日本語入力用配列「ACTAR」(PDF)

日本語入力用配列「ACTAR」解説書
2013 年 04 月
H.Kikuchi
日本語入力用配列「ACTAR」
1.配列の紹介
ACTAR とは
ACTAR は、日本語入力向けのキーボード配列です。ベムさんが考案した ACT 配列をもと
にして、より快適な入力を目指そうと、H.Kikuchi が考案したものです。
英語圏で比較的普及している Dvorak 配列をベースとしており、子音キーと母音の組み
合わせ以外に、子音キーと特定の打鍵で、複数の文字を同時に入力できる、拡張ローマ字
の観念を取り入れています。
ACTAR の名前は、アルペジオ打鍵を重視して考案したことに由来します。ACT の後ろに
[Arpeggio]の頭の[AR]をつけました。読みは「アクター」としています。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│’│,│.│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬─┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│-│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
│;│Q│J│K│X│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
Dvorak 配列
ACT 配列とは
ベムさんが考案した日本語入力用の入力方式です。Dvorak 配列の拡張ローマ字であり、
考案された当時は非常に画期的でした。純粋な Dvorak ローマ字よりもはるかに入力効率
が良いからです。
しかし、いくつかの弱点があります。そのため、この配列をもとにした配列が多数考案
されています。
アルペジオ打鍵とは
アルペジオ打鍵とは、中指の次に人差し指といったように、とりわけ手に負担がかから
ずに速く打鍵できるものを指します。QWERTY 配列だと、[SA][UI][RE]とか、[JI][HO][FE]
などが該当します。
アルペジオ打鍵を活かすことができれば、そのぶんだけ入力を高速化できます。
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H.Kikuchi
ACTAR を習得するには
ACTAR を習得するには、まず Dvorak 配列を習得することをお勧めします。ACTAR は
Dvorak 配列と併用することによって力を発揮します。
基本入力は Dvorak ローマ字と同様に考えて構いませんが、コンビネーションキーなど
の拡張はストロークのしやすさから設定したので、綴りではなく、指の感覚で覚えてくだ
さい。発音と指の動きをリンクさせると、非常に高速な打鍵が可能になります。
例えば、「かくちょう」は[CHATS]ですが、これを「右中、右人、左小……」のように
認識すると、自然に慣れます。すると、入力がとても楽になります。
ACTAR のストロークパターンはとても多いものの、基本ルールさえ押さえられれば、難
しくありません。どうしても難しいのであれば、Dvorak 拡張ローマ字で有名な DvorakJP
を学ぶとよいかも知れません。
力まずに、軽いタッチで入力できるのが理想です。まずは高速打鍵ではなく、軽くタッ
チすることに慣れましょう。
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2.ACTAR の簡単な説明
前提
ACTAR は基本的に以下に示す Dvorak 配列をベースにしています。ストロークを示す際に
は[CA]のように、ブラケットで囲んで示しますが、その物理配列は以下のとおりです。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│10│11│12│13│14│15│16│17│18│19│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬─┐
│1E│1F│20│21│22│23│24│25│26│27│28│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
│2C│2D│2E│2F│30│31│32│33│34│35│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
スキャンコード(16 進数)
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│’│.│,│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬─┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│-│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
│;│Q│J│K│X│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
Dvorak 配列
Sの隣にハイフンがあります。しかし、これは単体でしか使わないので、以降の図では
ほとんど省略することにします。また、[Q][J][K][X]は子音として使いません。カ行は
[C]に、小書きは[L]になります。
こ こ で は 、 [A][O][E][U][I] を 母 音 キ ー 、 [P][Y][G][C][R][L] 、 [D][H][T][N][S] 、
