抗体産生が検出され、過
剰な免疫応答が歯周組織の破壊の進行に関連している可能性があると考えられた。
1)Murayama, Y. et al., J Periodontology, 1986.
演題番号
P-18
演題名
歯肉溝滲出液中γ-グルタミルトランスペプチダーゼ値を用いた歯周
診断システムの構築の可能性について
演者
○川添祐亮1、宮内睦美1、田妻 進2、古庄寿子1、鈴木恵子3、新飯田俊平4、高田 隆1
所属
広島大学医歯薬学総合研究科口腔顎顔面病理病態学1、病態薬物治療学2
昭和大学歯学部歯科薬理学講座3
国立長寿医療センター研究所運動器疾患研究部4
抄録
目的:我々は新規骨吸収刺激因子としてγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)を
同定し 、ラットの歯肉溝から投与した GGT が歯槽骨の破骨細胞性骨吸収を誘導する事か
ら、歯周炎における歯槽骨破壊のリスクファクターとなることを明らかにしている。そ
こで、今回は,GGT を用いた歯周診断システムを構築することを目的とし,臨床において、
歯肉溝での GGT 上昇が歯周炎の破壊状況を把握するための検査法として有用であるか否
かを検討した.
方法:歯周病初診患者の歯肉溝滲出液をペーパーポイントによって採取し、0.1%アジ化
ナトリウム溶液 100μl 中に入れて保存した。その後、GGT 活性測定キット(AC Bio)を用
いて GGT 活性を測定し、pocket depth や歯槽骨吸収率との関係を検討した。また,一部
の患者において,歯周基本治療後の歯肉溝滲出液中 GGT 量も測定し,歯周基本治療前後
における GGT 量の変動を比較検討した。
結果および考察:歯周炎初診患者の歯肉溝滲出液中 GGT 量と歯槽骨吸収程度に正の相関
がみられた。また、歯周基本治療により歯肉溝滲出液中 GGT 量は減少した。以上のこと
から、歯肉溝液中 GGT 量は歯周炎の disease activity と関連する歯槽骨破壊の指標の1
つになると考えられ、GGT を指標とした歯周診断システム構築や GGT を標的とした歯槽骨
破壊制御の可能性が示された。
演題番号
P-19
演題名
日本における歯周病患者の Porphyromonas gingivalis の線毛構造遺伝子
(Fim-A)の遺伝子多型と臨床検査値の比較
演者
○田中真喜 1 多田大樹 1 田島祥子 1 山嵜肇史 2 田所健一 2 河村勝美2 吉野敏明 1
所属
1)吉野歯科診療所歯周病インプラントセンター
2)株式会社 ビー・エム・エル
抄録
目的:
本研究の目的は,日本における歯周病患者のより詳細な細菌学的評価を行うために,特異的歯周病原
性細菌検査の結果より Porphyromonas gingivalis が検出された患者の線毛構造遺伝子(Fim-A)の遺伝子
多型を解析し,臨床検査値との相関性を検索する.
方法:
初診時、抗生物質を 6 ヶ月以上内服していない患者に歯周病原性細菌検査を行った.サンプリングは,
基本治療までに抜歯することのない歯で最もプロービング値の大きい一歯を選択し,滅菌ペーパーポイ
ントにより細菌サンプルを行い,PCR-IVD 法にて測定した(Yoshino-Method:
吉野敏明ら 日本臨床歯周
病学会会誌 2007 Vol.25 84-89).測定項目は総菌数,各細菌数(Actinobacillus actinomycetemcomitans,
Porphyromonas gingivalis, Treponema denticola, Tannerella forsythensis),対総菌数比率とした.
細菌検査の結果より P. gingivalis が検出された患者 23 名(男 14、女 9,平均年齢 49.58 才±9.54)を
対象とし,Fim-A 遺伝子多型の解析を行った.臨床検査項目は,歯周組織検査(PD,BOP,MO),レント
ゲン撮影,喫煙,全身疾患の有無および口腔内写真撮影とした.
結果および考察:
被検者 23 名の P. gingivalis Fim-A 遺伝子多型は fimA-Ⅰが 1 名,fimA-Ⅰb が 1 名,fimA-Ⅱが 14
名,fimA-Ⅲが 0 名,fimA-Ⅳが 4 名,fimA-Ⅴが 2 名であった.臨床検査値は、fimA-Ⅱが検出された群
が悪い傾向にあった.
FimA-Ⅱは P. gingivalis 菌線毛の上皮細胞への付着機能が強いと言う報告がなされている.の Fim-A
遺伝子多型を検索する事により, 保菌している P. gingivalis の悪性度を判断する事が出来、治療方針
やメインテナンスの間隔を決定する上での一助になる事が示唆された.また、P. gingivalis と全身疾
患との関連性も,近年数多く報告されている.全身管理を念頭に置いた歯科治療を行う上でも,有用な
検査方法であることが示唆された.
演題番号
P-20
演題名
妊娠による歯肉溝 Bleeding on Probing の増加
演者
○平野絵美 1)、杉田典子 1)、小林哲夫 1)2)、島田靖子 1)、長谷川朋子 1)、岩永璃子 1)、
吉江弘正 1) 菊池朗 3)、笹原淳 3)、田中憲一 3)
所属
新潟大学大学院医歯学総合研究科 摂食環境制御学講座 歯周診断・再建学分野 1)
新潟大学医歯学総合病院 歯科総合診療部 2)
新潟大学医歯学総合病院 産婦人科・周産母子センター3)
抄録
目的:多くの論文で妊婦の Bleeding on Probing(BOP)が高いことが報告されている(Gürsoy
M et al. 2008, Tilakaratne A et al. 2000)。しかしその原因については、プラークの量やホル
モンレベルが関係するなど諸説あり結論には至っていない。本研究は分娩直後の女性と
同年代の女性における BOP をスクリーニング的に調べること、また、分娩直後の女性に
おける口腔内の歯周病原細菌叢と BOP との関係を解析することを目的とした。
方法:妊娠群として新潟大学医歯学総合病院にて分娩した 122 例(19-43 歳)について分娩
後 5 日以内に全顎的な歯周組織検査を行った。口腔衛生状態の評価として Plaque control
record(PCR)の測定、及び歯周組織の評価として Probing pocket depth(PD), BOP を測定した。
同時に口腔内で最も Probing pocket depth の深い 4 歯(ただし智歯を除外)よりペーパーポイ
ン ト を 用 い て 歯 肉 縁 下 プ ラ ー ク を 採 取 し PCR 法 に て Aggregatibacter
actinomycetemcomitans, Porphyromonas gingivalis (P.g), Tannerella forsythia, Prevotella
intermedia を測定した。また同病院歯周病診療室に来院した非妊娠女性(26-40 歳)を対照群
とした。本研究は本学医学部倫理委員会の承認のもと十分な説明の後、書面による同意
を得られた場合のみを対象に行った。
結果および考察:妊娠群 122 例と非妊娠群 15 例を PCR20%以上の群(PCRhi 群)と PCR20%
未満の群(PCRlow 群)に分けて解析した。PCRhi 群(妊娠群 28 例 vs. 非妊娠群 10 例)におけ
る mean BOP%、mean PD の値は(38% vs. 12.4%、2.6mm vs. 3.0mm)であった。同様に、PCRlow
群(94 例 vs. 5 例)では(6.3% vs. 8.1%、2.3mm vs. 2.8mm)であった。PCRhi 群で比較した場
合、BOP%が妊娠群で有意に高かった(p<0.0001, Mann-Whitney U test)。また妊娠群におい
て P.g の菌対数と BOP%に正の相関が認められた(r=0.383, p<0.0001)。以上のことから今
後 BOP 基準値を定める場合、妊娠の影響を考慮する必要があること、また分娩直後の女
性の BOP に P.g 数が関与している可能性があることが示された。
演題番号
P-21
演題名
マイクロチップ基板を用いた体液中バイオマーカーの迅速検出デバ
イスの構築
演者
○片岡正俊 1)、八代聖基 1)、日野真美 1)、木戸淳一 2)、板東美香 2),大家利彦 3, 4)
所属
産業技術総合研究所健康工学研究センター 1) バイオマーカー解析チーム、3) バイオデ
バイスチーム
2) 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部歯周歯内治療学分野
4) 徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部
抄録
目的:歯周病をはじめとする生活習慣病の迅速・正確な診断が可能なデバイス開発を目
的として、骨粗鬆症・歯周病のバイオマーカーである I 型プロコラーゲン C 末端プロペ
プチド(PICP)を対象にマイクロチップ基板上での検出系の構築を行った。
方法:幅 300 μm、深さ 100 μm、長さ 6 cm のマイクロ流路を表面ポリマー処理済み環状
ポリオレフィン基板(住友ベークライト)に形成してこれをマイクロチップとして利用
した。微細化インクジェットによる抗 PICP 一次抗体のマイクロ流路表面への固定を行っ
た後、血漿とペルオキシダーゼ標識抗 PICP 二次抗体を流路内へ 30 分間導入して、酵素
基質を加え CCD カメラにて発光を測定する血中 PICP の測定系の構築を行った。そして
ヒト血漿を用いて本マイクロチップ検出法と既存の ELISA 法での結果を単純回帰曲線で
比較して有意差の有無を検討した。
結果および考察:3人分のヒト血漿の各 1.8 μl/lane をマイクロ流路に導入しマイクロチッ
プ法で測定した結果と反応時間が3時間で必要サンプル量が 20 μl/well である従来の
ELISA 法の結果を比較検討したが有意差を認めず、本マイクロチップ法は既存の ELISA
法と同等に正確に血中 PICP の測定が可能であることが示された。今回、マイクロチップ
基板を用いた PICP 測定法は必要な血漿量が 1.8 μl、測定時間は 30 分でさらに操作が容易
であり Point of Care Testing への応用が可能である。また微細化インクジェットを用いる
ことで、マイクロ流路上に抗体を数百μm 程度のスポット状に固定化することが可能にな
り、複数種類の抗体を一本のマイクロ流路上に固定を行うことで複数の血中バイオマー
カーの同時測定が可能になる。現在は特異的な歯周炎の診断用デバイスとしての応用を
考慮して、歯肉溝浸出液中のマーカー測定系の構築を試みている。
演題番号
P-22
演題名
歯科健診受診者における歯周病関連細菌に対する血清抗体価
演者
○林田秀明1)、川崎浩二2)、古堅麗子1)、北村雅保3)、齋藤俊行3)
所属
