甲子園短期大学紀要 31:1-7.2013. 日本プロ野球におけるホームアドバンテージ 瀧 上 凱 令* The Home Advantage in the Nippon Professional Baseball Yoshinori TAKIGAMI* Abstract The home advantage has been popular phenomenon in sport. However, very little systematic research has been carried out in Japan. The purpose of the present paper is to provide an empirical evidence of the home advantage in the Nippon Professional Baseball(NPB). The results revealed that home winning percentage in the NPB was 55.3%. There were no differences in degree of home advantage between the NPB and the Major League Baseball (MLB). We discussed four factors thought to be responsible for home advantage. Key Words : home winning percentage キーワード:ホーム勝率 あり、同じ条件で比較することができない。ホームの 目 的 試合とアウェイの試合のバランスの取れていない競 オリンピックなどの大規模な国際大会や各国のプ 技(unbalanced competitions)についてもホームアド ロスポーツのリーグ戦において、主催国や本拠地の バンテージを実証しようとする試みがなされている チームや選手が好成績を収める傾向があることが知ら が(Nevill & Holder, 1999) 、研究の中心はホームとア れている。この現象はホームアドバンテージ(home ウェイの試合のバランスが取れている競技(balanced advantage)と呼ばれ、1970年代半ばから欧米で実証 competitions)である。 的な研究が行われるようになった。その結果、これま これまでのホームアドバンテージ研究は、欧米の研 でに野球、アメリカンフットボール、バスケットボー 究者によって、欧米で行われたスポーツについて行わ ル、サッカー、アイスホッケーなどのプロリーグ戦 れたものであった。日本でもホームアドバンテージが の結果から、ホームアドバンテージの存在が実証さ 存在する事は予測できたが、実証的な研究や調査は上 れている(Courneya & Carron, 1992) 。これらのプロ 間(2004)を除いて行われていなかった。 スポーツのリーグ戦はホームでの試合とアウェイで 上間は日本のプロ野球について調査し、ホームアド の試合のバランスが取れているため比較が容易であ バンテージが認められるという結果を得た。結果の主 る。一方、オリンピックなどでもホームアドバンテー なところをまとめると次のようになる。 ジがあると考えられているが、ホームでの試合とア 1)1954年度から2002年度までのセリーグ公式戦につ ウェイでの試合のバランスが取れていないため、実 いて、4年ごとの全試合のうち、地方開催などホー 証は困難である。また、数回の大会を比較しただけで ムスタジアム以外の球場で行われた試合や引き分け は信頼できる結果が得られない。長年月にわたって比 試合等を除いた8691試合を調査した。 2)8691試合中、ホームチームの勝利は4731試合、敗戦 較すると、参加国数や実施される競技の変化などが * 本学教授 論文(原著) :2012年12月10日受付 2013年1月16日受理 ―1― は3960試合で、ホームチームの勝率は54.4%であっ や球場の変更の影響は限定的なものと考えられる。一 た。この結果は、メジャーリーグの54.3%(Adams 方、震災による電力不足のために導入された「試合開 & Kupper, 1994)とほぼ同じであった。 