[B][M][W][V][Z]を子音キーと呼ぶことにします。
母音の入力と一打鍵入力
母音キーは左手のホームポジションの位置に並んでいます。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│っ│、│。│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬─┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│-│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
│アン│オン│エン│ウン│イン│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
基本的な母音キー
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左から「アオエウイ」と入力できます。
子音キーとこれの組み合わせで、仮名を入力します(ただし、[Y]と[P]に続く母音は左
右対称のキーで入力します)。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│っ│。│、│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│I│U│E│O│A│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│アン│オン│エン│ウン│イン│イン│ウン│エン│オン│アン│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
ヤ行、パ行の母音キー
また、母音キーの下は、「母音+ん」が入力できます。単打でも「あん」などと入力で
きます。促音「っ」と句読点は母音キーの上にあります。長音符はハイフンの位置です。
加えて、子音キーの次に母音キーの下段のキーを叩くと「仮名+ん」が入力できます。
母音キーの上段のキーは二重母音になります。図にすると、以下のようになります。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│AI│OU│EI│UU│UI│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│アン│オン│エン│ウン│イン│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
右手側の子音に続く入力
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│っ│。│、│P│Y│UI│UU│EI│OU│AI│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│I│U│E│O│A│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│アン│オン│エン│ウン│イン│イン│ウン│エン│オン│アン│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
[Y]と[P]に続く入力
子音の入力
子音キーは下図のように、右手に集中しています。
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┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│っ│。│、│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│;│Q│J│K│X│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
子音キー(太字は左手側)
子音キー+母音キーで仮名を入力します。
拗音
拗音「ゃ、ゅ、ょ」を含むキャ行、シャ行などは、コンビネーションキーを使います。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│っ│,│.│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│アン│オン│エン│ウン│イン│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
コンビネーションキーの位置
コンビネーションキーとして使うのは、各段の人差し指か薬指のキーです。
上段
ピャ行……[P,](対称)
キャ行……[CG]
フャ行……[FR]
リャ行……[RG]
ギャ行……[GR]
クヮ行……[CT]
グヮ行……[GT]
中段
ヂャ行……[DN]
チャ行……[TH]
テャ行……[TD]
ヒャ行……[HN]
ニャ行……[NH]
デャ行……[DT]
ツァ行……[TN]
シャ行……[SH]
下段
ビャ行……[BN]
ウァ行……[WH],[WV]
ミャ行……[MN]
ヴャ行……[VH]
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ジャ行……[ZH]
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促音拡張
ACTAR では、「かっ」「けっ」や「まく」「へき」などを三打鍵で入力できます。促音
を入力するには拗音とは別のコンビネーションキーを使います。
ア行の促音 ……[L]
マ行の促音 ……[MR]
ダ行の促音 ……[DR]
カ行の促音 ……[CH]
ヤ行の促音 ……[YO]
バ行の促音 ……[BR]