長崎大学医学部・歯学部附属病院 1)総合歯科予防歯科室、 2)地域医療連携セン
ター、3)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科社会医療科学講座口腔保健学
抄録
目的:
歯周病関連細菌の血清抗体価は歯周病重症度や歯周病関連細菌の感染度の指標として
の利用が期待されている。本研究の目的は、集団健診受診者の歯周病関連細菌に対する
抗体価を年齢、性、口腔状況の違いによって差があるかを明らかにすることである。
方法:
調査対象者は平成 17 年、18 年に長崎県で実施された健康調査参加者のうち、口腔診査
および採血を受けた 208 名(年齢 22〜92 歳)である。歯周組織の状態は代表歯法による
Community Periodontal Index(CPI)及びアタッチメントロスで評価した。歯周病関連細
菌 Porphyromonas gingivalis (Pg)、Aggregatibacter actinomycetemcomitans (Aa)に対
する血清抗体価は、Murakami らの方法に従って測定した。統計学的検定は、Spearman’s
rank correlation test、Mann-Whitney U test および Kruscal-Wallis test を用いた。
結果および考察:
① 年齢と抗 Pg 抗体価および抗 Aa 抗体価には有意な相関は認められなかった(年齢-抗
Pg 抗体価ρ=0.014、p=0.836;年齢-抗 Aa 抗体ρ=0.037、p=0.597)。
② 男女間で抗 Pg 抗体価(p=0.942)および抗 Aa 抗体価(p=0.788)に有意な差は認められな
かった。
③ 抗 Pg 抗体価は現在歯数 1~19 歯で最も高く 20 歯以上、無歯顎の順であった
(p=0.002)、現在歯数と抗 Aa 抗体価との有意な関連は認められなかった(p=0.735)。
④ CPI スコアが高くなるほど抗 Pg 抗体価が有意に高かったが(p=0.034)、抗 Aa 抗体価
では有意ではなかった(p=0.139)。一方、アタッチメントロスは抗 Pg 抗体価(p=0.613)
および抗 Aa 抗体価にと有意な関連を認めなかった(p=0.186)。
以上の結果から、血清抗 Pg 抗体価は歯周病が重篤な者では上昇し、無歯顎者は有歯顎
者よりも低下することが示唆された。
演題番号
P-23
演題名
侵襲性歯周炎患者の好中球走化能低下に関するプロテオーム解析
演者
○仁井谷幸 1)、水野智仁 2)、藤田剛 1)、日野孝宗 2)、柴秀樹 1)、河口浩之 2)、栗原英見 2)
所属
1)広島大学病院 歯周診療科
2)広島大学 大学院医歯薬学総合研究科
先進医療開発科学講座
抄録
目的: 侵襲性歯周炎は急速な歯周組織破壊を伴う歯周炎で、その発症と進行には宿主の防
御機能の異常が関与すると考えられている。侵襲性歯周炎患者の中には、好中球の走化能低
下を認める患者が存在することが知られている。しかし、好中球の走化能低下のメカニズム
について、遺伝子レベルでの報告が数例存在するのみである。好中球の走化能低下はタンパ
ク質の機能異常として捉えることが必要であり、その原因をタンパク質レベルで検討するこ
とは、侵襲性歯周炎の診断を行う上で意義は大きい。本研究では、好中球走化能低下に関連
すると考えられるタンパク質を網羅的に検索し、mRNA レベルでの発現動態を解析すること
を目的とした。
方法: 本研究は広島大学倫理委員会の承認のもと、被験者の同意を得て行った。
1) 広島大学病院歯周診療科に来院した侵襲性歯周炎患者、健常者、慢性歯周炎患者を被験
者とした。
2) 末梢血を用いて、好中球走化能検査を行った。
3) 好中球走化能低下があった侵襲性歯周炎患者と、性と年齢をマッチングさせた健常者か
ら好中球を分離し、 fMLP で刺激後タンパク質を精製した。
4) Ettan DIGE システムを用いて2次元電気泳動後、各グループ間で発現に差のあるスポ
ットをゲルから切り出した。
5) 切 り 出 し た ス ポ ッ ト を ト リ プ シ ン 処 理 し 、 得 ら れ た ペ プ チ ド 断 片 を 質 量 分 析
(MALDI-TOF-MS)し、タンパク質の同定を行った。
6) 同定タンパク質の発現動態を mRNA レベルで解析した。
結果:
1. 侵襲性歯周炎患者 36 名中、5 名に好中球の走化能の低下が認められた。なお、健常者 30
名には好中球の走化能低下は認められなかった。
2. Ettan DIGE システムを用いた結果、これらのタンパク質の多くは被験者間において発現
動態が異なっていた。その中で、健常者と比較して走化能が低下した侵襲性歯周炎患者に
おいて発現に明らかな差があるタンパク質スポットが 13 スポットあった。
3. 走化能が低下した侵襲性歯周炎患者のタンパク質レベルで高く発現している HSP70、
lactoferrin、caldesmon、stac を同定した。
4. 走化能低下を示す侵襲性歯周炎患者の中には、慢性歯周炎患者群、健常者群と比較して明
らかに caldesmon の mRNA 発現が高い患者が存在した。
考察:
走化能低下を示す侵襲性歯周炎患者の好中球において、健常者と比較していくつかのタンパ
ク質の発現量が増減していることが明らかとなった。その内、caldesmon の mRNA 発現は、
走化能低下を示す侵襲性歯周炎患者で高い傾向であった。このように、個々のタンパク質に
ついて、mRNA レベルで発現動態を明らかにすることは、侵襲性歯周炎の科学的な診断に有
用であると考える。
演題番号
P-24
演題名
歯周炎患者における自己抗原の解析
演者
○日野孝宗 1)、仁井谷 幸 2)、水野智仁 1)、柴 秀樹 2)、河口浩之 1)、栗原英見 1)
所属
1) 広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 先進医療開発科学講座
2)広島大学病院 歯周診療科
抄録
目的:
歯周炎の歯周組織破壊の機序には宿主の免疫応答が関与している。侵襲性歯周炎患者
の中には自己の歯周組織構築成分に対する抗体を産生することが知られており、自己免
疫応答によって、さらなる歯周組織破壊の進行、遷延が誘導されると考えられる。これ
までに歯周組織における自己抗原では typeⅠ collagen に対する自己抗体の存在や細菌
抗原 GLoEL とヒト抗原である HSP60 との間の交叉反応の報告があるが、詳細については
不明な点が多い。本研究ではヒト歯肉由来の培養線維芽細胞を用いて、その構成成分に
反応する歯周炎患者血清中の自己抗体を検出し、複数の反応抗原の存在を明らかにした。
また、一部の自己抗原の同定を行った。
方法:
被験者は広島大学病院歯周診療科を受診し同意の得られた歯周炎患者および健常者。
血清は通法に従い上腕静脈から採血分離した。抗原には健常なボランティアの歯肉組織
から採取し培養した歯肉線維芽細胞の破砕画分を用いた。自己抗原の検出には 2 次元
Western blot 法を用い、同定は MALDI-TOF-MS 法による質量分析後、データベース検索
Mascot Search を行った。
結果および考察:
歯肉線維芽細胞抗原に対する抗体産生は臨床的に侵襲性歯周炎と診断した患者に多く
みられた。自己抗体が反応した歯肉線維芽細胞の抗原成分は質量分析およびデータベー
ス検索の結果、細胞の骨格成分である vimentin とミトコンドリア HSP75 であると同定し
た。自己抗原には他に未同定の反応成分がある。これまでに報告されている自己抗原と
合わせて患者の血清反応を調べることによって侵襲性歯周炎患者の診断の科学的根拠の
一つとなると考えられる。
演題番号
P-25
演題名
口臭と口腔内総菌数および歯周病原性細菌 3 菌種との関連性
演者
○持塚真吾 1)、岩井秀文 2)
所属
1) 康本歯科クリニック
臨床検査技師、2) 株式会社ビー・エム・エル
抄録
<目的>
口臭には、おおまかに生理的口臭・病的口臭・飲食物による口臭・心理的な口臭に分類
される。今回は、病的口臭の中の歯周病原性細菌による口臭に着目した。
口腔内の細菌の量、特に舌苔上の菌量によっては、必ずしも口臭があるわけではない。
また、どの程度の歯周組織の状態が「歯周病原因による口臭」であるとのコンセンサス
は得られていない。そこで、歯周病原性細菌による口臭に着目し、口腔内総菌数、歯周
病原性細菌 3 菌種数と揮発性硫黄化合物「VSC」総濃度との関連性を調べる事により、
唾液検査による口臭リスクへの細菌アプローチの指標を検討する。
<方法>
当院に来院中で口腔内除菌を行っていない歯周病患者、男性 10 名・女性 10 名の計 20
名を対象に研究を行った。対象者全員に歯周診査 BOD と PD を測定し、アビメディカル
株式会社製口臭測定器「オーラルクロマ」を用いて各 VSC 濃度を測定した。また、唾液
検査を実施し株式会社 BML にて、口腔内総菌数および歯周病原性細菌 3 菌種「Pg 菌数
と Pi 菌数と Fn 菌数」を測定。各 VSC 濃度および総 VSC 濃度と、Pg 菌数・Pi 菌数・
Fn 菌数および各対総菌数比率との相関を示し関連性を検討した。
<結果および考察>
対象群における歯周組織の状態、BOP は 51,2%、PD(≧4mm)は 56,3%であった。
有意の相関を示したものには、Pg 菌数と硫化水素濃度・ジメチルサルファイド濃度・総
VSC 濃度は 5%でそれぞれ有意、Pg 菌対総菌数比率とジメチルサルファイド濃度は 5%
で有意であった。Pi 菌数とメチルメルカプタン濃度は 1%で有意、ジメチルサルファイド
濃度は 0,1%で有意、Pi 菌対総菌数比率とメチルメルカプタン濃度は 5%で有意、ジメチ
ルサルファイド濃度は 1%で有意であった。また、口腔内総菌数との有意性は見られなか
った。
このことから、今回の研究では歯周病原性細菌3菌種のみであるが、口臭のリスクを
細菌種類・細菌数で検討すると、Pg 菌と Pi 菌の関連性は十分に認められると考えられ
た。
演題番号
P-26
演題名
歯の健康検査(唾液検査の有用性)
演者
及川佑香 1)、工藤こずえ 1)、田中さゆり 1)、○懸田明弘 1,2,3)
所属
1) 専門学校 仙台歯科衛生士学院
2) 懸田歯科医院
3) 嵌植義歯研究所
抄録
目的:
現在、多くの歯科医院では、すべての患者に対して同じ処置方針、同じ予防計画を行
っているが、初診時に唾液検査などの検査をおこない、患者の口腔疾患に対するリスク
を把握し、各患者のリスクに応じた治療計画を立てることの有用性を確認する目的で調
査を行った。
方法:
懸田歯科医院(仙台市)に来院した新患66名に対し「株式会社ビー・エム・エル社
製歯の健康検査」を行い、ミュータンス菌の菌数と Pg 菌の比率によって分類し、その他
のリスク因子との関連を見た。
結果および考察:
SM 菌 1000 以下:18 名、1001~30000:32 名、3001 以上:16 名であった。