始から3時間30分を超えての新しいインニングは開始 3)得点、安打数、失策数を比較したところ、得点は しない」という延長戦についての特別ルールと、公式 ホームチームの方が多いが、他には差が見られな 試合球の統一は試合の結果にかなりの影響を与えたも かった。 のと思われる。たとえば、セ・パ両リーグ合計の引き 以上のように、アメリカのメジャーリーグ同様、日 分け試合数は2009年度19試合、2010年度16試合であっ 本のプロ野球においてもホームアドバンテージが見ら たが、2011年度56試合、2012年度74試合と大幅に増加 れた。しかし、上間の研究は1954年以来の4年ごとの している。そのため2005年度から2010年度までのセ・パ 結果をもとにしており、その間にはチームの変化など 両リーグの公式戦全試合について検討することとした。 が含まれておりデータとして問題点が多かった。ま 方 法 た、セントラルリーグの首都圏3球団について検討し、 巨人以外の2球団ではホームアドバンテージは認めら 日本野球機構(Nippon Professional Baseball, NPB) れなかったとしているが、各チームのホーム勝率のみ のオフィシャルサイトの2005年から2010年度のセ・パ で見ており、結果の処理に問題があった。すなわち、 両リーグ公式戦全試合(5148試合)の結果をもとに、 成績の良いチームと成績の悪いチームがあり、チーム 各チームの本拠地球場での試合、相手本拠地球場での ごとに検討する場合は成績の悪いチームのホーム勝率 試合、地方球場など双方の本拠地球場以外での試合に が5割に達していなくても、ホームアドバンテージが 分けて、それぞれの勝敗数および引き分け数を求め 認められないということにはならない。このような不 た。オリックスについては京セラドーム大阪とスカイ 備が認められるため、改めて日本のプロ野球において マークスタジアム(現ほっともっとフィールド神戸) ホームアドバンテージが認められるかどうかを検討す の両方を本拠地球場とし、阪神については甲子園球場 ることとした。 のみを本拠地球場とした。オリックスについてはス 近鉄とオリックスの合併問題を機に2004年に表面化 カイマークスタジアムでの試合数が、2005年32試合、 したプロ野球再編問題は何とか年度内に決着がつい 2006年34試合、2007年22試合、2008年22試合、2009年 た。福岡ダイエーホークスの親会社がソフトバンクに 21試合、2010年21試合と多かったためである。 変わって福岡ソフトバンクホークスが発足し、オリッ なお、プロ野球では相手本拠地での試合をビジター クスブルーウェーブが近鉄バファローズと合併してオ と呼ぶことが多いが、サッカーではアウェイと呼んで リックスバッファローズが発足し、仙台を本拠地に いる。表記が簡単で意味が明確であるので、プロ野球 して東北楽天ゴールデンイーグルスが発足し、2005年 についても本拠地球場をホーム球場、相手の本拠地球 度からは新しい体制でシーズンが開始された。それ以 場をアウェイ球場、本拠地球場での試合をホームゲー 来、現在のセントラルリーグ6球団・パシフィックリー ム、相手の本拠地球場での試合をアウェイゲーム、本 グ6球団の12球団体制とそれぞれの本拠地に変化は無 拠地での勝率をホーム勝率、相手本拠地での勝率をア い。オリックスバファローズの球団所在地が神戸から ウェイ勝率と表記する。他の表記についてもこれに準 大阪に移っているが、実質的な変更ではなかった。本 じることとする。 拠地球場の変更については、2009年に広島東洋カー また、プロ野球では主催ゲームであっても、本拠地 プが広島市民球場からマツダスタジアム(MAZDA 球場以外で試合を行うことがあり、多くはプロ野球の Zoom-Zoomスタジアム広島)に移った以外には名称 本拠地がない地方都市の球場で行われる。この中には の変更を除いてなかった。 日本ハムファイターズ主催の東京ドームでの試合や阪 2011年度は東日本大震災と公式試合球の統一が試合 神タイガース主催の京セラドーム大阪での試合など地 に影響を与えた。開催日程については、公式戦の開始 方という表現になじまないものも含まれるが、便宜的 が4月12日まで延期され、球場については、巨人主催 に地方球場等と表記する。 の開幕戦が宇部球場で行われ、楽天主催の試合が甲子 チーム名については、日本野球機構オフィシャルサ 園球場で行われるなどの変更があった。しかし、仙台 イトの略称表記に従うこととした。