サ行の促音 ……[SM]
ラ行の促音 ……[RH]
パ行の促音 ……[PO]
タ行の促音 ……[TM]
ワ行の促音 ……[WM]
ファ行の促音……[FN]
ナ行の促音 ……[NM]
ガ行の促音 ……[GN]
ヴァ行の促音……[VM]
ハ行の促音 ……[HR]
ザ行の促音 ……[ZM]
続くキーは、下段に促音、中段に「~く」、上段に「~つ」と大まかにはなっています。
しかし、実際には細かく調整しています。詳しくはストローク表を参照ください。
ザ行の互換打鍵
ザ行の子音キーは[Z]ですが、この位置には小指を動かしづらいということで[SN]でも
代用できるようにしました。また、ジャ行は[SG]でも打てます。[SR]はザ行促音です。
その他の入力
ACTAR には他にも様々な省略入力が存在します。
子音キーの次に右中指や小指のキーを叩くと、「~ョウ」などが入力できます。
(例:キョウ[CS]、チュウ[TT]、ピョウ[PA])
拗音のコンビネーションキーを叩いた後に同じ手の中指や小指のキーを叩くと、「~ョ
ク」などが入力できます。
(例:キョク[CGR]、シュツ[SHT]、ピャク[P,A])
促音のコンビネーションキーを叩いた後に同じ手のキーを叩くと、「~ョッ」などが入
力できます。
(例:ショッ[SMN]、チュッ[TMT]、ピャッ[POA])
[HZ]には AutoHotKey による時刻出力機能を割り当てました。
また、[CN][CB][RM]はユーザ定義領域としました。
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3.ACTAR 誕生の経緯
ACT の観念
広く一般に普及している配列は QWERTY ですが、ローマ字入力にはあまり適さない配列
です。慣れてしまうと気づかないものですが、意外にも無駄な動きをしているものです。
一方英語圏では、Dvorak という配列が第二標準として普及しています。これを日本語入
力に活かせないか、というのが最初でした。
Dvorak 配列は、古くから普及している QWERTY 配列に比べ、英文入力時の負担が軽くな
るように Dvorak 博士が考案したものです。具体的には、実際の英文をもとに文字の頻度
を割り出し、そのデータをもとに効率的に配置したそうです。そのため、英文入力には非
常に強い配列となっています。
しかし、それが日本語のローマ字ともなると話が変わります。たしかに、純粋な Dvorak
ローマ字にも、若干の負担軽減は認められます。しかし、逆に負担が増す打鍵もあります。
たとえば、ローマ字のキャ行は[KY]です。でも、Dvorak 配列で[K]と[Y]を見ると、どち
らも左人差し指で、運指は遠いです。英語では珍しい組み合わせですが、ローマ字だと当
たり前の組み合わせ、というズレが生じているのです。
これらの問題を解消するために、できる方法は二種類あります。一つはアルファベット
の配置を変えること。しかし、これでは Dvorak との互換性が失われます。もう一つは、
他のキーに Y の代わりをさせること。つまり、ローマ字を変えるのです。
そこで、まずカ行は[C]で入力することにしました。また、子音キーの次に打つ Y の代
わりとなるキーを、子音キーの位置に応じて、それぞれ右人差し指または右薬指に設定し
ました(コンビネーションキー)。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│’│,│.│P│Y│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│;│Q│J│K│X│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
ACT のコンビネーションキー
ACT における、Y相当のコンビネーションキー
上段 [C][R]に対しては[G]、[G]に対しては[R]
中段 [D][H][P]に対しては[N]、[T][N][S]に対しては[H]
下段 [B][M]に対しては[V]、[Z]に対しては[M]
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こうすることにより、無理な手の動きを軽減しました。また、アポストロフィのキーに
は促音「っ」を設定しました。
その他にも、二重母音と撥音拡張を導入しました。図を用いて説明します。
┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
│アイ│オウ│エイ│ウウ│ウイ│F│G│C│R│L│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│A│O│E│U│I│D│H│T│N│S│
└┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
│アン│オン│エン│ウン│イン│B│M│W│V│Z│
└─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
ACT の二重母音と撥音拡張
子音キーの次に母音キーの上段のキーを叩くと、図のような二重母音が入力されます。
例えば、「そう」は[S,]で、「けい」は[C.]入力できます。ただし、一打鍵で「あい」や
「おう」は入力できません。
また、子音キー次に母音キーの下段のキーを叩くと、図のような撥音が入力されます。
例えば、「かん」が[C;]で、「ふん」が[HK]で入力できます。また、一打鍵で「あん」な
どが入力できます。
これにあと少しのルールを追加して、ACT 配列が完成したのです。
ACT 配列の特徴
1. Dvorak の拡張ローマ字