Pg 菌比率 0.1%以下:60 名、0.1~0.5%:5名、0.5%以上 1 名であった。
DMFT で MF が 0~3:2 名、4 以上 13 名、D 有り:51 名であった。
DMFT が 0 の患者はいなかった。
SM 菌数と DMFT には若干の関連が認められた。
リスクを考えた治療計画、予防計画の必要性が認められた。
リスク検査に処置方針が変わるケースが確認され、治療計画を立てる上でリスク検査が
重要であると考えられた。
演題番号
P-27
演題名
リスク判定における唾液検査の有用性について
演者
小野寺 美穂1)、 庄子 浩美1)
、 ○宮内
懸田 明弘1・2)、 及川 佑香3)、 工藤
所属
1)
2)
3)
懸田歯科医院
専門学校 仙台歯科衛生士学院
専門学校 仙台歯科衛生士学院
一恵 1,2)
、 原 剛志1)、
こずえ3)
、 田中 さゆり3)
研究科
抄録
目的:
唾液検査によるカリエスリスクと実際の DMFT 値の関連性を確かめる事を目的とした。
方法:
懸田歯科におとずれた 66 名に対し、株式会社ビー・エム・エル社製「歯の健康検査」を
行い、カリエスリスクを飲食・歯磨き、唾液の状態、SM 菌数をビー・エム・エルの換算
表に基づきによってカイスの3つの輪に相当するグループに分類し、の DMFT スコアと
の関連性を分析評価した。
A グループ:飲食・歯磨き(0)唾液の状態(1〜2)SM 菌数(0)
B グループ:飲食・歯磨き(0)唾液の状態(0)SM 菌数(1〜2)
C グループ:飲食・歯磨き(1〜2)唾液の状態(0)SM 菌数(0)
D グループ:飲食・歯磨き(0)唾液の状態(1〜2)SM 菌数(1〜2)
E グループ:飲食・歯磨き(1〜2)唾液の状態(0)SM 菌数(1〜2)
F グループ:飲食・歯磨き(1〜2)唾液の状態(1〜2)SM 菌数(0)
G グループ:飲食・歯磨き(1〜2)唾液の状態(1〜2)SM 菌数(1〜2)
H グループ:飲食・歯磨き(0)唾液の状態(0)SM 菌数(0)
結果および考察:
唾液の状態に問題のある人は少なかった。
SM 菌数注意(1〜2)の人たちは、DMFT のスコアが2の人が多かった。
飲食・歯磨き注意(1〜2)の人たちは、DMFT のスコアが2の人が多かった。
予想通り、リスクが重なっている G、E グループの人たちは、DMFT のスコア2の人が
最も多かった。飲食・歯磨きは問診で把握することができるが SM 菌と唾液の状態は検
査を行い把握する必要があることから、これら検査の有用性が確認できた。
今後、さらに症例数を増やし検討してゆきたい。
演題番号
P-28
演題名
一般市民におけるドライマウス検査の検討
演者
○豊島紘一郎1)、戸谷 収二2)、北川哲太郎1)、柴崎 浩一3)
所属
1)日本歯科大学大学院新潟生命歯学研究科 全身関連臨床検査学
2)日本歯科大学新潟病院 口腔外科・口のかわき治療外来
3)日本歯科大学新潟生命歯学部 内科学講座
抄録
目的:
現在、日本では約 800 万人が口腔乾燥感を持っており、その数は、増加傾向にある。
しかし、過去には死に直結しないために軽視され、その結果、患者自身が耳鼻科や内科
などの様々な科を受診するという事実もあった。現在では、マスコミ等の報道により徐々
に認知されてきている。
本研究では、自覚症状が無い一般市民のドライマウス状態を調査することにより、ド
ライマウスの病態を把握し、今後のドライマウス診断を確立することを目的として行っ
た。
方法:
平成 19 年4月 28・29 日に行われた「TeNY 医療の広場 健康フェスタ 2007」の医
療・健康コーナー(口のかわきチェック)を希望された 93 人(男性 18 人、女性 75 人、
平均年齢 46.4±15.4 歳)を対象とし、サクソンテストおよび口腔水分計(ムーカス○R )
を用いてドライマウス検査を行った。
結果および考察:
一般市民を対象とした口腔内水分量の計測結果は、サクソンテスト:4.17±2.01g/2 分、
ムーカス(舌)
:27.9±4.4%、ムーカス(頬粘膜)
:31.7±8.1%であった。性差・服薬状
況・嗜好によりドライマウス検査では、若干の差が認められたが、有意差を示すほどで
はなかった。以上の結果より、性差・嗜好等による口腔内環境への影響は、ほぼないこ
とが示唆された。
演題番号
P-29
演題名
口腔乾燥者に対する唾液腺マッサージの効果判定に関する検査方法
の一考察
演者
○原 久美子1),仁井谷善恵1),野宗万喜1)
,松本厚枝1),牧平清超2),
二川浩樹2)
,竹本俊伸1),杉山 勝1),天野秀昭1),北川雅恵3),小川郁子3),
栗原英見3,4)
所属
広島大学歯学部口腔保健学科 1)口腔保健衛生学講座 2)口腔保健工学講座
広島大学病院 3)口腔検査センター
広島大学大学院医歯薬学総合研究科 4)創生・先進医療開発科学講座(歯周病態学)
抄録
目的:口腔乾燥症は多くの症例が唾液分泌の減少に起因している。唾液腺マッサージ法
は患者が家庭で手軽に行え,唾液分泌の促進ならびにその長期的維持に有効な場合があ
る。高齢者では唾液分泌量が少ない傾向にあり,口腔乾燥感は主観的要素があることか
ら唾液腺マッサージの効果をより客観的に判定する指標が必要である。
今回,口腔乾燥を訴える高齢患者に唾液腺マッサージを行い,その効果の判定として
唾液湿潤度検査と VAS 法を用いて経年的に測定した症例を通して,これらの検査の有用
性について考察する。
方法:患者は 70 代,女性。初診は平成 16 年。主訴は「口が渇いて困る」で,
「長時間喋
ると嘔気がしてくる」などを訴えた。特に「よく咳がでる」を苦痛とし,ペットボトル
のお茶とのど飴が手放せない日常であった。唾液分泌減少を疑う全身疾患は認められな
かったが,胃酸過多症に対する服薬があり「口渇の副作用あり」とあった。唾液腺マッ
サージ法を指導,家庭で一日1回以上行うように指示し,月に1回経過観察を行った。
唾液湿潤度検査は,検査紙を舌尖から 10mm の舌背部に垂直に接触させ 10 秒後に口腔外
に取り出し湿潤度を判定した。VAS 法は,主観を数量化して(最大値 10 とした)客観的
に評価する方法で,患者の口腔乾燥に関する 10 の症状について評価した。
結果および考察:唾液湿潤度検査の測定値は,初回1㎜(唾液分泌低下),1ヶ月後では
2㎜(境界領域)となり,2ヶ月後には5㎜とほぼ正常域にあり,若干の変動はあるも
のの,約3年 8 ヶ月たった現在も4㎜前後で維持されている。VAS 値の初回の平均点は
7.8 であったものが,8ヶ月後には 3.4,現在は 1.4 と有意な改善がみられ(p<0.01),
「咳
がでる」などの諸症状も消失した。
以上のことから,口腔乾燥者に対して唾液腺マッサージによる口腔乾燥の改善度を客
観的に判定するのに,唾液湿潤度検査および VAS 法は有用であることが示唆された。今
後は症例を増やし,さらに検査の有用性について検証していく予定である。
演題番号
P-30
演題名
口のかわき治療外来におけるドライマウス検査の検討
演者
○北川哲太郎 1)、戸谷収二 2)、豊島紘一郎 1)、柴崎浩一3)
所属
日本歯科大学大学院新潟生命歯学研究科 全身関連臨床検査学
日本歯科大学新潟病院 口腔外科・口のかわき治療外来 2)
日本歯科大学新潟生命歯学部 内科学講座 3)
1)
抄録
目的:
口のかわき(ドライマウス)を訴える患者は、以前はどの科に受診してよいかわから
ず彷徨い歩いていた。しかし、情報化社会においてドライマウス認識も高まり当院でも
専門外来の必要性が生じ、2003 年9月より「口のかわき治療外来」を立ち上げた。
そこで今回、ドライマウス患者の病態を把握し今後の診療にフィードバックする目的
として、当外来で行っているドライマウス検査を検討した。
方法:
2007 年1月から 12 月の過去1年間において日本歯科大学新潟病院の特殊外来である
「口のかわき治療外来」に受診した 76 症例のうちデータの整っている 58 例を対象とし
た。症例の内訳は男性 18 例、女性 40 例、44 歳〜94 歳(平均 64.48 歳)で 1999 年のシ
ェーグレン症候群診断基準の口腔検査項目であるサクソンテストによる唾液分泌量と、
口腔水分計(ムーカス)の検査値からドライマウスの病態を検討した。
結果および考察:
全 58 例のサクソンテストの平均値は 1.96g/2分、ムーカスでは舌 27.4%、右頬粘膜
30.9%であった。そのうちシェーグレン症候群 8 例のサクソンテストの平均値は
0.37g/2分、ムーカスでは舌 25.7%、右頬粘膜 32.0%であった。放射線性口腔乾燥症
7例のサクソンテストの平均値は 1.16g/2分、ムーカスでは舌 26.3%、右頬粘膜 29.0%
で、それ以外のドライマウス群のサクソンテストの平均値は 2.30g/2分、ムーカスでは
舌 27.9%、右頬粘膜 31.1%であった。以上よりドライマウス検査であるサクソンテスト
は各ドライマウス群を比較する検査結果として有用な方法であると再確認できた。
演題番号
P-31
演題名
口のかわき治療外来におけるカンジダ菌検査の検討
演者
○戸谷収二 1)、豊島紘一郎2)、北川哲太郎2)、柴崎浩一3)
所属
日本歯科大学新潟病院 口腔外科・口のかわき治療外来 1)
日本歯科大学大学院新潟生命歯学研究科 全身関連臨床検査学
日本歯科大学新潟生命歯学部 内科学講座 3)
2)
抄録
目的:
ドライマウスを主訴として来院する患者においては、乾燥感のみならず舌などの痛み
を伴っている場合が少なくなく、その原因の一つとして口腔カンジダ症の合併が考えら
れている。とくにシェーグレン症候群を含めたドライマウス患者のカンジダ保有率は健
常者と比較すると高いと報告されていて、臨床においてはドライマウスと口腔カンジダ
症が密に関係して病態をなしていると考えられている。
そこで今回、
「口のかわき治療外来」を受診した患者のカンジダ菌保有状況を確認しド
ライマウスとカンジダ菌の臨床像を把握することを目的に検討した。
方法:
2004 年から 2006 年の過去3年間に「口のかわき治療外来」を受診した 205 例のうち、
サクソンテストよる唾液分泌量とカンジダ菌検査を施行した 100 例を対象とし、カンジ
ダ菌検出率と唾液分泌量についてシェーグレン症候群、非シェーグレン症候群との比較
も含め臨床的検討をおこなった。
結果および考察:
カンジダ菌検査をおこなった100例うちカンジダ菌陽性率は66%で、サクソンテストの
平均値は1.32g/2分であった。それに対してカンジダ菌陰性のサクソンテストの平均値
は2.23g/2分であった。また、100例のうちシェーグレン症候群患者は18例でそのうち
の、カンジダ菌陽性率は94.4 %でサクソンテストの平均値は0.40g/2分に対して、非
シェーグレン症候群患者でのカンジダ菌陽性率は59.8 %でサクソンテストの平均値は
1.64g/2分であった。以上よりカンジダ菌陽性患者は唾液分泌量が低く、ドライマウス
