一酸化二窒素(温暖化ガス)の 海洋中生成・消滅過程の解明

一酸化二窒素(温暖化ガス)の
海洋中生成・消滅過程の解明
内海域環境教育研究センター 林 美鶴
E05
はじめに
一酸化二窒素(N2O)とは・・・
亜酸化窒素のことで、地球温暖化ガスの1つに数えられています。長期的に見た温暖化効果は二酸化炭素より
も大きいですが、二酸化炭素ほど研究は進んでいません。
何故、海洋?・・・
!! 一酸化二窒素は、大気中では安定。でも !!
海水中のN2Oは窒素循環の一部で、バクテリアの働きなどで無機態窒素として固定されます。逆に、これもバク
テリアの作用により、硝酸態窒素から脱窒します。この様な生物化学的な要因による複雑な生成・消滅機構があ
るため、大気中に比べ海洋中のN2O濃度の変動は非常に大きいのです。
!! 海洋は呼吸している !!
海洋は、大気への温暖化ガス放出源として、逆に吸収源としても振る舞います。地球の約70%は海洋ですから、
大気−海洋間での温暖化ガス交換量を明らかにすることが、とても重要です。
研究成果
高濃度N2O
ガス
大気
乾燥カラム
混合器
キャリアガス
乾燥カラム
海水
N2O
分析器
平衡器
バブラー
排水
図1 大気・海水中
一酸化二窒素濃度測定システム
熱帯海域での観測
1999-2004年の間に5回、西部熱帯赤道海域で海洋観測を実施しました。この
海域は海面水温が高くて、大気の対流活動が活発です。
これまでの解析結果から、以下を明らかにしました。
1)地表面や海面に近い大気中のN2O濃度は、時空間的変動が小さい。これに
対して、表層海水中N2O濃度は、時空間変動が大きい。(図3)
2)海水中N2O濃度は表層で低く、水深300m以上に高濃度で分布する。(図4)
3)表層海水中N2O濃度は、降雨時は低下するが、強風が吹き続いて表層海水
が鉛直的に混合されると、下層の高濃度のN2Oが表層に輸送されて、表層海水
中N2O濃度は上昇する。
4)海洋構造が安定しているN2O高濃度層では、生物活性の指標で測定が容易
な溶存酸素の一次式として、海水中N2O濃度が推定できる。(図5)
5)鉛直方向の流速シアーにより、 N2O高濃度層から表層にN2Oが輸送される。
沿岸海域での観測
沿岸海域は外洋に比べ生物活動が活発で、単位面積あ
たりの大気へのN2O放出量が多いと考えられています。そ
こで瀬戸内海を中心とした沿岸海域での観測を、2004年
から開始しました。沿岸海域での系統的且つ継続的な観測
は、世界的にも見てもほとんど実施されていません。
図5 2004年の観測結果による
海水中一酸化二窒素濃度と
溶存酸素濃度の相関
図2 観測船に設置した
一酸化二窒素濃度測定システム
海水中N2O濃度(ppb)
大気中N2O濃度(ppb)
450
400
N2 O濃度(ppb)
マスフロー
ゼロガス メーター
大気・海水中一酸化二窒素濃度測定システム
バブリング式ガス平衡器とガス相関法によるN2O分析
器を組み合わせて、N2O分析システム(図1、図2)を構
築しました。既知濃度のN2Oキャリアガスを海水中にバ
ブリングし、ガス交換後の気体を取り出して分析器で測
定します。これを数種類の濃度に対して行い、交換前後
の濃度差とキャリアガス濃度による検量線から、海水中
N2O濃度を決定します。
手作りの分析システムなので、まだまだ改良が必要で
すが、基礎実験では分析器の公称精度以下の測定精
度を確認しています。
350
300
250
200
150
20 21
June
22
23
24
25 26 27
日時(UTC)
28
29
30
1
July
2
図3 1999年に熱帯海域で観測した
大気・表層海水中一酸化二窒素濃度
図4 2004年に熱帯海域で観測した海水中
一酸化二窒素濃度鉛直分布の時間変動
今後の展開
海水中N2O濃度は、物理的要因と生化学的要因により変動します。観測結果の定量的
解析から海水中N2O濃度変動を定式化して、N2Oによる温暖化予想モデルや、海水中窒
素循環に関わる生態系モデル、など数値計算への応用を行う予定です。