2. コンビネーションキー([Y]の互換打鍵)の導入
3. カ行は[C]で入力する
4. 「っ」が一打鍵で入力できる
5. 子音キーの連打で促音は出力できない
6. 子音キーの次に母音キーの上段のキーを打つと二重母音が入力できる
7. 子音キーの次に母音キーの下段のキーを打つと、「ん」が同時入力できる
余談ですが、ACT 配列の前に、QWERTY ベースの AZIK という配列がありました。AZIK の
観念を Dvorak に導入したものが ACT であり、元を見れば、AZIK からの派生ということに
なります。
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ACT 配列の問題点
ACT 配列はその考え方は画期的でした。しかし、いくつかの問題点を抱えています。下
に、私が感じた問題点を示します。
1. ストロークが覚えづらい
2. 右小指の動きが激しい
3. ホームポジションが崩れやすい
4. よく使う「っ」の位置が悪い
1は慣れの問題です。基本ルールは大して難しくありません。問題は2からです。
まず、2について。そもそも、小指はあまり器用に動きません。本来、Dvorak の[L]は
小指を伸ばす位置にありますが、H.Kikuchi は決まって薬指で打鍵しています。しかし、
ACT には[GL]で「ぎょう」などといったストロークがあり、 この場合[L]を薬指で打鍵す
ることには無理があります。これは優しくありません。
また、3について。これも重要です。ホームポジションが崩れやすいということは、
タッチタイプが難しくなり、同時にミスタイプにつながります。
それから、4について。促音は非常に頻度が高いのですが、例えば「かっ」を ACT で入
力するなら [CA']となります。しかし、これは左小指の動きに無理があります。促音は絶
対に母音キーの次に入力しますが、その割には変な位置にあるのです。
JLOD 配列の問題点
ACT 配列の派生として、JLOD 配列というものが考案されています。これは ACT の考え方
を導入して、さらに別の考えを導入しました。
JLOD 配列の特徴
1. ACT 配列を改造したもの
2. カ行は[C]、パ行は[F]、ヤ行は[V]、ファ行は[HH]、ヴァ行は[VV]で入力
3. 促音「っ」は[']で、長音符は[Y]で入力
4. ACT とは異なるコンビネーションキーで、促音を同時入力できる
これもまた画期的でした。しかし、子音キーが変更されているのは違和感があります。
たしかに、JLOD のように子音キーを移動すれば、すべての子音キーを右手で打てることに
なり、左右交互に打鍵できることになります。でも、考案者としては抵抗を感じずにはい
られませんでした。特に、ファ行の[HH]は押し込めたようにすら見えて、納得できません
でした。
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また、4の促音拡張にも問題があると感じました。促音拡張に使うコンビネーション
キーは、[F][D][B]と、右人差し指を伸ばさないと届かない位置にあり、効率が良いとは
いえません。また、促音拡張と共用のコンビネーションキーで「たく」や「ひつ」などの
二文字を同時に入力できるのですが、その中に「ねき」や「ゆつ」など、日本語で使うと
は思えないものが含まれています。これでは意味がありません。
新しい配列の着想
ACT も JLOD もアイディアは画期的でしたが、具体的な欠点もありました。考案者はそれ
ぞれの配列を使ってみましたが、どちらも定着しませんでした。そこで、新しい配列を考
案することに踏み切りました。
さて、新しい配列を作る際の課題は次のとおりです。
1. ホームポジションを崩しにくくする
2. 打ちにくい打鍵は徹底的に排除、改善する
3. 促音入力を改善する
4. 外来語入力を強化する
どれも重要です。特に2については「打ちにくい打鍵は設定する意味がない」として、
ACT や JLOD 設定されている、運指に無理のある打鍵は真っ先に削除しました。また、
ACT09 という配列が考案されており、パ行とヤ行の入力法が改善されていたので、導入し
ました。
ACT09 における、パ行とヤ行の入力
子音キーは動かさず、母音に相当するキーを左右対称となるように、右手側に移動。と
もなって、二重母音や撥音のキーも移動。Y相当のコンビネーションキーは[']とした。
つまり、「ぱ」は[PS]、「や」は[YS]、ピャ行は[P']とした。
まず、1のホームポジション。ACT 配列では段に応じてコンビネーションキーが設定さ
れており、それらはすべて子音キーと同じ段です。しかし、特に下段のコンビネーション
キー[V]は非常に使いづらく、ホームポジションが崩れます。そこで、下段のコンビネー
ションキーを次のように変えました。
新配列における、Y相当のコンビネーションキー
下段 [B][M]に対しては[N]、[Z]に対しては[H]
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次に、促音入力です。これは JLOD の促音拡張の観念を導入します。ここで、コンビ
ネーションキーを原則として別の段に設定することにしました。
新配列における、促音拡張用のコンビネーションキー
上段 [C][R]に対しては[H]、[F][G]に対しては[N]、[P][Y]に対しては[']
中段 [D][H]に対しては[R]、[T][N][S]に対しては[M]
下段 [B][M]に対しては[R]、[W][V][Z]に対しては[M]
次に、「かく」などの文字列です。JLOD では完全にパターン化していましたが、入力効