治療を行う上でカンジダは重要な因子となることが示唆された。
演題番号
P-32
演題名
口臭診断における構成ガス分析の意義
演者
○岩崎代利子 1)、長谷川直彦 1)、川村優人 2)、小川文野 2)、日野孝宗 1)、河口浩之 1)、栗
原英見 1)
所属
1)広島大学大学院
2)広島大学大学院
医歯薬学総合研究科
歯周診療科
先進医療開発科学講座歯周病態学分野
抄録
目的:
近年のブレスケア商品の需要拡大などに表れているように、口臭に対する関心は高い。広島
大学病院歯周診療科では口臭を歯周疾患の一症状と位置付け、1999 年から口臭外来を開始し、
口臭の検査、診断を行っている。口臭の主な原因物質は揮発性硫黄化合物(以下 VSCs)であり、
口腔内空気中には硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドが単独、あるいは混
在して認められる。しかしながら、現状では口臭に関する十分な知見は得られておらず、科学
的根拠に基づいた口臭治療はいまだ確立されているとは言えない。一方で、口臭の診断は、治
療必要性に基づいて診断を行う「口臭の国際分類」によって比較的容易になってきた。今回は
口臭外来を受診した患者の病態を分類し、VSCs の発生傾向について検討を行った。
方法:
広島大学病院歯周診療科・口臭外来を 2006 年 6 月から 2008 年 6 月に受診した患者 111 名(男
性 31 名、女性 80 名)を対象とした。検査では、問診、口臭の機器測定と官能検査、唾液分泌
量測定および口腔内診査などを行い、
「口臭の国際分類」に基づき患者を分類した。オーラルク
ロマ(アビリット)によって硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドの濃度を
測定し、測定値が口臭の認知閾値以上であれば「+」、未満なら「-」と判定した。それぞれの
患者の口臭を構成するガスの組み合わせをパターン化し(「硫化水素、メチルメルカプタン、ジ
メチルサルファイド」が全て認知閾値以上であれば「+++」と表示)、各種の臨床パラメータ
ーとの関連を分析した。
結果および考察:
対象者 111 名のうち、真性口臭症が 79 名(71.2%)、仮性口臭症が 32 名(28.8%)であっ
た。真性口臭症のうち生理的口臭症は 14 名(12.6%)、口腔由来の病的口臭は 65 名(58.6%)、
そのなかで歯周病を有する人は 42 名(64.6%)であった。各 VSC ガスの判定結果では、仮性
口臭症では「---」(37.5%)、生理的口臭症では「++-」(35.7%)、口腔由来の病的口臭
では「+++」(64.6%)の割合が最も高かった。また、さらに口腔由来の病的口臭のなかで
歯周病を有する人と無い人では判定結果はともに「+++」が最も多かった。病的口臭症と仮
性口臭症、生理的口臭症ではジメチルサルファイドの検出に差がある傾向を示したが、歯周病
の有無ではパターンに差が無い傾向を示した。このことから口腔乾燥や舌苔などの歯周病以外
の要素も関与していることが伺える。今後、各病態における VSCs ガスの発生パターンや濃度
をさらに検討していくことで各患者での口臭の原因を明らかにし、口臭の診断・治療を容易に
できると考えられる。
演題番号
P-33
演題名
口臭測定器 FF-2A を用いた歯周疾患の評価
演者
○有川量崇1)、内山敏一2)、木本
和田守康2)
、前田隆秀6)
統3)、多田充裕4)、西山典宏5)
、小林清吾1)、
所属
日本大学松戸歯学部 1)社会口腔保健学講座、2)再生歯科治療学講座、3)顎口腔
義歯リハビリテーション学講座、4)歯科総合診断学、5)歯科生体材料学講座、6)
小児歯科学講座
抄録
目的:従来、歯周疾患を評価するにあたり、歯周ポケット診査、エックス線診査が主に
行われている。歯周疾患の臨床症状として口臭は患者にとっても大きな課題である。本
研究では、歯周疾患の初期症状として呼気中に含まれると考えられる 9 種類のにおい成
分を高感度で検出できるにおい識別装置(FF-2A、島津製)を用いて歯周疾患患者の口
臭検査を行い、歯周疾患の評価への口臭検査の有用性を検討した。
方法:におい識別装置 FF-2A は、硫化水素(硫化水素)、硫黄系(メチルメルカプタン)、
アンモニア(アンモニア)、有機酸系(プロピオン酸)、アミン系(トリメチルアミン)、
アルデヒド系(ブチルアルデヒド)
、エステル系(酢酸ブチル)、芳香族系(トルエン)、
炭化水素系(ヘプタン)ガスなど 9 種類のガス成分を基準として調整されている。
歯周疾患患者と健常者の呼気を 1 回 50ml ずつ 6 回に分けて注射筒で収集し、得られ
た 300ml の呼気を窒素(純窒素:99.9999%)で 4 倍に希釈し、室温に 3 時間放置した
後、におい識別装置 FF-2A を用いて口臭の測定を行った。
結果および考察:歯周疾患患者の口臭に含まれるVSCガスはガスクロマトグラフィに
より解析され、その主成分は硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドで
あることが同定されている。歯周疾患患者の口臭を分析した結果、口臭の原因物質はV
SCガスだけではなく、口臭にはアミン系、有機酸系、アルデヒド系、エステル系、芳
香族系、炭化水素系ガスに由来するにおい成分が含まれていることが示唆された。
歯周疾患患者と健常者の臭気濃度を比較検討した結果、健常者から採取した口臭と比
較し、歯周疾患患者から採取した口臭は、硫黄系とアンモニア系成分を除いて、それぞ
れのにおい成分の臭気濃度は高い値を示した。におい識別装置 FF-2A は歯周疾患の治療
必要度の評価に有用であると考えられる。
演題番号
P-34
演題名
歯科矯正患者への心理検査:身体醜形障害のスクリーニング
演者
松岡紘史1)2)・樋町美華2)・齋藤正人3)・山崎敦永3)・前崎有美1)・○安彦善裕3)4)・
坂野雄二5)
所属
1)北海道医療大学病院 2)北海道医療大学大学院心理科学研究科
3)北海道医療大学個体差医療科学センター
4)北海道医療大学病院口腔内科相談外来 5)北海道医療大学心理科学部
抄録
目的:
歯科矯正外来において自らの外見にこだわり過剰な治療を要求してくる患者に遭遇す
ることがあり,身体醜形障害に当てはまる患者も中にはいる。身体醜形障害患者が求め
る外科的・非外科的な治療は奏功することが少ないと言われているが(Phillips et al.,
2001;Crerand et al., 2005),歯科矯正での治療が身体醜形障害に及ぼす影響は検討さ
れていない。そこで,本研究では歯科矯正外来の治療期間別に身体醜形障害傾向を検討
することで,歯科矯正の治療が身体醜形障害傾向に及ぼす影響を検討することとした。
方法:
対象者は歯科矯正外来を受診した 51 名の患者(男性:18 名,女性 33 名,平均年齢 26.91
±9.55 歳)であった。DSM-Ⅳの身体醜形恐怖の診断基準に基づいた質問票を参考に(Rief
et al., 2006),4 項目からなる質問項目を作成した。また,摂食障害に起因する外見に
対するこだわりを排除するために,
「外見を心配する主な原因は,あなたの体重に関する
ことですか?」という質問項目を用意した。質問項目は,現在の状態について回答を求
めるとともに,矯正治療初診時の状態についても懐古的に回答を求めた。
結果および考察:
対象者の治療期間を基に,3年以上継続して治療を行っている長期治療群(n=15 名,
治療期間 62.54±30.53 ヶ月)および3年未満の治療期間である短期治療群(n=36,治療
期間 17.45±9.06 ヶ月)に分類した。それぞれのサンプルで身体醜形障害傾向者の割合
を算出したところ,初診時の割合は長期治療群,短期治療群ともに大きな違いはみられ
なかった(長期治療群:13.33%;短期治療群:11.11%)
。しかしながら,現在の身体醜
形障害傾向者の割合は,長期治療群では 0%であるのに対して,短期治療群では 13.89%
であり,長期治療群の割合が少ないことが明らかにされた。以上のことから,歯科矯正
外来における身体醜形障害傾向者は非常に多いこと,またそうした傾向は3年未満の歯
科矯正治療では改善しにくいことが明らかにされた。
演題番号
P-35
演題名
舌痛症患者への心理検査:ストレス反応の評価
演者
松岡紘史1)2)・樋町美華2)・古川洋和2)5)・小林志保6)・庄木晴美2)7)・本谷 亮2)
齋藤正人3)○安彦善裕3)4)・坂野雄二8)
所属
1)北海道医療大学病院
2)北海道医療大学大学院心理科学研究科
3)北海道医療大学個体差医療科学センター
4)北海道医療大学病院口腔内科相談外来
5)松本歯科大学
6)中部労災病院
7)国立がんセンター中央病院 8)北海道医療大学心理科学部
抄録
目的:
舌痛症患者の痛みが持続する原因はさまざまな観点から検討されており,不安や抑う
つのストレス反応が重要視されている。しかしながら,心理的ストレス反応のその他の
側面(不機嫌・怒り,無気力)については検討されることが少ない。そこで本研究では
舌痛症患者の痛みの重症度および口腔乾燥感が高い場合にどの程度のストレス反応が表
出されるのかを明らかにすることを目的とした。
方法:
対象者は,地方私立大学病院口腔内科相談外来を受診し,歯科医によって舌痛症と診
断された 37 名であった(男性:1 名,女性 36 名,平均年齢 57.16±14.38 歳)。調査材料
としては,痛みの重症度を測定するために Brief Pain Inventory(BPI:Uki et al., 1998),
ストレス反応を測定するために Stress Response Scale – 18(SRS-18:鈴木他,1997),
口腔乾燥感の程度を求める質問項目を用いた。SRS-18 は,
「抑うつ・不安」,
「不機嫌・怒
り」,「無気力」の3因子からなる。
結果および考察:
痛みの重症度および口腔乾燥感によってストレス反応の程度に違いが生じるかどうか
を検討するために,痛みの重症度の高さと口腔乾燥感の程度の高さそれぞれで2群を設
け,ストレス反応の程度の違いを比較した。その結果,痛みの重症度が強い場合それぞ
れの下位因子でストレス反応が強く,口腔乾燥感が強い場合は,抑うつ・不安および無
気力が強いことが明らかにされた。痛みの重症度および口腔乾燥感が高い群におけるス
トレス反応は,健常者よりも1SD 程度高い値であり,舌痛症の症状が強い場合は強いス
トレス反応を経験していることが明らかにされた。
演題番号
P-36
演題名
根管内細菌嫌気培養検査を用いた根管内の無菌化診断
演者
○小川文野1)、日野孝宗2)、北本泰子2)、小川郁子3)、柴 秀樹1)、河口浩之2)、
栗原英見2)3)
所属
1)広島大学病院 歯周診療科
2)広島大学 大学院医歯薬学総合研究科
3)広島大学病院 口腔検査センター
歯周病態学分野
抄録
目的:根管充填の条件として、根管内の無菌化および自覚・他覚症状などの臨床症状の