横浜については、 球場も4月中には試合が行えるようになり、開催日程 2012年度からチーム名が横浜DeNAベイスターズとな ―2― りDeNAと略称表記されている。しかし、本論文で取 ホーム勝数が有意に多かった(セリーグ:χ2=61.89, p り上げる2005年から2010年はチーム名は横浜ベイス <.001、パリーグ:χ2=43.19, p<.001, 両リーグ合計: ターズで略称は横浜であったので、横浜と表記するこ χ2=104.25, p<.001) 。 ととした。 2.年次変化 結 果 ホームゲームとアウェイゲームの勝数、敗数、勝率 1.ホーム勝率 を年度別にみると表2のようになった。全体としては、 ホームアドバンテージを求めるためにホームチー ホーム勝率がアウェイ勝率を上回り、ホームアドバン ムの勝率(ホーム勝率、Home Winning Percentage : テージが認められたが、パリーグの2005年度、2006年 HWP)を求めるのが一般的である。その際、引き分け 度、およびセリーグの2009年度はホームとアウェイの を含める場合(たとえば勝2、引き分け1と点数化する 間に有意差が認められなかった。 など)と含めない場合があるが、本論文では引き分け パリーグの2005年度、2006年度については、2004年 を含めないで計算することとした。野球は比較的引き 度に起こったプロ野球再編問題の影響を考えることが 分けが少ないが、サッカーは引き分けが多い。両者を できるが、これについてはチーム別、年度別の結果と 比較するには、引き分けを含めないほうが良いからで 合わせて、後で検討することとする。 ある。 2005年度から2010年度の公式戦全試合(5148試合) 3.チーム別の検討 を各チームの主催ゲームと相手主催ゲームに分け、そ ホームアドバンテージが認められるかどうかを全 れぞれをさらにホームゲームと地方球場等の試合、ア チームの結果で見るときはホーム勝率で確認できる ウェイゲームと地方球場等の試合に分け、ホームゲー が、チーム別にみる場合は強いチームと弱いチームが ム、アウェイゲームの勝数、敗数、引き分けを求め、 あるため、ホーム勝率だけでは分からない。成績の低 勝数と敗数から勝率を求めた(表1)。このホームゲー いチームの場合はアウェイ勝率だけでなくホーム勝率 ムの勝率がホーム勝率(HWP)である。 も5割を切ってしまうということが生ずる。したがっ その結果、セントラルリーグのホーム勝率は55.6%、 て、ホーム勝率が5割に達しなかったからホームアド パシフィックリーグは55.0%、両リーグ合計は55.3% バンテージが認められないということにはならない。 で、 い ず れ も ホ ー ム 勝 率 が 高 か っ た。 こ の 結 果 は そこでホーム勝率からアウェイ勝率を引いてホーム・ AdamsとKupper(1994)が メ ジ ャ ー リ ー グ(Major アウェイ勝率差を求め、勝率差順に並べたのが表3で League Baseball: MLB)の133,560試合をもとに得た ある。 54.3%や、上間(2004)の54.4%とほぼ同じ結果であった。 ホームゲームの勝率がアウェイゲームの勝率を上回 両リーグの全試合の合計ではホームゲームの勝数は れば、ホームアドバンテージが認められたことになる アウェイゲームの敗数となるが、リーグ別の結果は が、結果は12チームすべてでホーム勝率がアウェイ勝 セ・パ交流戦の影響でそのようにはならない。した 率を上回っていた。ホームゲームの勝数、敗数、ア がって、リーグ別の結果をホーム勝率で見ることには ウェイゲームの勝数、敗数をもとに2×2のχ2検定を 問題がある。そこで、ホームゲームの勝敗数とアウェ 行った。その結果は表3に示した通りで、すべてのチー 2 イゲームの勝敗数をもとに2×2のχ 検定を行った。 ムで有意差が認められた。 その結果、セリーグ、パリーグ、両リーグ合計ともに 2005年から2010年の6年間の成績が良くなかった横 表1 ホームゲームとアウェイゲームにおける勝敗と勝率(2005−2010年度合計) 主催 主催ゲーム 相手チーム主催ゲーム 本拠地球場 球場 地方等 勝率(%) 引分数 相手本拠地球場 地方等 試合数 試合数 勝数 敗数 263 1023 1302 勝数 敗数 セリーグ計 1277 1021 55.6 パリーグ計 1291 1055 55.0 57 141 1053 1266 45.4 46 179 セ・パ合計 2568 2076 55.3 100 404 2076 2568 44.7 100 404 43 ―3― 勝率(%) 引分数 44.0 54 225 浜ベイスターズについては、ホーム勝率は47.5%で5割 オリックスについても同様のことがいえる。