率を確実なものにするためには、それではいけません。
そのため、辞書や Google 検索を使って頻出するパターンを割り出して、ひとつひとつ
設定することにしました。大変骨の折れる作業でした。
また、小書きの「ぁ」に[L]を使いますが、その母音キーの上下が余っていたので、上
段には二重母音「あい」「おう」を下段には促音「あっ」「おっ」を設定しました。また、
[LH]で「って」を入力できるようにするなど、少しの工夫を加えました。
また、特定のストロークで入力できる単語「こと」や「なく」などについても整理しま
した。当然打ちやすいものだけを残し、整理しました。
最後に、素早く打てる[CN][CB][RM]に接続詞、副詞、挨拶を仮に設定し、ユーザ定義領
域としました。これで、新配列の完成です。
仕上げに名づけです。全体的に運指に無理のないアルペジオ打鍵を意識し、設定したの
で、名前は ACTAR としました。
調整地獄
ひと通り完成したと思った後も、気になる部分が後からたくさん出てきて、調整が続き
ました。結果として、安定するまでに三ヶ月を要しました。
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更に詳細な歴史
非常に細かく配列の歴史を追います。新しい配列を考案したいと思っているかたに役立
つかもしれません。
まずは、ACT 配列について不満を持ったところから始まりました。
ACT では、[CS]で「かく」のように、子音キーを押下したあとに同じ手で別段キーを叩
くと「a/o く」が出力できるようになっています。また、同じ手で同じ段のキーを叩くと
「○ょう」「○ゅう」が出力できます。最初に注目したのはここでした。
[CS]「かく」は非常に打鍵が楽です。ところが、[CL]「きょう」については、小指を伸
ばすか、あるいは薬指を R の位置から右へスライドさせる必要があります。ここで、「か
く」と「きょう」の頻度を考えます。まずは次のように、頭に浮かんだ言葉を適当に並べ
ます。
「今日、東京、最強……」
「確定、拡張、獲得……」
そして、それぞれの言葉の頻度を経験から考えました。すると、「かく」よりも「きょ
う」のほうが生活の中でよく使っているのではないか、という結論に至りました。結果と
して、[CS]を「きょう」と決めました。
他の行についても「○ょう」「○ゅう」は[L]や[Z]を避けるように設定しました。どう
しても打ちにくいからです。[MT]「みゅー」、[MS]「みょう」のようになっており、押下
するキーを上下させました。
しかし、そうすると「かく」などが消えてしまいます。これについては最初は何も考え
ていませんでしたが、やがて単なる削除には問題があると考えるようになりました。
ACT では子音キーの段に応じてコンビネーションキーが設定されており、例えば、
[T][N][S]であれば[H]、[H][D]では[N]と言った具合になっています。[NH]で「にゃ行」
となります。これは、ルールの簡素化と打ちやすさを兼ね備えた、理想的な考え方と言え
ます。まさにアルペジオです。
実は、DvorakJP 配列を使っていた経験があるのですが、そのとき、私はよく好んで
「ちゃ行」を[CH]で打っていました。DvorakJP の場合、本来なら「ちゃ行」は[TN]です。
しかし、[CH]の打鍵は指が自然な形を維持したままで、打鍵のリズムを崩さなかったので、
そのくせが抜けませんでした。
「かく」の打鍵をどうしようと考えていたときにそれを思い出したので、[CH]を使って
みてはどうだろうかと考えました。そこで[CHA]「かく」、[CHO]「こく」を割り当てまし
た。すると、[CH]「かく行」が大変有効に使えると気づきました。そこで、もっと広々と
使おうと思って考案したものは次のようなものでした。
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日本語入力用配列「ACTAR」解説書
2013 年 04 月
H.Kikuchi
[CH]に続いて・・・
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かく| こく| けつ| くつ| きく
かっ| こっ| けっ| くっ| きっ
促音の入力については改善する必要があると前々から感じていたので、すぐに設定しま
した。
ここで、なんと私は JLOD の促音拡張についてまったく知らない状態でした。とりあえ
ず他の配列と比較してみようと思って JLOD の定義ファイルを覗いたときに、初めて考え
方が似ていることに気づいたのです。
しかし、すでに明らかな違いがありました。JLOD のコンビネーションキー2(促音)は、
[F][D][B]であり、人差し指を伸ばさないといけない位置にあります。ルールは簡単です
が、指にやさしくありません。そこで、JLOD からはテーブルだけを参考にしました。
そして、コンビネーションキー2(促音)の位置はコンビネーションキー1(拗音)の
位置から上下にシフトさせるという考えに至りました。
[CG]きゃ行 (上段)
[CH]かく行 (中段)
[NH]にゃ行 (中段)
[NM]なく行 (下段)
[BN]びゃ行 (中段)
[BR]ばく行 (上段)
...
また、ACT の拗音拡張には面白い機能があます。コンビネーションキー1の後に同じ手
を使うことにより「○ゃく」「○ょく」を入力できるというものです。たとえば[THN]
「ちょく」や[CGL]「きゃく」です。
これをコンビネーションキー2にも同様に適用させると、かなり面白いことになります。
[CGS]きゃく (上段)
[CHS]きゃっ (中段)
[THS]ちゃく (中段)
[TMS]ちゃっ (下段)
...