消失が挙げられるが、実際には歯科診療において、多くが臨床症状の消失を基に根管充
填を行っている。しかしながら、この根管充填前の根管内においては約 30%の細菌感染
があるとも言われており、根管充填前に根管内細菌検査による無菌化の確認が重要とな
っている。根管内感染細菌は主としてグラム陰性嫌気性菌であるため、根管内の感染細
菌を確実に把握するためには、血液寒天培地を用いた嫌気培養が適している。また、感
染細菌除去には、機械的拡大・化学的清掃に加え抗菌薬の適用が有効であり、その選択
には嫌気培養を応用した抗菌薬感受性試験が必要である。
そこで、広島大学病院歯周診療科で実施している根管内細菌嫌気培養検査および抗菌
薬感受性試験の紹介および検査結果について報告する。
方法:検体(根管内細菌)の採取時期は、臨床症状消失時(n=179)とした。
①ラバーダム装着下で滅菌ペーパーポイントを根管内に挿入し採取。
②液体培地へ浸漬・懸濁後、一部を血液寒天培地へ播種。
③嫌気状態(N2:80%、CO2:20%)にて 37℃、5~7 日間培養後、結果を判定。
④血液寒天培地にコロニー形成を認めなかった場合は、陰性すなわち無菌状態であると
する。コロニー形成を認めた場合、血液寒天培地に再度播種し、5 種類の抗菌薬のディ
スクを置き、嫌気状態にて 48 時間培養。その後、阻止円の直径を測定して最小発育阻
止濃度(MIC)を算出し、抗菌薬感受性を判定。
これらの検査結果より、無菌状態の割合、MIC、抗菌薬の平均判定値および非感受性
菌発現率を求めた。
結果および考察:
臨床症状消失時の検査において、陰性の割合は約 55%であった。このことは、根管内
に感染細菌が残存している状態で根管充填している可能性を示唆している。そのため、
根管内細菌検査による無菌状態の確認が必要であると考える。また、抗菌薬感受性試験
では MIC および平均判定値ともに検体によって異なる結果を示した。そのため、抗菌薬
感受性試験によって各検体の根管内感染細菌に最も有効な抗菌薬を選択し、根管内に適
用することが重要であると考える。
演題番号
P-37
演題名
感染根管治療における根管内細菌嫌気培養検査
演者
○北本泰子1)、日野孝宗1)、小川文野2)、小川郁子3)、柴 秀樹2)、河口浩之1)、
栗原英見1)3)
所属
1)広島大学 大学院医歯薬学総合研究科
2)広島大学病院 歯周診療科
3)広島大学病院 口腔検査センター
歯周病態学分野
抄録
目的:
根管内感染細菌は主としてグラム陰性偏性嫌気性菌であることから、根管内細菌検査
には血液寒天培地を用いた嫌気培養が適している。また、根管内の感染細菌除去には、
機械的拡大・化学的清掃に加え、選択毒性の高い抗菌薬の適用が有効であると考えられ、
その選択には嫌気培養を応用した抗菌薬感受性試験が必要である。
そこで、広島大学病院歯周診療科にて実施している根管内細菌嫌気培養検査および抗
菌薬感受性試験の紹介および検査を実施し非外科的歯内治療を行った症例を報告する。
方法:
検体(根管内細菌)の採取および検査は以下の手順に従った。
①ラバーダム装着下で滅菌ペーパーポイントを根管内に挿入し採取。
②液体培地へ浸漬・懸濁後、一部を血液寒天培地へ播種。
③嫌気状態(N2:80%、CO2:20%)にて 37℃、5~7 日間培養後、結果を判定。
④コロニー形成を認めた場合、血液寒天培地に再度播種し、5 種類の抗菌薬のディスクを
置き、嫌気状態にて 48 時間培養。その後、阻止円の直径を測定し抗菌薬感受性を判定。
症例:
31 歳女性。診断名:慢性根尖性歯周炎(歯根肉芽種または歯根嚢胞の疑い)。機械的
拡大・化学的清掃に加え、抗菌薬の局所および全身投与による非外科的歯内治療を行っ
た。
結果および考察:
著しく大きいX線透過像を有する慢性根尖性歯周炎に対して、根管内細菌嫌気培養検
査および抗菌薬感受性試験に基づき抗菌薬の局所投与を行うことで、非外科的に治癒さ
せることができた。
根管内細菌嫌気培養検査は、一般的保険診療で用いられている好気培養検査と異なり、
根管内の細菌感染、特に偏性嫌気性細菌の感染の状態を客観的に評価することが可能で
あり、抗菌薬感受性試験を併用することで、最も有効な抗菌薬の選択に有用であること
が示された。
演題番号
P-38
演題名
口腔顎顔面領域における悪性リンパ腫の病理組織学的検査について
の検討
演者
○岡田康男 1,2,大窪泰弘 1,森出美智子 1,長谷川仁 1,片桐正隆 3
所属
日本歯科大学新潟生命歯学部病理学講座 1
日本歯科大学新潟病院臨床検査室 2
片桐 eco 歯科医院 3
抄録
口腔顎顔面頸部領域の悪性リンパ腫は 1 次症例のほかに緩解期の 2 次症例として経験
することも稀ではない.今回,悪性リンパ腫の病理組織学的検査・診断について検討し
たので報告する.
対象:口腔顎顔面頸部領域の悪性リンパ腫のうち最近の 20 例.
方法:HE 染色標本で,悪性リンパ腫が考えられた場合に以下の免疫染色を行っている.
CD20(+),CD79a(+),CD3ε(-)の場合には成熟 B 細胞リンパ腫を疑い,CD5,CD10,BCL2,
Ki-67 等を追加し,CD3ε(+),CD45RO(+),CD20(-),CD79a(-)の場合には成熟 T 細胞,NK
細胞リンパ腫を疑い,また,ホジキンリンパ腫を疑う場合にも CD30,EBER 等を追加して
いる.
結果:
1 次 2 次別では,1 次症例 15 例,2 次症例 5 例であった.
部位別では,頸部リンパ節 6 例,頸部リンパ節と軟口蓋が 2 例,上顎歯肉 5 例,下顎歯
肉 4 例,上顎洞 1 例,頬粘膜 1 例,口蓋 1 例であった.
病理組織学的分類では,diffuse large B-cell lymphoma が 14 例で最も多く,次いで
follicular lymphoma が 4 例で多く,他は,lymphoblastic lymphoma が 1 例,Hodgkin
lymphoma が 1 例であった.
代表症例として,2 例を供覧する.
<症例 1>女性,56 才.下顎歯肉,diffuse large B-cell lymphoma.
<症例 2>男性,57 才,頸部リンパ節,follicular lymphoma.
演題番号
P-39
演題名
病棟での口腔ケア介入に基づき実施した血液検査が類天疱瘡の
発見に繋がった一症例
演者
○苅田典子 1,2),曽我賢彦 1,3),目黒道生 1,2,4),田邊明美 1),八木幸恵 1),日室有美子
1),藤原ゆみ 1),高柴正悟 2),小林直樹 1)
所属
1)特定医療法人
万成病院
歯科
2)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
3)岡山大学医学部・歯学部附属病院
4)九州大学大学院医学系学府
病態制御科学専攻
病態機構学講座
歯周病態学分野
歯周科
環境社会医学専攻
医療システム学講座
抄録
【目的】
口腔が全身疾患を反映し,その一症状を呈することは少なくない。万成病院におい
ては病棟ごとに担当歯科衛生士を配し,定期的な歯科的介入を行っている。この度,
認知症病棟における歯科スタッフによる口腔ケア時の口腔粘膜状態の経時的記録が
発端となって実施した血液検査が類天疱瘡の発見に繋がった症例を報告し,口腔粘膜
疾患の診断における歯科−医科連携と血液検査の用い方を考察する。
【患者】
患者は,高度のアルツハイマー病のため 72 歳の時から認知症病棟に入院している
74 歳の女性である。ADL は極めて低下し,病床上からの移動や意思疎通が困難であ
る。定期的な口腔ケア時に,発生部位を同一としない再発性および難治性の口内炎が
約半年前から観察された。口内炎の部位は補綴物装着部位と一致せず,金属アレルギ
ー等の可能性は低いと考えた。そこで,局所の細菌学的検査とともに,背部および鼠
径部の皮膚に掻痒を伴う苔癬様の変化があることと口腔粘膜の肉眼的様相から自己
免疫性の疾患を視野に入れて血液検査を行った。
【結果および考察】
一般好気培養細菌検査の結果,検出されたのは常在菌のみであった。一方で,血液
検査では,天疱瘡および類天疱瘡に関連する血清中抗デズモグレイン 1 および 3 抗体
そして抗 BP180 抗体検査の結果,抗 BP180 抗体価が高値であった。この結果と臨床
所見および経過に基づき,大学病院の皮膚科専門医から,類天疱瘡の診断を得た。
血清抗 BP180 抗体検査は 2007 年に保険収載されたばかりの新しい検査である。検
査の特異性から類天疱瘡の診断に有効であるとされている。日本の類天疱瘡の患者数
は約 4,000 人であり,稀である。しかし、病院あるいは介護施設における口腔ケアは
口腔内の保清のみならず,全身疾患の一症状の発見に繋がることがある。再発性およ
び難治性の口内炎に遭遇したとき,皮膚症状を知ることおよび本症例で行った自己抗
体に対する血液検査は歯科でも可能であり,その検査結果に基づく歯科−医科連携は,
稀な口腔粘膜疾患の診断に役立つと考えられた。
演題番号
P-40
演題名
口腔ケア・介護歯科医療におけるメチシリン耐性菌の等温遺伝子増幅法に
よる検査の有用性の検討
演者
○植西悠美 1,4),前田博史 2),小出康史 1,5),苅田典子 2,6),園井教裕 1),成石浩司 1),
苔口 進 3),高柴正悟 2)
所属
1)岡山大学医学部・歯学部附属病院 歯周科
2)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 病態機構学講座 歯周病態学分野
3)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 社会生命科学専攻 国際環境科学講座 口腔微生物学分野
4)医療法人 昌和会 岡村歯科医院
5)特定医療法人 里人会 興生総合病院 歯科
6)特定医療法人 万成病院 歯科
抄録
【目的】
高齢者や易感染性の患者を対象とした治療においては,日和見感染や院内感染に対
する対策が重要である。とくにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に代表される
薬剤耐性菌の感染は重篤な結果をもたらすことがある。歯科医療従事者は,薬剤耐性
菌の感染実態を把握した上で,高齢者や易感染性患者の治療にあたる必要がある。し
かしながら,介護施設や訪問診療時には,細菌学的な検査を行うための十分な設備が
整っていない場合が多い。
本研究の目的は,メチシリン耐性遺伝子 mecA,ならびに黄色ブドウ球菌に特異的な
spa 遺伝子を,迅速かつ簡便に検出するための新しい検査法を確立し,臨床応用するこ
とである。
【方法】
検査には栄研化学(株)で開発された等温遺伝子増幅法の 1 種である Loop-Mediated
Isothermal Amplification(LAMP)法を応用し,特異性と検出感度について調べ,迅
速性や簡便性の点から検査の有用性を検討した。さらに,口腔ケア・介護歯科医療現