これまで には達しないが、アウェイ勝率が35.4%で、ホーム・ の研究ではホーム・アウェイ勝率差という指標は使わ アウェイ勝率差は12.1%となり、ホームアドバンテー れていないが、ホームアドバンテージを確認するため ジが認められたものとみることができる。広島、楽天、 の分かりやすく、有効な指標といえるであろう。 表2 ホームゲームとアウェイゲームの勝数・敗数・勝率の年次比較 年 度 ホーム セリーグ アウェイ ホーム パリーグ アウェイ セ・パ合計 *** p<.001, 勝数 2005 2006 2007 2008 2009 2010 206 221 218 213 201 218 敗数 172 161 171 165 184 168 勝率(%) 54.5 57.9 56.0 56.3 52.2 56.5 勝数 175 165 168 169 185 161 敗数 207 222 224 219 202 228 勝率(%) 45.8 42.6 42.9 43.6 47.8 41.4 χ2 5.73* 17.81*** 13.58*** 12.53*** 1.50 17.65*** 勝数 195 194 219 228 223 232 敗数 182 183 175 175 175 165 勝率(%) 51.7 51.5 55.6 56.6 56.0 58.4 勝数 179 179 178 171 174 172 敗数 194 193 213 222 222 222 勝率(%) 48.0 48.1 45.5 43.5 43.9 43.7 χ2 1.05 0.84 7.94** 13.58*** 11.61*** 17.30*** ホーム 勝数 401 415 437 441 424 450 アウェイ 敗数 354 344 346 340 359 333 勝率(%) 53.1 54.7 55.8 56.5 54.2 57.5 勝数 354 344 346 340 359 333 敗数 401 415 437 441 424 450 勝率(%) 46.9 45.3 44.2 43.5 45.8 42.5 χ2 5.85* 13.28*** 21.15*** 26.12*** 10.79** 34.97*** ** p<.01, *p<.05 表3 ホームゲーム・アウェイゲームにおけるチーム別の勝率と勝率差(2005年∼2010年) ホームゲーム アウェイゲーム 勝率差 χ2値 勝数 敗数 勝率(%) 勝数 敗数 勝率(%) (%) 中日 253 148 63.1 178 208 46.1 17.0 22.89 *** 西武 238 162 59.5 181 209 46.4 13.1 13.58 *** 巨人 226 149 60.3 197 213 48.0 12.3 11.77 *** 横浜 183 202 47.5 134 245 35.4 12.1 11.66 *** 阪神 217 135 61.6 200 200 50.0 11.6 10.28 ** ロッテ 235 174 57.5 179 204 46.7 10.8 9.11 ** 広島 192 198 49.2 146 227 39.1 10.1 7.86 ** 日本ハム 202 140 59.1 195 201 49.2 9.9 7.12 ** 楽天 188 206 47.7 149 239 38.4 9.3 6.91 ** ソフトバンク 230 162 58.7 194 189 50.7 8.0 5.03 * ヤクルト 206 189 52.2 168 209 44.6 7.6 4.45 * オリックス 198 211 48.4 155 224 40.9 7.5 4.49 * 2568 2076 55.3 2076 2568 44.7 10.6 104.25 *** 合計 ***p<.001, **p<.01, *p<.05 ―4― 4.チーム別、年度別の傾向 テージを生じさせる要因として、ルール因子(rule ホーム・アウェイ勝率差をチーム別・年度別に示し factor) 、習熟因子(learning factor) 、移動因子(travel たのが表4である。