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H.Kikuchi
感覚的には指の位置が少し違うだけで、馴染みやすい発音の規則が生まれていたのです。
これによって、もう小指を伸ばして「っ」を打ちに行くことはほとんどなくなりました。
促音拡張は、最終的には次のようになりました。
{c}{h}[
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| | | |
かつ|こつ|けき|くち|きく|
| |きゅっ|きょっ|
かく|こく|けつ|くつ|きつ|
| |きぇっ|
|きゃっ| | |
かっ|こっ|けっ|くっ|きっ|
| |
|
|
| | |
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]
さて、実は一番悩んだのは外来語入力についてでした。ここまで改造してしまったから
には、もうひと通り何でも打ち込める配列にしてやろうと思ったのです。最初は国語辞典
をめくりながら考えていましたが、これはあまりよい方法ではありません。国語辞典は語
義を載せるものであって、単に言葉の多様性を示す書籍ではないからです。
そこで、まず新日本語拡張五十音図というものを作りました。外来語の入力にはどれほ
どの対応が必要なのかをたしかめたかったからです。
エ弱ャ イ弱ャ
ケャ
ケィ
ケュ
ケ
ケョ
キャ
キ
キュ
キェ
キョ
エ弱ャ イ弱ャ
ゲャ
ゲィ
ゲュ
ゲ
ゲョ
ギャ
ギ
ギュ
ギェ
ギョ
エ弱ャ イ弱ャ
ケ゚ャ
ケ゚ィ
ケ゚ュ
ケ゚
ケ゚ョ
キ゚ャ
キ゚
キ゚ュ
キ゚ェ
キ゚ョ
エ弱ャ イ弱ャ
セァ
セィ
セゥ
セ
セォ
シャ
シ
シュ
シェ
ショ
エ弱ャ イ弱ャ
ゼャ
ゼィ
ゼュ
ゼ
ゼョ
ジャ
ジ
ジュ
ジェ
ジョ
母音
ア
イ
ウ
エ
オ
K
カ
キ
ク
ケ
コ
G
ガ
ギ
グ
ゲ
ゴ
NG
カ゚
キ゚
ク゚
ケ゚
コ゚
S
サ
シ
ス
セ
ソ
Z
ザ
ジ
ズ
ゼ
ゾ
エ弱ャ イ弱ャ
テャ
ティ
テュ
テ
テョ
チャ
チ
チュ
チェ
チョ
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
クァ
クィ
ク
クェ
クォ
コァ
コィ
コゥ
コェ
コ
デャ
ディ
デュ
デ
デョ
ヂャ
ヂ
ヂュ
ヂェ
ヂョ
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
グァ
グィ
グ
グェ
グォ
ゴァ
ゴィ
ゴゥ
ゴェ
ゴ
ヘャ
ヘィ
ヘュ
ヘ
ヘョ
ヒャ
ヒ
ヒュ
ヒェ
ヒョ
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
ク゚ァ
ク゚ィ
ク゚
ク゚ェ
ク゚ォ
コ゚ァ
コ゚ィ
コ゚ゥ
コ゚ェ
コ゚
ベャ
ベィ
ベュ
ベ
ベョ
ビャ
ビ
ビュ
ビェ
ビョ
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
スァ
スィ
ス
スェ
スォ
ソァ
ソィ
ソゥ
ソェ
ソ
ペャ
ペィ
ペュ
ベ
ペョ
ピャ
ピ
ピュ
ピェ
ピョ
ウ弱母 オ弱母
ウ弱ャ
ズァ
ズィ
ズ
ズェ
ズォ
フャ
フィ
フュ
フェ
フョ
ゾァ
ゾィ
ゾゥ
ゾェ
ゾ
T
タ
チ
ツ
テ
ト
D
ダ
ヂ
ヅ
デ
ド
H
ハ
ヒ
フ
ヘ
ホ
B
バ
ビ
ブ
ベ
ボ
P
パ
ピ
プ
ペ
ポ
FY
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
ツァ
ツィ
ツ
ツェ
ツォ
トァ
トィ
トゥ
トェ
ト