場において患者の口腔内から採取したサンプル(喀痰とプラーク)から DNA を抽出し
て,従来の検査法である Polymerase Chain Reaction(PCR)法ならびに細菌培養検査
法の検査結果と比較して,検査法の実用性を検討した。
【結果および考察】
1. 培養菌株(105 cells)から抽出した DNA を鋳型として,LAMP 法による遺伝子増幅
を試みた結果,mecA ならびに spa 遺伝子を特異的に増幅し,検出することができた。
2. 60 分の LAMP 反応による mecA の検出感度は,電気泳動による検出方法で 102 cell
(MRSA)/tube であり,目視判定法では 103 cells (MRSA)/tube だった。spa の検出感
度は電気泳動,目視判定のいずれの検出方法においても 10 cell (MRSA)/tube だっ
た。
3. 口腔ケアを受けている介護施設の入院患者 87 人において LAMP 法,PCR 法,そして
細菌培養検査法でそれぞれ MRSA の検出率を比較した結果,
LAMP 法と培養法では 86%,
LAMP 法と PCR 法では 83.9%の割合で検出結果が一致した。
検査所要時間が短く,サーマルサイクラーなどの特別な機器を必要としない LAMP 法
は,ベッドサイドや訪問歯科現場などで有効な細菌検査法となる可能性が示唆された。
演題番号
P-41
演題名
「広島大学病院 口腔検査センター」のご紹介
演者
○小川郁子1)、新谷智章1)、北川雅恵1)、古庄寿子1)、栗原英見1),2)
所属
広島大学 1)病院 口腔検査センター、2)大学院医歯薬学総合研究科 歯周病態学分野
抄録
医療では3つの医学的情報、すなわち問診、診察、検査で得られた情報を総合して診断を下
し、それに基づいて最適な治療法を選択し、実施するのが原則である。う蝕や歯周炎の治療が
主体で、個人の病態にかかわらず、同じ予防や治療法が行われてきた歯科医療でも、
“evidence-based dentistry”の考え方から、原因や個人の特性を明らかにし、その結果を治療に
反映させるために、徐々にではあるが、検査が用いられるようになってきた。しかし、検査を身近
なものとして利用する意識と環境の整備は十分とは言えず、検査を普及させるには、どのような
検査が可能か、利用するにはどうすれば良いのかなどの情報を検査実施側から積極的に提供
する必要がある。広島大学病院口腔検査センターは、2003 年に病院に設置された検査専門の
部門で、歯科領域に特有な検査を統括し、院内で実施するのに加えて、ホームページ
(http://home.hiroshima-u.ac.jp/dent/koukukensacenter/index.html)やパンフレットなどの作成によ
り、院外の医療関係者のみならず一般の方々にも検査の目的や方法などを広報している。今回
は、その内容をご紹介する。
生体検査としては、歯科用金属アレルギー検査(パッチテスト)、口腔乾燥症検査、味覚検査、
咬合検査を、検体検査としては、蛍光X線分析装置を用いた金属元素分析、う蝕活動性検査
(唾液量,pH,緩衝能,S. mutans, Lactobacillus, Candida の培養)、根管内細菌嫌気培養検査
+感受性試験(抗生物質:CP, CPFX, CCL, MINO, TC)、歯周病原性菌血清抗体価検査
(Actinobacillus actinomycetemcomitans,Porphyromonas gingivalis,Fusobacterium nucleatum,
Campylobacter rectus,Bacteroides forsythus,Capnocytophaga ochracea,Eikenella corrodens,
Prevotella nigrescens ,Prevotella intermedia,Treponema denticola)、遺伝子診断、病理組織
学的検査を行っており、院外からの相談や要請にも応じている。
歯科特有の疾患の予防・治療に活かすことはもちろん、高齢化の加速、生活習慣病の増加な
どに伴い、今後益々増えることが予想される全身疾患を有する患者に安全で的確な治療を行
うために、また、歯科治療を介した感染症の広がりを防ぐリスクマネージメントのため
にも、様々な検査の普及と実施が望まれる。
演題番号
P-42
演題名
下 顎 神 経 に お け る 知 覚 機 能 検 査 ( Semmes Weinstein pressure
aesthesiometer: SW 知覚テスター)の有用性について
演者
○池田千早 1)、高橋真言 1)、吉田秀児 1)、椎木さやか 1)、浜瀬真紀 3)、高崎義人 2)、片
倉 朗 1)、内山健志 1)、高野伸夫 1)、柴原孝彦 1)
所属
東京歯科大学口腔外科学講座 1)、東京歯科大学口腔健康臨床科学講座口腔外科学分野 2)、
浜瀬歯科 3)
抄録
目的:
従来より顎顔面口腔外科領域の知覚障害の検査法や評価法に関する報告は多く認めら
れるものの、定性的なものであったり、定量的であっても規格化されていないために他
の報告との比較が困難な場合が多かった。当講座では以前より SW 知覚テスターを用い
た触圧覚閾値検査(以下 SW テスト)を行い、客観的な評価を行ってきた。この SW テ
ストは近年頻用されており、定量的評価が可能であるといわれている検査法である。現
在まで、私達は口腔外科領域の知覚障害の中で多く認められる、オトガイおよび舌神経
知覚障害に対して SW テストによる知覚検査を継続して行い、知覚障害の程度と回復状
態を客観的に評価してきた。今回、SW テストの臨床における有用性を、症例を通して
紹介する。
方法:
下顎智歯抜歯後のオトガイ神経知覚障害、 下顎枝矢状分割術(SSRO)施行後の下
歯槽神経知覚鈍麻、 下顎智歯抜歯後の舌神経知覚障害に対して SW テストにより知覚
障害の程度ならびに回復状態について観察を行った。
結果および考察:
下顎智歯抜歯後のオトガイ神経知覚障害は初診時で 2.44〜6.65(-)であったが数週〜6
ヶ月でほぼ正常値へ回復した。 SSRO では術前はすべて 1.65 であった。手術1週後に
閾値が高くなり、4週後には術前の値との有意差はなくなり回復傾向を認めた。 舌神経
知覚障害では健側は 1.65〜2.83 であったのに対し、患側は 2.36〜6.65 であったが、神経
修復術後は回復傾向を認めた。
昨今、抜歯やインプラント手術によって発症する神経麻痺においてその症状を定量的
に評価し追跡することは歯科医師、患者の両者にとって重要な意義をもつ。本検査はチ
ェアーサイドでも簡便におこなうことができ、定量的に知覚障害の程度の把握や回復状
態を観察するのに有用であり、その早急な普及が望まれる。
演題番号
P-43
演題名
広島大学病院歯科における歯科用金属アレルギー被疑患者を対象と
したパッチテストおよび元素分析の過去10年間の集計
演者
○北川雅恵1)、古庄寿子1)、新谷智章1)、牧平清超 2) 、二川浩樹2)
、小川郁子1)、
栗原英見1,3)
所属
広島大学 1)病院 口腔検査センター、2)歯学部口腔保健学科
3) 大学院医歯薬学総合研究科 歯周病態学分野
口腔保健工学講座、
抄録
目的:
近年、アレルギー性疾患を抱える患者が増加し、アトピー性皮膚炎や花粉症などとと
もに金属アレルギーに対する関心も高まりつつあり、歯科治療用金属も皮膚や口腔粘膜
にアレルギー様症状を惹起ことが報告されている。そこで、この10年間に歯科用金属
アレルギー外来を受診した患者のパッチテストおよび口腔内金属元素分析を行った累計
結果を報告する。
方法:
平成10年4月~平成20年4月までに歯科用金属アレルギーの疑いにより受診した
408 名を対象にパッチテスト(鳥居薬品、東京)を実施した。判定は、国際接触皮膚炎研
究班(ICDRG)の基準に従った。パッチテストで陽性と判定された場合には、蛍光 X 線元素
分析装置 ME-SA500W (HORIBA、京都)を用いて口腔内修復物に含まれる金属元素の分析を
行った。
結果および考察:
受診者は一般歯科からの紹介によるものが 81%と最も多く、内訳は男性 48 名、女性 360
名で平均年齢は 50.2 歳、50~60 歳代の女性が高い割合を占めた。患者の有する疾患・症
状は、掌蹠膿疱症が最も多く、次いで扁平苔癬、口腔内違和感、舌痛症であったが、補
綴・修復処置(インプラントを含む)の術前検査を希望して来院する例が 48 名(11.8%)
あった。パッチテスト陽性者の頻度は 66.2%で、パラジウム、イリジウム、亜鉛、コバ
ルト、金の順で陽性患者数が多かった。パッチテストで陽性と判定された金属と元素分
析により口腔内から検出された金属との一致率は 82%と高かった。
本結果は、これまでに報告されている他施設からのデータとほぼ一致するものであっ
たが、補綴・修復処置前に検査を希望する患者が約 1 割を占めた。従って、歯科治療に
おいても身体に適した材料を選択するために検査を希望する患者が増加していることが
示され、
「個人に最適な歯科医療」を実施するための客観的な資料として検査の需要と活
用が見込まれる。
演題番号
P-44
演題名
電流知覚閾値測定器 Neurometer® NS3000 を用いた総義歯装着者の
知覚神経機能の評価
演者
○木本 統 1),伊藤奈々1),内山敏一
田隆秀6),小林喜平7)
2)
,有川量崇
3)
,多田充裕4),西山典宏5),前
所属
日本大学松戸歯学部 1)顎口腔義歯リハビリテーション学講座,2)再生歯科治療学
講座,3)社会口腔保健学講座,4)歯科総合診断学,5)歯科生体材料学講座,6)
小児歯科学講座,7)総合科学研究所
抄録
目的
総義歯学の成書では,上顎切歯乳頭部の圧迫は神経障害を惹起しやすいとされ,同部
位を圧迫から保護することが推奨されている.しかしながら総義歯装着者の上顎顎堤の
神経機能を測定した報告は少なく,機能障害の実態は明らかにされていない.本研究の
目的は,Neurometer® NS3000 を用い,電流知覚閾値(CPT)を測定し,総義歯患者に
おける上顎顎堤粘膜支配の知覚神経機能を明らかにすることである.
方法
有歯顎者 50 名,無歯顎患者 33 名を被験者とし,同一測定者が,Neurometer® NS3000
を用い鼻口蓋神経支配領域の切歯孔部粘膜,大口蓋神経支配領域の大口蓋孔部粘膜,ま
た,被検者内コントロールとして眼窩下神経支配領域の眼窩下孔部皮膚面での CPT を測
定した.測定は,遮音した室内の歯科診療台に被験者を楽な状態で着座させ, 2000Hz,
250Hz,5Hz の順で行った.また,被験者の性別,年齢,BMI を記録し,さらに測定部
位の粘膜厚さを SDM,口腔水分量をモイスチャーチェッカームーカスで測定した.統計
分析には,前述した被験者の固体因子の影響を統計的に排除した上で,有歯顎者と総義
歯装着者間の CPT の違いを検討できることから,重回帰分析を用いた(α=0.05).