この結果は各セルの試合数が少な factor) 、観衆因子(crowd factor)を挙げ、ルール因子 いため、統計的な検討はできないが、全体の動向を大 が最も影響が小さく、観衆因子の影響が最も大きいと まかに見るには有効であるので掲載した。先に2005年 している。 度と2006年度のパリーグのホーム勝率が低かったこと ルール因子は、ルールによってホームチームとア を示し、近鉄とオリックスの合併問題に伴って表面化 ウェイチームに差があって、その結果ホームアドバン したプロ野球再編問題との関連の可能性を述べたが、 テージが生じるとするものであるが、このようなルー 表4で見ると、2005年度はオリックス、ソフトバンク ルの違いがある競技は野球とソフトボールくらいしか のホーム・アウェイ勝率差が小さく、ロッテは大幅に 見当たらない。 マイナスであった。2006年度は楽天、オリックス、ソ 習熟因子は、ホームチームの選手が試合場に慣れて フトバンクのホーム・アウェイ勝率差がマイナスであ おり、そのためスムーズにプレイができ、良い成績を ることが分かる。これらのチームはいずれも再編問題 収めるとするものである。 の渦中にあった球団である。そのことが選手の意識や 移動因子は、試合場までの移動やホテルに宿泊する 行動に何らかの影響を与え、このような結果につな ことによる心身の疲労、気候や食べ物の違いによるコ がったということは十分に考えられる。その後はパ ンディションの変化が試合結果に影響を与えるとする リーグ各球団の地域重視の運営が功を奏し、選手の意 ものである。 識もそれに合わせて変わってきて、それがホーム・ア 観衆因子は、観客の数や行動が選手の心理状態や行 ウェイ勝率差を押し上げてきたと見ることができる。 動に影響し、ホームでの成績を向上させるとするもの しかしながら、これはあくまでも推定でしかなく実証 である。 することは難しい。 また、2009年度の広島の成績については、後で取り 2.ルール因子の検討 上げることにしたい。 プロ野球においては、主催チームが後攻になるよう に定められており、一般には後攻が有利であると言わ 考 察 れている。日本プロ野球では、ホーム球場以外で行う 1.ホームアドバンテージを生じさせる要因 試合があり、その場合には主催チームが後攻になる。 Courneya & Carron(1992)は ホ ー ム ア ド バ ン そこで地方球場等の試合について、主催チーム(後攻) 表4 チーム別・年度別のホーム・アウェイ勝率差(%) 年度 2005 2006 2007 2008 2009 2010 9.4 17.6 8.3 9.2 6.7 21.5 ヤクルト 10.6 3.0 20.7 3.6 6.8 −0.2 横浜 10.3 19.1 18.8 18.5 −1.5 8.9 巨人 中日 6.0 13.3 15.2 19.9 7.6 39.1 阪神 4.0 18.3 6.0 16.6 10.9 12.5 広島 12.5 20.1 11.8 12.1 −3.6 8.1 8.7 15.3 13.1 12.7 4.4 15.1 セリーグ計 15.3 5.6 0.6 11.7 17.1 8.4 楽天 日本ハム 7.7 −1.9 14.8 14.2 3.6 15.8 西武 9.9 13.2 16.5 14.4 8.9 14.0 −14.4 12.2 11.3 13.3 19.6 21.1 オリックス ロッテ 0.6 −3.9 10.3 10.9 10.5 15.7 ソフトバンク 3.1 −3.3 7.5 13.5 15.5 11.2 パリーグ計 3.7 3.4 10.1 13.1 12.1 14.7 セ・パ合計 6.2 9.4 11.6 13.0 8.4 15.0 ―5― の成績を求めたのが表5である。この結果からは主催 4.習熟因子の検討 チーム(後攻)の勝数が多い(勝率が高い)という結果 野球とサッカーのホーム勝率を比べるとほとんど違 2 は得られなかった(χ =0.08, ns) 。ただし、データ数 いはなく、むしろ、サッカーの方が高めである(瀧上 が少ないので、今後データを増やして検討する必要が 2009、2011) 。一方、競技場については、サッカーの場 ある。 合はピッチの芝の違いなどがあげられるが、野球の場 また、サッカーではホームチームとアウェイチーム 合は、外野フェンスまでの距離やファウルグランドの のルール上の違いはない。