ネャ
ネィ
ネュ
ネ
ネョ
ニャ
ニ
ニュ
ニェ
ニョ
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
ヅァ
ヅィ
ヅ
ヅェ
ヅォ
ドァ
ドィ
ドゥ
ドェ
ド
メャ
メィ
メュ
メ
メョ
ミャ
ミ
ミュ
ミェ
ミョ
ウ弱母 オ弱母 エ弱ャ イ弱ャ
ファ
フィ
フ
フェ
フォ
ホァ
ホィ
ホゥ
ホェ
ホ
レャ
レィ
レュ
レ
レョ
リャ
リ
リュ
リェ
リョ
ウ弱母 オ弱母
イ弱ャ
ブァ
ブィ
ブ
ブェ
ブォ
イャ
イ
イュ
イェ
イョ
ボァ
ボィ
ボゥ
ボェ
ボ
ウ弱母 オ弱母
プァ
プィ
プ
プェ
プォ
ポァ
ポィ
ポゥ
ポェ
ポ
イ弱ャ
ヴャ
ヴィ
ヴュ
ヴェ
ヴョ
14
N
ナ
ニ
ヌ
ネ
ノ
M
マ
ミ
ム
メ
モ
R
ラ
リ
ル
レ
ロ
Y
ヤ
イ
ユ
江
ヨ
W
ワ
ヰ
ウ
ヱ
ヲ
V
ヴ
ウ弱母 オ弱母
ヌァ
ヌィ
ヌ
ヌェ
ヌォ
ノァ
ノィ
ノゥ
ノェ
ノ
ウ弱母 オ弱母
ムァ
ムィ
ム
ムェ
ムォ
モァ
モィ
モゥ
モォ
モ
ウ弱母 オ弱母
ルァ
ルィ
ル
ルェ
ルォ
ウ弱母
ウァ
ウィ
ウ
ウェ
ウォ
ウ弱母
ヴァ
ヴィ
ヴ
ヴェ
ヴォ
ロァ
ロィ
ロゥ
ロェ
ロ
新
日
本
語
拡
張
五
十
音
図
し
ん
に
ほ
ん
ご
か
く
ち
ょ
う
ご
じ
ゅ
う
お
ん
ず
日本語入力用配列「ACTAR」解説書
2013 年 04 月
H.Kikuchi
この表は完全に規則通りに作りましたが、中にはどうやって発音したらよいのかよくわ
からないものもあります。
そして、この五十音図を横に置き、様々な音節・連音節で Google 検索をします。ここ
で、「てゃい」や「てょう」は明らかに必要ないということがわかります。そこで、[TW]
「とぁ行」を削除し、[TD]「てゃ行」の上段と共存させることにしました。
{t}{d}[
|
|
|
|
| | |
|
|
| | | |
とぁ|とぅ|とぇ|
|とぃ |
| |
てゃ|てょ|てぇ|てゅ
|てぃ |
| |てゅっ|てぃっ|てぃっ| | |
|
|
|とぅん|てぃん|
|とぅっ|
| |
|
| | |
|
| |
]
ここで、あろうことか私は自分の大好きなアニメ「ストライクウィッチーズ」の登場人
物である「サーニャ・リトヴャク」というものを引っ張り出します。「ヴャ行」です。
[VH]「ヴャ行」とし、入力できるようにしました。そんな変な経緯があるため、他の配列
ではなかなか見られない「ヴャ行」があるのです。
また、このヴャ行の上段をうまく使えないものかと思って、ヴァ行+ラ行の割り当てを、
Google のヒット数を元に定めました。
{v}{h}[
|
| | | |
|
| | | |
ヴぁり|ヴぉる|ヴぇる|ヴぁる|ヴぃる| | | |
|
| | |
ヴゃ |ヴょ
|
| | |
|
|
|
|
|ヴぇ |ヴゅ
|ヴぃ | | | |
|
|
|
| | | |ヴゃく|ヴゃく| |
]
この他、[CW]「くぁ行」を[CT]にしたり、[VM]「ヴァク行」をやたらこだわってみたり、
その他どうでもいいことを繰り返し、安定版にたどりついたという感じです。
ここまで説明してお分かりの通り、数字を見つめるということはほとんどしていないの
です。そのため、ひょっとしたら、効率的でない部分があるかもしれません。
でも、アルペジオ打鍵は本当に速いということは確実にわかっています。この考えだけ
は最後まで貫いたので、ACTAR という名前にしたのです。
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