結果および考察
1.鼻口蓋神経支配領域では 2000Hz,250Hz,5Hz の全周波数の CPT において,ま
た,大口蓋神経支配領域では 5Hz において総義歯患者の CPT は有歯顎患者に比較して
高い値を示した.2.皮膚面上で測定した眼窩下神経支配領域の総義歯患者の CPT は有
歯顎患者との間に統計有意差を認めなかった.
総義歯患者の上顎顎堤には,知覚の低下が認められ,さらに切歯孔部は大口蓋孔部と
比べ知覚低下が生じやすいことが明かとなった.義歯の影響を受けない皮膚面の神経機
能に差が認められないことから,総義歯装着による顎堤粘膜の圧迫は知覚神経機能に影
響を及ぼすことが示唆された.
演題番号
P-45
演題名
全身麻酔下手術において術後に高ミオグロビン血症を呈した1例
演者
○ 草野義久1) 田村美智1) 秦暢宏1) 川原由里香1)
松浦信幸2) 一戸達也2) 松坂賢一3) 井上 孝3)
所属
東京歯科大学千葉病院
1)臨床検査部
2)歯科麻酔学講座
剣持正浩2)
3)臨床検査学研究室
【はじめに】高ミオグロビン血症は、骨格筋の細胞が融解、壊死することにより筋肉成
分であるミオグロビンが大量に血液中に流出する横紋筋融解症や全身麻酔中に生じる悪
性高熱などで出現する。またミオグロビン尿は腎機能障害を生じることも知られている。
今回我々は全身麻酔下手術後に高ミオグロビン血症を呈した症例を経験したので報告す
る。
【臨床経過】患者は 37 歳 男性 2008 年 4 月17日にプレート・スクリュー除去を全
身麻酔下に行った。術前検査でCK値が高めなため内科に筋肉疾患の有無、悪性高熱発
症等の可能性を対診したが補液と尿量の確保に留意すれば支障はないとのコメントであ
ったため手術を行った。覚醒時に両即大腿部の筋肉痛様疼痛を訴えたが軽症のため経過
観察となった。同日 16 時 30 分に尿の色がウーロン茶様となったため血液検査を実施し
たところ CK が 49709IU/lとなった。その後の検査推移より横紋筋融解症の可能性が高
いので補液等で対応しその後も経過良好であったので 4 月 22 日退院となった。
【検査結果】検査で、CK が高値となり尿検査で血尿を呈していたのでミオグロビン尿を
疑った。検査値は次のようであった。
手術日当日 PM5:20 CK49709IU/l
尿中ミオグロビン 3000 以上 ng/ml
同日 PM8:53 CK66432IU/l 尿中ミオグロビン 3000 以上 ng/ml 血中ミオグロビン
3000 以上 ng/ml
翌日 AM7:00 CK57046IU/l 尿中ミオグロビン 110ng/ml 血中ミオグロビン 1400
ng/ml
2日目 CK32633IU/l 尿中ミオグロビン 10 以下 ng/ml 血中ミオグロビン 230ng/ml
と推移した。腎機能を示す BUN や CRE、Kは正常範囲であったので、腎機能障害は発
生しなかった。
【考察】今回の症例では手術後の検査で CK が高値となり血尿も認められた。このよう
な場合、高ミオグロビン血症を疑い、検査を行うと共に横紋筋融解症の可能性等も視野
に入れていくことが必要である。
演題番号
P-46
演題名
東京歯科大学千葉病院臨床検査部における味覚検査の統計
演者
○国分 栄仁 1)、秦 暢宏 2)、村上 聡 3)、松坂 賢一 4)、田崎 雅和 5)、井上 孝 4)
所属
1)東京歯科大学口腔科学研究センターHRC7、2)東京歯科大学千葉病院臨床検査部、3)東
京歯科大学歯科医学教育開発センター、4)東京歯科大学臨床検査学研究室、5)東京歯科
大学生理学講座
抄録
目的:東京歯科大学千葉病院臨床検査部では、平成 11 年度より味覚検査を行っている。
検査は主に濾紙ディスク方、および電気味覚検査、採血による血清亜鉛および血清銅の
検査を行っている。今回は患者数の推移、診療科別比率、年代別及び男女比率について
検討をおこなった。
方法:平成14年1月から、平成20年4月までの6年3ヶ月間に東京歯科大学臨床検査部に
おいて、濾紙ディスク方法を用いて味覚検査を行った患者数延べ345名を対象とした。
結果および考察:患者数の推移では、平成 14 年度の新規患者数は 42 名であり、延べ
人数は 49 名であった。14 年度以降徐々に新規患者数は増加傾向を示し、平成 19 年度で
の新規患者数 76 名であり、平成 20 年度 4 月現在の時点において、新規患者数は 25 名で
あった。診療科別比率では、平成 14 年度では口腔外科からの依頼が最も多く 41 件あり、
次いで補綴科、保存科、臨床検査からの依頼が数件であった。それ以後も口腔外科から
の味覚検査の依頼がもっとも多い割合を示していたが、平成 17 年に味覚外来が開設し、
その年は 2 件であったが、平成 19 年度では味覚外来が 39 件、口腔外科が 30 件と味覚外
来からの検査依頼が最も多かった。年代別分布では、40 歳代および 50 歳代が最も多く共
に 91 名(26.4%)であり、次いで 60 歳代が 80 名(23.2%)であった。40 歳から 60 歳
代までの占める割合は 7 割を超える程度であった。また、新規患者における男女比は男
性 107 名(34.9%)、女性 200 名 (65.1%)であり、男女比は約 1:2 で女性の方が 2
倍近い結果であった。血清亜鉛の平均値は 74.8±13.0μg/dl であり、血清銅値の平均値
は 111.7±21.7μg/dl であった。血清亜鉛および血清銅値はともに平均値を中心に正規
分布を呈していた。
味覚障害の原因は、食事や薬剤の影響による亜鉛の欠乏、糖尿病や貧血、肝障害など
の全身疾患によるもの、心因性に起因するものなどがあり、原因は多岐にわたる。千葉
病院の味覚検査は年々増加傾向を示し、適切な処置および長期間にわたる患者のケアを
歯科医師だけではなく他科との綿密な連携をとれる環境を充実させていく必要があると
考えられた。
演題番号
P-47
演題名
歯科医師会と連携して行う口腔癌検診
~口腔癌検診における Thinlayer 法を用いた細胞診の臨床的検討~
演者
○監物
真 1)、片倉
所属
東京歯科大学
朗 2)、松坂賢一 1)、井上
孝 1)
1)臨床検査学研究室、2)口腔外科学講座
抄録
目的:
本大学口腔外科学講座では 1992 年から(社)千葉市歯科医師会ならびに千葉市と共同で
口腔癌検診を行ってきた. 2005 年までの 13 年間に 1803 名を検診し、口腔癌の発見率は
0.11%という実績をあげた。2005 年からは診療所レベルで検診を行うことができるシス
テムを歯科医師会および行政と開始した。初年度はモデル事業として歯科医師会会員に
対し、口腔癌の疫学、診断、治療ならびに検査をマニュアル化し研修を行った。検査は
簡便で外科的侵襲を伴わず、チェアーサイドで施行できる細胞診を推奨した。今回、こ
の事業の成果と施行した細胞診の臨床的検討を行ったので報告する。
方法:
まず、モデル事業参加歯科医師に対して細胞採取の方法を含めた口腔癌検診についての 8
時間の講義を行った。その後に 2005 年 11 月 14 日~2007 年 6 月 11 日に個人歯科診療
所 30 施設において、細胞診を施行した 106 例を対象に臨床的検討を行った。また、細胞
診は (株)ライオンと共同開発した専用ブラシを用いて細胞を採取し、SURE PATHTM
preservative fluid を用いた Thinlayer 法を用いて行った.
結果および考察:
提出された全ての検体で標準的な標本が作製された。性別は男性 34 名、女性 72 名、年
齢は 23~88 才で平均 59.7 才であった. 対象部位は舌が 49 例(46.2%)と最も多く、つ
いで下顎歯肉、頬粘膜で行われていた。検診時の他覚的所見は、色調は白色が 42 例
(39.6%)、形状においては白斑が 28 例(26.4%)と最も多かった。また、細胞診の結
果は ClassI が 37 例(35.0%)、ClassII が 69 例(65.0%)であり、ClassIII~V は認め
られなかった。モデル事業を通じて歯科医師の口腔癌検診に対する知識、理解は深まり、
テクニカルエラーが少なく、診断精度の高い標本作製が行える Thinlayer 法は口腔癌検
診において有用な手段であることが示唆された。また、口腔癌検診費用は原則として健
康保険適用外であり患者負担である。受診率を向上させるためにも、学会レベルで行政
に働きかけ、予算を獲得し患者負担を軽減させる必要があると考える。
演題番号
P-48
演者
○木村
演題名
歯科治療における HBV、HCV 検査の必要性
裕、橋本和彦、松岡海地、松坂賢一、井上
孝
所属
東京歯科大学臨床検査学研究室
抄録
目的:
日本における肝癌の死亡者数は増加の一途をたどっている。
日本の肝癌の原因の約8割が C
型肝炎ウイルス(HCV)に起因し、約 1 割が B 型肝炎ウイルス(HBV)に起因している。一般歯
科診療では、病原体を含む血液や唾液に接触することで、患者から医療従事者へ、医療従事
者から患者へ、あるいは汚染された診療器具を通じて患者から別の患者へと病原体の伝播が
拡大する可能性があるため、歯科診療において、感染症対策が重要となっている。
今回、平成 18 年 10 月から平成 20 年 5 月までの 1 年 8 ヶ月間に東京歯科大学千葉病院臨
床検査部で行った HBV、HCV 感染症検査について臨床統計を行うとともに、平成 8 年 4 月
から平成 10 年 12 月までの 2 年 9 ヶ月間に同病院で行った結果と比較することとした。
方法:
HBs抗原、HCV 抗体感染症検査の結果を総検査件数と年別検査件数、年別陽性数・陽性
率、陽性者の性別比、陽性者年齢分布について集計した。
結果および考察:
平成 18 年 10 月から平成 20 年 5 月までの HBs抗原の検査数は 3216 件でその内、陽性件
数は 33 件(1.02%)であった。また HCV 抗体の検査数は 3133 件でその内、陽性件数は 45 件
(1.43%)であった。平成 8 年から平成 10 年までの同病院における HBs抗原 1.70%、HCV 抗
体 4.29%の陽性率に比較して低下しているが、依然として日赤血液センターに比較して高か
った。性別比は HBs 抗原については男性が 70%を占めたが HCV 抗体については 50%であ
った。年齢分布ではHBs 抗原陽性者は 50 歳代にピークを示し、HCV 抗体陽性者は年齢が高
くなるほど高率を示しており、2003 年度三鷹市肝炎検診集計、厚生労働省平成 14 年度肝炎
ウイルス検診などの実績とそれぞれ同様な傾向を示した。
現在の一般歯科診療では、患者の全身状態や既往疾患を把握するのに問診に頼っている部
分が大きい。しかしながら、感染を認識している患者が歯科診療受診時に申告しないケース
や発症するまでの潜伏期があるために患者自身が感染者であることを自覚していないケース