それにもかかわらず、サッ 広さをはじめさまざまな違いがあり、野球の方が競技 カーにおいてもホームアドバンテージが認められ、J1 場の違いは大きい。もし習熟因子が大きな影響を与え のホーム勝率は56.0%、J2のホーム勝率は55.8%で、 ているとすれば、野球の方がホーム勝率が高く出てく 野球と変わらない結果が得られている(瀧上2011) 。し るはずである。しかしこれまでの結果からは、そのよ たがって、ルール因子でホームアドバンテージを説明 うな結果は見られていない。したがって。習熟因子の することはできないと思われる。 影響はないか、小さいということがいえる。 広島カープは2009年度に従来の広島市民球場からマ 3.移動因子の検討 ツダスタジアムにホーム球場が変わった。広島のこの 12球団のうち、巨人、ヤクルト、横浜の3チームは 年度のホーム・アウェイ勝率差は−3.6%で、ホームで 東京と横浜を本拠地としており、相互の試合では移動 の成績の方が悪い(表4)。他の条件には大きな変化は や宿泊の影響は少ない。そこでこの3チーム相互間の ないと思われるので、この結果は新しいホーム球場に 試合のみを取り上げて整理したのが表6である。その 習熟していないことによって生じたと解釈できなくは 結果、3チームの合計ではホームチームの方が成績が ないが、この結果だけから、習熟因子の影響と決める 良く、ホームチームとアウェイチームの成績に有意差 ことはできない。 があった。チーム別では、3チームともホーム勝率が アウェイ勝率を上回っていたが、検定の結果、横浜は 5.観衆因子の検討 有意水準に達しなかった。巨人とヤクルトは有意差が 観衆因子については観客数との関連が考えられる 認められた。この結果はデータ数が少ないので、今後 が、球場の大きさ、所在地の都市の大きさなどさまざ データを増やして検討をする必要があるが、移動因子 まな要因が観客数に影響してくるため、単純に観客数 の影響はないか、あっても小さいということがいえる の多さだけを取り上げても明確な解答は得られないで 可能性が大きい。 あろう。また、Jリーグにおいて、J1とJ2とでは観客 数に大きな違いがあるが、両者のホーム勝率に差は認 められない(瀧上2011) 。したがって、観衆因子につい ても新たな検証法を見出す必要がある。 表5 本拠地球場以外の試合での主催チームの勝敗・勝率 試合数 勝数 敗数 勝率(%) 引分数 404 200 196 50.5 8 表6 セリーグ首都圏3球団相互間の試合における勝敗・勝率・勝率差(2005年∼2010年) 主催 主催ゲーム 本拠地球場 球場 相手チーム本拠地球場 地方等 地方等 勝率差 (%) 試合数 勝数 敗数 1 27 71 56 55.9 2 11 14.6 51.5 1 9 42 72 36.8 3 23 14.7 64 46.2 4 17 47 73 39.2 1 19 7.0 160 55.7 6 53 160 201 44.3 6 53 11.4 勝数 敗数 巨人 79 33 70.5 ヤクルト 67 63 横浜 55 201 3球団計 相手チーム主催ゲーム 勝率(%) 引分数 巨人:χ2=5.45 p<.05, ヤクルト:χ2=5.31 p<.05, 横浜:χ2=1.21 ns, 3球団計:χ2=9.31 p<.01 ―6― 勝率(%) 引分数 試合数 6.今後の課題 これまで検討した4つの要因の影響について決定的 な手がかりは得られなかった。一方、パリーグで2005 年度と2006年度にホームアドバンテージが見られな かったという結果を考慮すると、選手の側の心理的な 要因についてさらに踏み込んだ検討を行うべきではな いかと思われる。これは観衆因子の中に含まれている ものではあるが、これまで検討されてきたのは観客の 数などの計量の容易な側面であり、選手の動機づけや 心理的緊張などの側面に踏み込んだ研究はほとんど見 られなかった。今後はこれらの側面についても細かく 検討していく必要がある。 引用文献 Adams, R.D. & Kupper, S.J.( 1994)The effect of expertise on peak performance: The case of home-field advantage. 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