があり、問診のみでは不十分な場合が存在する。それゆえに、歯科治療前に感染症検査を実
施することは医療事故の防止および二次感染予防の観点からも重要であることは疑いない。
しかし、これらを実施するには歯科診療における採血業務を克服する必要がある。今後、簡
易検査キットの応用を含めた感染症検査に対する積極的な意識改革の必要性がある。
演題番号
P-49
演題名
矯正患者の齲蝕リスク判定に関する唾液検査の統計学的研究
演者
○ 松岡海地1)
、村上
井上 孝 1)
聡 1)、川原由里香2)、橋本和彦1)、木村
裕1)、松坂賢一 1)、
所属
東京歯科大学臨床検査学研究室1)
、東京歯科大学千葉病院臨床検査部2)
抄録
目的:従来より歯科の臨床では十分な検査のもとに診断、治療方針の立案及び治療効果
の判定が行われているとは言い難く、歯科臨床での検査の導入が求められている。唾液
検査は侵襲性の少ない検査として近年注目されており、齲蝕のリスク判定として細菌因
子と宿主因子の一部である細菌の種類や総数および唾液の性状が把握できることが知ら
れている。東京歯科大学千葉病院臨床検査部では齲蝕のハイリスク患者のスクリーニン
グおよび検査の結果から治療計画の立案や患者のモチベーションを高めることを目的に
唾液検査を活用している。今回、我々は 1999 年から 2008 年 5 月の間に東京歯科大学千
葉病院臨床検査部にて矯正患者の齲蝕リスク判定に関する唾液検査を行った統計学的特
徴について報告する。
方法:唾液検査として咀嚼時全唾液を採取し、7 項目(①唾液 pH、②唾液流出量、③唾液
緩衝能、④口腔内総細菌数、⑤Mutans Streptococccuci の菌数、⑥Lactobacillus の菌数、
⑦Candida の菌数)を測定しリスク判定を行い集計した。
結果および考察:被験者総数は矯正科 1274 名で、性別は男性 463 名(36.3%)、女性 811
名(63.7%)であり、年齢別では 9 歳未満 343 名(26.9%)、10 歳代 536 名(42.0%)が最も
多く、20 歳代 237 名(18.6%)、30 歳代~60 歳代では各々10%未満であった。唾液 pH 検
査では pH6.4 以下は 5 名(0.4%)であり、
「比較的低い」とした pH6.5~6.9 を含むと 66 名
(5.2%)であった。唾液流出量検査では 0.7ml/分以下が 203 名(15.9%)であり、唾液緩衝能
検査では「低い」に該当する者は 18 名(1.4%)であった。口腔内総細菌数検査では 108/ml
以上は 345 名(27.0%)であり、Mutans 検査では「++以上」に該当する者は 984 名(77.2%)
であった。Lactobacillus 検査では 105 以上検出された者は 328 名(25.7%)であり、Candida
検査では「++以上」に該当する者は 103 名(8.0%)であった。以上の結果から、20 歳以
下の若年者が多数を占める矯正科受診者において、唾液量及び緩衝能といった宿主因子
におけるハイリスクの患者がいることや細菌因子がリスクの多数を占めることを示し、
齲蝕のハイリスク者が多いことが明らかとなった。唾液検査は齲蝕リスクを判定し、術
前検査より口腔清掃管理の方針を決める上で有効に活用できる。また矯正治療期間およ
びメインテナンス時にも齲蝕リスクを判定することは患者の口腔清掃に対する意識を促
し、齲蝕罹患を減らすために必要な検査である。
演題番号
P-50
演題名
演者
○橋本和彦 1)、木村
一般歯科臨床における病理組織診断の意義
裕 1)、松岡海地 1)、松坂賢一 1)2)、佐野
司 3) 井上
孝 1)2)
所属
東京歯科大学 1)臨床検査学研究室 2)口腔科学研究センターHRC7 3)歯科放射線学講座
抄録
目的:今回我々は一般歯科臨床における病理組織検査の有用性を明らかにするため、臨
床診断と病理組織診断との違いを比較検討した。
材料および方法:1999 年 1 月から 2008 年 5 月までの 9 年 5 ケ月の間に、東京歯科大学
千葉病院臨床検査部に提出された病理組織検査依頼 16434 例の中から、一般歯科臨床に
おいて遭遇する可能性が比較的高いと考えられるエプーリス、線維腫又は線維性ポリー
プ、歯根嚢胞および含歯性嚢胞を選択し、それぞれの臨床診断と病理組織診断の違いに
ついて臨床統計的に検討した。
結果および考察:エプーリスの中で、2/563 例(0.36%)が扁平上皮癌および悪性黒色腫と
診断され、3/563 例(0.53%)がエナメル上皮腫と診断された。線維腫又は線維性ポリープ
の中で、2/1059 例(0.19%)が扁平上皮癌、1/1059 例(0.1%)が平滑筋肉腫と診断された。
歯根嚢胞の中で、悪性と診断されたものは認められなかったが、エナメル上皮腫と診断
されたものは 8/1908 例(0.42%)、角化嚢胞性歯原性腫瘍 (以下 KCOT)と診断されたもの
は 14/1908 例(0.73%)であった。含歯性嚢胞の中で、悪性と診断とされたものは認められ
なかったが、エナメル上皮腫と診断されたものは 7/638 例(1.10%)、KCOT と診断された
ものは 21/638 例(3.30%)、石灰化嚢胞性歯原性腫瘍 (以下 CCOT)と診断されたものは
3/638 例(0.47%)であった。
今回の結果から、良性と思われた口腔内隆起性病変が、時に悪性であり、嚢胞性疾患と
思われていたものが悪性であった症例は認められなかったが、KCOT および CCOT にお
いては悪性転化した症例がいくつか報告されている。このことから一般歯科臨床におい
ても、確定診断のための病理検査のさらなる導入が再考されるべきであると考える。
演題番号
P-51
演題名
東京歯科大学千葉病院におけるドライマウス外来について
-患者の特徴に関する臨床統計-
演者
○三輪恒幸 1)、村上
所属
東京歯科大学
聡 1, 2)、松坂賢一 1)、井上
孝 1)
1) 臨床検査学研究室、 2) 歯科医学教育開発センター
抄録
目的:
近年、高齢化社会に伴う有病者数の増加により、口腔乾燥症を訴える患者が増えている。東
京歯科大学千葉病院では専門外来として、2004 年 8 月に「ドライマウス外来」が開設された。
今回、我々は本学におけるドライマウス外来を受診した患者の特徴を検討し、検査の必要性を
考える。
方法:
2004 年 8 月から 2008 年 5 月までに東京歯科大学千葉病院ドライマウス外来を受診した 85 名
を対象に、1)性別および年齢、2)来院の動機、3)主訴、4)常用薬の有無、5)唾液分泌量
(ガムテスト)、6)随伴症状の集計を行い、検討した。
結果および考察:
1)受診者の性差は男性が 25 人、女性が 60 人で、男女比は 16:84 であった。男女共に 60 歳
代の受診者が最も多く、女性では 60 歳以上の受診者が 60%を超えていた。2)来院の動機は「歯
科紹介による」が 44 人(51%)、「歯科紹介なし」が 39 人(46%)、その他に「精神科、婦人
科からの紹介」があった。 3)口腔乾燥・口渇を主訴とする受診者は 84%と最も多く、その他
に唾液の粘稠感、唾液過多、舌痛感などがあった。4)副作用を疑う常用薬のある者は 25 人
(29%)、常用薬のない者は 60 人(71%)であった。5)唾液分泌量は刺激唾液量の平均が 1.03ml/
分であり、唾液量の低下が認められた者は 31 人(37%)、唾液量の低下が認められなかった者
は 52 人(63%)であった。6)随伴症状として、シェーグレン症候群と診断された者は 5 人(6%)
であった。以上の結果からドライマウスは女性、高齢者に多く認められた。ガムテストによっ
て、唾液分泌量の低下を認めないにも関わらず、口腔乾燥・口渇を訴える患者が存在し、かつ
歯科医院からの紹介により受診することが少なくないことが明らかになった。口腔乾燥感は薬
剤による副作用よりもストレスが大きく影響する感覚認知の障害に起因することが多いことが
考えられているが、その発現のメカニズムがすべて明らかになっておらず、現在では根治的治
療法も確立されていない。しかしながら、ドライマウス外来ではいわゆる心因性と考えられる
症例に対しても歯科医師としての対応が求められる。今後は他科との連携を含め、口腔乾燥感
を訴える患者に対し、ドライマウスの適切な診断を行うには、主訴の緩解を図る口腔内科的な
側面を持つ歯科医師の存在が重要であるとともに、血液検査をはじめとする一般的な臨床検査
の積極的な応用が求められる。
演題番号
P-52
演題名
歯科金属アレルギー外来受診患者の特徴とパッチテスト成績の検討
演者
○國分克寿 1)、松坂賢一 1)、川原由里香 2)、萩田恵子 2)、秦 暢宏 2)、田村美智 2)、鏡
明展 1)、成瀬晋一 1)、監物 真 1)、三輪恒幸 1)、木村 裕 1)、橋本和彦 1)、松岡海地
1)、村上 聡 1)、井上 孝 1)
所属
東京歯科大学 1) 臨床検査学研究室、2) 臨床検査部
抄録
目的:
近年、歯科金属に対するアレルギーを有する患者が増加傾向にあるといわれている。
本研究は、金属アレルギーの疑いで東京歯科大学千葉病院歯科金属アレルギー外来を受
診した患者の特徴を見出すことを目的とし、パッチテスト成績の評価を行い、性別およ
び年齢分布、元素別陽性者数を調査、比較した。
方法:
2000 年 12 月から 2007 年 7 月までに当科を受診した患者 572 名(男性 109 名、女性
463 名)を対象にした。パッチテストの結果について検討し、その評価はいずれかの金属
に陽性を示す患者数と初診時年齢を統計処理した。さらに陽性率の高い金属元素の割合
を検索した。
結果および考察:
初診時年齢における特徴としては、50 歳代の患者が最も多かった。パッチテストの結
果、いずれかの金属に陽性を示す患者数は 286 名 (男性 44 名、女性 242 名)であった。
年代別では 50、60 歳代に陽性を示す患者が多かった。陽性率の高かった金属元素は、
Ni (15.2%)、Zn (9.5%)、Pd (8.6%)、Co (5.9%)、Hg (5.5%)の順であった。
元素別陽性率の順位において、Ni、Co、Hg が高いことは従来の報告通りであるが、
修復物中に脱酸剤として含まれている Zn に関しては他施設の報告と比較し、陽性率が高
かった。当科でパッチテストに用いている鳥居薬品の試薬金属である Zn については市販
の濃度では皮膚刺激性が強く、適正と思われる濃度に修正して使用すべきとの報告もあ
る。したがって、試薬そのものの皮膚刺激性が高すぎるために、本集計では高い陽性率
が出た可能性も考えられる。今後、試薬の濃度を修正して使用するなどの課題について
検討すべきと考える。また、歯科用金属の中で使用頻度の高い Pd が比較的高い陽性率を
示していることから、日常の臨床において注意を要する必要があると考える。